説明

立体音再生装置

【課題】 スピーカの配置状態に最も適した特性補正を、簡単に行うことができる立体音再生装置を提供する。
【解決手段】 各スピーカL、C、R、SL、SRには各々放音方向を撮像する小型カメラが取り付けられている。表示装置TVはリスナーの正面に設置され、カメラの映像を表示する。入力される楽音データはデコーダ4によってデコードされ、DSP5へ入力される。DSP5はデコーダ4の各出力データを全体制御部2から出力される補正データにしたがって補正し、DAC6へ出力する。DAC6はDSP5の出力をアナログ信号に変換し、各スピーカへ出力する。全体制御部2は、表示装置TVにデータ入力用の表示スロットを表示する。リスナーはそのスロットに、リスナーから各スピーカまでの距離を入力する。DSP5は入力されたデータに基づいてデコーダ4の出力を遅延させ、これにより、各スピーカの設置位置の規定位置からの違いを補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホームシアター等に用いられる立体音再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、6個またはそれ以上のスピーカをリスナーの周囲に配置し、リスナーが前後左右から発する音による立体音を聞くことができる立体音再生装置が開発され、実用化されている。例えば、DVD(ディジタル多用途ディスク)の規格を決めているITU(国際電気通信連合)においては、5.1chサラウンドの規格が決められており、その規格によれば、5個のスピーカを図7に示す円周上の位置に配置すると規定されている。この図において、LNはリスナー、L、C、Rはそれぞれ前左スピーカ、中央スピーカ、前右スピーカであり、SL、SRはそれぞれ後左スピーカ、後右スピーカである。そして、前左スピーカLはリスナーLNの30°左前方に配置され、前右スピーカRはリスナーLNの30°右前方に配置され、後左スピーカSLはリスナーLNの60°左後方に配置され、後右スピーカSRはリスナーLNの60°右後方に配置されている。
【0003】
ところで、現実には、立体音再生装置を設置する家屋等において、図7に示す位置に正確にスピーカを配置することが難しいという問題がある。そこで、特許文献1には、スピーカの配置に応じて立体音再生装置の特性を変える技術が記載されている。
【特許文献1】特開平7-87598号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、補正をかける際にスピーカの設置位置には制限があり、また、補正の計算も難しく、かつ、面倒であるという問題があった。
本発明は上記事情を考慮してなされたもので、その目的は、スピーカの配置状態に最適な特性補正を簡単に行うことができる立体音再生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は上述した課題を解決するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、複数の楽音信号を生成し、該楽音信号をそれぞれ複数のスピーカへ出力して立体効果を有する楽音を発生する立体音再生装置において、各スピーカに各々取り付けられたカメラと、各カメラから出力される映像信号を表示する表示装置と、前記表示装置に、各スピーカの位置に関するデータを入力するためのデータ入力用スロットを表示する表示制御手段と、前記データ入力用スロットに入力されたデータに基づいて、前記各スピーカを駆動する楽音信号を各々所定時間遅延させて出力する遅延手段とを具備することを特徴とする立体音再生装置である。
【0006】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の立体音再生装置において、前記データ入力用スロットに入力されたデータに基づい、各スピーカの設置位置の、規格位置からのずれ角度を演算する演算手段と、前記楽音信号が通過する複数のフィルタと、前記演算手段の出力データに対応するフィルタ係数を前記各フィルタに設定する補正回路とをさらに具備することを特徴とする。
【0007】
請求項3に記載の発明は、複数の楽音信号を生成し、該楽音信号をそれぞれ複数のスピーカへ出力して立体効果を有する楽音を発生する立体音再生装置において、各スピーカに各々取り付けられたカメラと、各カメラから出力される映像信号を表示する表示装置と、前記表示装置に、各スピーカの位置に関するデータを入力するためのデータ入力用スロットを表示する表示制御手段と、前記データ入力用スロットに入力されたデータに基づいて、各スピーカの設置位置の、規格位置からのずれ角度を演算する演算手段と、前記楽音信号が通過する複数のフィルタと、前記演算手段の出力データに対応するフィルタ係数を前記各フィルタに設定する補正回路とを具備することを特徴とする立体音再生装置である。
【0008】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の立体音再生装置において、前記表示制御手段は、各スピーカとリスナーとの間の距離を入力するためのデータ入力スロットを表示することを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、請求項2または請求項3に記載の立体音再生装置において、前記表示制御手段は、各スピーカとリスナーとの間の距離および各スピーカ相互間の距離を入力するためのデータ入力スロットを表示することを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、請求項2または請求項3に記載の立体音再生装置において、前記フィルタはFIRフィルタであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、スピーカの配置状態に合った特性補正を、簡単に行うことができる効果がある。また、この発明によれば、データ入力を表示装置を用いて行うので、リスナー、スピーカ位置を簡単に指定でき、データ入力を容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照し、この発明の実施の形態について説明する。図1はこの発明の一実施の形態による立体音再生装置1の構成を示すブロック図であり、この図において、符号L、C、R、SL、SRはスピーカ、TVは表示装置である。スピーカL、C、R、SL、SRは、ほぼ前述した図7と同様の位置に配置されているが、正確に円周上に配置されてはおらず、また、配置角度も規格通りになってはいない。また、各スピーカL、C、R、SL、SRには各々放音方向を撮像する小型カメラ(CCDカメラ、CMOSカメラ)Lc、Cc、Rc、SLc、SRcが取り付けられている。表示装置TVはリスナーLNの正面に設置されている。
【0011】
立体音再生装置1において、符号2は装置各部を制御する全体制御部である。3はドルビーディジタル(登録商標)規格による楽音データが入力される入力端子、4は入力端子3へ入力される楽音データをデコードし、各スピーカL、C、R、SL、SRを駆動するスピーカ駆動データを出力するデコーダである。5はDSP(ディジタルシグナルプロセッサ)であり、デコーダ4の出力データを全体制御部2から出力される補正データにしたがって補正し、DAC(ディジタル/アナログ変換器)6へ出力する。DAC6はDSP5の出力をアナログ信号に変換し、各スピーカL、C、R、SL、SRへ出力する。
【0012】
また、各スピーカL、C、R、SL、SRのカメラLc、Cc、Rc、SLc、SRcからの映像信号は切換回路7に入力される。切換回路7は各カメラLc、Cc、Rc、SLc、SRcからの映像信号を全体制御部2からの切換信号にしたがって切り換え、表示制御部8へ出力する。表示制御部8は切換回路7を介して入力される各カメラLc、Cc、Rc、SLc、SRcの映像信号に基づいて表示装置TVの映像表示を行うと共に、全体制御部2から出力されるデータ入力用スロットの表示を行う。9はユーザインターフェイスであり、ユーザが所有するリモコン(図示略)からの赤外線信号を電気信号に変換し、全体制御部2へ出力する。
【0013】
図2はDSP5の処理内容を示すブロック図である。この図において、11〜15はデコーダ4から出力されるスピーカ駆動データを遅延させてDAC6へ出力する可変遅延回路である。16は補正回路であり、各可変遅延回路11〜15の遅延時間を決める係数を、全体制御部2から供給されるデータに基づいて生成し、各可変遅延回路11〜15へ出力する。ここで、全体制御部2から供給されるデータとは、リスナーLNと各スピーカL、C、R、SL、SRとの間の距離を示すデータである。17はデフォルトの遅延時間を決める係数が予め設定されているデフォルト設定回路であり、電源投入時において補正回路16へデフォルトの係数を出力する。補正回路16はこの係数を各可変遅延回路11〜15に設定する。
【0014】
次に、上述した図1、図2に示す立体音再生装置1の動作を説明する。
この立体音再生装置1の使用にあたり、リスナーLNは、まず、スピーカL、C、R、SL、SRをほぼ図7に示す位置に配置し、配線を行い、そして電源を投入する。次に、リモコンによって、例えば、スピーカSRを指示する。この指示は、ユーザインターフェイス9を介して全体制御部2へ入力される。全体制御部2はこの指示を受け、切換回路7へカメラSRcへの切り換えを指示する信号を送る。切換回路7はこの信号を受け、カメラSRcからの映像信号を表示制御部8へ出力する。これにより、表示装置TVにカメラSRcからの映像が表示される。
【0015】
図3(a)は表示装置TVに表示された映像を示す。この図に示すように、カメラSRcからの映像にはスピーカL、C、R、表示装置TVおよびリスナーLNが表示される。またこの時、全体制御部2はスピーカSRから表示されている他のスピーカおよびリスナーまでの距離を入力するための表示スロット(符号D参照)を表示する。ここで、リスナーLNは、リモコンによって、スピーカSRからスピーカL、C、Rまでの距離およびスピーカSRからリスナーLNまでの距離を入力する(図3(b)参照)。入力されたデータは全体制御部2内のメモリに記憶される。
【0016】
次に、リスナーLNは、リモコンによってスピーカRを指示し、これにより表示装置TVに映し出された画面に上記と同様の入力を行う。以下、順次上記の動作を繰り返すことにより、全体制御部2のメモリ内に図4に示す各スピーカL、C、R、SL、SR相互間の距離a1〜a5および各スピーカL、C、R、SL、SRとリスナーLNとの距離b1〜b5がセットされる。
【0017】
上述した各データがメモリ内にセットされると、全体制御部2が各スピーカL、C、R、SL、SRとリスナーLNとの距離を示すデータをDSP5の補正回路16へ出力する。補正回路16はそれらのデータを受け、各スピーカL、R、SL、SRとリスナーLNとの距離がそれぞれ、スピーカCとリスナーLNとの距離と同じである場合と同等の効果が得られるように各可変遅延回路11〜15の遅延時間を求め、求めた遅延時間に対応する係数を可変遅延回路11〜15へ設定する。
【0018】
このように、上記実施形態においては、各スピーカL、C、R、SL、SRとリスナーLNとの距離の違いを、可変遅延回路11〜15によって補正し、これによりスピーカ配置の規格位置からの違いを補正している。
【0019】
次に、この発明の第2の実施形態について説明する。
この第2の実施形態が上述した第1の実施形態と異なる点は、図1における全体制御部2の処理の一部およびDSP5の処理である。最初に、全体制御部2の処理について説明する。
まず、上述した第1の実施形態において説明した各スピーカL、C、R、SL、SR相互間の距離a1〜a5および各スピーカL、C、R、SL、SRとリスナーLNとの距離b1〜b5を内部のメモリにセットするまでは第1の実施形態と同様である。次に、この第2の実施形態の全体制御部2は、メモリにセットされたデータから各スピーカL、C、R、SL、SRの設置位置の規格位置との角度差を演算によって求める。
【0020】
図6はこの演算を説明するための図であり、この図において、LNはリスナーの位置、Cは中央のスピーカの位置、Riはドルビーディジタル(登録商標)による前右スピーカの規格位置、Rxは実際の前右スピーカが設置された位置である。この場合、LN−C間の距離b1、C−Rx間の距離a1、Rx−LN間の距離b2は各々全体制御部2のメモリ内にセットされている。また、角度(C−LN−Ri)は規格から30°である(図7参照)。
【0021】
いま、三角形C−LN−Rxの面積をS、角度(Ri−LN−Rx)をα、角度(C−LN−Rx)をβとすると、ヘロンの公式から、
S=√(s(s−b1)(s−b2)(s−A))
但し:s=(b1+b2+a1)/2
三角形C−LN−Rxの底辺をb2とした時、高さhは、
h=2・S/b2
となる。したがって、
sinβ=h/b1=2・S/(b1・b2)
β=arcsin(2・S/(b1・b2))
なる式が得られ、この式から角度αが、
α=β−30°=arcsin(2・S/(b1・b2))−30°
として求められる。
全体制御部2は上述した演算によって各スピーカL、C、R、SL、SRの設置位置の規格位置との角度差を求め、距離データb1〜b5と共にDSP5へ出力する。
【0022】
図5はこの第2の実施形態におけるDSP5の処理内容を示すブロック図である。この図において、11〜15は図2において説明した可変遅延回路であり、デコーダ4から出力されるスピーカ駆動データを所定時間遅延させて出力する。21〜25は各々FIRフィルタであり、各フィルタ21〜25の出力が各々DAC6(図1)によってアナログ信号に変換され、スピーカL、C、R、SL、SRへ加えられる。27は補正回路であり、全体制御部2から上述した距離データb1〜b5および角度差を示すデータを受け、図2に示す補正回路16と同様に距離データb1〜b5に基づいて可変遅延回路11〜15の係数を求め、各可変遅延回路11〜15に設定する。また、スピーカL、C、R、SL、SRについて求められた角度差をフィルタ係数に変換し、FIRフィルタ21〜25へ出力する。28はデフォルト設定回路であり、電源投入時においてデフォルトの可変遅延回路係数およびフィルタ係数を補正回路27へ出力する。これらの係数は補正回路27によって可変遅延回路11〜15およびFIRフィルタ21〜25に設定される。
【0023】
上述したように、この第2の実施形態によれば、可変遅延回路11〜15によって第1の実施形態と同様に、各スピーカL、C、R、SL、SRとリスナーLNとの距離の規定値からの違いを補正し、また、FIRフィルタ21〜25によって各スピーカL、C、R、SL、SRの規格位置からの角度の違い(図6のα参照)を補正している。これによりスピーカ配置の規格位置からの違いを第1の実施形態よりさらに正確に補正することができる。
【0024】
なお、上記実施形態においては、各スピーカL、C、R、SL、SR相互間の距離a1〜a5および各スピーカL、C、R、SL、SRとリスナーLNとの距離b1〜b5をリスナーが入力するものとしたが、表示装置TVの映像の解析によってこれらの距離を求めてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0025】
この発明は、オーディオシステムやホームシアター等に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明の第1の実施形態による立体音再生装置の構成を示すブロック図である。
【図2】同実施形態におけるDSP5の処理内容を示すブロック図である。
【図3】同実施形態における表示装置TVの表示例を示す図である。
【図4】同実施形態の動作を説明するための説明図である。
【図5】この発明の第2の実施形態による立体音再生装置におけるDSPの処理内容を示すブロック図である。
【図6】同第2の実施形態の動作を説明するための説明図である。
【図7】ITUによって規定された5.1チャネルサラウンドにおけるスピーカの配置規格を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
1…立体音再生装置、2…全体制御部、3…入力端子、4…デコーダ、5…DSP、6…DAC、7…切換回路、8…表示制御部、9…ユーザインターフェイス、11〜15…可変遅延回路、16、27…補正回路、17、28…デフォルト設定回路、21〜25…FIRフィルタ、L、C、R、SL、SR…スピーカ、Lc、Cc、Rc、SLc、SRc…カメラ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の楽音信号を生成し、該楽音信号をそれぞれ複数のスピーカへ出力して立体効果を有する楽音を発生する立体音再生装置において、
各スピーカに各々取り付けられたカメラと、
各カメラから出力される映像信号を表示する表示装置と、
前記表示装置に、各スピーカの位置に関するデータを入力するためのデータ入力用スロットを表示する表示制御手段と、
前記データ入力用スロットに入力されたデータに基づいて、前記各スピーカを駆動する楽音信号を各々所定時間遅延させて出力する遅延手段と、
を具備することを特徴とする立体音再生装置。
【請求項2】
前記データ入力用スロットに入力されたデータに基づいて、各スピーカの設置位置の、規格位置からのずれ角度を演算する演算手段と、
前記楽音信号が通過する複数のフィルタと、
前記演算手段の出力データに対応するフィルタ係数を前記各フィルタに設定する補正回路と、
をさらに具備することを特徴とする請求項1に記載の立体音再生装置。
【請求項3】
複数の楽音信号を生成し、該楽音信号をそれぞれ複数のスピーカへ出力して立体効果を有する楽音を発生する立体音再生装置において、
各スピーカに各々取り付けられたカメラと、
各カメラから出力される映像信号を表示する表示装置と、
前記表示装置に、各スピーカの位置に関するデータを入力するためのデータ入力用スロットを表示する表示制御手段と、
前記データ入力用スロットに入力されたデータに基づいて、各スピーカの設置位置の、規格位置からのずれ角度を演算する演算手段と、
前記楽音信号が通過する複数のフィルタと、
前記演算手段の出力データに対応するフィルタ係数を前記各フィルタに設定する補正回路と、
を具備することを特徴とする立体音再生装置。
【請求項4】
前記表示制御手段は、各スピーカとリスナーとの間の距離を入力するためのデータ入力スロットを表示することを特徴とする請求項1に記載の立体音再生装置。
【請求項5】
前記表示制御手段は、各スピーカとリスナーとの間の距離および各スピーカ相互間の距離を入力するためのデータ入力スロットを表示することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の立体音再生装置。
【請求項6】
前記フィルタはFIRフィルタであることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の立体音再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−211090(P2006−211090A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−17998(P2005−17998)
【出願日】平成17年1月26日(2005.1.26)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】