説明

立坑構築用鋼製ケーシング

【課題】軟岩地盤での立抗構築に使用する杭用鋼製ケーシングにおいて、鋼製刃先の摩耗や変形を抑える。
【解決手段】鋼製ケーシング1のノコギリ刃状刃先2に刃先母材より高い硬度の肉盛部3が形成されている立抗構築用鋼製ケーシング。肉盛部3は硬化肉盛り溶接又は溶射により形成される。鋼製ケーシングのノコギリ刃状刃先は鋼製ケーシングの先端に接合されたノコギリ刃状刃先付リングとしてもよい。また、鋼製ケーシングのノコギリ刃状刃先の外周にノコギリ刃状刃先付リングを接合してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立坑を構築する際に使用する立坑構築用鋼製ケーシングの刃先に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に岩地盤以外での立坑構築には、立坑構築用鋼製ケーシングが使用される。この立坑構築用鋼製ケーシングの先端には、ノコギリ刃状に加工した鋼製刃先が形成されている。立坑構築現場では、立坑構築用鋼製ケーシングを揺動式掘削機により円周方向に揺動させながら地盤に押し込み、立坑構築用鋼製ケーシング内に溜まる土砂を搬出し立坑を形成していく。掘削が進むにつれて、立坑構築用鋼製ケーシングを順次継ぎ足して所定の深さまで掘削を続け、立坑を構築する。
【0003】
しかしながら、軟岩地盤での立坑構築用鋼製ケーシングによる施工では、軟岩との摩擦により鋼製刃先が著しく摩耗、又は変形してしまい施工が困難であった。そこで、立坑構築用鋼製ケーシング先端にビットと呼ばれる超硬合金の掘削刃部品を複数個取り付け、立坑構築用鋼製ケーシングを回転させることで、ビットがケーシング径に沿って軟岩を削り、又は砕きながら自重により又は圧入することで立坑構築用鋼製ケーシングを地中に掘削させていた。立坑構築用鋼製ケーシングを利用した立坑構築は、例えば、特許文献1〜3に開示されている。
【特許文献1】特開2004−263523号公報
【特許文献2】特開2001−152776号公報
【特許文献3】特開2001−132373号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、立坑構築現場では、前述の高価なビットを施工終了時に回収することが難しいことで、使い捨てになることから、安価なビットや代替え品によるコストの低減が求められている。
【0005】
また、立坑構築用鋼製ケーシングに使用するビットの多くには取り付け方向(切削方向)があるため、掘進する場合の鋼製ケーシングの回転方向が1方向に限定される。揺動掘進タイプの様な2方向に回転させるためには高価なビットを逆方向にも取り付けなければならず費用も2倍必要となる。このために揺動タイプでの採用に踏み切る施工業者は非常に少ないのが現状である。以上のような理由から立坑構築に使用する機器は旋回掘進タイプに限定され、市場の9割を占める揺動掘進タイプでの施工には対応できていなかった。
【0006】
そこで、本発明は、軟岩地盤での立坑構築に使用する立杭構築用鋼製ケーシングにおいて、鋼製刃先の摩耗や変形を抑えることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の立坑構築用鋼製ケーシングは、鋼製ケーシングのノコギリ刃状刃先に刃先母材より高い硬度の肉盛部が形成されていることを特徴とする。
【0008】
肉盛部は硬化肉盛り溶接又は溶射により形成される。鋼製ケーシングのノコギリ刃状刃先は鋼製ケーシングの先端に接合されたノコギリ刃状刃先付リングとしてもよい。
【0009】
また、鋼製ケーシングのノコギリ刃状刃先の外周にノコギリ刃状刃先付リングを接合してもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、立坑構築用鋼製ケーシングのノコギリ刃状鋼製刃先の表面に高い硬度の肉盛部を形成しているので、軟岩地盤での立坑構築において、鋼製刃先の摩耗や変形を抑えることができる。
【0011】
また、本発明は、従来の立坑構築用鋼製ケーシングの先端に手間を掛けて高価な超硬合金のビットを取り付けるのに比べて、刃先に肉盛部を硬化肉盛溶接又は溶射することにより手間を掛けずに容易に形成することができる。さらに、ビット取り付けタイプの鋼製ケーシングよりも安価な軟岩対応の鋼製ケーシング刃先の製作が可能となる。
【0012】
さらに、従来のノコギリ状刃先を有する立坑構築用鋼製ケーシングの場合、軟岩地盤での立坑構築に使用される機械は、揺動掘進タイプでの施工には対応できずに旋回掘進タイプに限定されていたが、本発明は刃先の肉盛部の形状を自由に変更することができることから、回転方向も限定されないため、刃先に肉盛部を形成した立坑構築用鋼製ケーシングを使用することで、揺動掘進タイプでも軟岩地盤での施工に対応できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は刃先に肉盛部を形成した本発明の立坑構築用鋼製ケーシングの概略図を示す図である。
【0014】
鋼製ケーシング1の先端に形成されている、鋼製ケーシング外径と同径または若干大きな径のノコギリ刃状刃先2の表面の一部に硬化肉盛用の溶接材料を使用して刃先母材より高い硬度の肉盛部3を形成、あるいは硬化肉盛溶接に代えて溶射により刃先母材より高い硬度の肉盛部を形成してノコギリ刃状刃先の表面に凹凸を付ける。
【0015】
また、リングに形成されたノコギリ刃状刃先の一部に硬化肉盛溶接あるいは溶射により肉盛部を形成したのち、リングをケーシング本体に溶接して立坑構築用鋼製ケーシングにしてもよい。
【0016】
肉盛部は、刃先全面でなく、特定部分について形成してもよい。また、立坑構築用鋼製ケーシングを回転又は揺動させて掘進していく方法では、土中に立坑構築用鋼製ケーシングが掘進するにしたがい、立坑構築用鋼製ケーシング表面と土砂(又は軟岩)との摩擦抵抗が大きくなる。そこで、軟岩対応の刃先として硬化肉盛を行った刃先は、鋼製ケーシング外周より若干張り出す形で、鋼製ケーシング外径よりも大きくなるように肉盛溶接を行う。これにより鋼製ケーシング本体表面と上砂との間に空間を作ることで、摩擦抵抗を減少させることができる。
【0017】
一般の立坑構築用鋼製ケーシング刃先の材料はSS400であり、硬化肉盛溶接棒には、これより硬質となる溶接材料を使用し、例えば、マルテンサイトスチール系、オーステナイトスチール系、タングステンカーバイド系等を土質により選択して使用する。
【0018】
肉盛部の厚さは4〜10mm程度とし、1ケ所の肉盛部の幅は20〜50mm程度として、土質により調整する。
【実施例1】
【0019】
図2(a)は立坑構築用鋼製ケーシングのノコギリ刃状刃先に硬化肉盛をした実施例を示す拡大図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【0020】
本実施例では、立坑構築用鋼製ケーシングのノコギリ刃状刃先2の刃先端部及びその上部を20〜50mm幅で且つ内側及び外側に直接硬化肉盛溶接により高さ4〜10mmの肉盛部3を形成したものである。本実施例では、特にノコギリ刃状刃先2の変形を防ぐ場合に利用できる。
【0021】
なお、刃先の変形が少ない土質の場合には、刃先端部及び外側のみに肉盛部を形成するだけでもよい。
【実施例2】
【0022】
図3(a)はノコギリ刃状リングの刃先に硬化肉盛をした実施例を示す拡大図、(b)は(a)のB−B断面図である。
【0023】
本実施例では、ノコギリ刃状刃付リング4の刃先の先端部に硬化肉盛溶接により4〜10mm高さの肉盛部3を形成した後、ノコギリ刃状刃付リング4を溶接により鋼製ケーシング1に接合したものである。ノコギリ刃状刃付リング4の使用は、鋼製ケーシング1の材質や形状により直接肉盛溶接により肉盛部3を形成しにくい場合に適している。
【実施例3】
【0024】
図4(a)〜(c)は刃先に形成する肉盛部の各種形状を示す図である。
【0025】
図4(a)は刃先の先端部及びその上部に20〜50mm幅の肉盛部3を形成して、刃先の先端部の摩耗と刃先の変形を抑えるのに適している。
【0026】
図4(b)は刃先全体に網目状に肉盛部3を形成して刃先全体の摩耗を抑えるのに適している。
【0027】
図4(c)は刃先の先端部分の山及び谷に肉盛部3を形成して刃先の先端部分の摩耗を抑えるのに適している。
【実施例4】
【0028】
図5は刃先部分にさらにノコギリ刃状刃付リングを接合した例を示す図である。
【0029】
本実施例では、鋼製ケーシングの刃先の外周にさらにノコギリ刃状刃付リング5を重ねて接合してダブル刃先にしたものである。鋼製ケーシングの刃先はケーシングの刃先に直接肉盛部を形成したもの、あるいは鋼製ケーシングの先端に刃付リングを接合したものの刃先部分の外周にさらにノコギリ刃状刃付リング5を接合する。接合の際には、外周に接合されるノコギリ刃状刃付リング5の刃先が内側のケーシングの刃先より下側に位置するようにする。接合が完了すると、鋼製ケーシングの刃先及びノコギリ刃状刃付リング5の刃先に肉盛部3を形成する。肉盛部3の形状は特に限定されるものではなく、例えば、図2〜4に示す形状から刃先に要求される特性により選択する。
【0030】
本実施例では、鋼製ケーシングの刃先及びノコギリ刃状刃付リング5の刃先により切削が向上し、また外周のノコギリ刃状刃付リング5により鋼製ケーシングの刃先を補強する作用がある。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】刃先に肉盛部を形成した本発明の立坑構築用鋼製ケーシングの概略図を示す図である
【図2】(a)は鋼製ケーシング刃先に硬化肉盛りをした実施例を示す拡大図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【図3】(a)はリングの刃先に硬化肉盛りをした実施例を示す拡大図、(b)は(a)のB−B断面図である。
【図4】刃先に形成する肉盛部の各種形状を示す図である。
【図5】刃先部分にさらに刃付リングを接合した例を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
1 ケーシング
2 ノコギリ刃状刃先
3 肉盛部
4 刃付リング
5 ノコギリ刃状刃付リング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製ケーシングのノコギリ刃状刃先に刃先母材より高い硬度の肉盛部が形成されていることを特徴とする立坑構築用鋼製ケーシング。
【請求項2】
肉盛部が硬化肉盛溶接又は溶射により形成されていることを特徴とする請求項1記載の立坑構築用鋼製ケーシング。
【請求項3】
鋼製ケーシングのノコギリ刃状刃先が、鋼製ケーシングの先端に接合されたノコギリ刃状刃先付リングであることを特徴とする請求項1又は2記載の立坑構築用鋼製ケーシング。
【請求項4】
鋼製ケーシングのノコギリ刃状刃先の外周にノコギリ刃状刃先付リングを接合したことを特徴とする請求項1、2又は3記載立坑構築用鋼製ケーシング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−225896(P2006−225896A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−38386(P2005−38386)
【出願日】平成17年2月15日(2005.2.15)
【出願人】(390031864)東亜機械工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】