説明

端面耐食性に優れた非クロム系樹脂塗装金属板

【課題】常に水に曝されているようなウエットな環境下にある端面や疵部においても赤錆の発生時間を遅延させることができる端面耐食性に優れた非クロム系の樹脂塗装金属板を提供する。
【解決手段】非クロム系下地処理皮膜の上に下塗り塗膜および/または上塗り塗膜が形成された非クロム系樹脂塗装金属板であって、この下塗り塗膜および/または上塗り塗膜は、多孔質無機微粒子と金属化合物系防錆顔料とが複合化された徐放性防錆微粒子を、徐放性防錆微粒子以外の塗膜成分100質量部に対し、5〜40質量部含有し、樹脂塗装金属板に1mm×1mmのマス目を100個刻んだ後、40℃の炭酸塩pH標準液へ浸漬したときに、上記防錆顔料から溶出する金属イオンの溶出速度が0.001〜1.0mg/l・m2・hrであるところに特徴を有する端面耐食性に優れた非クロム系樹脂塗装金属板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロメート処理が施されていなくても、耐食性、特に、端面の耐食性に優れた樹脂塗装金属板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂塗装金属板の切断面(端面)や疵部は、金属板の金属基材部分が露出しており、亜鉛めっきや樹脂皮膜による防錆効果が発揮されにくい部分であるが、樹脂皮膜に防錆顔料を添加しておくと、亜鉛めっき表面から溶出するZnイオンと防錆顔料中の金属とが不働態皮膜を形成して、亜鉛の腐食を抑制し、ある程度の耐食性は確保される。
【0003】
例えば、特許文献1には、クロメート系防錆顔料に加え、バナジウム/リン酸塩系防錆顔料を樹脂皮膜中に含有させることで、端面の耐食性を向上させる技術が開示されている。この特許文献1では、リン酸イオンと溶解してきた亜鉛とが難解性の皮膜を形成する機能(デポジション機能)と、バナジン酸イオンの作用で、亜鉛の腐食電位よりも少し貴なレドックス電位を示す機能(オキシダイザー機能)等により、500時間の塩水噴霧試験で良好な耐食性を発揮したことが示されている。
【0004】
また、特許文献2には、クロメート系防錆顔料と亜リン酸塩系防錆顔料を併用したプライマー組成物が示されている。リン酸塩系の皮膜が端面耐食性(750時間の塩水噴霧試験)を向上させることが記載されている。
【0005】
これらの特許文献1,2に記載の技術は、いずれもクロメート系防錆顔料を用いるものであり、昨今のクロムフリーといった時流に逆らうものであった。このため、本出願人は、特許文献3において、クロム化合物を用いずに、端面耐食性に優れた表面処理亜鉛めっき鋼板を提供することのできる技術を開示している。この特許文献3の技術は、樹脂皮膜中に、酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属(水)酸化物を存在させることで、腐食環境下でアルカリイオンとして溶解させてpHの低下を抑え、Znの溶出をコントロールする緩衝作用を発揮させるものであり、周囲環境が酸性と中性とに変化するような場合にも、長期的に端面耐食性を発揮させるところに特徴がある。
【0006】
しかしながら、樹脂塗装金属板の端面耐食性には、さらなる改善が求められている。例えば、常に水に曝されているようなウエットな環境下にある端面や疵部においては、Znイオンや防錆顔料中の金属イオンが水によって流失するため不働態皮膜を形成することができず、短時間で赤錆が発生してしまうが、このような場合であっても、良好な端面耐食性を示す樹脂塗装金属板が求められているのである。上記従来技術は、このような過酷な環境を想定しての端面耐食性向上技術とは言えない。
【特許文献1】特開平6−9902号公報
【特許文献2】特開平11−158417号公報
【特許文献3】特開2006−28582号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明では、例えば、常に水に曝されているようなウエットな環境下にある端面や疵部においても赤錆の発生時間を遅延させることができる非クロム系の樹脂塗装金属板の提供を課題として掲げた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決した本発明は、非クロム系下地処理皮膜の上に下塗り塗膜および/または上塗り塗膜が形成された非クロム系樹脂塗装金属板であって、この下塗り塗膜および/または上塗り塗膜は、多孔質無機微粒子と金属化合物系防錆顔料とが複合化された徐放性防錆微粒子を、徐放性防錆微粒子以外の塗膜成分100質量部に対し、5〜40質量部含有し、樹脂塗装金属板に1mm×1mmのマス目を100個刻んだ後、40℃の炭酸塩pH標準液へ浸漬したときに、上記防錆顔料から溶出する金属イオンの溶出速度が0.001〜1.0mg/l・m2・hrであるところに特徴を有する端面耐食性に優れた非クロム系樹脂塗装金属板である。
【0009】
徐放性防錆微粒子は、平均粒子径が1〜10μmであると、耐食性と加工性とのバランスが一層良好となる。
【0010】
徐放性防錆微粒子を40℃のpH10の水酸化ナトリウム水溶液へ浸漬したときの金属イオンの溶出速度が0.005〜0.5mg/l・g・hrであると、上記塗膜からの金属イオンの溶出速度を好適範囲に設定しやすいため好ましい。
【0011】
徐放性防錆微粒子に複合化されている防錆顔料は、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、リン酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、塩化マグネシウム、蓚酸マグネシウム、硫酸マグネシウムおよびこれらの水和物よりなる群から選択される1種以上のマグネシウム化合物であるか、トリポリリン酸アルミニウム、リン酸アルミニウムおよびリン酸アルミニウム二水和物よりなる群から選択される1種以上のアルミニウム化合物であると、優れた防錆効果を発揮するため好ましい。
【0012】
徐放性防錆微粒子に用いられる多孔質無機微粒子が、多孔質シリカ微粒子であると、防錆顔料との複合化が容易であるため好ましい。また、下塗り塗膜および/または上塗り塗膜には、さらに、防錆顔料が含まれていてもよく、端面耐食性がより一層向上する。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、樹脂塗装金属板の樹脂塗膜が徐放性防錆微粒子を含有しているので、常に水に曝されているようなウエットな環境下にある端面や疵部においても、この徐放性防錆微粒子から防錆成分が水に徐々に溶出し、赤錆の発生を長時間に亘って抑制する。よって、本発明の金属板は、エアコンの室外機等、比較的過酷な腐食環境下で使用されるPCM(プレコート金属板)として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、非クロム系下地処理皮膜の上に下塗り塗膜および/または上塗り塗膜が形成された非クロム系樹脂塗装金属板であって、この下塗り塗膜および/または上塗り塗膜は、多孔質無機微粒子と金属化合物系防錆顔料とが複合化された徐放性防錆微粒子を、徐放性防錆微粒子以外の塗膜成分100質量部に対し、5〜40質量部含有し、樹脂塗装金属板に1mm×1mmのマス目を100個刻んだ後、40℃の炭酸塩pH標準液へ浸漬したときに、上記防錆顔料から溶出する金属イオンの溶出速度が0.001〜1.0mg/l・m2・hrであるところに特徴を有する。
【0015】
本発明の樹脂塗装金属板は、非クロム系樹脂塗装金属板である。非クロム系というのは、クロメート系下地処理を施していないという意味である。本発明に用いられる金属板の種類は、特に限定されず、鋼板または非鉄金属板の金属板、これらに単一金属または各種合金のめっきを施しためっき金属板等が含まれる。具体的には、例えば、熱延鋼板、冷延鋼板、ステンレス鋼板等の鋼板;溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、電気Zn−Ni合金めっき鋼板等のめっき鋼板;アルミニウム、チタン、亜鉛等の非鉄金属板またはこれらにめっきが施されためっき非鉄金属板等が挙げられる。上記の金属板には、非クロム系下地処理が施される。下地処理としては非クロム系であればよく、例えば、リン酸塩処理、酸洗処理、アルカリ処理、電解還元処理、シランカップリング処理、無機シリケート処理等が挙げられる。リン酸塩処理であれば、0.05〜3.0g/m2の付着量とすることが好ましい。
【0016】
本発明の樹脂塗装金属板は、下塗り塗膜および/または上塗り塗膜を有している。すなわち、上塗り塗膜のみの構成でもよいし、下塗り塗膜の上に上塗り塗膜を有する二層構成でもよい。また、さらに他の塗膜を積層したものであってもよい。
【0017】
下塗り塗膜および上塗り塗膜の主成分は有機樹脂である。樹脂としては、例えば、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、およびこれら樹脂の混合物または変性した樹脂等が挙げられる。なかでも、有機溶剤可溶型(非晶性)のポリエステル樹脂が好ましい。有機溶剤可溶型のポリエステル樹脂としては、東洋紡績社製の「バイロン(登録商標)」シリーズが、豊富な種類のものを入手することができる点で好適である。ポリエステル樹脂は、メラミン樹脂やエポキシ樹脂等で架橋してもよい。メラミン樹脂としては、住友化学社製の「スミマール(登録商標)」シリーズや、サイテック社製の「サイメル(登録商標)」シリーズがある。エポキシ樹脂としては、例えば、ジャパンエポキシレジン社製の「jER(登録商標)」シリーズがある。架橋剤は、乾燥後の樹脂皮膜中に架橋剤(反応後)が質量で0.5〜30%(より好ましくは5〜25%)となるように、配合することが好ましい。
【0018】
本発明の樹脂塗装金属板では、下塗り塗膜および/または上塗り塗膜中に、多孔質無機微粒子と金属化合物系防錆顔料とが複合化された徐放性防錆微粒子が含まれている。「多孔質無機微粒子と金属化合物系防錆顔料とが複合化された」とは、多孔質無機微粒子の孔の中やその表面に金属化合物系防錆顔料が付着している状態を指す。「徐放性防錆微粒子」とは、上記複合化によって、金属化合物系防錆顔料自体の水への溶出速度よりも、当該徐放性防錆微粒子からの金属化合物系防錆顔料の溶出速度が小さくなっていることを意味する。
【0019】
防錆顔料は、腐食環境下(pH8.5〜10.5)で防錆成分である金属イオンが溶出することで、pH変化の緩衝作用を有すると共に、Znめっき表面から溶出するZnイオンと不働態皮膜を形成して亜鉛の腐食を抑制し、耐食性を発現する。不働態皮膜を形成する防錆成分の金属イオンとZnイオンの比率は一定である。よって、腐食環境下において防錆成分の金属イオンの溶出速度が大きいと、Znイオンと反応しなかった金属イオンも溶出・流失してしまい、新たに不働態皮膜を形成するための金属イオンが不足してしまうため、腐食が進行する。しかし、徐放性防錆微粒子が塗膜中に含まれていると、塗膜が水に接しても防錆顔料由来の金属イオンの溶出および流失を低レベルにコントロールできるため、長期間に亘って塗膜から金属イオンが溶出することとなって、端面や疵部の赤錆の発生を抑制することができる(端面耐食性の発現)。
【0020】
この端面耐食性を長期間に亘って有効に維持するには、樹脂塗装金属板に1mm×1mmのマス目を100個刻んだ後、40℃の炭酸塩pH標準液(pH10.01)へ浸漬したときに、上記防錆顔料から溶出する金属イオンの溶出速度が0.001〜1.0mg/l・m2・hrでなければならない。この溶出速度が0.001mg/l・m2・hr未満では、腐食環境下における金属イオンが少なすぎて、端面や疵部の赤錆発生を長期間に亘って防止することが難しい。しかし、金属イオンの溶出速度が1.0mg/l・m2・hrを超えると、端面耐食性の持続性を得ることができない。より好ましい溶出速度の下限は0.005mg/l・m2・hrであり、上限は0.5mg/l・m2・hrである。なお、従来のシリカ系防錆剤(カルシウムイオン交換シリカ)では、腐食環境下での溶出速度は2.2mg/l・m2・hrであり、本発明の徐放性防錆微粒子に比べ遙かに大きいため、本発明のような端面耐食性の持続性向上効果を得ることはできない。なお、上記溶出速度の測定に際し、マス目は素地金属板にまで達するように刻む。炭酸塩pH標準液は、炭酸水素ナトリウム0.21質量%(0.02490mol/l)と炭酸ナトリウムを0.26質量%(0.02491mol/l)有する水溶液であり、例えば関東化学社などから市販されている。
【0021】
上記溶出速度は、実際の腐食環境を想定して樹脂塗装金属板からの金属イオンの溶出速度を規定したが、本発明の徐放性防錆微粒子そのものを40℃のpH10の水酸化ナトリウム水溶液へ浸漬したときの金属イオンの溶出速度は、0.005〜0.5mg/l・g・hrであることが好ましい。この範囲であれば、樹脂塗装金属板からの金属イオンの溶出速度を上記好適範囲に設定しやすいからである。
【0022】
徐放性防錆微粒子は、多孔質無機微粒子と金属化合物系防錆顔料とを複合化することにより得られる。多孔質無機微粒子としては、シリカ、酸化チタン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化亜鉛、酸化ニッケル、酸化マンガン、アルミナ等の金属酸化物;水酸化鉄、水酸化ニッケル、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化クロム等の金属水酸化物;炭酸カルシウム、炭酸バリウム等の炭酸塩;ケイ酸カルシウム、ケイ酸バリウム、ケイ酸マグネシウム等のケイ酸塩;リン酸カルシウム、リン酸バリウム、リン酸マグネシウム、リン酸ジルコニウム、アパタイト等のリン酸塩;等からなるものが好ましい。特に、耐食性の点からは、シリカ微粒子が好ましい。
【0023】
多孔質無機微粒子の平均粒径は、1〜10μmが好ましい。1μmより小さいと、多孔質無機微粒子の製造が難しくなることと、耐食性が低下するため好ましくない。10μmを超えると、加工性が低下する傾向にあるため好ましくない。より好ましい平均粒子径は、1〜3μmである。なお、多孔質無機微粒子の平均粒径と、複合化後の徐放性防錆微粒子の平均粒径はほとんど変化がない。よって、徐放性防錆微粒子の好ましい平均粒径も1〜10μm(より好ましくは1〜3μm)である。平均粒径は、例えば、走査型電子顕微鏡(倍率5000倍)を用い、視野中に観察される微粒子の平均値を算出することによって求められる。あるいは、島津製作所製「SA−P3」を用い、遠心沈降法によって算出することもできる。
【0024】
多孔質無機微粒子の多孔質度合いは、比表面積で100〜800m2/gが好ましい。防錆顔料との複合化後に、適切な溶出速度となるからである。このような多孔質無機微粒子としては、例えば、「ゴッドボール(登録商標)」シリーズ(鈴木油脂工業社製)や、多孔質シリカ微粒子(エネックス社製;SE MCB−FP/2)が入手可能である。上記「ゴッドボール(登録商標)」には、非中空シリカタイプのE−2C(平均粒子径0.9〜1.4μm、比表面積350〜500m2/g)、E−6C(平均粒子径2.0〜2.5μm、比表面積250〜400m2/g)、E−2C(平均粒子径0.9〜1.4μm、比表面積350〜500m2/g)、E−16C(平均粒子径4.0〜5.3μm、比表面積300〜550m2/g)、D−11C(平均粒子径3.0〜4.0μm、比表面積280〜500m2/g);中空シリカタイプのB−6C(平均粒子径2.0〜2.5μm、比表面積250〜400m2/g)、B−25C(平均粒子径8.0〜10.0μm、比表面積400〜550m2/g);超多孔質シリカタイプのAF−6C(平均粒子径2.5〜3.5μm、比表面積600〜700m2/g)、AF−16C(平均粒子径4.0〜5.3μm、比表面積600〜700m2/g)、SF−16C(平均粒子径4.0〜5.3μm、比表面積600〜700m2/g)等がある。
【0025】
金属化合物系防錆顔料としては、水への溶解度があまり大きくなくて、溶出速度が小さいものが好ましい。端面耐食性を長期に亘って発揮させることができる。具体的には、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、リン酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、塩化マグネシウム、蓚酸マグネシウム、硫酸マグネシウムおよびこれらの水和物等のマグネシウム化合物;トリポリリン酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、リン酸アルミニウム二水和物等のアルミニウム化合物が好適である。
【0026】
複合化に際しての多孔質無機微粒子と金属化合物系防錆顔料との質量比率は、95:5〜50:50が好ましい。防錆顔料が5質量%未満では、充分な端面耐食性およびその持続性を得ることが困難な場合がある。また、多孔質無機微粒子の構造上、防錆顔料を50質量%を超えて複合化させるのが困難な場合がある。
【0027】
徐放性防錆微粒子は、多孔質無機微粒子より小径(必要により破砕して)の金属化合物系防錆顔料を、多孔質無機微粒子と共に機械的に混合することにより得ることができる。高剪断力で混合することが好ましく、この混合の間に、多孔質無機微粒子の孔の中に防錆顔料が入り込み、両者が複合化されると考えられる。混合の際には、適宜、加熱・加圧してもよい。本発明では、水への溶解度が小さく、溶出速度の小さい金属化合物系防錆顔料を使用するため、防錆顔料の水溶液中に多孔質無機微粒子を浸漬して複合化するのは困難であるが、pHを調整したり、他の溶媒を用いることにより防錆顔料を溶液化すれば、この溶液中に多孔質微粒子を浸漬した後乾燥させることで、両者の複合化が可能である。
【0028】
徐放性防錆微粒子は、塗膜成分100質量部に対し、5〜40質量部含まれていると、良好な端面耐食性およびその持続性を得ることができる。すなわち、塗膜形成用組成物の固形分のうち、徐放性防錆微粒子以外の固形分100質量部に対し、徐放性防錆微粒子を5〜40質量部添加して、塗膜を形成すればよい。徐放性防錆微粒子は下塗り塗膜と上塗り塗膜のいずれか一方または両方に含まれていてもよい。耐食性の観点からは、両方の塗膜に含まれている方が好ましい。
【0029】
本発明の樹脂塗装金属板を製造するには、塗膜形成用組成物を調製し、これを金属板に塗布・乾燥する方法を採用するのが好ましい。塗膜形成用組成物は、ベースとなる有機樹脂と徐放性防錆微粒子、必要により添加される架橋剤等を、有機溶剤等で希釈して塗工に適した粘度にしたものを用いる。有機溶剤としては特に限定されないが、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチル等の脂肪族エステル類;シクロヘキサン等の脂環族炭化水素類;ヘキサン、ペンタン等の脂肪族炭化水素類等;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類等が挙げられる。塗工適性を考慮すると、原料組成物は、その粘度がフォードカップNo.4で30〜100秒程度になるように調整するか、または固形分濃度を5〜45質量%程度に調整することが推奨される。
【0030】
上記塗膜形成用組成物には、さらに、公知の防錆顔料を添加しても構わない。また、艶消し剤、体質顔料、沈降防止剤、ワックス等、樹脂塗装金属板分野で用いられる各種公知の添加剤を添加してもよい。
【0031】
上記塗膜形成用組成物を金属板に塗布する方法は特に限定されず、バーコーター法、ロールコーター法、スプレー法、カーテンフローコーター法等が採用可能である。塗布後には乾燥を行うが、架橋剤添加系においては、架橋剤が反応し得る温度で加熱乾燥を行うことが好ましい。具体的には、100〜250℃で、1〜5分程度加熱乾燥を行うとよい。
【0032】
下塗り塗膜、上塗り塗膜の厚みは特に限定されないが、いずれも1〜100μm程度が好ましく、5〜30μm程度がより好ましい。
【実施例】
【0033】
以下実施例によって本発明をさらに詳述するが、下記実施例は本発明を制限するものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更実施は本発明に含まれる。なお以下特にことわりのない場合、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」をそれぞれ示すものとする。実施例で用いた評価方法は、以下の通りである。
【0034】
〔クロスカットの耐食性〕
供試材(50mm×120mm)に、カッターナイフでクロスカット(60°、60mm)を入れ、JIS Z2371に従って塩水噴霧試験を実施して、500時間後のクロスカット部からの塗膜の膨れ幅を測定した。評価基準は、下記の通りとした。
◎:膨れ幅が1mm以下
○:膨れ幅が1mm超、3mm以下
△:膨れ幅が3mm超、5mm以下
×:膨れ幅が5mm超
【0035】
〔端面耐食性〕
JIS Z2371に従って塩水噴霧試験を実施して、500時間後の端面部からの塗膜の膨れ幅を測定した。評価基準は、下記の通りとした。
◎:膨れ幅が1mm以下
○:膨れ幅が1mm超、3mm以下
△:膨れ幅が3mm超、5mm以下
×:膨れ幅が5mm超
【0036】
〔人工雨水滴下試験〕
供試材を50mm×120mmにカットして、図1に示すように長手方向の一端を、横断面が半円となるように、樋状に曲げた。樋部の両端はシールした。樋部の中央部に円形(φ=6mm)の切込みを入れ、この半円の周囲部の端面を露出させた。人工雨水を、供試材上方から0.16〜0.17ml/minで滴下した。人工雨水の組成は表1に示す通りであり、硫酸でpH4.7に調整した。これは、環境庁調査の国内降雨の平均イオン組成に準じたものである。試験雰囲気は、40℃、95%RHとした。試験装置の下部にガーゼを置き、半円切込み部の赤錆発生状態と、ガーゼへの赤錆流れ落ち状態とを、24時間ごとに目視で確認した。この確認時に赤錆が発生していたら、その時間を赤錆発生時間とした。
【0037】
【表1】

【0038】
〔加工性A〕
供試材を50mm×50mmにカットし、評価する面を外側にして折り曲げ、低温(0℃)雰囲気下、万力で180゜(0T曲げ)折り曲げ加工した後、折り曲げ部の塗膜に生じたクラックの発生状態を目視およびルーペ(倍率10倍)で観察した。評価基準は下記の通りとした。
◎:クラックの発生なし(目視およびルーペのいずれで観察しても、クラックがない)
○:クラックの発生僅少(目視では認められないが、ルーペで観察するとクラックがわずかに確認できる)
△:クラック発生(亀裂の小さなクラックが目視で認められる)
×:クラック大(亀裂の大きなクラックが目視で認められる)
【0039】
〔加工性B〕
低温(0℃)雰囲気下ではなく、常温(20℃)雰囲気下で行った以外は、加工性Aと同様にして折り曲げ部のクラック発生状態を観察した。評価基準も同じである。
【0040】
〔溶出速度測定試験〕
供試材をφ50mmの円形状にカットし、1mm×1mmの碁盤目をカッターナイフで100個刻んだ。40℃、95%RHの雰囲気下で、炭酸塩pH標準液(pH=10.01、炭酸水素ナトリウム+炭酸ナトリウム水溶液)100mlに浸漬させた。この水溶液を24時間ごとに10mlずつ採取して、碁盤目刻み部と端面から溶出したイオン量をICP発光分析法で定量分析し、防錆成分の溶出速度を測定した。
【0041】
〔徐放性防錆微粒子Aの製造〕
中空多孔質シリカ微粒子(「ゴッドボール(登録商標)B−6C」:鈴木油脂工業社製:平均粒子径約2.0μm(2〜2.5μm))50部と、酸化マグネシウム(「スターマグL−10」相当の高活性品:神島化学工業社製:平均粒子径0.63μm)50部とを混合し、徐放性防錆微粒子Aを製造した。なお、酸化マグネシウムは予め粉砕してから中空多孔質シリカ微粒子と混合した。混合に際しては、加温しながら高剪断力で混合した。
【0042】
〔徐放性防錆微粒子Bの製造〕
酸化マグネシウムに変えて、トリポリリン酸アルミニウム(「K−WAHITE #G105」:平均粒子径2.3μm:テイカ社製)を用いた以外は、徐放性防錆微粒子Aと同様にして、徐放性防錆微粒子Bを製造した。
【0043】
〔徐放性防錆微粒子Cの製造〕
酸化マグネシウムに変えて、炭酸マグネシウム(工業用(軽質):協和化学工業社製)を用いた以外は、徐放性防錆微粒子Aと同様にして、徐放性防錆微粒子Cを製造した。
【0044】
〔徐放性防錆微粒子Dの製造〕
酸化マグネシウムに変えて、水酸化マグネシウム(「10A」:神島化学工業社製:平均粒子径3.5μm)を用いた以外は、徐放性防錆微粒子Aと同様にして、徐放性防錆微粒子Dを製造した。
【0045】
〔徐放性防錆微粒子Eの製造〕
酸化マグネシウムに変えて、リン酸マグネシウム(御国色素社製)を用いた以外は、徐放性防錆微粒子Aと同様にして、徐放性防錆微粒子Eを製造した。
【0046】
〔徐放性防錆微粒子Fの製造〕
酸化マグネシウムに変えて、バナジン酸カルシウム(新興化学工業社製)を用いた以外は、徐放性防錆微粒子Aと同様にして、徐放性防錆微粒子Fを製造した。
【0047】
実験No.1(防錆成分の溶出速度)
上記各徐放性防錆微粒子A〜Fを、40℃、pH10に調整したNaOH水溶液中に2%となるように添加して、攪拌し、24時間目から120時間目まで24時間ごとに水溶液中の溶出イオン量をICP発光分析法で定量分析し、微粒子からの防錆成分の溶出速度を測定した。結果を表2に示した。
【0048】
【表2】

【0049】
実験No.2(溶出速度の影響)
金属板として、板厚が0.8mm、めっき付着量が片面45g/m2ずつの溶融亜鉛めっき鋼板を用いた。このめっき鋼板の表裏面に、非クロメート系下地処理剤である日本パーカライジング社製の「CTE220」を、付着量が100mg/m2となるように塗装した。焼き付け条件は、到達板温100℃、加熱時間12秒、焼き付け時風速5m/秒とした。
【0050】
ベース樹脂(「バイロン(登録商標)300」:東洋紡績社製の有機溶剤可溶型ポリエステル樹脂:Tg7℃:分子量(Mn)23×103)57部、架橋剤として、メラミン樹脂(「サイメル(登録商標)325」:サイテック社製)25部と、エポキシ樹脂(「jER(登録商標)1001」(ジャパンエポキシレジン社製)3部、体質顔料として、二酸化チタン(「JR−603」:テイカ社製:平均粒子径0.28μm)14.5部と、シリカ系クレー(「クレー1号」:丸尾カルシウム社製)0.5部をよく混合した。この混合物の固形分100部に対して、表3,4に示した徐放性防錆微粒子を20部配合して、下塗り塗膜用樹脂組成物を調製した。
【0051】
上記下地処理後の金属板の片面に、この下塗り塗膜用樹脂組成物を、乾燥後の厚みが10μmとなるようにバーコート塗装を行った。焼き付け条件は、到達板温210℃、乾燥時間50秒、焼き付け時風速5m/秒とした。
【0052】
ポリエステル・メラミン系塗料(「FLC5000」:日本ファインコーティングス社製)100部(固形分)に対し、二酸化チタン(「JR−603」:テイカ社製:平均粒子径0.28μm)15部、シリカ系クレー(「クレー1号」:丸尾カルシウム社製)50部と、表3,4に示した徐放性防錆微粒子を20部添加して、上塗り塗膜用樹脂組成物を調製した。
【0053】
下塗り塗膜形成後の板の両面に、この上塗り塗膜用樹脂組成物を、乾燥後の厚みが17μmとなるようにバーコート塗装を行った。焼き付け条件は、到達板温210℃、乾燥時間50秒、焼き付け時風速:5m/秒とした。下塗り塗膜と上塗り塗膜が形成された面の評価結果を表3に示した。
【0054】
なお、下塗り塗膜を形成せずに、下地処理後の金属板の両面に上塗り塗膜用樹脂組成物を塗布した樹脂塗装金属板も上記と同様に製造した。評価結果を表4に示した。
【0055】
【表3】

【0056】
【表4】

【0057】
実験No.3(徐放性防錆微粒子の平均粒子径の影響)
徐放性防錆微粒子Aを作る際に、中空多孔質シリカ微粒子の平均粒子径を変えることにより、平均粒子径が0.5〜20μmの徐放性防錆微粒子を製造した。それぞれの徐放性防錆微粒子を、実験No.2と同様に、20部ずつ下塗り塗膜用樹脂組成物と上塗り塗膜用樹脂組成物に配合し、下塗り塗膜と上塗り塗膜が形成された樹脂塗装金属板を製造した。評価結果を表5に示した。なお、比較例3は、徐放性防錆微粒子を20部使用するのに変えて、中空多孔質シリカ微粒子と複合化されていない酸化マグネシウム(「スターマグL−10」:神島化学工業社製)を10部用いた例である。
【0058】
【表5】

【0059】
実験No.4(徐放性防錆微粒子の添加量の影響)
徐放性防錆微粒子Aの添加量を表6,7に示したように変更した以外は実験No.2と同様にして、下塗り塗膜と上塗り塗膜が形成された樹脂塗装金属板(表6)と、上塗り塗膜のみが形成された樹脂塗装金属板(表7)を製造した。評価結果を表6,7に示した。
【0060】
【表6】

【0061】
【表7】

【0062】
実験No.5(徐放性防錆微粒子の種類の影響)
徐放性防錆微粒子の種類を表8,9に示したように変更した以外は実験No.2と同様にして、下塗り塗膜と上塗り塗膜が形成された樹脂塗装金属板(表8)と、上塗り塗膜のみが形成された樹脂塗装金属板(表9)を製造した。評価結果を表8,9に示した。
【0063】
【表8】

【0064】
【表9】

【0065】
実験No.6(徐放性防錆微粒子の種類の影響)
徐放性防錆微粒子の種類を表10,11に示したように変更した以外は実験No.2と同様にして、下塗り塗膜と上塗り塗膜が形成された樹脂塗装金属板(表10)と、上塗り塗膜のみが形成された樹脂塗装金属板(表11)を製造した。評価結果を表10,11に示した。
【0066】
【表10】

【0067】
【表11】

【0068】
実験No.7(非徐放性防錆顔料の影響)
実験No.2で調製した下塗り塗膜用樹脂組成物の100部に対し、さらに防錆顔料として、表12に示した量の酸化マグネシウム(「スターマグL−10」:神島化学工業社製)を追加添加した以外は実験No.2と同様にして、下塗り塗膜と上塗り塗膜が形成された樹脂塗装金属板を製造した。従って、表12の溶出速度の測定の際の溶出イオン量には、追加添加した酸化マグネシウムの溶出分も加わっていることになる。評価結果を表12に示した。
【0069】
【表12】

【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】人工雨水滴下試験の測定方法の説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非クロム系下地処理皮膜の上に下塗り塗膜および/または上塗り塗膜が形成された非クロム系樹脂塗装金属板であって、
この下塗り塗膜および/または上塗り塗膜は、多孔質無機微粒子と金属化合物系防錆顔料とが複合化された徐放性防錆微粒子を、徐放性防錆微粒子以外の塗膜成分100質量部に対し、5〜40質量部含有し、
樹脂塗装金属板に1mm×1mmのマス目を100個刻んだ後、40℃の炭酸塩pH標準液へ浸漬したときに、上記防錆顔料から溶出する金属イオンの溶出速度が0.001〜1.0mg/l・m2・hrであることを特徴とする端面耐食性に優れた非クロム系樹脂塗装金属板。
【請求項2】
徐放性防錆微粒子は、平均粒子径が1〜10μmである請求項1に記載の非クロム系樹脂塗装金属板。
【請求項3】
徐放性防錆微粒子を、40℃のpH10の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬したときの金属イオンの溶出速度が0.005〜0.5mg/l・g・hrである請求項1または2に記載の非クロム系樹脂塗装金属板。
【請求項4】
徐放性防錆微粒子に複合化されている防錆顔料が、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、リン酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、塩化マグネシウム、蓚酸マグネシウム、硫酸マグネシウムおよびこれらの水和物よりなる群から選択される1種以上のマグネシウム化合物である請求項1〜3のいずれかに記載の非クロム系樹脂塗装金属板。
【請求項5】
徐放性防錆微粒子に複合化されている防錆顔料が、トリポリリン酸アルミニウム、リン酸アルミニウムおよびリン酸アルミニウム二水和物よりなる群から選択される1種以上のアルミニウム化合物である請求項1〜3のいずれかに記載の非クロム系樹脂塗装金属板。
【請求項6】
徐放性防錆微粒子に用いられる多孔質無機微粒子が、多孔質シリカ微粒子である請求項1〜5のいずれかに記載の非クロム系樹脂塗装金属板。
【請求項7】
下塗り塗膜および/または上塗り塗膜には、さらに、防錆顔料が含まれている請求項1〜6のいずれかに記載の非クロム系樹脂塗装金属板。



【図1】
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【公開番号】特開2009−78450(P2009−78450A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−249237(P2007−249237)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】