説明

競走用車椅子

【課題】フロントフォークを軽量化するだけでなく前輪側の浮き上がりや跳ね上がりを抑制すると共に振動の発生を抑制することができ、高い直進安定性が得られる競走用車椅子を提供する。
【解決手段】着座用シート6を備えるケージ4の両側に配設された一対の主車輪5を備え、ケージ4の前方に延設された車体フレーム2の前端部にフロントフォーク8を介してハンドル9及び前輪3を備える。フロントフォーク8は、車体フレーム2の先端部に枢着されたコラム部21と、コラム部21から前方に延びるフォーク部22と、フォーク部22の先端部に前輪3を回転自在に支持するステー部23とを備える。フロントフォーク8は、コラム部21及びフォーク部22よりステー部23の重量が大とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車椅子によるトラックレースやマラソン等で用いる競走用車椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の競走用車椅子は、着座用シートを備えるケージの両側に一対の主車輪が配設され、前記ケージの前方に延設された車体フレームの前端部に前輪が設けられている。前輪は、その車軸の両端が二股状のフロントフォークにより支持され、フロントフォークの上部には、操舵用のハンドルが固着されている(例えば、下記特許文献1参照)。そして、ハンドルを操作して前輪を左右の所定方向に向け、主車輪を回転駆動することによって、競走用車椅子を前輪の向いた方向に旋回させることができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−145192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、競走用車椅子のフロントフォークは、荷重に対する十分な強度が必要であると同時に、競走用車椅子はタイムや順位を競うものであるため軽量化が望まれている。そこで、従来より、アルミニウム等を材料とする軽金属により形成されたフロントフォークが採用されている。
【0005】
しかし、競走用車椅子のフロントフォークについては強度と軽量化との両立が難しいだけでなく、着座用シートを備えるケージの両側に駆動用の主車輪が配設されていることから、フロントフォークの軽量化に伴って、主車輪を駆動した際に前輪が路面から浮き上がり易くなり、また、前輪が路面の微細な凹凸を受けて跳ね上がりや振動が発生して直進安定性が得られないおそれがある。
【0006】
上記の点に鑑み、本発明は、フロントフォークを軽量化するだけでなく前輪側の浮き上がりや跳ね上がりを抑制すると共に振動の発生を抑制することができ、高い直進安定性が得られる競走用車椅子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、着座用シートを備えるケージと、該ケージの両側に配設された一対の主車輪と、前記ケージの前方に延設された車体フレームと、該車体フレームの前端部にフロントフォークを介して設けられた操舵用のハンドル及び前輪とを備え、前記フロントフォークが、前記車体フレームの先端部に枢着されたコラム部と、該コラム部から前方に延びるフォーク部と、該フォーク部の先端部に前記前輪を回転自在に支持するステー部とを備えてなる競走用車椅子において、前記フロントフォークは、前記コラム部及びフォーク部より前記ステー部の重量が大であることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、前記フロントフォークのうち、ステー部の重量をコラム部及びフォーク部より大としたことにより、前輪が路面から浮き上がることを抑制することができる。なお、ステー部の重量をコラム部及びフォーク部より大とするためには、ステー部を中空に形成してその内部にウエイト部材を挿入することが考えられ、或いは、前記コラム部及びフォーク部と前記ステー部とを比重の異なる材料で形成することが考えられる。これにより、コラム部及びフォーク部に対するステー部の重量やモーメントを容易に変更することができる。
【0009】
そして、前記コラム部及びフォーク部と前記ステー部とを異なる材料で形成する場合、好ましくは、コラム部及びフォーク部を繊維強化プラスチックによって形成し、前記ステー部を前記フォーク部より重量を大とする金属により形成することが挙げられる。
【0010】
前記フロントフォークがコラム部及びフォーク部が繊維強化プラスチックによって形成されていることにより、フロントフォークを軽量化することができる。そして、ステー部が前記フォーク部より重量を大とする金属(例えば、鉄、タングステン等の重金属)により形成されていることにより、コラム部及びフォーク部を繊維強化プラスチックにより軽量としながら前輪が路面から浮き上がることを抑制することができる。
【0011】
更に、フォーク部が繊維強化プラスチックによって形成されているので、金属に比べて振動吸収性が高く、走行時に前輪が路面の微細な凹凸を受けても前輪の跳ね上がりやフロントフォークにおける振動の発生を抑制することができ、高い直進安定性を得ることができる。
【0012】
また、本発明において、前記フロントフォークの前記フォーク部及び前記ステー部は、該フロントフォークの先端に向かって連続して次第に縮径する形状であり且つ前記前輪に対向する内側面が平坦な断面視半月状に形成されていることが好ましい。これによれば、走行時にフロントフォークの前記フォーク部及び前記ステー部が受ける空気の抵抗を軽減することができ、直進安定性を一層向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態の競走用車椅子の平面図。
【図2】図1の競走用車椅子の側面図。
【図3】車体フレームの一部を破断してその内部を示す説明図。
【図4】本実施形態におけるフロントフォークの側面図。
【図5】図4のフロントフォークの平面図。
【図6】図5のVI−VI線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1及び図2に示すように、本実施形態の競走用車椅子1は、車体前後に延びる中空の車体フレーム2と、車体フレーム2の前部に設けた前輪3と、車体フレーム2の後部に設けたケージ4と、ケージ4の左右に配置した一対の主車輪5とを備えている。
【0015】
ケージ4は上部が開放され、ケージ4の内部には競技者が着座する着座用シート6が設けられている。主車輪5にはハンドリム7が設けられており、着座用シート6に着座した競技者は、ハンドリム7を介して駆動力を主車輪5に伝達する。
【0016】
ケージ4の前方に延設された車体フレーム2には、その前端にフロントフォーク8が枢着されている。フロントフォーク8の先端部には、前記前輪3が支持されている。フロントフォーク8には前輪3を左右に操舵する主ハンドル9が設けられている。主ハンドル9を操作することにより、競走用車椅子1を所望の方向に旋回走行させることができる。
【0017】
車体フレーム2には、主ハンドル9とは別に押圧操作を行うことにより予め設定した舵角に前輪を傾ける操舵角設定装置10が設けられている。
【0018】
操舵角設定装置10は、図3に示すように、要部が車体フレーム2に収納され、揺動軸11を支点として揺動するトラックレバー12と、車体フレーム2の左右側からの押圧操作によりトラックレバー12を揺動させる一対の押圧操作部13a,13bとを備えている。
【0019】
トラックレバー12の前端部には車体フレーム2の外方に延出する連結アーム14が連設されている。連結アーム14は、フロントフォーク8(図1参照)の側方に延出する副ハンドル15にダンパーリンク16を介して接続されている。
【0020】
押圧操作部13a,13bは、夫々、調節ネジ17a,17bと車体フレーム2から露出する取手部材18a,18bとを備え、調節ネジ17a,17bの間には起立壁19が配設されている。各調節ネジ17a,17bは、その頭部20a,20bを回転させることにより起立壁19に向かって進退し、各調節ネジ17a,17bと起立壁19との当接状態に応じてトラックレバー12の傾きが設定される。トラックレバー12の傾きは、連結アーム14とダンパーリンク16とを介して副ハンドル15に伝達される。
【0021】
次に、本発明の要旨にかかるフロントフォーク8について図4乃至図6を参照して説明する。フロントフォーク8は、図4及び図5に示すように、車体フレーム2の先端部に支持されるコラム部21と、コラム部21から二股状に前方に延びるフォーク部22と、フォーク部22の先端部に連設されたステー部23とを備えている。
【0022】
コラム部21は円筒状に形成され、図示しないベアリングを介して車体フレーム2の前端部に枢支される。コラム部21の上端部には主ハンドル9(図2参照)が固設される。フォーク部22は、中空に形成されており、コラム部21と一体に炭素繊維強化プラスチックによって形成されている。
【0023】
更に、フォーク部22の基端(コラム部21側の端部)には、外側に延びる前記副ハンドル15が設けられている。副ハンドル15もフォーク部22と一体に炭素繊維強化プラスチックによって形成されている。
【0024】
ステー部23は鉄やタングステン等の重金属により中実に形成され、前輪3の車軸を支持する軸受け孔24が形成されている。ステー部23はフォーク部22と一体的に連結されており、フォーク部22の基端からステー部23の先端にかけて、連続して次第に縮径する形状に形成されている。
【0025】
また、フォーク部22は、図6に示すように、前輪3に対向する内側面が平坦な断面視半月状に形成されており、図示しないが、フォーク部22に連なるステー部23も同様に内側面が平坦な断面視半月状に形成されている。
【0026】
以上のように本実施形態のフロントフォーク8は、コラム部21、フォーク部22、及び副ハンドル15が炭素繊維強化プラスチックによって形成され、その大部分が中空であることにより、強度や耐久性を得ながら、当該部分が金属で構成されているものに比べて軽量とされている。これにより、タイムや順位を競う競走用車椅子1にとって有利となる。
【0027】
また、コラム部21、フォーク部22、及び副ハンドル15が炭素繊維強化プラスチックであるのに対し、フロントフォーク8の先端部に位置するステー部23が鉄やタングステン等の重金属で形成されていることにより、フロントフォーク8の先端部の重量が他部に比べて重くなっている。これにより、フロントフォーク8を軽量化したことによる前輪3の浮き上がりや跳ね上がりをステー部23の荷重により抑えることができる。更に、炭素繊維強化プラスチックは振動吸収性を有しているため、走行時に路面から受ける振動がフォーク部22で吸収されてフロントフォーク8全体の振動が抑えられ、高い直進安定性を得ることができる。
【0028】
また、フォーク部22の基端からステー部23の先端にかけて、連続して次第に縮径する形状に形成されているだけでなく、フォーク部22及びステー部23が内側面が平坦な断面視半月状であることにより、走行時にフロントフォーク8の先端から受ける空気流が円滑に後方に案内され、空気抵抗を軽減して直進安定性を一層向上させることができる。
【0029】
なお、本実施形態においては、フロントフォーク8のコラム部21、フォーク部22、及び副ハンドル15を形成する最も好ましい材料として、十分な強度が得られて軽量化が容易であり、振動吸収性が高いだけでなく安価で成形容易性が高い炭素繊維強化プラスチックを採用したが、これに限るものではなく、例えば、ガラス長繊維強化プラスチック、ボロン繊維強化プラスチック、アラミド繊維強化プラスチック 、ポリエチレン繊維強化プラスチック等の繊維強化プラスチックを用いることができる。
【0030】
また、本実施形態においては、コラム部21とフォーク部22とを炭素繊維強化プラスチックによって形成し、ステー部23を鉄やタングステン等の重金属により中実に形成して、コラム部21及びフォーク部22よりステー部23の重量を大とした例を示したが、これ以外に、図示しないが、コラム部21、フォーク部22、及びステー部23を炭素繊維強化プラスチックによって形成し、ステー部23の内部にウエイト部材を設けてコラム部21及びフォーク部22よりステー部23の重量を大としてもよい。
【符号の説明】
【0031】
1…競走用車椅子、2…車体フレーム、3…前輪、4…ケージ、5…主車輪、6…着座用シート、8…フロントフォーク、9…主ハンドル(ハンドル)、21…コラム部、22…フォーク部、23…ステー部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着座用シートを備えるケージと、該ケージの両側に配設された一対の主車輪と、前記ケージの前方に延設された車体フレームと、該車体フレームの前端部にフロントフォークを介して設けられた操舵用のハンドル及び前輪とを備え、前記フロントフォークが、前記車体フレームの先端部に枢着されたコラム部と、該コラム部から前方に延びるフォーク部と、該フォーク部の先端部に前記前輪を回転自在に支持するステー部とを備えてなる競走用車椅子において、
前記フロントフォークは、前記コラム部及びフォーク部より前記ステー部の重量が大であることを特徴とする競走用車椅子。
【請求項2】
前記フロントフォークは、コラム部及びフォーク部が繊維強化プラスチックによって形成され、前記ステー部が前記フォーク部より重量を大とする金属により形成されていることを特徴とする請求項1記載の競走用車椅子。
【請求項3】
前記フロントフォークの前記フォーク部及び前記ステー部は、該フロントフォークの先端に向かって連続して次第に縮径する形状であり且つ前記前輪に対向する内側面が平坦な断面視半月状に形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の競走用車椅子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−19821(P2012−19821A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−157882(P2010−157882)
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【出願人】(597157727)ホンダアールアンドデー太陽株式会社 (6)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】