説明

笠コンクリートの構築

【課題】 矢板壁前面の左右方向凸凹のずれや不均等が大きいときでも、笠ブロックの底板と矢板壁の間の密閉を容易にする。笠ブロックと矢板壁の間に投入したコンクリートを下側に漏れ出し難くする。
【解決手段】 笠ブロックは、前板23から後側に突出する底板24の後面にパッキング27を固着し、底板に支持片31を取り付け、支持片を底板から後側に突出してパッキング下側に配置し、支持片をパッキングに沿って移動可能にしている。このブロックは、矢板1壁に被せ、矢板壁側に牽引し、パッキング後面と支持片後面を矢板壁に当て、パッキングを圧縮すると共に支持片を笠ブロックに対して移動し、パッキングで底板と矢板壁の間を密閉すると共に支持片をパッキング下側に位置させ、前板、底板、パッキングと矢板壁の間にコンクリート39を投入し、コンクリートが載るパッキングを支持片で支える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、矢板の壁に笠ブロックを用いて笠コンクリートを構築する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
海や川などの岸辺には、矢板を順次隣接して鉛直方向に打ち込み、多数の矢板を岸辺に沿って並列して、矢板の壁、土留めや水止めの壁を構築する。護岸用の矢板壁には、笠ブロックを被せる。笠ブロックは、多数を順次隣接して矢板壁の上部に沿って配列する。矢板壁の上部には、笠ブロックを連結し、笠ブロックと矢板壁の間にコンクリートを詰めて、矢板壁の上部を被覆する笠コンクリートを構築する。
【0003】
笠ブロックは、特許文献1や特許文献2に例示されているように、プレキャストコンクリートであり、天板、前板と底板を備えている。この笠ブロックは、矢板壁に被せると、天板が矢板壁の上に載り、前板が矢板壁の前側、水側に間隔を置いて配置され、底板の後面が矢板壁の前面に接する。矢板壁に被せた笠ブロックは、前板を矢板壁側に牽引具で牽引して連結し、底板の後面を矢板壁の前面に押し付ける。笠ブロックの底板、前板、天板と矢板壁との間には、中空部が形成される。中空部には、生コンクリートを投入する。生コンクリートは、牽引具を埋没した状態で硬化する。笠ブロックは、矢板壁の上部に固定される。
【0004】
【特許文献1】特開2006−283329号公報
【特許文献2】特開2001−140237号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
[背景技術の課題]
矢板壁は、矢板が鋼矢板又は鋼管矢板である場合、水側の前面に台形状断面又は半円状断面の縦突条が並列している。矢板壁の前面は、矢板並列方向の左右方向に凸凹である。
【0006】
プレキャストコンクリートの笠ブロックは、底板の後面を矢板壁前面の左右方向凸凹に嵌合する凸凹面に成形している。笠ブロックの底板は、凸凹後面に発泡合成樹脂のパッキングを固着し、パッキングの後面を矢板壁前面の左右方向凸凹に嵌合する凸凹面に形成している。この笠ブロックは、矢板壁に被せ、矢板壁側に牽引すると、パッキング後面の凸凹と底板後面の凸凹が矢板壁前面の凸凹に嵌合して噛み合い、パッキングの凸凹後面が矢板壁の凸凹前面に押し付けられ、パッキングが圧縮され、パッキングの後面が矢板壁の前面に密接する。笠ブロックと矢板壁の間の中空部は、笠ブロックの底板と矢板壁の間がパッキングで密閉される。中空部に生コンクリートを投入すると、生コンクリートは、底板とパッキングに支えられ、笠ブロックの下に漏れ出さない。
【0007】
ところが、矢板壁を構築するとき、多数の矢板を順次打ち込む際に誤差があり、矢板が鉛直方向から傾いて打ち込まれることがある。矢板壁は、鉛直方向に打ち込まれた矢板と、水側又は陸側、前後方向に傾いた矢板、及び、隣の矢板側、左右方向に傾いた矢板が混在して並ぶ。すると、矢板壁の前面は、左右方向の凸凹が打ち込み誤差のないときの予定凸凹からずれる。矢板が鋼矢板又は鋼管矢板である場合、矢板壁の前面は、縦突条の突出量や左右方向間隔が予定値からずれてまちまちになり、左右方向の凸凹が均等な予定凸凹からずれて不均等になる。また、矢板がコンクリート矢板である場合、左右方向に不均等な凸凹が生じる。護岸用の矢板壁は、矢板の傾きの許容量が大きいので、前面の左右方向凸凹のずれや不均等が大きくなる。
【0008】
矢板壁前面の凸凹の大きなずれや不均等に対処するため、笠ブロックは、底板後面のパッキングを厚くする。パッキングは、圧縮による縮小可能量を多くする。発泡合成樹脂のパッキングは、厚くする、前後方向に長くすると、その上に投入される生コンクリートで、大きく撓む。又は、笠ブロックの底板から剥がれ落ちる。
【0009】
結局、矢板壁前面の凸凹のずれや不均等が大きいときには、笠ブロックの底板と矢板壁の間の密閉が困難になる。笠ブロックと矢板壁の間の中空部に投入した生コンクリートが下側に漏れ出し易くなる。
【0010】
[課題を解決するための着想]
笠ブロックは、底板後面のパッキングが前後方向に長くても、漏れ止め機能を発揮させるため、パッキングを下側から支持片で支えることにした。
【0011】
ところが、矢板壁の前面は、矢板の打ち込み誤差で左右方向凸凹のずれや不均等があるため、パッキングは、矢板壁前面に押し付けられて縮小する量が一定しておらず、支持片で支える長さがまちまちになる。また、支持片は、矢板壁の存在によりパッキングから後側に突出することができない。そこで、支持片は、笠ブロックに固定せずに移動可能に取り付け、パッキングの縮小量に応じて位置を変更し、支持長さを調整することにした。
【0012】
即ち、笠ブロックは、底板の下側に支持片を取り付け、支持片を底板の後面から後側に突出して底板後面のパッキングの下側に配置し、支持片をパッキングの下面に沿って移動可能にして位置変更可能にする。
【0013】
この笠ブロックは、支持片を位置変更可能範囲の後端に配置した状態で、矢板壁に被せ、矢板壁側に牽引する。すると、パッキングの後面と支持片の後面が矢板壁の前面に当たり、矢板壁前面の当った部分の位置に応じて、パッキングが圧縮されると共に支持片が笠ブロックに対して移動する。パッキングと支持片は、後面が矢板壁に当たった状態で、上下に位置する。パッキングが笠ブロックの底板と矢板壁の間を密閉すると共に、支持片がパッキングを支える。このパッキングは、その上にコンクリートが投入されたとき、下側の支持片で支えられ、撓みが大きくなり難い。笠ブロックの底板から剥がれ落ち難い。
【0014】
また、支持片は、単数又は複数にすることにした。複数の支持片は、笠ブロックの底板下側に左右方向に配列し、左右方向の各配列位置で、それぞれ、矢板壁前面の当った部分の位置に応じて位置を変更し、パッキングの圧縮縮小量に応じて支持長さを調整することにした。パッキングは、左右方向に配列した複数の支持片で支えられる。
【0015】
結局、パッキングを支持片で下側から支えると、矢板の打ち込み誤差が大きいときでも、矢板壁前面の左右方向凸凹のずれや不均等が大きいときでも、笠ブロックの底板と矢板壁の間は、密閉が容易になる。また、笠ブロックと矢板壁の間の中空部に投入したコンクリートは、下側に漏れ出し難くなる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
1)多数の矢板を打ち込んで構築した矢板壁に笠ブロックを被せ、笠ブロックと矢板壁の間にコンクリートを詰めて、笠コンクリートを構築する方法において、
笠ブロックは、矢板壁の前側に配置する前板と、前板から後側に突出する底板を備え、底板の後面にパッキングを固着し、底板の下側に支持片を取り付け、支持片を底板から後側に突出してパッキングの下側に配置し、支持片をパッキングの下面に沿って移動可能にして位置変更可能にしており、
この笠ブロックは、矢板壁に被せ、矢板壁側に牽引し、パッキングの後面と支持片の後面を矢板壁に当て、パッキングを圧縮すると共に支持片を笠ブロックに対して移動し、パッキングで笠ブロックの底板と矢板壁の間を密閉すると共に支持片をパッキングの下側に位置させ、
笠ブロックの前板、底板、パッキングと矢板壁の間にコンクリートを投入し、コンクリートが載るパッキングを支持片で支えることを特徴とする笠コンクリート構築法。
【0017】
2)上記の笠コンクリート構築法において、
支持片は、複数にし、笠ブロックの底板下側に左右方向に配列し、左右方向の各配列位置で、それぞれ、パッキングの下側に配置し、パッキングの下面に沿って位置変更可能にしており、
複数の支持片を取り付けた笠ブロックは、矢板壁に被せ、矢板壁側に牽引し、パッキングの後面と各支持片の後面を矢板壁に当て、パッキングを圧縮すると共に各支持片を笠ブロックに対して移動し、パッキングで笠ブロックの底板と矢板壁の間を密閉すると共に各支持片をパッキングの下側に位置させ、パッキングを複数の支持片で支えることを特徴とする。
【0018】
3)多数の矢板を打ち込んで構築した矢板壁に被せて矢板壁との間にコンクリートを詰めて笠コンクリートを構築する笠ブロックにおいて、
矢板壁の前側に配置する前板と、前板から後側に突出する底板を備え、底板の後面にパッキングを固着し、底板の下側に支持片を取り付け、支持片を底板から後側に突出してパッキングの下側に配置し、支持片をパッキングの下面に沿って移動可能にして位置変更可能にし、
パッキングと支持片は、それらの後面を矢板壁に当て、パッキングを圧縮すると共に支持片を底板に対して移動し、パッキングで底板と矢板壁の間を密閉すると共に支持片をパッキングの下側に位置させる構成にしたことを特徴とする笠ブロック。
【0019】
4)上記の笠ブロックにおいて、
支持片は、複数にし、笠ブロックの底板下側に左右方向に配列し、左右方向の各配列位置で、それぞれ、パッキングの下側に配置し、パッキングの下面に沿って位置変更可能にし、
パッキングと各支持片は、それらの後面を矢板壁に当て、パッキングを圧縮すると共に各支持片を底板に対して移動し、パッキングで底板と矢板壁の間を密閉すると共に各支持片をパッキングの下側に位置させる構成にしたことを特徴とする。
【0020】
5)多数の矢板を打ち込んで構築した矢板壁に笠ブロックを被せ、笠ブロックと矢板壁の間にコンクリートを詰めて構築した笠コンクリート構造体において、
笠ブロックは、前板が矢板壁の前側に位置し、前板から後側に突出した底板の後面にパッキングが固着し、パッキングの後面が矢板壁に押し付けられ、パッキングが圧縮されて笠ブロックの底板と矢板壁の間が密閉されており、
底板の下側に支持片が取り付けられ、支持片が底板から後側に突出してパッキングの下側に位置し、支持片の後面が矢板壁に当っており、
笠ブロックの前板、底板、パッキングと矢板壁の間にコンクリートが詰まり、支持片がパッキングを支えていることを特徴とする笠コンクリート構造体。
【発明の効果】
【0021】
矢板壁において、矢板打ち込み誤差による前面の左右方向凸凹のずれや不均等が大きいときでも、笠ブロックの底板と矢板壁の間は、密閉が容易になる。また、笠ブロックと矢板壁の間に投入したコンクリートは、下側に漏れ出し難くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
[第1例(図1〜図9参照)]
矢板1の壁は、図1と図2に一部を示すように、岸辺に多数の鋼矢板1を順次隣接して鉛直方向に打ち込み、土留めや水止めの壁を構築している。この護岸用の壁は、水側の前面と陸側の後面に、それぞれ、鋼矢板1の凸面と凹面が交互に配列されて台形状断面の縦突条が並列している。矢板1壁の前面は、矢板並列方向の左右方向に凸凹である。左右方向の凸凹は、折れ線状である。
【0023】
この矢板1壁には、多数の笠ブロックを、順次隣接して被せ、矢板並列方向に配列する。各笠ブロックは、矢板1壁の上部に連結し、矢板1壁との間にコンクリートを詰めて、笠コンクリートを構築する。各笠ブロックは、同様な構造で、矢板1壁に同様に取り付ける。1個の笠ブロックに関して次に詳細に説明する。
【0024】
矢板1壁の上端には、図1と図2に示すように、笠ブロックを載せる一対の受け台2を取り付ける。受け台2は、鋼矢板1に形鋼を溶接して固定する。また、矢板1壁には、第1牽引具と第2牽引具の一部を装置する。第1牽引具においては、牽引軸を前後方向に通す軸孔7を矢板1壁に貫通する。軸孔7は、左右の2個所に設ける。第2牽引具においては、矢板1壁の前面に、牽引条を通すアイボルトの案内具12を固定し、案内具12の上方位置に牽引機構を取り付ける。牽引機構は、矢板1壁の上端に基板13を固定し、基板13にばか孔を貫通し、ばか孔にボルトのねじ軸14を上下方向に通す。ねじ軸14は、上部にナット15を螺合し、ナット15を基板13上に載せる。また、ねじ軸14は、下端に、牽引条を連結するシャックルの留め具16を取り付ける。案内具12と牽引機構13〜16は、左右の2個所に設ける。
【0025】
笠ブロック21は、図3〜図5に示すように、プレキャストコンクリートブロックであり、天板22、前板23と底板24を一体成形している。天板22は、前板23から後側に突出し、中央部に作業用の開口25を貫通し、左右の両側部の下面に、受け台2に載せる側板部26を一体成形している。前板23の後面は、上部に第1牽引具の牽引軸を螺合するねじ孔8を設け、下部に第2牽引具のフック状留め具17を取り付けている。ねじ孔8とフック状留め具17は、左右の2個所に設けている。底板24は、前板23から後側に突出し、突出量が天板22より少なく、後面を、矢板1壁前面の左右方向凸凹と嵌合する凸凹面にしている。また、底板24は、凸凹後面に発泡合成樹脂のパッキング27を固着している。パッキング27は、後面を、矢板1壁前面の左右方向凸凹と嵌合する凸凹面にしている。このパッキング27は、前後方向に長くして厚手にし、圧縮による縮小可能量を多くしている。
【0026】
底板24は、下側に複数の支持片31を左右方向に配列している。鋼板の支持片31は、後部を底板24から後側に突出してパッキング27の下側に配置している。支持片31の後面は、矢板1壁前面の左右方向の凸凹と嵌合する凸凹面に形成し、パッキング27の凸凹後面より前側に位置させている。支持片31後面の左右方向凸凹は、矢板1壁前面とほぼ同様な折れ線状である。
【0027】
支持片31は、ばか孔32を上下方向に貫通している。底板24は、下面にねじ孔33を設けている。ボルト34は、座金35に貫通し、ばか孔32に通してねじ孔33に螺合している。ボルト34の頭部には、座金35が載り、座金35に支持片31が載り、支持片31がパッキング27を支持している。支持片31は、左右の2個所で、それぞれ、ばか孔32、ねじ孔33、ボルト34と座金35を用いて底板24に取り付けている。
【0028】
ばか孔32は、前後方向の径も左右方向の径もボルト34の径より長く、前後方向が左右方向より長い長孔にしている。ボルト34は、手で緩く締めている。板状の支持片31は、板面方向に力を加えると、底板24の下面とパッキング27の下面に沿って移動可能であり、位置変更可能にしている。位置変更可能の範囲は、ばか孔32とボルト34の相対位置変更可能範囲である。複数の支持片31は、それぞれ、その位置を変更可能にしている。
【0029】
この笠ブロック21は、各支持片31をそれぞれその位置変更可能範囲の後端で左右方向中央に配置する。また、左右のフック状留め具17には、それぞれ、第2牽引具のチェーンの牽引条11を連結する。笠ブロック21と左右の牽引条11は、矢板1壁の上方前側に持ち上げる。左右の牽引条11は、図6〜図8に示すように、それぞれ、矢板1壁前面の案内具12に通す。笠ブロック21は、矢板1壁の上部に被せる。即ち、側板部26は、受け台2に載せる。天板22は、後端を矢板1壁の後方に突出する。前板23は、矢板1壁の前側に配置する。パッキング27は、後面の凸凹を矢板1壁前面の凸凹に嵌合し、後面を矢板1壁の前面に当てる。底板24は、後面の凸凹を矢板1壁前面の凸凹に嵌合する。複数の支持片31は、それぞれ、後面の凸凹を矢板1壁前面の凸凹に嵌合する。
【0030】
左右の牽引条11は、それぞれ、端を矢板1壁上端の留め具16に連結する。また、矢板1壁の左右の軸孔7には、それぞれ、第1牽引具の牽引軸6を通す。牽引軸6は、矢板1壁の前側に突出したねじ端部を笠ブロック21のねじ孔8に螺合し、矢板1壁の後側に突出したねじ端部にナット9を螺合する。
【0031】
次に、左右の第1牽引具6〜9において、ナット9は、牽引軸6に対して回転し、矢板1壁に押し付ける。ナット9の締付けで牽引軸6を矢板1壁側に引っ張り、笠ブロック21を矢板1壁側に牽引する。また、左右の第2牽引具11〜17において、ナット15は、ねじ軸14に対して回転し、ねじ軸14を上昇させ、基板13に押し付ける。ナット15の締付けでねじ軸14と留め具16を上側に引っ張り、牽引条11を緊張し、笠ブロック21を矢板1壁側に牽引する。
【0032】
すると、笠ブロック21は、矢板1壁側に移動し、底板24が矢板1壁に接近する。パッキング27は、凸凹後面が矢板1壁の凸凹前面に押し付けられ、圧縮されて縮小する。また、底板24の矢板1壁への接近により、複数の支持片31は、それぞれ、凸凹後面が矢板1壁の凸凹前面に当たって、底板24に対して前側、右側又は左側に移動する。パッキング27は、圧縮されて底板24と矢板1壁の間を密閉する。また、支持片31は、後面が矢板1壁の前面に当たった状態で、パッキング27の下側に位置する。厚手のパッキング27は、後面から前面に亘って支持片31で支えられる。
【0033】
パッキング27の左右方向の各部分は、それぞれ、その圧縮縮小量が、その部分が当った矢板壁1前面の位置に応じた量になる。その位置が後側になるに従って圧縮縮小量が少なくなる。逆に、その位置が前側になるに従って圧縮縮小量が多くなる。左右方向に配列した複数の支持片31は、それぞれ、その移動量が、その支持片31が当った矢板壁1前面の位置に応じた量になる。その位置が後側になるに従って移動量が少なくなる。逆に、その位置が前側になるに従って移動量が多くなる。矢板壁1前面の左右方向凸凹にずれや不均等があっても、パッキング27は、左右方向の各部分の圧縮縮小量が調整されて、底板24と矢板1壁の間を左端から右端に亘って密閉する。また、各支持片31は、位置ないし支持長さが調整されて、パッキング27を後面から前面に亘って支える。
【0034】
笠ブロック21の前板23、底板24とパッキング27及び矢板1壁の間には、中空部が形成される。また、陸側に突出した天板22の後端と地表の間には、図9に示すように、型枠38を設置する。型枠38と矢板1壁の間には、中空部が形成される。矢板1壁の前側の中空部と後側の中空部には、天板22の作業用の開口25から生コンクリート39を投入して充填する。パッキング27は、支持片31で支えられており、その上に生コンクリート39が載っても、大きく撓み難い。底板24から剥がれ落ち難い。
【0035】
中空部に充填したコンクリート39は、受け台2、第2牽引具11〜17と第1牽引具6〜9を埋没した状態で硬化する。笠ブロック21と矢板1壁の上部は、第1牽引具6〜9、第2牽引具11〜17とコンクリート39で連結される。矢板1壁の上部には、笠コンクリートが構築される。
【0036】
[第2例(図10〜18参照)]
本例においては、矢板壁は、第1例における鋼矢板1に代えて、鋼管矢板4を用いている。第1例におけるのと異なる点を中心に説明する。その他の点は、第1例におけるのと同様である。
【0037】
矢板壁は、図10と図11に一部を示すように、鋼管矢板4を打ち込んで構築している。この矢板4壁は、水側の前面と陸側の後面に、それぞれ、半円状断面の縦突条が並列している。矢板4壁の前面は、矢板並列方向の左右方向に凸凹である。左右方向の凸凹は、円弧と直線を交互に接続している。
【0038】
矢板4壁の上端には、図10と図11に示すように、一対の受け台2を取り付ける。また、鋼管矢板4の周壁の前部には、第1牽引具の軸孔7を貫通する。鋼管矢板4の周壁の前面には、第2牽引具の案内具12を固定し、その上方位置に牽引機構13〜16を取り付ける。
【0039】
笠ブロック21においては、図12〜図14に示すように、天板22は、左右の2個所に作業用の開口25を貫通し、左右の両側部の下面に側板部26を一体成形している。前板23の後面は、上部に第1牽引具のねじ孔8を設け、下部に第2牽引具のアイボルトの留め具17を取り付けている。底板24は、後面を、矢板4壁前面の左右方向の凸凹と嵌合する凸凹面にしている。また、底板24は、後面に厚手のパッキング27を固着している。パッキング27は、後面を、矢板4壁前面の左右方向の凸凹と嵌合する凸凹面にしている。
【0040】
底板24は、下側に複数の支持片31を左右方向に配列している。鋼板の支持片31は、後部を底板24から後側に突出してパッキング27の下側に配置している。支持片31の後面は、矢板4壁前面の左右方向の凸凹と嵌合する凸凹面に形成し、パッキング27の凸凹後面より前側に位置させている。支持片31後面の左右方向凸凹は、矢板4壁前面とほぼ同様な、円弧と直線を接続した線状である。
【0041】
ボルト34は、座金35に貫通し、支持片31のばか孔32に通して底板24下面のねじ孔33に螺合している。ボルト34の頭部には、座金35が載り、座金35に支持片31が載り、支持片31がパッキング27を支持している。支持片31は、左右の2個所又は3個所で、それぞれ、位置変更可能な取り付け機構32〜35を用いて底板24に取り付けている。
【0042】
ばか孔32は、第1例におけるのと同様な長孔である。ボルト34は、手で緩く締めている。板状の支持片31は、板面方向に力を加えると、底板24の下面とパッキング27の下面に沿って移動可能であり、位置変更可能にしている。複数の支持片31は、それぞれ、その位置を変更可能にしている。また、隣接する支持片31は、ばか孔32付きの側部を上下に重ね、連通したばか孔32に座金35付きのボルト34を通している。座金35付きのボルト34は、共用している。
【0043】
この笠ブロック21は、各支持片31を位置変更可能範囲の後端で左右方向中央に配置する。また、留め具17に牽引条11を連結する。牽引条11は、矢板4壁の案内具12に通す。笠ブロック21は、図15〜図17に示すように、矢板4壁の上部に被せる。パッキング27は、後面の凸凹を矢板4壁前面の凸凹に嵌合し、後面を矢板4壁の前面に当てる。底板24は、後面の凸凹を矢板4壁前面の凸凹に嵌合する。各支持片31は、後面の凸凹を矢板4壁前面の凸凹に嵌合する。
【0044】
牽引条11は、矢板4壁上端の留め具16に連結する。また、矢板4の周壁前部の軸孔7には、牽引軸6を通す。牽引軸6は、矢板4の前側に突出したねじ端部を笠ブロック21のねじ孔8に螺合し、矢板4の周壁前部の後側に突出したねじ端部にナット9を螺合する。
【0045】
次に、第1牽引具6〜9と第2牽引具11〜17において、ナット9、15を締付け、笠ブロック21を矢板4壁側に牽引する。すると、パッキング27は、後面が矢板4壁の前面に押し付けられ、圧縮縮小され、底板24と矢板4壁の間を密閉する。また、複数の支持片31は、それぞれ、後面が矢板4壁の前面に当たって、底板24に対して前側、右側又は左側に移動し、パッキング27を後面から前面に亘って支える。
【0046】
矢板壁4前面の左右方向凸凹にずれや不均等があっても、パッキング27は、左右方向の各部分の圧縮縮小量が調整されて、底板24と矢板4壁の間を左端から右端に亘って密閉する。また、各支持片31は、位置ないし支持長さが調整されて、パッキング27を後面から前面に亘って支える。
【0047】
前板23、底板24とパッキング27及び矢板4壁の間の中空部には、図18に示すように、生コンクリート39を投入して充填する。コンクリートが載るパッキング27は、支持片31で支えられている。
【0048】
[変形例]
1)上記の実施形態の第1例と第2例において、矢板は、鋼矢板1と鋼管矢板4であるが、コンクリート矢板にする。
2)上記の実施形態の第1例において、笠ブロック21の左右方向長さは、矢板1壁中の鋼矢板4本分の左右方向長さにしているが、その他の長さにする。
3)上記の実施形態の第2例において、笠ブロック21の左右方向長さは、矢板4壁中の鋼管矢板3本分の左右方向長さにしているが、その他の長さにする。
4)上記の実施形態の第1例と第2例において、支持片31の位置変更可能な取り付け機構は、長孔のばか孔32、ねじ孔33、ボルト34と座金35を用いているが、その他の機構にする。
5)上記の実施形態の第1例において、支持片31は、1個の笠ブロック21について3枚にしているが、その他の枚数にする。
6)上記の実施形態の第2例において、支持片31は、1個の笠ブロック21について4枚にしているが、その他の枚数にする。
7)上記の実施形態の第1例と第2例において、パッキング27は、発泡合成樹脂であるが、その他の弾性材にする。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施形態の第1例における矢板壁の平面図。
【図2】図1のA−A線断面図。
【図3】同例における笠ブロックの平面図。
【図4】図3のB−B線断面図。
【図5】同笠ブロックの底面図。
【図6】同例において笠ブロックを矢板壁に被せた状態の平面図。
【図7】図6のC−C線断面図。
【図8】図7のD−D線断面図。
【図9】同例において笠ブロックと矢板壁の間にコンクリートを詰めた状態の縦断側面図。
【図10】実施形態の第2例における矢板壁の平面図。
【図11】図10のE−E線断面図。
【図12】同例における笠ブロックの平面図。
【図13】図12のF−F線断面図。
【図14】同笠ブロックの底面図。
【図15】同例において笠ブロックを矢板壁に被せた状態の平面図。
【図16】図15のG−G線断面図。
【図17】図16のH−H線断面図。
【図18】同例において笠ブロックと矢板壁の間にコンクリートを詰めた状態の縦断側面図。
【符号の説明】
【0050】
1 矢板、鋼矢板
2 受け台
4 矢板、鋼管矢板
6 第1牽引具の牽引軸
7 第1牽引具の軸孔
8 第1牽引具のねじ孔
9 第1牽引具のナット
6〜9 第1牽引具
11 第2牽引具の牽引条、チェーン
12 第2牽引具の案内具、アイボルト
13 第2牽引具の牽引機構の基板
14 第2牽引具の牽引機構のねじ軸、ボルト
15 第2牽引具の牽引機構のナット
16 第2牽引具の牽引機構の留め具、シャックル
17 第2牽引具の牽引機構の留め具、フック状留め具、アイボルトの留め具
11〜17 第2牽引具
13〜17 第2牽引具の牽引機構
21 笠ブロック、プレキャストコンクリートブロック
22 笠ブロックの天板
23 笠ブロックの前板
24 笠ブロックの底板
25 笠ブロックの作業用の開口
26 笠ブロックの側板部
27 笠ブロックの底板のパッキング
31 支持片
32 支持片のばか孔、長孔
33 ねじ孔
34 ボルト
35 座金
32〜35 支持片の位置変更可能な取り付け機構
38 型枠
39 コンクリート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の矢板を打ち込んで構築した矢板壁に笠ブロックを被せ、笠ブロックと矢板壁の間にコンクリートを詰めて、笠コンクリートを構築する方法において、
笠ブロックは、矢板壁の前側に配置する前板と、前板から後側に突出する底板を備え、底板の後面にパッキングを固着し、底板の下側に支持片を取り付け、支持片を底板から後側に突出してパッキングの下側に配置し、支持片をパッキングの下面に沿って移動可能にして位置変更可能にしており、
この笠ブロックは、矢板壁に被せ、矢板壁側に牽引し、パッキングの後面と支持片の後面を矢板壁に当て、パッキングを圧縮すると共に支持片を笠ブロックに対して移動し、パッキングで笠ブロックの底板と矢板壁の間を密閉すると共に支持片をパッキングの下側に位置させ、
笠ブロックの前板、底板、パッキングと矢板壁の間にコンクリートを投入し、コンクリートが載るパッキングを支持片で支えることを特徴とする笠コンクリート構築法。
【請求項2】
支持片は、複数にし、笠ブロックの底板下側に左右方向に配列し、左右方向の各配列位置で、それぞれ、パッキングの下側に配置し、パッキングの下面に沿って位置変更可能にしており、
複数の支持片を取り付けた笠ブロックは、矢板壁に被せ、矢板壁側に牽引し、パッキングの後面と各支持片の後面を矢板壁に当て、パッキングを圧縮すると共に各支持片を笠ブロックに対して移動し、パッキングで笠ブロックの底板と矢板壁の間を密閉すると共に各支持片をパッキングの下側に位置させ、パッキングを複数の支持片で支えることを特徴とする請求項1に記載の笠コンクリート構築法。
【請求項3】
多数の矢板を打ち込んで構築した矢板壁に被せて矢板壁との間にコンクリートを詰めて笠コンクリートを構築する笠ブロックにおいて、
矢板壁の前側に配置する前板と、前板から後側に突出する底板を備え、底板の後面にパッキングを固着し、底板の下側に支持片を取り付け、支持片を底板から後側に突出してパッキングの下側に配置し、支持片をパッキングの下面に沿って移動可能にして位置変更可能にし、
パッキングと支持片は、それらの後面を矢板壁に当て、パッキングを圧縮すると共に支持片を底板に対して移動し、パッキングで底板と矢板壁の間を密閉すると共に支持片をパッキングの下側に位置させる構成にしたことを特徴とする笠ブロック。
【請求項4】
支持片は、複数にし、笠ブロックの底板下側に左右方向に配列し、左右方向の各配列位置で、それぞれ、パッキングの下側に配置し、パッキングの下面に沿って位置変更可能にし、
パッキングと各支持片は、それらの後面を矢板壁に当て、パッキングを圧縮すると共に各支持片を底板に対して移動し、パッキングで底板と矢板壁の間を密閉すると共に各支持片をパッキングの下側に位置させる構成にしたことを特徴とする請求項1に記載の笠ブロック。
【請求項5】
多数の矢板を打ち込んで構築した矢板壁に笠ブロックを被せ、笠ブロックと矢板壁の間にコンクリートを詰めて構築した笠コンクリート構造体において、
笠ブロックは、前板が矢板壁の前側に位置し、前板から後側に突出した底板の後面にパッキングが固着し、パッキングの後面が矢板壁に押し付けられ、パッキングが圧縮されて笠ブロックの底板と矢板壁の間が密閉されており、
底板の下側に支持片が取り付けられ、支持片が底板から後側に突出してパッキングの下側に位置し、支持片の後面が矢板壁に当っており、
笠ブロックの前板、底板、パッキングと矢板壁の間にコンクリートが詰まり、支持片がパッキングを支えていることを特徴とする笠コンクリート構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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