説明

符号分割多重システム、多重信号分離システム及び通信システム

【課題】アクセスネットワークシステムにおいてユーザー数の増大に対して柔軟に対応できるようにする。
【解決手段】本発明の符号分割多重システムは、入力した複数の入力データ信号に対して同一の符号系列を用いて符号化を行なう符号化手段と、符号化手段により符号化された複数の符号化信号のそれぞれの信号波形のデューティ比を所定の比率に調整するデューティ比調整手段と、デューティ比調整手段により調整された複数の符号化信号の位相に対して、それぞれ所定の遅延を与える位相遅延手段と、位相遅延手段により位相遅延が与えられた複数の符号化信号を時間的に多重する多重手段とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、符号分割多重システム、多重信号分離システム及び通信システムに関し、例えば、事業者側装置と複数の加入者側装置との間で符号分割多重(CDM:Code Division Multiplexing)方式を利用して通信するアクセスネットワークシステムにおいて、事業者側装置及び加入者側装置が備える多重システムに適用し得る。
【背景技術】
【0002】
近年、事業者(以後、「センター」ということもある。)と複数の加入者(以後、「ユーザー」ということもある。)との間を、PON(Passive Optical Network)を介して接続して構成される光アクセスネットワークシステムが注目されている。
【0003】
このPONとは、1本の光ファイバ伝送路に受動素子である光合分岐器を接続し、この光合分岐器を中心に複数の端末装置とスター型に接続するネットワークをいう(非特許文献1参照)。このように、PONを採用することにより、センター装置と光合分岐器との間の伝送路を1本の光ファイバとすることができるので設備コストを抑制できる。
【0004】
従来、PONを利用した光アクセスネットワークシステムとして、時分割多重(TDM;Time Division Multiplexing)方式を採用しているものがある(非特許文献2参照)。このシステムを実現する際、上り信号と下り信号とを波長で識別する必要があるため、上り信号と下り信号とでそれぞれ異なる波長帯域の光信号を使用している。なお、上り信号とはユーザーからセンターに向かう信号をいい、下り信号とはセンターからユーザーに向かう信号をいう。この上り信号及び下り信号は、光バンドパスフィルタによって分離及び合成され、センター及び各ユーザー間の信号は光合分岐器によって合波及び分波が行なわれる。
【0005】
また、PONを利用した光アクセスネットワークシステムとして、上り信号について波長分割多重(WDM;Wavelength Division Multiplexing)方式を採用するシステムも検討されている(非特許文献3参照)。このシステムにおいて、多重にするチャネル数を効果的に増やす手段として、符号分割多重(CDM)方式を採用することが検討されている(特許文献1及び特許文献2参照)。
【0006】
従来、このCDM方式を採用した伝送方式は、事業者側装置及び加入者側装置が、符号化復号回路を備え、送信時には、チャネル(ユーザー)毎の拡散符号を用いて送信信号を拡散変調することが行なわれ、また、受信時には、受信した信号と各拡散符号の相関演算(逆拡散処理)を行なうことがなされている。
【0007】
【特許文献1】特表2001−512919号公報
【特許文献2】特開2004−282742号公報
【非特許文献1】横田潔他、「光アクセスシステム ATM−PON」、沖電気研究開発、第182号、VOL.67、NO.1、2000年4月
【非特許文献2】lan M.McGregor,et.al.“Implementation Of a TDM Passive Optical Network for Subscriber Loop Application”,J.Lightwave Technolory,Vol.7,NO.11,November 1989
【非特許文献3】K.W.LIM,et.al.“Fault Localization in WDM Passive Optical Network by Reusing Downstream Light Sources”,IEEE Photonics Technology Letters Vol.17,No.12,December 2005
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、従来のCDM方式を採用したアクセスネットワークシステムにおいては、チャネル(ユーザー)毎の拡散符号が使用される。そのため、ユーザー数を増やすためには、新たにユーザー数分の拡散符号を追加することが必要であり、またこれに応じて、拡散符号の相関演算を行なうアナログマッチドフィルタを追加する必要がある。さらに、新たにユーザーを追加すると、その分に応じてデータレートが低下するおそれもある。
【0009】
そのため、アクセスネットワークシステムにおいて、ユーザー数の増大に柔軟に対応することができる符号分割多重システム、多重信号分離システム及び通信システムが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を解決するために、第1の本発明の符号分割多重システムは、(1)入力した複数の入力データ信号に対して同一の符号系列を用いて符号化を行なう符号化手段と、(2)符号化手段により符号化された複数の符号化信号のそれぞれの信号波形のデューティ比を所定の比率に調整するデューティ比調整手段と、(3)デューティ比調整手段により調整された複数の符号化信号の位相に対して、それぞれ所定の遅延を与える位相遅延手段と、(4)位相遅延手段により位相遅延が与えられた複数の符号化信号を時間的に多重する多重手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
第2の本発明の多重信号分離システムは、(1)入力した符号分割多重信号に含まれている同期信号に基づいてクロック信号を再生するクロック信号再生手段と、(2)クロック信号再生手段により再生されたクロック信号の位相を可変調整するクロック位相可変調整手段と、(3)入力した符号分割多重信号に対して同一の符号系列を用いて復号処理を行なうものであって、クロック位相可変調整手段により可変調整されたクロック信号を用いて、時間的に多重化されているデータ信号を復元する復号処理手段とを備えることを特徴とする。
【0012】
第3の本発明の通信システムは、分配多重器を介して事業者側装置と複数の加入者側装置との間で符号分割多重方式に従って1対N(Nは1以上の整数)通信を行なう通信システムにおいて、事業者側装置及び各加入者側装置が、第1の本発明の符号分割多重システムと第2の本発明の多重信号分離システムとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、送信側で、複数のユーザーから入力したデータ信号に同一符号を割り当て、これらの複数の符号化信号の位相及び波形のデューティ比を変えて多重すること、また受信側で、送信されるデータ信号の受信タイミングを調整することで、所望の信号のみを復号することができるので、データレートを低減させることなく、ユーザー数の増大に柔軟に対応することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(A)第1の実施形態
以下、本発明の符号分割多重システム、多重信号分離システム及び通信システムを適用した第1の実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0015】
第1の実施形態は、CDM方式を採用した1対N(Nは1以上の整数)通信を行なう光アクセスネットワークシステムに本発明を適用した場合を例に挙げて説明する。
【0016】
(A−1)第1の実施形態の構成
図1は、第1の実施形態の光アクセスネットワークの全体構成を示す構成図である。図1において、第1の実施形態の光アクセスネットワークシステム1は、主に、光回線終端装置(OLT)100、複数(図1では4個)の端末装置10、共通伝送路70、光合分岐器66、を少なくとも有して構成される。なお、各構成要素を光ファイバと結合するために、光アクセスネットワークシステム1は、光コネクタ61、64、68、72を備える。
【0017】
光アクセスネットワークシステム1は、光ファイバでなる共通伝送路70の一端に光合分岐器66が設けられ、この共通伝送路70の他端に結合された光回線終端装置100と、光合分岐器66によって分岐されて形成される複数の分岐伝送路77、76のそれぞれに結合された端末装置10を有して構成される。このような構成を備えることにより、光回線終端装置100と複数の端末装置10との間で、複数チャネル分の符号分割多重による双方向光通信を実現することができる。
【0018】
まず、光回線終端装置(OLT)100の内部構成を説明する。光回線終端装置(OLT)100は、例えば事業者側に設けられる装置であり、例えば、センタノード、サービスノード等とも呼称されるものである。光回線終端装置100は、大別して、光処理部102と、電気処理部104とを有して構成される。
【0019】
光処理部102は、光/電気変換を行なうものであり、発光素子122、受光素子126、光カプラ124を少なくとも有して構成される。
【0020】
光カプラ124は、共通伝送路70から光信号を取り込むとその光信号を受光素子(PD)126に与え、又発光素子(LD)122から光信号を取り込むとその光信号を共通伝送路70に与えるものである。
【0021】
発光素子(LD)122は、電気処理部104からの電気信号(送信信号)を光信号に変換して、光カプラ124に与えるものであり、例えば、半導体レーザ等を適用できる。また、受光素子(PD)126は、光カプラ124からの光信号を電気信号に変換して、電気処理部104に与えるものであり、例えば、フォトダイオード等を適用できる。
【0022】
電気処理部104は、送信信号及び受信信号について、電気的な信号処理を行なうものであり、送信信号処理部106、受信信号処理部108、クロック信号生成回路110を少なくとも有して構成される。
【0023】
送信信号処理部106は、複数の符号化処理回路(図1では符号1〜符号4と表記)を並列に備えた符号化処理回路列116と、加算器118と、例えば増幅器等のドライバ120とを備える。
【0024】
符号化処理回路列116が備える各符号化処理回路は、各チャネル毎の拡散符号(以後、単に符号ともいう。)が割り当てられており、各チャネルの符号(図1では符号1〜符号4と表記)を用いて、送信信号(データ信号)を拡散変調して出力するものである。なお、拡散変調に使用する拡散符号としては、例えば、自己相関特性及び相互相関特性が共に良い、直交ゴールド符号等の符号を適用できる。
【0025】
また、符号化処理回路列116が備える各符号化処理回路は、後述する端末装置10が備える符号化処理回路56と同様の機能構成を備えるものである。すなわち、複数のデータ信号に対して、1個の拡散符号を用いて拡散変調し、各拡散変調信号の位相及び波形のデューティ比を調整して、各拡散変調信号を多重して出力するものである。なお、符号化処理回路の内部構成の詳細については、端末装置10の符号化処理回路56と説明と併せて後述する。
【0026】
加算器118は、符号化処理回路列116の各符号化処理回路からの送信信号を多重化した多重信号をドライバ120に与えるものである。ドライバ120は、加算器118からの多重信号を増幅して光処理部102に与えるものである。
【0027】
受信信号処理部108は、自動利得制御素子(AGC;Auto Gain Control)128と、分配器130と、複数の復号処理回路を並列に備える復号処理回路132とを備える。
【0028】
自動利得制御素子128は、光処理部102の受光素子126からの受信信号(多重信号)に所定の利得を与えて分配器130に与えるものである。また、分配器130は、復号処理回路列132を構成する各復号処理回路に多重信号を分配するものである。
【0029】
復号処理回路列132が備える各復号処理回路は、アナログマッチドフィルタ及び判定回路を備え、受信信号(多重信号)と拡散符号(図1では復号1〜復号4と表記)の相関演算(逆拡散処理)を行ない、該当チャネルに対する相関出力信号に基づいて各チャネルの受信信号を復元するものである。
【0030】
また、復号処理回路列132が備える各復号処理回路は、後述する端末装置10の受信信号処理部22の機能構成を備えるものである。すなわち、符号化処理回路が、同一の拡散符号を用いて複数のデータ信号を拡散変調し、これら拡散変調信号のデューティ比を調整して1動作クロック周期期間内に時間的に多重したものを出力するものであるため、復号処理回路も、これに対応した復号処理を行なう。なお、各復号処理回路の内部構成については、端末装置10の受信信号処理部22の構成の説明と併せて後述する。
【0031】
クロック信号生成回路110は、送信信号処理部106及び受信信号処理部108に生成したクロック信号を供給するものである。このクロック信号は、光アクセスネットワークシステム1において基準となるマスタークロック信号である。
【0032】
次に、端末装置10の内部構成について説明する。端末装置10は、例えば、加入者側に設けられるノードであり、例えばエッジノード等と呼称されるものである。端末装置10は、複数のユーザー間で共有可能なものである。端末装置10は、複数のユーザー端末から入力したデータ信号に対して、あるパターンをもつ同一の拡散符号を用いて拡散変調を行ない、これらの拡散変調信号の位相及び波形のデューティ比を変えて、各拡張変調信号を時間的に多重して出力するものである。また、端末装置10は、大別して、光処理部12と、電気処理部14とを少なくとも有して構成される。
【0033】
光処理部12は、光/電気変換を行なうものであり、発光素子(LD)20、受光素子(PD)18、光カプラ16を少なくとも有して構成される。
【0034】
光カプラ16は、共通伝送路70から光信号を取り込むとその光信号を受光素子(PD)18に与え、又発光素子(LD)20から光信号を取り込むとその光信号を共通伝送路70に与えるものである。発光素子(LD)20は、電気処理部14からの電気信号(送信信号)を光信号に変換して、光カプラ16に与えるものであり、例えば、半導体レーザ等を適用できる。また、受光素子(PD)18は、光カプラ16からの光信号を電気信号に変換して、電気処理部14に与えるものであり、例えば、フォトダイオード等を適用できる。
【0035】
電気処理部14は、送信信号及び受信信号について、電気的な信号処理を行なうものであり、送信信号処理部24と、受信信号処理部22と、を少なくとも有して構成される。
【0036】
送信信号処理部24は、符号化処理回路56と、例えば増幅器等のドライバ60と、を少なくとも有して構成される。また、符号化処理回路56の機能は、光回線終端装置100が備える送信信号処理部106の各符号化処理回路の機能に対応するものである。
【0037】
そこで、以下では、端末装置10及び光回線終端装置100が備える符号化処理回路の詳細な構成について図2を参照して説明する。図2は、端末装置10の符号化処理回路56を例に挙げて、符号化処理回路56の構成を示すブロック図である。
【0038】
図2において、符号化処理回路56は、複数のユーザー装置(図示しない)からデータ信号の入力を許容するものである。また、符号化処理回路56は、符号付与回路71、デューティ比調整回路72、各チャネル毎の遅延回路73(73−1〜73−N)、遅延回路74、を少なくとも有する。
【0039】
符号付与回路71は、複数のデータ信号を入力し、入力データ信号のそれぞれに対して、同一の拡散符号を用いて拡散変調するものであり、その符号化の詳細な処理については後述する。
【0040】
デューティ比調整回路72は、符号付与回路71からの各拡散変調信号の波形のデューティ比を1/Nに変換するものである。このNは、正の整数であり、端末装置10を共有するユーザー数(チャネル数)に相当する。これにより、符号付与回路71により符号化された拡散変調されたすべての信号波形のデューティ比を小さくすることができる。
【0041】
遅延回路73(73−1〜73−N)は、デューティ比が1/Nに変換された各チャネルの拡散変調信号に対して、各チャネル毎に所定の遅延を与えて出力するものである。
【0042】
ここで、遅延回路73(73−1〜73−N)が与える遅延としては、動作クロック周期をTとすると、第nチャネルの拡散変調信号に対して、T/N×(n−1)だけ遅延させるようにする(nは1〜Nの整数)。このような遅延を与えることにより、1動作クロック周期期間(拡張変調信号の1ビット期間:これをタイムスロットとも言う)において、デューティ比を調整したN個のチャネルの拡散変調信号を時間的に並べて多重することができる。
【0043】
なお、第1の実施形態では、遅延回路73は、あらかじめ各チャネル毎に設けられているものであり、あらかじめ割り当てる遅延が決定されているものとする。
【0044】
遅延回路74は、端末装置10であるONU−1〜ONU−4からの送信位相を同期させるものである。図2では、送信位相を同期させる詳細な構成を図示していないが、例えば、光回線終端装置100からの同期信号(例えば、修正情報を含むもの)に基づいて同期を確立する方法等を適用することができる。
【0045】
受信信号処理部22は、自動利得制御素子(AGC;Auto Gain Control)28、復号処理回路30、クロック信号再生回路34、分周器38、遅延回路40、遅延回路75、を少なくとも有して構成される。
【0046】
自動利得制御素子28は、光処理部14の受光素子18からの受信信号(多重信号)に所定の利得を与えて復号処理回路30に与えるものである。
【0047】
復号処理回路30は、自動利得制御素子28から受信信号(多重信号)を取り込むと、受信信号に拡散符号を乗算して相関演算(逆拡散処理)を行ない、該当するチャネルの相関出力信号を発生するアナログマッチドフィルタ44と、アナログマッチドフィルタ44からの相関出力信号を、サンプリングクロック信号でラッチして受信信号(受信データ)を確定する判定回路46とを有するものである。
【0048】
クロック信号再生回路34は、光処理部12の受光素子18からの受信信号(多重信号)を取り込み、受信信号(符号化多重信号)に含まれている同期信号に基づいてクロック信号を再生し、再生したクロック信号を遅延回路75及び分周器38に与えるものである。
【0049】
分周器38は、クロック信号再生回路34から再生されたクロック信号(伝送レート周波数のクロック信号)を入力すると、ベースレート周波数のクロック信号に変換して、遅延回路40に与えるものである。ここで、伝送レート周波数とは、符号分割多重信号のビットレートに対応する周波数をいい、ベースレート周波数とは、個々のチャネル(符号毎のチャネル)の送信信号のビットレートに対応する周波数をいう。すなわち、分周器38は、伝送レート周波数をチャネル数(符号数)で除した周波数がベースレート周波数となる。
【0050】
遅延回路40は、分周器38からのクロック信号(ベースレート周波数)の位相を調整して、判定回路46に与えるものである。
【0051】
遅延回路75は、クロック信号再生回路34により再生されたクロック信号を入力し、クロック信号の位相を調整して、アナログマッチドフィルタ44に与えるものである。この遅延回路75は、復号対象のチャネルに応じてクロック信号の位相を調整することができる可変遅延器を適用することができる。
【0052】
このように、同一の拡散符号により符号化された複数チャネルの信号の遅延に合わせて、クロックタイミングを調整することにより、複数チャネルの信号をそれぞれ復号することができる。
【0053】
続いて、端末装置10及び光回線終端装置100が備える符号化処理回路における符号化多重の基本的な原理を、図3を参照して説明する。
【0054】
図3は、符号化多重の基本的な原理を説明するための信号波形図である。図3では、2個の信号の符号化多重を例に挙げて説明する。
【0055】
すなわち、図3(A1)及び(A2)では、第1チャネルの信号に4符号長の符号(1,−1,−1,1)で符号化したものと、図3(B1)及び(B2)では、第2チャネルの信号に4符号長(1,−1,1,−1)で符号化したものとを多重する場合を例示する。なお、横軸は時間軸であり、縦軸は信号の強度を示す。
【0056】
符号化とは、信号(これをDをする)と拡散符号(これをCと示す)との積信号を生成すること(すなわち、符号化はD×C)に相当する。例えば、図3(A1)において、信号強度「1」を示す信号と、拡散符号(1,−1,−1,1)との積をとることで、符号化した信号として「1,−1,−1,1」を生成する。この積信号を生成する方法は、例えば、図3(A1)に示す信号と図3(A2)に示す信号のバイアス電圧を調整して、これらの信号の振幅の中心を0レベルに設定し、「0」及び「1」の2値によって形成される信号形式を、「+1」及び「−1」の2値によって形成される信号形式に変換して、両者の積を求める。この積を求めるには、例えば、排他的論理輪演算EXOR(エクスクルーシブ・オア)ゲートの出力にインバータを接続したゲート回路であるEXNOR(エクスクルーシブ・ノア)回路を用いる。もちろん、この他の既存の方法を適用して、上述した処理と等価の処理を行なうようにしても可能である。
【0057】
上記に示す符号化を行なうことにより、第1チャネルの信号及び第2チャネルの信号は、図3(A2)及び(B2)に示すように、(1,−1,−1,1,−1,1,1,−1,1,−1,−1,1…)及び(1,−1,1,−1,1,−1,1,−1,−1,1,−1,1,…)となる。
【0058】
これらの信号を電気的にアナログ加算すると、図3(C)に示すように、(2,−2,0,0,0,0,2,−2,0,0,−2,2,…)となり、2個の信号の符号化多重を実現する。
【0059】
次に、端末装置10及び光回線終端装置100が備える復号処理回路における復号処理の基本的な原理を、図4を参照して説明する。
【0060】
図4は、復号処理の基本的な原理を説明するための信号波形図である。図4では、図3により符号化された符号化多重信号を復号する場合を例示して説明する。
【0061】
復号処理は、符号化された信号を再度符号化と同じ符号を用いて積信号を求めることに相当する。すなわち、復号=(D×C+Dn×Cn)×C=D×C+Dn×Cn×Cとなるが、C=1であり、Dn×Cn×Cは拡散ノイズであるため、データを復元することができる。
【0062】
図4(A)は、アナログマッチドフィルタ44に入力した符号化多重信号の時間波形であり、アナログマッチドフィルタ44は、受信信号を受信すると、振幅の中心を0レベルに設定し、「0」及び「1」の2値によって形成される信号形式を、「+1」及び「−1」の2値によって形成される信号形式に変換する。図4(B)は、アナログマッチドフィルタ44で復号された出力される信号の時間波形であり、受信信号成分である自己相関信号と相互相関信号の和となっている。なお、相互相関信号は、符号が割り当てられている他のチャネルの相関信号であるので、雑音成分となる。
【0063】
そして、判定回路46が、自己相関信号のみを取り出し、閾値処理を施し、クロック信号でラッチすることで送信側のデータ信号を復元することができる。
【0064】
次に、アナログマッチドフィルタ44の構成例について図5を参照して説明する。図5は、アナログマッチドフィルタの概略的ブロック構成図である。
【0065】
なお、図5(A)では、符号(1,0,0,1)の符号により復号するものが設定されている。すなわち、「+1」、「−1」の2値表示すると、(1,−1,−1,1)の符号とする。
【0066】
図5において、アナログマッチドフィルタ44は、アナログシフトレジスタ140と、プラス信号用加算器142と、マイナス信号用加算器144と、プラス信号用加算器142及びマイナス信号用加算器144からそれぞれの出力信号を加算するアナログ加算器146と、ローパスフィノレタ148と、を備える。
【0067】
また、プラス信号用加算器142及びマイナス信号用加算器144は、それぞれ増幅器150及び反転増幅器152を有している。なお、増幅器150及び反転増幅器152については、その周辺回路を省略する。
【0068】
アナログシフトレジスタ140は、例えば4段のCCDシフトレジスタを適用する場合を示し、自動利得制御器28からの受信信号を入力するデータ入力部と、遅延回路75からのクロック信号を入力するクロック入力部とを有する。
【0069】
なお、クロック入力部には、同一の拡散符号で符号化された拡散変調信号の多重信号のうち、復号対象のチャネルに応じて位相調整されたクロック信号が入力する。
【0070】
まず、CCDシフトレジスタの第1段のデータ入力端子D1に、符号分割多重信号(タイムスロットが「1」のもの)が入力すると、クロック信号に同期して、第1段のデータ出力端子Q1から「1」が出力する。
【0071】
次に、第1段のデータ入力端子D1に符号分割多重信号(「−1」)が入力されると、クロック信号に同期して、第1段の出力端子Q1から「−1」が出力され、第2段の出力端子Q2から「1」が出力される。
【0072】
このように、順次タイムスロットの信号がシフトレジスタに入力し、クロック信号に同期し、第1段〜第4段のレジスタの出力端子Q1〜Q4からは、先に出力された信号が1段ずつシフトして出力される。
【0073】
図3の符号化送信信号のCS1〜CS4までのタイムスロットに存在するチップが全てシフトレジスタに入力された段階で、第1段〜第4段のレジスタの出力端子Q1〜Q4の出力値(Q1,Q2,Q3,Q4)は、(1,−1,−1,1)となる。すなわち、これら各出力値は、図5のF,G,H,Iに示す位置の電圧値として現れる。
【0074】
そして、F及びIの出力値はプラス信号用加算器142に入力され、プラス信号同士で電圧値の加算して、その換算結果を出力する。
【0075】
一方、G及びHの出力値はマイナス信号用加算器144に入力され、マイナス信号同士で電圧値の加算が行なわれ、その加算結果を正の電圧値に変換して出力する。
【0076】
プラス信号用加算器142及びマイナス信号用加算器144からの出力信号は、アナログ加算器146により加算される。そして、アナログ加算器146により加算された出力信号は、ローパスフィルタ148により、高周波成分を遮断し、ベースレート周波数の信号成分を出力する。
【0077】
なお、図5(B)に示すアナログマッチドフィルタ44も、図5(A)と同様の動作を行なうが、第1段〜第4段のレジスタの出力値が図5(A)に示す例と異なる。
【0078】
この場合も、図5(A)の場合と同様に、プラス信号はプラス信号同士で電圧値を加算し、マイナス信号はマイナス信号同士で電圧値を加算して正の電圧値に変換して、この変換結果をプラス信号の加算結果と加算して出力する。
【0079】
(A−2)第1の実施形態の動作
次に、第1の実施形態の光アクセスネットワークシステム1における多重化処理の動作を図面を参照して説明する。
【0080】
以下では、送信信号の符号化多重処理の動作を、図1、図2及び図6を参照して説明する。以下では、複数のユーザーが共通して使用する端末装置10における符号化処理を例示して説明する。
【0081】
まず、端末装置10を共有する複数のユーザー(チャネル)のユーザー装置(図示しない)から端末装置10に向けて、送信信号が送信される。各ユーザーからの送信信号が端末装置10に与えられると、各送信信号は符号化処理回路56に与えられる。
【0082】
符号化処理回路56において、まず、各送信信号は、符号付与回路71により同一の拡散符号が乗算されて拡散変調される。
【0083】
例えば、各送信信号が符号付与回路71に入力すると、符号付与回路は、各送信信号について、振幅の中心を0レベルとして、「+1」、「−1」の2値化の信号に変換する。例えば、図6において、図6(A1)は第1チャネル(CH−1)の信号波形として(1,−1,1,…)を示し、図6(B1)は第Nチャネル(CH−N)の信号波形として(1,1,−1,…)を示す。
【0084】
なお、端末装置10の符号化処理回路56には、拡散符号として(1,0,0,1)が割り当てられているものとする。この拡散符号を「+1」と「−1」との2値化で表すと、符号は(1,−1,−1,1)となる。
【0085】
符号付与回路71は、第1チャネルの信号波形に対して符号(1,−1,−1,1)を乗算すると、図6(A2)に示すように、(1,−1,−1,1,−1,1,1,−1,1,−1,−1,1,…)となる。
【0086】
また、第Nチャネルの信号波形に対して符号(1,−1,−1,1)を乗算すると、図6(B2)に示すように、(1,−1,−1,1,1,−1,−1,1,−1,1,1,−1,…)となる。
【0087】
これらの拡散変調信号はデューティ比調整回路72に与えられ、デューティ比調整回路72により、各チャネルの拡散変調信号の信号波形のデューティ比が1/Nに変換される。そして、信号波形のデューティ比が変換された各チャネルの拡散変調信号は、各チャネル毎の遅延回路73に与えられ、それぞれ所定の遅延が与えられ出力される。
【0088】
例えば、図6(A2)及び図6(B2)に示す拡張変調信号の信号波形のデューティ比が小さくなるように変換され、各チャネル毎に所定の遅延が与えられると、図6(A3)及び図6(B3)に示すようになる。
【0089】
なお、各チャネルの遅延回路73が与える位相遅延は、端末装置10が許容するユーザー数(チャネル数)に応じてあらかじめ設定する。すなわち、第nチャネルの遅延回路は、T/N×(n−1)だけ遅延させるようにする。
【0090】
そして、図6(C)に示すように、各チャネルの遅延回路73からの出力信号を時間的に多重し、遅延回路74により所定の送信位相が調整されてドライバ60により増幅されて出力される。
【0091】
その後、符号化信号は、光処理部12により光信号に変換され、光合分岐器66により他の端末装置10からの光信号と合波されて、符号化多重光信号として共通伝送路70を通じて光回線終端装置100に与えられる。
【0092】
また、符号化多重光信号が光回線終端装置100に与えられると、符号化多重光信号は、光処置部102により電気信号に変換されて、符号多重信号として受信信号処理部108に与えられる。
【0093】
次に、受信信号の復号処理の動作を、図1及び図7を参照して説明する。また、図6により符号化多重された信号を復号する場合を例示して説明する。
【0094】
なお、光回線終端装置100の受信信号処理部108は、図1に示す端末装置10の受信信号処理部22の構成と同じであるので、以下では、受信信号処理部22の構成を用いて説明する。また、図6により符号化多重された信号を復号する場合を例示して説明する。
【0095】
まず、光処理部により電気信号に変換された符号化多重信号は、自動利得制御素子28及びクロック信号再生回路34に与えられる。
【0096】
符号化多重信号がクロック信号再生回路34に与えられると、符号化多重信号に含まれている同期信号に基づいてクロック信号が再生され、その再生されたクロック信号が、遅延回路75及び分周器38に与えられる。
【0097】
再生されたクロック信号が分周器38に与えられると、分周器38は、伝送レート周波数をベースレート周波数に変換して遅延回路40に与え、遅延回路40により位相が調整されて判定回路46に与えられる。
【0098】
また、再生されたクロック信号が遅延回路75に与えられると、遅延回路75は、復号対象とするチャネルに応じてクロック信号の位相を調整し、位相調整したクロック信号をアナログマッチドフィルタ44に与える。すなわち、遅延回路75は、第nチャネルを復号対象とする場合、クロック信号の位相を、T/N×(n−1)だけ遅延差を与えて出力する。
【0099】
一方、自動利得制御素子28により利得が与えられた符号化多重信号は、アナログマッチドフィルタ44に入力する。また、遅延回路75により復号対象のチャネルに応じて位相調整されたクロック信号は、アナログマッチドフィルタ44に入力する。
【0100】
アナログマッチドフィルタ44には拡散符号があらかじめ設定されており、アナログマッチドフィルタ44は、入力した符号化多重信号と拡散符号を用いて逆拡散処理により復号する。このとき、アナログマッチドフィルタ44は、入力するクロック信号のクロックタイミングに応じて、復号対象のチャネルを変えて、復号することができる。
【0101】
例えば、符号化多重信号がアナログマッチドフィルタ44に与えられると、アナログマッチドフィルタ44は、振幅の中心を0レベルとして、「+1」、「−1」の2値化の信号に変換する。例えば、図7において、図7(A)は符号化多重信号の信号波形を示す。
【0102】
図7(B)及び(C)は、第1チャネルを復号対象とする場合のクロック信号のクロックタイミング及び相関出力信号の信号波形を示す。図7(B)及び図7(D)に示すように、第1チャネルを復号対象とする場合、クロック信号のクロックタイミングの位相遅延はないが、第Nチャネルを復号対象とする場合、クロック信号のクロックタイミングはT/N×(N−1)だけ遅延されてアナログマッチドフィルタ44に入力される。
【0103】
その後、判定回路46により、自己相関信号のみが取り込まれ、閾値処理が施されて、クロック信号によりラッチされた信号が当該チャネルの信号として出力される。
【0104】
(A−3)第1の実施形態の効果
以上のように、第1の実施形態によれば、複数のユーザーから入力した送信信号に対して、同一の符号を用いて符号化し、各符号化信号のデューティ比を調整し、各符号化信号を時間的に多重する多重化方式を採用することにより、新たにユーザーを追加する際に、新たに符号の割り当てをする必要ないので、ユーザー数の増大に対して容易な構成で対応することができる。
【0105】
また、第1の実施形態によれば、受信信号処理部が、クロック信号のクロックタイミングを自由に変更できる遅延回路を備えることにより、アナログマッチドフィルタの増設をすることなく、ユーザー数の増大に容易な構成で対応できる。
【0106】
さらに、第1の実施形態によれば、多重するユーザー数を符号数を変えることなく、同一データレートでN倍に増大することができる。
【0107】
(B)他の実施形態
第1の実施形態では、1対N通信システムの適用用途は限定されるものではない。すなわち、PONに限定されるものではなく、伝送路が電気的伝送路であってもよい。電気的な伝送路を用いる場合、事業者側装置及び加入者側装置は光処理部を備える必要はなく、また光合分岐器の代わりとして分配多重器などを用いることで実現することができる。
【0108】
なお、本発明は、1つのデータ信号の場合であっても、第1の実施形態と同様にして、デューティ比を調整して符号化処理又は復号処理をして通信することにも適用できる。
【0109】
第1の実施形態では、受信構成における可変移相器としての遅延回路75を、サンプリングクロックの経路に設けたものを示したが、所定の位相関係を達成できるならば、データ信号経路に設けるようにしても良く、サンプリングクロックの経路及びデータ信号経路の双方に設けるようにしてもよい。
【0110】
第1の実施形態では、拡散復調のために相関出力を得る構成がマッチドフィルタのものを示したが、スライディング相関器などの他の相関演算構成を適用するようにしても良い。
【0111】
第1の実施形態では、送信時に、符号化信号の信号波形のデューティ比を調整した後、各符号化信号の位相調整することとして説明したが、データ信号のタイムスロット内で複数の符号化信号を時間的に多重できれば、位相遅延した後に、各符号化信号の信号波形のデューティ比を調整しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】第1の実施形態のアクセスネットワークシステムの全体構成を示すと共に、受信信号処理部の内部構成を示すブロック図である。
【図2】第1の実施形態の符号化処理回路の内部構成を示すブロック図である。
【図3】符号化多重の原理を説明する説明図である。
【図4】復号処理の原理を説明する説明図である。
【図5】第1の実施形態のアナログマッチドフィルタの構成例を示す構成図である。
【図6】第1の実施形態の送信信号の符号化多重を説明する説明図である。
【図7】第1の実施形態の受信信号の復号処理を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0113】
1…アクセスネットワークシステム、
100…光回線終端装置、104…電気処理部、106…送信信号処理部、116…符号化処理回路列、108…受信信号処理部、132…復号処理回路列、
10…端末装置、14…電気処理部、22…受信信号処理部、28…自動利得制御素子(AGC)、30…復号処理回路、38…分周器、40…遅延回路、44…アナログマッチドフィルタ、46…判定回路、34…クロック信号再生回路、75…遅延回路、24…送信信号処理部、56…符号化処理回路、60…ドライバ、71…符号付与回路、72…デューティ比調整回路、73…遅延回路、74…遅延回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力した複数の入力データ信号に対して同一の符号系列を用いて符号化を行なう符号化手段と、
上記符号化手段により符号化された複数の符号化信号のそれぞれの信号波形のデューティ比を所定の比率に調整するデューティ比調整手段と、
上記デューティ比調整手段により調整された上記複数の符号化信号の位相に対して、それぞれ所定の遅延を与える位相遅延手段と、
上記位相遅延手段により位相遅延が与えられた上記複数の符号化信号を時間的に多重する多重手段と
を備えることを特徴とする符号分割多重化システム。
【請求項2】
入力した符号分割多重信号に含まれている同期信号に基づいてクロック信号を再生するクロック信号再生手段と、
上記クロック信号再生手段により再生された上記クロック信号の位相を可変調整するクロック位相可変調整手段と、
入力した符号分割多重信号に対して同一の符号系列を用いて復号処理を行なうものであって、上記クロック位相可変調整手段により可変調整された上記クロック信号を用いて、時間的に多重化されているデータ信号を復元する復号処理手段と
を備えることを特徴とする多重信号分離システム。
【請求項3】
分配多重器を介して事業者側装置と複数の加入者側装置との間で符号分割多重方式に従って1対N(Nは1以上の整数)通信を行なう通信システムにおいて、
上記事業者側装置及び上記各加入者側装置が、請求項1に記載の符号分割多重システムと請求項2に記載の多重信号分離システムとを備えることを特徴とする通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−199492(P2008−199492A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−34994(P2007−34994)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】