説明

第四級アンモニウム塩の回収方法

【課題】高価な第四級アンモニウム塩を回収する方法において、ゼオライト製造廃液のような多量の不純物イオンを含む水溶液から第四級アンモニウム塩を工業的に回収できる方法がなかった。
【解決手段】第四級アンモニウム塩及び水溶性化合物を含有する水溶液から第四級アンモニウム塩を、(1)第四級アンモニウム塩を三級アミンにする工程、(2)第四級アンモニウム塩から生成した三級アミンを水溶性化合物から分離する工程、(3)分離した三級アミンを第四級アンモニウム塩に再生する工程、によって分離、回収する。当該方法では不純物イオンを多く含む水溶液から第四級アンモニウム塩を選択的に回収できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は第四級アンモニウム塩の回収技術に関する。更には、水溶性の塩を大量に含有するフォトレジスト廃液やゼオライト製造廃液から有用な第四級アンモニウム塩を回収する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
第四級アンモニウム塩の水溶液は、フォトレジストの現像液やゼオライト製造用のテンプレートとして広く使用されている。これらの第四級アンモニウム塩の大部分は、フォトレジストと反応したり、ゼオライト中に取り込まれたりして消費されるが、一部が残り、廃液となる。第四級アンモニウム塩は一般に高価であり、しかもその廃液処理は容易ではないため、廃棄することはコスト上不利となる。
【0003】
そのため第四級アンモニウム塩の回収に関する多くの技術が開発されている。例えば、イオン交換樹脂、キレート樹脂を使用する方法が開示されている(特許文献1、特許文献2、特許文献3)。しかし、これらはゼオライト製造廃液のような多量のイオンを含む水溶液の場合、イオン交換樹脂、キレート樹脂にこれらのイオンが吸着してしまい、第四級アンモニウム塩を選択的に回収することが極めて難しい。
【0004】
その他、第四級アンモニウム塩に過塩素酸塩又はヨウ化物塩を添加して不溶性の塩に変え、第四級アンモニウム塩の沈殿を形成させた後、分離し、この不溶性の塩を水に溶解、懸濁させて、電気分解する方法が開示されている(特許文献4)。この方法では、金属イオン不純物が少ない、高純度の第四級アンモニウム塩が回収できるが、特にゼオライト製造廃液のような多量のイオンを含む水溶液の場合、第四級アンモニウム塩の回収率は低く、第四級アンモニウム塩の回収法としては工業的な方法ではなかった。
【0005】
このように、特にゼオライト製造廃液のような多量のイオンを含む水溶液から高価な第四級アンモニウム塩を工業的に回収できる方法はなかった。
【0006】
【特許文献1】特開2000−126766号公報
【特許文献2】特開2007−181833号公報
【特許文献3】特開2007−323095号公報
【特許文献4】特許第4024310号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記の課題に鑑みて、第四級アンモニウム塩の工業的な回収法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、第四級アンモニウム塩の回収方法について鋭意検討した結果、第四級アンモニウム塩を、三級アミンに変換して分離した後、第四級アンモニウム塩に再生することで、第四級アンモニウム塩を効率良く回収できることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、第四級アンモニウム塩及び水溶性化合物を含有する水溶液から第四級アンモニウム塩を分離、回収する方法において、
(1)第四級アンモニウム塩を三級アミンにする工程、
(2)第四級アンモニウム塩から生成した三級アミンを水溶性化合物から分離する工程、
(3)分離した三級アミンを第四級アンモニウム塩に再生する工程
から成る第四級アンモニウム塩の回収方法である。
【0010】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
【0011】
本発明の方法において、第四級アンモニウム塩とは、窒素にアルキル基及び/又はアリール基が4個結合した第四級アンモニウムイオンと陰イオンの組合せである。第四級アンモニウム塩であれば制限はないが、特に炭素数3以上のアルキル基又はアリール基を含有する第四級アンモニウム塩が好ましい。
【0012】
炭素数3以上のアルキル基又はアリール基を含有する第四級アンモニウム塩としては、アダマンチルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリエチルアンモニウム塩、テトラプロピルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラオクチルアンモニウム塩、フェニルトリメチルアンモニウム塩、フェニルトリエチルアンモニウム塩が挙げられる。
【0013】
炭素数3以上のアルキル基又はアリール基を含有する第四級アンモニウム塩は対応する三級アミンの水溶性が低く、他の水溶性化合物を含む廃液からの分離が容易である。炭素数2以下のアルキル基のみを含む第四級アンモニウム塩、例えばテトラメチルアンモニウム塩も回収することはできるが、炭素数3以上のアルキル基又はアリール基を含有する第四級アンモニウム塩の場合より、回収率が低くなる。
【0014】
本発明の方法において、第四級アンモニウム塩の陰イオンに関しては特に制限はない。水酸化物イオン、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、硫酸イオン、亜硫酸イオン、燐酸イオン、亜燐酸イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、ケイ酸イオン、アルミン酸イオンなどの無機陰イオン、ギ酸イオン、酢酸イオンなどの有機カルボン酸イオン、メタンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオンなどの有機スルホン酸イオン、フェノールなどの有機陰イオンなどいずれも問題なく回収できる。
【0015】
本発明の方法における水溶性化合物とは、第四級アンモニウム塩を含む水溶液に溶解している第四級アンモニウム塩以外の物質を示し、有機物、無機物を問わない。水溶性化合物は、第四級アンモニウム塩をフォトレジストの現像液に使用した場合と、ゼオライト製造に使用した場合で異なるが、ゼオライト製造に使用した場合を例示すると、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウムなどのアルカリ金属、アルカリ土類金属塩、ケイ酸塩、アルミン酸塩、アルミノケイ酸塩、鉄塩、チタン酸塩などが挙げられる。フォトレジストの現像液に使用した場合は、これらの他にレジストなどの有機物も水溶性化合物として存在する。
【0016】
本発明の方法において、第四級アンモニウム塩を三級アミンにする工程は、第四級アンモニウム塩に結合したアルキル基或いはアリール基等の置換基のひとつを脱離できる方法であれば限定はないが、第四級アンモニウム塩をアミンと加熱する方法が特に好ましい。第四級アンモニウム塩と加熱するアミンは、第四級アンモニウム塩のアルキル基と反応できるアミノ基を含有しているものならば特に制限なく使用できるが、水溶性のアミンが特に好ましい。水溶性のアミンは、第四級アンモニウム塩から生成した三級アミンとの分離が容易であり、第四級アンモニウム塩の回収率が高くなる。第四級アンモニウム塩と加熱するアミンの水への溶解度は、水100gに対して1g以上が好ましく、水100gに対して10g以上の溶解度があるものがさらに好ましい。水溶性のあるアミンとして、脂肪族アミン、アルカノールアミン、アミノ酸などが挙げられるが、これらの中でも、脂肪族アミン、アルカノールアミンが安価であり、工業的には好ましい。
【0017】
本発明の方法において、第四級アンモニウム塩とアミンを加熱すると、第四級アンモニウム塩は脱アルキルを起こし、そのアルキル基はアミンに移動し、アミンがアルキル化される。したがって、第四級アンモニウム塩の脱アルキル化を促進するには、アルキル化される能力の高いアミンを使用することが好ましい。したがって、三級アミンよりも二級アミンが好ましく、一級アミンの方が更に好ましい。一級アミンを例示すると、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、モノエタノールアミンなどのモノアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサエチレンヘプタミン、プロパンジアミン、ポリエチレンイミン、アミノエチルエタノールアミンなどのポリアミンが挙げられる。モノアミンよりポリアミンの方がアルキル化される能力が高く、好ましい。
【0018】
本発明において第四級アンモニウム塩を三級アミンにする工程において、第四級アンモニウム塩とアミンを加熱する場合は、60〜250℃に加熱する。特に80〜200℃に加熱することが好ましい。60℃未満の温度では、第四級アンモニウムが三級アミンに変わる速度が遅く、工業的ではない。250℃を超える温度に加熱すると、アミンが分解する場合がある。第四級アンモニウム塩とアミンを加熱する際には、アミン以外の溶媒を使用しても良い。
【0019】
本発明の方法においては、第四級アンモニウム塩から生成した三級アミンを水溶性化合物から分離する。第四級アンモニウム塩から生成した三級アミンは層分離、抽出、蒸留、昇華、晶析、再結晶のうち少なくとも一種を必要に応じて適用することで水溶性化合物から分離することができる。
【0020】
第四級アンモニウム塩から生成した三級アミンが、水又は第四級アンモニウム塩を分解するために使用したアミンに溶解しない場合は、相(層)分離で容易に分離することができる。また、油溶性の有機溶媒で抽出することもできる。この際は、水を添加して抽出をさらに容易にしても良い。抽出溶媒として、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素、ジクロロメタン、二塩化エタンなどのハロゲン化炭化水素が例示できるが、これら以外の溶媒を使用しても一向に差し支えない。
【0021】
第四級アンモニウム塩から生成した三級アミンの沸点が低い場合は、蒸留で分離することも可能である。さらに第四級アンモニウム塩から生成した三級アミンの融点が高い場合は、晶析、再結晶で分離することができる。
【0022】
本発明の方法において、第四級アンモニウム塩から生成し、水溶性化合物から分離した三級アミンは第四級アンモニウム塩に再生して回収する。三級アミンはアルキル化剤と反応させて第四級アンモニウム塩に再生し、回収することが好ましい。
【0023】
アルキル化剤としては、通常使用されるアルキル化剤を使用することができ、特に制限はないが、例えば、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸などのジアルキル硫酸、臭化メチル、ヨウ化メチル、臭化エチル、ヨウ化エチルなどのハロゲン化アルキル、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルなどの炭酸アルキルが挙げられる。これらは一種類を使用しても良いし、二種類以上を混合して使用しても良い。
【0024】
水溶性化合物から分離して得られた第四級アンモニウム塩は、その用途に応じ、電気分解、イオン交換などで好ましい陰イオン、例えば水酸化物イオンに変換して使用することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の方法は、第四級アンモニウム塩を選択的に、かつ、効率良く回収でき、第四級アンモニウム塩を工業的に回収できる。
【実施例】
【0026】
本発明を以下の実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、標記を簡潔にするため、以下の略記号を使用する。
ATMAC:アダマンチルトリメチルアンモニウム炭酸メチル塩
DMAA:N,N−ジメチルアダマンチルアミン
BTMAI:ヨウ化ベンジルトリメチルアンモニウム
DMBA:N,N−ジメチルベンジルアミン
【0027】
実施例1
ATMAC1.34g、塩化ナトリウム0.29g、塩化カリウム0.37gを含有する水溶液50gを塩酸で中和し、pH7.01にした。水を減圧留去した後、これにトリエチレンテトラミン25.86gを加え、150℃で1時間加熱した。この液を冷却後、水60gを添加し、ジクロロメタン20mlで3回抽出した。なお、トリエチレンテトラミンは水に易溶のため、水層に残り、ジクロロメタンには抽出されなかった。このジクロロメタン層を集め、ジクロロメタンを減圧留去したところ、0.87gのDMAAが得られた。このDMAAに炭酸ジメチル10gを加え、オートクレーブ中、145℃、5時間加熱した。炭酸ジメチルを減圧留去して濃縮し、析出した結晶を少量の炭酸ジメチルで洗浄し、乾燥したところ、ATMAC1.28g(処理前のATMAC1.34gを含む水溶液からの回収率95.5%)が得られた。
【0028】
実施例2
BTMAI27.7g、水酸化ナトリウム1.9g、アルミン酸ナトリウム0.5g、ケイ酸ナトリウム0.5g、ポリアクリル酸ナトリウム2μgを含有する水溶液500gを塩酸で中和し、pH6.98にした。水を減圧留去した後、これにエチレンジアミン200gを加え、5時間還流した。エチレンジアミン及びそのメチル化体を減圧留去した後、水500gを加え、ベンゼン200gで3回抽出した。このベンゼン層を集め、ベンゼンを減圧留去した後、DMBAを含む残渣を蒸留し、純度99.8%のDMBAを12.1g得た。このDMBAをジクロロメタン100gに溶解し、ヨウ化メチル20gを少しずつ加えた。その後、80℃で1時間加熱した。過剰のヨウ化メチル及びジクロロメタンを減圧留去するとBTMAI24.9g(処理前のBTMAI27.7gを含む水溶液からの回収率89.9%)が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第四級アンモニウム塩及び水溶性化合物を含有する水溶液から第四級アンモニウム塩を分離、回収する方法において、
(1)第四級アンモニウム塩を三級アミンにする工程、
(2)第四級アンモニウム塩から生成した三級アミンを水溶性化合物から分離する工程、
(3)分離した三級アミンを第四級アンモニウム塩に再生する工程
から成る第四級アンモニウム塩の回収方法。
【請求項2】
第四級アンモニウム塩を三級アミンにする工程が、第四級アンモニウム塩とアミンを加熱し、第四級アンモニウム塩を三級アミンにする工程である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
分離した三級アミンを第四級アンモニウム塩に再生する工程が、分離した三級アミンをアルキル化して、第四級アンモニウム塩に再生する工程である請求項1乃至2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
第四級アンモニウム塩が、アダマンチルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリエチルアンモニウム塩、テトラプロピルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラオクチルアンモニウム塩、フェニルトリメチルアンモニウム塩、フェニルトリエチルアンモニウム塩から成る群より選ばれる少なくとも一種である請求項1乃至3に記載の方法。
【請求項5】
水溶性化合物が、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、鉄塩、ケイ酸塩、アルミン酸塩、アルミノケイ酸塩、鉄塩、チタン酸塩から成る群より選ばれる少なくとも一種である請求項1乃至4に記載の方法。
【請求項6】
第四級アンモニウム塩と加熱するアミンが、水溶性アミンである請求項1乃至5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
第四級アンモニウム塩と加熱するアミンの水への溶解度が、水100gに対して1g以上である請求項2乃至6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
第四級アンモニウム塩と加熱するアミンが、脂肪族アミン、アルカノールアミン、アミノ酸から成る群より選ばれる少なくとも一種である請求項2乃至7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
第四級アンモニウム塩とアミンを加熱する温度が、60〜250℃である請求項2乃至8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
第四級アンモニウム塩から生成した三級アミンを水溶性化合物から分離する工程において、分離する方法が層分離、抽出、蒸留、昇華、晶析、再結晶から成る群より選ばれる少なくとも一種である請求項1乃至9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
分離した三級アミンをアルキル化する際、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸などのジアルキル硫酸、臭化メチル、ヨウ化メチル、臭化エチル、ヨウ化エチルなどのハロゲン化アルキル、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルなどの炭酸アルキルから成る群より選ばれる少なくとも一種をアルキル化剤とする請求項3乃至10のいずれかに記載の方法。

【公開番号】特開2010−95463(P2010−95463A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−266668(P2008−266668)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】