説明

第1級または第2級アルコールの新規酸化方法

【課題】第1級または第2級アルコールの新規酸化方法の提供
【解決手段】下記式(1)


(式中、R0ないしR4は、同一または異なって、直鎖状もしくは分岐状のC1-10アルキル基を表し、また、2つのR0は結合して分子内の窒素原子と共に5−7員の複素環を形成していてもよい。)
で表わされるニトロキシラジカル化合物と共酸化剤を用い、第1級または第2級アルコールの酸化し、アルデヒドまたはケトンを製造する方法において、
共酸化剤として、有機N−ブロモアミド化合物であるか、あるいはN−クロロコハク酸イミドと臭化物イオンの組合せを用いることを特徴とするアルデヒドまたはケトンの製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1級または2級アルコールを酸化し、アルデヒドまたはケトンを製造する新規な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコール類をアルデヒドあるいはケトンに酸化する反応は、有機合成上極めて重要な反応の1つとして挙げられている。触媒量の2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−1−オキシルラジカル(以下、TEMPOという)の存在下、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを用いることで、アルコールを酸化することができることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。また、酸化剤としては、N−クロロコハク酸イミド(以下、NCS)(非特許文献2)やトリクロロイソシアヌル酸等のN−クロロ化合物(特許文献1)を使用できることも報告されている。
【0003】
【特許文献1】特開平9−169685号公報
【非特許文献1】J. Org. Chem., 1987, 52, p.2529
【非特許文献2】J. Org. Chem., 1996, 61, p.7452
【0004】
本発明者らは鋭意検討した結果、N−ブロモアミド化合物もしくはNCSと臭化物イオンの組み合わせを用いることで、TEMPO誘導体を触媒とする有機溶媒中でのアルコールの酸化反応が効率よく進行することを見出し、本発明を完成した。
【0005】
本発明の目的は、1級もしくは2級アルコールを有機溶媒中で酸化し、アルデヒドあるいはケトンを効率よく製造する方法を提供することである。
即ち、本発明は、下記式(1)
【化1】

(式中、R0ないしR4は、同一または異なって、直鎖状もしくは分岐状のC1-10アルキル基を表し、または2つのR0は結合して分子内の窒素原子と共に5−7員の複素環を形成していてもよい。)
で表されるニトロキシラジカル化合物と共酸化剤を用い第1級または第2級アルコールを酸化し、アルデヒドまたはケトンを製造する方法において、
共酸化剤として、有機N−ブロモアミド化合物、あるいはN−クロロコハク酸イミドと臭化物イオンの組合せを用いることを特徴とする、アルデヒドまたはケトンを製造する方法に関する。
【0006】
本発明によれば有機溶媒中での反応であるため、煩雑なpH調整を行うことや生成物の分解を伴わず、さらに共酸化剤を臭化物とすることで反応の汎用性が高くなるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本酸化反応で用いられる触媒は上記式(1)で表わされる化合物であるが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において他の置換基を有していてもよい。例えばR0ないしR4のうち少なくともいずれか1つがC1-6アルコキシ基等で置換されたC1-6アルキル基であってもよい。
上記式(1)で表される化合物は公知の化合物であり、European Patent 574666 and 574667, etc.に記載された方法で製造できる。
【0008】
本反応で用いられる触媒(1)は下記式(1a)で表されるものが好ましい。
【化2】

(式中、R1ないしR4は上記と同じ基を表し、R5およびR6は、共に水素原子もしくはアルコキシ基を表すか、または一方は水素原子を表し、他方がヒドロキシル基、アルコキシ基、アシロキシ基、もしくはアシルアミノ基を表すか、あるいはR5とR6は一緒になって、式(a)〜(c)
【化3】

(上記式中R9はC1-6アルキルを表し、R10およびR11は、水素原子または同一もしくは異なって、C1-6アルキル基を表す。)で示されるケタール基のいずれかを表す。)
【0009】
特に好ましくは、R1ないしR4がメチル基で、R5およびR6が、共に水素原子を表すか、または一方が水素原子を表し、他方がヒドロキシル基、メトキシ基、アセトキシ基、ベンゾイロキシ基もしくはアセトアミノ基の場合である。
【0010】
式(1)で示される触媒の使用量は、基質であるアルコールに対して0.01〜30モル%が好ましく、特に好ましくは0.05〜5モル%である。
【0011】
本発明で用いられる共酸化剤として適切である有機N−ブロモアミド化合物は、例えばN−ブロモアセトアミド(以後、「NBA」と略す。)、N−ブロモコハク酸イミド(以後、「NBS」と略す。)、トリブロモイソシアヌル酸、ジブロモジメチルヒダントイン、N−ブロモフタル酸イミドなどが挙げられる。中でも、NBA、NBSが好適に用いられる。
【0012】
共酸化剤としてN−クロロコハク酸イミドと臭化物イオンの組合せを用いた場合の臭化物イオン源としては、臭化ナトリウム、臭化カリウムなどアルカリ金属臭化物、テトラブチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリメチルアンモニウムブロミドのような臭化物第4級アンモニウム塩などを用いるのが好ましい。
【0013】
共酸化剤として有機N−ブロモアミド化合物を使用する場合は、基質であるアルコールに対して当該有機N−ブロモアミド化合物は1.05〜2当量用いるのが好ましく、さらに好ましくは、1.1〜1.5当量である。
【0014】
一方、共酸化剤としてN−クロロコハク酸イミドと臭化物イオンの組合せを使用する場合には、基質であるアルコールに対して当該N−クロロコハク酸イミドは1.05〜2当量用いるのが好ましく、さらに好ましくは、1.1〜1.5当量である。また、臭化物イオンは、基質であるアルコールに対して1〜100モル%用いることができ、好ましくは5〜20モル%である。
【0015】
本発明で基質として用いられるアルコールとしては、アルコール性の1級または2級水酸基を有する化合物であれば特に限定はされず、具体的には、1−オクタノール、1−ノナノール、2−オクタノールのような直鎖もしくは分枝の第1級又は第2級アルキルアルコール、シクロヘキサノール、シクロへプタノールのようなシクロアルキルアルコール、フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、p-メトキシベンジルアルコールのような置換もしくは無置換のアラルキル基を有するアルコールなどが挙げられる。またグリセロールアセトニドも好適に用いられる。
【0016】
本発明方法においては、水を使用する必要がない。この場合、粘度調整等を目的として適宜、適当な有機溶媒を使用することができ、例えばテトラヒドロフラン(以後、「THF」と略す。)、ジエチルエーテル、1,2−ジエトキシエタン、メチルt―ブチルエーテル(以後、「MTBE」と略す。)などのエーテル系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、ベンゼン、トルエンなどの芳香族系の溶媒、ヘキサン、ヘプタンなどの炭化水素系の溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどケトン系の溶媒、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタンなどのようなハロゲン系の溶媒、t−ブタノール、t−アミルアルコールなどの3級アルコールなどが挙げられる。好ましくは、エステル系、ケトン系、ハロゲン系の溶媒である。
【0017】
反応温度は、特に限定されないが、−50〜100℃が好ましく、さらに好ましくは−15〜30℃である。
【0018】
本発明による酸化反応により副生する臭化水素を中和するために塩基を用いてもよい。その場合、好ましい塩基としては、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素カリウムなどの無機塩基、またはトリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジンなどの有機塩基を使用することができる。生成物のアルデヒドが不安定な場合、適当な化合物をさらに反応させ安定な物質に誘導すればよい。
【0019】
基質であるアルコールに光学活性体を使用すれば、本発明の酸化法において顕著なラセミ化は起こらず、光学活性の維持された相当する生成物が得られる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、各実施例において、生成物はガスクロマトグラフによる分析により、標品と同一の保持時間を示すことを確認した。
【0021】
[実施例1]
1−オクタナールの製造
1−オクタノール 2.0g(15.4mmol)、炭酸水素ナトリウム 1.6g(18.5mmol)、TEMPO 24mg(0.15mmol)、ジクロロメタン 15mLを50mLのナスフラスコに入れた。この懸濁液を氷浴につけ、10℃以下とし、NBS 3.0g(16.9mmol)を3回に分けて投入した。溶媒に不要な塩をろ過により除去し、ろ液を5%重曹水で洗浄した。粗生成物を蒸留により精製し、1−オクタナールが1.74g(収率88%)得られた。
【0022】
[実施例2]
1−オクタナールの製造
1−オクタノール 2.0g(15.4mmol)、酢酸ナトリウム 1.8g(21.6mmol)、4−ヒドロキシTEMPO 53mg(0.31mmol)、ジクロロメタン 15mLを50mLのナスフラスコに入れた。この懸濁液を氷浴につけ、10℃以下とし、NBA 2.5g(18.5mmol)を2回に分けて投入した。溶媒に不要な塩をろ過により除去し、ろ液を5%重曹水で洗浄した。粗生成物を蒸留により精製し、1−オクタナールが1.78g(収率90%)得られた。
【0023】
[実施例3]
1−オクタナールの製造
1−オクタノール 2.0g(15.4mmol)、炭酸水素ナトリウム 1.6g(18.5mmol)、4−メトキシTEMPO 29mg(0.15mmol)、臭化ナトリウム 0.16g(1.54mmol)、1,2−ジクロロエタン 15mLを50mLのナスフラスコに入れた。この懸濁液を氷浴につけ、10℃以下とし、NCS 2.3g(16.9mmol)を2回に分けて投入した。溶媒に不要な塩をろ過により除去し、ろ液を5%重曹水で洗浄した。粗生成物を蒸留により精製し、1−オクタナールが1.67g(収率85%)得られた。
【0024】
[実施例4]
1−ヘキサナールの製造
1−ヘキサノール 2.0g(19.6mmol)、炭酸ナトリウム 1.2g(11.8mmol)、4−アセトアミノTEMPO 42mg(0.20mmol)、ジクロロメタン 15mLを50mLのナスフラスコに入れた。この懸濁液を氷浴につけ、10℃以下とし、NBS 3.8g(21.6mmol)を4回に分けて投入した。溶媒に不要な塩をろ過により除去し、ろ液を5%重曹水で洗浄した。粗生成物を蒸留により精製し、1−ヘキサナールが1.77g(収率90%)得られた。
【0025】
[実施例5]
フェニルアセトアルデヒドの製造
β−フェネチルアルコール 2.0g(16.4mmol)、酢酸ナトリウム 2.0g(24.6mmol)、TEMPO 26mg(0.16mmol)、酢酸エチル 15mLを50mLのナスフラスコに入れた。この懸濁液を氷浴につけ、10℃以下とし、NBS 3.2g(18.0mmol)を2回に分けて投入した。溶媒に不要な塩をろ過により除去し、ろ液を5%重曹水で洗浄した。粗生成物を蒸留により精製し、フェニルアセチルアルデヒドが1.67g(収率85%)得られた。
【0026】
[実施例6]
2−オクタノンの製造
2−オクタノール 2.0g(15.4mmol)、炭酸水素ナトリウム 1.6g(18.5mmol)、TEMPO 24mg(0.15mmol)、1,2−ジクロロエタン 15mLを50mLのナスフラスコに入れた。この懸濁液を氷浴につけ、10℃以下とし、NBS 3.0g(16.9mmol)を2回に分けて投入した。溶媒に不要な塩をろ過により除去し、ろ液を5%重曹水で洗浄した。粗生成物を蒸留により精製し、2−オクタノンが1.88g(収率95%)得られた。
【0027】
[実施例7]
シクロヘキサノンの製造
シクロヘキサノール 2.0g(20mmol)、炭酸ナトリウム 1.3g(12mmol)、4−アセトアミノTEMPO 43mg(0.2mmol)、THF 15mLを50mLのナスフラスコに入れた。この懸濁液に、NBS 3.9g(22mmol)を2回に分けて投入した。溶媒に不要な塩をろ過により除去し、ろ液を5%重曹水で洗浄した。粗生成物を蒸留により精製し、シクロヘキサノンが1.73g(収率88%)得られた。
【0028】
[実施例8]
ベンズアルデヒドの製造
ベンジルアルコール 2.0g(18.5mmol)、炭酸カリウム 1.5g(11.1mmol)、4−ヒドロキシTEMPO 31mg(0.19mmol)、テトラブチルアンモニウムブロミド 0.5g(1.9mmol)、MTBE 15mLを50mLのナスフラスコに入れた。この懸濁液を氷浴につけ、10℃以下とし、NCS 2.7g(20.4mmol)を3回に分けて投入した。溶媒に不要な塩をろ過により除去し、ろ液を5%重曹水で洗浄した。粗生成物を蒸留により精製し、ベンズアルデヒドが1.77g(収率90%)得られた。
【0029】
[実施例9]
p−アニスアルデヒドの製造
p−メトキシベンジルアルコール 2.0g(14.5mmol)、炭酸ナトリウム 0.9g(8.7mmol)、TEMPO 23mg(0.15mmol)、ベンジルトリメチルアンモニウムブロミド 0.3g(1.5mmol)、ジクロロメタン 15mLを50mLのナスフラスコに入れた。この懸濁液を氷浴につけ、10℃以下とし、NCS 2.1g(16mmol)を2回に分けて投入した。溶媒に不要な塩をろ過により除去し、ろ液を5%重曹水で洗浄した。粗生成物を蒸留により精製し、p−アニスアルデヒドが1.62g(収率82%)得られた。
【0030】
[実施例10]
(R)−3−(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)−2−プロペン酸メチルの製造
(R)−グリセロールアセトナイド 5.0g(37.8mmol)、炭酸水素ナトリウム 4.8g(56.7mmol)、4−アセトキシTEMPO 41mg(0.19mmol)、THF 50mLを200mLの3つ口フラスコに入れた。この懸濁液を氷浴につけ10℃以下にし、NBS 8.1g(45.4mmol)を3回に分けて加えた。溶媒に不溶な塩をろ過により除去し、ろ液を0℃にまで冷却し、トリフェニルホスホラニリデン酢酸メチル 15.1g(45.4mmol)を加え、0℃で16時間攪拌した。反応液にヘキサン100mL加え、不溶物をろ過により除去し、ろ液を濃縮した。その粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、目的のエステルがトランス体/シス体=29/71の比で5.3g(収率75%)得られた。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、第1級または第2級アルコールを原料として、それを酸化反応させることでアルデヒドまたはケトンの製造を行う有機合成化学工業分野において有効に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(式中、R0ないしR4は、同一または異なって、直鎖状もしくは分岐状のC1-10アルキル基を表し、または2つのR0が結合して分子内の窒素原子と共に5−7員の複素環を形成していてもよい。)
で表わされるニトロキシラジカル化合物と共酸化剤を用い、第1級または第2級アルコールを有機溶媒中で酸化し、アルデヒドまたはケトンを製造する方法において、
共酸化剤として有機N−ブロモアミド化合物、またはN−クロロコハク酸イミドと臭化物イオンの組合せを用いることを特徴とするアルデヒドまたはケトンを製造する方法。
【請求項2】
ニトロキシラジカル化合物が一般式(1a)
【化2】

(式中、R1ないしR4は請求項1と同じ基を表し、R5およびR6は、共に水素原子もしくはC1-6アルコキシ基を表すか、または一方は水素原子を表し、他方がヒドロキシル基、C1-6アルコキシ基、アシロキシ基、もしくはアシルアミノ基を表すか、あるいはR5とR6は一緒になって、式(a)〜(c)
【化3】

(上記式中R9はC1-6アルキルを表し、R10およびR11は、水素原子または同一もしくは異なって、C1-6アルキル基を表す。)で示されるいずれかのケタール基を表す。)
で表される化合物である請求項1記載の方法。
【請求項3】
ニトロキシラジカル化合物(1a)においてR1ないしR4がメチル基を表し、R5およびR6が共に水素原子であるか、または一方が水素原子で、他方がヒドロキシル基、メトキシ基、アセトキシ基、ベンゾイロキシ基もしくはアセトアミノ基である請求項2記載の方法。
【請求項4】
共酸化剤が有機N−ブロモアミド化合物である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
有機N−ブロモアミド化合物がN−ブロモコハク酸イミドまたはN−ブロモアセトアミドである請求項4記載の方法。
【請求項6】
共酸化剤がN−クロロコハク酸イミドと臭化物イオンの組合せである請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
臭化物イオン源がアルカリ金属臭化物または臭化物第4級アンモニウム塩である請求項6記載の方法。
【請求項8】
臭化物イオン源が、臭化ナトリウムまたは臭化カリウムである請求項6記載の方法。

【公開番号】特開2006−182764(P2006−182764A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−339162(P2005−339162)
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(000108993)ダイソー株式会社 (229)
【Fターム(参考)】