説明

第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体からなる化粧品基材及びそれを含有する化粧料

【課題】陽イオン性物質との相溶性が良く、乳化物に配合しても液相分離の原因にならず、従って、ヘアリンスやヘアトリートメントなどの毛髪コンディショニング剤に配合しやすく、かつ、毛髪への吸着性能が高く、又、酸性条件下でも溶解性に優れるため、弱酸性透明化粧料への配合が可能である化粧品基材と当該化粧品基材を配合した化粧料を提供することを課題とする。
【解決手段】
加水分解タンパク又はアミノ酸の誘導体であって、第4級アンモニウム原子を含む官能基が結合したアミノ基、及びグリセリンがエステル結合したカルボキシ基を有する第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体で化粧品基材を構成する。また、当該化粧品基材を含有させることで化粧料を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体からなる化粧品基材及びそれを含有する化粧料に関するものである。詳しくは、本発明は、加水分解タンパク又はアミノ酸のアミノ基に第4級アンモニウムを含む官能基が共有結合し、かつカルボキシ基がグリセリンとエステル結合した第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体からなり、化粧料、特にヘアリンスやヘアトリートメントなどの毛髪コンディショニング剤や弱酸性化粧料に配合しやすい化粧品基材及びそれを含有する化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
加水分解タンパク、アミノ酸、又はそれらの誘導体からなる化粧品基材は、ヘアリンス、ヘアトリートメントなどの毛髪コンディショニング剤などに配合され、毛髪にハリや艶を付与するために用いられている。中でも、第4級アンモニウム化加水分解タンパクや第4級アンモニウム化アミノ酸からなる化粧品基材は、傷んだ毛髪への吸着性が高く、毛髪に柔軟性と帯電防止作用を付与する効果が大きいので、ヘアリンス、ヘアトリートメントなどの毛髪コンディショニング剤を中心として、毛髪化粧料や皮膚化粧料に広く利用されている(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
しかし、ヘアリンス、ヘアトリートメントなどの乳化系化粧料を調製する際には、一般的に高級アルコールとアルキルアンモニウム塩による乳化法が用いられるが、第4級アンモニウム化加水分解タンパクや第4級アンモニウム化アミノ酸は、この乳化系と相性が悪く、多量に配合された場合には乳化できず液相分離の原因となっていた。また、第4級アンモニウム化加水分解タンパクや第4級アンモニウム化アミノ酸の中には水溶性が低いものがあり、特に近年の化粧料で好まれている弱酸性領域では溶解せずに濁りや沈殿を生じるものが多かった。そして、これらの理由が第4級アンモニウム化加水分解タンパクや第4級アンモニウム化アミノ酸を化粧料へ配合する際の障害となっていた。
【0004】
化粧品に配合される加水分解タンパクの誘導体としては、加水分解タンパクのカルボキシ基とアルコールを脱水縮合させて得られるアルキルエステル化加水分解タンパクも知られている(特許文献3)。しかし、このアルキルエステル化加水分解タンパクは、水溶性化粧品中では不溶化しやすく、ヘアトニックやヘアスプレーなどのアルコールを含む化粧品でしか使用できないといった問題があった。
【0005】
又、コラーゲンをアルキルオキシアルキレングリコール誘導体でエステル化した修飾コラーゲンを化粧品に使用する提案もなされている(特許文献4)。しかし、このタンパク質のエステル化誘導体は、高分子量のコラーゲンが用いられているため毛髪化粧料には不向きである。さらに、その製造は、グリコール誘導体と有機溶媒の存在下で固体状又は粉末のコラーゲンをエステル化して行われるので、工程が煩雑であり、有機溶媒を使用するとの問題も有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2878287号公報
【特許文献2】特開昭60−243010号公報
【特許文献3】特開平2−142712号公報
【特許文献4】特開平9−77631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来技術の上記の問題を解決する化粧品基材を提供することを課題とする。すなわち、乳化物に配合しても液相分離の原因にならず、従って、ヘアリンスやヘアトリートメントなどの乳化系化粧料に配合しやすく、かつ、酸性条件下でも溶解性に優れるため、弱酸性透明化粧品への配合が可能である化粧品基材と当該化粧品基材を含有した化粧料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、加水分解タンパクやアミノ酸のアミノ基に第4級アンモニウムを含む官能基が結合し、かつカルボキシ基がグリセリンとエステル結合してなる第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体が、乳化物に配合しても液相分離の原因にならず、又、酸性条件下でも溶解性に優れることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
加水分解タンパク又はアミノ酸の誘導体であって、
アミノ基の一部に第4級アンモニウム官能基が結合し、カルボキシ基の一部に
下記の一般式(I):
【化1】

で表わされる官能基がエステル結合した第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体からなることを特徴とする化粧品基材(請求項1)を提供するものである。
【0010】
本発明の化粧品基材は、乳化物に配合しても液相分離の原因にならないため、ヘアリンスやヘアトリートメントなどの乳化系を壊すことがない。従って、ヘアリンスやヘアトリートメントなどの毛髪コンディショニング剤を始めとして、多くの乳化系化粧料に容易に配合できる。さらに、酸性条件下でも溶解性に優れるため弱酸性化粧品への配合が可能であり、弱酸性透明化粧品に多量に配合しても、濁りや沈澱などの問題を生じにくい。
【0011】
本発明の化粧品基材は、後述するように、有機溶媒を使用せずに水系での製造が可能である。従って、上記の効果に加えて、工業的に容易な製造が可能との効果も有する。
【0012】
本発明の化粧品基材を構成する第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体は、加水分解タンパク又はアミノ酸の誘導体である。加水分解タンパクとは、タンパク質(タンパク源)を酸、アルカリ、酵素、又はそれらの併用などにより部分加水分解して得られる2以上のアミノ酸単位がペプチド結合(−CO−NH−)した主鎖からなり、その末端にアミノ基及びカルボキシ基を有するペプチドを意味する。また、アミノ酸とは微生物を用いた発酵法によって得られるアミノ酸や天然物から単離されるアミノ酸を意味するのに加え、タンパク質の全分解によって得られるアミノ酸も本発明の化粧品基材を構成するアミノ酸に該当する。
【0013】
本発明の化粧品基材を構成する第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体は、加水分解タンパクやアミノ酸と第4級アンモニウム化剤を水溶液中で反応させて、加水分解タンパク又はアミノ酸のアミノ基に第4級アンモニウムを含む官能基を共有結合して第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸を合成した後、そのカルボキシ基にグリシドールを反応させて製造することができる。
【0014】
第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体は、先ず、加水分解タンパク又はアミノ酸のカルボキシ基にグリシドールを反応させて加水分解タンパクグリセリンエステル誘導体又はアミノ酸グリセリンエステル誘導体にした後、加水分解タンパクグリセリンエステル誘導体又はアミノ酸グリセリンエステル誘導体のアミノ基に第4級アンモニウム化剤を反応させて製造することもできる。しかし、加水分解タンパク又はアミノ酸のアミノ基と第4級アンモニウム化剤との反応は塩基性側で行われるため、加水分解タンパク又はアミノ酸のグリセリンエステル誘導体のエステル結合が加水分解によって切断される。したがって、このような製造法では、エステル化率が低い第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体が得られるため、加水分解タンパク又はアミノ酸を第4級アンモニウム化誘導体にした後、グリセリンエステル化するのが好ましい。
【0015】
請求項2に記載の発明は、加水分解タンパク又はアミノ酸の全カルボキシ基の50%以上が、一般式(I)で表わされる官能基によりエステル化されていることを特徴とする請求項1に記載の化粧品基材である。ここで、全カルボキシ基とは、加水分解タンパクが酸性アミノ酸単位を含む場合は、主鎖末端のカルボキシ基とともに、側鎖のカルボキシ基も含む意味である。また、酸性アミノ酸の場合はα位の炭素に結合するカルボキシ基とともに、側鎖のカルボキシ基を含む意味である。第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のカルボキシ基のエステル化率は特に限定されないが、エステル化率が50%以下では、グリセリンエステル化の効果が十分発揮されない傾向がある。
【0016】
請求項3に記載の発明は、第4級アンモニウム官能基が下記の一般式(II):
【0017】
【化2】

【0018】
(式中、R、R、Rは同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜22のアルキル基または炭素数2〜22のアルケニル基、あるいはR〜Rのうち1個または2個が炭素数1〜22のアルキル基または炭素数2〜22のアルケニル基で、残りが炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基またはベンジル基を表す。Aは炭素数2〜3の飽和炭化水素または炭素数2〜3の水酸基を有する飽和炭化水素を、Xはハロゲン原子を表す)で表わされることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の化粧品基材である。第4級アンモニウム官能基とは、アミノ基と結合できる一価の基であるが、中でも、一般式(II)で表わされる第4級アンモニウム官能基が好ましい。
【0019】
請求項4に記載の発明は、加水分解タンパク又はアミノ酸の全アミノ基の50%以上に、一般式(II)で表わされる官能基が結合していることを特徴とする請求項3に記載の化粧品基材である。ここで、全アミノ基とは加水分解タンパクが塩基性アミノ酸単位を含む場合は、主鎖末端のアミノ基とともに、側鎖のアミノ基も含む意味である。又、塩基性アミノ酸の場合は、α位の炭素に結合するアミノ基とともに、側鎖のアミノ基を含む意味である。
【0020】
加水分解タンパクやアミノ酸への第4級アンモニウム官能基の導入率の好ましい範囲は、加水分解タンパクやアミノ酸の分子量やアミノ基の存在割合によって変わるが、概ね、加水分解タンパク又はアミノ酸のアミノ基の50%以上に導入するのが好ましい。第4級アンモニウム官能基の加水分解タンパク又はアミノ酸への導入率が上記範囲以下では、第4級アンモニウム官能基に起因する毛髪に柔軟性と帯電防止作用を付与する効果が十分発揮されない傾向がある。
【0021】
加水分解タンパクやタンパク質の全分解によって得られるアミノ酸のタンパク源としては、動物性タンパク質、植物性タンパク質、及び微生物由来のタンパク質などが挙げられる。加水分解タンパクやアミノ酸を構成するアミノ酸としては、側鎖にカルボキシ基を有する酸性アミノ酸、側鎖にアミノ基を有する塩基性アミノ酸、及び側鎖にはアミノ基もカルボキシ基も有さない中性アミノ酸を挙げることができる。
【0022】
側鎖にカルボキシ基を有する酸性アミノ酸を多く含んでいる加水分解タンパクやアミノ酸は強酸性官能基であるスルホン酸基を有するシステイン酸を多く含む損傷毛髪に吸着しにくいという問題がある。また、加水分解タンパク質やアミノ酸のカルボキシ基は、高級アルコールとアルキルアンモニウム塩による乳化法によって調製されるO/W乳化との相性が悪く、この問題は、アミノ基に第4級アンモニウム官能基を付加した第4級アンモニウム化加水分解タンパクや第4級アンモニウム化アミノ酸においても同様である。前記タンパク源の中では、植物性タンパク質は、酸性アミノ酸を多く含んでいるので、植物性タンパク質から得られる第4級アンモニウム化加水分解植物タンパクの場合にこの問題が特に大きい。又、アミノ酸の中では、1分子中にカルボキシ基を2つ有するグルタミン酸とアスパラギン酸の場合にこの問題が特に大きい。
【0023】
しかし、加水分解タンパク又はアミノ酸のカルボキシ基をグリセリンエステル化することによって、第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸はヘアリンスやヘアコンディショナーなどのO/W乳化系化粧品中でも乳化系を壊すことなく存在できるため、本発明の効果、すなわち第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体化の効果は、酸性アミノ酸を多く含んでいる加水分解タンパク、例えば加水分解タンパクのタンパク源が植物性タンパク質の場合や、アミノ酸ではグルタミン酸やアスパラギン酸の場合、特に大きい。そこで本発明は、第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体が、植物タンパク質の加水分解物より得られることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の化粧品基材を、請求項5として提供する。
【0024】
請求項6に記載の発明は、前記加水分解タンパクのアミノ酸平均重合度が、2〜50であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の化粧品基材である。
【0025】
加水分解タンパク部分のアミノ酸平均重合度は、毛髪や皮膚への吸着性や浸透性、化粧料に配合した際の化粧料の安定性の面から、通常では1以上400以下の範囲から選択されるが、2〜50が好ましく、3〜30がより好ましい。加水分解タンパクのアミノ酸平均重合度が上記範囲以上では、保存中に凝集しやすく、化粧料の安定性が悪くなる。
【0026】
本発明の第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体からなる化粧品基材は、O/W乳化物に配合しても液相分離の原因にならない、酸性条件下でも溶解性に優れるなどの優れた特徴を有するので、毛髪化粧料や皮膚化粧料などへの配合が容易であり、第4級アンモニウム化加水分解タンパクや第4級アンモニウム化アミノ酸が本来有するような優れた効果、例えば、毛髪に柔軟性と帯電防止作用を付与する機能を発揮することができる。
【0027】
特に、毛髪化粧料に配合された場合は、毛髪への吸着性能が高いとの特徴により、毛髪に柔軟性と帯電防止作用を付与する機能を十分に発揮することができる。化粧料の中でも毛髪化粧料、特にヘアリンスやヘアトリートメントなどの毛髪コンディショニング剤に含有させたとき、本発明の効果が奏される。本発明は、請求項7として、前記請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の化粧品基材を含有することを特徴とする化粧料も提供する。
【発明の効果】
【0028】
本発明の化粧品基材は、毛髪に柔軟性と帯電防止作用を付与するとの優れた機能を有するとともに、O/W乳化物に配合しても液相分離の原因にならない、毛髪への吸着性能が高い、酸性条件下でも溶解性に優れるとの優れた効果を奏する。そして、O/W乳化物に配合しても液相分離の原因にならないため、ヘアリンスやヘアトリートメントなどの乳化系を壊すことがない、従って、ヘアリンスやヘアトリートメントなどの乳化系化粧料に容易に配合できる。又、毛髪への吸着性能が高いので、毛髪に柔軟性を付与し、また帯電防止作用を十分に発揮することができる。さらに、酸性条件下でも溶解性に優れるため弱酸性化粧品への配合が可能であり、弱酸性透明化粧品に多量に配合しても、濁りや沈澱などの問題を生じにくい。従って、化粧料、特に毛髪化粧料に好適に用いられ、毛髪への柔軟性の付与や帯電防止作用が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例1で使用した第4級アンモニウム化加水分解エンドウタンパクのIRスペクトルである。
【図2】実施例1で得られた第4級アンモニウム化加水分解エンドウタンパクグリセリンエステル誘導体のIRスペクトルである。
【図3】実施例1の第4級アンモニウム化加水分解エンドウタンパクグリセリンエステル誘導体水溶液及び第4級アンモニウム化加水分解エンドウタンパク水溶液の0.1mol/L塩酸添加によるpHの変化を示したグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
次に、本発明を実施するための形態をより具体的に説明する。本発明の化粧品基材を構成する第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体の好ましい形態は、下記の一般式(III)で表わされる。
【0031】
【化3】

式(III)中、Rは側鎖の末端にアミノ基を有する塩基性アミノ酸の末端アミノ基を除く側鎖の残基を表わし、Rは側鎖の末端にカルボキシ基を有する酸性アミノ酸の末端カルボキシ基を除く側鎖の残基を表わし、Rは中性アミノ酸(側鎖の末端にアミノ基及びカルボキシ基のいずれも有しないアミノ酸)の側鎖の残基を表わし、a、b及びcは、それぞれ独立に0以上の整数を表わす。
【0032】
又、Rは水素又は式(II)で表わされる基を表わすが、少なくとも一部は式(II)で表わされる基であり、好ましくは50%以上が式(II)で表わされる基である。又、Rは水素又は前記式(I)で表わされる基を表わすが、少なくとも一部は式(I)で表わされる基であり、好ましくは50%以上が式(I)で表わされる基である。
【0033】
なお、a、b及びcは、アミノ酸の数を示すのみで、アミノ酸配列の順序を示すものではない。また、a、b、cやa+b+cは理論的に整数であるが、加水分解タンパクにおいては分子量の異なるものの混合物として得られるため、測定値は平均値になり通常整数以外になることが多い。
【0034】
前記のように加水分解タンパクのアミノ酸平均重合度は、2〜50の範囲内が好ましい。従って、一般式(III)において、アミノ酸平均重合度は、a+b+cが2〜50であることが好ましい。a+b+cのより好ましい範囲は、3〜30である。
【0035】
前記第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体を構成する各アミノ酸単位の数、すなわち、第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体の1分子内の側鎖にアミノ基を有する塩基性アミノ酸単位(式(III)でaが付されているアミノ酸単位)、側鎖にカルボキシ基を有する酸性アミノ酸単位(式(III)でbが付されているアミノ酸単位)、及びそれ以外のアミノ酸単位(式(III)でcが付されているアミノ酸単位)、それぞれの数の好ましい範囲はその用途や原料事情、各アミノ酸単位の種類などにより変動し、特に限定されない。ただし、第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体は、通常の毛髪化粧品に用いられる多くの場合は、a+b+cが1以上かつ50以下である範囲で、aは0〜35が好ましく、1〜5がより好ましく、bは0〜30が好ましく、1〜20がより好ましく、又、cは0〜50が好ましく、1〜40がより好ましい。
【0036】
aが上記範囲より大きくなると、側鎖のアミノ基に結合する第4級アンモニウム基が増え、化粧料の安定性に悪影響を及ぼす場合がある。一方、bとcが上記範囲より大きくなると、加水分解タンパクに対する第4級アンモニウム官能基の割合が低くなり、第4級アンモニウム化合物が有する傷んだ毛髪への吸着性が高く、毛髪に柔軟性と帯電防止作用を付与する効が十分に発揮されなくなる傾向がある。又、bが上記範囲より大きくなると、第4級アンモニウム化加水分解タンパクグリセリンエステル誘導体に導入されるグリセリン部が多くなり、毛髪や皮膚に適用した際に、べたつき感を与える場合がある。
【0037】
次に、本発明の化粧品基材を構成する第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体の製造に使用される、加水分解タンパク、第4級アンモニウム化加水分解タンパク及び第4級アンモニウム化アミノ酸について、詳しく説明する。
【0038】
[加水分解タンパク]
本発明の第4級アンモニウム化加水分解タンパクグリセリンエステル誘導体を構成する加水分解タンパク部分は、タンパク質(タンパク源)を酸、アルカリ、酵素、又はそれらの併用によって加水分解することで得られ、このタンパク源としては、動物性タンパク質、植物性タンパク質、及び微生物由来のタンパク質などが挙げられる。動物性タンパク質としては、コラーゲン(その変性物であるゼラチンも含む)、ケラチン、フィブロイン、セリシン、カゼイン、コンキオリン、エラスチン、プロタミン、鶏などの卵黄タンパク質や卵白タンパク質などを挙げることができ、植物性タンパク質としては、大豆、小麦、米(米糠)、ゴマ、エンドウ、トウモロコシ、イモ類などに含まれるタンパク質や海苔、コンブ、ワカメ、スピルリナなどの藻類から得られるタンパク質を挙げることができる。また、微生物由来のタンパク質としては、サッカロミセス属、カンディダ属、エンドミコプシス属の酵母菌、ビール酵母や清酒酵母といわれる酵母菌より分離した酵母タンパク質、キノコ類(担子菌)やクロレラより分離したタンパク質などを挙げることができる。
【0039】
加水分解タンパク中の、塩基性アミノ酸、酸性アミノ酸、及びそれ以外のアミノ酸の存在割合は、タンパク源におけるアミノ酸の存在割合にほぼ依存する。天然タンパク質の加水分解物では、塩基性アミノ酸が全アミノ酸の70mol%以上のものは希であり、又、酸性アミノ酸は植物性タンパク質には多量に含まれているが、60mol%を超えるものは希である。式(III)におけるa、b、cの数値については、前記のように好ましい範囲を考えることができるが、化粧品原料として一般に用いられている天然タンパク質をタンパク源として用いる場合は、a+b+cに占めるaの割合は最大でも70mol%であり、a+b+cに占めるbの割合は最大でも60mol%である。
【0040】
[第4級アンモニウム化加水分解タンパク及び第4級アンモニウム化アミノ酸]
第4級アンモニウム化加水分解タンパクや第4級アンモニウム化アミノ酸は、アルカリ条件下で加水分解タンパクやアミノ酸と第4級アンモニウム化剤とを反応させることによって得られる。第4級アンモニウム化剤の具体例としては、例えば、グリシジルステアリルジメチルアンモニウムクロリド、グリシジルヤシ油アルキルジメチルアンモニウムクロリド、グリシジルラウリルジメチルアンモニウムクロリド、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリドなどのグリシジルアンモニウム塩、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルステアリルジメチルアンモニウムクロリド、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルヤシ油アルキルジメチルアンモニウムクロリド、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルラウリルジメチルアンモニウムクロリド、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルエチルジメチルアンモニウムクロリド、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドなどの3−ハロ−2−ヒドロキシプロピルアンモニウム塩、2−クロロエチルトリメチルアンモニウムクロリドなどの2−ハロ−エチルアンモニウム塩、3−クロロプロピルトリメチルアンモニウムクロリドなどの3−ハロ−プロピルアンモニウム塩などが挙げられる。加水分解タンパクやアミノ酸と、上記の第4級アンモニウム化剤の反応は、特開昭60−243010号公報、又は特許第2878287号公報などに記載されている方法に準じて行うことができる。
【0041】
より具体的には、pHを9〜11に調整した加水分解タンパク水溶液又はアミノ酸水溶液を40〜60℃に加温し、その中に第4級アンモニウム化剤を滴下して1〜5時間撹拌を続けて反応させることで、第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸を得ることができる。
【0042】
[第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体]
本発明の第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体は、上記のようにして得られた第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のカルボキシ基(主鎖末端のカルボキシ基とともに、アミノ酸側鎖のカルボキシ基も含む。)をグリセリンエステル化(グリセリルエステル化)したものである。第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体は、次の一般式(IV)
【0043】
【化4】

で表わされるグリシドール(2,3−エポキシ−1−プロパノール)を酸性条件下で第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸に反応させることによって行われる。
【0044】
具体的には、第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸の水溶液のpHを1〜6、好ましくは2〜5、より好ましくは3.5〜4.5に調整し、撹拌下にてグリシドールを滴下して反応させる。なお、グリセリンエステル化反応時のpHが高いと第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸の残存しているアミノ基にグリシドールが反応するため、pHは6以下、好ましくは5以下、より好ましくは4.5以下に保つ必要がある。
【0045】
第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸の水溶液を酸性に調整する酸としては、硫酸、リン酸、硝酸、塩酸などの無機酸が挙げられるが、硫酸やリン酸、硝酸などの求核性の低い酸が好ましい。第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル化は、グリシドールのエポキシ基への第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のカルボキシ基の求核反応によって生じると考えられる。そのため、酸剤に塩酸を用いた場合、塩酸の塩化物イオンが、第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のカルボキシ基と競合的にグリシドールと反応してしまい、第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル化を妨げることがある。又、塩化物イオンとグリシドールの反応によって生じる化合物は、クロロヒドリンであり、このクロロヒドリンは化粧品原料として好ましくないため、第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル化反応に塩酸を用いた場合は、生じたクロロヒドリンを除去する工程が必要になるので、塩酸以外の硫酸やリン酸、硝酸などが好ましい。
【0046】
反応温度は、室温〜80℃の範囲が好ましく、40〜70℃の範囲がより好ましい。反応温度が上記範囲以下では反応速度が遅くなり、一方、反応温度を80℃以上にしても反応率の上昇が認められないのに加え、第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体が着色や着臭を起こして品質が低下する可能性がある。
【0047】
反応時のグリシドールの滴下時間はグリシドール量や反応温度により異なるが、概ね30分〜3時間であり、滴下終了後は、反応を完結させるために、40〜75℃に加温しながら1〜5時間程度撹拌を続けるのが好ましい。
【0048】
第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のカルボキシ基のエステル化率は50%以上が好ましいので、好ましくはエステル化率が50%以上になるように反応比が調整される。通常は、モル比で、第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のカルボキシ基:グリシドール=1:0.7〜1:3程度でエステル化率が50%以上となるが、加水分解タンパクやアミノ酸の種類やアミノ酸重合度によっては、立体障害の影響などによって反応性が低くなり、グリシドールの反応比率をさらに高くする必要がある場合もある。
【0049】
エステル化反応の進行と終了は、後述するエステル価の測定法に従って、エステル化率を求めることで確認することができる。
【0050】
反応終了後、反応液は各種化粧品に見合ったpHや濃度に調整して化粧品基材として使用できる。又、反応液を中和後、イオン交換樹脂、透析膜、電気透析、ゲルろ過、限外ろ過などによって精製して、毛髪化粧品や皮膚化粧品に配合してもよい。ただし、本発明の第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル化反応では、グリシドールからの副生成物はグリセリンであり、グリセリンは広く化粧品に配合される成分であるため、反応終了後、特に精製することなく、濃度やpHを調整したのみでも毛髪化粧料や皮膚化粧料に配合することが可能である。
【0051】
次に、第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体からなる化粧品基材の用途について説明する。
【0052】
本発明の第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体からなる化粧品基材が配合される化粧料としては、例えば、シャンプー、ヘアリンス、ヘアコンディショナー、枝毛コート、ヘアクリーム、パーマネントウェーブ用第1剤及び第2剤、セットローション、染毛剤、染毛料、液体整髪料、養毛・育毛剤などの毛髪化粧料、クレンジングクリーム、エモリエントクリーム、ハンドクリーム、アフターシェービングローション、シェービングフォーム、洗顔クリーム、洗顔料、ボディーシャンプー、各種石鹸、脱毛剤、フェイスパック、乳液、メイクアップ用品、日焼け止め用品などの皮膚化粧品が挙げられる。
【0053】
本発明の化粧品基材の配合量(化粧料中での含有量)の好ましい範囲は、化粧料の種類により異なり、特に限定することはできないが、化粧料中0.1〜30質量%が好ましい場合が多く、特に1〜20質量%程度が好ましい場合が多い。化粧料中への配合量が上記範囲より少ない場合は、毛髪に柔軟性と帯電防止作用を付与する効果が充分に発揮されない場合がある。又、第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体からなる化粧品基材の配合量が上記範囲より多くなっても、それに見合う効果の向上が見られず、むしろ毛髪や皮膚に過剰の第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体が吸着してべたつきを生じる場合がある。
【0054】
上記化粧料に、本発明の化粧品基材と併用して配合できる成分としては、例えば、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、カチオン性ポリマー、両性ポリマー、アニオン性ポリマーなどの合成ポリマー、半合成ポリマー類、動植物油、炭化水素類、エステル油、高級アルコール類、アミノ酸類、増粘剤、動植物抽出物、シリコーン類、防腐剤、香料、動植物由来及び微生物由来のタンパク質を加水分解した加水分解タンパク及びそれら加水分解タンパクのエステル化誘導体、第4級アンモニウム誘導体、シリル化誘導体、アシル化誘導体とその塩などが挙げられる。これら以外にも本発明の化粧品基材の特性を損なわない範囲で適宜他の成分を添加することができる。
【実施例】
【0055】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はそれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例中で用いる%はいずれも質量%である。先ず、実施例中で用いるアミノ態窒素量の測定法、総窒素量の測定法、カルボキシ基のモル数の推定法、及びエステル化率の測定法について記述する。
【0056】
[アミノ態窒素と総窒素量の測定法]
実施例中でのアミノ態窒素量の測定は、van Slyke法によって測定した。又、総窒素量の測定は、改良デュマ法によって測定した。
【0057】
[カルボキシ基のモル数の推定法]
第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のカルボキシ基のモル数は以下のようにして求めた。つまり、van Slyke法によって測定して得られたアミノ態窒素量から求めたアミノ態窒素のモル数と等モルの末端カルボキシ基が存在するものとし、アミノ酸分析によって得られた酸性アミノ酸(グルタミン酸とアスパラギン酸)の存在モル数を加水分解タンパク又はアミノ酸の側鎖カルボキシ基のモル数とした。そして、これら末端カルボキシ基のモル数と側鎖カルボキシのモル数の和を加水分解タンパク又はアミノ酸の全カルボキシ基のモル数と推定した。
【0058】
[エステル化率の測定法]
1)先ず、
化粧品原料基準第二版注解に記載されているエステル価測定法に従い、試料1g中のエステルをけん化(鹸化)するのに要する水酸化カリウムのmg数(=エステル価)を算出する。すなわち、試料2〜3gを精密に秤り取り、200mlのフラスコに入れ、エタノール10ml及び1%フェノールフタレインエタノール溶液を数滴加え、0.1mol/L水酸化カリウム水溶液で中和する。次いで、0.5mol/L水酸化カリウムエタノール液(水酸化カリウム35gを水20mlに溶解し、エタノールを加えて1000mlにした溶液)25mlを正確に加え、還流冷却器を付けて水浴上で1時間静かに煮沸する。煮沸後冷却し、0.5mol/Lの塩酸で過量の水酸化カリウムを滴定する。このときの0.5mol/L塩酸の消費量(mL)をpとする。
【0059】
試料を用いない以外は、上記と同様にして(空試験)、0.5mol/L塩酸の消費量を求め、この消費量(mL)をqとする。このようにして得られたp、qと下記の式からエステル価を算出する。なお、28.053は、0.5mol/L塩酸1mLを中和するのに必要な水酸化カリウムのミリグラム数である。
【0060】
【数1】

【0061】
2)次に、前記で得られたエステル価を、水酸化カリウムの分子量で除することで、試料1g中のエステルをけん化するために要する水酸化カリウムのモル数rを算出し、さらに、試料1g中に含まれているカルボキシ基のモル数sからエステル化率を算出する。すなわち、エステル化率は下記の式から求められる。
エステル化率(%)=(r/s)×100
【0062】
なお、実施例で使用した各加水分解タンパクは、それぞれのタンパク源を、酸又はアルカリを使用した公知の方法により(場合により酵素を併用して)、部分加水分解したものである。又、アミノ酸重合度(一般式(III)におけるa+b+c)は、総窒素量とアミノ態窒素量の割合から算出した。又、日立社製のアミノ酸自動分析機を用いたアミノ酸分析によりa:b:cを求め、アミノ酸重合度からa、b、cそれぞれの値を求めた。
【0063】
実施例1:第4級アンモニウム化加水分解エンドウタンパクグリセリンエステル誘導体
加水分解エンドウタンパク[エンドウタンパク質の加水分解物で、一般式(III)におけるa(塩基性アミノ酸)は0.4、b(酸性アミノ酸)は1.3、c(その他のアミノ酸)は2.1で、a+b+cは3.8である。なお、a、b、cは平均値である。以後の実施例においても同じである。]の27%水溶液400g(アミノ基のモル数は0.26mol、カルボキシ基のモル数は0.42mol。なお、アミノ基のモル数は、前記のアミノ態窒素と総窒素量の測定法による測定値より求めた値である。カルボキシ基のモル数は、前記のカルボキシ基のモル数の推定法により得られた値である。以後の実施例においても同じである。)に20%水酸化ナトリウム水溶液を加えpHを10に調整した。この溶液を55℃で撹拌し、この中にグリシジルヤシ油アルキルジメチルアンモニウムクロリド(純度32%)232.7g(加水分解エンドウタンパクのアミノ基に対して0.8当量)を2時間かけて滴下し、加水分解エンドウタンパクのアミノ基に対して第4級アンモニウム化反応を行った。グリシジルヤシ油アルキルジメチルアンモニウムクロリドの滴下終了後、55℃で2時間撹拌を続け、反応を完結させて第4級アンモニウム化反応率が51%の第4級アンモニウム化加水分解エンドウタンパクの水溶液を得た。なお、第4級アンモニウム化反応率は、第4級アンモニウム化反応前の加水分解エンドウタンパクの総アミノ態窒素量をu、反応後の総アミノ態窒素量をtとして、下記式より求めた値である。
第4級アンモニウム化反応率(%)=1−(t/u)×100
【0064】
上記で得られた第4級アンモニウム化加水分解エンドウタンパクの水溶液に希硫酸を加えてpHを4.5に調整し、この調整液を55℃で撹拌しながら、この中にグリシドール(ダイセル化学工業株式会社製)62.2g(加水分解エンドウタンパクのカルボキシ基に対して2.0当量)を1時間かけて滴下した。グリシドール滴下終了後、55℃で3時間撹拌を続け、反応を完結させた。なお、反応中は溶液のpHが上昇するため、希硫酸を用いて溶液のpHを4前後に維持した。
【0065】
反応終了後、反応液を20%水酸化ナトリウム水溶液でpHを6に調整し、水を添加して固形分濃度30%の第4級アンモニウム化加水分解エンドウタンパクグリセリンエステル誘導体の水溶液を774.9g得た。
【0066】
得られた第4級アンモニウム化加水分解エンドウタンパクグリセリンエステル誘導体とグリセリンエステル化前の第4級アンモニウム化加水分解エンドウタンパクの赤外線吸収スペクトル分析(IR分析)を行った。その結果を図1及び図2に示すが、図2に示す第4級アンモニウム化加水分解エンドウタンパクグリセリンエステル誘導体のスペクトルでは、図1に示す第4級アンモニウム化加水分解エンドウタンパクのスペクトルに比べて、1735cm−1付近に大きな吸収が見られ、第4級アンモニウム化加水分解エンドウタンパクのカルボキシ基がエステル化されていることが確認された。又、前記のエステル化率の測定法で得られた第4級アンモニウム化加水分解エンドウタンパクグリセリンエステル誘導体のエステル化率を求めたところ、69%であった。
【0067】
実施例2:第4級アンモニウム化加水分解大豆タンパクグリセリンエステル誘導体
加水分解大豆タンパク[大豆タンパク質の加水分解物で、一般式(III)におけるaは0.3、bは1.2、cは1.7で、a+b+cは3.2]の27%水溶液400g(アミノ基のモル数は0.28mol、カルボキシ基のモル数は0.47mol)に20%水酸化ナトリウム水溶液を加えpHを10に調整した。この溶液を55℃で撹拌し、この中にグリシジルヤシ油アルキルジメチルアンモニウムクロリド(純度32%)250.6g(加水分解大豆タンパクのアミノ基に対して0.8当量)を2時間かけて滴下し、加水分解大豆タンパクのアミノ基に対して第4級アンモニウム化反応を行った。グリシジルヤシ油アルキルジメチルアンモニウムクロリドの滴下終了後、55℃で2時間撹拌を続け、反応を完結させて第4級アンモニウム化反応率が53%の第4級アンモニウム化加水分解大豆タンパクの水溶液を得た。
【0068】
上記で得られた第4級アンモニウム化加水分解大豆タンパクの水溶液に希硫酸を加えてpHを4.5に調整し、この調整液を55℃で撹拌しながら、この中にグリシドール(ダイセル化学工業株式会社製)27.8g(加水分解大豆タンパクのカルボキシ基に対して0.8当量)を1時間かけて滴下した。グリシドール滴下終了後、55℃で3時間撹拌を続け、反応を完結させた。なお、反応中は溶液のpHが上昇するため、希硫酸を用いて溶液のpHを4前後に維持した。
【0069】
反応終了後、反応液を20%水酸化ナトリウム水溶液でpHを6に調整し、水を添加して固形分濃度30%の第4級アンモニウム化加水分解大豆タンパクグリセリンエステル誘導体の水溶液を662.4得た。
【0070】
得られた第4級アンモニウム化加水分解大豆タンパクグリセリンエステル誘導体とグリセリンエステル化前の第4級アンモニウム化加水分解大豆タンパクのIR分析を行い、両者のIRスペクトルを比較したところ、第4級アンモニウム化加水分解大豆タンパクグリセリンエステル誘導体のスペクトルにのみ1735cm−1付近に吸収が見られ、第4級アンモニウム化加水分解大豆タンパクのカルボキシ基のエステル化が確認された。又、前記のエステル化率測定法による第4級アンモニウム化加水分解大豆タンパクグリセリンエステル誘導体のエステル化率は、50%であった。
【0071】
実施例3:第4級アンモニウム化加水分解小麦タンパクグリセリンエステル誘導体
加水分解小麦タンパク[小麦タンパク質の加水分解物で、一般式(III)におけるaは0.1、bは2.6、cは3.0で、a+b+cは5.7]の27%水溶液400g(アミノ基のモル数は0.14mol、カルボキシ基のモル数は0.47mol)に20%水酸化ナトリウム水溶液を加えpHを10に調整した。この溶液を55℃で撹拌し、この中にグリシジルヤシ油アルキルジメチルアンモニウムクロリド(純度32%)125.3g(加水分解小麦タンパクのアミノ基に対して0.8当量)を2時間かけて滴下し、加水分解小麦タンパクのアミノ基に対して第4級アンモニウム化反応を行った。グリシジルヤシ油アルキルジメチルアンモニウムクロリドの滴下終了後、55℃で2時間撹拌を続け、反応を完結させて第4級アンモニウム化反応率が55%の第4級アンモニウム化加水分解小麦タンパクの水溶液を得た。
【0072】
上記で得られた第4級アンモニウム化加水分解小麦タンパクの水溶液に希硫酸を加えてpHを4.5に調整し、この調整液を55℃で撹拌しながら、この中にグリシドール(ダイセル化学工業株式会社製)34.8g(加水分解小麦タンパクのカルボキシ基に対して1.0当量)を1時間かけて滴下した。グリシドール滴下終了後、55℃で3時間撹拌を続け、反応を完結させた。なお、反応中は溶液のpHが上昇するため、希硫酸を用いて溶液のpHを4前後に維持した。
【0073】
反応終了後、反応液を20%水酸化ナトリウム水溶液でpHを6に調整し、水を添加して固形分濃度30%の第4級アンモニウム化加水分解小麦タンパクグリセリンエステル誘導体の水溶液を579.2g得た。
【0074】
得られた第4級アンモニウム化加水分解小麦タンパクグリセリンエステル誘導体とグリセリンエステル化前の第4級アンモニウム化加水分解小麦タンパクのIR分析を行い、両者のIRスペクトルを比較したところ、第4級アンモニウム化加水分解小麦タンパクグリセリンエステル誘導体のスペクトルにのみ1735cm−1付近に吸収が見られ、第4級アンモニウム化加水分解小麦タンパクのカルボキシ基のエステル化が確認された。又、前記のエステル化率測定法による第4級アンモニウム化加水分解小麦タンパクグリセリンエステル誘導体のエステル化率は、52%であった。
【0075】
実施例4:第4級アンモニウム化加水分解米タンパクグリセリンエステル誘導体
加水分解米タンパク[米タンパク質の加水分解物で、一般式(III)におけるaは0.32、bは0.91、cは2.27で、a+b+cは3.5]の27%水溶液400g(アミノ基のモル数は0.23mol、カルボキシ基のモル数は0.33mol)に20%水酸化ナトリウム水溶液を加えpHを10に調整した。この溶液を55℃で撹拌し、この中にグリシジルヤシ油アルキルジメチルアンモニウムクロリド(純度32%)205.9g(加水分解米タンパクのアミノ基に対して0.8当量)を2時間かけて滴下し、加水分解米タンパクのアミノ基に対して第4級アンモニウム化反応を行った。グリシジルヤシ油アルキルジメチルアンモニウムクロリドの滴下終了後、55℃で2時間撹拌を続け、反応を完結させて第4級アンモニウム化反応率が54%の第4級アンモニウム化加水分解米タンパクの水溶液を得た。
【0076】
上記で得られた第4級アンモニウム化加水分解米タンパクの水溶液に希硫酸を加えてpHを4.5に調整し、この調整液を55℃で撹拌しながら、この中にグリシドール(ダイセル化学工業株式会社製)36.6g(加水分解米タンパクのカルボキシ基に対して1.5当量)を1時間かけて滴下した。グリシドール滴下終了後、55℃で3時間撹拌を続け、反応を完結させた。なお、反応中は溶液のpHが上昇するため、希硫酸を用いて溶液のpHを4前後に維持した。
【0077】
反応終了後、反応液を20%水酸化ナトリウム水溶液でpHを6に調整し、水を添加して固形分濃度30%の第4級アンモニウム化加水分解米タンパクグリセリンエステル誘導体の水溶液を652.6g得た。
【0078】
得られた第4級アンモニウム化加水分解米タンパクグリセリンエステル誘導体とグリセリンエステル化前の第4級アンモニウム化加水分解米タンパクのIR分析を行い、両者のIRスペクトルを比較したところ、第4級アンモニウム化加水分解米タンパクグリセリンエステル誘導体のスペクトルにのみ1735cm−1付近に吸収が見られ、第4級アンモニウム化加水分解米タンパクのカルボキシ基のエステル化が確認された。又、前記のエステル化率測定法による第4級アンモニウム化加水分解米タンパクグリセリンエステル誘導体のエステル化率は61%であった。
【0079】
実施例5:第4級アンモニウム化加水分解シルクグリセリンエステル誘導体
加水分解シルク[シルクの加水分解物で、一般式(III)におけるaは0.1、bは0.3、cは10.6で、a+b+cは11]の27%水溶液400g(アミノ基のモル数は0.09mol、カルボキシ基のモル数は0.12mol)に20%水酸化ナトリウム水溶液を加えpHを10に調整した。この溶液を55℃で撹拌し、この中にグリシジルトリメチルアンモニウムクロリド(純度75%)14.6g(加水分解シルクのアミノ基に対して0.8当量)を2時間かけて滴下し、加水分解シルクのアミノ基に対して第4級アンモニウム化反応を行った。グリシジルトリメチルアンモニウムクロリドの滴下終了後、55℃で2時間撹拌を続け、反応を完結させて第4級アンモニウム化反応率が58%の第4級アンモニウム化加水分解シルクの水溶液を得た。
【0080】
上記で得られた第4級アンモニウム化加水分解シルクの水溶液に希硫酸を加えてpHを4.5に調整し、この調整液を55℃で撹拌しながら、この中にグリシドール(ダイセル化学工業株式会社製)17.8g(加水分解シルクのカルボキシ基に対して2.0当量)を1時間かけて滴下した。グリシドール滴下終了後、55℃で3時間撹拌を続け、反応を完結させた。なお、反応中は溶液のpHが上昇するため、希硫酸を用いて溶液のpHを4前後に維持した。
【0081】
反応終了後、反応液を20%水酸化ナトリウム水溶液でpHを6に調整し、水を添加して固形分濃度30%の第4級アンモニウム化加水分解シルクグリセリンエステル誘導体の水溶液を410.2g得た。
【0082】
得られた第4級アンモニウム化加水分解シルクグリセリンエステル誘導体とグリセリンエステル化前の第4級アンモニウム化加水分解シルクのIR分析を行い、両者のIRスペクトルを比較したところ、第4級アンモニウム化加水分解シルクグリセリンエステル誘導体のスペクトルにのみ1735cm−1付近に吸収が見られ、第4級アンモニウム化加水分解シルクのカルボキシ基のエステル化が確認された。又、前記のエステル化率測定法による第4級アンモニウム化加水分解シルクグリセリンエステル誘導体のエステル化率は71%であった。
【0083】
実施例6:第4級アンモニウム化加水分解コラーゲングリセリンエステル誘導体
加水分解コラーゲン[コラーゲンの加水分解物で、一般式(III)におけるaは1.4、bは2.3、cは15.3で、a+b+cは19]の27%水溶液400g(アミノ基のモル数は0.06mol、カルボキシ基のモル数は0.09mol)に20%水酸化ナトリウム水溶液を加えpHを10に調整した。この溶液を55℃で撹拌し、この中にグリシジルトリメチルアンモニウムクロリド(純度75%)9.7g(加水分解コラーゲンのアミノ基に対して0.8当量)を2時間かけて滴下し、加水分解コラーゲンのアミノ基に対して第4級アンモニウム化反応を行った。グリシジルトリメチルアンモニウムクロリドの滴下終了後、55℃で2時間撹拌を続け、反応を完結させることで、第4級アンモニウム化反応率が56%の第4級アンモニウム化加水分解コラーゲンの水溶液を得た。
【0084】
上記で得られた第4級アンモニウム化加水分解コラーゲンの水溶液に希硫酸を加えてpHを4.5に調整し、この調整液を55℃で撹拌しながら、この中にグリシドール(ダイセル化学工業株式会社製)20.0g(加水分解コラーゲンのカルボキシ基に対して3.0当量)を1時間かけて滴下した。グリシドール滴下終了後、55℃で3時間撹拌を続け、反応を完結させた。なお、反応中は溶液のpHが上昇するため、希硫酸を用いて溶液のpHを4前後に維持した。
【0085】
反応終了後、反応液を20%水酸化ナトリウム水溶液でpHを6に調整し、水を添加して固形分濃度30%の第4級アンモニウム化加水分解コラーゲングリセリンエステル誘導体の水溶液を405.8g得た。
【0086】
得られた第4級アンモニウム化加水分解コラーゲングリセリンエステル誘導体とグリセリンエステル化前の第4級アンモニウム化加水分解コラーゲンのIR分析を行い、両者のIRスペクトルを比較したところ、第4級アンモニウム化加水分解コラーゲングリセリンエステル誘導体のスペクトルにのみ1735cm−1付近に吸収が見られ、第4級アンモニウム化剤加水分解コラーゲンのカルボキシ基のエステル化が確認された。又、前記のエステル化率測定法による第4級アンモニウム化加水分解コラーゲングリセリンエステル誘導体のエステル化率は69%であった。
【0087】
実施例7:第4級アンモニウム化加水分解ケラチングリセリンエステル誘導体
加水分解ケラチン[ケラチンの加水分解物で、一般式(III)におけるaは2、bは8、cは15で、a+b+cは25]の27%水溶液400g(アミノ基のモル数は0.04mol、カルボキシ基のモル数は0.11mol)に20%水酸化ナトリウム水溶液を加えpHを10に調整した。この溶液を55℃で撹拌し、この中にグリシジルトリメチルアンモニウムクロリド(純度75%)6.5g(加水分解ケラチンのアミノ基に対して0.8当量)を2時間かけて滴下し、加水分解ケラチンのアミノ基に対して第4級アンモニウム化反応を行った。グリシジルトリメチルアンモニウムクロリドの滴下終了後、55℃で2時間撹拌を続け、反応を完結させて第4級アンモニウム化反応率が52%の第4級アンモニウム化加水分解ケラチンの水溶液を得た。
【0088】
上記で得られた第4級アンモニウム化加水分解ケラチンの水溶液に希硫酸を加えてpHを4.5に調整し、この調整液を55℃で撹拌しながら、この中にグリシドール(ダイセル化学工業株式会社製)20.4g(加水分解ケラチンのカルボキシ基に対して2.5当量)を1時間かけて滴下した。グリシドール滴下終了後、55℃で3時間撹拌を続け、反応を完結させた。なお、反応中は溶液のpHが上昇するため、希硫酸を用いて溶液のpHを4前後に維持した。
【0089】
反応終了後、反応液を20%水酸化ナトリウム水溶液でpHを6に調整し、水を添加して固形分濃度30%の第4級アンモニウム化加水分解ケラチングリセリンエステル誘導体の水溶液を399.9g得た。
【0090】
得られた第4級アンモニウム化加水分解ケラチングリセリンエステル誘導体とグリセリンエステル化前の第4級アンモニウム化加水分解ケラチンのIR分析を行い、両者のIRスペクトルを比較したところ、第4級アンモニウム化加水分解ケラチングリセリンエステル誘導体のスペクトルにのみ1735cm−1付近に吸収が見られ、第4級アンモニウム化加水分解ケラチンのカルボキシ基のエステル化が確認された。又、前記のエステル化率測定法による第4級アンモニウム化加水分解ケラチングリセリンエステル誘導体のエステル化率は65%であった。
【0091】
実施例8:第4級アンモニウム化加水分解シルクアミノ酸グリセリンエステル誘導体
シルクをアミノ酸単位まで全加水分解することで得られる加水分解シルクアミノ酸[シルクの加水分解物で、一般式(III)におけるaは0.010、bは0.037、cは1.073で、a+b+cは1.12]の27%水溶液400g(アミノ基のモル数は0.34mol、カルボキシ基のモル数は0.99mol)に20%水酸化ナトリウム水溶液を加えpHを10に調整した。この溶液を55℃で撹拌し、この中にグリシジルトリメチルアンモニウムクロリド(純度75%)55.0g(加水分解シルクアミノ酸のアミノ基に対して0.8当量)を2時間かけて滴下し、加水分解シルクアミノ酸のアミノ基に対して第4級アンモニウム化反応を行った。グリシジルトリメチルアンモニウムクロリドの滴下終了後、55℃で2時間撹拌を続け、反応を完結させて第4級アンモニウム化反応率が71%の第4級アンモニウム化加水分解シルクアミノ酸の水溶液を得た。
【0092】
上記で得られた第4級アンモニウム化加水分解シルクアミノ酸の水溶液に希硫酸を加えてpHを4.5に調整し、この調整液を55℃で撹拌しながら、この中にグリシドール(ダイセル化学工業株式会社製)73.3g(加水分解シルクアミノ酸のカルボキシ基に対して1.0当量)を1時間かけて滴下した。グリシドール滴下終了後、55℃で3時間撹拌を続け、反応を完結させた。なお、反応中は溶液のpHが上昇するため、希硫酸を用いて溶液のpHを4前後に維持した。
【0093】
反応終了後、反応液を20%水酸化ナトリウム水溶液でpHを6に調整し、水を添加して固形分濃度30%の第4級アンモニウム化加水分解シルクアミノ酸グリセリンエステル誘導体の水溶液を708.9g得た。
【0094】
得られた第4級アンモニウム化加水分解シルクアミノ酸グリセリンエステル誘導体とグリセリンエステル化前の第4級アンモニウム化加水分解シルクアミノ酸のIR分析を行い、両者のIRスペクトルを比較したところ、第4級アンモニウム化加水分解シルクアミノ酸グリセリンエステル誘導体のスペクトルにのみ1735cm−1付近に吸収が見られ、第4級アンモニウム化加水分解シルクアミノ酸のカルボキシ基のエステル化が確認された。又、前記のエステル化率測定法による第4級アンモニウム化加水分解シルクアミノ酸グリセリンエステル誘導体のエステル化率は66%であった。
【0095】
測定例1 [第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体の酸性度]
実施例1〜8の第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体の酸性度を測定した。まず、総窒素量が0.36g/100mLになるように、各第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体を水で希釈し、この溶液100mLをpH7.0に調製したものを被検液とした。次に、各被検液に0.1mol/L塩酸を1mLずつ添加して、被検液のpHの変化を調べた。又、第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体に代えて、各実施例1〜8の第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体の原料として用いた第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸を、それぞれ比較例1〜8として、上記と同様の方法でpHの変化を調べ、第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体のpHの変化と比較した。
【0096】
0.1mol/L塩酸の添加量と実施例1の第4級アンモニウム化加水分解エンドウタンパクグリセリンエステル誘導体及び比較例1の第4級アンモニウム化加水分解エンドウタンパクのpH変化の関係を図3に示す。図3より明らかなように、0.1mol/L塩酸の添加量が増えるに従って、比較例1ではpHが徐々に低下するのに対し、実施例1ではpHが急激に低下した。つまり、第4級アンモニウム化加水分解エンドウタンパクグリセリンエステル誘導体は、塩酸の水素イオンを緩衝する作用が第4級アンモニウム化加水分解エンドウタンパクよりも低下していることが分かった。よって、第4級アンモニウム化加水分解エンドウタンパクグリセリンエステル誘導体は、第4級アンモニウム化加水分解エンドウタンパクよりもカルボキシ基の数(酸性度)が減少していることが確認できた。
【0097】
又、実施例2〜8の第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体と比較例2〜8の第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸についても同様の測定を行い、第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体は、第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸よりも少量の塩酸量で急激にpHが低下することが確認された。
【0098】
表1に、実施例1〜8の第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体及び比較例1〜8の第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のそれぞれの水溶液を、pH3.0にするために要する0.1mol/L塩酸量を、酸性度を表わす目安として示す。
【0099】
【表1】

【0100】
表1に示されているように、実施例1〜8の第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体は、グリセリンエステル化前の第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸に比べて、pH3.0にするために要する塩酸量が少量である。従って、実施例1〜8の第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体は、グリセリンエステル化によりカルボキシ基が減少した結果、酸性度が下がり、塩基性度が上がっていることが分かった。
【0101】
測定例2 [第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体のO/W乳化型ヘアトリートメントへの配合試験]
実施例1〜8の第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体を用いて、表2に示す組成のO/W乳化型ヘアトリートメントを実施品1〜8として調製した。又、第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体に代えて、各実施例1〜8の第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体の原料として用いた第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸を配合した比較品1〜8も同様に調製した。さらに、対照品として、第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体、及び第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のいずれも配合していないO/W乳化型ヘアトリートメントを調製した。なお、表2では添加物の配合量を原則として質量%で表わしているが、第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体、及び第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸の配合量は、加水分解タンパク又はアミノ酸部分の配合量を同じにするために、第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸部分の質量がO/W乳化型ヘアトリートメント処方中で1%になるようにした。
【0102】
【表2】

【0103】
上記の実施品1〜8、比較品1〜8及び対照品の調製直後の外観を目視によって観察した。その結果を、下記の評価基準に基づき、記号で表3に示す。
O/W乳化型ヘアトリートメントの評価基準
○:均一な乳化状態
△:不均一な乳化状態
×:二層分離状態(乳化不能)
【0104】


【表3】

【0105】
表3より明らかなように実施例1〜8の第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体を配合した実施品1〜8は、対照品と同様に均一な乳化状態であるのに対して、第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸を配合した比較品1〜8は、均一な乳化物にならなかった。第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸は分子内にカルボキシ基を有しており、その陰イオン的な性質が、一般的にO/W乳化型ヘアトリートメントに含まれる塩化アルキルトリメチルアンモニウムなどのカチオン性物質と複合体を形成し、乳化の妨げになっていると考えられる。しかしながら、カルボキシ基をグリセリンエステル化した第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体は、塩化アルキルトリメチルアンモニウムなどのカチオン性物質と複合体を形成しないため、乳化物形成の妨げにならないと考えられる。特に、カルボキシ基を多く有する植物タンパクの第4級アンモニウム化物を配合した比較品は、二層分離し、乳化することが出来なかったのに対して、グリセリン誘導体を配合した実施品が均一な乳化物を形成したことは、前記理論を顕著に示していると言える。
【0106】
測定例3 [第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体の酸性側での溶解性]
pH3.0〜7.0の範囲における実施例1〜8の第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体の溶解性を調べた。具体的には、固形分濃度10%に調整した各水溶液に、1mol/Lの塩酸を添加して水溶液のpHを3.0、4.0、5.0,6.0及び7.0に調整した時の溶液の状態を目視によって観察した。その観察結果を表4に示す。又、実施例1〜8におけるグリセリンエステル化前の第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸についても、上記と同様の方法で溶解性を調べ、それぞれ比較例1〜8として、その観察結果を表4に示す。なお、観察結果は下記の評価基準によって記号で示す。
【0107】
観察結果:溶解性の評価基準
◎:透明
○:微濁
△:乳濁
×:沈殿物発生
【0108】
【表4】

【0109】
表4より明らかなように、各実施例の第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体の水溶液はpH5.0〜7.0の条件下において透明又は微濁であったのに対して、比較例1〜8の第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸は、pH7ですでに濁っているものもあり、pH5.0付近から酸性側で沈殿を生じたものが多く見られた。また、pH5.0以下の酸性領域でも各実施例の第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体は、比較例に比べて溶解性が良いことが示された。従って、第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体は、第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸では不可能であったpH5.0程度の弱酸性透明化粧料への配合が可能であることが、この結果より示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水分解タンパク又はアミノ酸の誘導体であって、
アミノ基の一部に第4級アンモニウム官能基が結合し、カルボキシ基の一部に
下記の一般式(I):
【化1】

で表わされる官能基がエステル結合した第4級アンモニウム化加水分解タンパク又は第4級アンモニウム化アミノ酸のグリセリンエステル誘導体からなることを特徴とする化粧品基材。
【請求項2】
前記加水分解タンパク又はアミノ酸の全カルボキシ基の50%以上が、一般式(I)で表わされる官能基によりエステル化されていることを特徴とする請求項1に記載の化粧品基材。
【請求項3】
第4級アンモニウム官能基が下記の一般式(II):
【化2】

(式中、R、R、Rは同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜22のアルキル基または炭素数2〜22のアルケニル基、あるいはR〜Rのうち1個または2個が炭素数1〜22のアルキル基または炭素数2〜22のアルケニル基で、残りが炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基またはベンジル基を表す。Aは炭素数2〜3の飽和炭化水素または炭素数2〜3の水酸基を有する飽和炭化水素を、Xはハロゲン原子を表す)
で表わされることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の化粧品基材。
【請求項4】
前記加水分解タンパク又はアミノ酸の全アミノ基の50%以上に、一般式(II)で表わされる官能基が結合していることを特徴とする請求項3に記載の化粧品基材。
【請求項5】
前記第4級アンモニウム化加水分解タンパクのグリセリンエステル誘導体の加水分解タンパク部分が、植物タンパク質の加水分解物より得られることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の化粧品基材。
【請求項6】
前記加水分解タンパクのアミノ酸平均重合度が、2〜50であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の化粧品基材。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の化粧品基材を含有することを特徴とする化粧料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−111659(P2010−111659A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−231289(P2009−231289)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【出願人】(000147213)株式会社成和化成 (45)
【Fターム(参考)】