説明

第VIII因子製剤

最終製剤中にNaClが存在しないかまたは微量で存在するように製剤化され、それにより、凍結乾燥サイクル時間の短縮と凍結乾燥されたFVIIIの高い安定性を同時に可能にする、第VIII因子(FVIII)組成物。1つの実施形態において、本発明は、FVIIIの凍結乾燥された安定な医薬製剤を提供し、その医薬製剤は:(a)FVIII;(b)1つ以上の緩衝剤;(c)1つ以上の抗酸化剤;(d)1つ以上の安定化剤;および(e)1つ以上の界面活性剤を含み;FVIIIは、:a)組換えFVIIIポリペプチド;b)a)の生物学的に活性なアナログ、フラグメントまたは改変体からなる群から選択されるポリペプチドを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
概して、本発明は、最終製剤中にNaClが存在しないかまたは微量で存在するように製剤化され、それにより、凍結乾燥サイクル時間の短縮と凍結乾燥された第VIII因子の高い安定性を同時に可能にする、第VIII因子組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
第VIII因子(FVIII)は、血漿中に見られるタンパク質であり、血液凝固に導く反応のカスケード内の補因子として作用する。血液中のFVIII活性の量が不足することにより、主に男性が発症する遺伝性疾患である血友病Aとして知られる凝固障害がもたらされる。現在、血友病Aは、ヒト血漿に由来するかまたは組換えDNA技術を用いて製造される、FVIIIの治療用調製物で処置されている。そのような調製物は、出血エピソードに応答して(応需型の治療)、または止血不能の出血を予防するための高頻度の一定間隔で(予防)、投与される。
【0003】
FVIIIは、治療用調製物中で比較的不安定であると知られている。血漿中では、FVIIIは通常、別の血漿タンパク質であるフォン・ビルブラント因子(vWF)と複合体を形成しており、vWFは、FVIIIに対して過剰な高モル濃度で血漿中に存在し、FVIIIを成熟前分解から保護すると考えられている。別の循環血漿タンパク質であるアルブミンもまた、インビボにおいてFVIIIの安定化に関与し得る。ゆえに、現在販売されているFVIII調製物は、製造プロセス中および貯蔵中にFVIIIを安定化するために、主にアルブミンおよび/またはvWFの使用に頼っている。
【0004】
現在販売されているFVIII調製物に使用されるアルブミンおよびvWFは、ヒト血漿に由来するが、しかしながら、そのような材料を使用することには、ある特定の不利益がある。そのような調製物中のFVIIIの安定性を増大させるために、FVIIIと比べて過剰な高モル濃度のアルブミンが通常加えられるので、これらの調製物中でFVIIIタンパク質自体の特性を明らかにすることが難しい。ヒト由来のアルブミンをFVIIIに加えることは、組換え的に生成されるFVIII調製物と比較して不利であるとも認知されている。なぜなら、そのようなアルブミンが加えられない場合、ウイルスが伝染する理論上のリスクが、組換え的に得られるFVIII調製物において低下し得るからである。
【0005】
アルブミンまたはvWFを含まない(または比較的低レベルのこれらの賦形剤を含む)FVIIIを製剤化するいくつかの試みが報告されている。例えば、Freudenbergに対する特許文献1(EP508194)(Behringwerkeに譲渡)には、塩化ナトリウムおよびスクロースなどの賦形剤に加えて、界面活性物質とアミノ酸(具体的にはアルギニンおよびグリシン)との特定の組み合わせを含むFVIII調製物が記載されている。その界面活性物質であるポリソルベート20またはポリソルベート80は、0.001〜0.5%(v/v)の量で存在すると記載されており、アルギニンおよびグリシンは、0.01〜1mol/lの量で存在する。スクロースは、0.1〜10%の量で存在すると記載されている。この特許の実施例2は、(1)0.75%スクロース、0.4Mグリシンおよび0.15M NaClの溶液、および(2)0.01Mクエン酸ナトリウム、0.08Mグリシン、0.016Mリジン、0.0025M塩化カルシウムおよび0.4M塩化ナトリウムの溶液が、16時間を過ぎると溶液中で安定でなかった一方、(3)1%スクロース、0.14Mアルギニン、0.1M塩化ナトリウムの溶液、および(4)1%スクロース、0.4Mグリシン、0.14Mアルギニン、0.1M塩化ナトリウムおよび0.05%TWEENTM80(ポリソルベート80)の溶液は、安定性を示したと主張している。
【0006】
Nayerに対する特許文献2(EP818204)(Bayerに譲渡)もまた、アルブミンを含まず、15〜60mMスクロース、最大50mMのNaCl、最大5mMの塩化カルシウム、65〜400mMグリシンおよび最大50mMのヒスチジンを含む、治療用FVIII調製物を記載している。以下の特定の製剤が、申し立てによると安定であると特定された:(1)150mM NaCl、2.5mM塩化カルシウムおよび165mMマンニトール;および(2)1%スクロース、30mM塩化ナトリウム、2.5mM塩化カルシウム、20mMヒスチジンおよび290mMグリシン。申し立てによると、より多い量の糖を含む製剤(10%マルトース、50mM NaCl、2.5mM塩化カルシウムおよび5mMヒスチジン)が、凍結乾燥状態では製剤(2)よりも不良な安定性を示すと見出された。
【0007】
Osterbergに対する特許文献3(EP627924)(Pharmacia & Upjohnに譲渡)では、0.01〜1mg/mlの界面活性剤を含む製剤が開示されている。この特許では、以下の範囲の賦形剤:少なくとも0.01mg/ml、好ましくは、0.02〜1.0mg/mlの量のポリソルベート20または80;少なくとも0.1MのNaCl;少なくとも0.5mMのカルシウム塩;および少なくとも1mMのヒスチジンを有する製剤が開示されている。より詳細には、以下の特定の製剤が開示されている:(1)14.7、50および65mMヒスチジン、0.31および0.6M NaCl、4mM塩化カルシウム、0.001、0.02および0.025%ポリソルベート80(0.1%PEG4000または19.9mMスクロースを含むかまたは含まない);および(2)20mg/mlマンニトール、2.67mg/mlヒスチジン、18mg/ml NaCl、3.7mM塩化カルシウムおよび0.23mg/mlポリソルベート80。
【0008】
低濃度または高濃度の塩化ナトリウムを使用する他の試みもまた、報告されている。Leeに対する特許文献4(EP315968)(Rhone−Poulenc Rorerに譲渡)では、比較的低濃度の塩化ナトリウムを含む製剤、すなわち、0.5mM〜15mM NaCl、5mM塩化カルシウム、0.2mM〜5mMヒスチジン、0.01〜10mM塩酸リジンおよび最大10%の糖を含む製剤を開示している。その「糖」は、最大10%のマルトース、10%のスクロースまたは5%のマンニトールであり得る。
【0009】
Leeに対する特許文献5(EP0314095)(Rhone−Poulenc Rorerに譲渡)では、比較的高濃度の塩化ナトリウムを含む製剤の使用を教示している。これらの製剤は、0.35M〜1.2M NaCl、1.5〜40mM塩化カルシウム、1mM〜50mMヒスチジンおよび最大10%の「糖」(例えば、マンニトール、スクロースまたはマルトース)を含む。0.45M NaCl、2.3mM塩化カルシウムおよび1.4mMヒスチジンを含む製剤が例証されている。
【0010】
Roserに対する特許文献6(Quadrant Holdings Cambridge Limitedに譲渡)では、糖であるトレハロースを含む製剤が記載されている。これらの製剤は:(1)0.1M NaCl、15mM塩化カルシウム、15mMヒスチジンおよび1.27M(48%)トレハロース;または(2)0.011%塩化カルシウム、0.12%ヒスチジン、0.002%Tris、0.002%TWEENTM80、0.004%PEG3350、7.5%トレハロースおよび0.13%または1.03%NaClを含む。
【0011】
Schwinnに対する特許文献7(EP511234)(Octapharma AGに譲渡)では、100〜650mM二糖および100mM〜1.0Mアミノ酸を含む製剤が記載されている。具体的には、以下の製剤:(1)0.9Mスクロース、0.25Mグリシン、0.25Mリジン,および3mM塩化カルシウム;および(2)0.7Mスクロース、0.5Mグリシンおよび5mM塩化カルシウムが、開示されている。
【0012】
従来技術の他の治療用FVIII製剤は、一般に、FVIIIを安定化させる目的でアルブミンおよび/またはvWFを含み、ゆえに、本開示に直接関連しない。フリーズドライされた生成物に関する製剤化およびプロセスの開発の問題に焦点が当てられた広範囲の文献が存在するが、フリーズドライされたFVIIIの研究は、充填剤としてNaClを使用することに基づいた製剤の研究に限定される。製剤開発における主要な困難のもとは、バルク原薬中の塩化ナトリウムの存在であり、それは、通常、精製プロセスによって導入されるものである。精製プロセスの結果として、大量および/または様々な量の塩化ナトリウムが、バルク原薬溶液中に存在する。結晶化していない塩化ナトリウムによって、崩壊温度が低下し、その生成物は、優良な(elegant)生成物に似たように製造されなくなり得る。さらに、アモルファスの塩化ナトリウムが、その生成物の安定性を損なわせることがある。本開示は、NaClが除去されているかまたは微量で存在し、長時間にわたって安定的にFVIIIを貯蔵し続けることができるフリーズドライ用製剤を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第5,565,427号明細書
【特許文献2】米国特許第5,763,401号明細書
【特許文献3】米国特許第5,733,873号明細書
【特許文献4】米国特許第4,877,608号明細書
【特許文献5】米国特許第5,605,884号明細書
【特許文献6】国際公開第96/22107号
【特許文献7】米国特許第5,328,694号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明の要旨
本開示のFVIII組成物は、1つの実施形態において、最終製剤中にNaClが存在しないかまたは微量で存在するように製剤化され、それにより、凍結乾燥サイクル時間の短縮と凍結乾燥されたFVIIIの高い安定性が同時に可能になる。
【0015】
1つの実施形態において、FVIIIの凍結乾燥された安定な医薬製剤が提供され、その医薬製剤は:(a)FVIII;(b)1つ以上の緩衝剤;(c)1つ以上の抗酸化剤;(d)1つ以上の安定化剤;および(e)1つ以上の界面活性剤を含み;FVIIIは、:a)組換えFVIIIポリペプチド;b)a)の生物学的に活性なアナログ、フラグメントまたは改変体からなる群から選択されるポリペプチドを含み;そのバッファーは、約0.1mM〜約500mMの範囲内のpH緩衝剤を含み、pHは、約2.0〜約12.0の範囲内であり;抗酸化剤は、約0.005〜約1.0mg/mlの濃度であり;安定化剤は、約0.005〜約20%の濃度であり;界面活性剤は、約0.001%〜約1.0%の濃度であり;前記製剤は、塩化ナトリウム(NaCl)が除かれているか、またはほんの微量のNaClを含む。
【0016】
別の実施形態において、緩衝剤が、クエン酸塩、グリシン、ヒスチジン、HEPES、Trisおよびこれらの薬剤の組み合わせからなる群から選択される、上述の製剤が提供される。1つの実施形態において、緩衝剤は、ヒスチジンである。
【0017】
別の実施形態において、pHが、約6.0〜約8.0または約6.5〜約7.5の範囲内である、上述の製剤が提供される。さらに別の実施形態において、緩衝剤は、ヒスチジンであり、pHは、約7.0である。
【0018】
1つの実施形態において、抗酸化剤がグルタチオンである、上述の製剤が提供される。なおも別の実施形態において、抗酸化剤は、約0.1〜約0.5mg/mlの濃度範囲である。さらに別の実施形態において、抗酸化剤は、約0.2mg/mlの濃度のグルタチオンである。さらに別の実施形態において、緩衝剤は、ヒスチジンであり、pHは、約7.0であり;抗酸化剤は、約0.2mg/mlの濃度のグルタチオンである。
【0019】
別の実施形態において、1つ以上の安定化剤が、スクロース、トレハロースおよびラフィノースならびにこれらの安定化剤の組み合わせからなる群から選択される、上述の製剤が提供される。1つの実施形態において、安定化剤は、約5%の濃度のトレハロースおよび約4mMの濃度の塩化カルシウムである。なおも別の実施形態において、安定化剤は、約5%の濃度のスクロースおよび約4mMの濃度の塩化カルシウムである。
【0020】
1つの実施形態において、界面活性剤が、ジギトニン、Triton X−100、Triton X−114、TWEEN−20、TWEEN−80およびこれらの界面活性剤の組み合わせからなる群から選択される、上述の製剤が提供される。さらに別の実施形態において、界面活性剤は、約0.03%のTWEEN−80である。
【0021】
1つの実施形態において、緩衝剤が、約pH7.0、約25mMの濃度のヒスチジンであり;抗酸化剤(antioxidnat)が、約0.2mg/mlの濃度のグルタチオンであり;安定化剤が、約5%の濃度のトレハロースまたはスクロースおよび約4mMの濃度の塩化カルシウムであり;そして界面活性剤が、約0.03%のTWEEN−80である、上述の製剤が提供される。
【0022】
なおも別の実施形態において、NaClが賦形剤として加えられていない、上述の製剤が提供される。さらに別の実施形態において、NaClは、透析または溶媒交換クロマトグラフィによって除去された後に微量で存在する。
【0023】
凍結乾燥された安定なFVIIIを調製する方法が、本開示に提供される。1つの実施形態において、凍結乾燥された安定なFVIIIIを調製する方法が提供され、その方法は、(a)上述の製剤を調製する工程;および(b)工程(a)の製剤を凍結乾燥する工程を包含する。さらに別の実施形態において、凍結乾燥されたFVIIIの安定性が、塩化ナトリウムの存在下において凍結乾燥されたFVIII製剤よりも高い、上述の方法が提供される。
【0024】
別の実施形態において、(a)FVIII;(b)1つ以上の緩衝剤;(c)1つ以上の抗酸化剤;(d)1つ以上の安定化剤;および(e)1つ以上の界面活性剤を含む、FVIIIの凍結乾燥された安定な医薬製剤が提供され;FVIIIは:a)組換えFVIIIポリペプチド;b)a)の生物学的に活性なアナログ、フラグメントまたは改変体からなる群から選択されるポリペプチドを含み;バッファーは、約0.1mM〜約500mMの範囲内のpH緩衝剤を含み、pHは、約2.0〜約12.0の範囲内であり;抗酸化剤は、約0.005〜約1.0mg/mlの濃度であり;安定化剤は、約0.005〜約20%の濃度であり;界面活性剤は、約0.001%〜約1.0%の濃度である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、製剤化中およびフリーズドライ中のFVIIIの損失。エラーバーは、反復測定から計算された標準誤差である。
【図2】図2は、マンニトール/トレハロースベースの製剤中(図2A)およびグリシン/トレハロースベースの製剤中(図2B)のフリーズドライされたrAHFの貯蔵安定性および時間の平方根の速度論。
【図3】図3は、選択された製剤におけるフリーズドライされたrAHFの分解に対する速度定数:製剤スクリーニング研究。
【図4】図4は、グリシン:トレハロースベースの製剤の安定性に対するグルタチオン、ヒスチジンおよびHepesの影響:製造中の活性の損失および25℃で9ヶ月間貯蔵中の活性の損失。「基本」製剤は:rAHF(103IU/mL)、グリシン(8%)、トレハロース(2%)、NaCl(200mM)、10mM Tris、0.025%ポリソルベート80、4mM CaCl,pH7である。他の製剤は、グルタチオン(0.2g/L)およびHepesバッファー(10mM)、ヒスチジンバッファー(50mM)または鉄錯化剤デフェロキサミン(0.25mg/L)が加えられた「基本」製剤からなる。用いた処理は、本質的に表5に示されているものと同じだった。
【図5】図5は、フリーズドライされたrAHFの分解速度定数。製剤および処理の詳細は、表5および6に示されている。速度定数は、単位が月の時間を用いて時間の平方根の速度論から得たものである。エラーバーは、回帰分析によって与えられたときの標準誤差を表している。
【発明を実施するための形態】
【0026】
発明の詳細な説明
定義
本明細書中で使用されるとき、以下の用語およびその変形物は、別段示されない限り、以下のとおり定義されるものとする:
別段定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての専門用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者が通常理解している意味と同じ意味を有する。以下の参考文献は、本開示において使用される用語の多くの一般的な定義を当業者に提供する:Singletonら、DICTIONARY OF MICROBIOLOGY AND MOLECULAR BIOLOGY(2d ed.1994);THE CAMBRIDGE DICTIONARY OF SCIENCE AND TECHNOLOGY(Walker ed.,1988);THE GLOSSARY OF GENETICS,5TH ED.,R.Riegerら(eds.),Springer Verlag(1991);およびHale and Marham,THE HARPER COLLINS DICTIONARY OF BIOLOGY(1991)。
【0027】
本明細書中で引用される刊行物、特許出願、特許および他の参考文献の各々は、本開示と矛盾しない程度までそれらの全体が参考として援用される。
【0028】
ここで、本明細書中および添付の請求項において使用されるとき、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が明らかに他のことを指示しない限り、複数の指示物を含むことに注意されたい。
【0029】
本明細書中で使用されるとき、以下の用語は、別段特定されない限り、それらに帰されている意味を有する。
【0030】
ペプチド化合物に関して用語「含む」は、ある化合物が、所与の配列のアミノ末端およびカルボキシ末端のいずれかまたは両方に追加のアミノ酸を含み得ることを意味する。当然のことながら、これらの追加のアミノ酸は、その化合物の活性を著しく干渉するべきでない。本開示の組成物に関して、用語「含む」は、ある組成物が、追加の成分を含み得ることを意味する。これらの追加の成分は、その組成物の活性を著しく干渉するべきでない。「含む」は、FVIII製剤に関するとき、完全に塩化ナトリウム(NaCl)が除かれているか、またはNaClをほんの微量含む。
【0031】
用語「薬理学的に活性」は、そのように記載される物質が、医学パラメータまたは疾患状態に影響する活性を有すると判断されることを意味する。
【0032】
本明細書中で使用されるとき、用語「発現する(express)」、「発現する(expressing)」および「発現」は、遺伝子またはDNA配列における情報が顕在化することを可能にするかまたは引き起こすこと、例えば、対応する遺伝子またはDNA配列の転写および翻訳に関与する細胞機能を活性化することによってタンパク質を生成することを意味する。DNA配列は、細胞内でまたは細胞によって発現されることにより、タンパク質などの「発現産物」が形成される。その発現産物自体、例えば、生じるタンパク質もまた、「発現される」と言われる場合がある。発現産物は、細胞内、細胞外または分泌型と特徴づけられ得る。用語「細胞内」は、細胞の内側を意味する。用語「細胞外」は、膜貫通タンパク質などの細胞の外側を意味する。物質は、細胞上または細胞の内側のある場所から細胞の外側に著しい程度現れる場合、細胞によって「分泌」される。
【0033】
本明細書中で使用されるとき、「ポリペプチド」とは、ペプチド結合を介して連結された、アミノ酸残基、その構造改変体、関連する天然に存在する構造改変体および合成の天然に存在しないアナログから構成される、ポリマーのことを指す。合成ポリペプチドは、例えば、自動ポリペプチド合成装置を用いて調製される。用語「タンパク質」は、代表的には、大型のポリペプチドのことを指す。用語「ペプチド」は、代表的には、短いポリペプチドのことを指す。
【0034】
本明細書中で使用されるとき、ポリペプチドの「フラグメント」は、完全長ポリペプチドまたはタンパク質発現産物より小さいポリペプチドまたはタンパク質の任意の部分を指すと意味される。
【0035】
本明細書中で使用されるとき、「アナログ」とは、その分子全体またはそのフラグメントと、構造が実質的に類似であり、同じ生物学的活性を有するが、様々な程度の活性を有し得る、任意の2つ以上のポリペプチドのことを指す。アナログは、他のアミノ酸から1つ以上のアミノ酸への置換、欠失、挿入および/または付加を含む1つ以上の変異に基づいて、そのアミノ酸配列の組成が異なる。置換は、置き換えられるアミノ酸とそれを置き換えるアミノ酸との物理化学的または機能的な関連性に基づいて、保存的または非保存的であり得る。
【0036】
本明細書中で使用されるとき、「改変体」とは、通常はその分子の一部でない追加の化学部分を含むように改変された、ポリペプチド、タンパク質またはそのアナログのことを指す。そのような部分は、その分子の溶解性、吸収、生物学的半減期などを調節し得る。あるいは、その部分は、その分子の毒性を低下させ得、その分子の任意の望ましくない副作用などを排除し得るか、または減弱し得る。そのような作用を媒介することができる部分は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(1980)に開示されている。そのような部分をある分子に結合するための手順は、当該分野で周知である。例えば、限定されないが、1つの局面において、改変体は、そのタンパク質により長いインビボ半減期を付与する化学修飾を有する血液凝固因子である。様々な局面において、ポリペプチドは、グリコシル化、ペグ化および/またはポリシアリル化によって改変される。
【0037】
FVIII
本明細書中において、用語「第VIII因子」または「FVIII」または「rAHF」とは、インタクトなBドメインの少なくとも一部を有し、天然のFVIIIに関連する生物学的活性を示す任意のFVIII分子のことを指す。本開示の1つの実施形態において、FVIII分子は、完全長FVIIIである。そのFVIII分子は、FVIII:CをコードするDNAにハイブリダイズすることができるDNA配列によってコードされるタンパク質である。そのようなタンパク質は、ドメインA1−A2−B−A3−C1−C2間またはその内部の様々な部位にアミノ酸欠失を含み得る(米国特許第4,868,112号)。そのFVIII分子は、1つ以上のアミノ酸残基が部位特異的突然変異誘発によって置き換えられている天然のFVIIIのアナログでもあり得る。
【0038】
本開示によれば、用語「組換え第VIII因子」(rFVIII)は、組換えDNA技術を介して得られる異種または天然に存在する任意のrFVIII、またはその生物学的に活性な誘導体を含み得る。ある特定の実施形態において、この用語は、上に記載されたようなタンパク質および本開示のrFVIIIをコードする核酸を包含する。そのような核酸としては、例えば、遺伝子、プレmRNA、mRNA、多型改変体、対立遺伝子、合成変異体および天然に存在する変異体が挙げられるが、これらに限定されない。用語rFVIIIによって包含されるタンパク質としては、(1)少なくとも約25、約50、約100、約200、約300、約400またはそれ以上のアミノ酸(最大で、天然の成熟タンパク質に対する406アミノ酸の完全長配列)の領域にわたって、参照核酸によってコードされるポリペプチドまたは本明細書中に記載されるアミノ酸配列と約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%もしくは約99%超またはそれ以上のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を有し;そして/または(2)本明細書中に記載されるような参照アミノ酸配列を含む免疫原、その免疫原性フラグメントおよび/またはその保存的に改変された改変体に対して生成された、抗体、例えば、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体に特異的に結合する、例えば、本明細書中の上に記載されたタンパク質およびポリペプチド、上に記載された核酸によってコードされるタンパク質、種間ホモログおよび他のポリペプチドが挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
本明細書中で使用されるとき、「内因性FVIII」は、処置を受けることが意図された哺乳動物を起源とするFVIIIを含む。この用語は、前記哺乳動物に存在するトランスジーンまたは他の任意の外来DNAから転写されるFVIIIも含む。本明細書中で使用されるとき、「外来性FVIII」は、前記哺乳動物を起源としないFVIIIを含む。
【0040】
FVIII分子は、単一の遺伝子産物から生じたポリペプチドの不均一な分布として、天然の状態で、および治療用調製物で、存在する(例えば、Anderssonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,83,2979 2983,May 1986を参照のこと)。用語「第VIII因子」は、本明細書中で使用されるとき、血漿に由来するか組換えDNA法の使用によって生成されるかに関係なく、そのようなすべてのポリペプチドのことを指し、それらとしては、FVIII模倣物、fc−FVIII結合体、水溶性ポリマーで化学的に改変されたFVIIIおよびFVIIIの他の形態または誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。FVIIIを含む治療用調製物の市販の例としては、HEMOFIL MおよびRECOMBINATE(Baxter Healthcare Corporation,Deerfield,Ill.,U.S.A.から入手可能)という商品名で販売されているものが挙げられる。他の調製物は、主に、FVIII分子のBドメイン部分を有しない、FVIII分子の単一の部分集団を含む。
【0041】
本開示の出発物質は、FVIIIであり、それは、ヒト血漿に由来し得るか、または特許である米国特許第4,757,006号;米国特許第5,733,873号;米国特許第5,198,349号;米国特許第5,250,421号;米国特許第5,919,766号;EP306968に記載されているような組換え操作法によって生成され得る。
【0042】
本開示に有用なFVIII分子としては、完全長タンパク質、そのタンパク質の前駆体、そのタンパク質の生物学的に活性なまたは機能的なサブユニットまたはフラグメント、およびそれらの機能的誘導体、ならびに本明細書中の以下に記載されるようなそれらの改変体が挙げられる。FVIIIへの言及は、そのようなタンパク質のすべての可能性のある形態を含むことを意味し、ここで、FVIIIの各形態は、天然のインタクトなBドメイン配列の少なくとも一部または全部を有する。
【0043】
本開示のrFVIIIをコードするポリヌクレオチドとしては、(1)本明細書中に記載されるような参照アミノ酸配列をコードする核酸およびその保存的に改変された改変体に、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチド;(2)少なくとも約25、約50、約100、約150、約200、約250、約500、約1000またはそれ以上のヌクレオチド(最大で、成熟タンパク質の1218ヌクレオチドの完全長配列)の領域にわたって、本明細書中に記載されるような参照核酸配列と約95%、約96%、約97%、約98%、約99%超またはそれ以上高いヌクレオチド配列同一性を有する核酸配列を有するポリヌクレオチドが挙げられるがこれらに限定されない。
【0044】
改変体(またはアナログ)ポリペプチドは、1つ以上のアミノ酸残基が本開示のFVIIIアミノ酸配列に付加されている挿入改変体を含む。挿入は、タンパク質の片端または両端に位置し得、そして/またはFVIIIアミノ酸配列の内部領域の中に位置し得る。片端または両端に追加の残基を有する挿入改変体は、例えば、融合タンパク質およびアミノ酸タグまたは他のアミノ(animo)酸標識を含むタンパク質を含む。1つの局面において、特に、FVIII分子が、大腸菌などの細菌細胞内で組換え的に発現されるとき、その分子は、必要に応じてN末端のMetを含み得る。
【0045】
欠失改変体では、本明細書中に記載されるようなFVIIIポリペプチド中の1つ以上のアミノ酸残基が、除去されている。欠失は、FVIIIポリペプチドの一端または両端において行われ得、そして/またはFVIIIアミノ酸配列内の1つ以上の残基が除去され得る。それゆえ、欠失改変体は、FVIIIポリペプチド配列のすべてのフラグメントを包含する。
【0046】
置換改変体では、FVIIIポリペプチドの1つ以上のアミノ酸残基が、除去され、代替残基で置き換えられている。1つの局面において、それらの置換は、本質的には保存的であり、このタイプの保存的置換は、当該分野で周知である。あるいは、本開示は、非保存的でもある置換を包含する。例示的な保存的置換は、Lehninger,[Biochemistry,2nd Edition;Worth Publishers,Inc.,New York(1975),pp.71−77]に記載されており、すぐ下に示される。
【0047】
【化1】

あるいは、例示的な保存的置換が、すぐ下に示される。
【0048】
【化2】

「天然に存在する」ポリヌクレオチド配列またはポリペプチド配列は、代表的には、哺乳動物由来であり、その哺乳動物としては、霊長類、例えば、ヒト;げっ歯類、例えば、ラット、マウス、ハムスター;ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジまたは任意の哺乳動物が挙げられるがこれらに限定されない。本開示の核酸およびタンパク質は、組換え分子(例えば、異種のものおよび野生型配列もしくはその改変体をコードするもの、または天然に存在しないもの)であり得る。参照ポリヌクレオチド配列および参照ポリペプチド配列としては、例えば、UniProtKB/Swiss−Prot P00451(FA8_HUMAN);Gitschier Jら、Characterization of the human Factor VIII gene,Nature,312(5992):326−30(1984);Vehar GHら、Structure of human Factor VIII,Nature,312(5992):337−42(1984);およびThompson AR.Structure and Function of the Factor VIII gene and protein,Semin Thromb Hemost,2003:29;11−29(2002)(これらの全体が本明細書中で参考として援用される)が挙げられる。
【0049】
本明細書中で使用されるとき、「生物学的に活性な誘導体」または「生物学的に活性な改変体」は、前記分子の実質的に同じ機能的特性および/もしくは生物学的特性(例えば、結合特性)ならびに/または同じ構造基盤(例えば、ペプチド骨格または基本的なポリマー単位)を有する分子の任意の誘導体または改変体を含む。
【0050】
本明細書中で使用されるとき、「血漿由来FVIII」または「血漿の」は、凝固経路を活性化する特性を有する哺乳動物から得られた血液中に見られるすべての形態のタンパク質を含む。
【0051】
様々な局面において、rFVIIIの生成には、(i)遺伝子操作によって組換えDNAを生成するため、(ii)例えば、限定されないが、トランスフェクション、エレクトロポレーションまたはマイクロインジェクションによって、組換えDNAを原核細胞または真核細胞に導入するため、(iii)前記形質転換された細胞を培養するため、(iv)例えば、恒常的にまたは誘導時にrFVIIIを発現するため、および(v)例えば、培養液から前記rFVIIIを単離するため、または(vi)精製されたrFVIIIを得るために、形質転換された細胞を回収することによって前記rFVIIIを単離するための当該分野で公知の任意の方法が含まれる。
【0052】
他の局面において、rFVIIIは、薬理学的に許容可能なrFVIII分子を生成することを特徴とする適当な原核生物または真核生物の宿主系における発現によって生成される。真核細胞の例は、哺乳動物細胞(例えば、CHO、COS、HEK293、BHK、SK−HepおよびHepG2)である。
【0053】
さらに他の局面において、多種多様のベクターが、rFVIIIを調製するために使用され、それらは、真核生物および原核生物の発現ベクターから選択される。原核生物での発現のためのベクターの例としては、プラスミド(例えば、限定されないが、pRSET、pETおよびpBAD)が挙げられ、ここで、原核生物の発現ベクターにおいて使用されるプロモーターとしては、限定されないが、lac、trc、trp、recAまたはaraBADのうちの1つ以上が挙げられる。真核生物の発現のためのベクターの例としては:(i)酵母における発現の場合、プロモーター(例えば、限定されないが、AOX1、GAP、GAL1またはAUG1)を使用するベクター(例えば、限定されないが、pAO、pPIC、pYESまたはpMET);(ii)昆虫細胞における発現の場合、プロモーター(例えば、限定されないが、PH、p10、MT、Ac5、OpIE2、gp64またはpolh)を使用するベクター(例えば、限定されないが、pMT、pAc5、pIB、pMIBまたはpBAC)、および(iii)哺乳動物細胞における発現の場合、プロモーター(例えば、限定されないが、CMV、SV40、EF−1、UbC、RSV、ADV、BPVおよびβ−アクチン)を使用する、ベクター(例えば、限定されないが、pSVL、pCMV、pRc/RSV、pcDNA3またはpBPV)および1つの局面において、ウイルス系(例えば、限定されないが、ワクシニアウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルスまたはレトロウイルス)に由来するベクターが挙げられる。
【0054】
「国際単位」または「IU」は、1段階(one stage)アッセイなどの標準的なアッセイによって測定されるときの、FVIIIの血液凝固活性の尺度の単位(効力)である。1段階アッセイは、当該分野で公知であり、例えば、N Lee,Martin Lら、An Effect of Predilution on Potency Assays of FVIII Concentrates,Thrombosis Research(Pergamon Press Ltd.)30,511 519(1983)に記載されている。別の標準的なアッセイは、色素生産性アッセイである。色素生産性アッセイは、Chromogeix AB,Molndal,Swedenから入手可能なCoatest Factor VIIIなど、商業的に購入され得る。
【0055】
用語「徐冷する」は、調製物の乾燥段階の前に凍結乾燥をうける医薬品の凍結乾燥プロセスにおける工程を示すために使用されるものとし、ここで、凍結される調製物の温度は、より低い温度からより高い温度に上げられ、次いで、その時間の後、再度冷却される。
【0056】
充填剤は、医薬品が凍結乾燥された後にその医薬品の「ケーク」または残留固体の塊に構造を提供する化学的実体であり、そしてその医薬品を崩壊から保護する化学的実体である。結晶化可能な充填剤は、凍結乾燥中に結晶化され得る本明細書中に記載されているような、塩化ナトリウム以外の充填剤を意味するものとする。HESは、この結晶化可能な充填剤の群に含められない。
【0057】
フリーズドライは、それが現れる文脈によって別段示されない限り、凍結乾燥プロセスの一部を示すために使用されるものとし、ここで、医薬品の温度が、その調製物から水を追い出すために上げられる。凍結乾燥プロセスの「凍結」工程は、フリーズドライ段階の前に行われる工程である。「凍結乾燥」は、別段示されない限り、凍結工程と凍結乾燥工程の両方を含む凍結乾燥のプロセス全体のことを指すものとする。
【0058】
別段述べられない限り、パーセンテージという用語は、重量/体積のパーセンテージを表し、温度は、セルシウススケールである。
【0059】
製剤および凍結乾燥の開発
最大の安定性を達成するために、本開示のFVIII組成物は、1つの局面において、凍結乾燥される。凍結乾燥中、FVIIIは、水相の状態からアモルファス固相の状態に変換され、これは、タンパク質を化学的および/またはコンフォメーション的な不安定性から保護すると考えられる。凍結乾燥された調製物は、アモルファス相を含むだけでなく、凍結乾燥中に結晶化する成分も含む。そのような成分を含むことによって、FVIII組成物の急速な凍結乾燥およびより優良なケーク(すなわち、ケーク構造を保持し、かつそれが凍結乾燥された容器の側面からの縮みが最小である、ケーク)の形成が可能になると考えられる。本開示の製剤において、安定化剤は、凍結乾燥された生成物のアモルファス相に存在するように選択されており、充填剤(HESを除く)は、凍結中に結晶化するように選択されている。
【0060】
FVIIIと安定剤の両方が、1つの局面において、凍結乾燥されたケークのアモルファス相に分散される。安定剤の塊もまた、1つの局面において、アモルファスの形態で他の賦形剤と比べて大きい。さらに、アモルファス相の見かけのガラス転移温度(Tg’)は、1つの局面において、フリーズドライ中は比較的高く、同様に貯蔵中もその固体のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは高い。アモルファスの塩化ナトリウムが、アモルファス相のTg’を押し下げるので、生成物中の塩化ナトリウムの結晶化が、望ましいことが見出された。
【0061】
特定の組成物のケークの崩壊を回避するために、1つの局面において、凍結濃縮物の見かけのガラス転移温度より低い生成物温度で1次乾燥が行われる。乾燥時間の延長もまた、Tg’の低下を埋め合わせるために必要であり得る。凍結乾燥に関するさらなる情報は、Carpenter,J.F.and Chang,B.S.,Lyophilization of Protein Pharmaceuticals,Biotechnology and Biopharmaceutical Manufacturing,Processing and Preservation,K.E.Avis and V.L.Wu,eds.(Buffalo Grove,Ill.:Interpharm Press,Inc.),pp.199 264(1996)、米国特許第7,247,707号、同第7,087,723号、同第6,586573号に見られ得る。
【0062】
凍結乾燥は、当該分野で通常の手法を用いて行われ、開発されている組成物に対して最適化されるべきである[Tangら、Pharm Res.21:191−200,(2004)およびChangら、Pharm Res.13:243−9(1996)]。
【0063】
凍結乾燥サイクルは、1つの局面において、3つの工程:凍結、1次乾燥および2次乾燥から構成される[A.P.Mackenzie,Phil Trans R Soc London,Ser B,Biol 278:167(1977)]。凍結工程では、溶液を冷却することにより、氷の形成が開始する。さらに、この工程は、充填剤の結晶化を誘導する。その氷は、1次乾燥段階において昇華し、その昇華は、昇華を促進するために真空を用い、そして熱を導入することにより、チャンバー圧を氷の蒸気圧より低下させることによって行われる。最後に、吸着された水または結合した水を、2次乾燥段階で低いチャンバー圧かつ高い棚温度において除去する。このプロセスにより、凍結乾燥されたケークとして知られる材料が生成される。その後、そのケークは、滅菌水または注射に適した希釈剤で再構成され得る。
【0064】
凍結乾燥サイクルは、賦形剤の最終的な物理的状態を決定するだけでなく、他のパラメータ(例えば、再構成時間、外観、安定性および最終的な水分含有量)にも影響する。凍結状態の組成物の構造は、特定の温度において生じるいくつかの転移(例えば、ガラス転移および結晶化)を経て、その構造を用いることにより、凍結乾燥プロセスが理解され得、最適化され得る。Tgおよび/またはTg’は、溶質の物理的状態に関する情報を提供し得、示差走査熱量測定(DSC)によって測定され得る。TgおよびTg’は、凍結乾燥サイクルを計画するときに考慮されなければならない重要なパラメータである。例えば、Tg’は、1次乾燥にとって重要である。さらに、乾燥状態では、ガラス転移温度が、最終生成物に対するおそらく許容可能な貯蔵温度についての情報を提供する。
【0065】
活性な薬物に加えて、製剤の成分は、1つの局面において、低用量の薬物の場合、安定剤、界面活性剤、バッファーおよび充填剤を含む。タンパク質の独特のニーズに対処する特別な成分(例えば、FVIIIの場合のCa+2)もまた、様々な局面において、含められる。多くの添加物(例えば、糖、グリセロール、ある特定のアミノ酸およびアミン)のすべてが、安定剤として働き得る。安定性は、しばしば、「ガラス動力学」の点から合理的に考えられる。つまり、本製剤は、タンパク質が分子的に分散されており、不動のガラス状マトリックスに結合されていて、タンパク質および潜在的な反応物の移動性が大きく制限されている、「非反応性の」無定形固体、すなわちガラスをフリーズドライ中に形成するはずである。いずれの分解プロセスも、いくつかのタイプの分子移動性を必要とするので、不動化は、少なくとも定性的に、安定化を意味する。凍結された濃縮物のガラス状マトリックスおよび乾燥されたアモルファス相は、それらのガラス転移温度であるそれぞれT’およびTによって特徴づけられる。ガラス転移温度より低い温度では、移動性は、非常に限定的になり、逆に、ガラス転移よりもかなり高い温度では、移動性は、急速な化学的および物理的分解プロセスを支持するのに十分高くなる。通則として、1次乾燥中の生成物温度(T)は、フリーズドライ中のアモルファスマトリックスの崩壊を回避するために(すなわち、望ましくない物理的変化を回避するために)T’付近またはT’より低く調節されなければならず(T<T’)、急速な分解を回避するために貯蔵中はTより低く維持されなければならない。しかしながら、単純にTよりも低い温度で貯蔵することは、必ずしも、許容可能な安定性を保証するわけではない。二糖類は、それらを有効な水の代用物と良好なガラス形成剤の両方として機能することを可能にする特性を有する。代表的には、スクロースおよびトレハロースが、安定剤として使用される。
【0066】
本明細書中に記載されるように、充填剤が、タンパク質製剤におけるもう1つの重要な賦形剤である。充填剤の機能は、「優良さ(elegance)」を提供することであり、より重要なことには、生成物を「破裂(blow−out)」から保護することである。すなわち、低用量薬物の場合、薬物濃度は、非常に低いので、得られる乾燥生成物すなわちケークの機械的強度はほとんどない場合がある。したがって、流動している水蒸気からの運動量移行は、ケークを崩壊させ得、生成物の片をバイアルから乾燥チャンバーに移動させ得る。代表的には、高い共融温度を有する可溶性の容易に結晶化される材料は、崩壊に起因する損傷なしにフリーズドライしやすいので、それらは、充填剤として十分機能する。マンニトールおよびグリシンが、通常、医薬品において使用される。充填剤は、本質的に完全な結晶化を保証するために、主成分として存在する必要がある。
【0067】
通常の製剤および賦形剤
賦形剤は、製造可能性および/または最終生成物の品質(例えば、薬物生成物(例えば、タンパク質)の安定性および送達)を付与するかまたは増強する添加物である。これらを含めることに対する理由を問わず、賦形剤は、製剤の不可欠な成分であり、ゆえに、安全であり、かつ患者によって十分に許容される必要がある。タンパク質薬物に対して、賦形剤はその薬物の有効性と免疫原性の両方に影響し得るので、賦形剤の選択は、特に重要である。したがって、タンパク質製剤は、適当な安定性、安全性および市場性をもたらす賦形剤を適切に選択して、開発される必要がある。
【0068】
凍結乾燥された製剤は、1つの実施形態において、バッファー、充填剤および安定剤の1つ以上を少なくとも含む。この実施形態において、凍結乾燥工程中または再構成中の凝集が問題になる場合に、界面活性剤の有用性が評価され、選択される。製造中(例えば、希釈中、滅菌濾過中、充填中など)および凍結乾燥された生成物の再構成後に製剤をpHの安定領域内に維持する適切な緩衝剤が、含められる。液体のタンパク質製剤および凍結乾燥されたタンパク質製剤に対して企図される賦形剤成分の比較が、以下の表に提供されている:
【0069】
【化3】

タンパク質のための製剤を開発する際の主要な難題は、製造、発送および貯蔵のストレスに対して生成物を安定化することである。製剤の賦形剤の役割は、これらのストレスに対して安定化をもたらすことである。賦形剤は、それらの送達を可能にするためおよび患者の利便性を向上するために、高濃度タンパク質製剤の粘度を低下させるためにも使用される。一般に、安定剤は、それらが様々な化学的ストレスおよび物理的ストレスに対してタンパク質を安定化するメカニズムに基づいて分類され得る。いくつかの安定剤は、特定のストレスの作用を緩和するためまたは特定のタンパク質の特定の感受性を制御するために使用される。他の安定剤は、タンパク質の物理的および共有結合性の安定性に対してより一般的な作用を有する。本明細書中に記載される安定剤は、製剤におけるそれらの化学的タイプまたはそれらの機能的役割によって系統立てられる。安定化様式の簡潔な説明は、各安定剤のタイプを考察するときに提供される。
【0070】
本明細書中に提供される教示および指導を所与として、生物医薬品(例えば、タンパク質)の安定性の保持を促進する可能性のある本開示の生物医薬品製剤を得るために、どれだけの量または範囲の賦形剤が任意の特定の製剤に含められ得るかを当業者は把握する。
【0071】
当然のことながら、当業者は、本明細書中に記載される賦形剤の濃度が、特定の製剤内で相互依存性を共有することを認識するだろう。例としては、例えば、タンパク質濃度が高い場合、または例えば、安定化剤の濃度が高い場合に、充填剤の濃度は、1つの局面において、下げられる。さらに、当業者は、充填剤が存在しない特定の製剤の等張性を維持するために、安定化剤の濃度が、しかるべく高められ得る(すなわち、「等張化する(tonicifying)」量の安定剤が使用され得る)ことを認識するだろう。通常の賦形剤は、当該分野で公知であり、Powellら、Compendium of Excipients fir Parenteral Formulations(1998),PDA J.Pharm.Sci.Technology,52:238−311に見られ得る。
【0072】
バッファー(buffer)および緩衝剤
薬理学的に活性なタンパク質製剤の安定性は、通常、狭いpH範囲内で最大であると観察される。この最適な安定性のpH範囲は、プレフォーミュレーション研究の初期に特定される必要がある。いくつかのアプローチ(例えば、加速された安定性研究および熱量測定スクリーニング研究)が、この試みにおいて有用である(Remmele R.L.Jr.ら、Biochemistry,38(16):5241−7(1999))。いったん製剤が完成すると、そのタンパク質は、製造され、その貯蔵期間全体にわたって維持されなければならない。ゆえに、その製剤中のpHを調節するために、緩衝剤がほぼ必ず使用される。
【0073】
緩衝する種の緩衝能力は、pKaと等しいpHにおいて最大になり、pHがこの値から上昇するかまたは低下するにつれて、低下する。緩衝能力の90パーセントが、そのpKaの1pH単位内に存在する。緩衝能力はまた、バッファーの濃度の上昇に比例して増加する。
【0074】
バッファーを選択するとき、いくつかの因子を考慮する必要がある。第1のものおよび主要なものとして、バッファーの種類およびその濃度が、そのpKaおよび所望の製剤pHに基づいて定義される必要がある。等しく重要なのは、そのバッファーが、そのタンパク質および他の製剤の賦形剤と適合性であること、およびいかなる分解反応も触媒しないことを確実にすることである。考慮されるべき第3の重要な局面は、そのバッファーが投与時に誘導し得る刺痛および刺激作用の感覚である。例えば、クエン酸塩は、注射時に刺痛を引き起こすと知られている(Laursen Tら、Basic Clin Pharmacol Toxicol.,98(2):218−21(2006))。刺痛および刺激作用に対する可能性は、製剤が投与時に血液中に迅速に希釈されるようになるIV経路によって投与されるときよりも、薬物の溶液が比較的長い時間にわたってその部位に留まる皮下(SC)または筋肉内(IM)経路によって投与される薬物の場合のほうが高い。直接的なIV注入によって投与される製剤の場合、バッファー(および他の任意の製剤の成分)の総量をモニターする必要がある。それは、患者において心臓血管への作用を誘導し得るリン酸カリウムバッファーの形態で投与されるカリウムイオンについて特に慎重でなければならない(Hollander−Rodriguez JCら、Am.Fam.Physician.,73(2):283−90(2006))。
【0075】
凍結乾燥された製剤用のバッファーは、さらに考慮する必要がある。リン酸ナトリウムのようないくつかのバッファーは、pHの変化が生じる凍結中にタンパク質のアモルファス相から結晶化し得る。酢酸塩およびイミダゾールなどの他の通常のバッファーは、凍結乾燥プロセス中に昇華するかまたは蒸発し、それによって、凍結乾燥中または再構成後に製剤のpHが変化し得る。
【0076】
1つの実施形態において、組成物に存在する緩衝系は、生理的に適合性であるように、およびその医薬製剤の所望のpHを維持するように、選択される。別の実施形態において、その溶液のpHは、pH2.0〜pH12.0である。例えば、様々な実施形態において、その溶液のpHは、2.0、2.3、2.5、2.7、3.0、3.3、3.5、3.7、4.0、4.3、4.5、4.7、5.0、5.3、5.5、5.7、6.0、6.3、6.5、6.7、7.0、7.3、7.5、7.7、8.0、8.3、8.5、8.7、9.0、9.3、9.5、9.7、10.0、10.3、10.5、10.7、11.0、11.3、11.5、11.7または12.0であり得る。
【0077】
pH緩衝化合物は、その製剤のpHを所定のレベルに維持するのに適した任意の量で存在し得る。適切に低レベルのバッファーが使用されるとき、結晶化およびpHの変化は、回避され得る。1つの実施形態において、pH緩衝濃度は、0.1mM〜500mM(1M)である。例えば、pH緩衝剤が、少なくとも0.1、0.5、0.7、0.8、0.9、1.0、1.2、1.5、1.7、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、40、50、60、70、80、90、100、200または500mMであることが企図される。
【0078】
本明細書中に示されているような製剤を緩衝するために使用される例示的なpH緩衝剤としては、有機酸、グリシン、ヒスチジン、グルタミン酸塩、コハク酸塩、リン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、Tris、HEPESおよびアミノ酸またはアミノ酸の混合物(アスパラギン酸塩、ヒスチジンおよびグリシンを含むがこれらに限定されない)が挙げられるが、これらに限定されない。本開示の1つの実施形態において、緩衝剤は、ヒスチジンである。
【0079】
安定剤および充填剤
本医薬製剤の1つの実施形態において、安定剤(または安定剤の組み合わせ)が加えられることにより、貯蔵によって誘導される凝集および化学的分解が防止されるかまたは減少する。再構成の際に濁りをおびた溶液または混濁した溶液は、通常、そのタンパク質が沈殿しているかまたは少なくとも凝集していることを示唆する。用語「安定剤」は、凝集または化学的分解(例えば、自己分解、アミド分解、酸化など)を防止することができる賦形剤のことを意味する。ある特定の実施形態において、企図される安定剤としては、スクロース、トレハロース、マンノース、マルトース、ラクトース、グルコース、ラフィノース、セロビオース、ゲンチオビオース、イソマルトース、アラビノース、グルコサミン、フルクトース、マンニトール、ソルビトール、グリシン、アルギニンHCL、ポリヒドロキシ化合物(多糖類(例えば、デキストラン、デンプン、ヒドロキシエチルデンプン、シクロデキストリン、N−メチルピロリデン、セルロースおよびヒアルロン酸)を含む)、塩化ナトリウム、塩化カルシウムが挙げられるが、これらに限定されない[Carpenterら、Develop.Biol.Standard 74:225,(1991)]。本開示の1つの実施形態において、トレハロースが、安定化剤として使用される。本開示の別の実施形態において、スクロースが、安定化剤として使用される。本製剤において、安定剤は、ある特定の実施形態において、約0.1、0.5、0.7、0.8、0.9、1.0、1.2、1.5、1.7、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、30、40、50、60、70、80、90、100、200、500、700、900または1000mMの濃度で組み込まれる。同様に、本開示のある特定の実施形態において、安定剤は、約0.005、0.01、0.02、0.03、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.5、0.7、0.8、0.9、1.0、1.2、1.5、1.7、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20%w/vの濃度で組み込まれる。
【0080】
所望であれば、本製剤は、適切な量の充填剤およびオスモル濃度調節剤も含む。本開示の様々な実施形態において、充填剤としては、例えば、マンニトール、グリシン、スクロース、ポリマー(例えば、デキストラン、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ラクトース、ソルビトール、トレハロースまたはキシリトール)が挙げられるが、これらに限定されない。1つの実施形態において、充填剤は、マンニトールである。充填剤は、本開示の様々な実施形態において、約0.1、0.5、0.7、0.8、0.9、1.0、1.2、1.5、1.7、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、30、40、50、60、70、80、90、100、200、500、700、900または1000mMの濃度で組み込まれる。
【0081】
界面活性剤
タンパク質は、それが気体と液体、バイアルと液体および液体と液体(シリコーン油)との界面において吸着および変性を受けやすくする面と相互作用する強い傾向を有する。この分解経路は、タンパク質濃度に反対に依存するように観察され、可溶性および不溶性のタンパク質凝集物が形成されるか、または面への吸着によって溶液からタンパク質が損失する。容器表面への吸着に加えて、表面によって誘導される分解は、製品の発送中および取り扱い中に起き得るような物理的振動によって悪化する。
【0082】
表面によって誘導される分解を防止するために、通常、タンパク質製剤中で界面活性剤が使用される。界面活性剤は、界面の位置に対してタンパク質を打ち負かす能力を有する(および/または構造的に変更されたタンパク質分子の正しいリフォールディングを促進する)両親媒性分子である。界面活性剤分子の疎水性部分は、界面の位置(例えば、気体/液体)を占め、その分子の親水性部分は、バルク溶媒に向かったままである。十分な濃度(代表的には、界面活性物質の臨界ミセル濃度付近)において、界面活性剤分子の表面層が、タンパク質分子がその界面において吸着することを防止する働きをする。それにより、表面によって誘導される分解が、最小になる。本明細書中で企図される界面活性剤としては、ソルビタンポリエトキシレートの脂肪酸エステル、すなわち、ポリソルベート20およびポリソルベート80が挙げられるがこれらに限定されない。これら2つは、それらの分子に疎水性特性を付与する脂肪族鎖の長さだけが異なる(それぞれ、C−12およびC−18)。したがって、ポリソルベート−80は、ポリソルベート−20より表面活性であり、より低い臨界ミセル濃度を有する。
【0083】
界面活性物質は、タンパク質の熱力学的なコンフォメーションの安定性にも影響し得る。非イオン性界面活性剤は、一般に、タンパク質の安定化に有用である。イオン性界面活性剤(界面活性物質)は、通常、タンパク質を不安定化する。また、所与の界面活性物質の賦形剤の作用は、タンパク質特異的である。例えば、ポリソルベートは、いくつかのタンパク質の安定性を低下させ、その他のタンパク質の安定性を増加させると示されている。界面活性物質によるタンパク質の不安定化は、部分的または全体的に折り畳まれていないタンパク質の状態との特異的な結合に関与し得る界面活性物質分子の疎水性テイルの点において合理的に考えられ得る。これらのタイプの相互作用によって、コンフォメーションの平衡状態が変更し、より広がったタンパク質状態に向かい得る(すなわち、結合しているポリソルベートを補完してタンパク質分子の疎水性部分の露出が増加する)。あるいは、タンパク質の天然の状態が、いくつかの疎水性表面を示す場合、天然の状態に結合する界面活性物質が、そのコンフォメーションを安定化し得る。
【0084】
ポリソルベートの別の局面は、それらが本質的に酸化分解を受けやすいことである。しばしば、原材料として、それらが十分量の過酸化物を含むことにより、タンパク質残基の側鎖、特に、メチオニンが酸化される。安定剤を加えることによって酸化的障害の可能性が生じることから、最低有効濃度の賦形剤が製剤中で使用されるべきである点が強調される。界面活性剤については、所与のタンパク質に対する有効濃度は、安定化のメカニズムに依存する。
【0085】
界面活性剤は、凍結中および乾燥中の表面に関係する凝集現象を防止するためにも適切な量で加えられる[Chang,B,J.Pharm.Sci.85:1325,(1996)]。したがって、例示的な界面活性剤としては、陰イオン、陽イオン、非イオン、双性イオンおよび両性の界面活性剤(天然に存在するアミノ酸から得られる界面活性剤を含む)が挙げられるがこれらに限定されない。陰イオン界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムおよびジオクチルスルホン酸ナトリウム、ケノデオキシコール酸、N−ラウロイルサルコシンナトリウム塩、硫酸ドデシルリチウム、1−オクタンスルホン酸ナトリウム塩、コール酸ナトリウム水和物、デオキシコール酸ナトリウムおよびグリコデオキシコール酸ナトリウム塩が挙げられるが、これらに限定されない。陽イオン界面活性剤としては、塩化ベンザルコニウムまたは塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム一水和物および臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウムが挙げられるが、これらに限定されない。双性イオン界面活性剤としては、CHAPS、CHAPSO、SB3−10およびSB3−12が挙げられるが、これらに限定されない。非イオン界面活性剤としては、ジギトニン、Triton X−100、Triton X−114、TWEEN−20およびTWEEN−80が挙げられるが、これらに限定されない。界面活性剤としては、ラウロマクロゴール400、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリオキシエチレン硬化ひまし油10、40、50および60、モノステアリン酸グリセロール、ポリソルベート40、60、65および80、ダイズレシチンならびに他のリン脂質(例えば、ジオレイルホスファチジルコリン(DOPC)、ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)および(ジオレイルホスファチジルグリセロール)DOPG);スクロース脂肪酸エステル、メチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースも挙げられるが、これらに限定されない。ゆえに、これらの界面活性剤を個別にまたは異なる比での混合物として含む組成物が、さらに提供される。本開示の1つの実施形態において、界面活性剤は、TWEEN−80である。本製剤において、界面活性剤は、約0.01〜約0.5g/Lの濃度で組み込まれる。提供される製剤において、様々な実施形態において、界面活性剤の濃度は、0.005、0.01、0.02、0.03、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9または1.0g/Lである。同様に、本開示のある特定の実施形態において、界面活性剤は、約0.001、0.002、0.003、0.004、0.005、0.01、0.02、0.03、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.5、0.7、0.8、0.9または1.0%w/vの濃度で組み込まれる。
【0086】

塩は、製剤のイオン強度を高めるために加えられることが多く、タンパク質の溶解性、物理的安定性および等張性にとって重要であり得る。塩は、種々の方法でタンパク質の物理的安定性に影響し得る。イオンは、タンパク質の表面上の荷電残基に結合することによってタンパク質の天然状態を安定化し得る。あるいは、塩は、タンパク質骨格(−CONH−)に沿ってペプチド群に結合することによって、変性した状態を安定化し得る。塩は、タンパク質分子内の残基間の反発静電相互作用を保護することによって、タンパク質の天然のコンフォメーションも安定化し得る。タンパク質製剤中の塩は、タンパク質の凝集および不溶性をもたらし得るタンパク質分子間の誘引性静電相互作用も保護し得る。塩(すなわち、電解質)は、一般に、Tg’を著しく低下させ、それにより、製剤のフリーズドライがより困難になり、時折、不可能になる。この理由から、タンパク質の構造的安定性を維持するのに十分な塩だけが、製剤に含められるべきであり、通常、電解質のこのレベルは、非常に低い。
【0087】
ある特定の実施形態において、製剤の塩濃度は、0.0(すなわち、塩を含まない)、0.001、0.002、0.003、0.004、0.005、0.006、0.007、0.008、0.009、0.010、0.011、0.012、0.013、0.014、0.015、0.020、0.050、0.080、0.1、1、10、20、30、40、50、80、100、120、150、200、300および500mMの間である。本開示の1つの実施形態において、0.0mM NaCl(すなわち、NaClを含まない)が、製剤に含められる。本開示の様々な実施形態によればNaClが省略されるかまたは除去されるが、微量のNaClが存在し得ること(すなわち、透析またはクロマトグラフィの手順によってNaClを除去することの限界に起因して)を当業者は認識するだろう。したがって、様々な実施形態において、「NaClが除かれている」は、NaClが製剤に加えられなかったことを意味し、「微量のNaCl」は、NaClが製剤から除去されたこと(例えば、透析、溶媒交換クロマトグラフィなどによって可能な程度まで)を意味する。
【0088】
他の通常の賦形剤の成分
アミノ酸
アミノ酸は、タンパク質製剤において、バッファー、充填剤、安定剤および抗酸化剤として多目的の用途が見出されている。したがって、1つの局面において、ヒスチジンおよびグルタミン酸が、それぞれ5.5〜6.5および4.0〜5.5のpH範囲でタンパク質製剤を緩衝するために使用される。ヒスチジンのイミダゾール基は、pKa=6.0を有し、グルタミン酸側鎖のカルボキシル基は、4.3というpKaを有し、これによって、これらのアミノ酸が、それぞれのpH範囲で緩衝するのに適するようになる。グルタミン酸は、そのような場合において特に有用である。ヒスチジンは、販売されているタンパク質製剤に通常見られるものであり、このアミノ酸は、注射の際に刺痛を与えると知られているバッファーであるクエン酸塩の代替物である。興味深いことに、ヒスチジンは、液体形態と凍結乾燥された形態の両方において高濃度で使用されるとき、凝集に対して安定効果を有するとも報告されている(Chen Bら、Pharm Res.,20(12):1952−60(2003))。ヒスチジンは、高タンパク質濃度の製剤の粘度を低下させるとも他の人によって観察された。しかしながら、同じ研究において、その著者らは、ステンレス鋼容器内での抗体の凍結融解研究中に、ヒスチジン含有製剤において凝集および変色の増加を観察した。ヒスチジンに関する別の警告は、ヒスチジンが、金属イオンの存在下において光酸化を起こす点である(Tomita Mら、Biochemistry,8(12):5149−60(1969))。製剤中で抗酸化剤としてメチオニンを使用することが、有望であるとみられる;メチオニンは、いくつかの酸化ストレスに対して有効であることが観察されている(Lam XMら、J Pharm Sci.,86(11):1250−5(1997))。
【0089】
様々な局面において、優先的な排除のメカニズムによってタンパク質を安定化すると示されているアミノ酸のグリシン、プロリン、セリン、アルギニンおよびアラニンの1つ以上を含む製剤が提供される。グリシンもまた、凍結乾燥された製剤において通常使用される充填剤である。アルギニンは、凝集を阻害する際に有効な薬剤であると示されており、液体製剤と凍結乾燥された製剤の両方において使用されている。
【0090】
提供される製剤において、アミノ酸濃度は、0.1、1、10、20、30、40、50、80、100、120、150、200、300および500mMの間である。本開示の1つの実施形態において、アミノ酸は、グリシンである。
【0091】
抗酸化剤
タンパク質残基の酸化は、いくつかの異なる起源から生じる。特定の抗酸化剤を付加すること以上に、酸化的タンパク質損傷の防止は、製品の製造プロセス全体および貯蔵全体にわたるいくつかの因子(例えば、大気中の酸素、温度、光への曝露および化学的汚染)の慎重な管理を含む。それゆえ、本開示は、還元剤、酸素/フリーラジカルスカベンジャーまたはキレート剤を含むがこれらに限定されない薬学的抗酸化剤の使用を企図する。治療用タンパク質製剤中の抗酸化剤は、1つの局面において、水溶性であり、製品の貯蔵期間にわたって活性なままである。還元剤および酸素/フリーラジカルスカベンジャーは、溶液中の活性な酸素種を除去することによって働く。EDTAなどのキレート剤は、フリーラジカルの形成を促進する微量金属夾雑物と結合することによって効果的である。例えば、金属イオンによって触媒されるシステイン残基の酸化を阻害するために、酸性線維芽細胞成長因子の液体製剤中でEDTAが利用された。本開示の1つの実施形態において、グルタチオンが、本製剤中に含められる。本明細書中に提供される製剤の様々な実施形態において、抗酸化剤の濃度は、0.005、0.01、0.02、0.03、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9または1.0mg/mLである。
【0092】
タンパク質の酸化を防止する様々な賦形剤の有効性に加えて、抗酸化剤自体がそのタンパク質に他の共有結合性の変化または物理的な変化を誘導する可能性が、懸念されている。例えば、還元剤は、分子内ジスルフィド結合を破壊し得、それにより、ジスルフィドシャフリングがもたらされ得る。遷移金属イオンの存在下において、アスコルビン酸およびEDTAは、いくつかのタンパク質およびペプチドにおいてメチオニン酸化を促進すると示されている(Akers MJ,and Defelippis MR.Peptides and Proteins as Parenteral Solutions.Pharmaceutical Formulation Development of Peptides and Proteins.Sven Frokjaer,Lars Hovgaard,editors.Pharmaceutical Science.Taylor and Francis,UK(1999));Fransson J.R.,J.Pharm.Sci.86(9):4046−1050(1997);Yin Jら、Pharm Res.,21(12):2377−83(2004))。チオ硫酸ナトリウムは、rhuMab HER2において光および温度によって誘導されるメチオニン酸化のレベルを低下させると示されている;しかしながら、チオ硫酸タンパク質付加物(thiosulfate−protein adduct)の形成も、この研究で報告された(Lam XM,Yang JYら、J Pharm Sci.86(11):1250−5(1997))。適切な抗酸化剤の選択は、そのタンパク質の特定のストレスおよび感受性に応じて行われる。ある特定の局面において企図される抗酸化剤としては、還元剤および酸素/フリーラジカルスカベンジャー、金属錯化剤(例えば、EDTA)およびチオ硫酸ナトリウムが挙げられるがこれらに限定されない。
【0093】
金属イオン
一般に、遷移金属イオンは、タンパク質における物理的および化学的分解反応を触媒し得るので、タンパク質製剤では望まれない。しかしながら、特定の金属イオンが、タンパク質に対する補因子であるときそれらは製剤に含められ、それらが配位錯体を形成する場合、それらはタンパク質の懸濁製剤に含められる(例えば、インスリンの亜鉛懸濁液)。近年、マグネシウムイオンの使用(10〜120mM)が、アスパラギン酸からイソアスパラギン酸への異性化を阻害するために提案されている(WO2004039337)。
【0094】
金属イオンがタンパク質における安定性または高い活性を付与する2つの例は、ヒトデオキシリボヌクレアーゼ(rhDNase,Pulmozyme(登録商標))およびFVIIIである。rhDNaseの場合、Ca+2イオン(最大100mM)が、特定の結合部位を介してこの酵素の安定性を高めた(Chen Bら、J Pharm Sci.,88(4):477−82(1999))。実際に、EDTAを用いて溶液からカルシウムイオンを除去することにより、アミド分解および凝集が増加した。しかしながら、この作用は、Ca+2イオンだけでしか観察されなかった;他の二価の陽イオンMg+2、Mn+2およびZn+2は、rhDNaseを不安定化させると観察された。同様の作用が、FVIIIにおいて観察された。Ca+2およびSr+2イオンは、このタンパク質を安定化したが、Mg+2、Mn+2およびZn+2のようなその他のもの、Cu+2ならびにFe+2は、この酵素を不安定化した(Fatouros,A.ら、Int.J.Pharm.,155,121−131(1997)。FVIIIを用いた別個の研究において、凝集速度の著しい上昇が、Al+3イオンの存在下において観察された(Derrick TSら、J.Pharm.Sci.,93(10):2549−57(2004))。
【0095】
保存剤
同じ容器からの2回以上の抽出を含む複数回用の非経口製剤を開発するとき、保存剤が、必要である。それらの主な機能は、微生物の増殖を阻害すること、および貯蔵期間全体または薬物製品を使用する期間全体にわたって製品の無菌性を保証することである。通常使用される保存剤としては、ベンジルアルコール、フェノールおよびm−クレゾールが挙げられるがこれらに限定されない。保存剤には、使用に関する長い歴史があるが、保存剤を含むタンパク質製剤の開発は、骨の折れるものであり得る。保存剤は、ほぼ必ず、タンパク質に対して不安定効果(凝集)を有し、これは、複数回用量のタンパク質製剤における使用を制限する主要な因子になっている(Roy Sら、J Pharm Sci.,94(2):382−96(2005))。実用的には、保存剤は、希釈製剤に含められるべきであり、フリーズドライされた製剤には含められるべきでない。
【0096】
現在までに、ほとんどのタンパク質薬物が、単回使用のためだけに製剤化されている。しかしながら、複数回用量の製剤が可能であるなら、それらは、患者の便利さおよび市場性の高さをもたらす追加の利点を有する。好例は、保存型の製剤の開発によって、より便利な複数回用のペン型の注射剤が商品化されたヒト成長ホルモン(hGH)の製剤である。hGHの保存型の製剤を含む少なくとも4つのそのようなペン型デバイスが、現在、市場で入手可能である。Norditropin(登録商標)(液体,Novo Nordisk)、Nutropin AQ(登録商標)(液体,Genentech)およびGenotropin(凍結乾燥−二重チャンバーカートリッジ,Pharmacia & Upjohn)は、フェノールを含み、Somatrope(登録商標)(Eli Lilly)は、m−クレゾールとともに製剤化されている。
【0097】
いくつかの局面が、保存型の剤形の製剤開発中に考慮される必要がある。薬物製品中の有効な保存剤の濃度は、最適化されなければならない。これは、タンパク質安定性を損なわずに抗微生物の有効性を付与する濃度範囲でその剤形中の所与の保存剤を試験することを必要とする。例えば、3つの保存剤が、インターロイキン−1レセプター(I型)に対する液体製剤の開発において、示差走査熱量測定(DSC)を用いたスクリーニングに成功した。販売されている製品において通常使用されている濃度における安定性に対する影響に基づいて、それらの保存剤が順位づけられた(Remmele RL Jr.ら、Pharm Res.,15(2):200−8(1998))。
【0098】
保存剤を含む液体製剤の開発は、凍結乾燥された製剤よりも骨の折れるものである。フリーズドライされる生成物は、保存剤なしで凍結乾燥され得、使用時に、保存剤を含む希釈剤で再構成され得る。これにより、保存剤がタンパク質と接触する時間が短くなり、関連する安定性リスクが著しく最小になる。液体製剤の場合、保存剤の有効性および安定性は、生成物の貯蔵期間全体(約18〜24ヶ月)にわたって維持されなければならない。注意するべき重要な点は、保存剤の有効性が、活性な薬物およびすべての賦形剤の成分を含む最終製剤において証明されなければならない点である。
【0099】
いくつかの保存剤は、注射部位反応を引き起こし得、それは、保存剤を選択する際に配慮を必要にする別の因子である。Norditropinにおける保存剤およびバッファーの評価に焦点が当てられた臨床試験では、フェノールおよびベンジルアルコールを含む製剤において、m−クレゾールを含む製剤よりも低い疼痛知覚が観察された(Kappelgaard A.M.,Horm Res.62 Suppl 3:98−103(2004))。興味深いことに、通常使用される保存剤の中で、ベンジルアルコールは、麻酔特性を有する(Minogue SC,and Sun DA.,Anesth Analg.,100(3):683−6(2005))。様々な局面において、保存剤の使用は、どんな副作用をも凌ぐ利点を提供する。
【0100】
調製方法
本開示は、さらに、医薬製剤を調製するための方法を企図する。
【0101】
本方法は、以下の工程:凍結乾燥する前に、本明細書中に記載されるような安定化剤を前記混合物に加える工程、充填剤、オスモル濃度調節剤および界面活性剤(これらの各々は、本明細書中に記載されるようなものである)から選択される少なくとも1つの薬剤を凍結乾燥の前に前記混合物に加える工程の1つ以上を包含する。
【0102】
凍結乾燥された材料に対する標準的な再構成の実施は、ある体積の純水または注射用の滅菌水(WFI)を戻し加えることである(しかしながら、代表的には、必ずしも凍結乾燥中に除去された体積と等しくない)が、非経口投与用の医薬品を生成する際、抗菌剤の希薄な溶液が、時折使用される[Chen,Drug Development and Industrial Pharmacy,18:1311−1354(1992)]。したがって、再構成されたFVIII組成物を調製するための方法が提供され、その方法は、凍結乾燥された本開示のFVIII組成物に希釈剤を加える工程を包含する。
【0103】
凍結乾燥された材料は、水溶液として再構成され得る。種々の水性キャリア、例えば、注射用滅菌水、複数回投薬で使用するための保存剤を含む水、または適切な量の界面活性剤を含む水(例えば、水性懸濁液の製造に適した賦形剤との混合で、活性な化合物を含む水性懸濁液)。様々な局面において、そのような賦形剤は、懸濁剤、例えば、限定されないが、カルボキシルメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴムおよびアラビアゴムであり;分散剤または湿潤剤は、天然に存在するホスファチド、例えば、限定されないが、レシチン、またはアルキレンオキシドと脂肪酸との縮合物(例えば、限定されないが、ステアリン酸ポリオキシエチレン)、またはエチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールとの縮合物(例えば、限定されないが、ヘプタデカエチル−エネオキシセタノール(heptadecaethyl−eneoxycetanol))、またはエチレンオキシドと脂肪酸およびヘキシトールから得られた部分エステルとの縮合物(例えば、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート)、またはエチレンオキシドと脂肪酸およびヘキシトール無水物から得られた部分エステルとの縮合物(例えば、限定されないが、モノオレイン酸ポリエチレンソルビタン)である。様々な局面において、上記水性懸濁液は、1つ以上の保存剤、例えば、限定されないが、p−ヒドロキシ安息香酸エチルまたはp−ヒドロキシ安息香酸n−プロピルも含む。
【0104】
投与
ヒトまたは試験動物に組成物を投与するために、1つの局面において、本組成物は、1つ以上の薬学的に許容可能なキャリアを含む。句「薬学的に」または「薬理学的に」許容可能とは、以下に記載されるような当該分野で周知の経路を用いて投与されたときに、安定であり、タンパク質分解(例えば、凝集および切断生成物)を阻害し、さらにアレルギー反応または他の有害反応をもたらさない、分子の実体および組成物のことを指す。「薬学的に許容可能なキャリア」には、上で開示された薬剤を含む、任意およびすべての臨床的に有用な溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤ならびに吸収遅延剤などが含まれる。
【0105】
本医薬製剤は、経口的に、局所的に、経皮的に、非経口的に、吸入スプレーによって、膣に、直腸に、または頭蓋内注射によって、投与される。非経口という用語は、本明細書中で使用されるとき、皮下注射、静脈内、筋肉内、槽内への注射または注入手法を含む。静脈内、皮内、筋肉内(intramusclar)、乳房内、腹腔内、鞘内、眼球後(retrobulbar)、肺内注射およびまたは特定部位における外科的埋め込みによる投与も同様に企図される。一般に、組成物は、発熱物質、ならびにレシピエントにとって有害であり得る他の不純物を本質的に含まない。
【0106】
本組成物の単回投与または複数回投与は、処置している医師によって選択される用量レベルおよびパターンで行われる。疾患の予防または処置の場合、適切な投薬量は、上で定義されたような処置される疾患のタイプ、疾患の重症度および経過、薬物が予防的な目的で投与されるのか治療的な目的で投与されるのか、以前の治療、患者の病歴および薬物に対する応答、ならびに主治医の判断に左右される。
【0107】
キット
追加の局面として、本開示は、被験体に投与するための使用を容易にする様式で包装された1つ以上の凍結乾燥された組成物を備えるキットを含む。1つの実施形態において、そのようなキットは、密閉されたビンまたは容器などの容器に包装された本明細書中に記載される医薬製剤(例えば、治療用のタンパク質またはペプチドを含む組成物)を備え、それは、本方法を実施する際の化合物または組成物の使用法を記載しているラベルが、その容器に添付されているか、またはパッケージに含められている。1つの実施形態において、本医薬製剤は、容器上部の空間の量(例えば、液体製剤と容器上部との間の空気の量)が非常に小さくなるように、容器内に包装されている。好ましくは、上部空間の量は、無視できるほどである(すなわち、ほとんどない)。1つの実施形態において、本キットは、治療用タンパク質組成物または治療用ペプチド組成物を有する第1容器およびその組成物用の生理的に許容可能な再構成溶液を有する第2容器を備える。1つの局面において、本医薬製剤は、単位剤形で包装される。本キットは、さらに、特定の投与経路に従う医薬製剤の投与に適したデバイスを備え得る。好ましくは、本キットは、医薬製剤の使用法を記載しているラベルを備える。
【0108】
投薬量
本明細書中に記載される状態を処置するための方法に関わる投与レジメンは、薬物の作用を改変する様々な因子、例えば、患者の年齢、状態、体重、性別および食餌、任意の感染症の重症度、投与の時間ならびに他の臨床的な因子を考慮して、主治医によって決定される。例としては、本開示の組換えFVIIIの代表的な用量は、約30IU/kg〜50IU/kgである。
【0109】
1つの局面において、本開示の製剤は、最初のボーラスの後、薬物製品の治療的な循環レベルを維持する持続注入によって投与される。別の例として、発明性のある化合物は、1回用量として投与される。当業者は、良好な医療行為および個別の患者の臨床上の状態によって判定されるような有効な投薬量および投与レジメンを容易に最適化する。投薬の頻度は、その薬剤の薬物動態学的パラメータおよび投与経路に依存する。最適な医薬製剤は、投与経路および所望の投薬量に応じて当業者によって決定される。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Ed.(1990,Mack Publishing Co.,Easton,PA 18042)1435−1712頁(この開示は、本明細書によって参考として援用される)を参照のこと。そのような製剤は、投与される薬剤の物理的状態、安定性、インビボにおける放出速度およびインビボにおけるクリアランス速度に影響を及ぼす。投与経路に応じて、適当な用量が、体重、体表面積または臓器サイズに従って計算される。適切な投薬量は、適切な用量反応データとともに、投薬量の血中濃度(blood level dosage)を測定するための確立されたアッセイを用いることによって確かめられ得る。最終的な投与レジメンは、薬物の作用を改変する様々な因子、例えば、薬物の特定の活性、障害の重症度および患者の応答性、患者の年齢、状態、体重、性別および食餌、任意の感染症の重症度、投与の時間、ならびに他の臨床的な因子を考慮して、主治医によって決定される。研究が行われるにつれて、様々な疾患および状態に対する適切な投薬量レベルおよび処置の持続時間に関するさらなる情報が現れる。
【0110】
以下の実施例は、本開示の特定の実施形態を限定すると意図されず、単に例示的なものである。
【実施例】
【0111】
実施例1
材料および方法
材料
使用される賦形剤は、分析用試薬グレードである。D−マンニトール、トレハロース、ラフィノース、ソルビトールおよびスクロースは、Pfanstiehl Lab.Inc.から購入した。グリシンは、Chattem Chemicalsから入手した。M−ヒドロキシエチルデンプン、アルギニンおよびアラニンは、Ajinomoto Co.,Inc.から入手した。塩化ナトリウム、塩化カルシウムおよびTris塩基は、Mallinckrodt Inc.から入手した。Hepes、L−ヒスチジンおよびポリソルベート−80は、それぞれE.M.Science、Tanabe,Co.Inc.およびSpectrum Int.Inc.から入手した。還元型グルタチオンは、Sigmaから入手した。
【0112】
製剤の調製
本明細書に記載される製剤は、Baxter Healthcare Ltd.によって供給されたバルク原薬(BDS)を用いて調製された。そのBDSは、3130IU/ml rAHF(すなわち、rFVIII);50mM Tris塩基、0.4M NaCl、0.1%ポリソルベート−80(界面活性剤)、4mM CaCl,pH7から構成された。CaClおよび界面活性剤は、それぞれ、天然のコンフォメーションを安定化するためおよび処理による損失を減少させるために存在し、溶液中での最適な安定性のためにpH7が選択されたが、他のpHも最適な安定性を提供し得る。そのBDSを蒸留水で希釈し、一連の製剤溶液を生成するために様々な賦形剤と混合し、そしてpH7に中和した。バイアルに満たす前に、このタンパク質含有製剤溶液を、Milliporeから得た0.22μポアサイズで濾過した後、30cc,20mmの最終的なI型チューブ(finish Type I tubing)バイアル中に満たした(5mL)。そのバイアルおよび栓(Flurotec)は、Daikyo Seikoから購入した。
【0113】
フリーズドライ
フリーズドライは、Dura−Stop/Dura−DryまたはLyoStar凍結乾燥機(FTS)において行った。両方の凍結乾燥機が、それぞれ4.0および4.6平方フィートという総面積を有する3つの可動棚を有する。チャンバー圧は、示差キャパシタンス・マノメータ(MKS)を用いて測定された。生成物温度および棚温度は、バイアル内の底面中央に配置された30ゲージの銅コンスタンタン熱電対を介して測定され、バイアルの縁と内部の両方の温度がサンプリングされた。用いられた様々な処理の詳細は、適切な結果および考察の項に示される。
【0114】
効力アッセイ
このアッセイは、COAG−A−MATE装置(Organon Teknika Corp.,Durham,NC)を用いて行った。FVIII活性は、基質としてヒトFVIII欠損血漿およびアクチベーターとして微粉化シリカを用いた1段階活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)アッセイによって測定された。FVIII効力は、異なる2人の分析者によって2つの別個のバイアルを試験することによって測定された(各バイアルを2つ組で試験した)。したがって、報告される活性データは、4つの反復測定の平均値だった。その平均値を、−70℃で保存された対応する効力値サンプルと比較し、「−70℃コントロール」に対するパーセントとして報告した。反復測定からの通常の標準偏差は、約5%であり、これは、その平均値における標準誤差が、約2.5%であったことを意味する。
【0115】
含水量アッセイ
フリーズドライされたケークにおける水分含有量は、カールフィッシャー電量滴定AF7LC(Fisher Scientific)によって測定された。フリーズドライされたサンプルを、2mLの予備乾燥したメタノールに懸濁し、約5分間振盪することにより、メタノールが、確実にそのバイアル内のすべての粉末を湿らせ、微細なスラリーを形成させた。直ちに全2mLのスラリーを滴定装置に移すことにより、そのサンプルが大気に曝露されるのを最小にした。同じタイプのバイアルおよび栓を用いて、メタノールのみを用いたブランク運転を数回行った後、上に記載した手順と同じ手順を行った。フリーズドライされたサンプル中の水の量は、サンプルとブランクの効力値の差から計算された。3つの異なるバイアルを使用することによって、すべての測定を3回繰り返した。報告される含水量は、3回の測定の平均値であり、±0.1%以内またはそれよりも良好に正確だった。
【0116】
熱分析
TA Instruments Differential Scanning Calorimetry(DSC−2920)を使用することにより、フリーズドライされたケークのガラス転移温度Tを測定し、そして凍結されたシステムにおいてフリーズドライされた濃縮物のガラス転移温度T’を測定した(T’は、通常、崩壊温度よりもわずかに低い温度を示すとされており、1次乾燥について通常推奨される最高温度である)。このDSCは、0.796℃の振幅、60秒の時間、および2℃/分の線形走査速度を用いた、「全加熱(all heating)」条件下における「変調(modulated)」モードにおいて運転された。乾燥窒素ガスが常に流れることにより2%未満の相対湿度が維持された乾燥バッグ内で、乾燥サンプルを取り扱った。約5〜10mgのフリーズドライされたサンプルを厚さ約3〜4mmのディスクに詰めた後、アルミニウムのパンの中に密閉した。凍結した溶液に対する測定のために、約50μLの溶液をAl DSCパンに移し、密閉した。すべてのDSC測定が、乾燥窒素雰囲気中で行われた(50mL/分)。温度およびエネルギーの較正は、標準的な手順に従って高純度のインジウムを用いて行われた。ガラス転移は、リバーシングシグナルによって与えられるような転移の中間点として判定され、約±0.5℃以内で再現性がある。
【0117】
フリーズドライ顕微鏡
崩壊温度の測定は、フリーズドライ顕微鏡を用いて行った。サンプルを2枚のカバーガラスの間に置き、−50℃より低い温度まで急激に凍結した。サンプルを含むチャンバーを約200mTorrまで減圧し、フリーズドライのプロセスを、サンプル温度を上げながら顕微鏡によって観察する。乾燥領域において「ケーク構造」を保持しながらのフリーズドライは、崩壊温度未満で観察される。崩壊温度より高い温度では、乾燥領域の構造の喪失が観察される。崩壊温度は、±1℃以内で再現性がある。
【0118】
粉末X線回折
粉末X線回折研究では、40kvおよび40mAという管負荷で運転するCuKα源(λ=1.54Å)を備えたNorelco Powder Diffractometerを使用した。フリーズドライされたサンプルを、微粉になるまで静かにすりつぶし、サンプルホルダーの上に広げ、静かに押さえた後、充填した。すべてのスキャンは、周囲条件の温度および湿度において行った。サンプルを、0.5°/分のスキャン速度で10°〜60°(2□)からスキャンした。
【0119】
実施例2
NaClのレベルの変動は一般に、特に商品においては、許容可能でないし、ある成分の結晶化は、一般に、その成分が他の成分と比べて高濃度であることによって促進されるので、NaClのレベルを、その処理において予想される最高レベルより高い値および凍結工程中のNaClの結晶化が可能になり得るような十分高い値に上昇させるために、NaClを加えることを決めた。温度変調示差走査熱量計(MDSC)を使用して、0.02%(w/v)ポリソルベート−80、10mM Tris、4mM塩化カルシウムおよび2%(w/v)スクロースをさらに含む製剤における様々な濃度の塩化ナトリウムの凍結を研究した。この実験のために、200mM塩化ナトリウムを使用した。塩化ナトリウムの完全な結晶化が凍結中に生じることを確実にするために、1mM〜10000mMまたは10mM〜1000mMまたは100mM〜500mMまたは150mM〜300mMの範囲内の濃度を含むがこれらに限定されない他の濃度も使用され得る。
【0120】
1つの好ましい実施形態において、200mM塩化ナトリウムを含むサンプルを使用することにより、塩化ナトリウムの非存在下における系のT’(−36℃)に近い、凍結固体の(Tg’)値(−39℃)がもたらされたことから、その塩化ナトリウムのほとんどが結晶化していたことが示唆される。崩壊温度(フリーズドライ顕微鏡によるもの)は、T’値の約1℃以内だった。150mMまたはそれ以下の塩化ナトリウムを含む溶液は、−50℃未満のT’値を与えたことから、結晶化していない塩化ナトリウム(すなわち、アモルファスの塩化ナトリウム)の存在が示唆される。この観察結果は、バイアル内でフリーズドライされた材料に対する限定的な研究において確かめられた。200mM未満の塩化ナトリウムを含む溶液は、凍結乾燥されるとき、T’データによって予測されるようにケーク構造において様々な程度の崩壊を示すが、≧200mMのNaClでは、崩壊は回避され、結晶性の充填剤およびNaClが生じた(粉末X線回折)。
【0121】
実施例3
rAHFがフリーズドライの様々な段階においてストレスに曝露されるときのrAHFの安定性に対するrAHFの様々な濃度の影響を調べた。異なる濃度、すなわち600および60IU/mL(150および15μg/mlに対応)のrAHFを含み、いかなる安定剤も含まない2つのサンプルを使用した。これらのサンプルに対する製剤の組成は:8%マンニトール(充填剤)、10mM Trisバッファー、200mM NaCl、4mM CaCl、0.02%ポリソルベート−80,pH7.0だった。第3のサンプルは、これらの成分に加えて安定剤として2%スクロースを使用した製剤を使用した。表1に記載される使用された乾燥プロセスは、ほとんどの製剤において崩壊を防止するために十分低い約−42℃という生成物温度をもたらす;にもかかわらず、このプロセスは、最適化されなかった。
【0122】
【表1】

rAHFの製造中の安定性に対するタンパク質濃度の影響を、フリーズドライ処理の各段階において各サンプルの少量のアリコートを抜き出し(表1に記載されていように)、rAHFの活性を測定することによって評価した。結果を表2にまとめた。
【0123】
【表2】

より低レベルのrAHF(60IU/ml)を含む製剤(サンプルBおよびC)は、
凍結中に開始rAHF効力に対して35〜39%を損失し、より高いrAHF(600IU/ml)を含む製剤(サンプルA)は、たった約3%しか損失しなかった。このデータにおける不確かさが約3%であることに注意されたい;したがって、高濃度の処方の凍結中の活性の損失は、無視できた。その後の熱処理中および凍結乾燥中も、より高い濃度のrAHFを含む製剤が、より低濃度のrAHFを含み、かつスクロースを含まない製剤よりも活性の損失が小さかった。これらの観察結果から、より高濃度のrAHFが、自己保護作用を有することが示唆される。乾燥中の活性の損失は、著しく(18〜24%)、すべての製剤について似ていた。貯蔵中の安定性は、高濃度サンプル(A)が、低濃度サンプル(B)よりもわずかに良好であり、スクロース含有製剤サンプル(C)よりもかなり良好だった。
【0124】
実施例4
製剤サンプルを安定性およびフリーズドライ挙動についてスクリーニングすることにより、rAHFに対する好ましい製剤を特定した。1つの実施形態において、製剤は、様々な組み合わせの充填剤(一般に8%)および安定剤(2%)を含んだが、当業者は、他の濃度の充填剤および安定剤が同様に適当であることを認識する。この同じ実施形態において、充填剤としてヒドロキシエチルデンプン(HES)またはNaClを使用している製剤は、それらをそれぞれ4%および2.3%の濃度で使用していたが、また、当業者は、これらの賦形剤に対する他の濃度が同様に適当であることを認識する。さらに、すべての製剤が、以下の賦形剤および条件を含んだ:220mM NaCl、0.03%(v/v)ポリソルベート−80、4mM CaCl、10mM TRISバッファーおよびpH7。凍結乾燥サイクルは、表3に記載される特定の組み合わせの安定剤および充填剤を使用した。
【0125】
【表3】

すべての製剤が、開始溶液において100IU/mlのrAHFを含んだ。rAHFの不安定性が、より低いタンパク質濃度において最大になり得るので、より低レベルのrAHFを選択し、ゆえに、安定性の差の評価が容易になった。有望な製剤候補を特定する製剤のスクリーニングは、2つの基準セット、(1)物理的特徴および(2)安定性を使用した。
【0126】
物理的特徴:フリーズドライされた生成物の物理的特徴は、以下の基準:(1)合理的な時間内に少ない残留水分(通常<1%)まで崩壊せずにフリーズドライする能力、(2)フリーズドライされた固体のガラス転移温度、(3)フリーズドライされた生成物の外観、および(4)バイアル内容物を5mLの注射用滅菌水に溶解することによって測定されるような再構成時間によって判断された。物理的特徴の結果を表4に示す。
【0127】
【表4】

概して、すべてのフリーズドライされた固体は、許容可能な再構成時間を有した。しかしながら、すべてが、所望のもの、特に、マンニトールベースの製剤よりも高い残留水分含有量および低いガラス転移温度を有した。さらに、粉末X線回折データ(データ示さず)は、マンニトール水和物ピークについての証拠を示し、それは、いくらかのマンニトールがマンニトール水和物に結晶化したこと(脱溶媒和する(desolvate)のが難しいこと)を示唆している。さらに、少なくともマンニトール含有系に対しては、アモルファスのマンニトールTがたった約13℃であるので、マンニトールの不完全な結晶化は、アモルファス相のTを著しく低下させ得る。
【0128】
製造中の安定性:マンニトール/リジンを除くすべての製剤が、表3に記載したプロセスを用いて調製され、濾過され、充填され、そして凍結乾燥された。rAHF効力を開始製剤から復元することによって、製造中の安定性を推定した。様々な製剤における処理後のrAHFの、開始活性に対するパーセント活性を図1にまとめた。マンニトール/グリセロール製剤におけるrAHFの活性は、本質的に完全に喪失した(99.8%損失);それゆえ、この製剤に対するデータは、この図に示されていない。マンニトール/ソルビトールおよびグリシン/ラフィノースを含む製剤におけるrAHFの活性もまた、処理中に著しい活性の損失を被った。グリセロールおよびソルビトールを含む製剤におけるrAHFの製造中の不良な安定性は、凍結された系の非常に低いガラス転移温度T’(<−50℃)および2次乾燥におけるその系の予想される低いT’に起因する。ソルビトールのTは、−1.6℃(20)であり、グリセロールに対するそれは、いっそう低い。
【0129】
貯蔵安定性:フリーズドライされたサンプルを、選択された時間にわたって様々な温度(−70℃、5℃、25℃、40℃および50℃、60℃)において安定性試験に供した。各時点において、各サンプルの2本のバイアルを活性(activty)アッセイのために取り出した。各時点におけるrAHFの活性を、−70℃に保持されたコントロールrAHFサンプルの活性に対して正規化した。この手順によって、このアッセイにおける長期間の変動が取り消されることが保証された(−70°で貯蔵されたサンプルのアッセイでは時間に依存しないことが認められた)。無定形固体における分解にとって通常であるように、分解は、「引き延ばされた時間」の速度論に従い、線型方程式
【0130】
【化4】

と十分に一致した。ここで、
P=時間tにおけるFVIIIの活性
=FVIIIの開始効力(=−70℃におけるコントロールの効力)
k=分解に対する速度定数
t=時間(単位は月)
式1は、ガラス状態では平衡状態になく各々が異なる分解速度を有する、多数の独立した微視的状態から分解することと一致する。したがって、式1から決定された速度定数(k)は、凍結乾燥されたマトリックス内のいくつかの異なるタンパク質配置からの速度定数の組み合わせ(その各々は、異なる速度で分解する)を表している。通常、反応速度式は、1未満のいずれかの累乗指数(その累乗指数は1/2であることが多い)で累乗した時間との間で線形性を有する、活性の対数を含むと予想されるが、低レベルの分解の場合は、この線型方程式(式1)が、妥当な近似である。多くのサンプルにおいて、分解は最小ではなく、実際に、表2に与えられている予備データ(分解の程度が特に大きかった)は、式1に十分に当てはまらず、対数式が必要だった。本明細書中で研究されたいくつかのサンプルについて、式1の対数バージョンを用いたとき良好な当てはまりが得られ得るが、実際には、線型方程式である式1は、ほぼすべての場合においていくらかより良好に上記データに当てはまる。したがって、経験的に、式1の使用は、許容可能であり、この式から得られる速度定数を比較することは合理的である。データを表す際の式1の適合性は、図2において図示されており、ここで、−70℃コントロールサンプルに対するパーセント活性損失が、25℃、40℃および50℃において貯蔵されたrAHFの2つの製剤について、時間の平方根の関数としてプロットされている。プロットされた結果の線形性は、優れていた。
【0131】
25℃、40℃および50℃における様々な製剤中のrAHFの分解速度定数は、式1を用いる回帰分析によって得られ、図3で比較されている。結果は、NaClベースの製剤が、NaClを有しない製剤よりも安定でなかったことを示している。
【0132】
最終候補製剤の選択:以下の製剤を、それらの好ましい特徴を受けてさらなる解析に供した:マンニトール/アルギニン、グリシン/トレハロースおよびマンニトール/トレハロース。マンニトール/トレハロース製剤は、好ましい実施形態を構成する。なぜなら、この製剤は、優良なケークを生成し、トレハロースは、非常に高いガラス転移温度(約117℃)を有するので、例えば、貯蔵中に栓からの水の吸収を介して、残留水が増加する場合にガラス転移温度の問題をそれほど被らないからである。さらに、マンニトールは、容易に結晶化可能であり、その完全な結晶化が行われないことは、グリシンの不完全な結晶化よりも深刻でない影響をT’に対して有するものであり、これは、マンニトールよりもグリシンに対するT’がかなり低いという直接的な結果である。
【0133】
酸化の最小化:グルタチオンおよびヒスチジンの役割
酸化は、rAHF生成物が機能活性を失う経路である。N−アセチル−L−シスチン、リポ酸および/または還元型グルタチオンが、本開示の好ましい実施形態における使用に適した安定剤であり、グルタチオンが、最も有効な抗酸化剤である(データ示さず)。したがって、0.2mg/mLの還元型グルタチオンを研究中の製剤に加えた。
【0134】
【表5】

研究された製剤は、以下のバッファーの1つ以上を含んだ:TRIS、ヒスチジンおよび/またはHEPES。
【0135】
ヒスチジンのpKaは、pH7における最適な緩衝には低すぎるが、ヒスチジンは、鉄キレーターとして作用し得ることにより、鉄によって触媒される酸化を制限すると推測されるので、ヒスチジンは、魅力的だった。hepesに対するヒスチジンの別の有望な利点は、HEPES(11℃)より高い固有のT(37℃)であり、ゆえに、フリーズドライされた最終的なケークにおけるより高いガラス転移温度に貢献する。グルタチオンの添加が貯蔵安定性を改善することは一般に認識されており、図4に示される結果は、代表的なものである。図4では、4つのグリシン/トレハロース製剤に対する、処理時の損失および25℃での9ヶ月間の貯蔵中の損失の比較を行っている。製造中の分解は、本質的にすべての製剤について同じだった。ヒスチジンまたはグルタチオンを含まない「基本」製剤は、貯蔵中に明らかに最低の安定性だったが、他の3つの製剤(すべてグルタチオンを含む)は、25℃での貯蔵中に同じレベルの分解を示した。つまり、「基本」製剤+鉄キレーターであるデフェロキサミンまたは「基本」製剤+10mM HEPESは、ヒスチジンを含む製剤と同じ安定性をもたらした。
【0136】
単純な製剤代替物:NaClを含まない二糖だけの製剤
NaClが除去されたときの製剤のフリーズドライの特徴および安定性を調べた。NaClを含まないバッファーに対する透析によって、NaClをBDSから除去した。得られたBDSは、1つの実施形態において、微量のNaClを含んでおり、別の実施形態において、NaClを含んでいなかった。使用されたバッファーの組成および製剤の組成、ならびにフリーズドライされた生成物の物理的特徴、ならびに処理を表6に示す。
【0137】
最適化されていないフリーズドライサイクルを用いたときでさえも、凍結乾燥前の最終製剤の調製中にNaClが除去された賦形剤製剤および賦形剤としてNaClが加えられなかった賦形剤製剤、特に、トレハロースベースの製剤は、極端に低い残留水分含有量および高いT値を有する生成物を提供し、そのすべてが、賦形剤としてNaClが加えられた製剤に必要とされるよりも実質的に短い処理によって提供された(83時間 対 113時間、表5および6を参照のこと)。
【0138】
【表6】

NaClがBDSから除去された二糖だけの製剤におけるrAHFの貯蔵安定性を、図5に示されているような、賦形剤として最も少ないNaClがBDSに加えられた製剤における安定性と比較した。すべての製剤が、グルタチオンおよびヒスチジンを含み、それらの製剤は、充填剤(マンニトール)およびNaClの存在、ならびに透析時に生じた損失(または希釈)に起因する、二糖だけの製剤におけるrAHF濃度がわずかに低いという点だけが異なる。賦形剤としてNaClが除去された製剤および製剤化中にNaClがBDSに加えられなかった製剤は、賦形剤としてNaClが加えられた製剤よりも速くフリーズドライされ、優良な生成物を生じた。さらに、安定性は、NaClを有しないとき、特に、40°および60℃のトレハロース製剤について、著しく良好である。図5におけるデータを所与として、また、アレニウスの挙動を仮定すると、25℃における速度定数は、NaCl含有製剤に対して3.0(単位が月である時間)であり、トレハロースだけの製剤に対する対応する速度定数は、1.44である。この差は、NaClを含まないトレハロース製剤にとって10%分解するのに必要とされる4年間に言い換えられるが、NaClを含む製剤にとっては10%分解するのにたった11ヶ月必要なだけである。要するに、室温での安定性については、凍結乾燥時間が短縮されたという結果をもたらした、透析によってNaClを除去した後、および透析後に製剤賦形剤としてNaClを加えないことが現実的である。
【0139】
上記のことを考慮して、本開示の1つの実施形態において、表6に記載される製剤が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)FVIII;(b)1つ以上の緩衝剤;(c)1つ以上の抗酸化剤;(d)1つ以上の安定化剤;および(e)1つ以上の界面活性剤を含む、第VIII因子(FVIII)の凍結乾燥された安定な医薬製剤であって;
該FVIIIは:
a)組換えFVIIIポリペプチド;
b)a)の生物学的に活性なアナログ、フラグメントまたは改変体;
からなる群から選択されるポリペプチドを含み、
そのバッファーは、約0.1mMから約500mMの範囲のpH緩衝剤を含み、そのpHは、約2.0から約12.0の範囲内であり;
該抗酸化剤は、約0.005から約1.0mg/mlの濃度であり;
該安定化剤は、約0.005から約20%の濃度であり;
該界面活性剤は、約0.001%から約1.0%の濃度であり;そして
該製剤は、塩化ナトリウム(NaCl)が除かれているか、またはほんの微量のNaClを含む、
医薬製剤。
【請求項2】
前記緩衝剤が、クエン酸塩、グリシン、ヒスチジン、HEPES、Trisおよびこれらの薬剤の組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
前記緩衝剤が、ヒスチジンである、請求項2に記載の製剤。
【請求項4】
pHが、約6.0から約8.0の範囲内である、請求項1に記載の製剤。
【請求項5】
pHが、約6.5から約7.5の範囲内である、請求項4に記載の製剤。
【請求項6】
前記緩衝剤が、ヒスチジンであり、前記pHが、約7.0である、請求項1に記載の製剤。
【請求項7】
前記抗酸化剤が、グルタチオンからなる群から選択される、請求項1に記載の製剤。
【請求項8】
前記抗酸化剤が、約0.1から約0.5mg/mlの濃度範囲である、請求項7に記載の製剤。
【請求項9】
前記抗酸化剤が、約0.2mg/mlの濃度のグルタチオンである、請求項8に記載の製剤。
【請求項10】
前記緩衝剤が、ヒスチジンであり、前記pHが、約7.0であり;そして前記抗酸化剤が、約0.2mg/mlの濃度のグルタチオンである、請求項1に記載の製剤。
【請求項11】
前記1つ以上の安定化剤が、スクロース、トレハロースおよびラフィノースならびにこれらの安定化剤の組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の製剤。
【請求項12】
前記安定化剤が、約5%の濃度のトレハロースおよび約4mMの濃度の塩化カルシウムである、請求項11に記載の製剤。
【請求項13】
前記安定化剤が、約5%の濃度のスクロースであり、約4mMの濃度の塩化カルシウムである、請求項11に記載の製剤。
【請求項14】
前記界面活性剤が、ジギトニン、Triton X−100、Triton X−114、TWEEN−20、TWEEN−80およびこれらの界面活性剤の組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の製剤。
【請求項15】
前記界面活性剤が、約0.03%のTWEEN−80である、請求項16に記載の製剤。
【請求項16】
前記緩衝剤が、約pH7.0、約25mMの濃度のヒスチジンであり;前記抗酸化剤が、約0.2mg/mlの濃度のグルタチオンであり;前記安定化剤が、約5%の濃度のトレハロースまたはスクロースおよび約4mMの濃度の塩化カルシウムであり;そして前記界面活性剤が、約0.03%のTWEEN−80である、請求項1に記載の製剤。
【請求項17】
NaClが、賦形剤として加えられていない、請求項1に記載の製剤。
【請求項18】
前記塩化ナトリウムが、透析または溶媒交換クロマトグラフィによって除去された後に微量で存在する、請求項1に記載の製剤。
【請求項19】
凍結乾燥された安定なFVIIIIを調製する方法であって、
(a)請求項1に記載の製剤を調製する工程;および
(b)工程(a)の製剤を凍結乾燥する工程
を包含する、方法。
【請求項20】
前記凍結乾燥されたFVIIIの安定性が、NaClの存在下において凍結乾燥されたFVIII製剤よりも高い、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
(a)FVIII;(b)1つ以上の緩衝剤;(c)1つ以上の抗酸化剤;(d)1つ以上の安定化剤;および(e)1つ以上の界面活性剤を含む、第VIII因子(FVIII)の凍結乾燥された安定な医薬製剤であって;
該FVIIIは:
a)組換えFVIIIポリペプチド;
b)a)の生物学的に活性なアナログ、フラグメントまたは改変体;
からなる群から選択されるポリペプチドを含み、
そのバッファーは、約0.1mMから約500mMの範囲内のpH緩衝剤を含み、そのpHは、約2.0から約12.0の範囲内であり;
該抗酸化剤は、約0.005から約1.0mg/mlの濃度であり;
該安定化剤は、約0.005から約20%の濃度であり;そして
該界面活性剤は、約0.001%から約1.0%の濃度である、
医薬製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−508183(P2012−508183A)
【公表日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−534931(P2011−534931)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【国際出願番号】PCT/US2009/063610
【国際公開番号】WO2010/054238
【国際公開日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(591013229)バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド (448)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER INTERNATIONAL INCORP0RATED
【出願人】(501315876)ユニバーシティ オブ コネチカット (22)
【Fターム(参考)】