説明

等速ジョイント

【課題】等速ジョイント内の空気の外部への放出機能と等速ジョイント内への水の浸入抑制機能とを簡単な構造で両立させる。
【解決手段】外輪部材10と、内輪部材20と、軸部材30と、軸受ユニット40と、ブーツ大径部51が外輪部材10に固定されると共にブーツ小径部52がブーツバンド70により軸部材30に締着される環状のブーツ50と、軸受ユニット40の環状開口部48を、環状隙間空間49を空けて遮蔽して軸受41へのダストの浸入を防止する環状のダストカバー60と、を備え、ダストカバー60は、他方側がストッパピース42に嵌着されると共に、一方側がブーツバンド70によりブーツ小径部52と共に軸部材30に共締め締着され、ダストカバー60の内部には、外輪部材10の開口部と環状隙間空間49とを通気させるための通気路66が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速ジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
四輪車では、変速装置から出力された動力を後輪に伝達するために推進軸を用いるのが一般的である。推進軸は共振点を実用域より高く設定することが必要なため、適当な長さで分割し、分割する箇所には自在継手を設けるとともに、その近傍には中間軸受を設けて車体側に固定している。推進軸の継手には一般的には十字継手と呼ばれるものが適用されるが、駆動系で発生する音振動の問題を解決するために等速ジョイントを適用する例も多く、中でも三箇所ある自在継手のうち中間の自在継手に等速ジョイントを適用する例が多い。
【0003】
乗用車で一般的に適用される等速ジョイントは円筒状の外輪の内径側に溝を形成し、当該溝の中をボールまたはローラが転がりまたは摺動しながら一体で回転して動力伝達を行う。上記溝とボールまたはローラは極めて小さい隙間を持ちながら運動するので、その焼き付きを防止するためにグリースが封入してあり、このグリースが外部へ流出したり、外部から水やゴミが浸入しないようにブーツで封じている。
【0004】
以上の構造の参考例を図10、図11に示す。図10は2つの軸から構成された2ピース構成の推進軸の例を示し、図11は図10における等速ジョイント周りの拡大図である。図10において推進軸200は、前側(一方側)の第1軸201と、後側(他方側)の第2軸202と、第1軸201と第2軸202とを連結する等速ジョイント300と、を備えている。第1軸201の前端部は、第1自在継手211(十字継手等)を介して変速装置の出力軸(図示せず)に接続されており、第2軸202の後端部は、第2自在継手212を介して終減速装置のドライブピニオン(図示せず)に接続されている。
【0005】
等速ジョイント300は例えばトリポート型等速ジョイントであり、第1軸201の後端部に連結された有底円筒状の外輪部材301と、外輪部材301内を軸方向に摺動する内輪部材302と、前端部が内輪部材302に連結されると共に後端部が第2軸202の前端部に連結された軸部材303と、を備えている。図11において内輪部材302のローラ304は、外輪部材301の内周面に軸方向に沿って形成された摺動溝を摺動する。軸部材303は、軸受305を介して車体(図示しない)の下部に回転自在に保持される。外輪部材301の開口部は、前記したようにグリースの流出防止や水、ゴミ等の浸入防止のためにブーツ306により封止される。ブーツ306の一端側は外輪部材301に取着したアダプタに固定され、他端側のブーツ小径部307はブーツバンド308により縮径されて軸部材303の小径軸部309に締着される。
【0006】
さて、等速ジョイントの屈曲角度、すなわち推進軸の一方の第1軸と他方の第2軸の成す角度が大きいと、ボールまたはローラの移動距離は大きくなり、推進軸の回転数が高くなると単位時間当たりの移動距離も大きくなることから自己発熱が増す。したがって等速ジョイントの内部を完全に密封すると内部の空気が膨張して、ゴムで形成された前記ブーツが大きく変形し、最終的にはブーツが破損してしまう恐れがある。
また推進軸の近傍に排気管が設けられている場合も、その輻射熱で等速ジョイントの内部が膨張して、同様な問題に至る恐れがある。
【0007】
そのためブーツあるいは等速ジョイントを構成する部品に大気開放する通路を設け、膨張した空気を外部へ開放する技術が開示されている。しかし、推進軸は車体の下部に取り付けられているため、水溜りを走行した際に前輪の跳ね上げる水が推進軸を直撃したり、あるいは車体フロア下面に付着した水が停止時等に滴下して前記通路から等速ジョイント内部に水が浸入する恐れがある。このことから、ブーツあるいは等速ジョイントにおいて空気の流出入と水の浸入防止の両立が必要となり、その従来技術としては例えば特許文献1〜6に記載のものが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−275195号公報
【特許文献2】特開2007−247805号公報
【特許文献3】特開2007−309465号公報
【特許文献4】実開平1−143427号公報
【特許文献5】特開2006−275241号公報
【特許文献6】特開2008−275133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1〜6に記載された技術の各解決課題は次の通りである。
特許文献1にはブーツを軸部材に装着し、前記通路の開口部をカバー部材で覆う構造が記載されている。しかしこの手法によると、カバー部材ならびに固定部材が必要になり、これらを取り付けるための工数も必要となる。
【0010】
特許文献2はブーツを軸部材に装着した箇所の内径側に通路を形成する技術である。しかしこの手法によると推進軸の組立体を塗装する際に塗料が通路開口部を塞いでしまって通路が機能しなくなるので、塗装を行う際には塗料が付着しないような熟練の作業が必要となる。
【0011】
特許文献3はブーツ小径部と中間軸受固定部材との間に空気を導く部材を設ける技術である。しかしこの手法によると該部材は複雑な孔加工が必要で、加工と組付けのためのコストが発生するほか、重量増加につながる。
【0012】
一方、特許文献4〜6は、等速ジョイント内の空気を外部に排出させる手段として、等速ジョイントの外輪部材あるいは内輪部材を保持する軸部材に通路を設ける技術である。
特許文献4は外輪部材に通路を設ける技術であるが、外輪部材に穴加工を行うコスト、ならびにバルブ部材のコストが必要となる。
特許文献5および6では軸部材に穴加工を行う構造であることから、その加工コストが発生するほか、軸部材の捩じり強度の低下という問題も生じる。
【0013】
本発明は、このような課題を解決するために創案されたものであり、等速ジョイント内の空気の外部への放出機能と等速ジョイント内への水の浸入抑制機能とを簡単な構造で両立できる等速ジョイントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するため、本発明は、一方側の第1軸と他方側の第2軸とを連結する等速ジョイントであって、前記第1軸と一体に回転すると共に、他方側が開口し、内周面に軸方向の摺動溝が形成された円筒状の外輪部材と、前記摺動溝を摺動する摺動子を有する内輪部材と、前記第2軸と一体に回転すると共に、前記内輪部材に連結された棒状の軸部材と、前記軸部材を回転自在に保持する軸受およびこの軸受の外輪に外嵌する内環を有し、前記軸部材と前記内環との間で一方側に開口する環状開口部が形成される軸受ユニットと、ブーツ大径部及びブーツ小径部を有し、ブーツ大径部が前記外輪部材に固定されると共に、ブーツ小径部がブーツバンドにより前記軸部材に締着される環状のブーツと、前記軸受ユニットの環状開口部を、環状隙間空間を空けて遮蔽して前記軸受へのダストの浸入を防止する環状のダストカバーと、を備え、前記ダストカバーは、他方側が前記軸部材自体の径段差肩部若しくは前記軸部材に外嵌固定された外嵌部材の端部に嵌着されると共に、一方側が前記ブーツバンドにより前記ブーツ小径部と共に前記軸部材に共締め締着され、前記ダストカバーの内部には、前記外輪部材の開口部と前記環状隙間空間とを通気させるための通気路が形成されていることを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、摺動子の摺動に伴う発熱等により外輪部材の内部の空気が膨張したとき、その空気は通気路を通って、大気に通じた環状隙間空間に放出される。これにより、空気の膨張に起因するブーツの変形や破損が防止される。ブーツ小径部の開口部はダストカバーと共締めされて外部から遮断されるため、水が掛かってもブーツ内に容易に浸入するおそれがない。空気が逃げる最終的な出口である通気路の他端は、ダストカバーで遮蔽された環状隙間空間に臨んでいることから、水が通気路の他端に浸入するおそれはほとんどない。
【0016】
また、本発明は、前記軸部材に外嵌固定されて前記軸受の一方側への移動を阻止する前記外嵌部材としての環状のストッパピースを備え、このストッパピースの端部に前記ダストカバーの他方側が嵌着されることを特徴とする。
【0017】
軸部材に外嵌固定されて軸受の一方側への移動を阻止するストッパピースを備えた構造においては、従来、ストッパピースの抜け出し荷重を確保するためにストッパピースの内径の加工公差を厳しく設定している。これに対し本発明によれば、ダストカバーをブーツバンドで締着固定する構造のため、ストッパピースの抜け出し荷重をブーツバンドの締着力に分担させることが可能となる。これによりストッパピースの内径の加工公差を緩和できることとなり、ストッパピースの製作コストの低減を図ることができる。
【0018】
また、本発明は、前記通気路は、前記ダストカバーの外周に前記軸部材の軸方向に沿って連続して突出形成された突出部の内部空間から構成されることを特徴とする。
【0019】
本発明によれば、簡単な構造で通気路を構成できるため、等速ジョイントの製作コストの低減を図ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、等速ジョイント内の空気の外部への放出機能と等速ジョイント内への水の浸入抑制機能とを簡単な構造で両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1実施形態に係る推進軸の平面図である。
【図2】第1実施形態に係る等速ジョイントの平面図である。
【図3】図2におけるX1−X1線断面図である。
【図4】図2におけるX2−X2線断面図である。
【図5】第1実施形態に係るダストカバーの斜視図である。
【図6】第2実施形態に係る等速ジョイントの平面図である。
【図7】(a)、(b)はそれぞれ図6におけるX3−X3線断面図、X4−X4線断面図である。
【図8】第2実施形態に係るダストカバーの斜視図である。
【図9】第3実施形態に係る等速ジョイントの平面図である。
【図10】従来の推進軸の平面図である。
【図11】従来の等速ジョイントの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
「第1実施形態」
本発明の第1実施形態について、図1〜図5を参照して説明する。
【0023】
≪推進軸の構成≫
図1に例示した推進軸100は、2ピース構造の推進軸であり、一方の第1軸111と、他方の第2軸112と、第1軸111と第2軸112とを連結する等速ジョイント1と、を備えている。ただし、推進軸のピース数(分割数)はこれに限定されず、3ピース構造(3分割構造)等であってもよい。
【0024】
第1軸111は円筒状の部材からなり、その前端部は第1自在継手121(十字継手等)を介して変速装置の出力軸(図示せず)に連結される。第2軸112も円筒状の部材からなり、その後端部は第2自在継手122(十字継手等)を介して終減速装置のドライブピニオン(図示せず)に連結される。
【0025】
≪等速ジョイントの構成≫
等速ジョイント1は、第1軸111の後端部と第2軸112の前端部とを連結する摺動式のジョイントであって、本実施形態ではトリポート型等速ジョイントである。図2に示すように、等速ジョイント1は、後端側が開口した有底円筒状の外輪部材10と、外輪部材10内を軸方向に摺動する内輪部材20と、棒状の軸部材30と、車体(外部)に対して軸部材30を回転自在に保持する軸受ユニット40と、ブーツ50と、ダストカバー60と、を備えている。
【0026】
<外輪部材>
外輪部材10は、後端側が開口し前端側に底壁部を有する有底円筒状の部品である。外輪部材10の前端部は第1軸111の後端部と溶接(摩擦溶接等)によって接合されている。これにより、外輪部材10は第1軸111と一体に回転するようになっている。
【0027】
外輪部材10の内周面には、軸方向に延び後端側が開口した3本の摺動溝11が形成されている。3本の摺動溝11は周方向において等間隔で配置されている(図3参照)。そして、各摺動溝11を、内輪部材20の後記するローラ23が摺動又は転動するようになっている。
【0028】
<内輪部材>
内輪部材20は、図3に示すように、軸部材30の前端部に外嵌すると共にスプライン結合された環状の外嵌部21と、外嵌部21と一体成形され、径方向に延びると共に周方向に等間隔で配置された軸部22と、軸部22を回転中心とするローラ23(摺動子)と、軸部22とローラ23との間に設けられた軸受24と、を備えている。軸受24は、例えばニードルローラベアリングで構成される。
【0029】
そして、ローラ23が、摺動溝11の内壁面と極小隙間を形成しながら摺動溝11を軸方向に摺動又は転動するので、摺動等に伴うローラ23及び摺動溝11の磨耗・焼き付きを防止するために、摺動溝11にはグリース(潤滑油)が封入されている。
【0030】
<軸部材>
軸部材30は、図2に示すように、外形が円柱状であって中実である金属製の部品である。ただし、円筒状等に適宜変更してよい。軸部材30の後端部は第2軸112と溶接(摩擦溶接等)によって接合されており、これにより軸部材30は第2軸112と一体に回転する。一方、軸部材30の前端部は内輪部材20の外嵌部21とスプライン結合されることで内輪部材20と連結されている。これにより第1軸111の動力(回転力)が、外輪部材10、内輪部材20、軸部材30を介して第2軸112に伝達される。
【0031】
軸部材30は、後記するように、ブーツ50およびダストカバー60をブーツバンド70で締着させるための締着軸部31と、締着軸部31の後寄りで締着軸部31よりも若干大径に形成され、ストッパピース42が外嵌されるストッパ嵌合部32と、ストッパ嵌合部32の後寄りでストッパ嵌合部32よりも若干大径に形成され、軸受41の内輪が外嵌される被支持部33と、被支持部33よりも後寄りで被支持部33よりも大径に形成される大径部34とを有する。軸受41はその内輪が大径部34の前寄りの段差面とストッパピース42とに挟まれることで軸方向の抜け止めがなされる。ストッパピース42は例えばストッパ嵌合部32に圧入されることで軸部材30に固定される。
【0032】
<軸受ユニット>
軸受ユニット40は、車体に対して軸部材30を回転自在に保持するユニットである。軸受ユニット40は、軸受41と、ストッパピース42と、内環43と、外環44と、ゴム製で環状のマウント45とを備える。
【0033】
軸受41は、例えばラジアルボールベアリングで構成され、前記した被支持部33に外嵌される。ストッパピース42は、金属製の円筒体であって、軸部材30に外嵌固定される外嵌部材68として構成された部材である。具体的にはストッパピース42は前記したように軸部材30のストッパ嵌合部32に圧入固定されて、軸受41の前方側への移動を阻止する。ストッパピース42の前端周りは内環43の前側端から突出しており、この突出した部分にダストカバー60が嵌着される。
内環43は環状を呈する金属製の部品であり、軸受41の外輪に外嵌している。これにより、軸部材30と内環43との間、本実施形態ではストッパピース42と内環43との間に前方側に開口した環状開口部48が形成される。外環44は内環43よりも大径の環状を呈する金属製の部品であり、ブラケット47を介して車体(図示せず)の下部に固定される。内環43および外環44は、環状を呈するゴム製部材であるマウント45に一体に成形される。
【0034】
軸受41の前側における内環43とストッパピース42との間、および軸受41の後側における内環43と軸部材30の大径部34との間には、それぞれ軸受41への水や塵等の浸入を防止するためのシール46A、46Bが設けられる。
【0035】
<ブーツ>
ブーツ50は、環状を呈する部品であって、外輪部材10の後側開口と軸部材30との隙間を封止することで、(1)外輪部材10内のグリースの外部への流出を防止すると共に、(2)外部から外輪部材10内への水や塵等の浸入を防止する部品である。
【0036】
ブーツ50は、ブーツ大径部51と、ブーツ小径部52と、屈曲部53とを有した形状からなる。ブーツ大径部51、ブーツ小径部52及び屈曲部53はゴム製であり一体で成形されている。
【0037】
ブーツ大径部51は、円筒状のアダプタ55を介して外輪部材10に固定される。詳細にはブーツ大径部51の後端部がアダプタ55の後端側の押し返し部に差し込まれて固定される。アダプタ55はその前端部が外輪部材10に嵌着固定される。アダプタ55と外輪部材10との間にはOリング56が介設される。ブーツ小径部52は、ブーツ大径部51よりも小径に形成されており、後記するようにブーツバンド70によりダストカバー60と共に締着軸部31に締着される部位となる。屈曲部53は、ブーツ大径部51の前端とブーツ小径部52の前端との間に形成され、断面視で横U字形を呈し、屈曲自在な部分である。
【0038】
<ダストカバー>
ダストカバー60は、ストッパピース42に嵌着して軸受41への水の浸入を防止する部品であり、軸受ユニット40とブーツ50との間において軸部材30を覆うようにレイアウトされる。ダストカバー60は、図2および図5に示すように、円筒状を呈する金属製の部品であって、前寄りから順に、軸部材30の締着軸部31に締着される小径筒形状の締着部61と、ストッパピース42の前端周りに外嵌して嵌着される大径筒形状の嵌着部62と、嵌着部62の後端縁から径外方向に延設されるフランジ形状の遮蔽部63とを有した形状からなる。
【0039】
締着部61の内径寸法は軸部材30の締着軸部31の外径寸法と同寸程度であり、嵌着部62の内径寸法はストッパピース42の外径寸法と同寸程度である。また、遮蔽部63の外径寸法は内環43の外径寸法よりも大きい。ダストカバー60は、締着部61と嵌着部62との間で形成される段差壁64がストッパピース42の前端に突き当てられた状態で、ブーツ小径部52の内側に入り込んだ締着部61の前端周りがブーツバンド70によって軸部材30の円周方向にわたりブーツ50と共に縮径され、ブーツ50と共に軸部材30に共締め締着される。このとき、ダストカバー60の遮蔽部63は、環状開口部48に対して、間隔Lを有する環状隙間空間49を空けて対向配置される。間隔Lは僅かな寸法であり、遮蔽部63は環状開口部48からの軸受41へのダストの浸入を防止する
【0040】
ダストカバー60の内部には、外輪部材10の開口部と環状隙間空間49とを通気させるための通気路66が形成されている。ダストカバー60の外周には軸部材30の軸方向に沿って連続して突出する断面山型形状の突出部65が形成される。この突出部65は、図5から判るように、締着部61の前端から始まって、締着部61、段差壁64、嵌着部62を経由して嵌着部62の後端まで連続的に形成される。これにより、突出部65の内部空間は、図2に示すように、外輪部材10の開口部と環状隙間空間49とを通気させる溝状の通気路66として形成される。すなわち、締着部61においては軸部材30の周面との間で通気路66が形成され、段差壁64および嵌着部62においてはストッパピース42の前端周りとの間で通気路66が形成される。
【0041】
なお、ダストカバー60の円周方向の一部にこのような突出部65が局所的に形成されていても、ブーツ50は突出部65周りになじむように弾性変形するため、ブーツバンド70の締着機能が損なわれることはない。また、締着部61の前端周りの一部には、締着部61を効果的に縮径させるための切欠き67が形成されている。
【0042】
≪等速ジョイントの作用・効果≫
このような等速ジョイント1によれば、次の作用を得る。
摺動子の摺動に伴う発熱等により外輪部材10の内部の空気が膨張したとき、その空気は通気路66を通って、大気に通じた環状隙間空間49に放出される。これにより、空気の膨張に起因するブーツ50の変形や破損が防止される。ブーツ小径部52の開口部はダストカバー60と共締めされて外部から遮断されるため、水が掛かってもブーツ50内に容易に浸入するおそれがない。そして、空気が逃げる最終的な出口である通気路66の他端は、軸部材30の径外方向に向けて開口しているのではなく、軸部材30の軸方向に向けて開口しており、さらに通気路66の他端は僅かな寸法の間隔Lをもって遮蔽部63で遮蔽された環状隙間空間49に臨んでいることから、外部から径内方向に向けて入ってくる水が通気路66の他端に浸入するおそれはほとんどない。
【0043】
本発明によれば次のような効果を奏する。
(1)ブーツ小径部52の開口部がダストカバー60により完全に遮蔽されるので、外輪部材10内に水が浸入するおそれがない。
(2)通気路66は軸部材30の塗料によって目詰まりすることがなく、通気機能が確実に得られる。
(3)外輪部材10或いは軸部材30に加工を施す必要がないため、等速ジョイント1の製作コストの上昇を抑えることができる。
【0044】
以上の効果に加えて、本実施形態のように、軸部材30に外嵌固定されて軸受41の一方側への移動を阻止するストッパピース42を備え、ダストカバー60をこのストッパピース42の端部に嵌着させる構造の場合には次の効果も奏される。
(4)ダストカバー60をブーツバンド70で締着固定する構造のため、ストッパピース42の抜け出し荷重をブーツバンド70の締着力に分担させることが可能となる。これにより、従来、ストッパピース42の抜け出し荷重を確保するために厳しく設定しているストッパピース42の内径の加工公差を緩和できることになり、ストッパピース42の製作コストの低減を図ることができる。
【0045】
また、通気路66を、ダストカバー60の外周に軸部材30の軸方向に沿って連続して突出形成された突出部65の内部空間から構成すれば、簡単な構造で通気路66を構成できるため、等速ジョイント1の製作コストの低減を一層図ることができる。
【0046】
「第2実施形態」
本発明の第2実施形態について、図6〜図8を参照して説明する。第1実施形態と同じ構成要素については同一の符号を付してその説明は省略する。
【0047】
第2実施形態は、ブーツ小径部52とダストカバー60とをブーツバンド70で共締めするにあたり、ブーツ小径部52の外側にダストカバー60を被せてブーツバンド70で締着する形態である。
【0048】
ダストカバー60の前端には、ブーツ小径部52を内部に挿入可能な程度の内径を有した筒形状のブーツ被覆締着部69が形成される。ダストカバー60は、段差壁64がストッパピース42の前端に突き当てられた状態で、ブーツ小径部52の外側に被せられたブーツ被覆締着部69がブーツバンド70によって軸部材30の円周方向にわたり、ブーツ50と共に軸部材30に共締め締着される。ブーツ小径部52の内面側には、ダストカバー60の通気路66と連通するように軸部材30の軸方向に沿ってブーツ通気路71が凹設されており、外輪部材10の開口部と環状隙間空間49とはブーツ通気路71および通気路66により通気されるようになっている。
【0049】
この第2実施形態によっても、第1実施形態と同様に前記(1)〜(4)の効果を奏する。
【0050】
「第3実施形態」
本発明の第3実施形態について、図9を参照して説明する。第1実施形態と同じ構成要素については同一の符号を付してその説明は省略する。
【0051】
第1実施形態が、ダストカバー60の他方側を、軸部材30に外嵌固定された外嵌部材68(ストッパピース42)の端部に嵌着した形態であるのに対し、第3実施形態は、ダストカバー60の他方側を軸部材30自体の径段差肩部35に嵌着した形態である。
【0052】
この第3実施形態では、軸受41の抜け防止機能としてストッパピース42の代わりにC字形の止め輪であるサークリップ72が用いられる。サークリップ72は軸部材30の溝部に差し込まれ、軸受41の前面に当接して軸受41の抜けを防止する。
【0053】
軸部材30は、ブーツ50およびダストカバー60をブーツバンド70で締着させるための締着軸部31と、締着軸部31の後寄りで締着軸部31よりも大径に形成され、軸受41の内輪が外嵌される被支持部33とを有しており、締着軸部31と被支持部33との間に径段差肩部35が形成されている。ダストカバー60は、段差壁64が径段差肩部35の環状の段差面に突き当てられて、嵌着部62が径段差肩部35に嵌着する。したがって、嵌着部62の内径寸法は被支持部33の外径寸法と同寸程度に形成されている。
【0054】
他の構成は第1実施形態と同じであり、ブーツ小径部52の内側に入り込んだ締着部61の前端周りがブーツバンド70によって軸部材30の円周方向にわたりブーツ50と共に縮径され、ブーツ50と共に軸部材30に共締め締着される。ダストカバー60の内部には、外輪部材10の開口部と環状隙間空間49とを通気させるための通気路66が形成される。この第3実施形態で用いられるダストカバー60の形状は図5に示した形状のものと略同じである。また、第2実施形態のようにブーツ50の外側にダストカバー60を被せる構造とした場合には、ダストカバー60の形状としては図8に示した形状のものが用いられる。
【0055】
この第3実施形態によっても、第1実施形態で述べた(1)〜(3)の効果を奏することとなる。
【0056】
以上、本発明の好適な実施形態を説明した。説明した実施形態では外輪部材10および内輪部材20の型式としてトリポート型の等速ジョイントのものとしたが、ダブルオフセット型、レブロ型、バーフィールド型の等速ジョイントを適用することも可能である。
【0057】
また、前記した実施形態では、前側から後側に向かって、外輪部材10、軸部材30(軸受41)の順で配置された構成を例示したが、これとは逆に、軸部材30(軸受41)、外輪部材10の順で配置された構成でもよい。
【符号の説明】
【0058】
1 等速ジョイント
10 外輪部材
20 内輪部材
30 軸部材
35 径段差肩部
40 軸受ユニット
41 軸受
42 ストッパピース
43 内輪
48 環状開口部
49 環状隙間空間
50 ブーツ
51 ブーツ大径部
52 ブーツ小径部
60 ダストカバー
65 突出部
66 通気路
68 外嵌部材
70 ブーツバンド
111 第1軸
112 第2軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方側の第1軸と他方側の第2軸とを連結する等速ジョイントであって、
前記第1軸と一体に回転すると共に、他方側が開口し、内周面に軸方向の摺動溝が形成された円筒状の外輪部材と、
前記摺動溝を摺動する摺動子を有する内輪部材と、
前記第2軸と一体に回転すると共に、前記内輪部材に連結された棒状の軸部材と、
前記軸部材を回転自在に保持する軸受およびこの軸受の外輪に外嵌する内環を有し、前記軸部材と前記内環との間で一方側に開口する環状開口部が形成される軸受ユニットと、
ブーツ大径部及びブーツ小径部を有し、ブーツ大径部が前記外輪部材に固定されると共に、ブーツ小径部がブーツバンドにより前記軸部材に締着される環状のブーツと、
前記軸受ユニットの環状開口部を、環状隙間空間を空けて遮蔽して前記軸受へのダストの浸入を防止する環状のダストカバーと、
を備え、
前記ダストカバーは、他方側が前記軸部材自体の径段差肩部若しくは前記軸部材に外嵌固定された外嵌部材の端部に嵌着されると共に、一方側が前記ブーツバンドにより前記ブーツ小径部と共に前記軸部材に共締め締着され、
前記ダストカバーの内部には、前記外輪部材の開口部と前記環状隙間空間とを通気させるための通気路が形成されていることを特徴とする等速ジョイント。
【請求項2】
前記軸部材に外嵌固定されて前記軸受の一方側への移動を阻止する前記外嵌部材としての環状のストッパピースを備え、
このストッパピースの端部に前記ダストカバーの他方側が嵌着されることを特徴とする請求項1に記載の等速ジョイント。
【請求項3】
前記通気路は、前記ダストカバーの外周に前記軸部材の軸方向に沿って連続して突出形成された突出部の内部空間から構成されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の等速ジョイント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−104480(P2013−104480A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248352(P2011−248352)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(000146010)株式会社ショーワ (715)
【Fターム(参考)】