説明

等速ジョイント

【課題】内側部材の挿通孔からのシャフトの抜けを確実に防止することができる等速ジョイントを提供する。
【解決手段】第2スナップリング凹部63における軸方向Aに対向する2つの側面のうちシャフト60の先端側に形成された第2スナップリング係合部63aと、第2スナップリング係合部63aと対向する第1スナップリング凹部36の第1スナップリング係合部36aが傾斜して形成されている。これにより、スナップリング70の一部しか第2スナップリング係合部63aで押圧されず、スナップリング70の一部しか、縮径方向への荷重が付与されない。このため、スナップリング70が全く縮径されず、内側部材30の挿通孔34からのシャフト60の抜けが確実に防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の駆動力伝達部等に使用される等速ジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の等速ジョイントの一例として、特開2006−266460号公報(特許文献1)などに記載されているボール型の等速ジョイントが知られている。このボール型等速ジョイントは、有底筒状に形成され、内周面に複数の外輪ボール溝が形成された外輪と、この外輪の内側に配設され、外周面に複数の内輪ボール溝が形成された内側部材と、外輪ボール溝と内側部材ボール溝間に配設され、外輪と内側部材との間でトルクを伝達する複数のボールと、内側部材に形成された挿通孔に先端が挿通されて内側部材に連結されるシャフトを有している。
【0003】
そして、内側部材の挿通孔とシャフトの先端はスプライン嵌合されるともに、挿通孔の周壁面の一端部に形成された第1スナップリング係合部とシャフトの先端に形成された第2スナップリング係合部に、C字形状のスナップリングが係合して、シャフトが内側部材に相対回転不能に連結されている。なお、第1スナップリング係合部は、加工上の要因により、奥側に向かって徐々に縮径するテーパー状となっている。
【0004】
このようなボール型等速ジョイントは、ボールが外輪ボール溝と内側部材ボール溝の間で転動することにより、内側部材が外輪に対して相対的に揺動可能となっている。そして、このようなボール型等速ジョイントは、摺動式トリポード型等速ジョイントと異なり内側部材が外輪に対して軸心方向に摺動不能である反面、外輪に対する内側部材の揺動角が大きいことから、車両のフロント側に設置されるドライブシャフトのアウトボードジョイントとして好適に使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−266460号公報(第3〜5頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、ボール型等速ジョイントは、内側部材が外輪に対して軸心方向に摺動不能であることからシャフトに内側部材から引き抜かれる方向への荷重が作用した場合に、スナップリングがシャフトに形成された第2スナップリング係合部で押圧され、スナップリングの外周側が全周に渡ってテーパー状の第1スナップリング係合部で押圧され、スナップリングが縮径され、シャフトが内側部材から引き抜かれてしまうおそれがあった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、内側部材の挿通孔からのシャフトの抜けを確実に防止することができる等速ジョイントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(請求項1)本発明に係る等速ジョイントは、有底筒状に形成された外輪と、前記外輪の内側に、前記外輪に対して相対的に揺動可能に配置され、挿通孔が形成された内側部材と、前記外輪と前記内側部材の間に配置され、前記外輪及び前記内側部材に係合して前記外輪と前記内側部材と間のトルク伝達を行う複数のトルク伝達部材と、先端側の外周面に嵌合部が形成され、当該嵌合部が前記挿通孔に挿通されて前記内側部材に連結されるシャフトと、前記挿通孔及び前記嵌合部に対して軸方向に係合して、前記シャフトの前記内側部材からの抜けを防止するC字形状のスナップリングと、を備え、前記内側部材の挿通孔の内周面には、前記内側部材の軸心方向に沿って複数の雌スプラインが形成されるとともに、前記雌スプラインを横切るように第1スナップリング係合部が形成され、前記シャフトの嵌合部の外周面には、前記シャフトの軸心方向に沿って複数の雄スプラインが形成されるとともに、前記雄スプラインを横切るように第2スナップリング係合部が形成され、前記雄スプラインが前記雌スプラインに嵌合するとともに、相互に対向する前記第1スナップリング係合部と前記第2スナップリング係合部に前記スナップリングが係合して、前記シャフトが前記内側部材に相対回転不能に連結され、前記第1スナップリング係合部と前記第2スナップリング係合部が相互に傾斜している。
【発明の効果】
【0009】
(請求項1)本発明によれば、第1スナップリング係合部と第2スナップリング係合部が相互に傾斜している。これにより、シャフトに内側部材から引き抜かれる方向への荷重が作用した場合に、第2スナップリング係合部の一部のみが、スナップリングを押圧する。つまり、スナップリングの周方向の一部しか、第2スナップリング係合部で押圧されず、スナップリングのそれ以外の部分は、第2スナップリング係合部で押圧されない。このため、スナップリングの周方向の一部にしか、縮径方向への荷重が付与されない。そして、スナップリングの周方向の一部に、縮径方向への荷重が付与されたとしても、それ以外の部分には全く縮径方向への荷重が付与されないので、スナップリングが、第2スナップリング係合部に沿って、荷重が付与される方向に移動するだけで、スナップリングが全く縮径されない。また、スナップリングの周方向の一部に、縮径方向への荷重が付与されたとしても、スナップリングの開口端が、傾斜している第2スナップリング係合部との交差部分の雄スプラインに引っ掛かり、スナップリングの縮径が防止される。このように、スナップリングの縮径が確実に防止されるので、内側部材の挿通孔からのシャフトの抜けを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明による等速ジョイントの一実施の形態を示した断面図である。
【図2】スナップリングの上面図である。
【図3】図1の拡大詳細断面図であり、シャフト、内側部材、及び、スナップリングを表した図である。
【図4】比較例としての従来の等速ジョイントのシャフト、内側部材、及び、スナップリングを表した断面図である。
【図5】(A)…図4のY部拡大図である。 (B)…(A)のZ部拡大図である。 (C)…従来の等速ジョイントにおけるスナップリングの縮径状態を表した図である。
【図6】(A)…図3のX部拡大図である。 (B)…(A)のW部拡大断面図である。 (C)…本発明の等速ジョイントにおけるスナップリングの状態を表した図である。
【図7】本発明による等速ジョイントの他の実施の形態のシャフト、内側部材、及び、スナップリングを表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(本発明の等速ジョイントの構造)
以下、本発明の等速ジョイントを具体化した実施形態について図面を参照しつつ説明する。まず、図1を用いて、本実施形態の等速ジョイント10の全体の構成について説明する。等速ジョイント10は、図1に示されるように、ボール型の等速ジョイントである。この等速ジョイント10は、外輪20、内側部材30、複数のボール40(トルク伝達部材)、保持器50、シャフト60、スナップリング70を有している。
【0012】
外輪20は、図1の右側に開口部を有するカップ状(有底筒状)に形成されている。この外輪20のカップ底部の外方(図1の左側)には、連結軸21が外輪軸心方向に延びるように一体に形成されている。ここで、外輪軸心方向とは、外輪20の中心軸を通る方向、即ち、外輪20の回転軸方向を意味する。連結軸21は、他の動力伝達軸に連結される。外輪の内周面22は、凹球形面に形成されている。外輪20の内周面22には、外輪軸直交方向断面がほぼ円弧凹状の複数の外輪ボール溝23が、ほぼ外輪軸心方向に延びるように円弧状に形成されている。これら複数(本実施形態では6本)の外輪ボール溝23は、径方向に切断した断面で見た場合に、周方向等間隔(本実施形態においては60°間隔)に形成されている。
【0013】
内側部材30は、環状に形成され、外輪20の内側に配置されている。この内側部材30の外周面31は、凸球面状に形成されている。また、内側部材30の外周面31には、内側部材軸直交方向断面がほぼ円弧凹状の複数の内側部材ボール溝32が、ほぼ内側部材軸心方向に延びるように円弧状に形成されている。ここで内側部材軸心方向とは、内側部材30の中心軸を通る方向、即ち、内側部材の回転方向を意味する。複数(本実施形態では6本)の内側部材ボール溝32は、径方向に切断した断面で見た場合に、周方向等間隔(本実施形態では60°間隔)に、且つ、外輪20に形成された外輪ボール溝23と同数形成されている。つまり、それぞれの内側部材ボール溝32が、外輪20のそれぞれの外輪ボール溝23に対向するように位置している。
【0014】
隣り合う内側部材ボール溝32の間には、径方向外側に突出する突部33がそれぞれ形成されている。内側部材30の軸心(中心)には、内側部材軸心方向に向かって挿通孔34が貫通形成されている。そして、挿通孔34の内周面には、内側部材軸心方向に沿って複数の雌スプライン35が形成されている。
【0015】
内側部材30の挿通孔34の周壁面の一端部には、雌スプライン35を横切るように、周方向に沿って一周する第1スナップリング凹部36が、凹陥形成(除去形成)されている。第1スナップリング凹部36は、内側部材30の軸心方向一端側に開口している。
【0016】
複数のボール40(トルク伝達部材)は、外輪20と内側部材30間に配設され、外輪20と内側部材30を係合している。具体的には、複数のボール40は、それぞれ、外輪20の外輪ボール溝23と、当該外輪ボール溝23に対向する内側部材30の内側部材ボール溝32に挟まれるように配置されている。そして、それぞれのボール40は、それぞれの外輪ボール溝23及びそれぞれの内側部材ボール溝32に対して転動可能となっていて、外輪20と内側部材30との間でトルクを伝達する。このような構造により、内側部材30が外輪20に対して相対的に揺動可能となっている。
【0017】
保持器50は、円環状に形成され、外輪20の内周面22と内側部材30の外周面31との間に配置されている。保持器50の外周面51は、外輪の内周面22にほぼ対応する部分球面状、即ち、凸球面状に形成されている。一方、保持器50の内周面52は、内側部材30の外周面31にほぼ対応する部分球面状、即ち、凹球面状に形成されている。保持器50には、周方向(保持器軸心の周方向)に等間隔に、ほぼ矩形の複数の窓部53が貫通形成されている。この窓部53は、ボール40と同数形成されている。そして、それぞれの窓部53には、ボール40が1つずつ収容されて保持されている。
【0018】
シャフト60の先端部分には、嵌合部61が形成されている。そして、嵌合部61の外周面には、シャフト60の軸心方向に沿って、複数の雄スプライン62が形成されている。嵌合部61の雄スプライン62と内側部材30の雌スプライン35がスプライン嵌合して、シャフト60の嵌合部61が、内側部材30の挿通孔34に挿通している。このような構造により、内側部材30とシャフト60が相対回転不能に(トルク伝達可能に)連結されている。
【0019】
嵌合部61の先端(シャフト60の軸心方向先端)部には、雄スプライン62を横切るように、周方向に沿って一周する溝状の第2スナップリング凹部63が凹陥形成されている。
【0020】
第1スナップリング凹部36と第2スナップリング凹部63には、略C字形状のスナップリング70が係合している。スナップリング70は、図2に示されるように、上面視した場合に、円環の一部が切欠部70aにより切り欠かれた略C字形状である。本実施形態では、スナップリング70の断面形状は、円形状である。このスナップリング70が挿通孔34に形成された第1スナップリング凹部36及び嵌合部61に形成された第2スナップリング凹部63対して軸方向(シャフト60及び内側部材30の軸方向)に係合して、シャフト60の内側部材30からの抜けが防止される。
【0021】
次に、図3を用いて、第1スナップリング凹部36や第2スナップリング凹部63の具体的な形状を説明する。
第1スナップリング凹部36は、雌スプライン35の谷部の径よりも大径に凹陥形成されている。第1スナップリング凹部36の底部(内側部材30の軸方向a内部側)には、奥側(内側部材30の軸方向a内部側)に向かって徐々に縮径するテーパー状の第1スナップリング係合部36aが形成されている。なお、内側部材30は、第1スナップリング凹部36を形成した後に、内側部材30の一端から他端に向かって、雌スプライン35を打ち抜き形成することにより加工される。第1スナップリング係合部36aは、雌スプライン35を形成する際に、第1スナップリング凹部36へのバリやダレの形成を防止するためにテーパー状に形成されている。つまり、第1スナップリング係合部36aは、内側部材30の加工上の要因によりテーパー状に形成されている。
【0022】
溝状の第2スナップリング凹部63における軸方向に対向する2つの側面63a、63bのうち、シャフト60先端側の側面は、第2スナップリング係合部63aとなっていて、シャフト60中央側の側面は、中央側面63bとなっている。嵌合部61が挿通孔34に挿通された状態で、シャフト60の軸心A方向に関して、第1スナップリング凹部36の形成位置と第2スナップリング凹部63の形成位置は略同一位置となっている。
【0023】
本発明では、第2スナップリング係合部63aと、この第2スナップリング係合部63aと対向する第1スナップリング係合部36aが相互に傾斜して形成されている。図3に示される実施形態では、第2スナップリング凹部63は、シャフト60の軸心Aと直交する面Bに対して傾斜して形成されている。つまり、第2スナップリング凹部63の第2スナップリング係合部63a及び中央側面63bの両方がシャフト60の軸心Aと直交する面Bに対して傾斜している。一方で、第1スナップリング凹部36の第1スナップリング係合部36aは、内側部材30の軸心aと直交する面bに対して平行に形成されている。
【0024】
スナップリング70を縮径させると、スナップリング70が完全に第2スナップリング凹部63に収容される。つまり、第2スナップリング凹部63の深さは、スナップリング70の線径(幅)よりも大きい。そして、スナップリング70が縮径された状態では、スナップリング70の外径が、雌スプライン35の山部の径よりも小さくなっている。
【0025】
次に、内側部材30とシャフト60の連結方法について説明する。まず、スナップリング70を拡径させて、スナップリング70をシャフト60の第2スナップリング凹部63に装着する。次に、スナップリング70を縮径させた状態で、雄スプライン62を雌スプライン35に嵌合させて嵌合部61を挿通孔34に挿入させる。上述のように、スナップリング70が縮径された状態では、スナップリング70の外径が、雌スプライン35の山部の径よりも小さいので、スナップリング70は挿通孔34(雌スプライン35)を通過できる。
【0026】
スナップリング70が、挿通孔34を完全に通過すると、スナップリング70が拡径して、スナップリング70の外周側の一部(略半分)が第1スナップリング凹部36に突出する。この状態では、スナップリング70の拡径方向及び縮径方向の何れの方向にも力が付与されておらず、スナップリング70が自由状態となっている。そして、この状態では、上述のように、スナップリング70の外周側の一部(略半分)が第1スナップリング凹部36に突出(係合)しているとともに、スナップリング70の内周側の一部(略半分)は第2スナップリング凹部63内に突出(係合)し、シャフト60の内側部材30からの抜けが防止される。言い換えると、相互に対向する第1スナップリング係合部36aと第2スナップリング係合部63aにスナップリング70が係合して(当接して)、シャフト60の内側部材30からの抜けが防止される。なお、スナップリング70の縮径方向とは、スナップリング70の中心方向(内側)を意味し、スナップリング70の拡径方向とは、スナップリング70の外側方向を意味する。
【0027】
(比較例として従来の等速ジョイントの動作の説明)
本発明の等速ジョイント10に対する比較例として、従来の等速ジョイントにおいて、シャフトに内側部材から引き抜かれる方向への荷重が作用した場合の動作について、図4、図5を用いて説明する。
従来の等速ジョイントでは、図4に示されるように、第1スナップリング凹部136及び第2スナップリング凹部163のいずれもが、シャフト160の軸心Aと直交する面Bに対して傾斜していない。このため、シャフト160に内側部材130から引き抜かれる方向への荷重が作用すると、スナップリング170が全周に渡って第2スナップリング係合部163aで押圧され、スナップリング170の全周に、第2スナップリング係合部163aと直交する方向に向かって押圧荷重Pが作用する(図4や図5(A)(B)の(1))。
【0028】
すると、スナップリング170が全周に渡って、テーパー状の第1スナップリング係合部136aで押圧され、スナップリング170の全周に、第1スナップリング係合部136aの垂直方向に向かって抗力Qが作用する(図5(B)の(2))。ここで、抗力Qは、第2スナップリング係合部163aと直交する方向に向かって作用する垂直方向の抗力Rと、第2スナップリング係合部163aと平行な方向に向かって作用する水平方向の抗力Sに分解される。なお、垂直方向の抗力Rと押圧荷重Pは等しくなっている。上述したように、スナップリング170の全周に押圧荷重Pが作用するので、スナップリング170の全周に水平方向の抗力Sが作用する(図5(C))。その結果、図5(C)の点線で示されるように、スナップリング170は縮径する。スナップリング170が縮径すると、スナップリング170が挿通穴134を通過可能な状態となり、内側部材130からシャフト160が引き抜かれてしまう。
【0029】
(本実施形態における等速ジョイントの動作の説明)
次に、図3、図6を用いて、シャフト60に内側部材30から引き抜かれる方向への荷重が作用した場合における等速ジョイント10の動作について説明する。
本実施形態の等速ジョイント10では、上述のように、第2スナップリング係合部63aがシャフト60の軸心Aと直交する面Bに対して傾斜している。このため、シャフト60に内側部材30から抜ける方向(シャフト60の軸心A中央側方向)への荷重が作用した場合には、第2スナップリング係合部63aのうち、最もシャフト60の軸心a中央側に迫り出している部分、つまり、第2スナップリング係合部63aの一部のみが、スナップリング70を押圧する。つまり、スナップリング70の周方向の一部しか、第2スナップリング係合部63aで押圧されず、スナップリング70のそれ以外の部分は、第2スナップリング係合部63aで押圧されない。このため、スナップリング70の周方向の一部にしか、第2スナップリング係合部63aと直交する方向に向かって押圧荷重Tが作用しない(図3や図6(A)(B)の(1))。
【0030】
そして、スナップリング70の周方向の一部が第1スナップリング係合部36aで押圧され、スナップリング70の周方向の一部に、第1スナップリング係合部36aの垂直方向に向かって抗力Uが作用する(図6(B)の(2))。抗力Uは、第2スナップリング係合部63aと直交する方向に向かって作用する垂直方向の抗力Vと、第2スナップリング係合部63aと平行な方向に向かって作用する水平方向の抗力Wに分解される。上述したように、スナップリング70の一部にしか、押圧荷重Tが作用しないので、スナップリング70の周方向の一部にしか水平方向の抗力Wが作用しない(図6(C))。
【0031】
そして、スナップリング70の周方向の一部に、水平方向の抗力Wが作用したとしても、水平方向の抗力Wが作用している部分以外のスナップリング70には全く縮径方向への荷重が作用していないので、スナップリング70が、第2スナップリング凹部63に沿って、水平方向の抗力Wが作用する方向に移動するだけで、スナップリング70が全く縮径されない。
【0032】
また、スナップリング70の周方向の一部に、水平方向の抗力Wが作用したとしても、図6(A)に示されるように、スナップリング70の開口端70bが、第2スナップリング凹部63との交差部分(第2スナップリング係合部63aや中央側面63bに接続する部分)の雄スプライン62に引っ掛かり、スナップリング70の縮径が防止される。詳しく説明すると、第2スナップリング凹部63はシャフト60の軸心Aと直交する面Bに対して傾斜しているので、雄スプライン62と第2スナップリング凹部63が交差する部分は、図6(A)に示されるように、シャフト60の軸心A方向に段差状となっている。このため、上述のように、スナップリング70の開口端70bが、雄スプライン62に引っ掛かる。以上の説明のように、スナップリング70の縮径が確実に防止されるので、内側部材30の挿通孔34からのシャフト60の抜けを確実に防止することができる。
【0033】
(他の実施形態)
次に図7を用いて、本発明による等速ジョイント10の他の実施の形態を説明する。この実施形態では、図7に示されるように、内側部材30の挿通孔34の周壁面の途中部分に、第1スナップリング凹部36が形成されている。そして、第2スナップリング凹部63もまた、嵌合部61の途中部分に形成されている。そして、嵌合部61が挿通孔34に挿通された状態で、シャフト60の軸心A方向に関して、第1スナップリング凹部36の形成位置と第2スナップリング凹部63の形成位置は略同一となっている。この実施形態においても、第2スナップリング凹部63は、シャフト60の軸心Aと直交する面Bに対して傾斜して形成されている。一方で、第1スナップリング凹部36の底面である第1スナップリング係合部36aは、内側部材30の軸心aと直交する面bに対して平行に形成されている。つまり、相互に対向する第1スナップリング係合部36aと第2スナップリング係合部63aは、相互に傾斜して形成されている。
【0034】
この実施形態もまた、シャフト60に内側部材30から抜ける方向への荷重が作用した場合には、第2スナップリング係合部63aのうち、最もシャフト60の軸心A基端側に迫り出している部分つまり第2スナップリング係合部63aの一部のみが、スナップリング70を押圧する(図7の(1))。そして、スナップリング70の周方向の一部しか、第2スナップリング係合部63aで押圧されず、スナップリング70のそれ以外の部分は、第2スナップリング係合部63aで押圧されない。このため上述の実施形態と同様に、スナップリング70の周方向の一部にしか、第2スナップリング係合部63aと直交する方向に向かって押圧荷重Mが作用しないため、スナップリング70の周方向の一部にしか縮径方向への水平方向の抗力Nが作用しない(図7の(2))。このため上述の実施形態と同様に、スナップリング70が全く縮径することなく、内側部材30の挿通孔34からのシャフト60の抜けを確実に防止することができる。
【0035】
以上詳細に説明したように、本発明の等速ジョイント10によれば、図3や図6(A)、図7に示されるように、第2スナップリング係合部63aと、この第2スナップリング係合部63aと対向する第1スナップリング係合部36aが相互に傾斜して形成されている。これにより、シャフト60に内側部材30から引き抜かれる方向への荷重が作用した場合に、第2スナップリング係合部63aの一部のみが、スナップリング70を押圧する。
【0036】
つまり、スナップリング70の周方向の一部しか、第2スナップリング係合部63aで押圧されず、スナップリング70のそれ以外の部分は、第2スナップリング係合部63aで押圧されない。このため、スナップリング70の周方向の一部にしか、縮径方向への荷重が付与されない。そして、スナップリング70の周方向の一部に、縮径方向への荷重が付与されたとしても、それ以外の部分には全く縮径方向への荷重が付与されないので、スナップリング70が、第2スナップリング凹部63に沿って、荷重が付与される方向に移動するだけで、スナップリング70が全く縮径されない。また、スナップリング70の周方向の一部に、縮径方向への荷重が付与されたとしても、スナップリング70の開口端70bが、傾斜している第2スナップリング凹部63との交差部分の雄スプライン62に引っ掛かり、スナップリング70の縮径が防止される。このように、スナップリング70の縮径が確実に防止されるので、内側部材30の挿通孔34からのシャフト60の抜けを確実に防止することができる。
【0037】
なお、上述した実施形態では、第2スナップリング係合部63a及び中央側面63bの両方がシャフト60の軸心aと直交する面bに対して傾斜しているが、第2スナップリング係合部63aのみがシャフト60の軸心Aと直交する面Bに対して傾斜している実施形態であっても差し支え無い。
【0038】
また、第2スナップリング係合部63aが、シャフト60の軸心Aと直交する面Bと平行に形成されている一方で、第2スナップリング係合部63aと対向する第1スナップリング係合部36aが内側部材30の軸心aと直交する面bに対して傾斜している実施形態であっても差し支え無い。或いは、第2スナップリング係合部63aがシャフト60の軸心Aと直交する面Bに対して傾斜して形成され、第1スナップリング係合部36aもまた内側部材30の軸心aと直交する面bに対して傾斜して形成され、且つ、第1スナップリング係合部36aと第2スナップリング係合部63aが互いに傾斜している実施形態であっても差し支え無い。このような実施形態であっても、シャフト60に内側部材30から引き抜かれる方向への荷重が作用した場合に、第2スナップリング係合部63aの一部のみが、スナップリング70を押圧し、スナップリング70の周方向の一部にしか、第2スナップリング係合部63aで押圧されない。このため、上述の実施形態と同様に、スナップリング70の縮径が確実に防止されるので、内側部材30の挿通孔34からのシャフト60の抜けを確実に防止することができる。
【0039】
また、上述した実施形態では、外輪20と内側部材30間に配設され、外輪20と内側部材30間のトルク伝達を行うトルク伝達部材としてボール40を用いたボール型の等速ジョイント10について本発明の等速ジョイントを説明した。トルク伝達部材はボール40に限定されず、内側部材30に形成された3本のピンにそれぞれ回転可能に取り付けられ、外輪20の内周面に形成されたローラー溝と摺動可能に係合するローラーであっても差し支え無い。このような等速ジョイント、つまり、トリポード型等速ジョイントにも、本発明の技術的思想である上述した内側部材の挿通孔からのシャフトの抜けを防止することができる構造が適用可能なことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0040】
10…等速ジョイント
20…外輪、 21…連結軸、 23…外輪ボール溝
30…内側部材、 34…挿通孔 35…雌スプライン、 36…第1スナップリング凹部、 36a…第1スナップリング係合部
40…ボール(トルク伝達部材)
50…保持器、 53…窓部
60…シャフト、 61…嵌合部、 62…雄スプライン、 63…第2スナップリング凹部、 63a…第2スナップリング係合部
70…スナップリング、 70a…切欠部、 70b…開口端
A…シャフトの軸心、 B…シャフトの軸心と直交する面
a…内側部材の軸心、 b…内側部材の軸心と直交する面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底筒状に形成された外輪と、
前記外輪の内側に、前記外輪に対して相対的に揺動可能に配置され、挿通孔が形成された内側部材と、
前記外輪と前記内側部材の間に配置され、前記外輪及び前記内側部材に係合して前記外輪と前記内側部材と間のトルク伝達を行う複数のトルク伝達部材と、
先端側の外周面に嵌合部が形成され、当該嵌合部が前記挿通孔に挿通されて前記内側部材に連結されるシャフトと、
前記挿通孔及び前記嵌合部に対して軸方向に係合して、前記シャフトの前記内側部材からの抜けを防止するC字形状のスナップリングと、
を備え、
前記内側部材の挿通孔の内周面には、前記内側部材の軸心方向に沿って複数の雌スプラインが形成されるとともに、前記雌スプラインを横切るように第1スナップリング係合部が形成され、
前記シャフトの嵌合部の外周面には、前記シャフトの軸心方向に沿って複数の雄スプラインが形成されるとともに、前記雄スプラインを横切るように第2スナップリング係合部が形成され、
前記雄スプラインが前記雌スプラインに嵌合するとともに、相互に対向する前記第1スナップリング係合部と前記第2スナップリング係合部に前記スナップリングが係合して、前記シャフトが前記内側部材に相対回転不能に連結され、
前記第1スナップリング係合部と前記第2スナップリング係合部が相互に傾斜していることを特徴とする等速ジョイント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−61018(P2013−61018A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199869(P2011−199869)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】