説明

等速自在継手

【課題】旋削溝を加工することなく組立性の向上及びコストの低減を図ることができ、内側継手部材を含む内部部品の外側継手部材からの抜けを確実に防止することができる等速自在継手を提供する。
【解決手段】外側継手部材と外側継手部材の内部に組込まれる内側継手部材との間で、角度変位及び軸方向変位を許容しつつトルク伝達可能に構成した等速自在継手である。外側継手部材の開口部を塞ぐブーツ30を備える。ブーツ30に、少なくとも内側継手部材を含む内部部品Sの外側継手部材からの抜けを規制する規制部材32を一体に設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速自在継手に関し、特に、入出力軸の角度変位及び軸方向変位を許容しつつ入出力軸間でトルクの伝達を可能にした摺動型等速自在継手に関するものである。
【背景技術】
【0002】
摺動型等速自在継手は、転動体にボールを使用するダブルオフセット型と、ローラを使用するトリポード型のものがあり、トリポード型のものは、図14に示すように、外側継手部材(外輪)101と、内側継手部材としてのトリポード部材102と、トルク伝達部材としてのローラ103を主要な構成要素としている。
【0003】
外輪101は一体に形成されたマウス部104とステム部105とからなる。マウス部104は、図15に示すように、一端にて開口したカップ状で、内周の円周方向三等分位置に軸方向に延びるトラック溝106が形成してある。各トラック溝106の円周方向で向き合った側壁にローラ案内面107、107が形成される。
【0004】
トリポード部材102はボス108と脚軸109とを備える。ボス108にはシャフト112とトルク伝達可能に結合するスプラインまたはセレーション孔111が形成してある。脚軸109はボス108の円周方向三等分位置から半径方向に突出している。トリポード部材102の各脚軸109はローラ103を担持している。
【0005】
このような摺動型等速自在継手において、抜け止め装置として、サークリップ(止め輪)110を外輪101に挿入するものがある(特許文献1)。すなわち、トラック溝間の各小径部の内面に、サークリップ110を装着するための係合溝115を設け、この係合溝115に環状のサークリップ110を装着することにより、ローラ103の外輪101からの抜けを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平10−194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記特許文献1に記載のものは、外輪101にはサークリップ110が収まる係合溝115を加工する必要がある。このため、旋削加工が必要となって、生産性に劣るとともに、組立性の低下を招き、しかもコスト高となっていた。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みて、旋削溝を加工することなく組立性の向上及びコストの低減を図ることができ、内側継手部材を含む内部部品の外側継手部材からの抜けを確実に防止することができる等速自在継手を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の等速自在継手は、外側継手部材と外側継手部材の内部に組込まれる内側継手部材との間で、角度変位及び軸方向変位を許容しつつトルク伝達可能に構成した等速自在継手であって、外側継手部材の開口部を塞ぐブーツを備え、このブーツに、少なくとも内側継手部材を含む内部部品の外側継手部材からの抜けを規制する規制部材を一体に設けたものである。
【0010】
本発明の等速自在継手によれば、ブーツに規制部材を備えているので、ブーツを装着するのみで、内部部品の抜けを規制することができる。このため、別部材の規制部材を外側継手部材等に別途設ける必要がない。
【0011】
前記ブーツは外側継手部材に外嵌される筒部を有するとともに、前記規制部材は前記筒部の外径面を覆うバンド部と、内径側へ突出して内部部品が接触するストッパ片とを有するものが好ましい。この場合、バンド部を締め付けることによって、外側継手部材に外嵌される筒部を外側継手部材に装着できる。しかも、内径側へ突出するストッパ片にて内部部品の抜けを規制することができる。
【0012】
前記規制部材は、バンド部の内径側への加締による前記ブーツの筒部の外側継手部材への締付固定が可能であるのが好ましい。すなわち、バンド部を内径側へ加締ることによって、ブーツの筒部を外側継手部材に固定することができる。
【0013】
前記規制部材の肉厚が0.5mm〜1.5mmであるのが好ましい。すなわち、0.5mm未満では、薄すぎて規制部材として剛性不足となり、1.5mmを越えると、厚すぎて、バンド部による筒部の締め付け不足となるおそれがある。
【0014】
前記規制部材が、鋼、ステンレス鋼、又はアルミニウムの金属製であれば、バンド部の加締を安定して行うことができる。
【0015】
外側継手部材と内部部品との間に挟まれる爪部材を前記ブーツに一体に設け、この爪部材にて前記規制部材を構成するようにしてもよい。これによって、内部部品が外側継手部材の開口側へ移動した際に、爪部材が外側継手部材と内部部品との間に入り込んで、内部部品からの抜けを規制する。
【0016】
前記内部部品は、内側継手部材と、この内側継手部材に装着されるトルク伝達部材とを備え、前記爪部材は、トラック溝の開口端に位置してトルク伝達部材とトラック溝との間に挟まれるとともに、トルク伝達部材側において奥側から開口側に向かって内径側へ傾斜する傾斜面を有する金属製楔体を備え、この金属製楔体の傾斜面の傾斜角度を20°〜45°とするのが好ましい。金属製楔体の傾斜面の傾斜角度を20°〜45°とすることによって、内部部品への引き抜き力が作用すると、この引き抜き力がラジアル方向の力に分散することになる。
【0017】
金属製楔体の硬度がHRC20以上であるのが好ましい。前記金属製楔体は、鋼、ステンレス鋼、ばね鋼、又はアルミニウムからなるのが好ましい。すなわち、このような金属とすることによって、楔体の剛性の向上を図ることができる。
【0018】
前記規制部材としての爪部材が、周方向に沿って所定間隔で6個配置されているのが好ましい。
【0019】
等速自在継手として、内周に軸線方向に延びる三本のトラック溝を設けると共に各トラック溝の内側壁に互いに対向するローラ案内面を設けた外側継手部材と、三本の脚軸を有するトリポード部材と、前記脚軸に回転自在に支持されると共に前記外側継手部材のトラック溝に転動自在に挿入されたトルク伝達部材としてのローラとを備えたトリポード型である場合がある。
【0020】
内径面に複数のトラック溝が形成された外側継手部材と、外径面に複数のトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と内側継手部材のトラック溝との間に介在してトルクを伝達するトルク伝達部材としての複数のボールと、前記外側継手部材の内径面と内側継手部材の外径面との間に介在してボールを保持する保持器とを備え、前記保持器の内径面の球面中心と保持器の外径面の球面中心とが、ボール中心を含む継手中心面に対して軸方向に等距離だけ反対側にオフセットされているダブルオフセット型である場合がある。
【0021】
内周面に軸線に対して傾斜する複数の直線状トラック溝が形成された外側継手部材と、外周面に軸線に対して前記外側継手部材のトラック溝と反対方向に傾斜するトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝との交叉部に組み込まれたトルク伝達部材としての複数のボールと、前記外側継手部材と前記内側継手部材との間で前記ボールを保持する保持器とを備えたクロスグローブ型である場合がある。
【発明の効果】
【0022】
本発明の等速自在継手では、別部材の規制部材を外側継手部材等に別途設ける必要がない。このため、従来必要としていたサークリップ溝加工が不要となって、生産性の向上を図るとともに、サークリップ(止め輪)を必要とせず、部品点数の減少を図ってコストの低減及び組立性の向上を達成できる。しかも、内部部品の抜けを確実に防止することができる。
【0023】
ブーツがバンド部を有するものであっては、バンド部を締め付けることによって、外側継手部材に外嵌される筒部を外側継手部材に装着でき、従来において通常必要としていたブーツバンドを用いる必要がなくなる。このため、部品点数の減少を図ってコストの低減及び組立性の向上を達成できる。
【0024】
前記規制部材の肉厚が0.5mm〜1.5mmであれば、規制部材として剛性不足とならないとともに、筒部の締め付け不足とならない。このため、ブーツを安定して外側継手部材に固定できるとともに、内部部品の抜けを安定して防止することができる。従って、この等速自在継手は、ブーツが長期に渡ってシール部材としての機能を有効に発揮できる。
【0025】
爪部材にて規制部材を構成したものでは、爪部材がトルク伝達部材とトラック溝との間に入り込んで、内部部品の外側継手部材からの抜けを規制する。このため、安定した抜け防止機能を発揮することができる。
【0026】
金属製楔体の傾斜面の傾斜角度を20°〜45°とすることによって、内部部品への引き抜き力が作用すると、この引き抜き力がラジアル方向の力に分散することになる。このため、実際に作用する引き抜き負荷が低減され、外側継手部材からのトリポード部材の抜け防止機能の向上を図ることができる。また、トルク伝達部材とトラック溝との間に爪部材が滑らかに挟まれることになり、規制時の衝撃を緩和することができる利点もある。
【0027】
金属製楔体の硬度がHRC20以上である場合や、金属製楔体が、鋼、ステンレス鋼、ばね鋼、又はアルミニウムからなる場合には、楔体の剛性の向上を図ることができ、抜け防止機能の信頼性を確保することができる。これに対して、爪部材がゴムや樹脂のみからなれば、引き抜き力が作用した際に、この爪部材が潰されて、ストッパとして機能を発揮できない。
【0028】
また、規制部材としての爪部材を、周方向に沿って所定間隔で6個配置すれば、抜け防止機能が安定する。
【0029】
等速自在継手として、トリポード型、ダブルオフセット型、又はクロスグローブ型等の種々のタイプに適用することができ、汎用性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1実施形態の等速自在継手の縦断面図である。
【図2】前記図1における等速自在継手の横断面図である。
【図3】前記図1におけるX−X線断面図である。
【図4】前記図1における等速自在継手のバンド部の加締前の縦断面図である。
【図5】前記図1における等速自在継手のブーツの拡大縦断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態の等速自在継手の縦断面図である。
【図7】前記図6における等速自在継手のバンド部の加締前の縦断面図である。
【図8】前記図6における等速自在継手のブーツの拡大縦断面図である。
【図9】本発明の第3実施形態の等速自在継手の縦断面図である。
【図10】前記図9における等速自在継手の要部拡大断面図である。
【図11】前記図9における等速自在継手のブーツの横断面図である。
【図12】前記図9における等速自在継手のブーツとトルク伝達部材との関係を示す断面図である。
【図13】前記図9の等速自在継手においてトルク伝達部材が開口部に位置した状態の断面図である。
【図14】従来の等速自在継手の縦断面図である。
【図15】従来の等速自在継手の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下本発明の実施の形態を図1〜図13に基づいて説明する。
【0032】
図1に本発明に係る等速自在継手を示し、等速自在継手は、図1と図2に示すように、外側継手部材としての外輪1と、内側継手部材としてのトリポード部材2と、トルク伝達部材としての転動機構(ローラ機構)3とを備えたいわゆるトリポード型の摺動タイプである。
【0033】
外輪1は一体に形成されたマウス部4とステム部14とからなる。図2に示すように、マウス部4は一端にて開口したカップ状で、その内周面に、軸方向に延びる3本の前記トラック溝6が形成される。各トラック溝6の円周方向で向き合った側壁にローラ案内面7、7が形成される。このため、外輪1のマウス部4の外周面は、図2に示すように、大径部4aと小径部4bとが交互に形成される非円筒形とされている。
【0034】
トリポード部材2はボス8と脚軸9とを備える。脚軸9はボス8の円周方向三等分位置から半径方向に突出している。この場合、ボス8の内径面には雌スプライン11が形成され、この雌スプライン11にシャフト15の雄スプライン16が嵌合している。
【0035】
ローラ機構3は、脚軸9に円柱状ころ(針状ころ)5を介して外嵌される転動体としてのローラ12を備える。このローラ12がローラ案内面7、7を転動する。すなわち、複数の針状ころ5が総ころ状態で配設されている。このため、トリポード部材2とローラ機構3等で、外輪1に内装される内部部品Sが構成される。
【0036】
そして、各脚軸9には、針状ころ5およびローラ12の抜けを規制する抜け止め機構20が付設されている。この抜け止め機構20は、脚軸9の軸方向先端部に装着されるリテーナ21及びスナップリング22にて構成される。この際、スナップリング22は、脚軸9の軸方向先端部に設けられる凹周方向溝23に嵌合され、リテーナ21の抜けを規制している。これによって、針状ころ5およびローラ12の脚軸9からの抜けを規制している。
【0037】
また、この等速自在継手には外輪1の開口部を塞ぐブーツ30が装着されている。ブーツ30は、例えば、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、ウレタンゴム、アクリルエチレンゴム等のゴム材料からなるブーツ本体31と、このブーツ本体31に一体化される規制部材32とを備える。この規制部材32は、例えば、鋼板、ステンレス板、アルミニウム板等の金属からなり、その肉厚が、0.5mm〜1.5mmとされる。
【0038】
ブーツ本体31は、図5に示すように、大径部31aと、小径部31bと、大径部31aと小径部31bとを連結する蛇腹部31cとからなる。また、規制部材32は、短円筒状のバンド部32aと、このバンド部32aの蛇腹部側の内径側へ突出する内鍔状のストッパ片32bとからなり、このバンド部32aの内径側に前記ブーツ本体31と同じゴム材料からなる筒部33が配置される。バンド部32aには、断面扁平Vの字の加締られてなる加締部46が形成され、これによって、筒部33が締め付けられ、このブーツ30の大径部31a側が外輪1に嵌着される。
【0039】
筒部33は、外輪1の大径部4aに対応する薄肉部33aと、外輪1の小径部4bに対応する厚肉部33bとを有する。また、外輪1の外周面の大径部4aの開口側には、嵌合用凹溝39を有するブーツ装着部40が形成され、このブーツ装着部40の嵌合用凹溝39にブーツ30の筒部33の薄肉部33aが嵌合される。この場合、ブーツ本体31と、規制部材32と、筒部33とが一体化されてブーツ30を構成する。
【0040】
シャフト15には、周方向凹溝42を有するブーツ装着部43が設けられ、このブーツ装着部43の周方向凹溝42にブーツ30の小径部31bが嵌合される。なお、小径部31bの外径面にはバンド嵌合用凹溝45が形成され、このバンド嵌合用凹溝45にブーツバンド44が嵌合している。
【0041】
規制部材32のストッパ片32bは、図3に示すように、平板リング体に、第1切欠部35と第2切欠部36とを周方向に沿って交互に形成したものである。第1切欠部35は矩形状であり、第2切欠部36は台形状である。このため、第1切欠部35と第2切欠部36との間に三角形状部37が形成され、この三角形状部37のコーナ部37aが外輪1のトラック溝6に突出している。この場合、このコーナ部37aが案内面7に対応している。
【0042】
ところで、ブーツ本体31と規制部材32と筒部33とは、接着材を介して一体化されている。すなわち、規制部材32側に接着材を塗布した状態で、ゴム加硫時の熱を利用して一体成形することができる。なお、用いる接着材としては、用いるゴム材料に応じて種々選択することができる。
【0043】
次に、ブーツ30の取付方法について説明する。まず大径部31a側の外輪1への取付方法について説明する。この場合、図4に示すように、筒部33の薄肉部33aを外輪1の大径部4aに対応させるとともに、筒部33の厚肉部33bを外輪1の小径部4bに対応させて、この筒部33を外輪1の開口部に外嵌する。この際、薄肉部33aが外輪1の嵌合用凹溝39に嵌合する。次に、筒部33を覆っている規制部材32のバンド部32aを、図示省略の加締工具を用いて内径側へ塑性変形させる。すなわち、図1に示すように、バンド部32aを、その断面形状が扁平Vの字状となるように加締めて加締部46を形成する。これによって、ブーツ30の筒部33が外輪1に固定され、大径部31a側が外輪1に固定されることになる。
【0044】
この際、図3に示すように、規制部材32のストッパ片32bのコーナ部37aが、外輪1の開口端においてトラック溝6内に突出した状態となっている。これによって、トリポード部材2が開口側へ移動した際に、トラック溝6のローラ案内面7、7を転動するローラ12が当接して、ローラ12、延いてはこのローラ12とトリポード部材2等を含む内部部品Sの外輪1からの抜けが規制される。なお、筒部33が外輪1に固定された状態では、規制部材32のストッパ片32bの内面41が外輪1の開口端縁1aに当接している。
【0045】
また、小径部31b側においては、ブーツ装着部43の周方向凹溝42にブーツ30の小径部31bが嵌合され、この小径部31bのバンド嵌合用凹溝45にブーツバンド44を嵌合し、このブーツバンド44にて締め付ける。これによって、小径部31bがシャフト15に固定される。
【0046】
本発明では、ブーツ30に規制部材32を備えているので、ブーツ30を装着するのみで、内側継手部材であるトリポード部材2を含む内部部品Sの抜けを規制することができる。このため、内部部品Sの抜けを規制するための部材を外輪1等に別途設ける必要がない。従って、従来必要としていたサークリップ溝加工が不要となって、生産性の向上を図るとともに、サークリップ(止め輪)を必要とせず、部品点数の減少を図ってコストの低減及び組立性の向上を達成できる。しかも、内部部品Sの抜けを確実に防止することができる。
【0047】
規制部材32のバンド部32aを締め付けることによって、外輪1に外嵌される筒部33を外輪1に装着でき、従来において通常必要としていたブーツバンドを用いる必要がなくなる。このため、部品点数の減少を図ってコストの低減及び組立性の向上を達成できる。
【0048】
規制部材32の肉厚が0.5mm〜1.5mmであれば、規制部材32として変形可能で剛性不足とならないとともに、筒部33の締め付け不足とならない。このため、ブーツ30を安定して外側継手部材に固定できるとともに、内部部品Sの抜けを安定して防止することができる。従って、この等速自在継手は、ブーツ30が長期に渡ってシール部材としての機能を有効に発揮できる。
【0049】
次に、図6は第2の実施形態を示し、この場合、ダブルオフセット型の等速自在継手である。すなわち、内径面51に複数のトラック溝52が形成された外側継手部材としての外輪53と、外径面54に複数のトラック溝55が形成された内側継手部材としての内輪56と、外輪53のトラック溝52と内輪56のトラック溝55との間に介在してトルクを伝達するトルク伝達部材としての複数のボール57と、外輪53の内径面51と内輪56の外径面との間に介在してボール57を保持する保持器58とを備える。
【0050】
この場合、保持器58の内径面58bの球面中心O1と保持器58の外径面58aの球面中心O2とが、ボール中心を含む継手中心面に対して軸方向に等距離だけ反対側にオフセットされている。内輪56とボール57と保持器58等で外輪53に内装される内部部品Sが構成される。
【0051】
外輪53は、マウス部60とステム部61とを備える。この場合、マウス部60の外周面が円筒面とされ、その外周面の開口側に、嵌合用凹溝62を有するブーツ装着部63が形成されている。また、内輪56の内径面には雌スプライン64が形成され、この雌スプライン64にシャフト15の雄スプライン16が嵌合している。
【0052】
この場合のブーツ65は、前記ブーツ30と同様、図8に示すように、ゴム材料からなるブーツ本体66と、このブーツ本体66に一体化される金属製の規制部材67とを備える。そして、この規制部材67も、円筒状のバンド部67aと、このバンド部67aの蛇腹部側の端部に連設されるリング状円盤体からなるストッパ片67bとからなる。また、バンド部67aの内径面側にはブーツ本体66と同一材質からなる筒部68が配置されている。ところで、この場合、外輪53の外周面が円筒面であるので、このブーツ65の筒部68は、前記図1に示すブーツ30の筒部33と相違して、薄肉部と厚肉部を有さない。なお、ブーツ本体66は、図8に示すように、大径部66aと、小径部66bと、大径部66aと小径部66bとを連結する蛇腹部66cとからなる。なお、このブーツ65であっても、ブーツ本体66と規制部材67と筒部68とは、接着材を介して一体化されている。すなわち、規制部材67側に接着材を塗布した状態で、ゴム加硫時の熱を利用して一体成形することができる。
【0053】
この等速自在継手であっても、図7に示すように、ブーツ装着部63の嵌合用凹溝62にブーツ65の筒部68を嵌合した後、規制部材67のバンド部67aを加締めることによって、断面扁平Vの字状の加締部46を形成し、ブーツ65の大径部66a側を外輪53に固定することができる。なお、ブーツ65の小径部66bのシャフト15への取付方法は前記図1の場合と同様である。すなわち、小径部66bの外周面(外径面)にバンド嵌合用凹溝69が形成され、シャフト15のブーツ装着部43の周方向凹溝42に小径部66bを嵌合させた状態で、バンド嵌合用凹溝69に嵌合されるブーツバンド44を締め付ければよい。
【0054】
このようにブーツ65が装着された状態では、外輪53の開口端において、外輪53のトラック溝52にストッパ片67bの内径縁部が侵入することになっている。このため、内輪56とボール57と保持器58等とが組立られてなる内部部品Sが外輪53の開口部側へ移動すれば、ストッパ片67bの内径縁部にボール57が当接し、内部部品Sの外輪53からの抜けが規制される。
【0055】
このため、図6に示すダブルオフセット型等速自在継手であっても、前記図1等に示すトリポード型等速自在継手と同様の作用効果を奏することになる。
【0056】
次に、図9は第3実施形態を示し、この場合、図10〜図12等に示すような爪部材70にて規制部材を構成している。なお、等速自在継手としては、図1に示すトリポード型の等速自在継手であるので、図1と同一の符号を附してこのトリポード型等速自在継手の説明を省略する。
【0057】
図9に示す等速自在継手のブーツ71は、前記ブーツ30と同様のゴム材料からなるブーツ本体72を備える。このブーツ本体72は、大径部72aと、小径部72bと、大径部72aと小径部72bとを連結する蛇腹部72cとからなる。このブーツ本体72の大径部72a側に垂下片部73が周方向に沿って120度ピッチで配設されている。
【0058】
垂下片部73は、正面視においては図11に示すように、外輪1のトラック溝6の案内面7に対応する一対の爪部材70、70を有する。このため、爪部材70は、周方向に沿って所定間隔で6個配置されることになる。ここで、この実施形態での所定間隔とは、図11に示すような間隔であって、周方向等間隔ではない。爪部材70は、図10と図12に示すように、断面形状が直角三角形を成し、ゴム材料からなる爪部材本体74と、この爪部材本体74に埋設状となる断面直角三角形状の金属製楔体75とを備える。
【0059】
この場合、金属製楔体75は、奥側から開口側に向かって内径側へ傾斜する傾斜面75aを有し、図10と図13に示すように、傾斜面75aの傾斜角度θを20°〜45°としている。金属製楔体75は、鋼、ステンレス鋼、ばね鋼、又はアルミニウム等からなり、硬度としてHRC20以上が好ましい。なお、この場合のブーツ71は、前記ブーツ30と同様、金属製楔体75に接着材を塗布した状態で、ゴム加硫時の熱を利用して一体成形することができる。
【0060】
ブーツ本体72の大径部72aには、外輪1の大径部4aと小径部4bとに対応して、薄肉部76aと厚肉部76bとが形成されている。また、大径部72aの外周面にはバンド嵌合用凹溝77が設けられ、このバンド嵌合用凹溝77にブーツバンド78を嵌合して、このブーツバンド78を締め付けることによって、大径部72aを外輪1に取り付けることになる。
【0061】
ブーツ本体72の小径部72bの外周面には、バンド嵌合用凹溝80が設けられ、このバンド嵌合用凹溝80にブーツバンド44を嵌合して、このブーツバンド44を締め付けることによって、小径部72bをシャフト15に取り付けることになる。
【0062】
このように、ブーツ71が装着された状態で、トリポード部材2が外輪1の開口部側へ移動した場合、図13に示すように、ローラ12と案内面7との間に、爪部材70が食い込むことになる。この際、爪部材70のゴム材料部位が潰れ、金属製楔体75の傾斜面75aにローラ12が接触状態となる。これによって、外輪1からの内部部品Sの抜けを防止することができる。
【0063】
しかも、傾斜面75aの傾斜角度θが20°〜45°とされているので、図13に示すように、内部部品Sへの引き抜き力Fが作用すると、この引き抜き力Fがラジアル方向の力F1に分散することになる。このため、実際に作用する引き抜き負荷が低減され、外輪1からのトリポード部材2の抜け防止機能の向上を図ることができる。また、トルク伝達部材とトラック溝6との間に爪部材70が滑らかに挟まれることになり、規制時の衝撃を緩和することができる利点もある。
【0064】
ところで、前記実施形態では、等速自在継手として、トリポード型等速自在継手やダブルオフセット型等速自在継手であったが、クロスグルーブ型等速自在継手であってもよい。ここで、クロスグルーブ型等速自在継手とは、内周面に軸線に対して傾斜する複数の直線状トラック溝が形成された外側継手部材と、外周面に軸線に対して前記外側継手部材のトラック溝と反対方向に傾斜するトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝との交叉部に組み込まれたトルク伝達部材としての複数のボールと、前記外側継手部材と前記内側継手部材との間で前記ボールを保持する保持器とを備えたものである。
【0065】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、ブーツ30、65、71のブーツ本体31、66、72は、前記各実施形態では、ゴム材料を用いていたが、熱可塑性エラストマー等の樹脂材料を用いてもよい。また、図1等に示すような規制部材32では、肉厚を0.5mmから1.5mmとしたが、この肉厚としては、用いる金属材料、ブーツ本体31、66の大径部31a,66aの径寸法等に応じて種々変更することができる。実施形態では、バンド部32aとストッパ片32bとを同一肉厚としたが、バンド部32a、67aとストッパ片32b、67bとで肉厚を相違させてもよい。この場合、バンド部32a、67aを厚くしても、ストッパ片32b、67bを厚くしてもよい。すなわち、バンド部32a、67aにおいては、内径側へ加締ることによって、図1等に示すように、塑性変形可能であればよく、ストッパ片32b、67bとしては、少なくとも内側継手部材を含む内部部品の外側継手部材からの抜けを規制できればよい。
【0066】
ところで、前記実施の形態では、規制部材32(67)にて内部部品Sの抜けを規制する場合、ストッパ片32b、67bがトルク伝達部材としてのローラ12やボール57に接触するものである。
【0067】
また、図10に示すように爪部材70にて規制部材を構成する場合、爪部材70の数としては、トラック溝の数等に応じて種々変更することができる。爪部材70の金属製楔体75の大きさ等としても、等速自在継手の大きさやタイプ等に応じて種々変更することができる。
【0068】
また、爪部材70において金属製楔体75を省略することも可能である。すなわち、内部部品Sが開口部側へ移動して、外側継手部材と内部部品Sとの間に挟まれても潰れないような剛性を有するゴム材料や樹脂材料で爪部材70全体を構成すればよい。
【符号の説明】
【0069】
2 トリポード部材
6 トラック溝
9 脚軸
12 ローラ
30、65、71 ブーツ
32、67 規制部材
32a、67a バンド部
32b、67b ストッパ片
33、68 筒部
51 内径面
52 トラック溝
54 外径面
55 トラック溝
57 ボール
58 保持器
70 爪部材
75 金属製楔体
75a 傾斜面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側継手部材と外側継手部材の内部に組込まれる内側継手部材との間で、角度変位及び軸方向変位を許容しつつトルク伝達可能に構成した等速自在継手であって、
外側継手部材の開口部を塞ぐブーツを備え、このブーツに、少なくとも内側継手部材を含む内部部品の外側継手部材からの抜けを規制する規制部材を一体に設けたことを特徴とする等速自在継手。
【請求項2】
前記ブーツは外側継手部材に外嵌される筒部を有するとともに、前記規制部材は前記筒部の外径面を覆うバンド部と、内径側へ突出して、内部部品に接触するストッパ片とを有することを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手。
【請求項3】
前記規制部材は、バンド部の内径側への加締による前記ブーツの筒部の外側継手部材への締付固定が可能であることを特徴とする請求項2に記載の等速自在継手。
【請求項4】
前記規制部材の肉厚が0.5mm〜1.5mmであることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の等速自在継手。
【請求項5】
前記規制部材が、鋼、ステンレス鋼、又はアルミニウムの金属製であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項6】
外側継手部材と内部部品との間に挟まれる爪部材を前記ブーツに一体に設け、この爪部材にて前記規制部材を構成したことを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手。
【請求項7】
前記内部部品は、内側継手部材と、この内側継手部材に装着されるトルク伝達部材とを備え、前記爪部材は、トラック溝の開口端に位置してトルク伝達部材とトラック溝との間に挟まれるとともに、トルク伝達部材側において奥側から開口側に向かって内径側へ傾斜する傾斜面を有する金属製楔体を備え、この金属製楔体の傾斜面の傾斜角度を20°〜45°としたことを特徴とする請求項6に記載の等速自在継手。
【請求項8】
前記金属製楔体の硬度がHRC20以上であることを特徴とする請求項7に記載の等速自在継手。
【請求項9】
前記金属製楔体は、鋼、ステンレス鋼、ばね鋼、又はアルミニウムからなることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の等速自在継手。
【請求項10】
前記規制部材が、周方向に沿って所定間隔で6個配置されていることを特徴とする請求項6〜請求項9に記載の等速自在継手。
【請求項11】
内周に軸線方向に延びる三本のトラック溝を設けると共に各トラック溝の内側壁に互いに対向するローラ案内面を設けた外側継手部材と、三本の脚軸を有するトリポード部材と、前記脚軸に回転自在に支持されると共に前記外側継手部材のトラック溝に転動自在に挿入されたトルク伝達部材としてのローラとを備えたトリポード型であることを特徴とする請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項12】
内径面に複数のトラック溝が形成された外側継手部材と、外径面に複数のトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と内側継手部材のトラック溝との間に介在してトルクを伝達するトルク伝達部材としての複数のボールと、前記外側継手部材の内径面と内側継手部材の外径面との間に介在してボールを保持する保持器とを備え、前記保持器の内径面の球面中心と保持器の外径面の球面中心とが、ボール中心を含む継手中心面に対して軸方向に等距離だけ反対側にオフセットされているダブルオフセット型であることを特徴とする請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項13】
内周面に軸線に対して傾斜する複数の直線状トラック溝が形成された外側継手部材と、外周面に軸線に対して前記外側継手部材のトラック溝と反対方向に傾斜するトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝との交叉部に組み込まれたトルク伝達部材としての複数のボールと、前記外側継手部材と前記内側継手部材との間で前記ボールを保持する保持器とを備えたクロスグローブ型であることを特徴とする請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載の等速自在継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−261528(P2010−261528A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113639(P2009−113639)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)