説明

等速自在継手

【課題】転動面及び摺動面の潤滑状態を長期にわたって安定して維持でき、しかも、潤滑剤の循環によって転動面や摺動面を有効に冷却することが可能な等速自在継手を提供する。
【解決手段】外側継手部材83と、内側継手部材86と、トルク伝達部材とを備え、外側継手部材83の外径面が円筒状のハウジング125に内嵌状となる等速自在継手である。外側継手部材83の外径面とハウジング125の内径面との間に、継手内部に充填される潤滑剤を継手回転にて循環させるポンプ構造体150を配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や各種産業機械に用いられる動力伝達装置である等速自在継手に関し、特に、継手開口部を密封するブーツが装着される等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
図3に一般的なドライブシャフトを示す。このドライブシャフトは、シャフト(中間シャフト)1と、シャフト1の一端部に連結される固定式等速自在継手2と、シャフト1の他端部に連結される摺動式等速自在継手3とを備える。
【0003】
固定式等速自在継手2は、図4に示すように、内径面11に複数のトラック溝12を形成した外側継手部材13と、外径面14に複数のトラック溝15を形成した内側継手部材16と、外側継手部材13のトラック溝12と内側継手部材16のトラック溝15とで協働して形成されるボールトラックに配された複数のボール17と、ボール17を収容するためのポケット18を有するケージ19とで主要部が構成されている。
【0004】
また、外側継手部材13は、内径面11にトラック溝12が形成されたカップ部(マウス部)20と、カップ部20の底壁20aから突設されるステム部21とからなる。内側継手部材16の軸心孔には、雌スプライン22が形成され、内側継手部材16の軸心孔にシャフト1の端部1aが嵌入される。シャフト1の端部1aには雄スプライン24が形成され、シャフト1の端部が内側継手部材16の軸心孔に嵌入された際に、雌スプライン22と雄スプライン24とが嵌合する。
【0005】
シャフト1の雌スプライン22の端部には周方向凹溝25が形成され、この周方向凹溝25に止め輪26が装着されている。このように、止め輪26が装着されることにより、シャフト1の抜け止めが構成される。
【0006】
外側継手部材13の開口部がブーツ30にて塞がれている。ブーツ30は、大径部30aと、小径部30bと、大径部30aと小径部30bとを連結する蛇腹部30cとを備える。そして、ブーツ30の大径部30aが、外側継手部材13の開口部に外嵌された状態でブーツバンド35が締め付けられて、外側継手部材13に固定される。また、ブーツ30の小径部30bは、シャフト1のブーツ装着部36に外嵌された状態でブーツバンド35が締め付けられて、シャフト1に固定される。
【0007】
摺動式等速自在継手3は、図5と図6に示すように、外側継手部材41と、内側継手部材としてのトリポード部材42と、トルク伝達部材(ローラ部材)43とを備える。
【0008】
外側継手部材41は一端にて開口したカップ状のカップ部44と、カップ部44の底壁44aから突設される軸部45とを備える。このカップ部44の内周面には、軸方向に延びる3本のトラック溝46が形成される。各トラック溝46の円周方向で向き合った側壁にローラ案内面(ローラ摺接面)47a、47aが形成される。
【0009】
トリポード部材42はボス48と脚軸49とを備える。脚軸49はボス48の円周方向三等分位置から半径方向に突出している。ボス48の軸心孔にシャフト1の端部1bが嵌入される。図3に示すように、シャフト1の端部1bには雄スプライン74が形成され、シャフト1の端部がトリポード部材42のボス48の軸心孔に嵌入された際に、雌スプライン51と雄スプライン74とが嵌合する。
【0010】
ところで、外側継手部材41のカップ部44の内径面は、円周方向に交互に現れる小内径部47bと大内径部47cをローラ案内面47aで接続した3弁の花冠状を呈している。すなわち、外側継手部材41は、円周方向に向き合ったローラ案内面47aと両ローラ案内面47a,47a間に設けられた大内径部47cからなるトラック溝46が内周の三箇所に形成されるものである。
【0011】
この場合、各脚軸49は、円筒形外周面54と、軸端付近に形成された環状の輪溝56を備えている。脚軸49の外周に複数の針状ころ62を介して回転自在にローラ60が外嵌している。脚軸49の円筒形外周面54は針状ころ62の内側軌道面を提供する。ローラ60の内周面は円筒形で、針状ころ62の外側軌道面を提供する。すなわち、脚軸49の円筒状の外周面に複数の針状ころを介して回転可能に外嵌したローラからなるいわゆるシングローラタイプである。
【0012】
針状ころ62は脚軸49の半径方向で見た外側の端面にてアウタ・ワッシャ64と接し、反対側の端面にてインナ・ワッシャ68と接している。アウタ・ワッシャ64は輪溝56に装着されたサークリップ66によって軸方向移動を規制されているため、結局、針状ころ62も軸方向移動を規制される。なお、ローラ部材として、内側ローラと外側ローラとを備えたいわゆるダブルローラタイプであるものもある。
【0013】
外側継手部材41の開口部がブーツ70にて塞がれている。ブーツ70は、大径部70aと、小径部70bと、大径部70aと小径部70bとを連結する蛇腹部70cとを備える。そして、ブーツ70の大径部70aが、外側継手部材41の開口部に外嵌された状態でブーツバンド75が締め付けられて、外側継手部材41に固定される。また、ブーツ70の小径部70bは、シャフト1のブーツ装着部76に外嵌された状態でブーツバンド75が締め付けられて、シャフト1に固定される。
【0014】
等速自在継手(固定式等速自在継手)は、作動角を取り回転しながらトルク伝達を行うと、ボール17は荷重を受けながら外側継手部材13のトラック溝12と内側継手部材16のトラック溝15とを転動する。また、ケージ19は、外側継手部材13の内径面11と内側継手部材16の外径面14間に保持されて滑り運動をする。そして、外側継手部材13の開口部を塞ぐブーツ内空間と継手内部には潤滑剤としてのグリースを封入し、継手内部の転動面や摺動面の潤滑を行うようにしている。これによって、等速自在継手の耐久性を確保している。
【0015】
すなわち、等速自在継手に用いられるグリースは、それ自体の粘性や付着性で転動面や摺動面へ介入し潤滑している。このため、等速自在継手に用いられるグリースは前記のような使用状態で性能を発揮するように、増ちょう剤や添加剤の配合を工夫したものが提案されている(特許文献1及び特許文献2等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2006−199761号公報
【特許文献2】特開2006−283830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
従来の等速自在継手では、ボールの転動面やケージの摺動面へグリースが介入することで潤滑をしている。このため、高速回転などボールの転動速度やケージに摺動速度が速い条件ではグリースの油膜切れなど潤滑性能の低下が懸念される。
【0018】
グリースは一般的にボールとトラック溝の接触点近傍やケージと内側継手部材や外側継手部材の摺動面が潤滑できるように等速自在継手内とブーツ内の空間容積20%〜80%程度を満たす量を封入している。しかしながら、運転中に等速自在継手の潤滑に寄与しているグリースは主に等速自在継手内部に存在するグリースで、ブーツ内のグリースは直接的に潤滑に寄与しない。
【0019】
また、従来構造において、面圧、滑り速度や温度など厳しい使用条件下で使用された場合、潤滑面近傍のグリースが部分的に劣化し潤滑性能が低下するおそれがある。さらに、等速自在継手は運転中に内部摩擦により転動面や摺動面より発熱をする。しかしながら、グリースは熱伝導率が低くまた循環しないため、グリースによる放熱効果はあまり期待できない。つまり、転動面や摺動面の局所的発熱を、グリースを介して放熱することができなかった。
【0020】
そこで、本発明は斯かる実情に鑑み、転動面及び摺動面の潤滑状態を長期にわたって安定して維持でき、しかも、潤滑剤の循環によって転動面や摺動面を有効に冷却することが可能な等速自在継手を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の等速自在継手は、外側継手部材と、内側継手部材と、トルク伝達部材とを備え、前記外側継手部材の外径面が円筒状のハウジングに内嵌状となる等速自在継手であって、前記外側継手部材の外径面とハウジングの内径面との間に、継手内部に充填される潤滑剤を継手回転にて循環させるポンプ構造体を配置したものである。
【0022】
本発明の等速自在継手によれば、継手回転状態においてポンプ構造体にて継手内部を潤滑剤が循環する。このため、転動面や摺動面の潤滑状態の向上を図ることができ、潤滑面近傍の潤滑剤に部分的劣化を防止できる。また、循環することにより、転動面や摺動面を冷却することができる。
【0023】
継手開口部がブーツにて塞がれている等速自在継手であって、前記ポンプ構造体は、ブーツ内部と、外側継手部材の外径面とハウジングの内径面との間の隙間、外側継手部材のカップ部奥部とを潤滑剤が循環する循環経路を形成するようにできる。ところで、従来の等速自在継手では、ブーツ内の潤滑剤を強制的に継手内部に供給することができず、ブーツ内の潤滑剤を継手内部の潤滑に直接、寄与することが困難であった。これに対して、前記のような循環経路を形成することによって、ブーツ内の潤滑剤を継手内部に供給することができ、ブーツ内の潤滑剤を継手内部の潤滑に寄与させることができる。特に、外側継手部材には、その外径面からカップ部内部に開口する潤滑剤流通孔が少なくとも1つ設けられることによって、外側継手部材の外径側と、外側継手部材のカップ部奥側との間の循環を行うことができる。
【0024】
前記内側継手部材にはシャフトが嵌入固定され、前記ブーツは、ハウジングに外嵌固定される大径部と、内側継手部材に嵌入固定されたシャフトに軸受を介して外嵌固定される小径部と、大径部と小径部とを連結する蛇腹部とからなり、ブーツ内部の大径部側におけるポンプ構造体近傍に、潤滑剤溜りを設けるようにできる。このように設定することによって、ポンプ構造体へ安定して潤滑剤を供給することができ、循環機能が安定する。
【0025】
鉄よりも熱伝導が高い放熱性材料で構成されたハウジングに、外側継手部材の外径面が内嵌状となるのが好ましい。このように設定することによって、外側継手部材の外径面とハウジングの内径面との間を通過する潤滑剤への冷却性能を高めることができる。
【0026】
ポンプ構造体を、筒部とこの筒部の外径面に形成される羽部とを有する軸流ファン構造体にて構成することができる。このように構成することによって、ポンプ構造体の簡略化を図ることができる。
【0027】
前記ポンプ構造体を外側継手部材とは別部材にて構成し、嵌合手段または固着手段にてポンプ構造体と外側継手部材とを一体化したものであってもよい。また、前記ポンプ構造体を樹脂製とすることができる。
【0028】
トルク伝達部材にボールを用いたものであっても、内側継手部材に、トリポード部材を用いたものであってもよい。前記潤滑剤を、グリースよりも流動性及び介入性の高い潤滑剤とするのが好ましい。
【0029】
ドライブシャフトのホイール側の等速自在継手であって、ナックルの一部が前記ハウジングを構成するものであっても、ドライブシャフトのホイール側の等速自在継手であって、ハブ軸受外輪の一部が前記ハウジングを構成するものであってもよい。
【発明の効果】
【0030】
本発明の等速自在継手では、転動面や摺動面の潤滑状態の向上を図ることができて、十分な潤滑油膜厚さの確保、及び転動面や摺動面で発生する微細摩耗粉の排出等が可能となって、継手寿命を伸ばすことができる。しかも、潤滑面近傍の潤滑剤に部分的劣化を防止でき、潤滑剤としての潤滑機能の低下を防止できる。さらに、転動面や摺動面の効果的な冷却を図ることができ、等速自在継手と潤滑剤の寿命の向上を図ることが可能となる。
【0031】
前記した循環経路を形成するものでは、ブーツ内の潤滑剤を継手内部の潤滑に寄与させることができて効果的な潤滑が可能となる。
【0032】
複数個の潤滑剤流通孔を設けたものでは、効率的な循環が可能となり、また、ブーツ内部の大径部側におけるポンプ構造体近傍に、潤滑剤溜りを設けることによって、循環機能が安定し、継手寿命を大きく伸ばすことができる。
【0033】
鉄よりも熱伝導が高い放熱性材料で構成されたハウジングに、外側継手部材の外径面が内嵌状となることによって、外側継手部材の外径面とハウジングの内径面との間を通過する潤滑剤への冷却性能を高めることができ、継手の耐久性の向上を図ることができる。
【0034】
ポンプ構造体を、軸流ファン構造体にて構成することによって、ポンプ構造体の簡略化を図ることができ、軽量化及び低コスト化を図ることができる。
【0035】
前記ポンプ構造体を外側継手部材とは別部材にて構成したものでは、外側継手部材等において既存のものを用いることができ、生産性およびコスト面で不利となるのを防止できる。しかも、ポンプ構造体と外側継手部材との一体化は、嵌合手段であっても固着手段であってもよく、種々の固定手段を用いることができ、組立性に優れる。また、ポンプ構造体を樹脂製とすることによって、軽量化を図ることができる。
【0036】
トルク伝達部材にボールを用いたものであっても、内側継手部材にトリポード部材を用いたものであってもよく、種々のタイプの等速自在継手に対応でき、また、潤滑剤を、グリースよりも流動性及び介入性の良い潤滑剤を用いることによって、より高い潤滑性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施形態を示す等速自在継手の縦断面図である。
【図2】前記図1の等速自在継手に用いられるポンプ構造体を示し、(a)は第1のポンプ構造体の斜視図であり、(b)は第2のポンプ構造体の斜視図である。
【図3】ドライブシャフトの断面図である。
【図4】従来の固定式等速自在継手の縦断面である。
【図5】従来の摺動式等速自在継手の横断面図である。
【図6】従来の摺動式等速自在継手の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。
【0039】
図1に本発明に係る等速自在継手を示し、この等速自在継手は、アンダーカットフリー型の固定式等速自在継手であって、内径面81にトラック溝82が形成された外側継手部材83と、外径面84にトラック溝85が形成された内側継手部材86と、外側継手部材83のトラック溝82と内側継手部材86のトラック溝85との間に介在されるトルク伝達部材としてのトルク伝達ボール87と、このボール87を収容するポケット88を有するとともに外側継手部材83と内側継手部材86との間に介装されるケージ89とを備える。
【0040】
また、外側継手部材83は、内径面81にトラック溝82が形成されたカップ部90と、カップ部90の底壁90aから突設されるステム部91とからなる。内側継手部材86の軸心孔には、雌スプライン92が形成され、内側継手部材86の軸心孔にシャフト93の端部が嵌入される。シャフト93の端部93aには雄スプライン94が形成され、シャフト93の端部が内側継手部材86の軸心孔に嵌入された際に、雌スプライン92と雄スプライン94とが嵌合する。なお、雄スプライン94の端部には周方向溝96が形成され、この周方向溝96の止め輪97が嵌着されている。これによって、シャフト93の抜け止めが構成される。
【0041】
外側継手部材83のカップ部90は、開口側の大径部90bと、ステム部側の小径部90cと、小径部90cと大径部90bとの間に配設される中径部90dとを有する。また、大径部90bの外径面、中径部90dの外径面、及び小径部90cの外径面はそれぞれ円筒面とされる。なお、中径部90dと小径部90cとで、前記底壁90aを構成する。外側継手部材83のステム部91は雄スプライン部91aと端部雄ねじ部91bとを有する。
【0042】
この場合、この等速自在継手はハブ輪100に連結される。ハブ輪100は、筒部113とフランジ部114とからなり、フランジ部114には取り付け用のボルト99が装着されている。そして、筒部113の孔部101の内径面には、雌スプライン101aが形成され、この雌スプライン101aにステム部91の雄スプライン部91aが噛合する。そして、ハブ輪100の孔部101から突出した端部雄ねじ部91bにナット部材102が螺着される。
【0043】
そして、この等速自在継手とハブ輪100は、軸受構造部(ハブ輪軸受)103を介して、懸架装置を構成するナックル105に装着される。この場合の軸受構造部103は、一対の内輪106a、106bと、1つの外輪107と、内輪106a、106bと外輪107との間に介在される転動体108とを備える。
【0044】
各内輪106a、106bは、それぞれ、外径面に前記転動体108が転動する転動面111a、111bを有し、外輪107は、内径面に前記転動体108が転動する転動面112a、112bを有する。この場合、ハブ輪100の筒部113の外周面には周方向切欠部113aが設けられる。この周方向切欠部113aに内輪106a、106bが嵌合状となる。
【0045】
すなわち、内輪106aはその肉厚部側の端面115aが、周方向切欠部113aの切欠端面116に当接し、内輪106bはその肉厚部側の端面115bが等速自在継手の外側継手部材83のカップ部90の底壁90aのバックフェース117に当接する。この際、そして内輪106aの薄肉部側の端面118aと内輪106bの薄肉部側の端面118bとが当接する。
【0046】
また、ナックル105の内径面は、軸受構造部103の外輪107が嵌合する小径部120と、外側継手部材83のカップ部が遊嵌状に嵌合する大径部121とを備える。この大径部121を形成することによって、外側継手部材83の外径面、つまりカップ部90の外径面が内嵌状となる円筒状のハウジング125を構成することになる。
【0047】
また、ナックル105の小径部120の反大径部側には内鍔部126が設けられるとともに、小径部120の大径部121側にはストッパ127が装着される。このため、軸受構造部103の外輪107が、内鍔部126とストッパ127との間で挟持される。なお、この軸受構造部103においては、軸方向両端部にシール部材130a、130bが装着されている。なお、大径部121の小径部側においては、密封装置(オイルシール)135が装着されている
【0048】
この等速自在継手の開口部はブーツ140によって塞がれている。ブーツ140は、大径部140aと、小径部140bと、大径部140aと小径部140bとを連結する蛇腹部140cとからなる。この場合、ハウジング125の開口部外径面に形成されるブーツ装着部125aに大径部140aが外嵌され、この大径部140aの外径面に形成されている周方向嵌合溝にブーツバンド141が装着される。そして、このブーツバンド141を締め付けることによって、ブーツ140の大径部140aがハウジング125に固着される。
【0049】
また、小径部140bは、シャフト93の装着部93bに外嵌固定された軸受142に装着される。すなわち、軸受142は、外周面に転動面を有する内輪142aと、内周面に転動面を有する外輪142bと、内輪142aの転動面と外輪142bの転動面とに嵌合する転動体(ボール)142cと、ボール142cを保持する保持器(ケージ)142dとを備える。また、軸方向両開口部はシール部材143、143にて密封されている。
【0050】
この場合、シャフト93の装着部93bには、周方向嵌合溝部が設けられ、この周方向嵌合溝部に軸受142の内輪142aが嵌合される、なお、この周方向嵌合溝部の等速自在継手側に止め輪144が嵌着され等速自在継手側の軸受142の外れを規制している。
【0051】
ブーツ140の小径部140bがこの軸受142に外嵌され、この小径部140bの外径面に形成されている周方向嵌合溝にブーツバンド141が装着される。そして、このブーツバンド141を締め付けることによって、ブーツ140の小径部140bが軸受125、ひいてはシャフト93の装着部93bに固着される。
【0052】
そして、本発明では、ハウジング125の内径面と、外側継手部材83のカップ部90の大径部90bの外径面との間に、継手内部に充填される潤滑剤を継手回転にて継手内部を循環させるポンプ構造体150を配置している。
【0053】
なお、この場合のハウジング125としては、ナックル105と別部材にて構成し、このハウジング125をアルミニウム等の放熱性の良い金属にて構成して、ナックル105に溶接等の固着手段を介して固着するようにしてもよい。
【0054】
ポンプ構造体150は、図2(a)(b)に示すように、筒部151とこの筒部151の外径面に形成される羽部152とを有する軸流ファン構造体にて構成することができる。図2(a)では、羽部152が、筒部151の外径面に周方向に沿って所定ピッチで配設される複数の突起板152aで構成される。この突起板152aは円弧形状体であって、筒部151の軸心に対して所定角度で傾斜している。また、図2(b)では、羽部152が、筒部151の外径面に螺旋状に配設される複数の突条部152bからなる。つまり、図2(a)ではプロペラ型の軸流ポンプであり、図2(b)では螺旋型の軸流ポンプである。
【0055】
このようなポンプ構造体150が、外側継手部材83のカップ部90の大径部90bに圧入されて、外側継手部材83と一体化されている。この場合、例えば、ナイロン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂にて構成される。また、このポンプ構造体150は、ハウジング125の内径面とは非接触状態が維持される。すなわち、ポンプ構造体150の外径部とハウジング125の内径面との間に隙間が形成される。この隙間は、潤滑剤を送り込む能力に影響し、効率的に送るにはこの隙間を小さくすればよいが、ハウジング125に対する等速自在継手の外側継手部材93の振れ精度によって決まる。
【0056】
なお、ポンプ構造体150を外側継手部材83のカップ部90の大径部90bに接着剤を介して接着するものであってもよい。また、ポンプ構造体150をこのような樹脂にて構成することなく、金属製であってもよい。このため、ポンプ構造体150とカップ部90の大径部90bとは、ポンプ構造体150の材質等によるが、圧入のみであっても、圧入に加え溶接や接着等の接合手段を用いても、圧入せずに溶接や接着等の接合手段のみであってもよい。
【0057】
外側継手部材83のカップ部90には、図1に示すように、その外径面からカップ部内部に開口する潤滑剤流通孔155が設けられている。すなわち、潤滑剤流通孔155は、ポンプ構造体150と密封装置135との間、つまり、カップ部90の中径部90dにおけるテーパ部90e(大径部90bと中径部90dとの間)側に設けられる。この場合、潤滑剤流通孔155は、少なくとも1個設ければよいが、周方向に沿って複数個設けることができる。
【0058】
また、この等速自在継手では、継手内部およびブーツ内部に潤滑剤が封入される。潤滑剤としては、潤滑油、グリースなどが挙げられる。潤滑油としては、パラフィン系やナフテン系の鉱油、エステル系合成油、エーテル系合成油、炭化水素系合成油、GTL基油、フッ素油、シリコーン油等が挙げられる。これらは単独でも混合油としても使用できる。
【0059】
グリースは、基油に増ちょう剤を加えたものであり、基油としては上述の潤滑油を挙げることができる。増ちょう剤としては、リチウム石けん、リチウムコンプレックス石けん、カルシウム石けん、カルシウムコンプレックス石けん、アルミニウム石けん、アルミニウムコンプレックス石けん等の石けん類、ジウレア化合物、ポリウレア化合物等のウレア系化合物が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0060】
なお、潤滑剤としては、グリースよりも流動性および介入性に優れたものを選択するのが好ましい。
【0061】
このように、前記のように構成された等速自在継手では、軸受構造部はサスペンション部品のナックル105に固定されている。外側継手部材83は、ハブ輪100と一体化されており、軸受構造部103の内輪106a,106b及びハブ輪100とともにナックル105に対し回転する。これに対して、ブーツ140は、固定側のハウジング125と、シャフト93に装着される軸受142とに固定されるので、前記回転に対して回転しない。
【0062】
このように構成された等速自在継手では、この等速自在継手の回転や転舵による屈曲により、継手内部やブーツ内部に封入された潤滑剤は大径部140a側の潤滑剤溜りA(周方向全周にわたって形成される溜り)に集まる。その潤滑剤は回転するポンプ構造体150に巻き込まれ、潤滑剤溜りAからハブ軸受側潤滑剤溜りBに送り出される。
【0063】
そして、このハブ軸受側潤滑剤溜りB内が満杯になれば、この潤滑剤溜りB内の圧力が上昇し、潤滑剤流通孔155を介して継手内部の潤滑剤溜りCに潤滑剤が溜まる。この潤滑剤溜りCが満杯になれば、潤滑剤溜りC内の圧力が上昇する。これによって、ボール87とトラック溝82,85の接触点近傍やケージ89と内側継手部材86や外側継手部材の摺動面に強制的に供給され、これらを潤滑する。その後、潤滑剤は継手開口部からブーツ内部へ排出される。このように、潤滑剤は、ブーツ内部と継手内部とを循環することになる。
【0064】
ところで、ポンプ構造体150は、その羽部の向き等によって、吸引する方向を相違させることができる。このため、この等速自在継手を自動車用に適用する場合、主に使われる前進回転でブーツ内部からこのポンプ構造体150を介して継手内部へ潤滑剤が循環するように設定するのが好ましい。
【0065】
本発明の等速自在継手では、継手回転状態においてポンプ構造体150にて継手内部を潤滑剤が循環する。このため、転動面や摺動面の潤滑状態の向上を図ることができて、十分な潤滑油膜厚さの確保、及び転動面や摺動面で発生する微細摩耗粉の排出等が可能となって、継手寿命を伸ばすことができる。しかも、潤滑面近傍の潤滑剤に部分的劣化を防止でき、潤滑剤としての潤滑機能の低下を防止できる。さらに、転動面や摺動面の効果的な冷却を図ることができ、等速自在継手と潤滑剤の寿命の向上を図ることが可能となる。
【0066】
ポンプ構造体150では、継手回転によって、ブーツ内部と、外側継手部材83の外径面とハウジング125の内径面との間の隙間、外側継手部材83のカップ部奥部とを潤滑剤が循環する循環経路を形成することになる。このため、ブーツ内の潤滑剤を継手内部の潤滑に寄与させることができて効果的な潤滑が可能となる。
【0067】
複数個の潤滑剤流通孔155を設けたものでは、効率的な循環が可能となり、また、ブーツ内部の大径部側におけるポンプ構造体近傍に、潤滑剤溜りAを設けることによって、循環機能が安定し、継手寿命を大きく伸ばすことができる。
【0068】
この実施形態では、鉄よりも熱伝導が高い放熱性材料で構成されたハウジング125に、外側継手部材83の外径面が内嵌状となる。このため、外側継手部材83の外径面とハウジング125の内径面との間を通過する潤滑剤への冷却性能を高めることができ、継手の耐久性の向上を図ることができる。なお、冷却性を考慮すれば、ハウジング125に放熱用のフィンを設けるようにしてもよい。
【0069】
ポンプ構造体150を、軸流ファン構造体にて構成することによって、ポンプ構造体150の簡略化を図ることができ、軽量化及び低コスト化を図ることができる。
【0070】
前記ポンプ構造体150を外側継手部材83とは別部材にて構成しているので、外側継手部材83等において既存のものを用いることができ、生産性およびコスト面で不利となるのを防止できる。しかも、ポンプ構造体150と外側継手部材83との一体化は、嵌合手段であっても固着手段であってもよく、種々の固定手段を用いることができ、組立性に優れる。また、ポンプ構造体を樹脂製とすることによって、軽量化を図ることができる。潤滑剤を、グリースよりも流動性及び介入性の良い潤滑剤を用いることによって、より高い潤滑性を確保できる。
【0071】
前記実施形態では、固定式等速自在継手にポンプ構造体150を配置して、潤滑剤をブーツ内部と継手内部との間を循環させるものであったが、図5と図6等に示すような摺動式等速自在継手において、前記ポンプ構造体を配置するようにしてもよい。このように、摺動式等速自在継手にポンプ構造体を配置すれば、この摺動式等速自在継手も、「転動面や摺動面の潤滑状態の向上を図ることができ、十分な潤滑油膜厚さの確保、及び転動面や摺動面で発生する微細摩耗粉の排出等が可能で、継手寿命を伸ばすことができる。」等の作用効果を奏する。
【0072】
また、前記実施形態では、ナックル105にハウジング125を設けたものであるが、このようなナックル105に設けることなく、軸受構造部103の外輪(ハブ軸受外輪)107の一部にハウジング125を設けたものであってもよい。
【0073】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、前記実施形態では、固定式等速自在継手として、トラック溝の溝底が円弧部とストレート部を有するアンダーカットフリー型の固定式等速自在継手であったが、トラック溝の溝底が円弧部からなるバーフィールド型の固定式等速自在継手であってもよい。摺動式等速自在継手として、トリポード型、ダブルオフセット型、クロスグルーブ型等の摺動式等速自在継手であってもよい。
【0074】
ところで、図1に示す実施形態は、自動車の車輪を支持する車輪用軸受装置を示しており、懸架装置を構成するナックルと、車輪を取り付けるハブとの間に配設される。このような車輪用軸受装置は、複列の軌道面を有する軸受からなる車輪用軸受を嵌合させた「第一世代」と称される構造や、外方部材の外周に直接車体取付フランジまたは車輪取付フランジが形成された「第二世代」構造、また、ハブの外周に一方の内側軌道面が直接形成されてなるハブ輪を有する「第三世代」構造、あるいは、ハブ輪と等速自在継手の外側継手部材の外周にそれぞれ内側軌道面が直接形成された「第四世代」構造とに大別される。このため、本発明では、車輪用軸受装置として、第一世代、第二世代、第三世代、または第四世代であってもよい。
【0075】
また、ポンプ構造体150としては、図2(a)(b)に示すものに限るものではなく、図2(a)における突起板(羽)152aの数や軸心に対する傾斜角度、図2(b)における突条部152bの数や螺旋角度等は任意に設定できる。なお、等速自在継手の回転方向は必ずしも一定ではないので、前記したように、主に使われる回転方向で、前記した方向(つまり、A→B→Cのような方向)に沿って循環するように設計するのが好ましいが、勿論これに限るものではない。
【符号の説明】
【0076】
83 外側継手部材
86 内側継手部材
87 トルク伝達ボール
103 軸受構造部
105 ナックル
125 ハウジング
140 ブーツ
140a(ブーツ)大径部
140b(ブーツ)小径部
140c(ブーツ)蛇腹部
150 ポンプ構造体
151 筒部
152 羽部
155 潤滑剤流通孔
A 潤滑剤溜り

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側継手部材と、内側継手部材と、トルク伝達部材とを備え、前記外側継手部材の外径面が円筒状のハウジングに内嵌状となる等速自在継手であって、
前記外側継手部材の外径面とハウジングの内径面との間に、継手内部に充填される潤滑剤を継手回転にて循環させるポンプ構造体を配置したことを特徴とする等速自在継手。
【請求項2】
前記継手開口部がブーツにて塞がれている等速自在継手であって、前記ポンプ構造体は、ブーツ内部と、外側継手部材の外径面とハウジングの内径面との間の隙間、外側継手部材のカップ部奥部とを潤滑剤が循環する循環経路を形成することを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手。
【請求項3】
外側継手部材には、その外径面からカップ部内部に開口する潤滑剤流通孔が少なくとも1つ設けられていることを特徴とする請求項2に記載の等速自在継手。
【請求項4】
前記内側継手部材にはシャフトが嵌入固定され、前記ブーツは、ハウジングに外嵌固定される大径部と、内側継手部材に嵌入固定されたシャフトに軸受を介して外嵌固定される小径部と、大径部と小径部とを連結する蛇腹部とからなり、ブーツ内部の大径部側におけるポンプ構造体近傍に、潤滑剤溜りを設けたことを特徴とする請求項2又は請求項3のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項5】
鉄よりも熱伝導が高い放熱性材料で構成されたハウジングに、外側継手部材の外径面が内嵌状となることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項6】
ポンプ構造体は、筒部とこの筒部の外径面に形成される羽部とを有する軸流ファン構造体にて構成したことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項7】
前記ポンプ構造体を外側継手部材とは別部材にて構成し、嵌合手段または固着手段にてポンプ構造体と外側継手部材とを一体化したことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項8】
前記ポンプ構造体を樹脂製としたことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項9】
トルク伝達部材にボールを用いたことを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項10】
内側継手部材に、トリポード部材を用いたことを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項11】
前記潤滑剤を、グリースよりも流動性及び介入性の良い潤滑剤としたことを特徴とする請求項1〜請求項10にいずれか1項に記載等速自在継手。
【請求項12】
ドライブシャフトのホイール側の等速自在継手であって、ナックルの一部が前記ハウジングを構成することを特徴とする請求項1〜請求項11のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項13】
ドライブシャフトのホイール側の等速自在継手であって、ハブ軸受外輪の一部が前記ハウジングを構成することを特徴とする請求項1〜請求項11のいずれか1項に記載の等速自在継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−251652(P2012−251652A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127146(P2011−127146)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)