説明

等速自在継手

【課題】最大外径を抑えることができ、しかも、外側継手部材装着部を円筒形状とした熱可塑性エラストマー製ブーツを用いることができて、耐久性及びシール性に優れた等速自在継手を提供する。
【解決手段】外側継手部材1のマウス部開口部においては、大径部4aでは、周方向凸部35と周方向凹部36とが形成され、小径部4bでは、周方向全範囲が縦断面直線状をなす。中間部材50は外周面が円筒面形状とされた短円筒形状体である。中間部材50は、小径部4bに嵌合する厚肉部50と、厚肉部60を連結する円弧状連結部61とを有する。中間部材50は周方向凸部35に対応する部位には周方向凸部が嵌合する切欠部が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や各種産業機械等の動力伝達装置に使用される等速自在継手には、継手内部に封入されたグリースの漏れ防止や継手内部への塵埃等の異物侵入防止を目的に、ブーツが装着される。ブーツは、一般的には、等速自在継手の外側継手部材の開口部に装着される大径取付部と、等速自在継手の内側継手部材に連結されたシャフトに装着される小径取付
部と、大径取付部と小径取付部とを連結する屈曲部(蛇腹部)とで構成される。
【0003】
等速自在継手として、θ=45〜50deg程度の大きな作動角を取ることができる固定式等速自在継手(例えば、ツェッパ型、バーフィールド型等)や、作動角はそれ程大きくとることができないが、外側継手部材の軸線方向にスライドすることができる摺動式等速自在継手(例えば、ダブルオフセット型、トリポード型、クロスグルーブ型等)がある。そして、外側継手部材としては、ブーツが装着(外嵌固定)される開口部の外径面形状が、円筒面形状や非円筒面形状のものがある。
【0004】
そして、この種のブーツには、樹脂製ブーツ(熱可塑性エラストマー製ブーツ)やゴム製ブーツ(クロロプレンラバー製ブーツ)等がある。
【0005】
クロロプレンラバー製ブーツは、等速自在継手用ブーツとして比較的良好な性能を持っているが、耐疲労性、耐摩耗性、耐低温性、耐熱老化性、耐グリース性(耐油性)などの面で、使用条件によっては十分とは言えない場合も発生する。このため、より優れた性能を持つ熱可塑性エラストマー製ブーツに置き換わる傾向にある。
【0006】
外側継手部材の開口部の外周面形状が、非円筒面形状である場合、そこに装着するブーツの大径取付部の内周面は、前記外周面形状に沿った非円筒形状に成形する必要がある。しかしながら、熱可塑性エラストマー製ブーツでは、厚肉部と薄肉部から成る非円筒形状の成形には比較的高度な成形技術を要するため、外側継手部材の輪郭が非円筒形状である等速自在継手への使用は円筒形状のものに比べて展開が遅れている。
【0007】
そこで、従来には、非円筒形状の開口部に介在部材(中間部材)を外嵌し、この中間部材に、ブーツの大径取付部を外嵌固定するようにしたものが考案されている(特許文献1〜特許文献3)。
【0008】
すなわち、中間部材としては、外周面が円筒面とされ、内周面に、外側継手部材の非円筒面形状部の凹部に嵌合する内方膨出部を形成したリング体からなる。このため、等速自在継手の外側継手部材の開口部にこのような中間部材を嵌着(外嵌)することによって、円筒形状の大径取付部を有するブーツをそのまま用いることができる。すなわち、熱可塑性エラストマー製ブーツを非円筒形状の開口部に対応する形状とする必要がなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−240962号公報
【特許文献2】特開2005−221078号公報
【特許文献3】特開2007−120580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前記のような中間部材を用いれば、中間部材はリング体であるため、このような中間部材にブーツの大径取付部を外嵌すれば、この外側継手部材への装着部の外径寸法が大きくなって必然的に最外径の大型化を招くことになる。
【0011】
そこで、本発明は斯かる実情に鑑み、最外径の大型化を抑えることができ、しかも、ブーツの大径取付部を円筒形状とした熱可塑性エラストマー製ブーツを用いることができて、耐久性及びシール性に優れた等速自在継手を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の等速自在継手は、外側継手部材と、この外側継手部材に収容される内側継手部材と、外側継手部材と内側継手部材との間に介在されるトルク伝達部材とを備え、前記外側継手部材は、前記内側継手部材が収容されるマウス部を有し、このマウス部は、横断面で見ると、大径部と小径部が交互に現れる非円筒形状であり、マウス部開口部において、中間部材を介して熱可塑性ポリエステル系エラストマーからなるブーツが外嵌固定される等速自在継手であって、前記外側継手部材のマウス部開口部においては、大径部では、開口端側の周方向凸部とこの周方向凸部よりも継手奥側の周方向凹部とが形成され、前記中間部材は、マウス部開口部に外嵌された際に、前記小径部に嵌合する厚肉部と、前記大径部の周方向凹部に嵌合して周方向に隣り合う厚肉部を連結する円弧状連結部とを有し、前記大径部の周方向凸部に対応する部位にはこの周方向凸部が嵌合する切欠部が形成されて、前記ブーツをこの中間部材に外嵌した状態で、前記切欠部を介してブーツの大径取付部の内周面が前記周方向凸部に接触するものである。
【0013】
本発明の等速自在継手によれば、中間部材は、その厚肉部が外側継手部材の小径部に嵌合し、その円弧状連結部が大径部の周方向凹部に嵌合するので、外側継手部材のマウス部のブーツ装着部(開口端部)に安定して装着できる。また、中間部材の外周面が円筒面形状とされた短円筒形状体であるので、この中間部材に、短円筒部とされたブーツの大径取付部を外嵌させることによって、大径取付部の内周面と中間部材の外周面とを密接させることができる。しかも、中間部材には、大径部の周方向凸部に対応する部位にはこの周方向凸部が嵌合する切欠部が形成されているので、中間部材にブーツの大径取付部を外嵌させた状態で、大径取付部の内周面を周方向凸部に接触させることができ、さらにはこの状態では、円弧状連結部が大径部の周方向凹部に嵌合している。このため、ブーツが装着された状態であっても、最外径を小さく抑えることができる。
【0014】
前記中間部材をマウス部開口部に外嵌した状態において、中間部材の外周面の外径寸法が前記大径部の周方向凸部の外径寸法と同一乃至前記大径部の周方向凸部の外径寸法よりも僅かに大きく設定できる。このように設定することによって、ブーツバンドにてブーツの大径取付部を締め付けた際に、緊縛力を安定させることができる。
【0015】
前記中間部材をマウス部開口部に外嵌した状態において、中間部材の厚肉部の外径寸法が、中間部材の円弧状連結部の外径寸法よりも僅かに大きいものであってもよい。このように設定することによって、ブーツバンドにてブーツの大径取付部を締め付けた際、この厚肉部の変形量が大となるため、緊縛力を安定させることができる。
【0016】
中間部材の内周面に前記周方向凹溝の底面に圧接する周方向内凸条を少なくとも1つ設けたものであっても、中間部材の外周面にブーツの大径取付部の内周面に圧接する周方向外凸条を少なくとも1つ設けたものであってもよい。
【0017】
また、前記周方向凹溝の底面に圧接する2つの周方向内凸条を中間部材の内周面に軸方向に所定間隔で設けるとともに、中間部材の外周面に1つの周方向外凸条を前記2つの周方向内凸条の中間部位に対応する部位に設けたものであってもよい。前記周方向内凸条および前記周方向外凸条は、外側継手部材の円周方向に連続した凸条とする。さらには、中間部材の厚肉部の内周面における外側継手部材の周方向凸部の軸方向対応部位に周方向内凸条を設けてもよい。この周方向内凸部は、円周方向に不連続である。
【0018】
ブーツの大径取付部には、その外周面にブーツバンドが装着される周方向凹溝が形成されるとともに、その内周面の前記周方向凹溝の軸方向中間対応部に周方向膨出部が形成され、前記外側継手部材の周方向凸部と前記中間部材の円弧状連結部との間に第1周方向溝が形成されるとともに、中間部材の厚肉部の外周面における前記第1周方向溝の軸方向対応位置に第2周方向溝が形成され、第1周方向溝と第2周方向溝とが周方向に連続する周方向嵌合溝を構成し、この周方向嵌合溝に前記ブーツの大径取付部の周方向膨出部が嵌合するものであることが好ましい。この際、中間部材の厚肉部の外周面の縦断面形状と、前記外側継手部材の周方向凸部乃至中間部材の円弧状連結部の外周面の縦断面形状とが略同一形状であるようにできる。
【0019】
前記外側継手部材の大径部の周方向凹部と小径部とはエッジ部を介して接合され、中間部材が装着された状態で、前記エッジ部がこの中間部材における円弧状連結部と厚肉部との境界部に食い込むのが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、最外径を最小限に抑えた上で、ブーツの大径取付部が円筒形状をした熱可塑性エラストマー製ブーツを等速自在継手の外側継手部材に装着することができる。このため、外側継手部材に対するブーツの大径取付部の装着性、位置決め安定性を向上させ、かつ、安定したシール性を確保することを容易にする。そして、熱可塑性エラストマー製ブーツを適用できることにより、クロロプレンラバー製ブーツに比べて耐久性が向上し、ブーツ性能の信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態を示す等速自在継手の縦断面図である。
【図2】前記図1に示す等速自在継手の横断面図である。
【図3】前記図1に示す等速自在継手の外側継手部材の縦断面図である。
【図4】前記図1のX−X線断面図である。
【図5】前記図1のY−Y線断面図である。
【図6】前記図1に示す等速自在継手に用いる中間部材を示し、(a)は正面図であり、(b)は側面図である。
【図7】前記図1に示す等速自在継手の要部拡大断面図である。
【図8】前記図1に示す等速自在継手の図7とは相違する部位の要部拡大断面図である。
【図9】前記図1に示す等速自在継手に用いる中間部材の要部拡大断面図である。
【図10】前記図1に示す等速自在継手に用いる中間部材の図9とは相違する部位の要部拡大断面図である。
【図11】前記図1に示す中間部材の装着前の要部拡大横断面図である。
【図12】前記図1に示す中間部材の装着後の要部拡大横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。
【0023】
図1と図2は本発明に係るトリポード型等速自在継手を示し、トリポード型等速自在継手は、外側継手部材1と、内側継手部材としてのトリポード部材2と、トルク伝達部材3とを備える。
【0024】
外側継手部材1は一端にて開口したカップ状のマウス部4と、マウス部4の底壁から突設されるステム部5を有し、内周の円周方向三等分位置に軸方向に延びるトラック溝6が形成してある。マウス部4は、横断面で見ると、大径部4aと小径部4bが交互に現れる非円筒形状である。すなわち、マウス部4は、大径部4aと小径部4bとを形成することによって、その内周面に、軸方向に延びる3本の前記トラック溝6が形成される。
【0025】
各トラック溝6の円周方向で向き合った側壁にローラ案内面(ローラ摺接面)7、7が形成される。また、内周面においては、円周方向に交互に現れる小内径部12と大内径部13をローラ案内面7で接続した3弁の花冠状を呈している。すなわち、外側継手部材1は、円周方向に向き合ったローラ案内面7と両ローラ案内面7,7間に設けられた大内径部13からなるトラック溝6が内周の三箇所に形成されるものである。
【0026】
トリポード部材2はボス8と脚軸9とを備える。ボス8にはシャフト10とトルク伝達可能に結合する雌スプライン11が形成してある。脚軸9はボス8の円周方向三等分位置から半径方向に突出している。
【0027】
各脚軸9は、円筒形外周面14と、軸端付近に形成された環状の輪溝16を備えている。脚軸9の外周に複数の針状ころ17を介して回転自在にトルク伝達部材3を構成するローラ部材20を外嵌している。脚軸9の円筒形外周面14は針状ころ17の内側軌道面を提供する。ローラ部材20の内周面は円筒形で、針状ころ17の外側軌道面を提供する。
【0028】
針状ころ17は脚軸9の半径方向で見た外側の端面にてアウタ・ワッシャ21と接し、反対側の端面にてインナ・ワッシャ22と接している。アウタ・ワッシャ21は輪溝16に装着されたサークリップ23によって軸方向移動を規制されているため、結局、針状ころ17も軸方向移動を規制される。
【0029】
トリポード部材2の雌スプライン11には、シャフト(軸部材)10の端部雄スプライン25が嵌入され、この雌スプライン11と端部雄スプライン25とが嵌合する。また、端部雄スプライン25の先端部及び基端部には、抜け止め用の止め輪26が装着されている。
【0030】
ところで、外側継手部材1の開口部はブーツ30によって密封される。そのため、外側継手部材1の外周面の開口部側(マウス部4の開口部)には、ブーツ装着部31が形成される。そして、このブーツ装着部31に、後述する中間部材50を介してブーツ30が外嵌され、ブーツバンド32にて締め付けることになる。
【0031】
ブーツ30は、大径部取付部30aと、小径取付部30bと、大径取付部30aと小径取付部30bとを連結する屈曲及び伸縮が可能な蛇腹部(連結部)30cとからなる。このブーツ30の材質に、JIS K 6253に規定されるタイプDデュロメータによる硬さが35以上50以下である熱可塑性ポリエステル系エラストマーを用いている。熱可塑性ポリエステル系エラストマーは、加硫ゴムのような非常に柔軟な材料と、熱可塑性樹脂のような高剛性な材料との中間の弾性率を持つ材料である。この熱可塑性ポリエステル系エラストマーは、加硫ゴムと熱可塑性樹脂の両者の特徴を有し、変形を受けても、元の形状に復元するゴム弾性、加硫ゴムより高い機械的強度、一般的な熱可塑性樹脂に適用される成形加工法が適用できる熱可塑性などの特徴を示す材料である。
【0032】
ところで、外側継手部材1のマウス部開口部外周面においては、大径部4aでは、図3と図7等に示すように、開口端側の周方向凸部35とこの周方向凸部35よりも継手奥側の周方向凹部36とが形成されて、前記ブーツ装着部31が構成される。
【0033】
この場合、大径部4aの開口端外径側に、図7に示すように、テーパ面(傾斜面)38aとアール部38bとからなる面取部38が形成され、また、大径部4aの開口端側外周面に、周方向凹部36が形成され、この周方向凹部36と面取部38との間に周方向凸部35が形成される。周方向凹部36は、所定深さをなす底面37と、開口側のテーパ部36bと、継手奥側のテーパ面36cとからなる。このため、周方向凸部35は、縦断面形状が台形状とされる。テーパ面38aのテーパ角θ(継手軸線に対する傾斜角度)として、25°以上60°以下に設定するのが好ましく、さらには、25°以上45°以下に設定するのが好ましい。また、小径部4bでは、周方向全範囲が縦断面直線状をなし、横断面形状では円弧形状をなす。
【0034】
ブーツ30の大径取付部30aは短円筒形状をなし、図1と図7に示すように、その外周面にブーツバンド32が装着される周方向凹溝40が形成される。大径取付部30aの内周面には、その軸方向中間対応部に周方向膨出部42が形成されている。
【0035】
ブーツ30の小径取付部30bは短円筒形状をなし、図1に示すように、その外周面にブーツバンド32が装着される周方向凹溝43が形成される。小径取付部30bの内周面には、その軸方向中間対応部に周方向膨出部44が形成されている。また、この小径取付部30bはシャフト(軸部材)10のブーツ装着部45に外嵌される。ブーツ装着部45は、周方向凹溝46と、この周方向凹溝46の両端部に設けられる周方向凸条47,47とを備える。このため、小径取付部30bをシャフト(軸部材)10のブーツ装着部45に外嵌した状態で、周方向凹溝43にブーツバンド32を装着して、このブーツバンド32を締め付ければ、周方向凹溝46に周方向膨出部44が嵌合するとともに、周方向凸条47,47が小径取付部30bの内径面に食い込むことになって、小径取付部30bはブーツ装着部45に固定される。
【0036】
ところで、大径取付部30a側では、この大径取付部30aに中間部材50が内嵌された状態で外側継手部材1のブーツ装着部31に装着されることになる。中間部材50は、樹脂やゴム熱可塑性エラストマーを用いることができる。すなわち、ブーツに必要な疲労性や摩耗性、低温性などの性能を保持していなくても使用可能なため、任意の材料を選択することができる。勿論、ブーツに使用可能な材料を選択しても良い。なお、中間部材50は、一体に成形されたものであっても良いし、円周方向に分割された形態のものを組み合わせて適用しても良い。例えば、外側継手部材1のブーツ装着部31に中間部材50を装着する際に、装着するための変形を許容できない材料を選択した場合は、円周方向に分割された形態の中間部材50を適用すると良い。
【0037】
中間部材50は、図6に示すように、薄肉の円弧状連結部61を含むリング部50aと、周方向に沿って120°ピッチで配設される突出部50bとからなる。この場合、リング部50aの一方の軸方向端部にテーパ部51aが形成され、この軸方向端面に前記突出部50bが連設されている。突出部50bは、その内周面は、外側継手部材1の小径部4bに嵌合する円弧形状とされ、その外周面は、外端側の第1テーパ円弧部52aと、この第1テーパ円弧部52aに連設される第1円弧面部52bと、第1円弧面部52bを介して第1テーパ円弧部52aと反対側に第2テーパ円弧部52cと、この第2テーパ円弧部52cと前記テーパ部51aとの間の第2円弧面部52dとが形成される。また、第1テーパ円弧部52aと突出部50bの外端面とのコーナ部にアール部52e(図8等参照)が形成されている。
【0038】
このように構成された中間部材50を、外側継手部材1のブーツ装着部31に装着(外嵌)すれば、各突出部50bは各小径部4bに嵌合することになる。また、図7に示すように、大径部4aにおいては、リング部50aの円弧状連結部61が周方向凹部36に嵌合する。この際、リング部50aの円弧状連結部61は、他方の軸方向端部には、図7に示すように、テーパ部51bが形成され、このテーパ部51bが周方向凹部36のテーパ面36cに密接する。また、このリング部50aの円弧状連結部61と、周方向凸部35との間に周方向溝53が形成される。すなわち、テーパ部36bと底面37とテーパ部51aとで、この周方向溝53が形成される。
【0039】
中間部材50が外側継手部材1のブーツ装着部31に装着された状態では、小径部4bにおいては、図8に示すように、第2テーパ円弧部52cと第2円弧面部52dとテーパ部51aとで、周方向溝54が形成される。そして、この周方向溝54と前記周方向溝53とが周方向に連続する周方向嵌合溝55を構成する。このように、中間部材50は、突出部50bと、これに軸方向に対応するリング部50aの一部とで、マウス部開口部に外嵌された際に小径部4bに嵌合する厚肉部60を形成する。また、リング部50aにおいて厚肉部60間が、大径部4aの周方向凹部36に嵌合して周方向に隣り合う厚肉部を連結される円弧状連結部61を形成することになる。このため、周方向に隣合う突出部50b間においては、継手開口側には部材がないことになる。中間部材50が外側継手部材1のブーツ装着部31に装着された状態では、外側継手部材1の周方向凸部35が嵌合する切欠部62が設けられることになる。
【0040】
この場合、中間部材50の厚肉部60の外周面の縦断面形状と、周方向凸部35乃至中間部材50の円弧状連結部61の連続する外周面の縦断面形状とが略同一形状であるように設定できる。
【0041】
このように、構成された中間部材50が外側継手部材1のブーツ装着部31に装着された状態で、ブーツ30の大径取付部30aをこの中間部材50に外嵌すれば、大径取付部30aの周方向膨出部42が、周方向溝53と周方向溝54とで構成される周方向嵌合溝55に嵌合することになる。
【0042】
この場合、中間部材50をマウス部開口部に外嵌した状態において、中間部材50の外周面の外径寸法D1(図5参照)が大径取付部4aの周方向凸部35の外径寸法D2(図7参照)と同一乃至前記大径部4aの周方向凸部35の外径寸法D2よりも僅かに大きいように設定している。この場合、中間部材50の厚肉部60の外径寸法D3(図5参照)と中間部材50の円弧状連結部61の外径寸法D4(図5参照)とを同一に設定している。
【0043】
また、中間部材50をマウス部開口部に外嵌した状態において、中間部材50の厚肉部60の外径寸法D3が、中間部材50の円弧状連結部61の外径寸法D4よりも僅かに大きいように設定してもよい。
【0044】
ブーツ30の大径取付部30aが外嵌された状態では、大径取付部30aの内周面と中間部材50の円弧状連結部61の外周面とが直接的に接触することになる。このため、この状態で、大径取付部30aの外周面の周方向凹溝40にブーツバンド32を締め付けると(縮径させると)、周方向膨出部42が周方向嵌合溝55に固定されるとともに、大径取付部30aの内周面が中間部材50の円弧状連結部61の外周面に密着(圧接)する。このため、ブーツ30の大径取付部30aは、中間部材50を介して外側継手部材1のブーツ装着部31に安定した状態で固定されることになる。
【0045】
外側継手部材1は鉄などの金属製であり、中間部材50は、樹脂やゴムや熱可塑性エラストマー等であることから中間部材50の変形量が大きくなる。このため、ブーツ30を装着してブーツバンド32などの締結部材で固定する際に、中間部材50の外周面の外径寸法D1が大径部4aの周方向凸部35の外径寸法D2と同一乃至前記大径部4aの周方向凸部35の外径寸法D2よりも僅かに大きいように設定した。すなわち、中間部材50の外周面の外径は、外側継手部材1の周方向凸部35の外径の1倍〜1.02倍が望ましい。
【0046】
また、中間部材50の円弧状連結部61より厚肉部60の方がブーツ30を装着してブーツバンド32などの締結部材で固定した際の変形量が大きい。そこで、外径寸法D3を外径寸法D4よりも僅かに大きくすることによって、緊縛力を均一に保つ。従って、この場合の中間部材50の外形は、真円では無く、オムスビ形状の様な略円筒形状になる。厚肉部60の外径(最大)は、円弧状連結部61の外径の1倍〜1.05倍が望ましい。1.05倍を越えると、円弧状連結部61と厚肉部60に掛かる緊縛力の不均一が発生する。なお、厚肉部60の外形は、円筒であっても良いし、中央部分が厚くて両端部(円弧状連結部61との接合部)が薄い凸状であっても良い。
【0047】
本発明の等速自在継手によれば、中間部材50は、その厚肉部60が外側継手部材1の小径部4bに嵌合し、その円弧状連結部61が大径部4aの周方向凹部36に嵌合するので、外側継手部材1のマウス部4のブーツ装着部(開口端部)31に安定して装着できる。また、中間部材50の外周面が円筒面形状とされた短円筒形状体であるので、この中間部材50に、短円筒部とされたブーツ30の大径取付部30aを外嵌させることによって、大径取付部30aの内周面と中間部材50の外周面とを密接させることができる。しかも、中間部材50には、大径部4aの周方向凸部35に対応する部位にはこの周方向凸部35が嵌合する切欠部62が形成されているので、中間部材50にブーツ30の大径取付部30aを外嵌させた状態で、ブーツ30の大径取付部30aの内周面を周方向凸部35に接触させることができ、さらにはこの状態では、円弧状連結部61が大径部4aの周方向凹部36に嵌合している。このため、ブーツ30が装着された状態であっても、最大外径を小さく抑えることができる。
【0048】
このように、本発明では、最外径を最小限に抑えた上で、大径取付部30aが円筒形状をした熱可塑性エラストマー製ブーツ30を等速自在継手の外側継手部材1に装着することができる。このため、外側継手部材1に対するブーツ30の大径取付部30aの装着性、位置決め安定性を向上させ、かつ、安定したシール性を確保することを容易にする。そして、熱可塑性エラストマー製ブーツ30を適用できることにより、クロロプレンラバー製ブーツに比べて耐久性が向上し、ブーツ性能の信頼性が向上する。特に、ブーツ材質として、JIS K6253に規定されるタイプDデュロメータによる硬さが35以上50以下である熱可塑性ポリエステル系エラストマーを使用することによって、ブーツ30は、疲労性や摩耗性、高速回転性(回転時振れ廻り性)に優れ、ブーツ30として安定した機能を長期にわたって発揮することができる。なお、JIS K6253に規定されるタイプDデュロメータによる硬さが35未満の場合や、50を超える場合は、疲労性や摩耗性にあまり優れるものではない。
【0049】
大径取付部30aの周方向膨出部42が、周方向溝53と周方向溝54とで構成される周方向嵌合溝55に嵌合することになるので、安定した装着状態を維持でき、回転時等において、装着されたブーツが外れにくく、継手内部に封入されたグリースの漏れ防止や継手内部への塵埃等の異物侵入を防止できる。
【0050】
外側継手部材1のマウス部開口部端部には、テーパ面38aが形成されているので、外側継手部材1の旋削加工効率を向上させると同時に、ブーツ30の大径取付部30aの外側継手部材1のブーツ装着部31への装着性の向上を図ることができる。この場合、テーパ面38aのテーパ角θが60°を超えると、ブーツ装着性が阻害され、テーパ角θが25°未満では、外側継手部材1の軸方向長さが大となり、スペース効率や強度上好ましくない。
【0051】
ところで、中間部材50においては、図9と図10に示すように、その内周面に一対の周方向内凸条65,66を周方向全周にわたって設けるようにしてもよい。この場合の各周方向内凸条65,66はその断面形状が三角形状とされている。また、厚肉部60の内周面には、前記周方向内凸条65,66と相違する円弧状の周方向内凸条67を設けるようにしてもよい。この周方向内凸条67もその断面形状が三角形状とされる。
【0052】
また、中間部材50の外周面に周方向外凸条70を周方向全周にわたって設けるようにしてもよい。また、厚肉部60の外周面には、前記周方向外凸条70と相違する円弧状の周方向外凸条71を設けるようにしてもよい。周方向外凸条70を、周方向内凸条65,66の間の中間部に対応する位置に設けるのが好ましい。このように設けることによって、中間部材50は、外周側と内周側とで安定した密着性を発揮する。なお、この実施形態では、周方向外凸条70,71はその断面形状を三角形状としている。
【0053】
このように、周方向内凸条65,66、67等を設けた場合、装着した際に、周方向内凸条65,66、67が圧潰状となって、中間部材50と外側継手部材1との間のシール性が向上する。また、周方向外凸条70,71を設けた場合、装着した際に、周方向外凸条70,71が圧潰状となって、中間部材50とブーツ30の大径取付部30aとの間のシール性が向上する。なお、周方向内凸条67は、外側継手部材1の周方向凸部35に対応する位置に設けるのが好ましく、このように設定することによって、ブーツバンド32を締結した際の緊縛力の不均一を防止できる。
【0054】
各周方向内凸条65,66、67及び各周方向外凸条70、71は、その断面形状が三角形状に限るものではなく、例えば、半円、半楕円、矩形等の種々の形状のものを採用することができる。この場合、シール性を考慮することによって、図例のように断面形状が三角形状であるのが好ましい。
【0055】
周方向内凸条65,66、67及び各周方向外凸条70、71の高さ寸法T(図11や図12参照)としては、0.3mm以上1mm以下が好ましい。0.3mm未満ではこの凸条の効果(シール性向上効果)が得られにくく、1mmを超えれば、相手面との密着性が低下したり、ブーツバンド32を締結した際の緊縛力の不均一が発生しやくなる。
【0056】
また、図11に示すように、外側継手部材1の周方向凹部36に対応する周方向内凸条65,66は、中間部材50の円弧状連結部61と厚肉部60との接合部においては、凹円弧状部75が形成されている。外側継手部材1の大径部4aと小径部4bとの境界部(前記凹円弧状部に対応する境界部)がエッジ部76とされている。
【0057】
このため、中間部材50を外側継手部材1に装着した際には、図12に示すように、外側継手部材1の境界部(エッジ部)76が中間部材50の凹円弧状部75に食い込むことになる。これによって、シール性の向上を達成できる。中間部材50の凹円弧状部75の曲率半径(R寸法)としては、大きすぎると、その中央部が担ぐことで空間が生じ、シール性を低下させることになる。逆に曲率半径(R寸法)が小さすぎると、エッジ部76の食い込み性が低下することになる。このため、この曲率半径(R寸法)はR0.5mm〜R5mm程度が好ましい。
【0058】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、各周方向内凸条65,66、67や各周方向外凸条70、71を設ける場合、その断面形状が三角形状に限るものではなく、半円、半楕円、矩形等の種々の形状のものを採用することができる。しかしながら、シール性を考慮することによって、図例のように断面形状が三角形状であるのが好ましい。また、三角形状とする場合、正三角形であっても、二等辺三角形であってもよい。周方向内凸条65,66、67や周方向外凸条70、71の数も図例のものに限らず、任意に設定できる。
【0059】
等速自在継手としては、前記実施形態では、シングルローラタイプのトリポード型等速自在継手であったが、ダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手であってもよい。また、トリポード型等速自在継手以外の摺動式等速自在継手であっても、さらには、固定式等速自在継手であってもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 外側継手部材
2 トリポード部材(内側継手部材)
3 トルク伝達部材
4 マウス部
4b 小径部
4a 大径部
10 シャフト
12 小内径部
13 大内径部
30 ブーツ
31 ブーツ装着部
32 ブーツバンド(締付用バンド)
35 周方向凸部
36 周方向凹部
40 周方向凹溝
53、54 周方向溝
55 周方向嵌合溝
60 厚肉部
61 円弧状連結部(薄肉連結部)
62 切欠部
65,66 周方向内凸条
67 周方向内凸条
70,71 周方向外凸条
75 凹円弧状部(境界部)
76 エッジ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側継手部材と、この外側継手部材に収容される内側継手部材と、外側継手部材と内側継手部材との間に介在されるトルク伝達部材とを備え、前記外側継手部材は、前記内側継手部材が収容されるマウス部を有し、このマウス部は、横断面で見ると、大径部と小径部が交互に現れる非円筒形状であり、マウス部開口部において、中間部材を介して熱可塑性ポリエステル系エラストマーからなるブーツが外嵌固定される等速自在継手であって、
前記外側継手部材のマウス部開口部においては、大径部では、開口端側の周方向凸部とこの周方向凸部よりも継手奥側の周方向凹部とが形成され、前記中間部材は、マウス部開口部に外嵌された際に、前記小径部に嵌合する厚肉部と、前記大径部の周方向凹部に嵌合して周方向に隣り合う厚肉部を連結する円弧状連結部とを有し、前記大径部の周方向凸部に対応する部位にはこの周方向凸部が嵌合する切欠部が形成されて、前記ブーツをこの中間部材に外嵌した状態で、前記切欠部を介してブーツの外側継手部材装着部の内周面が、前記外側継手部材の前記周方向凸部に接触することを特徴とする等速自在継手。
【請求項2】
前記中間部材をマウス部開口部に外嵌した状態において、中間部材の外周面の外径寸法が前記大径部の周方向凸部の外径寸法と同一乃至前記大径部の周方向凸部の外径寸法よりも僅かに大きいことを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手。
【請求項3】
前記中間部材をマウス部開口部に外嵌した状態において、中間部材の厚肉部の外径寸法が、中間部材の円弧状連結部の外径寸法よりも僅かに大きいことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の等速自在継手。
【請求項4】
中間部材の内周面に前記周方向凹溝の底面に圧接する周方向内凸条を少なくとも1つ設けたことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項5】
中間部材の外周面にブーツの外側継手部材装着部の内周面に圧接する周方向外凸条を少なくとも1つ設けたことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項6】
前記周方向凹溝の底面に圧接する2つの周方向内凸条を中間部材の内周面に軸方向に所定間隔で設けるとともに、中間部材の外周面に1つの周方向外凸条を前記2つの周方向内凸条の中間部位に対応する部位に設けたことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項7】
中間部材の厚肉部の内周面における周方向凸部の軸方向対応部位に周方向内凸条を設けたことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項8】
ブーツの外側継手部材装着部は、その外周面に締付用バンドが装着される周方向凹溝が形成されるとともに、その内周面の前記周方向凹溝の軸方向中間対応部に周方向膨出部が形成され、
前記外側継手部材側の周方向凸部と前記中間部材の円弧状連結部との間に第1周方向溝が形成されるとともに、中間部材の厚肉部の外周面における前記第1周方向溝の軸方向対応位置に第2周方向溝が形成され、第1周方向溝と第2周方向溝とが周方向に連続する周方向嵌合溝を構成し、この周方向嵌合溝に前記外側継手部材装着部の周方向膨出部が嵌合することを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項9】
前記外側継手部材の大径部の周方向凹部と小径部とはエッジ部を介して接合され、中間部材が装着された状態で、前記エッジ部がこの中間部材における円弧状連結部と厚肉部との境界部に食い込むことを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の等速自在継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−87885(P2013−87885A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229765(P2011−229765)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】