説明

筋肉損傷抑制組成物

【課題】 安全性が高く、より筋肉損傷抑制効果の強い筋肉損傷抑制組成物を提供することを目的とするものである。
【解決手段】 本発明は、酢酸菌の脂溶性有機溶剤抽出物を、好ましくは酢酸菌の酢酸エチル抽出物、酢酸菌アルカリ安定脂質、N−アシルスフィンガニン、スフィンガニン、アミノ脂質またはテルペノイド化合物を有効成分として含有することを特徴とする筋肉損傷抑制組成物を提供するものである。さらに、本発明は、食酢の脂溶性有機溶剤抽出物を、好ましくは食酢の酢酸エチル抽出物を、有効成分として含有することを特徴とする筋肉損傷抑制組成物を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動時等により発症する筋肉の損傷を抑制する作用を有する組成物に関し、さらに詳細には、酢酸菌または食酢の脂溶性有機溶剤抽出物を有効成分とする筋肉損傷抑制組成物に関する。さらに、本発明は、酢酸菌のアルカリ安定脂質、アルカリ安定脂質中のN−アシルスフィンガニン、スフィンガニン、アミノ脂質またはテルペノイド化合物を有効成分とする筋肉損傷抑制組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
家事、庭仕事、通勤のための歩行などの日常生活の活動、余暇に行なう趣味・レジャー活動などの全ての身体活動が健康を維持する上で有用ではあるが、特にスポーツなどの運動は、より健康維持向上に有益であると考えられ、競技者だけでなく、一般人にも普及している。
【0003】
しかしながら、過度のスポーツなどの運動を行うと筋肉が損傷する場合があり、時には逆効果となる場合が起こり得るとされている。
このような筋肉の損傷は運動過負荷によって引き起こされ、一部の筋肉に損傷が起きると、損傷した筋肉の細胞がサイトカインやケモカインを分泌し、好中球やマクロファージの浸潤を促すことが知られている。そして、好中球が増加して生成する活性酸素種や、また、好中球から放出されるミエロペルオキシダーゼ酵素(以下、MPOと称する場合もある)の作用によって生成する次亜塩素酸などが、周辺の筋肉に損傷を与えるといった増幅作用によって、炎症を伴う症状が発症すると考えられている。このことから、MPO活性を調べることによって、運動過負荷による筋肉の損傷の程度を知ることができる。
【0004】
また、サイトカインのひとつであるインターロイキン−6(以下、IL−6と称する場合もある)や、ケモカインのひとつである好中球の遊走に関与する好中球走化性因子−1(以下、CXCL−1と称する場合もある)などの分泌量や遺伝子発現量を調べることによっても、筋肉の損傷の程度を知ることができる。
【0005】
このような筋肉の損傷に伴う炎症に対しては、フェニルブタゾン、サリチル酸誘導体、インドメタシン、フェニル酢酸等の非ステロイド消炎物質などが知られている。
【0006】
しかしながら、該非ステロイド消炎物質の作用は、炎症が起きてからの回復治癒を助けるものであって、筋肉の損傷を抑制防止する作用は有していない。
しかも、該非ステロイド消炎物質は、筋粘膜の損傷や胃潰瘍などの消化器系への副作用を有している。
そこで、これらの副作用を抑制するために、該非ステロイド消炎物質に燐脂質を配合した組成物が提唱されたりもしている(例えば、特許文献1参照)が、必ずしも満足しうるものではなかった。
【0007】
より有効な作用を期待するには、筋肉の損傷を防ぐ機能を有するものであって、かつ、副作用などが極力少ない安全性の高い物質が求められる中で、例えばビタミンEは運動過負荷によって作られた活性酸素種を消去することによって筋肉損傷の増幅作用を抑制できると考えられている(例えば、非特許文献1参照)。
また、リコピンなども筋蛋白分解を抑制し、筋損傷予防作用を有することが提唱されている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
しかしながら、これらの物質は安全性がより高いと考えられるものの、筋肉の損傷を抑制予防する作用は充分満足できるものではなかった。
このため、安全性が高く、より効果の強い筋肉損傷抑制組成物を開発することが求められていた。
【0009】
【特許文献1】特開昭55−89225号公報
【特許文献2】特開2004−59518号公報
【非特許文献1】東北ジャーナル・オブ・エクスペリメンタル・メディスン(Tohoku J. Exp. Med.)、198巻、p.47−53、2002年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解消し、安全性が高く、より筋肉損傷抑制効果の強い筋肉損傷抑制組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題に鑑み、本発明者は、食酢製造菌などとして古来より使用されており、安全性の高いことが認知されている酢酸菌に着目した。なお、酢酸菌は、古来から人の食生活と深く係わっており、食酢製造以外にも、例えばヨーロッパの伝統食であるカスピ海ヨーグルトに酢酸菌が含まれ、歴史的な食経験のあることも知られている。
なお、酢酸菌は、食酢発酵工程中の発酵終了後において、濾過され、廃棄されているので、安価に入手することも可能である。
さらに、本発明者は、酢酸菌の発酵によって製造される食酢についても着目したが、食酢は古来から親しまれている酸味調味料であり、米酢、穀物酢、黒酢、玄米酢、リンゴ酢やぶどう酢といった果実酢、アルコール酢などがある。
【0012】
本発明者は、鋭意研究の結果、上記の酢酸菌または食酢から脂溶性有機溶剤で抽出して得られる脂溶性有機溶剤抽出物に筋肉損傷抑制作用が認められることを確認し、本発明を完成するに至った。
さらに、本発明者は、酢酸菌の脂溶性有機溶剤抽出物に含まれるアルカリ安定脂質に、さらにアルカリ安定脂質を構成するN−アシルスフィンガニン、スフィンガニン、アミノ脂質、テルペノイド化合物などに筋肉損傷抑制作用が認められることを確認して、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、請求項1に係る本発明は、酢酸菌の脂溶性有機溶剤抽出物を有効成分として含有することを特徴とする筋肉損傷抑制組成物を提供するものである。
また、請求項2に係る本発明は、脂溶性有機溶剤が酢酸エチルであることを特徴とする請求項1に記載の筋肉損傷抑制組成物を提供するものである。
また、請求項3に係る本発明は、脂溶性有機溶剤抽出物がアルカリ安定脂質であることを特徴とする請求項1に記載の筋肉損傷抑制組成物を提供するものである。
また、請求項4に係る本発明は、アルカリ安定脂質がN−アシルスフィンガニンであることを特徴とする請求項3に記載の筋肉損傷抑制組成物を提供するものである。
また、請求項5に関する本発明は、アルカリ安定脂質がスフィンガニンであることを特徴とする請求項3に記載の筋肉損傷抑制組成物を提供するものである。
また、請求項6に係る本発明は、アルカリ安定脂質がアミノ脂質であることを特徴とする請求項3に記載の筋肉損傷抑制組成物を提供するものである。
また、請求項7に係る本発明は、アルカリ安定脂質がテルペノイド化合物であることを特徴とする請求項3に記載の筋肉損傷抑制組成物を提供するものである。
さらに、請求項8に係る本発明は、食酢の脂溶性有機溶剤抽出物を有効成分として含有することを特徴とする筋肉損傷抑制組成物を提供するものである。
さらにまた、請求項9に係る本発明は、脂溶性有機溶剤が酢酸エチルであることを特徴とする請求項8に記載の筋肉損傷抑制組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の酢酸菌または食酢の脂溶性有機溶剤抽出物は、経口摂取することにより、強い筋肉損傷抑制作用を発揮させることができる。さらに、本発明の酢酸菌の脂溶性有機溶剤抽出物に含まれるアルカリ安定脂質、さらにアルカリ安定脂質を構成するN−アシルスフィンガニン、スフィンガニン、アミノ脂質、テルペノイド化合物も、経口摂取することにより、強い筋肉損傷抑制作用を発揮させることができる。
従って、本発明によれば、安全性が高く、しかもより筋肉損傷抑制効果の強い筋肉損傷抑制組成物を提供することができ、本発明に係る筋肉損傷抑制組成物を、食品などとして経口摂取することによって、スポーツや激しい運動における筋肉損傷及び日常生活中の身体的活動に伴う軽度の筋肉損傷を予防できる効果が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において用いられる酢酸菌としては、特に制限はなく、例えば、グルコンアセトバクター属(Gluconacetobacter)、グルコノバクター属(Gluconobacter)、アセトバクター属(Acetobacter)、アサイア属(Asaia)またはアシドモナス属(Acidomonas)などに属する酢酸菌が例示される。
【0016】
さらに詳細には、まずグルコンアセトバクター属(Gluconacetobacter)の酢酸菌としては、グルコンアセトバクター・ハンゼニイ(Gluconacetobacter hansenii)、グルコンアセトバクター・ジアゾトロフィカス(Gluconacetobacter diazotrophicus)、グルコンアセトバクター・インタメデイウス(Gluconacetobacter intermedius)、グルコンアセトバクター・サッカリ(Gluconacetobacter sacchari)、グルコンアセトバクター・ザイリナス(Gluconacetobacter xylinus)、グルコンアセトバクター・ヨーロッパエウス(Gluconacetobacter europaeus)、グルコンアセトバクター・オボエディエンス(Gluconacetobacter oboediens)などが例示される。
【0017】
次に、グルコノバクター属(Gluconobacter)の酢酸菌としては、グルコノバクター・フラトウリ(Gluconobacter frateurii)、グルコノバクター・セリナス(Gluconobacter cerinus)などが例示される。
【0018】
また、アセトバクター属(Acetobacter)の酢酸菌としては、アセトバクター・トロピカリス(Acetobacter tropicalis)、アセトバクター・インドネンシス(Acetobacter indonesiensis)、アセトバクター・シジギイ(Acetobacter syzygii)、アセトバクター・シビノンゲンシス(Acetobacter cibinongensis)、アセトバクター・オリエンタリス(Acetobacter orientalis)、アセトバクター・パスツリアヌス(Acetobacter pasteurianus)、アセトバクター・オルレアネンシス(Acetobacter orleanensis)、アセトバクター・ロバニエンシス(Acetobacter lovaniensis)、アセトバクター・アセチ(Acetobacter aceti)、アセトバクター・ポモラム(Acetobacter pomorum)などが例示される。
【0019】
さらに、アサイア属(Asaia)の酢酸菌としては、アサイア・ボゴレンシス(Asaia bogorensis)、アサイア・シアメンシス(Asaia siamensis)などが例示される。
【0020】
また、アシドモナス属(Acidomonas)の酢酸菌としては、アシドモナス・メタノリカ(Acidomonas methanolica)が例示される。
【0021】
さらに、酢酸菌としては、上記の他、食酢製造やヨーグルトなどの発酵食品に用いられている酢酸菌や、自然界より分離されたもの、また既存の微生物保存機関に保存されていて分譲可能な保存菌株などが適宜利用可能である。
【0022】
酢酸菌は酢酸発酵に用いられており、また、ナタデココ、カスピ海ヨーグルト、紅茶キノコなどで食経験があるので安全性が高いことが認知されており、特に、食酢発酵においては発酵後に濾過により分別されて廃棄されているので、安価に大量に入手することも可能である。
【0023】
また、本発明において用いられる食酢としては特に制限はなく、例えば米酢、穀物酢、黒酢、玄米酢、リンゴ酢やぶどう酢といった果実酢、アルコール酢等が挙げられるが、中でも穀物酢は、小麦、コーン、米などの穀物を原料として製造され汎用されており、比較的安価であることから好ましい。
【0024】
本発明においては、請求項1または8に記載したように、上記の酢酸菌または食酢から、脂溶性有機溶剤を用いて抽出した有効成分を含む抽出物を用いて筋損傷抑制組成物が構成され、さらに請求項3〜7に記載したように、脂溶性有機溶剤抽出物から抽出されたアルカリ安定脂質や、該アルカリ安定脂質中のN−アシルスフィンガニン、スフィンガニン、アミノ脂質、テルペノイド化合物などを用いて筋損傷抑制組成物が構成されるが、例えば、これらの成分を有効成分として含有するものであれば良く、破砕処理した酢酸菌などを使用しても良い。
【0025】
なお、酢酸菌の破砕処理は、常法に従えばよいが、例えば、超音波式破砕機や、フレンチプレスなどの高圧式破砕機を用いて実施される。
【0026】
本発明で使用される脂溶性有機溶剤としては、例えば、酢酸エチル、フェノール、n−ブチルアルコールなどの疎水性有機溶剤、またはこれらの疎水性有機溶剤とアセトン、エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどの親水性有機溶剤を組み合わせた混合溶剤、またはそれらを含有する水溶液と定義される。これらの中では、請求項2または9に記載したように、極性が中性である酢酸エチル、あるいはその混合溶剤が好ましい。
【0027】
なお、酢酸菌または食酢からの脂溶性有機溶剤抽出物の調製は、上記の脂溶性有機溶剤を用いて直接抽出すればよいが、特に、酢酸菌からの脂溶性有機溶剤抽出物の調製の際には、脂溶性有機溶剤での抽出作業に先立って、予め酢酸菌懸濁液をアセトンなどの親水性有機溶剤で処理することによって析出してくる物質を除去する工程を加えておく方が好ましい。
【0028】
酢酸菌由来のアルカリ安定脂質は、エタノール、アセトン、ヘキサン、クロロホルム、メタノール、酢酸エチル等の1種又は2種以上からなる有機溶媒を用いて酢酸菌から脂質類を抽出した脂質画分に対して、弱アルカリ分解処理を施してリン脂質を除去することにより調製することができる。食品用途での安全性、低極性溶媒が望ましいことを考慮すると、抽出溶媒としてはヘキサンやアセトンなどが適している。
【0029】
この様にして得られる酢酸菌のアルカリ安定脂質には、含有成分としてN−アシルスフィンガニン、スフィンガニン、アミノ脂質、テルぺノイド化合物、脂肪酸などが含まれる。これらの化合物は酢酸菌の菌体由来の膜脂質として一般的なものであり、アセトバクター属(Acetobacter)、グルコノバクター属(Gluconobacter)、グルコンアセトバクター属(Gluconacetobacter)などに属する酢酸菌に含有されているものであり、その化合物の詳細は以下の通りである。
【0030】
すなわち、N−アシルスフィンガニンとしてはN−2’−ヒドロキシパルミトイル−スフィンガニン、O−1−グルクロニル−N−2’−ヒドロキシパルミトイル−スフィンガニン、N−シス−バクセノイル−スフィンガニン、O−1−グルクロニル−N−シス−バクセノイル−スフィンガニンなどを含む。
【0031】
アミノ脂質としては、オルニチルタウリン脂質3−(パルミトイル)−ヒドロキシパルミトイル−オルニチル−タウリン、オルニチン脂質3−(パルミトイル)−ヒドロキシパルミトイル−オルニチン、リゾオルニチン脂質3−ヒドロキシパルミトイル−オルニチン等を含む。
【0032】
さらに、テルぺノイド化合物(ホパノイド化合物)としては、テトラヒドロキシバクテリオホパン(C35−ペンタサイクリックテルペンアルコール)、ホパン−22−オール、ホプ−22(29)−エンを含む。
そして、脂肪酸としては、例えば、シス−バクセン酸などが含まれる。
【0033】
N−アシルスフィンガニンは、アルカリ安定脂質に含まれるスフィンゴ脂質の一部を指し、スフィンゴイド塩基であるスフィンガニンに脂肪酸が結合した一般的にセラミドと総称される化合物であり、一般的に以下の化学式(1)で示される。なお、式(1)において、−CO−Rはアシル基を示す。式(1)において、アシル基を構成する脂肪酸は、ヒドロキシ脂肪酸またはノルマル脂肪酸、飽和炭化水素または不飽和炭化水素、直鎖状または分岐鎖状であり、炭素原子数は2から30以下のものが知られている。
【0034】
【化1】

【0035】
なお、酢酸菌由来のN−アシルスフィンガニンとしては、アシル基を構成する脂肪酸としてミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、2−ヒドロキシミリスチン酸、2−ヒドロキシパルミチン酸などが確認されており、特に、N−2’−ヒドロキシパルミトイル−スフィンガニン、N−パルミトイル−スフィンガニン、N−シス−バクセノイル−スフィンガニンがその組成比の多くを占める(例えば、「岩手大学大学院連合農学研究科博士論文」、後藤英嗣著、p.11〜41、2001年参照)。
【0036】
以上の化合物は酢酸菌の種類により、その含量比は異なるが、酢酸菌が属するグラム陰性菌においてのみ膜脂質の主要構成成分として存在するものであり、グラム陽性菌や真核生物など他の生物種の脂質成分としては存在しないか、または極微量の化合物類である。
【0037】
酢酸菌または食酢から、有機溶剤を用いて筋肉損傷抑制物質を抽出して筋肉損傷抑制組成物を製造するのは常法に従えばよく、例えば、酢酸菌を適当に超音波破砕後、有機溶剤溶液で筋肉損傷抑制物質を抽出後、濃縮する。
食酢も同様に、有機溶剤溶液で筋肉損傷抑制物質を抽出後、濃縮する。これらの濃縮物をそのまま筋肉損傷抑制組成物として用いることもできる。また、液体クロマトグラフィーや向流分配法などで筋肉損傷抑制物質を分離精製し、また、それを採取して、筋肉損傷抑制組成物として用いることができる。
【0038】
さらに、例えば、ビタミンE,コエンザイムQ10などの抗酸化物質、アミノ酸、大豆プロテイン、乳プロテイン等を併用して、本発明の筋肉損傷抑制組成物とすることもできる。
【0039】
また、本発明の筋肉損傷抑制組成物の形態は、水、またはアルコール、含水アルコールなどに溶解した溶液の形態、並びにこれを乾燥して得られる粉末の形態、またはそれを成形して得られる錠剤の形態などとして用いることができる。さらに、運動補助食品、飲食品、医薬品など、その形態は特に限定されるものではない。
飲食品の形態としては、具体的にはトマト,にんじん等を原料とした野菜ジュース、リンゴ,パイナップル,グレープフルーツ,オレンジ,桃等を原料とした果物ジュース、または野菜ジュースと果物ジュースの混合品、アルコール飲料、牛乳,ヨーグルト等の乳製品、スポーツ飲料、コーヒー、紅茶,緑茶,ウーロン茶などの茶製品、または黒酢、穀物酢、米酢、玄米酢、黒酢、アルコール酢、リンゴ酢やぶどう酢など果実を原料に含む果実酢、野菜を原料に含む野菜酢などの食酢製品、キャンデイ,ガム,ゼリー,アイスクリーム,クッキー等の菓子類、食パン,米飯,麺等の主食品等に混合することが挙げられる。
【0040】
上記形態に本発明の筋肉損傷抑制組成物をあわせることで、その他の天然物由来の健康機能成分が含有され、相加効果乃至相乗効果が期待できる。
【0041】
本発明の筋肉損傷抑制組成物としての酢酸菌脂溶性有機溶剤抽出物、酢酸菌アルカリ安定脂質、N−アシルスフィンガニン、スフィンガニン、アミノ脂質またはテルぺノイド化合物または食酢脂溶性有機溶剤抽出物の投与量は、成人1日当たり0.001mg〜100g、好ましくは0.1mg〜10gである。ここで成人1日当たり0.001mg未満の投与量では、筋肉損傷を十分に抑制することはできない。
【0042】
本発明の筋肉損傷抑制組成物は、酢酸菌脂溶性有機溶剤抽出物、酢酸菌アルカリ安定脂質、N−アシルスフィンガニン、スフィンガニン、アミノ脂質またはテルぺノイド化合物または食酢脂溶性有機溶剤抽出物を有効成分として含有するが、それ以外の各種原料とを混合・均一化した後に、必要に応じて界面活性剤を混合して、安定化を図ることもできる。
これらの界面活性剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルおよびレシチンなどを用いることができる。
【0043】
本発明の筋肉損傷抑制組成物の適用箇所は、筋肉であれば特に制限はなく、ヒラメ筋,ヒフク筋などの骨格筋、平滑筋、呼吸筋、心筋などが例示されるが、特に骨格筋のヒラメ筋,ヒフク筋や心筋が好ましい。
【0044】
本発明の筋肉損傷抑制組成物が効果を発揮し得る運動量には特に制限はなく、ヒトの最大摂取酸素量(VOmax)80%以下の運動量でよいが、特に、40〜60%の運動量が好ましい。
【0045】
本発明における筋肉損傷抑制効果については、下記試験法によって確認することができる。
すなわち、ラットをトレッドミルにより走行させて運動させる系を用いた。トレッドミルは、ヒトがランニングやウオ−キングを目的として使用するランニングマシーンのことで、本発明においては、ラット専用に小型化された機械のことを言う。このトレッドミルは、従来の強制水泳による運動方法と異なり、物理的に筋肉への負荷を行うことができるため、より厳密に運動による効果を検証できる。
【0046】
本発明では、運動時の筋肉の損傷の指標として、トレッドミルにより走行させて運動させる系では食細胞の1つである好中球の顆粒にあるMPOを用いた。この理由としては、運動負荷により筋肉の損傷が起こると、好中球が増加し、好中球中のMPOが細胞外へ放出され、生体内の過酸化水素と反応して、反応性の高い次亜塩素酸を生成することで、さらに周辺組織に傷害を起こすことが知られており、MPO活性を測定することによって運動負荷による損傷の程度を知ることができることによる。
【0047】
さらに、細胞レベルでの本発明における損傷抑制効果を、筋管細胞を用いる系で検証した。筋管細胞とは筋芽細胞を分化誘導させた細胞で筋肉繊維様の形態を成す。なお、この方法は、動物を用いた試験方法よりも直接的に筋肉の損傷に対する効果を検証できる。
【0048】
当該筋管細胞を用いる系では、筋肉の損傷の指標として一般的な炎症マーカーとして用いられているサイトカインIL−6、好中球の遊走に関与するケモカインCXCL−1を測定した。この理由としては、運動時における筋の損傷は機械的な筋肉の損傷だけでなく、その損傷に誘発された炎症反応が大きく関与していることが知られており、損傷した筋肉細胞がサイトカインやケモカインを分泌して、好中球やマクロファージの浸潤を促すと考えられているからである。このことから、筋肉の損傷の指標としてIL−6、CXCL−1を測定した。
【実施例】
【0049】
次に、本発明を実施例等により詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0050】
製造例1(酢酸菌脂溶性有機溶剤抽出物の大量調製)
酢酸菌株としてはグルコンアセトバクター・ザイリナスNBRC15237(Gluconacetobacter xylinus NBRC15237)株を用いた。この株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジー本部生物遺伝資源部門(千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に保存されており、譲受可能な酢酸菌である。
【0051】
まず、酢酸菌脂溶性有機溶剤抽出物は、以下の方法で調製した。酢酸菌乾燥菌体1.8kgを水35リットルに懸濁し、フレンチプレス圧力式細胞破砕機を用い、10,000psiの破砕圧力で破砕後、アセトンと混合した。その後、混合によってできた夾雑物を除去するため濾過を行った。再度アセトンを混合して夾雑物を除去し、これを2回繰り返した。得られた濾過液を減圧濃縮し、濃縮物を酢酸エチルおよび水を加えて混合した後、分液を行い、有機層を得た。再度水層に酢酸エチルを加えて、同様に分液し有機層を回収した。有機層を減圧濃縮し、エタノールに溶解し、再度減圧濃縮して、酢酸菌脂溶性有機溶剤抽出物108gを得た。
【0052】
製造例2(食酢脂溶性有機溶剤抽出物の大量調製)
穀物酢1000リットルに対して、酢酸エチル1200リットルを混合し、静置して分液後、有機層を回収して減圧濃縮を行った。15リットル程度の容量になった時点でエタノールを同量投入し、攪拌し、さらに減圧濃縮を行い、食酢脂溶性有機溶剤抽出物234gを得た。
【0053】
製造例3(酢酸菌アルカリ安定脂質の調製)
製造例1と同様に、酢酸菌株としてはグルコンアセトバクター・ザイリナスNBRC15237(Gluconacetobacter xylinus NBRC15237)株を用いた。
【0054】
まず、酢酸菌アルカリ安定脂質は以下の方法で調製した。すなわち、上記酢酸菌株の乾燥菌体2000gを、クロロホルム−メタノール系の溶媒(クロロホルム:メタノール:水=1:2:0.8)で抽出し、その後、2層分離を行い、下層を脂質粗画分として回収した。次に、0.4N NaOHにより脂質粗画分を弱アルカリ分解してリン脂質を除去し、フォルチの組成(クロロホルム:メタノール:水=8:4:3)に従って再抽出を行い、濃縮乾固し、アルカリ安定脂質を得た。
【0055】
得られた酢酸菌由来のアルカリ安定脂質に含まれる脂質成分を、シリカゲルプレートを用いた薄層クロマトグラフィーにて確認した。該薄層クロマトグラフィーにおける展開溶媒としては、脂肪酸、テルペノイド化合物、N−アシルスフィンガニンに関してはクロロホルム:メタノール=96:4を用い、また、スフィンガニンやアミノ脂質に関してはクロロホルム:メタノール:水=65:16:2を用いた。
【0056】
薄層クロマトグラフィーの指標として、テルペノイド化合物、N−アシルスフィンガニン、アミノ脂質などを含むことが確認されている酢酸菌からの精製品(例えば、「帯大研報」、23巻、p.917〜925、1978年および「岩手大学大学院連合農学研究科博士論文」、後藤英嗣著、p.11〜41、2001年参照)ならびに市販のスフィンガニン(SIGMA社製)を用いた。薄層クロマトグラフィーの結果、アルカリ安定脂質中には、指標とした化合物が全て存在していることが確認された。
【0057】
また、アルカリ安定脂質中の主な成分の含有量を高速液体クロマトグラフィーによって確認した。すなわち、アルカリ安定脂質を無水ピリジン及び塩化ベンゾイル存在下にて70℃で10分間反応させ、テルペノイド化合物やN−アシルスフィンガニンを含んだベンゾイル誘導体を精製した。このベンゾイル誘導体を高速液体クロマトグラフィーに供し、紫外吸光230nmの波長を検出した。上記、各化合物の市販標準品または構造が確認されている酢酸菌からの精製品を用いた標準曲線から、アルカリ安定脂質中に含まれる含量を算出した。高速液体クロマトグラフィーの移動相にはヘキサン:イソプロパノール=100:1の溶媒を用い、流速は1ml/分とした。
【0058】
このようにして分析された酢酸菌由来のアルカリ安定脂質中の主な成分を下記の表1に示した。
なお、アミノ脂質の存在は確認(組成比は未確認)できたが、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロールなどのリン脂質類の存在は確認されなかった。
【0059】
【表1】

【0060】
製造例4(テルぺノイド化合物、N−アシルスフィンガニン、アミノ脂質、スフィンガニンの精製)
上記アルカリ安定脂質10gを、クロロホルムで平衡化したシリカゲルカラムに供し、クロロホルム:酢酸=99:1の容量比で混合した溶媒で洗浄後、クロロホルム:メタノール=97:3の溶媒で溶出して得られた画分を乾固して、画分1を得た。
【0061】
続いて、クロロホルム:メタノール=96:4、95:5の溶媒で溶出して得られた画分を乾固して、画分2を得た。さらに、クロロホルム:メタノール=92:8、9:1の溶媒で脂質を溶出して得られた画分を乾固して画分3を得た。さらにクロロホルム:メタノール=2:1の溶媒で溶出して得られた画分を乾固して、画分4を得た。
【0062】
得られた画分1について、シリカゲルプレートを用いた薄層クロマトグラフィーにて構成脂質を確認した。該薄層クロマトグラフィーにおける展開溶媒としては、クロロホルム:メタノール=96:4を用いた。その結果、画分1の構成脂質は、実施例1で用いたN−アシルスフィンガニンが確認されている酢酸菌からの精製品と同一の移動度である単一のスポットであった。さらに画分1を常法に従い含水メタノール性塩酸で分解し、薄層クロマトグラフィーにてスフィンゴイド塩基と脂肪酸に分離、精製した。
【0063】
これらのスフィンゴイド塩基と脂肪酸それぞれについて、常法に従いトリメチルシリル化反応を行い、ガスクロマトグラフィー−マススペクトロメトリーにより構造分析したところ、N−アシルスフィンガニンとして、N−2’−ヒドロキシパルミトイル−スフィンガニン、N−パルミトイル−スフィンガニン、N−シス−バクセノイル−スフィンガニンを含んでいることが確認された。
以上の結果から、画分1の薄層クロマトグラフィーで検出される単一のスポットがN−アシルスフィンガニンであることが確認された。
【0064】
さらに、画分2、画分3の構成脂質を薄層クロマトグラフィーにより確認した。薄層クロマトグラフィーにおける展開溶媒として、画分2はクロロホルム:メタノール=96:4の溶媒を用い、画分3、画分4はクロロホルム:メタノール:水=65:16:2の溶媒を用いた。指標として、製造例3で用いたテルペノイド化合物、アミノ脂質の構造が確認されている酢酸菌からの精製品、ならびに市販のスフィンガニン(SIGMA社製)を用いた。
【0065】
薄層クロマトグラフィーの結果、画分2はテルペノイド化合物の指標とスポットが一致し、画分3はスフィンガニン、画分4はアミノ脂質の指標と主なスポットが一致した。
以上の結果から、画分2で検出される薄層クロマトグラフィーのスポットがテルペノイド化合物を含むこと、画分3で検出される薄層クロマトグラフィーのスポットがスフィンガニンを含むこと、画分4で検出される薄層クロマトグラフィーのスポットがアミノ脂質を含むことが、それぞれ確認された。
【0066】
実施例1(軽程度運動量下での筋肉損傷抑制効果)
Crl:CD(SD)ラットを用い、1週間、10分/日、トレッドミルによる運動負荷(ベルト勾配:6度、速度:10m/min)をかけ、運動負荷を行った後、経口摂取による試料の投与を一週間行った。
餌は、固形飼料CRF−1(オリエンタル酵母工業株式会社)を基本飼料とし、試料は基本飼料のみ(未投与区)、基本飼料に製造例1で作製した酢酸菌脂溶性有機溶剤抽出物を500mg/kgラット体重となるよう強制投与したもの(酢酸菌抽出物区)、製造例2で作製した食酢脂溶性有機溶剤抽出物を500mg/kgラット体重となるよう強制投与したもの(食酢抽出物区)の3群(n=8)とした。また、強制投与には、ディスポーザブルラット用経口ゾンデを取り付けたポリプロピレン製ディスポーザブル注射筒を用いた。
【0067】
なお、投与7日目に剖検を行い、心臓、ヒラメ筋、ヒフク筋のMPO活性を測定した。MPO活性の測定は、Myeloperoxidase Assay kit (Cytostore社製)を用いて行った。
すなわち、各組織片約0.5gに、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(Hexadecyltri‐methylammouniumbromide)溶液を250μl加え、乳鉢を用いて破砕し、10000rpmで遠心後、上清を回収した。回収した上清を組織タンパク質濃度20mg/mlとなるように調整し、MPO活性測定用組織破砕液とした。なお、組織タンパク質濃度の測定は、Bio Rad DC‐protein Assay(Bio‐Rad Laboratories社製)を用いた。
次に、反応液の調整を行うため、o−ジアニシジンジヒドロクロライド(o−dianisidine dihydrochloride)/リン酸緩衝液100mlに対して0.5mlの1%過酸化水素を加え、これを反応液とした。各組織のMPO活性測定用組織破砕液20μlに反応液200μlを加え、吸光度計を用いて、直後と1分後の450nmの吸光度を測定した。
なお、MPO活性1Uは、組織タンパク質1g当り過酸化水素1Mが反応する際に上昇する1分あたりの吸光度(450nm)と定義した。
以上の結果を図1に示した。なお、各器官の未投与区に対して、酢酸菌抽出物区、食酢抽出物区それぞれを、有意水準5%としてt検定を行い、有意差が認められた試験区を※印で表した。
【0068】
図1の結果から、未投与区に比べて、酢酸菌抽出物区および食酢抽出物区においては、心臓、ヒラメ筋、ヒフク筋でいずれもMPO活性が有意に減少し、酢酸菌脂溶性有機溶剤抽出物および食酢脂溶性有機溶剤抽出物どちらにも筋肉の損傷を抑制する作用があることが確認できた。
【0069】
実施例2(高程度運動量下での筋肉損傷抑制効果)
運動の種類による効果の違いを検証するため、1週間、10分/日、トレッドミルによる運動負荷(ベルト勾配:6度、速度:10m/min)を行った後、強制経口摂取による餌の投与を行いながら、6日間運動なし、7日目にトレッドミルによる運動負荷(ベルト勾配:10度、速度:20m/min)を行った。
餌は、固形飼料CRF−1(オリエンタル酵母工業株式会社)を基本飼料とし、試料は基本飼料のみ(未投与区)、基本飼料に製造例1で作製した酢酸菌脂溶性有機溶剤抽出物を500mg/kgラット体重となるよう強制投与したもの(酢酸菌抽出物区)、製造例2で作製した食酢脂溶性有機溶剤抽出物を500mg/kgラット体重となるよう強制投与したもの(食酢抽出物区)の3群(n=8)とした。投与7日目、運動終了2時間後に剖検を行い、心臓のMPO活性を測定した。測定方法は実施例1と同様とした。
以上の結果を図2に示した。なお、未投与区に対して、酢酸菌抽出物区、食酢抽出物区それぞれを有意水準5%としてt検定を行い、有意差が認められた試験区を※印で表した。
【0070】
図2の結果から、未投与区に比べて酢酸菌抽出物区および食酢抽出物区においては、いずれもMPO活性が有意に減少し、酢酸菌脂溶性有機溶剤抽出物および食酢脂溶性有機溶剤抽出物のどちらも筋肉の損傷を抑制することが確認できた。また、運動量を増加させても効果があることを確認できた。
【0071】
実施例3(筋管細胞を用いた筋損傷抑制効果)
本評価系にはマウス由来C2C12筋芽細胞を用いた。この細胞は理化学研究所に保存されており,譲受可能な細胞株である。また分化誘導することで単核の筋芽細胞から多核の筋管細胞へと分化し、筋繊維様の形態をとる。本細胞をコラーゲンIコーティングした35mmシャーレに播種し、DMEM(11965-092;GIBCO社製)+10%FBS(以下、増殖培地と称する場合もある)にて、37℃、5%COの条件下で90%コンフルエントになるまで培養した後にDMEM(11885-084;GIBCO社製)+5%HS培地(以下、分化培地と称する場合もある)にて37℃、5%COの条件下で72時間培養し,筋管細胞に分化させた。なお、培地は48時間後に一度交換した。
【0072】
製造例1で作製した酢酸菌脂溶性有機溶剤抽出物、製造例3で作製した酢酸菌アルカリ安定脂質、製造例4で作製したテルぺノイド化合物、N−アシルスフィンガニン、アミノ脂質およびスフィンガニンをそれぞれDMSOに溶解し、終濃度10μg/mlになるように分化培地に添加した。DMSOの細胞への影響も考慮し、培地添加後のDMSOは終濃度5μl/mlになるよう調整した。添加後、37℃、5%CO存在下で24時間培養した。
【0073】
各脂質を添加して24時間培養した筋管細胞をPBSで3回洗浄し、1mM H+分化培地にて37℃、5%CO存在下で2時間培養した後に培地を棄て、筋管細胞を回収した。尚、すぐに回収した細胞を用いない場合は液体窒素を用いて瞬間凍結し、−80℃のフリーザーで使用するまで保存した。
【0074】
回収した細胞のIL−6及びCXCL−1の遺伝子発現を解析する為に細胞からのtotal RNAの抽出、逆転写反応によるcDNAの合成、定量PCRによる遺伝子の発現解析を行った。すなわち、回収した細胞をフェノール、グアニジンイソチオシアネートを含むTrizol溶液(invitrogen社製)を用いて粗精製した後に、SV total RNA isolation system(promega社製)を用いて付属のプロトコールに従ってtotal RNAの抽出・精製を行い、逆転写反応に用いた。抽出したtotal RNAは吸光度(260nm、280nm)の測定結果に基づいてRNA濃度を決定した。
【0075】
逆転写反応における反応液はTaqman Reverse Transcription Reagentを用いて、付属のプロトコールに基づいて調製した。尚、1サンプル辺りtotal RNAの量は200ngとした。逆転写反応は25℃(10分)→48℃(30分)→95℃(5分)→4℃の条件でPCR反応を行い、cDNAを得た。
【0076】
得られたcDNAを用いて定量PCRを行った。定量PCRは、反応試薬としてqPCR super mix-UDG with ROXを用い、プライマーとしてIL−6用にはMm00446190(AB社製)を、CXCL−1用にはMm00433859(AB社製)を、さらに内部標準として用いたグリセロール3燐酸脱水素酵素(以下、GAPDHと称する場合もある)用としてはMm99999915(AB社製)を用い、プロトコールに従ってPCR反応液を調製した。定量PCRはABI prism 7000を用いて、50℃ 2分→95℃ 10分→<95℃ 15秒→60℃ 1分>(40サイクル)→4℃の反応条件下で行い、IL−6およびCXCL−1の各測定値を、GAPDHの測定値を100とした相対値で表した。
【0077】
結果を図3および図4に示す。なお、過酸化水素処理と比較して、酢酸菌脂溶性抽出物、酢酸菌アルカリ安定脂質、N−アシルスフィンガニン、スフィンガニン、アミノ脂質およびテルペノイド化合物処理区それぞれを有意水準5%としてt検定を行い、有意差が認められた試験区を※印で表した。
【0078】
図3の結果より、酢酸菌脂溶性抽出物、酢酸菌アルカリ安定脂質にIL−6の遺伝子発現抑制効果が認められた。
図4の結果より、N−アシルスフィンガニン、スフィンガニン、アミノ脂質、テルペノイド化合物にIL−6、CXCL−1の各遺伝子発現抑制効果が認められた。
以上の結果より、本発明の酢酸菌脂溶性抽出物、酢酸菌アルカリ安定脂質、スフィンゴ脂質、スフィンガニン、アミノ脂質およびテルペノイド化合物に筋肉損傷抑制効果があることが確認された。
【0079】
実施例4(錠剤の製造)
(1)酢酸菌脂溶性有機溶剤抽出物
酢酸発酵液10キロリットルを高速遠心機器(8000rpm、20分)で集菌し、湿菌体10kgを得た。得られた湿菌体10kgを蒸留水にて洗浄後に大型凍結乾燥機で凍結減圧乾固し、乾燥菌体1.8kgを得た。
【0080】
得られた乾燥菌体1kgをアセトン10リットルと共にソックスレー抽出器に仕込み、20時間加熱還流した。得られた抽出液を減圧乾固し、10リットルの酢酸エチルと10リットルの蒸留水を添加し、分液して有機層をロータリーエバポレーターで蒸発し、1リットル程度の容量になった時点でエタノールを同量投入し、攪拌し、ロータリーエバポレーターで蒸発乾固した後、淡黄褐色の酢酸菌脂溶性有機溶剤抽出物を約50g得た。得られた酢酸菌脂溶性有機溶剤抽出物1g(0.7重量%)、結晶セルロース35g(26.9重量%)、乾燥コーンスターチ67g(51.5重量%)、乳糖22g(16.9重量%)、ステアリン酸カルシウム2g(1.5重量%)、および結合剤としてポリビニルピロリドン3g(2.3重量%)を加え、混合粉末化した後に、ゼラチン硬カプセルに充填した。
【0081】
(2)食酢脂溶性有機溶剤抽出物
食酢5リットルを酢酸エチル6リットルと混合し、有機層をロータリーエバポレーターで蒸発し、1リットル程度になったところでエタノールを同量加えて、さらにロータリーエバポレーターで蒸発乾固した後、茶褐色の食酢脂溶性有機溶剤抽出物約1gを得た。
得られた食酢脂溶性有機溶剤抽出物1g(0.7重量%)、結晶セルロース35g(26.9重量%)、乾燥コーンスターチ67g(51.5重量%)、乳糖22g(16.9重量%)、ステアリン酸カルシウム2g(1.5重量%)、および結合剤としてポリビニルピロリドン3g(2.3重量%)を加え、混合粉末化した後に、ゼラチン硬カプセルに充填した。
【0082】
上記(1)及び(2)で調製された錠剤は、筋肉損傷抑制組成物として、有効に経口摂取可能であることが期待できる。
【0083】
実施例5(ゼリーの製造)
(1)酢酸菌破砕粉末
酢酸発酵液キロリットルを高速遠心機器(8000rpm、20分)で集菌し、湿菌体10kgを得た。得られた湿菌体10kgを等量の蒸留水に分散させた。分散させた20kgの酢酸菌分散液を高圧ホモジナイザー(20000psi)に3回通過させ細胞破壊処理を施した後に、大型凍結乾燥機で凍結減圧乾固し、乾燥菌体粉末1.5kgを得た。
【0084】
得られた乾燥菌体粉末8g(0.8重量%)、砂糖250g(25重量%)、カラギーナン1.6g(0.16重量%)、ローカストビーンガム0.8g(0.08重量%)、キサンタンガム0.8g(0.08重量%)を混合均一化し、粉体混合物を得た。鍋に300gの水を計量し、黒糖30g(3.0重量%)を溶解し、さらに還元水あめ150g(15重量%)を混合し、先に得た粉体混合物をダマができないように攪拌しながら、更に混合した。それらを均一に攪拌し、残りの水258.8gを加え、加温した。溶液温度が85℃となるように10分間加熱溶解後、流水で冷却し、酢酸菌体含有ゼリー食品を得た。
【0085】
(2)食酢脂溶性有機溶剤抽出物
食酢50リットルを酢酸エチル60リットルと混合し、有機層をロータリーエバポレーターで蒸発させ、10リットル程度になったところでエタノールを同量加えて、さらにロータリーエバポレーターターで蒸発乾固した後、茶褐色の食酢脂溶性有機溶剤抽出物約10gを得た。
【0086】
得られた食酢脂溶性有機溶剤抽出物8g(0.8重量%)、砂糖250g(25重量%)、カラギーナン1.6g(0.16重量%)、ローカストビーンガム0.8g(0.08重量%)、キサンタンガム0.8g(0.08重量%)を混合均一化し、粉体混合物を得た。鍋に300gの水を計量し、黒糖30g(3.0重量%)を溶解し、さらに還元水あめ150g(15重量%)を混合し、先に得た粉体混合物をダマができないように攪拌しながら、更に混合した。それらを均一に攪拌し、残りの水258.8gを加え、加温した。溶液温度が85℃となるように10分間加熱溶解後、流水で冷却し、食酢脂溶性有機溶剤抽出物含有ゼリー食品を得た。
【0087】
上記(1)及び(2)で調製されたゼリー食品は、筋肉損傷抑制組成物として、有効に経口摂取可能であることが期待できる。
【0088】
実施例6(飲料の製造)
(1)酢酸菌体含有食酢
酢酸発酵液10キロリットルを高速遠心機器(8000rpm、20分)で集菌し、湿菌体10kgを得た。得られた湿菌体10kgを食酢100リットルに分散させた。分散させた酢酸菌分散液を高圧ホモジナイザー(20000psi)に3回通過させ、細胞破壊処理を施した。その溶液を500ml容の瓶に分注し、75℃まで加温により殺菌し、酢酸菌体含有食酢を得た。
【0089】
(2)食酢脂溶性有機溶剤抽出物高濃度含有食酢
食酢500リットルを酢酸エチル600リットルと混合し、有機層をロータリーエバポレーターで蒸発させ、50リットル程度になったところでエタノールを同量加えて、さらにロータリーエバポレーターターで蒸発乾固した後、茶褐色の食酢脂溶性有機溶剤抽出物(食酢脂溶性画分)約100gを得た。得られた食酢脂溶性画分100gを食酢1リットルに分散させた。その溶液を500ml容の瓶に分注し、75℃まで加温により殺菌し、食酢脂溶性有機溶剤抽出物高濃度含有食酢を得た。
【0090】
上記(1)及び(2)で調製された飲料は、筋肉損傷抑制組成物として、有効に経口摂取可能であることが期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、人体への安全性が高く、且つ筋肉損傷抑制効果の経口物を安価に提供することを可能にする。従って、本発明に係る筋肉損傷抑制組成物を、食品などとして経口摂取することによって、スポーツや激しい運動における筋肉損傷及び日常生活中の身体的活動に伴う軽度の筋肉損傷を予防できる効果が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の、軽程度運動量下での心臓、ヒラメ筋、ヒフク筋のMPO活性を示す図である。
【図2】本発明の、高程度運動量下での心臓のMPO活性を示す図である。
【図3】本発明の酢酸菌脂溶性抽出物、酢酸菌アルカリ安定脂質の筋損傷抑制効果を示す図である。
【図4】本発明のN−アシルスフィンガニン、スフィンガニン、アミノ脂質およびテルペノイド化合物の筋損傷抑制効果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸菌の脂溶性有機溶剤抽出物を有効成分として含有することを特徴とする筋肉損傷抑制組成物。
【請求項2】
脂溶性有機溶剤が酢酸エチルであることを特徴とする請求項1に記載の筋肉損傷抑制組成物。
【請求項3】
脂溶性有機溶剤抽出物がアルカリ安定脂質であることを特徴とする請求項1に記載の筋肉損傷抑制組成物。
【請求項4】
アルカリ安定脂質がN−アシルスフィンガニンであることを特徴とする請求項3に記載の筋肉損傷抑制組成物。
【請求項5】
アルカリ安定脂質がスフィンガニンであることを特徴とする請求項3に記載の筋肉損傷抑制組成物。
【請求項6】
アルカリ安定脂質がアミノ脂質であることを特徴とする請求項3に記載の筋肉損傷抑制組成物。
【請求項7】
アルカリ安定脂質がテルペノイド化合物であることを特徴とする請求項3に記載の筋肉損傷抑制組成物。
【請求項8】
食酢の脂溶性有機溶剤抽出物を有効成分として含有することを特徴とする筋肉損傷抑制組成物。
【請求項9】
脂溶性有機溶剤が酢酸エチルであることを特徴とする請求項8に記載の筋肉損傷抑制組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−84531(P2007−84531A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−223895(P2006−223895)
【出願日】平成18年8月21日(2006.8.21)
【出願人】(398065531)株式会社ミツカングループ本社 (157)
【Fターム(参考)】