説明

筋肉負荷監視装置

【課題】筋負荷が適切であるか否かを、ユーザが容易かつ瞬時に知ることができ、また、意図しない筋肉損傷の発生を防止することができる、筋肉負荷監視装置を提供する。
【解決手段】特徴値保持部101は、被験者の身体的特徴を示す特徴値を保持する。係数算出部103は、標準式保持部102が保持する標準式と、特徴値保持部101が保持する特徴値とに基づいて、被験者の監視対象筋肉の筋力係数を算出する。閾値算出部105は、係数算出部103が算出した筋力係数と上限保持部104が保持する筋負荷上限値とに基づいて、当該筋負荷上限値に対応する上限筋活動電位を算出する。比較部107は、閾値算出部105が算出した上限筋活動電位と、計測部106が取得した筋活動電位とを比較する。報知部108は、比較部107の比較結果を被験者に報知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動時等に筋肉に加わる負荷を監視する、筋肉負荷監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、筋肉に負荷(力)を加えた状態で当該筋肉を伸縮(等張性運動)あるいは静止(等尺性運動)させることで、筋力を強化する筋力トレーニングが実施されている。例えば、スポーツ選手は、競技に応じた特定部位の筋力を重点的に強化するトレーニングを実施している。このようなトレーニングでは、負荷が弱いと筋力を強化することができず、また、負荷が強すぎると筋肉を傷めることになる。そのため、この種のトレーニングでは、スポーツジム等において、トレーナー等の専門知識を有する者の指導の下、トレーニング方法、各人に合わせた負荷や運動量(トレーニング時間)等を決定していることが多い。
【0003】
一方、近年、健康志向の高まりから、健康維持のためのトレーニングも盛んに行われている。このようなトレーニングをする者は、上述のスポーツ選手のように殊更筋力を強化する意図はなく、筋力低下を抑制する目的や全体重に占める脂肪の割合(体脂肪率)を低下させる目的で実施していることが多い。例えば、年配者等は、膝等の故障を防止する目的で、脚部の筋力を維持するためのトレーニングを行うことが好ましいとされている。また、若い女性等では、体型維持のために不要な脂肪を減少させることは希望するが、トレーニングにより筋力が強化されることを好まない。このようなトレーニングにおいても、効率よくトレーニング効果を得るためには、専門知識を有する者の指導の下、各人に合わせた負荷や運動量を決定することが望ましい。
【0004】
このような様々な目的を有するユーザに対し、専門知識を有する者に頼ることなく、実施中のトレーニングが各人の目的に応じた適切なトレーニングであるか否かを判断する装置も種々提案されている(例えば、特許文献1−3等参照。)。
【0005】
例えば、特許文献1は、目標とする体型と現在の体型との差、推定トレーニング能力、トレーニング回数(トレーニング期間)に基づいて負荷およびトレーニング時間を決定するトレーニングプログラム表示装置を開示している。
【0006】
また、特許文献2は、筋肉組織中の血中酸素量を光学的に検知するとともに、当該血中酸素量の変化に基づいて、トレーニング負荷が適切であるか否かを判断する運動モニタ装置を開示している。
【0007】
さらに、特許文献3は、筋電計による測定値と角速度センサーの測定値とに基づいて、筋肉活動の質を定量的、視覚的に表示する装置を開示している。
【0008】
また、本発明に関連する非特許文献として、下記の非特許文献1が存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−313911号公報
【特許文献2】特開平6−142087号公報
【特許文献3】特開2007−202612号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】永冨裕美、櫛田大輔、北村章、「筋活動電位に基づく筋負荷の推定」、第55回システム制御情報学会研究発表講演会講演論文集、2011年、p.301−302
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1が開示する技術では、人体インピーダンスに基づいて算出した除脂肪組織の量(体重から体脂肪を除いたもの)および心拍数に基づいてトレーニング能力を推計している。このような手法では、特定部位の筋肉の状態を反映することができない。すなわち、体重および人体インピーダンスに基づいて算出される体脂肪率が同等のユーザは、特定部位(例えば、上腕や大腿部)の筋力(トレーニング能力)が同程度であると判断されてしまう。そのため、特定部位の筋肉を強化するトレーニングを実施する場合には、適切な負荷(以下、適宜、筋負荷という。)を設定することができない。したがって、特許文献1が開示する技術では、特定部位の筋負荷がそのユーザの目的に適した負荷になるとは限らない。
【0012】
また、特許文献2が開示する技術では、筋肉組織中の血中酸素量、すなわち筋肉における酸素消費と酸素供給との差の時間変化に基づいて筋負荷の適否を判断している。この手法では、特定部位の筋肉における血中酸素量を監視することで、その筋肉が無酸素状態であるのか有酸素状態であるのかを判定することができ、筋負荷の程度を判断することができる。しかしながら、当該手法では、運動開始時に低下した血中酸素量のその後の増減に基づいて筋負荷の程度を判断するため、当該判定に要する期間は運動を継続しなければならない。そのため、当初から筋負荷の設定が適切でない場合でも、その運動を継続しなければならず、筋負荷の適否を瞬時に判定することは困難である。
【0013】
また、特許文献3が開示する技術では、筋電計による測定値を使用することで特定部位の筋肉に加わる負荷を直接的に観察している。筋電計が測定する筋活動電位は、測定対象の筋肉に加わる負荷が大きくなると筋活動電位も大きくなるという関係を有しているため、筋活動電位を使用することで、筋負荷の程度を判断することができる。また、筋活動電位は筋負荷が加わった際に瞬時に検出されるため、筋負荷の適否の判断を瞬時に実施することもできる。
【0014】
しかしながら、筋負荷と筋活動電位との対応関係を示す比例係数(以下、筋力係数という。)は、ユーザ各人において異なる。そのため、筋活動電位を利用して筋負荷の大きさを計測するには、ユーザの特定部位の筋肉について、予め筋力係数を取得しておく必要がある。
【0015】
筋力係数は、測定対象の筋肉に異なる筋負荷を順次加え、各筋負荷に対応する筋活動電位を測定することで求めることができる。この測定の際には、筋負荷のみを変更し、他の条件を同一の状態に維持する必要がある。大腿直筋の筋力係数を得る場合、例えば、着座姿勢で膝の角度を固定し、大腿直筋に加わる筋負荷のみを変更する。そのため、筋力係数をユーザ自身で取得することは容易ではない。加えて、筋力トレーニング等の作用により筋肉量がある程度変化した場合には筋力係数も変動するため、ユーザは、適宜、筋力係数を取得し直すことも必要である。
【0016】
以上のように、特許文献1−3が開示する技術は、運動時等に筋肉に加わる負荷の適否を、専門知識を有する者に頼ることなくユーザが容易に、かつ瞬時に判定するという観点では十分に満足できる技術であるとはいえない。
【0017】
本発明はこのような従来技術の課題を鑑みてなされたものであって、筋負荷が適切であるか否かを、ユーザが容易かつ瞬時に知ることができ、また、意図しない筋肉損傷の発生を防止することができる、筋肉負荷監視装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上述の目的を達成するために、本発明は以下の技術的手段を採用している。すなわち、本発明に係る筋肉負荷監視装置は、特徴値保持部、標準式保持部、係数算出部、上限保持部、閾値算出部、計測部、比較部および報知部を備える。特徴値保持部は、被験者の身体的特徴を示す特徴値を保持する。ここで身体的特徴とは、被験者の身体状態を示す指標であって、例えば、身長、体重、BMI(Body Mass Index)、体脂肪率、監視対象部位の皮下脂肪厚、監視対象部位の寸法(太さ等)を含む。また、特徴値は、身体的特徴の各項目の値を意味する。標準式保持部は、監視対象である特定部の筋肉における筋負荷および筋活動電位を対応づける筋力係数と、身体的特徴との関係を示す標準式を保持する。当該標準式は、複数人のそれぞれについて特徴値および特定部の筋肉の筋力係数を取得し、当該特徴値と筋力係数とに基づいて予め導出することができる。この標準式の導出には、例えば、遺伝的プログラミング(Genetic Programming)を使用することができる。なお、遺伝的プログラミングは、近似解を探索するアルゴリズムである遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm)を拡張したアルゴリズムである。係数算出部は、標準式保持部が保持する標準式と、特徴値保持部が保持する特徴値とに基づいて、被験者の監視対象筋肉の筋力係数を算出する。上限保持部は、監視対象の筋肉についての筋負荷の上限値を保持する。閾値算出部は、係数算出部が算出した筋力係数と上限保持部が保持する筋負荷の上限値とに基づいて、当該筋負荷上限値に対応する上限筋活動電位を算出する。計測部は、被験者の監視対象の筋肉の筋活動電位を取得する。比較部は、閾値算出部が算出した上限筋活動電位と、計測部が取得した筋活動電位とを比較する。報知部は、比較部の比較結果を、表示や音声等の被験者が認識可能な任意の手法により被験者に報知する。
【0019】
この筋肉負荷監視装置は、被験者の身体的特徴を示す特徴値を標準式に代入することにより筋力係数を算出する。このようにして算出された筋力係数は、標準式導出の際の基準データ(教師データ)を提供した複数人の身体的特徴および筋力係数に基づいて予想された筋力係数の値である。すなわち、被験者について予め筋力係数を測定する必要がなく、また、トレーニング等により被験者の体格が変化した場合でも、変化後の体格に対応する筋力係数を求めることもできる。
【0020】
そして、当該筋力係数と上限保持部が保持する筋負荷上限値とに基づいて算出される上限筋活動電位と、被験者の監視対象筋肉において実測した筋活動電位とを比較することで監視対象筋肉に加わっている筋負荷が筋負荷上限値を超えているか否かを判定することができる。すなわち、筋負荷上限値として、被験者の目的に応じた値を設定することで、過負荷であるか否かを判定することができる。
【0021】
また、上記筋肉負荷監視装置において、標準式保持部は、監視対象の筋肉についての標準式を、身体的特徴に基づいて設定された複数の区分ごとに保持する構成を採用することができる。この場合、係数算出部は、特徴値保持部が保持する特徴値が属する区分の標準式を標準式保持部から選択し、当該選択した標準式に基づいて筋力係数を算出する。この構成では、似たような体格を有する複数人を教師データとして、複数の標準式が導出される。すなわち、極端に体格が異なる者の筋力係数を別個の標準式で表現するため、すべての体格を1の標準式で表現する場合に比べて、標準式の単純化および筋力係数の推定精度の向上を実現することができる。
【0022】
また、標準式保持部が、監視対象の筋肉についての標準式を、身体的特徴に基づいて設定された複数の区分ごとに保持する構成において、係数算出部は、特徴値保持部が保持する特徴値に基づいて標準式保持部に保持された各標準式の寄与度を算出し、当該寄与度と各標準式とに基づいて筋力係数を算出する。この構成では、特徴値保持部が保持する特徴値が属する区分における代表点(同一区分に属する教師データの身体的特徴の項目ごとの平均値)から比較的離れている場合、複数の標準式に基づいて筋力係数が算出される。すなわち、筋力係数の推定精度をより向上させることができる。
【0023】
また、上記筋肉負荷監視装置は、被験者の監視対象筋肉の柔軟性または温度を取得する第2の計測部をさらに備える構成を採用することもできる。この場合、報知部は、第2の計測部の計測結果を報知する。この構成では、監視対象筋肉のウォーミングアップの状態を監視することができ、トレーニングを開始するタイミングを被験者に通知することができる。
【0024】
さらに、上記筋肉負荷監視装置において、上限保持部は、被験者の目的に応じて設定された、監視対象の筋肉についての第1の筋負荷上限値と、特徴値保持部に保持された特徴値に応じて算出された、監視対象の筋肉についての第2の筋負荷上限値とを保持する構成を採用することもできる。この場合、比較部は、閾値算出部により算出された、第1の筋負荷上限値に対応する上限筋活動電位および第2の筋負荷上限値に対応する上限筋活動電位のそれぞれと、計測部が取得した筋活動電位とを比較する。この構成では、第2の筋負荷上限値を、例えば、絶対的な上限筋負荷とすることで、筋肉損傷の発生を被験者に報知することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、筋負荷が適切であるか否かを、ユーザが容易かつ瞬時に知ることができ、また、意図しない筋肉損傷の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態における筋肉負荷監視装置の一例を示す機能ブロック図
【図2】筋活動電位の一例を示す図
【図3】筋活動電位と筋負荷との関係の一例を示す図
【図4】本発明の一実施形態における測定部の一例を示す図
【図5】本発明の一実施形態における標準式の導出手順の一例を示すフロー図
【図6】本発明の一実施形態における筋肉負荷監視手順の一例を示すフロー図
【図7】本発明の一実施形態における筋肉負荷監視手順の他の例を示すフロー図
【図8】本発明の一実施形態における筋肉負荷監視装置の一例を示す図
【図9】本発明の一実施形態における筋肉負荷監視装置の変形例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながらより詳細に説明する。
【0028】
図1は本実施形態における筋肉負荷監視装置の一例を示す機能ブロック図である。図1に示すように、筋肉負荷監視装置100は、特徴値保持部101、標準式保持部102、係数算出部103、上限保持部104、閾値算出部105、計測部106、比較部107および報知部108を備える。
【0029】
特徴値保持部101は、被験者であるユーザの身体的特徴を示す特徴値を保持する。ここで身体的特徴とは、ユーザの身体状態(体型)を示す指標であって、例えば、身長、体重、BMI(Body Mass Index)、体脂肪率、監視対象部位の皮下脂肪厚、監視対象部位の寸法(太さ等)を含む。また、特徴値は、身体的特徴の各項目の値を意味する。
【0030】
標準式保持部102は、監視対象である特定部の筋肉における筋負荷および筋活動電位を対応づける筋力係数と、身体的特徴との関係を示す標準式を保持する。筋活動電位は筋肉の活動にともなって筋繊維内で発生する電位であり、監視対象部位である特定部の筋肉(例えば、上腕二頭筋や大腿直筋)を覆う皮膚表面に配置した測定電極により取得することができる。このとき基準電位となる基準電極が、筋肉が存在しない(比較的少ない)被験者の皮膚(例えば、肘や膝)に配置される。なお、筋活動電位は、監視対象筋肉に筋負荷が加わっている場合、図2に示すように基準電位に対して正側および負側に振動する電位として取得される。特に限定されないが、本実施形態では、所定のサンプリング周期で測定電極により取得した電位の実効値(二乗平均平方根)により当該振幅を表現している。以下では、特に言及のない限り、筋活動電位は実効値を意味する。
【0031】
図3は、筋活動電位と筋負荷との関係を示す図である。筋活動電位は筋負荷の増大に比例して増大する。筋負荷が著しく大きくなり、当該筋負荷がその筋肉について過大になると次第に飽和し、筋負荷が増大しても筋活動電位は増大しなくなる。本実施形態では、当該筋負荷と筋活動電位とが比例関係にある領域における比例定数を筋力係数kとする。すなわち、当該領域において筋負荷Lと筋活動電位Eとは、L=k(E−E0)の関係式を満たす。ここで、筋活動電位E0は、筋負荷を与えていない状態での筋活動電位の実効値である。なお、本実施形態では、精度向上の観点から筋活動電位E0を導入しているが、単に、L=kEの関係式を使用してもよい。
【0032】
また、上記標準式は、例えば、複数人のそれぞれについて身体的特徴を示す特徴値および監視対象である特定部の筋肉の筋力係数を取得し、当該特徴値と筋力係数とに基づいて予め導出することができる。したがって、1の筋肉負荷監視装置により、上腕二頭筋、大腿直筋、僧帽筋、腹直筋等の異なる部位の筋肉の中から監視対象の筋肉を選択可能とする場合には、監視対象とすべき筋肉についてそれぞれ標準式を予め導出し、標準式保持部102に格納する必要がある。この場合、上腕二頭筋や大腿直筋等、左右に対で存在する筋肉については、利き側(利き腕、利き足)であるか否かの別により、それぞれ標準式を導出することが好ましい。この標準式の導出には、例えば、遺伝的プログラミングを使用することができる。なお、遺伝的プログラミングは、近似解を探索するアルゴリズムである遺伝的アルゴリズムを拡張したアルゴリズムである。なお、当該標準式は性別に応じて導出してもよい。
【0033】
後述するように、本実施形態では、筋力係数の予想精度を高める観点で、監視対象の各筋肉についての標準式を、身体的特徴に基づいて設定された複数の区分ごとに保持する構成を採用している。このような構成を採用することで、極端に体格が異なる者の筋力係数は別個の標準式で表現されるため、すべての体格を1の標準式で表現する場合に比べて、標準式の単純化および筋力係数の推定精度の向上を実現することができる。
【0034】
係数算出部103は、標準式保持部102が保持する標準式と、特徴値保持部101が保持する特徴値とに基づいて、ユーザの監視対象筋肉の筋力係数を算出する。当該算出は、被験者の特徴値を標準式に代入することで実施可能である。すなわち、本実施形態では、被験者の監視対象筋肉について筋力係数を実測することなく、被験者の筋力係数が算出される。なお、このようにして算出される筋力係数は、標準式導出の際の基準データ(以下、教師データという。)を提供した複数人の身体的特徴および筋力係数に基づいて予想される筋力係数の値になる。
【0035】
上限保持部104は、監視対象筋肉についての筋負荷の上限値を保持する。当該上限値は任意に設定可能であるが、本実施形態では、筋負荷と筋活動電位との関係に基づいて当該上限値を設定している。すなわち、上述のように、筋負荷がある程度大きくなると筋負荷と筋活動電位との間の比例関係はなくなり、筋負荷の増大率に対する筋活動電位の増大率の比が次第に小さくなる。そこで、本実施形態では、このように比例関係が失われる筋負荷を基準上限筋負荷とし、当該基準上限筋負荷に被験者の目的に応じて所定の係数(例えば、痩身は係数0.5、筋肉増大は1.0、絶対的な上限筋負荷は係数1.5等)を乗算することで、上記筋負荷上限値を算出する。なお、筋力係数は、その数値自体が筋力の強さを示しているため、上限保持部104が筋力係数の値に応じて筋負荷上限値を算出する構成を採用してもよい。
【0036】
閾値算出部105は、係数算出部103が算出した筋力係数と上限保持部104が保持する筋負荷の上限値とに基づいて、当該筋負荷上限値に対応する上限筋活動電位を算出する。当該算出は、係数算出部103が算出した筋力係数および上限保持部104が保持する筋負荷の上限値を上述の関係式L=k(E−E0)に代入することで実施可能である。
【0037】
計測部106は、ユーザの監視対象筋肉の筋活動電位を取得する。図4は、本実施形態における計測部106の構成を示す図である。図4に示すように、計測部106は測定電極106a、基準電極106bおよび測定部106cを備える。測定電極106aは、プラス極とマイナス極とを有し、上述したように、監視対象の筋肉を覆う皮膚表面に配置される。また、基準電極106bは筋肉が存在しない被験者の皮膚に配置される。なお、測定電極106aおよび基準電極106bを装着する際には、筋活動電位を良好に取得するため、皮膚と電極との間の接触抵抗を減少させるための前処理剤を電極装着部位に塗布することが好ましい。測定部106cは、増幅部161とA/D(アナログ/デジタル)変換部162を備える。増幅部161は、基準電極106bの電位を基準として測定電極161が測定した電位(電位信号)を電気的に増幅する。A/D変換部162は、増幅部161により増幅された電位をデジタル信号に変換し、比較部107に入力する。
【0038】
比較部107は、閾値算出部105が算出した上限筋活動電位と、計測部106が取得した筋活動電位とを比較する。当該比較結果は、報知部108により被験者に報知される。報知部108には、表示や音声等、被験者が認識可能な任意の手法を採用することができる。
【0039】
次いで、本実施形態における上記標準式の導出について説明する。図5は、本実施形態における標準式導出の一例を示すフロー図である。上述のように、本実施形態では、教師データを提供した複数人を身体的特徴に基づいて複数の区分に分類し、区分ごとに標準式を導出している。ここでは利き腕の上腕二頭筋の標準式を導出する事例に基づいて説明する。
【0040】
まず、教師データを提供する複数人からそれぞれ身体的特徴を示す特徴値を取得する。ここでは、身長[m]、体重[kg]、BMI[kg/m]、体脂肪率[%]、上腕部(測定対象部位)の皮下脂肪厚[mm]、上腕部(測定対象部位)の太さ[m]の6項目を特徴値として各人から取得する。また、教師データを提供する各人について上腕二頭筋に加える筋負荷と当該負荷に対して出力される筋活動電位を取得し、上述の筋力係数を算出する(ステップS501)。
【0041】
次いで、各人の特徴値を正規化する(ステップS502)。ここでは、各項目について平均値および標準偏差を算出し、(測定値−平均値)/標準偏差の演算を施すことにより各測定値を正規化している。
【0042】
正規化が完了すると、当該正規化した特徴値、すなわち、身体的特徴に基づいて、教師データを複数のクラスに区分する(ステップS503)。特に限定されないが、本実施形態では、非階層型クラスタリング手法の1つであるX−means法により当該区分処理を実施している。なお、本実施形態では、クラス区分が完了すると各区分に属する教師データ数が予め指定した閾値以上であるか否かを確認する構成になっている(ステップS504)。ここでは、閾値を「2」にしている。これにより、区分に属する教師データ数が0または1になることを防止することができる。そして、各区分に属する教師データ数が予め指定した閾値未満である場合には、再度、区分処理がはじめから実施される(ステップS504No、S503)。また、各区分に属する教師データ数が予め指定した閾値以上である場合には、区分ごとに、その区分に属する教師データに基づいて筋力係数kと身体的特徴との関係を示す標準式が導出される(ステップS504Yes、S505)。なお、上述のように、標準式は遺伝的プログラミングにより算出することができる。
【0043】
20歳代から50歳代までの25人の教師データ提供者について当該手法にしたがって標準式を導出したところ、7つの区分が生成され(各区分1〜7に属する教師データの数:2人、5人、6人、3人、2人、4人、3人)、各区分について以下に例示する標準式が得られた。なお、以下の式において、pは身長、pは体重、pはBMI、pは体脂肪率、pは皮下脂肪厚、pは太さである。
【0044】
【数1】

【0045】
なお、本実施形態では、筋肉負荷監視装置100のサイズを小さくして被験者が携帯可能にするために、以上の手順により別途導出した標準式を、標準式保持部102に格納する構成になっている。しかしながら、このような標準式の導出が、標準式保持部102において実施される構成を採用することも可能である。
【0046】
続いて、本実施形態における筋肉負荷監視手順を説明する。図6は、本実施形態における筋肉負荷監視手順の一例を示すフロー図である。上述の上腕二頭筋の標準式を使用した事例に基づいて説明する。
【0047】
まず、被験者の身体的特徴が特徴部保持部101に入力され保持される(ステップS601)。ここでは、上述のとおり、被験者の、身長[m]、体重[kg]、BMI(Body Mass Index)[kg/m]、体脂肪率[%]、上腕部(測定対象部位)の皮下脂肪厚[mm]、上腕部(測定対象部位)の太さ[m]の6項目が特徴値として取得される。なお、本実施形態では、筋肉負荷監視装置100のサイズを小さくして被験者が携帯可能にするために、別途測定した特徴値を、図示しない入力手段を通じて被験者が特徴部保持部101に格納する構成になっている。しかしながら、筋肉負荷監視装置100にこれら特徴値を取得する手段を設け、当該手段により取得された特徴値が特徴部保持部101に入力される構成を採用してもよい。なお、特に限定されないが、本実施形態では、標準式が、利き腕であるか否かの別および性別ごとに予め取得されており、これらの情報も標準式を選択するための情報として合わせて入力される構成になっている。
【0048】
次いで、係数算出部103は、特徴値保持部101が保持する特徴値に基づいて、当該特徴値が属する区分を判定する(ステップS602)。当該判定は、各区分の代表点(各区分に属する教師データの身体的特徴の項目ごとの平均値)とのユークリッド距離に基づいて実施される。すなわち、特徴値保持部101が保持する特徴値と各区分の代表点とのユークリッド距離が最小となる区分を、特徴値保持部101が保持する特徴値が属する区分と判定する。
【0049】
所属区分を特定した係数算出部103は、特定された区分の標準式を標準式保持部102から選択し、当該選択した標準式に基づいて筋力係数kを算出する(ステップS603、604)。このとき、特徴値保持部101が保持する特徴値は、当該区分に属する教師データの平均値と標準偏差とにより上述のとおり正規化されて標準式に代入される。
【0050】
筋力係数を算出した係数算出部103は、算出した筋力係数を閾値算出部105に入力する。筋力係数が入力された閾値算出部105は、上限保持部104に保持されている筋負荷の上限値を取得し、当該筋負荷上限値を入力された筋力係数kで除算することにより、当該筋負荷上限値に対応する上限筋活動電位(厳密には、上記関係式におけるE−E0)を算出する(ステップS605)。
【0051】
上述のように、本実施形態では、筋負荷と筋活動電位との間の比例関係が失われる筋負荷を基準上限筋負荷とし、当該基準上限筋負荷に、被験者の目的に応じて選択される所定の係数を乗算することで筋負荷上限値を設定している。当該基準上限負荷は、上述の教師データを取得する際に、筋負荷と筋活動電位を取得する都度筋力係数を算出し、比例関係にある領域における筋力係数に対する変化率が所定値(例えば、10%)以上となるときの筋負荷として求めることができる。なお、教師データを提供する各人について求められた基準上限筋負荷は、上述の筋力係数の標準式と同様の手法により、基準上限筋負荷の標準式を導出することが望ましい。これにより、被験者の身体的特徴に応じて基準上限筋負荷を算出することが可能になる。
【0052】
例えば、被験者が痩身を目的とするトレーニングを実施する場合、上記所定係数として0.5(超回復により筋肉が増大することのない筋負荷)が選択され、当該被験者の筋負荷上限値として、上記基準上限筋負荷に0.5を乗算した値が上限保持部104に保持される。そして、閾値算出部105は、当該筋負荷上限値に基づいて、上限筋活動電位を算出する。
【0053】
以上説明した上限活動電位の算出までの手順は、被験者が計測部106(測定電極106aおよび基準電極106b)を装着していない状態で実施することも可能である。以降の手順においては、被験者は、筋活動電位を実測できるように、監視対象筋肉(ここでは、上腕二頭筋)を被覆する皮膚に測定電極106aを装着するとともに、基準電極106bを装着する必要がある。
【0054】
図8は、本実施形態における筋肉負荷監視装置100を装着した状態を示す模式図である。図8に示すように、筋肉負荷監視装置100は装着ベルト110に支持されており、当該装着ベルト110を監視対象部位(ここでは、上腕部151)に巻きつけることで監視対象部位に装着される。装着部位の皮膚と対向する筋肉負荷監視装置100の面には、測定電極106aが配置されている。また、基準電極106bは、上述のように、肘152に装着される。なお、図8の例では、筋肉負荷装置100全体を監視対象部位に装着する構成を例示しているが、小型化および軽量化の観点では、特徴値保持部101、標準式保持部102、係数算出部103、上限保持部104、閾値算出部105および比較部107を備える親機と、計測部106および報知部108を備える子機とを通信可能に構成し、子機のみを監視対象部位に装着する構成としてもよい。なお、装着ベルト110により監視対象部位が圧迫される状態にあると、被験者の運動動作に支障が出ることも考えられる。そのため、筋肉負荷監視装置100は、伸縮性を有する装着部に支持される構成を採用してもよい。例えば、粘着性および伸縮性を有するシリコン樹脂等からなるパッド状の装着部を使用すると、運動動作を阻害することがなく、皮膚に対して接離するだけで容易に着脱ができるとともに装着した場合にも装着状態を維持することができる。また、測定電極106aを除く、装着部位の皮膚と対向する筋肉負荷監視装置100の面に両面テープ等を貼着し、当該両面テープにより筋肉負荷監視装置100を監視対象部位に装着する構成としてもよい。
【0055】
被験者が計測部106を装着した後、被験者はトレーニングを開始する。トレーニング中の監視対象筋肉の筋活動電位は、計測部106によって取得される(ステップS606)。計測部106は取得した筋活動電位(以下、実測筋活動電位という。)を比較部107に入力する。本実施形態では、計測部106は、安静状態(筋肉に負荷が加わっていない状態)での筋活動電位と、トレーニング状態(筋肉に負荷が加わっている状態)での筋活動電位との差を実測筋活動電位として取得している。
【0056】
計測部106から実測筋活動電位が入力された比較部107は、入力された実測筋活動電位と閾値算出部105が算出した上限筋活動電位とを比較する(ステップS607)。当該比較において、実測筋活動電位が上限筋活動電位以上である場合、比較部105はその旨を報知部108に通知する(ステップS607Yes)。当該通知を受けた報知部108は、実測筋活動電位が上限筋活動電位以上である、すなわち、筋負荷が、上限筋負荷以上であることを被験者に通知する(ステップS608)。ここでは、報知部108がアラームを発報することにより被験者にその旨を通知する構成になっている。当該アラームを認識した被験者は、その時点のトレーニングが被験者のトレーニング目的に対して過負荷であることを知ることができる。
【0057】
一方、実測筋活動電位と上限筋活動電位との比較において、実測筋活動電位が上限筋活動電位未満である場合、比較部107はアラームの発報を指示することなく、比較が継続される(ステップS607No、S606)。なお、このとき比較部107は、報知部108に対して実測筋活動電位が上限筋活動電位未満である旨を通知し、報知部108が図示しない表示部を通じた表示等により、その時点のトレーニングが被験者のトレーニング目的に合致した負荷であることを被験者に通知する構成であってもよい。
【0058】
なお、上記では、トレーニング目的を痩身としたが、トレーニング目的が筋力増強である場合は、基準上限筋負荷に乗算する係数を変更すればよい。この場合、過負荷により、トレーニング中に意図しない筋肉損傷が発生することを防止することができる。また、トレーニングではなく、重量物を運搬する作業者において本筋肉負荷監視装置100を使用することもできる。例えば、筋負荷上限値として、絶対的な上限筋負荷(例えば、係数1.5)を設定することで、筋肉損傷の発生を被験者に報知することが可能になる。なお、このような用途の変更には、図示しない表示部等にメニュー画面を表示し、被験者による選択を受け付ける構成を採用することができる。また、絶対的な上限筋負荷は、被験者に対する実測の筋活動電位に基づいて決定してもよい。例えば、基準上限筋負荷を実測し、当該実測した基準上限筋負荷に基づいて絶対的な上限筋負荷を決定することもできる。
【0059】
以上説明したように、本発明によれば、被験者の身体的特徴を示す特徴値を標準式に代入することにより筋力係数が算出される。したがって、被験者について予め筋力係数を測定する必要がなく筋力係数を得ることができる。そのため、本発明によれば、筋負荷が適切であるか否かを、ユーザが容易かつ瞬時に知ることができる。また、意図しない筋肉損傷の発生を防止することができる。加えて、標準式により筋力係数を算出する本発明では、トレーニング等により被験者の体格が変化した場合でも、変化後の体格に対応する筋力係数を求めることも可能である。
【0060】
また、本実施形態では、身体的特徴に基づいて設定された複数の区分ごとに標準式を保持し、被験者の身体的特徴を示す特徴値が属する区分の標準式を用いて筋力係数を算出する構成を採用している。この構成では、極端に体格が異なる者の筋力係数を別個の標準式で表現するため、すべての体格を1の標準式で表現する場合に比べて、標準式の単純化および筋力係数の推定精度の向上を実現することができる。
【0061】
上記では、被験者の身体的特徴を示す特徴値が属する区分に対応する1つの標準式を用いて筋力係数を算出する構成を説明した。しかしながら、被験者の筋力係数を算出するに際し、被験者の身体的特徴を示す特徴値が属する区分に対応する標準式だけでなく、他の区分に対応する標準式を利用して筋力係数を算出することもできる。以下では、特徴値保持部101が保持する特徴値に基づいて標準式保持部102に保持された各標準式の寄与度を算出し、当該寄与度と各標準式とに基づいて筋力係数を算出する構成について説明する。ここでは、係数算出部103が寄与度の算出を実施する。図7は、本実施形態における筋肉負荷監視手順の変形例を示すフロー図である。なお、図7において、図6と同一の処理を実施するステップには図6と同一の符号を付し、以下での詳細な説明を省略する。
【0062】
本手順においても、まず、被験者の身体的特徴が特徴部保持部101に入力され保持される(ステップS601)。次いで、係数算出部103は、特徴値保持部101が保持する特徴値に基づいて、標準式保持部102に保持された各標準式の寄与度を算出する(ステップS702)。
【0063】
当該寄与度は、各区分における代表点と被験者の特徴値とのユークリッド距離に基づいて算出される。まず、係数算出部103は、各区分における身体的特徴の各項目の代表点と、特徴値保持部101が保持する各項目の特徴値とのユークリッド距離を項目ごとに算出する。ここでは、標準式保持部102には7区分(区分1〜7)の標準式が保持され、身体的特徴として6項目(身長p、体重p、BMIp、体脂肪率p、皮下脂肪厚p、太さp)が使用されている。そのため、係数算出部103は、区分1〜7のそれぞれにおける各項目の代表点Cと、被験者の特徴値Npとのユークリッド距離d(i,j)=|C−Np|を算出する。ここで、iは各区分を一意に示す番号であり、jは各項目を一意に示す番号である。例えば、代表点Cは区分2におけるBMIの代表点を示し、特徴値Npは特徴値保持部101に保持されているBMIを示す。
【0064】
次いで、係数算出部103は、算出した差に基づいて、項目寄与度ν(i,j)を下記式(1)または(2)に基づいて算出する。ここでは、ν(i,j)は、d(i,j)<αの場合に式(1)により算出され、d(i,j)≧αの場合に式(2)により算出される。定数αは、項目寄与度が「0」になるユークリッド距離の閾値を定義する定数である。下記式(1)、(2)によれば、d(i,j)=0、すなわち、特徴値が代表点に重なる場合、ν(i,j)=1になる。そして、距離d(i,j)が値αに近づくにつれてν(i,j)の値は小さくなり、距離d(i,j)が値α以上になるとν(i,j)=0になる。なお、定数αは、監視対象筋肉や身体的特徴の項目種等に応じて、適宜、適切な値を実験的に定めることができる。
【0065】
【数2】

【0066】
各区分における身体的特徴の各項目について項目寄与度ν(i,j)を算出した係数算出部103は、下記式(3)により、区分ごとに項目寄与度ν(i,j)の平均値である区分寄与度μを算出する。ここでは、標準式保持部102には7区分の標準式が保持され、身体的特徴として6項目が使用されているため、係数算出部103は、区分1〜7のそれぞれについて区分寄与度μを算出する。なお、この例では、式(3)中の定数pはp=6である。
【0067】
【数3】

【0068】
各区分について区分寄与度μを算出した係数算出部103は、特徴値保持部101に保持されている各特徴値を各区分の標準式に代入することにより算出される各筋力係数Gを、区分寄与度μを使用して重み付け加算することで筋力係数kを算出する。特に限定されないが、この例では、係数算出部103は、下記式(4)により筋力係数kを算出する。ここでは、標準式保持部102には7区分の標準式が保持されているため、式(4)中の定数qはq=7である。
【0069】
【数4】

【0070】
筋力係数を算出した係数算出部103は、算出した筋力係数を閾値算出部105に入力する。筋力係数が入力された閾値算出部105は、上述したように上限保持部104に保持されている筋負荷の上限値を取得し、当該筋負荷上限値に対応する上限筋活動電位を算出する(ステップS605)。以降の手順は、図6に示す手順と同様である。
【0071】
以上説明した変形例では、身体的特徴に基づいて設定された複数の区分ごとに標準式を保持する構成において、被験者の身体的特徴を示す特徴値に基づいて各標準式の寄与度を算出し、当該寄与度と各標準式とに基づいて筋力係数を算出する構成になっている。この構成では、必要に応じて(寄与度に応じて)複数の標準式に基づいて筋力係数が算出される。そのため、例えば、被験者の特徴値が、各区分における身体的特徴の項目の代表点から比較的離れている場合には、複数の標準式に基づいて筋力係数を算出することができる。すなわち、筋力係数の推定精度をより向上させることができる。
【0072】
なお、以上で説明した構成では、実測筋活動電位に基づいて、筋肉の疲労度を検知することも可能である。当該筋肉の疲労度は、実測筋活動電位をフーリエ変換することにより得られる周波数スペクトルに基づいて検知できる。当該周波数スペクトルでは、筋肉が疲労するにつれて低周波数帯(例えば、100Hz以下)のパワースペクトルが増大する傾向にある。そのため、当該、低周波数帯におけるパワースペクトルの増大に基づいて筋肉の疲労状態を検知することができる。
【0073】
低周波数帯におけるパワースペクトルの増大を検知する方法は特に限定されない。例えば、周波数スペクトルの中央周波数(パワースペクトルの周波数領域にわたる積分値が全体の1/2になる周波数)により検知することができる。この手法では、筋肉の疲労が進むにつれて当該中央周波数が小さくなる。そのため、例えば、トレーニング開始時からの中央周波数のシフト量を計測し、当該シフト量が所定の閾値を超えたときは筋肉が疲労したと判断することができる。また、当該中央周波数が、短期間あるいは短時間で大きくシフトした場合には、筋負荷が過大であると評価することもできる。なお、このような筋肉疲労の評価は比較部107が実施する構成とすればよい。この構成により、トレーニング中の筋肉負荷と合わせて、筋肉疲労を検知することが可能になる。
【0074】
ところで、上述の実施形態では、筋肉負荷のみを監視する構成について説明したが、筋肉負荷に加えて、筋肉の柔軟性や筋肉の温度を同時に監視する構成を採用してもよい。
【0075】
図9は、本実施形態における筋肉負荷監視装置の変形例を示す機能ブロック図である。図9に示すように、筋肉負荷監視装置200は、上述の筋肉負荷監視装置100の各構成要素に加えて、第2計測部201および判定部202を備える。なお、図1に示した筋肉負荷監視装置100の各構成要素と同様の作用効果を奏する構成要素には同一の符号を付し、以下での説明は省略する。
【0076】
第2計測部201は、被験者の監視対象筋肉の柔軟性または温度を取得する。ここでは、筋肉の柔軟性または筋肉の温度を、準備運動(ウォーミングアップ)完了を判断する指標として利用する。
【0077】
本実施形態では、筋肉の柔軟性は、例えば、監視対象筋肉に向かって圧力を加え、その反発力の変動に基づいて判断する。当該圧力は、例えば、監視対象筋肉上の皮膚と対向する筋力負荷監視装置200の面に進退可能に棒状体を設け、当該棒状体を皮膚側に進出させることで付与する。例えば、準備運動としてストレッチ運動を実施し、当該ストレッチ運動により筋肉に柔軟性が増した場合、同一圧力を付与する場合の棒状体の進出量は増大する。第2計測部201は、このようなストレッチ運動前とストレッチ運動後の棒状体の進出量の差を柔軟性の指標として取得する。
【0078】
また、本実施形態では、筋肉の温度は、例えば、皮膚の表面温度に基づいて判断する。この場合、第2計測部201は、皮膚の表面温度を筋肉の温度の指標として取得する。このような表面温度は、公知の任意の手法により取得することができる。
【0079】
判定部202は、第2計測部201が取得した筋肉の柔軟性の指標または筋肉の温度の指標が予め設定された基準値を超えているか否かを判定する。例えば、第2計測部201が筋肉の柔軟性を取得する場合、判定部202は、上述の特徴値である皮下脂肪厚に対応して予め設定された上記進出量の差の閾値を超えているか否かを判定する。また、第2計測部201が筋肉の温度を取得する場合、判定部202は、上述の特徴値である皮下脂肪厚に対応して予め設定された皮膚の表面温度の閾値を超えているか否かを判定する。
【0080】
いずれの場合であっても、閾値を超えていた場合、判定部202はその旨を報知部108に通知する。当該通知を受けた報知部108は、準備運動を完了してもよい旨を表示や音声等、被験者が認識可能な任意の手法により被験者に報知する。ここでは、報知部108が上記アラームとは異なるチャイム音を発報することにより被験者にその旨を通知する構成になっている。
【0081】
なお、ここでは判定部202を備える構成を示しているが、特に判定を行うことなく第2測定部201の測定結果を報知部108が随時表示する構成であってもよい。
【0082】
また、上述の筋肉の温度は、適切な運動状態へ誘導するための指標として使用することもできる。例えば、判定部202は、準備運動完了後に、第2測定部201が取得する温度の監視を継続する。これにより、トレーニング中の被験者の筋肉の温度(体温)の変動を監視することができる。このとき、判定部202は、トレーニング中の被験者の筋肉の温度に基づいて、運動状態が適切か否かを判断する。
【0083】
例えば、被験者が痩身を目的とするトレーニングを実施する場合、脂肪が消費されやすい有酸素運動状態がより適切な運動状態であるといえる。また、脂肪を効率よく消費させるには、脂肪分解酵素(リパーゼ)が効率的に作用する温度に維持することが好ましい。この脂肪分解酵素が効率的に作用するのは、体温が1〜2℃上昇した状態であるとされている。そのため、判定部202は、トレーニング中の被験者の筋肉の温度が予め指定された閾値温度以下であるか否かにより、被験者が適切な運動状態であるか否かを判定することができる。この場合、閾値温度としては、例えば、38℃等の固定値や、準備運動開始前の温度+2℃のように被験者に応じた値を設定することができる。第2測定部201により取得される温度が閾値温度を超えた場合、判定部202はその旨を報知部108に通知する。当該通知を受けた報知部108は、適正な運動状態から外れている旨を表示や音声等、被験者が認識可能な任意の手法により被験者に報知する。
【0084】
また、判定部202は、温度の上昇割合(例えば、単位時間当たりの上昇温度)を合わせて監視してもよい。この構成では、閾値温度以下であっても急激な体温上昇が発生している状態、すなわち、無酸素運動になっている状態を判別することができる。当該構成において、第2測定部201により取得される温度の上昇割合が予め登録された閾値を超えた場合、判定部202はその旨を報知部108に通知する。当該通知を受けた報知部108は、適正な運動状態から外れている旨を表示や音声等、被験者が認識可能な任意の手法により被験者に報知する。
【0085】
一方、被験者が筋肉増大を目的とするトレーニングを実施する場合、主として糖質を消費する無酸素運動がより適切な運動状態であるといえる。無酸素運動は、上述の有酸素運動状態よりも運動強度を高めた場合に到達する運動状態である。そのため、この例では、判定部202は、トレーニング中の被験者の筋肉の温度が上述の閾値温度を超えているか否かにより、被験者が適切な運動状態であるか否かを判定している。すなわち、第2測定部201により取得される温度が閾値温度以下である場合、判定部202はその旨を報知部108に通知する。当該通知を受けた報知部108は、適正な運動状態から外れている旨を表示や音声等、被験者が認識可能な任意の手法により被験者に報知する。あるいは、第2測定部201により取得される温度の上昇割合が予め登録された閾値以下である場合、判定部202はその旨を報知部108に通知する。当該通知を受けた報知部108は、適正な運動状態から外れている旨を表示や音声等、被験者が認識可能な任意の手法により被験者に報知する。
【0086】
なお、上述のように、適切な運動状態へ誘導するための指標として筋肉の温度を使用する構成では、被験者の運動のペースを誘導することも可能である。例えば、被験者が痩身を目的とするトレーニングを実施する場合、適正な運動状態から外れた無酸素運動状態にあるときには、運動のペースを下げるように案内する音声や、遅いテンポで繰り返す電子音等を報知部108が発することにより、被験者を有酸素運動状態に誘導する。また、被験者が筋肉増大を目的とするトレーニングを実施する場合、適正な運動状態から外れた有酸素運動状態にあるときには、運動のペースを上げるように案内する音声や、速いテンポで繰り返す電子音等を報知部108が発することにより、被験者を無酸素運動状態に誘導する。
【0087】
なお、上述した実施形態は本発明の技術的範囲を制限するものではなく、既に記載したもの以外でも、本発明の範囲内で種々の変形や応用が可能である。例えば、上述の親機および子機の各構成要素の配置は一例を示したものであり、他の構成要素の配置を採用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明によれば、筋負荷が適切であるか否かを、ユーザが容易かつ瞬時に知ることができ、筋力負荷監視装置として有用である。
【符号の説明】
【0089】
100 筋肉負荷監視装置
101 特徴値保持部
102 標準式保持部
103 係数算出部
104 上限保持部
105 閾値算出部
106 計測部
106a 測定電極
106b 基準電極
107 比較部
108 報知部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定部の筋肉に加わる筋負荷を監視する筋肉負荷監視装置であって、
被験者の身体的特徴を示す特徴値を保持する特徴値保持部と、
前記特定部の筋肉における筋負荷および筋活動電位を対応づける筋力係数と、前記身体的特徴との関係を示す標準式を保持する標準式保持部と、
前記標準式保持部が保持する標準式と、前記特徴値保持部が保持する前記特徴値とに基づいて、前記被験者の前記特定部の筋肉の筋力係数を算出する係数算出部と、
前記特定部の筋肉についての筋負荷の上限値を保持する上限保持部と、
前記係数算出部が算出した筋力係数と前記上限保持部が保持する筋負荷の上限値とに基づいて、当該筋負荷上限値に対応する上限筋活動電位を算出する閾値算出部と、
前記被験者の前記特定部の筋肉の筋活動電位を取得する計測部と、
前記閾値算出部が算出した上限筋活動電位と、前記計測部が取得した筋活動電位とを比較する比較部と、
前記比較部の比較結果を報知する報知部と、
を備える、筋肉負荷監視装置。
【請求項2】
前記標準式保持部は、前記特定部の筋肉についての標準式を、身体的特徴に基づいて設定された複数の区分ごとに保持し、前記係数算出部は、前記特徴値保持部が保持する特徴値が属する区分の標準式を前記標準式保持部から選択し、当該選択した標準式に基づいて筋力係数を算出する、請求項1に記載の筋肉負荷監視装置。
【請求項3】
前記標準式保持部は、前記特定部の筋肉についての標準式を、身体的特徴に基づいて設定された複数の区分ごとに保持し、前記係数算出部は、前記特徴値保持部が保持する特徴値に基づいて前記標準式保持部に保持された各標準式の寄与度を算出し、当該寄与度と各標準式とに基づいて筋力係数を算出する、請求項1に記載の筋肉負荷監視装置。
【請求項4】
前記被験者の前記特定部の筋肉の柔軟性または温度を取得する第2の計測部をさらに備え、
前記報知部が前記第2の計測部の計測結果を報知する、請求項1から3のいずれか1項に記載の筋肉負荷監視装置。
【請求項5】
前記上限保持部は、被験者の目的に応じて設定された、前記特定部の筋肉についての第1の筋負荷上限値と、前記特徴値保持部に保持された特徴値に応じて算出された、前記特定部の筋肉についての第2の筋負荷上限値とを保持し、
前記比較部は、前記閾値算出部により算出された前記第1の筋負荷上限値に対応する上限筋活動電位および前記第2の筋負荷上限値に対応する上限筋活動電位のそれぞれと、前記計測部が取得した筋活動電位とを比較する請求項1から4のいずれか1項に記載の筋肉負荷監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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