筋萎縮性側索硬化症の診断マーカー、診断方法、及び、治療薬、並びに、筋萎縮性側索硬化症を発症するモデル動物、及び、モデル細胞
【課題】筋萎縮性側索硬化症(ALS)を診断・治療するのに好適な筋萎縮性側索硬化症の診断マーカー、診断方法、及び、治療薬を提供する。また、ALSの治療薬や治療方法を開発するのに好適なモデル動物、及び、モデル細胞を提供する。
【解決手段】本発明に係る筋萎縮性側索硬化症の診断方法は、被験者から試料を採取して、当該試料から核酸を単離する単離工程と、単離された核酸から、ヒト10番染色体 OPTN(Optineurin)遺伝子領域に示される塩基を検出する検出工程と、検出された塩基が、変異しているか否かを判定する判定工程と、を備える。
【解決手段】本発明に係る筋萎縮性側索硬化症の診断方法は、被験者から試料を採取して、当該試料から核酸を単離する単離工程と、単離された核酸から、ヒト10番染色体 OPTN(Optineurin)遺伝子領域に示される塩基を検出する検出工程と、検出された塩基が、変異しているか否かを判定する判定工程と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋萎縮性側索硬化症を診断・治療するのに好適な筋萎縮性側索硬化症の診断マーカー、診断方法、及び、治療薬に関する。また、本発明は、筋萎縮性側索硬化症の治療薬や治療方法を開発するのに好適なモデル動物、及び、モデル細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis;以下「ALS」という)は、脊髄、脳幹、及び、大脳皮質において運動ニューロンが次第に変性する致死性の疾患である。ALSには、遺伝性のタイプと、遺伝性が認められない後発的な孤発性のタイプと、が知られている。遺伝性のALSは症例の10%程度であり、孤発性のALSは症例の90%程度である。非特許文献1には、遺伝性のALSの原因とされる遺伝子(例えば、TDP−43、FUS/TLS)が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Rethinking ALS: The FUS about TDP-43, Cell 136, March 20, 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、遺伝性のALSのうち、TDP−43やFUS/TLSは、原因の20〜30%にとどまっており、また、孤発性のALSの原因とされる遺伝子についても、原因の探索が望まれている。このため、ALSの遺伝子診断を行うために好適な新たな手法が求められている。また、ALSを治療するための治療薬や治療方法を効率的に開発するのに好適なモデル動物、及び、モデル細胞が求められている。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、筋萎縮性側索硬化症を診断・治療するのに好適な筋萎縮性側索硬化症の診断マーカー、診断方法、及び、治療薬を提供することを目的とする。また、本発明は、筋萎縮性側索硬化症の治療薬や治療方法を開発するのに好適なモデル動物、及び、モデル細胞を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の第1の態様である、筋萎縮性側索硬化症の診断マーカーは、
ヒト10番染色体 OPTN(Optineurin)遺伝子領域に変異を有する塩基配列からなる核酸を含むことを特徴とする。
【0007】
前記OPTN遺伝子領域のうち、13207995領域、及び/又は、13214104領域に示される塩基が変異した塩基を有する、ことも可能である。
【0008】
前記13207995領域の塩基がシトシンからチミンに、また、前記13214104領域の塩基がアデニンからグアニンに、変異している、ことも可能である。
【0009】
本発明の第2の態様である、筋萎縮性側索硬化症の診断方法は、
被験者から試料を採取して、当該試料から核酸を単離する単離工程と、
前記単離された核酸から、ヒト10番染色体 OPTN(Optineurin)遺伝子領域に示される塩基を検出する検出工程と、
前記検出された塩基が、変異しているか否かを判定する判定工程と、を備える、ことを特徴とする。
【0010】
前記判定工程では、前記OPTN遺伝子領域のうち、13207995領域においては、塩基がシトシンからチミンに変異しているか、又は、13214104領域においては、塩基がアデニンからグアニンに変異しているか、を判定する、ことも可能である。
【0011】
本発明の第3の態様である、筋萎縮性側索硬化症の治療薬は、
ヒト10番染色体 OPTN(Optineurin)遺伝子領域に示される塩基が変異している際に、当該塩基のリードスルーを誘導することを特徴とする。
【0012】
前記OPTN遺伝子領域のうち、13207995領域に示される塩基のリードスルーを誘導する、ことも可能である。
【0013】
本発明の第4の態様である、筋萎縮性側索硬化症の治療薬は、
NF−κB転写因子の活性化を抑制することを特徴とする。
【0014】
本発明の第5の態様である、筋萎縮性側索硬化症の治療薬は、
細胞内におけるヒト10番染色体 OPTN(Optineurin)遺伝子の局在化を適正化する、及び/又は、当該局在化によって果たされている機能の喪失を補填することを特徴とする。
【0015】
前記細胞のうち、ゴルジ体に機能する、ことも可能である。
【0016】
本発明の第6の態様である、筋萎縮性側索硬化症を発症するモデル動物は、
ヒト10番染色体 OPTN(Optineurin)遺伝子領域に示される塩基が変異した塩基を含むDNA断片、及び/又は、発現ベクターを導入してなることを特徴とする。
【0017】
本発明の第7の態様である、筋萎縮性側索硬化症を発症するモデル細胞は、
筋萎縮性側索硬化症を発症するモデル動物から採取されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ALSの遺伝子診断を行うことができる。また、ALSの治療を行うことができる。さらに、ALSの治療薬や治療方法を開発することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】OPTN遺伝子領域の構造を模式的に示す図である。
【図2】ヒト10番染色体 13207992〜13208000領域における健常者とALS患者との塩基配列の変異を比較した図である。
【図3】ヒト10番染色体 13214100〜13214108領域における健常者とALS患者との塩基配列の変異を比較した図である。
【図4】遺伝性ALSと孤発性ALSとにおける共有するハプロタイプを示す図である。
【図5】健常者とALS患者とのOPTNの発現を比較した図である。
【図6】RT−PCRにより増幅されたOPTNの発現量を比較した図である。
【図7】(a)〜(m)は、封入体の免疫染色を示す図である。
【図8】(a)〜(h)は、脊髄を示す図である。
【図9】(a)〜(d)は、健常者とALS患者との腰部の脊髄前角細胞の免疫染色を比較した図である。
【図10】ルシフェラーゼ活性を比較した図である。
【図11】(a)〜(l)は、OPTNの野生型及び変異型において細胞内局在性を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(ALSの診断マーカー)
発明の第1の態様であるALSの診断マーカーについて説明する。本診断マーカーは、特定の一塩基変異多型を検出して特定することにより、ALSの発症を予測、及び、診断する指標として使用される。
【0021】
まず、一塩基変異多型(Single Nucleotide Polymorphism;以下「SNP」という)について説明する。SNPは、ヒトゲノムの塩基配列を比較すると、一塩基が変異した多様性が見られ、個人毎に異なる箇所が存在する遺伝的変異である。
【0022】
SNP部位は、ヒトゲノム中に数百万箇所あると考えられている。これらのSNPには、タンパク質の発現調節又は機能等に影響を与えるものがあり、体質や疾病に対する易罹患性等の個人差に関与しているものがあると知られている。従って、SNPに関する情報を得ることによって、個人の体質や遺伝病といった診断を行うことができる。
【0023】
次に、ALSの診断マーカーとして使用されるSNPについて示す。なお、塩基配列は、UCSC Genome Bioinformatics(UCSC Genome Browser on Human Mar. 2006 Assembly (hg18))に基づくものである。
【0024】
図1は、OPTN(Optineurin)遺伝子領域の構造を模式的に示す図である。ヒト10番染色体 13182088〜13220282領域の塩基配列から構成されるOPTN遺伝子は、同図に示すように、1から16のエクソン(Exon)からなり、そのタンパク翻訳領域は4から16のエクソンからなる。遺伝的変異(SNP)は、12から14の間のエクソンに存在する。本診断マーカーとして使用されるSNPは、当該OPTN内に存在する。
【0025】
配列表の配列番号1は、健常者のヒト10番染色体 13207992〜13208000領域に示される塩基配列である。また、配列表の配列番号2は、ALS患者のヒト10番染色体 13207992〜13208000領域(配列番号1と同一の領域)に示される塩基配列である。
【0026】
これらの塩基配列のうち、13207995領域の塩基が変異している場合、ALSを発症する可能性がある。13207995領域の塩基は、配列番号1及び2に示すように、ALS患者ではシトシン(C)からチミン(T)に変異している。
【0027】
次に、配列表の配列番号3は、健常者のヒト10番染色体 13214100〜13214108領域に示される塩基配列である。また、配列表の配列番号4は、ALS患者のヒト10番染色体 13214100〜13214108領域(配列番号3と同一の領域)に示される塩基配列である。
【0028】
これらの塩基配列のうち、13214104領域の塩基が変異している場合、ALSを発症する可能性がある。13214104領域の塩基は、配列番号1及び2に示すように、ALS患者ではアデニン(A)からグアニン(G)に変異している。
【0029】
当該塩基が変異すると、機能的なタンパク質が合成されないため、または異常なタンパク質が産生されるため、ALSが発症する原因の一つとなる。従って、13207995領域の塩基、及び/又は、13214104領域の塩基が、変異しているか否かを検出して特定することにより、ALSの発症を予測、及び、診断することができる。すなわち、当該塩基の変異は、ALSを診断するためのマーカーとして有用である。
【0030】
なお、13207995領域及び13214104領域のうち、どちらか一方の塩基が変異している場合、また、両方の塩基が変異している場合であっても、ALSの診断マーカーとなり得る。
【0031】
また、本診断マーカーは、遺伝性のALSと、遺伝性が認められない後発的な孤発性のALSと、の両方のALSを診断する指標となり得る。
【0032】
また、本診断マーカーは、ヒト10番染色体 13207995領域の塩基または13214104領域の塩基を同一染色体上に有するハプロタイプであってもよい。
【0033】
また、13207995領域及び/又は13214104領域の遺伝子に基づく、cDNA、RNA、mRNA、DNA類似体、RNA類似体、アミノ酸、及び、タンパク質についても、ALSの診断マーカーとなり得る。
【0034】
また、13207995領域、及び、13214104領域に示される塩基の変異は、OPTN内の遺伝子変異の一例であり、あらゆるOPTNの遺伝子変異が、ALSの診断マーカーとなり得る。
【0035】
上記実施の形態により説明される診断マーカーは、本願発明を限定するものではなく、例示することを意図して開示されているものである。本願発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載により定められるものであり、当業者は、特許請求の範囲に記載された発明の技術的範囲において種々の設計的変更が可能である。
【0036】
(ALSの診断方法)
次に、本発明の第2の態様であるALSの診断方法について説明する。被験者から試料を採取して、上述の塩基の変異(SNP)を検出して特定することにより、ALSの診断を行うことができる。
【0037】
まず、被験者から試料が採取される。被験者から試料を採取する方法は、通常の公知の方法が用いられ、例えば、市販のDNAを採取するためのキットを使用することもできる。採取方法は限定されず任意である。被験者の試料は、例えば、血液、髄液、唾液などの体液、又は、口腔粘膜、頭髪などの組織であり、上述のSNPを検出することができる試料であれば任意である。また、試料の量は、上述のSNPが検出できる量であれば任意である。
【0038】
次に、被験者の試料から核酸が単離される。ここで、核酸とは、DNAもしくはRNAであり、DNAを鋳型にPCR(Polymerase Chain Reaction)法などにより目的の領域を増幅したDNA断片も含まれる。核酸を単離する方法は限定されず任意である。例えば、後述するSNPの検出方法に適するように、DNAを単離することもできる。また、上述のSNPは、図1に示すように、エクソンの12から14の間にあるため、当該間のDNAのみを単離することもできる。
【0039】
次に、DNA等から上述のSNPが検出される。SNPの検出方法は、上述のSNPを検出して、特定できる方法であれば任意である。具体的には、PCR(Polymerase Chain Reaction)法、PCR−SSP(Sequence Specific Primers)法、PCR−RFLP(Restriction Fragment Length Polymorphism)法、PCR−SSCP(Single Strand Conformation Polymorphism)法、ダイレクトシーケンス法、ASO(Allele Specific Oligonucleotide)ハイブリダイゼーション法、DGGE(変性剤濃度勾配ゲル電気泳動)法、RNaseA切断法、化学切断法、DOL(Dye-labeled Oligonucleotide Ligation)法、インベーダー法、TaqMan(登録商標)−PCR法、MALDI−TOF/MS(Matrix-Assisted Laser Desorption Ionization-Time-of-Flight Mass Spectrometry)法、TDI(Template-directed Dye-terminator Incorporation)法、モレキュラー・ビーコン法、ダイナミック・アレルスペシフィック・ハイブリダイゼーション法、パドロック・プローブ法などをあげることができる。本実施形態においては、これらのSNPの検出方法を単独で用いても、二つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
そして、13207995領域においては、塩基がシトシンからチミンに変異しているか、また、13214104領域においては、塩基がアデニンからグアニンに変異しているか、が判定される。当該塩基が変異している場合、機能的なタンパク質が合成されないため、または異常なタンパク質が産生されるため、ALSが発症する原因の一つとなる。
【0041】
以上の処理により、ALSの発症を予測、及び、診断することができる。
【0042】
(ALSの治療薬)
次に、本発明の第3〜第5の態様であるALSの治療薬について説明する。
【0043】
上述のように、13207995領域の塩基が、シトシンからチミンに変異した場合に、ALSが発症する可能性がある。13207995領域の塩基は、対応するアミノ酸(とtRNA)がなく、最終産物であるタンパク質の生合成を停止させるために使われている終止コドン(ナンセンスコドン)である。変異により遺伝子内で未熟終止コドンが生じると、機能的なタンパク質が合成されずに、遺伝子欠損症状を呈するようになる。
【0044】
ALSの場合、たった1か所に未熟終止コドンが生じただけで、あたかも遺伝子全体が欠損したような致死的な症状を呈するようになる。このため、未熟終止コドンである当該チミンを選択的に読み飛ばすことによって、機能的なタンパク質合成が可能となる。すなわち、13207995領域の塩基のリードスルーを誘導する薬剤をALS患者に投与することにより、ALSを治療することができる。
【0045】
ここで、リードスルーとは、ナンセンスコドンと終結因子との結合を弱め、ナンセンスコドンとどれかのtRNAとの結合を促し、新たにアミノ酸を伸長させて、タンパク質の合成を進行させることをいう。
【0046】
ALSの治療薬としては、例えば、PTC124、ゲンタマイシンがあげられるが、13207995領域の塩基のナンセンスコドンを選択的に読み飛ばすことができるリードスルー活性を有する物質であれば任意である。
【0047】
また、13207995領域の塩基が、シトシンからチミンに変異した場合に、ALSが発症する可能性がある。13214104領域においては、塩基がアデニンからグアニンに変異している場合に、ALSが発症する可能性がある。13207995領域の変異は、RIP1(Receptor Interacting Protein 1)の結合部位を失い、13214104領域の塩基は、ユビキチン結合部位に変異を来し、RIP1の結合が抑制される。13207995領域と13214104領域の変異は、RIP1を介したNF−κBの抑制作用を失う。
【0048】
NF−κBは、免疫反応において中心的役割を果たす転写因子の一つであり、OPTNとRIP1の結合が喪失または低下することにより、NF−κBの抑制作用が失われる。すなわち、当該変異によって、NF−κBは活性化される。
【0049】
このため、NF−κB転写因子の活性化を調整(抑制)する薬剤をALS患者に投与することにより、ALSを治療することができる。
【0050】
ここで、NF−κB転写因子とは、Relホモロジードメインを有する5つのタンパク質(p50, p52, p65(RelA), c-Rel, RelB)のヘテロもしくはホモ2量体で構成される転写因子である。
【0051】
ALSの治療薬としては、例えば、NF−κB転写因子阻害剤であるPDTC(Pyrrolidine dithiocarbamate)、ボルテゾミブ、DHMEQ(Dehydroxymethylepoxyquinomicin)、があげられるが、NF−κB転写因子阻害作用を有する物質であれば任意である。
【0052】
また、ALSは、細胞内においてOPTNの局在化の障害によって、機能喪失が起きることにより、発症する。変異OPTNは、例えば、ゴルジ体に局在しないことにより、ゴルジ体が果たす機能を喪失させる。このため、細胞内におけるOPTNの局在化を適正化する、及び/又は、当該局在化によって果たされている機能の喪失を補填することにより、ALSを治療することができる。
【0053】
ALSの治療薬の剤形は、内服薬、注射薬、座薬、吸入薬などを挙げることができる。当該治療薬は、常法に従って、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤等の医薬の製剤技術分野において通常使用し得る既知の補助剤を用いて、経口投与、組織内投与(皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与など)、局所投与(経皮投与など)、経直腸的投与などに適した剤型に製剤化することができる。
【0054】
また、上述の補助剤のほか、必要に応じて着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤などの補助剤、及び、他の医薬品を含有させることもできる。当該治療薬は、これらの投与方法に適した剤型で投与されることは当然である。治療薬の用量は任意であり、年齢、体重などの患者の状態、投与経路などを考慮した上で決定することができる。
【0055】
(モデル動物・モデル細胞の作製)
次に、本発明の第6及び第7の態様である、ALSの治療法を確立及び評価するためのモデル動物、及び、モデル細胞の作製方法について説明する。なお、13207995領域の変異を、「変異1」といい、13214104領域の変異を、「変異2」という。
【0056】
単離されたALSの原因遺伝子OPTNの変異のうち、劣性変異である変異1については、ノックインマウス及びノックアウトマウスを作製して、ホモ接合の個体で評価を行う。一方、優性変異である変異2については、ノックインマウス及びトランスジェニックマウスを作製して、ヘテロ接合の個体で評価を行う。
【0057】
なお、モデル動物としては、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウシ及びサル等を例示することができるが、実験動物としての汎用性や利便性を考慮してマウス、ラットであることが好ましく、マウスであることが特に好ましい。
【0058】
また、マウスには特に限定はなく公知のマウスを使用することができるが、トランスジェニックマウスの作製が容易であること、汎用性があること、及び、遺伝子背景等の情報が豊富であること等の観点から、BDF1/C57BL/6N系であることが特に好ましい。
【0059】
(トランスジェニックマウス)
優性変異である変異2については、その発現量がALSの重症度に及ぼす影響を検討するため、トランスジェニックマウスの作製を行なう。遺伝子OPTN本来のプロモーターの基で、変異2を発現するトランスジェニックマウスについても作製を行う。
【0060】
まず、遺伝子OPTNのプロモーターを単離し、このプロモーターにヒトの変異2を有するヒトcDNA及びpolyAをつないだコンストラクトを作製する。次に、当該コンストラクトをマウス受精卵に注入し、トランスジェニックマウスを作製する。神経特異的発現として、Thy−1プロモーターにヒトの変異2を有するヒトcDNA及びpolyAをつないだコンストラクトを作製して、トランスジェニックマウスを作製する。
【0061】
遺伝子のOPTN変異はいずれもNF−κB活性を上昇させることにより神経細胞死を誘導すると考えられる。このため、NF−κB活性を上昇させる変異を含むコンストラクト、たとえば、OPTN遺伝子のプロモーターにIkkβの構成的活性突然変異体(constitutive active mutant)をつないだコンストラクトを作製してマウスに導入することにより、ALSを発症するマウスを作製する。
【0062】
(ノックインマウス及びノックアウトマウス)
変異1及び変異2は、マウスOPTN遺伝子のエクソン10及びエクソン12にあるため、上流のエクソンであるマウスエクソンで変異1または変異2を有するヒトOPTN遺伝子cDNAと組換えを行なう。このつなぎ換えた遺伝子をES細胞に相同組替えで導入する。マウスES細胞に電気穿孔法(Electroporation)により導入し、得られたG418耐性コロニーからDNAを抽出し、PCR及びサザンブロット法により相同組換えクローンを選別する。Neo遺伝子の遺伝子Xへの発現の影響の可能性を避けるため、Neo遺伝子はあらかじめloxP遺伝子で挟んでおき、相同組換えクローンが得られた後に、Creリコンビナーゼにより除去する。このESクローンをマウス受精卵胚盤胞にマイクロ・インジェクションし、キメラマウスを得て、通常マウスとの交配によりヘテロマウスを得る。変異2については優性変異と考えられるため、ヘテロマウスで観察を行なう。変異1については劣性変異と考えられるため、ヘテロマウス同士の交配によりホモマウスを作製し観察を行なう。劣性変異に関しては、ノックアウトマウスを作製する。マウスOPTN遺伝子のエクソンを一部または全部欠損させたものをマウスES細胞に相同組替えで導入し、得られたG418耐性コロニーからDNAを抽出し、PCR及びサザンブロット法により相同組換えクローンを選別する。このESクローンをマウス受精卵胚盤胞にマイクロ・インジェクションし、キメラマウスを得て、通常マウスとの交配によりヘテロマウスを得る。ヘテロマウス同士の交配によりホモマウスを作製し観察を行なう。
【0063】
なお、組み換え遺伝子をモデル動物へ導入する方法としては、特に限定はなく、例えば、誘導体の遺伝子を導入した発現ベクターを用いて、マイクロ・インジェクション法、リポフェクション法、又は、レトロウィルスベクターに外来遺伝子を組み込んで感染させる方法により遺伝子を導入することもできる。いずれの公知の方法によっても、該当遺伝子を受精卵に導入することができる。
【0064】
突然変異を引き起こすエチルニトロソウレアなどをマウスに投与し、人為的に突然変異を誘発したマウスのライブラリーから、OPTN遺伝子の塩基配列に変異を持ったマウスを選び出し、長期飼育及び交配により、ALSを発症するマウスを作製する。
【0065】
これらのマウスのALSの発症は、歩行、筋力などの行動評価及び生存率、病理評価で確認し、また、ALSに対する治療薬の開発、評価にも、同様な項目及び発症時期、病勢進行程度を評価し、ALSの発症、進展抑制にかかわる化学物質の評価を行う。またモデル動物より、運動神経細胞または組織標本(たとえば、脊髄)を取り出し、細胞培養、器官培養により、神経細胞死を評価し、薬物の効果を判定する。
【0066】
(モデル細胞)
上記のモデル動物からとられた細胞、器官培養に加えて、患者皮膚からの線維芽細胞及びそれをSV40ウイルス及びテロメレースより不死化させた細胞株、末梢血よりEBウイルスにより不死化させたB細胞株等を用いて、アポトーシス、ネクローシス等の細胞死を引き起こす刺激(たとえば、TNF−α及びそれに加えて、カスパーゼの抑制剤、またはH202のように活性化酸素、フリーラディカルを産生するもの)に対し、防御的に働く物質を、細胞の生存率を指標にして、評価・探索する。
【0067】
また、患者皮膚等より得られた遺伝子変異を有する細胞に対して、公知の方法により、iPS細胞を作製し、運動神経細胞に分化させ、運動神経細胞死を誘導する系を作製し、これを防御する物質を探索、評価する。
【0068】
以上により、モデル動物及びモデル細胞にALSを発症させることができる。また、ALSを発症したモデル動物及びモデル細胞を利用することにより、有効な治療薬や治療方法を開発することができる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0070】
(ALS患者の診断)
健常者、遺伝性のALS患者及び孤発性のALS患者について、ヒト10番染色体 13207995領域の塩基、及び、13214104領域の塩基の変異を調べた。
【0071】
まず、健常者及びALS患者から、市販のDNAを採取するためのキットを使用してDNAを採取した後、GeneChip Human Mapping 500Kアレイセット(Affymetrix社製)を用いて、ゲノム探索を行った。
【0072】
なお、所定のプライマーにより、エクソン4〜16までのエクソンごとに、すべて増幅し塩基配列を決定することにより変異を同定したが、以下では、エクソン12及び14について記載する。
【0073】
配列表の配列番号5〜8に示すプライマーにより、OPTNを含むDNA断片をPCRで増幅した。増幅したDNA断片を直接塩基決定法で塩基配列を決定し、当該塩基の変異を同定した。同定した後は、エクソン12に関しては、制限酵素MseIで切断して、2%アガロースゲル電気泳動により切断されたDNA断片の大きさを解析し、その長さの違いにより、当該塩基の変異を判定した。
【0074】
なお、配列番号5及び7は、フォワードプライマーを示し、配列番号6及び8は、リバースプライマーを示すものである。配列番号5及び6のプライマーはエクソン12側と、配列番号7及び8のプライマーはエクソン14側と、反応して、OPTN遺伝子のエクソン12とエクソン14を含むDNA断片を増幅した。
【0075】
図2は、健常者とALS患者とにおけるヒト10番染色体 13207992〜13208000領域の塩基配列の変異を比較した図である。また、図3は、健常者とALS患者とにおけるヒト10番染色体 13214100〜13214108領域の塩基配列の変異を比較した図である。なお、図2に示されるALS患者は、常染色体劣性形質のある突然変異を有するALS患者であり、図3に示されるALS患者は、常染色体優性形質のある突然変異を有するALS患者である。
【0076】
図2に示すように、健常者(Normal)の13207995領域の塩基は、シトシン(C)であり、遺伝性のALS患者及び孤発性のALS患者の当該塩基は、チミン(T)に変異していた。
【0077】
また、図3に示すように、健常者(Normal)の13214104領域の塩基は、アデニン(A)であり、遺伝性のALS患者の当該塩基は、グアニン(G)に変異していた。
【0078】
以上の結果から、13207995領域、及び、13214104領域の塩基が変異している場合、ALSを発症することが判明した。また、当該塩基の変異を調べることにより、遺伝性及び孤発性のどちらのALSについても、診断することができた。
【0079】
次に、図4は、遺伝性ALSと孤発性ALSとにおいて共有されるハプロタイプを示す図である。同図に示すように、遺伝性ALS及び孤発性ALSそれぞれについて、ヒト10番染色体の13.0Mb〜13.9Mb領域に共有のハプロタイプが存在した。
【0080】
また、図3に示されるALS患者において、ヒト10番染色体 11460985〜13703017領域までの約2.3Mb領域に共有のハプロタイプが存在した。
【0081】
ハプロタイプが、1.0Mb領域以上も偶然に共有されていることはまれである。このため、当該ハプロタイプ内における塩基の変異を調べることにより、遺伝性及び孤発性のどちらのALSについても、診断することができた。
【0082】
(OPTNの発現)
次に、13207995領域の変異に関して、ウェスタンブロット法により、OPTNと対応する74kDaを示す転写リンパ芽球の溶解物を用いて、OPTNの発現を調べた。遺伝性ALS患者については、EBウイルスにより不死化させたBリンパ球により細胞溶解物を処理した。また、健常者については、通常のプロトコルを用いた。
【0083】
図5は、健常者とALS患者とのOPTNの発現を比較した図である。同図では、左から、健常者(左から3番目に示される遺伝性ALS患者の血縁者)、健常者(左から3番目に示される遺伝性ALS患者の血縁者)、遺伝性ALS患者、孤発性ALS患者、健常者の順番で、各発現を示した。OPTN(Cayman Chemical社製)のC末端部分と抗ウサギIgG−HRP抗体(R&D Systems社製)とを認識するポリクローナル抗体を使用した。また、コントロールとして、GAPDH(Glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase)に対するポリクローナル抗体(IMGENEX社製)を使用した。
【0084】
同図に示すように、遺伝性ALS患者及び孤発性ALS患者については、74kDa領域に発現は見られなかった。一方、健常者については、発現が見られた。すなわち、ALS患者は、13207995領域の塩基の変異により、OPTNが発現しないことが判明した。従って、ウェスタンブロット法により、ALSの診断を行うことができた。
【0085】
また、図6は、健常者と孤発性ALS患者の培養細胞において、シクロヘキシミドを加えた場合と加えない場合の、RT−PCR(Reverse Transcription - Polymerase Chain Reaction)により増幅されたOPTNの発現量を比較した図である。同図では、左から順番に、シクロヘキシミドを加えないで培養した健常者のOPTNの発現量、シクロヘキシミドを加えて培養した健常者のOPTNの発現量、シクロヘキシミドを加えないで培養した孤発性ALS患者のOPTNの発現量、シクロヘキシミドを加えて培養した孤発性ALS患者のOPTNの発現量、について示している。
【0086】
OPTNmRNAを定量するために、THUNDERBIRD SYBR qPCR Mix(東洋紡社製)及びABI 7900HT Fast Real Time PCR system(Applied Biosystems社製)を用いて、RT−PCRを行った。また、配列表の配列番号9及び10に示されるプライマーを使用することにより、OPTNを含むDNA断片をRT−PCRで増幅した。また、RNAを抽出する前、EBウイルスにより不死化させたBリンパ球を、シクロヘキシミド(σ、100 μg/ml)により、2時間処理した。
【0087】
同図に示すように、シクロヘキシミドを加えない場合、健常者と比較して孤発性ALS患者では、OPTNの発現量が13.8%に減少していた。つまり、孤発性ALS患者のmRNAには変異が存在するため、翻訳が早期に終了することにより、孤発性ALS患者のOPTNの発現量が、健常者と比較して減少していた。従って、OPTNの発現量を比較することにより、ALSの診断を行うことができた。
【0088】
また、孤発性ALS患者のように、mRNAに変異が存在する場合では、リンパ芽球におけるナンセンス変異依存mRNA分解機構(Nonsense-mediated mRNA decay;NMD)の作動により、mRNAが分解されるため、OPTNの発現量が減少すると考えられる。そこで、アミノ酸配列に変異を伴うmRNAの減少を、正常な状態に戻すことができるシクロヘキシミドを加えて、RT−PCR増幅を行った。同図に示すように、孤発性ALS患者において、シクロヘキシミドを加えた場合と加えない場合とでは、OPTNの発現量が大きく違っていた。これは、シクロヘキシミドを加えることによりNMDの作動が抑制されて、mRNAの分解が阻害されたために、孤発性ALS患者のOPTNが、健常者と同様に発現したためである。従って、シクロヘキシミドのようなNMD阻害薬は、ALSの治療薬となり得ることが示された。
【0089】
(封入体の免疫染色)
次に、遺伝性及び孤発性ALS患者における抗OPTN抗体によって免疫標識された細胞質内の封入体を調べた。図7(a)〜(m)は、封入体の免疫染色を示す図である。
【0090】
なお、OPTN−Cはマウス・モノクローナル抗体、OPTN−Iはウサギ・ポリクローナル抗体、TDP−43及びSOD1は、マウス・モノクローナル抗体及びウサギ・ポリクローナル抗体からなる抗体、Ubはユビキチン、H&Eはヘマトキシリン&エオジンである。
【0091】
図7(a)、(b)、(d)、及び(e)に示すように、孤発性のALS患者における好酸球性の硝子様封入体は、OPTN免疫活性を示した。また、図7(c)及び(f)に示すように、図7(a)及び(b)と同一部位の封入体において、ユビキチン(Ub)活性を示した。また、図7(g)に示すように、抗OPTN抗体で染まる異常線維構造が見られ、また、図7(h)に示すように、抗ユビキチン抗体にも同様に、異常線維構造が染色された。また、図7(i)及び(j)に示すように、TDP−43抗体の免疫染色は、OPTN抗体の免疫染色より、異常線維構造がより明確に染色された。また、図7(k)〜(m)に示すように、SOD1免疫活性陽性であるLewy小体類似硝子様封入体についても、OPTN免疫活性陽性であった。
【0092】
また、図8(a)〜(h)は、脊髄を示す図である。図8(a)及び(c)に示すように、遺伝性のALS患者における脊髄前角では運動ニューロンが消失していた。また、図8(a)及び(b)に示すように、皮質脊髄路からミエリンが消失していた。また、図8(d)に示すように、脊髄前角細胞のOPTN免疫染色では、運動ニューロンの細胞質の染色強度が増加し、絡み合う神経突起は抗体に対して反応を示した。また、図8(e)に示すように、運動ニューロンの細胞質には不定形の好酸性の領域があった。また、図8(f)に示すように、図8(e)と同一のニューロンでは、同じ部位が抗OPTN抗体で染色された。また、図8(g)に示すように、このような好酸性の領域にヒアリン封入体を形成するものも見られた。また、図8(h)に示すように、図8(g)と同一のニューロンの封入体は、抗OPTN抗体で染色された。すなわち、図8(e)及び(g)では、運動ニューロンにおいて細胞質内に好酸性の封入体を認めた。また、図8(f)及び(h)では、封入体がOPTN免疫活性を示した。
【0093】
また、図9(a)〜(d)は、健常者とALS患者との腰部の脊髄前角細胞の免疫染色を比較した図である。図9(a)及び(c)に示すように、健常者の脊髄前角細胞の細胞質は、抗OPTN抗体でかすかに標識された。一方、図9(b)及び(d)に示すように、孤発性のALS患者では、脊髄前角細胞の細胞質及び神経突起においてOPTNの染色度が増加した。
【0094】
ALSのような神経変性疾患では、封入体は疾患特異性がある。このため、ALSの封入体でOPTNが見いだされたこと、しかもこの遺伝子の変異をもたない孤発性のALS患者の細胞において、さらに原因遺伝子が異なるSOD1遺伝子の変異が示されたALS患者の細胞においても、OPTNが見いだされたことは、ALS一般におけるOPTNの異常を示すものである。
【0095】
さらに、運動神経細胞の軸索、神経突起、細胞体において、OPTNの発現上昇が見られた。
【0096】
以上のことから、NF−κBはOPTNの発現を誘導するので、NF−κBのシグナルを制御することにより、OPTNの発現を正常化できる。従って、NF−κB転写因子の活性化を抑制する薬剤は、ALSの治療薬となり得る。
【0097】
(NF−κBの活性抑制)
次に、ルシフェラーゼ検定によりNF−κBの活性を抑制するOPTNの機能について調べた。pDNRベクター(クロンテック社製)にALS患者のOPTNのcDNAを導入した。Lipofectamine 2000(インビトロジェン社製)を用いて、NF−κBレポーター及びOPTN導入のpDNRベクターを、NSC−34細胞に導入した。ルシフェラーゼ活性は、デュアルルシフェラーゼレポーターアッセイシステム(プロメガ社製)を用いて、PBS又はTNF−αにより刺激し、5時間後、測定した。
【0098】
TNF−αによる刺激のあり、なしのそれぞれについて、NF−κBの活性を抑制するOPTNの変異ごとのルシフェラーゼ活性を調べた。図10は、ルシフェラーゼ活性を比較した図である。
【0099】
なお、Q398Xは、OPTNの劣性の変異株であり、E478Gは、OPTNの優性の変異株であり、E50Kは、緑内障を引き起こす変異株である。
また、モック(Mock)は、pDNRベクターである。
また、TNF−は、TNF−αの刺激なし、TNF+は、TNF−αの刺激あり、を示す。
【0100】
同図に示すように、野生型及びE50Kは、NF−κBの活性抑制効果を有した。一方、モック、Q398X及びE478Gは、NF−κBの活性抑制効果を有さなかった。
【0101】
また、図11(a)〜(l)は、OPTNの野生型及び変異型において細胞内局在性を比較した図である。野生型、Q398X、E478G、及び、E50Kのそれぞれについて、FLAGタグ、及び、ゴルジ体の基質をマーカーするGM130、により免疫蛍光染色を行った。
【0102】
なお、FLAGは、図11(a)〜(d)では白色、図11(i)〜(l)では赤色で示した。GM130は、図11(e)〜(h)では白色、図11(i)〜(l)では緑色で示した。
また、図11(i)は、図11(a)及び(e)、図11(j)は、図11(b)及び(f)、図11(k)は、図11(c)及び(g)、図11(l)は、図11(d)及び(h)、をそれぞれ重ね合わせて表示した図である。
【0103】
図11(i)に示すように、野生型のOPTNでは、多くの顆粒状のOPTNがゴルジ体に局在化していた。一方、図11(j)及び(k)に示すように、Q398X及びE478GのOPTNでは、顆粒の数が野生型より減少し、ゴルジ体への局在化もあまり見られなかった。なお、図11(l)に示すように、E50KのOPTNでは、顆粒のサイズが野生型より大きく、ゴルジ体に局在化していた。
【0104】
OPTNは、特に、ゴルジ体に局在化していた。ALS患者の細胞内においては、OPTNが局在化する障害により、機能喪失が起きていた。このため、OPTNの局在化を適正化する、及び/又は、当該局在化によって果たされている機能喪失を補填することにより、ALS疾患を治療することが可能であることが示された。
【0105】
以上のことから、細胞内におけるOPTNの局在化を適正化し、当該局在化によって果たされている機能の喪失を補填する薬剤は、ALSの治療薬となり得る。
【産業上の利用可能性】
【0106】
以上説明したように、本発明に係るALSの診断マーカー、及び、診断方法は、ALSの発症予測、及び、ALSの診断に適用することができる。また、本発明に係るALSの治療薬は、ALSの治療、及び、ALSの発症予防に適用することができる。また、本発明に係るモデル動物、及び、モデル細胞は、ALSの治療薬や治療方法を開発する際に適用することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋萎縮性側索硬化症を診断・治療するのに好適な筋萎縮性側索硬化症の診断マーカー、診断方法、及び、治療薬に関する。また、本発明は、筋萎縮性側索硬化症の治療薬や治療方法を開発するのに好適なモデル動物、及び、モデル細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis;以下「ALS」という)は、脊髄、脳幹、及び、大脳皮質において運動ニューロンが次第に変性する致死性の疾患である。ALSには、遺伝性のタイプと、遺伝性が認められない後発的な孤発性のタイプと、が知られている。遺伝性のALSは症例の10%程度であり、孤発性のALSは症例の90%程度である。非特許文献1には、遺伝性のALSの原因とされる遺伝子(例えば、TDP−43、FUS/TLS)が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Rethinking ALS: The FUS about TDP-43, Cell 136, March 20, 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、遺伝性のALSのうち、TDP−43やFUS/TLSは、原因の20〜30%にとどまっており、また、孤発性のALSの原因とされる遺伝子についても、原因の探索が望まれている。このため、ALSの遺伝子診断を行うために好適な新たな手法が求められている。また、ALSを治療するための治療薬や治療方法を効率的に開発するのに好適なモデル動物、及び、モデル細胞が求められている。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、筋萎縮性側索硬化症を診断・治療するのに好適な筋萎縮性側索硬化症の診断マーカー、診断方法、及び、治療薬を提供することを目的とする。また、本発明は、筋萎縮性側索硬化症の治療薬や治療方法を開発するのに好適なモデル動物、及び、モデル細胞を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の第1の態様である、筋萎縮性側索硬化症の診断マーカーは、
ヒト10番染色体 OPTN(Optineurin)遺伝子領域に変異を有する塩基配列からなる核酸を含むことを特徴とする。
【0007】
前記OPTN遺伝子領域のうち、13207995領域、及び/又は、13214104領域に示される塩基が変異した塩基を有する、ことも可能である。
【0008】
前記13207995領域の塩基がシトシンからチミンに、また、前記13214104領域の塩基がアデニンからグアニンに、変異している、ことも可能である。
【0009】
本発明の第2の態様である、筋萎縮性側索硬化症の診断方法は、
被験者から試料を採取して、当該試料から核酸を単離する単離工程と、
前記単離された核酸から、ヒト10番染色体 OPTN(Optineurin)遺伝子領域に示される塩基を検出する検出工程と、
前記検出された塩基が、変異しているか否かを判定する判定工程と、を備える、ことを特徴とする。
【0010】
前記判定工程では、前記OPTN遺伝子領域のうち、13207995領域においては、塩基がシトシンからチミンに変異しているか、又は、13214104領域においては、塩基がアデニンからグアニンに変異しているか、を判定する、ことも可能である。
【0011】
本発明の第3の態様である、筋萎縮性側索硬化症の治療薬は、
ヒト10番染色体 OPTN(Optineurin)遺伝子領域に示される塩基が変異している際に、当該塩基のリードスルーを誘導することを特徴とする。
【0012】
前記OPTN遺伝子領域のうち、13207995領域に示される塩基のリードスルーを誘導する、ことも可能である。
【0013】
本発明の第4の態様である、筋萎縮性側索硬化症の治療薬は、
NF−κB転写因子の活性化を抑制することを特徴とする。
【0014】
本発明の第5の態様である、筋萎縮性側索硬化症の治療薬は、
細胞内におけるヒト10番染色体 OPTN(Optineurin)遺伝子の局在化を適正化する、及び/又は、当該局在化によって果たされている機能の喪失を補填することを特徴とする。
【0015】
前記細胞のうち、ゴルジ体に機能する、ことも可能である。
【0016】
本発明の第6の態様である、筋萎縮性側索硬化症を発症するモデル動物は、
ヒト10番染色体 OPTN(Optineurin)遺伝子領域に示される塩基が変異した塩基を含むDNA断片、及び/又は、発現ベクターを導入してなることを特徴とする。
【0017】
本発明の第7の態様である、筋萎縮性側索硬化症を発症するモデル細胞は、
筋萎縮性側索硬化症を発症するモデル動物から採取されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ALSの遺伝子診断を行うことができる。また、ALSの治療を行うことができる。さらに、ALSの治療薬や治療方法を開発することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】OPTN遺伝子領域の構造を模式的に示す図である。
【図2】ヒト10番染色体 13207992〜13208000領域における健常者とALS患者との塩基配列の変異を比較した図である。
【図3】ヒト10番染色体 13214100〜13214108領域における健常者とALS患者との塩基配列の変異を比較した図である。
【図4】遺伝性ALSと孤発性ALSとにおける共有するハプロタイプを示す図である。
【図5】健常者とALS患者とのOPTNの発現を比較した図である。
【図6】RT−PCRにより増幅されたOPTNの発現量を比較した図である。
【図7】(a)〜(m)は、封入体の免疫染色を示す図である。
【図8】(a)〜(h)は、脊髄を示す図である。
【図9】(a)〜(d)は、健常者とALS患者との腰部の脊髄前角細胞の免疫染色を比較した図である。
【図10】ルシフェラーゼ活性を比較した図である。
【図11】(a)〜(l)は、OPTNの野生型及び変異型において細胞内局在性を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(ALSの診断マーカー)
発明の第1の態様であるALSの診断マーカーについて説明する。本診断マーカーは、特定の一塩基変異多型を検出して特定することにより、ALSの発症を予測、及び、診断する指標として使用される。
【0021】
まず、一塩基変異多型(Single Nucleotide Polymorphism;以下「SNP」という)について説明する。SNPは、ヒトゲノムの塩基配列を比較すると、一塩基が変異した多様性が見られ、個人毎に異なる箇所が存在する遺伝的変異である。
【0022】
SNP部位は、ヒトゲノム中に数百万箇所あると考えられている。これらのSNPには、タンパク質の発現調節又は機能等に影響を与えるものがあり、体質や疾病に対する易罹患性等の個人差に関与しているものがあると知られている。従って、SNPに関する情報を得ることによって、個人の体質や遺伝病といった診断を行うことができる。
【0023】
次に、ALSの診断マーカーとして使用されるSNPについて示す。なお、塩基配列は、UCSC Genome Bioinformatics(UCSC Genome Browser on Human Mar. 2006 Assembly (hg18))に基づくものである。
【0024】
図1は、OPTN(Optineurin)遺伝子領域の構造を模式的に示す図である。ヒト10番染色体 13182088〜13220282領域の塩基配列から構成されるOPTN遺伝子は、同図に示すように、1から16のエクソン(Exon)からなり、そのタンパク翻訳領域は4から16のエクソンからなる。遺伝的変異(SNP)は、12から14の間のエクソンに存在する。本診断マーカーとして使用されるSNPは、当該OPTN内に存在する。
【0025】
配列表の配列番号1は、健常者のヒト10番染色体 13207992〜13208000領域に示される塩基配列である。また、配列表の配列番号2は、ALS患者のヒト10番染色体 13207992〜13208000領域(配列番号1と同一の領域)に示される塩基配列である。
【0026】
これらの塩基配列のうち、13207995領域の塩基が変異している場合、ALSを発症する可能性がある。13207995領域の塩基は、配列番号1及び2に示すように、ALS患者ではシトシン(C)からチミン(T)に変異している。
【0027】
次に、配列表の配列番号3は、健常者のヒト10番染色体 13214100〜13214108領域に示される塩基配列である。また、配列表の配列番号4は、ALS患者のヒト10番染色体 13214100〜13214108領域(配列番号3と同一の領域)に示される塩基配列である。
【0028】
これらの塩基配列のうち、13214104領域の塩基が変異している場合、ALSを発症する可能性がある。13214104領域の塩基は、配列番号1及び2に示すように、ALS患者ではアデニン(A)からグアニン(G)に変異している。
【0029】
当該塩基が変異すると、機能的なタンパク質が合成されないため、または異常なタンパク質が産生されるため、ALSが発症する原因の一つとなる。従って、13207995領域の塩基、及び/又は、13214104領域の塩基が、変異しているか否かを検出して特定することにより、ALSの発症を予測、及び、診断することができる。すなわち、当該塩基の変異は、ALSを診断するためのマーカーとして有用である。
【0030】
なお、13207995領域及び13214104領域のうち、どちらか一方の塩基が変異している場合、また、両方の塩基が変異している場合であっても、ALSの診断マーカーとなり得る。
【0031】
また、本診断マーカーは、遺伝性のALSと、遺伝性が認められない後発的な孤発性のALSと、の両方のALSを診断する指標となり得る。
【0032】
また、本診断マーカーは、ヒト10番染色体 13207995領域の塩基または13214104領域の塩基を同一染色体上に有するハプロタイプであってもよい。
【0033】
また、13207995領域及び/又は13214104領域の遺伝子に基づく、cDNA、RNA、mRNA、DNA類似体、RNA類似体、アミノ酸、及び、タンパク質についても、ALSの診断マーカーとなり得る。
【0034】
また、13207995領域、及び、13214104領域に示される塩基の変異は、OPTN内の遺伝子変異の一例であり、あらゆるOPTNの遺伝子変異が、ALSの診断マーカーとなり得る。
【0035】
上記実施の形態により説明される診断マーカーは、本願発明を限定するものではなく、例示することを意図して開示されているものである。本願発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載により定められるものであり、当業者は、特許請求の範囲に記載された発明の技術的範囲において種々の設計的変更が可能である。
【0036】
(ALSの診断方法)
次に、本発明の第2の態様であるALSの診断方法について説明する。被験者から試料を採取して、上述の塩基の変異(SNP)を検出して特定することにより、ALSの診断を行うことができる。
【0037】
まず、被験者から試料が採取される。被験者から試料を採取する方法は、通常の公知の方法が用いられ、例えば、市販のDNAを採取するためのキットを使用することもできる。採取方法は限定されず任意である。被験者の試料は、例えば、血液、髄液、唾液などの体液、又は、口腔粘膜、頭髪などの組織であり、上述のSNPを検出することができる試料であれば任意である。また、試料の量は、上述のSNPが検出できる量であれば任意である。
【0038】
次に、被験者の試料から核酸が単離される。ここで、核酸とは、DNAもしくはRNAであり、DNAを鋳型にPCR(Polymerase Chain Reaction)法などにより目的の領域を増幅したDNA断片も含まれる。核酸を単離する方法は限定されず任意である。例えば、後述するSNPの検出方法に適するように、DNAを単離することもできる。また、上述のSNPは、図1に示すように、エクソンの12から14の間にあるため、当該間のDNAのみを単離することもできる。
【0039】
次に、DNA等から上述のSNPが検出される。SNPの検出方法は、上述のSNPを検出して、特定できる方法であれば任意である。具体的には、PCR(Polymerase Chain Reaction)法、PCR−SSP(Sequence Specific Primers)法、PCR−RFLP(Restriction Fragment Length Polymorphism)法、PCR−SSCP(Single Strand Conformation Polymorphism)法、ダイレクトシーケンス法、ASO(Allele Specific Oligonucleotide)ハイブリダイゼーション法、DGGE(変性剤濃度勾配ゲル電気泳動)法、RNaseA切断法、化学切断法、DOL(Dye-labeled Oligonucleotide Ligation)法、インベーダー法、TaqMan(登録商標)−PCR法、MALDI−TOF/MS(Matrix-Assisted Laser Desorption Ionization-Time-of-Flight Mass Spectrometry)法、TDI(Template-directed Dye-terminator Incorporation)法、モレキュラー・ビーコン法、ダイナミック・アレルスペシフィック・ハイブリダイゼーション法、パドロック・プローブ法などをあげることができる。本実施形態においては、これらのSNPの検出方法を単独で用いても、二つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
そして、13207995領域においては、塩基がシトシンからチミンに変異しているか、また、13214104領域においては、塩基がアデニンからグアニンに変異しているか、が判定される。当該塩基が変異している場合、機能的なタンパク質が合成されないため、または異常なタンパク質が産生されるため、ALSが発症する原因の一つとなる。
【0041】
以上の処理により、ALSの発症を予測、及び、診断することができる。
【0042】
(ALSの治療薬)
次に、本発明の第3〜第5の態様であるALSの治療薬について説明する。
【0043】
上述のように、13207995領域の塩基が、シトシンからチミンに変異した場合に、ALSが発症する可能性がある。13207995領域の塩基は、対応するアミノ酸(とtRNA)がなく、最終産物であるタンパク質の生合成を停止させるために使われている終止コドン(ナンセンスコドン)である。変異により遺伝子内で未熟終止コドンが生じると、機能的なタンパク質が合成されずに、遺伝子欠損症状を呈するようになる。
【0044】
ALSの場合、たった1か所に未熟終止コドンが生じただけで、あたかも遺伝子全体が欠損したような致死的な症状を呈するようになる。このため、未熟終止コドンである当該チミンを選択的に読み飛ばすことによって、機能的なタンパク質合成が可能となる。すなわち、13207995領域の塩基のリードスルーを誘導する薬剤をALS患者に投与することにより、ALSを治療することができる。
【0045】
ここで、リードスルーとは、ナンセンスコドンと終結因子との結合を弱め、ナンセンスコドンとどれかのtRNAとの結合を促し、新たにアミノ酸を伸長させて、タンパク質の合成を進行させることをいう。
【0046】
ALSの治療薬としては、例えば、PTC124、ゲンタマイシンがあげられるが、13207995領域の塩基のナンセンスコドンを選択的に読み飛ばすことができるリードスルー活性を有する物質であれば任意である。
【0047】
また、13207995領域の塩基が、シトシンからチミンに変異した場合に、ALSが発症する可能性がある。13214104領域においては、塩基がアデニンからグアニンに変異している場合に、ALSが発症する可能性がある。13207995領域の変異は、RIP1(Receptor Interacting Protein 1)の結合部位を失い、13214104領域の塩基は、ユビキチン結合部位に変異を来し、RIP1の結合が抑制される。13207995領域と13214104領域の変異は、RIP1を介したNF−κBの抑制作用を失う。
【0048】
NF−κBは、免疫反応において中心的役割を果たす転写因子の一つであり、OPTNとRIP1の結合が喪失または低下することにより、NF−κBの抑制作用が失われる。すなわち、当該変異によって、NF−κBは活性化される。
【0049】
このため、NF−κB転写因子の活性化を調整(抑制)する薬剤をALS患者に投与することにより、ALSを治療することができる。
【0050】
ここで、NF−κB転写因子とは、Relホモロジードメインを有する5つのタンパク質(p50, p52, p65(RelA), c-Rel, RelB)のヘテロもしくはホモ2量体で構成される転写因子である。
【0051】
ALSの治療薬としては、例えば、NF−κB転写因子阻害剤であるPDTC(Pyrrolidine dithiocarbamate)、ボルテゾミブ、DHMEQ(Dehydroxymethylepoxyquinomicin)、があげられるが、NF−κB転写因子阻害作用を有する物質であれば任意である。
【0052】
また、ALSは、細胞内においてOPTNの局在化の障害によって、機能喪失が起きることにより、発症する。変異OPTNは、例えば、ゴルジ体に局在しないことにより、ゴルジ体が果たす機能を喪失させる。このため、細胞内におけるOPTNの局在化を適正化する、及び/又は、当該局在化によって果たされている機能の喪失を補填することにより、ALSを治療することができる。
【0053】
ALSの治療薬の剤形は、内服薬、注射薬、座薬、吸入薬などを挙げることができる。当該治療薬は、常法に従って、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤等の医薬の製剤技術分野において通常使用し得る既知の補助剤を用いて、経口投与、組織内投与(皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与など)、局所投与(経皮投与など)、経直腸的投与などに適した剤型に製剤化することができる。
【0054】
また、上述の補助剤のほか、必要に応じて着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤などの補助剤、及び、他の医薬品を含有させることもできる。当該治療薬は、これらの投与方法に適した剤型で投与されることは当然である。治療薬の用量は任意であり、年齢、体重などの患者の状態、投与経路などを考慮した上で決定することができる。
【0055】
(モデル動物・モデル細胞の作製)
次に、本発明の第6及び第7の態様である、ALSの治療法を確立及び評価するためのモデル動物、及び、モデル細胞の作製方法について説明する。なお、13207995領域の変異を、「変異1」といい、13214104領域の変異を、「変異2」という。
【0056】
単離されたALSの原因遺伝子OPTNの変異のうち、劣性変異である変異1については、ノックインマウス及びノックアウトマウスを作製して、ホモ接合の個体で評価を行う。一方、優性変異である変異2については、ノックインマウス及びトランスジェニックマウスを作製して、ヘテロ接合の個体で評価を行う。
【0057】
なお、モデル動物としては、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウシ及びサル等を例示することができるが、実験動物としての汎用性や利便性を考慮してマウス、ラットであることが好ましく、マウスであることが特に好ましい。
【0058】
また、マウスには特に限定はなく公知のマウスを使用することができるが、トランスジェニックマウスの作製が容易であること、汎用性があること、及び、遺伝子背景等の情報が豊富であること等の観点から、BDF1/C57BL/6N系であることが特に好ましい。
【0059】
(トランスジェニックマウス)
優性変異である変異2については、その発現量がALSの重症度に及ぼす影響を検討するため、トランスジェニックマウスの作製を行なう。遺伝子OPTN本来のプロモーターの基で、変異2を発現するトランスジェニックマウスについても作製を行う。
【0060】
まず、遺伝子OPTNのプロモーターを単離し、このプロモーターにヒトの変異2を有するヒトcDNA及びpolyAをつないだコンストラクトを作製する。次に、当該コンストラクトをマウス受精卵に注入し、トランスジェニックマウスを作製する。神経特異的発現として、Thy−1プロモーターにヒトの変異2を有するヒトcDNA及びpolyAをつないだコンストラクトを作製して、トランスジェニックマウスを作製する。
【0061】
遺伝子のOPTN変異はいずれもNF−κB活性を上昇させることにより神経細胞死を誘導すると考えられる。このため、NF−κB活性を上昇させる変異を含むコンストラクト、たとえば、OPTN遺伝子のプロモーターにIkkβの構成的活性突然変異体(constitutive active mutant)をつないだコンストラクトを作製してマウスに導入することにより、ALSを発症するマウスを作製する。
【0062】
(ノックインマウス及びノックアウトマウス)
変異1及び変異2は、マウスOPTN遺伝子のエクソン10及びエクソン12にあるため、上流のエクソンであるマウスエクソンで変異1または変異2を有するヒトOPTN遺伝子cDNAと組換えを行なう。このつなぎ換えた遺伝子をES細胞に相同組替えで導入する。マウスES細胞に電気穿孔法(Electroporation)により導入し、得られたG418耐性コロニーからDNAを抽出し、PCR及びサザンブロット法により相同組換えクローンを選別する。Neo遺伝子の遺伝子Xへの発現の影響の可能性を避けるため、Neo遺伝子はあらかじめloxP遺伝子で挟んでおき、相同組換えクローンが得られた後に、Creリコンビナーゼにより除去する。このESクローンをマウス受精卵胚盤胞にマイクロ・インジェクションし、キメラマウスを得て、通常マウスとの交配によりヘテロマウスを得る。変異2については優性変異と考えられるため、ヘテロマウスで観察を行なう。変異1については劣性変異と考えられるため、ヘテロマウス同士の交配によりホモマウスを作製し観察を行なう。劣性変異に関しては、ノックアウトマウスを作製する。マウスOPTN遺伝子のエクソンを一部または全部欠損させたものをマウスES細胞に相同組替えで導入し、得られたG418耐性コロニーからDNAを抽出し、PCR及びサザンブロット法により相同組換えクローンを選別する。このESクローンをマウス受精卵胚盤胞にマイクロ・インジェクションし、キメラマウスを得て、通常マウスとの交配によりヘテロマウスを得る。ヘテロマウス同士の交配によりホモマウスを作製し観察を行なう。
【0063】
なお、組み換え遺伝子をモデル動物へ導入する方法としては、特に限定はなく、例えば、誘導体の遺伝子を導入した発現ベクターを用いて、マイクロ・インジェクション法、リポフェクション法、又は、レトロウィルスベクターに外来遺伝子を組み込んで感染させる方法により遺伝子を導入することもできる。いずれの公知の方法によっても、該当遺伝子を受精卵に導入することができる。
【0064】
突然変異を引き起こすエチルニトロソウレアなどをマウスに投与し、人為的に突然変異を誘発したマウスのライブラリーから、OPTN遺伝子の塩基配列に変異を持ったマウスを選び出し、長期飼育及び交配により、ALSを発症するマウスを作製する。
【0065】
これらのマウスのALSの発症は、歩行、筋力などの行動評価及び生存率、病理評価で確認し、また、ALSに対する治療薬の開発、評価にも、同様な項目及び発症時期、病勢進行程度を評価し、ALSの発症、進展抑制にかかわる化学物質の評価を行う。またモデル動物より、運動神経細胞または組織標本(たとえば、脊髄)を取り出し、細胞培養、器官培養により、神経細胞死を評価し、薬物の効果を判定する。
【0066】
(モデル細胞)
上記のモデル動物からとられた細胞、器官培養に加えて、患者皮膚からの線維芽細胞及びそれをSV40ウイルス及びテロメレースより不死化させた細胞株、末梢血よりEBウイルスにより不死化させたB細胞株等を用いて、アポトーシス、ネクローシス等の細胞死を引き起こす刺激(たとえば、TNF−α及びそれに加えて、カスパーゼの抑制剤、またはH202のように活性化酸素、フリーラディカルを産生するもの)に対し、防御的に働く物質を、細胞の生存率を指標にして、評価・探索する。
【0067】
また、患者皮膚等より得られた遺伝子変異を有する細胞に対して、公知の方法により、iPS細胞を作製し、運動神経細胞に分化させ、運動神経細胞死を誘導する系を作製し、これを防御する物質を探索、評価する。
【0068】
以上により、モデル動物及びモデル細胞にALSを発症させることができる。また、ALSを発症したモデル動物及びモデル細胞を利用することにより、有効な治療薬や治療方法を開発することができる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0070】
(ALS患者の診断)
健常者、遺伝性のALS患者及び孤発性のALS患者について、ヒト10番染色体 13207995領域の塩基、及び、13214104領域の塩基の変異を調べた。
【0071】
まず、健常者及びALS患者から、市販のDNAを採取するためのキットを使用してDNAを採取した後、GeneChip Human Mapping 500Kアレイセット(Affymetrix社製)を用いて、ゲノム探索を行った。
【0072】
なお、所定のプライマーにより、エクソン4〜16までのエクソンごとに、すべて増幅し塩基配列を決定することにより変異を同定したが、以下では、エクソン12及び14について記載する。
【0073】
配列表の配列番号5〜8に示すプライマーにより、OPTNを含むDNA断片をPCRで増幅した。増幅したDNA断片を直接塩基決定法で塩基配列を決定し、当該塩基の変異を同定した。同定した後は、エクソン12に関しては、制限酵素MseIで切断して、2%アガロースゲル電気泳動により切断されたDNA断片の大きさを解析し、その長さの違いにより、当該塩基の変異を判定した。
【0074】
なお、配列番号5及び7は、フォワードプライマーを示し、配列番号6及び8は、リバースプライマーを示すものである。配列番号5及び6のプライマーはエクソン12側と、配列番号7及び8のプライマーはエクソン14側と、反応して、OPTN遺伝子のエクソン12とエクソン14を含むDNA断片を増幅した。
【0075】
図2は、健常者とALS患者とにおけるヒト10番染色体 13207992〜13208000領域の塩基配列の変異を比較した図である。また、図3は、健常者とALS患者とにおけるヒト10番染色体 13214100〜13214108領域の塩基配列の変異を比較した図である。なお、図2に示されるALS患者は、常染色体劣性形質のある突然変異を有するALS患者であり、図3に示されるALS患者は、常染色体優性形質のある突然変異を有するALS患者である。
【0076】
図2に示すように、健常者(Normal)の13207995領域の塩基は、シトシン(C)であり、遺伝性のALS患者及び孤発性のALS患者の当該塩基は、チミン(T)に変異していた。
【0077】
また、図3に示すように、健常者(Normal)の13214104領域の塩基は、アデニン(A)であり、遺伝性のALS患者の当該塩基は、グアニン(G)に変異していた。
【0078】
以上の結果から、13207995領域、及び、13214104領域の塩基が変異している場合、ALSを発症することが判明した。また、当該塩基の変異を調べることにより、遺伝性及び孤発性のどちらのALSについても、診断することができた。
【0079】
次に、図4は、遺伝性ALSと孤発性ALSとにおいて共有されるハプロタイプを示す図である。同図に示すように、遺伝性ALS及び孤発性ALSそれぞれについて、ヒト10番染色体の13.0Mb〜13.9Mb領域に共有のハプロタイプが存在した。
【0080】
また、図3に示されるALS患者において、ヒト10番染色体 11460985〜13703017領域までの約2.3Mb領域に共有のハプロタイプが存在した。
【0081】
ハプロタイプが、1.0Mb領域以上も偶然に共有されていることはまれである。このため、当該ハプロタイプ内における塩基の変異を調べることにより、遺伝性及び孤発性のどちらのALSについても、診断することができた。
【0082】
(OPTNの発現)
次に、13207995領域の変異に関して、ウェスタンブロット法により、OPTNと対応する74kDaを示す転写リンパ芽球の溶解物を用いて、OPTNの発現を調べた。遺伝性ALS患者については、EBウイルスにより不死化させたBリンパ球により細胞溶解物を処理した。また、健常者については、通常のプロトコルを用いた。
【0083】
図5は、健常者とALS患者とのOPTNの発現を比較した図である。同図では、左から、健常者(左から3番目に示される遺伝性ALS患者の血縁者)、健常者(左から3番目に示される遺伝性ALS患者の血縁者)、遺伝性ALS患者、孤発性ALS患者、健常者の順番で、各発現を示した。OPTN(Cayman Chemical社製)のC末端部分と抗ウサギIgG−HRP抗体(R&D Systems社製)とを認識するポリクローナル抗体を使用した。また、コントロールとして、GAPDH(Glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase)に対するポリクローナル抗体(IMGENEX社製)を使用した。
【0084】
同図に示すように、遺伝性ALS患者及び孤発性ALS患者については、74kDa領域に発現は見られなかった。一方、健常者については、発現が見られた。すなわち、ALS患者は、13207995領域の塩基の変異により、OPTNが発現しないことが判明した。従って、ウェスタンブロット法により、ALSの診断を行うことができた。
【0085】
また、図6は、健常者と孤発性ALS患者の培養細胞において、シクロヘキシミドを加えた場合と加えない場合の、RT−PCR(Reverse Transcription - Polymerase Chain Reaction)により増幅されたOPTNの発現量を比較した図である。同図では、左から順番に、シクロヘキシミドを加えないで培養した健常者のOPTNの発現量、シクロヘキシミドを加えて培養した健常者のOPTNの発現量、シクロヘキシミドを加えないで培養した孤発性ALS患者のOPTNの発現量、シクロヘキシミドを加えて培養した孤発性ALS患者のOPTNの発現量、について示している。
【0086】
OPTNmRNAを定量するために、THUNDERBIRD SYBR qPCR Mix(東洋紡社製)及びABI 7900HT Fast Real Time PCR system(Applied Biosystems社製)を用いて、RT−PCRを行った。また、配列表の配列番号9及び10に示されるプライマーを使用することにより、OPTNを含むDNA断片をRT−PCRで増幅した。また、RNAを抽出する前、EBウイルスにより不死化させたBリンパ球を、シクロヘキシミド(σ、100 μg/ml)により、2時間処理した。
【0087】
同図に示すように、シクロヘキシミドを加えない場合、健常者と比較して孤発性ALS患者では、OPTNの発現量が13.8%に減少していた。つまり、孤発性ALS患者のmRNAには変異が存在するため、翻訳が早期に終了することにより、孤発性ALS患者のOPTNの発現量が、健常者と比較して減少していた。従って、OPTNの発現量を比較することにより、ALSの診断を行うことができた。
【0088】
また、孤発性ALS患者のように、mRNAに変異が存在する場合では、リンパ芽球におけるナンセンス変異依存mRNA分解機構(Nonsense-mediated mRNA decay;NMD)の作動により、mRNAが分解されるため、OPTNの発現量が減少すると考えられる。そこで、アミノ酸配列に変異を伴うmRNAの減少を、正常な状態に戻すことができるシクロヘキシミドを加えて、RT−PCR増幅を行った。同図に示すように、孤発性ALS患者において、シクロヘキシミドを加えた場合と加えない場合とでは、OPTNの発現量が大きく違っていた。これは、シクロヘキシミドを加えることによりNMDの作動が抑制されて、mRNAの分解が阻害されたために、孤発性ALS患者のOPTNが、健常者と同様に発現したためである。従って、シクロヘキシミドのようなNMD阻害薬は、ALSの治療薬となり得ることが示された。
【0089】
(封入体の免疫染色)
次に、遺伝性及び孤発性ALS患者における抗OPTN抗体によって免疫標識された細胞質内の封入体を調べた。図7(a)〜(m)は、封入体の免疫染色を示す図である。
【0090】
なお、OPTN−Cはマウス・モノクローナル抗体、OPTN−Iはウサギ・ポリクローナル抗体、TDP−43及びSOD1は、マウス・モノクローナル抗体及びウサギ・ポリクローナル抗体からなる抗体、Ubはユビキチン、H&Eはヘマトキシリン&エオジンである。
【0091】
図7(a)、(b)、(d)、及び(e)に示すように、孤発性のALS患者における好酸球性の硝子様封入体は、OPTN免疫活性を示した。また、図7(c)及び(f)に示すように、図7(a)及び(b)と同一部位の封入体において、ユビキチン(Ub)活性を示した。また、図7(g)に示すように、抗OPTN抗体で染まる異常線維構造が見られ、また、図7(h)に示すように、抗ユビキチン抗体にも同様に、異常線維構造が染色された。また、図7(i)及び(j)に示すように、TDP−43抗体の免疫染色は、OPTN抗体の免疫染色より、異常線維構造がより明確に染色された。また、図7(k)〜(m)に示すように、SOD1免疫活性陽性であるLewy小体類似硝子様封入体についても、OPTN免疫活性陽性であった。
【0092】
また、図8(a)〜(h)は、脊髄を示す図である。図8(a)及び(c)に示すように、遺伝性のALS患者における脊髄前角では運動ニューロンが消失していた。また、図8(a)及び(b)に示すように、皮質脊髄路からミエリンが消失していた。また、図8(d)に示すように、脊髄前角細胞のOPTN免疫染色では、運動ニューロンの細胞質の染色強度が増加し、絡み合う神経突起は抗体に対して反応を示した。また、図8(e)に示すように、運動ニューロンの細胞質には不定形の好酸性の領域があった。また、図8(f)に示すように、図8(e)と同一のニューロンでは、同じ部位が抗OPTN抗体で染色された。また、図8(g)に示すように、このような好酸性の領域にヒアリン封入体を形成するものも見られた。また、図8(h)に示すように、図8(g)と同一のニューロンの封入体は、抗OPTN抗体で染色された。すなわち、図8(e)及び(g)では、運動ニューロンにおいて細胞質内に好酸性の封入体を認めた。また、図8(f)及び(h)では、封入体がOPTN免疫活性を示した。
【0093】
また、図9(a)〜(d)は、健常者とALS患者との腰部の脊髄前角細胞の免疫染色を比較した図である。図9(a)及び(c)に示すように、健常者の脊髄前角細胞の細胞質は、抗OPTN抗体でかすかに標識された。一方、図9(b)及び(d)に示すように、孤発性のALS患者では、脊髄前角細胞の細胞質及び神経突起においてOPTNの染色度が増加した。
【0094】
ALSのような神経変性疾患では、封入体は疾患特異性がある。このため、ALSの封入体でOPTNが見いだされたこと、しかもこの遺伝子の変異をもたない孤発性のALS患者の細胞において、さらに原因遺伝子が異なるSOD1遺伝子の変異が示されたALS患者の細胞においても、OPTNが見いだされたことは、ALS一般におけるOPTNの異常を示すものである。
【0095】
さらに、運動神経細胞の軸索、神経突起、細胞体において、OPTNの発現上昇が見られた。
【0096】
以上のことから、NF−κBはOPTNの発現を誘導するので、NF−κBのシグナルを制御することにより、OPTNの発現を正常化できる。従って、NF−κB転写因子の活性化を抑制する薬剤は、ALSの治療薬となり得る。
【0097】
(NF−κBの活性抑制)
次に、ルシフェラーゼ検定によりNF−κBの活性を抑制するOPTNの機能について調べた。pDNRベクター(クロンテック社製)にALS患者のOPTNのcDNAを導入した。Lipofectamine 2000(インビトロジェン社製)を用いて、NF−κBレポーター及びOPTN導入のpDNRベクターを、NSC−34細胞に導入した。ルシフェラーゼ活性は、デュアルルシフェラーゼレポーターアッセイシステム(プロメガ社製)を用いて、PBS又はTNF−αにより刺激し、5時間後、測定した。
【0098】
TNF−αによる刺激のあり、なしのそれぞれについて、NF−κBの活性を抑制するOPTNの変異ごとのルシフェラーゼ活性を調べた。図10は、ルシフェラーゼ活性を比較した図である。
【0099】
なお、Q398Xは、OPTNの劣性の変異株であり、E478Gは、OPTNの優性の変異株であり、E50Kは、緑内障を引き起こす変異株である。
また、モック(Mock)は、pDNRベクターである。
また、TNF−は、TNF−αの刺激なし、TNF+は、TNF−αの刺激あり、を示す。
【0100】
同図に示すように、野生型及びE50Kは、NF−κBの活性抑制効果を有した。一方、モック、Q398X及びE478Gは、NF−κBの活性抑制効果を有さなかった。
【0101】
また、図11(a)〜(l)は、OPTNの野生型及び変異型において細胞内局在性を比較した図である。野生型、Q398X、E478G、及び、E50Kのそれぞれについて、FLAGタグ、及び、ゴルジ体の基質をマーカーするGM130、により免疫蛍光染色を行った。
【0102】
なお、FLAGは、図11(a)〜(d)では白色、図11(i)〜(l)では赤色で示した。GM130は、図11(e)〜(h)では白色、図11(i)〜(l)では緑色で示した。
また、図11(i)は、図11(a)及び(e)、図11(j)は、図11(b)及び(f)、図11(k)は、図11(c)及び(g)、図11(l)は、図11(d)及び(h)、をそれぞれ重ね合わせて表示した図である。
【0103】
図11(i)に示すように、野生型のOPTNでは、多くの顆粒状のOPTNがゴルジ体に局在化していた。一方、図11(j)及び(k)に示すように、Q398X及びE478GのOPTNでは、顆粒の数が野生型より減少し、ゴルジ体への局在化もあまり見られなかった。なお、図11(l)に示すように、E50KのOPTNでは、顆粒のサイズが野生型より大きく、ゴルジ体に局在化していた。
【0104】
OPTNは、特に、ゴルジ体に局在化していた。ALS患者の細胞内においては、OPTNが局在化する障害により、機能喪失が起きていた。このため、OPTNの局在化を適正化する、及び/又は、当該局在化によって果たされている機能喪失を補填することにより、ALS疾患を治療することが可能であることが示された。
【0105】
以上のことから、細胞内におけるOPTNの局在化を適正化し、当該局在化によって果たされている機能の喪失を補填する薬剤は、ALSの治療薬となり得る。
【産業上の利用可能性】
【0106】
以上説明したように、本発明に係るALSの診断マーカー、及び、診断方法は、ALSの発症予測、及び、ALSの診断に適用することができる。また、本発明に係るALSの治療薬は、ALSの治療、及び、ALSの発症予防に適用することができる。また、本発明に係るモデル動物、及び、モデル細胞は、ALSの治療薬や治療方法を開発する際に適用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト10番染色体 OPTN(Optineurin)遺伝子領域に変異を有する塩基配列からなる核酸を含むことを特徴とする筋萎縮性側索硬化症の診断マーカー。
【請求項2】
前記OPTN遺伝子領域のうち、13207995領域、及び/又は、13214104領域に示される塩基が変異した塩基を有することを特徴とする請求項1に記載の筋萎縮性側索硬化症の診断マーカー。
【請求項3】
前記13207995領域の塩基がシトシンからチミンに、又は、前記13214104領域の塩基がアデニンからグアニンに、変異していることを特徴とする請求項2に記載の筋萎縮性側索硬化症の診断マーカー。
【請求項4】
筋萎縮性側索硬化症の診断方法であって、
被験者から試料を採取して、当該試料から核酸を単離する単離工程と、
前記単離された核酸から、ヒト10番染色体 OPTN(Optineurin)遺伝子領域に示される塩基を検出する検出工程と、
前記検出された塩基が、変異しているか否かを判定する判定工程と、を備える、
ことを特徴とする筋萎縮性側索硬化症の診断方法。
【請求項5】
前記判定工程では、前記OPTN遺伝子領域のうち、13207995領域においては、塩基がシトシンからチミンに変異しているか、又は、13214104領域においては、塩基がアデニンからグアニンに変異しているか、を判定する、
ことを特徴とする請求項4に記載の筋萎縮性側索硬化症の診断方法。
【請求項6】
ヒト10番染色体 OPTN(Optineurin)遺伝子領域に示される塩基が変異している際に、当該塩基のリードスルーを誘導することを特徴とする筋萎縮性側索硬化症の治療薬。
【請求項7】
前記OPTN遺伝子領域のうち、13207995領域に示される塩基のリードスルーを誘導することを特徴とする請求項6に記載の筋萎縮性側索硬化症の治療薬。
【請求項8】
NF−κB転写因子の活性化を抑制することを特徴とする筋萎縮性側索硬化症の治療薬。
【請求項9】
細胞内におけるヒト10番染色体 OPTN(Optineurin)遺伝子の局在化を適正化する、及び/又は、当該局在化によって果たされている機能の喪失を補填することを特徴とする筋萎縮性側索硬化症の治療薬。
【請求項10】
前記細胞のうち、ゴルジ体に機能することを特徴とする請求項9に記載の筋萎縮性側索硬化症の治療薬。
【請求項11】
ヒト10番染色体 OPTN(Optineurin)遺伝子領域に示される塩基が変異した塩基を含むDNA断片、及び/又は、発現ベクターを導入してなることを特徴とする筋萎縮性側索硬化症を発症するモデル動物。
【請求項12】
請求項11に記載のモデル動物から採取されることを特徴とする筋萎縮性側索硬化症を発症するモデル細胞。
【請求項1】
ヒト10番染色体 OPTN(Optineurin)遺伝子領域に変異を有する塩基配列からなる核酸を含むことを特徴とする筋萎縮性側索硬化症の診断マーカー。
【請求項2】
前記OPTN遺伝子領域のうち、13207995領域、及び/又は、13214104領域に示される塩基が変異した塩基を有することを特徴とする請求項1に記載の筋萎縮性側索硬化症の診断マーカー。
【請求項3】
前記13207995領域の塩基がシトシンからチミンに、又は、前記13214104領域の塩基がアデニンからグアニンに、変異していることを特徴とする請求項2に記載の筋萎縮性側索硬化症の診断マーカー。
【請求項4】
筋萎縮性側索硬化症の診断方法であって、
被験者から試料を採取して、当該試料から核酸を単離する単離工程と、
前記単離された核酸から、ヒト10番染色体 OPTN(Optineurin)遺伝子領域に示される塩基を検出する検出工程と、
前記検出された塩基が、変異しているか否かを判定する判定工程と、を備える、
ことを特徴とする筋萎縮性側索硬化症の診断方法。
【請求項5】
前記判定工程では、前記OPTN遺伝子領域のうち、13207995領域においては、塩基がシトシンからチミンに変異しているか、又は、13214104領域においては、塩基がアデニンからグアニンに変異しているか、を判定する、
ことを特徴とする請求項4に記載の筋萎縮性側索硬化症の診断方法。
【請求項6】
ヒト10番染色体 OPTN(Optineurin)遺伝子領域に示される塩基が変異している際に、当該塩基のリードスルーを誘導することを特徴とする筋萎縮性側索硬化症の治療薬。
【請求項7】
前記OPTN遺伝子領域のうち、13207995領域に示される塩基のリードスルーを誘導することを特徴とする請求項6に記載の筋萎縮性側索硬化症の治療薬。
【請求項8】
NF−κB転写因子の活性化を抑制することを特徴とする筋萎縮性側索硬化症の治療薬。
【請求項9】
細胞内におけるヒト10番染色体 OPTN(Optineurin)遺伝子の局在化を適正化する、及び/又は、当該局在化によって果たされている機能の喪失を補填することを特徴とする筋萎縮性側索硬化症の治療薬。
【請求項10】
前記細胞のうち、ゴルジ体に機能することを特徴とする請求項9に記載の筋萎縮性側索硬化症の治療薬。
【請求項11】
ヒト10番染色体 OPTN(Optineurin)遺伝子領域に示される塩基が変異した塩基を含むDNA断片、及び/又は、発現ベクターを導入してなることを特徴とする筋萎縮性側索硬化症を発症するモデル動物。
【請求項12】
請求項11に記載のモデル動物から採取されることを特徴とする筋萎縮性側索硬化症を発症するモデル細胞。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−67193(P2011−67193A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−58294(P2010−58294)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】
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