説明

筋電インタフェースにおける安全システム

【課題】 始動時の安全技術として、意図しないときにシステムが動作を開始するのを防ぎ、かつ、不随意運動により、意図しないときにシステムが動作を開始するのを防ぎ、かつ、停止時の安全技術として、ノイズが混入してスイッチがOFFできなくても、安全に動作を停止させ、かつ、パニック時に筋電スイッチをOFFにすること無く、壁への衝突直前や段差への転落直前など緊急停止を可能にする。
【解決手段】 筋電の信号強度が閾値を超えるとONになる筋電スイッチの全てが、所定時間、スイッチON状態を維持した後にOFF状態に切り替えることによって動作を開始するよう構成する。また、このユーザ装置を2個以上の筋電スイッチで操作するよう構成し、筋電スイッチの全てがONになった場合にユーザ装置の動作を停止するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋電を用いたユーザインタフェース(筋電インタフェース)の一種である筋電スイッチにおいて,安全な始動と停止を実現するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
筋肉の活動電位(筋電)を検出することによって、例えば、義手(筋電義手)、電動車いす等のユーザ装置を操作することが可能となる。筋電義手を操作するには、基本的に、皮膚表面に筋電センサを接触させ、筋電信号を測定する。そこで、各信号強度が、あらかじめ決められた閾値を越えた場合に、対応する動作が選択される。例えば前腕筋電義手の場合、断端部に残る伸筋群と屈筋群上の皮膚表面に接触させたセンサによって2chの筋電を測定し、屈筋側で測定した筋電の強度が閾値を超えると手先を閉じ、逆に、伸筋側が閾値を越えると手先を開くように構成することができる。
【0003】
「筋電」とは、筋収縮時に観測される生体電位の一種であり、例えば、皮膚表面で表面筋電位として観測される。本明細書において、「筋電インタフェース」とは、筋電を用いて、義手とか電動車いすなどの道具や機械(ユーザ装置)を操作するユーザインタフェースであると定義し、かつ、その筋電インタフェースの一種として,筋電の信号強度が閾値を超えるとオンになるスイッチを、「筋電スイッチ」と定義する。この筋電スイッチは、筋力低下などにより押しボタンスイッチの操作が困難なケースにおいて,代替のインタフェースとして用いることができる。
【0004】
このような筋電スイッチには、始動時及び停止時にそれぞれ問題点がある。始動時には、筋電は数μV〜数mV程度の弱い信号であるため,商用電源(100V)等の外乱ノイズの影響を受けやすい。強い外乱ノイズが混入した場合、意図しないときにスイッチがONになるケースがある。このため、誤動作による重大な危険の伴う恐れのある移動機器などのユーザインタフェースへの適用が困難であった。
また、スイッチ型のユーザインタフェースにおいては,動作を停止するには、以下の2つの方式があるが、それぞれ問題がある。
【0005】
(1)「動作スイッチをOFFにする。」:
筋電スイッチの場合、ノイズの混入により,スイッチをOFFにできないケースがあること、及び、緊急時(パニック時)には力んでしまうためにスイッチをOFFにできないケースがあることの2つの理由により,この方式を用いるのは危険である。このため、以下の方式のように停止用のスイッチを用いる必要がある。
【0006】
(2)「停止用スイッチをONにする。」:
しかしながら,例えば運動機能が限定される障害者用のユーザインタフェースにおいては,停止スイッチを増設するのが困難なケースがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、係る問題点を解決して、始動時の安全技術として、筋電スイッチに外乱ノイズ混入により、意図しないときにシステムが動作を開始するのを防ぎ、かつ、不随意運動により、意図しないときにシステムが動作を開始するのを防ぐことを目的としている。
また、本発明は、停止時の安全技術として、ノイズが混入してスイッチがOFFできなくても、安全に動作を停止させ、かつ、パニック時に筋電スイッチをOFFにすること無く、壁への衝突直前や段差への転落直前など緊急停止を可能にすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の筋電を検出してユーザ装置を操作する筋電インタフェースにおける安全システムにおいて、筋電の信号強度が閾値を超えるとONになる筋電スイッチの全てが、所定時間、スイッチON状態を維持した後にOFF状態に切り替えることによって動作を開始するよう構成する。また、このユーザ装置を2個以上の筋電スイッチで操作するよう構成し、筋電スイッチの全てがONになった場合にユーザ装置の動作を停止するように構成する。
【発明の効果】
【0009】
始動時の安全技術として、筋電スイッチでは外乱ノイズの影響によってスイッチがONになるケースがあるが、本発明を用いることにより、ノイズ混入により、意図しないときにシステムが動作を開始するのを防ぐことができる。また、不随意運動により、意図しないときにシステムが動作を開始するのを防ぐことができる。
停止時の安全技術として、ノイズが混入してスイッチがOFFできなくても、動作が停止するため安全である。また、壁への衝突直前や段差への転落直前など緊急停止が必要な場合に、操作者がパニックに陥り過度に筋肉を緊張することがあり、この場合、筋電スイッチをOFFにすることが困難であるが、本発明では動作を停止するため安全である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、例示に基づき、本発明を説明する。図1は、始動時の安全技術を説明する状態遷移図である。図1において、各楕円の中が各状態を示し,矢印横の括弧{ }内の条件を満たした場合に,矢印に従って次の状態へと遷移する。図1は、1個以上のスイッチを用いる場合の「始動時の安全技術」に関するものであり、図中{ON}と書かれている部分は、すべてのスイッチがON状態を示し、また、それ以外のスイッチ状態を{OFF}と表示している。なお、以下の説明において、スイッチは筋電スイッチを表し、筋電の信号強度が閾値を超えるとONになる。
【0011】
まず、「停止,タイマリセット」状態にあるとする(タイマの時間t=0)。ここで、スイッチがONになった場合に「始動待機,タイマON」状態へ遷移する。
「始動待機,タイマON」状態(t=t+1)で、タイマの時間(t)が制限時間1(T1)よりも小さい状態でスイッチがONである場合と,タイマの時間(t)が制限時間1(T1)以上で制限時間2(T2)より小さい状態でスイッチがONの場合には遷移しない。時間(t)が制限時間1(T1)より小さい状態でスイッチOFFになった場合、「停止、タイマリセット」状態に遷移する。時間(t)が制限時間1(T1)より大きく,かつ制限時間2(T2)よりも小さい場合にスイッチがOFFとなったときは、「始動」状態に遷移してシステムを始動する。時間(t)が制限時間2(T2)以上になった場合,「復帰待機」状態へ遷移する。
【0012】
「復帰待機」では、スイッチがOFFになるまでは、「停止,タイマリセット」状態へは遷移しない。
このように、始動時の安全技術として、1個以上の筋電スイッチで操作するシステムにおいて,一定時間、スイッチON状態を維持した後にOFF状態に切り替えることによって動作を開始する。
次に、2個以上のスイッチを用いる場合の停止時の安全技術について、図2に示す状態遷移図を参照して説明する。図2は、2つの筋電スイッチで操作するユーザ装置(電動車いす)の動作を決定する状態遷移図の例を示している。
【0013】
図2において、各楕円の中が各状態を示し、矢印横の括弧内の条件を満たした場合に、矢印に従って次の状態へと遷移する。前進,左回旋,右回旋,左前進,右前進の各状態から、2つの筋電スイッチをともにONにすることにより,停止状態に遷移して動作をとめることができる。このように、2個以上の筋電スイッチで操作するシステムにおいて,全スイッチがONになった場合に動作を停止するように構成されている。
【0014】
(1)今、図2に示す「停止1」状態にあるとする。
・2個のスイッチがともにONになると「始動待機」状態に遷移する。
・2個のスイッチがともにOFFでは「停止1」状態を維持する。
・片方のスイッチがONになった場合は、右、または左に回旋する。
【0015】
(2)「始動待機」状態に遷移したとする。
・図1を参照して説明したのと同様に、2つのスイッチが共に、{ON、ON} を制限時間T1(例えば、0.5秒)以上維持し、制限時間T2(例えば、2秒)以内に{OFF、OFF} になった場合、「前進」状態に遷移する。
・それ以外の場合は「停止2」状態へ遷移する。
【0016】
(3)上記停止1状態から、「右回旋」或いは「左回旋」状態に遷移したとする。
・同じスイッチ状態を維持すれば、そのまま「右回旋」「左回旋」を維持する。
・それ以外にスイッチが変化した場合、即ち、2つのスイッチが共にOFFになった場合だけでなく、共にONになった場合にも、「停止1」状態に遷移して停止する(停止時の安全技術)。
【0017】
(4)始動待機状態から「停止2」状態に遷移したとする。
・スイッチが{OFF、OFF}になった場合のみ「停止1」状態に遷移する。
・それ以外は「停止2」状態を維持する。
【0018】
(5)「前進」状態にあるとする。
・スイッチが{OFF、OFF}の場合には「前進」状態を維持する。
・片方のスイッチがONになった場合には、「右前進」または「左前進」に遷移する。
・スイッチが{ON、ON}の場合は「停止1」に遷移する(停止時の安全技術)。
【0019】
(6)「右前進」「左前進」状態にあるとする。
・同じスイッチ状態を維持すれば、そのまま「右前進」か「左前進」を維持する。
・それ以外にスイッチが変化した場合には、「停止1」に遷移して停止する(停止時の安全技術)。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】始動時の安全技術を説明する状態遷移図である。
【図2】2個以上のスイッチを用いる場合の停止時の安全技術を説明する状態遷移図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筋電を検出してユーザ装置を操作する筋電インタフェースにおける安全システムにおいて、
筋電の信号強度が閾値を超えるとONになる筋電スイッチの全てが、所定時間、スイッチON状態を維持した後にOFF状態に切り替えることによって動作を開始するよう構成した、
ことから成る安全システム。
【請求項2】
前記ユーザ装置を2個以上の筋電スイッチで操作するよう構成し、筋電スイッチの全てがONになった場合にユーザ装置の動作を停止するように構成した請求項1に記載の安全システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−195592(P2007−195592A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−14592(P2006−14592)
【出願日】平成18年1月24日(2006.1.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度文部科学省「科学技術振興調整費 障害者の安全で快適な生活の支援技術の開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】