説明

筋電位測定義手用アームカバー

【課題】筋電位を確実に測定することができ、身体の動きに追従する柔軟性を有すると共に、検出電極部に接続する配線が所定の位置から離脱して露出するようなことがない筋電位測定義手用アームカバーの提供。
【解決手段】筋電位を測定する検出電極部3と、該検出電極部3からの信号を伝送する配線2と、該配線2を織り込んだテキスタイル1とが少なくとも備えられたことを特徴とする筋電位測定義手用アームカバー10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋肉の活動電位(以下、筋電位)によって操作可能な義手用の筋電位測定義手用アームカバー(筋電位測定義手用テキスタイル配線)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
筋電位によって操作可能な筋電義手は1960年代から研究されており、既に実用化されているものも多く存在する。例えば、欧米では年間数千本の単位で支給されており、標準的な義手の一つとして位置付けられている。この筋電位を測定するための手法としては、身体の表面に貼付した電極によって、筋肉より導電体である体組織を介して皮膚の表面に伝えられる筋電位を捕らえる手法が広く用いられている。特に、前腕義手の場合には、断端部に残る伸筋群と屈筋群上の皮膚表面に接触させた電極によって、2チャンネル(以下、2ch)の筋電位を測定し、屈筋側で測定した筋電位の強度が閾値を超えると手先を閉じ、逆に、伸筋側の筋電位の強度が閾値を超えると手先が開くような構造となっている。
【0003】
このような複数の電極を一体化してなる筋電位測定用の電極装置として、例えば、特許文献1には、電極支持部材として矩形状のプレート(例えば、平板状のセラミック基板)の片面の中央部付近に、2個の検出用電極を所定間隔で取付け、かつプレートの片面の外周縁部に、前記2個の検出用電極を取り囲むように環状の接地電極(基準電極)を設けてなる筋電位測定電極が提案されている。そして、前記各電極としては、可とう性材料の表面にめっきを施した構造のものや、各電極をフレキシブル基板に導電パターンとして形成した構造の記載がある。
【0004】
また、特許文献2には、身体表面に沿いえる柔軟性を備えたシート状の電極支持部材(好ましくはタオル地の布)の表面に、所要の個数の接地電極を配列して設け、かつ該設置電極の列の両側に、複数個づつ配列してなる第1検出電極と第2検出電極の列を等間隔に平行に設け、上記配列された第1検出電極と第2検出電極を、該各電極の列ごとにそれぞれ外部接続用配線に直列に導通させる構成にした筋電位測定電極装置が提案されている。
図11として示したような構造のもので、タオル地等のベルトの内側に筋電位計測用電極装置が取付けられ、各電極が内側表面に露出するように構成されたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−169781号公報
【特許文献2】特開2007−159722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の筋電位測定電極では、検出電極や接地電極がいずれもプレートに支持された構成のため、身体の動きに伴って皮膚表面の凹凸形状に大幅な変化が生じる部位では、該電極或いはフレキシブル基板の変形では追従しきれず、筋電位の計測に支障が生じるおそれがある。
また、特許文献2の筋電位測定装置においては、柔軟性を備えたシート状の電極支持部材を使用するため特許文献1のような問題はないが、この装置を身体に装着する際はベルトやテープ等を用いて取付けるため、腕が締め付けられ動きが窮屈になる。また、配線用シートを介して外部接続用配線を接続すると、配線がフリーな状態になることがあり、配線が露出してしまいこれが気になる等の問題があった。
【0007】
よって、本発明が解決しようとする課題は、筋電位を確実に測定することができ、身体の動きに追従する柔軟性を有すると共に、検出電極部に接続する配線が所定の位置から離脱して露出するようなことがない筋電位測定義手用アームカバーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に記載の筋電位測定義手用アームカバーは、筋電位を測定する検出電極部と、該検出電極部からの信号を伝送する配線と、該配線を織り込んだテキスタイルと
を少なくとも備えることを特徴とする。
本発明の請求項2に記載の筋電位測定義手用アームカバーは、請求項1において、前記テキスタイル中に、前記配線を複数備えることを特徴とする。
本発明の請求項3に記載の筋電位測定義手用アームカバーは、請求項1又は2において、前記配線に接続するコネクタを、少なくとも1個設けることを特徴とする。
本発明の請求項4に記載の筋電位測定義手用アームカバーは、請求項1〜3のいずれか一項において、前記テキスタイル中で、前記配線が屈曲部を有することを特徴とする。
本発明の請求項5に記載の筋電位測定義手用アームカバーは、請求項1〜4のいずれか一項において、前記配線は、導電性繊維であることを特徴とする。
本発明の請求項6に記載の筋電位測定義手用アームカバーは、請求項5において、前記導電性繊維は、銅線、アルミニウム線、チタン線、金線、銀線の中から選ばれる少なくとも1種から構成される金属線、あるいはこれらの中から選ばれた少なくとも1種を含む合金から構成される合金金属線、または、該金属線或いは該合金金属線表面にこれらの中から選ばれた少なくとも1種を含む金属または合金を被覆することにより構成される金属複合線であることを特徴とする。
本発明の請求項7に記載の筋電位測定義手用アームカバーは、請求項5又は6において、前記導電性繊維は、中心導体径が0.030mm以下の単線もしくは、撚り線であって、同軸構造とした後に外被(ジャケット)を施した径が0.5mm以下である極細同軸ケーブルにより構成されたことを特徴とする。
本発明の請求項8に記載の筋電位測定義手用アームカバーは、請求項5において、前記テキスタイル中に、請求項6に記載の導電性繊維からなる非同軸ケーブル、及び請求項7に記載の極細同軸ケーブルが織り込まれていることを特徴とする。
本発明の請求項9に記載の筋電位測定義手用アームカバーは、請求項1〜4のいずれか一項において、前記配線は、光ファイバであって、該光ファイバが、石英系光ファイバ、ガラス系光ファイバ、プラスチック光ファイバ、及びそれらを組み合わた光ファイバのうち、いずれかの光ファイバであることを特徴とする。
本発明の請求項10に記載の筋電位測定義手用アームカバーは、請求項9において、前記光ファイバのコア直径が、0.005mm〜2mmであることを特徴とする。
本発明の請求項11に記載の筋電位測定義手用アームカバーは、請求項1〜10のいずれか一項において、前記配線の1本に対して、前記検出電極部が少なくとも1個備えられていることを特徴とする。
本発明の請求項12に記載の筋電位測定義手用アームカバーは、請求項3〜11のいずれか一項において、前記コネクタの1個に対して、前記配線が複数接続されており、該配線は、前記テキスタイル中の適所で前記屈曲部を有することを特徴とする。
本発明の請求項13に記載の筋電位測定義手用アームカバーは、請求項3〜11のいずれか一項において、前記コネクタの1個に対して、前記配線が1本接続されており、該配線は、前記テキスタイル中で略直線状に織り込まれていることを特徴とする。
本発明の請求項14に記載の筋電位測定義手用アームカバーは、請求項12において、筋電位測定義手用のテキスタイル配線に関するもので、断端部に残る伸筋群と屈筋群上の皮膚表面に接触させた複数の検出電極部と1個のコネクタに接続できるように、縦糸或いは横糸の一部に導電性繊維を編み込むに当たり、前記導電性繊維が複数の検出電極部側からの適所で折曲編み込みされることによって、前記1個のコネクタに対して接続可能に配置されていることを特徴とする。
本発明の請求項15に記載の筋電位測定義手用アームカバーは、請求項13において、筋電位測定義手用のテキスタイル配線に関するもので、断端部に残る伸筋群と屈筋群上の皮膚表面に接触させた複数の検出電極部と複数のコネクタを接続できるように、縦糸或いは横糸の一部に導電性繊維を編み込むに当たり、前記複数の検出電極部側から前記複数のコネクタに対して導電性繊維が直線状に編み込みされることによって、接続可能に配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の筋電位測定義手用アームカバーによれば、配線をテキスタイル中に織り込んでいるので、身体や義手の動きに追従する柔軟性と、一般の衣類と同等の着用性及び外観とを有し、取り扱いが容易である。このため、日常的に違和感なく筋電位測定義手用アームカバーを身につけながら、義手を装着する部位の筋電位を確実に測定することができる。また、配線をテキスタイル中に織り込んでいるため、電極部に接続する配線が所定の位置から離脱して露出することがなく、着用性に優れる。
【0010】
本発明の筋電位測定義手用アームカバーの前記テキスタイル中に、前記配線が複数備えられている場合には、該筋電位測定義手用アームカバーに複数の検出電極部を設けることが容易となる。
本発明の筋電位測定義手用アームカバーにおいて、前記配線に接続されたコネクタが少なくとも1個設けられている場合には、前記検出電極部から該配線によって伝送された信号を、該コネクタを介して、外部装置へさらに伝送できる。
本発明の筋電位測定義手用アームカバーの前記テキスタイル中で、前記配線が屈曲部を有する場合には、テキスタイル中の該配線の経路を自在に配することができ、検出電極部を任意の位置に自在に配置することがより容易になる。
【0011】
本発明の筋電位測定義手用アームカバーにおいて、前記配線が導電性繊維であると、該配線が太陽光等の紫外線に曝された場合であっても、分解され難いため耐久性に優れる。
さらに、前記配線が導電性繊維であって、該導電性繊維が、銅線、アルミニウム線、チタン線、金線、銀線の中から選ばれる少なくとも1種から構成される金属線、あるいはこれらの中から選ばれた少なくとも1種を含む合金から構成される合金金属線、または、該金属線或いは該合金金属線表面にこれらの中から選ばれた少なくとも1種を含む金属または合金を被覆することにより構成される金属複合線である場合、該配線は腕の動きに十分に追従する柔軟性を有するため、織り込まれたテキスタイルから離脱して露出することがなく、筋電位を確実に伝送することができる。また、金属複合線の場合、例えば銅の周りにチタンを被覆したチタン被覆銅線などを用いることで、高耐食性と高導電性の両方を満足させることが可能になる。
【0012】
前記導電性繊維が、中心導体径が0.030mm以下の単線もしくは撚り線であって、同軸構造とした後に外被(ジャケット)を施した径が0.5mm以下である極細同軸ケーブル(以下、極細同軸ケーブル)により構成される場合、該配線は腕の動きに十分に追従する柔軟性を有するため、織り込まれたテキスタイルから離脱して露出することがなく、筋電位を確実に伝送することができる。さらに高周波での高速データ送信が可能である。
【0013】
前記導電性繊維はいずれも極細径であるので織物に織り込んで、テキスタイルを構成することができる。テキスタイル中で、該導電性繊維はスペースを取らないので、柔軟性等のテキスタイル本来の風合いを保つことができる。
【0014】
前記テキスタイル中に、請求項6に記載の導電性繊維からなる非同軸ケーブル、及び請求項7に記載の極細同軸ケーブルが織り込まれている場合、各導電性繊維の有する導電特性に応じて、検出電極部の電極(センサー)の種類を適宜変更して備えることも可能である。
【0015】
本発明の筋電位測定義手用アームカバーにおける配線が光ファイバであって、該光ファイバが、石英系光ファイバ、ガラス系光ファイバ、プラスチック光ファイバ、及びそれらを組み合わた光ファイバのうち、いずれかの光ファイバである場合、前記検出電極部からの信号を光信号によって伝送できるため、電磁波や電気的ノイズによって信号が劣化したり、その伝送が遮られることがなく、確実に伝送できる。
【0016】
また、前記配線が光ファイバであると、該配線間のクロストークが起こらないため、テキスタイル中に、該配線を隣接するように密に織り込むことができる。光ファイバで構成された配線は、軽量性に優れるため、テキスタイル中に密に織り込んだ場合の着用者の負担を軽減することができる。さらに光ファイバで構成された配線は、着用者の発汗によって水分に曝された場合であっても、腐食し難いため耐久性に優れる。
【0017】
前記光ファイバのコア直径が、0.005mm〜2mmである場合、大容量の信号を高速伝送できると共に、筋電位測定義手用アームカバーにおけるテキスタイルに自然に織り込むことが可能である。このため、着用者の身体の動きに追従したり、着脱時の操作に十分対応する柔軟性を有する。前記光ファイバで構成された配線は目立たないため、該配線を気にせずに、本発明の筋電位測定義手用アームカバーを着用できる。
【0018】
本発明の筋電位測定義手用アームカバーにおいて、前記配線の1本に対して、前記検出電極部が1個備えられている場合、該配線は該検出電極部の信号のみを伝送するため、該検出電極部が発信及び/又は受信する信号をより複雑化(大容量化)することが可能となる。
【0019】
本発明の筋電位測定義手用アームカバーにおいて、前記配線の1本に対して、前記検出電極部が2個以上備えられている場合、該配線は複数箇所から得られた筋電位の信号を一括して伝送できる。
【0020】
本発明の筋電位測定義手用アームカバーにおいて、前記コネクタの1個に対して、前記配線が複数接続されており、該配線は、前記テキスタイル中の適所で前記屈曲部を有する場合、テキスタイル中の所望の位置に配された複数の検出電極部から得られた信号を、該複数の配線を介して、該1個のコネクタに集積することができる。集積された信号は、該コネクタに接続される外部装置によって、信号処理することも可能である。
【0021】
本発明の筋電位測定義手用アームカバーにおいて、前記コネクタの1個に対して、前記配線が1本接続されており、該配線は、前記テキスタイル中で略直線状に織り込まれている場合、該配線を介して伝送される信号を、該コネクタによって、さらに外部装置へ伝送できる。配線とコネクタとが1対1で対応するシンプルな構成であるため、製造がより容易である。また、該配線は略直線状であり、屈曲部を有さないため、テキスタイル中に織り込むことがより容易である。
【0022】
請求項14に記載する発明によれば、複数の検出電極部と1個のコネクタを接続できるように縦糸或いは横糸の一部に導電性繊維を織り込むに当たり、前記導電性繊維が複数の検出電極部側からの適所で折曲織り込みされているので、複数の検出電極部と1個のコネクタが接続可能であり、かつ筋電位を確実に測定することができる。また、身体の動きに十分に追従する柔軟性を有すると共に、複数の検出電極部と1個のコネクタに接続した導電性繊維が露出することが無い筋電位測定義手用アームカバーを提供できる。
【0023】
請求項15に記載する発明によれば、複数の検出電極部と複数のコネクタを接続できるように縦糸或いは横糸の一部に導電性繊維を織り込むに当たり、前記複数の検出電極部側から前記複数のコネクタに対して、導電性繊維が直線状に織り込みされて接続可能に配置されているため、複数の検出電極部と複数のコネクタの接続が簡単であり、かつ筋電位を確実に測定することができる。また、身体の動きに十分に追従する柔軟性を有すると共に、複数のコネクタに接続した導電性繊維が露出することがない筋電位測定義手用アームカバーを提供できる。さらに、請求項14の場合の様に折曲織り込みをする必要がないので、その製造方法は比較的簡単である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の筋電位測定義手用アームカバーの一例を示す概略展開図。
【図2】本発明の筋電位測定義手用アームカバーの一例を示す概略展開図。
【図3】図1及び2の筋電位測定義手用アームカバーが装着された前腕部分を示す概略図。
【図4】本発明の筋電位測定義手用アームカバーの他の例を示す概略展開図。
【図5】本発明の筋電位測定義手用アームカバーの他の例を示す概略展開図。
【図6】テキスタイルに織り込むことのできる導電性繊維の一例の断面図である。
【図7】本発明におけるテキスタイル中の、配線の織り込み方の一例を示す概略図。
【図8】本発明におけるテキスタイル中の、配線の織り込み方の一例を示す概略図。
【図9】本発明におけるテキスタイル中の、配線の織り込み方の一例を示す概略図。
【図10】本発明におけるテキスタイルを製造する際に用いることのできる織機の一例を示す概略構成図。
【図11】従来の筋電位計測用電極装置の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の筋電位測定義手用アームカバー10(以下、単に「アームカバー」と呼ぶことがある。)は、図3に例示するように、筋電位を測定する検出電極部3と、該検出電極部3からの信号を伝送する配線2と、該配線2を織り込んだテキスタイル1とが少なくとも備えられたものである。
【0026】
アームカバー10の形状は、着用者の腕の筋電位を測定する検出電極部3を適切に配し、該検出電極部3に接続する配線2をテキスタイル1に織り込むことが可能な形状であれば、特に制限されない。例えば、装着された義手を覆う筒状の形状であることが、着用性の観点から好ましい。より具体的には、図3に例示するように、前腕部分5に装着した義手部分を覆う筒状のアームカバー10が挙げられる。
また、本発明の筋電位測定義手用アームカバーは、衣類の袖部分と一体化した形状であってもよい。
【0027】
図1は、検出電極部3がテキスタイル1の外に伸びて配置された例であり、図2は、検出電極部3がテキスタイル1の中に設置された例である。検出電極部3は、テキスタイル1の外に配置されてもよく、中に配置されてもよい。
【0028】
検出電極部3は、着用者の腕の筋電位を測定できる公知のものが使用できる。例えば、義手を装着する腕の断端部に残る伸筋群と屈筋群上の皮膚表面に接触させて筋電位を測定するものが知られている。
【0029】
検出電極部3を皮膚表面に接して保持する方法としては、特に制限されず、例えば電解質が含まれる粘着剤を介して検出電極3と皮膚表面とを接着する方法、粘着テープで検出電極部3を皮膚表面に貼付する方法、ゴムバンドによって検出電極部3を皮膚表面に押し当てる方法、アームカバー10を装着する前腕部分5にフィットする形状にして、該アームカバー10と前腕部分5との間隙に検出電極部3を配置する方法等が挙げられる。
【0030】
配線2は検出電極部3に入出力される信号を伝送するものであり、例えば、電気信号を伝送する導電性繊維(導電性配線)や、光信号を伝送する光ファイバー等を用いることができる。
【0031】
図3では、コネクタ4は、モーター6を制御するように接続されている。前腕部分5の筋電位の変化を検出電極部3が検出(測定)し、その変化を伝える信号が配線2によってコネクタ4へ伝送される。該コネクタ4では、組み込まれた信号処理ICが前記信号を処理し、さらにモーター6を制御することによって、義手の手先部分7を駆動する。つまり、本発明のアームカバー10の着用者が、自分の腕の筋肉を動かすことによって、義手を意のままに操作することが可能である。
【0032】
コネクタ4には、前記入出力される信号を処理するための外部装置や、モーター6及び義手の動きを制御するための外部装置へ、別途接続されてもよい。その接続手段としては、電気通信、光通信、無線通信等が挙げられる。
【0033】
図1及び2は、アームカバー10の概略展開図である。複数の配線2の一端側に各々検出電極部3が接続され、各配線2の他端側が1個のコネクタ4に集合して接続されている。各配線2は、テキスタイル1に織り込まれて配されている。
【0034】
各検出電極部3から出力された信号は各配線2を介して、コネクタ4に収集される。逆に、コネクタ4にインプットした信号は各配線2を介して各検出電極部3へ入力される。すなわち、コネクタ4において各検出電極部3に入出力される信号をまとめて処理することができる。
【0035】
図1は、検出電極部3及びコネクタ4がテキスタイル1の外に伸びて配置された例であり、図2は、検出電極部3及びコネクタ4がテキスタイル1の中に配置された例である。検出電極部3及びコネクタ4は、テキスタイル1の外に配置されてもよく、中に配置されてもよい。
【0036】
本発明のアームカバー10は、図1及び2に示すように、配線2をテキスタイル1中に織り込んでいるので、前腕部分5や義手7の動きに追従する柔軟性を有する。また、その動きが激しい場合でも、配線2はテキスタイル1から離脱してしまう恐れがない。
なお、図1〜3には図示していないが、アームカバー10が一般の衣類と同等の着用性を有するために、チャック(ジッパー)、ボタン、伸縮自在なゴムバンド、紐等が備えられていてもよい。
【0037】
本発明のアームカバー10には、図1〜3に示すように、テキスタイル1中に配線2が複数備えられていることが好ましい。アームカバー10の所望の位置に、複数の検出電極部3を配置することが容易になる。
【0038】
本発明のアームカバー10には、図1〜3に示すように、配線2に接続するコネクタ4が、少なくとも1個設けられていることが好ましい。検出電極部3から該配線2によって伝送された信号を、該コネクタ4を介してモーター6等の外部装置へさらに伝送できる。
アームカバー10に設けられるコネクタの個数としては、図1〜3に示すように、1個のコネクタ4が設けられても良いし、図4及び5に示すように、2個以上のコネクタ8が設けられても良い。
【0039】
図4は、検出電極部3及びコネクタ8がテキスタイル1の外に伸びて配置された例であり、図5は、検出電極部3及びコネクタ8がテキスタイル1の中に配置された例である。検出電極部3及びコネクタ8は、テキスタイル1の外に配置されてもよく、中に配置されてもよい。
【0040】
図1及び2に示すアームカバー10において、配線2は屈曲部9を有する。ここで、屈曲部9とは、配線2において、テキスタイル1の縦糸に沿う部分と、テキスタイル1の横糸に沿う部分とが切り換わる部分をいう。屈曲部9を有することによって、テキスタイル1中で、所望の位置で方向転換した配線2を配することができる。このことは、テキスタイル1において、所望の位置に検出電極部3を配置できることを意味する。
【0041】
図1及び2では、屈曲部9は直角に折れ曲がるように配されているが、必ずしも直角である必要はない。屈曲部9を構成する配線2は、直角に配されずに、より緩やかなカーブを描くように配されていてもよい(不図示)。
配線2がテキスタイル1の縦糸から横糸に切り換わる屈曲部9は、直角よりも緩やかなカーブを描いていると、該屈曲部9にかかる機械的な応力が低減し、配線2が断裂する恐れが少なくなるので好ましい。
【0042】
本発明のアームカバー10において、配線2は導電性繊維(導電性配線)又は光ファイバであることが好ましい。
【0043】
配線2が導電性繊維であると、該配線2が太陽光等の紫外線に曝された場合であっても、分解され難いため耐久性に優れる。また、屈曲部9に機械的な応力が生じた場合にも、導電性繊維からなる配線2は、断裂せずに耐えうるので好ましい。
【0044】
配線2として用いうる前記導電性繊維としては、例えば図6に示すような、銅(Cu)又は銅合金からなる金属繊維11を用いることができる。金属繊維11は、金属線材12の外周を覆うようにチタン(Ti)又は酸化チタンからなる被覆層13が設けられていることが好ましい。被覆層13を設けることにより、金属線材12を酸化や腐食から保護することができる。
【0045】
金属線材12の太さ(直径)は、10〜100μmとすることが好ましい。この範囲の下限値以上であると、金属繊維11をテキスタイル1に織り込むための適度な剛性を持たせることができ、この範囲の上限値以下であると、金属繊維11をテキスタイル1に織り込んだ際に求められる適度な柔軟性を持たせることができる。すなわち、金属線材12に柔軟性を持たせる観点からは、金属線材12は細いほど好ましく、金属線材12に剛性を持たせる観点からは、金属線材12は太いほど好ましい。金属線材12の太さは、アームカバー10に配された際に、その部位に求められる強度に応じて適宜設定すればよい。
【0046】
被覆層13の厚さは、1.0〜10μmであることが好ましい。この範囲の下限値以上であると被覆層13にピンホール等の欠陥が生じて内部の金属線材12が露出することを防ぐことができ、この範囲の上限値以下であると金属繊維11をテキスタイル1に織り込むのに適した屈曲性を維持し、金属線材12の導電性を損なうことを防ぐことができる。
【0047】
また、配線2として用いうる前記導電性繊維の好適なものとして、以下のものが挙げられる。
前記導電性繊維は、銅線、アルミニウム線、チタン線、金線、及び銀線の中から選ばれる少なくとも1種から構成される金属線であってもよいし、あるいは銅線、アルミニウム線、チタン線、金線、及び銀線の中から選ばれた少なくとも1種を含む合金から構成される合金金属線であってもよいし、または、該金属線或いは該合金金属線の表面に、銅、アルミニウム、チタン、金、及び銀の中から選ばれた少なくとも1種を含む金属または合金を被覆することにより構成される金属複合線であってもよい。
【0048】
前記導電性繊維が、前記金属線、前記合金金属線、又は前記金属複合線であることにより、検出電極部3からの信号を確実に伝送することができる。
また、これらの金属線は剛性を備えているので、着用者が当該アームカバー10を着用したり脱いだりする際に、テキスタイル1に織り込まれた前記金属線、前記合金金属線、及び前記金属複合線に、物理的なストレス(機械的な応力)が加わったとしても、それに十分耐えることができる。
【0049】
前記金属線、前記合金金属線、及び前記金属複合線には、その線の周りにチタンを被覆したチタン被覆金属線、チタン被覆合金金属線、及びチタン被覆金属複合線とすることが好ましい。チタンで被覆して、これらの金属線が露出することを防ぐことにより、これらの金属線の耐食性及び導電性をより高めることができる。
【0050】
前記導電性繊維は、中心導体径が0.030mm以下の単線もしくは、撚り線であって、同軸構造とした後に外被(ジャケット)を施した径が0.5mm以下である極細同軸ケーブルにより構成されたものであることが好ましい。
このような極細の構成の導電性繊維は、テキスタイル1に織り込んだ際に、テキスタイル1中で過剰なスペースを取ることがなく、テキスタイル1に不要なテンション(張力)を与えずにすむ。さらに、極細の構成の導電性繊維は十分な柔軟性を有するので、着用者がテキスタイル1で構成されるアームカバー10を着用したり脱いだりする際の着脱性に優れる。また、同軸ケーブルであると、高周波を用いた高速データ通信が可能となる利点がある。
【0051】
前記導電性繊維を織り込んだテキスタイル1は、前記金属線、前記合金金属線、前記金属複合線、チタン被覆金属線、チタン被覆合金金属線、及びチタン被覆金属複合線から選ばれる1種を単独で織り込んだものであってもよいし、2種以上を組み合わせて織り込んだものであってもよい。
【0052】
また、配線2は、前記テキスタイル1中に、前記金属線、前記合金金属線、前記金属複合線、チタン被覆金属線、チタン被覆合金金属線、及びチタン被覆金属複合線から選ばれた導電性繊維からなる非同軸ケーブルと、前記極細同軸ケーブルと、の両方を織り込んだものであってもよい。各ケーブルの有する導電特性に応じて、検出電極部3の電極(センサー)の種類を適宜変更して備えることが可能となり、より高機能なアームカバー10を実現できる。
【0053】
配線2が光ファイバであると、該配線2間のクロストークが起こらないため、テキスタイル1中に、該配線2を隣接するように密に織り込むことができる。光ファイバで構成された配線2は、軽量性に優れるため、テキスタイル1中に密に織り込んだ場合の着用者の負担を軽減することができる。さらに光ファイバで構成された配線2は、着用者の発汗によって水分に曝された場合であっても、腐食し難いため耐久性に優れる。
【0054】
前記光ファイバとしては、検出電極部3からの信号を伝送できるものであって、テキスタイル1中に織り込み可能な材質からなるものであれば特に制限されない。例えば、石英系光ファイバ、ガラス系光ファイバ、プラスチック光ファイバ、及びそれらを組み合わせた光ファイバのうち、いずれかの光ファイバが好適である。
前記光ファイバはシングルモード光ファイバ(SMF)又はマルチモード光ファイバ(MMF)のいずれであってもよい。
【0055】
前記石英系光ファイバ及びガラス系光ファイバは伝送損失が少ないため、出力の小さい光源(検出電極部3、コネクタ部4,8)からの信号であっても十分に伝送することができる。
【0056】
前記プラスチック光ファイバとしては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)やスチレン等が重合した樹脂(プラスチック)からなるものが挙げられる。プラスチック光ファイバは、曲げに強く折れにくいため、柔軟性に富むテキスタイル1に織り込む場合には特に適している。
【0057】
前記光ファイバのコア直径は、0.005mm〜2mmの範囲が好ましく、0.01mm〜1.5mmの範囲がより好ましく、0.1mm〜1.0mmの範囲がさらに好ましい。この範囲の下限値以上であると、前記光ファイバをテキスタイル5に織り込むための適度な剛性を持たせることができ、この範囲の上限値以下であると、前記光ファイバをテキスタイル1に織り込んだ際に求められる適度な柔軟性を持たせることができる。すなわち、光ファイバ配線に柔軟性を持たせる観点からは、光ファイバ配線は細いほど好ましく、光ファイバ配線に剛性を持たせ、また信号伝送量を増やす観点からは、光ファイバ配線は太いほど好ましい。
【0058】
前記光ファイバのクラッドの厚みは、コア及びクラッドの材料によって適宜調整される。また、光ファイバ配線を樹脂等で被覆してもよい。該被覆によって光ファイバ配線を、衝撃、摩擦、紫外線、及び水分等から保護できる。
【0059】
本発明のアームカバー10において、配線2の1本に対して、検出電極部3は1個だけ備えられていることが好ましい。その配線2における検出電極部3の位置は特に限定されないが、該配線2の端部に検出電極部3を配置することが好ましい。配線2の端部(末端)に検出電極部3を接続する方が、配線2の途中に検出電極部3を接続するよりも、製造上より容易である。
【0060】
本発明のアームカバー10において、配線2の1本に対して、検出電極部3が1個だけ備えられている場合、該配線2は該検出電極部3の信号のみを伝送するため、該検出電極部3(又はコネクタ部4)が発信及び/又は受信する信号をより複雑化(大容量化)することが可能となる。
【0061】
また、本発明のアームカバー10において、配線2の1本に対して、検出電極部3が2個以上備えられていても良い。この場合、該配線2はアームカバー10中の複数の箇所に配置された検出電極部3から得られた信号を一括して伝送できる。
【0062】
本発明のアームカバー10において、コネクタ4の1個に対して、配線2が複数接続されており、該配線2は、テキスタイル1中の適所で屈曲部9を有する構成である場合(図1及び2)、アームカバー10(テキスタイル1)中の所望の位置に配された複数の検出電極部3から得られた信号を、該複数の配線2を介して、該1個のコネクタ4に集積することができる。集積された信号は、該コネクタ4に接続される外部装置によって、信号処理することも可能である。
【0063】
また、本発明のアームカバー10において、コネクタ8の1個に対して、配線2が1本接続されており、該配線2は、テキスタイル1中で、縦糸又は横糸に沿って、略直線状に織り込まれている場合(図4及び5)、該配線2を介して伝送される信号を、該コネクタ8によって、さらに外部装置(不図示)へ伝送できる。配線2とコネクタ8とが1対1で対応するシンプルな構成であるため、製造がより容易である。また、該配線2は略直線状であり、屈曲部9を有さないため、テキスタイル1中に織り込むことがより容易である。
【0064】
<テキスタイルに配線を織り込む方法>
テキスタイル1は、筋電位測定義手用アームカバー10を構成する布地部であり、綿やポリエステル等の公知の衣類用繊維が平織りによって織まれて、さらに配線2が織り込まれたものとして作製できる。前記衣類用繊維の織り方は平織り{緯糸(縦糸)と経糸(横糸)とが交互に上下で直交して織む方法}(図7)に限定されず、公知の織り方、例えば4枚斜文の綾織り(図8)や3枚斜文の綾織り(図9)等が適用できる。
【0065】
配線2をテキスタイル1に織り込む方法としては、テキスタイル1の所定の位置に配線2を織り込める方法であれば特に制限されない。例えば図10に示すような織機Mを使用してテキスタイル1に配線2を織り込んで製造することができる。以下にその製造方法について説明する。
【0066】
この織機Mは、対向して水平に離間配置されたロッド状のフロントビーム30およびバックビーム31と、フロントビーム30の下に設置された巻取ローラー型のクロスビーム32と、バックビーム31の下に配置された供給ローラー型のワープビーム33と、前記フロントビーム30およびバックビーム31の中間位置に上下方向に移動自在に設置された第1の綜絖35および第2の綜絖36と、これら綜絖35、36とフロントビーム30との間に綜絖35、36とフロントビーム30との間を水平方向に移動自在に配置された筬37と、この筬37と前記フロントビーム30との間を前記フロントビーム30と平行方向に移動自在に設けられるシャトル39とを主体として構成されている。
【0067】
なお、図10においては、フロントビーム30およびバックビーム31とクロスビーム32およびワープビーム33の支持機構などは略されているが、フロントビーム30およびバックビーム31は門型のフレームなどにより固定支持され、クロスビーム32およびワープビーム33はそれぞれ図示略の門型のフレームや軸受けなどの回転支持機構によりそれらの周周りに回転自在に支持されている。また、綜絖35、36においても図示略のフレームにより上下に平行移動自在に支持されるとともに、筬37についても水平方向に平行移動できるように図示略のフレームに支持されている。
【0068】
綜絖35、36は、上枠41と下枠42の間に複数本の針金状のヘルド部材43を個々に離間し平行に架設して構成され、各ヘルド部材43の中央部に針金を輪状に形成したヘルド孔部44が形成されている。これらのヘルド孔部44には後述するように経糸51を通過できるように構成されている。綜絖35と綜絖36は、本実施形態ではそれらに形成された各ヘルド部材43を互い違いに横並びに配置するような位置関係に配置され、後述する如くフロントビーム30およびバックビーム31に複数並行に掛け渡される経糸51の1本1本を各綜絖35、36のヘルド穴44に通すことができるように配置されている。
【0069】
これらの綜絖35、36は図示略の上下駆動機構により個々に上下に移動自在に設けられており、しかも綜絖35と綜絖36の上下移動が交互に繰り返しなされるように構成されている。例えば、図10に示す如く綜絖35が下側に、綜絖36が上側に移動することにより、綜絖35がヘルド部材43により区分け支持している1本おきの経糸51の群を下側に引っ張り、綜絖36がヘルド部材43により区分け支持している他の1本おきの経糸51の群を上側に引っ張ることにより、2つに区分けしたうちの1群の経糸51と他の1群の経糸51との間に隙間を大きく形成することができる。この隙間の形成により後述する如くシャトル39の経糸51に対する交差方向への移動が可能となる。また、逆に、綜絖35が上側に綜絖36が下側に移動すると、先の2つに区分けした1群の経糸51と他の1群の経糸51との上下関係が逆転するので、シャトル39が1群の経糸51間の隙間を介して行う経糸51の交差方向への通過が可能となる。
【0070】
また、前記筬37は上枠45と下枠46との間に並行に複数本の筬羽47を平行に備えて構成され、これらの筬羽47の間にフロントビーム30およびバックビーム31間に複数並行に掛け渡されている経糸51を挿通できるように配置され、この状態のまま筬羽47をフロントビーム30側に平行移動できるように構成されている。なお、図10においては綜絖35、36と筬37の個々の支持移動機構についても詳細を略してそれらの動作方向のみを矢印にて示している。
【0071】
前記シャトル39には前述のテキスタイル1のうち、緯糸52が巻き付けられていて、シャトル39はフロントビーム30の長さ方向に沿ってフロントビーム30と平行に移動自在に設けられており、必要に応じてシャトル39から緯糸52を必要な長さで自在に繰り出すことができるように構成されている。
【0072】
次に、図10に示す構成の織機Mを用いて図7に示す構成のテキスタイル1を製造する方法の一例について説明する。
テキスタイル1を製造するには、織機Mのフロントビーム30とバックビーム31の間に並行にテキスタイル1を主に構成する衣料用繊維からなる経糸51を必要本数張設しておく。このとき、配線2からなる経糸51を所定の位置に張設しておく。図10に示す実施形態では、概略のみを示すが、複数張設した経糸51は各綜絖35、36の各ヘルド孔部44を通過するようにしてフロントビーム30とバックビーム31との間に張設しておく。また、シャトル39には衣料用繊維からなる緯糸52を必要長さ巻き付けておく。
【0073】
前述の状態から、綜絖35、36を交互に上下移動させると、図10に示す如く1本おきに経糸51を2つの群に区分けして上下に移動できるので、群分けした1本1本の経糸51間に大きな隙間が生じる。この隙間を利用し、シャトル39に巻かれている緯糸52をフロントビーム30の一端側から反対端側に向かってシャトル39とともに移動させると、シャトル39の移動に伴い、緯糸52を経糸51の1本おきに交差する方向に織り込むことができる。
【0074】
シャトル39が経糸51の全ての列を通過してフロントビーム30の反対端側に移動すると、一列全ての経糸51に対して1本おきに緯糸52を織り込むことができるので、この後、筬37をフロントビーム30側に移動させて緯糸52をフロントビーム30側に押し込む操作を行うことで緯糸52を打ち込むことができる。そして、シャトル39が経糸51の全ての列を通過して織り込んだ緯糸52を上述の如く打ち込み後、綜絖35、36の上下位置を逆転させると、2つに区分けした経糸51の群が上下入れ替わるので、第1のシャトル39を再度フロントビーム30に沿って逆方向移動させて先の位置に戻す操作を行い、張設した経糸51の1本おきに緯糸52を織り込むことができる。
【0075】
以上の操作を繰り返し行うことで、織り込み配置した行毎の緯糸51を筬37の筬羽47により1行1行打ち込んで密着させることができる。また、主に衣料用繊維で構成されるテキスタイル1の所定の位置に、経糸51として配線2を織り込むことができる。
【0076】
また、テキスタイル1の所定の位置に緯糸52として配線2を織り込むこともできる。この場合、シャトル39に衣料用繊維を必要長さ巻き付けておくとともに、別途配線3を巻き付けた第2シャトル(図示略)を用意し、適宜衣料用繊維からなる緯糸52との間に介在させるように第2シャトルを織り込む操作を行えば良い。
【0077】
また、図1に示したテキスタイル1のように、配線2が屈曲部9を有する場合には、前述のようにテキスタイル1を織り込んでいく過程で一時停止し、配線2からなる経糸51のみをバックビーム31から切り離し、ヘルド穴44及び筬37から外して、緯糸52と並行に隣接して配置し、テキスタイルの織り込みを再開することにより、所定の位置で配線2が経糸51方向から緯糸52方向に屈曲した屈曲部9を有するテキスタイル1とすることができる。
【0078】
この逆に、緯糸52として配線2をテキスタイル1に織り込んでいく過程で一時停止して、当該配線2をヘルド穴44及び筬37に通してバックビーム31に固定し、経糸51と並行に配置してテキスタイルの織り込みを再開することにより、所定の位置で配線2が緯糸52方向から経糸51方向に屈曲した屈曲部9を有するテキスタイル1とすることもできる。
【0079】
上記のように製造されたテキスタイル1を適宜公知の方法で成形又は縫製し、さらにテキスタイル1に縫いこまれた配線2の一端側に検出電極部3を接続することにより、本発明の筋電位測定義手用アームカバーを製造することができる。
なお、検出電極部3は、配線2が織り込まれたテキスタイル1の製造後に該配線2へ接続して配置されてもよいし、又は、予め検出電極部3が接続された配線2をテキスタイル1に織り込むことにより、配線2と同時にテキスタイル1に配置されてもよい。
【0080】
以下に、請求項14に記載の発明について説明する。本発明の筋電位測定義手用アームカバー(テキスタイル配線)は、断端部に残る伸筋群と屈筋群上の皮膚表面に接触させた複数の検出電極と1個のコネクタとを接続できるようにするため、テキスタイルの縦糸と横糸を織り込む際にその一部に導電性繊維を用い、前記導電性繊維が複数の検出電極側からの適所で折曲織り込みされることによって、前記1個のコネクタと複数の検出電極を接続可能にしたテキスタイル配線である。
このような構造のテキスタイル配線を使用することによって、複数の検出電極と1個のコネクタとが簡単に接続できるようになると共に、筋電位を確実に測定できるようになる。また、テキスタイル中に導電性繊維を必要本数組み込めば良いので、従来のタオル地等に配置したものと比較してテキスタイルの柔軟性と強度を有することになり、身体の動きに追従する柔軟性に優れると共に、使用中に配線が露出するという問題もなくなる。
さらに、本発明のテキスタイル配線は、初めから衣類などの袖部分に織り込んで作製することができる。また、検出電極は固定して取付けられるように衣類等とは別個に作製しても得ることができる。
【0081】
そして、テキスタイル中に導電性繊維を折曲織り込みする位置は、全ての導電性繊維を同じ位置にしても、異なる位置にしても良い。同じ位置で折曲織り込みする場合は製造上から有利であるが、それぞれの異なる位置で折曲織り込みする場合には、テキスタイル配線の柔軟性が良くなる。なお、前述の説明では、テキスタイル配線構造が伸筋群と屈筋群上の皮膚表面に接触させた複数の検出電極と1個のコネクタとを接続する例であるが、2個のコネクタの場合にも同様に導電性繊維を折曲げて織り込むことが可能である。
【0082】
また、テキスタイル配線に使用する導電性繊維としては、テキスタイルに使用される縦糸や横糸と同程度の太さの繊維状体が用いられる。また、その材料としては、銅線、アルミニウム線、チタン線、金線、銀線の中から選ばれる少なくとも1種から構成される金属線、あるいはこれらの中から選ばれた少なくとも1種を含む合金から構成される合金金属線、または、該金属線或いは該合金金属線表面にこれらの中から選ばれた少なくとも1種を含む金属または合金を被覆することにより構成される金属複合線を用いること、また、中心導体径が0.030mm以下の単線もしくは撚り線であって、同軸構造とした後に外被(ジャケット)を施した径が0.5mm以下である極細同軸ケーブル等の導電性の良い繊維状体が使用される。また、これらの繊維状体にプラスチックを被覆したり、マグネットワイヤのような被覆を有する導電性繊維としても良い。このように構成したテキスタイル配線は、筋電位を確実に測定することができると共に、身体の動きに十分に追従する柔軟性を有し、接続した導電性繊維が露出することがない。
さらには、前記金属線または前記合金金属線、あるいは前記金属複合線と前記極細同軸ケーブルが同時に織り込まれているテキスタイル配線とすることもできる。
なお、前記の導電性繊維は、導電性繊維単独ではなくテキスタイルの縦糸或いは横糸のいずれかに添わせて同時に織り込んでも良い。
【0083】
図1によって、請求項14の発明を説明する。図1は、本発明の一例を示す筋電位測定義手用のテキスタイル配線10の概略展開図である。このテキスタイル配線10を構成するテキスタイル1には、複数の検出電極3(検出電極部3)と1個のコネクタ4とを接続させる導電性繊維2(配線2)が折曲織り込みによって配置されている。このように、導電性繊維2を、テキスタイル1の縦糸と横糸とを同時に織り込むこと、また、テキスタイル1の適所で導電性繊維2の方向を変えるように織り込むことによって、導電性繊維2はテキスタイル1の一部として組み込まれることになるので、導電性繊維2はテキスタイル1と一体の挙動をすることになり、導電性繊維2に過度のストレスが掛かったりすることがなくなる。このため、複数の検出電極3および1個のコネクタ4に導電性繊維2を接続しても身体の動きによって、導電性繊維2の位置ずれや露出等がなく、身体並びに義手等と密着させて使用することが可能となる。
また、ここではテキスタイル1が、義手装着者の前腕部分5の伸筋群及び屈筋群に接触させた複数の検出電極3と1個のコネクタ4とを接続する場合について示したが、コネクタ4が2個の場合にも十分対応できる。
【0084】
以上説明したテキスタイル1は、一般に知られている織機によって作製することができる。例えば、長袖シャツ等の袖部分にテキスタイル配線10を織り込む場合、複数の非導電性繊維の縦糸を平行に張設し、これらの縦糸に交叉する方向に非導電性繊維の横糸を前記縦糸に対して前記横糸を織り込み操作すると共に、導電性繊維2を前記横糸と交叉する方向に織り込む操作と、織り込み途中において導電性繊維2を横糸方向に方向変更して横糸方向に位置させた状態で、前記非導電性繊維の縦糸を用いて、前記横糸と前記方向変更した導電性繊維2を含めて織り込む操作を組合わせて導電性繊維2を非導電性繊維の横糸または縦糸に対して織り込むことによって得ることができる。このように、導電性繊維2は折曲織り込みによってテキスタイルの必要箇所に配置させることができ、テキスタイル配線として使用される。
【0085】
つぎに、図3によって、図1の構造のテキスタイル配線10(アームカバー10)を、義手が装着された腕に着用した場合の概略図を示す。該テキスタイル配線10は、腕の表面に貼付した検出電極部3と反対側で義手の手先部分7に取付けられた1個のコネクタ4に導電性繊維2を接続することによって構成される。また、このコネクタ4は、筋電位計測装置およびバッテリを介し、モータ6に接続されている。そして、前記筋電位計測装置は、検出電極部3からの筋電位の変化に応じ、モータ6へのバッテリ電流を制御し、これによって、モーター6が駆動し、義手の手先部分7や指部分を曲げ伸ばしすることができる。このような構成によって、装着された義手は、テキスタイル配線10によって手先部分7以外の義手部分は覆われて露出しないようにできる。
本発明のような、テキスタイル配線10は、テキスタイル1中に導電性繊維2を必要本数織り込めば良いので、従来のタオル地等に配置したものと比較して、テキスタイル1の柔軟性と強度を有することになるので身体の動きに追従する柔軟性があり、使用中に検出電極3並びに1個のコネクタ4に接続する配線が露出するという問題もなくなる。
【0086】
図4により、請求項15の発明について説明する。このテキスタイル配線10は、断端部に残る伸筋群と屈筋群上の皮膚表面に接触させた複数の検出電極3と複数のコネクタ8を接続できるように、縦糸或いは横糸の一部に直線状に導電性繊維2を織り込んだ場合のテキスタイル配線10である。このような構造のテキスタイル配線10はテキスタイル1中に導電性繊維2を必要本数縦糸或いは横糸として織り込めば良いので、テキスタイル1の柔軟性と強度を有することになるので身体の動きに追従する柔軟性に優れると共に、使用中に1個のコネクタ3であろうと複数個のコネクタ8に接続する場合であろうと、導電性繊維2が露出するという問題がない。また、このようなテキスタイル配線10は、衣類を作製する際に義手に相当する部分に織り込むようにしてテキスタイル配線10とするのが最も好ましい。
【0087】
以上説明した請求項14の発明及び請求項15の発明は、テキスタイル1の配線2として導電性繊維を使用した場合であるが、テキスタイル1の配線2として、光ファイバを使用してもよい。
【実施例】
【0088】
図1の様な構造のテキスタイル配線を、図3に示したアームカバー10として折曲織り込みによって作製した。導電性繊維としては、極細同軸ケーブル(AWG46)を使用した。アームカバー10を腕に取付けた義手の上に被せ、腕の表面に取付けた6個の検出電極3並びに義手の1個のコネクタに、アームカバー10の導電性繊維をそれぞれ接続した。このような状態で、手首の曲げ伸ばしをするように被験者に指示して技手の手先部分を作動させて、筋電位の測定並びにテキスタイル配線の導電性繊維の状態を観察した。結果は、筋電位を確実に測定することが確認され、また、身体の動きに十分に追従する柔軟性を有すると共に、電極に接続した導電性繊維が露出することはなかった。このように、筋電位測定義手用アームカバーとして、実用上十分に有用なことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明にかかる筋電位測定義手用アームカバーは、筋電義手等の分野で広く利用することが可能である。
【符号の説明】
【0090】
1…テキスタイル、2…導電性繊維、3…検出電極、4…コネクタ、5…着用者の前腕部分、6…モータ、7…手先部分、8…コネクタ、9…屈曲部、10…筋電位測定義手用アームカバー、11…金属繊維、12…金属線材、13…被覆層、M…製造装置、30…フロントビーム、31…バックビーム、32…クロスビーム、33…ワークビーム、35、36…綜絖、37…筬、39…シャトル、43…ヘルド部材、44…ヘルド孔、47…筬羽、51…経糸、52…緯糸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筋電位を測定する検出電極部と、
該検出電極部からの信号を伝送する配線と、
該配線を織り込んだテキスタイルと
を少なくとも備えることを特徴とする筋電位測定義手用アームカバー。
【請求項2】
前記テキスタイル中に、前記配線を複数備えることを特徴とする請求項1に記載の筋電位測定義手用アームカバー。
【請求項3】
前記配線に接続するコネクタを、少なくとも1個設けることを特徴とする請求項1又は2に記載の筋電位測定義手用アームカバー。
【請求項4】
前記テキスタイル中で、前記配線が屈曲部を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の筋電位測定義手用アームカバー。
【請求項5】
前記配線は、導電性繊維であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の筋電位測定義手用アームカバー。
【請求項6】
前記導電性繊維は、銅線、アルミニウム線、チタン線、金線、銀線の中から選ばれる少なくとも1種から構成される金属線、あるいはこれらの中から選ばれた少なくとも1種を含む合金から構成される合金金属線、または、該金属線或いは該合金金属線表面にこれらの中から選ばれた少なくとも1種を含む金属または合金を被覆することにより構成される金属複合線であることを特徴とする請求項5に記載の筋電位測定義手用アームカバー。
【請求項7】
前記導電性繊維は、中心導体径が0.030mm以下の単線もしくは、撚り線であって、同軸構造とした後に外被(ジャケット)を施した径が0.5mm以下である極細同軸ケーブルにより構成されたことを特徴とする請求項5又は6に記載の筋電位測定義手用アームカバー。
【請求項8】
前記テキスタイル中に、請求項6に記載の導電性繊維からなる非同軸ケーブル、及び請求項7に記載の極細同軸ケーブルが織り込まれていることを特徴とする請求項5に記載の筋電位測定義手用アームカバー。
【請求項9】
前記配線は、光ファイバであって、該光ファイバが、石英系光ファイバ、ガラス系光ファイバ、プラスチック光ファイバ、及びそれらを組み合わた光ファイバのうち、いずれかの光ファイバであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の筋電位測定義手用アームカバー。
【請求項10】
前記光ファイバのコア直径が、0.005mm〜2mmであることを特徴とする請求項9に記載の筋電位測定義手用アームカバー。
【請求項11】
前記配線の1本に対して、前記検出電極部が少なくとも1個備えられていることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の筋電位測定義手用アームカバー。
【請求項12】
前記コネクタの1個に対して、前記配線が複数接続されており、該配線は、前記テキスタイル中の適所で前記屈曲部を有することを特徴とする請求項3〜11のいずれか一項に記載の筋電位測定義手用アームカバー。
【請求項13】
前記コネクタの1個に対して、前記配線が1本接続されており、該配線は、前記テキスタイル中で略直線状に織り込まれていることを特徴とする請求項3〜11のいずれか一項に記載の筋電位測定義手用アームカバー
【請求項14】
筋電位測定義手用のテキスタイル配線に関するもので、断端部に残る伸筋群と屈筋群上の皮膚表面に接触させた複数の検出電極部と1個のコネクタに接続できるように、縦糸或いは横糸の一部に導電性繊維を編み込むに当たり、前記導電性繊維が複数の検出電極側からの適所で折曲編み込みされることによって、前記1個のコネクタに対して接続可能に配置されていることを特徴とする請求項12に記載の筋電位測定義手用アームカバー。
【請求項15】
筋電位測定義手用のテキスタイル配線に関するもので、断端部に残る伸筋群と屈筋群上の皮膚表面に接触させた複数の検出電極部と複数のコネクタを接続できるように、縦糸或いは横糸の一部に導電性繊維を編み込むに当たり、前記複数の検出電極側から前記複数のコネクタに対して導電性繊維が直線状に編み込みされることによって、接続可能に配置されていることを特徴とする請求項13に記載の筋電位測定義手用アームカバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−125677(P2011−125677A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−145415(P2010−145415)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】