説明

筒体壁面の貫通孔製造方法及び筒体構造

【課題】円筒部材の壁面に加工バリを残さないで貫通孔を穿設する作業を、熟練者に依存することなく容易かつ確実に実施できる筒体壁面の貫通孔製造方法を提供する。
【解決手段】筒体2の壁面に工具11を貫通させて穿設した貫通孔2a,2bの内壁面側に加工バリを生じさせない筒体壁面の貫通孔製造方法であり、筒体2の軸線5と直交または略直交するように筒体2の外側から工具11を貫通させて筒体壁面に一または複数対の貫通孔2a,2bを穿設する穴あけ工程と、筒体2より熱伝導性のよい素材の溶接治具12を用い、工具11が筒体2の外壁面側から内壁面側に貫通して穿設された貫通孔2aを溶接により塞ぐ溶接工程とを具備し、工具11が筒体2の内壁面側から外壁面側へ貫通して穿設された貫通孔2bをノズル孔3として残す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえばガスタービン燃焼器の燃料噴射ノズルのように、貫通孔の内壁面側に加工バリが残らない筒体壁面の貫通孔製造方法及び筒体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガスタービン燃焼器に用いられる燃料噴射ノズルは、円筒部材の筒体壁面を中空部まで貫通して設けた燃料噴射用の孔を備えている。
図6に示す燃料噴射ノズル1は、円筒形状とした筒体2の壁面を貫通して燃料の流体を噴射するノズル孔3を備えている。このノズル孔3は、筒体2の外周側からドリル等の工具を用いて穿設した貫通孔であり、工具が壁面を突き抜ける際に、筒体2の内壁面(中空部)側へ突出する加工バリが発生する。このような加工バリの存在は流量係数(Cd値)に悪影響を及ぼすので、燃料噴射量の正確な制御にとって障害となる。すなわち、流量係数のバラツキを低減して燃料噴射量の正確な制御を可能にするためには、ノズル孔3の内壁面側に形成される加工バリ(以下、「内バリ」とも呼ぶ)をなくし、シャープエッジに形成することが重要になる。
【0003】
このため、従来の燃料噴射ノズル1においては、機械加工により壁面を貫通してノズル孔3を穿設した後、たとえば先端部にヤスリが形成された耳かき形状の専用特殊工具を用い、手作業により内バリを除去する工程を実施して流量調整を行っている。なお、このような流量調整は、規定の流量係数が所定の公差(たとえば±10%以内)を満足する必要がある。
また、金属製のワークにドリル加工を行って孔の表面縁部に生じるバリに関する従来技術としては、穴あけ加工と同時にバリを除去することができるバリ取り兼用の孔明け方法及び孔明けドリルが提案されている。この提案は、ドリル先端の縮径部で穴あけを行った後、ドリルの軸方向に対して略45度の傾斜角度を有する肩部により表バリを削ってバリ取りを行うものである。(たとえば、特許文献1参照)
【特許文献1】特開平9−239610号公報(図1参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した燃料噴射ノズル1のノズル孔3においては、専用特殊工具を用いて手作業により内バリを除去する必要があるので、安定した品質を維持するためには作業の習熟度を高めることが不可欠である。すなわち、内バリを除去する手作業は、熟練作業者への依存度が高くなるとともに、勘に頼る作業でもあるため、作業時間が長く個人差等によるバラツキも多いという問題が指摘されている。
【0005】
このような背景から、たとえば燃料噴射ノズルに穿設されるノズル孔のように、円筒部材の壁面に加工バリ(内バリ)を残さないで貫通孔を穿設する作業について、熟練者に依存することなく容易かつ確実に実施できるようにした筒体壁面の貫通孔製造方法及び筒体構造が望まれる。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、円筒部材の壁面に加工バリを残さないで貫通孔を穿設する作業を、熟練者に依存することなく容易かつ確実に実施できる筒体壁面の貫通孔製造方法及び筒体構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するため、下記の手段を採用した。
本発明は、筒体壁面に工具を貫通させて穿設した貫通孔の内壁面側に加工バリを生じさせない筒体壁面の貫通孔製造方法であって、
筒体軸線と直交または略直交するように筒体外側から工具を貫通させて前記筒体壁面に一または複数対の貫通孔を穿設する穴あけ工程と、前記筒体より熱伝導性のよい素材の溶接治具を用い、前記工具が前記筒体の外壁面側から内壁面側に貫通して穿設された貫通孔を溶接により塞ぐ溶接工程とを具備し、前記工具が前記筒体の内壁面側から外壁面側へ貫通して穿設された貫通孔を残すことを特徴とするものである。
【0007】
このような筒体壁面の貫通孔製造方法によれば、筒体軸線と直交または略直交するように筒体外側から工具を貫通させて筒体壁面に一または複数対の貫通孔を穿設する穴あけ工程と、筒体より熱伝導性のよい素材の溶接治具を用い、工具が筒体の外壁面側から内壁面側に貫通して穿設された貫通孔を溶接により塞ぐ溶接工程とを具備し、工具が筒体の内壁面側から外壁面側へ貫通して穿設された貫通孔を残すので、筒体は、内壁面側に形成される加工バリ(内バリ)のない貫通孔が穿設されたものとなる。
【0008】
本発明は、筒体壁面に工具を貫通させて穿設した貫通孔の内壁面側に加工バリがない筒体構造であって、
筒体壁面に筒体軸線と直交または略直交するように筒体外側から工具を貫通させて前記筒体壁面に穿設した一または複数対の貫通孔と、前記工具が前記筒体の外壁面側から内壁面側に貫通して穿設された貫通孔を溶接により塞ぐ封止部材とを備え、前記工具が前記筒体の内壁面側から外壁面側へ貫通して穿設された貫通孔を、内壁面側に加工バリのない貫通孔として残したことを特徴とするものである。
【0009】
このような筒体構造によれば、筒体壁面に筒体軸線と直交または略直交するように筒体外側から工具を貫通させて筒体壁面に穿設した一または複数対の貫通孔と、工具が筒体の外壁面側から内壁面側に貫通して穿設された貫通孔を溶接により塞ぐ封止部材とを備え、工具が筒体の内壁面側から外壁面側へ貫通して穿設された貫通孔を、内壁面側に加工バリのない貫通孔として残したので、内壁面側に形成される加工バリ(内バリ)のない貫通孔が穿設された筒体を容易に製造することができる。
【0010】
上記の発明において、前記内壁面側に加工バリのない貫通孔は、前記内壁面側から前記外壁面側へ流体を流出させるノズル孔として用いられることが好ましく、これにより、筒体に対して、流量係数が安定したノズル孔を容易に穿設することができる。この場合の好適な筒体には、ガスタービン燃焼器の燃料噴射ノズルがある。
【発明の効果】
【0011】
上述した本発明によれば、たとえば燃料噴射ノズルに穿設されるノズル孔のように、円筒部材の壁面に加工バリ(内バリ)を残さないで貫通孔を穿設する作業が、熟練者や勘に依存することなく容易かつ確実に実施できるようになる。従って、燃料噴射ノズル等のように貫通孔を備えた円筒部材の製造に要する作業時間が短縮され、さらに、個人差等による製品のバラツキをなくして安定化させるという顕著な効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る筒体壁面の貫通孔製造方法及び筒体構造の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、筒体壁面に工具を貫通させて穿設した貫通孔の内壁面側に加工バリを生じさせない筒体壁面の貫通孔製造方法を示す工程図である。以下の説明では、ガスタービン燃焼器の燃料噴射ノズル(筒体壁面)1にノズル孔(貫通孔)3を穿設するものとする。
この製造方法が適用される燃料噴射ノズル1は、図2及び図3に示すように、筒体2の壁面を放射状に貫通する3つのノズル孔3を備えている。これら3つのノズル孔3は、燃料噴射ノズル1の軸線と直交する断面内において、120度ピッチの放射状に配設されている。なお、図2及び図3において、図中の符号4は後述する封止部材である。
【0013】
図1(a)に示す穴あけ工程では、筒体2の軸線5と直交または略直交するように、筒体2の外側から工具11を貫通させることにより、筒体2の壁面に一対の貫通孔2a,2bを穿設する。図示の例では、たとえばドリル等の工具11を用い、筒体2の外側上部から軸線5を通って下向きに貫通させることで上下一対の貫通孔2a,2bを穿設する。なお、3つのノズル孔3を120度ピッチに形成するためには、上述した貫通孔2a,2bを120度ピッチに三対形成する。
こうして穿設された貫通孔2a,2bには、工具11を筒体2の内壁面側へ貫通させる貫通孔2aにおいて内壁面側へ突出する加工バリ(内バリ)6aが形成され、さらに、工具11を筒体2の外壁面側へ貫通させる貫通孔2bにおいて外壁面側へ突出する加工バリ(外バリ)6bが形成される。
【0014】
次に、図1(b)に示す溶接工程では、筒体2より熱伝導性のよい素材の溶接治具12を用い、工具11が筒体2の外壁面側から内壁面側に貫通して穿設された貫通孔2aを、溶接により封止部材4を形成して塞ぐ。この工程は、一対の貫通孔2a,2bを形成してノズル孔3として使用する際、流量係数に悪影響を及ぼす加工バリ6aが形成されている貫通孔2aを塞ぐための工程である。
すなわち、この溶接工程は、穴径が同じ貫通孔2aでも流量係数のバラツキを大きくする原因になる加工バリ6aを除去する代わりに、内バリのある貫通孔2aを封止部材4により塞いで、ノズル孔3として使用できないようにするシール溶接の工程である。
【0015】
一方、筒体2の外壁面側へ突出する加工バリ6bは、貫通孔2bの流量係数に大きく影響しない位置にあり、しかも、貫通孔2bの内壁面側はシャープエッジ2cとなるので、この貫通孔2bはそのままノズル孔3として使用される。
すなわち、工具11が筒体2の内壁面側から外壁面側へ貫通して穿設された貫通孔2bについては、加工バリ6bとともにそのまま残すことでノズル孔3となる。なお、この場合の加工バリ6bは、筒体2の外壁面側にあるので、除去が必要な場合であってもその作業は容易である。
【0016】
ところで、上述した燃料噴射ノズル1となる筒体2には、たとえばSUS304等の耐熱製合金が用いられる。一方、溶接治具は熱伝導性のよい材料を使用することが望ましく、たとえば銅及び黄銅等の銅合金やアルミニウム合金等の材料が望ましい。
【0017】
溶接方法は、TIG溶接の他に、レーザ溶接等の比較的入熱を小さくできる溶接方法が有効である。すなわち、溶接による入熱を小さく抑えつつ、貫通孔2aの内壁2eと貫通孔2aに内方から差し込まれた溶接治具12の先端部12aとにより溶融した封止部材4を溜め込むための金属溜め部2fを形成し、かつ、封止部材4と溶接治具12の先端部との境界面が溶融しないような条件を作ることが重要である(図5(a))。このような条件を実現することより、封止部材4で貫通孔2aを塞ぐとともに、溶接後直ちに溶接治具12を筒体2から取り外すことができるので、容易に流量係数の安定したノズル孔3を穿設できる。
【0018】
上述した溶接治具12の目的は、筒体2の貫通孔2aの内壁と溶接治具12の先端部12aとから金属溜め部2fを形成し、貫通孔2a内に封止部材4を滞留させ易くするとともに、溶接時の入熱を速やかに系外へ放熱させることにある。
ここで、TIG溶接の場合を一例にあげて、図5(a)を用いて具体的に説明する。
溶接工程においては、溶接トーチ30で貫通孔2aの外表面2cの周縁2dを狙ってアークを発生させ、周縁2dに沿って周溶接する。この過程では、筒体2の一部の母材2g及び溶加棒31が溶融して、封止部材4が形成される。溶加棒31は筒体2と同等の材料が使われる。この場合、できるだけ入熱を抑えるため、電流値を絞り、高速度で溶接することが望ましい。このような溶接方法を採用すれば、貫通孔2aの内壁2eと溶接治具12の先端部12aとにより形成される金属溜め部2fには溶融した封止部材4が充填され、この封止部材4が固化することにより貫通孔2aが完全に塞がれる。
【0019】
一方、溶接時の大半の入熱は、図5(a)に示すように、金属溜め部2fから溶接治具12の先端部12aを経由して、溶接治具12の末端部12bまで熱伝導により移動し、末端部12bから大気中に熱放散する。このように、大半の溶接熱が貫通孔2a、2bの周囲の筒体2へ拡散せずに、溶接治具12の末端部12bから大気中へ熱放散するのは、筒体2の熱伝導度に比較して、溶接治具12の熱伝導度が格段に大きいからである。銅製の溶接治具12を採用する場合、溶接治具12が銅製、筒体2がステンレス製の組合せとなるので、溶接治具/筒体の熱伝導度比は20倍以上となる。
【0020】
この結果、貫通孔2aの周縁2dから溶接治具12の末端部12bに向けて、たとえば図5(b)に示すような温度勾配が生ずる。すなわち、金属溜め部2fに滞留する溶融した封止材4は大半が筒体2の母材と同じ材料で構成されているので、熱伝導度は溶接治具12と比較して非常に小さい。従って、溶接治具/筒体について適当な材料の組合せを選択すれば、溶接治具/筒体の熱伝導度比を大きく取ることにより、アークが当たる周縁2d付近の溶融した封止部材4には、滞留する金属溜め部2fから溶接治具の先端部12aまでの間で急激な温度降下が生ずる(図5(b)の領域A)。
また、溶接治具12の先端部12aから末端部12bまでの間は、熱伝導度の大きい材料が用いられているため、溶融した封止部材4が滞留する金属溜め部2fと比較して緩やかな温度勾配となる(図5(b)の領域B)。
このような組合せを見出したことにより、溶接治具12の先端部12aでは温度が融点以下に維持されるので、溶接終了後直ちに溶接治具12を筒体2から取り外すことができる条件が成立する。
【0021】
ところで、上述した溶接治具/筒体の熱伝導度比については、できるだけ大きい設定が好ましく、少なくとも5倍以上、望ましくは10倍以上とするのがよい。
また、上述した溶接行程において、溶接トーチ30が、貫通孔2aの内壁2eを狙わずに周縁2dを狙うのは、筒体2の一部の母材2gを溶融させながら、溶接治具12の先端部12aからできるだけ離れた地点を狙うためである。すなわち、溶接治具12の先端部12aから近い地点を狙うと、先端部12aが高温となるため、先端部12aと封止部材4とが溶着して溶接終了後の溶接治具12の取外しが困難となることを防止するものである。
【0022】
また、溶接工程では、筒体2の内側流路26にアルゴン等の不活性ガスSGを少量ずつ供給し、溶接箇所を不活性ガスでシールして、溶接部の酸化防止を図っている。このような酸化防止を図ることにより、溶融した封止部材4の流動性が確保され、安定した溶接が可能となる。
【0023】
さらに、上述の熱伝導度の違いにより、封止部材4から貫通孔2aの壁面を介して筒体2への熱伝導による熱移動する現象や、封止部材4から溶接治具12を介して溶接治具12の末端12b側に熱が移動し、さらに貫通孔2bの壁面2hを介して周囲の筒体2へ熱伝導によって拡散する現象が抑制される。従って、筒体2の全体にわたり、特に周方向の熱の不均一分布が小さく抑えられ、溶接時の入熱に伴う熱歪が小さくなる。
【0024】
上述のような溶接治具12と筒体2との組合せを採用することにより、図5に示すような温度勾配が得られ、溶接治具12の先端部12aが融点以下の温度に維持されて、先端部12aの溶融現象を回避できる。また、筒体2の溶接部の入熱は、速やかに大気中へ放散される。このため、ノズル孔3となる貫通孔2bが溶接歪みにより変形することを防止し、所望のノズル性能を維持することができる。
【0025】
このような筒体壁面の貫通孔製造方法によれば、筒体2の貫通孔2bには、穴あけ加工により形成される内壁面側へ突出する加工バリ(内バリ)がなく、内壁面側にはシャープエッジ2cが形成されているので、貫通孔2bの穴径を正確に穿設しておけば、バリ取りの作業を行わなくてもそのままノズル孔3として使用することができる。
すなわち、燃料噴射ノズル1に流量係数のバラツキが少ないノズル孔3を形成する際、専用特殊工具の使用や熟練者によるバリ取り作業が不要になるので、作業の汎用性が向上する。従って、筒体壁面の貫通孔製造において、作業時間を短縮するとともに個人差等による製品のバラツキをなくすことができる。
【0026】
上述した筒体壁面の貫通孔製造方法により製造された燃料噴射ノズル1は、筒体2の壁面に工具11を貫通させて穿設した貫通孔2bの内壁面側に加工バリがない筒体構造となる。このような筒体構造の燃料噴射ノズル1は、筒体2の壁面に筒体軸線5と直交または略直交するように筒体2の外側から工具11を貫通させることにより、筒体2の壁面に穿設した一または複数対の貫通孔2a,2bと、工具11が筒体2の外壁面側から内壁面側に貫通して穿設された貫通孔2aを溶接により塞ぐ封止部材4とを備え、工具11が筒体2の内壁面側から外壁面側へ貫通して穿設された貫通孔2bを、内壁面側に加工バリのないノズル孔3用の貫通孔として残したものである。
【0027】
ここで、ガスタービン燃焼器の燃料噴射ノズル1について、筒体2やノズル孔3の具体的な寸法例を示す。たとえばステンレス棒材を切削して中空円筒形状とした筒体2は、外径が約20mm、内径が約15mm、ノズル孔3の直径が約5mmとなり、その壁面肉厚は2.5mm程度となる。このような筒体2にドリル等の工具11で穴あけ加工を行うと、突出量が0.1mm程度となる加工バリ6a,6bを形成する。
【0028】
このような筒体構造によれば、筒体2の内壁面側に突出するように形成される加工バリ(内バリ)のない貫通孔2bをドリル等の工具11で容易に穿設し、この貫通孔2bを流量係数にバラツキのないノズル孔3として使用することができる。この結果、燃料噴射ノズル1から供給される燃料は、図3に白抜矢印で示すように、ノズル孔3の直径を所定の誤差範囲内に加工すれば、ノズル孔3から噴射される燃料噴射量(流量係数)は所定の公差内に入ってバラツキの少ないものとなる。
すなわち、本発明の筒体構造において、流量係数に影響を受ける内壁面側が加工バリのないシャープエッジになる貫通孔2bは、内壁面側から外壁面側へ流体を流出させるノズル孔3として好適であり、従って、安定した流量係数のノズル孔3を筒体2に容易に穿設することができる。
【0029】
ところで、上述した説明では、ノズル孔3を備えた筒体2がガスタービン燃焼器の燃料噴射ノズル1であるとして説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
たとえば図4に示す他の実施形態のように、二重筒体20の外筒21及び内筒22を工具が外側から貫通して穿設した貫通孔23,24においても、矢印25で示すように流れる流体を噴出させるノズル孔として穿設孔24を採用することができる。この場合の穿設孔24においては、流体出口側となる角部24bに加工バリが形成され、流体入口側となる角部24aはシャープエッジとなるので、このような流体流れ方向のノズル孔は流量係数にバラツキがないものとなる。
【0030】
しかし、外筒21に穿設された貫通孔23の場合、シャープエッジが外筒21の外壁面側に形成されるとともに、内壁面側に突出する加工バリも形成される。このため、外筒21及び内筒22の間に形成された流路26から外筒21の外側へ流体を流出させる場合、内壁面側に突出する加工バリが流量係数に悪影響を及ぼしてバラツキを生じさせる。従って、この貫通孔23については、上述した実施形態と同様の封止部材4により塞がれている。
【0031】
上述した本発明によれば、たとえばガスタービン燃焼器の燃料噴射ノズル1に穿設されるノズル孔3のように、筒体2の内壁面側に突出する加工バリ(内バリ)を残さないで貫通孔2bを穿設する作業が、熟練者や勘に依存することなく容易かつ確実に実施できるようになる。従って、燃料噴射ノズル1等のように、貫通孔2bを備えた筒体2の製造に要する作業時間が短縮され、さらに、個人差等による製品のバラツキ(流量係数等)をなくして安定化させることができる。
【0032】
また、上述した本発明は、流体を噴射するノズル孔3の形成に好適であるが、内壁面側に加工バリのない貫通孔を形成する場合にも適用可能である。
また、上述した本発明は、たとえば90度ピッチで4つのノズル孔3を形成する場合のように封止部材4により塞ぐ貫通孔とノズル孔3として使用する貫通孔とが一致したり、あるいは互いに干渉する配置の場合を除いて、貫通孔の対数(ノズル孔3の数)など実施形態の記載に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る筒体壁面の貫通孔製造方法の一実施形態を示す工程図であり、(a)は穴あけ工程、(b)は溶接工程、(c)は完成状態を示している。
【図2】図1(c)のA−A断面図である。
【図3】図1に示し製造方法で製造した筒体構造の一実施形態として、ガスタービン燃焼器に使用される燃料噴射ノズルの構成例を示す断面図である。
【図4】本発明に係る他の実施形態として、二重筒体に適用した構成例を示す断面図である。
【図5】(a)は溶接方法の一例としてTIG溶接を示す図で、(b)は(a)の温度勾配を示す図である。
【図6】従来例としてスタービン燃焼器に使用される燃料噴射ノズルの構成例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 燃料噴射ノズル
2 筒体
2a,2b 貫通孔
3 ノズル孔
4 封止部材
6a,6b 加工バリ
11 工具
12 溶接治具
20 二重筒体
21 外筒
22 内筒
23,24 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒体壁面に工具を貫通させて穿設した貫通孔の内壁面側に加工バリを生じさせない筒体壁面の貫通孔製造方法であって、
筒体軸線と直交または略直交するように筒体外側から工具を貫通させて前記筒体壁面に一または複数対の貫通孔を穿設する穴あけ工程と、
前記筒体より熱伝導性のよい素材の溶接治具を用い、前記工具が前記筒体の外壁面側から内壁面側に貫通して穿設された貫通孔を溶接により塞ぐ溶接工程とを具備し、
前記工具が前記筒体の内壁面側から外壁面側へ貫通して穿設された貫通孔を残すことを特徴とする筒体壁面の貫通孔製造方法。
【請求項2】
筒体壁面に工具を貫通させて穿設した貫通孔の内壁面側に加工バリがない筒体構造であって、
筒体壁面に筒体軸線と直交または略直交するように筒体外側から工具を貫通させて前記筒体壁面に穿設した一または複数対の貫通孔と、
前記工具が前記筒体の外壁面側から内壁面側に貫通して穿設された貫通孔を溶接により塞ぐ封止部材とを備え、
前記工具が前記筒体の内壁面側から外壁面側へ貫通して穿設された貫通孔を、内壁面側に加工バリのない貫通孔として残したことを特徴とする筒体構造。
【請求項3】
前記内壁面側に加工バリのない貫通孔が、前記内壁面側から前記外壁面側へ流体を流出させるノズル孔として用いられることを特徴とする請求項2に記載の筒体構造。
【請求項4】
前記筒体がガスタービン燃焼器の燃料噴射ノズルであることを特徴とする請求項3に記載の筒体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−291813(P2008−291813A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−140718(P2007−140718)
【出願日】平成19年5月28日(2007.5.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】