説明

筒内噴射式内燃機関の燃料噴射・着火補助装置及び燃料噴射・着火補助方法

【課題】 燃料噴射弁からシールドの側部に向けて噴射された燃料によって側部に形成した複数の孔において生じる圧力に差が生じるようにし、この圧力差によって燃料が孔を通ってシールド内に流入し易くする。
【解決手段】 シリンダヘッドC/Hに、連続的に加熱される着火補助源としての加熱体G/Pをシリンダ内に露出させるようにして設け、該加熱体G/Pに、側部SSが円筒状に形成されたシールドSを上記加熱体G/Pの表面から所定間隔を隔てて被せ、該シールドSの側部SSに、その内外を連通する孔S/Hを複数設け、上記シリンダヘッドC/Hに、上記側部SSに向けて燃料を噴射するための噴射孔IN/Hを有する燃料噴射弁INを設け、上記噴射孔IN/Hの軸線L1を、上記側部SSから上記噴射孔IN/Hに向けて垂直に引き出された垂直線L2に対して、傾斜させたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射弁からシリンダ内に噴射された燃料をディーゼルサイクルと同様に燃焼させるに際して、上記燃料を連続的に加熱された加熱体に接触させて着火させる筒内噴射式内燃機関の燃料噴射・着火補助装置及び燃料噴射・着火補助方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料噴射弁から内燃機関(エンジン)のシリンダ内に、ピストンが圧縮上死点近傍に位置する時期に燃料を噴射し、ディーゼルサイクルと同様の燃焼をさせるものにおいて、上記燃料に例えばセタン価の低い天然ガス等のガス燃料を用いた場合、自己着火しないか又は着火が不安定となるため、何等かの着火補助源が必要となる。この着火補助源として連続的に加熱される加熱体(グロープラグ)をシリンダヘッドに設け、この加熱体に向けて燃料噴射弁から燃料を噴射するようにしたものがある。
【0003】
このシステムにおいては、燃料の噴射・着火・燃焼のプロセスは以下のように進行する。先ず、シリンダ内には、エンジンの吸気行程時に空気(EGR装置を有するエンジンの場合にはEGRガス及び空気)が吸い込まれ、この空気等が圧縮行程時に圧縮されて高温・高圧状態(約500〜600℃、50〜70Bar)となる。そして、ピストンが圧縮上死点近傍の位置で燃料噴射弁から燃料(上記ガス燃料)が加熱体に向けて噴霧状態で噴射される。
【0004】
ここで、噴射される燃料が軽油のようにセタン価が高いものであれば自己着火するものの、セタン価が低い天然ガス等のガス燃料である場合には、天然ガスの自己着火温度が900℃以上と高温であるため、自己着火しない。そこで、この場合、着火補助源として常時高温に保たれている加熱体をシリンダヘッドに設け、真っ赤に加熱された加熱体に向けて燃料を噴射し、燃料を加熱体に接触させて着火・燃焼させるのである。
【0005】
しかし、加熱体に直接(ダイレクトに)燃料を当てるようにすると、加熱体が熱疲労するという問題が生じる。すなわち、燃料噴射弁から高圧で噴射された燃料は、シリンダ内で断熱膨張することで比較的低温となって加熱体に衝突するため、加熱体が急冷される。同時に、加熱体がシリンダ内に露出していると、シリンダ内のガスの温度は吸入・圧縮・爆発(膨張)・排気の各行程に伴って約2300℃〜大気温度(20℃)まで変化するため、加熱体が上記ガスに晒されて繰り返し加熱急冷される。よって、加熱体が熱疲労し、寿命が短くなる。また、燃料噴射弁から噴射された燃料が直接加熱体に衝突すると、加熱体が急冷されて着火しない事態も考えられる。
【0006】
そこで、通常この種のシステムにおいては加熱体をシールドで覆っている。このシステムを図4及び図5を用いて説明すると、エンジンのシリンダヘッドC/Hには、加熱体(グロープラグ)G/Pがその下端をヘッドC/Hの下面から突出させて取り付けられていると共に、この加熱体G/Pを覆うシールドSが取り付けられている。また、シリンダヘッドC/Hには、シリンダボアの略中央に位置させて燃料噴射弁INが取り付けられており、噴射弁INには、複数の噴射孔IN/Hが形成されている。図中、Pはピストンであり、ピストンPの頂面には燃焼室C/Cが凹設されている。また、Vは吸気弁又は排気弁である。
【0007】
シールドSは、加熱体G/Pの表面から所定間隔を隔てて加熱体G/Pを覆うものであり、側部SSが円筒状に形成され、底部SBが略半球状に形成され、全体が袋状の形状となっている(クローズドタイプ)。側部SSには、シールドSの内外を連通する孔S/Hが形成されている。このシールドSにより、燃料噴射弁INの噴射孔IN/Hから噴射された燃料が直接加熱体G/Pに当たらないようになると共に、加熱体G/Pが燃焼室C/C内の燃焼ガスに直接晒されないようになるため、加熱体G/Pは熱疲労が小さくなって寿命が延びる。
【0008】
加熱体G/PをシールドSで覆ったタイプについて、燃料の噴射から着火、燃焼までの概略過程を説明する。燃料噴射弁INの噴射孔IN/Hから高圧(100〜250Bar)で噴射された燃料(上記ガス燃料)は、その一部(全体の約1/10)がシールドSに向かい、残りが燃焼室C/C内に略均一に分散して向かい、それぞれ所定期間に亘って噴射され続ける。すなわち、燃料噴射弁INに設けられた複数の噴射孔IN/Hは、一個がシールドSの方向に設定され、残りが燃焼室C/Cの内壁の周方向に略等間隔を隔てた方向に設定されている。
【0009】
シールドSに向かった燃料は、その側部SSに衝突して減速され、シールドSで暖められた後に孔S/Hを通ってシールドS内に流入し、予め高温に加熱されている加熱体G/Pによって一気に高温化され、着火温度に達して着火する。すると、着火によって急激に体積膨張したシールドS内の燃焼ガスが、上記孔S/Hから瞬時に噴出する。ここで、これらの孔S/Hの方向は、燃料噴射弁INの残りの噴射孔IN/H(燃焼室C/C内に略均一に分散して燃料を噴霧すべく方向が設定された噴射孔IN/H)の近傍に指向されている。
【0010】
このため、シールドSの孔S/Hから噴出した炎は、上記残りの噴射孔IN/Hから噴射された燃料の噴霧の近傍に近付く。すなわち、シールドS内にて着火が生じることにより、燃焼室C/C全体が更に高温高圧となるが、この段階ではまだ噴射孔IN/Hからの燃料の噴射が継続しているため、孔S/Hから噴出した炎が噴射孔IN/Hから噴射された燃料の噴霧に近付くのである。すると、空気と燃料とが適度に混合した噴霧の外周部から着火が始まり、他の噴霧へ瞬く間に燃焼が広がっていく。その後、燃料の噴射が更に所定期間継続した後に終了し、燃焼が徐々に終了する。このときピストンPは下降行程となっている。
【0011】
なお、以上の筒内噴射式内燃機関の燃料噴射・着火補助装置は、本発明者等が開発研究したものであり出願の時点での公知技術を構成するものではない。但し、加熱体G/PをシールドSで覆ったものが記載された先行技術文献として特許文献1、2がある。
【0012】
【特許文献1】実用新案登録第2562423号公報
【特許文献2】実公平7−48982号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、エンジンの安定した運転を確保するためには、上述のような着火・燃焼は、μ秒のオーダーで正確に、且つ運転条件(燃料流量、吸気温度、圧力、吸気流量、スワールの強さ、エンジン全体の温度等)が変化しても十分に安定して繰り返される必要がある。
【0014】
ここで、最も重要な鍵となるプロセスとして、着火の源となる加熱体G/Pと燃料との出会いが挙げられる。つまり、着火用としてシールドSに向かった燃料が、如何にしてシールドSの孔S/Hを通過して赤熱されて待機する加熱体G/Pと安定(時間的にも量的にも)して出会うか、が最大のポイントとなる。
【0015】
本発明者等は、図6に示すように、シールドSの側部SSに設けられる孔S/Hの数を四個とし、これら四個の孔S/Hを側部SSに正方形状に配置し、燃料噴射弁INに設けられた複数の噴射孔IN/HのうちシールドSに向けて燃料を噴射するための噴射孔IN/Hの軸線L1(図4及び図5参照)を、側部SSの四個の孔S/H同士の中間点X1から垂直に引き出された垂直線L2(図6にて中間点X1から紙面垂直方向に延びる線)に一致させたものを創案した。
【0016】
このタイプでは、噴射孔IN/Hから噴射された燃料がシールドSの側部SSに垂直に衝突し、側部SSにおける燃料衝突点をY1(上記中間点X1と同じ位置となる)とすると、燃料が側部SSに対して衝突点Y1にて垂直に衝突し、この衝突点Y1から各孔S/Hまでの距離が等しいことから、衝突後に側部SSの表面に沿って流れる燃料が均等に四個の孔S/Hに向かい、各孔S/Hから均等にシールドSの内部に流入することが期待された。
【0017】
しかし、このように側部SSの表面に沿って流れて各孔S/Hに同じ条件で燃料が到達すると、その燃料の作用によって各孔S/Hにおいて略均等な圧力が生じる。このため、各孔S/Hが上記燃料からなる仮想的な蓋によりあたかも閉じられた如き状態となり、実際には、期待したほどには各孔S/Hから燃料がシールドS内に流入し易くなるとはいえないことが分かった。
【0018】
特に、図例のようにクローズドタイプのシールドSにおいては、各孔S/Hを閉じる上記燃料からなる仮想的な蓋が、上記圧力の力によって各孔S/Hの奥側にそれぞれ略均等な力で押し付けられることになるが、このとき、シールドSの内部の圧力を逃がす孔や通路等が存在しないため(図4参照)、シールドSの内圧が高まってしまい、ますます燃料が孔S/HからシールドS内に流入し難くなる。この点、本発明者等は、実験、シミュレーションで確認している。
【0019】
そこで、本発明の目的は、燃料噴射弁からシールドの側部に向けて噴射された燃料によって側部に形成した複数の孔において生じる圧力に差が生じるようにし、この圧力差によって燃料が孔を通ってシールド内に流入し易くした筒内噴射式内燃機関の燃料噴射・着火補助装置及び燃料噴射・着火補助方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するために第1の発明に係る筒内噴射式内燃機関の燃料噴射・着火補助装置は、シリンダヘッドに、連続的に加熱される着火補助源としての加熱体をシリンダ内に露出させるようにして設け、該加熱体に、側部が円筒状に形成されたシールドを上記加熱体の表面から所定間隔を隔てて被せ、該シールドの側部に、その内外を連通する孔を複数設け、上記シリンダヘッドに、上記側部に向けて燃料を噴射するための噴射孔を有する燃料噴射弁を設けた筒内噴射式内燃機関の燃料噴射・着火補助装置であって、上記噴射孔の軸線を、上記側部から上記噴射孔に向けて垂直に引き出された垂直線に対して、傾斜させたものである。
【0021】
第2の発明に係る筒内噴射式内燃機関の燃料噴射・着火補助装置は、シリンダヘッドに、連続的に加熱される着火補助源としての加熱体をシリンダ内に露出させるようにして設け、該加熱体に、側部が円筒状に形成されたシールドを上記加熱体の表面から所定間隔を隔てて被せ、該シールドの側部に、その内外を連通する孔を複数設け、上記シリンダヘッドに、上記側部に向けて燃料を噴射するための噴射孔を有する燃料噴射弁を設けた筒内噴射式内燃機関の燃料噴射・着火補助装置であって、上記噴射孔の軸線が上記シールドの側部の外周面と交わる点を噴射衝突点としたとき、該噴射衝突点から上記複数の孔のうちの少なくとも二つの孔までの距離が異なっているものである。
【0022】
第3の発明に係る筒内噴射式内燃機関の燃料噴射・着火補助方法は、燃料噴射弁から噴射した燃料を、円筒状に形成されたシールドの側部に当て、この側部に設けられた複数の孔からシールド内に導き、シールド内にその内周面から所定間隔を隔てて収容された加熱体に接触させて着火させるようにした筒内噴射式内燃機関の燃料噴射・着火補助方法であって、上記燃料噴射弁から上記シールドの側部へ噴射される燃料の噴射方向を、上記シールドの側部から上記噴射孔に向けて垂直に引き出された垂直線に対して傾斜させ、これにより上記側部に噴射された燃料によって上記各孔の内の少なくとも二つの孔に生じる圧力に差を生じさせ、この圧力差を利用して上記側部に噴射された燃料を上記孔から上記シールド内に導くようにしたものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、次のような効果を発揮できる。
(1)第1の発明によれば、燃料噴射弁の噴射孔の軸線がシールドの側部から垂直に引き出された垂直線に対して傾斜されているので、噴射孔から側部に向けて噴射され側部の表面を流れる燃料によって側部に形成された複数の孔において生じる圧力に差が生じ、燃料が孔を通ってシールド内に流入し易くなる。
(2)第2の発明によれば、シールドの側部における噴射衝突点から複数の孔のうちの少なくとも二つの孔までの距離が異なっているので、噴射孔から側部に向けて噴射され側部の表面を流れる燃料が側部に形成された上記二つの孔に至ったときの圧力に差が生じ、燃料が孔を通ってシールド内に流入し易くなる。
(3)第3の発明によれば、第1の発明と同様に、噴射孔からシールドの側部に向けて噴射された燃料により側部の孔に作用する圧力に差が生じるので、いずれかの孔が燃料をシールド内に導く流入孔となり、他のいずれかの孔がシールド内の圧力を解放するリリーフ孔となり、シールド内に燃料が流入し易くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の好適な一実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0025】
本実施形態に係る筒内噴射式内燃機関の燃料噴射・着火補助装置は、図1〜図3に示す着火補助装置としての加熱体G/P及びシールドSと、図4及び図5に示す燃料噴射装置としての燃料噴射弁INとから構成されている。
【0026】
本実施形態に係る加熱体G/P及びシールドSは、図6に示す上述した加熱体G/P及びシールドSと基本的には同一の形状及び構成となっている。また、本実施形態に係る燃料噴射弁INも、基本的には前述した燃料噴射弁INと同様の構成となっている。そして、これら加熱体G/P、シールドS及び燃料噴射弁INは、前述したものと同様にシリンダヘッドC/Hに取り付けられる。よって、同一の構成部分については同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
【0027】
本実施形態の特徴は、図4及び図5に示す燃料噴射弁INに設けられた複数の噴射孔IN/HのうちシールドSの側部SSに指向された特定の一の噴射孔IN/Hの軸線L1を、図2及び図3に示すように、シールドSの側部SSから上記噴射孔IN/Hに向けて垂直に引き出された垂直線L2に対して傾斜させた点にある。すなわち、上記特定噴射孔IN/Hの向き及びシールドSの配置が工夫され、軸線L1が垂直線L2に対して傾斜されている。
【0028】
詳しくは、上記軸線L1は、上記垂直線L2に対して、図2に示すようにシールドSの側部SSの周方向に傾斜されていると共に、図3に示すように上記側部SSの軸方向にも傾斜されている。ここで、上記側部SSから引き出される垂直線L2の基点は、図1に示すように、側部SSに正方形状に配置・形成された四個の孔S/H同士の中間点X2となっており、この垂直線L2の延長上に上記特定噴射孔IN/Hが配置されている。
【0029】
そして、上記軸線L1が側部SSの外周面と交わる点を噴射衝突点Y2としたとき、この噴射衝突点Y2は、上記中間点X2に対して、側部SSの周方向及び軸方向にそれぞれ所定の等しい距離(図例では0.2mm)オフセットされている。これにより、図1にて、噴射衝突点Y2から左下の孔S/Hまでの距離、衝突点Y2から右上の孔S/Hまでの距離、衝突点Y2から左上の孔S/Hまでの距離(この距離は衝突点Y2から右下の孔S/Hまでの距離と等しい)が、それぞれ異なることになる。なお、噴射衝突点Y2の中間点X2に対するオフセット距離を側部SSの周方向と軸方向とで異ならせれば、噴射衝突点Y2から各孔S/Hまでの距離は、全て異なることになる。
【0030】
また、上記燃料噴射弁IN及びシールドSは、上記特定噴射孔IN/Hの軸線L1とシールドSの中心線C/Lとが交差しないように、軸線L1と中心線C/Lとが三次元的にオフセットされた(ずれた)配置となっている。
【0031】
なお、四個の孔S/Hの各軸線は、上記垂直線L2とそれぞれ平行となっている。
【0032】
以上の構成からなる筒内噴射式内燃機関の燃料噴射・着火補助装置の作用(燃料噴射・着火補助方法)を述べる。
【0033】
図4及び図5に示す燃料噴射弁INの噴射孔IN/Hから高圧で噴射された燃料(CNG:圧縮天然ガスなどセタン価の低いガス燃料)は、シールドSに指向された一の特定噴射孔IN/Hからその一部(全体の約1/10)がシールドSの側部SSに向かい、残りの複数の噴射孔IN/Hから燃焼室C/C内に略均一に分散して向かい、それぞれ所定期間に亘って噴射され続ける。
【0034】
すなわち、燃料噴射弁INに設けられた複数の噴射孔IN/Hは、一個の特定噴射孔IN/HがシールドSの側部SSの方向に設定され、残りが燃焼室C/Cの内壁の周方向に略等間隔を隔てた方向に設定されている。なお、燃料であるCNGの温度は約100℃、CNGの噴射圧力は100〜250気圧、燃焼室C/Cの温度は500〜600℃、加熱体G/Pの温度は1000〜1100℃、孔S/Hの直径は0.5mmである。
【0035】
特定噴射孔IN/HからシールドSの側部SSに向かった燃料は、特定噴射孔IN/Hの軸線L1すなわち噴射方向が側部SSから垂直に引き出された上記垂直線L2に対して側部SSの周方向及び軸方向に傾斜するように設定されているので、側部SSに対して三次元的に斜めに衝突する。
【0036】
このため、側部SSの表面を流れて各孔S/Hに向かう燃料の速度は、各孔S/Hにおいて各孔S/H毎に異なることになる(正確には図例では図1の左上の孔S/Hと右下の孔S/Hとでは略同じ)。更に、これに加えて、側部SSの噴射衝突点Y2から各孔S/Hまでの距離が異なっているため、側部SSに衝突した燃料によって各孔S/Hにおいて作用する圧力は、各孔S/H毎に異なる(正確には図例では図1の左上の孔S/Hと右下の孔S/Hとでは略同じ)。すなわち、図2に示す側部SSの周方向の左方の孔S/Hと右方の孔S/Hとで圧力差が生じ、また、図3に示す軸方向の上方の孔S/Hと下方の孔S/Hとでも圧力差が生じる。
【0037】
この結果、燃料は圧力が高い特定の孔S/Hを通ってシールドS内に流入し易くなる。つまり、各孔S/Hにおける圧力が異なると、最も圧力が高い孔S/Hから燃料がシールドS内の流入し、このとき圧力が低い孔S/HはシールドSの内圧を逃がすリリーフ孔として機能するため、シールドS内のガスが呼吸するようになり、図6のタイプと比べると大幅にシールドS内への燃料の流入量が増える。
【0038】
すなわち、側部SSに衝突した燃料によって各孔S/Hにおいて作用する圧力が各孔S/H毎に異なるということは、シールドS内の空気の圧力とシールドS外の各孔S/Hにおける燃料の圧力とのバランスが、各孔S/H毎に異なることになるため、これらの孔S/Hに前述のような呼吸現象が発生し、シールドS内への燃料の流入量が増えるのである。
【0039】
また、燃料の噴射方向の下流側の孔S/H(図2の左方の孔S/H、図3の下方の孔S/H)が、円筒状に形成された側部SSの表面を流れる燃料に対して丁度フルートの空気吹込部の如き位置関係となるため、前記の圧力差による呼吸現象に加えてこのフルート吹込現象によっても孔S/Hから燃料がシールドS内に流入し易くなる。シミュレーションよれば、本実施形態の流入量は図6のタイプの約5.5倍となった。
【0040】
孔S/HからシールドS内に流入した燃料は、加熱体G/Pによって加熱され着火されるが、本実施形態によれば、図6のタイプよりも大幅に流入量を増やすことができるので、着火をより安定的に行うことが可能となる。よって、例えばエンジンの低回転・低負荷時のように、燃料噴射弁INの噴射孔IN/Hからの燃料噴射が低圧・少量噴射の場合であっても、確実に着火できる。
【0041】
また、いずれかの孔S/Hがリリーフ孔として機能するため、クローズドタイプのシールドSであってもその内圧が高まることはなく、シールドS外の燃料がリリーフ孔として機能する孔S/H以外の孔S/Hを通って速やかにシールドS内に流入することになる。これにより、燃料のシールドS内への流入量が増大するのみならず、燃料が噴射孔IN/Hから噴射されたときから着火までの時間を図6のタイプよりも短縮することができ、着火遅れを小さくできる。
【0042】
また、燃料噴射弁INが図6のタイプと同一の燃料噴射条件であっても、孔S/HからシールドS内に多大な燃料を流入させることができるので、各種運転領域において、より幅の広い調節が可能となる。すなわち、燃料噴射弁INの噴射孔IN/Hの孔径、シールドSの孔S/Hの径、位置、数等を変更する余地が増大する。よって、エンジンの運転領域全域で、安定した燃焼を提供することが可能となる。
【0043】
さて、噴射孔IN/Hから高速(300〜400m/sec)で噴射された燃料は、シールドSに衝突することで1/5以下(図例では1/10、即ち、30〜40m/sec)に減速され、孔S/HからシールドS内に流入して更に20m/sec以下(図例では10m/sec以下)に減速される。このため、加熱体G/Pが燃料の流速によって冷却されることはなく、安定した着火が確保される。
【0044】
ここで、燃料が各孔S/HからシールドS内に流入する際には、いずれかの孔S/Hが流入孔となり他のいずれかの孔S/HがシールドS内の圧力を逃がすリリーフ孔となるのでシールドS内の圧力分布が周方向に不均一となり、更に燃料がいずれかの孔S/Hから斜めにシールドS内に流入するので、シールドS内に流入した燃料はシールドSの内周面に沿って(前述の比較的低速度で)旋回する。このため、加熱体G/Pの熱が燃料に伝わり易くなり、着火が安定する。
【0045】
また、シールドSを設けることで、加熱体G/Pの熱変動が緩慢となるため、加熱体G/Pへの加熱エネルギ(電力)を減らすことができる。また、シールドSがクローズドタイプなので、何等かの不具合で加熱体G/Pが破損した場合にシリンダ内に破損品が落下することを防止できる。
【0046】
なお、本発明の実施形態は上記タイプに限定されない。例えば、孔S/Hの数は、2個以上であれば何個でもよい。
【0047】
孔S/Hの配置は、孔S/Hの数と相関して変化するが、燃料衝突点Y2から不等距離の関係にある等の要因により、各孔S/Hにおける圧力に差が生じる配置であればよく、例えば衝突点Y2を内包する多角形(正多角形でなくてもよい)の配置でもよい。
【0048】
軸線L1は、垂直線L2に対して任意の方向に傾斜されていれば足り、側部SSの周方向のみの傾斜であってもよく、軸方向のみの傾斜であってもよい。
【0049】
燃料は、CNG等のガス燃料に限られず、低セタン価であって圧縮のみでは着火しないものであれば足り、例えばアルコール燃料等も考えられる。
【0050】
また、噴射孔IN/Hの軸線L1を図1の衝突点Y2にて側部SSに対して垂直に交差するように設定してもよい。この場合であっても、衝突点Y2から左下の孔S/Hまでの距離、衝突点Y2から右上の孔S/Hまでの距離、衝突点Y2から左上の孔S/Hまでの距離(この距離は衝突点Y2から右下の孔S/Hまでの距離と等しい)が、それぞれ異なることになるので、それに応じて各孔S/Hにおいて作用する燃料の圧力が異なることになり、既述の呼吸現象が発生してシールドS内への燃料の流入量が図6のタイプよりも増大する。つまり、上記軸線L1は、衝突点Y2から各孔S/Hの内の少なくとも二つの孔S/Hまでの距離が異なっていれば、側部SSに対して垂直であってもよく、図1〜図3に示す実施形態のように側部SSに対して傾斜しているものに限られない。なお、噴射衝突点Y2の中間点X2に対するオフセット距離を側部SSの周方向と軸方向とで異ならせれば、噴射衝突点Y2から各孔S/Hまでの距離は、全て異なることになる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施形態に係る筒内噴射式内燃機関の燃料噴射・着火補助装置の内の着火補助装置を成すシールド及び加熱体の側面図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】図1のIII−III線断面図である。
【図4】筒内噴射式内燃機関の燃料噴射・着火補助装置の側断面図である。
【図5】上記燃料噴射・着火補助装置の部分破断斜視図である。
【図6】本発明者が先に開発した燃料噴射・着火補助装置の内の着火補助装置を成すシールド及び加熱体の側面図である。
【符号の説明】
【0052】
C/H シリンダヘッド
G/P 加熱源(グロープラグ)
S シールド
S/H シールドの孔
SS シールドの側部
SB シールドの底部
C/L シールドの中心線
IN 燃料噴射弁
IN/H 燃料噴射弁の噴射孔
L1 噴射孔の軸線
L2 側部から垂直に引き出された垂直線
Y2 噴射衝突点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッドに、連続的に加熱される着火補助源としての加熱体をシリンダ内に露出させるようにして設け、該加熱体に、側部が円筒状に形成されたシールドを上記加熱体の表面から所定間隔を隔てて被せ、該シールドの側部に、その内外を連通する孔を複数設け、上記シリンダヘッドに、上記側部に向けて燃料を噴射するための噴射孔を有する燃料噴射弁を設けた筒内噴射式内燃機関の燃料噴射・着火補助装置であって、
上記噴射孔の軸線を、上記側部から上記噴射孔に向けて垂直に引き出された垂直線に対して、傾斜させたことを特徴とする筒内噴射式内燃機関の燃料噴射・着火補助装置。
【請求項2】
上記噴射孔の軸線を、上記垂直線に対して、上記シールドの側部の周方向及び軸方向に傾斜させた請求項1記載の筒内噴射式内燃機関の燃料噴射・着火補助装置。
【請求項3】
上記噴射孔の軸線が上記シールドの側部の外周面と交わる点を噴射衝突点としたとき、該噴射衝突点から上記複数の孔のうちの少なくとも二つの孔までの距離が異なっている請求項1又は2記載の筒内噴射式内燃機関の燃料噴射・着火補助装置。
【請求項4】
上記噴射孔の軸線と、上記シールドの中心線とが交差しない配置となっている請求項1〜3記載の筒内噴射式内燃機関の燃料噴射・着火補助装置。
【請求項5】
上記シールドは、その底部が閉じているクローズドシールドである請求項1〜4記載の筒内噴射式内燃機関の燃料噴射・着火補助装置。
【請求項6】
シリンダヘッドに、連続的に加熱される着火補助源としての加熱体をシリンダ内に露出させるようにして設け、該加熱体に、側部が円筒状に形成されたシールドを上記加熱体の表面から所定間隔を隔てて被せ、該シールドの側部に、その内外を連通する孔を複数設け、上記シリンダヘッドに、上記側部に向けて燃料を噴射するための噴射孔を有する燃料噴射弁を設けた筒内噴射式内燃機関の燃料噴射・着火補助装置であって、
上記噴射孔の軸線が上記シールドの側部の外周面と交わる点を噴射衝突点としたとき、該噴射衝突点から上記複数の孔のうちの少なくとも二つの孔までの距離が異なっていることを特徴とする筒内噴射式内燃機関の燃料噴射・着火補助装置。
【請求項7】
燃料噴射弁から噴射した燃料を、円筒状に形成されたシールドの側部に当て、この側部に設けられた複数の孔からシールド内に導き、シールド内にその内周面から所定間隔を隔てて収容された加熱体に接触させて着火させるようにした筒内噴射式内燃機関の燃料噴射・着火補助方法であって、
上記燃料噴射弁から上記シールドの側部へ噴射される燃料の噴射方向を、上記シールドの側部から上記噴射孔に向けて垂直に引き出された垂直線に対して傾斜させ、これにより上記側部に噴射された燃料によって上記各孔の内の少なくとも二つの孔に生じる圧力に差を生じさせ、この圧力差を利用して上記側部に噴射された燃料を上記孔から上記シールド内に導くようにしたことを特徴とする筒内噴射式内燃機関の燃料噴射・着火補助方法。
【請求項8】
上記噴射方向の延長線が上記シールドの側部の外周面と交わる点を噴射衝突点としたとき、該噴射衝突点から上記複数の孔のうちの少なくとも二つの孔までの各距離を異ならせるようにした請求項7記載の筒内噴射式内燃機関の燃料噴射・着火補助方法。
【請求項9】
上記燃料噴射弁から噴射した燃料を上記シールドの側部に当てることで減速させ、減速された燃料を上記各孔から上記シールド内に導き、導かれた燃料を上記シールド内で更に減速させると共に、シールドの内周面に沿って旋回させるようにした請求項7又は8記載の筒内噴射式内燃機関の燃料噴射・着火補助方法。
【請求項10】
上記燃料噴射弁から噴射した燃料の初期噴射速度を、上記シールドの側部に当てることで1/5以下に減速させ、更に上記シールド内で20m/sec以下に減速させる請求項9記載の筒内噴射式内燃機関の燃料噴射・着火補助方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−22690(P2006−22690A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−200322(P2004−200322)
【出願日】平成16年7月7日(2004.7.7)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】