説明

筒状シール部材の圧入方法およびそれに用いる治具

【課題】円盤状フランジ部が倒れるように変形することを抑制できる筒状シール部材の圧入方法およびそれに用いる治具を提供する。
【解決手段】筒状シール部材200は、軸方向一端側から相手部材21の外周面21aに圧入される円筒部210と、円盤状フランジ部220と、円筒部210の軸方向一端と円盤状フランジ部220の内周端とを連結し且つ両面を湾曲形状に形成した湾曲連結部230とを備える。治具400,500により筒状シール部材200の湾曲連結部230の凹状湾曲面を軸方向一端側に向かって押し付けて、円筒部210の軸方向一端側から相手部材21に圧入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒状シール部材の圧入方法およびそれに用いる治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、等速ジョイントの外輪の外周面にL字状軸方向断面形状からなる筒状のシール部材を圧入により取り付けることが記載されている。筒状のシール部材を圧入する際には、治具により圧入方向に環状部材を押し付けて行う。このとき、シール部材のうち円盤状のフランジ部を治具により押し付けることが行われることが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-162347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、圧入の際に筒状シール部材の円盤状フランジ部に治具を押し付けると、円盤状フランジ部が根元付近から倒れるように変形するおそれがある。そうすると、筒状シール部材の外周端の周囲との隙間を拡げることになり、シール性能が低下する。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、円盤状フランジ部が倒れるように変形することを抑制できる筒状シール部材の圧入方法およびそれに用いる治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(筒状シール部材の圧入方法)
(請求項1)本発明に係る筒状シール部材の圧入方法は、外周端の周囲の隙間から異物侵入をシールする筒状シール部材の圧入方法であって、前記筒状シール部材は、軸方向一端側から相手部材の外周面に圧入される円筒部と、円盤状フランジ部と、前記円筒部の前記軸方向一端と前記円盤状フランジ部の内周端とを連結し且つ両面を湾曲形状に形成した湾曲連結部とを備え、治具により前記湾曲連結部の凹状湾曲面を前記軸方向一端側に向かって押し付けて、前記円筒部の軸方向一端側から前記相手部材に圧入する。
【0007】
(請求項2)また、前記相手部材は、前記円筒シール部材を圧入後に位置決めした状態において前記円盤状フランジ部に当接する端面を有しない形状であり、前記筒状シール部材は、前記円盤状フランジ部の外周端の周囲の隙間からの異物侵入をシールするようにしてもよい。
【0008】
(請求項3)また、前記治具の軸方向一端部の軸方向断面形状は、凸湾曲形状に形成されるようにしてもよい。
(請求項4)また、前記治具の軸方向一端部の軸方向断面形状は、前記湾曲連結部の凹状湾曲面と同一曲率に形成された部位を有し、前記治具の当該部位により前記凹状湾曲面を押し付けて圧入するようにしてもよい。
(請求項5)また、前記湾曲連結部は、前記金属素材を塑性変形させて形成されるようにしてもよい。
【0009】
(筒状シール部材の圧入に用いる治具)
(請求項6)本発明に係る筒状シール部材の圧入に用いる治具は、相手部材の外周面に、外周端の周囲の隙間から異物侵入をシールする筒状シール部材を圧入するために用いる治具であって、前記筒状シール部材は、軸方向一端側から前記相手部材の外周面に圧入される円筒部と、円盤状フランジ部と、前記円筒部の軸方向一端と前記円盤状フランジ部の内周端とを連結し且つ両面を湾曲形状に形成した湾曲連結部とを備え、前記治具の軸方向一端部の軸方向断面形状は、凸湾曲形状に形成され、前記治具の軸方向一端部は、前記円筒部を前記相手部材に圧入する際に前記湾曲連結部の凹状湾曲面を押し付ける。
【発明の効果】
【0010】
(請求項1)本発明によれば、圧入する際に、治具を筒状シール部材の湾曲連結部に押し付けることにより行う。ここで、湾曲連結部は、円盤状フランジ部よりも、円筒部に近い位置にある。そのため、湾曲連結部に軸方向の押し付け力が付与された場合における湾曲連結部にかかるモーメントは、従来のように円盤状フランジ部に軸方向の押し付け力が付与された場合における円盤状フランジ部にかかるモーメントより小さくなる。従って、治具による圧入によって、円盤状フランジ部が倒れるように変形することを抑制できる。従って、筒状シール部材の外周端の周囲との隙間におけるシール性能が低下することを抑制できる。
【0011】
(請求項2)ここで、筒状シール部材が相手部材に位置決めされた状態において、相手部材は円盤状フランジ部に当接する部材を有しない。この場合、円盤状フランジ部を治具により押し付けて圧入した場合には、円盤状フランジ部の倒れが発生するおそれがあり、円盤状フランジ部が倒れた状態のまま相手部材に位置決めされることになる。そうすると、円盤状フランジ部の外周端の周囲の隙間が拡がってシール性能が劣ることになる。しかし、このような相手部材に筒状シール部材を圧入する場合において、本発明を適用することで、円盤状フランジ部が倒れることを抑制しつつ、筒状シール部材を圧入することができる。
【0012】
(請求項3)治具の軸方向一端部の軸方向断面形状を凸湾曲形状に形成することで、治具と湾曲連結部との接触範囲を拡大することができる。仮に、治具による角当たりの場合には集中荷重となるが、本発明のように面当たりにすることで分布荷重にすることができる。結果として、分布荷重とすることで、湾曲連結部に生じるモーメントを低減することができる。従って、円盤状フランジ部が倒れるように変形することを抑制できる。さらに、湾曲連結部が受ける面圧を低減できるため、湾曲連結部にきずがつくことを抑制できる。
【0013】
(請求項4)特に、治具の軸方向一端部の軸方向断面形状を湾曲連結部の凹状湾曲面と同一曲率にすることで、荷重の分布範囲を拡げることができる。その結果、モーメントの低減を図ることができ、円盤状フランジ部が倒れるように変形することをより確実に抑制できる。さらに、湾曲連結部にきずがつくことを確実に抑制できる。
【0014】
(請求項5)湾曲連結部は、金属素材を塑性変形させて形成されているため、塑性変形により加工硬化した部位となる。そして、治具が押し付ける部位が加工硬化した部位となるため、湾曲連結部は圧入によって変形しにくい。つまり、治具による圧入によって、円盤状フランジ部が倒れるように変形することを抑制できる。従って、筒状シール部材の外周端の周囲との隙間におけるシール性能が低下することを抑制できる。
【0015】
(請求項6)本発明によれば、治具の軸方向一端部の軸方向断面形状を凸湾曲形状に形成することで、治具と湾曲連結部との接触範囲を拡大することができる。仮に、治具による角当たりの場合には集中荷重となるが、本発明のように面当たりにすることで分布荷重にすることができる。結果として、分布荷重とすることで、湾曲連結部に生じるモーメントを低減することができる。従って、円盤状フランジ部が倒れるように変形することを抑制できる。さらに、湾曲連結部が受ける面圧を低減できるため、湾曲連結部にきずがつくことを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態における車両用駆動装置の軸方向断面図である。
【図2】図1における筒状シール部材の部分の拡大図である。
【図3】(a)は治具の第一例を示す斜視断面図であり、(b)は治具の第二例を示す斜視断面図である。
【図4】治具による筒状シール部材の圧入開始時の軸方向断面図である。
【図5】治具による筒状シール部材の圧入終了時の軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の筒状シール部材の圧入方法およびそれに用いる治具を具体化した実施形態について図面を参照しつつ説明する。本実施形態においては、車両用駆動輪に連結され、エンジンによる駆動力を駆動輪に伝達する装置である。ここでは、ドライブシャフトのアウトボード側とハブユニットとの連結部位について説明する。
【0018】
駆動装置について図1および図2を参照して説明する。ここで、図1,図2の左側が本発明における軸方向一方側に相当し、図1,図2の右側が軸方向他方側に相当する。図1に示すように、駆動装置は、ドライブシャフトのアウトボード側の等速ジョイント10と、等速ジョイント10の外輪20の駆動力をホイール(図示せず)に伝達するハブユニット100とを備える。さらに、駆動装置は、車両固定部材との隙間をシールする筒状シール部材200を備える。以下、それぞれの構成部品について詳細に説明する。
【0019】
等速ジョイント10は、図1に示すように、ジョイント中心固定式ボール型等速ジョイント(「ツェッパ形等速ジョイント」とも称す)である。この等速ジョイント10は、複数の外輪ボール溝21cを有する外輪20と、複数の内輪ボール溝31を有する内輪30と、外輪ボール溝21cおよび内輪ボール溝31を転動し、外輪20と内輪30との間でトルクを伝達する複数のボール40と、周方向にそれぞれのボール40を保持する保持器50と、内輪30に連結されたシャフト60とを備えて構成されている。この等速ジョイント10は、公知であるため詳細な説明を省略する。
【0020】
ここで、外輪20については詳細に説明する。外輪20は、外輪本体21と、連結軸部22とを備える。外輪本体21は、図1の左側(軸方向一方側)に開口部を備える有底筒状に形成され、内周面に形成された複数の外輪ボール溝21cを備えている。ここで、外輪本体21の外側面は、径方向に段差形状に形成されている。外輪本体21の外周面のうち図1の右側(軸方向他方側)に位置する外周面21aは、旋削加工または研削加工により円筒外周面形状に形成されている。この外周面21aが、筒状シール部材200を圧入して配置される部位である。
【0021】
外輪20の連結軸部22は、外輪本体21の底部の外方(図1の右側)に、外輪軸方向に延びるように外輪本体21と一体形成されている。この連結軸部22の外径は、外輪本体21の外周面21aの外径より小さい。つまり、外輪本体21の図1の右端には、端面21bが形成されている。また、連結軸部22の外周面には、外輪本体21側から順に、スプライン部22a、ねじ部22bが形成されている。
【0022】
ハブユニット100は、懸架装置などの固定部材300に固定され、外輪20の連結軸部22を回転可能に支持すると共に、ホイール(図示せず)を支持する。つまり、ハブユニット100は、外輪20の回転をホイールに伝達する。そして、ハブユニット100は、複列軸受を構成する。このハブユニット100は、固定部110と、第一回転部120と、第二回転部130と、転動体140と、シール部材150,160と、ナット170とを備える。
【0023】
固定部110は、懸架装置などの固定部材300に固定されている。この固定部110の内周面は転動体140の転動面を形成する。第一回転部120は、L字型の軸方向断面形状に形成されており、筒状部121とフランジ部122とを備える。筒状部121の外周面は、複列に配置される転動体140の一方列の転動面を形成する。つまり、第一回転部120は、固定部110に対して回転可能に支持されている。そして、第一回転部120の筒状部121の内周面にはスプラインが形成されており、等速ジョイント10の外輪20の連結軸部22のスプライン部22aに噛合する。つまり、第一回転部120は、外輪20に対して相対回転を規制するように連結されている。
【0024】
また、第一回転部120のフランジ部122は、筒状部121の図1の右側の端部から径方向外方に延びるように形成されている。このフランジ部122は、固定部110よりも図1の右側に配置されている。さらに、フランジ部122には、ホイールに連結するためのボルトを挿通する穴が形成されている。つまり、第一回転部120は、ホイールに固定される。
【0025】
さらに、第一回転部120の筒状部121の外周面のうち図1の左側の部位121aは、縮径された段差形状に形成されている。この段差部位121aの外周面には、第二回転部130が固定されている。第二回転部130の外周面は、転動体140の他方列の転動面を形成する。また、第二回転部130の軸方向長さは、第一回転部120の段差部位121aの軸方向長さよりも僅かに長く形成されている。そのため、第二回転部130の図1の左端面が等速ジョイント10の外輪本体21の端面21bに当接している。ここで、ナット170を外輪20の連結軸部22のねじ部22bに螺合することにより、第一回転部120および第二回転部130は、ナット170と外輪本体21の端面21bとの間に挟まれることにより固定されている。
【0026】
シール部材150は、例えばオイルシールなどであり、固定部110の内周面と第二回転部130の外周面との間をシールする。つまり、シール部材150は、転動体140の図1の左側をシールする。シール部材160は、例えばオイルシールなどであり、固定部110の内周面と第一回転部120の外周面との間をシールする。つまり、シール部材160は、転動体140の図1の右側をシールする。
【0027】
筒状シール部材200は、図1,図2に示すように、筒状の金属環からなり、外輪本体21の外周面21aに圧入により位置決めされている。この筒状シール部材200は、その外周端の周囲、すなわち筒状シール部材200の外周端と固定部材300の内周端との隙間Hから、転動体140の方への異物侵入をシールするための部材である。つまり、隙間Hをできる限り小さくすることが望まれる。
【0028】
筒状シール部材200は、円筒状の金属素材、例えば、鋼管やアルミニウム管などにプレス加工(鍛造加工)を行うことで塑性変形させることにより、L字型の軸方向断面形状となる円環状に形成されている。この他に、筒状シール部材200は、円盤状の金属素材に対してプレス加工を行うことで塑性変形させることにより形成してもよい。
【0029】
ここで、図1および図2から分かるように、筒状シール部材200は、外輪本体21の外周面21aに位置決めされている。この状態において、外輪本体21は、筒状シール部材200の円盤状フランジ部220の図1,図2の左面側に当接する端面を有しない。つまり、筒状シール部材200は、外輪本体21に対して軸方向に何ら規制されていない。
【0030】
この筒状シール部材200は、円筒部210と、円盤状フランジ部220と、湾曲連結部230とを一体的に備えて構成される。円筒部210は、円筒状に形成されており、外輪本体21の外周面21aに対して当該円筒部210の図1の左端側から圧入される部位である。そのため、圧入前の円筒部210の内径は、外輪本体21の外周面21aの外径よりも圧入代の分だけ小さく形成されている。例えば、円筒部210の圧入を容易にするために、円筒部210の内周面は微小なテーパ勾配を形成するようにしてもよい。
【0031】
円盤状フランジ部220は、円筒部210の図1の左端側、すなわち外輪本体21の開口部側に位置しており、軸方向断面において円筒部210に対して直角となるように形成されている。ここで、円盤状フランジ部220の外周端が、筒状シール部材200の外周端を構成する。つまり、筒状シール部材200は、円盤状フランジ部220の外周端の周囲の隙間Hからの異物侵入をシールする。
【0032】
湾曲連結部230は、円筒部210の図1の左端と円盤状フランジ部220の内周端とを連結する。この湾曲連結部230のうち図1の左面側は、凸状湾曲面形状となるように形成されている。また、湾曲連結部230のうち図1の右面側は、凹状湾曲面形状となるように形成されている。そして、湾曲連結部230は、円筒状の金属素材を曲げ成形された部位である。そのため、この湾曲連結部230は、塑性変形により加工硬化した部位となる。
【0033】
次に、筒状シール部材200を外輪本体21の外周面21aに圧入するために用いる治具400,500について図3(a)(b)を参照して説明する。図3(a)は、第一例としての治具400を示し、図3(b)は、第二例としての治具500を示す。これらは、いずれも適用可能である。
【0034】
図3(a)に示すように、治具400は、円筒状に形成されている。治具400の内径は、筒状シール部材200の円筒部210の外径より僅かに大きい。さらに、治具400の図3(a)の左端部410の軸方向断面形状は、凸湾曲形状に形成されている。詳細には、当該部位410における凸湾曲形状のうち径方向内側面は、湾曲連結部230の凹状湾曲面の一部分と同一曲率に形成されている。
【0035】
また、図3(b)に示す第二例の治具500は、第一例の治具400に対して、図3(b)の左端部において周方向に断続的な切欠520を形成している。そして、切欠520が形成されていない部位の図の左端部510は、第一例の治具400と同様の形状に、凸湾曲形状に形成されている。
【0036】
次に、上記治具400,500を用いて、外輪本体21の外周面21aに筒状シール部材200を圧入する工程について、図4および図5を参照して説明する。まず、圧入前の状態について図4を参照して説明する。図4に示すように、外輪本体21の外周面21aより図4の右側に、筒状シール部材200を同軸上に配置する。このとき、筒状シール部材200は、円盤状フランジ部220が図4の左側に向くようにする。そして、治具400,500を筒状シール部材200の円筒部210の外周側に位置するように配置する。
【0037】
この状態から、治具400,500を図4の左側へ移動させる。そうすると、治具400,500の端部410,510が、筒状シール部材200の湾曲連結部230の凹状湾曲面に当接する。ここで、治具400,500の端部410,510の凸湾曲形状のうち径方向内側面は、湾曲連結部230の凹状湾曲面と同一曲率に形成されている。従って、両者は、面接触する。
【0038】
さらに、治具400,500を図4の左側へ移動させることで、湾曲連結部230の凹状湾曲面を治具400,500により図4の左側へ向かって押し付ける。そうすると、筒状シール部材200の円筒部210の左端部から、外輪本体21の外周面21aに圧入される。そして、図5に示すように、筒状シール部材200を軸方向の所望の位置に到達した時点で、治具400,500による圧入を終了する。
【0039】
このように、治具400,500により圧入する際に、治具400,500を筒状シール部材200の湾曲連結部230に押し付けることにより行う。ここで、湾曲連結部230は、円盤状フランジ部220よりも、円筒部210に近い位置にある。そのため、湾曲連結部230に軸方向の押し付け力が付与された場合における湾曲連結部230にかかるモーメントは、円盤状フランジ部220に軸方向の押し付け力が付与された場合における円盤状フランジ部220にかかるモーメントより小さくなる。従って、治具400,500による圧入によって、円盤状フランジ部220が倒れるように変形することを抑制できる。
【0040】
特に、筒状シール部材200が外輪本体21の外周面21aに位置決めされた状態において、外輪本体21は円盤状フランジ部220に当接する部材を有しない。そのため、圧入により円盤状フランジ部220の倒れが発生すると、円盤状フランジ部220が倒れた状態のまま外輪本体21に位置決めされることになる。そうすると、円盤状フランジ部220の外周端と固定部材300との隙間Hが拡大してシール性能が劣ることになる。しかし、上述した治具400,500を用いて筒状シール部材200の湾曲連結部230を押し付けることにより、円盤状フランジ部220が倒れることを抑制しつつ、筒状シール部材200を圧入することができる。その結果、筒状シール部材200の外周端の周囲との隙間Hにおけるシール性能が低下することを抑制できる。
【0041】
さらに、治具400,500の軸方向一端部の軸方向断面形状を凸湾曲形状に形成することで、治具400,500と筒状シール部材200の湾曲連結部230との接触範囲を拡大することができる。仮に、治具400,500による角当たりの場合には集中荷重となるが、上記のように面当たりにすることで分布荷重にすることができる。結果として、分布荷重とすることで、湾曲連結部230に生じるモーメントを低減することができる。従って、円盤状フランジ部220が倒れるように変形することを抑制できる。さらに、湾曲連結部230が受ける面圧を低減できるため、湾曲連結部230にきずがつくことを抑制できる。
【0042】
特に、治具400,500の軸方向一端部の軸方向断面形状を筒状シール部材200の湾曲連結部230の凹状湾曲面と同一曲率にしている。これにより、荷重の分布範囲を拡げることができる。その結果、モーメントの低減を図ることができ、円盤状フランジ部220が倒れるように変形することをより確実に抑制できる。さらに、湾曲連結部230にきずがつくことを確実に抑制できる。
【0043】
また、筒状シール部材200の湾曲連結部230は、金属素材を塑性変形させて形成されているため、塑性変形により加工硬化した部位となる。そして、治具400,500が押し付ける部位が加工硬化した部位となるため、湾曲連結部230は圧入によって変形しにくい。つまり、治具400,500による圧入によって、円盤状フランジ部220が倒れるように変形することを抑制できる。従って、筒状シール部材200の外周端の周囲との隙間Hにおけるシール性能が低下することを抑制できる。
【0044】
上記実施形態においては、筒状シール部材200を外輪本体21の外周面21aに取り付ける場合について説明したが、これに限られるものではない。L字型の筒状シール部材を相手部材の外周面に圧入により配置する場合であって、筒状シール部材の外周端の位置がシール性能に影響を及ぼす場合には、上記治具を用いた圧入方法を適用することができる。
【符号の説明】
【0045】
21:外輪本体(相手部材)、 21a:外周面、 200:筒状シール部材、 210:円筒部、 220:円盤状フランジ部、 230:湾曲連結部、 400,500:治具、 H:隙間


【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周端の周囲の隙間から異物侵入をシールする筒状シール部材の圧入方法であって、
前記筒状シール部材は、軸方向一端側から相手部材の外周面に圧入される円筒部と、円盤状フランジ部と、前記円筒部の前記軸方向一端と前記円盤状フランジ部の内周端とを連結し且つ両面を湾曲形状に形成した湾曲連結部とを備え、
治具により前記湾曲連結部の凹状湾曲面を前記軸方向一端側に向かって押し付けて、前記円筒部の軸方向一端側から前記相手部材に圧入する筒状シール部材の圧入方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記相手部材は、前記円筒シール部材を圧入後に位置決めした状態において前記円盤状フランジ部に当接する端面を有しない形状であり、
前記筒状シール部材は、前記円盤状フランジ部の外周端の周囲の隙間からの異物侵入をシールする筒状シール部材の圧入方法。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記治具の軸方向一端部の軸方向断面形状は、凸湾曲形状に形成される筒状シール部材の圧入方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記治具の軸方向一端部の軸方向断面形状は、前記湾曲連結部の凹状湾曲面と同一曲率に形成された部位を有し、
前記治具の当該部位により前記凹状湾曲面を押し付けて圧入する筒状シール部材の圧入方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項において、
前記湾曲連結部は、前記金属素材を塑性変形させて形成される筒状シール部材の圧入方法。
【請求項6】
相手部材の外周面に、外周端の周囲の隙間から異物侵入をシールする筒状シール部材を圧入するために用いる治具であって、
前記筒状シール部材は、軸方向一端側から前記相手部材の外周面に圧入される円筒部と、円盤状フランジ部と、前記円筒部の軸方向一端と前記円盤状フランジ部の内周端とを連結し且つ両面を湾曲形状に形成した湾曲連結部とを備え、
前記治具の軸方向一端部の軸方向断面形状は、凸湾曲形状に形成され、
前記治具の軸方向一端部は、前記円筒部を前記相手部材に圧入する際に前記湾曲連結部の凹状湾曲面を押し付ける筒状シール部材の圧入に用いる治具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−35072(P2013−35072A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170182(P2011−170182)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】