説明

筒状構築物の内面処理作業用システムおよび内面処理作業方法

【課題】 傾斜する筒状構築物内に大規模な足場を組むことなく、その内面の処理作業を容易かつ安全に行い得るようにして、その内面に十分な処理を施すことのできる、簡易で安価な内面処理の作業用システムおよび作業方法を提供すること。
【解決手段】 傾斜する姿勢の水路鉄管100の内面の防錆処理作業を行う際に使用する内面処理作業用システム10であって、水路鉄管の上部に固定されて下部まで延長されている延在ロープ11と、この延在ロープにスライド不能に係止するとともに握ることによりスライド可能に係合するチャック12と、このチャック12を介して延在ロープ11に連結されて作業者を作業位置に保持する作業帯13と、水路鉄管100の内面にサンドブラスト処理を施すサンドブラスト装置14と、作業者の被覆カバー45内に清浄な空気を供給する空気供給装置15と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒状構築物の内面処理作業用システムおよび内面処理作業方法に関し、詳しくは、傾斜する姿勢で延在する筒状構築物の内面の処理作業を、容易かつ安全に、また、安価に行うことのできるものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、構築物の外面に対して処理を施す場合と同様に、構築物の内面に対して防錆処理などを施す場合には、その構築物内に作業用システムとして足場を組むことが行われている。その足場は、錆落しや塗装等の処理を施す構築物の内面の近傍、例えば、作業者の手が届く距離に組まれる(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10−121747号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このような従来の作業用システムの足場にあっては、例えば、水力発電用の水を流通させる水路鉄管の内面に防錆処理を施す場合には、その水路鉄管の内面に沿うように足場を組む必要がある。この水路鉄管が長い区間に構築されていて、その水路鉄管の全長に亘って足場を組むのでは、大規模な足場になって費用が掛かりすぎてしまう。
【0004】
また、そのような水路鉄管内に足場を組んでしまったら、その足場により隠れてしまった箇所に十分な処理を施すことができずに、例えば、3度塗りするところを、その足場の箇所だけ最後に撤去しながら行う1度塗りになってしまい、そこから錆が発生してしまう恐れがある。
【0005】
そこで、本発明は、傾斜する筒状構築物内に大規模な足場を組むことなく、その内面の処理作業を容易かつ安全に行い得るようにして、その内面に十分な処理を施すことのできる、簡易で安価な内面処理の作業用システムおよび作業方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する筒状構築物の内面処理作業用システムの第1の発明は、傾斜する姿勢で延在する筒状構築物の内面の処理作業を行う際に使用する内面処理作業用システムであって、筒状構築物内の上部に固定されて下部まで延長される所定以上の強度を有する線状部材と、該線状部材に連結して作業者を作業位置に当該作業可能に保持する保持装置と、筒状構築物の内面に所望の処理を施す処理装置と、を備えることを特徴とするものである。
【0007】
この発明では、傾斜する筒状構築物内にロープや鎖などの線状部材を上部から下部に渡して、保持装置をその線状部材に連結するだけで、処理装置を扱う作業者は、傾斜する筒状構築物内の作業位置に保持されてその内面の処理作業を行うことができ、また、その連結位置を移動させつつその筒状構築物の全長に亘って内面の処理作業を行うことができる。したがって、上部から下部までの大規模な足場を組むことなく、反対に、足場を組むことのできない狭い筒状構築物内でも、その上部から下部までの内面に所望の処理を施すことができる。
【0008】
上記課題を解決する筒状構築物の内面処理作業用システムの第2の発明は、上記第1の発明の特定事項に加え、前記保持装置は、線状部材に離脱不能に係合して牽引方向に後退することを制限するとともに所定の操作の継続により該線状部材の延在方向の一方向または双方向にスライドすることを許容する係合装置を介して当該線状部材に連結することを特徴とするものである。
【0009】
この発明では、筒状構築物内の上部から下部に渡した線状部材には、離脱不能であるとともに、そのままでは牽引方向、すなわち、降下方向にスライド不能に係合して作業者を作業位置に連結保持する一方、例えば、握り続けるなどの操作の継続によって離脱不能のまま降下方向にスライドすることを許容して作業者が作業位置を移動することができる。したがって、線状部材に連結・保持された作業者が作業位置をずらす操作で、例えば、握り損なってしまったとしても、それ以上、牽引方向にスライドして後退(降下)することが制限されて、転落することなくその位置に保持され、安全を確保しつつ傾斜する筒状構築物の内部を容易に移動してその内面の処理作業を行うことができる。
【0010】
上記課題を解決する筒状構築物の内面処理作業用システムの第3の発明は、上記第1または第2の発明の特定事項に加え、前記保持装置は、作業者の臀部または胴部の一方あるいは双方を保持する保持部を有することを特徴とするものである。
【0011】
この発明では、筒状構築物内の上部から下部に渡した線状部材に連結された保持装置が作業者の臀部や胴部を保持する。したがって、作業者は筒状構築物内の作業位置で臀部や胴部が保持されて、両手を自由に使ってその内面の処理作業を行うことができる。
【0012】
上記課題を解決する筒状構築物の内面処理作業用システムの第4の発明は、上記第1から第3のいずれかの発明の特定事項に加え、前記処理装置は、筒状構築物の内面の塗装の前処理を行うサンドブラスト装置、または、筒状構築物の内面を塗装する塗装装置であることを特徴とするものである。
【0013】
この発明では、線状部材をずらすなどしつつ、筒状構築物の内面をサンドブラスト処理して塗装を剥ぐなどの前処理を行ったり、その内面を塗装するなどの処理を行うことができる。したがって、筒状構築物の内面に高品質な防錆処理などを施すことができる。
【0014】
上記課題を解決する筒状構築物の内面処理作業用システムの第5の発明は、上記第1から第4のいずれかの発明の特定事項に加え、前記作業者が周囲の空気に頼ることなく呼吸可能に清浄な空気を供給する空気供給装置を含むことを特徴とするものである。
【0015】
この発明では、筒状構築物の内部でその内面処理を行う際に、清浄な空気の供給を受けてその処理作業を行うことができる。したがって、筒状構築物内の空気を必要とすることなく作業することができ、例えば、その内面にサンドブラスト処理や塗装処理を施す場合のように、その筒状構築物内の空気を吸って作業することが不能または困難な環境内でも安心して作業することができる。
【0016】
上記課題を解決する筒状構築物の内面処理作業用システムの第6の発明は、上記第5の発明の特定事項に加え、前記空気供給装置は、前方の視界を確保しつつ作業者の頭部を覆う頭部装着部と、該頭部装着部内に連結して清浄空気を供給する供給チューブと、を有することを特徴とするものである。
【0017】
この発明では、作業可能に視界を確保しつつ頭部を覆う装着部内に清浄空気が供給される。したがって、作業者は頭部全体を周囲の環境から遮蔽した状態のまま作業することができ、その周囲の環境、例えば、微粉末や気化した化学薬剤などから影響を受けることなく安全に作業することができる。
【0018】
上記課題を解決する筒状構築物の内面処理作業方法の第1の発明は、傾斜する姿勢で延在する筒状構築物の内面の処理作業を行う際の筒状構築物の内面処理作業方法であって、筒状構築物内の上部から下部以上の長さで所定以上の強度を有する線状部材と、該線状部材に離脱不能に係合して牽引方向に後退することを制限するとともに所定の操作の継続により該線状部材の延在方向の一方向または双方向にスライドすることを許容する係合装置と、該係合装置に連結して作業者を作業位置に両手を自由な状態で保持する保持装置と、筒状構築物の内面に所望の処理を施す処理装置と、を準備して、筒状構築物内の上部に線状部材を固定して下部まで延長させた後に、該筒状構築物内の上方の線状部材に係合装置を介して保持装置を連結させて作業者を作業位置に保持させ、この後に、処理装置による筒状構築物の内面への処理を開始し、次いで、作業位置での筒状構築物の内面に施す処理作業が終了する毎に係合装置を下方にスライドさせつつ降下することを該筒状構築物の下部まで繰り返すことを特徴としている。
【0019】
この発明では、傾斜する筒状構築物内にロープや鎖などの線状部材を上部から下部に渡して、保持装置をその線状部材に連結するだけで、処理装置を扱う作業者は、傾斜する筒状構築物内の作業位置で両手を自由に保持されてその内面の処理作業を行うことができ、また、その連結位置を移動させつつその筒状構築物の全長に亘って内面の処理作業を行うことができる。この作業時には、離脱不能であるとともに、そのままでは牽引方向、すなわち、降下方向にスライド不能にその線状部材に係合して作業者を作業位置に連結保持する一方、例えば、握り続けるなどの操作の継続によって離脱不能のまま降下方向にスライドすることを許容して作業者が作業位置を移動することができる。したがって、筒状構築物内に上部から下部までの大規模な足場を組むことなく、反対に、足場を組むことのできない狭い筒状構築物内でも、その上部から下部までの内面に所望の処理を施すことができる。また、この線状部材に連結・保持された作業者は、作業位置をずらす際に、例えば、握り損なうなど操作でミスしたとしても、それ以上、牽引方向にスライドして後退(降下)することが制限されて、転落することなくその位置に保持される。よって、安全を確保しつつ傾斜する筒状構築物の内部を容易に移動してその内面の処理作業を快適に行うことができる。
【0020】
上記課題を解決する筒状構築物の内面処理作業方法の第2の発明は、上記第1の発明の特定事項に加え、前記処理装置として、筒状構築物の内面の塗装の前処理を行うサンドブラスト装置、または、筒状構築物の内面を塗装する塗装装置を準備して、筒状構築物内の上部から下部の内面のサンドブラスト処理または塗装処理を行うことを特徴としている。
【0021】
この発明では、線状部材をずらすなどしつつ、筒状構築物の内面をサンドブラスト処理して塗装を剥ぐなどの前処理を行ったり、その内面を塗装するなどの処理を行うことができる。したがって、筒状構築物の内面に高品質な防錆処理などを施すことができる。
【0022】
上記課題を解決する筒状構築物の内面処理作業方法の第3の発明は、上記第1または第2の発明の特定事項に加え、前記作業者が周囲の空気に頼ることなく呼吸可能に清浄な空気を供給する空気供給装置を準備して、処理装置による筒状構築物の内面処理を行う際に、該空気供給装置から清浄な空気を作業者に供給することを特徴としている。
【0023】
この発明では、筒状構築物の内部でその内面処理を行う際に、清浄な空気の供給を受けてその処理作業を行うことができる。したがって、筒状構築物内の空気を必要とすることなく作業することができ、例えば、その内面にサンドブラスト処理や塗装処理を施す場合のように、その筒状構築物内の空気を吸って作業することが不能または困難な環境内でも安心して作業することができる。
【発明の効果】
【0024】
このように本発明によれば、傾斜する筒状構築物内の上部から下部にロープや鎖などの線状部材を渡して、作業者を保持する装置を連結するだけで、その筒状構築物の内部を移動しつつ内面処理作業を行うことができる。このとき、離脱不能に係合するとともに、握るなどの操作を継続して初めてスライドを許容する係合装置を介して作業者をその線状部材に連結することにより、作業ミスで転落することなく、安全に移動して作業位置を変更することができる。したがって、筒状構築物内に上部から下部までの大規模な足場を組むことなく、反対に、足場を組むことのできない狭い筒状構築物内でも、その内面処理作業を容易かつ安全に行うことができ、線状部材が内面処理の邪魔になってしまうこともなく、高品質な処理を筒状構築物の内面に施すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の最良の実施形態を図面に基づいて説明する。図1〜図4は本発明に係る筒状構築物の内面処理作業方法を実行するその内面処理作業用システムの一実施形態を示す図である。
【0026】
まず、システム構成を説明する。図1において、筒状構築物の内面処理作業用システム10は、延在ロープ(線状部材)11と、チャック12と、作業帯13と、サンドブラスト装置および塗装装置(処理装置)14と、空気供給装置15と、を備えて構成されており、例えば、山間部の斜面に傾斜する姿勢で設置されている円筒形状(断面円形)の水力発電用の水路鉄管(構築物)100の内面を再塗装して防錆処理(内面処理)を施す際に、その内面の錆を落とす前処理を行う場合は、サンドブラスト装置を用いて、また、塗装する場合には塗装装置に持ち替えて、快適にその防錆処理を行うことができる。なお、図中には、サンドブラスト装置を図示している。
【0027】
延在ロープ11は、少なくとも水路鉄管100以上の長さを有して、その水路鉄管100の上部に固定されて下部に至るように延長されており、作業者が体重を掛けても十分に保持することのできる強度を備えている。
【0028】
チャック12は、例えば、藤商管理株式会社製のロリップ(登録商標)であり、図2(a)に示すように、延在ロープ11の延在方向にスライドさせることができるようにその延在ロープ11を内装する本体部21と、この本体部21と共に把持することができるように平行に支持されている把持部22と、本体部21および把持部22のそれぞれに配設された回動軸21a、22aに回動可能に連結されて本体部21に対して平行な姿勢のまま把持部22を接離可能に支持する一対の支持板23と、把持部22の一端側の回動軸22aに一方の支持板23と共に同軸回転自在に連結されて連結ロープ24が取り付けられている連結レバー25と、を備えており、このチャック12は、高所作業用安全器具として利用することができる。
【0029】
具体的には、チャック12の本体部21には、図2(b)に示すように、延在ロープ11と略同径の円筒部21bが下部側に画成されており、この円筒部21b内にはその延在ロープ11をスライド可能に内装して係合状態に連結することができる。この本体部21には、底面部21cが図中の背面側のヒンジ部21dにより回動可能に支持されており、この底面部21cを回動させることにより円筒部21bを開閉することができ、容易に延在ロープ11を内装して係合させることができる。
【0030】
また、本体部11は、図中の前面側に雌ネジ部21eが一体形成される一方、底面部21cには雄ネジ26が回転可能に保持されており、この雄ネジ26を雌ネジ21eに螺合させることにより、円筒部21bを閉止状態にロックすることができる。さらに、本体部21および底面部21cには、2分割された分割円筒部21f、21gがそれぞれ溶接されて、その内部にレバー27a付きの円柱状ロック部材27がスライド可能に内装されているとともに、この円柱状ロック部材27が分割円筒部21g内から分割円筒部21f側に向かって突出してロックするように不図示の付勢手段により付勢されている。この円柱状ロック部材27は、レバー27aを分割円筒部21gの周面に刻設された周方向の溝21h内に進入させることにより分割円筒部21f内から抜け出た状態(ロック解除状態)に維持することができる。
【0031】
これにより、チャック12は、本体部21の円柱状ロック部材27のレバー27aを付勢手段の付勢力に抗して分割円筒部21gの溝21h側に進めて進入させることにより、初めてその円柱状ロック部材27を分割円筒部21f内から抜いて円筒部21bを開閉可能にすることができ、雄ネジ26の螺合が不用意に緩んだとしても、その円筒部21bを開放(係合を解除)して延在ロープ11を離脱させてしまうことがない。
【0032】
また、チャック12の支持板23には、一体に回動して本体部21の円筒部21b内に突出・後退する係止部28が連設されており、この支持板23は、把持部22が把持されていない状態では、係止部28がその円筒部21b内に突出するように不図示の付勢手段により付勢されることにより、その先端部に形成されている鋸刃形状の係止歯28aが円筒部21b内の延在ロープ11をスライド不能に係止するように押し当てられる。一方、この支持板23は、把持部22が把持されることにより、図2(b)中に矢印で図示するように、付勢手段の付勢力に抗して、連結レバー25による牽引方向と反対側の右方向にスライドしつつ本体部21に接近する際に、その係止部28を図中時計回り方向に回動させて円筒部21b内から後退させることにより、延在ロープ11の係止を解除してスライド可能にする。言い換えると、この係止部28は、連結レバー25による牽引方向に支持板23が回動されると延在ロープ11に押し当てられて、その延在ロープ11に対して相対移動することを制限するように、係止歯28aが形成されている。
【0033】
これにより、チャック12は、自然状態では支持板23の係止部28を延在ロープ11に押し当てて連結レバー25側にスライドすることを制限することにより連結位置を固定することができ、把持部22を把持して本体部21に接近させたときには、その係止部28の押し当てを解除して延在ロープ11に対して相対的にスライドされることを許容することにより連結位置を移動させることができる。要するに、このチャック12は、連結レバー25に取り付けた連結ロープ24が引っ張られたとしても、支持板23の係止部28を本体部21の円筒部21b内に突出させる方向に把持部22が引っ張られることになり、牽引方向にスライドすることが制限される。
【0034】
すなわち、チャック12は、連結ロープ24の牽引方向を水路鉄管100内における降下方向にして延在ロープ11に離脱不能に係合させることにより、その連結ロープ24により牽引された場合でもその牽引方向にスライドして後退(降下)することを制限する一方、把持部22を把持した状態を維持することにより、初めてその延在ロープ11に対してスライドすることを許容する係合装置を構成している。なお、このチャック12は、連結レバー25が牽引される方向に引かれる際に円筒部21b内の延在ロープ11に噛み合う方向に支持板23の係止部28が回動するように設計されているので、反対方向に押される際には、実質的にはその係止部28が延在ロープ11の表面を滑ってスライドすることを許容する。
【0035】
作業帯13は、図3に示すように、作業者の胴部に巻き付ける胴巻きベルト31と、この胴巻きベルト31に並行になるように吊り下げられた幅広の尻当てベルト32とにより作製されており、胴巻きベルト31には、作業者の脇部に位置するように第1リング33が取り付けられているとともに、尻当てベルト32には、両端部のそれぞれに第2リング34が取り付けられている。そして、この作業帯13の第1、第2リング33、34には、チャック12の連結レバー25に取り付けた連結ロープ24の先端部の図4に示すフック35(フック形状部35a)を引っ掛けることができる。
【0036】
これにより、作業帯13の第1リング33には、フック35を引っ掛けることによって、作業者の胴部を不図示の命綱にチャック12を介して連結することができ、その作業者を保持して転落を防止することができる。また、作業帯13の第2リング34には、胴部側とは別のチャック12の連結レバー25に取り付けられた2本の連結ロープ24の先端部(連結レバー25に通した連結ロープ24の両端でもよい)のフック35をそれぞれ引っ掛けることによって、作業者の臀部を延在ロープ11にそのチャック12を介して連結することができ、その作業者の臀部を両側から保持してその作業位置での両手の自由な作業姿勢を保つことができる。すなわち、作業帯13が保持部を構成して、複数のチャック12とともに保持装置を構成している。
【0037】
ここで、フック35は、フック形状部35aの基部側に配設された回動軸36aに回動自在に軸支されて、そのフック形状部35aの内側から先端に接近する方向に不図示の付勢手段により付勢されている開閉レバー36と、フック形状部35aの中間部に配設された回動軸37aに回動自在に軸支されて、その開閉レバー36内で衝止部37bが一方向に回動するように不図示の付勢手段により付勢されているストッパー37と、を備えており、この開閉レバー36には、ストッパー37の衝止部37bが一方向に回動しているときの位置が回動軌跡と重なる貫通棒36bが設けられている。これにより、フック35は、ストッパー37の回動軸37aを挟んで衝止部37bの反対側の基部37cを押さえて開閉レバー36を第1、第2リング33、34に押し付けるだけで、そのストッパー37の衝止部37bを貫通棒36bの回動軌跡から離脱させてその開閉レバー36の回動を可能にすることにより、第1、第2リング33、34をフック形状部35a内に進入させることができる。一方、このフック35は、ストッパー37を故意に回動させて開閉レバー36の貫通棒36bの衝止部37bによる衝止(ストッパー)を外した上で、さらに開閉レバー36を回動させない限り、その第1、第2リング33、34をフック形状部35a内から離脱させることができない。よって、不用意にフック35が第1、第2リング33、34から外れてしまうことなく、安全に、安心して作業することができる。
【0038】
サンドブラスト装置14は、不図示のコンプレーサーで生成する圧搾空気により砂を圧送するサンドホース41と、このサンドホース41の先端に取り付けられて圧送されてくる砂の噴射・停止を制御するノズル42と、を備えており、例えば、高圧力で砂を塗装面などに吹き付けることにより古くなった塗装を剥くなどして清浄な状態にすることができ、防錆処理の塗装の前処理を容易かつ迅速に行うことができる。なお、塗装装置は、このサンドブラスト装置と同様に、塗料を供給するホースと、その塗料を噴射・停止するノズルとにより構成されているので、ここでの詳細な説明は割愛する。
【0039】
空気供給装置15は、作業者の頭部から胴部までの全体を覆う被覆カバー(頭部装着部)45と、作業者の視界を妨げないように被覆カバー45の頭部に設けられて密閉されている覗き窓46と、被覆カバー45の内部に連通するように接続されて不図示の空気供給装置からの清浄な空気を流通させてその被覆カバー45内に噴出する供給チューブ47と、を備えており、作業者は水路鉄管100内の空気に頼ることなく、被覆カバー45内の空気で呼吸して作業することができる。
【0040】
次に、この筒状構築物の内面処理作業用システム10を準備しての作業方法を説明する。まず、筒状構築物の内面処理作業用システム10の延在ロープ11、チャック12、作業帯13、サンドブラスト装置14(サンドホース41、ノズル42)、および、空気供給装置15(被覆カバー45、供給チューブ47)を準備する。
【0041】
この後に、水路鉄管100の上部に設置されている不図示の出入口に延在ロープ11や不図示の命綱を固定してその水路鉄管100内に投入・降下させることにより、その下部に設置されている不図示の出入口にまで延在ロープ11を延在させる。次いで、その延在ロープ11と同様に投入・降下させた不図示のロープ(延在ロープ11を利用してもよい)の先端に、サンドブラスト装置14のサンドホース41や空気供給装置15の供給チューブ47の先端部を一時的に連結して、その水路鉄管100の下部の出入口から投入して引き上げることにより、その上部の出入口からサンドホース41や供給チューブ47の先端部を引き出す。次いで、作業者が被る被覆カバー45に引き出した供給チューブ47を連結して空気供給装置15を組み立てるとともに、その作業者が抱えて使用するノズル42に引き出したサンドホース41を連結してサンドブラスト装置14を組み立てる。
【0042】
その一方で、作業者には、作業帯13の胴巻きベルト31を巻き付けて胴部に締め付け固定するとともに、その作業帯13の胴巻きベルト31や尻当てベルト32の第1、第2リング33、34には、それぞれチャック12の連結レバー25に取り付けた連結ロープ24の先端のフック35を引っ掛ける。また、水路鉄管100上部の出入口から延在ロープ11や命綱の上端部側を一時的に引き出して、作業帯13の尻当てベルト32の第2リング34に連結したチャック12の本体部21の円筒部21b内には延在ロープ11を、また、作業帯13の胴巻きベルト31の第1リング33に連結したチャック12の本体部21の円筒部21b内には、命綱を内装させて離脱不能に係合させて連結する。このとき、チャック12は、連結レバー25が延在ロープ11の下端側になる姿勢で係合させる。
【0043】
以上の準備が完了した後に、サンドブラスト装置14と空気供給装置15を稼動させるとともに、作業者は、水路鉄管100内に上部の出入口から入って、図1に示すように、その上部を見上げる姿勢となって作業帯13の尻当てベルト32に体重を掛ける状態の作業姿勢を採る。このとき、作業帯13は、延在ロープ11にチャック12を介して連結されて、そのチャック12が連結レバー25の方向に引かれることになり、延在ロープ11にスライド不能に作業位置に固定されるので、水路鉄管100内に足場を組むことなく(足場を組めないような狭い場合でも)、作業者は両手を自由に使って作業することができる。
【0044】
そして、作業者は、空気供給装置15の供給チューブ47から送られてくる被覆カバー45内の清浄な空気で呼吸しつつ覗き窓46から水路鉄管100の内面の状態を確認しながら、サンドブラスト装置14のノズル42を操作してサンドホース41から圧送されてくる砂を水路鉄管100の内面に高圧力で吹き付けることにより、その内面の古くなった塗装を剥ぐなどして清浄な状態にする。これにより、作業者は、水路鉄管100内の空気を必要とすることなく、このサンドブラスト処理に伴う砂の微粉末や、この後の塗装時の薬剤などを吸引して苦しくならずに、安全かつ楽に呼吸しつつ作業帯13で保持された楽な姿勢のまま、チャック12で固定されている作業位置前方の塗装前の前処理を容易に行うことができる。
【0045】
その作業位置前方の水路鉄管100の内面の塗装を剥がした後には、作業帯13の胴巻きベルト31の第1リング33に連結したチャック12の把持部22を本体部21と共に掴む(把持部22を本体部21に接近させる)ことにより、そのチャック12の円筒部21b内で延在ロープ11にスライド不能に係止していた係止部28(係止爪28a)の押し当てを解除した状態のまま、その延在ロープ11に係合する位置を下方の次の作業位置までずらしてそのチャック12を離す。このとき、チャック12は、把持部22が本体部21から離隔して円筒部21b内に係止部28を突出させて延在ロープ11に押し当てることによりスライド不能に係止(連結)する。この後に、作業帯13の尻当てベルト32の第2リング34に連結したチャック12が延在ロープ11に係合・連結する位置を、同様に、下方の次の作業位置付近までずらしてスライド不能に係止させる。ここで、この延在ロープ11に連結する位置を一回の操作でずらすことができない場合には、チャック12を一つずつずらす操作を決して同時に操作することなく、繰り返すことにより、所望の連結位置にスライド不能に係止させる。これにより、延在ロープ11に連結するチャック12を掴むだけで、また、握り損なうなどした場合でも、いずれか一方のチャック12を介して連結する作業帯13に作業者を保持させることができ、転落することなく、その連結位置を容易かつ安全に移動させつつ、水路鉄管100内での作業を繰り返すことができる。
【0046】
以降同様に、作業者は、空気供給装置15の被覆カバー45内の清浄な空気で呼吸しつつ、延在ロープ11にチャック12を介して連結された作業帯13で保持された楽な姿勢のまま、サンドブラスト装置14により水路鉄管100の内面の古くなった塗装を剥ぐなどの塗装前処理を行って、その延在ロープ11にチャック12をスライド不能に係止(連結)させる作業位置を下方にずらして降下することを繰り返すことにより、水路鉄管100の内面の全面から古い塗装を剥ぎ取る。このとき、作業者の前方、すなわち、水路鉄管100の内面の作業を施す箇所には、延在ロープ11などの線状部材が存在するだけであり、例えば、足場などのようにサンドブラスト処理の邪魔になることなく、その延在ロープ11などを少しずらすだけで容易かつ均一に水路鉄管100の内面から古い塗装を剥ぎ取る前処理を行うことができる。
【0047】
次いで、作業者は、水路鉄管100内から下部の出入口から出て上部の出入口に戻って、サンドブラスト装置14のノズル42を圧搾空気のみを噴出するノズルに持ち換えて、同様に、水路鉄管100の内面に圧搾空気を吹き付けることにより、残留する砂を下部に吹き飛ばす作業を繰り返して、新たな塗装をすることができるように水路鉄管100の内面を清浄にする。
【0048】
次いで、作業者は、水路鉄管100内から下部の出入口から出て上部の出入口に戻って、塗装装置のノズルに持ち換えて、同様に、水路鉄管100の内面に塗料を吹き付けることにより、水路鉄管100の内面を新たに塗装する。この塗装作業は、塗装した塗料が乾いた後に3回程度繰り返す。このとき、サンドブラスト処理の場合と同様に、作業者の前方の水路鉄管100の内面の塗装する箇所には、延在ロープ11などの線状部材が存在するだけであり、例えば、足場などのように塗装処理の邪魔になって、最後の足場撤去時にしか塗装できない箇所が出てしまって塗装品質がムラになってしまうことなく、その延在ロープ11などを少しずらすだけで容易かつ均一に水路鉄管100の内面に塗料を吹き付けて塗装することができ、全面を高品質かつ均一に塗装することができる。
【0049】
ここで、これらの作業を行う際には、延在ロープ11や命綱を内装状態にするチャック12の円筒部21bを閉止状態にする底面部21cの雄ネジ26が回転して本体部21側の雌ネジ部21eとの螺合が緩んだとしても、本体部21と底面部21cに溶接されている分割円筒部21f、21gに円柱状ロック部材27が貫通していてその底面部21cの開放を制限する。これにより、作業者は、不用意にチャック12から延在ロープ11や命綱が外れてしまうことなく、作業を継続することができ、そのチャック12を連結する作業帯13の尻当てベルト32で姿勢を安定させつつ、また、その胴巻きベルト31で転落することが防止されて、水路鉄管100内での作業を安全かつ容易に実施することができる。
【0050】
このように本実施形態においては、傾斜する水路鉄管100内に上部から下部に延在ロープ11(命綱を含めて)を渡して、その延在ロープ11に作業帯13を連結したチャック12を係合・係止させるだけで、作業帯13の尻当てベルト32に安定した姿勢で作業者を保持するとともに、同時に、その作業帯13の胴巻きベルト31に作業者の転落防止を確保しつつ、そのチャック12を握るだけで移動して、その水路鉄管100の内面にサンドブラスト処理や塗装処理を施すことができる。したがって、傾斜する水路鉄管100内に上部から下部までの大規模な足場を組むことなく、また、その足場を組むほどの空間のない水路鉄管100内でも、その水路鉄管100の内面に高品質の防錆処理を安全かつ容易に、また、安価に施すことができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
これまで本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術的思想の範囲内において種々異なる形態にて実施されてよいことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明に係る筒状構築物の内面処理作業方法を実行するその内面処理作業用システムの一実施形態を示す図であり、その概略全体構成を示す側方立面図である。
【図2】その要部構成の装置構成を示す図であり、(a)はその使用時の平面図、(b)はその機能を説明する開放状態での平面図である。
【図3】その要部構成の装置構成を示す平面図である。
【図4】その要部構成の装置構成を示す平面図である。
【符号の説明】
【0053】
10 内面処理作業用システム
11 延在ロープ
12 チャック
13 作業帯
14 サンドブラスト装置
15 空気供給装置
21 本体部
22 把持部
21b 円筒部
21c 底面部
24 連結ロープ
25 連結レバー
28 係止部
28a 係止爪
31 胴巻きベルト
32 尻当てベルト
33、34 リング
35 フック
41 サンドホース
42 ノズル
45 被覆カバー
46 覗き窓
100 水路鉄管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜する姿勢で延在する筒状構築物の内面の処理作業を行う際に使用する筒状構築物の内面処理作業用システムであって、
筒状構築物内の上部に固定されて下部まで延長される所定以上の強度を有する線状部材と、該線状部材に連結して作業者を作業位置に当該作業可能に保持する保持装置と、筒状構築物の内面に所望の処理を施す処理装置と、を備えることを特徴とする筒状構築物の内面処理作業用システム。
【請求項2】
前記保持装置は、線状部材に離脱不能に係合して牽引方向に後退することを制限するとともに所定の操作の継続により該線状部材の延在方向の一方向または双方向にスライドすることを許容する係合装置を介して当該線状部材に連結することを特徴とする請求項1に記載の筒状構築物の内面処理作業用システム。
【請求項3】
前記保持装置は、作業者の臀部または胴部の一方あるいは双方を保持する保持部を有することを特徴とする請求項1または2に記載の筒状構築物の内面処理作業用システム。
【請求項4】
前記処理装置は、筒状構築物の内面の塗装の前処理を行うサンドブラスト装置、または、筒状構築物の内面を塗装する塗装装置であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の筒状構築物の内面処理作業用システム。
【請求項5】
前記作業者が周囲の空気に頼ることなく呼吸可能に清浄な空気を供給する空気供給装置を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の筒状構築物の内面処理作業用システム。
【請求項6】
前記空気供給装置は、前方の視界を確保しつつ作業者の頭部を覆う頭部装着部と、該頭部装着部内に連結して清浄空気を供給する供給チューブと、を有することを特徴とする請求項5に記載の筒状構築物の内面処理作業用システム。
【請求項7】
傾斜する姿勢で延在する筒状構築物の内面の処理作業を行う際の筒状構築物の内面処理作業方法であって、
筒状構築物内の上部から下部以上の長さで所定以上の強度を有する線状部材と、該線状部材に離脱不能に係合して牽引方向に後退することを制限するとともに所定の操作の継続により該線状部材の延在方向の一方向または双方向にスライドすることを許容する係合装置と、該係合装置に連結して作業者を作業位置に両手を自由な状態で保持する保持装置と、筒状構築物の内面に所望の処理を施す処理装置と、を準備して、
筒状構築物内の上部に線状部材を固定して下部まで延長させた後に、該筒状構築物内の上方の線状部材に係合装置を介して保持装置を連結させて作業者を作業位置に保持させ、この後に、処理装置による筒状構築物の内面への処理を開始し、
次いで、作業位置での筒状構築物の内面に施す処理作業が終了する毎に係合装置を下方にスライドさせつつ降下することを該筒状構築物の下部まで繰り返すことを特徴とする筒状構築物の内面処理作業方法。
【請求項8】
前記処理装置として、筒状構築物の内面の塗装の前処理を行うサンドブラスト装置、または、筒状構築物の内面を塗装する塗装装置を準備して、
筒状構築物内の上部から下部の内面のサンドブラスト処理または塗装処理を行うことを特徴とする請求項7に記載の筒状構築物の内面処理作業方法。
【請求項9】
前記作業者が周囲の空気に頼ることなく呼吸可能に清浄な空気を供給する空気供給装置を準備して、
処理装置による筒状構築物の内面処理を行う際に、該空気供給装置から清浄な空気を作業者に供給することを特徴とする請求項7または8に記載の筒状構築物の内面処理作業方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−20609(P2007−20609A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−202864(P2005−202864)
【出願日】平成17年7月12日(2005.7.12)
【出願人】(591124167)中電工業株式会社 (19)
【Fターム(参考)】