説明

管楽器の演奏補助構造

【課題】簡単な操作によりスライド管をスライド移動することができるように演奏操作を補助することができるようにすること。
【解決手段】管楽器10は、音高調整を行うためのスライド管11を備えたトロンボーンからなる。スライド管11には操作部20が設けられ、この操作部20への奏者の操作を検出する検出手段29が設けられている。スライド管11は、駆動手段21により駆動力が付与されてスライド移動可能とされている。検出手段29及び駆動手段21は、制御手段22に接続され、この制御手段22は、検出手段29から出力される信号に基づいて駆動手段21によるスライド管11の移動を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管楽器の演奏補助構造に係り、更に詳しくは、スライド管の操作負担を軽減することができる管楽器の演奏補助構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アルトトロンボーンやテナートロンボーン等のスライド管を備えた種々の管楽器が広く利用されるに至っている。このような楽器の演奏に際しては、マウスピースを介して吹奏操作しつつ、音高や音程に応じてスライド管を所定位置にスライド操作することが必要となる。
【0003】
【特許文献1】特開2004−177828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記演奏においては、スライド管を素早くスライド操作し、速い旋律を正確な音程で演奏することが困難となる。これは、スライド操作のストローク量が長くなる他、スライド管の質量による慣性抵抗や、スライド管移動時の摩擦抵抗等があることに起因する。従って、特に、初心者や障害者、力の弱い子供或いは高齢者にあっては、正確な演奏を行い難くなり、熟練者であってもスライド操作を行う上での運動の制約を受けることとなる、という不都合を生じる。しかも、奏者の体格にもよるが、小学生など比較的小柄な奏者が吹奏する場合、奏者から遠いポジションにスライド管をスライドさせようとしても手が届かなくなり、そのポジションの音程の音を発することができなくなる、という不都合もある。かかる不都合は、スライド管が長く高重量となるバストロンボーン等で特に顕出することとなる。
【0005】
ところで、特許文献1は、MIDI等の楽音発生用データに基づいて管楽器を自動的に演奏する装置を開示しているが、同装置は、奏者がスライド操作等を行うものではない。従って、同装置では、奏者自身が能動的に演奏してメロディを奏でる等、演奏操作自体を楽しむことができなくなるという不都合がある。
【0006】
[発明の目的]
本発明は、このような不都合に着目して案出されたものであり、その目的は、簡単な操作によりスライド管をスライドすることができ、演奏の正確性や表現性を高めることができる管楽器の演奏補助構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明は、音高調整を行うためのスライド管を備えた管楽器の演奏補助構造であって、
前記管楽器のスライド管近傍に設けられた操作部と、奏者による操作部への操作を検出する検出手段と、前記スライド管を移動させる駆動力を付与する駆動手段と、前記検出手段から出力される信号に基づいて駆動手段によるスライド管の移動を制御する制御手段とを備える、という構成が採用されている。
【0008】
本発明において、前記制御手段及び駆動手段は、当該駆動手段による駆動力の付与状態と非付与状態とを切り替え可能に設けられる、という構成が好ましくは採用される。
【0009】
また、前記操作部は、スライド管のスライド方向に沿って移動可能なスライダを備えている一方、前記検出手段は、スライダの移動を検出するエンコーダーを用いて構成されることが好ましい。
【0010】
更に、前記駆動手段は、超音波モータ、弾性表面波モータ、DCモータの少なくとも一つを用いて構成されるとよい。
【0011】
また、前記スライド管の移動により生じる力と逆向きの力を付与可能なバランス保持手段を更に備える、という構成を採ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、スライド管を直接操作することなく操作部を操作することにより、駆動手段を介してスライド管を移動させて演奏を行うことができる。これにより、操作の省力化やスライド管の動作の迅速化を図ることができ、演奏時における音程や音高、発音の正確性を高めることが可能となる。しかも、奏者の手が届かないポジションにスライド管を移動可能となり、当該ポジションの音を容易に発することができる。更には、初心者等であっても、熟練者のような素早く正確な動作を行うことができ、また、熟練者にあっては、恰もスライド操作を行う上での運動の制約が緩和されたようなスライド管の移動を可能として演奏の表現にバリエーションを付与することができる。これにより、様々なレベルの奏者に対し、従来よりも演奏による興味や楽しみを増大させることが期待できる。
【0013】
また、駆動手段による駆動力の付与状態と非付与状態とを切り替え可能としたので、前述のようなスライド操作を補助した演奏と、駆動手段を有しない従来タイプの管楽器と同様の演奏とを一の管楽器で選択することが可能となる。これにより、例えば、演奏の練習を行う場合に上達度に応じて前記切り替えを行う等、演奏の楽しみ方に種々のバリエーションを付与することが可能となる。
【0014】
更に、バランス保持手段を設けた場合、駆動手段によるスライド管の移動及びその停止時に、管楽器が全体的にぐらついたり、マウスピースに接する奏者の口に負荷が付与されることを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0016】
[第1実施形態]
図1には、第1実施形態に係る管楽器の正面図が示されている。この図において、管楽器10は、公知のテナートロンボーンとされ、具体的には、スライド管11と、このスライド管11の上部に位置するベル管12と、スライド管11の図中左側後方位置とベル12との間に配置された抜差管13と、前記スライド管11の後端側に装着されたマウスピース15と、スライド管11と抜差管13及びマウスピース15との間に設けられた第1及び第2の停止帯管17,18とを備えて構成されている。
【0017】
前記スライド管11は、図中左右方向にスライド移動可能とされ、当該スライドによって吹奏による息の通り道となる管の長さを変えて音高調整を行えるようになっている。スライド管11の近傍位置すなわち第1の停止帯管17には、奏者により操作可能な操作部20が設けられている一方、スライド管11には駆動手段21が設けられ、駆動手段21は制御手段22に接続されている。
【0018】
前記操作部20は、図2(A)及び(B)に示されるように、スライド管11のスライド方向と略平行に延びる上下一対のレール24,24と、これらレール24,24に装着されて当該レール24,24の延出方向に沿ってスライド移動可能なスライダ25と、このスライダ25から突設されたレバー状の把持部26と、各レール24,24の両端側を支持するとともに、前記第1の停止帯管17に接着等を介して固定される一対の側部材27,27とを備えて構成されている。操作部20には、前記スライダ25の移動を検出する検出手段29が組み込まれている。
【0019】
前記検出手段29は、レール24,24間に設けられて当該レール24,24と略平行に延びるとともに、スライダ25との相対面側に磁気パターンが書き込まれた磁気スケール30と、スライダ25における磁気スケール30に相対する面に設けられたヘッド31とを備えた磁気式エンコーダーにより構成されている。検出手段29は、前記制御手段22に接続されるとともに、磁気スケール30に対するヘッド31の位置を検出して前記制御手段22に信号を出力可能に設けられている。
【0020】
前記駆動手段21は、スライド管11と略平行に延びるとともに、一端側が抜差管13側に連結された支持アーム33と、この支持アーム33の先端側に設けられた超音波モータ34と、この超音波モータ34の回転軸に設けられたピニオン35と、前記スライド管11に取り付けられて前記ピニオン35に噛み合うラック36とを備えて構成されている。超音波モータ34は、前記制御手段22から通電されると、その回転軸を図中時計回り又は反時計回りに回転する一方、電力供給が停止されたときに、回転軸の回転を規制する力が生じるようになっている。ここで、前記支持アーム33の中間部には、バランス保持手段38が設けられている。
【0021】
前記バランス保持手段38は、スライド管11と略平行に延びる軸部39と、この軸部39に両端側で膨出する形状を備えた錘部40,40と、支持アーム33に連結されて軸部39を延出方向に移動可能に保持する保持手段41とを備えている。保持手段41と軸部39とには、前述の駆動手段21と同様の構造をなす移動装置42が設けられ、この移動装置42は、保持手段42に設けられた超音波モータ42A及びピニオン42Bと、軸部39の外周面に設けられてピニオン42Bに噛み合うラック42Cが設けられている。超音波モータ42Aは、前記制御手段22に接続されて回転軸の回転が制御されるようになっている。
【0022】
前記制御手段22は、管楽器10を構成する管体の外周に所定の連結部材を介して取り付けられ、或いは、管楽器10とは別体となる筐体等に設けられ、ケーブル等を介して検出手段29、駆動手段21及び移動装置42に接続されている。制御手段22は、検出手段29からの出力信号を入力し、増幅や変換、後述する演算等の処理を行う信号処理部22Aと、前記駆動手段21及び移動装置42に通電する電源部22Bと、信号処理部22Aに入力された信号に基づいて電源部22Bによる駆動手段21及び移動装置42への通電を制御するコントロール部22Cとを備えて構成されている。コントロール部22Cには、図示しないスイッチが接続され、このスイッチにより、電源部22Bから駆動手段21への通電を操作し、駆動手段21による駆動力の付与状態と非付与状態とを切り替え可能となっている。
【0023】
以上の構成において、管楽器10を演奏すべくスライド管11をスライドさせる場合、奏者が操作部20の把持部26を手で掴んでスライダ25をスライド移動させる。これにより、検出手段29のヘッド31が検知する位置情報によってスライダ25の移動量が検出され、この検出信号が制御手段22に出力される。すると、制御手段22は検出信号に基づいてスライド管11の移動ストローク量と、当該移動ストローク量に要する超音波モータ42Aの回転数を演算する。具体的には、スライダ25の移動量Lに対し、スライド管11の移動ストローク量Sとした場合、前記移動量Lに1より大きい係数αを乗じた値を移動ストローク量Sとし、当該移動ストローク量Sからラック42C及びピニオン42Bの条件に応じて超音波モータ42Aの回転数を演算する。この回転数に応じて制御手段22から超音波モータ42Aに通電を行うことにより、ラック42C及びピニオン42Bを介してスライド管11が前記ストローク量Sスライド移動する駆動力が付与されて演奏が行われる。
【0024】
また、前記スライド管11のスライド移動に伴って、バランス保持手段38の軸部39も制御手段22及び移動装置42を介してスライド移動される。この際、軸部39の移動方向は、スライド管11の移動方向と左右逆向きとされ、軸部39の移動速度V1は、制御手段22を介して以下の式(1)により求められる。
V1=V2・M2/M1・・・(1)
M1は軸部39及び各錘部40,40の総質量、V2は、制御手段22により超音波モータ42Aの回転数等から演算されるスライド管11の移動速度、M2はスライド管11の質量である。
これにより、スライド管11の移動によって生じる管楽器10全体が移動しようとする力と、逆向きの力を軸部39の移動により付与することができ、スライド管11移動時の管楽器10のぐらつきや、マウスピース15等を介して奏者の口に加わる負荷を軽減することが可能となる。
【0025】
なお、前述した制御手段22のスイッチを操作し、駆動手段21による駆動力を付与しない状態とすれば、検出手段29や駆動手段21が恰も存在しない従来の管楽器10と同様に、スライド管11をスライド操作して演奏することが可能となる。
【0026】
従って、このような第1実施形態によれば、スライダ25の移動量Lをスライド管11の移動ストローク量Sより短くすることができ、スライド管11のスライド操作の迅速化を図ることができる他、比較的小柄な奏者であっても、手が届かないポジションにスライド管11を移動させることができる。また、駆動手段21を介してスライド管11を移動させるので、操作力を軽減することができ、演奏の正確性を高めて奏者の演奏操作を補助することが可能となる。
【0027】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、以下の説明において、前記第1実施形態と同一若しくは同等の構成部分については必要に応じて同一符号を用いるものとし、説明を省略若しくは簡略にする。
【0028】
図3には、本発明の第2実施形態に係る管楽器の正面図が示されている。この第2実施形態では、駆動手段44及び移動装置45が弾性表面波モータを用いて構成されている。駆動手段44は、スライド管11に設けられた移動子44Aと、この移動子44Aに対向するように前記支持アーム33の先端側に支持された固定子44Bとを備えて構成されている。固定子44Bは、前記制御手段22から通電されると弾性表面波を発生し、その弾性表面波が固定子44B上を伝播する際の摩擦力によって移動子44Aを移動し、スライド管11を移動させるようになっている。また、移動装置45も、前記駆動手段44と同様の機能を有する移動子45A及び固定子45Bを備えて軸部39を左右方向に移動可能に設けられている。
【0029】
本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。
すなわち、本発明は、特定の実施の形態に関して特に図示し、且つ、説明されているが、本発明の技術的思想及び目的の範囲から逸脱することなく、以上に述べた実施形態に対し、形状、位置若しくは方向、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
従って、上記に開示した形状などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状などの限定の一部若しくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【0030】
例えば、前記検出手段29は、光学式エンコーダーを用いて構成してもよい。また、第1実施形態における超音波モータ34,42Aに代えてDCモータとしてもよい。但し、DCモータは、スライド管11等の位置を保持するために電力供給を継続する必要がある。
更に、操作部20の取付位置は、マウスピース15の隣接位置にする等、スライド管11の近傍で奏者が操作できる限りにおいて種々の設計変更が可能である。
また、本発明は、テナートロンボーンの他、アルトトロンボーンやバストロンボーン、スライドトランペット等にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】第1実施形態に係る管楽器の概略正面図。
【図2】(A)は、操作部及び検出手段の正面図、(B)は、(A)の側面図。
【図3】第2実施形態に係る管楽器の図1と同様の正面図。
【符号の説明】
【0032】
10・・・管楽器、11・・・スライド管、20・・・操作部、21,44・・・駆動手段、22・・・制御手段、29・・・検出手段、38・・・バランス保持手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音高調整を行うためのスライド管を備えた管楽器の演奏補助構造であって、
前記管楽器のスライド管近傍に設けられた操作部と、奏者による操作部への操作を検出する検出手段と、前記スライド管を移動させる駆動力を付与する駆動手段と、前記検出手段から出力される信号に基づいて駆動手段によるスライド管の移動を制御する制御手段とを備えていることを特徴とする管楽器の演奏補助構造。
【請求項2】
前記制御手段及び駆動手段は、当該駆動手段による駆動力の付与状態と非付与状態とを切り替え可能に設けられていることを特徴とする請求項1記載の管楽器の演奏補助構造。
【請求項3】
前記操作部は、スライド管のスライド方向に沿って移動可能なスライダを備えている一方、前記検出手段は、スライダの移動を検出するエンコーダーを用いて構成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の管楽器の演奏補助構造。
【請求項4】
前記駆動手段は、超音波モータ、弾性表面波モータ、DCモータの少なくとも一つを用いて構成されていることを特徴とする請求項1,2又は3記載の管楽器の演奏補助構造。
【請求項5】
前記スライド管の移動により生じる力と逆向きの力を付与可能なバランス保持手段を更に備えていることを特徴とする請求項1ないし4の何れかに記載の管楽器の演奏補助構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−256851(P2007−256851A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−84021(P2006−84021)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】