説明

管被覆材のカット治具

【課題】被覆材を切断する際、管本体を傷つけず、かつ管の円周方向及び軸方向に被覆材を確実に且つ容易に切断することができて、被覆材の除去作業時間を短かくできる、管被覆材のカット治具を提供する。
【解決手段】管6の外周全面を被覆する被覆材62を除去する際に、外周面から該被覆材62を切断するカット治具1であって、内周面が上記被覆材62の外周面に沿う曲面形状の鞍状鍔部3と、鞍状鍔部3に立設され切断刃5を出し入れ自在に収納した鞘4とからなり、該切断刃5の切り方向が管の軸方向と円周方向とに回転可能とされ、該切断刃5の刃先の鞘4からの出代が上記被覆材62の被覆厚さで固定可能とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管外周面を被覆する被覆材を除去する際に、外周面から該被覆材を切断するために用いられる被覆材のカット治具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被覆材を被覆された管を接続する場合、まず管を被覆材と共に切断し、次いで切断部近傍の保温材等の被覆材を管材から剥ぎ外すことが行われる。この剥ぎ外し作業は、一般的には、はさみやカッターナイフ等の切削刃を断熱材の外周に当てて、複合管外周を円周方向に刃物を走らせて断熱材を切断し、その後管端部から円周方向の切断個所にかけて、被覆材を管の管軸方向にも切断し、この両方の切断部を利用して、管から断熱材等の被覆材を剥ぎ取って除去する作業である。
【0003】
この時、はさみやカッターナイフの刃先が、断熱材を突き通して管外表面に当たって管本体を傷つけ易いという問題点があり、又、手ではさみやカッターナイフを操作すれば、円周方向に正確に切れ目を入れ難くく、且つ軸方向の切断面もぶれてしまい、被覆材の剥ぎ取り作業に時間がかかるという問題点もあった。
【0004】
一方、給湯管と排湯管と同時に被覆している断熱被覆管における先端部を、内部の給湯管又は排湯管を傷つけることなく除去することができる切断カッターとして、前方に向かって拡開した一対の対向する顎部を断熱被覆管受口とし、この顎部に顎部からの出代が大きい直線状の刃と出代が小さい直線状の刃とを拡開部側が広いV字状に設け、大径又は小径の給湯管又は排湯管をそれぞれ出代が大きい刃と小さい刃とで、内周面の厚みを僅かに残して夫々切断するように構成された断熱被覆管の切断カッターが知られている。この切断カッターは、円周方向には正確に且つ内部の管表面に傷を付けないように断熱材を切断することができるものである(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
しかしながら、この切断カッターにおいては、軸方向には、一方の顎部を断熱被覆管の端部から、給湯管と排湯管との隙間に差し込んで、その顎部に設けられた直線状の刃を長さ方向に動かして断熱材全長に渡って分断することが行われる。従って、その作業においては、直線状の刃が直接断熱被覆管内部の給湯管や排湯管に当たることはないにせよ、手で切断カッターを軸方向に動かすので、一般的な手作業の場合と同じく、軸方向の切断面がぶれてしまうという問題点が残っている。
【特許文献1】特開2003−19373、段落番号[0005]、段落番号[0013]
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、被覆材を切断する際、管本体を傷つけず、かつ管の円周方向及び軸方向に被覆材を確実に且つ容易に切断することができて、被覆材の除去作業時間を短かくできる、管被覆材のカット治具を提供する目的で成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の管被覆材のカット治具は、管の外周全面を被覆する被覆材を除去する際に、外周面から該被覆材を切断するカット治具であって、内周面が上記被覆材の外周面に沿う曲面形状の鞍状鍔部と、鞍状鍔部に立設され切断刃を出し入れ自在に収納した鞘とからなり、該切断刃の切り方向が管の軸方向と円周方向とに回転可能とされ、該切断刃の刃先の鞘からの出代が上記被覆材の被覆厚さで固定可能とされている。
【0008】
本発明の管被覆材のカット治具が好ましく適用される管は、断面円形の管の外周全面を略均一な厚さで被覆する被覆材で被覆した管であって、例えば一例として、ポリエチレン、ポリプロピレン系等のポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂やフッ素系樹脂等の合成樹脂類;これらと強化繊維との複合樹脂類;或いはアルミニウム、ステンレススチール、鉄、銅等の金属類等の管の外周面の全面に、ポリエチレン、ポリウレタン、アクリル系樹脂や塩化ビニル系樹脂等の合成樹脂発泡体を保温材として均一な厚さに被覆した複合管等が挙げられる。
【0009】
例えば、アルミニウム合金の両面に架橋ポリエチレン層を積層した金属複合ポリエチレン管の外周全面を、断熱材として均一な厚さの硬質発泡ポリウレタン樹脂で被覆し、更に最外層に発泡していないポリ塩化ビニル樹脂やポリエチレン層等の保護層で被覆した複合管等が特に好適である。
【0010】
但し、切断刃によって切断されるので、被覆材としては金属等の硬度の高い材料、又は木材等の密度の高いものは不適当である。従って、カット治具を適用するかどうかは、被覆材の硬度、密度等をその都度判断して、適宜決められれば良い。
【0011】
本発明のカット治具の切断刃と鞘は、所定の位置で折り取り可能な切断刃が、鞘の溝に設けられたラチェットにより鞘の中を断続的にスライド移動可能とされた切断刃移動具に取り付けられ、該移動具によって断続的に刃送り可能とされて鞘の中に収納されたものである。
【0012】
該切断刃移動具のねじを締め緩めすることで、切断刃を鞘に移動不能に固定したり、スライド移動して刃送りさせたり、或いは切断刃を鞘内に収納したりする。即ち、切断刃移動具のねじを緩めて切断刃の切っ先をスライドさせて鞘から突出させ、所定の長さに出したらねじを締めて切断刃移動具を鞘に固定して切断刃を固定する。例えば、市販の刃送り式のカッターナイフ等が好適に用いられる。
【0013】
カット治具の鍔は、内周面が上記被覆材の外周面に沿う曲面形状の鞍状とされ、カット治具を用いる時に、鍔内周面が、被覆材の外周面に沿って管の軸方向又は円周方向に摺動移動し、切断刃が、ふらつかずに目的の軌跡を描いて被覆材を切ることができるように案内するガイドとして機能する。
【0014】
従って、鍔部には強度と対摩耗性とが必要であり、内周面は、好ましくは被覆材表面との滑りが良いものであることが好ましく、例えば一例として、ポリエチレン、ポリプロピレン系等のポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、フッ素系樹脂、シリコン系樹脂やアクリルスチレンブタジエン樹脂等等の合成樹脂類;これらと強化繊維との複合樹脂類;或いはアルミニウム、ステンレススチール、鉄、銅等の金属類等が挙げられる。
【0015】
カット治具本体は、鞘が鞍状鍔部の背側に立設され、切断刃が腹側に突出可能なように取り付けられる。切断刃は、切断刃を鞘内に完全に収納した時に、切っ先が鍔部の内周面から突出しないようにされる。鞘は、該切断刃の切り方向が管の軸方向と円周方向とに回転可能とされるように、鞍状鍔部に取り付けられる。
【0016】
切削刃切り方向の回転方法は特に限定されないが、例えば一例として、鞘を円形の座板に固定し、鍔にこの座板を受ける貫通孔を設け、その貫通孔の中に座板を嵌挿するようにする方法などが挙げられる。座板と貫通孔とは互いに掛止凸部とこれに対応する掛止凹部などを設けて、管の軸方向と円周方向の間だけで自在に回転可能とされ、それ以上には回転不能とされると良い。更に、軸方向又は円周方向の位置の時に、鞘が動かないようにストッパーが設けられると良い。
【発明の効果】
【0017】
本発明のカット治具は、鞍状鍔部が被覆材の外表面に沿った曲面形状とされているので、カット治具の鍔部を管被覆材の表面に当てて移動すれば、鍔部は被覆材の外表面に沿って管の軸方向又は円周方向に移動し斜めに移動することがない。加えて、切断刃の切り方向を管の軸方向又は円周方向に自在に変更できるので、鞍状鍔部を被覆材表面に当てた状態で切断刃の切り方向を変更すれば、被覆材を、管の円周方向又は軸方向に確実に且つ容易に切断することができて、被覆材の除去作業時間を短かくできる。さらに、切断刃の出代を任意に調節できるので、被覆材の厚さの変化に対応して、管本体の表面を傷つけずに切断できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に図面を参照して本発明のカット治具を説明する。図1は本発明のカット治具の一例、図2は鞘と鞍状鍔部との取付状態の一例である。
【0019】
図1に示されるように、カット治具1は、鞘4内に切削刃5が出し入れ自在に収納されたカッター2の、切削刃5の出入り部近傍に、鞍状鍔部3が取り付けられたものである。
【0020】
カット治具1の本体2は、所定の位置で折り取り可能な鋼製切断刃5が、本体2の側面の溝に設けられたラチェットにより、鉄製の鞘4の中をスライド移動して断続的に刃送り可能とされた切断刃移動具21に固定されて鞘4の中に収納され、該切断刃移動具21のねじ22を締め緩めすることで、切断刃5を鞘4に固定したり、スライド移動して刃送りさせたりするカッター2である。この切断刃移動具21のねじ22を緩めて切断刃4の切っ先をスライドさせて鞘5から突出させ、所定の長さに出したらねじ22を締めて切断刃移動具21を鞘4に固定して切断刃5を固定する。
【0021】
塩化ビニル樹脂の成形体からなる鞍状鍔部3は、内周面31が、アルミニウム合金の両面に架橋ポリエチレンを積層した金属複合管61の外周面を、被覆材52として硬質ウレタン樹脂発泡体を略均一な厚さで被覆した被覆管6の、被覆材62の外表面に沿った曲面形状の鞍状とされている。
【0022】
この鞍部3の背側ほぼ中央位置に、上記鞘4が、切断刃5が鞍部3の腹側に突出可能となるように取り付けられている。本例の場合、鞍部3の鞘4取付部分に円形の貫通孔を設け、この貫通孔に、貫通孔の直径と同じ直径の円形の座板31を回転自在に嵌め込み、この座板31に鞘4の固定孔を設けて、切断刃5が突出可能となるように鞘4を固定してある。
【0023】
図2に示されるように、座板31は貫通孔内を回転するが、回転の範囲が、切断刃5の方向が管の管軸方向及び円周方向との2方向で固定できるように、回転防止のための掛止凸部32が設けられている。この座板側掛止凸部32は、鞍部3に設けられた鞍部掛止凹部33と係わって回転が停止される。その位置にピン等のストッパー(図示せず。)等を設けて固定を確実にする等されれば良い。また、座板31は、切断刃5で被覆材62を切断する作業中、貫通孔から外れたり浮いたりしないよう、貫通孔に溝を付けてかしめるようにして座板31嵌め込むか、貫通孔の直径が鞍状鍔部3の腹側が大きくなるようにしてカット治具1を嵌め込む等の工夫をすれば良い。
【0024】
なお、図3(a)に示されるように、切断刃5を必要な長さだけ鞘から突出させてねじ22で固定される。カット治具1の不使用時や切断刃5の切り方向を変更するとき等は、図3(b)に示されるように、一旦ねじ22を緩め切断刃移動具21を移動させて切断刃5の切っ先を鞘4内に収納すれば、容易に回転が可能である。
【0025】
図4は、このカット治具1を用いて被覆管6の被覆材62を切断する手順の一例を示す工程図である。まず、図4(a)のように、カット治具1の鞍部3の内周面全面が被覆材62の外周面と接触するように押し当てる。この状態で、座板31を回転し、切断刃5の刃の方向が管6の管軸と直角方向に向くように貫通孔に嵌め込み、掛止凸部32と掛止凹部33とで掛止して固定する。
【0026】
次いで、図4(b)のように、カッター2のねじ22を緩め、切断刃移動具21をスライド移動して、切断刃5を鞍状鍔部3の腹側に突出させ、切断刃5を被覆材62に食い込むように挿入する。切断刃5の先端が金属複合管61の表面と接触する寸前まで切断刃5を突出させたら、ねじ22を締めて切断刃移動具21を鞘4に固定し、切断刃5の突出長さを固定する。
【0027】
この状態で、図4(c)のようにカット治具1を、切断刃5の刃先を先にして、被覆材62の円周方向に動かす。鍔部3が被覆材62の外周面に沿った曲面形状の鞍状とされているので、切断刃5は左右にぶれることなく、被覆材62の周りを円周方向に動いて元の位置に戻り、被覆材62には円周方向に、管61の表面近傍までの深さで切断される。
【0028】
被覆材62に円周方向に切れ目が入ったら、図4(d)のように、一端カッター2のねじ22を緩め、切断刃移動具21をスライド移動して、切断刃5を鞘4内に収納する。次いで、座板31を回転し、切断刃5の刃の方向が管6の管軸方向に向くように貫通孔に嵌め込み、掛止凸部32と掛止凹部33とで掛止して固定する。
【0029】
図4(e)のように、再び、カッター2のねじ22を緩め、切断刃移動具21をスライド移動して、鞍状鍔部3の腹側に突出させ、切断刃5を被覆材62に食い込むように挿入する。食い込み位置は、既に入れた円周上の切断個所の位置と一致するようにする。切断刃5の先端が金属複合管61の表面と接触する寸前まで切断刃5を突出させたら、ねじ22を締めて切断刃移動具21を鞘4に固定し、切断刃5の突出長さを固定する。
【0030】
この状態で、図4(f)のように、カット治具1を、切断刃5の刃先を先にして、被覆材62の管軸方向に沿って被覆管6の管端部方向に移動させる。鍔部3が、被覆材62の外周面に沿った曲面形状の鞍状とされているので、切断刃5は左右にぶれることなく管軸と平行に直線的に動き、被覆材62は直線状に管軸と平行に切断される。
【0031】
被覆材62を金属複合管61から剥ぎ取り易いように、必要に応じて管軸と平行に複数個所を切断する。必要な個所が切断されたら、常法に従って被覆材62を管61の表面から剥ぎ取って除去する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明のカット治具の一例であり、(a)は切削刃が鞍状鍔部の背と直角な状態である場合の側面図、(b)は切削刃が鞍状鍔部の背と平行な状態である場合の側面図である。
【図2】鞘と鞍状鍔部との取付状態の一例を示し、(a)は切削刃の鞘が鞍状鍔部の背と平行な状態である場合の平面図、(b)は切削刃の鞘が鞍状鍔部の背と直角な状態である場合の平面図である。
【図3】(a)は切削刃が鞘に収納された一例の状態の側面図、(b)は切削刃が鞘から突出した一例の状態の側面図である。
【図4】このカット治具を用いて被覆管の被覆材を切断する手順の一例を示す工程図であり、(a)はカット治具を被覆管に載せた状態、(b)は切断刃を所定の長さに突出した状態、(c)は円周に沿って被覆材を切断した状態、(d)は切断刃を収納して切り方向を軸方向にした状態、(e)は再び切断刃を突出した状態、(f)は軸方向に沿って被覆材を切断した状態である。
【符号の説明】
【0033】
1 カット治具
2 カット治具本体(カッター)
21 切削刃移動具
22 ねじ
3 鞍状鍔部
31 座板
32 座板掛止凸部
33 鞍部掛止凹部
4 鞘
5 切削刃
6 被覆管
61 金属複合管
62 被覆材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
管の外周全面を被覆する被覆材を除去する際に、外周面から該被覆材を切断するカット治具であって、内周面が上記被覆材の外周面に沿う曲面形状の鞍状鍔部と、鞍状鍔部に立設され切断刃を出し入れ自在に収納した鞘とからなり、該切断刃の切り方向が管の軸方向と円周方向とに回転可能とされ、該切断刃の刃先の鞘からの出代が上記被覆材の被覆厚さで固定可能とされていることを特徴とする管被覆材のカット治具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−210(P2006−210A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−177225(P2004−177225)
【出願日】平成16年6月15日(2004.6.15)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】