説明

管路の水理的重要度の評価方法

【課題】 各節点における水の取り出し量で重み付けすることでより実際的に管路の重要度を評価することができる管路の水理的重要度の評価方法を提供する。
【解決手段】 管網の構成要件をなす水源、節点s1〜s4、節点間および節点と水源の間を結ぶ管路k1〜k5とからなる管網モデルにおいて、評価対象管路の閉止に起因する節点圧力変化率を求め、節点圧力変化率が大きいほどに評価対象管路の水理的重要度が大きいと評価するものであり、各節点ごとに、有効水頭変化率を求め、この有効水頭変化率に節点取り出し水量を乗算して重要度の重み付けを行い、全ての節点における重み付け後の有効水頭変化率の総和値を求め、この総和値を全ての節点における節点取り出し水量の総和である全取り出し水量で除算した値を節点圧力変化率とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は管路の水理的重要度の評価方法に関し、評価指標を用いて水道管網の中から水理的に重要な水道管路を特定する評価を行う技術に係り、水理的重要度が高い管路を的確に抽出することで、水道管路更新計画に必要な「科学的根拠を有した計画」に役立てるものである。
【背景技術】
【0002】
従来、大規模な水道施設、特に都市部における水道管網は複雑化しており、管網の全体に安定して送水することが困難となっている。このため、水道事業を行う当局においては日常的な業務として各地域における水圧変動の原因の調査や、管網に配設した管路や弁装置が有効に機能しているかなどを調査するとともに、各管路の水理的重要度を判断し、水道管路を整備する計画立案時の資料としている。
【0003】
水道管網等において各管路の水理的重要度を評価する方法としては、図2に示すように、水理解析をもとに指標として「流量比」、「平均圧力変化量」を求めるものや、「重要拠点ルート」を求めるものなどがある。
【0004】
図3に示すように、「流量比」は管網内の全給水量に対して各評価対象管路の流量が占める比率を表した指標であり、流量比が大きいほどに水理的重要度が高い管路であると評価する。
【0005】
図4、図5に示すように、「平均圧力変化量」は評価対象管路に障害(断水)が発生した場合の管網全体の圧力変動を表す指標であり、求めた平均圧力変化量が大きいほどに水理的重要度が高い管路であると評価し、また当該評価対象管路に障害が発生した場合のバックアップ管路を把握する。この平均圧力変化量については後に詳述する。
【0006】
図6、図7に示すように、「重要拠点ルート」は配水池から病院・災害時の非難場所等の重要拠点に至る配水ルートを流量、通過回数等の水理的な評価項目から探索を行う方法であり、重要施設への供給管路を把握する。
【0007】
次に、平均圧力変化量について詳述する。平均圧力変化量は、管網を構成する複数の管路の中から解析対象の管路を1本ずつ閉塞または抜き取った(以下においては「閉止」と呼称する)状態を想定し、各状態で水理解析を行って各管路の重要度を計算する場合の指標であり、以下の手順で求める。
【0008】
図1に示すように、管網の構成要件をなす配水池(水源)、複数の管路k1〜k5、各管路の始点、終点を結ぶ節点s1〜s4で管網モデルを設定する。図1に示す管網モデルにおいて、どの管路も閉止しない状態、つまり「非閉止」で水理解析を行い、水源、節点s1〜s4における非閉止時有効水頭を求める。また、各管路k1〜k5を1本ずつ閉止して繰り返し水理解析を行い、各管路k1〜k5を閉止した状態毎に閉止時有効水頭を求める。この水理解析は公知の技術であり、詳細な説明を省略する。
【0009】
次に、求めた非閉止時有効水頭、および閉止時有効水頭に基づいて次式により平均圧力変化量を求める。
【0010】
【数1】

具体的な例として、管路k3における平均圧力変化量を求める場合について説明する。
【0011】
【表1】

表1は水源および各節点s1〜s4における非閉止時有効水頭、および管路k3を閉止した時のk3閉止時有効水頭の各値を示すものである。
【0012】
この値を上述の式1に適用すると平均圧力変化量は次式のようになる。
【0013】
【数2】

同様にして、各管路k1〜k5における平均圧力変化量を求め、この値を指標として各管路の水理的重要度を評価する。
【0014】
この種の技術に係る先行技術文献としては下記のものがある。
【特許文献1】特開平6−274576号公報
【特許文献2】特開平7−133898号公報
【特許文献3】特開平8−302759号公報
【特許文献4】特開平9−259114号公報
【特許文献5】特開平9−259158号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、上記した従来の方法では、平均圧力変化量が非閉止時と閉止時の有効水頭の変化を絶対量を用いた値で示されるだけとなる。この平均圧力変化量では、体積が大きい管路ほど水理的重要度が高いと評価され、各節点における水の取り出し量(使用量)については考慮されていない。
【0016】
例えば、有効水頭が30mから25mに変化する管路と、有効水頭が15mから10mに変化する管路は、平均圧力変化量で評価すると同じ評価値5mとなる。しかし、圧力変化が各節点における水の取り出し量に与える実際的な影響は、有効水頭が15mから10mに変化する管路の方が大きく、平均圧力変化量が同じであるとして評価することには実際の運用面において問題がある。
【0017】
本発明は上記した課題を解決するものであり、各節点における水の取り出し量で重要度に重み付けをすることで、より実際的に管路の重要度を評価することができる管路の水理的重要度の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために、本発明の管路の水理的重要度の評価方法は、管網の構成要件をなす水源、節点、節点間および節点と水源の間を結ぶ管路とからなる管網モデルにおいて、評価対象管路の閉止に起因する節点圧力変化率を求め、節点圧力変化率が大きいほどに評価対象管路の水理的重要度が大きいと評価するものであり、
節点圧力変化率は、各節点において想定する節点取り出し水量、および水理解析によって算出する、全ての管路が非閉止状態にある各節点の非閉止時節点有効水頭と、評価対象管路を閉止した閉止状態における各節点の閉止時節点有効水頭とに基づき求めるもので、
各節点ごとに、非閉止時節点有効水頭から閉止時節点有効水頭を減算して節点有効水頭変化量を求め、この節点有効水頭変化量を非閉止時節点有効水頭で除算して有効水頭変化率を求め、この有効水頭変化率に節点取り出し水量を乗算することで重要度の重み付けを行い、全ての節点における重み付け後の有効水頭変化率の総和値を求め、この総和値を全ての節点における節点取り出し水量の総和である全取り出し水量で除算した値を節点圧力変化率とするものである。
【発明の効果】
【0019】
以上のように本発明によれば、節点圧力変化率は、各節点における節点有効水頭の変化に加え、節点取り出し水量で重要度の重み付けをしたものとなるので、実際的な管路の水理的重要度を評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1に示すように、管網の構成要件をなす水源、節点s1〜s4、節点間および節点と水源の間を結ぶ管路k1〜k5とからなる管網モデルを設定する。
【0021】
この管網モデルにおいて、どの管路k1〜k5も閉止しない状態、つまり非閉止状態で水理解析を行い、水源、節点s1〜s4における非閉止時節点有効水頭p1、p2、p3、p4を求める。また、各管路k1〜k5を1本ずつ閉止して繰り返し水理解析を行い、各管路k1〜k5を閉止した状態毎に閉止時節点有効水頭p1’、p2’、p3’、p4’を求める。この水理解析は公知の技術であり、詳細な説明を省略する。
【0022】
次に、各節点s1〜s4において節点取り出し水量c1、c2、c3、c4を想定する。そして、節点取り出し水量、各節点の非閉止時節点有効水頭と、各節点の閉止時節点有効水頭とに基づいて、評価対象管路の閉止に起因する節点圧力変化率を以下の手順で求める。
【0023】
各節点s1〜s4の非閉止時節点有効水頭p1、p2、p3、p4から閉止時節点有効水頭p1’、p2’、p3’、p4’を減算して節点有効水頭変化量p1−p1’、p2−p2’、p3−p3’、p4−p4’を求める。
【0024】
この節点有効水頭変化量を非閉止時節点有効水頭で除算して有効水頭変化率(p1−p1’)/p1、(p2−p2’)/p2、(p3−p3’)/p3、(p4−p4’)p4を求める。
【0025】
この有効水頭変化率に節点取り出し水量c1、c2、c3、c4を乗算して節点取り出し水量による重み付けした後の有効水頭変化率c1×(p1−p1’)/p1、c2×(p2−p2’)/p2、c3×(p3−p3’)/p3、c4×(p4−p4’)p4を求める。
【0026】
全ての節点における重み付け後の有効水頭変化率の総和値c1×(p1−p1’)/p1+c2×(p2−p2’)/p2+c3×(p3−p3’)/p3+c4×(p4−p4’)p4を求め、この総和値を全ての節点における節点取り出し水量の総和である全取り出し水量c1+c2+c3+c4で除算した値を節点圧力変化率とするものである。
【0027】
上述した計算をまとめると次式のようになる。
【0028】
【数3】

具体的な例として、管路k3を評価対象管路として閉止する場合における節点圧力変化率を求める場合について説明する。
【0029】
【表2】

表2は水源および各節点s1〜s4における非閉止時節点有効水頭、および管路k3を閉止した時のk3閉止時節点有効水頭の各値を示すものである。
【0030】
この値を上述の式2に適用すると節点圧力変化率は次式のようになる。
【0031】
【数4】

同様にして、各管路k1〜k5における節点圧力変化率求め、節点圧力変化率が大きいほどに評価対象管路の水理的重要度が大きいと評価する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】管網モデルを示す模式図
【図2】水理的重要度評価の手法を示す説明図
【図3】流量比を指標とした重要管路の表示例を示す説明図
【図4】平均圧力変化量を指標とした評価の手法を示す説明図
【図5】平均圧力変化量による重要管路の表示例を示す説明図
【図6】重要拠点ルートを指標とした評価の手法を示す説明図
【図7】重要拠点ルート探索による重要管路の表示例を示す説明図
【符号の説明】
【0033】
s1〜s4 節点
k1〜k5 管路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管網の構成要件をなす水源、節点、節点間および節点と水源の間を結ぶ管路とからなる管網モデルにおいて、評価対象管路の閉止に起因する節点圧力変化率を求め、節点圧力変化率が大きいほどに評価対象管路の水理的重要度が大きいと評価するものであり、
節点圧力変化率は、各節点において想定する節点取り出し水量、および水理解析によって算出する、全ての管路が非閉止状態にある各節点の非閉止時節点有効水頭と、評価対象管路を閉止した閉止状態における各節点の閉止時節点有効水頭とに基づき求めるもので、
各節点ごとに、非閉止時節点有効水頭から閉止時節点有効水頭を減算して節点有効水頭変化量を求め、この節点有効水頭変化量を非閉止時節点有効水頭で除算して有効水頭変化率を求め、この有効水頭変化率に節点取り出し水量を乗算することで重要度の重み付けを行い、全ての節点における重み付け後の有効水頭変化率の総和値を求め、この総和値を全ての節点における節点取り出し水量の総和である全取り出し水量で除算した値を節点圧力変化率とすることを特徴とする管路の水理的重要度の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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