説明

管路点検診断装置

【課題】計測データの品質を向上させる管路点検診断装置を提供する。
【解決手段】管路計測装置は、管路内を走査するのに摺動性を保持するための滑材部を有する2つの誘導プローブ2と、前記2つの誘導プローブの間に設けられ、前記2つの誘導プローブの各々と連結するためのヒンジ部1aを管路走査方向の両端に有する本体プローブ1とを備える。前記2つの誘導プローブの各々は、前記ヒンジ部1aで管路走査方向を軸として回動するヒンジ支持部2aを有し、前記本体プローブ1は、管路を点検又は診断するための管路計測器6を支持し、且つ、前記本体プローブの重心を保持されているように機能する計測器支持部16を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管路を走査して、管路の状態を点検又は診断する管路点検診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の管路計測装置は、管路計測装置本体を装置両端から固定するための冶具を設けた構成(例えば、非特許文献1参照)や、管路計測装置本体とは別に走査体を設け、管路計測装置本体と走査体とをロープでつなぎ合わせた構成が知られている。
【0003】
例えば、図11に、管路計測装置本体を装置両端から固定するための冶具を設けた構成の概略を示す。ある建造物又は地中103の管路108を検査するために、管路計測装置本体101の両端には、管路計測装置本体を支える冶具102a及び102bが設けられている。冶具102bは、管路計測装置本体101からの計測信号を受信し、且つ、管路計測装置を管路内で走査させるためのケーブル104を有している。ケーブル104をウインチ105で巻き上げることにより、管路計測装置を管路内で走査させることになる。管路計測装置本体101からの計測信号は、インターフェース106を介してコンピュータ107で所定の信号処理が施される。これにより管路の位置又は状態を計測することができる。
【0004】
また、図12に、管路計測装置本体(同図においては、慣性センサを備えるケーシング)とは別に走査体を設け、ケーシングと走査体とをロープでつなぎ合わせた構成の概略を示す。図12は、管路208の中にケーシング201を走行させている状態を示す縦断面図である。ケーシング201には前後に車輪216が取り付けられている。一方、そのケーシング201の前方には、車輪220で管路208内を走行できる走行体202が配設されている。走行体202の走査方向の一端は、ロープ212によってケーシング201と連結されている。また、走行体202の他端は牽引用のケーブル204が取り付けられている。ケーブル巻取用リール205を矢印A方向に巻き上げることにより、管路計測装置を管路内で走査させることになる。
【0005】
【非特許文献1】株式会社 村田製作所、“ジャイロライオン”、[online]、平成16年5月28日、製品カタログ、[平成19年2月21日検索]、インターネット、〈http://www.well-murata.net/product/01_gyro.html〉
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
まず、管路の内部を計測する上で重要となるのは、管路計測装置のローリング、即ち装置本体の回転を考慮することである。現在の管路計測に用いられる種々の慣性計測装置(Inertial Measurement Unit: IMU)がある。そのIMUが計測可能な限界のローリング角度は、一般にIMUの仕様として定められており、各種のIMUの仕様に依存して、IMUの測定結果を解析しなければならない。換言すれば、ローリング量を抑えることのできる構造を有する管路計測装置が望まれている。
【0007】
更に、管路の内部を計測する上で重要となるのは、管路の継ぎ目による段差の影響を考慮することである。IMUが計測できる瞬間的な角度変化は、各種のIMUの仕様により異なる。換言すれば、IMUを搭載した容器(ケーシングとも称する)は、管路に段差がある場合においても角度変化を受けにくい構造を有することが望まれている。
【0008】
しかしながら、前述した従来の管路計測装置は、管路計測装置本体のローリングを抑制するような構造、或いは管路等の継ぎ目による段差の影響を抑制するような構造を有しておらず、改善の余地がある。
【0009】
本発明の目的は、上述の課題に着目し、管路を点検又は診断するための慣性計測装置等の管路計測器を用いて管路を点検又は診断する場合において、計測データの品質を向上させる管路点検診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による管路点検診断装置は、管路を走査して、管路の状態を点検又は診断する管路点検診断装置であって、管路内を走査するのに摺動性を保持するための滑材部を有する2つの誘導プローブと、前記2つの誘導プローブの間に設けられ、前記2つの誘導プローブの各々と連結するためのヒンジ部を管路走査方向の両端に有する本体プローブとを備え、前記2つの誘導プローブの各々は、前記ヒンジ部で管路走査方向を軸として回動するヒンジ支持部を有し、前記本体プローブは、管路を点検又は診断するための管路計測器を支持し、且つ、前記本体プローブの重心を保持するように機能する計測器支持部を有するとともに、前記2つの誘導プローブによって管路に対して非接触を保持されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
発明によれば、管路の点検診断業務における計測データの品質を向上させ、今後更に加速化するであろうライフラインの老朽化に対する維持管理業務のコスト削減を推進することが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明による実施例の管路点検診断装置について詳細に説明する。
【0013】
本発明による実施例の管路点検診断装置は、本体プローブ1に管路計測器(IMU、点検カメラ又は診断センサなど)を搭載することで、管路8の点検又は診断を実現することが可能であるが、以下、管路計測器として慣性計測装置を搭載した場合の実施例について説明する。
【0014】
図1は、本発明による実施例の管路点検診断装置の全体構成を示す図である。また、図2は、本発明による実施例の管路点検診断装置におけるヒンジ部の断面図である。図3は、本発明による実施例の管路点検診断装置におけるX−X’断面図である。図4は、本発明による実施例の管路点検診断装置におけるY−Y’断面図である。
【0015】
図1において、本発明による実施例の管路点検診断装置は、本体プローブ1及び2つの誘導プローブ2を備える。2つの誘導プローブ2の各々は、略円筒形状を有するとともに、管路8の内部を走査するのに摺動性を保持する滑材部16を有している。滑材部16は、誘導プローブ2が管路内をすべりやすくするために複数設けられ、ボールベアリング構造、そり又は車輪で構成することができる(図4参照)。
【0016】
本体プローブ1は、2つの誘導プローブ2の間に設けられ、2つの誘導プローブの各々と連結するためのヒンジ部1aを管路走査方向の両端に有している。また、図2に示すように、2つの誘導プローブ2の各々は、ヒンジ部1aで管路走査方向を軸として回動するためのヒンジ支持部2aを有している。
【0017】
図3に示すように、本体プローブ1は、本体プローブ1の内部において、管路8を点検又は診断するための管路計測器6(例えばIMU)を支持するとともに、本体プローブ1の重心を保持するように機能する計測器支持部1bを有している。
【0018】
このように、本体プローブ1は、2つの誘導プローブ2によって、管路8に対して非接触を保持されるように構成されており、管路8に直接触れずに管路8の中心に浮いた状態となっている。
【0019】
実際の管路8内での所定の測定時には、管路点検診断装置を牽引ワイヤ4で牽引し、例えばIMUで得られる計測データを電源複合通信ケーブル7を介して取得することになる。
【0020】
次に、本実施例の管路点検診断装置の性能検証を行った結果を示す。本実施例の管路点検診断装置を実証するにあたり、管路計測器6として、3軸光ファイバジャイロと3軸加速度計を搭載したIMUを本体プローブ1に設置した。また、本体プローブ1及び誘導プローブ2を連結した管路点検診断装置を管路8内で牽引ワイヤ4により牽引した。IMUから算出された角度データと距離計からの距離データを、電源複合通信ケーブル7を介してデータを取得し検証を行った。
【0021】
尚、円筒状の管路8は、略円形の管路断面径が直径25cmであるFRP管にて検証した。また、管路点検診断装置の誘導プローブ2の略円形の断面径は、FRP管を通過可能な直径22cmとした。図5に示すように、管路8の管路線形には管路8の平面方向に交角22度・曲率半径10R(直径10cm)の曲線を2箇所設け(管路の段差影響の検証のため)、管路8の縦断方向には曲線を設けずに(即ち、任意の管路位置で略円形)、管路長として約48mの管路8を用いて検証した。即ち、図5において、始点から終点へと管路点検診断装置を牽引した。
【0022】
管路点検診断装置の回転、即ちローリングの検証方法は、IMUから出力される回転角データを検証することで可能である。ここで、牽引ワイヤ4の牽引速度は、一般的な牽引速度約0.3m/s付近である、0.35m/s、0.32m/s、及び0.223m/sの各々について検証した。
【0023】
管路の段差影響は、IMUから出力される縦断角データの検証と、出力された角度データ及び距離データから変換した線形に対する実線形の比較とから、それぞれ検証した。
【0024】
まず、ローリングの検証結果として、管路8の直線部・曲線部、又は牽引速度に係わらず、IMUの回転角データが著しく変化することはなく、また60回の計測データを取得したが回転角データの変位幅は大きくても30°を超えるものはなかった。回転角データの一例を図6〜8に示す。牽引速度0.35m/s、0.32m/s、及び0.223m/sにおいては、回転角データの変位幅30°未満であることが分かる。従って、管路点検診断装置に搭載した慣性計測装置(IMU)が誤差を増大させうる回転角±90°(即ち、変位幅180°)に対して約1/6での計測が可能であることを確認することができた。これは、極めて安定した管路計測を実現可能であることを示している。
【0025】
次に、管路の段差影響の検証結果として、縦断角データの一例を図9に示すように、管路の段差影響による急激な角度変化は大きいところで0.12〜0.28°の範囲で発生していることが確認できた。しかしながら、図9に示す縦断角データを、管路位置の累積計算のために線形に変換した場合、図10に示すように、線形が急激に変化することはなくなることが確認できた。これは、管路の位置が、後述する式1の変換式に従って累積値から算出するためである。このことは、極めて安定した管路計測を実現可能であることを示している。尚、このような演算は、実際の計測においても、例えばコンピュータを用いて逐次計算することができる。
【0026】
【数1】

【0027】
ここに、nは、任意の正の整数を表し、Zは、任意の管路位置を表す。また、θは、任意のnにおいてIMUで計測したローリングの角度[deg]、lは、任意のn−1からnまで走査する単位距離を表し、これにより、Zは、累積したZn−1の位置からの変化量(δl・sinθ)分を走行するものとして管路位置を計測できる。
【0028】
本実施例における実測による結果(図6〜10)から、本発明による本実施例の管路点検診断装置は、管路を慣性計測装置(IMU)で点検又は診断する場合において、より正確に計測することを可能とする構成であることが確認できた。
【0029】
上述の実施例については代表的な例として説明したが、本発明の趣旨及び範囲内で、多くの変更及び置換することができることは当業者に明らかである。例えば、「管路」の意味を建造物又は地中などの埋設管に限定する必要は無く、本発明によればボーリング等による削孔に対しても適用可能である。従って、本発明は、上述の実施例によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲によってのみ制限される。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明による管路点検診断装置は、慣性計測装置、管路点検カメラ、或いは管路診断センサを搭載した管路を点検又は診断する用途において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明による実施例の管路点検診断装置の全体構成を示す図である。
【図2】本発明による実施例の管路点検診断装置におけるヒンジ部の断面図である。
【図3】本発明による実施例の管路点検診断装置におけるX−X’断面図である。
【図4】本発明による実施例の管路点検診断装置におけるY−Y’断面図である。
【図5】本発明による実施例の管路点検診断装置における検証に用いた管路線形を示す図である。
【図6】本発明による実施例の管路点検診断装置における、牽引速度0.35m/sの場合の検証結果を示す図である。
【図7】本発明による実施例の管路点検診断装置における、牽引速度0.32m/sの場合の検証結果を示す図である。
【図8】本発明による実施例の管路点検診断装置における、牽引速度0.223m/sの場合の検証結果を示す図である。
【図9】本発明による実施例の管路点検診断装置における、縦断角データの検証結果を示す図である。
【図10】図9に示す縦断角データを、管路位置の累積計算のために線形に変換した結果を示す図である。
【図11】従来の管路計測装置の構成の概略を示す図である。
【図12】従来の管路計測装置の構成の概略を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
1 本体プローブ
1a ヒンジ部
2 誘導プローブ
2a ヒンジ支持部
4 牽引ワイヤ
6 管路計測器
7 電源複合通信ケーブル
8 管路
16 滑材部
101 管路計測装置
102a,102b 冶具
103 建造物(又は地中)
104 ケーブル
105 ウインチ
106 インターフェース
107 コンピュータ
108 管路
201 ケーシング
202 走行体
204 ケーブル
205 ケーブル巻取用リール
208 管路
216,220 車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管路を走査して、管路の状態を点検又は診断する管路点検診断装置であって、
管路内を走査するのに摺動性を保持するための滑材部を有する2つの誘導プローブと、
前記2つの誘導プローブの間に設けられ、前記2つの誘導プローブの各々と連結するためのヒンジ部を管路走査方向の両端に有する本体プローブとを備え、
前記2つの誘導プローブの各々は、前記ヒンジ部で管路走査方向を軸として回動するヒンジ支持部を有し、
前記本体プローブは、管路を点検又は診断するための管路計測器を支持し、且つ、前記本体プローブの重心を保持するように機能する計測器支持部を有するとともに、前記2つの誘導プローブによって管路に対して非接触を保持されていることを特徴とする管路点検診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−275478(P2008−275478A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−120081(P2007−120081)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】