説明

簡易設置型流水式水力発電装置

【課題】本願発明は、組み立て解体が容易で農業用水路に簡単に設置でき、実用に適した発電出力が得られる簡易設置型流水式水力発電装置を提供する。
【解決手段】農業用水路に設置される回転軸が水平の水平軸型水車と該水車に連設される発電機とからなり、前記水車の回転直径は略2mであって該水車は長辺方向が前記水平軸に平行となる6枚の長方形の平板状の羽根を備え、前記羽根の前記農業用水路に水没する深さは該羽根の短辺の長さに略一致し、前記羽根の先端部には該羽根の長辺全体が川上方向に直角に曲折された底板とともに両端部には川上方向に直角に曲折された略矩形の側板が備えられ、前記側板間の前記羽根の表面には複数の略矩形の仕切り板が略等間隔かつ該側板に平行に川上方向に突設され、前記羽根の長辺の長さは前記農業用水路の幅の略75%であるとともに該羽根の短辺の長さは略0.45mである、構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、農業用水路に設置される簡易設置型流水式水力発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水力発電に使用される水車には、水の落差の高い順に衝動水車、反動水車および重力水車が使用される。この内、落差の低い水路などに使用される水車は、重力水車の範疇に入り、開放型下掛け水車とも称されることがある。
【0003】
この開放型下掛け水車(流水式水車)を水力発電に使用例が、インターネット上に開示されている(http://www2.tba.t-com.ne.jp/hmc/Turbine/ Turbine1.html)が、それには、「水車の直径は、だいたい4〜7m程度と非常に大きく、マイクロ発電という言葉を使うのに抵抗感を覚えてしまいます。プレードの幅は設計流量に比例して大きくなります。最大級の水車としては、落差2m、流量10m/s、出力100kWなどというものも作られています。この水車の幅は、確か10mぐらいと聞いています。(中略)流量調整機能を持つ水車もあります。水車にすぐ上流側に流量調整ゲートを設置し、水量の変化に応じてゲート開度を調整し、常に最適な落差で運転する方法です。このゲートは下からせり上がってくる越流タイプのものです。つまり、流量が少なくすると、上流水位が下がりますが、この水位低下を検出して、ゲートが上昇させて水位を上げ、水車に流入する落差を一定に保つという制御です。また、水車に回転方向に流量を導く案内羽根も備え、効率を高める工夫をしています。総合効率は、他の水車より落ちますが、それでも60%ぐらいを確保しています。このタイプの水車は、良く『古典水車』、『昔の水車』などと旨われていますが、現在の水車は、羽根の形も改良され、制御に関しては先端のテクノロジーを駆使しています。日本では、この様な本格的な水車発電装置は殆ど製造されていません。日本のものは昔の面影を残した水車に発電機を取り付け、2〜3kW程度の発電をする程度のものです。」と紹介されている。
【0004】
一方で、農業基盤整備事業が整備された今日では、所定の規格を有する農業用水路がくまなく張り巡らされ、農業灌漑の普及に貢献している。このような水路幅が概ね4m程度の規格化された農業用水路では、常に流量が10m/s程度の水量で、一定の水位を保つように規格化されて整備されている。しかしながら、この所定の規格の尿業容水路は、専ら農業灌漑に利用されるのみであって、それ以外の利用については、未整備であり、ましてや、当該農業用水路に簡易に設置される流水式水力発電装置に関する先行文献は見当たらず、そもそも水力発電を目的とした農業用水路の流速分布のデーターも見当たらない。
【非特許文献1】http://www2.tba.t-com.ne.jp/hmc/Turbine/ Turbine1.html
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、流量が10m/s程度ではあっても、水路幅が概ね4m程度の上記規格化された農業用水路に、前述した〔非特許文献1〕に記載の水車の幅が10mの流水式水車を使用することはできない。仮に、水車の幅を農業用水路に変更したとしても、水車の直径が4〜7mでは、現場で組み立てなければならず、設置に手間が掛かることになるとともに、このような費用対効果を検討した場合、実用に適した発電出力となるかどうかも不明である。
【0006】
そこで、本願発明は、組み立て解体が容易で農業用水路に簡単に設置でき、実用に適した発電出力が得られる簡易設置型の流水式水力発電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するため、本願出願人は鋭意研究した結果、所定形状の羽根と枚数を備える水車により、上記目的を達成することができるとの知見を得た。
本願発明はこの知見に基づくものであって、本願請求項1に係る簡易設置型流水式水力発電装置は、農業用水路に設置される回転軸が水平の水平軸型水車と該水車に連設される発電機とからなり、前記水車の回転直径は略2mであって該水車は長辺方向が前記水平軸に平行となる4枚、6枚または8枚の長方形の平板状の羽根を備え、前記羽根の前記農業用水路に水没する深さは該羽根の短辺の長さに略一致する、ことを特徴としている。
また、本願請求項2に係る簡易設置型流水式水力発電装置は、請求項1に記載の簡易設置型流水式水力発電装置であって、前記羽根の先端部には該羽根の長辺全体が川上方向に直角に曲折された底板とともに両端部には川上方向に直角に曲折された略矩形の側板が備えられ、前記側板間の前記羽根の表面には複数の略矩形の仕切り板が略等間隔かつ該側板に平行に川上方向に突設されている、ことを特徴としている。
そして、本願請求項3に係る簡易設置型流水式水力発電装置は、請求項1または請求項2に記載の簡易設置型流水式水力発電装置であって、前記水車の羽根は6枚であり、前記羽根の長辺の長さは前記農業用水路の幅の略75%であり、前記羽根の短辺の長さは略0.45mであり、前記底板および前記側板の川上方向への突出長さは略0.30mであって、前記羽根を側面から見たときに前記仕切り板は該側板内に収まっている、ことを特徴としている。
前記水車の羽根は6枚であり、前記羽根の長辺の長さは前記農業用水路の幅の略75%であるとともに該羽根の短辺の長さは略0.45mである、ことを特徴としている。
さらに、本願請求項4に係る簡易設置型流水式水力発電装置は、請求項1ないし請求項3に記載の簡易設置型流水式水力発電装置であって、前記水車は前記農業用水路の左右の両側壁の天端に架設される2本の水平梁に懸吊されるとともに該水平梁は該側壁に対して着脱可能であり、該水平梁は前記側壁の天端に対するレベルを調整する高さ調整具を備えている、ことを特徴としている。
また、本願請求項5に係る簡易設置型流水式水力発電装置は、請求項1ないし請求項4に記載の簡易設置型流水式水力発電装置であって、前記水車の高さは水車の回転直径である略2m、前記水車の前記農業用水路に平行な長さは2本の水平梁の外々間距離である略2.25m、前記水車の前記農業用水路に直交する幅は該農業用水路幅+略0.6mである、ことを特徴としている。
そして、本願請求項6に係る簡易設置型流水式水力発電装置は、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の簡易設置型流水式水力発電装置であって、前記農業用水路の左右の両側壁の天端に架設される2本の水平梁の下部に、前記水車を平面的に囲繞して回動自在に軸支する矩形のフレームを渡設し、該矩形のフレームの該2本の水平梁に平行な一辺が該2本の水平梁の一方に回動自在に軸支されるとともに、該2本の水平梁に平行な他の一辺が該2本の水平梁の他方から縣吊されて、前記農業用水路に対する該水車の高さを所望の位置で固定可能とする、ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本願発明は、水車の長方形の平板状の羽根を4枚、6枚または8枚の偶数枚としている。このため、水車はバランスよく滑らかに回転し、水車の回転中は常に複数の羽根が水中に在ることになる。さらに、羽根を6枚とした場合には、先行する羽根により発生する水の渦が後続する羽根に与える影響を最小限に抑え、水流の特性を大幅に低下させることがなく、かつ、羽根の水上側の表面には側板や仕切り板が突設されていて、効率よく水を保持するため、発電出力を大きくすることができる。
【0009】
本願発明に係る水車の大きさを高さ略2m×長さ略2.25m×幅(農業用水路幅+略0.6m)としている。多くの農業用水路幅が4m程度であることから、多用される水車の大きさは、高さ略2m×長さ略2.25m×幅略4.6mとなる。この寸法は、車両保安基準における貨物の制限寸法である横2.2m×縦5.5m×高さ2.3m以内のサイズとなり、かつ、重量を2,000kg以内とすることにより、普通トラックに載せて公道を運搬することができる。また、当該水車は2本の水平梁に懸吊されるとともに該水平梁は農業用水路の側壁に対して着脱可能であるため、
(1)普通トラックに載せて現地に運び、簡易クレーン車で短時間に農業用水路に設置できるとともに、取り外して搬出も短時間でできる。
(2)農業用水路および農業用水路保護フェンスをいじることなく設置でき、水力発電装置の固定に特別な加工を必要としない。
(3)現地における組み立てに際し、特別な加工を必要としないで、水車に発電機を接続するだけで、水力発電装置の設置が完了する。
【0010】
水車の羽根の長辺の長さを農業用水路の幅の略75%とし、羽根の短辺の長さを略0.45mとし、さらに、羽根には底板や側板を備えているため、流水のエネルギーを有効に利用することができる。すなわち、羽根の長辺の長さは農業用水路の幅により決定されるが、水の粘性により農業用水路の側壁に接する部分では流速が最も小さく、中央部分が最も大きくなる。このため、羽根の長辺の長さを農業用水路の幅の略75%とすることにより、流速の大きい部分を利用することになるとともに、羽根の左右にクリヤーエリアを設けることになるので、水車を通過した水流の運動エネルギーの回復が促進され、農業用水路に流れるごみ等が水車に絡みつくことがない。また、水車の羽根の短辺の長さは水没する深さに大きく影響するが、本願発明では、車両保安基準に適した水車の大きさとするべく水車も回転直径を略2mとしているため、水車の羽根の水没する深さを大きくすれば、水に突入する羽根と水面との接触角度が小さくなり、水との接触抵抗が増して、音と渦が発生し、却って水車を回転させる抗力が増加しない傾向にある一方で、水没する深さが浅ければ、水没する羽根の面積が小さくなり抗力が小さくなる。このため、羽根の短辺の長さを略0.45mとすることにより、水車の回転直径を略2mとする制限内で水没する羽根の抗力を大きくすることができ、0.1m程度上下する農業用水路の水位変動にも対応することができる。
【0011】
水車を懸吊する2本の水平梁は農業用水路の側壁の天端に対するレベルを調整する高さ調整具を備えているため、農業用水路に設置する際の水車の羽根の水没深さを最適な状態とすることができる。なお、高さ調整具としては水平梁と農業用水路の側壁の天端との間にプレートを挿入しても良く、水平梁にレベル調整用ボルトを螺入してその先端を農業用水路の側壁の天端に当接させ、該レベル調整用ボルトの螺入長さを調整することにより、農業用水路の側壁の天端に対する水平梁の高さを調整するようにしても良い。
【0012】
農業用水路の左右の両側壁の天端に架設される2本の水平梁の下部に水車を軸支する矩形のフレームを渡設し、この矩形のフレーム自体を回動自在として農業用水路に対する水車の高さを所望の位置で固定可能としているため、農業用水路の水位の如何に拘わらず、水車の羽根の水没深さを最適な状態とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
まず、本願発明の実施例1および実施例2の構成および設置方法について、図1ないし図7に基づいて説明する。なお、図1は、実施例1に係る簡易設置型流水式水力発電装置の斜視図であり、図2は、実施例1に係る簡易設置型流水式水力発電装置の側面図であり、図3は、実施例1に係る簡易設置型流水式水力発電装置の正面図であり、図4は、実施例1に係る簡易設置型流水式水力発電装置の平面図であり、図5は、実施例1に係る簡易設置型流水式水力発電装置の農業用水路の取付け状況図であり、図6は、実施例1に係る2台の簡易設置型流水式水力発電装置を農業用水路に取付けた状況の斜視図であり、図7は、実施例2に係る簡易設置型流水式水力発電装置の側面図である。
【0014】
図1ないし図7において、符号1は実施例1に係る簡易設置型流水式水力発電装置、符号2は実施例2に係る簡易設置型流水式水力発電装置、符号3は水車、符号6は発電機、符号20は回転体、符号21は回転軸、符号23はスポーク、符号25は羽根、符号27は底板、符号29は側板、符号31は仕切り板、符号33はつなぎ棒、符号35は大プーリー、符号40は支持体、符号41は水平梁、符号43は水平補助梁、符号45は懸吊材、符号47は横架梁、符号49は軸受け板、符号51は高さ調整具、符号53は矩形のフレーム、符号531は水平梁平行部材、符号532は水平梁直交部材、符号55は揚重器、符号61は発電機本体、符号63は小プーリー、符号65はベルト、符号67は送電器、符号80は農業用水路、符号81は側壁、符号83は流水、である。
【実施例1】
【0015】
まず、実施例1に係る簡易設置型流水式水力発電装置1の構成について、図1ないし図6を基に説明する。
【0016】
簡易設置型流水式水力発電装置1は、主に、水車3と発電機6とから構成され、さらに、水車3は、主に、回転体20と回転体20を支持する支持体40とから構成されている。
【0017】
水車3を構成する回転体20は、円筒状の水平材である回転軸21と、回転軸21の両サイドから直交して放射状に延伸する6対のスポーク23、23、・・・と、それぞれの1対のスポーク23の先端にその長辺方向を回転軸21に平行となるように固着される長方形の平板の6枚の羽根25、25、・・・と、羽根25の先端部に羽根25の長辺が回転体20の回転方向とは逆方向(すなわち川上方向)に折り曲げられたような状態で羽根25に直交して固着される底板27と、羽根25の両端部にあって羽根25を回転体20の回転方向とは逆方向(すなわち川上方向)に折り曲げられたような状態で羽根25に直交して固着される側板29と、羽根25の中間部に側板29と同方向にかつ等間隔に固着される3枚の仕切り板31、31、・・・と、羽根25の両端部にあって側板29同士を連結するつなぎ棒33と、回転軸21の一端に回転軸21に直交して固着されるリング状の大プーリー35と、から構成されている。そして、回転体20を構成する回転軸21、6対のスポーク23、23、・・・、6枚の羽根25、25、・・・、側板29、つなぎ棒33および大プーリー35は一体となって回転するようになっている。
【0018】
実施例1では、回転体20の回転直径は2mであって、この2mがそのまま簡易設置型流水式水力発電装置1の高さとなっている。そして、長方形の羽根25の長辺の長さは農業用水路80の幅である4mの75%に相当する3mであり、長方形の羽根25の短辺の長さは0.45mとなっている。
また、羽根25の先端部が直角に川上方向に曲折されたような底板27は、その川上方向への突出長さが0.30mであり、羽根25の両端部が曲折されたような側板29は、側面から見た形状が回転体20の中心に向かってその幅が徐々に狭まった矩形に近い台形であって、台形の底辺の長さは底板27の突出長さと同様の0.30mである。また、側板29と側板29間の羽根25の表面には等間隔に3枚の仕切り板31、31、・・・が側板29の突設方向と同方向に突設されていて、側面から見た形状は回転体20の中心に向かってその幅が徐々に広がった矩形に近い台形となっていて、羽根25を側面から見たときに、すなわち、農業用水路80の側壁81から見たときに、仕切り板31の形状は側板29の形状よりも小さくて側板29内に収まったようになっている。
【0019】
水車3を構成する支持体40は、農業用水路80の両側壁81、81間に架け渡される1対の水平梁41、41と、水平梁41から1対の懸吊材45、45を介して平行に懸吊される1対の水平補助梁43、43と、1対の水平補助梁43、43に直交して架け渡される1対の横架梁47、47と、1対の横架梁47、47の中央部から垂設される1対の軸受け板49、49と、から構成されている。そして、1対の軸受け板49、49により、回転軸21の両端部が回動自在に軸支されて、回転体20自体が回動自在となっている。
【0020】
実施例1では農業用水路80の幅を4mと想定していることから、水平梁41の長さを4.6mとしている。この4.6mがそのまま簡易設置型流水式水力発電装置1の長さとなっている。そして、1対の水平梁41、41の外々間距離は2.25mであり、簡易設置型流水式水力発電装置1の幅となっている。
【0021】
発電機6は、発電機本体61と、小プーリー63、とから構成されていて、発電機本体61は支持体40に固着され、小プーリー63はベルト65を介して大プーリー35の回転に連動するようになっている。
そして、発電機6が水車3と一体化されることにより、簡易設置型流水式水力発電装置1全体の高さ×長さ×幅は、2m×4.6m×2.25mとなるとともに、簡易設置型流水式水力発電装置1自体の重量も2,000kg以下となっている。
【0022】
ここで、簡易設置型流水式水力発電装置1の設置例について順序を追って説明する。
(1)全体の高さ×長さ×幅が2m×4.6m×2.25mで総重量が2,000kgの簡易設置型流水式水力発電装置1は、普通トラックに載せて現地まで運搬される。
(2)現地に搬入された簡易設置型流水式水力発電装置1は、小型クレーン車などで吊り下げられ、2本の水平梁41、41が農業用水路80の両岸の側壁81上に架け渡される。
(3)架け渡された2本の水平梁41、41は、羽根25の流水83に対する水没深さが羽根25の短辺の長さに略一致するように高さ調整具51によりレベル調整された後、側壁81上に固定される。なお、2本の水平梁41、41の側壁81に対する掛かり代は、略0.3mとなる。
【0023】
以上の手順を経て、簡易設置型流水式水力発電装置1は農業用水路80に設置され、羽根25を介して流水83の運動エネルギーを得て、回転体20が連続して回転する。回転体20の回転に伴い、大プーリー35が回転し、大プーリー35の回転がベルト65を介して小プーリー63に伝えられて、発電機6が稼動して発電される。
図6は、2台の簡易設置型流水式水力発電装置1を農業用水路80に直列に設置した例を示していて、2台の簡易設置型流水式水力発電装置1で発電された電気は、送電器67を介して所定の場所に送電される。なお、図6に示すように、同一の農業用水路に複数台の簡易設置型流水式水力発電装置1、1、・・・を設置する場合の簡易設置型流水式水力発電装置1の設置間隔は、簡易設置型流水式水力発電装置1を通過した流水83の運動エネルギーが回復する必要があることから、最低限、設置する農業用水路幅の2.5倍の間隔が必要となる。具体的には、農業用水路幅が4mの場合、簡易設置型流水式水力発電装置1の設置間隔は10mとなり、農業用水路の長さが100mでは、11台の簡易設置型流水式水力発電装置1の設置が可能になる。
【実施例2】
【0024】
つぎに、実施例2に係る簡易設置型流水式水力発電装置2の構成について説明するが、簡易設置型流水式水力発電装置2は簡易設置型流水式水力発電装置1と略同様の構成であり、異なるところは、水車3の軸支部分であるので、ここでは、主に、簡易設置型流水式水力発電装置2の軸支部分の構成とその作用について図7を基に説明する。
【0025】
簡易設置型流水式水力発電装置の水車3は、平面的に見て矩形のフレーム53に囲繞されていて、この矩形のフレーム53は、1対の水平梁41、41のそれぞれに平行な1対の水平梁平行部材531、531と、1対の水平梁平行部材531、531の両端部に架け渡される1対の水平梁直交部材532、532とから構成されている。そして、水平梁直交部材532、532の中央部から垂設される1対の軸受け板により、回転軸21の両端部が回動自在に軸支されて、回転体20自体が回動自在となっている。
【0026】
矩形のフレーム53の下流側は回動自在に下流側に位置する水平梁41に軸支されるとともに、矩形のフレーム53の上流側は上流側に位置する水平梁41に設置される揚重器55からワイヤーロープを介して懸吊されていて、この揚重器55によりワイヤーロープの出し入れが行われて、矩形のフレーム53の回動角度を任意の角度で保持することができるようになっている。すなわち、この矩形のフレーム53自体を任意の角度で保持することにより、回転体20は農業用水路80の水面に対する所望の高さとすることができるようになっている。
なお、この揚重器55は水平梁41の両端にそれぞれ1台ずつ設置されている。
【0027】
このような構成により、水車3は、農業用水路の水位の如何に拘わらず、水車の羽根25の水没深さを揚重器55の操作により最適な状態とすることができる。
【0028】
簡易設置型流水式水力発電装置2の設置例については、前述した、簡易設置型流水式水力発電装置1の設置例と同様であるので、その説明を省略する。
【0029】
つぎに、簡易設置型流水式水力発電装置に対し、出願人が行った一連の予備実験について図8ないし図10を基に説明する。なお、図8は、農業用水路の流速分布を示す図であり、図9は、簡易設置型流水式水力発電装置の回転数と発電出力との関係図であり、図10は、発電機の回転数と発電出力との関係図である。
なお、これら一連の予備実験は平成19年5月11日に長野県松本市大字梓川梓地先所在の中信平二期農業水利事業者管内の矢崎放流工上流で行ったものである。
【0030】
まず、農業用水路の流速分布について説明する。流速分布は水深0.1mと水深1.0mについて計測したが、水深の測定はロープの長さによるものであり、実際に計測した水深は場所により最大0.3m程度変化し、また、水深1.0mではロープが流されて弛むため実際にはもっと浅い水深となる。
この計測結果を表1(流速計測:水深0.1m)および表2(流速計測:水深1.0m)に示すが、水深0.1mでは右岸から2.770mの位置で最大流速となりその値は2.260m/sであった。また、水深1.0mでは右岸から2.762mの位置で最大流速となりその値は2.323m/sであった。すなわち、流速は水深0.1mより1.0mのほうが若干高く、最大流速位置は農業用水路中心(右岸から2.000m)より0.26m〜0.27m左岸に寄っている。これは計測点上流で農業用水路が右に曲がっていることに拠るものと思料される。この表に基づいてグラフ化したものが図8である。
【表1】

【表2】

【0031】
図8では、X軸を右岸からの距離(単位:m)とし、Y軸を流速(単位:m/s)としていて、黒丸が水深0.1mの場合を示し、白三角が水深1.0mの場合を示している。また、実線は右岸より2.5mをVmaxとした1/7乗則分布線であり、点線は農業用水路中心をVmaxとした1/7乗則分布線である。なお、1/7乗則分布は下記の式で与えられる。
図8に示すように、流速分布は、右岸より2.5mをVmaxとした1/7乗則分布に近く、流速は水深が深い方(1.0m)が若干高いが、農業用水路中央付近ではほとんど差がないといえる。
【数1】

【0032】
つぎに、上記流速分布を参考にして、本願発明に係る簡易設置型流水式水力発電装置の最適基本仕様を検討するために行った予備実験について説明する。
この実験に使用した簡易設置型流水式水力発電装置の仕様は以下の通りである。
(1)形式:流水式小型水力発電機
(2)水車の形式:水平軸式抗力方水車
(ア)水車の回転直径:2m
(イ)水車の幅:農業用水路の75%
(ウ)水車の羽根の高さ:0.45m
(エ)水車の羽根の枚数:6枚
(3)水車の標準水没水深:0.45m
(4)水車の回転数:20rpm(流速2m/s時)
(5)発電機
名称:三相密閉型自励発電機1.5KVA
連続定格出力:1.5KVA(1500rpm時)
励磁方式:強力永久磁石
出力波:三相交流サイン波
1相定格出力電流:8.1A
本体質量:9.8kgf
無負荷時出力電圧:1500rpm(約120V)
(1相8A時約102V)
500rpm(約40A)
250rpm(約20A)
三相整流直流化後定格出力電流:約14.1A
(6)回転増速装置
二段増速装置 一段目:遊星歯車(3:1)
二段目:プーリー方式
(小プーリー直径71mm)
(大プーリー直径1000mm)
【0033】
この簡易設置型流水式水力発電装置の回転数と発電出力の実験結果を表3(流速2.08m/s時)および表4(流速2.38m/s時)に示し、この表に基づいてグラフ化したものを図9に示す。
【表3】

【表4】

【0034】
図9では、X軸を水車の回転数(単位:rpm)とし、Y軸を発電出力(単位:W)としていて、白丸が流速2.08m/sの場合を示し、黒三角が流速2.38m/sの場合を示している。また、図9における実線はηn(総合効率×有効羽根枚数)近似曲線である。
表3、表4および図9に示すように、流速2.07m/sで計測された最大電流は216W(回転数17.2rpm)となった。これを流速2.00m/sに換算すると143Wとなる。なお、これ以上の電力を得るため電流を多く流しても、電圧が低下してしまい、電力が小さくなる。したがって、この電力が今回使用した発電機の(この回転における)能力の限界と判断できる。また、ηn(総合効率×有効羽根枚数)は平均1.463となる。
【0035】
この簡易設置型流水式水力発電装置に使用した発電機の性能曲線を図10に示す。
図10では、X軸を水車の回転数(単位:rpm)とし、Y軸を発電出力(単位:W)としていて、この予備実験で得られた測定値を、流速2m/sにおける回転数と出力との関係に修正してプロットしたものである。
この図10により、流速2m/sにおいて、水車の回転数が7.07rpmのとき、発電出力は800Wとなり、この値が流速2m/sにおける本発電機の最高出力となる。なお、水車の回転数が7.07rpmより低下すると、発電出力は急速に低下する。
【0036】
上記予備実験の結果を検討し、本願発明に係る簡易設置型流水式水力発電装置を以下の基本仕様とした。
(1)形式:流水式小型水力発電機
(2)水車の形式:水平軸式抗力方水車
(ア)水車の回転直径:2m
(イ)水車の幅:農業用水路の75%
(ウ)水車の羽根の高さ:0.45m
(エ)水車の羽根の枚数:6枚
(3)水車の標準水没水深:0.45m
性能については、表5および図10に示す。
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、実施例1に係る簡易設置型流水式水力発電装置の斜視図であり、である。
【図2】図2は、実施例1に係る簡易設置型流水式水力発電装置の側面図である。
【図3】図3は、実施例1に係る簡易設置型流水式水力発電装置の正面図である。
【図4】図4は、実施例1に係る簡易設置型流水式水力発電装置の平面図である。
【図5】図5は、実施例1に係る簡易設置型流水式水力発電装置の農業用水路の取付け状況図である。
【図6】図6は、実施例1に係る2台の簡易設置型流水式水力発電装置を農業用水路に取付けた状況の斜視図である。
【図7】図7は、実施例2に係る簡易設置型流水式水力発電装置の側面図である。
【図8】図8は、農業用水路の流速分布を示す図である。
【図9】図9は、簡易設置型流水式水力発電装置の回転数と発電出力との関係図である。
【図10】図10は、発電機の回転数と発電出力との関係図である。
【符号の説明】
【0038】
1 実施例1に係る簡易設置型流水式水力発電装置
2 実施例2に係る簡易設置型流水式水力発電装置
3 水車
6 発電機
21 回転軸
25 羽根
27 底板
29 側板
31 仕切り板
41 水平梁
51 高さ調整具
53 矩形のフレーム
80 農業用水路
81 側壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
農業用水路に設置される回転軸が水平の水平軸型水車と該水車に連設される発電機とからなり、
前記水車の回転直径は略2mであって該水車は長辺方向が前記水平軸に平行となる4枚、6枚または8枚の長方形の平板状の羽根を備え、
前記羽根の前記農業用水路に水没する深さは該羽根の短辺の長さに略一致する、ことを特徴とする簡易設置型流水式小型水力発電装置。
【請求項2】
前記羽根の先端部には該羽根の長辺全体が川上方向に直角に曲折された底板とともに両端部には川上方向に直角に曲折された略矩形の側板が備えられ、
前記側板間の前記羽根の表面には複数の略矩形の仕切り板が略等間隔かつ該側板に平行に川上方向に突設されている、ことを特徴とする請求項1に記載の簡易設置型流水式水力発電装置。
【請求項3】
前記水車の羽根は6枚であり、
前記羽根の長辺の長さは前記農業用水路の幅の略75%であり、
前記羽根の短辺の長さは略0.45mであり、
前記底板および前記側板の川上方向への突出長さは略0.30mであって、前記羽根を側面から見たときに前記仕切り板は該側板内に収まっている、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の簡易設置型流水式水力発電装置。
【請求項4】
前記水車は前記農業用水路の左右の両側壁の天端に架設される2本の水平梁に懸吊されるとともに該水平梁は該側壁に対して着脱可能であり、該水平梁は前記側壁の天端に対するレベルを調整する高さ調整具を備えている、ことを特徴とする請求項1ないし請求項3に記載の簡易設置型流水式水力発電装置。
【請求項5】
前記水車の高さは水車の回転直径である略2m、前記水車の前記農業用水路に平行な長さは2本の水平梁の外々間距離である略2.25m、前記水車の前記農業用水路に直交する幅は該農業用水路幅+略0.6mである、ことを特徴とする請求項1ないし請求項4に記載の簡易設置型流水式水力発電装置。
【請求項6】
前記農業用水路の左右の両側壁の天端に架設される2本の水平梁の下部に、前記水車を平面的に囲繞して回動自在に軸支する矩形のフレームを渡設し、
該矩形のフレームの該2本の水平梁に平行な一辺が該2本の水平梁の一方に回動自在に軸支されるとともに、該2本の水平梁に平行な他の一辺が該2本の水平梁の他方から縣吊されて、前記農業用水路に対する該水車の高さを所望の位置で固定可能とする、ことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の簡易設置型流水式水力発電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−127447(P2009−127447A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−300609(P2007−300609)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【特許番号】特許第4157590号(P4157590)
【特許公報発行日】平成20年10月1日(2008.10.1)
【出願人】(507383002)株式会社シグナスミル (1)
【出願人】(507383013)
【Fターム(参考)】