米のDNA食味推定方法
【課題】 遺伝子構造に基く品種特性の観点から、試験米がきわめて少量であっても、究極的にはたった1粒の試料であっても、また、どの品種であっても、迅速かつ精度良く食味を推定するための技術を提供すること、及び、米の主要な食味要因であるデンプンやタンパク質の量や質に関係するDNAを効率良く増幅させることができ、前記食味推定技術を実施するために有用なプライマーを提供すること。
【解決手段】 米のデンプン合成酵素遺伝子に関係するプライマーを1種類又は2種類以上用いて試料米DNAを鋳型として行うPCRの結果及び/又は米のタンパク質組成に関係するプライマーを1種類又は2種類以上用いて試料米DNAを鋳型として行うPCRの結果に基づいて米の食味を推定することを特徴とする米のDNA食味推定方法。
【解決手段】 米のデンプン合成酵素遺伝子に関係するプライマーを1種類又は2種類以上用いて試料米DNAを鋳型として行うPCRの結果及び/又は米のタンパク質組成に関係するプライマーを1種類又は2種類以上用いて試料米DNAを鋳型として行うPCRの結果に基づいて米の食味を推定することを特徴とする米のDNA食味推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米のDNA食味推定方法に関し、詳しくは、多種類の品種かつきわめて少量の試験米を対象として、迅速かつ精度良く食味を推定する試料米の食味を、試料が少量であっても精度良く推定するための米のDNA食味推定方法、該方法を利用して1粒の試料米を有効活用することができる半粒良食味米の選抜技術、該食味推定方法を実施するために有用であると共に日本型米とインド型米の識別にも有用なプライマー・セット、並びに該プライマー・セットを用いた日本型米とインド型米の識別方法を提供することを目的とする。
【背景技術】
【0002】
従来、米の食味評価は、官能検査と物理化学的測定によって行われてきた。
官能検査の分野では、試食者の選抜や訓練の必要性が要求されると共に、動的官能検査法、2点比較法、分析型官能検査法等の進歩が見られた。
一方、物理化学測定の分野では、澱粉の微細構造や蛋白質の組成等が食味に関係するとの報告がなされ、酵素活性や細胞壁構造等の新しい食味要因の提案もされている。また、米飯物性や糊化特性の機器分析のための測定装置も改良されており、分光測定装置や味認識装置等が登場してきた。
しかし、これらの食味評価方法は、少なくとも数十グラム、通常は数百グラムの試料を必要とするため、育種初期の段階や流通加工の末端段階のように、多種類の米を対象に、きわめて少量の試料米で食味判別するには適していない。さらに、一粒の試料米で食味を推定する技術が必要とされている。
【0003】
本発明者らは、これまでに、各種の試料米の遺伝子を抽出し、適正なプライマー共存下でPCRを行うことにより、米の品種判別が可能であることを報告してきた(非特許文献1参照)。また、これらの品種判別に有用なプライマーを用いるPCR結果を2値化して変数とし、重回帰分析することによって、米の食味の判別がある程度可能であることを報告してきた(非特許文献2参照)。
しかしながら、これまでの方法は、品種判別用に開発してきたプライマーを用いたPCRの結果を解析したものであり、米の食味要因との関係が明確ではなかった。
【0004】
最近、世界各国でDNAマーカーが分子育種に利用されるようになっており、米国やタイでは、香り米の香り成分に関係するDNAマーカーが開発され、PCR法による香り米の選抜が行われている(非特許文献3参照)。
しかし、米の食味の主要な要因は、香りよりは米飯の硬さや粘り、味などであるとされており、これらの主要要因に関係するPCR用プライマーの開発と米の食味推定技術の開発が必要とされている。
また、米の食味には、澱粉、タンパク質等の主要成分含量やそれらの組成も関係しているとされている。そのため、米の主要な食味要因であるとされる澱粉やタンパク質の量や質に関係するプライマーを開発し、それらを用いたPCRの結果を利用して米の食味を推定することによる、従来に比べて画期的に優れた食味判別技術の開発が必要とされていた。
【0005】
【非特許文献1】大坪 研一ら,農化,vol.76,p388-397,2002
【非特許文献2】大坪 研一ら,食科工、vol.50,p122-132,2003
【非特許文献3】Garland,S.ら,Theor.Appl.Genet.,101,364-371,2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、遺伝子構造に基く品種特性の観点から、試験米がきわめて少量であっても、究極的にはたった1粒の試料であっても、また、どの品種であっても、迅速かつ精度良く食味を推定するための技術を提供することを目的とすると共に、米の主要な食味要因であるデンプンやタンパク質の量や質に関係するDNAを効率良く増幅させることができ、前記食味推定技術を実施するために有用なプライマーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者らは鋭意検討を重ね、その過程で、様々な品種の米の、デンプン合成酵素やタンパク質組成に関係するDNAを比較して、デンプン合成酵素やタンパク質組成に関連する数種のプライマーを開発した。そして、これらのプライマーを組み合わせてPCRを行ったところ、米の食味に関連する特性と正又は負の相関関係を有する識別用増幅DNAを増幅することが明らかとなった。
また、該識別用増幅DNA出現の有無と、試料米の実際の食味関連特性との間で多変量解析すると、より精度の高い食味の推定を行うことができることが明らかとなった。
更に、多変量解析の結果、食味関連特性を目的とする食味推定式を確立すれば、任意の試料米について前記プライマーを用いたPCRを行い、その結果としての識別用増幅DNAの有無を該食味推定式に代入することにより、食味を推定できることが明らかとなった。
【0008】
そして、米の主要な食味要因であるデンプンやタンパク質の量や質は、米の食味に強く関わっていることから、日本型米とインド型米との間で、デンプンやタンパク質に関連する遺伝子を調べたところ、両者に変異部分が存在することが明らかとなった。そこで、上記のデンプン合成酵素やタンパク質組成に関連する数種のプライマーについて、日本型米とインド型米の各種試料米DNAを鋳型とするPCRを行うと、両者に特徴的な変異部分が観察されたことから、日本型米とインド型米の識別にも有用であることが明らかとなった。
従って、デンプン合成酵素やタンパク質組成に関連する数種のプライマーは、食味推定用、かつ日本型米とインド型米の識別用のプライマー・セットとして有用性が高いことが判明した。
本発明者らは、係る知見に基き本発明に到達した。
【0009】
請求項1記載の本発明は、米のデンプン合成酵素遺伝子に関係するプライマーを1種類又は2種類以上用いて試料米DNAを鋳型として行うPCRの結果及び/又は米のタンパク質組成に関係するプライマーを1種類又は2種類以上用いて試料米DNAを鋳型として行うPCRの結果に基づいて米の食味を推定することを特徴とする米のDNA食味推定方法。
請求項2記載の本発明は、米のデンプン合成酵素遺伝子が、デンプン粒結合型デンプン合成酵素遺伝子、可溶性デンプン合成酵素遺伝子、デンプン枝作り酵素遺伝子、及びデンプン枝切り酵素遺伝子のうちの1種類又は2種類以上である請求項1記載の米のDNA食味推定方法である。
【0010】
請求項3記載の本発明は、SBE(配列表の配列番号24に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号25に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、GBSS3(配列表の配列番号10に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号11に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、GBSS4(配列表の配列番号13に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号14に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、NSS II(配列表の配列番号7に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号8に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、NSS I(配列表の配列番号2に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号3に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号4に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号5に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、DBE−J(配列表の配列番号19に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号20に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号21に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号22に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、DBE−I(配列表の配列番号15に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号16に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号17に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号18に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、NK4(配列表の配列番号26に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号27に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号28に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号29に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、及びM1A(配列表の配列番号30に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号31に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号32に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号33に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)である、請求項1又は2記載の米のDNA食味推定方法である。
【0011】
請求項4記載の本発明は、米のタンパク質組成が、グルテリン及び/又はプロラミンである請求項1〜3のいずれかに記載の米のDNA食味推定方法である。
請求項5記載の本発明は、米のタンパク質組成に関係するプライマーが、Pro13(配列表の配列番号40に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号41に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、Pro10(配列表の配列番号35に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号36に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号37に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号38に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、Pro13FN(配列表の配列番号42に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号43に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、及びGlu(配列表の配列番号44に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号45に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号46に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号47に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)である請求項1〜4のいずれかに記載の米のDNA食味推定方法である。
【0012】
請求項6記載の本発明は、PCRの結果に基づく米の食味の推定にあたり、食味関連特性と正或いは負の相関を示す識別用増幅DNAのPCRによる出現の有無を2値化して変数とし、多変量解析によって食味を推定することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の米のDNA食味推定方法である。
請求項7記載の本発明は、多変量解析の際にあたり、試料米の食味関連特性を目的変数とし、識別用増幅DNA出現の有無を2値化したものを説明変数として食味関連特性を目的とする食味推定式を作成し、該食味推定式を利用して試料米の食味を推定することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の米のDNA食味推定方法である。
【0013】
請求項8記載の本発明は、試料米が籾或いは玄米であり、試料籾或いは玄米を短軸方向に半裁し、その胚芽を含まない側の半粒から抽出したDNAを試料米DNAとして食味を推定することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の米のDNA食味推定方法である。
請求項9記載の本発明は、請求項8に記載の食味推定方法により選抜された良食味系統の籾、あるいは玄米の胚芽を含む側の半裁種子を播種して次世代稲を育成することを特徴とするDNAによる半粒良食味米の選抜技術である。
【0014】
請求項10記載の本発明は、SBE(配列表の配列番号24に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号25に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、GBSS3(配列表の配列番号10に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号11に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、GBSS4(配列表の配列番号13に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号14に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、NSS II(配列表の配列番号7に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号8に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、NSS I(配列表の配列番号2に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号3に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号4に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号5に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、DBE−J(配列表の配列番号19に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号20に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号21に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号22に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、DBE−I(配列表の配列番号15に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号16に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号17に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号18に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、NK4(配列表の配列番号26に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号27に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号28に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号29に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、M1A(配列表の配列番号30に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号31に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号32に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号33に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、Pro13(配列表の配列番号40に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号41に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、Pro10(配列表の配列番号35に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号36に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号37に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号38に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、Pro13FN(配列表の配列番号42に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号43に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、及びGlu(配列表の配列番号44に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号45に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号46に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号47に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)からなる群のうちの1種類、あるいは2種類以上のプライマーを用いて試料米DNAを鋳型としたPCRを行い、日本型米とインド型米とを識別する方法である。
【0015】
請求項11記載の本発明は、SBE(配列表の配列番号24に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号25に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、GBSS3(配列表の配列番号10に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号11に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、GBSS4(配列表の配列番号13に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号14に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、NSS II(配列表の配列番号7に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号8に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、NSS I(配列表の配列番号2に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号3に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号4に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号5に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、DBE−J(配列表の配列番号19に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号20に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号21に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号22に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、DBE−I(配列表の配列番号15に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号16に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号17に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号18に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、NK4(配列表の配列番号26に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号27に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号28に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号29に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、M1A(配列表の配列番号30に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号31に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号32に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号33に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、Pro13(配列表の配列番号40に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号41に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、Pro10(配列表の配列番号35に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号36に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号37に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号38に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、Pro13FN(配列表の配列番号42に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号43に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、及びGlu(配列表の配列番号44に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号45に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号46に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号47に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)からなる群のうちの1種類、あるいは2種類以上の組み合わせからなるプライマー・セットである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、DNAを用いて育種選抜の初期段階から試料米の食味を精度良く推定することが可能となる。
特に、試料米がごく少量であっても食味を推定することが可能となるので、官能検査や物理化学的測定などの従来の食味判別技術で必要とされてきた試料の量についての問題を解決することができる。
特に、試料米が籾あるいは玄米半粒やそれ以下であっても適用可能であるので、胚芽を含まない側の半裁種子について食味推定を行って良食味系統を選抜し、胚芽を含む側の半裁種子を播種して効率良く次世代稲を育成することが可能となり、育種の分野における有用性が期待される。
本発明により、米の食味関連要因に対し正又は負の相関関係を示す識別用増幅DNAを効率良く出現させることのできるプライマー・セットが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の米のDNA食味推定方法は、請求項1に記載するように、米のデンプン合成酵素遺伝子に関係するプライマーを1種類又は2種類以上用いて試料米DNAを鋳型として行うPCRの結果及び/又は米のタンパク質組成に関係するプライマーを1種類又は2種類以上用いて試料米DNAを鋳型として行うPCRの結果に基づいて米の食味を推定することを特徴とする。
すなわち、(1)米のデンプン合成酵素遺伝子に関係するプライマーを1種類又は2種類以上用いて試料米DNAを鋳型として行うPCRの結果のみを用いて米の食味を推定する場合、(2)米のタンパク質組成に関係するプライマーを1種類又は2種類以上用いて試料米DNAを鋳型として行うPCRの結果に基いて米の食味を推定する場合、及び、(3)米のデンプン合成酵素遺伝子に関係するプライマーを1種類又は2種類以上用いて試料米DNAを鋳型として行うPCRの結果と、米のタンパク質組成に関係するプライマーを1種類又は2種類以上用いて試料米DNAを鋳型として行うPCRの結果とを組み合わせて米の食味を推定する場合、の3通りに分類される。
【0018】
ここで、PCRとは、Polymerase Chain Reactionを指し、鋳型であるDNAを、約94℃の高温で加熱して1本鎖に分離する工程(変性)、プライマーを加えて約36℃〜約72℃で反応させて、当該DNAとプライマーとを結合させる工程(アニーリング)、及び約72℃でDNAポリメラーゼを作用させ、プライマー結合部位から当該DNAを合成・伸長させる工程(伸長)の3つの工程からなる反応を指す。
PCRを実施する際には、通常の市販の装置を用いることができる。例えば、タカラバイオ、ABI、パーキンエルマー、アステック、ストラタジーン、イワキガラス等の各社の製造するサーマルサイクラーを用いることができる。
【0019】
試料米DNAとは、DNA食味推定の対象である試料米に由来する2本鎖DNAであり、上記PCRの鋳型として用いられる。試料米からのDNAの抽出・精製方法としては、試料米である籾、玄米、精米、精米粉、発芽玄米、米飯、餅、米菓等から通常のセチルアンモニウムブロミド(CTAB)法、アルカリフェノール法、市販キット法、酵素法(特許第3048149号)等を挙げることができる。
【0020】
プライマーとは、前述のPCRにおいて、鋳型である試料米DNAに相補的に結合する1対のDNA断片のことであり、本発明においては、米のデンプン合成酵素に関係するプライマーや、米のタンパク質組成に関係するプライマーを用いる。
ここで、米のデンプン合成酵素とは、米に含まれるデンプンの合成に関与する種々の酵素を指す。中でも、デンプン粒結合型デンプン合成酵素、可溶性デンプン合成酵素、デンプン枝作り酵素、及びデンプン枝切り酵素が作用することにより、デンプンのアミロース含量やアミロペクチンの鎖長分布が決定され、デンプン特性や米飯物性に強く影響を与えると考えられていることから、本発明においては、米のデンプン合成酵素に関係するプライマーとして、これらの酵素のうちの1種類又は2種類以上に関係するものを用いることが好ましい。
【0021】
デンプン粒結合型デンプン合成酵素(Granule bound starch synthase、GBSS)とは、デンプン粒に結合して存在し、α−1,4グリコシド結合を伸長することによって、アミロース含量を増加させたり、アミロペクチンの長鎖を伸ばす酵素である。可溶性デンプン合成酵素(Soluble starch synthase、SS)は、細胞質に存在する可溶性酵素であり、デンプン粒結合型デンプン合成酵素と同様に、α−1,4グリコシド結合を伸長することによってアミロペクチンの長鎖を伸ばす酵素である。デンプン枝作り酵素(Starch branching enzyme、SBE)は、α−1,6結合を作ることによってアミロペクチンの分岐を作る酵素である。デンプン枝切り酵素(Starch debranching enzyme、DBE)とは、デンプン枝作り酵素とは逆に、α−1,6グリコシド結合を切断することによってアミロペクチンの分岐を減らす酵素である。
【0022】
本発明において、米のデンプン合成酵素に関係するプライマーとは、上述したような米のデンプン合成酵素をコードする遺伝子の少なくとも一部に対し高いホモロジーを示し、かつ、試料米DNAと結合して後述の識別用増幅DNAの有無を容易に検出させるようなプライマーを意味する。
米のデンプン合成酵素をコードする遺伝子については、文献やデータベース(例えば、T.Babaら:Plant Physiol.103,565-573,1993;Y.Nakamuraら:Starch,54,117-131,2002;H.Francesら:Plant Mol.Biol.,8,407-415,1998;P.B.Franciscoら:Biochim.Biophys.Acta.87,469-477,1998;L.Youら:NCBI ACCESION L36605,1994等)に記載されているものを利用することもできる。
【0023】
このような米のデンプン合成酵素に関係するプライマーとして、具体的には、SBE(配列表の配列番号24に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号25に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、GBSS3(配列表の配列番号10に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号11に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、GBSS4(配列表の配列番号13に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号14に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、NSS II(配列表の配列番号7に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号8に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、NSS I(配列表の配列番号2に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号3に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号4に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号5に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、DBE−J(配列表の配列番号19に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号20に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号21に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号22に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、DBE−I(配列表の配列番号15に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号16に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号17に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号18に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、NK4(配列表の配列番号26に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号27に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号28に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号29に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、及びM1A(配列表の配列番号30に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号31に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号32に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号33に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)が挙げられる。SBEはデンプン枝作り酵素の部分塩基配列(配列表の配列番号23参照)に、GBSS3及びGBSS4はデンプン粒結合型デンプン合成酵素の部分塩基配列(GBSS3については配列表の配列番号9、GBSS4については配列表の配列番号12参照)に、NSS IIは可溶性デンプン合成酵素IIの部分塩基配列(配列表の配列番号6参照)に、NSS Iは可溶性デンプン合成酵素Iの部分塩基配列(配列表の配列番号1参照)に、DBE−J及びDBE−Iはデンプン枝切り酵素の塩基配列に、NK4及びM1Aはその他のデンプン合成酵素遺伝子に、それぞれ関係するプライマーである。これらのプライマーの設計をどのようにして行ったかについては、実施例1にて後述する。
【0024】
一方、米のタンパク質組成に関係するプライマーとは、米の主要貯蔵タンパク質であるプロラミンやグルテリン等をコードする遺伝子の少なくとも一部に対し高いホモロジーを示し、かつ、試料米DNAと結合して後述の識別用増幅DNAの有無を容易に検出させるようなプライマーを意味する。
米のタンパク質をコードする遺伝子については、文献やデータベース(例えば、L.Youら、NCBI ACCESSION L36605(1994))、S.Shaら、NCBI ACCESSION D63901(2002)、H.Washidaら、Plant Molecular Biology,40,1-12,1999等)に記載されているものを利用することもできる。
米のタンパク質組成に関係するプライマーとして、具体的には、Pro13(配列表の配列番号40に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号41に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、Pro10(配列表の配列番号35に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号36に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号37に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号38に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、Pro13FN(配列表の配列番号42に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号43に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、及びGlu(配列表の配列番号44に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号45に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号46に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号47に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)が挙げられる。Pro13及びPro13FNは分子量13kDaのプロラミンの塩基配列(配列表の配列番号39参照)に、Pro10は分子量10kDaのプロラミンの塩基配列(配列表の配列番号34参照)に、Gluはグルテリンに、それぞれ関係するプライマーである。これらのプライマーの設計をどのようにして行ったかについては、実施例1にて後述する。
【0025】
また、本発明においては、上記具体例として示した米のデンプン合成酵素に関係するプライマーや米のタンパク質組成に関係するプライマーの他にも、品種判別用のプライマーとして表1に示すB43(配列表の配列番号48に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号49に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、WK9A(配列表の配列番号50に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号51に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、M11(配列表の配列番号53に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号53に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、P5(配列表の配列番号54に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号55に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、G22(配列表の配列番号56に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号57に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、F6(配列表の配列番号58に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号59に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、S13F(配列表の配列番号60に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号61に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、E30(配列表の配列番号62に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号63に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)及びJ6(配列表の配列番号64に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号65に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)のものを用いることができる。
【0026】
【表1】
【0027】
本発明において、米のデンプン合成酵素遺伝子に関係するプライマーや、米のタンパク質組成に関係するプライマーを1種類又は2種類以上適宜組み合わせて用いることができ、品種識別用プライマーも適宜組み合わせて用いることができる。特に、アミロース含量、米飯物性等の食味特性は、複数の遺伝子の制御を受ける可能性が高いことから、米のデンプン合成酵素遺伝子に関係するプライマー及び米のタンパク質組成に関係するプライマーについては2種類以上を組み合わせて用いることが好ましい。尚、本発明において、上記各種のプライマーを複数組み合わせて用いる場合は、それらを混合して1回のPCRで行うこともできるが、識別用増幅DNAの出現の有無を明確に確認できる点で、各プライマーごとにPCRを行うことが好ましい。
【0028】
本発明において、実際にどのプライマーを用いるかについては、食味推定の際に参照する食味関連特性によって定められる。すなわち、任意の食味関連特性に正又は負の相関関係を有する識別用増幅DNAを効率良く増幅させることのできるプライマーを選択して用いる。
例えば、アミロース含量の推定を行う場合には、デンプン合成酵素に関係するプライマーとしてNSS II、NSS I、及びDBEの3種類のプライマー、米のタンパク質組成に関係するプライマーとしてPro13及びGluの2種類のプライマー、並びに、P5、E30、及びS13の3種類のプライマーを組み合わせて用いることができる。
タンパク質含量の推定を行う場合には、デンプン合成酵素に関係するプライマーとしてNSS II及びM1A、米のタンパク質組成に関係するプライマーとしてGlu、品種識別用プライマーとしてJ6を組み合わせて用いることができる。
米飯物性の推定を行う場合には、デンプン合成酵素に関係するプライマーとしてNK4、米のタンパク質組成に関係するプライマーとしてPro13及びGlu、並びに、品種識別用プライマーとしてP5、B43、M11及びG22を組み合わせて用いることができる。また、デンプン合成酵素に関係するプライマーとしてDBE−I、NSS II、GBSS3、GBSS4及びSBE、米のタンパク質組成に関係するプライマーとしてPro10及びGluを組み合わせて用いることもできる。更に、デンプン合成酵素に関係するプライマーとしてDBE−I、NSS II、GBSS3、GBSS4及びSBEを組み合わせて用いることもできる。
精米粉糊化特性のうちコンシステンシーの推定を行う場合には、デンプン合成酵素に関係するプライマーとしてGBSS4、DBE−I、M1A、及びSBE、米のタンパク質組成に関係するプライマーとしてPro13FN及びGlu、並びに、品種識別用プライマーとしてG22、S13及びWK9Aを組み合わせて用いることができる。
【0029】
本発明のDNA食味推定方法においては、上記したようなPCRの結果に基づいて米の食味を推定する。
特に、食味関連特性と正或いは負の相関を示す識別用増幅DNAのPCRによる出現の有無を2値化して変数とし、多変量解析によって食味を推定すると、食味をより精度良く推定することができる点で好ましい。
すなわち、上記PCRを行った後に、識別用増幅DNAが出現した場合を1、出現しなかった場合を0として2値化して、これを多変量解析による処理の変数として使用して食味を推定することが好ましい。
【0030】
食味関連特性とは、米の食味に影響を与える特性を意味し、官能検査や物理化学的測定によって客観的に定められるものが好ましい。具体的には、わが国の消費者の嗜好と比較的相関が高い点で、アミロース含量、タンパク質含量、米飯物性測定値(L3)及び精米粉糊化特性値(コンシステンシーなど)のいずれかであることが好ましい。識別用増幅DNAが具体的にどの食味関連特性に対して正又は負の相関を示すかは、用いるプライマーによって異なる。
【0031】
多変量解析とは、重回帰分析、クラスター分析、主成分分析、非線形回帰分析等を指す。
一般に、回帰分析は、説明したいある1つの変数と、その現象の原因となっていると思われる特性(例えば、食味関連特性)との間に、因果関係があると仮定して表現した数式モデルを用いる分析である。原因を表す変数(本発明の場合、食味関連特性)を説明変数と呼び、食味などの結果を表す変数を目的変数と呼び、説明変数も目的変数も量的変数を用いる。説明変数と目的変数の関係を直線で表す回帰分析を線形回帰といい、曲線で表す場合を非線形回帰という。一般的に、「回帰分析」といえば前者の線形回帰を指し、EXCEL、SPSSといった標準的な統計ソフトウエアでも扱える。
【0032】
重回帰分析の場合は、まず、ある試料米の食味関連特性を目的変数とし、該試料米について上記PCRを行いその結果としての識別用増幅DNA出現の有無を2値化したものを説明変数として食味関連特性を目的とする食味推定式を作成する。そして、該食味推定式を利用して、別の試料米(食味関連特性が未知)のPCRの結果としての識別用増幅DNAの有無を説明変数として上記食味推定式に代入し、食味関連特性の予想値を算出すると共に、食味推定式の適用性を検定する。
具体的に説明すると、以下のとおりである。
【0033】
まず、食味関連特性を目的とする食味推定式を作成する。食味推定式とは、重回帰式の一種である。その原理を説明すると、例えば、下記式(I):
(数1)
y=a×x ・・・(I)
〔式(I)中、yは食品物性値、aは変換係数、xは食味関連特性の測定値を表す。〕
で表されるように、食味関連特性の測定値(例えば、糊化測定値)に一定の係数を乗じて食味推定の基準としての食品物性値を得ることを可能とするものである。
また、下記式(II):
(数2)
y=a1×x1+a2×x2−a3×x3+a0 ・・・(II)
〔式(II)中、yは食品物性値、a1、a2及びa3はそれぞれ変換係数、a0は定数項、x1、x2及びx3はそれぞれ糊化測定値である。〕
で表されるように、複数の糊化測定値を加減乗除することにより食味推定の基準としての食品物性値を得ることを可能とするものである。
さらに、下記式(III):
(数3)
y=a1×x1+a2×x2+a3×x3+a0 ・・・(III)
〔式(III)中、yは食品物性値、a1、a2及びa3は偏回帰係数、a0は定数項、x1、x2及びx3はそれぞれ糊化特性値である。a1、a2及びa3の偏回帰係数は、最小2乗法により、実測値と推定理論値の差の総和を示す残差2乗和を最小にするように決定される数値である。〕
で表されるように、食品物性値を目的変数とし、糊化特性値を説明変数として重回帰分析を行うことにより、食味推定の基準としての食品物性値を、各糊化特性値の線形回帰式として表現することを可能とするものである。
【0034】
ここで、本発明では、特定のプライマーによるPCRを行った結果の識別用増幅DNA出現の有無が、実際の食味関連特性(上記式(I)〜(III)の場合は、糊化特性値)と正又は負の相関を示すことに基き、そのようなプライマーに由来する識別用増幅DNA出現の有無を2値化したもの(すなわち、識別用増幅DNAが出現した場合は1、出現しない場合は0)を、説明変数(x1、x2及びx3)とするものである。
従って、食味推定式の作成は、まず、実際の食味関連特性と正又は負の相関を示す特定のプライマーを特定し、次に食味関連特性を実際に予め測定しておいた試料米について、上記各プライマーによるPCRを行って識別用増幅DNA出現の有無を二値化し、最小2乗法により、食味関連特性の実測値と推定理論値(識別用増幅DNA出現の有無を二値化したもの)の差の総和を示す残差2乗和を最小にするようにa1、a2及びa3の偏回帰係数、及び定数項a0を求めて行うことができる。
【0035】
この食味推定式の有用性は、散布図を作成し、重相関係数を算出したりすることにより判断することができる。
散布図とは、食味試験結果や米飯物性等の食味関連特性(目的変数)を縦軸に、2値化したPCRの結果を食味推定式に当てはめて算出した値を横軸にプロットし、散布図を作成し、散布図中にプロットした点からの距離の2乗和が最小となるように計算した(すなわち、食味推定式を表す)直線(検量線)を記入したものである。検量線とプロットが一致すれば正の相関が高く、図全体にプロットが点在すれば相関が低いということになる。
重相関係数は高いほうが相関が高く、低い方が相関が低いこととなる。
こうして作成した食味推定式を利用して未知試料米(食味特性関連が未知)の食味の推定を行う場合、例えば食味推定式がy=2x+3であるとすると、PCRの結果識別用DNAが出現した場合は、説明変数xが1なので、y=2×1+3=5となり、一方、PCRの結果識別用DNAが出現しなかった場合は、PCR結果が0なので、y=2×0+3=3となる。
【0036】
一方、クラスター分析とは、前記したPCRによる識別用増幅DNA出現の有無を2値化したものを説明変数として、類似性の高いもの同士をグループ分けする手法である。すなわち、まず、試料米毎にいくつかの変量に対する数値が与えられたデータ表から、まず個体間の類似性を表す距離行列を作成し、この距離行列を基に、最短距離にある試料米あるいはクラスター(群)同士を統合する。統合するたびに距離行列は変化するが、常に最短距離にあるクラスター同士を統合していく。最後に全ての個体は統合されて1つのクラスターにまとめられ、階層を示すツリーが作成される。このようなクラスター分析の理論としては、石原らの理論(石原辰雄ら:Lotus 1−2−3活用多変量解析,共立出版,東京,pp.228-264,1992)を挙げることができる。
【0037】
また、主成分分析とは、統計的なデータ解析に基づき、対象とする変量群の中から、群全体の特徴を表す典型的な指標、すなわち主成分をある内的基準に基づいて見いだす手法である。この分析により、多くの変量(すなわち、本発明の場合、様々なプライマーを用いた場合のPCRによる識別用増幅DNA出現の有無)を集約して少数の代表的な数量にしたり、変量間に存在する関係を明らかにすることができる。
尚、多変量解析の一連の計算は、Excel2000の統計ソフトウエア(Excel多変量解析(エスミ))、ロータス多変量解析ソフト(オードメイン社)、SPSS(SPSS社)、StatView多変量解析(オーエムエス出版)、JUSE−StatWorks/V4.0 MA多変量解析セレクト(日科技研)等を利用して行うことができる。
【0038】
本発明において、試料米が籾或いは玄米の場合は、試料籾或いは玄米を短軸方向に半裁し、その胚芽を含まない側の半粒から抽出したDNAを試料米DNAとして食味を推定することもできる。ここで、短軸方向に半裁とは、籾または玄米の短径方向(背側から腹側へ、または腹側から背側へ)に切断することを意味する。
この場合、胚芽を含む側の半裁種子を播種して次世代稲を育成することにより、半粒良食味米を効率良く選抜することができる。すなわち、米の食味の官能検査結果や物理化学的測定結果の望ましい系統、すなわち多くの試食者に好まれる食味の米系統を選抜することを指す。
播種して次世代植物を育成する際には、次亜塩素酸ソーダ等による表面殺菌と吸水を行った後に培養土等に播種して育てても良いし、胚芽を含む半裁種子を殺菌した後、アミノ酸やミネラル等の栄養成分を含むアルギン酸ソーダやグアーガム等の含水ゲルに置床し、人工気象器を用いて出芽・苗立ちさせた後に移植して栽培しても良い。
次世代植物を育成後、半粒良食味米を選抜するには、交配した雑種後代の種子からDNAを抽出・精製して鋳型とし、前述した本発明の食味推定方法を利用することができる。
【0039】
玄米半粒、あるいは籾半粒を用いて良食味米の育種・選抜を行うには次のようにする。すなわち、常法に従って約40℃の温湯に浸漬して除雄した母本に花粉親の花粉を受粉させた後、ポット栽培等で雑種第一代の種子を得る。これらの種子の籾または玄米の胚芽を含む部分と含まない部分とに半裁し、胚芽を含まない側の玄米/籾の半粒を乳鉢ですりつぶし、上述したCTAB法等によりDNAを抽出して試料米DNAとする。
【0040】
この試料米DNAを、上述したように各種のプライマー共存下でPCRに供し、その結果に基づいて米の食味を推定し、良食味であると推定された種子を選抜する。
このようにして選抜された種子の胚芽を含む半粒を上記した方法に従って播種、発芽、移植、生育させた後、成熟種子を得ることができる。このようにして得られた雑種第二代の良食味系統を自殖を重ねて固定化し、籾または玄米半粒から良食味米を選抜育成することができる。
【0041】
一方、上述したSBE、GBSS3、GBSS4、NSS II、NSS I、DBE−J、DBE−I、NK4、M1A、Pro13、Pro10、Pro13FN、及びGluからなる群のうちの1種類、あるいは2種類以上のプライマーは、食味推定以外の用途にも用いることができる。
まず、試料米が日本型米及びインド型米のいずれであるかを識別するために利用することができる。
すなわち、上記のプライマー、特に、Glu、DBE−J及びDBE−Iを用いて、試料米DNAを鋳型としたPCRを行うことにより、日本型米とインド型米とを識別することができる。
【0042】
また、上述のプライマーのうち、Pro13は、コシヒカリなどの良食味米と朝の光や月の光といった低食味米との識別のために用いることができる。すなわち、Pro13を用い、良食味米と低食味米の各試料米DNAを鋳型としたPCRを行い、増幅したDNAのうち良食味米と低食味米とで相違する塩基配列部分から良食味米及び低食味米の識別用プライマー(セット)を設計し、該プライマーを用いて未知試料米の試料米DNAを鋳型としたPCRを行うことにより、良食味米と低食味米とを識別することができる。このような良食味米及び低食味米の識別用プライマー(セット)としては、実施例11に示すように、良食味米であるコシヒカリと朝の光や月の光その他の低食味米とを識別するためのPro13Koshiを挙げることができる。
【0043】
更にまた、上述のプライマーのうち、M1Aは、こがねもちなどの粘りの強い米ときらら397のような粘りの弱い米との識別のために用いることができる。すなわち、M1Aを用い、粘りの強い米と粘りの弱いの各試料米DNAを鋳型としたPCRを行い、増幅したDNAのうち粘りの強い米と粘りの弱い米とで相違する塩基配列部分から粘りの強い米及び粘りの弱い米の識別用プライマー(セット)を設計し、該プライマーを用いて未知試料米の試料米DNAを鋳型としたPCRを行うことにより、粘りの強い米と粘りの弱い米とを識別することができる。このような粘りの強い米及び粘りの弱い米の識別用プライマー(セット)としては、実施例12に示すように、粘りの強い米であるこがねもちときらら397のような粘りの弱い米とを識別するためのM1AKoganeを挙げることができる。
【0044】
以下、本発明の実施例を示して本発明を詳しく説明するが、本発明は、これらによって限定されるものではない。
【実施例1】
【0045】
本実施例においては、識別用増幅DNAをもたらすプライマーについて検討を加えた。すなわち、米の食味関連特性と関係の期待される識別用増幅DNAを増幅するプライマーの開発を行った。
(1)米試料の品種
米試料は、日本型(ジャポニカ)米(温帯ジャポニカ、熱帯ジャポニカ)、インド型(インディカ)米、及び日印交雑種のそれぞれを数品種ずつ用いた。
温帯ジャポニカとしては、台中65号、スイートライス(Sweet Rice)、滋賀羽二重糯、こがねもち、はくちょうもち、ヒノヒカリ、ひとめぼれ、コシヒカリ、あきたこまち、きらら397、初星、ヤマヒカリ、アキニシキ、むつほまれ、フジヒカリ、チヨニシキ、金南風、日本晴、Ilpum、カルモチ(Calmochi)101、中粒米(Medium grain)、長粒米(Long grain)、Forbidden Rice、ペルデ(Pelde)、カイーマ(Kyeema)、ドーンガラ(Doongara)、パエリア(Paellea rice)、イラボン(Illabong)、国宝ローズ、田牧米、バッカー(Vaccah)、カルリソ(Calriso)、朝の光、LGC−1、ニホンマサリ、月の光及び一品を用いた。
熱帯ジャポニカとしては、エリオ(Elio)、カルナロリ(Carnaroli)、及びアルボリオ(Arborio)を用いた。
インド型米としては、EM2003、ジャスミンライス(Jasmin Rice)、カリジラ(Kalijira)、テキサマティ(Texmati)、マスリ(Masuri)、タムソアン(Tamxoan)、バスマティ(Basmati)、カサラス、WAB96、WITA7、WITA239、南京11号、IR36、IR2061−214、RD21、RD23、ルアンプラトー及び黒米(forbidden rice)を用いた。
日印交雑種としては、夢十色、ホシユタカ、サリークイーン(Salyee queen)、JIF25、JIF30、JIF41、及びJIF42を用いた。
尚、日印交雑種のうち、夢十色及びカサラスは、インディカ亜種(インド型米に極めて近い特性を示す日印交雑種)として分類されることもある。
【0046】
(2)DNAの調製方法(CTAB法)
前記(1)で示した各品種の精米を、粉砕器(イワタニ製ミルサーIFM−100、東京)によって粉砕して得た精米粉末試料0.4gから、CTAB法によりDNAを抽出・精製した。
すなわち、DNAを精米粉末試料0.4g(2ml容の微量遠心チューブ)に対して2×CTAB液(2%セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)、20mM エチレンジアミン4酢酸(EDTA)、1.4M NaCl、0.1M トリスヒドロキシルアミノメタン/塩酸緩衝液(トリス緩衝液、pH8.0))0.6mlに、滅菌水0.2mlを加えた水溶液を加え、65℃で30分間抽出した。同液に等量のクロロホルム・イソアミルアルコール(24:1、v/v、CI)を加え、ローテーター(タイテック製TAITEC RT-50、東京)によって15分間、緩やかに攪拌した。次いで冷却遠心機(日立製、日立himac CR21F)によって8000g、15分間遠心分離し、上層を新しい微量遠心チューブに移した。これに10%CTAB液0.08mlと0.8mlのCIを加え、ローテーターで15分間緩やかに攪拌した後に、8000gで15分間遠心分離し、上層を新しいチューブに移した。この液に2.5倍容の沈殿用緩衝液(50mMトリス緩衝液、pH8.0、10mM EDTA、1%CTAB)を加え、−80℃で5分間静置し、沈殿を生成させた。沈殿を8000gで15分間の遠心分離で回収し、0.2M NaClを含むトリス・EDTA緩衝液(TE)0.5mlに溶解し、等量のイソプロピルアルコールを添加した。転倒混和した後、8000gで15分間遠心分離し、沈殿を回収した。沈殿を0.2mlのTEに溶解し、10mg/mlのRNAse(ニッポンジーン社製、牛膵臓RNAse A、10mg/ml)を1μl加え、55℃で1時間RNA分解を行った。
【0047】
処理後、等量の中性フェノールを加えて精製し、8000gで15分間遠心分離を行い、上層を新しいチューブに移した。これに等量のフェノール/クロロホルム(1:1、v/v)を加え、8000gで15分間遠心分離を行い、上層を新しいチューブに移した。これに0.2MのNaClと2倍容の氷冷エタノールを加えてDNAを沈殿させ、70%エタノール50μlで洗浄した後、30μlの10倍希釈TEで溶解し、鋳型DNAとした。
尚、外国産米で試料が極めて少ないものについては本発明者らの酵素法(大坪ら:特許第3048149号公報参照)によりDNAを調製した。
【0048】
(3)プライマーの設計
米の主要な食味要因であるとされる澱粉やタンパク質の量や質に関係すると見られるプライマー、すなわち、澱粉合成酵素に関係するプライマー、及びタンパク質組成に関係するプライマーの設計を試みた。
【0049】
まず、澱粉合成酵素に関係するプライマーとして、具体的には、GBSS3、GBSS4、NSS I、NSS II、DBE−J、DBE−I、NK4、M1A、及びSBEを以下のようにして設計した。ここで、GBSS3及びGBSS4はデンプン粒結合型デンプン合成酵素遺伝子(GBSS)、NSS I及びNSS IIは可溶性デンプン合成酵素遺伝子(NSS)、DBE−J及びDBE−Iはデンプン枝切り酵素(DBE)、SBEはデンプン枝作り酵素遺伝子(SBE)にそれぞれ関係するプライマーである。
GBSS3、GBSS4、及びNSS IIは、T.Babaらの文献(Plant Physiol.,103,565-573,1993)及びH.Francesらの文献(Plant Mol.Biol.,8,407-415,1998)に記載された澱粉合成酵素遺伝子の塩基配列内を、数個のブロックに分け、各ブロック毎にプライマーを設計し、各プライマーを用いてPCRを行った結果、増幅DNAに品種間差異の見いだされた塩基部分から設計したプライマーである。
【0050】
一方、NSS I、NK4、M1A及びSBEは、品種判別用に当研究室で開発したSTSプライマーであり、開発後に澱粉合成酵素との関係が示唆されたプライマーである。尚、SBEの開発及びデンプン枝作り酵素との関係については、実施例13において詳しく述べる。
【0051】
更に、DBE−J及びDBE−Iは、下記のようにして設計した。
すなわち、P.B.Franciscoらの報告したデンプン枝切り酵素(Biochim.Biophys.Acta,87,469-477,1998)の15241bpからなる領域を6個のブロックに分け、各ブロックごとにプライマーを設計し、各プライマーを用いてPCRを行った結果、増幅DNAに品種間差異の認められた部分を見いだした。次いでこの品種間差異の認められた部分、すなわち、識別性の高い領域(P.B.Franciscoらの報告した澱粉枝切り酵素(Biochim.Biophys.Acta,87,469-477,1998)の12204bp〜12690bpに相当する部分)内の変異を明らかにするため、朝の光、カサラス、こがねもち、コシヒカリ及び夢十色の5品種の試料米DNAを鋳型として当該識別性の高い領域を特異的に増幅するPCRを行った。クローニングを各試料米ごとに5クローンずつ行って、品種内での一塩基置換ではない部分で塩基配列を決定し、日本型米であるこがねもち及びコシヒカリ、インド型米であるカサラス、インディカ亜種である夢十色、並びに温帯ジャポニカである朝の光の双方に対し特徴的に相違する塩基配列部分で二次プライマーを設計した。
図1に、デンプン枝切り酵素遺伝子のうち識別性の高い領域における日本型米とインド型米の塩基配列の相違を示す。図1中の(A)は、調節遺伝子内の識別性の高い領域における相違を示し、(B)は、構造遺伝子内の識別性の高い領域における相違を示し、aは、DBE−Jのプライマー部分を、bはDBE−Iのプライマー部分を示す。
【0052】
次に、タンパク質組成に関係するプライマーとして、具体的には、Pro13、Pro10、Pro13FN、及びGluを以下のようにして設計した。Gluはグルテリンに、Pro13及びPro13FNは分子量13kDaのプロラミンに、Pro10は分子量10kDaのプロラミンに、それぞれ関係するプライマーである。
Pro10は、L.Youらの報告するプロラミンの遺伝子(NCBI ACCESSION L36605(1994))のうち36bp〜488bpからなる領域から設計したプライマーである。
また、Pro13及びPro13FNは、S.Shaらの文献(NCBI ACCESSION D63901(2002))に記載された米貯蔵タンパク質の遺伝子のうち、それぞれ塩基配列761bp〜1130bpの部分及び341bp〜1130bpの領域から設計したプライマーである。
【0053】
一方、Gluは、下記のようにして設計した。
すなわち、H.Washidaらの報告するグルテリン遺伝子(Plant Molecular Biology,40,1-12,1999)の調節遺伝子内M7を構成する塩基配列(tgcaaagt)から構造遺伝子までの620bpを一次プライマーとし、朝の光、IR2061−214、カサラス、コシヒカリ、LGC−1、ニホンマサリ、月の光、WITA 7及び夢十色の9種類の試料米のDNAを鋳型とするPCRを行った。得られるPCR産物について、上記DBEの場合と同様に、クローニングを各試料米ごとに5クローン行って、品種内での一塩基置換ではない部分で塩基配列を決定し、日本型米であるコシヒカリ、インド型米であるIR2061−214及びカサラス、インディカ亜種であるWITA 7及び夢十色、並びに温帯ジャポニカである朝の光、LGC−1、ニホンマサリ、及び月の光の双方に対し特徴的に相違する部分の調節遺伝子部分と構造遺伝子部分にかけての領域から、プライマーを設計した。
図2に、グルテリン遺伝子のうち識別性の高い領域における日本型米とインド型米の塩基配列の相違を示す。図2中の(A)は、調節遺伝子内の識別性の高い領域における相違を示し、(B)は、構造遺伝子内の識別性の高い領域における相違を示す。
尚、上記設計したプライマーにおいて、ロングプライマーセットとショートプライマーセットとの2種類があるものについては、以下の実施例において、Pro10についてロングプライマーセットを用いた他は、特に断らない限りショートプライマーセットを用いた。
【0054】
更に、本発明者らの報告(大坪 研一ら:食科工,50,122-132,2003)で使用された品種識別用プライマーの内の一部についても、上記のプライマーと組み合わせることができるかどうかを検討するために選択した。具体的には、G22、B43、J6、WK9A、M11、F6、P5、E30、及びS13である。これらの品種識別性については、先述の表1に示した通りである。
【0055】
(4)PCRによるDNAの増幅と多型の検出
前記(3)で設計されたプライマーを用いて、一方、前記(2)で抽出・調製された試料米DNAを鋳型としてPCRを行った。
すなわち、まず、鋳型DNA400ng/1μl、DNAポリメラーゼ(タカラバイオ製、Taq polymerase、5U/μl、大津)0.2μl、反応用緩衝液(12mM トリス塩酸、60mM KCl、pH8.3)2.0μl、dNTPs(100μM)2μl、25mM MgCl2 2μlの混合液に5pmole/μlのSTS化対合プライマー0.1〜0.6μlを加え、滅菌水によって総液量を20μlとした。各プライマーのPCR条件はプライマーによって異なるが、サーマルサイクラー(タカラバイオ製MP、大津)を用いて、96℃で1分間変性、50〜72℃で1分間アニーリング、72℃で2分間伸長というサイクルを35回繰り返した。
【0056】
増幅DNAを含む反応液15μlに、ローディング緩衝液(1mM EDTA、グリセリン30%、ブロモフェノールブルー0.25%、滅菌水69.5%)3μlを加え、2%アガロースゲル(ニッポンジーン製、Agarose S)にチャージし、電気泳動装置(コスモバイオ製ミューピッド、東京)を用いて直流電圧100Vで30分間泳動し、エチジウムブロミド(500ng/ml)で1時間染色後、紫外線照射してDNAバンドパターンを撮影した。DNA分子量マーカーは、Marker 4(和光純薬製、φX174ファージHaeIII)を使用した。
【0057】
(5)増幅DNAの切り出し、精製と塩基配列の決定
PCR後の電気泳動を行った2%SeaKem GTG agaroseから目的バンドを紫外線照射下で切り出し、3倍容のヨウ化ナトリウムによってDNAを溶出した後、ガラスビーズ吸着法(タカラバイオ製、EasyTrap ver.2、大津)によりDNAを回収した。そのDNAをトポクローニングキット(インビトロジェン製、TOPO XL Cloning Kit)を用いてライゲーションし、大腸菌に組み込んで37℃で18時間培養し、アルカリミニプレップ法(キアゲン製QIAprep Spin Miniprep kitを使用)によってDNAを抽出・精製した。
そのDNAをシークエンシング用キット(Applied Biosystems製、big Dye Terminator Cycle Sequencing Kit、V1-1)を用いて増幅し、自動シークエンサー(Applied Biosystems製370)によって塩基配列を決定した。
【0058】
(6)STS化プライマーによる各品種のPCR結果
各品種の精米試料から調製した鋳型DNAを用い、各種のSTS化プライマー単独あるいは複数のSTS化プライマーを組み合わせて反応液に共存させてPCRを行った結果を表2および図3〜図8に示す。図3〜図8中、レーンNo.1〜39は、1:EM2003、2:スイートライス、3:滋賀羽二重糯、4:ひとめぼれ、5:コシヒカリ、6:日本晴、7:イラボン、8:国宝ローズ、9:田牧米、10:バッカー、11:エリオ、12:カルナロリ、13:カルリソ、14:アルボリオ、15:ジャスミンライス、16:カリジラ、17:テキサマティ、18:マスリ、19:タムソアン、20:バスマティ、21:夢十色、22:ホシユタカ、23:サリークイーン、24:台中65号、25:こがねもち、26:ヒノヒカリ、27:あきたこまち、28:きらら397、29:一品、30:カルモチ101、31:中粒米、32:黒米、33:ペルデ、34:カイーマ、35:パエリア、36:長粒米、37:ドーンガラ、38:南京11号、39:IR2061−214の各試料米品種を示す。また、a〜uは、それぞれa:DBE−I、b:Glu、c:SBE、d:NSS II、e:Pro10、f:P5、g:NSS I、h:GBSS4、i:Pro13FN、j:J6、k:M1A、l:GBSS3、m:NK4、n:Pro13、o:WK9A、p:B43、q:M11、r:G22、s:F6、t:E30、u:S13の各プライマーを示す。更に、矢印は、a〜uの各プライマーに由来する識別用増幅DNAの出現部位を示す。
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
表2及び図3〜図8から明らかなように、各プライマーにより、品種間で識別用増幅DNAの有無を明確に観察できることが明らかとなった。
尚、上記図3〜図8のレーンNo.1〜24の試料米は検量線作成に、No.25〜39の試料米は未知試料として、後述の適用性検定に使用した。
【実施例2】
【0062】
上述したように、図3〜図8に示された39種類の試料米を利用して、実施例1で設計したプライマーと、試料米の食味関連特性との相関関係の存在の確認を行った。
(1)アミロース含量およびタンパク質含量の測定
試料米を試験用籾摺り機(サタケ製、THU−35A、東広島)によって籾摺りし、試験用精米器(ケット化学研究所製パーレスト、東京)で歩留まり90%に精白して精米を得た。この精米を、サイクロンサンプルミル(Udy製)によって粉砕して試料とした。フリアーノのヨード比色法(B.O.Juliano:Cereal Sci.Today,16,334-340,360,1971)に従って測定した。検量線はポテトアミロース(シグマ社製、Potato amylose III)と米アミロペクチン(脱脂除タンパクしたもち米粉末)を40/60、30/70、20/80、10/90、及び0/100の各割合に混合して作成した。試料粉末のタンパク質含量は燃焼法(LECO FP−528型 窒素分析装置)によって全窒素含量を求め、米における窒素タンパク質換算係数5.95を乗じてタンパク質含量とした。
【0063】
(2)米飯の調製と物性測定
前記(1)で得た精米を、湿度70%において水分含量14.5%±0.5%に調整した。これらの精米試料各10gを外径6.0cm、底径4.2cm、高さ5.5cmのプリンカップに秤取し、純水16mlを加え、25℃で1時間吸水させた。その後、電気炊飯器(東芝製RC183、東京)に5個並べ、釜に75mlの純粋を加え、20分間炊飯した。スイッチが切れた後、15分間蒸らし、蓋を開けて米飯試料をプリンカップからガラスシャーレに移し、プラスティック袋に密閉して25℃で2時間静置した。その各30粒を1粒ずつ、テンシプレッサー(タケトモ電機製、マイボーイ、東京)を用いて岡留らの方法(岡留博司ら:食科工,45,398-407,1998)により物性を測定した。測定項目は、圧縮率25%による米飯表層部の付着量(L3)である。
【0064】
(3)精米粉の調製と米粉糊化特性の測定
前記(1)で得られた精米を、イワタニ製ミルサーによって粉砕し、精米粉を調製した。
この精米粉3.0g(乾物あたり)に25mlの純水を加え、豊島らの方法(豊島 英親ら:食科工,44,579-584,1997)によりラピッドビスコアナライザー(RVA、ニューポートサイエンティフィック社製、Warriewood)で糊化特性を測定した。
すなわち、50℃で1分間攪拌した後、4分間で50℃から93℃まで昇温し、93℃で7分間攪拌を続けた後、93℃から50℃まで4分間で降温し、50℃で3分間攪拌を続けた後の粘度を採択した。測定項目はコンシステンシー(最終粘度と最低粘度の差)である。
【0065】
(4)成分測定及び物理特性測定の結果
ヨード比色法で測定したアミロース含量、燃焼法で測定したタンパク質含量、テンシプレッサーによって測定した米飯物性測定値、およびRVAによって測定した精米粉糊化特性値の測定結果を表4に示す。また各プライマーによるPCR結果と、アミロース含量、タンパク質含量、米飯物性測定値(L3)、及び精米粉糊化特性値のそれぞれとの相関を表5に示す。
【0066】
【表4】
【0067】
【表5】
【0068】
この結果、アミロース含量に対して1%有意の相関があったプライマーは、NSS I、M1A、P5、DBE−I、F6、及びPro10で、デンプン合成酵素遺伝子に関係するプライマーが4個含まれていた。タンパク質含量に対して1%有意または5%有意の相関があったプライマーは、Glu、DBE−I、NSS I、M1A、NK4、M11、P5、及びJ6で、タンパク質由来のプライマーはGluのみであった。米飯物性測定値(L3)に対して1%有意の相関があったプライマーは、DBE−I、Glu、Pro13、Pro10、NSS I、M1A、NK4、M11、P5、J6で相関係数の高い複数要因のプライマーが見出された。精米粉糊化特性値に対して1%有意又は5%有意の相関があったプライマーは、NSS I、M1A、NK4、M11、P5、J6、DBE−I、Glu、及びPro10で、GBSS由来のプライマーが5個含まれていた。
【実施例3】
【0069】
PCRによる識別用増幅DNA出現の有無を2値化して変数とし、これを多変量解析に適用するにあたり用いる食味推定式を作成した。
実施例1にて、品種判別用プライマーであるF6、S13、E30、J6、B43、及びWK9Aの6種類を用いて行ったPCRの結果の識別用増幅DNAの出現の有無を二値化したものを説明変数とし、実施例2で得た米飯物性測定値(表層の付着量であるL3)を目的変数として重回帰分析を行った結果、下記の食味推定式(1)が得られた。尚、下記式中のプライマー名は、対応するプライマーによるPCRの結果の識別用増幅DNA出現の有無を意味する説明変数である。
重相関係数Rは0.56であった。
【0070】
(数4)
Y = 0.85 + 0.34×F6 - 0.50×S13 + 0.11×E30 + 0.52×J6 - 0.30×B43 + 0.11×WK9A
・・・(1)
【0071】
実施例1にて、デンプン合成酵素に関連するプライマーであるDBE−I、NSS I、NSS II、GBSS3、GBSS4、及びSBEの6種類を用いて行ったPCRの結果の識別用増幅DNAの出現の有無を二値化したものを説明変数とし、実施例2で行った米飯物性測定値(表層の付着量であるL3)を目的変数として重回帰分析を行った結果、下記の食味推定式(2)が得られた。尚、下記式中のプライマー名は、対応するプライマーによるPCRの結果の識別用増幅DNA出現の有無を意味する説明変数である。
重相関係数Rは0.68であった。
【0072】
(数5)
Y = 0.85 - 0.32×DBE-I + 0.23×NSSI - 0.29×NSSII - 0.32×GBSS3 + 0.50×GBSS4 + 0.46×SBE
・・・(2)
【0073】
実施例1にて、デンプン合成酵素に関連するプライマーであるDBE−I、NSSII、GBSS3、GBSS4、及びSBEの5種類、並びにタンパク質組成関連のプライマーであるGlu−IとPro10の2種類、合計7種類のプライマーによるPCRの結果の識別用増幅DNAの出現の有無を二値化したものを説明変数とし、実施例2で行った米飯物性測定値(表層の付着量であるL3)を目的変数として重回帰分析を行った結果、下記の食味推定式(3)が得られた。尚、下記式中のプライマー名は、対応するプライマーによるPCRの結果の識別用増幅DNA出現の有無を意味する説明変数である。
重相関係数Rは0.75であった。
【0074】
(数6)
Y = 1.13 + 0.25×Glu-I + 0.47×Pro10 - 0.38×DBE−I - 0.49×NSSII - 0.68×GBSS3 + 0.40×GBSS4 + 0.35×SBE
・・・(3)
【0075】
これらの分析の結果、通常の品種判別用のプライマーによるPCRの結果を用いて重回帰分析を行った場合よりも、澱粉合成酵素に関連するプライマーによるPCRの結果を用いて重回帰分析を行った方が高い重相関係数が得られ、さらに、澱粉合成酵素に関連するプライマーによるPCRの結果およびタンパク質組成に関連するプライマーによるPCRの結果を合わせて使用した重回帰分析の方が、さらに高い重相関係数が得られることが明らかとなった。
【実施例4】
【0076】
実施例1で設計した各種プライマーを用いて米試料DNAを鋳型としたPCRを行い、試料米がインド型(インディカ)米と日本型(ジャポニカ)米との識別ができるかどうかの確認を行った。
試料米は、図9に示すとおりである。すなわち、日本型米として、こがねもち、滋賀羽二重糯、はくちょうもち、コシヒカリ、ひとめぼれ、日本晴、初星、ヤマヒカリ、アキニシキ、むつほまれ、きらら397、アルボリオ、台中65号、バッカー、国宝ローズ、エリオ、カルリソ、フジヒカリ、及びチヨニシキを用いた。また、インド型米として、カオドクマリ、カリジラ、EM2061、バスマティ、C70、IR2061、IR36、夢十色、JIF41、JIF42、テキサマティ、タムソアン、カサラス及びWITA7を用いた。
米試料としての上記インド型米及び日本型米の精米から、前記実施例1(2)と同様の手順で鋳型DNAを調製し、澱粉合成酵素に関連するプライマーであるDBE−I、DBE−J及びNSS IIを用いて、実施例1(3)と同様の手順でPCRを行った。図9に、インディカ用(A)DBE−I、及びジャポニカ用(B)DBE−Jを用いたPCRの結果を示す。図9(A)中、1〜29は、それぞれ、1:エリオ、2:カルナロリ、3:アルボリオ、4:カオドクマリ、5:カリジラ、6:EM2061、7:バスマティ、8:C70、9:IR2061、10:IR36、11:こがねもち、12:はくちょうもち、13:滋賀羽二重糯、14:コシヒカリ、15:ひとめぼれ、16:あきたこまち、17:日本晴、18:金南風、19:夢十色、20:イラボン、21:国宝ローズ、22:JIF25、23:JIF30、24:JIF41、25:JIF42、26:テキサマティ 27:タムソアン、28:カサラス、29:WITA7、30:WITA239を示し、MはDNA分子量マーカー(和光純薬工業、Marker4)を示す。一方、図9(B)中、1:こがねもち、2:滋賀羽二重糯、3:はくちょうもち、4:コシヒカリ、5:ひとめぼれ、6:日本晴、7:初星、8:ヤマヒカリ、9:アキニシキ、10:むつほまれ、11:きらら397、12:カオドクマリ、13:テキサマティ、14:マスリ、15:カリジラ、16:タムソアン、17:バスマティ、18:RD21、19:夢十色、20:カサラス、21:RD23、22:アルボリオ、23:台中65号、24:C70、25:バッカー、26:国宝ローズ、27:エリオ、28:カルリソ、29:WITA7、31:ルアンプラトー、32:フジヒカリ、33:チヨニシキを示し、MはDNA分子量マーカー(和光純薬工業 Marker4)を示す。
図9に示すように、澱粉枝切り酵素DBE(pullulanase)に関連するプライマーDBE−J及びDBE−Iを用いたPCRによって、インド型米と日本型米を識別することが可能であることが明らかとなった。一方、配列番号7および配列番号8に示すNSS IIに関係するプライマーを用いたPCRでは、図9に示すような普遍的な識別を行うことが不可能であった。
このことから、澱粉合成酵素に関連するプライマーとしてDBE−J及びDBE−Iを用いたPCRを行うことにより、インド型米と日本型米を識別することが可能であることが証明された。
【0077】
一般に、日本型米は粘りが強く、インド型米は粘りが弱くパサパサした食感がある。これは、主にアミロース含量の相違によるものと考えられるが、アミロペクチンのクラスター構造の変異も影響すると考えられ、日本型米はDP値(重合度)10以下の短鎖が多く、DP値12〜21のものは少ない。この構造は疎水性に影響し、澱粉が糊化しやすいという日本型米の特徴の要因と考えられ、SSSIIa遺伝子の相違が起因すると言われている(Y.Nakamuraら:Starch,54,117-131,2002)。
本発明者らは、九州大育成の変異米EM75(sug2、pullulanase減少変異体)と、EM75の原品種である金南風とを試料米として、日本型米に特徴的に出現するDBE−Jを用いてPCRを行った結果、EM75の場合は、原品種の金南風に比べて明らかな相違が確認された。
また、プライマーDBE−JおよびDBE−IによるPCRの結果、図9に示すように明瞭にインド型米と日本型米が識別されたという結果は、従来報告されているSSSIIa以外にも日本型米とインド型米の相違をもたらしている要因があり、本発明者らの開発したプライマーDBE−JおよびDBE−Iは、pullulanaseに関係している可能性が強い。
【0078】
また、グルテリンの構造遺伝子内のタンパク質変異を図2に示す。図2に示すように、インド型米と日本型米では、貯蔵タンパク質グルテリンに変異部分があることが示された。構造遺伝子内(図2の(B))においても、明らかに、インド型米と日本型米とで異なっている部分が数カ所見いだされた。これらの調節遺伝子部分の相違点及び構造遺伝子部分の相違点の配列に基づいて設計したプライマーGluを用いて、39種類の試料米(図3〜図8)でPCRを行った結果、日本型米とインド型米をそれぞれ共通的にほぼ識別ができることが示された。
【実施例5】
【0079】
以下の実施例5〜8においては、実施例1で設計された各種プライマーを用いたPCRの結果を2値化した数値を説明変数とし、一方、食味を表す数値として、わが国の消費者の嗜好と比較的相関の高いアミロース含量、タンパク質含量、米飯物性値(L3)及び精米粉糊化特性値(コンシステンシー)を選択し、これらのそれぞれを目的変数とした重回帰解析を行い、試料米の食味推定に対する適用性を検討した。
【0080】
まず、実施例5においては、アミロース含量の推定を行った。
前記の表2に示すプライマーのうち、デンプン合成酵素に関係するプライマーとしてNSS II、NSS I、及びDBE−Iの3種類のプライマー、米のタンパク質組成に関係するプライマーとしてPro13及びGluの2種類のプライマー、並びに、P5、E30、及びS13の3種類のプライマーについて、それぞれの組み合わせによる24種類の試料米DNAを鋳型として行うPCRの結果得られる識別用増幅DNAバンドの出現の有無を2値化した。すなわち、前記実施例3で述べた方法によってバンドが出現した場合を1、出現しなかった場合を0とした。
上記2値化したものを説明変数とし、アミロース含量を目的変数として変数増減法による重回帰分析を行った。統計処理には、Excel2000の統計ソフトウエアを使用した。その結果、下記のアミロース含量を目的とする食味推定式(4)を得た。尚、下記式中のプライマー名は、対応するプライマーによるPCRの結果の識別用増幅DNA出現の有無を意味する説明変数である。
この重回帰式の重相関係数(R)は、0.92であった。散布図を図10(A)aに示す。
【0081】
(数7)
Y = 29.73−1.50×S13−0.65×DBE-I−15.1×Glu+4.71×NSSI+9.46×NSSII−5.96×P5−8.47×E30−7.44×Pro13 ・・・(4)
【0082】
この重回帰分析に基づくアミロース含量を目的とする食味推定式(4)の、未知試料米に対する適用性を検定した。
すなわち、表4に示す15種類の未知試料米のアミロース含量に対して式(4)を適用した。その結果、重相関係数は0.72であった。また、この場合の散布図を図10(A)bに示した。
このことから、アミロース含量を目的とする食味推定式(4)により、試料米のアミロース含量を推定できることが分かる。また、推定式(4)STS化プライマーのうちにはNSS II、NSS I、及びDBE−Iといったデンプン合成酵素に関連するプライマーが含まれていることは当然と考えられるが、Glu及びPro13といったタンパク質に関連するプライマーも含まれているので、タンパク質組成が日本型米、インド型米等の種類によって異なっている可能性をも示している。
【実施例6】
【0083】
デンプン合成酵素に関係するプライマーとしてNSS II及びM1A、米のタンパク質組成に関係するプライマーとしてGlu、品種識別用プライマーとしてJ6を用いたこと、及び、食味を表す数値としてタンパク質含量を選択したこと以外は、実施例5と同様に行い、下記のタンパク質含量を目的とする食味推定式(5)を得た。尚、下記式中のプライマー名は、対応するプライマーによるPCRの結果の識別用増幅DNA出現の有無を意味する説明変数である。
この重回帰式の重相関係数(R)は、0.81であった。散布図を図10(B)aに示す。
【0084】
(数8)
Y = 7.80−0.53×M1A−1.65×Glu+0.44×NSSII+0.39×J6 ・・・(5)
【0085】
この重回帰分析に基づくタンパク質含量を目的とする食味推定式(5)の、未知試料米に対する適用性を検定した。すなわち、表4に示す13種類の未知試料米のタンパク質含量に対して式(5)を適用した。その結果、重相関係数は0.62であった。この場合の散布図を図10(B)bに示す。
一般に、タンパク質含量の場合は品種特性のみならず、水田の窒素含量や施肥条件も影響するので、タンパク質含量を目的とする食味推定式(5)による解析を行うと共に、上記環境条件を考慮することにより、試料米のタンパク質含量をより正確に推定できることが分かる。
【実施例7】
【0086】
デンプン合成酵素に関係するプライマーとしてNK4、米のタンパク質組成に関係するプライマーとしてPro13及びGlu、並びに、品種識別用プライマーとしてG22、B43、M11、及びP5を用いたこと、及び、食味を表す数値として米飯物性測定値を選択したこと以外は、実施例5と同様に行い、下記の米飯物性を目的とする食味推定式(6)を得た。尚、下記式中のプライマー名は、対応するプライマーによるPCRの結果の識別用増幅DNA出現の有無を意味する説明変数である。
この重回帰式の重相関係数(R)は0.93であった。散布図を図10(C)aに示す。
【0087】
(数9)
Y = 0.063+0.0359×NK4+0.475×Glu+0.246×P5+0.0201×B43+0.124×M11−0.0848×G22+0.549×Pro13 ・・・(6)
【0088】
この重回帰分析に基づく米飯物性を目的とする食味推定式(6)の、未知試料に対する適用性を検定するために、表4に示す15種類の未知試料米の米飯物性測定値(L3)に対して式(6)を適用した。その結果、重相関係数は0.82であった。この場合の散布図を図10(C)bに示す。
このことから、米飯物性を目的とする食味推定式(6)により、試料米の米飯物性を推定できることが分かる。また、推定式(6)STS化プライマーのうちにはデンプン合成酵素に関連するプライマー、タンパク質に関連するプライマー及び品種識別用プライマーのいずれもが含まれていることから、米飯物性には様々な要因が関係していることがわかった。
【実施例8】
【0089】
デンプン合成酵素に関係するプライマーとしてGBSS4、DBE−I、M1A、及びSBE、米のタンパク質組成に関係するプライマーとしてPro13FN及びGlu、並びに、品種識別用プライマーとしてG22、WK9A及びS13を用いたこと、及び、食味を表す数値として精米粉糊化特性のうちコンシステンシーを選択したこと以外は、実施例5と同様に行い、下記のコンシステンシーを目的とする食味推定式(7)を得た。尚、下記式中のプライマー名は、対応するプライマーによるPCRの結果の識別用増幅DNA出現の有無を意味する説明変数である。
この重回帰式の重相関係数は0.84であった。散布図を図10(D)aに示す。
【0090】
(数10)
Y = 142−30.2×Glu−11.1×M1A−43×SBE+18.1×DBE-I+11.4×G22+61×S13+44.2×GBSS4−39.7×Pro13FN+17.6×WK9A ・・・(7)
【0091】
この重回帰分析に基づくコンシステンシーを目的とする食味推定式(7)の、未知試料に対する適用性を検定するために、表4に示す14種類の未知試料米のコンシステンシーに対して式(7)を適用した。その結果、重相関係数は0.72であった。この場合の散布図を図10(D)bに示す。
このことから、コンシステンシーを目的とする食味推定式(7)により、試料米のコンシステンシーを推定できることが分かる。また、推定式(7)STS化プライマーのうちにはデンプン合成酵素に関連するプライマー、タンパク質に関連するプライマー及び品種識別用プライマーのいずれもが含まれていることから、米飯粉糊化特性には様々な要因が関係していることが分かった。
【実施例9】
【0092】
実施例1で設計された各種プライマーを用いたPCRの結果を2値化した数値を説明変数としたクラスター解析を行い、試料米の食味推定に対する適用性を検討した。
すなわち、前記の表2に示すプライマーのうち、デンプン合成酵素に関係するプライマーとしてM11、P5、G22、F6、S13、E30、J6、B43、WK9A、DBE−I、DBE−J、Glu−J、Glu−I、Pro13FN、Pro13、Pro10、NSSI、NSSII、GBSS3、GBSS4、M1A、SBE、及びNK4の23種類のプライマーについて、それぞれの組み合わせによる広範な世界の米23種類(図6参照)の試料米DNAを鋳型として行うPCRの結果得られる識別用増幅DNAバンドの出現の有無を2値化した。すなわち、前記実施例3で述べた方法によってバンドが出現した場合を1、出現しなかった場合を0とした。
上記2値化したものを説明変数とし、クラスター分析を行った。解析結果を図11に示す。尚、統計解析ソフトはオードメイン社のロータス1−2−3利用の多変量解析を使用し、解析理論は石原らの理論(石原辰雄ら:Lotus 1-2-3活用多変量解析,共立出版,東京,pp.228-264,1992)によった。
図11から、クラスター分析の結果、インディカ、熱帯ジャポニカ、及び温帯ジャポニカがグループ化され、これは従来の分類とよく一致していた。このことから、クラスター分析によりインディカ米とジャポニカ米の識別が可能となることができることが明らかとなった。
【実施例10】
【0093】
次に、試料米が玄米半粒の場合の半粒良食味米の選抜技術の適用性について検討した。
コシヒカリを母本とし、ハツシモを花粉親とし、コシヒカリを温湯除雄してハツシモを交配し、次世代稲から籾を得た。この雑種第一代の籾を、育苗培土を入れたマグナムポットに播種し、人工気象室(タバイエスペック社製TGH−6)において自殖栽培し、雑種第二代の種子を得た。これらの種子を籾摺りした玄米粒を胚芽を含む側と胚芽を含まない側とに半裁し、胚芽を含まない側を半粒ずつ乳鉢で粉砕し、実施例1と同様にCTAB法でDNAを抽出した。これらのDNAを鋳型とし、PCRによるDNAの増幅を行った。PCRは実施例1と同様に行った。
PCRのバンドパターンに基づいて、実施例7の米飯物性を目的とする食味推定式(6)に適用して米飯物性(L3)の推定値を算出した。これらの胚芽を含む半粒を、1%次亜塩素酸ナトリウム溶液で表面殺菌した後、下記の表6に示す組成の培地に置床し、30℃で7日間発芽させた。
【0094】
【表6】
【0095】
発芽半粒種子を人工気象器(日本医科器械製作所製バイオトロンNC350)に移し、28℃(光照射)10時間、28℃(暗)14時間のサイクルで培養し、幼苗を緑化させた。次いで、幼苗を前述の培地を含むアグリポットに移植し、7日間生育させた後、育苗培土に移植し、人工気象室で2週間生育させた。
これらの苗を、埴土をいれたマグナムポットに移植し、前述の人工気象室で4ヶ月間栽培し、出穂させた。さらに40日間成熟させた後に穂を刈り取り、脱穀、籾摺りを行い、各玄米を試験用精米機で精米した。これを、電気釜で炊飯し、4名のパネリストによって食味の官能検査を行った。この米飯物性推定値および官能検査結果を、表7に示す。
米飯物性推定値の判定は、L3推定値が1.2以上のものを○、1.4以上のものを◎、1.2未満のものを空白として表7に示した。また、DNA推定と官能検査の一致度の判定は、官能検査とDNAから推定したL3が良く一致しているものを○、中間程度のものを△(試料米No.4はL3推定値が1.15と小さく、軟らかい点は合っていないが、腰がない点はあっている。No.24は、L3が1.4と大きく、軟らかい点は合っているが、粘りが少ない点が合っていない。)、一致していないものを×として表7に示した。
【0096】
【表7】
【0097】
表7に示すように、供試した28点の交配種子のうち、20点で米飯物性の推定結果と官能検査結果とが良く一致した。この結果、交配種子を半裁し、胚芽を含まない玄米あるいは籾の半粒からDNAを抽出して鋳型DNAとし、PCRによる米飯物性の推定を行い、胚芽を含む半粒を発芽させて良食味米を選抜することが可能であることが示された。
【実施例11】
【0098】
実施例1で開発したプライマーPro13を用い、鋳型として、日本型米の良食味米であるコシヒカリと低食味米である朝の光及び月の光の3品種のDNAを用いて、実施例1と同様にPCRを行った。増幅したDNAをアガロースゲルから切り出してクローニングし、それらの塩基配列を決定した。各品種の増幅DNAの塩基配列を図12に示す。
図12から明らかなように、コシヒカリの増幅DNAのうち364番目から386番目の塩基配列部分(図12の下線部分:tgttggtgaagggcgaattctgc)が、コシヒカリと他の2種類の米とで異なっていることが明らかとなった。この配列部分に基づいてプライマーPro13Koshi(配列表の配列番号66に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列表の配列番号67に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)を作成し、再度PCRを行った結果、コシヒカリと朝の光や月の光とをPCRによって明瞭に識別できることが判った。
【実施例12】
【0099】
実施例1で開発したプライマーM1Aを用い、鋳型として、粘りの強いこがねもちと、粘りの弱いきらら397のDNAを用いて、実施例1と同様にPCRを行った。増幅したDNAをアガロースゲルから切り出してクローニングし、塩基配列を決定した。各品種の増幅DNAの塩基配列を図13(フォワード側)と図14(リバース側)に示す。
図13及び図14から明らかなように、こがねもちの増幅DNAのうちフォワード側の22番目から46番目の部分(図13の下線部分)及びリバース側の22番目から51番目の塩基配列部分からプライマーM1AKogane(配列表の配列番号68に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列表の配列番号69に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)を作成し、再度PCRを行った結果、粘りの強いこがねもちと粘りの弱いきらら397とをPCRによって明瞭に識別することが可能となった。
【実施例13】
【0100】
実施例1で開発したプライマーSBEを用い、鋳型として、日本型米である日本晴のDNAを用いて、実施例1と同様にPCRを行った。増幅したDNAをアガロースゲルから切り出してクローニングし、塩基配列を決定した。その塩基配列を、国立遺伝研究所のデータベース(DDBJ)によってホモロジー検索した。SBEにより増幅したDNAとDDBJのデンプン枝作り酵素の塩基配列部分との比較を図15に示す。
図15から明らかなとおり、増幅したDNA(図15の下段)は、DDBJのデンプン枝作り酵素の一部(図15の上段)と高い相同性を示すことが明らかとなった。このことから、SBEはデンプン枝作り酵素と関係するプライマーであることが明らかとなった。
【実施例14】
【0101】
実施例1で開発したプライマーSBE、NSS I、GBSS4、NSS II、Pro10及びPro13FN、NK4、M1A、GBSS3及びPro13を用い、鋳型として、実施例1で用いた各品種の試料米DNAの一部を用いて、実施例1と同様にPCRを行った結果を図16及び図17に示す。図16及び図17中、レーンNo.1〜24、c、d、e、g、h、i、m、k、l、及びnについては、図3〜図8と同様である。更に、矢印は、c、d、e、h、i、m、k、l、及びnの各プライマーに由来する識別用増幅DNAの出現部位を示す。
図16及び図17から明らかなように、各プライマーにより、食味特性の異なる各品種間の米を明瞭に識別できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明によれば、DNAを用いて育種選抜の初期段階から試料米の食味を精度良く推定することが可能となる。
特に、試料米がごく少量であっても食味を推定することが可能となるので、官能検査や物理化学的測定などの従来の食味判別技術で必要とされてきた試料の量についての問題を解決することができる。
特に、試料米が籾あるいは玄米半粒やそれ以下であっても適用可能であるので、胚芽を含まない側の半裁種子について食味推定を行って良食味系統を選抜し、胚芽を含む側の半裁種子を播種して効率良く次世代稲を育成することが可能となり、育種の分野における有用性が期待される。
本発明により、米の食味関連要因に対し正又は負の相関関係を示す識別用増幅DNAを効率良く出現させることのできるプライマー・セットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】デンプン枝切り酵素遺伝子のうち識別性の高い領域における日本型米とインド型米の塩基配列の相違を示す。
【図2】グルテリン遺伝子のうち識別性の高い領域における日本型米とインド型米の塩基配列の相違を示す。
【図3】各種のSTS化プライマー単独あるいは複数のSTS化プライマーを組み合わせて反応液に共存させてPCRを行った結果を示す。
【図4】各種のSTS化プライマー単独あるいは複数のSTS化プライマーを組み合わせて反応液に共存させてPCRを行った結果を示す。
【図5】各種のSTS化プライマー単独あるいは複数のSTS化プライマーを組み合わせて反応液に共存させてPCRを行った結果を示す。
【図6】各種のSTS化プライマー単独あるいは複数のSTS化プライマーを組み合わせて反応液に共存させてPCRを行った結果を示す。
【図7】各種のSTS化プライマー単独あるいは複数のSTS化プライマーを組み合わせて反応液に共存させてPCRを行った結果を示す。
【図8】各種のSTS化プライマー単独あるいは複数のSTS化プライマーを組み合わせて反応液に共存させてPCRを行った結果を示す。
【図9】インディカ用(A)DBE−I、及びジャポニカ用(B)DBE−Jを用いたPCRの結果を示す。〜を示す。
【図10】実施例5〜実施例8で得られた散布図を示す。
【図11】クラスター分析の結果を示す。
【図12】Pro13を用いて、コシヒカリと朝の光及び月の光の3品種のDNAを鋳型としてPCRを行った場合の結果を示す。
【図13】M1Aを用いて、こがねもちときらら397DNAを鋳型としてPCRを行った場合の結果(フォワード側)を示す。
【図14】M1Aを用いて、こがねもちときらら397DNAを鋳型としてPCRを行った場合の結果(リバース側)を示す。
【図15】SBEにより増幅したDNAとDDBJのデンプン枝作り酵素の塩基配列部分との比較を示す。
【図16】各種のプライマーを用いて品種識別のためのPCRを行った結果を示す。
【図17】各種のプライマーを用いて品種識別のためのPCRを行った結果を示す。
【符号の説明】
【0104】
図1中の(A)は、調節遺伝子内の識別性の高い領域における相違を示し、(B)は、構造遺伝子内の識別性の高い領域における相違を示し、aは、DBE−Jのプライマー部分を、bはDBE−Iのプライマー部分を示す。
図2中の(A)は、調節遺伝子内の識別性の高い領域における相違を示し、(B)は、構造遺伝子内の識別性の高い領域における相違を示す。
図3〜図8、図16及び図17中、レーンNo.1〜39(但し、図15及び図16では、レーンNo.1〜24)は、1:EM2003、2:スイートライス、3:滋賀羽二重糯、4:ひとめぼれ、5:コシヒカリ、6:日本晴、7:イラボン、8:国宝ローズ、9:田牧米、10:バッカー、11:エリオ、12:カルナロリ、13:カルリソ、14:アルボリオ、15:ジャスミンライス、16:カリジラ、17:テキサマティ、18:マスリ、19:タムソアン、20:バスマティ、21:夢十色、22:ホシユタカ、23:サリークイーン、24:台中65号、25:こがねもち、26:ヒノヒカリ、27:あきたこまち、28:きらら397、29:一品、30:カルモチ101、31:中粒米、32:黒米、33:ペルデ、34:カイーマ、35:パエリア、36:長粒米、37:ドーンガラ、38:南京11号、39:IR2061−214の各試料米品種を示す。また、a〜u(ただし、図15及び図16では、c、d、e、g、h、i、m、k、l、及びn)は、それぞれa:DBE−I、b:Glu、c:SBE、d:NSS II、e:Pro10、f:P5、g:NSS I、h:GBSS4、i:Pro13FN、j:J6、k:M1A、l:GBSS3、m:NK4、n:Pro13、o:WK9A、p:B43、q:M11、r:G22、s:F6、t:E30、u:S13の各プライマーを示す。また、矢印は、a〜u(但し、図15及び図16では、c、d、e、g、h、i、m、k、l、及びn)の各プライマーに由来する識別用増幅DNAの出現部位を示す。
図9(A)中、1〜29は、それぞれ、1:エリオ、2:カルナロリ、3:アルボリオ、4:カオドクマリ、5:カリジラ、6:EM2061、7:バスマティ、8:C70、9:IR2061、10:IR36、11:こがねもち、12:はくちょうもち、13:滋賀羽二重糯、14:コシヒカリ、15:ひとめぼれ、16:あきたこまち、17:日本晴、18:金南風、19:夢十色、20:イラボン、21:国宝ローズ、22:JIF25、23:JIF30、24:JIF41、25:JIF42、26:テキサマティ 27:タムソアン、28:カサラス、29:WITA7、30:WITA239を示し、MはDNA分子量マーカー(和光純薬工業 Marker4)を示す。一方、図9(B)中、1:こがねもち、2:滋賀羽二重糯、3:はくちょうもち、4:コシヒカリ、5:ひとめぼれ、6:日本晴、7:初星、8:ヤマヒカリ、9:アキニシキ、10:むつほまれ、11:きらら397、12:カオドクマリ、13:テキサマティ、14:マスリ、15:カリジラ、16:タムソアン、17:バスマティ、18:RD21、19:夢十色、20:カサラス、21:RD23、22:アルボリオ、23:台中65号、24:C70、25:バッカー、26:国宝ローズ、27:エリオ、28:カルリソ、29:WITA7、31:ルアンプラトー、32:フジヒカリ、33:チヨニシキを示し、MはDNA分子量マーカー(和光純薬工業 Marker4)を示す。
図10において、(A)〜(D)の各行は、それぞれ実施例5、実施例6、実施例7及び実施例8の結果を示す。また、a及びbの各列は、それぞれの実施例における、検量線作成用の各品種の試料米を用いて作成した散布図、及び未知試料米から作成した散布図を示す。
図12において、下線部分は、良食味米と低食味米との配列の相違部分を示す。
図13及び図14において、下線部分は、粘りの強い米と粘りの弱い米との配列の相違部分を示し、四角で囲った部分は共通部分を示す。
図15において、上段はDDBJのデンプン枝作り酵素の塩基配列部分を、下段はSBEにより増幅したDNAの塩基配列を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、米のDNA食味推定方法に関し、詳しくは、多種類の品種かつきわめて少量の試験米を対象として、迅速かつ精度良く食味を推定する試料米の食味を、試料が少量であっても精度良く推定するための米のDNA食味推定方法、該方法を利用して1粒の試料米を有効活用することができる半粒良食味米の選抜技術、該食味推定方法を実施するために有用であると共に日本型米とインド型米の識別にも有用なプライマー・セット、並びに該プライマー・セットを用いた日本型米とインド型米の識別方法を提供することを目的とする。
【背景技術】
【0002】
従来、米の食味評価は、官能検査と物理化学的測定によって行われてきた。
官能検査の分野では、試食者の選抜や訓練の必要性が要求されると共に、動的官能検査法、2点比較法、分析型官能検査法等の進歩が見られた。
一方、物理化学測定の分野では、澱粉の微細構造や蛋白質の組成等が食味に関係するとの報告がなされ、酵素活性や細胞壁構造等の新しい食味要因の提案もされている。また、米飯物性や糊化特性の機器分析のための測定装置も改良されており、分光測定装置や味認識装置等が登場してきた。
しかし、これらの食味評価方法は、少なくとも数十グラム、通常は数百グラムの試料を必要とするため、育種初期の段階や流通加工の末端段階のように、多種類の米を対象に、きわめて少量の試料米で食味判別するには適していない。さらに、一粒の試料米で食味を推定する技術が必要とされている。
【0003】
本発明者らは、これまでに、各種の試料米の遺伝子を抽出し、適正なプライマー共存下でPCRを行うことにより、米の品種判別が可能であることを報告してきた(非特許文献1参照)。また、これらの品種判別に有用なプライマーを用いるPCR結果を2値化して変数とし、重回帰分析することによって、米の食味の判別がある程度可能であることを報告してきた(非特許文献2参照)。
しかしながら、これまでの方法は、品種判別用に開発してきたプライマーを用いたPCRの結果を解析したものであり、米の食味要因との関係が明確ではなかった。
【0004】
最近、世界各国でDNAマーカーが分子育種に利用されるようになっており、米国やタイでは、香り米の香り成分に関係するDNAマーカーが開発され、PCR法による香り米の選抜が行われている(非特許文献3参照)。
しかし、米の食味の主要な要因は、香りよりは米飯の硬さや粘り、味などであるとされており、これらの主要要因に関係するPCR用プライマーの開発と米の食味推定技術の開発が必要とされている。
また、米の食味には、澱粉、タンパク質等の主要成分含量やそれらの組成も関係しているとされている。そのため、米の主要な食味要因であるとされる澱粉やタンパク質の量や質に関係するプライマーを開発し、それらを用いたPCRの結果を利用して米の食味を推定することによる、従来に比べて画期的に優れた食味判別技術の開発が必要とされていた。
【0005】
【非特許文献1】大坪 研一ら,農化,vol.76,p388-397,2002
【非特許文献2】大坪 研一ら,食科工、vol.50,p122-132,2003
【非特許文献3】Garland,S.ら,Theor.Appl.Genet.,101,364-371,2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、遺伝子構造に基く品種特性の観点から、試験米がきわめて少量であっても、究極的にはたった1粒の試料であっても、また、どの品種であっても、迅速かつ精度良く食味を推定するための技術を提供することを目的とすると共に、米の主要な食味要因であるデンプンやタンパク質の量や質に関係するDNAを効率良く増幅させることができ、前記食味推定技術を実施するために有用なプライマーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者らは鋭意検討を重ね、その過程で、様々な品種の米の、デンプン合成酵素やタンパク質組成に関係するDNAを比較して、デンプン合成酵素やタンパク質組成に関連する数種のプライマーを開発した。そして、これらのプライマーを組み合わせてPCRを行ったところ、米の食味に関連する特性と正又は負の相関関係を有する識別用増幅DNAを増幅することが明らかとなった。
また、該識別用増幅DNA出現の有無と、試料米の実際の食味関連特性との間で多変量解析すると、より精度の高い食味の推定を行うことができることが明らかとなった。
更に、多変量解析の結果、食味関連特性を目的とする食味推定式を確立すれば、任意の試料米について前記プライマーを用いたPCRを行い、その結果としての識別用増幅DNAの有無を該食味推定式に代入することにより、食味を推定できることが明らかとなった。
【0008】
そして、米の主要な食味要因であるデンプンやタンパク質の量や質は、米の食味に強く関わっていることから、日本型米とインド型米との間で、デンプンやタンパク質に関連する遺伝子を調べたところ、両者に変異部分が存在することが明らかとなった。そこで、上記のデンプン合成酵素やタンパク質組成に関連する数種のプライマーについて、日本型米とインド型米の各種試料米DNAを鋳型とするPCRを行うと、両者に特徴的な変異部分が観察されたことから、日本型米とインド型米の識別にも有用であることが明らかとなった。
従って、デンプン合成酵素やタンパク質組成に関連する数種のプライマーは、食味推定用、かつ日本型米とインド型米の識別用のプライマー・セットとして有用性が高いことが判明した。
本発明者らは、係る知見に基き本発明に到達した。
【0009】
請求項1記載の本発明は、米のデンプン合成酵素遺伝子に関係するプライマーを1種類又は2種類以上用いて試料米DNAを鋳型として行うPCRの結果及び/又は米のタンパク質組成に関係するプライマーを1種類又は2種類以上用いて試料米DNAを鋳型として行うPCRの結果に基づいて米の食味を推定することを特徴とする米のDNA食味推定方法。
請求項2記載の本発明は、米のデンプン合成酵素遺伝子が、デンプン粒結合型デンプン合成酵素遺伝子、可溶性デンプン合成酵素遺伝子、デンプン枝作り酵素遺伝子、及びデンプン枝切り酵素遺伝子のうちの1種類又は2種類以上である請求項1記載の米のDNA食味推定方法である。
【0010】
請求項3記載の本発明は、SBE(配列表の配列番号24に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号25に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、GBSS3(配列表の配列番号10に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号11に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、GBSS4(配列表の配列番号13に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号14に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、NSS II(配列表の配列番号7に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号8に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、NSS I(配列表の配列番号2に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号3に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号4に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号5に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、DBE−J(配列表の配列番号19に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号20に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号21に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号22に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、DBE−I(配列表の配列番号15に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号16に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号17に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号18に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、NK4(配列表の配列番号26に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号27に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号28に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号29に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、及びM1A(配列表の配列番号30に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号31に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号32に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号33に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)である、請求項1又は2記載の米のDNA食味推定方法である。
【0011】
請求項4記載の本発明は、米のタンパク質組成が、グルテリン及び/又はプロラミンである請求項1〜3のいずれかに記載の米のDNA食味推定方法である。
請求項5記載の本発明は、米のタンパク質組成に関係するプライマーが、Pro13(配列表の配列番号40に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号41に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、Pro10(配列表の配列番号35に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号36に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号37に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号38に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、Pro13FN(配列表の配列番号42に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号43に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、及びGlu(配列表の配列番号44に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号45に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号46に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号47に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)である請求項1〜4のいずれかに記載の米のDNA食味推定方法である。
【0012】
請求項6記載の本発明は、PCRの結果に基づく米の食味の推定にあたり、食味関連特性と正或いは負の相関を示す識別用増幅DNAのPCRによる出現の有無を2値化して変数とし、多変量解析によって食味を推定することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の米のDNA食味推定方法である。
請求項7記載の本発明は、多変量解析の際にあたり、試料米の食味関連特性を目的変数とし、識別用増幅DNA出現の有無を2値化したものを説明変数として食味関連特性を目的とする食味推定式を作成し、該食味推定式を利用して試料米の食味を推定することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の米のDNA食味推定方法である。
【0013】
請求項8記載の本発明は、試料米が籾或いは玄米であり、試料籾或いは玄米を短軸方向に半裁し、その胚芽を含まない側の半粒から抽出したDNAを試料米DNAとして食味を推定することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の米のDNA食味推定方法である。
請求項9記載の本発明は、請求項8に記載の食味推定方法により選抜された良食味系統の籾、あるいは玄米の胚芽を含む側の半裁種子を播種して次世代稲を育成することを特徴とするDNAによる半粒良食味米の選抜技術である。
【0014】
請求項10記載の本発明は、SBE(配列表の配列番号24に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号25に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、GBSS3(配列表の配列番号10に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号11に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、GBSS4(配列表の配列番号13に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号14に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、NSS II(配列表の配列番号7に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号8に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、NSS I(配列表の配列番号2に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号3に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号4に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号5に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、DBE−J(配列表の配列番号19に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号20に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号21に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号22に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、DBE−I(配列表の配列番号15に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号16に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号17に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号18に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、NK4(配列表の配列番号26に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号27に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号28に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号29に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、M1A(配列表の配列番号30に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号31に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号32に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号33に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、Pro13(配列表の配列番号40に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号41に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、Pro10(配列表の配列番号35に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号36に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号37に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号38に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、Pro13FN(配列表の配列番号42に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号43に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、及びGlu(配列表の配列番号44に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号45に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号46に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号47に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)からなる群のうちの1種類、あるいは2種類以上のプライマーを用いて試料米DNAを鋳型としたPCRを行い、日本型米とインド型米とを識別する方法である。
【0015】
請求項11記載の本発明は、SBE(配列表の配列番号24に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号25に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、GBSS3(配列表の配列番号10に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号11に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、GBSS4(配列表の配列番号13に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号14に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、NSS II(配列表の配列番号7に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号8に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、NSS I(配列表の配列番号2に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号3に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号4に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号5に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、DBE−J(配列表の配列番号19に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号20に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号21に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号22に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、DBE−I(配列表の配列番号15に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号16に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号17に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号18に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、NK4(配列表の配列番号26に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号27に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号28に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号29に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、M1A(配列表の配列番号30に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号31に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号32に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号33に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、Pro13(配列表の配列番号40に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号41に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、Pro10(配列表の配列番号35に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号36に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号37に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号38に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、Pro13FN(配列表の配列番号42に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号43に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、及びGlu(配列表の配列番号44に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号45に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号46に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号47に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)からなる群のうちの1種類、あるいは2種類以上の組み合わせからなるプライマー・セットである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、DNAを用いて育種選抜の初期段階から試料米の食味を精度良く推定することが可能となる。
特に、試料米がごく少量であっても食味を推定することが可能となるので、官能検査や物理化学的測定などの従来の食味判別技術で必要とされてきた試料の量についての問題を解決することができる。
特に、試料米が籾あるいは玄米半粒やそれ以下であっても適用可能であるので、胚芽を含まない側の半裁種子について食味推定を行って良食味系統を選抜し、胚芽を含む側の半裁種子を播種して効率良く次世代稲を育成することが可能となり、育種の分野における有用性が期待される。
本発明により、米の食味関連要因に対し正又は負の相関関係を示す識別用増幅DNAを効率良く出現させることのできるプライマー・セットが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の米のDNA食味推定方法は、請求項1に記載するように、米のデンプン合成酵素遺伝子に関係するプライマーを1種類又は2種類以上用いて試料米DNAを鋳型として行うPCRの結果及び/又は米のタンパク質組成に関係するプライマーを1種類又は2種類以上用いて試料米DNAを鋳型として行うPCRの結果に基づいて米の食味を推定することを特徴とする。
すなわち、(1)米のデンプン合成酵素遺伝子に関係するプライマーを1種類又は2種類以上用いて試料米DNAを鋳型として行うPCRの結果のみを用いて米の食味を推定する場合、(2)米のタンパク質組成に関係するプライマーを1種類又は2種類以上用いて試料米DNAを鋳型として行うPCRの結果に基いて米の食味を推定する場合、及び、(3)米のデンプン合成酵素遺伝子に関係するプライマーを1種類又は2種類以上用いて試料米DNAを鋳型として行うPCRの結果と、米のタンパク質組成に関係するプライマーを1種類又は2種類以上用いて試料米DNAを鋳型として行うPCRの結果とを組み合わせて米の食味を推定する場合、の3通りに分類される。
【0018】
ここで、PCRとは、Polymerase Chain Reactionを指し、鋳型であるDNAを、約94℃の高温で加熱して1本鎖に分離する工程(変性)、プライマーを加えて約36℃〜約72℃で反応させて、当該DNAとプライマーとを結合させる工程(アニーリング)、及び約72℃でDNAポリメラーゼを作用させ、プライマー結合部位から当該DNAを合成・伸長させる工程(伸長)の3つの工程からなる反応を指す。
PCRを実施する際には、通常の市販の装置を用いることができる。例えば、タカラバイオ、ABI、パーキンエルマー、アステック、ストラタジーン、イワキガラス等の各社の製造するサーマルサイクラーを用いることができる。
【0019】
試料米DNAとは、DNA食味推定の対象である試料米に由来する2本鎖DNAであり、上記PCRの鋳型として用いられる。試料米からのDNAの抽出・精製方法としては、試料米である籾、玄米、精米、精米粉、発芽玄米、米飯、餅、米菓等から通常のセチルアンモニウムブロミド(CTAB)法、アルカリフェノール法、市販キット法、酵素法(特許第3048149号)等を挙げることができる。
【0020】
プライマーとは、前述のPCRにおいて、鋳型である試料米DNAに相補的に結合する1対のDNA断片のことであり、本発明においては、米のデンプン合成酵素に関係するプライマーや、米のタンパク質組成に関係するプライマーを用いる。
ここで、米のデンプン合成酵素とは、米に含まれるデンプンの合成に関与する種々の酵素を指す。中でも、デンプン粒結合型デンプン合成酵素、可溶性デンプン合成酵素、デンプン枝作り酵素、及びデンプン枝切り酵素が作用することにより、デンプンのアミロース含量やアミロペクチンの鎖長分布が決定され、デンプン特性や米飯物性に強く影響を与えると考えられていることから、本発明においては、米のデンプン合成酵素に関係するプライマーとして、これらの酵素のうちの1種類又は2種類以上に関係するものを用いることが好ましい。
【0021】
デンプン粒結合型デンプン合成酵素(Granule bound starch synthase、GBSS)とは、デンプン粒に結合して存在し、α−1,4グリコシド結合を伸長することによって、アミロース含量を増加させたり、アミロペクチンの長鎖を伸ばす酵素である。可溶性デンプン合成酵素(Soluble starch synthase、SS)は、細胞質に存在する可溶性酵素であり、デンプン粒結合型デンプン合成酵素と同様に、α−1,4グリコシド結合を伸長することによってアミロペクチンの長鎖を伸ばす酵素である。デンプン枝作り酵素(Starch branching enzyme、SBE)は、α−1,6結合を作ることによってアミロペクチンの分岐を作る酵素である。デンプン枝切り酵素(Starch debranching enzyme、DBE)とは、デンプン枝作り酵素とは逆に、α−1,6グリコシド結合を切断することによってアミロペクチンの分岐を減らす酵素である。
【0022】
本発明において、米のデンプン合成酵素に関係するプライマーとは、上述したような米のデンプン合成酵素をコードする遺伝子の少なくとも一部に対し高いホモロジーを示し、かつ、試料米DNAと結合して後述の識別用増幅DNAの有無を容易に検出させるようなプライマーを意味する。
米のデンプン合成酵素をコードする遺伝子については、文献やデータベース(例えば、T.Babaら:Plant Physiol.103,565-573,1993;Y.Nakamuraら:Starch,54,117-131,2002;H.Francesら:Plant Mol.Biol.,8,407-415,1998;P.B.Franciscoら:Biochim.Biophys.Acta.87,469-477,1998;L.Youら:NCBI ACCESION L36605,1994等)に記載されているものを利用することもできる。
【0023】
このような米のデンプン合成酵素に関係するプライマーとして、具体的には、SBE(配列表の配列番号24に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号25に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、GBSS3(配列表の配列番号10に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号11に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、GBSS4(配列表の配列番号13に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号14に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、NSS II(配列表の配列番号7に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号8に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、NSS I(配列表の配列番号2に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号3に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号4に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号5に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、DBE−J(配列表の配列番号19に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号20に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号21に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号22に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、DBE−I(配列表の配列番号15に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号16に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号17に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号18に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、NK4(配列表の配列番号26に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号27に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号28に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号29に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、及びM1A(配列表の配列番号30に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号31に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号32に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号33に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)が挙げられる。SBEはデンプン枝作り酵素の部分塩基配列(配列表の配列番号23参照)に、GBSS3及びGBSS4はデンプン粒結合型デンプン合成酵素の部分塩基配列(GBSS3については配列表の配列番号9、GBSS4については配列表の配列番号12参照)に、NSS IIは可溶性デンプン合成酵素IIの部分塩基配列(配列表の配列番号6参照)に、NSS Iは可溶性デンプン合成酵素Iの部分塩基配列(配列表の配列番号1参照)に、DBE−J及びDBE−Iはデンプン枝切り酵素の塩基配列に、NK4及びM1Aはその他のデンプン合成酵素遺伝子に、それぞれ関係するプライマーである。これらのプライマーの設計をどのようにして行ったかについては、実施例1にて後述する。
【0024】
一方、米のタンパク質組成に関係するプライマーとは、米の主要貯蔵タンパク質であるプロラミンやグルテリン等をコードする遺伝子の少なくとも一部に対し高いホモロジーを示し、かつ、試料米DNAと結合して後述の識別用増幅DNAの有無を容易に検出させるようなプライマーを意味する。
米のタンパク質をコードする遺伝子については、文献やデータベース(例えば、L.Youら、NCBI ACCESSION L36605(1994))、S.Shaら、NCBI ACCESSION D63901(2002)、H.Washidaら、Plant Molecular Biology,40,1-12,1999等)に記載されているものを利用することもできる。
米のタンパク質組成に関係するプライマーとして、具体的には、Pro13(配列表の配列番号40に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号41に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、Pro10(配列表の配列番号35に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号36に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号37に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号38に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、Pro13FN(配列表の配列番号42に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号43に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、及びGlu(配列表の配列番号44に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号45に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号46に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号47に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)が挙げられる。Pro13及びPro13FNは分子量13kDaのプロラミンの塩基配列(配列表の配列番号39参照)に、Pro10は分子量10kDaのプロラミンの塩基配列(配列表の配列番号34参照)に、Gluはグルテリンに、それぞれ関係するプライマーである。これらのプライマーの設計をどのようにして行ったかについては、実施例1にて後述する。
【0025】
また、本発明においては、上記具体例として示した米のデンプン合成酵素に関係するプライマーや米のタンパク質組成に関係するプライマーの他にも、品種判別用のプライマーとして表1に示すB43(配列表の配列番号48に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号49に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、WK9A(配列表の配列番号50に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号51に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、M11(配列表の配列番号53に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号53に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、P5(配列表の配列番号54に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号55に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、G22(配列表の配列番号56に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号57に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、F6(配列表の配列番号58に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号59に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、S13F(配列表の配列番号60に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号61に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、E30(配列表の配列番号62に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号63に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)及びJ6(配列表の配列番号64に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号65に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)のものを用いることができる。
【0026】
【表1】
【0027】
本発明において、米のデンプン合成酵素遺伝子に関係するプライマーや、米のタンパク質組成に関係するプライマーを1種類又は2種類以上適宜組み合わせて用いることができ、品種識別用プライマーも適宜組み合わせて用いることができる。特に、アミロース含量、米飯物性等の食味特性は、複数の遺伝子の制御を受ける可能性が高いことから、米のデンプン合成酵素遺伝子に関係するプライマー及び米のタンパク質組成に関係するプライマーについては2種類以上を組み合わせて用いることが好ましい。尚、本発明において、上記各種のプライマーを複数組み合わせて用いる場合は、それらを混合して1回のPCRで行うこともできるが、識別用増幅DNAの出現の有無を明確に確認できる点で、各プライマーごとにPCRを行うことが好ましい。
【0028】
本発明において、実際にどのプライマーを用いるかについては、食味推定の際に参照する食味関連特性によって定められる。すなわち、任意の食味関連特性に正又は負の相関関係を有する識別用増幅DNAを効率良く増幅させることのできるプライマーを選択して用いる。
例えば、アミロース含量の推定を行う場合には、デンプン合成酵素に関係するプライマーとしてNSS II、NSS I、及びDBEの3種類のプライマー、米のタンパク質組成に関係するプライマーとしてPro13及びGluの2種類のプライマー、並びに、P5、E30、及びS13の3種類のプライマーを組み合わせて用いることができる。
タンパク質含量の推定を行う場合には、デンプン合成酵素に関係するプライマーとしてNSS II及びM1A、米のタンパク質組成に関係するプライマーとしてGlu、品種識別用プライマーとしてJ6を組み合わせて用いることができる。
米飯物性の推定を行う場合には、デンプン合成酵素に関係するプライマーとしてNK4、米のタンパク質組成に関係するプライマーとしてPro13及びGlu、並びに、品種識別用プライマーとしてP5、B43、M11及びG22を組み合わせて用いることができる。また、デンプン合成酵素に関係するプライマーとしてDBE−I、NSS II、GBSS3、GBSS4及びSBE、米のタンパク質組成に関係するプライマーとしてPro10及びGluを組み合わせて用いることもできる。更に、デンプン合成酵素に関係するプライマーとしてDBE−I、NSS II、GBSS3、GBSS4及びSBEを組み合わせて用いることもできる。
精米粉糊化特性のうちコンシステンシーの推定を行う場合には、デンプン合成酵素に関係するプライマーとしてGBSS4、DBE−I、M1A、及びSBE、米のタンパク質組成に関係するプライマーとしてPro13FN及びGlu、並びに、品種識別用プライマーとしてG22、S13及びWK9Aを組み合わせて用いることができる。
【0029】
本発明のDNA食味推定方法においては、上記したようなPCRの結果に基づいて米の食味を推定する。
特に、食味関連特性と正或いは負の相関を示す識別用増幅DNAのPCRによる出現の有無を2値化して変数とし、多変量解析によって食味を推定すると、食味をより精度良く推定することができる点で好ましい。
すなわち、上記PCRを行った後に、識別用増幅DNAが出現した場合を1、出現しなかった場合を0として2値化して、これを多変量解析による処理の変数として使用して食味を推定することが好ましい。
【0030】
食味関連特性とは、米の食味に影響を与える特性を意味し、官能検査や物理化学的測定によって客観的に定められるものが好ましい。具体的には、わが国の消費者の嗜好と比較的相関が高い点で、アミロース含量、タンパク質含量、米飯物性測定値(L3)及び精米粉糊化特性値(コンシステンシーなど)のいずれかであることが好ましい。識別用増幅DNAが具体的にどの食味関連特性に対して正又は負の相関を示すかは、用いるプライマーによって異なる。
【0031】
多変量解析とは、重回帰分析、クラスター分析、主成分分析、非線形回帰分析等を指す。
一般に、回帰分析は、説明したいある1つの変数と、その現象の原因となっていると思われる特性(例えば、食味関連特性)との間に、因果関係があると仮定して表現した数式モデルを用いる分析である。原因を表す変数(本発明の場合、食味関連特性)を説明変数と呼び、食味などの結果を表す変数を目的変数と呼び、説明変数も目的変数も量的変数を用いる。説明変数と目的変数の関係を直線で表す回帰分析を線形回帰といい、曲線で表す場合を非線形回帰という。一般的に、「回帰分析」といえば前者の線形回帰を指し、EXCEL、SPSSといった標準的な統計ソフトウエアでも扱える。
【0032】
重回帰分析の場合は、まず、ある試料米の食味関連特性を目的変数とし、該試料米について上記PCRを行いその結果としての識別用増幅DNA出現の有無を2値化したものを説明変数として食味関連特性を目的とする食味推定式を作成する。そして、該食味推定式を利用して、別の試料米(食味関連特性が未知)のPCRの結果としての識別用増幅DNAの有無を説明変数として上記食味推定式に代入し、食味関連特性の予想値を算出すると共に、食味推定式の適用性を検定する。
具体的に説明すると、以下のとおりである。
【0033】
まず、食味関連特性を目的とする食味推定式を作成する。食味推定式とは、重回帰式の一種である。その原理を説明すると、例えば、下記式(I):
(数1)
y=a×x ・・・(I)
〔式(I)中、yは食品物性値、aは変換係数、xは食味関連特性の測定値を表す。〕
で表されるように、食味関連特性の測定値(例えば、糊化測定値)に一定の係数を乗じて食味推定の基準としての食品物性値を得ることを可能とするものである。
また、下記式(II):
(数2)
y=a1×x1+a2×x2−a3×x3+a0 ・・・(II)
〔式(II)中、yは食品物性値、a1、a2及びa3はそれぞれ変換係数、a0は定数項、x1、x2及びx3はそれぞれ糊化測定値である。〕
で表されるように、複数の糊化測定値を加減乗除することにより食味推定の基準としての食品物性値を得ることを可能とするものである。
さらに、下記式(III):
(数3)
y=a1×x1+a2×x2+a3×x3+a0 ・・・(III)
〔式(III)中、yは食品物性値、a1、a2及びa3は偏回帰係数、a0は定数項、x1、x2及びx3はそれぞれ糊化特性値である。a1、a2及びa3の偏回帰係数は、最小2乗法により、実測値と推定理論値の差の総和を示す残差2乗和を最小にするように決定される数値である。〕
で表されるように、食品物性値を目的変数とし、糊化特性値を説明変数として重回帰分析を行うことにより、食味推定の基準としての食品物性値を、各糊化特性値の線形回帰式として表現することを可能とするものである。
【0034】
ここで、本発明では、特定のプライマーによるPCRを行った結果の識別用増幅DNA出現の有無が、実際の食味関連特性(上記式(I)〜(III)の場合は、糊化特性値)と正又は負の相関を示すことに基き、そのようなプライマーに由来する識別用増幅DNA出現の有無を2値化したもの(すなわち、識別用増幅DNAが出現した場合は1、出現しない場合は0)を、説明変数(x1、x2及びx3)とするものである。
従って、食味推定式の作成は、まず、実際の食味関連特性と正又は負の相関を示す特定のプライマーを特定し、次に食味関連特性を実際に予め測定しておいた試料米について、上記各プライマーによるPCRを行って識別用増幅DNA出現の有無を二値化し、最小2乗法により、食味関連特性の実測値と推定理論値(識別用増幅DNA出現の有無を二値化したもの)の差の総和を示す残差2乗和を最小にするようにa1、a2及びa3の偏回帰係数、及び定数項a0を求めて行うことができる。
【0035】
この食味推定式の有用性は、散布図を作成し、重相関係数を算出したりすることにより判断することができる。
散布図とは、食味試験結果や米飯物性等の食味関連特性(目的変数)を縦軸に、2値化したPCRの結果を食味推定式に当てはめて算出した値を横軸にプロットし、散布図を作成し、散布図中にプロットした点からの距離の2乗和が最小となるように計算した(すなわち、食味推定式を表す)直線(検量線)を記入したものである。検量線とプロットが一致すれば正の相関が高く、図全体にプロットが点在すれば相関が低いということになる。
重相関係数は高いほうが相関が高く、低い方が相関が低いこととなる。
こうして作成した食味推定式を利用して未知試料米(食味特性関連が未知)の食味の推定を行う場合、例えば食味推定式がy=2x+3であるとすると、PCRの結果識別用DNAが出現した場合は、説明変数xが1なので、y=2×1+3=5となり、一方、PCRの結果識別用DNAが出現しなかった場合は、PCR結果が0なので、y=2×0+3=3となる。
【0036】
一方、クラスター分析とは、前記したPCRによる識別用増幅DNA出現の有無を2値化したものを説明変数として、類似性の高いもの同士をグループ分けする手法である。すなわち、まず、試料米毎にいくつかの変量に対する数値が与えられたデータ表から、まず個体間の類似性を表す距離行列を作成し、この距離行列を基に、最短距離にある試料米あるいはクラスター(群)同士を統合する。統合するたびに距離行列は変化するが、常に最短距離にあるクラスター同士を統合していく。最後に全ての個体は統合されて1つのクラスターにまとめられ、階層を示すツリーが作成される。このようなクラスター分析の理論としては、石原らの理論(石原辰雄ら:Lotus 1−2−3活用多変量解析,共立出版,東京,pp.228-264,1992)を挙げることができる。
【0037】
また、主成分分析とは、統計的なデータ解析に基づき、対象とする変量群の中から、群全体の特徴を表す典型的な指標、すなわち主成分をある内的基準に基づいて見いだす手法である。この分析により、多くの変量(すなわち、本発明の場合、様々なプライマーを用いた場合のPCRによる識別用増幅DNA出現の有無)を集約して少数の代表的な数量にしたり、変量間に存在する関係を明らかにすることができる。
尚、多変量解析の一連の計算は、Excel2000の統計ソフトウエア(Excel多変量解析(エスミ))、ロータス多変量解析ソフト(オードメイン社)、SPSS(SPSS社)、StatView多変量解析(オーエムエス出版)、JUSE−StatWorks/V4.0 MA多変量解析セレクト(日科技研)等を利用して行うことができる。
【0038】
本発明において、試料米が籾或いは玄米の場合は、試料籾或いは玄米を短軸方向に半裁し、その胚芽を含まない側の半粒から抽出したDNAを試料米DNAとして食味を推定することもできる。ここで、短軸方向に半裁とは、籾または玄米の短径方向(背側から腹側へ、または腹側から背側へ)に切断することを意味する。
この場合、胚芽を含む側の半裁種子を播種して次世代稲を育成することにより、半粒良食味米を効率良く選抜することができる。すなわち、米の食味の官能検査結果や物理化学的測定結果の望ましい系統、すなわち多くの試食者に好まれる食味の米系統を選抜することを指す。
播種して次世代植物を育成する際には、次亜塩素酸ソーダ等による表面殺菌と吸水を行った後に培養土等に播種して育てても良いし、胚芽を含む半裁種子を殺菌した後、アミノ酸やミネラル等の栄養成分を含むアルギン酸ソーダやグアーガム等の含水ゲルに置床し、人工気象器を用いて出芽・苗立ちさせた後に移植して栽培しても良い。
次世代植物を育成後、半粒良食味米を選抜するには、交配した雑種後代の種子からDNAを抽出・精製して鋳型とし、前述した本発明の食味推定方法を利用することができる。
【0039】
玄米半粒、あるいは籾半粒を用いて良食味米の育種・選抜を行うには次のようにする。すなわち、常法に従って約40℃の温湯に浸漬して除雄した母本に花粉親の花粉を受粉させた後、ポット栽培等で雑種第一代の種子を得る。これらの種子の籾または玄米の胚芽を含む部分と含まない部分とに半裁し、胚芽を含まない側の玄米/籾の半粒を乳鉢ですりつぶし、上述したCTAB法等によりDNAを抽出して試料米DNAとする。
【0040】
この試料米DNAを、上述したように各種のプライマー共存下でPCRに供し、その結果に基づいて米の食味を推定し、良食味であると推定された種子を選抜する。
このようにして選抜された種子の胚芽を含む半粒を上記した方法に従って播種、発芽、移植、生育させた後、成熟種子を得ることができる。このようにして得られた雑種第二代の良食味系統を自殖を重ねて固定化し、籾または玄米半粒から良食味米を選抜育成することができる。
【0041】
一方、上述したSBE、GBSS3、GBSS4、NSS II、NSS I、DBE−J、DBE−I、NK4、M1A、Pro13、Pro10、Pro13FN、及びGluからなる群のうちの1種類、あるいは2種類以上のプライマーは、食味推定以外の用途にも用いることができる。
まず、試料米が日本型米及びインド型米のいずれであるかを識別するために利用することができる。
すなわち、上記のプライマー、特に、Glu、DBE−J及びDBE−Iを用いて、試料米DNAを鋳型としたPCRを行うことにより、日本型米とインド型米とを識別することができる。
【0042】
また、上述のプライマーのうち、Pro13は、コシヒカリなどの良食味米と朝の光や月の光といった低食味米との識別のために用いることができる。すなわち、Pro13を用い、良食味米と低食味米の各試料米DNAを鋳型としたPCRを行い、増幅したDNAのうち良食味米と低食味米とで相違する塩基配列部分から良食味米及び低食味米の識別用プライマー(セット)を設計し、該プライマーを用いて未知試料米の試料米DNAを鋳型としたPCRを行うことにより、良食味米と低食味米とを識別することができる。このような良食味米及び低食味米の識別用プライマー(セット)としては、実施例11に示すように、良食味米であるコシヒカリと朝の光や月の光その他の低食味米とを識別するためのPro13Koshiを挙げることができる。
【0043】
更にまた、上述のプライマーのうち、M1Aは、こがねもちなどの粘りの強い米ときらら397のような粘りの弱い米との識別のために用いることができる。すなわち、M1Aを用い、粘りの強い米と粘りの弱いの各試料米DNAを鋳型としたPCRを行い、増幅したDNAのうち粘りの強い米と粘りの弱い米とで相違する塩基配列部分から粘りの強い米及び粘りの弱い米の識別用プライマー(セット)を設計し、該プライマーを用いて未知試料米の試料米DNAを鋳型としたPCRを行うことにより、粘りの強い米と粘りの弱い米とを識別することができる。このような粘りの強い米及び粘りの弱い米の識別用プライマー(セット)としては、実施例12に示すように、粘りの強い米であるこがねもちときらら397のような粘りの弱い米とを識別するためのM1AKoganeを挙げることができる。
【0044】
以下、本発明の実施例を示して本発明を詳しく説明するが、本発明は、これらによって限定されるものではない。
【実施例1】
【0045】
本実施例においては、識別用増幅DNAをもたらすプライマーについて検討を加えた。すなわち、米の食味関連特性と関係の期待される識別用増幅DNAを増幅するプライマーの開発を行った。
(1)米試料の品種
米試料は、日本型(ジャポニカ)米(温帯ジャポニカ、熱帯ジャポニカ)、インド型(インディカ)米、及び日印交雑種のそれぞれを数品種ずつ用いた。
温帯ジャポニカとしては、台中65号、スイートライス(Sweet Rice)、滋賀羽二重糯、こがねもち、はくちょうもち、ヒノヒカリ、ひとめぼれ、コシヒカリ、あきたこまち、きらら397、初星、ヤマヒカリ、アキニシキ、むつほまれ、フジヒカリ、チヨニシキ、金南風、日本晴、Ilpum、カルモチ(Calmochi)101、中粒米(Medium grain)、長粒米(Long grain)、Forbidden Rice、ペルデ(Pelde)、カイーマ(Kyeema)、ドーンガラ(Doongara)、パエリア(Paellea rice)、イラボン(Illabong)、国宝ローズ、田牧米、バッカー(Vaccah)、カルリソ(Calriso)、朝の光、LGC−1、ニホンマサリ、月の光及び一品を用いた。
熱帯ジャポニカとしては、エリオ(Elio)、カルナロリ(Carnaroli)、及びアルボリオ(Arborio)を用いた。
インド型米としては、EM2003、ジャスミンライス(Jasmin Rice)、カリジラ(Kalijira)、テキサマティ(Texmati)、マスリ(Masuri)、タムソアン(Tamxoan)、バスマティ(Basmati)、カサラス、WAB96、WITA7、WITA239、南京11号、IR36、IR2061−214、RD21、RD23、ルアンプラトー及び黒米(forbidden rice)を用いた。
日印交雑種としては、夢十色、ホシユタカ、サリークイーン(Salyee queen)、JIF25、JIF30、JIF41、及びJIF42を用いた。
尚、日印交雑種のうち、夢十色及びカサラスは、インディカ亜種(インド型米に極めて近い特性を示す日印交雑種)として分類されることもある。
【0046】
(2)DNAの調製方法(CTAB法)
前記(1)で示した各品種の精米を、粉砕器(イワタニ製ミルサーIFM−100、東京)によって粉砕して得た精米粉末試料0.4gから、CTAB法によりDNAを抽出・精製した。
すなわち、DNAを精米粉末試料0.4g(2ml容の微量遠心チューブ)に対して2×CTAB液(2%セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)、20mM エチレンジアミン4酢酸(EDTA)、1.4M NaCl、0.1M トリスヒドロキシルアミノメタン/塩酸緩衝液(トリス緩衝液、pH8.0))0.6mlに、滅菌水0.2mlを加えた水溶液を加え、65℃で30分間抽出した。同液に等量のクロロホルム・イソアミルアルコール(24:1、v/v、CI)を加え、ローテーター(タイテック製TAITEC RT-50、東京)によって15分間、緩やかに攪拌した。次いで冷却遠心機(日立製、日立himac CR21F)によって8000g、15分間遠心分離し、上層を新しい微量遠心チューブに移した。これに10%CTAB液0.08mlと0.8mlのCIを加え、ローテーターで15分間緩やかに攪拌した後に、8000gで15分間遠心分離し、上層を新しいチューブに移した。この液に2.5倍容の沈殿用緩衝液(50mMトリス緩衝液、pH8.0、10mM EDTA、1%CTAB)を加え、−80℃で5分間静置し、沈殿を生成させた。沈殿を8000gで15分間の遠心分離で回収し、0.2M NaClを含むトリス・EDTA緩衝液(TE)0.5mlに溶解し、等量のイソプロピルアルコールを添加した。転倒混和した後、8000gで15分間遠心分離し、沈殿を回収した。沈殿を0.2mlのTEに溶解し、10mg/mlのRNAse(ニッポンジーン社製、牛膵臓RNAse A、10mg/ml)を1μl加え、55℃で1時間RNA分解を行った。
【0047】
処理後、等量の中性フェノールを加えて精製し、8000gで15分間遠心分離を行い、上層を新しいチューブに移した。これに等量のフェノール/クロロホルム(1:1、v/v)を加え、8000gで15分間遠心分離を行い、上層を新しいチューブに移した。これに0.2MのNaClと2倍容の氷冷エタノールを加えてDNAを沈殿させ、70%エタノール50μlで洗浄した後、30μlの10倍希釈TEで溶解し、鋳型DNAとした。
尚、外国産米で試料が極めて少ないものについては本発明者らの酵素法(大坪ら:特許第3048149号公報参照)によりDNAを調製した。
【0048】
(3)プライマーの設計
米の主要な食味要因であるとされる澱粉やタンパク質の量や質に関係すると見られるプライマー、すなわち、澱粉合成酵素に関係するプライマー、及びタンパク質組成に関係するプライマーの設計を試みた。
【0049】
まず、澱粉合成酵素に関係するプライマーとして、具体的には、GBSS3、GBSS4、NSS I、NSS II、DBE−J、DBE−I、NK4、M1A、及びSBEを以下のようにして設計した。ここで、GBSS3及びGBSS4はデンプン粒結合型デンプン合成酵素遺伝子(GBSS)、NSS I及びNSS IIは可溶性デンプン合成酵素遺伝子(NSS)、DBE−J及びDBE−Iはデンプン枝切り酵素(DBE)、SBEはデンプン枝作り酵素遺伝子(SBE)にそれぞれ関係するプライマーである。
GBSS3、GBSS4、及びNSS IIは、T.Babaらの文献(Plant Physiol.,103,565-573,1993)及びH.Francesらの文献(Plant Mol.Biol.,8,407-415,1998)に記載された澱粉合成酵素遺伝子の塩基配列内を、数個のブロックに分け、各ブロック毎にプライマーを設計し、各プライマーを用いてPCRを行った結果、増幅DNAに品種間差異の見いだされた塩基部分から設計したプライマーである。
【0050】
一方、NSS I、NK4、M1A及びSBEは、品種判別用に当研究室で開発したSTSプライマーであり、開発後に澱粉合成酵素との関係が示唆されたプライマーである。尚、SBEの開発及びデンプン枝作り酵素との関係については、実施例13において詳しく述べる。
【0051】
更に、DBE−J及びDBE−Iは、下記のようにして設計した。
すなわち、P.B.Franciscoらの報告したデンプン枝切り酵素(Biochim.Biophys.Acta,87,469-477,1998)の15241bpからなる領域を6個のブロックに分け、各ブロックごとにプライマーを設計し、各プライマーを用いてPCRを行った結果、増幅DNAに品種間差異の認められた部分を見いだした。次いでこの品種間差異の認められた部分、すなわち、識別性の高い領域(P.B.Franciscoらの報告した澱粉枝切り酵素(Biochim.Biophys.Acta,87,469-477,1998)の12204bp〜12690bpに相当する部分)内の変異を明らかにするため、朝の光、カサラス、こがねもち、コシヒカリ及び夢十色の5品種の試料米DNAを鋳型として当該識別性の高い領域を特異的に増幅するPCRを行った。クローニングを各試料米ごとに5クローンずつ行って、品種内での一塩基置換ではない部分で塩基配列を決定し、日本型米であるこがねもち及びコシヒカリ、インド型米であるカサラス、インディカ亜種である夢十色、並びに温帯ジャポニカである朝の光の双方に対し特徴的に相違する塩基配列部分で二次プライマーを設計した。
図1に、デンプン枝切り酵素遺伝子のうち識別性の高い領域における日本型米とインド型米の塩基配列の相違を示す。図1中の(A)は、調節遺伝子内の識別性の高い領域における相違を示し、(B)は、構造遺伝子内の識別性の高い領域における相違を示し、aは、DBE−Jのプライマー部分を、bはDBE−Iのプライマー部分を示す。
【0052】
次に、タンパク質組成に関係するプライマーとして、具体的には、Pro13、Pro10、Pro13FN、及びGluを以下のようにして設計した。Gluはグルテリンに、Pro13及びPro13FNは分子量13kDaのプロラミンに、Pro10は分子量10kDaのプロラミンに、それぞれ関係するプライマーである。
Pro10は、L.Youらの報告するプロラミンの遺伝子(NCBI ACCESSION L36605(1994))のうち36bp〜488bpからなる領域から設計したプライマーである。
また、Pro13及びPro13FNは、S.Shaらの文献(NCBI ACCESSION D63901(2002))に記載された米貯蔵タンパク質の遺伝子のうち、それぞれ塩基配列761bp〜1130bpの部分及び341bp〜1130bpの領域から設計したプライマーである。
【0053】
一方、Gluは、下記のようにして設計した。
すなわち、H.Washidaらの報告するグルテリン遺伝子(Plant Molecular Biology,40,1-12,1999)の調節遺伝子内M7を構成する塩基配列(tgcaaagt)から構造遺伝子までの620bpを一次プライマーとし、朝の光、IR2061−214、カサラス、コシヒカリ、LGC−1、ニホンマサリ、月の光、WITA 7及び夢十色の9種類の試料米のDNAを鋳型とするPCRを行った。得られるPCR産物について、上記DBEの場合と同様に、クローニングを各試料米ごとに5クローン行って、品種内での一塩基置換ではない部分で塩基配列を決定し、日本型米であるコシヒカリ、インド型米であるIR2061−214及びカサラス、インディカ亜種であるWITA 7及び夢十色、並びに温帯ジャポニカである朝の光、LGC−1、ニホンマサリ、及び月の光の双方に対し特徴的に相違する部分の調節遺伝子部分と構造遺伝子部分にかけての領域から、プライマーを設計した。
図2に、グルテリン遺伝子のうち識別性の高い領域における日本型米とインド型米の塩基配列の相違を示す。図2中の(A)は、調節遺伝子内の識別性の高い領域における相違を示し、(B)は、構造遺伝子内の識別性の高い領域における相違を示す。
尚、上記設計したプライマーにおいて、ロングプライマーセットとショートプライマーセットとの2種類があるものについては、以下の実施例において、Pro10についてロングプライマーセットを用いた他は、特に断らない限りショートプライマーセットを用いた。
【0054】
更に、本発明者らの報告(大坪 研一ら:食科工,50,122-132,2003)で使用された品種識別用プライマーの内の一部についても、上記のプライマーと組み合わせることができるかどうかを検討するために選択した。具体的には、G22、B43、J6、WK9A、M11、F6、P5、E30、及びS13である。これらの品種識別性については、先述の表1に示した通りである。
【0055】
(4)PCRによるDNAの増幅と多型の検出
前記(3)で設計されたプライマーを用いて、一方、前記(2)で抽出・調製された試料米DNAを鋳型としてPCRを行った。
すなわち、まず、鋳型DNA400ng/1μl、DNAポリメラーゼ(タカラバイオ製、Taq polymerase、5U/μl、大津)0.2μl、反応用緩衝液(12mM トリス塩酸、60mM KCl、pH8.3)2.0μl、dNTPs(100μM)2μl、25mM MgCl2 2μlの混合液に5pmole/μlのSTS化対合プライマー0.1〜0.6μlを加え、滅菌水によって総液量を20μlとした。各プライマーのPCR条件はプライマーによって異なるが、サーマルサイクラー(タカラバイオ製MP、大津)を用いて、96℃で1分間変性、50〜72℃で1分間アニーリング、72℃で2分間伸長というサイクルを35回繰り返した。
【0056】
増幅DNAを含む反応液15μlに、ローディング緩衝液(1mM EDTA、グリセリン30%、ブロモフェノールブルー0.25%、滅菌水69.5%)3μlを加え、2%アガロースゲル(ニッポンジーン製、Agarose S)にチャージし、電気泳動装置(コスモバイオ製ミューピッド、東京)を用いて直流電圧100Vで30分間泳動し、エチジウムブロミド(500ng/ml)で1時間染色後、紫外線照射してDNAバンドパターンを撮影した。DNA分子量マーカーは、Marker 4(和光純薬製、φX174ファージHaeIII)を使用した。
【0057】
(5)増幅DNAの切り出し、精製と塩基配列の決定
PCR後の電気泳動を行った2%SeaKem GTG agaroseから目的バンドを紫外線照射下で切り出し、3倍容のヨウ化ナトリウムによってDNAを溶出した後、ガラスビーズ吸着法(タカラバイオ製、EasyTrap ver.2、大津)によりDNAを回収した。そのDNAをトポクローニングキット(インビトロジェン製、TOPO XL Cloning Kit)を用いてライゲーションし、大腸菌に組み込んで37℃で18時間培養し、アルカリミニプレップ法(キアゲン製QIAprep Spin Miniprep kitを使用)によってDNAを抽出・精製した。
そのDNAをシークエンシング用キット(Applied Biosystems製、big Dye Terminator Cycle Sequencing Kit、V1-1)を用いて増幅し、自動シークエンサー(Applied Biosystems製370)によって塩基配列を決定した。
【0058】
(6)STS化プライマーによる各品種のPCR結果
各品種の精米試料から調製した鋳型DNAを用い、各種のSTS化プライマー単独あるいは複数のSTS化プライマーを組み合わせて反応液に共存させてPCRを行った結果を表2および図3〜図8に示す。図3〜図8中、レーンNo.1〜39は、1:EM2003、2:スイートライス、3:滋賀羽二重糯、4:ひとめぼれ、5:コシヒカリ、6:日本晴、7:イラボン、8:国宝ローズ、9:田牧米、10:バッカー、11:エリオ、12:カルナロリ、13:カルリソ、14:アルボリオ、15:ジャスミンライス、16:カリジラ、17:テキサマティ、18:マスリ、19:タムソアン、20:バスマティ、21:夢十色、22:ホシユタカ、23:サリークイーン、24:台中65号、25:こがねもち、26:ヒノヒカリ、27:あきたこまち、28:きらら397、29:一品、30:カルモチ101、31:中粒米、32:黒米、33:ペルデ、34:カイーマ、35:パエリア、36:長粒米、37:ドーンガラ、38:南京11号、39:IR2061−214の各試料米品種を示す。また、a〜uは、それぞれa:DBE−I、b:Glu、c:SBE、d:NSS II、e:Pro10、f:P5、g:NSS I、h:GBSS4、i:Pro13FN、j:J6、k:M1A、l:GBSS3、m:NK4、n:Pro13、o:WK9A、p:B43、q:M11、r:G22、s:F6、t:E30、u:S13の各プライマーを示す。更に、矢印は、a〜uの各プライマーに由来する識別用増幅DNAの出現部位を示す。
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
表2及び図3〜図8から明らかなように、各プライマーにより、品種間で識別用増幅DNAの有無を明確に観察できることが明らかとなった。
尚、上記図3〜図8のレーンNo.1〜24の試料米は検量線作成に、No.25〜39の試料米は未知試料として、後述の適用性検定に使用した。
【実施例2】
【0062】
上述したように、図3〜図8に示された39種類の試料米を利用して、実施例1で設計したプライマーと、試料米の食味関連特性との相関関係の存在の確認を行った。
(1)アミロース含量およびタンパク質含量の測定
試料米を試験用籾摺り機(サタケ製、THU−35A、東広島)によって籾摺りし、試験用精米器(ケット化学研究所製パーレスト、東京)で歩留まり90%に精白して精米を得た。この精米を、サイクロンサンプルミル(Udy製)によって粉砕して試料とした。フリアーノのヨード比色法(B.O.Juliano:Cereal Sci.Today,16,334-340,360,1971)に従って測定した。検量線はポテトアミロース(シグマ社製、Potato amylose III)と米アミロペクチン(脱脂除タンパクしたもち米粉末)を40/60、30/70、20/80、10/90、及び0/100の各割合に混合して作成した。試料粉末のタンパク質含量は燃焼法(LECO FP−528型 窒素分析装置)によって全窒素含量を求め、米における窒素タンパク質換算係数5.95を乗じてタンパク質含量とした。
【0063】
(2)米飯の調製と物性測定
前記(1)で得た精米を、湿度70%において水分含量14.5%±0.5%に調整した。これらの精米試料各10gを外径6.0cm、底径4.2cm、高さ5.5cmのプリンカップに秤取し、純水16mlを加え、25℃で1時間吸水させた。その後、電気炊飯器(東芝製RC183、東京)に5個並べ、釜に75mlの純粋を加え、20分間炊飯した。スイッチが切れた後、15分間蒸らし、蓋を開けて米飯試料をプリンカップからガラスシャーレに移し、プラスティック袋に密閉して25℃で2時間静置した。その各30粒を1粒ずつ、テンシプレッサー(タケトモ電機製、マイボーイ、東京)を用いて岡留らの方法(岡留博司ら:食科工,45,398-407,1998)により物性を測定した。測定項目は、圧縮率25%による米飯表層部の付着量(L3)である。
【0064】
(3)精米粉の調製と米粉糊化特性の測定
前記(1)で得られた精米を、イワタニ製ミルサーによって粉砕し、精米粉を調製した。
この精米粉3.0g(乾物あたり)に25mlの純水を加え、豊島らの方法(豊島 英親ら:食科工,44,579-584,1997)によりラピッドビスコアナライザー(RVA、ニューポートサイエンティフィック社製、Warriewood)で糊化特性を測定した。
すなわち、50℃で1分間攪拌した後、4分間で50℃から93℃まで昇温し、93℃で7分間攪拌を続けた後、93℃から50℃まで4分間で降温し、50℃で3分間攪拌を続けた後の粘度を採択した。測定項目はコンシステンシー(最終粘度と最低粘度の差)である。
【0065】
(4)成分測定及び物理特性測定の結果
ヨード比色法で測定したアミロース含量、燃焼法で測定したタンパク質含量、テンシプレッサーによって測定した米飯物性測定値、およびRVAによって測定した精米粉糊化特性値の測定結果を表4に示す。また各プライマーによるPCR結果と、アミロース含量、タンパク質含量、米飯物性測定値(L3)、及び精米粉糊化特性値のそれぞれとの相関を表5に示す。
【0066】
【表4】
【0067】
【表5】
【0068】
この結果、アミロース含量に対して1%有意の相関があったプライマーは、NSS I、M1A、P5、DBE−I、F6、及びPro10で、デンプン合成酵素遺伝子に関係するプライマーが4個含まれていた。タンパク質含量に対して1%有意または5%有意の相関があったプライマーは、Glu、DBE−I、NSS I、M1A、NK4、M11、P5、及びJ6で、タンパク質由来のプライマーはGluのみであった。米飯物性測定値(L3)に対して1%有意の相関があったプライマーは、DBE−I、Glu、Pro13、Pro10、NSS I、M1A、NK4、M11、P5、J6で相関係数の高い複数要因のプライマーが見出された。精米粉糊化特性値に対して1%有意又は5%有意の相関があったプライマーは、NSS I、M1A、NK4、M11、P5、J6、DBE−I、Glu、及びPro10で、GBSS由来のプライマーが5個含まれていた。
【実施例3】
【0069】
PCRによる識別用増幅DNA出現の有無を2値化して変数とし、これを多変量解析に適用するにあたり用いる食味推定式を作成した。
実施例1にて、品種判別用プライマーであるF6、S13、E30、J6、B43、及びWK9Aの6種類を用いて行ったPCRの結果の識別用増幅DNAの出現の有無を二値化したものを説明変数とし、実施例2で得た米飯物性測定値(表層の付着量であるL3)を目的変数として重回帰分析を行った結果、下記の食味推定式(1)が得られた。尚、下記式中のプライマー名は、対応するプライマーによるPCRの結果の識別用増幅DNA出現の有無を意味する説明変数である。
重相関係数Rは0.56であった。
【0070】
(数4)
Y = 0.85 + 0.34×F6 - 0.50×S13 + 0.11×E30 + 0.52×J6 - 0.30×B43 + 0.11×WK9A
・・・(1)
【0071】
実施例1にて、デンプン合成酵素に関連するプライマーであるDBE−I、NSS I、NSS II、GBSS3、GBSS4、及びSBEの6種類を用いて行ったPCRの結果の識別用増幅DNAの出現の有無を二値化したものを説明変数とし、実施例2で行った米飯物性測定値(表層の付着量であるL3)を目的変数として重回帰分析を行った結果、下記の食味推定式(2)が得られた。尚、下記式中のプライマー名は、対応するプライマーによるPCRの結果の識別用増幅DNA出現の有無を意味する説明変数である。
重相関係数Rは0.68であった。
【0072】
(数5)
Y = 0.85 - 0.32×DBE-I + 0.23×NSSI - 0.29×NSSII - 0.32×GBSS3 + 0.50×GBSS4 + 0.46×SBE
・・・(2)
【0073】
実施例1にて、デンプン合成酵素に関連するプライマーであるDBE−I、NSSII、GBSS3、GBSS4、及びSBEの5種類、並びにタンパク質組成関連のプライマーであるGlu−IとPro10の2種類、合計7種類のプライマーによるPCRの結果の識別用増幅DNAの出現の有無を二値化したものを説明変数とし、実施例2で行った米飯物性測定値(表層の付着量であるL3)を目的変数として重回帰分析を行った結果、下記の食味推定式(3)が得られた。尚、下記式中のプライマー名は、対応するプライマーによるPCRの結果の識別用増幅DNA出現の有無を意味する説明変数である。
重相関係数Rは0.75であった。
【0074】
(数6)
Y = 1.13 + 0.25×Glu-I + 0.47×Pro10 - 0.38×DBE−I - 0.49×NSSII - 0.68×GBSS3 + 0.40×GBSS4 + 0.35×SBE
・・・(3)
【0075】
これらの分析の結果、通常の品種判別用のプライマーによるPCRの結果を用いて重回帰分析を行った場合よりも、澱粉合成酵素に関連するプライマーによるPCRの結果を用いて重回帰分析を行った方が高い重相関係数が得られ、さらに、澱粉合成酵素に関連するプライマーによるPCRの結果およびタンパク質組成に関連するプライマーによるPCRの結果を合わせて使用した重回帰分析の方が、さらに高い重相関係数が得られることが明らかとなった。
【実施例4】
【0076】
実施例1で設計した各種プライマーを用いて米試料DNAを鋳型としたPCRを行い、試料米がインド型(インディカ)米と日本型(ジャポニカ)米との識別ができるかどうかの確認を行った。
試料米は、図9に示すとおりである。すなわち、日本型米として、こがねもち、滋賀羽二重糯、はくちょうもち、コシヒカリ、ひとめぼれ、日本晴、初星、ヤマヒカリ、アキニシキ、むつほまれ、きらら397、アルボリオ、台中65号、バッカー、国宝ローズ、エリオ、カルリソ、フジヒカリ、及びチヨニシキを用いた。また、インド型米として、カオドクマリ、カリジラ、EM2061、バスマティ、C70、IR2061、IR36、夢十色、JIF41、JIF42、テキサマティ、タムソアン、カサラス及びWITA7を用いた。
米試料としての上記インド型米及び日本型米の精米から、前記実施例1(2)と同様の手順で鋳型DNAを調製し、澱粉合成酵素に関連するプライマーであるDBE−I、DBE−J及びNSS IIを用いて、実施例1(3)と同様の手順でPCRを行った。図9に、インディカ用(A)DBE−I、及びジャポニカ用(B)DBE−Jを用いたPCRの結果を示す。図9(A)中、1〜29は、それぞれ、1:エリオ、2:カルナロリ、3:アルボリオ、4:カオドクマリ、5:カリジラ、6:EM2061、7:バスマティ、8:C70、9:IR2061、10:IR36、11:こがねもち、12:はくちょうもち、13:滋賀羽二重糯、14:コシヒカリ、15:ひとめぼれ、16:あきたこまち、17:日本晴、18:金南風、19:夢十色、20:イラボン、21:国宝ローズ、22:JIF25、23:JIF30、24:JIF41、25:JIF42、26:テキサマティ 27:タムソアン、28:カサラス、29:WITA7、30:WITA239を示し、MはDNA分子量マーカー(和光純薬工業、Marker4)を示す。一方、図9(B)中、1:こがねもち、2:滋賀羽二重糯、3:はくちょうもち、4:コシヒカリ、5:ひとめぼれ、6:日本晴、7:初星、8:ヤマヒカリ、9:アキニシキ、10:むつほまれ、11:きらら397、12:カオドクマリ、13:テキサマティ、14:マスリ、15:カリジラ、16:タムソアン、17:バスマティ、18:RD21、19:夢十色、20:カサラス、21:RD23、22:アルボリオ、23:台中65号、24:C70、25:バッカー、26:国宝ローズ、27:エリオ、28:カルリソ、29:WITA7、31:ルアンプラトー、32:フジヒカリ、33:チヨニシキを示し、MはDNA分子量マーカー(和光純薬工業 Marker4)を示す。
図9に示すように、澱粉枝切り酵素DBE(pullulanase)に関連するプライマーDBE−J及びDBE−Iを用いたPCRによって、インド型米と日本型米を識別することが可能であることが明らかとなった。一方、配列番号7および配列番号8に示すNSS IIに関係するプライマーを用いたPCRでは、図9に示すような普遍的な識別を行うことが不可能であった。
このことから、澱粉合成酵素に関連するプライマーとしてDBE−J及びDBE−Iを用いたPCRを行うことにより、インド型米と日本型米を識別することが可能であることが証明された。
【0077】
一般に、日本型米は粘りが強く、インド型米は粘りが弱くパサパサした食感がある。これは、主にアミロース含量の相違によるものと考えられるが、アミロペクチンのクラスター構造の変異も影響すると考えられ、日本型米はDP値(重合度)10以下の短鎖が多く、DP値12〜21のものは少ない。この構造は疎水性に影響し、澱粉が糊化しやすいという日本型米の特徴の要因と考えられ、SSSIIa遺伝子の相違が起因すると言われている(Y.Nakamuraら:Starch,54,117-131,2002)。
本発明者らは、九州大育成の変異米EM75(sug2、pullulanase減少変異体)と、EM75の原品種である金南風とを試料米として、日本型米に特徴的に出現するDBE−Jを用いてPCRを行った結果、EM75の場合は、原品種の金南風に比べて明らかな相違が確認された。
また、プライマーDBE−JおよびDBE−IによるPCRの結果、図9に示すように明瞭にインド型米と日本型米が識別されたという結果は、従来報告されているSSSIIa以外にも日本型米とインド型米の相違をもたらしている要因があり、本発明者らの開発したプライマーDBE−JおよびDBE−Iは、pullulanaseに関係している可能性が強い。
【0078】
また、グルテリンの構造遺伝子内のタンパク質変異を図2に示す。図2に示すように、インド型米と日本型米では、貯蔵タンパク質グルテリンに変異部分があることが示された。構造遺伝子内(図2の(B))においても、明らかに、インド型米と日本型米とで異なっている部分が数カ所見いだされた。これらの調節遺伝子部分の相違点及び構造遺伝子部分の相違点の配列に基づいて設計したプライマーGluを用いて、39種類の試料米(図3〜図8)でPCRを行った結果、日本型米とインド型米をそれぞれ共通的にほぼ識別ができることが示された。
【実施例5】
【0079】
以下の実施例5〜8においては、実施例1で設計された各種プライマーを用いたPCRの結果を2値化した数値を説明変数とし、一方、食味を表す数値として、わが国の消費者の嗜好と比較的相関の高いアミロース含量、タンパク質含量、米飯物性値(L3)及び精米粉糊化特性値(コンシステンシー)を選択し、これらのそれぞれを目的変数とした重回帰解析を行い、試料米の食味推定に対する適用性を検討した。
【0080】
まず、実施例5においては、アミロース含量の推定を行った。
前記の表2に示すプライマーのうち、デンプン合成酵素に関係するプライマーとしてNSS II、NSS I、及びDBE−Iの3種類のプライマー、米のタンパク質組成に関係するプライマーとしてPro13及びGluの2種類のプライマー、並びに、P5、E30、及びS13の3種類のプライマーについて、それぞれの組み合わせによる24種類の試料米DNAを鋳型として行うPCRの結果得られる識別用増幅DNAバンドの出現の有無を2値化した。すなわち、前記実施例3で述べた方法によってバンドが出現した場合を1、出現しなかった場合を0とした。
上記2値化したものを説明変数とし、アミロース含量を目的変数として変数増減法による重回帰分析を行った。統計処理には、Excel2000の統計ソフトウエアを使用した。その結果、下記のアミロース含量を目的とする食味推定式(4)を得た。尚、下記式中のプライマー名は、対応するプライマーによるPCRの結果の識別用増幅DNA出現の有無を意味する説明変数である。
この重回帰式の重相関係数(R)は、0.92であった。散布図を図10(A)aに示す。
【0081】
(数7)
Y = 29.73−1.50×S13−0.65×DBE-I−15.1×Glu+4.71×NSSI+9.46×NSSII−5.96×P5−8.47×E30−7.44×Pro13 ・・・(4)
【0082】
この重回帰分析に基づくアミロース含量を目的とする食味推定式(4)の、未知試料米に対する適用性を検定した。
すなわち、表4に示す15種類の未知試料米のアミロース含量に対して式(4)を適用した。その結果、重相関係数は0.72であった。また、この場合の散布図を図10(A)bに示した。
このことから、アミロース含量を目的とする食味推定式(4)により、試料米のアミロース含量を推定できることが分かる。また、推定式(4)STS化プライマーのうちにはNSS II、NSS I、及びDBE−Iといったデンプン合成酵素に関連するプライマーが含まれていることは当然と考えられるが、Glu及びPro13といったタンパク質に関連するプライマーも含まれているので、タンパク質組成が日本型米、インド型米等の種類によって異なっている可能性をも示している。
【実施例6】
【0083】
デンプン合成酵素に関係するプライマーとしてNSS II及びM1A、米のタンパク質組成に関係するプライマーとしてGlu、品種識別用プライマーとしてJ6を用いたこと、及び、食味を表す数値としてタンパク質含量を選択したこと以外は、実施例5と同様に行い、下記のタンパク質含量を目的とする食味推定式(5)を得た。尚、下記式中のプライマー名は、対応するプライマーによるPCRの結果の識別用増幅DNA出現の有無を意味する説明変数である。
この重回帰式の重相関係数(R)は、0.81であった。散布図を図10(B)aに示す。
【0084】
(数8)
Y = 7.80−0.53×M1A−1.65×Glu+0.44×NSSII+0.39×J6 ・・・(5)
【0085】
この重回帰分析に基づくタンパク質含量を目的とする食味推定式(5)の、未知試料米に対する適用性を検定した。すなわち、表4に示す13種類の未知試料米のタンパク質含量に対して式(5)を適用した。その結果、重相関係数は0.62であった。この場合の散布図を図10(B)bに示す。
一般に、タンパク質含量の場合は品種特性のみならず、水田の窒素含量や施肥条件も影響するので、タンパク質含量を目的とする食味推定式(5)による解析を行うと共に、上記環境条件を考慮することにより、試料米のタンパク質含量をより正確に推定できることが分かる。
【実施例7】
【0086】
デンプン合成酵素に関係するプライマーとしてNK4、米のタンパク質組成に関係するプライマーとしてPro13及びGlu、並びに、品種識別用プライマーとしてG22、B43、M11、及びP5を用いたこと、及び、食味を表す数値として米飯物性測定値を選択したこと以外は、実施例5と同様に行い、下記の米飯物性を目的とする食味推定式(6)を得た。尚、下記式中のプライマー名は、対応するプライマーによるPCRの結果の識別用増幅DNA出現の有無を意味する説明変数である。
この重回帰式の重相関係数(R)は0.93であった。散布図を図10(C)aに示す。
【0087】
(数9)
Y = 0.063+0.0359×NK4+0.475×Glu+0.246×P5+0.0201×B43+0.124×M11−0.0848×G22+0.549×Pro13 ・・・(6)
【0088】
この重回帰分析に基づく米飯物性を目的とする食味推定式(6)の、未知試料に対する適用性を検定するために、表4に示す15種類の未知試料米の米飯物性測定値(L3)に対して式(6)を適用した。その結果、重相関係数は0.82であった。この場合の散布図を図10(C)bに示す。
このことから、米飯物性を目的とする食味推定式(6)により、試料米の米飯物性を推定できることが分かる。また、推定式(6)STS化プライマーのうちにはデンプン合成酵素に関連するプライマー、タンパク質に関連するプライマー及び品種識別用プライマーのいずれもが含まれていることから、米飯物性には様々な要因が関係していることがわかった。
【実施例8】
【0089】
デンプン合成酵素に関係するプライマーとしてGBSS4、DBE−I、M1A、及びSBE、米のタンパク質組成に関係するプライマーとしてPro13FN及びGlu、並びに、品種識別用プライマーとしてG22、WK9A及びS13を用いたこと、及び、食味を表す数値として精米粉糊化特性のうちコンシステンシーを選択したこと以外は、実施例5と同様に行い、下記のコンシステンシーを目的とする食味推定式(7)を得た。尚、下記式中のプライマー名は、対応するプライマーによるPCRの結果の識別用増幅DNA出現の有無を意味する説明変数である。
この重回帰式の重相関係数は0.84であった。散布図を図10(D)aに示す。
【0090】
(数10)
Y = 142−30.2×Glu−11.1×M1A−43×SBE+18.1×DBE-I+11.4×G22+61×S13+44.2×GBSS4−39.7×Pro13FN+17.6×WK9A ・・・(7)
【0091】
この重回帰分析に基づくコンシステンシーを目的とする食味推定式(7)の、未知試料に対する適用性を検定するために、表4に示す14種類の未知試料米のコンシステンシーに対して式(7)を適用した。その結果、重相関係数は0.72であった。この場合の散布図を図10(D)bに示す。
このことから、コンシステンシーを目的とする食味推定式(7)により、試料米のコンシステンシーを推定できることが分かる。また、推定式(7)STS化プライマーのうちにはデンプン合成酵素に関連するプライマー、タンパク質に関連するプライマー及び品種識別用プライマーのいずれもが含まれていることから、米飯粉糊化特性には様々な要因が関係していることが分かった。
【実施例9】
【0092】
実施例1で設計された各種プライマーを用いたPCRの結果を2値化した数値を説明変数としたクラスター解析を行い、試料米の食味推定に対する適用性を検討した。
すなわち、前記の表2に示すプライマーのうち、デンプン合成酵素に関係するプライマーとしてM11、P5、G22、F6、S13、E30、J6、B43、WK9A、DBE−I、DBE−J、Glu−J、Glu−I、Pro13FN、Pro13、Pro10、NSSI、NSSII、GBSS3、GBSS4、M1A、SBE、及びNK4の23種類のプライマーについて、それぞれの組み合わせによる広範な世界の米23種類(図6参照)の試料米DNAを鋳型として行うPCRの結果得られる識別用増幅DNAバンドの出現の有無を2値化した。すなわち、前記実施例3で述べた方法によってバンドが出現した場合を1、出現しなかった場合を0とした。
上記2値化したものを説明変数とし、クラスター分析を行った。解析結果を図11に示す。尚、統計解析ソフトはオードメイン社のロータス1−2−3利用の多変量解析を使用し、解析理論は石原らの理論(石原辰雄ら:Lotus 1-2-3活用多変量解析,共立出版,東京,pp.228-264,1992)によった。
図11から、クラスター分析の結果、インディカ、熱帯ジャポニカ、及び温帯ジャポニカがグループ化され、これは従来の分類とよく一致していた。このことから、クラスター分析によりインディカ米とジャポニカ米の識別が可能となることができることが明らかとなった。
【実施例10】
【0093】
次に、試料米が玄米半粒の場合の半粒良食味米の選抜技術の適用性について検討した。
コシヒカリを母本とし、ハツシモを花粉親とし、コシヒカリを温湯除雄してハツシモを交配し、次世代稲から籾を得た。この雑種第一代の籾を、育苗培土を入れたマグナムポットに播種し、人工気象室(タバイエスペック社製TGH−6)において自殖栽培し、雑種第二代の種子を得た。これらの種子を籾摺りした玄米粒を胚芽を含む側と胚芽を含まない側とに半裁し、胚芽を含まない側を半粒ずつ乳鉢で粉砕し、実施例1と同様にCTAB法でDNAを抽出した。これらのDNAを鋳型とし、PCRによるDNAの増幅を行った。PCRは実施例1と同様に行った。
PCRのバンドパターンに基づいて、実施例7の米飯物性を目的とする食味推定式(6)に適用して米飯物性(L3)の推定値を算出した。これらの胚芽を含む半粒を、1%次亜塩素酸ナトリウム溶液で表面殺菌した後、下記の表6に示す組成の培地に置床し、30℃で7日間発芽させた。
【0094】
【表6】
【0095】
発芽半粒種子を人工気象器(日本医科器械製作所製バイオトロンNC350)に移し、28℃(光照射)10時間、28℃(暗)14時間のサイクルで培養し、幼苗を緑化させた。次いで、幼苗を前述の培地を含むアグリポットに移植し、7日間生育させた後、育苗培土に移植し、人工気象室で2週間生育させた。
これらの苗を、埴土をいれたマグナムポットに移植し、前述の人工気象室で4ヶ月間栽培し、出穂させた。さらに40日間成熟させた後に穂を刈り取り、脱穀、籾摺りを行い、各玄米を試験用精米機で精米した。これを、電気釜で炊飯し、4名のパネリストによって食味の官能検査を行った。この米飯物性推定値および官能検査結果を、表7に示す。
米飯物性推定値の判定は、L3推定値が1.2以上のものを○、1.4以上のものを◎、1.2未満のものを空白として表7に示した。また、DNA推定と官能検査の一致度の判定は、官能検査とDNAから推定したL3が良く一致しているものを○、中間程度のものを△(試料米No.4はL3推定値が1.15と小さく、軟らかい点は合っていないが、腰がない点はあっている。No.24は、L3が1.4と大きく、軟らかい点は合っているが、粘りが少ない点が合っていない。)、一致していないものを×として表7に示した。
【0096】
【表7】
【0097】
表7に示すように、供試した28点の交配種子のうち、20点で米飯物性の推定結果と官能検査結果とが良く一致した。この結果、交配種子を半裁し、胚芽を含まない玄米あるいは籾の半粒からDNAを抽出して鋳型DNAとし、PCRによる米飯物性の推定を行い、胚芽を含む半粒を発芽させて良食味米を選抜することが可能であることが示された。
【実施例11】
【0098】
実施例1で開発したプライマーPro13を用い、鋳型として、日本型米の良食味米であるコシヒカリと低食味米である朝の光及び月の光の3品種のDNAを用いて、実施例1と同様にPCRを行った。増幅したDNAをアガロースゲルから切り出してクローニングし、それらの塩基配列を決定した。各品種の増幅DNAの塩基配列を図12に示す。
図12から明らかなように、コシヒカリの増幅DNAのうち364番目から386番目の塩基配列部分(図12の下線部分:tgttggtgaagggcgaattctgc)が、コシヒカリと他の2種類の米とで異なっていることが明らかとなった。この配列部分に基づいてプライマーPro13Koshi(配列表の配列番号66に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列表の配列番号67に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)を作成し、再度PCRを行った結果、コシヒカリと朝の光や月の光とをPCRによって明瞭に識別できることが判った。
【実施例12】
【0099】
実施例1で開発したプライマーM1Aを用い、鋳型として、粘りの強いこがねもちと、粘りの弱いきらら397のDNAを用いて、実施例1と同様にPCRを行った。増幅したDNAをアガロースゲルから切り出してクローニングし、塩基配列を決定した。各品種の増幅DNAの塩基配列を図13(フォワード側)と図14(リバース側)に示す。
図13及び図14から明らかなように、こがねもちの増幅DNAのうちフォワード側の22番目から46番目の部分(図13の下線部分)及びリバース側の22番目から51番目の塩基配列部分からプライマーM1AKogane(配列表の配列番号68に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列表の配列番号69に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)を作成し、再度PCRを行った結果、粘りの強いこがねもちと粘りの弱いきらら397とをPCRによって明瞭に識別することが可能となった。
【実施例13】
【0100】
実施例1で開発したプライマーSBEを用い、鋳型として、日本型米である日本晴のDNAを用いて、実施例1と同様にPCRを行った。増幅したDNAをアガロースゲルから切り出してクローニングし、塩基配列を決定した。その塩基配列を、国立遺伝研究所のデータベース(DDBJ)によってホモロジー検索した。SBEにより増幅したDNAとDDBJのデンプン枝作り酵素の塩基配列部分との比較を図15に示す。
図15から明らかなとおり、増幅したDNA(図15の下段)は、DDBJのデンプン枝作り酵素の一部(図15の上段)と高い相同性を示すことが明らかとなった。このことから、SBEはデンプン枝作り酵素と関係するプライマーであることが明らかとなった。
【実施例14】
【0101】
実施例1で開発したプライマーSBE、NSS I、GBSS4、NSS II、Pro10及びPro13FN、NK4、M1A、GBSS3及びPro13を用い、鋳型として、実施例1で用いた各品種の試料米DNAの一部を用いて、実施例1と同様にPCRを行った結果を図16及び図17に示す。図16及び図17中、レーンNo.1〜24、c、d、e、g、h、i、m、k、l、及びnについては、図3〜図8と同様である。更に、矢印は、c、d、e、h、i、m、k、l、及びnの各プライマーに由来する識別用増幅DNAの出現部位を示す。
図16及び図17から明らかなように、各プライマーにより、食味特性の異なる各品種間の米を明瞭に識別できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明によれば、DNAを用いて育種選抜の初期段階から試料米の食味を精度良く推定することが可能となる。
特に、試料米がごく少量であっても食味を推定することが可能となるので、官能検査や物理化学的測定などの従来の食味判別技術で必要とされてきた試料の量についての問題を解決することができる。
特に、試料米が籾あるいは玄米半粒やそれ以下であっても適用可能であるので、胚芽を含まない側の半裁種子について食味推定を行って良食味系統を選抜し、胚芽を含む側の半裁種子を播種して効率良く次世代稲を育成することが可能となり、育種の分野における有用性が期待される。
本発明により、米の食味関連要因に対し正又は負の相関関係を示す識別用増幅DNAを効率良く出現させることのできるプライマー・セットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】デンプン枝切り酵素遺伝子のうち識別性の高い領域における日本型米とインド型米の塩基配列の相違を示す。
【図2】グルテリン遺伝子のうち識別性の高い領域における日本型米とインド型米の塩基配列の相違を示す。
【図3】各種のSTS化プライマー単独あるいは複数のSTS化プライマーを組み合わせて反応液に共存させてPCRを行った結果を示す。
【図4】各種のSTS化プライマー単独あるいは複数のSTS化プライマーを組み合わせて反応液に共存させてPCRを行った結果を示す。
【図5】各種のSTS化プライマー単独あるいは複数のSTS化プライマーを組み合わせて反応液に共存させてPCRを行った結果を示す。
【図6】各種のSTS化プライマー単独あるいは複数のSTS化プライマーを組み合わせて反応液に共存させてPCRを行った結果を示す。
【図7】各種のSTS化プライマー単独あるいは複数のSTS化プライマーを組み合わせて反応液に共存させてPCRを行った結果を示す。
【図8】各種のSTS化プライマー単独あるいは複数のSTS化プライマーを組み合わせて反応液に共存させてPCRを行った結果を示す。
【図9】インディカ用(A)DBE−I、及びジャポニカ用(B)DBE−Jを用いたPCRの結果を示す。〜を示す。
【図10】実施例5〜実施例8で得られた散布図を示す。
【図11】クラスター分析の結果を示す。
【図12】Pro13を用いて、コシヒカリと朝の光及び月の光の3品種のDNAを鋳型としてPCRを行った場合の結果を示す。
【図13】M1Aを用いて、こがねもちときらら397DNAを鋳型としてPCRを行った場合の結果(フォワード側)を示す。
【図14】M1Aを用いて、こがねもちときらら397DNAを鋳型としてPCRを行った場合の結果(リバース側)を示す。
【図15】SBEにより増幅したDNAとDDBJのデンプン枝作り酵素の塩基配列部分との比較を示す。
【図16】各種のプライマーを用いて品種識別のためのPCRを行った結果を示す。
【図17】各種のプライマーを用いて品種識別のためのPCRを行った結果を示す。
【符号の説明】
【0104】
図1中の(A)は、調節遺伝子内の識別性の高い領域における相違を示し、(B)は、構造遺伝子内の識別性の高い領域における相違を示し、aは、DBE−Jのプライマー部分を、bはDBE−Iのプライマー部分を示す。
図2中の(A)は、調節遺伝子内の識別性の高い領域における相違を示し、(B)は、構造遺伝子内の識別性の高い領域における相違を示す。
図3〜図8、図16及び図17中、レーンNo.1〜39(但し、図15及び図16では、レーンNo.1〜24)は、1:EM2003、2:スイートライス、3:滋賀羽二重糯、4:ひとめぼれ、5:コシヒカリ、6:日本晴、7:イラボン、8:国宝ローズ、9:田牧米、10:バッカー、11:エリオ、12:カルナロリ、13:カルリソ、14:アルボリオ、15:ジャスミンライス、16:カリジラ、17:テキサマティ、18:マスリ、19:タムソアン、20:バスマティ、21:夢十色、22:ホシユタカ、23:サリークイーン、24:台中65号、25:こがねもち、26:ヒノヒカリ、27:あきたこまち、28:きらら397、29:一品、30:カルモチ101、31:中粒米、32:黒米、33:ペルデ、34:カイーマ、35:パエリア、36:長粒米、37:ドーンガラ、38:南京11号、39:IR2061−214の各試料米品種を示す。また、a〜u(ただし、図15及び図16では、c、d、e、g、h、i、m、k、l、及びn)は、それぞれa:DBE−I、b:Glu、c:SBE、d:NSS II、e:Pro10、f:P5、g:NSS I、h:GBSS4、i:Pro13FN、j:J6、k:M1A、l:GBSS3、m:NK4、n:Pro13、o:WK9A、p:B43、q:M11、r:G22、s:F6、t:E30、u:S13の各プライマーを示す。また、矢印は、a〜u(但し、図15及び図16では、c、d、e、g、h、i、m、k、l、及びn)の各プライマーに由来する識別用増幅DNAの出現部位を示す。
図9(A)中、1〜29は、それぞれ、1:エリオ、2:カルナロリ、3:アルボリオ、4:カオドクマリ、5:カリジラ、6:EM2061、7:バスマティ、8:C70、9:IR2061、10:IR36、11:こがねもち、12:はくちょうもち、13:滋賀羽二重糯、14:コシヒカリ、15:ひとめぼれ、16:あきたこまち、17:日本晴、18:金南風、19:夢十色、20:イラボン、21:国宝ローズ、22:JIF25、23:JIF30、24:JIF41、25:JIF42、26:テキサマティ 27:タムソアン、28:カサラス、29:WITA7、30:WITA239を示し、MはDNA分子量マーカー(和光純薬工業 Marker4)を示す。一方、図9(B)中、1:こがねもち、2:滋賀羽二重糯、3:はくちょうもち、4:コシヒカリ、5:ひとめぼれ、6:日本晴、7:初星、8:ヤマヒカリ、9:アキニシキ、10:むつほまれ、11:きらら397、12:カオドクマリ、13:テキサマティ、14:マスリ、15:カリジラ、16:タムソアン、17:バスマティ、18:RD21、19:夢十色、20:カサラス、21:RD23、22:アルボリオ、23:台中65号、24:C70、25:バッカー、26:国宝ローズ、27:エリオ、28:カルリソ、29:WITA7、31:ルアンプラトー、32:フジヒカリ、33:チヨニシキを示し、MはDNA分子量マーカー(和光純薬工業 Marker4)を示す。
図10において、(A)〜(D)の各行は、それぞれ実施例5、実施例6、実施例7及び実施例8の結果を示す。また、a及びbの各列は、それぞれの実施例における、検量線作成用の各品種の試料米を用いて作成した散布図、及び未知試料米から作成した散布図を示す。
図12において、下線部分は、良食味米と低食味米との配列の相違部分を示す。
図13及び図14において、下線部分は、粘りの強い米と粘りの弱い米との配列の相違部分を示し、四角で囲った部分は共通部分を示す。
図15において、上段はDDBJのデンプン枝作り酵素の塩基配列部分を、下段はSBEにより増幅したDNAの塩基配列を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
米のデンプン合成酵素遺伝子に関係するプライマーを1種類又は2種類以上用いて試料米DNAを鋳型として行うPCRの結果及び/又は米のタンパク質組成に関係するプライマーを1種類又は2種類以上用いて試料米DNAを鋳型として行うPCRの結果に基づいて米の食味を推定することを特徴とする米のDNA食味推定方法。
【請求項2】
米のデンプン合成酵素遺伝子が、デンプン粒結合型デンプン合成酵素遺伝子、可溶性デンプン合成酵素遺伝子、デンプン枝作り酵素遺伝子、及びデンプン枝切り酵素遺伝子のうちの1種類又は2種類以上である請求項1記載の米のDNA食味推定方法。
【請求項3】
米のデンプン合成酵素遺伝子に関係するプライマーが、SBE(配列表の配列番号24に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号25に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、GBSS3(配列表の配列番号10に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号11に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、GBSS4(配列表の配列番号13に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号14に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、NSS II(配列表の配列番号7に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号8に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、NSS I(配列表の配列番号2に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号3に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号4に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号5に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、DBE−J(配列表の配列番号19に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号20に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号21に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号22に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、DBE−I(配列表の配列番号15に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号16に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号17に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号18に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、NK4(配列表の配列番号26に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号27に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号28に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号29に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、及びM1A(配列表の配列番号30に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号31に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号32に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号33に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)である、請求項1又は2記載の米のDNA食味推定方法。
【請求項4】
米のタンパク質組成が、グルテリン及び/又はプロラミンである請求項1〜3のいずれかに記載の米のDNA食味推定方法。
【請求項5】
米のタンパク質組成に関係するプライマーが、Pro13(配列表の配列番号40に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号41に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、Pro10(配列表の配列番号35に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号36に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号37に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号38に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、Pro13FN(配列表の配列番号42に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号43に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、及びGlu(配列表の配列番号44に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号45に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号46に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号47に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)である請求項1〜4のいずれかに記載の米のDNA食味推定方法。
【請求項6】
PCRの結果に基づく米の食味の推定にあたり、食味関連特性と正或いは負の相関を示す識別用増幅DNAのPCRによる出現の有無を2値化して変数とし、多変量解析によって食味を推定することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の米のDNA食味推定方法。
【請求項7】
多変量解析の際にあたり、試料米の食味関連特性を目的変数とし、識別用増幅DNA出現の有無を2値化したものを説明変数として食味関連特性を目的とする食味推定式を作成し、該食味推定式を利用して試料米の食味を推定することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の米のDNA食味推定方法。
【請求項8】
試料米が籾或いは玄米であり、試料籾或いは玄米を短軸方向に半裁し、その胚芽を含まない側の半粒から抽出したDNAを試料米DNAとして食味を推定することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の米のDNA食味推定方法。
【請求項9】
請求項8に記載の食味推定方法により選抜された良食味系統の籾、あるいは玄米の胚芽を含む側の半裁種子を播種して次世代稲を育成することを特徴とするDNAによる半粒良食味米の選抜技術。
【請求項10】
SBE(配列表の配列番号24に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号25に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、GBSS3(配列表の配列番号10に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号11に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、GBSS4(配列表の配列番号13に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号14に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、NSS II(配列表の配列番号7に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号8に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、NSS I(配列表の配列番号2に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号3に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号4に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号5に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、DBE−J(配列表の配列番号19に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号20に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号21に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号22に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、DBE−I(配列表の配列番号15に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号16に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号17に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号18に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、NK4(配列表の配列番号26に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号27に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号28に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号29に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、M1A(配列表の配列番号30に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号31に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号32に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号33に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、Pro13(配列表の配列番号40に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号41に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、Pro10(配列表の配列番号35に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号36に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号37に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号38に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、Pro13FN(配列表の配列番号42に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号43に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、及びGlu(配列表の配列番号44に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号45に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号46に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号47に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)からなる群のうちの1種類、あるいは2種類以上のプライマーを用いて試料米DNAを鋳型としたPCRを行い、日本型米とインド型米とを識別する方法。
【請求項11】
SBE(配列表の配列番号24に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号25に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、GBSS3(配列表の配列番号10に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号11に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、GBSS4(配列表の配列番号13に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号14に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、NSS II(配列表の配列番号7に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号8に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、NSS I(配列表の配列番号2に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号3に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号4に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号5に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、DBE−J(配列表の配列番号19に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号20に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号21に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号22に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、DBE−I(配列表の配列番号15に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号16に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号17に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号18に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、NK4(配列表の配列番号26に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号27に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号28に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号29に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、M1A(配列表の配列番号30に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号31に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号32に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号33に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、Pro13(配列表の配列番号40に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号41に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、Pro10(配列表の配列番号35に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号36に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号37に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号38に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、Pro13FN(配列表の配列番号42に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号43に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、及びGlu(配列表の配列番号44に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号45に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号46に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号47に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)からなる群のうちの1種類、あるいは2種類以上の組み合わせからなるプライマー・セット。
【請求項1】
米のデンプン合成酵素遺伝子に関係するプライマーを1種類又は2種類以上用いて試料米DNAを鋳型として行うPCRの結果及び/又は米のタンパク質組成に関係するプライマーを1種類又は2種類以上用いて試料米DNAを鋳型として行うPCRの結果に基づいて米の食味を推定することを特徴とする米のDNA食味推定方法。
【請求項2】
米のデンプン合成酵素遺伝子が、デンプン粒結合型デンプン合成酵素遺伝子、可溶性デンプン合成酵素遺伝子、デンプン枝作り酵素遺伝子、及びデンプン枝切り酵素遺伝子のうちの1種類又は2種類以上である請求項1記載の米のDNA食味推定方法。
【請求項3】
米のデンプン合成酵素遺伝子に関係するプライマーが、SBE(配列表の配列番号24に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号25に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、GBSS3(配列表の配列番号10に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号11に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、GBSS4(配列表の配列番号13に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号14に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、NSS II(配列表の配列番号7に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号8に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、NSS I(配列表の配列番号2に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号3に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号4に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号5に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、DBE−J(配列表の配列番号19に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号20に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号21に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号22に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、DBE−I(配列表の配列番号15に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号16に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号17に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号18に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、NK4(配列表の配列番号26に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号27に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号28に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号29に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、及びM1A(配列表の配列番号30に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号31に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号32に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号33に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)である、請求項1又は2記載の米のDNA食味推定方法。
【請求項4】
米のタンパク質組成が、グルテリン及び/又はプロラミンである請求項1〜3のいずれかに記載の米のDNA食味推定方法。
【請求項5】
米のタンパク質組成に関係するプライマーが、Pro13(配列表の配列番号40に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号41に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、Pro10(配列表の配列番号35に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号36に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号37に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号38に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、Pro13FN(配列表の配列番号42に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号43に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、及びGlu(配列表の配列番号44に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号45に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号46に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号47に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)である請求項1〜4のいずれかに記載の米のDNA食味推定方法。
【請求項6】
PCRの結果に基づく米の食味の推定にあたり、食味関連特性と正或いは負の相関を示す識別用増幅DNAのPCRによる出現の有無を2値化して変数とし、多変量解析によって食味を推定することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の米のDNA食味推定方法。
【請求項7】
多変量解析の際にあたり、試料米の食味関連特性を目的変数とし、識別用増幅DNA出現の有無を2値化したものを説明変数として食味関連特性を目的とする食味推定式を作成し、該食味推定式を利用して試料米の食味を推定することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の米のDNA食味推定方法。
【請求項8】
試料米が籾或いは玄米であり、試料籾或いは玄米を短軸方向に半裁し、その胚芽を含まない側の半粒から抽出したDNAを試料米DNAとして食味を推定することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の米のDNA食味推定方法。
【請求項9】
請求項8に記載の食味推定方法により選抜された良食味系統の籾、あるいは玄米の胚芽を含む側の半裁種子を播種して次世代稲を育成することを特徴とするDNAによる半粒良食味米の選抜技術。
【請求項10】
SBE(配列表の配列番号24に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号25に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、GBSS3(配列表の配列番号10に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号11に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、GBSS4(配列表の配列番号13に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号14に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、NSS II(配列表の配列番号7に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号8に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、NSS I(配列表の配列番号2に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号3に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号4に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号5に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、DBE−J(配列表の配列番号19に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号20に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号21に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号22に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、DBE−I(配列表の配列番号15に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号16に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号17に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号18に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、NK4(配列表の配列番号26に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号27に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号28に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号29に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、M1A(配列表の配列番号30に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号31に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号32に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号33に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、Pro13(配列表の配列番号40に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号41に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、Pro10(配列表の配列番号35に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号36に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号37に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号38に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、Pro13FN(配列表の配列番号42に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号43に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、及びGlu(配列表の配列番号44に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号45に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号46に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号47に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)からなる群のうちの1種類、あるいは2種類以上のプライマーを用いて試料米DNAを鋳型としたPCRを行い、日本型米とインド型米とを識別する方法。
【請求項11】
SBE(配列表の配列番号24に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号25に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、GBSS3(配列表の配列番号10に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号11に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、GBSS4(配列表の配列番号13に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号14に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、NSS II(配列表の配列番号7に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号8に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、NSS I(配列表の配列番号2に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号3に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号4に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号5に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、DBE−J(配列表の配列番号19に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号20に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号21に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号22に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、DBE−I(配列表の配列番号15に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号16に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号17に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号18に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、NK4(配列表の配列番号26に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号27に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号28に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号29に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、M1A(配列表の配列番号30に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号31に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号32に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号33に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、Pro13(配列表の配列番号40に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号41に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、Pro10(配列表の配列番号35に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号36に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号37に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号38に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)、Pro13FN(配列表の配列番号42に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号43に示される塩基配列からなるリバースプライマーのセット)、及びGlu(配列表の配列番号44に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号45に示される塩基配列からなるリバースプライマーのロングプライマーセット、又は、配列表の配列番号46に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号47に示される塩基配列からなるリバースプライマーのショートプライマーセット)からなる群のうちの1種類、あるいは2種類以上の組み合わせからなるプライマー・セット。
【図1】
【図2】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
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【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2006−42608(P2006−42608A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−223822(P2004−223822)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(501145295)独立行政法人食品総合研究所 (27)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(501145295)独立行政法人食品総合研究所 (27)
【Fターム(参考)】
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