説明

米糠麹の抽出物を含有することを特徴とする抗アレルギー剤

【課題】ヒスタミン遊離抑制作用の強い新規な抗アレルギー性物質を含有する抗アレルギー剤、ならびに該抗アレルギー性物質を含有する飲食品を提供すること。
【解決手段】米糠麹抽出物を有効成分とする抗アレルギー剤、ならびに米糠麹抽出物を含有する飲食品。本発明の抗アレルギー剤、飲食品は、ヒスタミンの遊離抑制作用がきわめて強く、I型アレルギー反応に起因するアトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、花粉症またはアレルギー性喘息などの予防・治療に特に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,1型アレルギー反応に対して抑制的な効果を示す抗アレルギー物質及びその製造方法,並びに該抗アレルギー物質を含有する抗アレルギー剤及び健康食品に関する。
【背景技術】
【0002】
アレルギー症状は体内で起こる抗原抗体反応による免疫グロブリンE(IgE)の産生から、結果的に肥満細胞の細胞膜を刺激し、ヒスタミン、ロイコトリエンを放出することによって起こる。放出されたこれらの物質は、血管透過性を促進させる作用や、平滑筋を収縮させる作用などがあるため、白血球や蛋白質が血管から漏出したり、炎症により気管支を収縮させ喘息を起こしたりする。抗アレルギー成分に関して、ボルネオールの肥満細胞膜安定化能(特許文献1)、放線菌培養液の炎症抑制作用(特許文献2)を利用した技術が知られている。一方、奥山らにより、ゴマ油を摂取することによって、アレルギー反応の原因となるロイコトリエンの産生を抑制する効果のあることが報告されている(非特許文献1)。また、ドコサヘキサエン酸(DHA)やα−リノレン酸を含む油脂の抗アレルギ−性(特許文献3)を利用した技術が知られている。また、ホンシメジ(特許文献4)、びわ種子(特許文献5)、スカルキャップ(特許文献6)、ハタケシメジ(特許文献7)、ハトムギ(特許文献8)、小麦粉(特許文献9)の抗アレルギー性を利用する技術が知られている。しかし、これらの天然の抗アレルギー剤は副作用が少ないものの、いずれもアレルギー症状の予防および治療の効果がまだ充分とはいえない。
【0003】
アレルギー症状を軽減するために、従来より、クロルフェニラミン、ジフェンヒドラミンなどの抗ヒスタミン剤、クロモリン、トラニストなどの肥満細胞膜安定剤、副腎皮質ホルモンなどを、経口投与により、あるいは軟膏として用いてきた。しかしながら、抗ヒスタミン剤は眠気や口渇などの副作用があり、肥満細胞膜安定剤にはすでに起こってしまった症状を軽減する効果は期待できない。副腎皮質ホルモンは、胃腸障害、肝臓障害、糖尿病、高血圧などの副作用をともなう。これらは、いずれも一時的な治療に用いられ、使用を中断すれば再び症状がでるなどの問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開平6ー211713号公報
【特許文献2】特開平5ー25053号公報
【特許文献3】特開平2−290812号公報
【特許文献4】特開2008−137912号公報
【特許文献5】特開2008−63255号公報
【特許文献6】特開2008−37785号公報
【特許文献7】特開2007−277164号公報
【特許文献8】特開2007−230953号公報
【特許文献9】特開2007−210920号公報
【非特許文献1】Prostaglandin、第36巻、第3号、1988年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、1型アレルギー反応に対して抑制的な効果を示す抗アレルギー物質及びその製造方法,並びに該抗アレルギー物質を含有する抗アレルギー剤及び健康食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、新規な抗アレルギー性物質を探索するべく研究を重ねる中で、健常人由来ヘパリン処理末梢血から分離した白血球をホルボールエステルで刺激したときに発生する活性酸素の消去能を指標として、アレルギー症状の治療に有効な素材を探索したところ、米糠麹のアルコール抽出物に高い消去能があり、米糠麹のアルコール抽出物が抗アレルギー性物質として非常に有用であることを見出した。
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、米糠麹を原料とする1型アレルギー反応に対して抑制的な効果を示す抗アレルギー物質及びその製造方法,並びに該抗アレルギー物質を含有する抗アレルギー剤及び健康食品を提供するものである。すなわち、本発明は、
[1] 米糠麹のアルコール抽出物を含有することを特徴とする抗アレルギー物質。
[2][1]において,抽出溶媒が水、アルコール類、クロロフォルム、アセトン、アセトニトリル、ヘキサン、酢酸エチルから選ばれる1種以上であることを特徴とする抗アレルギー物質の製造方法。
[3] [1]に記載の抗アレルギー物質を有効成分とすることを特徴とする抗アレルギー剤。
[4][1]に記載の抗アレルギー物質を含有することを特徴とする健康食品。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ヒトの白血球から過剰に発生する無用な活性酸素を有効に抑制することができ且つ安全性の高い抗アレルギー性物質を含有する抗アレルギー剤、飲食品および化粧料が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の抗アレルギー剤の原料となる米糠は、脱穀した玄米の種皮と胚芽の部分(赤糠)である。また、清酒製造時に発生する、白米のでんぷん層の外側(白糠)も使用することができる。
【0009】
本発明の抗アレルギー剤で使用する米糠麹は、米糠、乳酸水、水および麹菌を混合し、培養することにより製造することができる。乳酸水のpHを1.5〜3.0とし、米糠に対する乳酸水の添加割合は米糠10重量部に対して2〜6重量部とする。培養は、室温20℃〜50℃、湿度50%以上の条件下で24時間以上行う。
【0010】
本発明において、抗アレルギー剤を調製するために、抽出原料である米糠麹に溶剤を加えて、有効成分を抽出する。このとき使用する有機溶媒としては、アルコール類、クロロフォルム、アセトン、アセトニトリル、ヘキサン、酢酸エチルなどが挙げられる。なかでも食品製造に使用できるグレードのエタノール、ヘキサン、アセトンが好ましく、より好ましくはエタノールを抽出溶媒として用いる。エタノールやアセトンは水分を含んでいても使用することができ、またこれらは互いに溶け合う組成の範囲内であれば、2種類以上を混合して使用することもできる。エタノールやアセトンは水を加えるとともに、pHを酸性またはアルカリ性に調整して抽出効率を上げることができる。本発明において、抽出原料と溶媒の比率は原料100重量部に対して溶媒を100から2000重量部、好ましくは200から700重量部である。抽出原料と溶媒の比率が原料100重量部に対して溶媒が100重量部未満では、原料全体に溶媒が行きわたらないため、効果的な抽出が行えない。また、抽出原料と溶媒の比率が原料100重量部に対して溶媒が2000重量部を越えても抽出物の収量が増えず、溶媒の消費が増える分コストアップ要因となる。
【0011】
本発明では、米糠麹中の不純物を除去する目的で、弱アルカリ処理、クロマト処理を行うことができる。また、得られた抽出物は、そのまま、あるいは凍結乾燥法、スプレードライなどの方法を用いて、固体化、粉末化して用いることが出来る。
【0012】
本発明の抗アレルギー剤は、上記の米糠麹抽出物を0.01から50%、好ましくは0.1から30%、より好ましくは1から10%含有する。米糠麹抽出物の含有量が0.01%未満では抗アレルギー性が認められない。また。米糠麹抽出物含有量が50%より多くしても、抗アレルギー性の顕著な増加は認められない。
【0013】
米糠麹抽出物はI型アレルギー反応におけるヒスタミン遊離を抑制する作用を有する。したがって米糠麹抽出物を有効成分とする本発明の抗アレルギー剤は、I型アレルギー反応に起因するアトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、花粉症またはアレルギー性喘息などの予防、治療に特に有用である。
【0014】
また、本発明の抗アレルギー剤は、種々のアレルギー性疾患の予防剤または治療剤、抗炎症剤、ヒスタミン遊離抑制剤として有用である。
【0015】
本発明の抗アレルギー剤は、上記の米糠麹抽出物をそのまま抗アレルギー剤としてもよく、また必要に応じて薬学的に許容される種々の担体、賦形剤、その他の添加剤、その他の成分を配合して製剤化することによって、抗アレルギー製剤とすることができる。この抗アレルギー製剤の剤型は、特に限定されるものではなく、錠剤、粉剤、顆粒剤、カプセル剤などの経口剤、軟膏、ローション、ゲル、点眼剤、点鼻剤などの非経口剤などが挙げられ、常法により製造することができる。また、他の成分として、その他の抗アレルギー作用を有する成分、抗炎症薬、各種ビタミン類、生薬、ミネラル類を適宜配合することができる。
【0016】
本発明の抗アレルギー剤中の上記の米糠麹抽出物の含有量は、ヒスタミン遊離を抑制しうる量であればいかなる量であってもよく、使用形態、抗アレルギー剤の剤型、投与または摂取する者の症状や年齢性別などによって適宜変化させることができる。本発明の抗アレルギー剤を経口投与させる場合には、1人1日当たりの米糠麹抽出物の投与量が10〜3000mgとなるように含有させることが好ましい。
【0017】
以下、本発明を実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0018】
試験例1、抗アレルギー性の測定法
本試験は健常人由来ヘパリン処理末梢血から分離した白血球を用いた抗アレルギー性試験を行った。白血球は、密度勾配法により、Polymorphoprep(Accurate Chemical & Scientific Corp)のプロトコールに従って分離した。
【0019】
試験方法
(1) 活性酸素消去試験
健常人由来ヘパリン処理末梢血から分離した白血球を、ハンクス緩衝液 (HBSS)で5.0×104cell /wellになるように各ウェルに播種し、0〜1.0μg/mLと37℃で15分間プレインキュベーションした。インキュベーション後、白血球を10ng/mLのホルボールエステル(PMA)で刺激した。スーパーオキシドの量は、Cytochrome Cが1電子還元を受けると550nmに強い吸収を持つ還元型に変化することを利用したCytochrome C還元法で測定した。スーパーオキシド発生量は、マイクロプレートリーダー(Molecular Device)で37℃、180分間測定した。
【0020】
ス−パ−オキシド消去能(superoxide scavenging activity 以下「SOSA」と略す)は次の式で算出し、SOSA(%)として表すこととした。SOSA(%)=発生阻害率(%)=(I0-Ii)/I0×100。ここで I0 は対照スーパーオキシド発生量、Ii はサンプルスーパーオキシド発生量である。
【0021】
試験例2、米糠麹の調製例
米糠を市中で購入した米糠10重量部に対してpHを2.0とした乳酸水を3重量部の割合で均一になるまで混合した。次いで、粉状の麹菌(株式会社 樋口松之助商店製)を糠重量に対して5000分の1量添加し均一になるまで混合した。これを湿度が100%、室温35℃の培養槽で48時間培養した。途中24時間目に塊をほぐすように均一に混ぜ合わせて米糠麹とした。
【0022】
試験例3、抗アレルギー剤の調製例
試験例2で調製した米糠麹を温風乾燥機で60℃で48時間乾燥し、乾燥米糠麹とした。乾燥米糠麹1kgを攪拌槽に仕込み、そこにエタノール2Lと水0.4Lを加え、水酸化ナトリウムでpHを7に調整し、常温で5時間撹拌した。その後、濾過により抽出液と残渣を分離した。抽出液をエバポレーターにより濃縮し、抗アレルギー剤1を250gを得た。
【0023】
試験例4、抗アレルギー剤の調製例
上記の米糠麹抽出物10gを、分取用高速液体クロマトグラフィー(ギルソン社製、モデル303)で分画した。カラムとしてデベロシル60−10 φ50mm×500mm(野村化学製)を用い、検出波長は210nm、溶媒はクロロホルム、溶媒流量を50mL/分とした。分画に際し、5分ごとに溶離液を分取し、分取物に含まれる溶媒をロータリーエバポレーターで乾燥して、乾固した分画物を得た。画分各物の抗アレルギー性を試験例1の方法で測定し、最も活性が高かった分画物を抗アレルギー剤2とした。
【実施例1】
【0024】
試験例3で得られた抗アレルギー剤1の抗アレルギー性を試験例1の方法で測定した。結果を図1と図3に示した。図3における添加量は1mg/mlとした。
【実施例2】
【0025】
試験例4で得られた抗アレルギー剤2の抗アレルギー性を試験例1の方法で測定した。結果を図2に示した。
(比較例1)
【0026】
試験例3で用いた米糠麹の代わりに、米糠を用いて、抽出物を200g得た。米糠抽出物の抗アレルギー性を試験例1の方法で測定した。抽出物の添加量は1mg/mlとした。結果を図3に示した。
(比較例2)
【0027】
試験例3で用いた米糠麹の代わりに、ホンシメジを用いて、抽出物を90g得た。米糠抽出物の抗アレルギー性を試験例1の方法で測定した。抽出物の添加量は1mg/mlとした。結果を図3に示した。
(比較例3)
【0028】
試験例3で用いた米糠麹の代わりに、びわ種子を用いて、抽出物を220g得た。米糠抽出物の抗アレルギー性を試験例1の方法で測定した。抽出物の添加量は1mg/mlとした。結果を図3に示した。
(比較例4)
【0029】
試験例3で用いた米糠麹の代わりに、スカルキャップを用いて、抽出物を110g得た。米糠抽出物の抗アレルギー性を試験例1の方法で測定した。抽出物の添加量は1mg/mlとした。結果を図3に示した。
(比較例5)
【0030】
試験例3で用いた米糠麹の代わりに、ハタケシメジを用いて、抽出物を95g得た。米糠抽出物の抗アレルギー性を試験例1の方法で測定した。抽出物の添加量は1mg/mlとした。結果を図3に示した。
(比較例6)
【0031】
試験例3で用いた米糠麹の代わりに、ハトムギを用いて、抽出物を155g得た。米糠抽出物の抗アレルギー性を試験例1の方法で測定した。抽出物の添加量は1mg/mlとした。結果を図3に示した。
(比較例7)
【0032】
試験例3で用いた米糠麹の代わりに、小麦粉を用いて、抽出物を160g得た。米糠抽出物の抗アレルギー性を試験例1の方法で測定した。抽出物の添加量は1mg/mlとした。結果を図3に示した。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】試験例3の抗アレルギー性を示すグラフである。
【図2】試験例4の抗アレルギー性を示すグラフである。
【図3】試験例3と比較例1〜7の抗アレルギー性を比較したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
米糠麹の抽出物を含有することを特徴とする抗アレルギー剤。
【請求項2】
請求項1において,抽出溶媒が水、アルコール類、クロロフォルム、アセトン、アセトニトリル、ヘキサン、酢酸エチルから選ばれる1種以上であることを特徴とする抗アレルギー物質の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の抗アレルギー物質を有効成分とすることを特徴とする抗アレルギー剤。
【請求項4】
請求項1に記載の抗アレルギー物質を含有することを特徴とする健康食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−64975(P2010−64975A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−231907(P2008−231907)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(591032703)群馬県 (144)
【Fターム(参考)】