説明

粉体塗装方法及びガス絶縁開閉装置

【課題】1回の塗装でボイドなどの欠陥を抑制しつつ厚膜を簡易且つ低コストで形成し得る粉体塗装方法を提供する。
【解決手段】粉体塗料と共に液体塗料を被塗装物に塗装する粉体塗装方法であって、前記液体塗料の120℃におけるゲルタイムが10秒以上3分以下、前記液体塗料の25℃における粘度が200mPa・s以上5000mPa・s以下、前記液体塗料の塗装量が前記粉体塗料の20体積%以上100体積%以下であることを特徴とする粉体塗装方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体塗装方法及びガス絶縁開閉装置に関する。詳細には、本発明は、絶縁膜などの各種塗膜を形成するための粉体塗装方法、及び当該粉体塗装方法によって形成される絶縁膜を有するガス絶縁開閉装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高電圧装置、ガス絶縁開閉装置、大型回転機などでは、各種部材の絶縁を行うために絶縁膜を形成している。例えば、ガス絶縁開閉装置では、密閉金属容器の内部に導体を配設し、六フッ化硫黄ガス(SF6)を絶縁媒体として一般に用いているが、その絶縁耐力を向上させるために、導体などの部材の表面に絶縁膜を形成している。このような絶縁膜は、一般に、エポキシ樹脂を含む粉体塗料を流動浸漬法や静電塗装法などの方法によって塗装することにより形成している。しかし、この方法では、粉体塗料を塗装する際、加熱された部材の表面付近では粉体塗料が溶融して良好な絶縁膜を形成することができるものの、絶縁膜が厚くなるにつれて粉体塗料が溶融し難くなり、粉体塗料が溶融して固着する前に粉体塗料が脱落し、厚膜化が困難になる。また、例え粉体塗料の脱落が起きないとしても、粉体塗料が十分に溶融しないため、粉体塗料の間に空隙が生じ、絶縁膜にボイドなどの欠陥が生じ易い。そのため、ある程度の厚さ(例えば、1mm以上)の絶縁膜を形成するためには、塗装を複数回に分けて行う必要がある。
【0003】
一方、1回の塗装で厚い塗膜を形成する方法として、特許文献1では、被塗装物の表面を塗膜の厚さに必要な高さの枠体で囲繞し、枠体内の被塗装物上に粉体塗料を充填して溶融させる方法が提案されている。また、特許文献2では、エポキシ樹脂、顔料、非水性稀釈材及び硬化剤を含有する塗料において、顔料中に塗料固形分の15〜30重量%のシラン基側鎖を持つシラン架橋ポリエチレン材を混合した塗料を用いて塗装する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−160082号公報
【特許文献2】特公平1−19701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法は、被塗装物の表面に塗膜に対応する枠体を設ける必要があるため、手間がかかるだけでなく製造コストも増大する。また、特許文献2の方法は、水分の存在下で反応が開始して硬化するため、水分の存在を嫌う部材には適用することが難しい。また、特許文献2の方法に用いられる塗料は、ポットライフが20℃で1.5時間程度と非常に短く、作業性にも欠ける。
【0006】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、1回の塗装でボイドなどの欠陥を抑制しつつ厚膜を簡易且つ低コストで形成し得る粉体塗装方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記のような問題を解決すべく鋭意研究した結果、粉体塗料を所定の特性を有する液体塗料と共に所定の割合で被塗装物に塗装することで、厚い塗膜を形成する際に、液体塗料が、粉体塗料の接着剤として作用すると共に粉体塗料の間の空隙を充填してボイドなどの欠陥を抑制し得ることを見出した。
すなわち、本発明は、粉体塗料と共に液体塗料を被塗装物に塗装する粉体塗装方法であって、前記液体塗料の120℃におけるゲルタイムが10秒以上3分以下、前記液体塗料の25℃における粘度が200mPa・s以上5000mPa・s以下、前記液体塗料の塗装量が前記粉体塗料の20体積%以上100体積%以下であることを特徴とする粉体塗装方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、1回の塗装でボイドなどの欠陥を抑制しつつ厚膜を簡易且つ低コストで形成し得る粉体塗装方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
本実施の形態の粉体塗装方法は、粉体塗料を液体塗料と共に被塗装物に塗装することを特徴とする。
本実施の形態の粉体塗装方法に用いられる粉体塗料としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。ここで、本明細書において「粉体塗料」とは、常温(25℃)で粉末状態の塗料を意味する。
【0010】
本実施の形態の粉体塗装方法に用いるのに好ましい粉体塗料としては、基体樹脂、硬化剤及び充填材を含む。
粉体塗料に用いられる基体樹脂としては、常温(25℃)で固体状態であれば特に限定されず、一般にエポキシ樹脂である。エポキシ樹脂の例としては、特に限定されないが、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ブロム化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ブロム化ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ブロム化ビスフェノールAD型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂;脂環式エポキシ樹脂やブロム化脂環式エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ブロム化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ブロム化クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0011】
粉体塗料に用いられる基体樹脂の重量平均分子量は、使用する基体樹脂の種類によって異なるため、一義的に定義することはできない。粉体塗料に用いられる基体樹脂の重量平均分子量は、常温(25℃)で固体状態となるような範囲であればよい。ここで、本明細書において「重量平均分子量」とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求められた値を意味する。
【0012】
粉体塗料に用いられる硬化剤としては、特に限定されず、使用する基体樹脂に応じて適宜選択すればよい。硬化剤の例としては、特に限定されないが、酸無水物、アミド系化合物、フェノール系化合物、イミダゾール化合物が挙げられる。これらの硬化剤は、単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0013】
酸無水物の例としては、特に限定されないが、フタル酸無水物、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、エチレングリコール無水トリメリット酸、ビフェニルテトラカルボン酸無水物などの芳香族カルボン酸無水物;アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族カルボン酸の無水物;テトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、ナジック酸無水物、クロレンド酸無水物、ハイミック酸無水物などの脂環式カルボン酸無水物が挙げられる。これらは単独又は2種以上を混合して用いることができる。
酸無水物の配合量は、エポキシ樹脂のエポキシ基に対するカルボキシル基の当量比が、一般に0.3以上1.5以下、好ましくは0.5以上1.2以下となるような量である。当該当量比が0.3より小さいと耐熱性が低下し、当該当量比が1.5より大きいとポットライフが短くなる傾向にある。
【0014】
アミド系化合物の例としては、ジシアンジアミド、リノレン酸の2量体とエチレンジアミンとから合成されるポリアミド樹脂が挙げられる。これらは単独又は2種以上を混合して用いることができる。
アミド系化合物の配合量は、エポキシ樹脂のエポキシ基に対するアミド系化合物の当量比が、一般に0.2以上2.0以下、好ましくは0.3以上1.5以下となるような量である。当該当量比が0.2より小さいと耐熱性が低下し、当該当量比が2.0より大きいとポットライフが短くなる傾向にある。
【0015】
フェノール系化合物の例としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、4,4’−ビフェニルフェノール、2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリレン−ビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェノール)、トリスヒドロキシフェニルメタン、ピロガロール、ジイソプロピリデン骨格を有するフェノール類、1,1−ジ−4−ヒドロキシフェニルフルオレンなどのフルオレン骨格を有するフェノール類、フェノール化ポリブタジエンなどのポリフェノール化合物、各種のノボラック樹脂及びこれらのフェノール系化合物のハロゲン化物が挙げられる。ここで、各種のノボラック樹脂の例としては、フェノール、クレゾール類、エチルフェノール類、ブチルフェノール類、オクチルフェノール類、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ナフトール類などの各種フェノールを原料とするノボラック樹脂、キシリレン骨格含有フェノールノボラック樹脂、ジシクロペンタジエン骨格含有フェノールノボラック樹脂、フルオレン骨格含有フェノールノボラック樹脂が挙げられる。これらは単独又は2種以上を混合して用いることができる。
フェノール系化合物の配合量は、エポキシ樹脂のエポキシ基に対するフェノール系化合物の当量比が、一般に0.2以上2.0以下、好ましくは0.3以上1.5以下となるような量である。当該当量比が0.2より小さいと耐熱性が低下し、当該当量比が2.0より大きいとポットライフが短くなる傾向にある。
【0016】
イミダゾール化合物の例としては、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、2,4−ジアミノ−6(2’−メチルイミダゾール(1’))エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6(2’−ウンデシルイミダゾール(1’))エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6(2’−エチル,4−メチルイミダゾール(1’))エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6(2’−メチルイミダゾール(1’))エチル−s−トリアジン・イソシアヌル酸付加物、2−メチルイミダゾール・イソシアヌル酸の2:3付加物、2−フェニルイミダゾール・イソシアヌル酸付加物、2−フェニル−3,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−ヒドロキシメチル−5−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニル−3,5−ジシアノエトキシメチルイミダゾールが挙げられる。これらは単独又は2種以上を混合して用いることができる。
イミダゾール化合物の配合量は、基体樹脂100質量部に対して一般に0.01質量部以上10質量部以下、好ましくは0.05質量部以上5質量部以下である。当該配合量が0.01質量部未満であると硬化が不十分となり、当該配合量が10質量部より大きいとポットライフが短くなる傾向にある。
【0017】
粉体塗料に用いられる充填材としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。充填材の例としては、アルミナ、炭酸カルシウム、シリカなどの無機充填材や、ポリアミド樹脂などの有機充填材が挙げられる。無機充填材を配合すれば、塗膜の線膨張係数が被塗装物の線膨張係数に近くなり、塗膜と被塗装物との接着性を向上させることが可能になる。また、有機充填材を配合すれば、塗膜の応力緩和を高めることができ、塗膜と被塗装物との接着性を向上させることが可能になる。
【0018】
粉体塗料は、上記の成分に加えて、着色剤、カップリング剤、レベリング剤、潤滑剤、応力緩和剤などを必要に応じて含有することができる。これらの成分は、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。また、これらの成分の配合量は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば特に限定されない。
【0019】
粉体塗料は、上記の成分を用い、公知の方法により製造することができる。例えば、まず、ミキサーやブレンダーなどの混合装置を用いて上記の成分を乾式混合した後、ニーダーなどを用いて溶融混練して冷却する。その後、混練物を、機械式又は気流式の粉砕機を用いて粉砕した後、分級機を用いて分級し、特定のサイズの粉体塗料を得ることができる。
【0020】
このようにして製造される粉体塗料の平均粒径は、形成する塗膜の厚さの0.05倍以上1.5倍以下であることが好ましく、一般には30μm以上100μm以下である。ここで、本明細書における「平均粒径」とは、目開きの異なるいくつかの篩を用い、その目開きを通過する割合を測定した値、又はレーザー回折式測定装置を用いて測定した値を意味する。なお、平均粒径が篩を用いて測定される場合、積算値50%の粒度のときの値を平均粒径とする。粉体塗料の平均粒径が、形成する塗膜の厚さの0.05倍未満であると、塗膜を形成するのに時間がかかりすぎることがある。一方、粉体塗料の平均粒径が、形成する塗膜の厚さの0.1倍を超えると、被塗装物から粉体塗料が脱落してしまうことがある。
【0021】
本実施の形態の粉体塗装方法に用いられる液体塗料としては、その種類は特に限定されないが、120℃におけるゲルタイムが10秒以上3分以下、好ましくは15秒以上2分以下であり、且つ25℃における粘度が200mPa・s以上5000mPa・s以下であることが必要である。ここで、本明細書において「液体塗料」とは、常温(25℃)で液体状態の塗料を意味する。また、本明細書における「120℃におけるゲルタイム」とは、ゲル化試験機(安田精機製作所製)を用いて測定された値を意味する。また、本明細書における「25℃における粘度」とは、25℃でE型粘度計により測定された値を意味する。
【0022】
当該ゲルタイムが10秒未満であると、液体塗料が粉体塗料の間の空隙を充填する前に硬化してしまい、塗膜中にボイドなどの欠陥が生じてしまう。一方、当該ゲルタイムが3分を超えると、塗膜に粉体塗料を十分に保持することができず、厚い塗膜を形成することができない。
また、当該粘度が200mPa・s未満であると、粉体塗料の接着剤としての作用が十分に得られず、厚い塗膜を形成することができなかったり、液体塗料が粉体塗料の間の空隙に保持されず、塗膜中にボイドなどの欠陥が生じてしまう。一方、当該粘度が5000mPa・sを超えると、液体塗料が粉体塗料の間の空隙に流入せず、塗膜中にボイドなどの欠陥が生じてしまう。
【0023】
本実施の形態の粉体塗装方法に用いるのに好ましい液体塗料としては、基体樹脂及び硬化剤を含む。
液体塗料に用いられる基体樹脂としては、常温(25℃)で液体状態であれば特に限定されず、一般にエポキシ樹脂である。エポキシ樹脂の例としては、特に限定されないが、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ブロム化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ブロム化ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ブロム化ビスフェノールAD型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂;脂環式エポキシ樹脂やブロム化脂環式エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ブロム化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ブロム化クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0024】
液体塗料に用いられる基体樹脂の重量平均分子量は、使用する基体樹脂の種類によって異なるため、一義的に定義することはできない。液体塗料に用いられる基体樹脂の重量平均分子量は、常温(25℃)で液体状態となるような範囲であればよい。
【0025】
液体塗料に用いられる硬化剤としては、特に限定されず、使用する基体樹脂に応じて適宜選択すればよい。硬化剤の例としては、特に限定されないが、酸無水物、アミド系化合物、フェノール系化合物、イミダゾール化合物が挙げられる。これらの硬化剤の例及びその配合量は、粉体塗料に用いられる硬化剤の例及びその配合量と同じであるため、省略する。また、これらの硬化剤は、単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0026】
液体塗料は、上記の成分に加えて、反応性希釈剤、硬化触媒、充填材、着色剤、カップリング剤、レベリング剤、潤滑剤、応力緩和剤などを必要に応じて含有することができる。
【0027】
液体塗料に用いられる反応性希釈剤としては、特に限定されないが、例えば、スチレン、1−メチル−2−ビニルベンゼン、1−エチル−2−ビニルベンゼン、1−プロピル−2−ビニルベンゼン、1−メチル−3−ビニルベンゼン、1−エチル−3−ビニルベンゼン、1−プロピル−3−ビニルベンゼン、1−エチル−4−ビニルベンゼン、1−プロピル−4−ビニルベンゼン、1,2−メチル−4−ビニルベンゼン、1,3−メチル−4−ビニルベンゼン、1,4−メチル−4−ビニルベンゼン、1,2−エチル−4−ビニルベンゼン、1,3−エチル−4−ビニルベンゼン、1,4−エチル−4−ビニルベンゼン、1,2−メチル−5−ビニルベンゼン、1,3−メチル−5−ビニルベンゼン、1,4−メチル−5−ビニルベンゼン、1,2−エチル−5−ビニルベンゼン、1,3−エチル−5−ビニルベンゼン、1,4−エチル−5−ビニルベンゼン、1,2−メチル−6−ビニルベンゼン、1,3−メチル−6−ビニルベンゼン、1,4−メチル−6−ビニルベンゼン、1,2−エチル−6−ビニルベンゼン、1,3−エチル−6−ビニルベンゼン、1,4−エチル−6−ビニルベンゼン、o−t−ブチルスチレン、m−t−ブチルスチレン、p−t−ブチルスチレンが挙げられる。これらは単独又は2種以上を混合して用いることができる。
反応性希釈剤の配合量は、基体樹脂100質量部に対して一般に0.01質量部以上10質量部以下、好ましくは0.05質量部以上5質量部以下である。当該配合量が0.01質量部未満であると硬化が不十分となり、当該配合量が10質量部より大きいとポットライフが短くなる傾向にある。
【0028】
液体塗料に用いられ硬化触媒としては、特に限定されないが、例えば、過酸化物やカルボン酸金属塩、より具体的にはオクチル酸亜鉛、オクチル酸鉄、オクチル酸錫、ナフチル酸亜鉛、ナフチル酸鉄、ナフチル酸錫、2,5−ジメチル−2,5(ジベンゾイルパーオキシ)ヘキサンなどが挙げられる。これらは単独又は2種以上を混合して用いることができる。
液体塗料中の硬化触媒の配合量は、0.001質量%以上20質量%以下が好ましい。当該配合量が0.001質量%未満であると塗膜の耐熱性や機械的強度が低下し、当該配合量が20質量%よりも多いとポットライフが短くなる傾向にある。
【0029】
充填材、着色剤、カップリング剤、レベリング剤、潤滑剤、応力緩和剤などの成分については、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。また、これらの成分の配合量は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば特に限定されない。
【0030】
液体塗料は、上記の成分を、ミキサーやブレンダーなどの公知の混合装置などを用いて混合することによって製造することができる。
【0031】
本実施の形態の粉体塗装方法は、上記のような粉体塗料及び液体塗料を用い、これらを被塗装物に塗装する。
塗装方法としては、特に限定されず、公知の塗装方法を用いることができる。例えば、粉体塗料については、静電塗装方法、流動浸漬法、静電流動浸漬法などの方法を用いることができる。また、液体塗料については、スプレー塗装などの方法を用いることができる。
また、塗装の際、粉体塗料を溶融して被塗装物に固着させるために被塗装物を加熱する。被塗装物の加熱温度は、特に限定されず、使用する粉体塗料の種類に応じて適宜設定すればよい。一般に、当該加熱温度は、100℃以上240℃以下である。
【0032】
粉体塗料及び液体塗料の塗装は、同時に行っても交互に行ってもよいが、塗装時間などの観点から、同時に行うことが好ましい。また、粉体塗料及び液体塗料の塗装は、同一の塗装装置を用いても別々の塗装装置を用いて行ってもよいが、粉体塗料の凝集を防止する観点から、別々の塗装装置を用いて行うことが好ましい。
【0033】
粉体塗料及び液体塗料の塗装は、液体塗料の塗装量が粉体塗料の20体積%以上100体積%以下となるような割合で塗装する必要がある。液体塗料の塗装量が20体積%未満であると、液体塗料の割合が少なすぎてしまい、塗膜に粉体塗料を十分に保持することができず、厚い塗膜を形成することができない。一方、液体塗料の塗装量が100体積%を超えると、液体塗料の割合が多すぎてしまい、塗膜を厚膜化すること自体が難しくなる。
【0034】
粉体塗料及び液体塗料の塗装におけるその他の条件(例えば、塗装時間など)については、所望とする膜厚や、使用する塗装装置、粉体塗料及び液体塗料の種類に応じて適宜調整すればよく、特に限定されない。
【0035】
粉体塗料及び液体塗料を塗装する被塗装物としては、特に限定されず、例えば、鋼材、アルミ材などの金属材、ガラス、コンクリート、特殊樹脂などが挙げられる。
【0036】
粉体塗料及び液体塗料の塗装後、塗膜の硬化を十分なものとするために、必要に応じて加熱処理を行ってもよい。この時の加熱条件については、特に限定されず、使用する粉体塗料及び液体塗料の種類に応じて適宜設定すればよい。一般に、加熱温度は100℃以上240℃以下、加熱時間は10分以上3時間以内である。
【0037】
上記のようにして塗装を行うことにより、1回の塗装でボイドなどの欠陥を抑制しつつ膜厚化を行うことができる。
形成される塗膜の厚さは、特に限定されないが、好ましくは1mm以上、より好ましくは1.2mm以上5mm以下である。また、形成された塗膜に存在するボイドなどの欠陥は、一般に5個/mm以下であり、その最大サイズも100μm以下である。
【0038】
本実施の形態の粉体塗装方法は、1回の塗装でボイドなどの欠陥を抑制しつつ厚膜を形成することができるので、従来の粉体塗装方法に比べて、簡易であると共にコストも削減することができる。
【0039】
上記のようにして形成される塗膜は、絶縁性に優れているため、高電圧装置、ガス絶縁開閉装置、大型回転機などにおける各種部材の絶縁を行う絶縁膜として使用することができる。特に、この塗膜は、六フッ化硫黄ガス(SF6)を絶縁媒体として用いるガス絶縁開閉装置の絶縁膜として使用するのに最適である。
【実施例】
【0040】
(実施例1)
エポキシ樹脂A(常温で固状のビスフェノールA型エポキシ樹脂、重量平均分子量1200)100質量部、エポキシ樹脂B(常温で固状のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、重量平均分子量1400)30質量部、硬化剤A(ジシアンジアミド)7質量部、硬化剤B(イミダゾール)3質量部、及び充填材(アルミナ)15質量部をミキサーを用いて乾式混合した後、2軸ニーダーを用いて溶融混練した。次に、得られた混練物を冷却して固化した後、粉砕機を用いて粉砕し、分級機を用いて分級することによって、平均粒径が40μmの粉体塗料を得た。
他方、エポキシ樹脂C(常温で液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂、重量平均分子量1000)100質量部、エポキシ樹脂D(常温で液状のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、重量平均分子量1200)20質量部、及び硬化剤(イミダゾール)10質量部をミキサーを用いて混合することによって、液体塗料を得た。得られた液体塗料は、25℃における粘度が3400mPa・sであり、120℃におけるゲルタイムが2分であった。
次に、上記で得られた粉体塗料及び液体塗料を用いて導体(被塗装物)に塗装を行った。塗装の際、被塗装物を120℃に加熱し、静電塗料用スプレーガンを用いて粉体塗料を静電塗装すると同時に、スプレーを用いて液体塗料も塗装した。このとき、粉体塗料と液体塗料との体積比が100:50となるように設定した。その後、塗膜を完全に硬化させるため、塗膜を120で15分間加熱し、さらに180℃で30分間加熱した。
【0041】
(実施例2)
エポキシ樹脂Dの配合量を50質量部、及び硬化剤の配合量を15質量部に変えたこと以外は実施例1と同様にして液体塗料を作製した。得られた液体塗料は、25℃における粘度が5000mPa・sであり、120℃におけるゲルタイムが1分であった。
次に、上記で得られた液体塗料を用いたこと以外は実施例1と同様にして被塗装物に塗膜を形成した。
【0042】
(実施例3)
エポキシ樹脂Dの配合量を5質量部に変えたこと以外は実施例1と同様にして液体塗料を作製した。得られた液体塗料は、25℃における粘度が200mPa・sであり、120℃におけるゲルタイムが2分であった。
次に、上記で得られた液体塗料を用いたこと以外は実施例1と同様にして被塗装物に塗膜を形成した。
【0043】
(実施例4)
エポキシ樹脂E(常温で液状のブロム化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、重量平均分子量1500)10質量部をさらに加えると共に、硬化剤の配合量を8質量部に変えたこと以外は実施例1と同様にして液体塗料を作製した。得られた液体塗料は、25℃における粘度が2000mPa・sであり、120℃におけるゲルタイムが3分であった。
次に、上記で得られた液体塗料を用いたこと以外は実施例1と同様にして被塗装物に塗膜を形成した。
【0044】
(実施例5)
硬化剤Bの配合量を15質量部に変えたこと以外は実施例1と同様にして平均粒径が40μmの粉体塗料を作製した。
次に、上記で得られた粉体塗料を用いたこと以外は実施例1と同様にして被塗装物に塗膜を形成した。
【0045】
(実施例6)
粉体塗料と液体塗料との体積比が100:100となるように設定して塗装を行ったこと以外は実施例2と同様にして被塗装物に塗膜を形成した。
(実施例7)
粉体塗料と液体塗料との体積比が100:20となるように設定して塗装を行ったこと以外は実施例3と同様にして被塗装物に塗膜を形成した。
【0046】
(比較例1)
エポキシ樹脂Dの配合量を100質量部に変えたこと、及び硬化剤の配合量を12質量部に変えたこと以外は実施例1と同様にして液体塗料を作製した。得られた液体塗料は、25℃における粘度が6000mPa・sであり、120℃におけるゲルタイムが1.5分であった。
次に、上記で得られた液体塗料を用いたこと以外は実施例1と同様にして被塗装物に塗膜を形成した。
【0047】
(比較例2)
エポキシ樹脂Dの変わりに酸無水物80質量部を用いたこと、及び硬化剤の配合量を5質量部に変えたこと以外は実施例1と同様にして液体塗料を作製した。得られた液体塗料は、25℃における粘度が150mPa・sであり、120℃におけるゲルタイムが1.5分であった。
次に、上記で得られた液体塗料を用いたこと以外は実施例1と同様にして被塗装物に塗膜を形成した。
【0048】
(比較例3)
エポキシ樹脂Dの配合量を10質量部に変えたこと、及び硬化剤の配合量を3質量部に変えたこと以外は実施例1と同様にして液体塗料を作製した。得られた液体塗料は、25℃における粘度が2000mPa・sであり、120℃におけるゲルタイムが10分であった。
次に、上記で得られた液体塗料を用いたこと以外は実施例1と同様にして被塗装物に塗膜を形成した。
【0049】
(比較例4)
エポキシ樹脂Dの配合量を10質量部に変えたこと、及び硬化剤の配合量を40質量部に変えたこと以外は実施例1と同様にして液体塗料を作製した。得られた液体塗料は、25℃における粘度が2000mPa・sであり、120℃におけるゲルタイムが8秒であった。
次に、上記で得られた液体塗料を用いたこと以外は実施例1と同様にして被塗装物に塗膜を形成した。
【0050】
(比較例5)
粉体塗料と液体塗料との体積比が100:15となるように設定して塗装を行ったこと以外は実施例3と同様にして被塗装物に塗膜を形成した。
(比較例6)
粉体塗料と液体塗料との体積比が100:200となるように設定して塗装を行ったこと以外は実施例3と同様にして被塗装物に塗膜を形成した。
【0051】
実施例1〜7及び比較例1〜6で形成された塗膜について、渦電流式膜厚計を用いて膜厚を測定した。また、レーザー顕微鏡及び超音波顕微鏡を用いて塗膜内のボイドの最大径及び存在確率を測定した。これらの結果を表1に示す。
次に、塗膜を形成した導体(被塗装物)を、接地した金属容器内に配置し、容器内にSF6ガスを充填した。その後、導体に高電圧を印加して、塗膜表面の絶縁破壊電界を測定した。絶縁破壊電界の結果は、塗膜を形成していない導体を用いた場合の結果を基準とし、当該基準に対する相対値として評価した。その結果を表1に示す。
なお、表1では、粉体塗料及び液体塗料の組成などについてもまとめた。組成については、単位は質量部である。
【0052】
【表1】

【0053】
表1の結果に示されているように、実施例1〜7では、ボイドが少ないと共に最大ボイド径も小さく、さらに絶縁性にも優れた1μm以上の厚膜を形成することができたのに対し、比較例1〜6では、1μm以上の厚膜を形成できないか、又は1μm以上の厚膜を形成できても大きなボイドが多かった。特に、比較例1及び2では、液体塗料の25℃における粘度が所定の範囲内にないため、塗膜中に大きなボイドが多く生じてしまった。また、比較例3及び4では、液体塗料の120℃におけるゲルタイムが所定の範囲内にないため、厚膜化することができないと共に塗膜中に大きなボイドが多く生じてしまった。また、比較例5及び6では、粉体塗料と液体塗料との体積比が所定の範囲内にないため、厚膜化することができなかった。
【0054】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、1回の塗装でボイドなどの欠陥を抑制しつつ厚膜を簡易且つ低コストで形成し得る粉体塗装方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体塗料と共に液体塗料を被塗装物に塗装する粉体塗装方法であって、
前記液体塗料の120℃におけるゲルタイムが10秒以上3分以下、前記液体塗料の25℃における粘度が200mPa・s以上5000mPa・s以下、前記液体塗料の塗装量が前記粉体塗料の20体積%以上100体積%以下であることを特徴とする粉体塗装方法。
【請求項2】
前記粉体塗料及び前記液体塗料を同時に塗装することを特徴とする請求項1に記載の粉体塗装方法。
【請求項3】
前記粉体塗料及び前記液体塗料を別々の塗装装置を用いて塗装することを特徴とする請求項1又は2に記載の粉体塗装方法。
【請求項4】
前記粉体塗料は、25℃で固体のエポキシ樹脂、硬化剤及び充填材を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の粉体塗装方法。
【請求項5】
前記液体塗料は、25℃で液体のエポキシ樹脂及び硬化剤を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の粉体塗装方法。
【請求項6】
絶縁膜を有するガス絶縁開閉装置であって、
前記絶縁膜が、請求項1〜5のいずれか一項に記載の粉体塗装方法によって形成されていることを特徴とするガス絶縁開閉装置。

【公開番号】特開2012−139620(P2012−139620A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292714(P2010−292714)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】