説明

粉末冶金用原料粉末及びその製造方法

【課題】圧縮方向に段差を有する形状の成形体を成形するにあたり、パンチを分割しない段付きパンチで成形しても成形体各部の密度差が小さい粉末冶金用の原料粉末を提供するとともに、長時間の脱脂工程が不要である粉末冶金用の原料粉末を提供する。
【解決手段】鉄粉末及び/又は鉄合金粉末100質量部に対して0.02〜2.0質量部の、常温で固体状のシリコーンを混合させて粉末冶金用原料粉末を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末冶金法で用いられる原料粉末に関し、特に、金型の型孔に原料粉末を充填してこれを上下パンチにより成形する押型成形に用いられる原料粉末及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末冶金法は、金属粉末等からなる原料粉末を所定の形状及び寸法に固め、これを溶融しない温度で加熱することにより、粉末粒子を強固に結合して金属製品を製造する技術であり、一般に、金属粉末等を所定の比率で混合して原料粉末を調整する混合工程、混合工程により得られた原料粉末を成形する成形工程、成形工程により得られた成形体を焼結する焼結工程からなる。このような粉末冶金法によれば、ニアネットシェイプに造形することができ、かつ、大量生産に向くこと、及び溶製材料では得られない特殊な材料を製造できること、等の特長から、自動車用機械部品や各種産業用の機械部品に適用が進んでいる。
【0003】
上記の成形において、原料粉末を金型の型孔に充填してこれを上下パンチで圧縮成形して押し固める押型法は、一度、金型を作製すれば、同じ形状、寸法の成形体を多量に作製できることから広く採用されており、例えば、図1に示す自動車用機械部品にも適用されている。図1(a)は自動車用機械部品の平面図であり、図1(b)は自動車用機械部品のI−I中心線に沿って切った場合の断面図(中心線より左側)であり、図1(c)は自動車用機械部品の斜視図である。
【0004】
しかしながら、押型法は、単軸成形であること、金属粉末を金型内で圧縮移動させて緻密化する方法であることから、形状によっては成形後に得られる成形体の密度にある程度の制約が生じる。すなわち、円筒形状のものは、上下パンチにより押圧する両押し成形とした場合でも、成形体中央部分の密度は、成形体両端部の密度に比して低くなる傾向を有している。また、圧縮方向に段差を有する形状の場合、各部の密度を均一にするために、段毎にパンチを分割して、それぞれ動作させる必要があるが、それぞれのパンチの稼働タイミングを調整して制御する必要があるため、各部の密度を均一にすることは難しい。
【0005】
図2は、自動車用機械部品を成形する場合の工程図の一例を示す図である。図1の自動車用機械部品を成形する場合、例えば、図2に示すように、上下パンチとも3つに分割したパンチを用い、ボス部1を上第1パンチ41及び下第1パンチ31、リム部2を上第2パンチ42及び下第2パンチ32、歯部3を上第3パンチ43及び下第3パンチ33で成形する。
【0006】
原料粉末01は、ダイス10の型孔11とコアロッド20と下第1パンチ31、下第2パンチ32及び下第3パンチ33とで形成されるキャビティに充填される(図2(a))。次いで、充填された原料粉末01に、上第1パンチ41、上第2パンチ42及び上第3パンチ43を当接させた後(図2(b))、上第2パンチ42と下第2パンチ32を降下させて、上第2パンチ42と下第2パンチ32間の原料粉末01を所定の位置まで移動させる(図2(c))。その後、上第1パンチ41、上第2パンチ42及び上第3パンチ43と、下第1パンチ31、下第2パンチ32及び下第3パンチ33により原料粉末01を圧縮して、成形体02を成形する(図2(d))。成形完了後、成形体02がダイス10より抜き出される(図2(e))。
【0007】
しかしながら上記の成形方法においては、金型装置が複雑となるとともに、各部の緻密な制御が必要となることからプレス装置も高価なCNC(Computerized Numerically Controlled)プレス装置が必要となる。また、このように手間をかけて成形しても、成形体のボス部1、リム部2及び歯部3の密度を均一にすることは難しく、各部である程度の密度の差が生じてしまう。
【0008】
また、焼結機械部品の強度は密度に依存するため、成形体各部の密度差が大きいと、得られる焼結機械部品の強度は、密度の一番小さい部分によって決定されることとなるため、成形体各部の密度差は小さくすることが望ましい。
【0009】
このような状況の下、安価なプレス装置を用いるとともに単純な構造の金型を用いて、形状が複雑で、かつ大型の粉末成形品を成形し、密度が均一で高精度の焼結品を得る成形方法が提案されている。この方法では、原料粉末に30〜60体積%の有機バインダーを混合・混練し、混合・混練して得られた混合物を、金型に充填してプレス装置で押型成形するものである(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平08−073902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献1は、原料粉末に多量の有機バインダー等を添加するため、成形工程により得られた成形体を焼結する焼結工程において、多量の有機バインダーを除去する必要があり、この除去のため長時間の脱脂工程が必要となる。すなわち、多量のバインダーを加熱して熱分解するに際しては、成形体に含まれるバインダーが一気に揮散すると、揮散の際に生じるガス膨張により成形体が崩れる虞があることから、多量の有機バインダーを徐々に揮散除去しなければならない。また、有機バインダーにより原料粉末が結合されていることから、これを除去した後の脱脂体は極めて脆く崩れやすいもので、取扱いが難しいものである。
【0012】
これらのことから、本発明は、圧縮方向に段差を有する形状の成形体を成形するにあたり、パンチを分割しない段付きパンチで成形しても成形体各部の密度差が小さい粉末冶金用の原料粉末を提供するとともに、長時間の脱脂工程が不要である粉末冶金用の原料粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成する本発明の第1の粉末冶金用原料粉末は、鉄粉末及び/又は鉄合金粉末と、前記鉄粉末及び/又は鉄合金粉末100質量部に対して0.02〜2.0質量部のシリコーン粉末を添加し混合したことを特徴とする。
【0014】
また、第2の粉末冶金用原料粉末は、鉄粉末及び/又は鉄合金粉末からなる主原料粉末に副原料粉末を添加混合してなる混合粉末の100質量部に対して、0.02〜2.0質量部の、シリコーン粉末を添加し混合したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の粉末冶金用原料粉末によれば、圧縮方向に段差を有する形状の成形体を成形するにあたり、パンチを分割しない段付きパンチで成形しても成形体各部の密度差が小さい成形体を得ることができる。また、分割したパンチを用いた場合においては、成形体各部の密度差をより小さくすることができる。さらに、得られた成形体は、多量の樹脂等を含有しないものであり、長時間の脱脂工程が不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】押型法にて成形される自動車用機械部品の一例であり、図1(a)は平面図、図1(b)はI−I中心線に沿って切った場合の部分断面図(中心線より左側が断面に相当)、図1(c)は斜視図である。
【図2】図1の自動車用機械部品の成形工程を示す模式図である。
【図3】本発明の粉末冶金用原料粉末を用いて、圧縮方向に段差を有する形状の成形体を、パンチを分割しない段付きパンチで成形する際の成形工程を示す模式図である。
【図4】成形体の形状を示す斜視図(図4(a))、実施例で成形した成形体の形状、寸法を示す断面図(図4(b))、及び実施例において評価した密度測定部を示す斜視断面図(図4(c))である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の詳細及びその他の特徴、利点について発明の実施の形態に基づいて説明する。
【0018】
図3は、本発明の粉末冶金用原料粉末を用いて、圧縮方向に段差を有する形状の成形体を、パンチを分割しない段付きパンチで成形する際の成形工程を示す模式図である。なお、図2に示す工程図における構成要素と同一あるいは類似の構成要素に関しては、同一の参照数字を用いている。
【0019】
図3に示すように、本実施形態では、パンチを分割しない段付きパンチを用いて粉末冶金用原料粉末を圧縮して成形する。
【0020】
原料粉末01は、ダイス10の型孔11、コアロッド20、下パンチ30及び上パンチ40により形成されるキャビティに充填される(図3(a))。次いで、充填された原料粉末01に、上パンチ40を当接させた後、上パンチ40と、下パンチ30とにより原料粉末01を圧縮して(図3(b))、成形体02を成形する(図3(c))。成形完了後、成形体02がダイス10より抜き出される。
【0021】
本発明の粉末冶金用原料粉末においては、鉄粉末と、常温で固体状となるシリコーン粉末とが混合されていることから、鉄粉末同士の摩擦係数が低いものとなる。このため、キャビティに充填した原料粉末を圧縮する際に、鉄粉末が滑り、加圧圧力の低い側に流入して再配列されることとなる。このため、図3に示すように、圧縮方向に段差を有する形状の成形体を、パンチを分割しない段付きパンチで成形しても、図3(b)に示すように、加圧力の高い部位から、加圧力の低い部位に粉末が流動して再配列される結果、各部の密度が均一化して、成形後に得られる成形体の各部の密度差が小さいものとなる。
【0022】
上記のように鉄粉末の摩擦係数を低減して、加圧成形時の圧力に対して鉄粉末が流動する効果を得るためには、シリコーンが鉄粉末の間隙に存在し、鉄粉末同士が直接接触するのを抑制する必要がある。このため、本発明において、シリコーンは常温で固体のシリコーン粉末の形態で原料粉末に添加、混合される。
【0023】
シリコーンはオルガノポリシロキサン類の総称であり、油、ゴム、樹脂等の性状をもつものがあるが、この点でシリコーンゴムもしくはシリコーン樹脂が適している。また、鉄粉末の間隙に存在し、鉄粉末同士が直接接触するのを抑制するものであれば、シリコーンゴムやシリコーン樹脂に限らず、シリコーンレジンなどを用いてもよい。一方、シリコーン油は、常温で液体状であるため、液体の凝集力により原料粉末を引き付け原料粉末の流動性が低下し、原料粉末の充填性を損なうこととなる。したがって、本発明におけるシリコーンとしては適当でない。
【0024】
なお、シリコーン樹脂には、例えばメチル基の含有量が高く、400〜500℃まで加熱しても分解しない耐熱性の高いものがあるが、このような耐熱温度の高いシリコーン樹脂を用いる場合は、焼結工程おける昇温時にシリコーン樹脂の分解温度近辺で一旦恒温保持して、シリコーン樹脂を完全に分解、除去した後、焼結温度まで昇温させればよい。しかしながら、一般の粉末冶金用原料粉末においては、上記のように成形潤滑剤が添加される場合があるので、シリコーン樹脂として分解温度が200〜400℃程度の、汎用のシリコーン樹脂を用いれば、成形潤滑剤の分解、除去の為の脱ロウ工程で、シリコーン樹脂の除去も併せて行えるため、焼結条件を変更せず済むこととなり、好ましい。
【0025】
本発明で使用するシリコーンゴム及びシリコーン樹脂は、上述した要件を満足するような市販のものから適宜に選択して使用することができる。例えば、ダウコーニング社製のトレフィルR−900,R−902A,R−910,E−500,E−600,E−601,E−604,EP−5500,EP−2600,EP−2601,EP−2720,E−606(総て商品名)などを使用することができる。
【0026】
また、本発明の粉末冶金用原料粉末においては、鉄粉末に対してシリコーンが共存しており、これによって上述のような十分に高い潤滑性を付与することができることから、特許文献1のように有機バインダーを使用する必要はない。その結果、脱脂工程を長時間に亘って行う必要はない。
【0027】
鉄粉末に添加するシリコーン粉末は、鉄粉末100質量部に対して0.02質量部に満たないと上記効果が乏しく、一方、鉄粉末100質量部に対して2.0質量部を超えると焼結に際してシリコーンを除去する時間が長くなる。このことから、鉄粉末に添加するシリコーン粉末の量を、鉄粉末100質量部に対して0.02〜2.0質量部とする。なお、この量は、0.01〜2.5体積%に相当する。
【0028】
鉄粉末は、粒径が小さいと表面積が増加することとなるため、シリコーン粉末の種類や大きさによっては、鉄粉末の間隙に十分に存在することができず、鉄粉末同士の摩擦低減を十分に達成することができない。このことから、シリコーン粉末が添加される鉄粉末は、平均粒径が50〜200μmであり、−325メッシュの粉末(325メッシュの篩を通過する粉末)の量が、鉄粉末の30%以下となるものが好ましい。
【0029】
粉末冶金法による自動車用機械部品や各種産業用の機械部品においては、鉄粉末のみでは得られる焼結体機械部品の強度が低いため、主原料粉末として鉄粉末を用い、銅粉末、ニッケル粉末、黒鉛粉末等のFeを強化する元素の粉末を副原料粉末として添加、混合した原料粉末を用いることが多い。この場合、主原料粉末に副原料粉末を添加、混合した原料粉末に対して、シリコーン粉末を添加、混合した原料粉末とすることで、原料粉末加圧時に原料粉末が流動して成形体の密度が均一化する効果を得ることができる。
【0030】
上記の粉末冶金法による自動車用機械部品や各種産業用の機械部品においては、鉄粉末に替えて鉄合金粉末を主原料粉末として用いたり、鉄粉末に鉄合金粉末を添加して主原料粉末として用いたりする場合がある。この場合においても、主原料粉末として用いる鉄粉末及び/又は鉄合金粉末に対して、例えば上述した要件を満足するようにして、常温で固体のシリコーン粉末を添加、混合することにより、上記同様の効果を得ることができる。なお、上記鉄合金としては、汎用の4100系合金や4600系合金などを挙げることができる。
【0031】
なお、粉末冶金法で用いる原料粉末においては、加圧成形時に原料粉末間に滑りを与えて成形密度を高めたり、成形後の成形体をダイの型孔から抜き出す際の摩擦を低減したりする目的で、原料粉末に成形潤滑剤を添加、混合する場合がある。この場合の成形潤滑剤の添加量は、原料粉末の摩擦係数が低くなっていることから、過度の添加は、成形体密度をかえって低下させることとなり、上記の粉末冶金用原料粉末100質量部に対して1質量部以下で十分である。
【実施例】
【0032】
[第1実施例]
シリコーン粉末として、東レ・ダウコーニング株式会社製EP5500を用意し、鉄粉末として株式会社神戸製鋼所製アトメル300Mを用意した。また副原料粉末の銅粉末として、福田金属箔粉工業株式会社製CE−15、黒鉛粉末としてAsbury Carbons社製SW1651を用意した。
鉄粉末100質量部に対して表1に示す割合で変化させて用意したV型混合機に投入し、表1に示すシリコーン粉末量の異なるシリコーン粉末混合鉄粉末を作製した。なお、鉄粉末100質量部に対して銅粉末及び黒鉛粉末はそれぞれ1.5質量部及び1.0質量部とした。以上のようにして、試料番号A1〜A9の原料粉末を作製した。
【0033】
得られた原料粉末を、図4(a)に示す形状に、図3に示すような1段パンチを用い、成形圧力588MPaの下で成形を行った。成形体の各部寸法は図4(b)のとおりである。このようにして得られた成形体について、図4(c)に示すようにボス部P、リム部P、歯部Pに分割して、各部についてアルキメデス法で密度を測定した。この結果を表1に併せて示す。
【0034】
また、得られた原料粉末について、JIS Z 2502に準拠して流動度試験を行い流動可能かどうか調査し、流動しなかったものについては表1の備考欄に「流動せず」と記載した。
【0035】
【表1】

【0036】
表1より、シリコーン樹脂粉末を含有しない原料粉末(試料番号A1)では、高低差を有する一段パンチで成形すると、リム部Pのみ高密度に成形され、ボス部P及び歯部Pに流入する原料粉末の量が乏しく、その結果、成形体が固まらず、低密度となり、成形後の成形体抜き出し時に成形体の型崩れが生じた。
【0037】
一方、鉄粉末にシリコーン粉末を0.02質量部被覆した原料粉末(試料番号A2)では、加圧成形時に鉄粉末が滑り、リム部Pの原料が加圧圧力の低いボス部P及び歯部Pに流入して成形可能であり、型崩れが生じることなく良好な抜き出しが行えた。また、成形体各部の密度の差(成形体各部の密度の最大値と最小値の差)も小さくなっている。
【0038】
また、鉄粉末へのシリコーン粉末の混合量が1.5質量部までの原料粉末(試料番号A2〜A7)では、鉄粉末へのシリコーン粉末の混合量が増加するにしたがい、原料粉末の加圧時の流動性が向上し、リム部Pの密度は低下するとともに、ボス部P及び歯部Pの密度が増加して、成形体各部の密度の差は小さくなっている。
【0039】
ただし、鉄粉末へのシリコーン粉末の混合量が増加するにしたがい、原料粉末の圧縮性の低下が生じ、鉄粉末へのシリコーン粉末の混合量が2.0質量部以上の原料粉末(試料番号A8,A9)では、成形体各部の密度の差はさらに小さくなるものの、ボス部P及び歯部Pの密度も低下する傾向を示している。
【0040】
なお、上記のA1〜A9の原料粉末について流動度試験を行ったところ、A1〜A8の原料粉末はオリフィスより流れたが、鉄粉末へのシリコーン粉末の混合量が2.0質量部を超える原料粉末(試料番号A9)はオリフィスより原料粉末が流れず、原料粉末の流動性が著しく低下していた。
【0041】
以上より、鉄粉末にシリコーン粉末を0.02質量部以上添加することで、原料粉末を圧縮する際に、鉄粉末が滑り、加圧圧力の低い側に流入して再配列される効果が得られることが確認された。また、鉄粉末へのシリコーン粉末の添加量が2.0質量部を超えると原料粉末の流動性が著しく低下することから、鉄粉末へのシリコーンの被覆量を、2.0質量部を上限とすべきことが確認された。また、成形体各部の密度の差を小さくするとともに、成形体全体の密度を高く保つ観点から、鉄粉末に混合するシリコーン粉末量は0.5〜1.5質量部とすることが好ましいことがわかった。
【0042】
[第2実施例]
シリコーン粉末として、東レ・ダウコーニング株式会社製EP2601を用意し、第1実施例で用意した鉄粉末、銅粉末、黒鉛粉末を用い、鉄粉末100質量部に対して表2に示す割合で変化させて用意したシリコーン粉末とともにV型混合機に投入し、表2に示すシリコーン粉末添加量の異なるシリコーン粉末混合鉄粉末を作製した。なお、第1実施例同様に、鉄粉末100質量部に対して銅粉末及び黒鉛粉末はそれぞれ1.5質量部及び1.0質量部とした。
以上のようにして、試料番号B1〜B9の原料粉末を作製した。得られた原料粉末を、第1実施例と同じ条件で、成形を行い、得られた成形体について、第1実施例と同様にして各部密度を測定した。この結果を表2に併せて示す。
【0043】
【表2】

【0044】
第2実施例は、シリコーン粉末の種類を替えた場合の実施例であるが、第1実施例とほぼ同様の結果となっている。すなわち、鉄粉末にシリコーン粉末を0.02質量部混合した原料粉末(試料番号B2)では、加圧成形時に鉄粉末が滑り、リム部Pの原料が加圧圧力の低いボス部P及び歯部Pに流入して成形可能であり、型崩れが生じることなく良好な抜き出しが行えた。また、成形体各部の密度の差(成形体各部の密度の最大値と最小値の差)も小さくなっている。
【0045】
また、鉄粉末へのシリコーン粉末の混合量が1.5質量部までの原料粉末(試料番号B2〜B7)では、鉄粉末へのシリコーン粉末の添加量が増加するにしたがい、原料粉末の加圧時の流動性が向上し、リム部Pの密度は低下するとともに、ボス部P及び歯部Pの密度が増加して、成形体各部の密度の差は小さくなっている。
【0046】
ただし、鉄粉末へのシリコーン粉末の混合量が増加するにしたがい、原料粉末の圧縮性の低下が生じ、鉄粉末へのシリコーン粉末の混合量が2.0質量部以上の原料粉末(試料番号B8,B9)では、成形体各部の密度の差はさらに小さくなるものの、ボス部P及び歯部Pの密度も低下する傾向を示している。
【0047】
なお、上記のB1〜B9の原料粉末について流動度試験を行ったところ、B1〜B8の原料粉末はオリフィスより流れたが、鉄粉末へのシリコーン粉末の混合量が2.0質量部を超える原料粉末(試料番号B9)はオリフィスより原料粉末が流れず、原料粉末の流動性が著しく低下していた。
【0048】
以上より、第1実施例と同様に、シリコーン粉末の種類を替えても、鉄粉末にシリコーン粉末を0.02質量部以上添加することで、原料粉末を圧縮する際に、鉄粉末が滑り、加圧圧力の低い側に流入して再配列される効果が得られるが、鉄粉末へのシリコーン粉末の添加量が2.0質量部を超えると原料粉末の流動性が著しく低下することから、鉄粉末へのシリコーン粉末の添加量は、2.0質量部を上限とすべきことが確認された。また、成形体各部の密度の差を小さくするとともに、成形体全体の密度を高く保つ観点から、鉄粉末に添加するシリコーン粉末量は0.5〜1.5質量部とすることが好ましいことがわかった。
【0049】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 ボス部
2 リム部
3 歯部
01 原料粉末
10 ダイス
11 型孔
20 コアロッド
30 下パンチ
31 下第1パンチ
32 下第2パンチ
33 下第3パンチ
40 上パンチ
41 上第1パンチ
42 上第2パンチ
43 上第3パンチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄粉末及び/又は鉄合金粉末と、前記鉄粉末及び/又は鉄合金粉末100質量部に対して0.02〜2.0質量部のシリコーン粉末を添加し混合したことを特徴とする粉末冶金用原料粉末。
【請求項2】
鉄粉末及び/又は鉄合金粉末からなる主原料粉末に副原料粉末を添加混合した混合粉末と、前記混合粉末100質量部に対して0.02〜1.5質量部の、シリコーン粉末を添加し混合したことを特徴とする粉末冶金用原料粉末。
【請求項3】
前記鉄粉末及び/又は鉄合金粉末は、平均粒径が50〜200μmであり、−325メッシュの粉末(325メッシュの篩を通過する粉末)の量が、鉄粉末の30%以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の粉末冶金用原料粉末。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一に記載の粉末冶金用原料粉末100質量部に対して1質量部以下の成形潤滑剤を添加、混合したことを特徴とする粉末冶金用原料粉末。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−136752(P2012−136752A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290949(P2010−290949)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000233572)日立粉末冶金株式会社 (272)
【Fターム(参考)】