説明

粉末冶金用鉄基混合粉および高強度鉄基焼結体ならびに高強度鉄基焼結体の製造方法

【課題】鉄基混合粉、およびそれを用いた靭性に優れた高強度鉄基焼結体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】質量%で、Cr:0.1〜0.9%、Mo:0.1〜0.9%、Mn:0.1〜0.3%のうちから選ばれた1種また2種以上を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる予合金鋼粉を鉄基粉末とし、該鉄基粉末に合金用粉末として、質量%で、N:2〜15%を含有する組成のマンガン粉末または質量%でN:2〜15%、Fe:40%以下を含む組成のフェロマンガン粉末を、質量%でMn換算で、0.5〜3%となるように混合して粉末冶金用鉄基混合粉とする。なお、さらに合金用粉末として、Cu粉、Ni粉を混合してもよい。この粉末冶金用鉄基混合粉に、黒鉛粉を、鉄基粉末と合金粉末と黒鉛粉との合計量に対する質量%でC換算で、0.1〜1.0%混合したのち、成形体とし、該成形体に焼結処理を行って鉄基焼結体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車部品等に好適な、粉末冶金用鉄基混合粉および該混合粉を成形、焼結して得られる鉄基焼結体に係り、とくに鉄基焼結体の高強度化、高靭性化に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末冶金技術の進歩により、高寸法精度の複雑な形状の部品をニアネット形状に製造することができるようになり、大幅に切削コストの低減が可能となるため、粉末冶金技術を利用した製品が各種分野で利用されている。粉末冶金技術は、粉末を所望形状の金型に充填した後、焼結を行うことで、形状の自由度が高いことが特徴となっている。そのため、形状が複雑な歯車等の機械部品に適用する事例が多い。最近では、部品の小型化、軽量化の要求が強く、そのため、粉末冶金製品の高強度化が強く要求されている。
【0003】
例えば、鉄系粉末冶金の分野では、鉄基粉末に、銅粉、黒鉛粉などの合金用粉末と、さらにステアリン酸亜鉛、ステアリン酸リチウム等の潤滑剤とを混合した鉄基混合粉を、所定形状の金型に充填したのち加圧成形して成形体としている。このような通常の工程を経て得られる成形体の密度は、6.6〜7.1Mg/m3程度が一般的であるとされている。
得られた成形体は、ついで、焼結処理を施されて焼結体とされ、さらに必要に応じてサイジングや切削加工が施されて、粉末冶金製品とされる。また、さらに高い強度が必要である場合には、焼結処理後にさらに、浸炭熱処理、光輝熱処理等が施される。
【0004】
粉末冶金製品の高強度化のために、従来から、原料粉として、鉄基粉末として、純鉄粉に、各種の合金元素を含有する合金用粉末を配合した混合粉を用いたり、あるいは、各種合金元素を予め合金化した予合金鋼粉を用いてきた。
原料粉として、純鉄粉に合金用粉末を配合した混合粉を用いた場合には、成形に際して、純鉄粉並みの高い圧縮性を確保でき高密度の成形体を得られることができる。しかし、焼結に際して、添加した各合金元素が鉄中に十分に拡散できず、不均質な組織の焼結体となるという問題があった。一方、原料粉として、予合金鋼粉を用いる場合には、合金元素を溶鋼状態で溶かし込むため、成分の不均質は防止できるが、完全合金化による固溶強化のため、粉末の塑性変形能が低下し、圧縮性が低下して、所望の高密度を確保できないという問題がある。
【0005】
このような問題から、最近では、鉄基粉末として、合金元素量を抑制し一部を予合金化した予合金鋼粉を用い、該予合金鋼粉に、合金元素量の残部を合金用粉末として配合した混合粉を、原料粉として用いることが行われている。原料粉として、このような混合粉を用いることにより、予合金鋼粉の合金量を抑制でき、高圧縮性が確保できるとともに、焼結ネックに必要な合金を配することができるようになり、焼結体の組織が、完全合金相と部分的な濃化相からなる複合組織となって、基地を強靭化でき、焼結体の高強度化、高靭性化を達成できる可能性が高くなると言われている。
【0006】
例えば、特許文献1には、圧縮性の元素状鉄粉末に炭素及びフェロアロイ並びに滑剤をブレンドした混合物をプレスして成形し、還元性雰囲気中で高温焼結する、焼結物品の成形方法が記載されている。特許文献1に記載された技術では、鉄粉末に、炭素及び微細な粒径のフェロアロイ並びに滑剤をブレンドした混合物をプレスした成形体に、高温焼結を施すことにより、強度と靭性とを兼備した焼結物品が製造できるとしている。また、特許文献1には、使用するフェロアロイとして、フェロマンガン、フェロクロム、フェロモリブデン、フェロバナジウム、フェロシリコン、フェロホウ素が例示され、25μm未満の平均粒径を有するものを使用することが好ましいとしている。また、特許文献1に記載された技術では、高温焼結は、還元雰囲気中で1250〜1350℃で行うことが好ましいとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表平07−500878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、成形体に、高温での焼結を施すことを必須としているため、焼結炉を高温に保持する必要があり、製造コストの高騰を招き、経済的に不利となる。また、比較的低温での焼結処理では、所望の焼結体強度の確保や、所望の靭性向上が期待できないという問題があった。
本発明は、かかる従来技術の問題を解決し、比較的低温での焼結処理によっても、高強度でかつ高靭性を有する鉄基焼結体が製造できる、鉄基混合粉、およびそれを用いた靭性に優れた高強度鉄基焼結体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
なお、ここでいう「高強度」とは、引張強さ:430MPa以上である場合をいうものとする。また、「靭性に優れた」とは、JIS Z 2242の規定に準拠して行った、ノッチなし試験片(10mm厚)を用いた試験温度:室温での衝撃値が15J/cm2以上である場合をいうものとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記した目的を達成するために、鉄基焼結体の強度、靭性に及ぼす、合金元素の影響について鋭意検討した。
従来、多くの場合、鉄基焼結体の強化元素としては、Moが用いられてきた。Moは、フェライトの生成を抑制し、焼結体の組織をベイナイト相を主体とする組織として、焼結体の基地を変態強化する。さらにMoは、基地と炭化物とに分配され、基地を固溶強化するとともに、炭化物として基地中に微細析出し、基地を析出強化する。さらに、Moの含有は、ガス浸炭性を向上させるなどの効果を有する。しかし、Moは高価な合金元素であり、多量の含有は材料コストの高騰を招く。
【0011】
このようなことから、本発明者らは、合金元素とし、安価なNとMnに着目した。そして、鉄基粉末に、焼結時に拡散が容易なNと、焼結時の拡散速度が比較的遅いが安価なMnとを複合して含有する合金用粉末を配合して、鉄基混合粉とすることに思い至った。このような鉄基混合粉に、さらに黒鉛粉を混合し、金型に装入したのち、プレス成形して成形体とし、ついで焼結すると、Mnが鉄基粉末間の焼結ネック部に濃化し、一方、Nが焼結体の基地部中に拡散した焼結体となることを知見した。
【0012】
気孔周囲にMnが濃化した組織は、高靭性を示し、Nが拡散した基地部は高強度を示す組織であり、このような組織を有する焼結体は、高強度と高靭性とを兼備した焼結体となることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨はつぎのとおりである。
(1)鉄基粉末に合金用粉末を混合してなる粉末冶金用鉄基混合粉であって、前記鉄基粉末を、質量%で、Cr:0.1〜0.9%、Mo:0.1〜0.9%、Mn:0.1〜0.3%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の予合金鋼粉とし、前記合金用粉末を、質量%でN:2〜15%含有し、残部Mnおよび不可避的不純物からなる組成のマンガン粉末または質量%でN:2〜15%、Fe:40%以下を含み、残部Mnおよび不可避的不純物からなる組成のフェロマンガン粉末とし、該合金用粉末を、鉄基粉末と合金用粉末の合計量に対する質量%でMn換算で、0.5〜3%混合してなることを特徴とする粉末冶金用鉄基混合粉。
(2)(1)において、前記合金用粉末として、前記マンガン粉または前記フェロマンガン粉に加えて、さらに、鉄基粉末と合金用粉末の合計量に対する質量%で、Cu粉末をCu換算で0.5〜3%、および/または、Ni粉末をNi換算で0.5〜6%混合してなることを特徴とする粉末冶金用鉄基混合粉。
(3)(1)に記載の粉末冶金用鉄基混合粉に、黒鉛粉を混合し加圧成形、焼結してなる鉄基焼結体であって、質量%で、N:0.1〜1%、C:0.1〜1.0%、Mn:0.6〜3.3%を含み、さらに、Cr:0.1〜0.9%、Mo:0.1〜0.9%のうちから選ばれた1種または2種を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、かつ気孔の周囲にMnが濃化した組織とを有することを特徴とする高強度鉄基焼結体。
(4)(2)に記載の粉末冶金用鉄基混合粉に、黒鉛粉を混合し加圧成形、焼結してなる鉄基焼結体であって、質量%で、N:0.1〜1%、C:0.1〜1.0%、Mn:0.6〜3.3%を含み、さらに、Cr:0.1〜0.9%、Mo:0.1〜0.9%のうちから選ばれた1種または2種を含有し、さらにCu:0.5〜3%、および/または、Ni:0.5〜6%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、かつ気孔の周囲にMnが濃化した組織とを有することを特徴とする高強度鉄基焼結体。
(5)鉄基粉末と合金用粉末とを混合してなる粉末冶金用鉄基混合粉に、さらに黒鉛粉を配合し、混合したのち、加圧成形処理、焼結処理を順次行って鉄基焼結体とする鉄基焼結体の製造方法であって、前記粉末冶金用鉄基混合粉が、鉄基粉末として、質量%で、Cr:0.1〜0.9%、Mo:0.1〜0.9%、Mn:0.1〜0.3%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の予合金鋼粉を、合金用粉末として、質量%でN:2〜15%含有し、残部Mnと不可避的不純物からなる組成のマンガン粉末または質量%でN:2〜15%、Fe:40%以下を含み、残部Mnと不可避的不純物からなる組成のフェロマンガン粉末を、鉄基粉末と合金用粉末の合計量に対する質量%でMn換算で、0.5〜3%となるように混合してなる混合粉であり、前記黒鉛粉を、鉄基粉末と合金用粉末と黒鉛粉との合計量に対する質量%でC換算で、0.1〜1.0%配合することを特徴とする高強度鉄基焼結体の製造方法。
(6)(5)において、前記粉末冶金用混合粉が、前記合金用粉末として、前記マンガン粉または前記フェロマンガン粉に加えて、さらに、鉄基粉末と合金用粉末の合計量に対する質量%で、Cu粉末をCu換算で0.5〜3%、および/または、Ni粉末をNi換算で0.5〜6%混合してなる混合粉であることを特徴とする高強度鉄基焼結体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、成形体に比較的低温での焼結処理を施しても、引張強さ:430MPa以上の高強度と、室温での衝撃値が15J/cm2以上となる高靭性とを兼備する鉄基焼結体を、容易にしかも安価に製造でき、産業上格段の効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、本発明の粉末冶金用鉄基混合粉について、説明する。
本発明になる粉末冶金用鉄基混合粉は、鉄基粉末に合金用粉末を混合した混合粉である。
鉄基粉末は、質量%で、Cr:0.1〜0.9%、Mo:0.1〜0.9%、Mn:0.1〜0.3%のうちから選ばれた1種または2種以上を予合金として含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の予合金鋼粉とする。
【0015】
予合金するCr、Mo、Mnはいずれも、焼結体の強度増加に寄与する元素であり、このような効果を得るためには、Cr、Mo、Mn いずれも、0.1質量%以上の含有を必要とする。一方、Cr:0.9質量%、Mo:0.9質量%、Mn:0.3質量%を超えて含有すると、粉末が硬質化して、成形時に所望の高密度成形体とすることが難しくなる。このため、予合金する場合、質量%で、Cr:0.1〜0.9%、Mo:0.1〜0.9%、Mn:0.1〜0.3%の範囲にそれぞれ限定した。なお、予合金鋼粉は、上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物からなる。不可避的不純物として、C:0.02質量%以下程度、O:0.4質量%以下程度、S:0.03質量%以下程度、が許容できる。
【0016】
予合金鋼粉は、上記した組成の溶鋼を水アトマイズ法によりアトマイズ粉末とし、さらに還元処理を施したものを使用することが好ましい。
また、鉄基粉末に混合する合金用粉末は、本発明では、主として、焼結時に拡散が容易なNと、焼結時の拡散速度が比較的遅いが安価なMnとを複合して含有する合金用粉末とする。合金用粉末にNとMnを含有させることにより、Nは焼結時に迅速に基地中に拡散し、基地部を高強度化し、一方、Mnは鉄基粉末粒子間の焼結ネック部(気孔)に濃化し靭性に富む組織を形成する。これにより、高強度と高靭性を兼備する焼結体を、安価で、容易に製造することができるようになる。
【0017】
具体的には、質量%でN:2〜15%を含み、残部Mnおよび不可避的不純物からなる組成のマンガン粉末、あるいは、質量%で、N:2〜15%、Fe:40%以下を含み、残部Mnおよび不可避的不純物からなる組成のフェロマンガン粉末とすることが製造性の観点から好ましい。
合金用粉末中のN含有量が、質量%で2%未満では、焼結体中のN量が少なくなり、所望の焼結体強度を確保できなくなる。一方、合金用粉末中のN含有量が質量%で15%を超えても、効果が飽和し、含有量に見合う効果を期待できなくなるとともに、相対的にMn含有量が少なくなり、焼結ネック部へのMn濃化が不足し、所望の高靭性が期待できなくなる。
【0018】
また、フェロマンガン粉末中のFe含有量が、質量%で40%を超えると相対的にMn含有量が少なくなり、焼結ネック部へのMn濃化が不足し、所望の高靭性が期待できなくなる。なお、フェロマンガン粉末中のFe含有量は、質量%で0.1%以上とすることが好ましい。
なお、マンガン粉末、フェロマンガン粉末は、微細なほど、良好な焼結体強度、優れた焼結体靭性を確保することができるが、所望の特性を確保するには、平均粒径で45μm以下であれば、十分である。より好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm以下、よりさらに好ましくは5μm以下である。ここで、粉末の平均粒径は、レーザー回析散乱法で測定した値を使用するものとする。
【0019】
本発明鉄基混合粉では、上記した鉄基粉末に、上記した合金用粉末を、鉄基粉末と合金用粉末との合計量に対する質量%でMn換算で、0.5〜3%となるように混合する。
合金用粉末の配合量が、鉄基混合粉全量に対する質量%で、Mn換算で0.5%未満では、焼結体のN、Mn量が不足し、所望の高強度、高靭性を確保できなくなる。一方、3%を超えて多量に合金用粉末を配合すると、硬質粒子が増加し圧粉密度が低下し、焼結体における、所望の高強度、高靭性を確保できなくなる。
【0020】
なお、本発明鉄基混合粉では、焼結体の強度を改善するために、上記した鉄基粉末に、上記した合金用粉末に加えてさらに、合金用粉末として、鉄基粉末と合金用粉末の合計量に対する質量%で、Cu粉をCu換算で0.5〜3%、および/または、Ni粉末をNi換算で0.5〜6%混合できる。
Cu粉が0.5%未満、Ni粉が0.5%未満では、所望の強度増加が期待できない。一方、Cu粉が3%を超えて多量に混合すると、靭性が低下する。Ni粉を6%を超えて多量に混合しても、強度増加が飽和し、含有量に見合う効果が期待できなくなり経済的に不利となる。このため、合金用粉末としてさらに混合するCu粉は0.5〜3%の範囲に、また、Ni粉は0.5〜6%に限定することが好ましい。
【0021】
つぎに、上記した粉末冶金用鉄基混合粉を原料粉として、鉄基焼結体を製造する方法について説明する。
まず、上記した鉄基粉末と合金用粉末とを混合してなる鉄基混合粉を原料粉として、該原料粉に黒鉛粉を、配合する。原料粉に黒鉛粉を配合することにより、焼結体の高強度化が図れる。黒鉛粉の配合量は、原料粉(鉄基粉末と合金用粉末)と黒鉛粉との合計量に対する質量%で、炭素(C)換算で0.1〜1.0%とする。黒鉛粉の混合量が0.1質量%未満では、所望の焼結体強度を確保できない。一方、黒鉛粉の混合量が1.0質量%を超えると、硬度が高くなりすぎて、靭性が低下する。このため、原料粉への黒鉛粉の混合量は、鉄基粉末と合金用粉末と黒鉛粉との合計量に対する質量%で、炭素(C)換算で0.1〜1.0%に限定した。
【0022】
なお、混合に際しては、さらに、潤滑剤を、鉄基粉末と合金用粉末と黒鉛粉との合計量100質量部に対し、潤滑剤を0.1〜1.2質量部、混合することが好ましい。潤滑剤としては、常用の潤滑剤がいずれも適用できるが、ステアリン酸亜鉛などの金属石鹸、エチレンビスステアロアミド等のアミド系ワックスとすることが好ましい。なお、潤滑剤は、粉末状としても、また金型に塗布或いは付着させてもよい。
【0023】
なお、混合に際しては、さらに、焼結体の切削性を改善する目的で、MnSなどの切削性改善用粉末をさらに混合してもよいことは言うまでもない。鉄基粉末と合金用粉末と黒鉛粉との合計量100質量部に対し、切削性改善用粉末を0.05〜1質量部、混合することが好ましい。
原料粉に黒鉛粉を適量配合し、或いはさらに潤滑剤、さらには切削性改善粉末を、配合し、V型混合機、ダブルコーン型混合機等を用いる、常用の混合法を適用して混合して、成形体製造用混合粉とする。
【0024】
ついで、上記した成形体製造用混合粉を、金型に装入し、加圧成形処理する。加圧成形処理は、プレス等の常用の成形装置を使用して加圧成形し、所定形状で所定の密度を有する成形体とする。
なお、成形に際しては、金型潤滑を行ってもよい。また、粉末および金型を50〜150℃に加熱して、成形する温間成形としてもよい。
【0025】
得られた成形体は、ついで、焼結処理され焼結体とされる。
焼結処理は、不活性ガス雰囲気あるいは非酸化性雰囲気中で所定の焼結温度に保持した焼結炉中で行うことが好ましい。N2が90vol%以上の窒素−水素ガス混合雰囲気がさらに好ましい。焼結温度は、1100〜1300℃とすることが好ましい。焼結温度が1100℃未満では、焼結が不十分で所望の焼結体強度、靭性を確保することが難しくなる。一方、1300℃を超える焼結温度では、結晶粒が粗大化し、所望の靭性を確保できなくなる。このようなことから、焼結温度は1100〜1300℃の範囲の温度とした。なお、焼結温度における保持時間は、10〜180minとすることが好ましい。10min以上であれば焼結が十分となり、一方、180min以下であれば生産性が低下して経済的に不利となることがなく、効果が得られる。
【0026】
得られた焼結体は、気孔の周囲にMnが濃化した組織を有する。このような組織を呈することにより、焼結体の靭性が向上する。Mnの濃化は、EPMA(Electron Probe Micro Analyser)により、Mn濃度が既知の標準試料により作成した検量線を用いて測定できる。なお、「Mnが濃化した」とは、Mnが質量%で3%を超えて濃化した領域をいうものとする。
上記した製造方法で得られた焼結体は、質量%で、N:0.1〜1%、C:0.1〜1.0%、Mn:0.6〜3.3%を含み、さらにCr:0.1〜0.9%、Mo:0.1〜0.9%のうちから選ばれた1種または2種、あるいはさらにCu:0.5〜3%および/またはNi:0.5〜6%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成とかつ気孔の周囲にMnが濃化した組織とを有し、靭性に優れた高強度鉄基焼結体である。
【0027】
焼結体中のN含有量が0.1質量%未満では、所望の高強度が得られない。一方、1質量%を超える含有は、所望の優れた靭性を確保できない。
また、焼結体中のC含有量が0.1質量%未満では、所望の高強度を確保できない。一方、1.0質量%を超えて含有すると、所望の靭性が得られない。
また、焼結体中のMn含有量が0.6質量%未満では、焼結体のMn量が不足して、所望の高強度、高靭性を確保できない。一方、3.3質量%を超えて多量に含有しても、所望の高強
度、高靭性を得られない。
【0028】
また、焼結体中のCr含有量が0.1質量%未満、Mo含有量が0.1質量%未満では、所望の高強度を確保できない。一方、Cr含有量が0.9質量%、Mo含有量が0.9質量%をそれぞれ超えて含有すると、所望の高靭性を確保できない。
また、焼結体のCu含有量が0.5%未満、Ni含有量が0.5%未満では、所望の強度増加が期待できない。一方、焼結体中のCu含有量が3%を超えて多量に含有すると靭性が低下する。Ni含有量が6%を超えて、多量に含有しても効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できなくなり、経済的に不利となる。このため、含有する場合には、Cu:0.5〜3%、Ni:0.5〜6%の範囲に限定することが好ましい。
【0029】
なお、得られた焼結体には、必要に応じて、焼結処理後に浸炭焼入れ、光輝焼入れ、高周波焼入れ、浸炭窒化処理等の強化熱処理を施すこともできる。
【実施例】
【0030】
表1に示す組成の溶鋼を、溶製し、水アトマイズ法を用いてアトマイズ粉とした。得られたアトマイズ粉に、さらに還元処理を施し、予合金鋼粉(粉末冶金用鉄基粉末)とした。
これら予合金鋼粉に、表2に示す組成の合金用粉を、表3に示すように配合し、鉄基混合粉(原料粉)とした。
【0031】
得られた原料粉(鉄基混合粉)に、表4に示す配合量(C換算)で黒鉛粉を配合し、さらに、表4に示す種類、配合量の潤滑剤を加え、V型混合機で15min間混合し、成形体製造用混合粉を得た。
これら成形体製造用混合粉を、所定形状の金型に装入し、密度が7.0g/cm3と一定になる条件で加圧し、成形体を得た。
【0032】
これら成形体を、表4に示す条件で焼結処理を施し、焼結体(大きさ:10×10×55mmの衝撃試験片およびJPMA Mo4の平板引張試験片)とした。
得られた焼結体について、組織観察、引張試験、衝撃試験を実施した。試験方法は次のとおりである。
(1)組織観察
得られた焼結体から、組織観察用試験片を採取し、EPMAにより、気孔周囲のMn濃化の有無を測定した。
(2)引張試験
得られた焼結体について、JIS Z 2241の規定に準拠して、引張試験を行い、引張強さTSを求めた。
(3)衝撃試験
得られた焼結体から、JIS Z 2242の規定に準拠して、ノッチなし試験片(厚さ:10mm)を採取し、試験温度:室温で、シャルピー衝撃試験を実施し、衝撃値(J/cm2)を求めた。なお、試験片数は各3本とし、得られた値を算術平均して、各焼結体の衝撃値とした。
【0033】
得られた結果を表5に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

【0037】
【表4】

【0038】
【表5】

【0039】
本発明粉末冶金用鉄基混合物を用いた本発明例はいずれも、気孔の周囲にMnが濃化した組織を有し、TS:430MPa以上の高強度と、衝撃値:15J/cm2以上の高靭性とを有する焼結体となっている。一方、本発明の範囲を外れる粉末冶金用鉄基混合物を用いた比較例は、Mnの濃化が少ないかあるいは無いか、強度が低いか、あるいは靭性が低下している。したがって、本発明粉末冶金用鉄基混合物を用いて、焼結体を製造すれば、高強度、高靭性の焼結体を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄基粉末に合金用粉末を混合してなる粉末冶金用鉄基混合粉であって、前記鉄基粉末を、質量%で、Cr:0.1〜0.9%、Mo:0.1〜0.9%、Mn:0.1〜0.3%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の予合金鋼粉とし、前記合金用粉末を、質量%でN:2〜15%含有し、残部Mnおよび不可避的不純物からなる組成のマンガン粉末または質量%でN:2〜15%、Fe:40%以下を含み、残部Mnおよび不可避的不純物からなる組成のフェロマンガン粉末とし、該合金用粉末を、鉄基粉末と合金用粉末の合計量に対する質量%でMn換算で、0.5〜3%混合してなることを特徴とする粉末冶金用鉄基混合粉。
【請求項2】
前記合金用粉末として、さらに、鉄基粉末と合金用粉末の合計量に対する質量%で、Cu粉末をCu換算で0.5〜3%、および/または、Ni粉末をNi換算で0.5〜6%混合してなることを特徴とする請求項1に記載の粉末冶金用鉄基混合粉。
【請求項3】
請求項1に記載の粉末冶金用鉄基混合粉に、黒鉛粉を混合し加圧成形、焼結してなる鉄基焼結体であって、質量%で、N:0.1〜1%、C:0.1〜1.0%、Mn:0.6〜3.3%を含み、さらに、Cr:0.1〜0.9%、Mo:0.1〜0.9%のうちから選ばれた1種または2種を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、かつ気孔の周囲にMnが濃化した組織とを有することを特徴とする高強度鉄基焼結体。
【請求項4】
請求項2に記載の粉末冶金用鉄基混合粉に、黒鉛粉を混合し加圧成形、焼結してなる鉄基焼結体であって、質量%で、N:0.1〜1%、C:0.1〜1.0%、Mn:0.6〜3.3%を含み、さらに、Cr:0.1〜0.9%、Mo:0.1〜0.9%のうちから選ばれた1種または2種を含有し、さらにCu:0.5〜3%、および/または、Ni:0.5〜6%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、かつ気孔の周囲にMnが濃化した組織とを有することを特徴とする高強度鉄基焼結体。
【請求項5】
鉄基粉末と合金用粉末とを混合してなる粉末冶金用鉄基混合粉に、さらに黒鉛粉を配合し、混合したのち、加圧成形処理、焼結処理を順次行って鉄基焼結体とする鉄基焼結体の製造方法であって、前記粉末冶金用鉄基混合粉が、鉄基粉末として、質量%で、Cr:0.1〜0.9%、Mo:0.1〜0.9%、Mn:0.1〜0.3%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の予合金鋼粉を、合金用粉末として、質量%でN:2〜15%含有し、残部Mnと不可避的不純物からなる組成のマンガン粉末または質量%でN:2〜15%、Fe:40%以下を含み、残部Mnと不可避的不純物からなる組成のフェロマンガン粉末を、鉄基粉末と合金用粉末の合計量に対する質量%でMn換算で、0.5〜3%となるように混合してなる混合粉であり、前記黒鉛粉を、鉄基粉末と合金用粉末と黒鉛粉との合計量に対する質量%でC換算で、0.1〜1.0%配合することを特徴とする高強度鉄基焼結体の製造方法。
【請求項6】
前記粉末冶金用混合粉が、前記合金用粉末として、さらに、鉄基粉末と合金用粉末の合計量に対する質量%で、Cu粉末をCu換算で0.5〜3%、および/または、Ni粉末をNi換算で0.5〜6%混合してなる混合粉であることを特徴とする請求項5に記載の高強度鉄基焼結体の製造方法。

【公開番号】特開2013−47378(P2013−47378A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−162188(P2012−162188)
【出願日】平成24年7月23日(2012.7.23)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】