説明

粉末油脂又は粉末油脂含有組成物及びその製剤

【課題】流動性に富んだ粉末油脂または粉末油脂組成物の製法を提供すること。
【解決手段】油脂粉末化剤として多孔質化させたイヌリンを使用して粉末油脂または粉末油脂含有組成物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は機能性物質、香料、色素、食用油脂などの油性物質を乳化又はサイクロデキストリン(CD)による包接加工なしに粉末化し、流動性や安定性を付与することができる粉末油脂または粉末油脂含有組成物及び油脂粉末化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品等に好ましいフレーバーや栄養を付与する目的で機能性物質や香料、色素、油脂等の油性物質を植物性で乳化作用のあるアラビアガム、合成乳化剤などの乳化剤で乳化し加工デンプン、デキストリンなどの賦形剤などを混合した後、噴霧乾燥して得られる粉末素材が使用されている。また、上記のような物質をサイクロデキストリンにより包接加工をおこない噴霧乾燥する方法も行われている。
【0003】
しかし、このような噴霧乾燥においては加工の際に、水分の蒸発のため多量のエネルギーを消費し、さらに、この乾燥工程では高い熱がかかり素材の劣化が起こるなどの解決すべき問題点があった。
【0004】
さらに、乳化剤においてはそのほとんどが食品添加物に分類され、最近の天然物嗜好から使用量の軽減等が図られているが、満足する結果までは至っていない。
【0005】
また、酵素処理をした澱粉粒や結晶化したセルロース等に油脂類を含ませ、コーティングする等の粉末油脂化も検討されている。しかし、澱粉においてはカロリーが高い、または澱粉という物質の特性のため、食品に入れることでざらつきや食感を大きく損ねてしまうなどの問題がある。また、結晶化させたセルロースは不溶性の繊維であり、澱粉と同様に食感をそこねてしまうことが知られている。
【0006】
また、製菓・製パン類においてはショートニングやマーガリン等の油脂がよく使用されている。これらの油脂は製パン性の改良やパン類のソフト化等多くの役割をもち、フランスパン等を除いては製パンには広く使用されている。油脂の作用としてのパン類のソフト化に関しては融点の低い油脂が優れた効果を示すことが知られている。
【0007】
融点の低い油脂は常温で液状である。このことはパン類の生地の作成過程においてグルテン膜の形成を阻害する作用があり、また、食感はソフトではあるが歯切れ、口どけの好ましくない仕上がりのパンになってしまう。
【0008】
製菓・パン類に使用される油脂は、乳脂、ラード等特殊な例を除いては、無味、無臭でパン類の醗酵風味を損なわない物が良いとされている。従って、魚類、動物由来の油脂よりも植物由来の油脂の方が、製パン用油脂の原料として優れている。しかしながら、植物由来の油脂は一般的には液状油であり、先に挙げた理由により水素添加を行い融点を調節する必要がある。油脂に水素添加操作を行った場合、いわゆる“水添臭”と呼ばれる臭いが油脂に対して付いてしまう欠点を持っている。また、水素添加した油はトランス脂肪酸を生成し、心疾患に対する懸念があり、水素添加しない油の代用物が望まれている。
【0009】
液状油脂を製菓・製パンに使用する方法として 乳化剤を使用する方法(特開平6-217693号公報)が提案されているが、乳化剤の使用が多くなるという問題点がある。
【0010】
一方、イヌリンは水溶性食物繊維に分類される多糖類の一種で、天然においてはチコリや菊芋、ごぼう、たまねぎなどに含まれ広く自然界に分布する。イヌリンはそのような食材からそれとは知れずに長年食されてきた食品の一つである。その構造はスクロースのフルクトース側にフラクトースがβ-(2→1)結合で直鎖状に2〜60分子がつながったものである。また、植物由来のイヌリンは、抽出原料が植物であるがゆえに収量が作柄によって左右され、その上収穫後直ちに抽出を行わなければ自己消化などによりイヌリン含量が目減りするといった問題を有する。さらに、植物由来のイヌリンの場合、植物搾汁液を大雑把に分画した後、噴霧乾燥して商品化したものであるため、イヌリンの重合度が植物本来の性質に左右され、フラクトース鎖長の重合度分布の範囲が広く、ばらつきのある重合度値(重合度範囲:約8〜60)を有するイヌリンが得られ、均一性に欠けるといった問題がある。
【0011】
本出願人らはイヌリンを砂糖に糖転移酵素を作用させて工業的に得る方法を開発している(特開2003-93090号公報)。
【0012】
食物繊維はコレステロールの低下、血糖値の上昇抑制、整腸作用、大腸ガンの予防、有害物の排泄作用など種々の生理作用を有することが明らかにされてきて、6番目の栄養素群としての位置づけを確立しつつある。しかるに、通常の食事より摂取する食物繊維量は、近年の食生活の変化に伴って減少しており、予防医学上からも食物繊維の多い食事が望まれている。
【0013】
パンは近年では常食になっているので、食物繊維を強化したパンは食物繊維を安定して摂取する上で好ましい食品の一つと言える。このような観点でパンに食物繊維を添加すると、一般的に食物繊維がセルロースやフスマなどの如く水に不溶性のものでは、食感的にザラツキを生じ、一方ガラクトマンナン、難消化性デキストリン、ポリデキストロースなどの水溶性のものでは、グルテンの形成を阻害して生地形成能の低下、ボリュームの低下、食感の悪化などの問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、このような現状に鑑み、油脂類をイヌリンのみで粉末化することにより、食品に適用しやすい粉末油脂または粉末油脂組成物を提供することにある。また、製菓・製パン性に優れた製菓・製パン用の粉末油脂または粉末油脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは上記の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、多孔質化させたイヌリンを油脂等の油性物質に直接作用させることで流動性に富んだ粉末油脂が得られることを見出した。
【0016】
すなわち、本発明は、油脂粉末化剤として多孔質化させたイヌリンを使用することを特徴とする粉末油脂または粉末油脂含有組成物の製造法である。
【0017】
さらに、本発明は、上記製造法により得られる粉末油脂または粉末油脂含有組成物である。
さらに、本発明は、上記記載の粉末油脂または粉末油脂含有組成物を含有する飲食品である。
さらに、本発明は、多孔質化させたイヌリンを含む油脂用の粉末化剤である。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、流動性に富んだ粉末油脂が得ることができ、また、それを加工することで保存安定性のすぐれた粉末油脂を得ることができた。さらに、この粉末油脂を製パン等に使用することにより液状又は流動状油脂の製パン性阻害作用が除かれ、良好な食感のパン類が得られた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明で使用するイヌリンとは、スクロースのフラクトース側にD-フラクトフラノースがβ-(2→1)結合で順次脱水重合した多糖類であって、グルコースに2分子以上のフラクトースが重合したものを意味し、2〜4分子のフラクトースが重合した低重合度のフラクトオリゴ糖をも含む。
【0020】
平均重合度は好ましくは8以上60以下のイヌリンであって、さらに好ましくはその平均重合度が16前後のイヌリンが使用される。イヌリンあるいはイヌリンオリゴ糖はチコリや菊芋などの植物由来のものでも、スクロースからフラクトシルトランスフェラーゼのような糖転移酵素を用いて合成されたものでもよい。
【0021】
本発明において使用する多孔質化させたイヌリンとしては、例えば、植物由来または酵素合成イヌリンを凍結乾燥することにより得られるイヌリン等を挙げることができる。
【0022】
市販されているイヌリン(フジFF,RAFTILINE ST、RAFTILINE HP等)はスプレードライまたは流動乾燥装置等によって乾燥されており、その状態は走査型電子顕微鏡によれば図1のように滑らかな表面をしている。これを水溶液にし、一旦クリーム化し、凍結し凍結乾燥することにより多孔質化させたイヌリンが得られ、このイヌリンの表面状態は走査型電子顕微鏡によれば図2のようで多孔質化している。また、植物から抽出されたものであれば精製後のイヌリン含有溶液、また酵素を用いて合成されたものであれば酵素反応後の反応液を直接、クリーム化後凍結乾燥を行ってもかまわない。
【0023】
植物由来のイヌリンでは溶解性はあるが、重合度の分布が広く、均一に溶解することが難しく、甘さがある。そのため食品用の製剤には不向きである。また、精製された植物由来のイヌリンでは25%程度溶解するとハンドリングが困難な硬さになる。従って、好ましくは酵素法で作られたイヌリンがよい。
【0024】
クリーム化においては乾燥効率を考慮にいれると50%以上の濃度に加温溶解することが好ましい。その後室温に放置することでクリームを得ることができる。
【0025】
本発明に使用するイヌリンとしては、市販されている化学修飾されたイヌリンを多孔質化させてもよい。そして、このようにして得られる多孔質化したイヌリンは油脂用の粉末化剤として用いられる。
【0026】
多孔質イヌリンを得る方法としては、例えば凍結乾燥が挙げられるが、イヌリンを多孔質化させられる乾燥法であればいずれでもよい。
【0027】
本発明において使用する油性物質としては、特に制限されるものでなく、飲食品、化粧品、医薬品等に通常用いられるものはいずれも使用可能であり、色素、機能性物質、香料などの油性材料や食品に使用される油脂類を例示することができる。
【0028】
本発明の色素としては、例えば、α-カロチン、β-カロチン、リコペン、パプリカ色素、アナトー色素、クロロフィル、クチナシ色素、ベニバナ色素、モナスカス色素、ビート色素、エルダベリー色素、マリーゴールド色素、コチニール色素などが挙げられる。
【0029】
更に、本発明における機能性物質とは、生体調節作用を有する物質を意味し、かかる機能性物質としては、例えば、ドコサヘキサエン酸( D H A ) 、エイコサペンタエン酸( EPA ) 、D H A および/ またはEPA 含有魚油、リノール酸、リノレン酸類、月見草油、ボラージ油、レシチン、オクタコサノール、ローズマリー、セージ、γ − オリザノール、カロテノイド類、シソ油、ローヤルゼリー、プロポリス; ビタミンA 、ビタミンD 、ビタミンE 、ビタミンF 、ビタミンKなどの油溶性ビタミン類およびその誘導体、コエンザイムQ10 などを挙げることができる。
【0030】
本発明の香料としては、例えば、オレンジ、レモンなどの柑橘類精油;ペパーミント油、スペアミント油、スパイス油などの植物精油;コーヒーココア、紅茶、緑茶、ウーロン茶、香辛料などの粉砕物、エキストラクト類、オレオレジン類、エッセンス類、回収香; 合成香料化合物、調合香料組成物及びこれらの任意の混合物などが挙げられる。
【0031】
本発明の食品に使用できる油脂類としては、例えば、ショートニング、マーガリン等の加工油、なたね油、大豆油等の植物性油、バター、ラード等の動物性油脂などが挙げられる。
【0032】
また、本発明でいう液状又は流動状油脂とは、常温で流動性のある油脂を示し、菜種、大豆、綿実、コーン等植物由来の物に代表されるが、これに限定されない。本発明の製パン用油脂の製品形態は、ショートニング状で効果があることはもちろんのことであるが、水中油滴型乳化油脂又は油中水滴型乳化油脂であっても構わない。
【0033】
本発明における多孔質化させたイヌリンからなる油脂粉末化剤に対しては、食品、製パン用に一般的に使用されているショ糖脂肪酸エステル、グリセリンモノ脂肪酸エステル、グリセリンモノ琥珀酸モノ脂肪酸エステル、グリセリンモノ酒石酸モノ脂肪酸エステル、ステアリル乳酸カルシウム、レシチン等の乳化剤を併用しても、本発明品の効果が損なわれることはない。
【0034】
多孔質化させたイヌリンの油脂に対する使用量は、油脂100部に対して、50部以上である。より好ましくは100部以上である。
【0035】
また、本発明の粉末油脂含有組成物において使用することができる、表面をコーティングする被膜材も特に制限されるものではなく、従来から飲食品、化粧品等に使用されている各種の被膜材が使用可能であり、例えば、糖類ではトレハロース、シクロデキストリン、マルトース、ラクトース、糖アルコール、デキストリン等を挙げることができる。また、トウモロコシ、タピオカ、馬鈴薯等の澱粉、アラビアガム、キサンタンガム、ペクチン等の天然ガムやたんぱく質では大豆、とうもろこし等の植物性たんぱく質、乳由来のたんぱく質、卵類由来のたんぱく質、ゼラチン等があげられる。
【0036】
本発明の粉末油脂含有組成物としては、本発明の粉末油脂に賦形剤や被膜材などを加えた組成物がその例として挙げられる。
【0037】
この粉末油脂含有組成物における賦形剤や被膜材の含有量は、厳密に制限されるものではなく、使用する油性物質の種類や形態などにより適宜に選択することができるが、一般には、粉末油脂含有組成物の重量を基準にして約1 〜 約50重量% 、好ましくは約20〜約50重量%の範囲内が適当である。
【0038】
本発明の粉末油脂含有組成物における賦形剤や被膜材を溶液にする溶剤は、特に制限されるものではなく、使用する油性物質の種類や形態などにより適宜に選択することができるが、一般には、水またはエタノール等の安全なものが望ましい。また、その重量比は被膜材の重量を基準にして約1 〜 約200重量%、好ましくは約30〜約50重量%の範囲内が適当である。
【0039】
また、本発明の粉末油脂含有組成物における油性物質、イヌリン並びに被膜材の配合比率は特に制限されるものではないが、一般には、油性物質:イヌリンと被膜材の合計の重量比を約1:99〜 50:50 、好ましくは約10:90 〜 約30:70にするのがよい。香料、色素、機能性物質などの油性物質の保存安定性に優れた粉末油脂含有組成物を得られる範囲であればよい。
【0040】
本発明によれば、以上に述べた油性物質、イヌリンは混合するのみで、または、油性物質、イヌリンを混合したのち、適量の水等の溶剤に溶解した被膜材と混合し、乾燥することにより、本発明の粉末油脂含有組成物を容易に得ることができる。
【0041】
また本発明による粉末油脂を食品に使用することで液状油脂を使用した食品等の食品を得ることができる。
【0042】
本発明の粉末油脂又は粉末油脂含有組成物は、油脂又は油性物質を原料、添加物、製品などとして扱う分野であって、例えば、食品分野(飲料分野を含む)、農林水産分野、化粧品分野、医薬品分野、日用品分野、化学工業分野ならびに、これらの分野で利用される原料又は添加物の製造分野などにおいて、単離された状態で、又は、目的に応じて、他の成分、例えば、乳糖、糖アルコール、環状糖質、デキストリン、澱粉、セルロースなどの増量剤や賦型剤の1種又は2種以上との組成物の形態で、極めて多岐にわたる分野において有用である。
【0043】
本発明の粉末油脂又は粉末油脂含有組成物を含む飲食品としては、各種パン類、各種調味料、各種和菓子、洋菓子、果実、野菜の加工食品、畜肉製品類、魚肉製品、各種珍味類、佃煮類、酒類、清涼飲料水、即席食品、離乳食、治療食、ドリンク剤などが挙げられる。本発明の粉末油脂又は粉末油脂含有組成物中の利用形態はそのままであっても、又は、他の成分を配合する組成物の形態であってもよい。
【0044】
本発明の粉末油脂又は粉末油脂含有組成物を農林水産分野で利用する場合には、例えば、動物のための飼料、餌料や、植物のための栄養剤、活力剤などとして有利に利用できる。
【0045】
本発明の粉末油脂又は粉末油脂含有組成物を化粧品分野や医薬品分野で利用する場合には、具体的な用途としては、例えば、乳液、クリーム、シャンプー、リンス、トリートメント、口紅、リップクリーム、ローション、浴用剤、練歯磨などの化粧品類、タバコなどの嗜好品、内服液、錠剤、軟膏、トローチ、肝油ドロップ、口中清涼剤、口中香剤、うがい剤、ハップなどの医薬品類、各種酵素の安定化剤などが挙げられる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例における部はいずれも重量部である。
【0047】
(実施例1)多孔質化イヌリンの製法
イヌリン(フジFF)40gをおよそ50℃の水60gに溶解した。室温で6時間ほど放置し、クリーム状のイヌリンを得た。その後、-15℃以下で凍結し凍結乾燥し、250μm以下に粉砕し、多孔質化イヌリン99.2gを得た。
【0048】
(実施例2)
凍結乾燥によって乾燥した多孔質化イヌリン粉末90gに植物性オイル(やし油)10gを加え、スパーテルで混合し、10%オイル含有粉末を得た(発明品1)。
【0049】
スプレードライによって乾燥している市販イヌリン粉末90gに植物性オイル(やし油)10gを加え、スパーテルで混合し、10%オイル含有粉末を得た(対照品1)。
【0050】
デキストリン粉末90gに植物性オイル(やし油)10gを加え、スパーテルで混合し、10%オイル含有粉末を得た(対照品2)。
【0051】
アラビアガム粉末90gに植物性オイル(やし油)10gを加え、スパーテルで混合し、10%オイル含有粉末を得た(対照品3)。
【0052】
βサイクロデキストリン粉末90gに植物性オイル(やし油)10gを加え、スパーテルで混合し、10%オイル含有粉末を得た(対照品4)。
【0053】
発明品1、対照品1、対照品2、対照品3、対照品4を32メッシュ、60メッシュ、80メッシュの篩によってどのように篩い分けられるかを検討した。それぞれの篩を事前に計量し、篩を重ね、もっとも目開きの大きい32メッシュの篩の上にサンプル約1gを置いた。その後電磁式振動篩機によって30秒振動を与えた。サンプルが篩い分けられた状態でそれぞれの篩を計量し、事前の計量値から減算することで篩い分けられたサンプルの重さを測定した。篩い分けられたサンプルの重さを合計した値を100%とした場合の分布を算出した。
【0054】
【表1】

上記表1の結果から発明品1は油脂成分の優れた粉末化剤であるといえる。
【0055】
(実施例3)
凍結乾燥によって多孔質化させたイヌリン粉末9gにビタミンE油1gを加え、スパーテルで混合し、10%オイル含有粉末を得た。その後、デキストリン(被膜材)10gを水5gに溶解し、10%オイル含有粉末と混合して得られたペーストを真空乾燥法によって乾燥した。できた乾燥物を粉砕し、80メッシュの篩を通過して、ビタミンE油含有粉末を得た(発明品2)。
【0056】
発明品2及びビタミンE油を100℃で12時間保存した。その後、発明品2及びビタミンE油のビタミンE含量を測定した。
【0057】
【表2】

【0058】
上記表2の結果から発明品2のように多孔質化イヌリンを粉末化基材として用いた粉末油脂をさらに被膜材でコーティングすることで高い安定性を付与した粉末油脂が製造可能である。被膜材を用いた場合においても、特開2005-73541号公報等の通常の粉末油脂製剤の製造においては乾燥前の水分は40%〜50%であり、本発明品では20%と乾燥に必要なエネルギーが少なくてすむことがわかる。
【0059】
(実施例4)
ショートニングやマーガリン、ラードのような常温で固形状の油脂の代用として液状油脂を配合したパンはソフトであるが、製パン性に劣り、食感風味も好ましくない。本発明を使用することで、液状油脂を含み、さらに食物繊維に富んだパンを製造することができる。
【0060】
市販強力粉(カメリア)280g、食塩0.8g、上白糖18g、脱脂粉乳4g、乳化剤0.7g(ショ糖エステル)、ドライイースト2.8g、水180gを市販のパン焼き器で9分間攪拌後、菜種油14gを多孔質化イヌリン28gと混合したものを追加し、焼成した(発明品3)。
【0061】
同様に市販強力粉(カメリア)280g、食塩0.8g、上白糖18g、脱脂粉乳4g、乳化剤0.7g(ショ糖エステル)、ドライイースト2.8g、水180gを市販のパン焼き器で9分間攪拌後、菜種油14gを追加し、焼成した(対照品5)。
【0062】
市販強力粉(カメリア)280g、食塩0.8g、上白糖18g、脱脂粉乳4g、乳化剤0.7g(ショ糖エステル)、ドライイースト2.8g、水180gを市販のパン焼き器で9分間攪拌後、菜種油14gを市販イヌリン28gと混合したものを追加し、焼成した(対照品6)。
【0063】
市販強力粉(カメリア)280g、食塩0.8g、上白糖18g、脱脂粉乳4g、乳化剤0.7g(ショ糖エステル)、ドライイースト2.8g、水180gを市販のパン焼き器で9分間攪拌後、ショートニング14gを追加し、焼成した(対照品7)。
【0064】
発明品3、対照品5〜7について室温に戻したあと体積と重量を測定し、体積と比容積を算出した。同時にパンの最高点について測定した。
【0065】
【表3】

【0066】
対照品5はイヌリンを添加していないので、焼成後の重量も軽いはずであるが、発明品3と比較して比容積も低く、十分に焼きあがっていない。対照品6は発明品3と比較して高さはあるが、体積が小さく、膨張にムラがある。対照品7はイヌリンを添加していないので発明品3と比較して比容積が大きい。
発明品3、対照品5、対照品6、対照品7について食感及び風味について検討を行った。
【0067】
【表4】

【0068】
上記表4の結果から発明品3は液状油脂を使用したにもかかわらず、通常のショートニングパンに風味・食感で劣らないパンを作製できた。また、イヌリンの特徴である保湿効果によりしっとりした食感が得られた。
【0069】
(実施例5)
近年、米の消費拡大を意図して、米粒を微細な粉末に粉砕する技術が開発されて、微細な米粉を主成分とする米粉製パンを製造する試みがなされている。製造された米粉製パンは、学校給食等に導入されている。しかしながら、米粉製パンは、小麦粉製パンとは、品質を大きく異にしていることから、その普及は十分には進捗していないのが実状である。米粉製パンと小麦粉製パンと品質の大きな差は、使用する原料の相違に起因するものである。米粉は、小麦粉に比較して内在性酵素が少ないため、本来澱粉から分解生成される、パン発酵に必要な酵母の栄養源(糖類)が不足し、米粉製パンは、発酵不足に起因する膨化不足を呈することになる。このため、米粉製パンの原料の主成分である米粉に糖類や砂糖を添加したり、砂糖の添加量を増大させる手段が採られているが、米粉製パンの抜本的な品質の改良が望まれている。
【0070】
また、一般にも米粉を利用したパン類が流通しているが、そのほとんどが小麦粉を主体とし、食感を改良するために、少量の米粉を配合しているものであり、米粉を多く配合したパンは普及にはいたっていない。
【0071】
本発明品の油脂用粉末化剤を利用することで、米粉含量が非常に高く、さらに食物繊維を豊富に含んだ食パンを作製することができた。
【0072】
製パン用米粉(福盛シトギ2号)297g、小麦粉由来たんぱく質(アサマ化成 グリアA)3g、食塩6g、上白糖18g、マルトース0.3g、脱脂粉乳15g、乳化剤1.5g(ショ糖エステル)、ドライイースト4.5g、水210gを市販のパン焼き器で9分間攪拌後ショートニング15gを多孔質化イヌリン30gと混合したものを入れ、焼成した(発明品4)。
【0073】
小麦由来たんぱく質を含む製パン用米粉(福盛シトギ20A)300g、食塩6g、上白糖18g、マルトース0.3g、脱脂粉乳15g、乳化剤1.5g(ショ糖エステル)、ドライイースト4.5g、水210gを市販のパン焼き器で9分間攪拌後ショートニング15gを入れ焼成した(対照品8)。
【0074】
同様に製パン用米粉(福盛シトギ20A)300g、食塩6g、上白糖18g、マルトース0.3g、脱脂粉乳15g、乳化剤1.5g(ショ糖エステル)、ドライイースト4.5g、水210gを市販のパン焼き器で9分間攪拌後ショートニング15g、市販イヌリン30gを混合したものを入れ焼成した(対照品9)。
【0075】
発明品4、対照品8及び9について室温に戻したあと体積と重量を測定し、体積と比容積を算出した。
【0076】
【表5】

【0077】
上記表5の結果から、対照品9は比容積が低く、イヌリンの添加によって良好なクラムが形成できていなかった。発明品4は対照品8と比較して、なんら劣ることのない焼き上がりである。
【0078】
発明品4、対照品8についてレオメーターを用いてかたさ応力、付着性について測定した。また、参考のために市販されている小麦粉主体の食パンについても示した。
【0079】
【表6】

【0080】
上記表6の結果から、発明品4は市販の小麦粉主体の食パンや対照品8と比較して硬さ応力が高く、非常に弾力のある食感を示す。さらに付着性は低く、すなわち、歯につきにくく、唾液分泌の衰えた高齢者でも食すことができる食パンとなった。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】市販イヌリンの電子顕微鏡写真。
【図2】多孔質化させたイヌリンの電子顕微鏡写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂粉末化剤として多孔質化させたイヌリンを使用することを特徴とする粉末油脂ま たは粉末油脂含有組成物の製造法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法により得られる粉末油脂または粉末油脂含有組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の粉末油脂または粉末油脂含有組成物を含有する飲食品。
【請求項4】
多孔質化させたイヌリンを含む油脂用の粉末化剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−149796(P2009−149796A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−329821(P2007−329821)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【出願人】(502281585)フジ日本精糖株式会社 (14)
【Fターム(参考)】