説明

粉末状乳化剤組成物

【課題】 粉末状で、味覚の点で問題なく、高度の起泡性を有し、しかも長期保存安定性が優れた乳化剤組成物を提供する。
【解決手段】 乳化剤組成物を、HLBが12以上のショ糖脂肪酸エステル5〜40重量%、有機酸脂肪酸モノグリセリド1〜20重量%、グリセリンモノ脂肪酸エステル1〜20重量%、プロピレングリコール脂肪酸エステル1〜20重量%、レシチン0.1〜4重量%、カゼインナトリウム1〜20重量%、サポニン0.001〜1重量%及び糖類30〜90重量%(但し、総量で100重量%)からなるものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品用の乳化剤組成物に関し、特に小麦粉に砂糖等を混合したケーキミックス等の粉末状製菓材料に添加するのに適した粉末状乳化剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ケーキミックス等の粉末状製菓材料の乳化剤としては、プロピレングリコール脂肪酸エステルや、乳酸モノグリセリドを主体にした乳化剤(起泡剤)組成物が使用されてきたが、味の点で問題があったり、油脂を配合するためにペースト状である等の理由で、粉末状製菓材料には使用しにくかった。
【0003】
粉末状乳化剤組成物としては、特開平08−205758号公報に、(A)HLB5以上のショ糖脂肪酸エステル、(B)グリセリン脂肪酸モノエステル、グリセリン脂肪酸有機酸モノエステル及びソルビタン脂肪酸エステルからなる群より選ばれた少なくとも1種、及び(C)糖類化合物を含有する水溶液又は水分散液を噴霧乾燥して得られる粉末状又は顆粒状の小麦粉系菓子類用乳化剤製剤が開示されている。しかしながら、これは起泡性が低く、ケーキミックス等の用途に必要な起泡性を得るためには10〜15重量%という多量の配合が必要であった。また、これまでの粉末状乳化剤組成物は充分な長期保存安定性を有するものではなかった。
【特許文献1】特開平08−205758号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、粉末状で、味覚の点で問題なく、高度の起泡性を有し、かつ長期保存安定性に優れた乳化剤(起泡剤)組成物を提供することを目的とする。なお、本発明でいう「粉末状」とは混合に適した粉体であればよく、粒径等は特に限定されず、「顆粒状」をも含むものとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の粉末状乳化剤組成物は、上記の課題を解決するために、HLBが12以上のショ糖脂肪酸エステル5〜40重量%、有機酸脂肪酸モノグリセリド1〜20重量%、グリセリンモノ脂肪酸エステル1〜20重量%、プロピレングリコール脂肪酸エステル1〜20重量%、レシチン0.1〜4重量%、カゼインナトリウム1〜20重量%、サポニン0.001〜1重量%及び糖類30〜90重量%(但し、総量で100重量%)からなるものとする。
【0006】
あるいは、HLBが12以上のショ糖脂肪酸エステル5〜40重量%、HLBが10以上のポリグリセリン脂肪酸エステル1〜20重量%、有機酸脂肪酸モノグリセリド1〜20重量%、グリセリンモノ脂肪酸エステル1〜20重量%、プロピレングリコール脂肪酸エステル1〜20重量%、レシチン0.1〜4重量%、カゼインナトリウム1〜20重量%、サポニン0.001〜1重量%及び糖類30〜89.899重量%(但し、総量で100重量%)からなるものとする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、例えば15℃という低温においても高度の起泡性を有し、味覚の点でも問題のない乳化剤組成物が得られる。また、本発明の乳化剤組成物は粉末状のため、砂糖、小麦粉等とのプレミックス化が可能であり、家庭で簡単に調理可能なケーキミックス等の粉末状製菓材料が容易に得られる。さらに、本発明の乳化剤組成物は半年以上といった長期にわたって優れた起泡性が維持される、長期保存安定性に優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の粉末状乳化剤組成物(以下、単に組成物ともいう)には、味の点で問題なく、親水性が高く、しかも乳化起泡力の高いHLBが12以上のショ糖脂肪酸エステルを5〜40%(重量%、以下同様)配合する。HLBが12未満であると、充分な起泡力が得られない。HLBの範囲は13〜16であることがより好ましい。また、構成脂肪酸としては、炭素数14〜22の飽和脂肪酸の1種又は2種以上の混合物が好ましい。炭素数14〜22の飽和脂肪酸の例としては、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸等が挙げられ、中でもステアリン酸が好ましい。このショ糖脂肪酸エステルは起泡力のほかにモノグリセリドのβ結晶化抑制効果も有するが、配合量が5%未満であるとこの効果が不足し、長期安定性が不十分となる。
【0009】
また本発明の組成物には、味の点で問題なく、乳化起泡力の高い有機酸脂肪酸モノグリセリドを1〜20%配合する。有機酸脂肪酸モノグリセリドは、脂肪酸モノグリセリドの好ましくはコハク酸、クエン酸、又はジアセチル酒石酸の有機酸エステルである。構成脂肪酸としては、炭素数14〜22の飽和脂肪酸の1種又は2種以上の混合物が好ましく、具体例としては上記のものが挙げられ、中でもステアリン酸が好ましい。有機酸脂肪酸モノグリセリドの配合量が1%未満であると、充分な起泡力が得られない。
【0010】
また本発明の組成物には、起泡力の高いグリセリンモノ脂肪酸エステルを0.1〜20%配合する。構成脂肪酸としては、炭素数14〜22の飽和又は不飽和脂肪酸の1種又は2種以上の混合物が好ましい。飽和脂肪酸の例としては上記のものが挙げられ、中でもステアリン酸が好ましい。不飽和脂肪酸の例としてはオレイン酸が挙げられる。グリセリンモノ脂肪酸エステルの配合量が0.1%未満であると、起泡力が不足する。
【0011】
また本発明の組成物には、バッター系での起泡力が高いプロピレングリコール脂肪酸エステルを1〜20%配合する。構成脂肪酸としては、炭素数14〜22の飽和又は不飽和脂肪酸の1種又は2種以上の混合物が好ましく、具体例としては上記のものが挙げられる。プロピレングリコール脂肪酸エステルもモノグリセリドのβ結晶化抑制効果を有するが、配合量が1%未満であると、この効果が不足する。
【0012】
また本発明の組成物には、バッター系での起泡力が高いレシチンを0.1〜5%配合する。レシチンの配合量が0.1%未満であると、バッター系の増粘が不足し、充分な起泡力が得られない。
【0013】
また本発明の組成物には、カゼインナトリウムを1〜10%配合する。カゼインナトリウムの配合量が1%未満であると、乾燥時に乳化剤を包接する力が不足し、乾燥装置への付着量が増大し、歩留まりが低下する。
【0014】
さらに本発明の組成物には、長期保存安定性の向上のためにサポニンを0.001〜1%配合する。サポニンとしては、例えば大豆サポニン又はキラヤサポニンが好適に用いられる。
【0015】
上記各成分に加えて本発明の組成物には、HLBが10以上のポリグリセリン脂肪酸エステル1〜20%を配合することもできる。構成脂肪酸としては、炭素数14〜22の飽和脂肪酸の1種又は2種以上の混合物が好ましく、具体例としては上記のものが挙げられる。HLBが10以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを配合した場合、起泡力が一層向上する。
【0016】
本発明の乳化剤組成物は、低温でも容易に溶解するものとするために、糖類でコーティングする。具体的には、上記各成分と糖類からなる水溶液又は分散液を調製し、噴霧乾燥などの方法で粉末化又は顆粒化すればよい。糖類としては、果糖、ブドウ糖等の単糖類、ショ糖、乳糖等の二糖類、デキストリン等の多糖類、ソルビット、マルビット等の糖アルコール等が使用可能である。糖類の配合量は30〜90%(ポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する場合は30〜89.899%)である。
【0017】
本発明の乳化剤組成物の小麦粉系製品への添加量は、小麦粉に対し通常1〜30%である。これより少ないと充分な起泡性が得られず、これより多くても効果は変わらず、経済的に不利である。
【実施例】
【0018】
以下に、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0019】
[実施例、比較例]
表1に示すショ糖脂肪酸エステル(構成脂肪酸:ステアリン酸)、有機酸脂肪酸モノグリセリド、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン、ポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB=13.5)、グリセリンモノ脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、糖類、サポニン及びカゼインナトリウムを当該表に示す配合にて混合したもの100部に対して水300部を加え、スラリーを調製し、噴霧乾燥して粉末状乳化剤組成物を得た。
【0020】
【表1】

【0021】
粉糖、薄力粉、及び上記により得られた乳化剤組成物を混合してケーキミックスとし、ラミネート袋に入れて開口部をヒートシールして密封した。
【0022】
密封直後と、7日毎に5℃〜37℃の温度サイクルを繰り返しつつ1ヶ月間保存した後と、同条件下で3ヶ月間保存した後と、6ヶ月間保存した後に袋を開封し、粉末状乳化剤組成物を取り出した。全卵、牛乳を加えて、液温15℃でケンウッドミキサー(ホイッパー撹拌装置)で180rpmにて5分間撹拌後、サラダ油を加えて120rpmで30秒間撹拌し、バッターを調製した。バッターの配合は表2に示す通りである。
【0023】
【表2】

【0024】
出来上がったバッター180gをケーキ型に入れて185℃で35分間焼成した。バッターの比容積とケーキの比容積をそれぞれ測定した。比容積(ml/g)は、バッター又はケーキの体積と重量から、体積(ml)/重量(g)なる式により求められる。結果を表3及び表4に示す。
【0025】
【表3】

【0026】
【表4】

【0027】
また、上記各試料を用いて焼成したケーキを縦に割り、内相を観察し、以下の基準により評価した;
◎:内相が均一できめが細かい、
○:内相に一部ムラがあるが、問題となるほどではない、
×:目が詰まった部分、油脂が凝集した部分、又はきめの粗い部分がある。
【0028】
結果を表5に示す。
【0029】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の粉末状乳化剤組成物は、ケーキミックス粉、ホットケーキミックス粉、ドーナツミックス粉等の粉末状製菓材料に特に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HLBが12以上のショ糖脂肪酸エステル5〜40重量%、
有機酸脂肪酸モノグリセリド1〜20重量%、
グリセリンモノ脂肪酸エステル1〜20重量%、
プロピレングリコール脂肪酸エステル1〜20重量%、
レシチン0.1〜4重量%、
カゼインナトリウム1〜20重量%、
サポニン0.001〜1重量%及び
糖類30〜90重量%からなる粉末状乳化剤組成物。
【請求項2】
HLBが12以上のショ糖脂肪酸エステル5〜40重量%、
HLBが10以上のポリグリセリン脂肪酸エステル1〜20重量%、
有機酸脂肪酸モノグリセリド1〜20重量%、
グリセリンモノ脂肪酸エステル1〜20重量%、
プロピレングリコール脂肪酸エステル1〜20重量%、
レシチン0.1〜4重量%、
カゼインナトリウム1〜20重量%、
サポニン0.001〜1重量%及び
糖類30〜89.899重量%からなる粉末状乳化剤組成物。

【公開番号】特開2006−55137(P2006−55137A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−243035(P2004−243035)
【出願日】平成16年8月23日(2004.8.23)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】