説明

粉砕機の発火防止方法及び発火防止装置

【課題】粉砕機内での発火を防止することができるようにする。
【解決手段】石炭Aと石炭Bとを混合した混合炭における酸素含有率及び/又は水素含有率と炭素含有率との比を分析値として予め求めておき、粉砕機5の出口におけるガス中の一酸化炭素及び/又は二酸化炭素の濃度を測定した結果と分析値とに基づいて、粉砕機5に供給される混合炭における酸素含有率及び/又は水素含有率と炭素含有率との比であって、分析値と同種の比を変化させるように、粉砕機5に供給される石炭Aおよび石炭Bの供給量をそれぞれ調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラの燃料となる固体燃料を粉砕する粉砕機の発火防止方法及び発火防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
固体燃料を燃料とするボイラには、粉砕機で粉砕された固体燃料が、搬送用空気とともに供給される。
【0003】
日本では、発火温度の高い瀝青炭をボイラの燃料に使用しているので、粉砕機での発火についてはあまり注目されていない。むしろ、初期の微粉炭燃焼ボイラには、火災が起こった後の対策として、粉砕機内に、不活性ガス(水蒸気など)を供給するシステムや破裂板(ラプチャーディスク)を設けているものがある。
【0004】
一方、海外、特に米国では、1980年代に、西部産の低品位炭を使うことにより、粉砕機内での火災・爆発を数多く経験している。今後、日本でも低品位炭、つまり発火温度が低い石炭や、亜瀝青炭、改質褐炭(UBC)等を使用する機会が増えてくることから、粉砕機内での発火を事前に検知して、これを防止する必要がある。
【0005】
特許文献1には、石炭を粉砕する粉砕ミルに石炭を供給する石炭供給管にバイオマスを定量的に供給することで、粉砕ミルに供給される石炭量とバイオマス燃料量との比率を安定化させ、バイオマスの発火を防ぎ、ひいては粉砕ミルの運転状態を安定化させた石炭・有機物燃料混合粉砕装置が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、混合空気のミル入口温度計測値とミル入口温度設定値とを比較して、ミル入口温度計測値がミル入口温度設定値以上になった場合に、ミル出口温度設定値を下げることで、ミル入口温度の過剰上昇による発火事故を防止しながら、ミル出口温度の制御を継続するミル装置ならびにそれを備えた石炭焚ボイラ設備が開示されている。
【0007】
また、特許文献3には、被粉砕物の供給量に応じてミルの入口温度を制御することで、ミルの出口温度の変化を小さくして、微粉炭の発火を防止したローラミル装置が開示されている。
【0008】
また、特許文献4には、加熱空気管および石炭粉砕機内の温度を測定し、石炭粉砕機に供給する空気の温度および供給量を制御することで、発火の虞をなくした石炭粉砕機用空気温度制御装置が開示されている。
【0009】
また、特許文献5には、ミル入口温度とミルへの給炭量から原炭水分を求め、この原炭水分に応じて、ミル出口温度を設定することで、ミル出口温度を原炭水分に応じた最適値として、発火を防止したミル出口温度制御方法が開示されている。
【0010】
また、特許文献6には、微粉ビン内で微粉炭のくすぶりやおき火燃焼状態を検知したときに、微粉炭の搬送媒体を空気から不活性ガスに切り替えることで、微粉爆発を防止する微粉炭燃焼方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−347241号公報
【特許文献2】特開2006−102666号公報
【特許文献3】特開平4−244246号公報
【特許文献4】特開昭56−152750号公報
【特許文献5】特開昭63−315158号公報
【特許文献6】特開昭63−267814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、現状では、これまで想定されていなかった発火温度が低い固体燃料に対する運転指標がない。そのため、どのような運転条件、具体的には、どのような入口・出口温度と燃料供給量で粉砕機を操作すべきかわからない。そこで、粉砕機を安全に運転するための運転条件を得て、粉砕機内での発火を防止することが望まれる。
【0013】
本発明の目的は、粉砕機内での発火を防止することが可能な粉砕機の発火防止方法及び発火防止装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明における粉砕機の発火防止方法は、固体燃料を粉砕する粉砕機の発火防止方法であって、1種類以上の固体燃料中の酸素含有率及び/又は水素含有率と炭素含有率との比を分析値として予め求めておき、前記粉砕機の出口におけるガス中の一酸化炭素及び/又は二酸化炭素の濃度を測定し、前記濃度の測定結果と前記分析値とに基づいて、前記粉砕機に供給される前記1種類以上の固体燃料中における酸素含有率及び/又は水素含有率と炭素含有率との比であって、前記分析値と同種の比を変化させるように、前記粉砕機に供給される前記1種類以上の固体燃料の供給量を調整することを特徴とする。
【0015】
上記の構成によれば、熱風(搬送用空気)が供給されながら固体燃料を粉砕する粉砕機に発火温度が低い固体燃料を使用すれば、粉砕機内において、加熱された燃料が発火する危険性がある。そして、粉砕機内において、発火の予兆である燃料の酸化反応が起これば、粉砕機の出口におけるガス中において、一酸化炭素や二酸化炭素が検知されることになる。そこで、粉砕内での発火を防止するためには、粉砕機内において、発火の予兆である燃料の酸化反応が起こらないように、即ち、粉砕機の出口におけるガス中において、一酸化炭素や二酸化炭素が検知されないようにする必要がある。
【0016】
ここで、1種類以上の固体燃料中の酸素含有率及び/又は水素含有率と炭素含有率との比が高くなるほど、1種類以上の固体燃料の発火温度が低下する。これは、酸素含有率及び/又は水素含有率と炭素含有率との比が高くなるほど、低温で可燃性ガスなどの揮発分が放出されやすくなり、発火しやすくなるためであると考えられる。そこで、酸素含有率及び/又は水素含有率と炭素含有率との比が低くなるように、粉砕機に供給される1種類以上の固体燃料の供給量を調整すれば、粉砕機に供給される1種類以上の固体燃料の発火温度が高くなり、粉砕機内において、発火の予兆である燃料の酸化反応が起こりにくくなるのである。
【0017】
ただし、単純に酸素含有率及び/又は水素含有率と炭素含有率との比を低くして、粉砕機に供給される1種類以上の固体燃料の発火温度を高くしていたのでは、安価で発火温度が低い固体燃料の供給量を増やすことができない。コストダウンを図るためには、粉砕機内で発火が起こらない程度で、安価で発火温度が低い固体燃料の供給量をできるだけ増やすことが必要である。
【0018】
そこで、粉砕機の出口におけるガス中の一酸化炭素及び/又は二酸化炭素の濃度を測定した結果、一酸化炭素や二酸化炭素が検知されない場合には、発火の予兆である燃料の酸化反応が起こっていないので、予め求めておいた分析値に基づいて、固体燃料中における酸素含有率及び/又は水素含有率と炭素含有率との比であって、分析値と同種の比が高くなる、つまり、固体燃料の発火温度が低くなるように、粉砕機に供給される1種類以上の固体燃料の供給量を調整する。具体的には、発火温度が低い方の固体燃料の供給量を増やすことで、1種類以上の固体燃料の発火温度を低くする。これにより、安価で発火温度が低い固体燃料の供給量が増えるので、コストダウンを図ることができる。
【0019】
一方、粉砕機の出口におけるガス中の一酸化炭素及び/又は二酸化炭素の濃度を測定した結果、一酸化炭素や二酸化炭素が少しでも検知された場合には、発火の予兆である燃料の酸化反応が起こっているので、予め求めておいた分析値に基づいて、固体燃料中における酸素含有率及び/又は水素含有率と炭素含有率との比であって、分析値と同種の比が低くなる、つまり、固体燃料の発火温度が高くなるように、粉砕機に供給される1種類以上の固体燃料の供給量を調整する。具体的には、発火温度が低い方の固体燃料の供給量を減らすことで、1種類以上の固体燃料の発火温度を高くする。これにより、安価で発火温度が低い固体燃料の供給量は減るが、粉砕機内において、発火の予兆である燃料の酸化反応が起こらなくなり、粉砕機の出口におけるガス中において、一酸化炭素や二酸化炭素が検知されなくなる。よって、発火温度が低い固体燃料を用いても、粉砕機内での発火を防止し、粉砕機の火災や爆発といった災害を防止することができる。
【0020】
また、本発明における粉砕機の発火防止方法において、前記固体燃料は、石炭およびバイオマス燃料の少なくとも1種であってよい。上記の構成によれば、安価で発火温度が低い石炭やバイオマス燃料を、高価で発火温度が高い瀝青炭等の高品位炭の代わりに用いることで、粉砕機内での発火を防止しながら、コストダウンを図ることができる。
【0021】
また、本発明における粉砕機の発火防止装置は、固体燃料を粉砕する粉砕機の発火防止装置であって、前記粉砕機に供給される1種類以上の固体燃料の供給量を調整する供給量調整手段と、前記粉砕機の出口におけるガス中の一酸化炭素及び/又は二酸化炭素の濃度を測定する濃度測定手段と、前記1種類以上の固体燃料中の酸素含有率及び/又は水素含有率と炭素含有率との比を分析値として記憶する記憶手段と、前記濃度測定手段の測定結果と、前記記憶手段が記憶する前記分析値とに基づいて、前記粉砕機に供給される前記1種類以上の固体燃料中における酸素含有率及び/又は水素含有率と炭素含有率との比であって、前記分析値と同種の比を変化させるように、前記供給量調整手段を制御する制御手段と、を有することを特徴とする。
【0022】
上記の構成によれば、上述したように、酸素含有率及び/又は水素含有率と炭素含有率との比が低くなるように、粉砕機に供給される1種類以上の固体燃料の供給量を調整すれば、粉砕機に供給される1種類以上の固体燃料の発火温度が高くなり、粉砕機内において、発火の予兆である燃料の酸化反応が起こりにくくなる。
【0023】
そこで、粉砕機の出口におけるガス中の一酸化炭素及び/又は二酸化炭素の濃度を測定した結果、一酸化炭素や二酸化炭素が検知されない場合には、発火の予兆である燃料の酸化反応が起こっていないので、予め求めておいた分析値に基づいて、固体燃料中における酸素含有率及び/又は水素含有率と炭素含有率との比であって、分析値と同種の比が高くなる、つまり、固体燃料の発火温度が低くなるように、粉砕機に供給される1種類以上の固体燃料の供給量を調整する。具体的には、発火温度が低い方の固体燃料の供給量を増やすことで、1種類以上の固体燃料の発火温度を低くする。これにより、安価で発火温度が低い固体燃料の供給量が増えるので、コストダウンを図ることができる。
【0024】
一方、粉砕機の出口におけるガス中の一酸化炭素及び/又は二酸化炭素の濃度を測定した結果、一酸化炭素や二酸化炭素が少しでも検知された場合には、発火の予兆である燃料の酸化反応が起こっているので、予め求めておいた分析値に基づいて、固体燃料中における酸素含有率及び/又は水素含有率と炭素含有率との比であって、分析値と同種の比が低くなる、つまり、固体燃料の発火温度が高くなるように、粉砕機に供給される1種類以上の固体燃料の供給量を調整する。具体的には、発火温度が低い方の固体燃料の供給量を減らすことで、1種類以上の固体燃料の発火温度を高くする。これにより、安価で発火温度が低い固体燃料の供給量は減るが、粉砕機内において、発火の予兆である燃料の酸化反応が起こらなくなり、粉砕機の出口におけるガス中において、一酸化炭素や二酸化炭素が検知されなくなる。よって、発火温度が低い固体燃料を用いても、粉砕機内での発火を防止し、粉砕機の火災や爆発といった災害を防止することができる。
【0025】
また、本発明における粉砕機の発火防止装置において、前記固体燃料は、石炭およびバイオマス燃料の少なくとも1種であってよい。上記の構成によれば、安価で発火温度が低い石炭やバイオマス燃料を、高価で発火温度が高い瀝青炭等の高品位炭の代わりに用いることで、粉砕機内での発火を防止しながら、コストダウンを図ることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の粉砕機の発火防止方法及び発火防止装置によると、粉砕機の出口におけるガス中の一酸化炭素及び/又は二酸化炭素の濃度を測定した結果、一酸化炭素や二酸化炭素が少しでも検知された場合には、分析値に基づいて、固体燃料中における酸素含有率及び/又は水素含有率と炭素含有率との比であって、分析値と同種の比が低くなる、つまり、固体燃料の発火温度が高くなるように、粉砕機に供給される1種類以上の固体燃料の供給量を調整する。これにより、粉砕機内において、発火の予兆である燃料の酸化反応が起こらなくなるので、発火温度が低い固体燃料を用いても、粉砕機内での発火を防止し、粉砕機の火災や爆発といった災害を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】粉砕機の発火防止装置を示す概略図である。
【図2】微粉炭発火試験装置を示す概略図である。
【図3】酸素含有率と炭素含有率とのモル比と発火温度との関係を示す図である。
【図4】水素含有率と炭素含有率とのモル比と発火温度との関係を示す図である。
【図5】酸素含有率及び水素含有率と炭素含有率とのモル比と発火温度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施形態では、固体燃料として石炭を用いて説明するが、固体燃料はこれに限定されず、バイオマス燃料や汚泥炭化物等であってもよく、石炭、バイオマス燃料、汚泥炭化物等を2種以上使用してもよい。
【0029】
(粉砕機の発火防止装置の構成)
本実施形態による粉砕機の発火防止装置10は、図1に示すように、石炭ホッパ1,2から混合機4に供給される石炭A,Bの供給量を調整する石炭供給量調整装置(供給量調整手段)3a,3bと、粉砕機5の出口におけるガス中の一酸化炭素濃度を測定する濃度測定装置(濃度測定手段)7と、石炭供給量調整装置3a,3bをそれぞれ制御する演算器(記憶手段、制御手段)11と、を有している。なお、濃度測定装置7は、粉砕機5の出口におけるガス中の二酸化炭素濃度を測定するものであってもよく、一酸化炭素及び二酸化炭素の濃度をそれぞれ測定するものであってもよい。
【0030】
石炭ホッパ1,2は、2種類の石炭A,Bをそれぞれ保持している。石炭ホッパ1が保持する石炭Aと、石炭ホッパ2が保持する石炭Bとは、酸素含有率と炭素含有率とのモル比(O/C比)が互いに異なっているとともに、水素含有率と炭素含有率とのモル比(H/C比)、および、酸素含有率及び水素含有率と炭素含有率とのモル比((O+H)/C比)が互いに異なっている。混合機4は、石炭ホッパ1,2から供給された2種類の石炭A,Bを混合する。石炭ホッパ1から混合機4に供給される石炭Aの供給量は、石炭供給量調整装置3aにより調整され、石炭ホッパ2から混合機4に供給される石炭Bの供給量は、石炭供給量調整装置3bにより調整される。
【0031】
粉砕機5は、混合機4で混合された混合炭を粉砕して微粉炭にする。粉砕機5には、微粉炭を搬送する搬送用空気(熱風)が供給されている。この搬送用空気により、粉砕機5内の微粉炭は乾燥されながら微粉炭バーナ8に搬送される。ここで、後述する微粉炭の発火温度の測定結果から、微粉炭が発火しないようにするには、粉砕機5の入口における搬送用空気(熱風)の温度を200℃以下にすることが好ましい。粉砕機5の出口におけるガス中の一酸化炭素濃度は、濃度測定装置7により測定される。微粉炭バーナ8は、微粉炭を燃焼させる。ボイラ9は、微粉炭を燃焼させて熱を回収する。
【0032】
ここで、粉砕機5に発火温度が低い石炭を使用すれば、粉砕機5内において、加熱された燃料(微粉炭)が発火する危険性がある。そして、粉砕機5内において、発火の予兆である燃料の酸化反応が起これば、一酸化炭素や二酸化炭素が発生し、濃度測定装置7によって、一酸化炭素が検知されることになる。そこで、粉砕機5内での発火を防止するためには、粉砕機5内において、発火の予兆である燃料の酸化反応が起こらないように、即ち、粉砕機5の出口におけるガス中において、一酸化炭素や二酸化炭素が検知されないようにする必要がある。
【0033】
なお、発火温度の高い瀝青炭等の高品位炭を使用していれば、粉砕機5の出口におけるガス中において、一酸化炭素や二酸化炭素は検知されない。これは、粉砕機5に供給される搬送用空気(熱風)の温度よりも、燃料が酸化反応を開始する温度の方がはるかに高いからである。
【0034】
演算器11には、予め、石炭Aおよび石炭Bの酸素含有率、水素含有率、炭素含有率などの石炭性状が分析データ(分析値)として記憶されているとともに、混合炭のO/C比が分析データ(分析値)として記憶されている。また、演算器11には、濃度測定装置7が測定した粉砕機5の出口におけるガス中の一酸化炭素濃度の測定データ(測定結果)が入力される。そして、演算器11は、石炭A,Bの混合率をパラメータとして用い、濃度測定装置7からの測定データと、分析データとに基づいて、粉砕機5に供給される混合炭のO/C比を変化させるように、石炭供給量調整装置3a,3bをそれぞれ制御する。これにより、石炭A,Bの混合機4への供給量がそれぞれ変更される。なお、混合炭のH/C比を分析データ(分析値)として演算器11に記憶させておき、演算器11は、石炭A,Bの混合率をパラメータとして用い、濃度測定装置7からの測定データと、分析データとに基づいて、粉砕機5に供給される混合炭のH/C比を変化させるように、石炭供給量調整装置3a,3bをそれぞれ制御してもよい。また、O/C比やH/C比の代わりに、(O+H)/C比を用いてもよい。
【0035】
ここで、混合炭(微粉炭)のO/C比が高くなるほど、混合炭(微粉炭)の発火温度が低下する。これは、O/C比が高くなるほど、低温で可燃性ガスなどの揮発分が放出されやすくなり、発火しやすくなるためであると考えられる。そこで、O/C比が低くなるように、粉砕機5に供給される石炭A,Bの供給量をそれぞれ調整すれば、微粉炭の発火温度が高くなり、粉砕機5内において、発火の予兆である燃料の酸化反応が起こりにくくなるのである。H/C比や(O+H)/C比についても同様である。
【0036】
ただし、単純にO/C比、H/C比、(O+H)/C比を低くして、粉砕機5に供給される混合炭の発火温度を高くしていたのでは、安価で発火温度が低い石炭の供給量を増やすことができない。コストダウンを図るためには、粉砕機5内で発火が起こらない程度で、安価で発火温度が低い石炭の供給量をできるだけ増やすことが必要である。
【0037】
(粉砕機の発火防止装置の動作)
次に、上記の構成の粉砕機の発火防止装置10の動作、即ち、粉砕機の発火防止方法について説明する。
【0038】
石炭ホッパ1,2から供給された2種類の石炭A,Bは、混合機4で混合されて混合炭として粉砕機5に供給される。石炭ホッパ1から混合機4に供給される石炭Aの供給量は、石炭供給量調整装置3aにより調整され、石炭ホッパ2から混合機4に供給される石炭Bの供給量は、石炭供給量調整装置3bにより調整される。
【0039】
混合炭は粉砕機5で粉砕されて微粉炭にされ、搬送用空気によって、乾燥されながら微粉炭バーナ8に搬送される。微粉炭は微粉炭バーナ8で燃焼され、燃焼により生じた熱はボイラ9に回収される。粉砕機5の出口におけるガス中の一酸化炭素濃度は、濃度測定装置7により測定される。濃度測定装置7が測定した粉砕機5の出口におけるガス中の一酸化炭素濃度の測定データ(測定結果)は、演算器11に入力される。
【0040】
演算器11には、予め、石炭Aおよび石炭Bの酸素含有率、水素含有率、炭素含有率などの石炭性状が分析データ(分析値)として記憶されているとともに、O/C比が分析データ(分析値)として記憶されている。演算器11は、石炭A,Bの混合率をパラメータとして用い、濃度測定装置7からの測定データと、分析データとに基づいて、粉砕機5に供給される混合炭のO/C比を変化させるように、石炭供給量調整装置3a,3bをそれぞれ制御する。これにより、石炭A,Bの混合機4への供給量がそれぞれ変更される。
【0041】
具体的には、粉砕機5の出口におけるガス中の一酸化炭素濃度を測定した結果、一酸化炭素が検知されない場合には、発火の予兆である燃料の酸化反応が起こっていないので、演算器11は、予め求めておいた分析データ(O/C比)に基づいて、石炭供給量調整装置3a,3bをそれぞれ制御して、混合炭のO/C比が高くなる、つまり、混合炭の発火温度が低くなるように、粉砕機5に供給される石炭A,Bの供給量をそれぞれ調整する。具体的には、発火温度が低い方の石炭の供給量を増やすことで、混合炭の発火温度を低くする。これにより、安価で発火温度が低い石炭の供給量が増えるので、コストダウンを図ることができる。なお、一酸化炭素が検知されない場合には、石炭供給量調整装置3a,3bを制御しないことで、混合炭のO/C比が変化しないようにしてもよい。
【0042】
一方、粉砕機5の出口におけるガス中の一酸化炭素濃度を測定した結果、一酸化炭素が少しでも検知された場合には、発火の予兆である燃料の酸化反応が起こっているので、演算器11は、予め求めておいた分析データに基づいて、石炭供給量調整装置3a,3bをそれぞれ制御して、混合炭のO/C比が低くなる、つまり、混合炭の発火温度が高くなるように、粉砕機5に供給される石炭A,Bの供給量をそれぞれ調整する。具体的には、発火温度が低い方の石炭の供給量を減らすことで、混合炭の発火温度を高くする。これにより、安価で発火温度が低い石炭の供給量は減るが、粉砕機5内において、発火の予兆である燃料の酸化反応が起こらなくなり、粉砕機5の出口におけるガス中において、一酸化炭素が検知されなくなる。よって、発火温度が低い石炭を用いても、粉砕機5内での発火を防止し、粉砕機5の火災や爆発といった災害を防止することができる。なお、O/C比の代わりにH/C比や(O+H)/C比を用いてもよい。
【0043】
また、上述したように、固体燃料としてバイオマス燃料を使用してもよい。そして、安価で発火温度が低い石炭やバイオマス燃料を、高価で発火温度が高い瀝青炭等の高品位炭の代わりに用いることで、粉砕機5内での発火を防止しながら、コストダウンを図ることができる。
【0044】
なお、濃度測定装置7が測定する一酸化炭素濃度に閾値を設けてもよい。閾値は、粉砕機5内において燃料(微粉炭)が発火するときの一酸化炭素濃度であり、数十ppmである。そして、濃度測定装置7が測定する一酸化炭素濃度が閾値に十分近くなったときには、混合炭のO/C比が低くなる、つまり、混合炭の発火温度が高くなるように、粉砕機5に供給される石炭A,Bの供給量をそれぞれ調整する。また、一酸化炭素濃度が閾値から十分に離れているときには、混合炭のO/C比が高くなる、つまり、混合炭の発火温度が低くなるように、混合機4を介して粉砕機5に供給される石炭A,Bの供給量をそれぞれ調整する。なお、一酸化炭素濃度が閾値から十分に離れているときには、混合炭のO/C比を変化させなくてもよい。
【0045】
このように、一酸化炭素濃度に閾値を設けて、石炭供給量調整装置3a,3bの制御を行うことで、粉砕機5内での発火を防止しながら、安価で発火温度が低い石炭を目一杯使用して、コストダウンを図ることができる。
【0046】
(O/C比、H/C比および(O+H)/C比と発火温度との関係)
次に、1種類以上の固体燃料中のO/C比、H/C比および(O+H)/C比と発火温度との関係について説明する。演算器11が、石炭供給量調整装置3a,3bをそれぞれ制御するためには、1種類以上の固体燃料中のO/C比、H/C比および(O+H)/C比と発火温度との関係を予め把握しておく必要がある。そこで、O/C比、H/C比および(O+H)/C比の異なる3種類の石炭A,B,Cを1種もしくは2種以上用いて、これを粉砕した微粉炭の発火温度を調査した。この調査には、図2に示す微粉炭発火試験装置21を用いた。表1に3種類の石炭A,B,Cの石炭性状を示す。
【0047】
【表1】

【0048】
微粉炭発火試験装置21は、内径φ25mm×700Lの円筒縦型反応管22と、定量の微粉炭を円筒縦型反応管22内に供給する微粉炭フィーダ23と、円筒縦型反応管22の外周に設けられたヒータ24と、円筒縦型反応管22内に加熱された混合ガスを供給するガス供給ライン25と、円筒縦型反応管22の下方に設けられた受け容器27と、円筒縦型反応管22の下部に設けられた一酸化炭素濃度計26と、円筒縦型反応管22の上方に設けられたラプチャーディスク29と、を有している。
【0049】
円筒縦型反応管22の内部の雰囲気温度は、ヒータ24によって、常温から約400℃まで、円筒縦型反応管22の縦方向に沿ってほぼ均一に昇温可能にされている。ここで、円筒縦型反応管22の内部の雰囲気温度の昇温速度は、約5℃/minになるように調整されている。
【0050】
また、円筒縦型反応管22の側面には、長手方向に沿った8ヶ所に熱電対挿入ポートが設置されており、これら熱電対挿入ポートには、外径φ1mmのシースK熱電対28がそれぞれ挿入される。これらシースK熱電対28によって、円筒縦型反応管22の内部の中心軸上の雰囲気温度の測定が可能となっている。
【0051】
ガス供給ライン25は、窒素ガス(空気よりも酸素分圧が低いガス)と空気とを混合して混合ガスとする混合室31と、混合ガス中の酸素濃度を測定する酸素濃度計32と、混合ガスを加熱する加熱ヒータ33と、を有している。ラプチャーディスク29は、通常は閉じており、円筒縦型反応管22内が高圧になると開状態となる。
【0052】
ここで、粉砕機5と同一条件下で試験を行うために、いくつかの試験条件を設けた。即ち、試験条件として、予め水分含有率が4.0〜5.0%の範囲に調整された微粉炭を使用した。また、試験条件として、粒子径が75μm以下の微粉炭の割合を80%以上とした。また、試験条件として、Air/Coal比(円筒縦型反応管22に供給される加熱された混合ガスの量[L/min]と石炭供給量[g/min]との比)を1.7とした。また、試験条件として、円筒縦型反応管22内に微粉炭が滞留する滞留時間を約6秒とした。また、微粉炭粒子は混合ガスと同じ速度で円筒縦型反応管22内を移動するものと想定した。また、微粉炭が粉砕機5の内部に付着して居付くことがないものと仮定した。
【0053】
微粉炭フィーダから供給された定量の微粉炭は、自重で円筒縦型反応管22内に落下投入される。また、円筒縦型反応管22内には、ガス供給ライン25から加熱された混合ガスが供給される。円筒縦型反応管22内において、微粉炭と混合ガスとは、同一の温度まで加熱される。その後、微粉炭は、円筒縦型反応管22の下部のフランジ部22aから系外に落下し、受け容器27に貯留される。
【0054】
微粉炭が円筒縦型反応管22内に滞留している滞留時間内に微粉炭が発火する温度まで上昇すれば、円筒縦型反応管22の下部に設置された一酸化炭素濃度計26が一酸化炭素濃度の上昇を検出する。円筒縦型反応管22内の雰囲気温度をヒータ24で変化させながら、繰り返し試験を行い、円筒縦型反応管22の出口におけるガス中の一酸化炭素濃度が30ppm以上となった時点における、円筒縦型反応管22内の雰囲気温度の平均値を、微粉炭の発火温度として算出した。なお、円筒縦型反応管22の出口におけるガス中の二酸化炭素濃度を測定することで、微粉炭の発火温度を算出してもよい。
【0055】
石炭の酸素含有率と炭素含有率とのモル比(O/C比)をパラメータにした微粉炭の発火温度の測定結果を図3に示す。また、石炭の水素含有率と炭素含有率とのモル比(H/C比)をパラメータにした微粉炭の発火温度の測定結果を図4に示す。さらに、石炭の酸素含有率及び水素含有率と炭素含有率とのモル比((O+H)/C比)をパラメータにした微粉炭の発火温度の測定結果を図5に示す。微粉炭の発火温度の測定結果から、O/C比、H/C比、(O+H)/C比が高くなるほど、微粉炭の発火温度が線形に低下することがわかる。これは、O/C比、H/C比、(O+H)/C比が高くなるほど、低温で可燃性ガスなどの揮発分が放出されやすくなり、発火しやすくなるためであると考えられる。したがって、固体燃料中のO/C比、H/C比、(O+H)/C比を制御することは、粉砕機5内での発火の観点から、粉砕機5を安全に操業する操作条件になると考えられる。また、微粉炭の発火温度の測定結果から、微粉炭の発火を防止するためには、粉砕機5の入口における搬送用空気(熱風)の温度を、200℃以下にすることが好ましいことがわかる。
【0056】
(本実施形態の変形例)
以上、本発明の実施形態を説明したが、具体例を例示したに過ぎず、特に本発明を限定するものではなく、具体的構成などは、適宜設計変更可能である。また、発明の実施の形態に記載された、作用及び効果は、本発明から生じる最も好適な作用及び効果を列挙したに過ぎず、本発明による作用及び効果は、本発明の実施の形態に記載されたものに限定されるものではない。
【0057】
例えば、演算器11による石炭供給量調整装置3a,3bの制御は、上述したものに限定されない。濃度測定装置7が一酸化炭素濃度を検知しなくても、固体燃料中のO/C比が低くなる、つまり、固体燃料の発火温度が高くなるように、粉砕機5に供給される1種類以上の固体燃料の供給量を調整してもよいし、濃度測定装置7が一酸化炭素濃度を検知しても、その値が閾値未満であれば、固体燃料中のO/C比が高くなる、つまり、固体燃料の発火温度が低くなるように、粉砕機5に供給される1種類以上の固体燃料の供給量を調整してもよい。要するに、粉砕機5内で発火が起こらない範囲内で、粉砕機5に供給される1種類以上の固体燃料の供給量を調整すればよい。H/C比や(O+H)/C比についても同様である。
【符号の説明】
【0058】
1,2 石炭ホッパ
3a,3b 石炭供給量調整装置(供給量調整手段)
4 混合機
5 粉砕機
7 濃度測定装置(濃度測定手段)
8 微粉炭バーナ
9 ボイラ
10 粉砕機の発火防止装置
11 演算器(記憶手段、制御手段)
21 微粉炭発火試験装置
22 円筒縦型反応管
23 微粉炭フィーダ
24 ヒータ
25 ガス供給ライン
26 一酸化炭素濃度計
27 受け容器
28 シースK熱電対
32 酸素濃度計
33 加熱ヒータ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体燃料を粉砕する粉砕機の発火防止方法であって、
1種類以上の固体燃料中の酸素含有率及び/又は水素含有率と炭素含有率との比を分析値として予め求めておき、
前記粉砕機の出口におけるガス中の一酸化炭素及び/又は二酸化炭素の濃度を測定し、
前記濃度の測定結果と前記分析値とに基づいて、前記粉砕機に供給される前記1種類以上の固体燃料中における酸素含有率及び/又は水素含有率と炭素含有率との比であって、前記分析値と同種の比を変化させるように、前記粉砕機に供給される前記1種類以上の固体燃料の供給量を調整することを特徴とする粉砕機の発火防止方法。
【請求項2】
前記固体燃料は、石炭およびバイオマス燃料の少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の粉砕機の発火防止方法。
【請求項3】
固体燃料を粉砕する粉砕機の発火防止装置であって、
前記粉砕機に供給される1種類以上の固体燃料の供給量を調整する供給量調整手段と、
前記粉砕機の出口におけるガス中の一酸化炭素及び/又は二酸化炭素の濃度を測定する濃度測定手段と、
前記1種類以上の固体燃料中の酸素含有率及び/又は水素含有率と炭素含有率との比を分析値として記憶する記憶手段と、
前記濃度測定手段の測定結果と、前記記憶手段が記憶する前記分析値とに基づいて、前記粉砕機に供給される前記1種類以上の固体燃料中における酸素含有率及び/又は水素含有率と炭素含有率との比であって、前記分析値と同種の比を変化させるように、前記供給量調整手段を制御する制御手段と、
を有することを特徴とする粉砕機の発火防止装置。
【請求項4】
前記固体燃料は、石炭およびバイオマス燃料の少なくとも1種であることを特徴とする請求項3に記載の粉砕機の発火防止装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−240250(P2011−240250A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114451(P2010−114451)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】