説明

粉砕機

【課題】ペルチェ素子を用いて粉砕容器を効果的に冷却し、被粉砕物の変質を防止し、香りや風味に優れた粉末茶、漢方薬粉末、粉末食材および動植物性粉末を効率よく製造する。
【解決手段】粉砕機10は、遊星運動する粉砕容器12および冷却容器38を含み、粉砕容器12内で被粉砕物100と粉砕用ボール60とを衝突させて被粉砕物100を微粉化する。冷却容器38は、内面側に熱伝導率の高い伝熱部40を、外面側に断熱性を有する断熱部42を有する。冷却容器38には、伝熱部40の内面に当接して熱結合するように粉砕容器12が嵌め込まれ、伝熱部40に冷却面14aが当接して熱結合するようにペルチェ素子14が設けられる。ペルチェ素子14は、自転軸30の内部などを通る配線50および摺動電極52など介して駆動電源と接続される。ペルチェ素子14に直流電力が供給され、伝熱部40が素早く冷却され、伝熱部40に粉砕容器12の熱が吸収される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は粉砕機に関し、特にたとえば、粉砕容器内に被粉砕物と粉砕用ボールとを封入し、粉砕容器を回転させて被粉砕物を微粉化する、粉砕機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、粉砕容器を回転させ、粉砕容器内で被粉砕物(粉砕原料)と粉砕用ボールとを衝突させることによって、被粉砕物を微粉化する粉砕機が知られている。このような粉砕機では、被粉砕物と粉砕用ボールとの衝突などによって粉砕熱が発生するため、粉砕容器内が高温になり、その熱によって被粉砕物が変質してしまう場合がある。たとえば、従来の粉砕機を用いて茶葉を粉砕すると、粉砕熱などが原因となって、石臼を用いて粉砕した抹茶と比較して香りや風味の劣る粉末茶になってしまう。
【0003】
そこで、このような粉砕熱による被粉砕物の品質の低下を軽減するために、水冷式や空冷式の粉砕機が提案されている。たとえば、特許文献1には、複数のミルポット(粉砕容器)が自転運動すると共に公転運動する遊星ボールミルの冷却装置であって、ミルポットの内部を貫通する内部冷却水路に冷却水を通すことにより、ミルポットを冷却する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2002−172339号公報 [B02C 17/08]
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術のように、冷却水を用いて粉砕容器を冷却する粉砕機では、冷却水を作成してそれを配管全体に循環させる必要があるため、粉砕容器を冷却できるまでに時間がかかる上、粉砕容器の冷却効果も不十分となる。このため、特許文献1の技術では、被粉砕物の変質を十分に防止できない恐れがある。
【0005】
それゆえに、この発明の主たる目的は、新規な、粉砕機を提供することである。
【0006】
この発明の他の目的は、被粉砕物の変質を防ぐことができる、粉砕機を提供することである。
【0007】
この発明のさらに他の目的は、風味や香りの良い粉末茶、漢方薬粉末、粉末食材および動植物性粉末を製造できる、粉砕機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、上記の課題を解決するために、以下の構成を採用した。なお、括弧内の参照符号および補足説明などは、本発明の理解を助けるために後述する実施の形態との対応関係を示したものであって、この発明を何ら限定するものではない。
【0009】
第1の発明は、粉砕容器内に被粉砕物と粉砕用ボールとを封入し、粉砕容器を回転させて被粉砕物を微粉化する粉砕機であって、直流電力を供給したときにペルチェ効果を生じ、対向する両面が冷却面および放熱面となるペルチェ素子、ペルチェ素子の冷却面を粉砕容器に熱結合する熱結合手段、およびペルチェ素子に直流電力を供給する電力供給手段を備える、粉砕機である。
【0010】
第1の発明では、粉砕機(10)は、粉砕容器(12)内で被粉砕物(100)と粉砕用ボール(60)とを衝突させることにより、被粉砕物を微粉化する粉砕機であって、ペルチェ素子(14)を用いて粉砕容器を冷却する。ここで、ペルチェ素子とは、直流電圧が印加されると、冷却面(14a)から熱を吸収して放熱面(14b)に熱を運ぶ性質(ペルチェ効果)を有する熱電変換素子をいう。ペルチェ素子の冷却面は、冷却容器などの熱結合手段(38)によって粉砕容器と熱結合され、ペルチェ素子へは、電力供給手段(46,50,52,54)によって駆動電源からの直流電力が供給される。ペルチェ素子に直流電力を供給すると、直ちに冷却が開始されるので、効果的に粉砕容器が冷却される。
【0011】
第1の発明によれば、ペルチェ素子を用いることによって粉砕容器を効果的に冷却でき、粉砕容器内の温度上昇を抑制できるので、被粉砕物の変質を防止でき、特に、香りや風味に優れる粉末茶、漢方薬粉末、粉末食材および動植物性粉末を効率よく製造できる。
【0012】
また、少なくともペルチェ素子と駆動電源とを有していれば、粉砕容器を冷却できるので、粉砕容器の冷却機構を小型化できる。
【0013】
第2の発明は、第1の発明に従属し、熱結合手段は、内面が粉砕容器外面と熱結合される伝熱部を有する冷却容器を含み、ペルチェ素子の冷却面は、伝熱部に熱結合される。
【0014】
第2の発明では、伝熱部(40)を有する冷却容器(38)を備える。伝熱部は、アルミニウム等の熱伝導率の高い材質で形成され、たとえば粉砕容器(12)の外側面および底面の全体と当接して熱結合するように形成される。また、ペルチェ素子(14)は、その冷却面(14a)が伝熱部と当接するように配置され、冷却面と伝熱部とは熱結合される。ペルチェ素子に直流電力を供給すると、熱伝導率の高い伝熱部は素早く冷却され、伝熱部によって粉砕容器の熱が吸収される。これにより、効果的に粉砕容器が冷却されるので、粉砕容器内の温度上昇を抑制でき、被粉砕物の変質を防止できる。
【0015】
第3の発明は、第2の発明に従属し、冷却容器は、伝熱部の外面を覆う断熱部をさらに備える。
【0016】
第3の発明では、冷却容器(38)は、外面側に形成される断熱部(42)をさらに備える。断熱部は、発泡樹脂などの断熱性を有する材質で形成され、伝熱部(40)の外面を覆う。これにより、伝熱部は、周囲の空間からの熱流入が抑制され、粉砕容器(12)のみから熱を吸収するので、より効率的に粉砕容器を冷却できる。
【0017】
第4の発明は、第1ないし第3の発明のいずれかに従属し、ペルチェ素子の放熱面に設けられる放熱手段をさらに備える。
【0018】
第4の発明では、放熱手段(44)がペルチェ素子(14)の放熱面(14b)に設けられる。放熱手段は、たとえばアルミニウム等の熱伝導率の高い材質によってフィン状に形成される。この放熱手段によって放熱面側の熱が効率的に放散される。
【0019】
第5の発明は、第1ないし第4の発明のいずれかに従属し、0.2〜1.0MPaの高圧ガスを粉砕容器内に供給するガス供給手段を備える。
【0020】
第5の発明では、粉砕機(10)は、ガス供給手段(62,64)を備える。ガス供給手段は、0.2〜1.0MPa、好ましくは0.5〜1.0MPaの高圧ガスを粉砕容器(12)内に供給する。ガス供給手段が供給する高圧ガスは、たとえば、窒素、ヘリウムおよびアルゴン等の不活性ガスである。高圧ガスの雰囲気中で被粉砕物(100)を微粉化することにより、被粉砕物から発生する気体の発散が抑制され、香り成分および風味成分の揮発が抑制される。また、不活性ガスを供給することにより、被粉砕物の酸化が防止される。
【0021】
第5の発明によれば、香り成分および風味成分の揮発が抑制されるので、香り成分などの揮発による被粉砕物の変質を防止でき、より香りや風味に優れる粉末茶、漢方薬粉末、粉末食材および動植物性粉末を製造できる。
【0022】
第6の発明は、第1ないし第5の発明のいずれかに従属し、粉体容器に自転力を与える自転軸を備え、電力供給手段は、自転軸に設けられる第1電極を含む。
【0023】
第6の発明では、粉砕容器(12)は、自転軸(30)によって与えられる自転力によって自転運動を行う。第1電極(52,74)は、たとえばスリップリング等の摺動電極やロータリーコネクタであって、自転軸に設けられて、ペルチェ素子(14)に直流電力を供給する。この第1電極によって、たとえば粉砕容器の自転運動に伴いペルチェ素子が自転運動する場合でも、ペルチェ素子への電力供給は安定的に持続される。
【0024】
第7の発明は、第6の発明に従属し、粉体容器に公転力を与える公転軸をさらに備え、電力供給手段は、公転軸に設けられる第2電極を含む。
【0025】
第7の発明では、粉砕容器(12)は、自転運動を行うと共に、公転軸(16)によって与えられる公転力によって公転運動を行う。第2電極(54)は、たとえばスリップリング等の摺動電極やロータリーコネクタであって、公転軸に設けられて、ペルチェ素子(14)に直流電力を供給する。第1電極(52)および第2電極によって、たとえば粉砕容器の遊星運動に伴いペルチェ素子が遊星運動する場合でも、ペルチェ素子への電力供給は安定的に持続される。また、粉砕容器が遊星運動することにより、粉砕容器内に封入した被粉砕物(100)と粉砕用ボール(60)とを効率よく衝突させることができ、被粉砕物を適切に微粉化できる。
【0026】
第8の発明は、粉砕容器内に被粉砕物と粉砕用ボールとを封入し、粉砕容器を回転させて被粉砕物を微粉化する粉砕機であって、0.2〜1.0MPaの高圧ガスを粉砕容器内に供給するガス供給手段を備える、粉砕機である。
【0027】
第8の発明では、粉砕機(10)は、粉砕容器(12)内で被粉砕物(100)と粉砕用ボール(60)とを衝突させることにより、被粉砕物を微粉化する粉砕機であり、ガス供給手段(62,64)を備える。ガス供給手段は、0.2〜1.0MPa、好ましくは0.5〜1.0MPaの高圧ガスを粉砕容器内に供給する。ガス供給手段が供給する高圧ガスは、たとえば、窒素、ヘリウムおよびアルゴン等の不活性ガスである。高圧ガスの雰囲気中で被粉砕物を微粉化することにより、被粉砕物から発生する気体の発散が抑制され、香り成分および風味成分の揮発が抑制される。また、不活性ガスを供給することにより、被粉砕物の酸化が防止される。
【0028】
第8の発明によれば、香り成分および風味成分の揮発が抑制されるので、香り成分などの揮発による被粉砕物の変質を防止でき、特に、香りや風味に優れる粉末茶、漢方薬粉末、粉末食材および動植物性粉末を効率よく製造できる。
【発明の効果】
【0029】
この発明によれば、ペルチェ素子を用いることによって粉砕容器を効果的に冷却でき、粉砕容器内の温度上昇を抑制できるので、被粉砕物の変質を防止でき、特に、香りや風味に優れる粉末茶、漢方薬粉末、粉末食材および動植物性粉末を効率よく製造できる。
【0030】
この発明の上述の目的,その他の目的,特徴および利点は、図面を参照して行う以下の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
図1を参照して、この発明の一実施例である粉砕機10は、複数(この実施例では2つ)の粉砕容器12が自転運動すると共に公転運動する遊星ボールミルである。粉砕機10は、詳細は後述するように、ペルチェ素子14を用いて粉砕容器12を冷却しながら被粉砕物100を粉砕することによって、被粉砕物100を変質させることなく微粉化する。粉砕機10によって微粉化する被粉砕物(粉砕原料)100は、特に限定されないが、粉砕機10は、食物、薬草および漢方薬などの熱によって変質(劣化)し易いもの、或いは融点や軟化点が低いために、低温でないと粉砕できないものを微粉化する際に好適に用いられる。特に、お茶の葉および茎などを微粉化して粉末茶を製造する際に好適に用いられる。
【0032】
以下、粉砕機10の具体的な構成について説明する。図1および図2に示すように、粉砕機10は、垂直方向に延びる公転軸16を備える。公転軸16は、中空軸状に形成され、軸受18を介して基台20によって回転自在に支持される。公転軸16の下端には、プーリ22が設けられており、プーリ22に巻き付けられる回転ベルトおよびモータ(図示せず)等によって、公転軸16は回転駆動される。
【0033】
また、公転軸16には、公転軸16と共に回転する円板状の第1回転テーブル24および第2回転テーブル26が設けられる。第1回転テーブル24は、軸受28を介して2つの自転軸30を回転自在に支持し、第2回転テーブル26は、第1回転テーブル24上に配置される粉砕容器12を上方から押さえて固定する。
【0034】
自転軸30は、中空軸状に形成され、その下部にはプーリ32が設けられる。プーリ32は、公転軸16に設けられるギア34と回転ベルト36によって連結されており、自転軸30は、公転軸16が回転すると、それと連動して公転軸16周りを公転しながら回転する。
【0035】
また、自転軸30の上端には、有底円筒状の冷却容器38が固定的に設けられる。冷却容器38は、その内面側に形成される伝熱部40、およびその外面側に形成される断熱部42を含む。伝熱部40は、アルミニウム等の熱伝導率の高い材質によって形成され、断熱部42は、発泡樹脂などの断熱性を有する材質によって形成される。冷却容器38の内面(つまり伝熱部40の内面)は、粉砕容器12が嵌り合う形状を有し、粉砕容器12の底面および外側面と冷却容器38の内面とは、粉砕容器12が冷却容器38に対して着脱可能な程度に密着する。
【0036】
この冷却容器38の底部には、ペルチェ素子14が設けられる。ペルチェ素子14は、直流電圧が印加されると、一方の面(冷却面14a)から熱を吸収して他方の面(放熱面14b)に熱を運ぶ性質(ペルチェ効果)を有する熱電変換素子である。粉砕機10では、ペルチェ素子14は、その冷却面14aが伝熱部40に当接して熱結合されるように、またその放熱面14bが断熱部42より外部に露出するように配置される。また、ペルチェ素子14の放熱面14bには、アルミニウム等の熱伝導率の高い材質によって形成されるフィン状の放熱板44が固定的に設けられる。
【0037】
ペルチェ素子14の動作を制御する駆動回路46は、後述するケース48の底部などの適宜な位置に配置される。この駆動回路46は、たとえば、粉砕容器12やペルチェ素子14等に適宜設けた温度センサからの信号に基づいて、粉砕容器12内やペルチェ素子14の冷却面14aの温度が目標値となるように、ペルチェ素子14への供給電力を増減させる。この駆動回路46とペルチェ素子14とは、自転軸30および公転軸16の内部などを通る配線50、スリップリングおよびブラシ等の摺動電極52、およびロータリーコネクタ54等を介して接続される。また、ペルチェ素子14の駆動電源(直流電源)には、商用交流電源を降圧、整流して安定化する電源回路(図示せず)が用いられる。ペルチェ素子14に対してこのように電力を供給することによって、冷却容器38と共にペルチェ素子14が回転しても、ペルチェ素子14への電力供給は安定的に持続される。なお、ペルチェ素子14の駆動電源には、1次電池または充電可能な2次電池などの内部電池を用いてもよく、内部電池でペルチェ素子14を駆動する場合には、ペルチェ素子14毎に内部電池を設けるようにしてもよい。
【0038】
冷却容器38には、粉砕容器12が嵌め込まれるように装着される。粉砕容器12は、有底円筒状の本体56と、本体56の上部開口にパッキンを介して装着される蓋体58とを含み、被粉砕物100を粉砕する際には、被粉砕物100と共に粉砕用ボール60が粉砕容器12内に封入される。粉砕容器12の大きさは、被粉砕物100の種類などによって適宜設定されるが、たとえば、粉末茶を製造する場合には、1つの粉砕容器12の1回の粉砕作業によって、10〜1000gのお茶の葉や茎を粉砕できるように設定される。粉砕容器12および粉砕用ボール60の材質としては、セラミック、ステンレス、鉄およびアルミナ等の公知のボールミルと同様のものを利用でき、被粉砕物100を粉砕できる強度(硬度)を有する材質であれば特に限定されないが、粉砕容器12内の熱を放熱し易いように、熱伝導性の高い材質を用いることが望ましい。なお、粉砕容器12および粉砕用ボール60は、通常、同じ材質で形成されるが、異なる材質で形成された粉砕容器12と粉砕用ボール60とを組み合わせて使用してもよい。
【0039】
また、粉砕容器12の蓋体58には、高圧ガス供給管62が接続される。高圧ガス供給管62は、コンプレッサ等を含む高圧ガス供給装置(図示せず)から供給される高圧ガスを各粉砕容器12に供給する配管であり、第2回転テーブル26の上で分岐し、第2回転テーブル26を貫通して各粉砕容器12の蓋体58に接続される。粉砕容器12に供給される高圧ガスは、窒素、ヘリウムおよびアルゴン等の不活性ガスであることが好ましい。また、その供給圧は、0.2〜1.0MPa(気圧の2〜10倍程度)であることが好ましく、0.5〜1.0MPaであることがより好ましい。これは、0.2MPaより低い圧力では、被粉砕物100からの気体の発生を効果的に抑制できず、1.0MPaより高い圧力では、粉砕容器12の耐久性に問題が生じる恐れがあるからである。
【0040】
また、高圧ガス供給管62には、各粉砕容器62の上方および分岐部の上方において回転ジョイント64が設けられる。これらの回転ジョイント64によって、粉砕容器12の回転(自転および公転)が阻害されることなく、粉砕容器12への高圧ガスの供給が維持される。なお、粉砕容器12は、冷却容器38内に嵌め込まれ、上方から第2回転テーブル26によって抑え込まれるので、冷却容器38に固定されて、冷却容器38と共に回転する。
【0041】
また、粉砕機10は、その全体がケース48内に収められてもよい。ケース48に収めた場合、ケース48内を完全に密閉すると、放熱板44からの放熱によってケース48内の温度が上昇する恐れがあるので、ケース48には、適宜の換気装置を設けた方が好ましい。たとえば、ケース48内の温度を計測して、ケース48内の温度が所定温度以上になったときに作動する排気ファンおよび吸気孔を適宜な位置に設けるとよい。また、粉砕機10は、図示しない操作パネルによって操作される。
【0042】
このような構成の粉砕機10では、上述のように、粉砕容器12を冷却しながら被粉砕物100を粉砕する。具体的には、粉砕容器12に粉砕用ボール60と被粉砕物100とを封入した後、モータを駆動して公転軸16を回転させる。すると、それと連動して自転軸30も同じ向きに回転し、自転軸30に固定される冷却容器38および粉砕容器12は、公転軸16周りを公転運動しながら自転運動する遊星運動を行う。これにより、粉砕容器12の内部では、粉砕用ボール60と被粉砕物100とが衝突して被粉砕物100が粉砕される。
【0043】
一方、この粉砕動作の際には、ペルチェ素子14に対して直流電力が供給され、ペルチェ素子14が駆動される。ペルチェ素子14が駆動されると、ペルチェ素子14の冷却面14aから熱が吸収されて放熱面14bから放出されることによって、冷却容器38の伝熱部40が冷却され、粉砕容器12が冷却される。このとき、冷却容器38の伝熱部40は、熱伝導率の高い材質によって形成されるので、その全体が速やかに冷却される。その伝熱部40と底面および外側面において密着して熱結合する粉砕容器12は、伝熱部40に効率良く熱が吸収されて効果的に冷却される。また、伝熱部40の外面は断熱部42で覆われているため、伝熱部40は、周囲の空間からの熱流入を抑制しながら、粉砕容器12のみから熱を吸収し、冷却する。さらに、ペルチェ素子14の放熱面14bから放出される熱は、放熱板44によって効率良く放熱される。この際、放熱板44自体も公転軸16周りを公転するので、放熱板44は、常に風が当たる状態となって効率的に自然冷却される。
【0044】
また、粉砕動作の際には、ペルチェ素子14による冷却と共に、高圧ガス供給管62から粉砕容器12内に、高圧の不活性ガスが供給される。不活性ガスの雰囲気中で被粉砕物100を粉砕することにより、被粉砕物100の酸化が防止される。また、0.2〜1.0MPa、好ましくは0.5〜1.0MPaの高圧状態で被粉砕物100を粉砕することにより、被粉砕物100から発生する低温揮発成分の発散が抑制される。
【0045】
この実施例の粉砕機10によれば、ペルチェ素子14を用いることによって、粉砕容器12を素早く効果的に冷却できるので、粉砕容器12内の温度上昇を抑制でき、粉砕熱に起因する被粉砕物100の変質を防止できる。また、高圧不活性ガスの雰囲気中で被粉砕物100を粉砕することによって、被粉砕物100の酸化を防止できると共に、香り成分や風味成分の発散を抑制できるので、香り成分などの揮発や酸化に起因する被粉砕物100の変質を防止できる。
【0046】
したがって、たとえば、粉砕機10を用いてお茶の葉および茎などを微粉化すれば、石臼で挽いた抹茶と同様の香りや風味を有する粉末茶を製造できる。石臼を用いて抹茶を製造する場合には、熟練の技能が必要な上、少量生産しかできないが、この粉砕機10を用いれば、熟練の技能を必要とせず、単位時間当たりの生産量を大幅に増やすことができる。
【0047】
さらに、上述の特許文献1の技術では、冷却水をつくるためのコンプレッサ等の装置が必要であるため、冷却装置自体が大型化してしまうが、この実施例によれば、ペルチェ素子14に電流電源を設けるだけで粉砕容器12を冷却できるので、冷却機構を小型化できる。
【0048】
なお、粉砕容器12内の温度上昇が問題にならないような被粉砕物100を粉砕する場合には、ペルチェ素子14を駆動させずに粉砕動作を行ってもよい。また、ペルチェ素子14に印加する電気極性を反転すれば、粉砕容器12を加温しての粉砕も可能となる。さらに、粉砕容器12に高圧ガスを供給せずに常圧で粉砕動作を行ってもよい。このような粉砕条件は、被粉砕物100の特性に合わせて適宜決定するとよい。
【0049】
なお、上述の実施例では、冷却容器38の伝熱部40を介してペルチェ素子14と粉砕容器12とを熱結合し、粉砕容器12を冷却するようにしたが、ペルチェ素子14によって粉砕容器12を直接冷却することもできる。たとえば、図3に示すように、冷却容器38の底部全体に亘るようにペルチェ素子14を配置し、粉砕容器12の底面とペルチェ素子14の冷却面14aとを当接させる。また、粉砕容器12の外側面と当接する円筒状に伝熱部40を形成し、ペルチェ素子14の冷却面14aの周縁部と伝熱部40の底面とを当接させる。このようにすれば、粉砕容器12の底面がペルチェ素子14によって直接冷却されると共に、粉砕容器12の外側面が伝熱部40によって冷却されるので、より効率的に粉砕容器12を冷却できる。
【0050】
なお、粉砕容器12自体が熱伝導性の高い材質で形成されている場合には、必ずしも冷却容器38に伝熱部40を形成する必要はなく、断熱部42を形成するだけでもよい。また、冷却容器38の周囲の温度が、他の手段によって低温に保たれている場合などには、必ずしも断熱部42を形成する必要はない。
【0051】
また、図示は省略するが、冷却容器38の変形例として、冷却容器38には、伝熱部40内を連通し、伝熱部40の内面全体に亘って分散して開口する複数の空気孔を形成しておくこともできる。この場合には、空気孔にファンまたは圧縮空気等で送風することにより、内面開口から粉砕容器12に対して冷却空気を吹き付けるようにするとよい。たとえば、冷却容器38から粉砕容器12を取り外し易くする等のために、粉砕容器12の外面と冷却容器38の内面との間に若干の隙間を形成する場合には、その隙間に形成された空気層によって断熱されてしまい、粉砕容器12の熱が冷却容器38に吸収され難くなる恐れがある。しかし、上述のように、ペルチェ素子14によって冷却された伝熱部40内に空気を流して冷却し、その冷却空気を粉砕容器12に吹き付けるようにすれば、効率的に粉砕容器12を冷却できる。
【0052】
また、上述の実施例では、公転軸16のギア34と自転軸30のプーリ32とをベルト36で連結して、公転軸16と自転軸30の回転を連動させることによって、粉砕容器12を遊星運動させたが、粉砕容器12を遊星運動させる機構は、他の公知の機構を適宜利用できる。たとえば、公転軸16に太陽ギアを設けておき、その太陽ギアと自転軸30或いは冷却容器38などに設けた遊星ギアとを噛み合わせて遊星運動させてもよい。また、必ずしも公転軸16の回転力を利用して自転軸30を回転させる必要はなく、公転軸16と自転軸30とは、異なる駆動装置(モータ)を用いて回転させてもよく、自転軸30毎に個別の駆動装置を設けて回転させてもよい。なお、粉砕容器12を遊星運動させる際の公転運動および自転運動の回転方向は、同じ方向でもよいし、逆方向でもよい。また、被粉砕物100を確実に微粉砕するためには、粉砕容器12を遊星運動させることが好ましいが、自転運動および公転運動のいずれか一方の回転のみを行うようにしてもよい。
【0053】
また、上述の実施例では、粉砕容器12を縦向きに配置して横方向に回転させたが、粉砕容器12を横向きに配置して縦方向に回転させることもできる。たとえば、図4に示すこの発明の他の実施例である粉砕機10は、横向きに配置された1つの粉砕容器12が縦方向に自転して被粉砕物100を粉砕するボールミルである。この場合、被粉砕物100は、重力によって下方向に集められながら粉砕用ボール60によって粉砕されるので、粉砕容器12が遊星運動する場合と同様に、被粉砕物100を適切に微粉化できる。以下、図4に示す粉砕機10の構成について説明するが、上述の記載と同様の部分については、同じ参照番号を用い、その説明を省略或いは簡略化している。後述する図5および図6に示す実施例も同様である。
【0054】
図4に示す粉砕機10は、軸受70を介して基台72によって回転自在に支持される中空軸状の自転軸30を備える。自転軸30の一端には、ペルチェ素子14を備える冷却容器38が設けられ、この冷却容器38に粉砕容器12が嵌め込まれる。図示は省略するが、粉砕容器12の本体56と蓋体58と、および粉砕容器12と冷却容器38とは、それぞれ適宜の固定具によって固定される。また、ペルチェ素子14からの配線50は、自転軸30内を通り、ロータリーコネクタ74等を介して駆動回路46および駆動電源に接続される。図4に示す粉砕機10においても、図1に示す粉砕機10と同様の作用効果を示し、粉砕熱に起因する被粉砕物100の変質を防止できる。もちろん、図4に示す粉砕機10にも、高圧不活性ガスの供給機構を設けることができる。
【0055】
また、上述の各実施例では、粉砕容器12と冷却容器38とを別体にし、着脱可能に装着するようにしたが、粉砕容器12と冷却容器38とは、一体的に形成することもできる。さらに、粉砕容器12の配置角度を可変にすることもできる。つまり、被粉砕物100を粉砕容器12内に投入するときには、粉砕容器12は上向きに配置され、粉砕容器12を回転して被粉砕物100を粉砕するときには、粉砕容器12は横向きに配置され、粉砕容器12内から微粉体を取り出すときには、粉砕容器12は下向きに配置されるというように、粉砕容器12の配置角度を変更できる首振り機能を粉砕機10に具備することもできる。
【0056】
さらに、図5に示すように、粉砕容器12を自転軸30に対して固定的に設けることもできる。図5に示すこの発明の他の実施例である粉砕機10は、横向きに配置された1つの粉砕容器12が縦方向に自転して被粉砕物100を粉砕するボールミルである。図5に示す粉砕機10は、軸受70を介して基台72によって回転自在に支持される中空軸状の自転軸30を備え、自転軸30の一端に粉砕容器12が固定的に設けられる。粉砕容器12の外側面には、円筒状の冷却容器38が設けられ、ペルチェ素子14の冷却面14aは、冷却容器38の伝熱部40の外側面に当接するように設けられる。この実施例の場合、粉砕熱が主に発生するのは粉砕容器12の側壁付近であるため、このように冷却容器38を配置しても、十分に冷却効果は発揮される。また、ペルチェ素子14の放熱面14bが、粉砕容器12の周りを公転するため、放熱面14bは自然冷却されるので、放熱板44を設ける必要がない。ただし、ペルチェ素子14に放熱板44を設けて、より効率的に放熱することもできる。
【0057】
また、粉砕容器12を自転軸30に対して固定的に設ける場合には、図示は省略するが、たとえばペルチェ素子14を設けた冷却容器38を基台72に断熱して固定し、自転軸30を備えた粉砕容器12のみを自転させることもできる。これにより、ペルチェ素子14の発熱部(放熱面14b)を基台72または固定された放熱器に接続できるので、放熱の効率を上げると共に、ペルチェ素子14への電源供給を簡易にすることができる。
【0058】
さらには、このように冷却容器38を自転させずに粉砕容器12のみを自転させる場合には、前述と同じく冷却容器38に対して、伝熱部40内を連通し、伝熱部40の内面全体に亘って分散して開口する複数の空気孔を形成しておくこともできる。この場合には、空気孔にファンまたは圧縮空気等で送風することにより、内面開口から粉砕容器12に対して冷却空気を吹き付けるようにするとよい。粉砕容器12の外面と冷却容器38の内面との間に粉砕容器12の自転のための若干の隙間を形成する場合には、その隙間に形成された空気層によって断熱されてしまい、粉砕容器12の熱が冷却容器38に吸収され難くなる恐れがある。しかし、上述のように、ペルチェ素子14によって冷却された伝熱部40内に空気を流して冷却し、その冷却空気を粉砕容器12に吹き付けるようにすれば、効率的に粉砕容器12を冷却できる。
【0059】
また、上述の各実施例では、摺動電極52やロータリーコネクタ54,74等を用いてペルチェ素子14に電源供給するようにしたが、摺動電極52やロータリーコネクタ54,74等を用いることなく、ペルチェ素子14に電源供給することもできる。たとえば、図6に示すこの発明の他の実施例である粉砕機10は、図1の粉砕機10と同様の遊星ボールミルであって、軸受28を介して第1回転テーブル24によって回転自在に支持される自転軸30を備える。自転軸30の一端には、ペルチェ素子14を備える冷却容器38が設けられ、この冷却容器38に粉砕容器12が嵌め込まれる。また、粉砕容器12の蓋体58には、補助自転軸80が設けられる。自転軸30の下端と補助自転軸80の上端とは、球軸などを介して第1支持板82と第2支持板84とによって挟み込まれるように回転自在に支持される。そして、ペルチェ素子14の配線50は、一方が自転軸30に接続され、他方が補助自転軸80に接続される。ペルチェ素子14の表面は、電気絶縁性を有する素材で覆われているので、自転軸30、補助自転軸80、第1支持板82および第2支持板84を介して通電するようにすれば、ペルチェ素子14に電力を供給できる。
【0060】
また、たとえば、図示は省略するが粉砕容器12の蓋体58を絶縁体で形成し、自転軸30を二重管構造として外側を絶縁体とすることで、自転軸30の内心、補助自転軸80、第1支持板82および第2支持板84を介して通電するようにすれば、ペルチェ素子14に電力を供給できる。
【0061】
さらに、上述の各実施例では、回分式の粉砕機10を例示しているが、粉砕機10は、たとえば粉砕容器12の一方端から被粉砕物100を投入して、他端から微粉体を取り出す連続式にすることも可能である。
【0062】
なお、ペルチェ素子を用いた粉砕容器の冷却機構、および高圧ガスによる気体発散防止機構は、図1−6に示した粉砕機10のようなボールミルだけでなく、回転羽根または回転刃などによって被粉砕物を粉砕する粉砕機などにも適用可能であり、これによっても図1−6に示す粉砕機10と同様の作用効果を発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】この発明の粉砕機の一実施例を示す図解図である。
【図2】図1の粉砕機の冷却容器部分の断面構造を拡大して示す図解図である。
【図3】この発明の粉砕機の他の実施例を示す図解図である。
【図4】この発明の粉砕機のさらに他の実施例を示す図解図である。
【図5】この発明の粉砕機のさらに他の実施例を示す図解図である。
【図6】この発明の粉砕機のさらに他の実施例を示す図解図である。
【符号の説明】
【0064】
10 …粉砕機
12 …粉砕容器
14 …ペルチェ素子
14a …冷却面
14b …放熱面
16 …公転軸
30 …自転軸
38 …冷却容器
40 …伝熱部
42 …断熱部
44 …放熱板
46 …ペルチェ素子の駆動回路
50 …ペルチェ素子の配線
52 …摺動電極(第1電極)
54 …ロータリーコネクタ(第2電極)
60 …粉砕用ボール
62 …高圧ガス供給管
64 …回転ジョイント
74 …ロータリーコネクタ(第1電極)
100 …被粉砕物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉砕容器内に被粉砕物と粉砕用ボールとを封入し、前記粉砕容器を回転させて前記被粉砕物を微粉化する粉砕機であって、
直流電力を供給したときにペルチェ効果を生じ、対向する両面が冷却面および放熱面となるペルチェ素子、
前記ペルチェ素子の冷却面を前記粉砕容器に熱結合する熱結合手段、および
前記ペルチェ素子に直流電力を供給する電力供給手段を備える、粉砕機。
【請求項2】
前記熱結合手段は、内面が前記粉砕容器外面と熱結合される伝熱部を有する冷却容器を含み、
前記ペルチェ素子の冷却面は、前記伝熱部に熱結合される、請求項1記載の粉砕機。
【請求項3】
前記冷却容器は、前記伝熱部の外面を覆う断熱部をさらに備える、請求項2記載の粉砕機。
【請求項4】
前記ペルチェ素子の放熱面に設けられる放熱手段をさらに備える、請求項1ないし3のいずれかに記載の粉砕機。
【請求項5】
0.2〜1.0MPaの高圧ガスを前記粉砕容器内に供給するガス供給手段を備える、請求項1ないし4のいずれかに記載の粉砕機。
【請求項6】
前記粉体容器に自転力を与える自転軸を備え、
前記電力供給手段は、前記自転軸に設けられる第1電極を含む、請求項1ないし5のいずれかに記載の粉砕機。
【請求項7】
前記粉体容器に公転力を与える公転軸をさらに備え、
前記電力供給手段は、前記公転軸に設けられる第2電極を含む、請求項6記載の粉砕機。
【請求項8】
粉砕容器内に被粉砕物と粉砕用ボールとを封入し、前記粉砕容器を回転させて前記被粉砕物を微粉化する粉砕機であって、
0.2〜1.0MPaの高圧ガスを前記粉砕容器内に供給するガス供給手段を備える、粉砕機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate