説明

粒子状物質処理装置

【課題】電極の再生時期の適正化を図る。
【解決手段】内燃機関の排気通路に設けられる電極と、電極に接続され電圧を印加する電源と、電極を通る電流を検出する検出装置と、電極へ電圧を印加したときに検出装置により電流が検出されるか否かの境界となる印加電圧を検出する印加電圧下限値検出装置と、印加電圧下限値検出装置により検出される印加電圧を学習する印加電圧下限値学習装置と、電極の再生を行う再生装置と、印加電圧下限値学習装置により学習される印加電圧が、過去に印加電圧下限値学習装置により学習された印加電圧よりも所定量小さい場合に、再生装置により電極の再生を行う再生時期判定装置と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子状物質処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の排気通路に放電電極を設け、該放電電極からコロナ放電を発生させることにより粒子状物質(以下、PMともいう。)を帯電させてPMを凝集させる技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。PMを凝集させることにより、PMの粒子数を減少させることができる。また、PMの粒子径が大きくなるため、下流側にフィルタを設けたときに該フィルタにてPMを捕集しやすくなる。
【0003】
また、放電電極を通る電流が所定値以上のときに、該放電電極にPMが付着していると判定し、放電電極からPMを除去するために印加電圧を増加させる技術が知られている(例えば、特許文献2参照。)。なお、電極から付着物を除去することを、電極の再生という。
【0004】
また、電極と該電極が取り付けられるハウジングとの間に電気が流れないように碍子が設けられ、コロナ放電用の電圧の数分の一程度の検査電圧を電極に印加したときの所定期間の平均電流が所定値以上の場合に、碍子にPMが付着して絶縁性能が低下していると判定する技術が知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【0005】
しかし、コロナ放電が発生するよりも低い印加電圧であっても、ある程度の大きさになれば、排気中に含まれるPMなどの物質を介しても電流が通る。このため、検出される電流が、電極の付着物を介して通っているのか、排気中に浮遊するPMを介して通っているのか、を判断することは困難である。そして、従来では、排気中に浮遊するPMを介して通る電流については考慮されていなかった。したがって、電極を通る電流に基づいて電極の再生を行うか否か判定すると、判定精度が低くなる虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−194116号公報
【特許文献2】特開2006−105081号公報
【特許文献3】特開平06−173635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記したような問題点に鑑みてなされたものであり、電極の再生時期の適正化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するために本発明による粒子状物質処理装置は、
内燃機関の排気通路に設けられる電極と、
前記電極に接続され電圧を印加する電源と、
前記電極を通る電流を検出する検出装置と、
前記電源により前記電極へ電圧を印加したときに前記検出装置により電流が検出されるか否かの境界となる印加電圧を検出する印加電圧下限値検出装置と、
前記印加電圧下限値検出装置により検出される印加電圧を学習する印加電圧下限値学習装置と、
前記電極の付着物を除去する処理である電極の再生を行う再生装置と、
前記印加電圧下限値学習装置により学習される印加電圧が、過去に前記印加電圧下限値学習装置により学習された印加電圧よりも所定量小さい場合に、前記再生装置により前記電極の再生を行う再生時期判定装置と、
を備える。
【0009】
ここで、電極に電圧を印加すると、PMを帯電させることができる。帯電したPMは、クーロン力や排気の流れにより排気通路の内壁へ向かって移動する。排気通路の内壁に到達したPMは、排気通路に電子を放出するため、電極よりも接地側に電気が流れる。そして、電子を放出したPMは、近くに存在する他のPMと凝集するため、粒子数を減少させることができる。
【0010】
ところで、電極への印加電圧が小さすぎると、PMが帯電しないために、PMが凝集されない。このため、印加電圧が小さすぎると、電流がほとんど通らなくなる。したがって、PMを凝集させるには、ある程度大きな電圧を印加する必要がある。この印加電圧は、PMが帯電することにより電流が通り得る印加電圧である。そして、印加電圧下限値検出装置は、電圧を印加したときに電流が通るか否かの境界にあるときの印加電圧(以下、印加電圧下限値ともいう。)を検出している。印加電圧下限値は、電圧を印加しても電流が通らない印加電圧の最大値、または、電圧を印加したときに電流が通る印加電圧の最小値としてもよい。また、印加電圧を徐々に増加させたときに、電流が通り始めるときの印加電圧としてもよい。このようにして検出される印加電圧下限値よりも大きな電圧を印加することにより、PMを凝集させることができる。
【0011】
ところで、電極にPMや水などの物質が付着すると、これら付着物を介して電極と排気通路との間に電気が流れ易くなる。すなわち、電極の絶縁性が低下する。このように、電極に付着物が存在すると、電極に電圧を印加したときに、該電極に電流が通っているにもかかわらず、PMが凝集されていない場合がある。そして、電極にPMなどの物質が付着すると、排気中に浮遊しているPMを帯電させることが困難となるので、PMを凝集させることが困難となる。このため、電極にPMなどの付着物が存在する場合には、電極から該付着物を除去する処理である電極の再生を行う。電極の再生は再生装置により行われる。
【0012】
再生装置は、たとえば、電極の温度を上昇させることにより、該電極に付着している物質を酸化させるか又は蒸発させる。また、電極の温度を高くし、且つ、排気中の酸素濃度を高くしてもよい。また、電極を加熱してもよい。
【0013】
この電極の再生は、電極の絶縁性が低下したときに行われる。ここで、電極の絶縁性が低下すると、印加電圧下限値検出装置により検出される印加電圧下限値が小さくなる。このため、印加電圧下限値検出装置により検出される印加電圧下限値を学習しておき、過去に学習された印加電圧下限値と、現時点で学習される印加電圧下限値と、を比較すれば、電極の絶縁性の低下を検出することができる。すなわち、過去に学習された印加電圧下限値よりも、新たに学習される印加電圧下限値のほうが所定量小さい場合に、電極の絶縁性が低下したと判定できる。なお、過去に学習された印加電圧下限値よりも、新たに学習される印加電圧下限値のほうが小さい場合に、電極の絶縁性が低下したと判定してもよい。そして、電極の絶縁性が低下したときに電極の再生を行うことにより、該電極の再生を適正な時期に行うことができる。なお、所定量は、たとえば電流の検出誤差を考慮して余裕を持たせた値として設定される。また、所定量は、印加電圧下限値の低下量の許容範囲として設定してもよい。すなわち、印加電圧下限値の低下量が許容範囲を超えた場合に、電極の再生を行ってもよい。
【0014】
また、「学習」は、「記憶」としてもよい。なお、印加電圧下限値は、排気中のPMの粒子数の影響をほとんど受けない。このため、排気中のPMの粒子数が多い状態であっても、電極にPMなどが付着しているか否かを高精度に判定することができる。これにより、電極の再生時期の適正化を図ることができる。
【0015】
また、本発明においては、前記過去に前記印加電圧下限値学習装置により学習された印加電圧とは、前記電極に付着物が存在しないときに前記印加電圧下限値学習装置により学習された印加電圧であってもよい。
【0016】
すなわち、電極に付着物が存在しないときに印加電圧下限値検出装置により印加電圧下限値を検出し、さらに該印加電圧下限値の学習を行う。なお、電極に付着物が存在しないときとは、たとえば、粒子状物質処理装置が新品のときや、新品時からの走行距離が短く電極にPMが付着していないと考えられる所定距離を走行するまでの間のとき、さらには、粒子状物質処理装置を交換した直後のときとすることができる。また、電極の再生を行った直後、または、電極の再生を行ってからの走行距離が短く電極にPMが付着していないと考えられる所定距離を走行するまでの間のときとすることができる。
【0017】
そして、電極に付着物が存在しなければ、付着物を介して電流が通ることもない。このときに検出される印加電圧下限値を学習しておけば、その後に印加電圧下限値が低下したときに、電極にPMなどが付着したと判断できる。すなわち、この印加電圧下限値の低下を検出すれば、電極の再生が必要であるか否か容易に判断することができる。
【0018】
また、本発明においては、前記排気通路に設けられ前記電極が設置される処理部と、
前記処理部と前記排気通路との間で電気を絶縁する絶縁部と、
前記処理部を接地させる接地部と、
を備え、
前記検出装置は、前記接地部にて電流を検出することができる。
【0019】
この場合、検出装置は、電極よりも電位の基準点側において電流を検出している。一般に、電極より電源側では、電極より接地側よりも、配線が長かったり、配線を太くしたりする。また、電極よりも電源側では電荷が蓄えられることもある。そうすると、仮に電極よりも電源側において電流を検出した場合には、電極において強い放電が発生しても、そのときに検出装置により検出される電流の上昇および下降が緩慢となる。一方、電極より接地側では、相対的に配線を短く且つ細くすることができる。このため、電流をより正確に検出することができる。また、絶縁部を備えることにより、接地部以外に電気が流れることを抑制できる。このため、電流をより正確に検出することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、電極の再生時期の適正化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例に係る粒子状物質処理装置の概略構成を示す図である。
【図2】印加電圧と、パルス電力と、非パルス電力と、PM粒子数と、PM粒子数低減率と、の関係を示した図である。
【図3】実施例に係る電極再生時期の判定フローを示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る粒子状物質処理装置の具体的な実施態様について図面に基づいて説明する。
【0023】
(実施例1)
図1は、本実施例に係る粒子状物質処理装置1の概略構成を示す図である。粒子状物質処理装置1は、ガソリン機関の排気通路2に設けられる。なお、ディーゼル機関の排気通路に設けることもできる。
【0024】
粒子状物質処理装置1は、両端が排気通路2に接続されているハウジング3を備えて構成される。ハウジング3の材料には、ステンレス鋼材を用いている。ハウジング3は、排気通路2よりも直径の大きな中空の円柱形に形成されている。ハウジング3の両端は、端部に近くなるほど断面積が小さくなるテーパ状に形成されている。なお、図1においては、排気が排気通路2を矢印の方向に流れて、ハウジング3内に流入する。このため、ハウジング3は排気通路2の一部としてもよい。
【0025】
排気通路2とハウジング3とは、絶縁部4を介して接続されている。絶縁部4は、電気の絶縁体からなる。絶縁部4は、排気通路2の端部に形成されるフランジ21と、ハウジング3の端部に形成されるフランジ31と、に挟まれる。排気通路2とハウジング3とは、たとえばボルト及びナットにより締結される。そして、これらボルト及びナットを介して電気が流れないように、これらボルト及びナットにも絶縁処理を施しておく。このようにして、排気通路2とハウジング3との間に電気が流れないようにしている。
【0026】
ハウジング3には、電極5が取り付けられている。電極5は、ハウジング3の側面を貫通しており、該ハウジング3の側面から該ハウジング3の中心軸方向へ延びて該中心軸近傍において排気の流れの上流側へ折れ曲がり、該中心軸と平行に排気の流れの上流側へ向かって伸びている。そして、上流側でさらにハウジング3の側面側へ折れ曲がり、該ハウジング3の側面を貫通して外部へ通じている。
【0027】
そして、電極5とハウジング3との間に電気が流れないように、電極5には電気の絶縁体からなる碍子部51,55が設けられている。この碍子部51,55は、電極5とハウジング3との間に位置しており、電気を絶縁すると共に、電極5をハウジング3に固定するための機能を有する。
【0028】
そして、電極5の一端は、電源側電線52を介して電源6に接続されている。電源6は、電極5へ通電すると共に、印加電圧を変更することができる。この電源6は、電線を介して制御装置7及びバッテリ8に接続されている。制御装置7は、電源6が電極5に印加する電圧を制御する。また、電源6には、電位の基準点に接続するための接地電線54が接続されている。この接地電線54により電源6が接地される。
【0029】
また、電極5の他端は、短絡電線56を介して接地電線54に接続されている。短絡電線56の途中には、回路を開閉するためのスイッチ57が設けられている。電源6により電圧を印加しているときにスイッチ57をONとすることにより、短絡電線56を電気が流れる。このときには、電極5が短絡している状態となるため、該電極5の温度が上昇する。なお、本実施例においては短絡電線56及びスイッチ57が、本発明における再生装置に相当する。また、本実施例では、下流側の碍子部51に電源側電線52を接続し、上流側の碍子部55に短絡電線56を接続しているが、これに代えて、下流側の碍子部51に短絡電線56を接続し、上流側の碍子部55に電源側電線52を接続してもよい。
【0030】
また、ハウジング3には接地側電線53が接続されており、該ハウジング3は接地側電線53を介して接地されている。接地側電線53には、該接地側電線53を通る電流を検出する検出装置9が設けられている。検出装置9は、例えば、接地側電線53の途中に設けられる抵抗の両端の電位差を測定することで電流を検出する。この検出装置9は、電線を介して制御装置7に接続されている。そして、検出装置9により検出される電流が制御
装置7に入力される。なお、電源側電線52よりも接地側電線53のほうが電気的な容量が小さいため、接地側電線53に検出装置9を設けたほうが電流を検出するときの応答性が高い。しかし、接地側電線53に代えて、電源側電線52に検出装置9を設けることもできる。
【0031】
なお、制御装置7には、アクセル開度センサ71、クランクポジションセンサ72、温度センサ73、エアフローメータ74が接続されている。アクセル開度センサ71は、内燃機関が搭載されている車両の運転者がアクセルペダルを踏み込んだ量に応じた電気信号を出力し、機関負荷を検出する。クランクポジションセンサ72は、機関回転数を検出する。温度センサ73は、内燃機関の冷却水の温度または潤滑油の温度を検出することで内燃機関の温度を検出する。エアフローメータ74は、内燃機関の吸入空気量を検出する。
【0032】
また、制御装置7には、スイッチ57が電線を介して接続されており、制御装置7はスイッチ57のON−OFF操作を行う。ここで、電源6から電極5へ電圧が印加されているときにスイッチをONとすることで、短絡電線56に電流が通る。一方、スイッチをOFFとすることで、短絡電線56には電流が通らなくなる。
【0033】
このように構成された粒子状物質処理装置1では、スイッチ57がOFFのときに電源6から電極5へ負の直流高電圧を印加することで、該電極5から電子が放出される。すなわち、ハウジング3よりも電極5のほうの電位を低くすることで、電極5から電子を放出させている。そして、この電子により排気中のPMを負に帯電させることができる。負に帯電したPMは、クーロン力とガス流によって移動する。そして、PMがハウジング3へ到達すると、PMを負に帯電させた電子は該ハウジング3へと放出される。ハウジング3へ電子を放出したPMは凝集して粒子径が大きくなる。また、PMが凝集することで、PMの粒子数は低減する。すなわち、電極5へ電圧を印加することで、PMの粒子径を大きくし且つPMの粒子数を低減させることができる。
【0034】
ところで、碍子部51を含む電極5にPMまたは水などの物質が付着すると、電極5の絶縁性が低下する。そして、これら付着物を介して電極5とハウジング3との間に電気が流れ得る。そうすると、電極5から放出される電子が減少するため、排気中に浮遊しているPMを帯電させることが困難となり、PMを凝集させることが困難となる。このため、電極5の再生処理を実施する。
【0035】
ここで、電極5の再生処理とは、碍子部51,55を含む電極5に付着しているPMや水などの付着物を除去するための処理である。本実施例では、スイッチ57をONとしつつ電源6から電圧を印加することにより電極5の再生処理を行う。すなわち、電極5を短絡させることにより、該電極5の温度を上昇させて付着物を燃焼または蒸発させて除去する。なお、PMを速やかに酸化させるためには、排気中の酸素濃度が高いほうがよい。このため、電極5を短絡させる前または短絡させているときに、排気中の酸素濃度が高くなるようにしてもよい。排気中の酸素濃度を高くするために、たとえば、車両の駆動源として内燃機関及びモータを備えるハイブリッド車においては、内燃機関に燃料を供給せずにモータにより内燃機関のクランク軸を回転させてもよい。これにより、内燃機関から空気を排出することができるため、排気中の酸素濃度を高めることができる。また、内燃機関を停止させる前に機関回転数を一旦上昇させ、該機関回転数が高い状態のときに燃料の供給を停止することで、排気通路内に空気を排出させることができる。そして、その後に内燃機関が停止したときに電極5を短絡させればよい。また、減速運転中のフューエルカット時には、排気中の酸素濃度が高くなるため、このときに電極5を短絡させてもよい。
【0036】
電極5の再生は、電極5の絶縁性が低下したと判定されたときに行う。電極5の絶縁性が低下したことは、電流が通る印加電圧の最小値に基づいて判定する。ここで、電源6か
ら電極5への印加電圧が小さすぎると、電圧を印加しても、PMの粒子数が変化しない場合がある。すなわち、PMがほとんど凝集しない印加電圧(以下、無効電圧とする。)が存在する。このため、印加電圧が無効電圧の範囲内であれば、PMの粒子数は変化せず、検出装置9により電流が検出されない。
【0037】
ここで、図2は、印加電圧と、パルス電力と、非パルス電力と、PM粒子数と、PM粒子数低減率と、の関係を示した図である。なお、この関係は、機関回転数、機関負荷、内燃機関の温度などによって変わる。ここで、パルス電力とは、パルス電流が発生しているときの電力である。このパルス電流は、コロナ放電などの強い放電が発生しているときに検出される。非パルス電力とは、パルス電流が発生していないときの電力である。PM粒子数とは、排気中の一立方センチメートルあたりのPMの粒子数である。PM粒子数低減率とは、PM粒子数が低減された度合いを示す値であり、「ハウジング3に流入するPM粒子数」から「ハウジング3から流出するPM粒子数」を減算して得られるPM粒子数の減少量を、「ハウジング3に流入するPM粒子数」で除算した値である。
【0038】
図2に示されるように、印加電圧が0からAまでの間ではパルス電力及び非パルス電力が0(W)となっている。すなわち、電流がほとんど通っていない。このため、PM粒子数及びPM粒子数低減率もほとんど変化がない。したがって、図2においては、0からAまでの印加電圧が無効電圧に相当する。この無効電圧は個体差が大きいために、粒子状物質処理装置毎に求める必要がある。
【0039】
そして本実施例では、電源6により電極5へ電圧を印加したときに検出装置9により電流が検出されるか否かの境界となる印加電圧(すなわち、印加電圧下限値)を検出及び学習する。これは、電流が流れ始める印加電圧を検出及び学習するとしてもよい。また、無効電圧の最大値または電流が通る印加電圧の最小値を検出及び学習するとしてもよい。
【0040】
この印加電圧下限値は、電極5にPMなどが付着することにより小さくなる。すなわち、PMなどの付着物を介して電流が通るため、より低い印加電圧で電流が通り始める。したがって、印加電圧下限値が低下した場合に、電極5の再生を行う。なお、電極5に付着物が存在しない場合には、排気中のPM粒子数によらず印加電圧下限値は略一定の値となる。したがって、電極5の再生が必要か否か判定するときに、排気中を浮遊するPMを介して通る電流の影響を無視することができる。
【0041】
次に、図3は、本実施例に係る電極再生時期の判定フローを示したフローチャートである。本ルーチンは、制御装置7により所定の時間毎に繰り返し実行される。
【0042】
ステップS101では、電極5への印加電圧が算出される。印加電圧は、推定されるPM粒子数(個/cm)に応じて設定する。このPM粒子数は、内燃機関から排出されるPM粒子数であり、ハウジング3に流入する前のPM粒子数である。PM粒子数は、機関回転数、機関負荷、及び内燃機関の温度(たとえば、潤滑油の温度または冷却水の温度)と相関関係にあるため、これらの値に基づいて算出する。機関回転数と機関負荷とから、PM粒子数を算出するためのマップを内燃機関の温度に応じて複数記憶しておき、該マップに基づいてPM粒子数を算出してもよい。
【0043】
なお、機関回転数は、クランクポジションセンサ72により検出され、機関負荷は、アクセル開度センサ71により検出される。また、内燃機関の温度は温度センサ73により検出される。また、PM粒子数を検出するセンサをハウジング3よりも上流側の排気通路2に取り付けて、該センサによりPM粒子数を検出してもよい。
【0044】
そして、該PM粒子数及び内燃機関の排出ガス量(g/sec)に基づいて印加電圧を
算出する。この関係は予め実験等により求めてマップ化しておいてもよい。内燃機関の排出ガス量は、内燃機関の吸入空気量と相関関係にあるため、エアフローメータ74により検出される吸入空気量に基づいて求めることができる。
【0045】
ここで、排出ガス量が少ないほど、PMの慣性力が小さくなるため、相対的に静電作用の影響が大きくなる。このため、PMが凝集しやすくなる。したがって、排出ガス量が少ないほど、より小さな印加電圧でPMが凝集する。このため、排出ガス量が少ないほど、印加電圧を小さくする。また、PM粒子数が多いほど、PM粒子間の距離が短くなるために、相対的に静電作用の影響が大きくなる。このためPM粒子数が多いほど、より小さな印加電圧でPMが凝集する。このため、PM粒子数が多いほど、印加電圧を小さくする。また、印加電圧は、たとえば、PM粒子数の低減率が所定値(たとえば40%)となるような値としてもよい。また、印加電圧を予め定めておいた規定値としてもよい。この場合、HC濃度を検出可能な最低限の印加電圧としてもよい。すなわち、PMを凝集させるときよりも印加電圧を小さくしてもよい。
【0046】
そして、印加電圧が算出された後、該印加電圧を電極5へ印加してステップS102へ進む。ステップS102では、検出装置9により電流が検出される。
【0047】
ステップS103では、電極5の再生処理を行うか否かの判断をする時期となっているか否か判定される。たとえば、前回に電極5の再生処理を行うか否かの判断が行われてからの内燃機関の運転時間の積算値が所定値に達しているか否かにより判定を行う。この場合、運転時間の積算値が所定値に達する毎に、電極5の再生処理を行うか否かの判断をする。たとえば、内燃機関の積算運転時間が、所定値の倍数となっているときに、上記判断をする時期となっていると判定してもよい。また、内燃機関を搭載する車両の走行距離が、所定値の倍数となっているときに、上記判断をする時期となっていると判定してもよい。これら所定値は、電極5にPMなどが付着し得る値として実験等により求められる。そして、ステップS103で肯定判定がなされた場合にはステップS104へ進み、否定判定がなされた場合には本ルーチンを終了させる。
【0048】
ステップS104では、印加電圧が0(V)とされる。すなわち、電極5に電圧を印加しないようにしている。本ルーチンでは、印加電圧を0(V)から徐々に増加させていき、検出電流が閾値よりも大きくなったときに印加電圧が無効電圧よりも大きくなったと判定している。このため、ステップS104では、印加電圧を増加させる前の状態としている。なお、ステップS103で否定判定がなされた場合には、ステップS101で算出された印加電圧を電極5に印加する。
【0049】
ステップS105では、印加電圧を増加させる。このときの印加電圧の増加量は、印加電圧下限値を検出するために適した値として予め設定しておく。すなわち、印加電圧の増加量が小さすぎると、電流が上昇するまでに何度も電圧を増加させなくてはならないため、時間がかかってしまう。一方、印加電圧の増加量が大きすぎると、電流が上昇するまでの時間は短縮できるが、印加電圧下限値を正確に求めることが困難となる。したがって、要求される時間と、要求される精度と、に基づいて印加電圧の増加量を決定してもよい。
【0050】
ステップS106では、検出電流が取得される。この検出電流は、検出装置9により検出される電流である。
【0051】
ステップS107では、ステップS106で取得される検出電流が所定値Bよりも大きいか否か判定される。本ステップでは、電極5に電流が通っているか否か判定される。すなわち、印加電圧が無効電圧よりも大きくなったか否か判定される。所定値Bは、PMの凝集が行われていないと考えられる検出電流であり、予め実験等により求める。
【0052】
ステップS107で肯定判定がなされた場合にはステップS108へ進み、否定判定がなされた場合にはステップS105へ戻る。なお、本実施例においてはステップS104からステップS107を処理する制御装置7が、本発明における印加電圧下限値検出装置に相当する。
【0053】
ステップS108では、現時点での印加電圧を印加電圧下限値V1として記憶する。すなわち、電極5へ電圧を印加したときに検出装置9により電流が検出されるか否かの境界となる印加電圧を学習している。なお、本実施例においてはステップS108を処理する制御装置7が、本発明における印加電圧下限値学習装置に相当する。
【0054】
ステップS109では、ステップS108で学習された印加電圧下限値V1が、過去に学習された印加電圧下限値の基準値V0(以下、基準印加電圧下限値V0という。)から所定値Cを減算した値よりも小さいか否か判定される。
【0055】
ここで、基準印加電圧下限値V0は、電極5に付着物がほとんど存在しないときの印加電圧下限値とすることができる。たとえば、前回の電極5の再生が行われた直後に学習された印加電圧下限値を基準印加電圧下限値V0とすることができる。また、粒子状物質処理装置1が新品のときや、新品時からの走行距離が短く電極にPMが付着していないと考えられる所定距離を走行するまでの間のとき、さらには、粒子状物質処理装置1を交換した直後のときに学習された印加電圧下限値を基準印加電圧下限値V0としてもよい。また、電極5の再生を行ってからの走行距離が短く電極5にPMが付着していないと考えられる所定距離を走行するまでの間に学習された印加電圧下限値を基準印加電圧下限値V0としてもよい。
【0056】
所定値Cは、検出装置9により検出される電流の誤差などに対して余裕を持たせるための値である。また、所定値Cは、印加電圧下限値の低下量の許容範囲の上限値として設定してもよい。この場合、基準印加電圧下限値V0からの低下量が所定値Cを超えたときに、電極5に付着しているPMなどの量が許容値を超えたと判定する。
【0057】
ステップS109で肯定判定がなされた場合にはステップS110へ進み、否定判定がなされた場合には電極5の再生は必要ないため本ルーチンを終了させる。
【0058】
ステップS110では、電極再生フラグがONとされる。電極再生フラグは、電極5の再生が必要なときにONとなり、電極5の再生が必要ないときにOFFとなるフラグである。なお、電極再生フラグの初期値はOFFである。そして、電極再生フラグがONとなると、電極5の再生に適した運転状態のときに電極5の再生処理が行われる。なお、本実施例においてはステップS109及びステップS110を処理する制御装置7が、本発明における再生時期判定装置に相当する。
【0059】
このようにして、PMを凝集させることができる印加電圧の下限値を学習することで、電極5の再生が必要か否か判定することができる。これにより、電極5の再生時期の適正化を図ることができるため、PMの凝集を促進させることができる。また、必要以上に電極5の再生が行われることを抑制できるため、エネルギの消費量を低減することができるので、燃費の悪化を抑制できる。
【符号の説明】
【0060】
1 粒子状物質処理装置
2 排気通路
3 ハウジング
4 絶縁部
5 電極
6 電源
7 制御装置
8 バッテリ
9 検出装置
21 フランジ
31 フランジ
51 碍子部
52 電源側電線
53 接地側電線
54 接地電線
55 碍子部
56 短絡電線
57 スイッチ
71 アクセル開度センサ
72 クランクポジションセンサ
73 温度センサ
74 エアフローメータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられる電極と、
前記電極に接続され電圧を印加する電源と、
前記電極を通る電流を検出する検出装置と、
前記電源により前記電極へ電圧を印加したときに前記検出装置により電流が検出されるか否かの境界となる印加電圧を検出する印加電圧下限値検出装置と、
前記印加電圧下限値検出装置により検出される印加電圧を学習する印加電圧下限値学習装置と、
前記電極の付着物を除去する処理である電極の再生を行う再生装置と、
前記印加電圧下限値学習装置により学習される印加電圧が、過去に前記印加電圧下限値学習装置により学習された印加電圧よりも所定量小さい場合に、前記再生装置により前記電極の再生を行う再生時期判定装置と、
を備える粒子状物質処理装置。
【請求項2】
前記過去に前記印加電圧下限値学習装置により学習された印加電圧とは、前記電極に付着物が存在しないときに前記印加電圧下限値学習装置により学習された印加電圧である請求項1に記載の粒子状物質処理装置。
【請求項3】
前記排気通路に設けられ前記電極が設置される処理部と、
前記処理部と前記排気通路との間で電気を絶縁する絶縁部と、
前記処理部を接地させる接地部と、
を備え、
前記検出装置は、前記接地部にて電流を検出する請求項1または2に記載の粒子状物質処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−219674(P2012−219674A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84699(P2011−84699)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】