説明

粒子線治療装置

【課題】走査電磁石のヒステリシスの影響を低減し、高精度なビーム照射を実現する粒子線治療装置を得ることを目的とする。
【解決手段】荷電粒子ビーム1bの目標照射位置座標Piに基づいて走査電磁石3を制御する照射管理装置32と、荷電粒子ビーム1bの測定位置座標Psを測定する位置モニタ7とを備え、照射管理装置32は、走査電磁石の励磁パターンが本照射の計画と同一である事前照射において位置モニタ7により測定された測定位置座標Ps及び目標照射位置座標Piに基づいて生成された補正データIaと、補正データIaを保存するメモリと、メモリに保存された補正データIaと目標照射位置座標Piとに基づいて走査電磁石3への制御入力Io(Ir)を出力する指令値生成器25を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、医療用や研究用に用いられる粒子線治療装置に関し、特にスポットスキャニングやラスタースキャニングといった走査型の粒子線治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に粒子線治療装置は、荷電粒子ビームを発生するビーム発生装置と、ビーム発生装置につながれ、発生した荷電粒子ビームを加速する加速器と、加速器で設定されたエネルギーまで加速された後に出射される荷電粒子ビームを輸送するビーム輸送系と、ビーム輸送系の下流に設置され、荷電粒子ビームを照射対象に照射するための粒子線照射装置とを備える。粒子線照射装置には大きく、荷電粒子ビームを散乱体で散乱拡大し、拡大した荷電粒子ビームを照射対象の形状にあわせて照射野を形成するブロード照射方式と、照射対象の形状に合わせるように、細いペンシル状のビームを走査して照射野形成するスキャニング照射方式(スポットスキャニング、ラスタースキャニング等)とがある。
【0003】
ブロード照射方式は、コリメータやボーラスを用いて患部形状に合う照射野を形成する。患部形状に合う照射野を形成し、正常組織への不要な照射を防いでおり、最も汎用的に用いられている、優れた照射方式である。しかし、患者ごとにボーラスを製作したり、患部に合わせてコリメータを変形させたりする必要がある。
【0004】
一方、スキャニング照射方式は、コリメータやボーラスが不要といった自由度の高い照射方式である。しかし、患部以外の正常組織への照射を防ぐこれら部品を用いないため、ブロード照射方式以上に高いビーム照射位置精度が要求される。
【0005】
特許文献1には、正確に患部を照射することができる粒子線治療装置を提供することを目的とし、以下の発明が開示されている。特許文献1の発明は、走査装置による荷電粒子ビームの走査量とその際にビーム位置検出器により検出する荷電粒子ビームのビーム位置とを記憶装置に記憶し、この記憶された走査量及びビーム位置を用い、制御装置により治療計画情報に基づくビーム位置に応じて走査装置の走査量を設定する。実際に照射して得られた走査量とビーム位置との関係が記憶装置に記憶されているため、正確に患部を照射することが期待できるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−296162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された発明においては、実際に照射をして得られた荷電粒子ビームの走査量とビーム位置との実データに基づいて変換テーブルを作成し、この変換テーブルを用いて走査電磁石の設定電流値を演算している。
【0008】
しかしながら、実際には走査電磁石の電流と磁場との間にはヒステリシス特性が存在し、電流値が増加しているときと、電流値が減少しているときとでは、異なった磁場となる。実際に患部に照射する本照射における走査電磁石の電流値の増減パターンである励磁パターンは、変換テーブルを作成した際の照射における走査電磁石の励磁パターンとは異なるので、電磁石のヒステリシスの影響により正確に患部を照射することができない問題点があった。
【0009】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたものであり、走査電磁石のヒステリシスの影響を低減し、高精度なビーム照射を実現する粒子線治療装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
荷電粒子ビームの目標照射位置座標に基づいて走査電磁石を制御する照射管理装置と、荷電粒子ビームの測定位置座標を測定する位置モニタとを備え、照射管理装置は、走査電磁石の励磁パターンが本照射の計画と同一である事前照射において位置モニタにより測定された測定位置座標及び目標照射位置座標に基づいて生成された補正データと、補正データを保存するメモリと、メモリに保存された補正データと目標照射位置座標とに基づいて走査電磁石への制御入力を出力する指令値生成器を有する。
【発明の効果】
【0011】
この発明に係る粒子線治療装置は、走査電磁石の励磁パターンが事前照射と本照射の計画とで同一にして、事前照射で得られた結果に基づいて生成された補正データをメモリに保存し、メモリに保存された補正データに基づいて走査電磁石への制御入力を補正するので、走査電磁石のヒステリシスの影響を排除し、高精度なビーム照射を実現することができ、効率的な粒子線治療装置の運用を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施の形態1における粒子線治療装置の概略構成図である。
【図2】実施の形態1における照射手順を示すフローチャートである。
【図3】図1の照射制御計算機の概略構成図である。
【図4】図1の照射制御装置における信号生成のタイミング図である。
【図5】指令電流の補正方法を説明する図である。
【図6】この発明の実施の形態2における照射手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1における粒子線治療装置の概略構成図である。粒子線治療装置は、ビーム発生装置51と、加速器52と、ビーム輸送装置53と、ビーム加速輸送制御装置50と、粒子線照射装置54と、治療計画装置55と、患者ファイルサーバ56とを備える。ビーム発生装置51は、イオン源で発生させた荷電粒子を加速して荷電粒子ビーム1を発生させる。加速器52は、ビーム発生装置51に接続され、発生した荷電粒子ビーム1を所定のエネルギーまで加速する。ビーム輸送装置53は、加速器52で設定されたエネルギーまで加速された後に出射される荷電粒子ビーム1を輸送する。ビーム加速輸送制御装置50は、ビーム発生装置51、加速器52、ビーム輸送装置53のそれぞれを制御する。粒子線照射装置54は、ビーム輸送系53の下流に設置され、荷電粒子ビーム1を照射対象15に照射する。治療計画装置55は、X線CT等で撮影した画像情報から患者の照射対象15を決定し、照射対象15に対する治療計画データF0である目標照射位置座標Pi0、目標線量Di0、目標ビームサイズSi0、目標加速器設定Bi0、レンジシフタ挿入量Ri0等を生成する。目標加速器設定Bi0には、加速器52のビームエネルギー及びビーム電流の設定値を含んでいる。患者ファイルサーバ56は、治療計画装置55で患者毎に生成した治療計画データF0を記憶する。
【0014】
粒子線照射装置54は、ビーム輸送装置53から入射された入射荷電粒子ビーム1aを輸送するビーム輸送ダクト2と、入射荷電粒子ビーム1aに垂直な方向であるX方向及びY方向に入射荷電粒子ビーム1aを走査する走査電磁石3a、3bと、位置モニタ7と、位置モニタ7の信号を増幅するプレアンプ9と、位置モニタユニット8と、線量モニタ1
1と、線量モニタ11の信号を増幅するプレアンプ13と、線量モニタユニット12と、照射管理装置32と、走査電磁石電源4と、ビーム拡大装置16と、ビーム拡大制御装置17と、ベローズ18と、真空ダクト19と、リップルフィルタ20と、レンジシフタ21と、レンジシフタユニット23とを備える。なお、図1に示したように入射荷電粒子ビーム1aの進行方向はZ方向である。
【0015】
走査電磁石3aは入射荷電粒子ビーム1aをX方向に走査するX方向走査電磁石であり、走査電磁石3bは入射荷電粒子ビーム1aをY方向に走査するY方向走査電磁石である。位置モニタ7は走査電磁石3a、3bで偏向された出射荷電粒子ビーム1bが通過する通過位置(重心位置)及びビームサイズを検出する。プレアンプ9は位置モニタ7で検出した通過位置及びビームサイズのアナログデータを増幅する。ここで、ビームサイズは出射荷電粒子ビーム1bのZ方向に垂直なXY面を通過する面積である。位置モニタユニット8は、位置モニタ7で検出した通過位置及びビームサイズをプレアンプ9を介して受け取り、その通過位置及びビームサイズをデジタルデータに変換し、測定位置座標Ps及び測定ビームサイズSsを生成する。
【0016】
線量モニタ11は出射荷電粒子ビーム1bの線量を検出する。プレアンプ13は線量モニタ11で検出した線量のアナログデータを増幅する。線量モニタユニット12は、線量モニタ11で検出した線量をプレアンプ13を介して受け取り、その線量をデジタルデータに変換し、測定線量Dsを生成する。
【0017】
ビーム拡大装置16は出射荷電粒子ビーム1bのビームサイズを拡大する。真空ダクト19は出射荷電粒子ビーム1bを通過する真空領域を確保する。ベローズ18はビーム輸送ダクト2と真空ダクト19を伸縮自在に接続し、真空領域を照射対象15へ延長する。リップルフィルタ20はリッジフィルタとも呼ばれ、凸形の形状をしている。リップルフィルタ20は、加速器52から送られてくるほぼ単一のエネルギーを有する単色ビームである荷電粒子ビーム1にエネルギーロスをさせ、エネルギーに幅を持たせる。
【0018】
照射対象15における深さ方向(Z方向)の位置座標の制御は、加速器52の加速エネルギーを変更して入射荷電粒子ビーム1aのエネルギーを変更すること及びレンジシフタ21により出射荷電粒子ビーム1bのエネルギーを変更することにより行う。レンジシフタ21は荷電粒子ビーム1の飛程を小刻みに調整する。大幅な荷電粒子ビーム1の飛程変更は加速器52の加速エネルギーの変更で行い、小幅な荷電粒子ビーム1の飛程変更はレンジシフタ21の設定変更で行う。
【0019】
照射管理装置32は、照射制御装置5と照射制御計算機22を備える。照射制御計算機22は、患者ファイルサーバ56から治療計画データF0を読み出し、照射線量を制御するために分割された照射単位である照射スポットの照射順番に並べ変えた設定データFiを生成する。すなわち設定データFiはシーケンス化された治療計画データである。設定データFiに基づいて各機器への指令である設定データFoに出力する。
【0020】
設定データFiの要素は目標照射位置座標Pi、目標線量Di、目標ビームサイズSi、目標加速器設定Bi、レンジシフタ挿入量Riであり、設定データFiの各要素はそれぞれ治療計画データF0の要素である目標照射位置座標Pi0、目標線量Di0、目標ビームサイズSi0、目標加速器設定Bi0、レンジシフタ挿入量Ri0がシーケンス化されたデータである。設定データFoは、加速器設定指令Bo、レンジシフタ指令Ro、指令電流Io、指令電流Ir、ビームサイズ指令So、目標線量Doである。
【0021】
照射制御計算機22は、患者がいない状態で行う事前照射における測定位置座標Ps、測定線量Ds、測定ビームサイズSs等の照射記録を受信し、照射記録の評価を行う。照
射制御計算機22は、測定位置座標Psに基づいて、指令電流Ioを補正した指令電流Irを生成し、走査電磁石電源4に指令電流Ioまたは指令電流Irを送信する。また、照射制御計算機22は、患者に実際に照射した本照射における測定位置座標Ps、測定線量Ds、測定ビームサイズSs等の照射記録を受信し、本照射における照射記録を患者ファイルサーバ56に記憶する。
【0022】
照射制御装置5は、トリガ信号sigc、カウント開始信号sigh、ビーム供給指令Con、ビーム停止指令Coffを出力し、照射対象15における照射スポット及び照射線量を制御する。照射制御装置5は、トリガ信号sigcにより各照射スポットに対する各機器の設定を変更し、カウント開始信号sighにより照射スポットの照射線量の測定を開始し、測定線量Dsが目標線量Doに達すると次の照射スポットに対する制御を行い、照射対象を複数に分割された照射区分(後述するスライス)のそれぞれに対する照射が終了すると、ビーム加速輸送制御装置50に対してビーム停止指令Coffを出力し、荷電粒子ビームを停止させる。
【0023】
走査電磁石電源4は照射制御装置5から出力された走査電磁石3への制御入力である指令電流Io(Ir)に基づいて走査電磁石3a、3bの設定電流を変化させる。ビーム拡大制御装置17はビーム拡大装置16に位置モニタ7におけるビームサイズを設定するビームサイズ指令Soを出力する。レンジシフタユニット23はレンジシフタ21に出射荷電粒子ビーム1bのエネルギーを変更するレンジシフタ指令Roを出力する。
【0024】
図2は実施の形態1における照射手順を示すフローチャートである。照射制御計算機22は患者ファイルサーバ56から治療計画データF0を読み出し、設定データFoを生成する。設定データFoは、ビーム加速輸送制御装置50、走査電磁石電源4、ビーム拡大制御装置17、レンジシフタユニット23、位置モニタユニット8、線量モニタユニット12に出力され、それぞれのメモリに記憶される。ビーム加速輸送制御装置50には加速器設定指令Boが記憶される。走査電磁石電源4には指令電流Ioが記憶される。ビーム拡大制御装置17にはビームサイズ指令Soが記憶される。レンジシフタユニット23にはレンジシフタ指令Roが記憶される。位置モニタユニット8には目標照射位置座標Pi及び目標ビームサイズSiが記憶される。線量モニタユニット12には目標線量Doが記憶される(ステップS001)。
【0025】
照射制御装置5はスポット毎にトリガ信号sigcを出力し、設定データFoに基づいた指令電流Io、ビームサイズ指令So、加速器設定指令Bo、レンジシフタ指令Roを順次変更し、事前照射を行う(ステップS002)。照射制御計算機22は、事前照射における測定位置座標Ps、測定線量Ds、測定ビームサイズSs等の照射記録を収集する(ステップS003)。
【0026】
照射制御計算機22は、測定位置座標Psに基づいて、指令電流Ioを補正する電流補正データIaを生成する(ステップS004)。照射制御計算機22は、電流補正データIaに基づいて指令電流Ioを補正し、補正された指令電流Irを生成する。指令電流Irは走査電磁石電源4に出力され、メモリに上書き保存される(ステップS005)。照射制御装置5はトリガ信号sigcを出力し、補正された指令電流Ir、ビームサイズ指令So、加速器設定指令Bo、レンジシフタ指令Roを順次変更し、事前照射、補正の確認を行う(ステップS006)。補正の結果に問題がなければ、照射制御装置5はトリガ信号sigcを出力し、補正された指令電流Ir、ビームサイズ指令So、加速器設定指令Bo、レンジシフタ指令Roを順次変更し、本照射を行う(ステップS007)。
【0027】
図3は照射制御計算機22における設定データFoを生成する設定データ生成部の概略構成図である。照射制御計算機22は、設定データ生成器29、走査電磁石指令値生成器
6と、指令値生成器25と、補正データ生成器30とを有する。図4は照射制御装置5における信号生成のタイミング図である。
【0028】
照射制御計算機22及び照射制御装置5の動作について説明する。ここでは、照射スポットはZ方向に分割した層であるスライスと各スライスにおけるXY方向に分割され、スライスを変更する際に荷電粒子ビーム1を停止し、同一スライス内を照射する際には荷電粒子ビーム1を照射し続ける照射方法で説明する。まず事前照射の動作について説明する。照射前の準備として走査電磁石3を飽和磁束密度まで励磁する。設定データ生成器29は、患者ファイルサーバ56から治療計画データF0を読み出す。補正データ生成器30は事前照射用の電流補正データIaを指令値生成器25に出力する(ステップS101)。事前照射の際には指令電流Ioを補正しないので、事前照射用の電流補正データIaは0である。設定データ生成器29は、分割された照射単位である照射スポットの照射順番に並べ変えた目標照射位置座標Pi(xi,yi)を走査電磁石指令値生成器6に出力する。設定データ生成器29は、分割された照射単位である照射スポットの照射順番に並べ変えた加速器設定指令Bo、レンジシフタ指令Ro、ビームサイズ指令So、目標線量Do、目標照射位置座標Pi、目標ビームサイズSiを、ビーム加速輸送制御装置50、レンジシフタユニット23、ビーム拡大制御装置17、線量モニタユニット12、位置モニタユニット8のそれぞれに出力する(ステップS102)。
【0029】
走査電磁石指令値生成器6は目標照射位置座標Pi(xi,yi)から基礎となる指令電流Ig(Ixg,Iyg)を生成する(ステップS103)。指令値生成器25は、基礎となる指令電流Igを指令電流Io(Ixo,Iyo)として走査電磁石電源4に出力する(ステップS104)。照射制御装置5はトリガ信号sigcを、ビーム加速輸送制御装置50、走査電磁石電源4、ビーム拡大制御装置17、レンジシフタユニット23、線量モニタユニット12、位置モニタユニット8に出力し、照射順番が1番目の照射スポットに対する設定が開始される(ステップS105)。ここで照射スポットはZ方向に分割した層であるスライスと各スライスにおけるXY方向に分割されるので、各照射スポットはスライス番号と各スライスにおける分割番号で表わすことにする。図4に示すように、スライス1(最初のスライス)における最初の照射スポットに対するトリガ信号sigcのパルスc1(1)が出力される。ビーム加速輸送制御装置50は加速器設定指令Boの設定が完了すると完了信号sigaのパルスを照射制御装置5に出力する。走査電磁石電源4、ビーム拡大制御装置17、レンジシフタユニット23、線量モニタユニット12、位置モニタユニット8は、それぞれの設定が完了すると機器完了信号sigbのパルスを照射制御装置5に出力する。なお、図4では複雑化を避けるために、機器完了信号sigbを1つだけ記載し、図1では機器完了信号sigbを省略した。
【0030】
照射制御装置5は完了信号sigaのパルス及び機器完了信号sigbのパルスb1(1)を受けて、線量測定の開始を指示するカウント開始信号sighのパルスを線量モニタユニット12及び位置モニタユニット8に出力し、ビーム加速輸送制御装置50にビームの発生を指示するビーム供給指令Conのパルスを出力する。ビーム加速輸送制御装置50は、ビーム発生装置51、加速器52、ビーム輸送装置53を制御し、荷電粒子ビームの照射を開始する(ステップS106)。
【0031】
位置モニタユニット8はカウント開始信号sighのパルスを受けて、そのときの測定位置座標Ps及び測定ビームサイズSsを目標照射位置座標Pi及び目標ビームサイズSiと比較し、また測定位置座標Ps及び測定ビームサイズSsをメモリに記憶する。測定位置座標Ps及び測定ビームサイズSsが許容値を超えた時はインターロックを作動させ照射を停止する。線量モニタ11により測定された出射荷電粒子ビーム1bの測定線量Dsは、線量モニタユニット12にて目標線量Doと測定線量Dsを比較し、測定線量Dsが目標線量Doを超えた場合に、線量満了信号sigdのパルスd1(1)を照射制御装
置5及び位置モニタユニット8に出力する。線量モニタ11は線量満了信号sigdのパルスを出力した際の測定線量Dsをメモリに記憶する(ステップS107)。
【0032】
次に照射順番が2番目の照射スポットに対する設定が開始される(ステップS108)。スライス1における2番目の照射スポットに対するトリガ信号sigcのパルスc1(2)が出力される。同一スライスにおける照射スポットなので、加速器設定指令Bo、レンジシフタ指令Roは変更されない。走査電磁石電源4、ビーム拡大制御装置17、線量モニタユニット12、位置モニタユニット8は、それぞれの設定が完了すると機器完了信号sigbのパルスb1(2)を照射制御装置5に出力する。
【0033】
照射制御装置5は機器完了信号sigbのパルスb1(2)を受けて、線量測定の開始を指示するカウント開始信号sighのパルスを線量モニタユニット12及び位置モニタユニット8に出力する。線量モニタユニット12は2番目の照射スポットの照射線量を測定する(ステップS109)。なお、線量モニタユニット12は各照射スポットの照射線量を測定するスポットカウンタとスポットを移動中の照射線量を測定するスポット間カウンタを有している。線量満了信号sigdのパルスを出力してから、カウント開始信号sighのパルスを受けるまでの測定線量は、荷電粒子ビーム1が次のスポットへ移動中の照射線量(スポット間照射線量)に相当する。このスポット間照射線量は、カウント開始信号sighのパルスを受けて、メモリに記録される。
【0034】
位置モニタユニット8はカウント開始信号sighのパルスを受けて、そのときの測定位置座標Ps及び測定ビームサイズSsを目標照射位置座標Pi及び目標ビームサイズSiと比較し、また測定位置座標Ps及び測定ビームサイズSsをメモリに記憶する。測定位置座標Ps及び測定ビームサイズSsが許容値を超えた時はインターロックを作動させ照射を停止する。線量モニタ11により測定された出射荷電粒子ビーム1bの測定線量Dsは、線量モニタユニット12にて目標線量Doと測定線量Dsを比較し、測定線量Dsが目標線量Doを超えた場合に、線量満了信号sigdのパルスd1(2)を照射制御装置5及び位置モニタユニット8に出力する。線量モニタ11は線量満了信号sigdのパルスを出力した際の測定線量Dsをメモリに記憶する(ステップS110)。
【0035】
照射順番を順次変更し、スライスの最後の照射スポット(番号nとする)まで、ステップS108からステップS110を繰り返す(ステップS111)。なお、スライスの最後の照射スポットにおいて、線量モニタ11は、トリガ信号sigcのパルスc1(n)を受けて、スライス最終信号sigsのパルスを照射制御装置5に出力する。線量モニタ11は、スライス番号毎のスポット数の情報を基にしてスライスの最後の照射スポットに設定されたことを検出することができる。
【0036】
照射制御装置5は、スライス最終信号sigsのパルス及び線量満了信号sigdのパルスd1(n)を受けると、ビーム加速輸送制御装置50にビームの停止を指示するビーム停止指令Coffを出力する。また2番目のスライスにおける最初の照射スポットに対するトリガ信号sigcのパルスc2(1)を出力する(ステップS112)。
【0037】
ステップS006からステップS112を繰り返し、各スライスの照射を行う(ステップS113)。なお、最後のスライス(番号qとする)における最後の照射スポット(番号mとする)では、線量モニタ11は、線量満了信号sigdのパルスdq(m)を出力する際に照射終了信号sigeのパルスを照射制御計算機22に出力する。また最後のスライス(番号qとする)における最後の照射スポットでは、トリガ信号sigcのパルスは出力されない。
【0038】
照射制御計算機22は照射終了信号sigeのパルスを受けると、線量モニタユニット
12から測定線量Dsを収集する。また、照射制御計算機22は、出射荷電粒子ビーム1bの測定位置座標Ps(xs,ys)及び測定ビームサイズSsを、位置モニタユニット8から収集する(ステップS114)。
【0039】
次に補正後の指令電流Irを用いた事前照射や本照射の動作について説明する。なお、補正後の指令電流Irを用いた事前照射と本照射は同様の動作なので、本照射として説明する。照射前の準備として走査電磁石3を飽和磁束密度まで励磁する。設定データ生成器29は、患者ファイルサーバ56から治療計画データF0を読み出す。なお、照射制御計算機22に治療計画データF0が保存されている場合には、保存データを使用してもよい。補正データ生成器30は本照射用の電流補正データIaを生成する(ステップS115)。指令電流Ioを補正する電流補正データIaを生成する方法は後述する。設定データ生成器29は、分割された照射単位である照射スポットの照射順番に並べ変えた目標照射位置座標Pi(xi,yi)を走査電磁石指令値生成器6に出力する。設定データ生成器29は、分割された照射単位である照射スポットの照射順番に並べ変えた加速器設定指令Bo、レンジシフタ指令Ro、ビームサイズ指令So、目標線量Do、目標照射位置座標Pi、目標ビームサイズSiを、ビーム加速輸送制御装置50、レンジシフタユニット23、ビーム拡大制御装置17、線量モニタユニット12、位置モニタユニット8のそれぞれに出力する(ステップS116)。
【0040】
走査電磁石指令値生成器6は目標照射位置座標Pi(xi,yi)から基礎となる指令電流Ig(Ixg,Iyg)を生成する(ステップS117)。指令値生成器25は、基礎となる指令電流Igを電流補正データIaで補正された指令電流Ig−Iaを指令電流Ir(Ixr,Iyr)として走査電磁石電源4に出力する(ステップS118)。以降の動作は指令電流Ioを指令電流Irと読み替えて、ステップS105からステップS114までと同様である。
【0041】
電流補正データIaを生成する方法を説明する。図5は指令電流の補正方法を説明する図である。走査電磁石電源4への指令電流Ioにより走査電磁石3に出力される電流Iに対するBL積を測定する。BL積は磁場の強さBと走査電磁石3の磁極の有効長Lとの積である。飽和磁束密度を通る最大ヒステリシス曲線αを描かせる。最大ヒステリシス曲線αの電流増加方向と電流減少方向の平均を取り、ヒステリシスループの中心線βを求める。
【0042】
指令電流Ioにより設定される電流値I(id)は、照射予定位置である目標照射位置座標Pi、ヒステリシスループの中心線β、出射荷電粒子ビーム1bのエネルギー、走査電磁石3の設置位置から照射位置までの距離により求まる。荷電粒子ビーム1に働くローレンツ力(フレミングの左手の法則)を考慮して、荷電粒子ビーム1の位置座標からBL積の値を求めることができる。指令電流Ioは、目標照射位置座標Piから算出される理想のBL積の値BL(id)とヒステリシスループの中心線βとの交点P´(図示せず)における電流I(id)に対応する指令値である。このBL(id)は測定するBL積の値の期待値BL(ex)となる。
【0043】
測定された測定位置座標PsからBL積の値BL(me)を算出する。図5のP点が実測値である。測定されたBL積の値BL(me)は期待値BL(ex)からΔBLだけずれが生じている場合を考える。指令電流Ioを求めた交点P´における接線の傾きKを持つ直線を用いてΔBLだけずらして電流を補正する。補正はBL積がBL(ex)となる電流値I1を求めればよい。電流値I1が求まれば、BL(id)となる電流値I1に設定する指令電流Irを生成できる。このような方法によって、走査電磁石のヒステリシスの影響による荷電粒子ビーム1の位置ずれを許容範囲内にすることができる。
【0044】
一点鎖線の直線γは電流値I(id)における中心線βの接線と同じ傾きKの直線である。傾きKは(1)式のように表わせ、補正後の電流値I1は(2)式のように表わせる。
【数1】

I1=I(id)−ΔBL/K ・・・(2)
ここでΔBLはBL(me)−BL(ex)である。電流補正データIaにより設定される補正電流値ΔIはΔBL/Kである。
【0045】
実施の形態1の粒子線治療装置は、事前照射を治療計画データF0に基づいた設定データFoによる本照射の計画における走査電磁石の励磁パターンと同一の励磁パターンにて実施するので、すなわち、事前照射を、照射線量を制御するための照射スポットの照射順番が本照射と同一の照射順番にて実施するので、走査電磁石3のヒステリシスの影響が反映された荷電粒子ビーム1bの測定位置座標Psを取得することができる。走査電磁石3のヒステリシスの影響が反映された荷電粒子ビーム1bの測定位置座標Psに基づいて生成した電流補正データIa及び設定データFoに基づいて指令電流Ioを補正するので、走査電磁石3のヒステリシスによる荷電粒子ビーム1bの位置ずれを修正することができる。したがって、走査電磁石3のヒステリシスの影響を低減し、高精度なビーム照射を実現することができる。
【0046】
実施の形態1の粒子線治療装置は、照射前の準備として走査電磁石3を飽和磁束密度まで励磁するので、荷電粒子ビーム1の最初の照射スポットにおける走査電磁石3のヒステリシスの影響をほぼ同じにすることができる。これにより照射する全照射スポットにおいて、本照射の計画における走査電磁石の励磁パターンと同一の励磁パターンにて実施する事前照射の走査電磁石3のヒステリシスの影響をほぼ同一にすることができる。したがって、同一の励磁パターンで複数回、本照射を行う場合でも、そのつど事前照射にて補正をしなくても高精度なビーム照射を実現することができる。
【0047】
実施の形態1の粒子線治療装置は、加速器52の加速エネルギーを変更して入射荷電粒子ビーム1aのエネルギーを変更すること及びレンジシフタ21により出射荷電粒子ビーム1bのエネルギーを変更して、照射対象15における深さ方向(Z方向)の位置座標の制御を行うので、加速器52の加速エネルギーの変更を最小限にできるので、照射時間を短くでき、本照射をするまでの工程の時間を短くすることができる。
【0048】
以上のように実施の形態1の粒子線治療装置によれば、荷電粒子ビーム1bの目標照射位置座標Piに基づいて走査電磁石3を制御する照射管理装置32と、荷電粒子ビーム1bの測定位置座標Psを測定する位置モニタ7とを備え、照射管理装置32は、走査電磁石の励磁パターンが本照射の計画と同一である事前照射において位置モニタ7により測定された測定位置座標Ps及び目標照射位置座標Piに基づいて生成された補正データIaと目標照射位置座標Piとに基づいて走査電磁石3への制御入力Io(Ir)を出力する指令値生成器25を有するので、走査電磁石3のヒステリシスの影響を低減し、高精度なビーム照射を実現することができる。
【0049】
なお、図2の補正の確認を行うステップS006の後に、電流補正データIaを照射制御計算機22のメモリや患者ファイルサーバ56に保存し、保存した電流補正データIaを読み出して指令値生成器25に供給するようにしても構わない。このようにすることで、本照射前に中断と再開を行うことができ、効率的な粒子線治療装置の運用を行うことができる。
【0050】
実施の形態2.
図6は、この発明の実施の形態2における照射手順を示すフローチャートである。実施の形態1の照射手順とは指令電流Ioによる事前照射の確認で照射位置差を評価し、照射位置差が所定の許容範囲内に入るまで、電流補正データIaに基づく補正を繰り返す点で異なる。
【0051】
図6においてステップS001からS007は実施の形態1と同様であり、ステップS008からステップS012が追加されている。ステップS008では、ステップS003で収集した照査記録に基づき、各照射スポットにおける測定位置座標Psと目標照射位置座標Piとの位置差が許容範囲内にあるかどうかを判定する。位置差が許容範囲内にある場合にはステップS007に移り、補正を行わずに本照射を行う。
【0052】
位置差が許容範囲内にない場合には、ステップS004に移り、測定位置座標Psに基づいて、指令電流Ioを補正する電流補正データIaを生成する。ステップS005で補正された指令電流Irを生成し、ステップS009にて補正された指令電流Ir、ビームサイズ指令So、加速器設定指令Bo、レンジシフタ指令Roを順次変更し、事前照射を行う。ステップS010にて、照射制御計算機22は、事前照射における測定位置座標Ps、測定線量Ds、測定ビームサイズSs等の照射記録を収集する。ステップS011にて、ステップS010で収集した照査記録に基づき、各照射スポットにおける測定位置座標Psと目標照射位置座標Piとの位置差が許容範囲内にあるかどうかを判定する。位置差が許容範囲内にある場合にはステップS007に移り、再度の補正を行わずに本照射を行う。
【0053】
位置差が許容範囲内にない場合には、ステップS012に移り、ステップS010の照射記録に基づいて、ステップS004からステップS011を繰り返す。
【0054】
ステップS008及びステップS011における判定を行う判定器40は、照射制御計算機22のCPU41及びメモリ42により実現する。
【0055】
実施の形態2の粒子線治療装置は、指令電流Ioに基づく事前照射における位置差を評価して所定の範囲内になるまで、電流補正データIaに基づく補正を繰り返すので、走査電磁石3のヒステリシスによる荷電粒子ビーム1bの位置ずれを実施の形態1よりも高精度に修正することができる。したがって、走査電磁石3のヒステリシスの影響を低減し、さらに高精度なビーム照射を実現することができる。また、指令電流Ioによる事前照射において位置差が許容範囲内にある場合には補正を行わないので、本照射に適用する設定データFoを確定する時間を短くすることができる。
【0056】
なお、実施の形態1では本照射を行う前に、再度事前照射を行う例で説明したが、粒子線治療装置の確認を行う照射にて電流補正データIaに基づく確認照射を実施して、ステップS006の手順を省略しても構わない。
【0057】
また、スライスを変更する際に荷電粒子ビーム1を停止し、同一スライス内を照射する際には荷電粒子ビーム1を照射し続ける照射方法で説明したが、これに限定されることなく、照射スポット毎に荷電粒子ビーム1の停止するスポットスキャニングや、ラスタースキャニング等の他の照射方法にも適用できる。なお、ラスタースキャニングにおいては、ビームが停止する離散的な位置としての照射スポットは存在しなくても、照射線量を制御する照射対象15の位置は照射線量を制御するための照射スポットと言える。また、ラスタースキャニングにおいては、荷電粒子ビーム1の折り返し点等が走査電磁石3の電流値の増減パターンの変化点であり、走査電磁石3の電流値の増減パターンの変化点に対応す
る測定位置座標及び目標照射位置座標に基づいて電流補正データIaを生成しても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0058】
この発明に係る粒子線治療装置は、医療用や研究用に用いられる粒子線治療装置に好適に適用できる。
【符号の説明】
【0059】
1 電粒子ビーム 1a 入射荷電粒子ビーム
1b 出射荷電粒子ビーム 3 走査電磁石
3a X方向走査電磁石 3b Y方向走査電磁石
6 走査電磁石指令値生成器 7 位置モニタ
15 照射対象 25 指令値生成器
30 補正データ生成器 32 照射管理装置
40 判定器 52 加速器
Io 指令電流 Ir 指令電流
Ig 指令電流 Ia 電流補正データ
Pi 目標照射位置座標 Ps 測定位置座標

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速器により加速され、走査電磁石で走査された荷電粒子ビームを照射対象に照射する粒子線治療装置であって、
前記荷電粒子ビームの目標照射位置座標に基づいて前記走査電磁石を制御する照射管理装置と、前記荷電粒子ビームの測定位置座標を測定する位置モニタとを備え、
前記照射管理装置は、前記走査電磁石の励磁パターンが本照射の計画と同一である事前照射において前記位置モニタにより測定された前記測定位置座標及び前記目標照射位置座標に基づいて生成された補正データと、前記補正データを保存するメモリと、前記メモリに保存された前記補正データと前記目標照射位置座標とに基づいて前記走査電磁石への制御入力を出力する指令値生成器を有することを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項2】
前記照射管理装置は、前記測定位置座標及び前記目標照射位置座標に基づいて前記補正データを生成する補正データ生成器と、前記測定位置座標から基礎となる制御入力を生成する走査電磁石指令値生成器とを有し、
前記指令値生成器は、前記走査電磁石指令値生成器が生成した前記基礎となる制御入力を前記補正データ生成器が生成した前記補正データにより補正した補正制御入力を前記制御入力として出力することを特徴とした請求項1記載の粒子線治療装置。
【請求項3】
前記補正データは、前記事前照射にて測定された前記測定位置座標より算出された前記走査電磁石のBL積の値BL(me)と前記目標照射位置座標より算出された前記走査電磁石のBL積の値BL(ex)との差ΔBLを係数Kで除した値に基づき生成し、
前記係数Kは、前記走査電磁石のBL積と電流値とのヒステリシスループの中心線における前記BL積の値BL(ex)となる点における接線の傾きであることを特徴とした請求項1または2に記載の粒子線治療装置。
【請求項4】
前記照射管理装置は、前記測定位置座標と前記目標照射位置座標との位置差が所定の許容範囲内にあるかを判定する判定器を有し、
前記位置差が前記所定の許容範囲内にない場合に前記補正データを生成し、
前記位置差が前記所定の許容範囲内にある場合に、前記走査電磁石への制御入力を前記事前照射と同じ値にすることを特徴とした請求項1乃至3のいずれか1項に記載の粒子線治療装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−156340(P2011−156340A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132915(P2010−132915)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【分割の表示】特願2010−511404(P2010−511404)の分割
【原出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】