粒子線照射装置
【課題】装置を低コストに抑え、かつ、レンジシフタ駆動音の低減を図ることが可能な粒子線照射装置を得る。
【解決手段】荷電粒子ビーム2を偏向させて、被照射体6の内部の照射領域7での平面方向の位置を制御する偏向電磁石1a,1bが設けられている。また、偏向された荷電粒子ビーム2を通過させることにより、被照射体6の内部の照射領域7での深さ方向の位置を制御する階段状に構成された階段状レンジシフタ3が設けられている。駆動装置により階段状レンジシフタ3をA方向に移動させることにより、レンジシフタの厚さの調整を行われ、当該厚さに基づいて、被照射体6の内部の照射領域7での深さ方向の位置が決定される。また、荷電粒子ビーム2の照射位置が正しく制御されているかを確認するための位置モニタ4および線量モニタ5が設けられている。
【解決手段】荷電粒子ビーム2を偏向させて、被照射体6の内部の照射領域7での平面方向の位置を制御する偏向電磁石1a,1bが設けられている。また、偏向された荷電粒子ビーム2を通過させることにより、被照射体6の内部の照射領域7での深さ方向の位置を制御する階段状に構成された階段状レンジシフタ3が設けられている。駆動装置により階段状レンジシフタ3をA方向に移動させることにより、レンジシフタの厚さの調整を行われ、当該厚さに基づいて、被照射体6の内部の照射領域7での深さ方向の位置が決定される。また、荷電粒子ビーム2の照射位置が正しく制御されているかを確認するための位置モニタ4および線量モニタ5が設けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、粒子線照射装置に関し、特に、粒子線治療装置等で用いる荷電粒子ビームを照射するための粒子線照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、がんの治療方法として、陽子や重粒子を用いた粒子線治療方法について多くの研究がなされている。粒子線治療方法とは、加速器から出射される粒子線をがん細胞に照射することで、がん細胞を死滅させる方法である。
【0003】
従来の粒子線治療装置では、粒子線のレンジ(飛程)を変更するために、独立に稼動する複数(例えば、8枚〜10枚)のアクリル等の平板から構成されるレンジシフタを設けておき、各板を必要に応じて圧空シリンダによりビーム軌道上に挿入する。このように、ビーム軌道上に挿入される当該レンジシフタの平板の合計の厚さが所望の値となるように、平板を出し入れしてレンジシフタ全体の厚さを調整していた(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、現在、高精度な照射方法として、実用化が進められている照射方法として、スポットスキャニング法と呼ばれるものがある。スポットスキャニング法とは、照射スポットを明確に区切り、照射停止中に照射位置の走査を行うものである。
【0005】
スポットスキャニング方法を実現する装置として、荷電粒子線を互いに逆方向に同じ角度だけ曲げる1組の磁場からなるスキャニング磁場を発生させる1組のスキャニング電磁石を、モータで回転する回転駆動用歯車に搭載して、それらを回転させることにより、2軸の平行ビームスキャニングを実現させるものが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
【特許文献1】特開2001−212253号公報
【特許文献2】特開平11−114078号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献2で示されるようなスポット・スキャン照射を行う場合には、照射時間を短縮するため、短時間(100msec以下)でレンジを変更する必要がある。上記特許文献1で示されるような従来の平板を出し入れする方式のレンジシフタでは、約200mm程度の距離を駆動する必要があり、100msec秒程度の短時間でレンジを変更するためには2m/sec以上の高速で平板を挿入する必要があり、そのためには、駆動力の大きい駆動機構が必要で、大型のエア・シリンダを各レンジシフタに装備して、レンジシフタを出し入れする必要があるという問題点があった。
【0008】
さらに、通常8枚から10枚の平板から構成されるレンジシフタの各平板に対して、上記のような大型のエア・シリンダからなる駆動機構を各々用意する必要があり、コストが高くなってしまうという問題点があった。
【0009】
また、レンジシフタ動作時には、複数の平板が高速で出入りを行うことになり、騒音が発生してしまうという問題点があった。
【0010】
この発明は、かかる問題点を解決するためになされたものであり、低コストに抑え、かつ、レンジシフタ駆動音の低減を図ることが可能な粒子線照射装置を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、被照射体に荷電粒子ビームを照射させるための粒子線照射装置であって、荷電粒子ビームを偏向させて、前記被照射体の内部での平面方向の位置を制御するビーム位置変更手段と、偏向された前記荷電粒子ビームを通過させることにより、前記被照射体の内部での深さ方向の位置を制御する階段状に構成されたレンジシフタと、前記レンジシフタの各段と前記被照射体との間の相対位置を変化させるための駆動手段とを備えた粒子線照射装置である。
【発明の効果】
【0012】
この発明は、被照射体に荷電粒子ビームを照射させるための粒子線照射装置であって、荷電粒子ビームを偏向させて、前記被照射体の内部での平面方向の位置を制御するビーム位置変更手段と、偏向された前記荷電粒子ビームを通過させることにより、前記被照射体の内部での深さ方向の位置を制御する階段状に構成されたレンジシフタと、前記レンジシフタの各段と前記被照射体との間の相対位置を変化させるための駆動手段とを備えた粒子線照射装置であるので、階段状のレンジシフタを用いた事により、レンジシフタ駆動音を低減することができ、かつ、装置を低コストに抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1によるスポットスキャン法による粒子線照射装置を示す図である。本発明に係る粒子線照射装置は、荷電粒子加速器(図示せず)などから出射される荷電粒子ビーム2を被照射対6内の照射領域7に照射させるための装置である。図1に示されるように、本実施の形態に係る粒子線照射装置においては、偏向電磁石1aの下方に、同様の構成からなる偏向電磁石1bが設けられている。ここで、1aは偏向電磁石の磁極部のみを示したもので、偏向電磁石全体は、例えば、図20のように、磁極1a、リターンヨーク101aおよびコイル102aから構成されるものである。1bも同様に偏向電磁石の磁極部のみを示したもので、偏向電磁石全体は、例えば、図21のように、磁極1b、リターンヨーク101bおよびコイル102bから構成されるものである。さらに、偏向電磁石1bの下方には、階段状レンジシフタ3が設けられ、その下には、荷電粒子ビーム2をモニタするための位置モニタ4および線量モニタ5が順に設けられている。被照射体6は線量モニタ5の下方に置かれ、被照射体6内の照射領域7に荷電粒子ビーム2が照射される。なお、階段状レンジシフタ3とは、図1に示すように、階段状に変化する厚さを有し、当該階段状に構成された各段のうちのいずれの段の位置で、荷電粒子ビーム2を通過させるかによって、被照射体6の内部での深さ方向の位置を制御するためのものである。
【0014】
このように構成された本実施の形態に係る粒子線照射装置においては、荷電粒子加速器(図示せず)などから供給される荷電粒子ビーム2は、偏向電磁石1a及び1bによって偏向されて、例えば、軌道2aを形成して、被照射体6の内部の照射領域7に照射される。このとき、荷電粒子ビーム2の照射は、照射領域7を3次元的に分割した小領域(スポット)ごとに行うため、荷電粒子ビーム照射位置を、3次元的に調整して全スポットの照射を行う。
【0015】
偏向電磁石1a,1bには励磁電流を供給するための励磁電流供給手段(図示せず)が設けられており、それにより、偏向電磁石1a,1bの励磁電流を変化させることで、荷電粒子ビーム2の位置は、軌道2aから軌道2bへ連続的に移動させる事ができる。なお、励磁電流値の調整および制御は、後述するスキャン制御装置27(図3参照)によって行われる。さらに、偏向電磁石1a,1bを一体としてビーム軸9に対して回転させることによって、ビーム軸9に垂直な面内での荷電粒子ビーム2の照射位置の制御を行うことができる。このように、偏向電磁石1a,1bは、荷電粒子ビーム2を偏向させて、被照射体6の内部での平面方向の位置を制御するビーム位置変更手段を構成している。また、階段状に構成されたレンジシフタ3を図1の矢印A方向に移動させる事によって、荷電粒子ビーム2がレンジシフタ3を通過する厚さを(階段状に)調整し、被照射体6の内部での深さ方向の位置(飛程)を制御することができる。また、各スポットへの照射において、荷電粒子ビーム2の位置をモニタするための位置モニタ4、及び、荷電粒子ビーム2の照射線量をモニタするための線量モニタ5が被照射体6の前に置かれているため、これらのモニタ4,5を用いることにより、荷電粒子ビーム2をモニタすることができるので、被照射体6に対して適切な照射が行われているか否かを確認することができる。
【0016】
階段状レンジシフタ3は、アクリルなどの素材で構成されるが、各段の高さは、照射領域7を、深さ方向に、分割する際に必要とされる最小の単位とする。通常のスポットスキャン照射では、深さ方向の分割幅は、水等価厚さで5mm程度であるので、最小分割単位を5mmとすれば、レンジシフタ3の各段の段差は水等価厚さで5mmに設定する。またさらに高い精度で深さ方向の位置を制御するためには、最小単位を分割幅の1/N(Nは1よりも大きい整数)としても良い。
【0017】
詳細な構成について説明すれば、図2で示すように、階段状レンジシフタ3は偏向電磁石1a,1bに対して、フレーム15及びガイド16を介して連結され、偏向電磁石1a,1bが回転する場合には一体となって回転する構造としている。すなわち、階段状レンジシフタ3が両端をガイド16によって支持され、各当該ガイド16には、上方向に向かって突設されている略々矩形の枠型のフレーム15が設けられている。フレーム15間には、偏向電磁石1a,1bが架設されている。また、階段状レンジシフタ3は、ガイド16によって支持されているが、ガイド16に対して、ビーム軸方向、ビームスキャン方向には固定されており、ビーム軸とビームスキャン方向に垂直な方向(レンジシフタ駆動方向、すなわち、図1のA方向)にはガイド16に案内されて移動できるように支持されている。
【0018】
また、図3に示すように、レンジシフタ3には、図1のA方向にレンジシフタ3を駆動させるための駆動装置20が部材21を介して接続されている。また、当該駆動装置20には、それの制御を行うためのレンジシフタ駆動制御装置25が電気的に接続されている。このように、駆動装置20は、レンジシフタ3の各段と被照射体6との間の相対位置を変化(制御)させるための駆動手段を構成している。また、レンジシフタ3の位置を検知するためのレンジシフタ位置読み取り装置26が、レンジシフタ3の下方に設けられており、当該レンジシフタ位置読み取り装置26の検知信号はレンジシフタ駆動制御装置25に入力される。また、偏向電磁石1a,1bの励磁電流の調整、および、レンジシフタ駆動制御装置25へのレンジシフタ厚さの指令を行うためのスキャン制御装置27が設けられている。
【0019】
図3の構成における動作について説明する。レンジシフタ3は、駆動装置20によって、部材21を介して、レンジシフタ駆動方向に駆動される。駆動装置20は、例えば、リニア・モータ、ステッピングモータ、あるいは、サーボモータ等から構成する。レンジシフタ駆動制御装置25は、必要とされるレンジシフタ厚さに応じて、荷電粒子ビーム2がレンジシフタ3上に照射される位置が、該当するレンジシフタの段の概ね中央の位置となるように、駆動装置20によってレンジシフタ3の挿入量を調節する。また、レンジシフタ挿入量の調整は、レンジシフタ位置読み取り装置26の検知信号を用いる事でさらに精度を高めることができる。スキャン制御装置27は、予め計画されたスキャン手順に従って、偏向電磁石1の励磁電流の調整、レンジシフタ駆動制御装置25へのレンジシフタ厚さの指令を行う。
【0020】
このような構成においては、偏向電磁石1a,1bの励磁電流を変化させ、電磁石1a,1bを回転させて、ビーム軸9に垂直な平面内で荷電粒子ビーム2の照射位置を変化させても、階段状レンジシフタ3上を荷電粒子ビーム2が通過する領域は、幅がビームサイズ程度で、長さが偏向電磁石1a,1bによるビームスキャン幅程度の矩形領域となる。したがって、図4で示すように、階段状に構成されたレンジシフタ3の各段の幅Dは、レンジシフタ3の位置での荷電粒子ビーム2のビームサイズS(照射位置30でのビームの直径)の最大値Smaxよりも大きく設定すればよい。
【0021】
このように、照射領域7に対する照射は、偏向電磁石1a,1bの励磁電流によるR方向への荷電粒子ビーム2の位置変更、階段状レンジシフタ3による飛程の変更、偏向電磁石1a,1bの回転によるθ方向の位置変更、の3つを組み合わせて行う。照射手順としては、上記の3つの変更を任意の順序で組み合わせれば良いが、変更の際に、多くの変更時間を要する手順については変更回数を少なくするように設定する事により、全体の照射時間を短縮することができる。通常の方式では、最も高速に変更可能なのは、偏向電磁石1の励磁電流変化によるR方向のビーム位置変更であり、θ方向の回転角の変更には最も時間を要する。したがって、変更手順としては、1)最初に回転角、飛程(レンジシフタ3の挿入量)を設定してから、R方向の一連の変更を行い、2)次に飛程を変更して再度R方向の一連の変更を繰り返し、3)飛程の変更がすべて終了したら回転角を変更し、4)再び、1)、2)、3)を繰り返す、という手順となる。この手順を図5に示した。
【0022】
すなわち、図5に示すように、まず、偏向電磁石1a,1bのθ方向の回転角を設定し(ステップS1)、次に、階段状レンジシフタ3の位置の変更を行い(ステップS2)、次に、R方向への荷電粒子ビーム2の位置変更を行う(ステップS3)。次に、R方向への荷電粒子ビーム2の位置変更が終了したかを判定し(ステップS4)、終了していればステップS5に進み、終了していなければステップS3に戻る。ステップS5においては、階段状レンジシフタ3の位置の変更が終了したかを判定し(ステップS5)、終了していればステップS6に進み、終了していなければステップS2に戻る。ステップS6においては、偏向電磁石1のθ方向の回転角が終了したかを判定し(ステップS5)、終了していれば、そのまま処理を終わらせ、終了していなければステップS1に戻る。
【0023】
上記の照射手順を、具体的な装置の動作で見直すと、図6に示すように、第1のスポットの照射位置に対する、レンジシフタ3上での対応する位置が30aであるとした場合(レンジシフタ厚さが最も薄い条件から開始した場合)、レンジシフタ3の位置を固定した状態で、偏向電磁石1a,1bの励磁電流を変化させて、順次30b、30c、・・・、30fと照射を行い、30fの照射が終了した時点で、レンジシフタ3を駆動して、荷電粒子ビーム2の位置を次の段に移動させる。この時のレンジシフタ3の移動量は段の幅Dと等しい。続いて、偏向電磁石1a,1bが逆方向に移動するように励磁電流を変更させて、順次スポットの照射を行い、更にレンジシフタ3をDだけ移動させて次の段に移行するという手順を繰り返す事になる。レンジシフタ3の変更が全て終わった時点(最もレンジシフタ厚さが厚い設定での照射が終了した時点)で、回転角度を変更し、今度は、レンジシフタ条件が最も厚い条件から開始して、R方向の照射終了後、順次、レンジシフタの厚さを薄くするように、レンジシフタ3を駆動していく。
【0024】
もちろん、常にレンジシフタ3の厚さが薄い条件から、厚い条件へ変化するように駆動する手順としても構わない。
【0025】
このような構成によれば、レンジシフタ3の駆動装置20は、一つの駆動装置20のみで構成可能となり、システムのコストを低減する事が可能である。また、駆動装置20が単純な構成となるので、メンテナンス性が良く、全体の重量軽減にもつながる。また、一つの駆動装置のみで構成されるために、レンジシフタ全体のビーム軸方向の大きさを低減することができる。
【0026】
荷電粒子ビーム2の飛程を変更する際のレンジシフタ3の移動量、すなわち、レンジシフタ3の各段の幅は、荷電粒子ビーム2のビームサイズ程度、または、その数倍程度で良いので、通常の粒子線装置であれば10mm〜20mm程度とできる。このため、従来のレンジシフタ駆動装置の移動量である180mm〜200mmに比べて、1/10程度の駆動距離となり、短時間で飛程の変更を行う事ができる。また、駆動距離が短くなったことにより、レンジシフタ3の移動速度を低減する事ができるので、安価なモータを用いた駆動機構を構築する事が可能であるとともに、レンジシフタ3の駆動音を低減する事ができる。また、駆動機構の数が減少するので、高性能な駆動機構を用いても、全体としてコストを低減できる。
【0027】
以上のように、本実施の形態においては、この発明に係るレンジシフタは、平行ビームスキャン方式によるスポット・スキャン照射に用いるもので、階段状に構成された1台のレンジシフタを、スキャン照射と同期して駆動するものである。レンジシフタの移動距離が短いために、移動速度を下げることが可能となり、トルクの小さいモータ等を使用することができるようになり、装置のコストを低減することができる。また、駆動するべきレンジシフタの数も少なくなるため、駆動装置数の低減により、コストを低減することができる。また照射中に稼動するレンジシフタは1枚だけであり、レンジシフタの速度変化が小さいため、レンジシフタの駆動に伴う騒音を低減することができる。
【0028】
実施の形態2.
図7は、本実施の形態2に係る粒子線照射装置の構成を示した構成図である。本実施の形態においては、図7に示すように、実施の形態1の構成において2台の偏向電磁石1a,1bで構成されていた平行スキャン方式電磁石を、1台の偏向電磁石1のみで構成した。この構成では、荷電粒子ビーム2の被照射体6への入射角度が斜めになるため、階段上レンジシフタ3の横幅を小さくすることができる。なお、他の構成については、上記の実施の形態1と同様であるため、同一符号を付して示し、ここでは説明を省略する。
【0029】
以上のように、本実施の形態2においては、上記の実施の形態1と同様の効果が得られるとともに、さらに、偏向電磁石を1台のみで構成するようにしたので、当該構成により、荷電粒子ビーム2の被照射体6への入射角度が斜めになるため、階段状レンジシフタ3の横幅を小さくすることができ、レンジシフタ3の重量を軽減して、レンジシフタ駆動機構のコストを下げることができる。さらに、偏向電磁石の個数が減った分だけコストを下げることができる。
【0030】
実施の形態3.
図8は、本実施の形態3に係る粒子線照射装置のレンジシフタの構成を示した構成図である。本実施の形態においては、図8に示すように、レンジシフタ3を、スキャン照射時の飛程変更用レンジシフタ3aと、大まかな飛程変更用のレンジシフタ3bとの、2つのレンジシフタで構成した。なお、各レンジシフタ3aおよび3bの各段の幅は同一であるが、対応する各段の厚さは、図8に示すように、レンジシフタ3bの厚さの方がレンジシフタ3aの厚さよりも大きくなっている。他の構成については、上記の実施の形態1または2と同様であるため、同一符号を付して示し、ここでは説明を省略する。
【0031】
通常の粒子線治療においては、被照射体6の最大厚さは、水等価厚さで30cm程度であるが、照射領域7の最大厚さは、水等価厚さで14cm程度である。そこで、一回の照射において、最大の飛程に対応するレンジシフタ厚さをレンジシフタ3bにより大まかに決定し、スポットスキャン時には、レンジシフタ3bは固定として、レンジシフタ3aのみを駆動して、照射中の飛程の変更を行う。レンジシフタ3bの各段の高さΔh’は、レンジシフタ3aの最大厚さhmax、レンジシフタ3aの各段の高さΔhに対して、
Δh <Δh’< hmax/2
となるように構成する。
【0032】
このような構成により、レンジシフタ3aにおいて、被照射体6の最大厚さに対応する必要がなくなり、少なくとも、照射領域7の最大厚さに対応すればよくなる。これによって、高速で駆動するレンジシフタ3aの質量を低減する事ができるため、駆動装置のコスト低減、駆動速度の向上、駆動音を低減することができる。また、レンジシフタ3bは、従来型の複数の平板を挿入する方式としても良い。レンジシフタ3bの駆動は、数秒〜数十秒で移動する低速駆動でも問題ないので、大型の駆動機構を設ける必要はなく、駆動機構を複数配置してもコストを低減できる。
【0033】
以上のように、本実施の形態においては、上記の実施の形態1と同様の効果が得られるとともに、さらに、スキャン照射時の飛程変更用レンジシフタ3aと、大まかな飛程変更用のレンジシフタ3bとの、2つのレンジシフタで構成するようにしたので、高速で駆動するレンジシフタ3aの質量を低減する事ができるため、駆動装置のコスト低減、駆動速度の向上、駆動音を低減することができる。
【0034】
実施の形態4.
図9は、本実施の形態4に係る粒子線照射装置のレンジシフタの構成を示した構成図である。図9では、スキャン照射時の飛程変更用レンジシフタ3aと、大まかな飛程変更用レンジシフタ3bとで、構成されたレンジシフタにおいて、荷電粒子ビーム2の上流側に配置したレンジシフタ3bの段の幅Dに対して、下流に配置されたレンジシフタ3aの段の幅D’について、
D’≧D+ΔS
となるように構成した。ここでΔSは、レンジシフタ3a内に入射する前の荷電粒子線ビーム2のビームサイズSと、レンジシフタ3bから出た直後の荷電粒子線ビーム2のビームサイズS’との差で定義される。荷電粒子線ビーム2のビームサイズは、レンジシフタ3a,3bを通過する際に、散乱によって拡大するため、通常S<S’であるので、
ΔS=S’−S
である。レンジシフタ3bの各段の幅D’は、段ごとにD’≧D+ΔSを満たすように決定しても良く、また、ΔSの最大値ΔSmaxに対して、D’≧D+ΔSmaxとなるように全ての段の幅を同じ幅としても良い。他の構成については、上記の実施の形態3と同様であるため、同一符号を付して示し、ここでは説明を省略する。
【0035】
このような構成により、レンジシフタ3a,3b中での荷電粒子ビームの散乱によって、レンジシフタ3b下面近傍でのビームサイズが拡大し、荷電粒子ビームが厚さの異なった段に侵入することを防ぐことができる。
【0036】
以上のように、本実施の形態においては、上記の実施の形態1〜3と同様の効果が得られるとともに、さらに、荷電粒子ビーム2の上流側に配置したレンジシフタ3bの段の幅Dよりも下流に配置されたレンジシフタ3aの段の幅D’の方が大きくなるようにしたので、レンジシフタ3a,3b中での荷電粒子ビームの散乱によって、レンジシフタ3b下面近傍でのビームサイズが拡大し、荷電粒子ビームが厚さの異なった段に侵入することを防ぐことができ、荷電粒子ビームの飛程が変化することを防ぐことができる。
【0037】
実施の形態5.
図10は、本実施の形態5に係る粒子線照射装置の構成を示した構成図である。図10では、レンジシフタ3を、スキャン照射時の飛程変更用レンジシフタ3a、大まかな飛程変更用のレンジシフタ3b、詳細な飛程調整用レンジシフタ3cの3つのレンジシフタで構成した。各レンジシフタ3a,3b,3cの各段の幅は同一である。また、対応する各段の厚さは、レンジシフタ3bが最も大きく、次がレンジシフタ3aで、レンジシフタ3cが最も小さくなっている。他の構成については、上記の実施の形態1と同様であるため、同一符号を付して示し、ここでは、説明を省略する。
【0038】
本実施の形態5においては、レンジシフタ3cの各段の高さΔh’’を、レンジシフタ3aの段の高さをΔhとしたとき、1よりも大きい整数Nで割った値Δh’’=Δh/Nとし、レンジシフタ3cの段の数は、N−1以上とする。レンジシフタ3cは、レンジシフタ3aと同じく、スキャン照射開始前に一回、所定の位置に駆動されて、スキャン照射中は駆動されない。
【0039】
このような構成により、レンジシフタ3の厚さを詳細に設定することができ、荷電粒子ビーム2の飛程を詳細に調整する事が可能となる。また、レンジシフタ3aの段数を減少させることができる。この事により、レンジシフタ3aの大きさ/重量を低減でき、駆動機構のコスト低減、駆動音を低減することができる。
【0040】
以上のように、本実施の形態5においては、上記の実施の形態1と同様の効果が得られるとともに、さらに、レンジシフタ3を、スキャン照射時の飛程変更用レンジシフタ3a、大まかな飛程変更用のレンジシフタ3b、詳細な飛程調整用レンジシフタ3cの3つのレンジシフタで構成するようにしたので、飛程の調整を詳細にする事が可能となり、同時にレンジシフタ3aの段数を減少させることができるため、レンジシフタ3aの大きさ/重量を低減でき、駆動機構のコスト低減、駆動音を低減することができる。
【0041】
実施の形態6.
図11は、本実施の形態6に係る粒子線照射装置のレンジシフタの構成を示した構成図である。本実施の形態6においては、図11に示すように、レンジシフタ3の背面に、ビーム位置測定用ストリップ電極40(以下、信号電極40とする。)を配置したものである。信号電極40は、図11に示すように、レンジシフタ3の各段と平行な方向に設けられている。信号電極40は、銅やアルミなどの導電性の薄いフィルム状部材で構成され、それぞれの電極間は絶縁して設置される。通常、レンジシフタ3はアクリルなどの絶縁部材で構成されるため、信号電極40は、蒸着やエッチング等の方法で、レンジシフタ3上に直接形成することが可能である。また、レンジシフタ3が導電性部材で構成される場合には、レンジシフタ表面にポリイミドなどの絶縁部材を形成し、その上に、信号電極40を配置すれば良い。
【0042】
この構成において、本実施の形態においては、図12で示すように、信号電極40に対向する位置に、信号電極40に対して所定の間隔だけ離間して、高圧電極41が配置されている。高圧電極41には1kV〜5kV程度の電圧が印加される。信号電極40はアース電位となるように配置されており、荷電粒子ビーム2が通過した位置の直近の信号電極40には、荷電粒子ビーム2が空気を電離して生成された電荷を持ったイオン、又は、電子が収集される。このため、荷電粒子ビーム2が通過した位置の信号電極40には、電気信号が発生する。これにより、荷電粒子ビーム2が、レンジシフタ3のどの段を通過したかを正確に検知することができる。
【0043】
信号電極40の電気信号を、図13で示すように信号処理回路45で処理を行って、ビーム位置情報を得る事ができる。この位置情報は、レンジシフタ駆動制御装置25に送られて、レンジシフタ3の位置調整を高精度に行う。また、スキャン制御装置27へ位置情報を送り、装置のトラブルなどによる荷電粒子ビーム位置の変化を検出して、荷電粒子ビーム照射手順を停止するための安全機能とする。
【0044】
このような構成により、機械的なレンジシフタ位置の検出に対して、実際のビームに対してレンジシフタの位置を検出するため、より正確にレンジシフタの位置を調整する事が可能である。また、装置のトラブルによって、ビームの位置ずれが発生した場合には、インターロック機能を持たせることが可能となり、より安全なビーム照射を行う事ができる。
【0045】
以上のように、本実施の形態においては、上記の実施の形態1と同様の効果が得られるとともに、さらに、レンジシフタ3の一面にビーム位置測定用の信号電極40を取り付けるようにしたので、詳細なレンジシフタ位置調整が可能となり、機器のトラブルによってビーム位置、又は、レンジシフタ位置が異常になった場合にも、安全なシステムを構築することが可能である。
【0046】
実施の形態7.
図14は、本実施の形態2に係る粒子線照射装置の構成を示した構成図である。図14は、上記の実施の形態1〜6で示したようなレンジシフタ3の駆動方式を静止と駆動を繰り返すステップ動作から、常にほぼ一定の速度で移動する常時駆動方式に変えたものである。すなわち、本実施の形態においては、スポットスキャンによる荷電粒子ビームの照射中に、レンジシフタ3はほぼ一定速度で移動しており、レンジシフタ3上でのビーム照射位置は、図14のようにレンジシフタ3上を斜め移動する。レンジシフタ3の移動速度は、R方向への荷電粒子ビーム2の位置変更中では、荷電粒子ビーム2が一つの段の中に十分納まるように調整される。
【0047】
R方向の荷電粒子ビーム2のスキャン時間をt1、レンジシフタ3が次の段に移動する時間をt2とし、レンジシフタ位置でのビームサイズをSとした場合、レンジシフタ3の移動速度vは、
v=S/t2
と設定される。R方向へのスキャン中にレンジシフタ3が移動する距離d1は、
d1=v×t1
となる。この時、レンジシフタ3の各段の幅Dは、
D=d1+S=S/t2×t1+S=S×(t1+t2)/t2
として決定する。レンジシフタ3の駆動速度vは、
v=D/(t1+t2)=(D−S)/t1
とも表せる。
また、ここで、Sとしてビームサイズにビーム位置変動誤差分を上乗せしたS’を用いても良い。
【0048】
例えば、t1=100msec、t2=50msec、S=10mmとすれば、D=30mm、v=0.2m/secとなり、駆動速度としては、通常のモータ駆動やリニアモータによる駆動方式が利用可能である。
【0049】
また、スポットスキャンによる荷電粒子ビーム2の照射時間は、照射ごとに異なるので、スキャン時間t1は照射ごとに変動する。このためt1としては、スキャン時間の変動を吸収できる十分大きな値を設定すれば良い。
【0050】
また、t1の変動を、レンジシフタ3の駆動速度vの調整によって補正しても良い。この時、上記の実施の形態5で示したビーム位置測定用電極40の電極の方向を90度回転して取り付け、ビームのスキャン方向位置を測定できるように構成し、信号処理回路45からのビーム位置をもとにして、レンジシフタ駆動制御装置25において、レンジシフタ駆動速度を調整しても良い。
【0051】
このような構成により、レンジシフタ3の駆動速度がほぼ一定とする事ができるため、駆動音を低減することができる。また、駆動機構はモータやリニアモータを適用可能であり、低コストの駆動機構を構成する事が可能である。
【0052】
以上のように、本実施の形態7においては、上記の実施の形態1〜6と同様の効果が得られるとともに、さらに、レンジシフタ3の駆動方式として、ほぼ一定速度でレンジシフタ3を駆動するようにしたので、レンジシフタ3の駆動音を低減させ、かつ、高速で飛程の変更が可能となる。
【0053】
実施の形態8.
本実施の形態8においては、図15に示すように、上記の実施の形態7の構成のレンジシフタ駆動方式において、照射領域に対応する、レンジシフタ3上でのビーム照射範囲Wに対して、偏向電磁石1の最大スキャン可能範囲がWmaxである場合に、レンジシフタ3の駆動速度vを、
v=(D―S’)/t1×Wmax/W
とした。
【0054】
実際のビーム範囲Wは、最大スキャン可能範囲Wmaxよりも小さい値となるが、偏向電磁石1のヒステリシス特性の問題から、偏向電磁石1のスキャン範囲は、常にWmaxとすることが一般的である。したがって、ビーム照射範囲Wの外を偏向電磁石1がスキャンしている時刻には、ビーム位置が、レンジシフタ3の段差部分に近づいても良く、レンジシフタ3の駆動方向のビーム照射可能なD−S’の幅と、スキャン方向の照射範囲Wが一致していれば良い。レンジシフタ3の移動速度vを上記の値とすれば、両者を一致させる事ができる。
【0055】
この時、レンジシフタ3の段の幅Dの分だけ、レンジシフタ3が移動する時間は、
t=D/v=D/(D−S’)×t1×W/Wmax
で、飛程の変更時間の実効的な値t2は、
t2=t―t1=t1×(D/(D−S’)×W/Wmax−1)
t2=t1×(S’―D×(1−W/Wmax))/(D―S’)
となり、上記の実施の形態7の駆動方式での飛程変更時間t2=t1×S’/(D−S’)よりも小さくする事ができる。
【0056】
特に、図16に示すように、
W/Wmax < S’/D
である場合には、
v=D/t1
とする事によって、実効的な飛程変更時間をゼロにすることができる。
【0057】
以上のように、本実施の形態8においては、上記の実施の形態1〜6と同様の効果が得られるとともに、さらに、レンジシフタ3の駆動方式として、ほぼ一定速度でレンジシフタ3を駆動するようにしたので、レンジシフタ3の駆動音を低減させ、かつ、高速で飛程の変更が可能となる。
【0058】
実施の形態9.
図17は、本実施の形態9に係る粒子線照射装置の構成を示す構成図である。図17に示されるように、本実施の形態9に係る粒子線照射装置においては、偏向電磁石1aの下方に、同様の構成からなる偏向電磁石1bが設けられている。ここで、1aは偏向電磁石の磁極部のみを示したもので、偏向電磁石全体は、例えば、図20のように、磁極1a、リターンヨーク101aおよびコイル102aから構成されるものである。1bも同様に偏向電磁石の磁極部のみを示したもので、偏向電磁石全体は、例えば、図21のように、磁極1b、リターンヨーク101bおよびコイル102bから構成されるものである。但し、本実施の形態においては、上記の実施の形態1等とは異なり、偏向電磁石1aと1bを90度回転して配置している。さらに、偏向電磁石1bの下方には、階段状レンジシフタ3が設けられている。被照射体6は階段状レンジシフタ3の下方にあり、被照射体6内の照射領域7に荷電粒子ビーム2が照射される。なお、当該実施の形態においても、上記の実施の形態1で示した位置モニタ4や線量モニタ5を設けるようにしてもよい。
【0059】
このように、本実施の形態に係る粒子線照射装置は、X−Yスキャン方式のスポットスキャン照射装置において、階段状レンジシフタ3を用いた構成である。X−Yスキャン方式では、偏向電磁石1aと1bを90度回転して配置し、荷電粒子ビーム2をビーム軸9に垂直な平面(X−Y平面)内で、図17のようにスキャンする。
【0060】
Y方向へのスキャン時のステップ幅をDyとして、ビームサイズをS、ビーム位置ずれ誤差を考慮したビームサイズをS’、X方向のビームスキャン時間をt1とした場合、階段状レンジシフタ3の段の幅をDを
D=Dy+S’として、
レンジシフタの移動速度vを
v=Dy/t1
とすれば、図18のように、X−Y平面のスキャンを行う場合には、レンジシフタ3の1つの段の中で、図18のように、その段の一方の対角線上を荷電粒子ビーム2がスキャンされた後、短辺に沿って移動し、次に、他方の対角線上を荷電粒子ビーム2がスキャンされる(すなわち、X字状にスキャンされる。)。1回のXY平面のスキャンが終了した時点で、レンジシフタ3の移動方向は反転され、同時にビームが照射される段を1段ずらして駆動を再開する。
【0061】
このような構成によれば、X−Yスキャン方式のスポットスキャン照射装置において、レンジシフタ3の動作音の低減、駆動機構のコスト低減をすることが可能となる。
【0062】
以上のように、本実施の形態9においては、上記の実施の形態1と同様の効果が得られるとともに、さらに、偏向電磁石1aと1bを90度回転して配置し、荷電粒子ビーム2をビーム軸9に垂直な平面(X−Y平面)内で、図17のように、X字状にスキャンするようにしたので、X−Yスキャン方式のスポットスキャン照射装置において、レンジシフタ3の動作音の低減、駆動機構のコスト低減をすることが可能となる。
【0063】
実施の形態10.
図19は、本実施の形態10に係る粒子線照射装置の構成を示す構成図である。図19に示されるように、本実施の形態10に係る粒子線照射装置においては、偏向電磁石41の下方に、階段状レンジシフタ3が設けられている。また、その下方には、荷電粒子ビーム2の位置をモニタするための位置モニタ4、および、照射線量をモニタするための線量モニタ5が設けられている。被照射体6は線量モニタ5の下方にあり、被照射体6内の照射領域7に荷電粒子ビーム2が照射される。また、被照射体6は、ベッド42上に配置されている。
【0064】
本実施の形態10は、このように、スキャン照射装置上流に配置された偏向電磁石41において荷電粒子ビーム位置を偏向可能なように構成された粒子線照射装置に、階段状レンジシフタ3を用いた構成である。上流の偏向電磁石41の励磁電流を調整する事によって、荷電粒子ビーム2はX方向にスキャンされる。このように、偏向電磁石41は、荷電粒子ビーム2を偏向させて、被照射体6の内部での平面方向の位置を制御するビーム位置変更手段を構成している。
【0065】
一方、被照射体6は、ベッド42上に配置、又は、固定されており、ベッド42は駆動機構(図示せず)によってY方向に移動可能なように構成されている。このように、ベッド42は、被照射体6を搭載するための移動可能に設けられた被照射体搭載手段であって、レンジシフタ3の各段と被照射体6との間の相対位置を変化(制御)させるための駆動手段を構成している。偏向電磁石41、ベッド42、レンジシフタ3をそれぞれスキャン又は駆動することによって、照射領域7が3次元的にスキャン照射される。
【0066】
スキャン手順は、X方向のスキャンを最初に行い、次にレンジシフタ3を駆動し、最後にベッド42をY方向に移動する手順が効率が良いが、他の手順、例えば、X方向、Y方向、レンジシフタ3の順序でも構わない。
【0067】
このような構成によれば、スキャン照射装置上流に配置された偏向電磁石41において荷電粒子ビーム2の位置を偏向可能なように構成された粒子線照射装置において、レンジシフタ3の動作音の低減、駆動機構のコスト低減を図ることが可能となる。
【0068】
以上のように、本実施の形態10においては、上記の実施の形態1と同様の効果が得られるとともに、さらに、偏向電磁石41の励磁電流を調整する事によって、荷電粒子ビーム2はX方向にスキャンされるとともに、被照射体6はベッド42によってY方向に移動可能なように構成されているので、レンジシフタ3の駆動音を低減させるとともに、軸方向の大きさが低減されることにより、照射装置全体の軸方向の大きさを小さくすることが可能である。
【0069】
実施の形態11.
また、スキャン照射装置上流に配置された偏向電磁石、又は、ビーム偏向手段を備えた、粒子線照射装置についても、階段状レンジシフタを用いる事が可能である。
【0070】
実施の形態12.
なお、上記の実施の形態1〜11においては、階段状のレンジシフタを用いる例について説明したが、階段状のレンジシフタを背中合わせに2つ結合させた山型のレンジシフタを用いても同様の効果を得ることができる。また、上記の実施の形態1〜11においては、駆動装置20は階段状のレンジシフタ3の最下段から最上段まで移動すると、駆動方向を逆向きに変更する必要があるが、本実施の形態においては、山型にレンジシフタを構成したので、最下段から最上段まで移動した後に、同一の駆動方向で、再び、最上段から最下段まで移動できるので、駆動装置20によるレンジシフタの駆動方向の変更回数を少なくすることができる。
【0071】
実施の形態13.
上記の実施の形態1〜11においては、位置モニタ4や線量モニタ5、および、位置測定用の信号電極40等により、荷電粒子ビーム2の照射位置を測定する例について説明した。本実施の形態においては、さらに、副線量モニタを配置する例について説明する。
【0072】
副線量モニタは、ライン型の線量モニタである。荷電粒子ビーム2の軌道は、図6や図14〜図16に示されるように、予め設定されたパターンに沿って移動する。そのため、本実施の形態においては、当該パターンに沿って、ライン型の副線量モニタを設置させる。これにより、ライン型の副線量モニタは、荷電粒子ビーム2のビーム照射点に常に一致するように配置される。当該構成において、主線量モニタである線量モニタ5の値と、本実施の形態におけるライン型の副線量モニタの値とを常時比較することにより、ビーム位置が正しく制御されていることをさらに精度高く確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施の形態1に係る粒子線照射装置の構成を示した構成図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る粒子線照射装置の構成を示した部分拡大構成図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係る粒子線照射装置の構成を示したブロック図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係る粒子線照射装置の構成を示した部分拡大斜視図である。
【図5】本発明の実施の形態1に係る粒子線照射装置の動作を示した流れ図である。
【図6】本発明の実施の形態1に係る粒子線照射装置の動作を示した説明図である。
【図7】本発明の実施の形態2に係る粒子線照射装置の構成を示した構成図である。
【図8】本発明の実施の形態3に係る粒子線照射装置の動作を示した説明図である。
【図9】本発明の実施の形態4に係る粒子線照射装置の動作を示した説明図である。
【図10】本発明の実施の形態5に係る粒子線照射装置の動作を示した説明図である。
【図11】本発明の実施の形態6に係る粒子線照射装置のレンジシフタの構成を示した拡大斜視図である。
【図12】本発明の実施の形態6に係る粒子線照射装置の動作を示した説明図である。
【図13】本発明の実施の形態6に係る粒子線照射装置の構成を示したブロック図である。
【図14】本発明の実施の形態7に係る粒子線照射装置の動作を示した説明図である。
【図15】本発明の実施の形態8に係る粒子線照射装置の動作を示した説明図である。
【図16】本発明の実施の形態8に係る粒子線照射装置の動作を示した説明図である。
【図17】本発明の実施の形態9に係る粒子線照射装置の構成を示した構成図である。
【図18】本発明の実施の形態9に係る粒子線照射装置の動作を示した説明図である。
【図19】本発明の実施の形態10に係る粒子線照射装置の構成を示した構成図である。
【図20】本発明の実施の形態1〜9に係る粒子線照射装置における偏向電磁石の全体の構成を示した説明図である。
【図21】本発明の実施の形態1〜9に係る粒子線照射装置における偏向電磁石の全体の構成を示した説明図である。
【符号の説明】
【0074】
1,1a,1b 偏向電磁石、2 荷電粒子ビーム、3 階段状レンジシフタ、4 位置モニタ、5 線量モニタ、6 被照射体、7 照射領域、9 ビーム軸、15 フレーム、16 ガイド、20 駆動装置、21 部材、25 レンジシフタ駆動制御装置、26 レンジシフタ位置読み取り装置、27 スキャン制御装置、40 ビーム位置測定用ストリップ電極(信号電極)、41 高圧電極。
【技術分野】
【0001】
この発明は、粒子線照射装置に関し、特に、粒子線治療装置等で用いる荷電粒子ビームを照射するための粒子線照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、がんの治療方法として、陽子や重粒子を用いた粒子線治療方法について多くの研究がなされている。粒子線治療方法とは、加速器から出射される粒子線をがん細胞に照射することで、がん細胞を死滅させる方法である。
【0003】
従来の粒子線治療装置では、粒子線のレンジ(飛程)を変更するために、独立に稼動する複数(例えば、8枚〜10枚)のアクリル等の平板から構成されるレンジシフタを設けておき、各板を必要に応じて圧空シリンダによりビーム軌道上に挿入する。このように、ビーム軌道上に挿入される当該レンジシフタの平板の合計の厚さが所望の値となるように、平板を出し入れしてレンジシフタ全体の厚さを調整していた(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、現在、高精度な照射方法として、実用化が進められている照射方法として、スポットスキャニング法と呼ばれるものがある。スポットスキャニング法とは、照射スポットを明確に区切り、照射停止中に照射位置の走査を行うものである。
【0005】
スポットスキャニング方法を実現する装置として、荷電粒子線を互いに逆方向に同じ角度だけ曲げる1組の磁場からなるスキャニング磁場を発生させる1組のスキャニング電磁石を、モータで回転する回転駆動用歯車に搭載して、それらを回転させることにより、2軸の平行ビームスキャニングを実現させるものが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
【特許文献1】特開2001−212253号公報
【特許文献2】特開平11−114078号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献2で示されるようなスポット・スキャン照射を行う場合には、照射時間を短縮するため、短時間(100msec以下)でレンジを変更する必要がある。上記特許文献1で示されるような従来の平板を出し入れする方式のレンジシフタでは、約200mm程度の距離を駆動する必要があり、100msec秒程度の短時間でレンジを変更するためには2m/sec以上の高速で平板を挿入する必要があり、そのためには、駆動力の大きい駆動機構が必要で、大型のエア・シリンダを各レンジシフタに装備して、レンジシフタを出し入れする必要があるという問題点があった。
【0008】
さらに、通常8枚から10枚の平板から構成されるレンジシフタの各平板に対して、上記のような大型のエア・シリンダからなる駆動機構を各々用意する必要があり、コストが高くなってしまうという問題点があった。
【0009】
また、レンジシフタ動作時には、複数の平板が高速で出入りを行うことになり、騒音が発生してしまうという問題点があった。
【0010】
この発明は、かかる問題点を解決するためになされたものであり、低コストに抑え、かつ、レンジシフタ駆動音の低減を図ることが可能な粒子線照射装置を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、被照射体に荷電粒子ビームを照射させるための粒子線照射装置であって、荷電粒子ビームを偏向させて、前記被照射体の内部での平面方向の位置を制御するビーム位置変更手段と、偏向された前記荷電粒子ビームを通過させることにより、前記被照射体の内部での深さ方向の位置を制御する階段状に構成されたレンジシフタと、前記レンジシフタの各段と前記被照射体との間の相対位置を変化させるための駆動手段とを備えた粒子線照射装置である。
【発明の効果】
【0012】
この発明は、被照射体に荷電粒子ビームを照射させるための粒子線照射装置であって、荷電粒子ビームを偏向させて、前記被照射体の内部での平面方向の位置を制御するビーム位置変更手段と、偏向された前記荷電粒子ビームを通過させることにより、前記被照射体の内部での深さ方向の位置を制御する階段状に構成されたレンジシフタと、前記レンジシフタの各段と前記被照射体との間の相対位置を変化させるための駆動手段とを備えた粒子線照射装置であるので、階段状のレンジシフタを用いた事により、レンジシフタ駆動音を低減することができ、かつ、装置を低コストに抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1によるスポットスキャン法による粒子線照射装置を示す図である。本発明に係る粒子線照射装置は、荷電粒子加速器(図示せず)などから出射される荷電粒子ビーム2を被照射対6内の照射領域7に照射させるための装置である。図1に示されるように、本実施の形態に係る粒子線照射装置においては、偏向電磁石1aの下方に、同様の構成からなる偏向電磁石1bが設けられている。ここで、1aは偏向電磁石の磁極部のみを示したもので、偏向電磁石全体は、例えば、図20のように、磁極1a、リターンヨーク101aおよびコイル102aから構成されるものである。1bも同様に偏向電磁石の磁極部のみを示したもので、偏向電磁石全体は、例えば、図21のように、磁極1b、リターンヨーク101bおよびコイル102bから構成されるものである。さらに、偏向電磁石1bの下方には、階段状レンジシフタ3が設けられ、その下には、荷電粒子ビーム2をモニタするための位置モニタ4および線量モニタ5が順に設けられている。被照射体6は線量モニタ5の下方に置かれ、被照射体6内の照射領域7に荷電粒子ビーム2が照射される。なお、階段状レンジシフタ3とは、図1に示すように、階段状に変化する厚さを有し、当該階段状に構成された各段のうちのいずれの段の位置で、荷電粒子ビーム2を通過させるかによって、被照射体6の内部での深さ方向の位置を制御するためのものである。
【0014】
このように構成された本実施の形態に係る粒子線照射装置においては、荷電粒子加速器(図示せず)などから供給される荷電粒子ビーム2は、偏向電磁石1a及び1bによって偏向されて、例えば、軌道2aを形成して、被照射体6の内部の照射領域7に照射される。このとき、荷電粒子ビーム2の照射は、照射領域7を3次元的に分割した小領域(スポット)ごとに行うため、荷電粒子ビーム照射位置を、3次元的に調整して全スポットの照射を行う。
【0015】
偏向電磁石1a,1bには励磁電流を供給するための励磁電流供給手段(図示せず)が設けられており、それにより、偏向電磁石1a,1bの励磁電流を変化させることで、荷電粒子ビーム2の位置は、軌道2aから軌道2bへ連続的に移動させる事ができる。なお、励磁電流値の調整および制御は、後述するスキャン制御装置27(図3参照)によって行われる。さらに、偏向電磁石1a,1bを一体としてビーム軸9に対して回転させることによって、ビーム軸9に垂直な面内での荷電粒子ビーム2の照射位置の制御を行うことができる。このように、偏向電磁石1a,1bは、荷電粒子ビーム2を偏向させて、被照射体6の内部での平面方向の位置を制御するビーム位置変更手段を構成している。また、階段状に構成されたレンジシフタ3を図1の矢印A方向に移動させる事によって、荷電粒子ビーム2がレンジシフタ3を通過する厚さを(階段状に)調整し、被照射体6の内部での深さ方向の位置(飛程)を制御することができる。また、各スポットへの照射において、荷電粒子ビーム2の位置をモニタするための位置モニタ4、及び、荷電粒子ビーム2の照射線量をモニタするための線量モニタ5が被照射体6の前に置かれているため、これらのモニタ4,5を用いることにより、荷電粒子ビーム2をモニタすることができるので、被照射体6に対して適切な照射が行われているか否かを確認することができる。
【0016】
階段状レンジシフタ3は、アクリルなどの素材で構成されるが、各段の高さは、照射領域7を、深さ方向に、分割する際に必要とされる最小の単位とする。通常のスポットスキャン照射では、深さ方向の分割幅は、水等価厚さで5mm程度であるので、最小分割単位を5mmとすれば、レンジシフタ3の各段の段差は水等価厚さで5mmに設定する。またさらに高い精度で深さ方向の位置を制御するためには、最小単位を分割幅の1/N(Nは1よりも大きい整数)としても良い。
【0017】
詳細な構成について説明すれば、図2で示すように、階段状レンジシフタ3は偏向電磁石1a,1bに対して、フレーム15及びガイド16を介して連結され、偏向電磁石1a,1bが回転する場合には一体となって回転する構造としている。すなわち、階段状レンジシフタ3が両端をガイド16によって支持され、各当該ガイド16には、上方向に向かって突設されている略々矩形の枠型のフレーム15が設けられている。フレーム15間には、偏向電磁石1a,1bが架設されている。また、階段状レンジシフタ3は、ガイド16によって支持されているが、ガイド16に対して、ビーム軸方向、ビームスキャン方向には固定されており、ビーム軸とビームスキャン方向に垂直な方向(レンジシフタ駆動方向、すなわち、図1のA方向)にはガイド16に案内されて移動できるように支持されている。
【0018】
また、図3に示すように、レンジシフタ3には、図1のA方向にレンジシフタ3を駆動させるための駆動装置20が部材21を介して接続されている。また、当該駆動装置20には、それの制御を行うためのレンジシフタ駆動制御装置25が電気的に接続されている。このように、駆動装置20は、レンジシフタ3の各段と被照射体6との間の相対位置を変化(制御)させるための駆動手段を構成している。また、レンジシフタ3の位置を検知するためのレンジシフタ位置読み取り装置26が、レンジシフタ3の下方に設けられており、当該レンジシフタ位置読み取り装置26の検知信号はレンジシフタ駆動制御装置25に入力される。また、偏向電磁石1a,1bの励磁電流の調整、および、レンジシフタ駆動制御装置25へのレンジシフタ厚さの指令を行うためのスキャン制御装置27が設けられている。
【0019】
図3の構成における動作について説明する。レンジシフタ3は、駆動装置20によって、部材21を介して、レンジシフタ駆動方向に駆動される。駆動装置20は、例えば、リニア・モータ、ステッピングモータ、あるいは、サーボモータ等から構成する。レンジシフタ駆動制御装置25は、必要とされるレンジシフタ厚さに応じて、荷電粒子ビーム2がレンジシフタ3上に照射される位置が、該当するレンジシフタの段の概ね中央の位置となるように、駆動装置20によってレンジシフタ3の挿入量を調節する。また、レンジシフタ挿入量の調整は、レンジシフタ位置読み取り装置26の検知信号を用いる事でさらに精度を高めることができる。スキャン制御装置27は、予め計画されたスキャン手順に従って、偏向電磁石1の励磁電流の調整、レンジシフタ駆動制御装置25へのレンジシフタ厚さの指令を行う。
【0020】
このような構成においては、偏向電磁石1a,1bの励磁電流を変化させ、電磁石1a,1bを回転させて、ビーム軸9に垂直な平面内で荷電粒子ビーム2の照射位置を変化させても、階段状レンジシフタ3上を荷電粒子ビーム2が通過する領域は、幅がビームサイズ程度で、長さが偏向電磁石1a,1bによるビームスキャン幅程度の矩形領域となる。したがって、図4で示すように、階段状に構成されたレンジシフタ3の各段の幅Dは、レンジシフタ3の位置での荷電粒子ビーム2のビームサイズS(照射位置30でのビームの直径)の最大値Smaxよりも大きく設定すればよい。
【0021】
このように、照射領域7に対する照射は、偏向電磁石1a,1bの励磁電流によるR方向への荷電粒子ビーム2の位置変更、階段状レンジシフタ3による飛程の変更、偏向電磁石1a,1bの回転によるθ方向の位置変更、の3つを組み合わせて行う。照射手順としては、上記の3つの変更を任意の順序で組み合わせれば良いが、変更の際に、多くの変更時間を要する手順については変更回数を少なくするように設定する事により、全体の照射時間を短縮することができる。通常の方式では、最も高速に変更可能なのは、偏向電磁石1の励磁電流変化によるR方向のビーム位置変更であり、θ方向の回転角の変更には最も時間を要する。したがって、変更手順としては、1)最初に回転角、飛程(レンジシフタ3の挿入量)を設定してから、R方向の一連の変更を行い、2)次に飛程を変更して再度R方向の一連の変更を繰り返し、3)飛程の変更がすべて終了したら回転角を変更し、4)再び、1)、2)、3)を繰り返す、という手順となる。この手順を図5に示した。
【0022】
すなわち、図5に示すように、まず、偏向電磁石1a,1bのθ方向の回転角を設定し(ステップS1)、次に、階段状レンジシフタ3の位置の変更を行い(ステップS2)、次に、R方向への荷電粒子ビーム2の位置変更を行う(ステップS3)。次に、R方向への荷電粒子ビーム2の位置変更が終了したかを判定し(ステップS4)、終了していればステップS5に進み、終了していなければステップS3に戻る。ステップS5においては、階段状レンジシフタ3の位置の変更が終了したかを判定し(ステップS5)、終了していればステップS6に進み、終了していなければステップS2に戻る。ステップS6においては、偏向電磁石1のθ方向の回転角が終了したかを判定し(ステップS5)、終了していれば、そのまま処理を終わらせ、終了していなければステップS1に戻る。
【0023】
上記の照射手順を、具体的な装置の動作で見直すと、図6に示すように、第1のスポットの照射位置に対する、レンジシフタ3上での対応する位置が30aであるとした場合(レンジシフタ厚さが最も薄い条件から開始した場合)、レンジシフタ3の位置を固定した状態で、偏向電磁石1a,1bの励磁電流を変化させて、順次30b、30c、・・・、30fと照射を行い、30fの照射が終了した時点で、レンジシフタ3を駆動して、荷電粒子ビーム2の位置を次の段に移動させる。この時のレンジシフタ3の移動量は段の幅Dと等しい。続いて、偏向電磁石1a,1bが逆方向に移動するように励磁電流を変更させて、順次スポットの照射を行い、更にレンジシフタ3をDだけ移動させて次の段に移行するという手順を繰り返す事になる。レンジシフタ3の変更が全て終わった時点(最もレンジシフタ厚さが厚い設定での照射が終了した時点)で、回転角度を変更し、今度は、レンジシフタ条件が最も厚い条件から開始して、R方向の照射終了後、順次、レンジシフタの厚さを薄くするように、レンジシフタ3を駆動していく。
【0024】
もちろん、常にレンジシフタ3の厚さが薄い条件から、厚い条件へ変化するように駆動する手順としても構わない。
【0025】
このような構成によれば、レンジシフタ3の駆動装置20は、一つの駆動装置20のみで構成可能となり、システムのコストを低減する事が可能である。また、駆動装置20が単純な構成となるので、メンテナンス性が良く、全体の重量軽減にもつながる。また、一つの駆動装置のみで構成されるために、レンジシフタ全体のビーム軸方向の大きさを低減することができる。
【0026】
荷電粒子ビーム2の飛程を変更する際のレンジシフタ3の移動量、すなわち、レンジシフタ3の各段の幅は、荷電粒子ビーム2のビームサイズ程度、または、その数倍程度で良いので、通常の粒子線装置であれば10mm〜20mm程度とできる。このため、従来のレンジシフタ駆動装置の移動量である180mm〜200mmに比べて、1/10程度の駆動距離となり、短時間で飛程の変更を行う事ができる。また、駆動距離が短くなったことにより、レンジシフタ3の移動速度を低減する事ができるので、安価なモータを用いた駆動機構を構築する事が可能であるとともに、レンジシフタ3の駆動音を低減する事ができる。また、駆動機構の数が減少するので、高性能な駆動機構を用いても、全体としてコストを低減できる。
【0027】
以上のように、本実施の形態においては、この発明に係るレンジシフタは、平行ビームスキャン方式によるスポット・スキャン照射に用いるもので、階段状に構成された1台のレンジシフタを、スキャン照射と同期して駆動するものである。レンジシフタの移動距離が短いために、移動速度を下げることが可能となり、トルクの小さいモータ等を使用することができるようになり、装置のコストを低減することができる。また、駆動するべきレンジシフタの数も少なくなるため、駆動装置数の低減により、コストを低減することができる。また照射中に稼動するレンジシフタは1枚だけであり、レンジシフタの速度変化が小さいため、レンジシフタの駆動に伴う騒音を低減することができる。
【0028】
実施の形態2.
図7は、本実施の形態2に係る粒子線照射装置の構成を示した構成図である。本実施の形態においては、図7に示すように、実施の形態1の構成において2台の偏向電磁石1a,1bで構成されていた平行スキャン方式電磁石を、1台の偏向電磁石1のみで構成した。この構成では、荷電粒子ビーム2の被照射体6への入射角度が斜めになるため、階段上レンジシフタ3の横幅を小さくすることができる。なお、他の構成については、上記の実施の形態1と同様であるため、同一符号を付して示し、ここでは説明を省略する。
【0029】
以上のように、本実施の形態2においては、上記の実施の形態1と同様の効果が得られるとともに、さらに、偏向電磁石を1台のみで構成するようにしたので、当該構成により、荷電粒子ビーム2の被照射体6への入射角度が斜めになるため、階段状レンジシフタ3の横幅を小さくすることができ、レンジシフタ3の重量を軽減して、レンジシフタ駆動機構のコストを下げることができる。さらに、偏向電磁石の個数が減った分だけコストを下げることができる。
【0030】
実施の形態3.
図8は、本実施の形態3に係る粒子線照射装置のレンジシフタの構成を示した構成図である。本実施の形態においては、図8に示すように、レンジシフタ3を、スキャン照射時の飛程変更用レンジシフタ3aと、大まかな飛程変更用のレンジシフタ3bとの、2つのレンジシフタで構成した。なお、各レンジシフタ3aおよび3bの各段の幅は同一であるが、対応する各段の厚さは、図8に示すように、レンジシフタ3bの厚さの方がレンジシフタ3aの厚さよりも大きくなっている。他の構成については、上記の実施の形態1または2と同様であるため、同一符号を付して示し、ここでは説明を省略する。
【0031】
通常の粒子線治療においては、被照射体6の最大厚さは、水等価厚さで30cm程度であるが、照射領域7の最大厚さは、水等価厚さで14cm程度である。そこで、一回の照射において、最大の飛程に対応するレンジシフタ厚さをレンジシフタ3bにより大まかに決定し、スポットスキャン時には、レンジシフタ3bは固定として、レンジシフタ3aのみを駆動して、照射中の飛程の変更を行う。レンジシフタ3bの各段の高さΔh’は、レンジシフタ3aの最大厚さhmax、レンジシフタ3aの各段の高さΔhに対して、
Δh <Δh’< hmax/2
となるように構成する。
【0032】
このような構成により、レンジシフタ3aにおいて、被照射体6の最大厚さに対応する必要がなくなり、少なくとも、照射領域7の最大厚さに対応すればよくなる。これによって、高速で駆動するレンジシフタ3aの質量を低減する事ができるため、駆動装置のコスト低減、駆動速度の向上、駆動音を低減することができる。また、レンジシフタ3bは、従来型の複数の平板を挿入する方式としても良い。レンジシフタ3bの駆動は、数秒〜数十秒で移動する低速駆動でも問題ないので、大型の駆動機構を設ける必要はなく、駆動機構を複数配置してもコストを低減できる。
【0033】
以上のように、本実施の形態においては、上記の実施の形態1と同様の効果が得られるとともに、さらに、スキャン照射時の飛程変更用レンジシフタ3aと、大まかな飛程変更用のレンジシフタ3bとの、2つのレンジシフタで構成するようにしたので、高速で駆動するレンジシフタ3aの質量を低減する事ができるため、駆動装置のコスト低減、駆動速度の向上、駆動音を低減することができる。
【0034】
実施の形態4.
図9は、本実施の形態4に係る粒子線照射装置のレンジシフタの構成を示した構成図である。図9では、スキャン照射時の飛程変更用レンジシフタ3aと、大まかな飛程変更用レンジシフタ3bとで、構成されたレンジシフタにおいて、荷電粒子ビーム2の上流側に配置したレンジシフタ3bの段の幅Dに対して、下流に配置されたレンジシフタ3aの段の幅D’について、
D’≧D+ΔS
となるように構成した。ここでΔSは、レンジシフタ3a内に入射する前の荷電粒子線ビーム2のビームサイズSと、レンジシフタ3bから出た直後の荷電粒子線ビーム2のビームサイズS’との差で定義される。荷電粒子線ビーム2のビームサイズは、レンジシフタ3a,3bを通過する際に、散乱によって拡大するため、通常S<S’であるので、
ΔS=S’−S
である。レンジシフタ3bの各段の幅D’は、段ごとにD’≧D+ΔSを満たすように決定しても良く、また、ΔSの最大値ΔSmaxに対して、D’≧D+ΔSmaxとなるように全ての段の幅を同じ幅としても良い。他の構成については、上記の実施の形態3と同様であるため、同一符号を付して示し、ここでは説明を省略する。
【0035】
このような構成により、レンジシフタ3a,3b中での荷電粒子ビームの散乱によって、レンジシフタ3b下面近傍でのビームサイズが拡大し、荷電粒子ビームが厚さの異なった段に侵入することを防ぐことができる。
【0036】
以上のように、本実施の形態においては、上記の実施の形態1〜3と同様の効果が得られるとともに、さらに、荷電粒子ビーム2の上流側に配置したレンジシフタ3bの段の幅Dよりも下流に配置されたレンジシフタ3aの段の幅D’の方が大きくなるようにしたので、レンジシフタ3a,3b中での荷電粒子ビームの散乱によって、レンジシフタ3b下面近傍でのビームサイズが拡大し、荷電粒子ビームが厚さの異なった段に侵入することを防ぐことができ、荷電粒子ビームの飛程が変化することを防ぐことができる。
【0037】
実施の形態5.
図10は、本実施の形態5に係る粒子線照射装置の構成を示した構成図である。図10では、レンジシフタ3を、スキャン照射時の飛程変更用レンジシフタ3a、大まかな飛程変更用のレンジシフタ3b、詳細な飛程調整用レンジシフタ3cの3つのレンジシフタで構成した。各レンジシフタ3a,3b,3cの各段の幅は同一である。また、対応する各段の厚さは、レンジシフタ3bが最も大きく、次がレンジシフタ3aで、レンジシフタ3cが最も小さくなっている。他の構成については、上記の実施の形態1と同様であるため、同一符号を付して示し、ここでは、説明を省略する。
【0038】
本実施の形態5においては、レンジシフタ3cの各段の高さΔh’’を、レンジシフタ3aの段の高さをΔhとしたとき、1よりも大きい整数Nで割った値Δh’’=Δh/Nとし、レンジシフタ3cの段の数は、N−1以上とする。レンジシフタ3cは、レンジシフタ3aと同じく、スキャン照射開始前に一回、所定の位置に駆動されて、スキャン照射中は駆動されない。
【0039】
このような構成により、レンジシフタ3の厚さを詳細に設定することができ、荷電粒子ビーム2の飛程を詳細に調整する事が可能となる。また、レンジシフタ3aの段数を減少させることができる。この事により、レンジシフタ3aの大きさ/重量を低減でき、駆動機構のコスト低減、駆動音を低減することができる。
【0040】
以上のように、本実施の形態5においては、上記の実施の形態1と同様の効果が得られるとともに、さらに、レンジシフタ3を、スキャン照射時の飛程変更用レンジシフタ3a、大まかな飛程変更用のレンジシフタ3b、詳細な飛程調整用レンジシフタ3cの3つのレンジシフタで構成するようにしたので、飛程の調整を詳細にする事が可能となり、同時にレンジシフタ3aの段数を減少させることができるため、レンジシフタ3aの大きさ/重量を低減でき、駆動機構のコスト低減、駆動音を低減することができる。
【0041】
実施の形態6.
図11は、本実施の形態6に係る粒子線照射装置のレンジシフタの構成を示した構成図である。本実施の形態6においては、図11に示すように、レンジシフタ3の背面に、ビーム位置測定用ストリップ電極40(以下、信号電極40とする。)を配置したものである。信号電極40は、図11に示すように、レンジシフタ3の各段と平行な方向に設けられている。信号電極40は、銅やアルミなどの導電性の薄いフィルム状部材で構成され、それぞれの電極間は絶縁して設置される。通常、レンジシフタ3はアクリルなどの絶縁部材で構成されるため、信号電極40は、蒸着やエッチング等の方法で、レンジシフタ3上に直接形成することが可能である。また、レンジシフタ3が導電性部材で構成される場合には、レンジシフタ表面にポリイミドなどの絶縁部材を形成し、その上に、信号電極40を配置すれば良い。
【0042】
この構成において、本実施の形態においては、図12で示すように、信号電極40に対向する位置に、信号電極40に対して所定の間隔だけ離間して、高圧電極41が配置されている。高圧電極41には1kV〜5kV程度の電圧が印加される。信号電極40はアース電位となるように配置されており、荷電粒子ビーム2が通過した位置の直近の信号電極40には、荷電粒子ビーム2が空気を電離して生成された電荷を持ったイオン、又は、電子が収集される。このため、荷電粒子ビーム2が通過した位置の信号電極40には、電気信号が発生する。これにより、荷電粒子ビーム2が、レンジシフタ3のどの段を通過したかを正確に検知することができる。
【0043】
信号電極40の電気信号を、図13で示すように信号処理回路45で処理を行って、ビーム位置情報を得る事ができる。この位置情報は、レンジシフタ駆動制御装置25に送られて、レンジシフタ3の位置調整を高精度に行う。また、スキャン制御装置27へ位置情報を送り、装置のトラブルなどによる荷電粒子ビーム位置の変化を検出して、荷電粒子ビーム照射手順を停止するための安全機能とする。
【0044】
このような構成により、機械的なレンジシフタ位置の検出に対して、実際のビームに対してレンジシフタの位置を検出するため、より正確にレンジシフタの位置を調整する事が可能である。また、装置のトラブルによって、ビームの位置ずれが発生した場合には、インターロック機能を持たせることが可能となり、より安全なビーム照射を行う事ができる。
【0045】
以上のように、本実施の形態においては、上記の実施の形態1と同様の効果が得られるとともに、さらに、レンジシフタ3の一面にビーム位置測定用の信号電極40を取り付けるようにしたので、詳細なレンジシフタ位置調整が可能となり、機器のトラブルによってビーム位置、又は、レンジシフタ位置が異常になった場合にも、安全なシステムを構築することが可能である。
【0046】
実施の形態7.
図14は、本実施の形態2に係る粒子線照射装置の構成を示した構成図である。図14は、上記の実施の形態1〜6で示したようなレンジシフタ3の駆動方式を静止と駆動を繰り返すステップ動作から、常にほぼ一定の速度で移動する常時駆動方式に変えたものである。すなわち、本実施の形態においては、スポットスキャンによる荷電粒子ビームの照射中に、レンジシフタ3はほぼ一定速度で移動しており、レンジシフタ3上でのビーム照射位置は、図14のようにレンジシフタ3上を斜め移動する。レンジシフタ3の移動速度は、R方向への荷電粒子ビーム2の位置変更中では、荷電粒子ビーム2が一つの段の中に十分納まるように調整される。
【0047】
R方向の荷電粒子ビーム2のスキャン時間をt1、レンジシフタ3が次の段に移動する時間をt2とし、レンジシフタ位置でのビームサイズをSとした場合、レンジシフタ3の移動速度vは、
v=S/t2
と設定される。R方向へのスキャン中にレンジシフタ3が移動する距離d1は、
d1=v×t1
となる。この時、レンジシフタ3の各段の幅Dは、
D=d1+S=S/t2×t1+S=S×(t1+t2)/t2
として決定する。レンジシフタ3の駆動速度vは、
v=D/(t1+t2)=(D−S)/t1
とも表せる。
また、ここで、Sとしてビームサイズにビーム位置変動誤差分を上乗せしたS’を用いても良い。
【0048】
例えば、t1=100msec、t2=50msec、S=10mmとすれば、D=30mm、v=0.2m/secとなり、駆動速度としては、通常のモータ駆動やリニアモータによる駆動方式が利用可能である。
【0049】
また、スポットスキャンによる荷電粒子ビーム2の照射時間は、照射ごとに異なるので、スキャン時間t1は照射ごとに変動する。このためt1としては、スキャン時間の変動を吸収できる十分大きな値を設定すれば良い。
【0050】
また、t1の変動を、レンジシフタ3の駆動速度vの調整によって補正しても良い。この時、上記の実施の形態5で示したビーム位置測定用電極40の電極の方向を90度回転して取り付け、ビームのスキャン方向位置を測定できるように構成し、信号処理回路45からのビーム位置をもとにして、レンジシフタ駆動制御装置25において、レンジシフタ駆動速度を調整しても良い。
【0051】
このような構成により、レンジシフタ3の駆動速度がほぼ一定とする事ができるため、駆動音を低減することができる。また、駆動機構はモータやリニアモータを適用可能であり、低コストの駆動機構を構成する事が可能である。
【0052】
以上のように、本実施の形態7においては、上記の実施の形態1〜6と同様の効果が得られるとともに、さらに、レンジシフタ3の駆動方式として、ほぼ一定速度でレンジシフタ3を駆動するようにしたので、レンジシフタ3の駆動音を低減させ、かつ、高速で飛程の変更が可能となる。
【0053】
実施の形態8.
本実施の形態8においては、図15に示すように、上記の実施の形態7の構成のレンジシフタ駆動方式において、照射領域に対応する、レンジシフタ3上でのビーム照射範囲Wに対して、偏向電磁石1の最大スキャン可能範囲がWmaxである場合に、レンジシフタ3の駆動速度vを、
v=(D―S’)/t1×Wmax/W
とした。
【0054】
実際のビーム範囲Wは、最大スキャン可能範囲Wmaxよりも小さい値となるが、偏向電磁石1のヒステリシス特性の問題から、偏向電磁石1のスキャン範囲は、常にWmaxとすることが一般的である。したがって、ビーム照射範囲Wの外を偏向電磁石1がスキャンしている時刻には、ビーム位置が、レンジシフタ3の段差部分に近づいても良く、レンジシフタ3の駆動方向のビーム照射可能なD−S’の幅と、スキャン方向の照射範囲Wが一致していれば良い。レンジシフタ3の移動速度vを上記の値とすれば、両者を一致させる事ができる。
【0055】
この時、レンジシフタ3の段の幅Dの分だけ、レンジシフタ3が移動する時間は、
t=D/v=D/(D−S’)×t1×W/Wmax
で、飛程の変更時間の実効的な値t2は、
t2=t―t1=t1×(D/(D−S’)×W/Wmax−1)
t2=t1×(S’―D×(1−W/Wmax))/(D―S’)
となり、上記の実施の形態7の駆動方式での飛程変更時間t2=t1×S’/(D−S’)よりも小さくする事ができる。
【0056】
特に、図16に示すように、
W/Wmax < S’/D
である場合には、
v=D/t1
とする事によって、実効的な飛程変更時間をゼロにすることができる。
【0057】
以上のように、本実施の形態8においては、上記の実施の形態1〜6と同様の効果が得られるとともに、さらに、レンジシフタ3の駆動方式として、ほぼ一定速度でレンジシフタ3を駆動するようにしたので、レンジシフタ3の駆動音を低減させ、かつ、高速で飛程の変更が可能となる。
【0058】
実施の形態9.
図17は、本実施の形態9に係る粒子線照射装置の構成を示す構成図である。図17に示されるように、本実施の形態9に係る粒子線照射装置においては、偏向電磁石1aの下方に、同様の構成からなる偏向電磁石1bが設けられている。ここで、1aは偏向電磁石の磁極部のみを示したもので、偏向電磁石全体は、例えば、図20のように、磁極1a、リターンヨーク101aおよびコイル102aから構成されるものである。1bも同様に偏向電磁石の磁極部のみを示したもので、偏向電磁石全体は、例えば、図21のように、磁極1b、リターンヨーク101bおよびコイル102bから構成されるものである。但し、本実施の形態においては、上記の実施の形態1等とは異なり、偏向電磁石1aと1bを90度回転して配置している。さらに、偏向電磁石1bの下方には、階段状レンジシフタ3が設けられている。被照射体6は階段状レンジシフタ3の下方にあり、被照射体6内の照射領域7に荷電粒子ビーム2が照射される。なお、当該実施の形態においても、上記の実施の形態1で示した位置モニタ4や線量モニタ5を設けるようにしてもよい。
【0059】
このように、本実施の形態に係る粒子線照射装置は、X−Yスキャン方式のスポットスキャン照射装置において、階段状レンジシフタ3を用いた構成である。X−Yスキャン方式では、偏向電磁石1aと1bを90度回転して配置し、荷電粒子ビーム2をビーム軸9に垂直な平面(X−Y平面)内で、図17のようにスキャンする。
【0060】
Y方向へのスキャン時のステップ幅をDyとして、ビームサイズをS、ビーム位置ずれ誤差を考慮したビームサイズをS’、X方向のビームスキャン時間をt1とした場合、階段状レンジシフタ3の段の幅をDを
D=Dy+S’として、
レンジシフタの移動速度vを
v=Dy/t1
とすれば、図18のように、X−Y平面のスキャンを行う場合には、レンジシフタ3の1つの段の中で、図18のように、その段の一方の対角線上を荷電粒子ビーム2がスキャンされた後、短辺に沿って移動し、次に、他方の対角線上を荷電粒子ビーム2がスキャンされる(すなわち、X字状にスキャンされる。)。1回のXY平面のスキャンが終了した時点で、レンジシフタ3の移動方向は反転され、同時にビームが照射される段を1段ずらして駆動を再開する。
【0061】
このような構成によれば、X−Yスキャン方式のスポットスキャン照射装置において、レンジシフタ3の動作音の低減、駆動機構のコスト低減をすることが可能となる。
【0062】
以上のように、本実施の形態9においては、上記の実施の形態1と同様の効果が得られるとともに、さらに、偏向電磁石1aと1bを90度回転して配置し、荷電粒子ビーム2をビーム軸9に垂直な平面(X−Y平面)内で、図17のように、X字状にスキャンするようにしたので、X−Yスキャン方式のスポットスキャン照射装置において、レンジシフタ3の動作音の低減、駆動機構のコスト低減をすることが可能となる。
【0063】
実施の形態10.
図19は、本実施の形態10に係る粒子線照射装置の構成を示す構成図である。図19に示されるように、本実施の形態10に係る粒子線照射装置においては、偏向電磁石41の下方に、階段状レンジシフタ3が設けられている。また、その下方には、荷電粒子ビーム2の位置をモニタするための位置モニタ4、および、照射線量をモニタするための線量モニタ5が設けられている。被照射体6は線量モニタ5の下方にあり、被照射体6内の照射領域7に荷電粒子ビーム2が照射される。また、被照射体6は、ベッド42上に配置されている。
【0064】
本実施の形態10は、このように、スキャン照射装置上流に配置された偏向電磁石41において荷電粒子ビーム位置を偏向可能なように構成された粒子線照射装置に、階段状レンジシフタ3を用いた構成である。上流の偏向電磁石41の励磁電流を調整する事によって、荷電粒子ビーム2はX方向にスキャンされる。このように、偏向電磁石41は、荷電粒子ビーム2を偏向させて、被照射体6の内部での平面方向の位置を制御するビーム位置変更手段を構成している。
【0065】
一方、被照射体6は、ベッド42上に配置、又は、固定されており、ベッド42は駆動機構(図示せず)によってY方向に移動可能なように構成されている。このように、ベッド42は、被照射体6を搭載するための移動可能に設けられた被照射体搭載手段であって、レンジシフタ3の各段と被照射体6との間の相対位置を変化(制御)させるための駆動手段を構成している。偏向電磁石41、ベッド42、レンジシフタ3をそれぞれスキャン又は駆動することによって、照射領域7が3次元的にスキャン照射される。
【0066】
スキャン手順は、X方向のスキャンを最初に行い、次にレンジシフタ3を駆動し、最後にベッド42をY方向に移動する手順が効率が良いが、他の手順、例えば、X方向、Y方向、レンジシフタ3の順序でも構わない。
【0067】
このような構成によれば、スキャン照射装置上流に配置された偏向電磁石41において荷電粒子ビーム2の位置を偏向可能なように構成された粒子線照射装置において、レンジシフタ3の動作音の低減、駆動機構のコスト低減を図ることが可能となる。
【0068】
以上のように、本実施の形態10においては、上記の実施の形態1と同様の効果が得られるとともに、さらに、偏向電磁石41の励磁電流を調整する事によって、荷電粒子ビーム2はX方向にスキャンされるとともに、被照射体6はベッド42によってY方向に移動可能なように構成されているので、レンジシフタ3の駆動音を低減させるとともに、軸方向の大きさが低減されることにより、照射装置全体の軸方向の大きさを小さくすることが可能である。
【0069】
実施の形態11.
また、スキャン照射装置上流に配置された偏向電磁石、又は、ビーム偏向手段を備えた、粒子線照射装置についても、階段状レンジシフタを用いる事が可能である。
【0070】
実施の形態12.
なお、上記の実施の形態1〜11においては、階段状のレンジシフタを用いる例について説明したが、階段状のレンジシフタを背中合わせに2つ結合させた山型のレンジシフタを用いても同様の効果を得ることができる。また、上記の実施の形態1〜11においては、駆動装置20は階段状のレンジシフタ3の最下段から最上段まで移動すると、駆動方向を逆向きに変更する必要があるが、本実施の形態においては、山型にレンジシフタを構成したので、最下段から最上段まで移動した後に、同一の駆動方向で、再び、最上段から最下段まで移動できるので、駆動装置20によるレンジシフタの駆動方向の変更回数を少なくすることができる。
【0071】
実施の形態13.
上記の実施の形態1〜11においては、位置モニタ4や線量モニタ5、および、位置測定用の信号電極40等により、荷電粒子ビーム2の照射位置を測定する例について説明した。本実施の形態においては、さらに、副線量モニタを配置する例について説明する。
【0072】
副線量モニタは、ライン型の線量モニタである。荷電粒子ビーム2の軌道は、図6や図14〜図16に示されるように、予め設定されたパターンに沿って移動する。そのため、本実施の形態においては、当該パターンに沿って、ライン型の副線量モニタを設置させる。これにより、ライン型の副線量モニタは、荷電粒子ビーム2のビーム照射点に常に一致するように配置される。当該構成において、主線量モニタである線量モニタ5の値と、本実施の形態におけるライン型の副線量モニタの値とを常時比較することにより、ビーム位置が正しく制御されていることをさらに精度高く確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施の形態1に係る粒子線照射装置の構成を示した構成図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る粒子線照射装置の構成を示した部分拡大構成図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係る粒子線照射装置の構成を示したブロック図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係る粒子線照射装置の構成を示した部分拡大斜視図である。
【図5】本発明の実施の形態1に係る粒子線照射装置の動作を示した流れ図である。
【図6】本発明の実施の形態1に係る粒子線照射装置の動作を示した説明図である。
【図7】本発明の実施の形態2に係る粒子線照射装置の構成を示した構成図である。
【図8】本発明の実施の形態3に係る粒子線照射装置の動作を示した説明図である。
【図9】本発明の実施の形態4に係る粒子線照射装置の動作を示した説明図である。
【図10】本発明の実施の形態5に係る粒子線照射装置の動作を示した説明図である。
【図11】本発明の実施の形態6に係る粒子線照射装置のレンジシフタの構成を示した拡大斜視図である。
【図12】本発明の実施の形態6に係る粒子線照射装置の動作を示した説明図である。
【図13】本発明の実施の形態6に係る粒子線照射装置の構成を示したブロック図である。
【図14】本発明の実施の形態7に係る粒子線照射装置の動作を示した説明図である。
【図15】本発明の実施の形態8に係る粒子線照射装置の動作を示した説明図である。
【図16】本発明の実施の形態8に係る粒子線照射装置の動作を示した説明図である。
【図17】本発明の実施の形態9に係る粒子線照射装置の構成を示した構成図である。
【図18】本発明の実施の形態9に係る粒子線照射装置の動作を示した説明図である。
【図19】本発明の実施の形態10に係る粒子線照射装置の構成を示した構成図である。
【図20】本発明の実施の形態1〜9に係る粒子線照射装置における偏向電磁石の全体の構成を示した説明図である。
【図21】本発明の実施の形態1〜9に係る粒子線照射装置における偏向電磁石の全体の構成を示した説明図である。
【符号の説明】
【0074】
1,1a,1b 偏向電磁石、2 荷電粒子ビーム、3 階段状レンジシフタ、4 位置モニタ、5 線量モニタ、6 被照射体、7 照射領域、9 ビーム軸、15 フレーム、16 ガイド、20 駆動装置、21 部材、25 レンジシフタ駆動制御装置、26 レンジシフタ位置読み取り装置、27 スキャン制御装置、40 ビーム位置測定用ストリップ電極(信号電極)、41 高圧電極。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被照射体に荷電粒子ビームを照射させるための粒子線照射装置であって、
荷電粒子ビームを偏向させて、前記被照射体の内部での平面方向の位置を制御するビーム位置変更手段と、
偏向された前記荷電粒子ビームを通過させることにより、前記被照射体の内部での深さ方向の位置を制御する階段状に構成されたレンジシフタと、
前記レンジシフタの各段と前記被照射体との間の相対位置を変化させるための駆動手段と
を備えたことを特徴とする粒子線照射装置。
【請求項2】
前記レンジシフタに、前記荷電粒子ビームの位置を測定するためのビーム位置測定用電極を設けたことを特徴とする請求項1に記載の粒子線照射装置。
【請求項3】
前記駆動手段は、前記レンジシフタを一定速度で移動させることを特徴とする請求項1または2に記載の粒子線照射装置。
【請求項4】
前記ビーム位置変更手段は、前記荷電粒子ビームを偏向させる偏向電磁石から構成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の粒子線照射装置。
【請求項5】
前記駆動手段は、前記被照射体を搭載するための移動可能に設けられた被照射体搭載手段から構成されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の粒子線照射装置。
【請求項1】
被照射体に荷電粒子ビームを照射させるための粒子線照射装置であって、
荷電粒子ビームを偏向させて、前記被照射体の内部での平面方向の位置を制御するビーム位置変更手段と、
偏向された前記荷電粒子ビームを通過させることにより、前記被照射体の内部での深さ方向の位置を制御する階段状に構成されたレンジシフタと、
前記レンジシフタの各段と前記被照射体との間の相対位置を変化させるための駆動手段と
を備えたことを特徴とする粒子線照射装置。
【請求項2】
前記レンジシフタに、前記荷電粒子ビームの位置を測定するためのビーム位置測定用電極を設けたことを特徴とする請求項1に記載の粒子線照射装置。
【請求項3】
前記駆動手段は、前記レンジシフタを一定速度で移動させることを特徴とする請求項1または2に記載の粒子線照射装置。
【請求項4】
前記ビーム位置変更手段は、前記荷電粒子ビームを偏向させる偏向電磁石から構成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の粒子線照射装置。
【請求項5】
前記駆動手段は、前記被照射体を搭載するための移動可能に設けられた被照射体搭載手段から構成されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の粒子線照射装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
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【図20】
【図21】
【公開番号】特開2006−34582(P2006−34582A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−218626(P2004−218626)
【出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成15年度、新エネルギー・産業技術総合開発機構、「粒子線がん治療装置におけるスポットスキャニング照射法の開発」助成事業、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成15年度、新エネルギー・産業技術総合開発機構、「粒子線がん治療装置におけるスポットスキャニング照射法の開発」助成事業、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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