説明

粗化箔及びその製造方法

【課題】圧延銅箔において粗化箔の表面粗度を低下させても、ピール強度の低下を抑えた粗化箔を提供する。
【解決手段】圧延銅箔と粗化銅めっき層との間に、表面が平坦になるように0.1μm以上0.4μm以下の下地銅めっき層を形成し非常に効率良く圧延銅箔の凹部を埋めることで、粗化箔の表面粗度を低下させても粗化粒子を均一に析出させ、ピール強度の低下を抑えた粗化箔を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板に用いられる圧延銅箔及びその製造方法に関し、特に、フレキシブルプリント基板用粗化箔及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話など電子機器に使われるフレキシブルプリント基板(FPC:Flexible Printed Circuits)は、樹脂基材に銅箔を貼りあわせ、フォトリソグラフィー法を用いて銅箔をエッチングして回路パターンを形成したものである。重要な性能の一つとして銅箔と樹脂基材の密着強度がある。
【0003】
銅箔と樹脂基材との密着性を向上させるためには、銅箔に粗化処理を施し表面粗度をあげることで、アンカー効果を大きくさせることが一般的な手法である。例えば粗化処理の電流値を上げるか、粗化処理を数段階に分けて施すなどをして、粗化粒子の粒径を大きくし表面積を拡大させている方法がある(特許文献1)。
【0004】
しかしながら近年は、電気機器の小型化により、そこに搭載されるFPCにおいても、銅配線の配線ピッチに対する微細化要求が強くなっている。そこで、特許文献1のように、単純に銅箔表面粗度を上げると、配線同士が通電してしまうなどの不具合が生じてしまうため、密着強度の低下を抑えたまま粗度を低減させる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−231514号公報
【特許文献2】特開2005−340635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、圧延銅箔には圧延時に発生する凹部が存在するため、粗化めっき時には凹部のエッジ部(凸状形状を有する)に電流が集中し粗化粒子が成長しやすく、一方凹部の底部には粗化粒子が成長しにくい傾向がある。従って、粗化箔の表面粗度を下げてしまうと、粗化粒子のばらつきができてしまい、このばらつきが粗化箔と樹脂基材とのピール強度の低下及び面内均一性の低下の要因となってしまう。
【0007】
ところで、特許文献2には、微細な凹凸を有する圧延銅箔表面に粗化処理を施す前に、1〜5μm厚の銅めっきをすることで圧延銅箔表面の凹凸の消去を行うことが提案されている。
【0008】
この提案によれば、銅めっきにより圧延銅箔表面の微細な凹部を埋めて均一化できるものの、圧延銅箔上に大きな凹部がある場合には、めっき処理を行っても凹部に均一にめっきが施されるだけで凹部は埋まらず、圧延銅箔表面を均一化できないという問題がある。
【0009】
さらに近年の銅箔の一層の薄層化の流れの中で、凹部を埋めるという目的だけのために1〜5μmの銅めっきを施すことは、コスト的にも生産効率上も大きなデメリットとなっていた。
【0010】
そこで、本発明の目的は、凹部を有する圧延銅箔において、非常に効率良く凹部を埋め、それ故に表面粗度を低下させても粗化粒子を均一に析出させることができ、結果としてピール強度の低下を抑えることのできる粗化箔及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成すべく請求項1の発明は、圧延銅箔上に、少なくとも粗化銅めっき層及び防錆処理層を順次形成してなる粗化箔において、前記圧延銅箔と前記粗化銅めっき層との間に下地銅めっき層が形成され、かつ、前記下地銅めっき層の粗化銅めっき層側の表面が平坦であり、さらに前記圧延銅箔の平坦部上の前記下地銅めっき層の厚さが0.1μm以上0.4μm以下であることを特徴とする粗化箔である。
【0012】
請求項2の発明は、前記粗化銅めっき層の粗化粒子の粒径が0.1μm以上1.0μm以下である請求項1に記載の粗化箔である。
【0013】
請求項3の発明は、圧延銅箔上に、少なくとも下地銅めっき層、粗化銅めっき層、及び防錆処理層を順次形成し、かつ前記下地銅めっき層の前記粗化銅めっき層側の表面を平坦とし、さらに前記圧延銅箔の平坦部上の前記下地銅めっき層の厚さを0.1μm以上0.4μm以下とする粗化箔の製造方法において、前記下地銅めっき層のめっき処理浴に添加剤を使用し、かつめっき時の電流密度(Dk)を4A/dm2以上20A/dm2以下とし、めっき時間5sec以上15sec以下、めっき湯温を25℃以上50℃以下とすることを特徴とする粗化箔の製造方法である。
【0014】
請求項4の発明は、前記添加剤は、ポリエチレングリコールを主とするめっき抑制剤、ビス(3−スルホプロピル)スルファイド2ナトリウムを主とする凹部めっき促進剤、レベリング剤、及び塩素イオンを含むHClもしくはNaClを含有することを特徴とする請求項3に記載の粗化箔の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、圧延銅箔と粗化銅めっき層との間に、圧延銅箔の凹部を埋めると共に表面が平坦に近い形状となるように下地銅めっき層を形成することで、粗化箔の表面粗度を低下させても粗化粒子を均一に析出させ、ピール強度の低下を抑えた粗化箔を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施の形態を示す粗化箔の断面模式図である。
【図2】本発明の実施例及び比較例で得られた粗化箔のピール強度を示す図である。
【図3】本発明の実施例2及び比較例1で得られた粗化箔を走査型電子顕微鏡で観察した表面形状像である。
【図4】本発明に使用する凹部へのめっきを促進する添加剤の濃度と、ピール強度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0018】
図1に示すように、本発明の粗化箔Sは、圧延銅箔1の平坦部1a及び凹部1bを有する面上に、その凹部1bを埋めるとともに表面を平坦に近い形状にする下地銅めっき層2を形成し、さらに下地銅めっき層2の上面に粗化銅めっき層3を形成し、さらに粗化銅めっき層3の上面に防錆処理層4を形成してなるものである。
【0019】
圧延銅箔1は、銅または銅合金の板を一対の圧延ロールで圧延して、厚さ6〜18μm程度に形成される。この圧延銅箔1の表面には、圧延ロールに起因する平坦部1aと凹部1bとが存在する。この凹部1bは、平坦部1a上に形成される後述の下地銅めっき層2の厚さより充分深く形成されている。
【0020】
圧延銅箔1上には、凹部1bを埋めて表面を平坦に近い形状にする下地銅めっき層2が形成される。この下地銅めっき層2が形成される前に、あらかじめ圧延銅箔1に脱脂、酸洗の処理を施す。脱脂、酸洗の処理は、例えば、水酸化ナトリウム等のアルカリ溶液で陰極電解脱脂した後、硫酸などにより酸洗することで行う。
【0021】
下地銅めっき層2の形成は、硫酸性の銅電解液に各種添加剤を加えためっき浴で行う。めっき浴に加える添加剤は、圧延銅箔1の表面全体のめっきを抑制するめっき抑制剤と、凹部1bのめっきを促進する凹部めっき促進剤と、凹部1bのエッジ部(凸状形状を有する)に吸収しやすくめっきを抑制し表面形状を整えるレベリング剤とを含むものである。この凹部めっき促進剤の働きにより圧延銅箔1の凹部1bが優先的にめっきで埋められ、また、めっき抑制剤とレベリング剤の働きにより下地銅めっき層2の表面は平坦に近い形状に、かつ、平坦部1a上のめっき厚を従来より薄く形成できる。
【0022】
この下地銅めっき層2のめっき厚は、圧延銅箔1の平坦部1a上で0.1μm以上0.4μm以下であることが好ましい。前記めっき厚が0.1μm未満では、凹部1bへのめっき形成を充分に行うことができない可能性がある。また、前記めっき厚が0.4μmを超えると、圧延銅箔の特長である高屈曲特性(屈曲性に優れる特性)を低下させてしまう。
【0023】
下地銅めっき層2を形成する際のめっき浴は、硫酸銅(CuSO4)、硫酸(H2SO4)、ポリエチレングリコール(PEG)を主とするめっき抑制剤、ビス(3−スルホプロピル)スルファイド2ナトリウム(SPS)を主とする凹部めっき促進剤、レベリング剤、塩素イオン(Cl-)を含む添加剤から構成される。
【0024】
より具体的には、前記PEGを主とするめっき抑制剤は、市販のフレキシブル基板用抑制剤を2mL/L以上8mL/L以下、好ましくは2mL/L以上6mL/L以下、前記SPSを主とする凹部めっき促進剤は、市販のフレキシブル基板用促進剤を1mL/L以上20mL/L以下、好ましくは2mL/L以上10mL/L以下、前記レベリング剤は1mL/L以上20mL/L以下、好ましくは3mL/L以上10mL/L以下、前記塩素イオン(Cl-)を含む添加剤は30ppm以上100ppm以下、好ましくは30ppm以上80ppm以下の塩素イオン(Cl-)濃度であるHClもしくはNaClを使用する。
【0025】
めっき処理の電解条件として、電流密度は4A/dm2以上20A/dm2以下、めっき時間は5sec以上15sec以下、めっき液温は、25℃以上50℃以下であることが好ましい。
【0026】
下地銅めっき層2の形成後、粗化処理を行い、粗化銅めっき層3を形成する。粗化銅めっき層3の表面に形成される粗化粒子の粒径は0.1〜1.0μmが好ましく、これによって、図示しない樹脂基材へのアンカー効果を高めることができる。粗化処理は、例えばCuSO4溶液中で、限界電流値以上のいわゆるヤケめっきをすることで行う。粗化処理方法はこれに限るものではなく、公知の技術を用いて行うことができる。
【0027】
粗化銅めっき層3の形成後、防錆処理を行い、その上面に防錆処理層4を形成する。防錆処理は、公知の防錆処理方法を採用し、粗化箔の使用条件や貼り合わせる樹脂基材の種類等を考慮し、最適な方法を選択することができる。例えば、ニッケルあるいはニッケル合金めっき、亜鉛めっき、クロメート処理を順に施すと、銅の熱拡散防止や、耐熱性、耐薬品性等の向上を図ることができる。さらに、これらの層の上にシランカップリング層を形成することも好適に行われる。
【0028】
以上の工程により、粗化箔Sが製造される。
【実施例】
【0029】
以下、本発明の実施例及び比較例を説明する。
【0030】
(実施例1)
10.5μm厚の圧延銅箔に、脱脂処理及び酸洗処理を施した。
【0031】
その後、下地銅めっき処理を、CuSO4、H2SO4、添加剤として市販のフレキシブル基板用抑制剤を4mL/L、市販のフレキシブル基板用促進剤を5mL/L、市販のフレキシブル基板用レベリング剤を5mL/L、HCl:0.125mL/L(Cl-濃度:50ppm)からなるめっき浴で、電流密度:9A/dm2、めっき時間:7sec、めっき液温:40℃で行った。
【0032】
次に、粗化処理、及び防錆処理を施し粗化箔を完成させた。
【0033】
(実施例2)
実施例1の下地銅めっき処理時のめっき浴の添加剤の条件を、上記フレキシブル基板用抑制剤を4mL/L、上記フレキシブル基板用促進剤を6mL/L、上記フレキシブル基板用レベリング剤を4mL/L、HCl:0.150mL/L(Cl-濃度:60ppm)と変更し、下地銅めっき処理した後、粗化処理、及び防錆処理を施し粗化箔を完成させた。
【0034】
(比較例1)
下地銅めっき処理浴の条件をCuSO4とH2SO4とし、添加剤を使用しないで下地銅めっき処理した後、粗化処理、及び防錆処理を施し粗化箔を完成させた。
【0035】
以上より得られた、実施例1及び実施例2と、比較例1の粗化箔のピール強度を図2に示した。
【0036】
図2から、実施例1及び実施例2のように下地銅めっき液に添加剤を適用させた方が、比較例1のように添加剤を加えなかったときよりピール強度は向上することが分かる。
【0037】
次に、実施例2と比較例1で得られた粗化箔を走査型電子顕微鏡で観察した粗化箔表面外観像を図3に示した。
【0038】
図3から、添加剤を適用させた粗化箔の方が粗化粒子が均一に析出していることがわかる。特に図示しないが、実施例1でも添加剤を加えているため、実施例2と同様に粗化粒子が均一に析出した。
【0039】
また、実施例2においてフレキシブル基板用促進剤の濃度のみを変化させたときの本促進剤とピール強度との関係を図4に示した。
【0040】
図4から、本促進剤の濃度が2mL/L未満ではピール強度が低下することが分かる。これは、添加剤本促進剤の濃度が2mL/L未満では、圧延銅箔の凹部への下地銅めっき層の形成が促進されず、めっき層表面上に、圧延銅箔表面凹部に起因する凹凸が残るためである。また、本促進剤の濃度が10mL/Lより高い場合には、銅箔の形状が大きく変わってしまい(反ってしまい)、量産性が無いことが分かった。銅箔形状が変わると生産中に銅箔が切れてしまったり、顧客先で樹脂基材に貼り付けるときに不具合が起きてしまう。
【0041】
添加剤あり、なしの下地銅めっき液を用いてそれぞれ同条件で粗化箔を製造すると、銅箔表面(樹脂基材との接着側)の色が異なる。添加剤ありの方がなしと比べ赤みが増し全体的に暗い色になる。測色計による色調としては、a*値が5程度増加し、明度を示すL*値が10程度減少する。
【0042】
添加剤あり、なしの下地銅めっき液を用いてそれぞれ同条件で粗化箔を製造した場合、添加剤ありの方は粗化粒子の均一性が高い粗化箔ができ、添加剤なしの方は粗化粒子の大きさが疎ら、もしくは部分的に粗化が施されていない「粗化抜け」が見られた。つまり、添加剤ありの方が粗化箔の表面積が大きいことから、アンカー効果が大きく働きピール強度が向上した。ここでいうピール強度の試験方法は、ポリイミドワニスをキャスト方式で粗化箔と貼り合わせ、速度50mm/min、90°に引き剥がした強度をいう。
【0043】
以上の結果より、本発明の粗化箔は、粗化粒子の均一性が高く、ピール強度の低下を抑えたものであった。
【符号の説明】
【0044】
S 粗化箔
1 圧延銅箔
1a 平坦部
1b 凹部
2 下地銅めっき層
3 粗化銅めっき層
4 防錆処理層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延銅箔上に、少なくとも粗化銅めっき層及び防錆処理層を順次形成してなる粗化箔において、前記圧延銅箔と前記粗化銅めっき層との間に下地銅めっき層が形成され、かつ、前記下地銅めっき層の粗化銅めっき層側の表面が平坦であり、さらに前記圧延銅箔の平坦部上の前記下地銅めっき層の厚さが0.1μm以上0.4μm以下であることを特徴とする粗化箔。
【請求項2】
前記粗化銅めっき層の粗化粒子の粒径が0.1μm以上1.0μm以下である請求項1に記載の粗化箔。
【請求項3】
圧延銅箔上に、少なくとも下地銅めっき層、粗化銅めっき層、及び防錆処理層を順次形成し、かつ前記下地銅めっき層の前記粗化銅めっき層側の表面を平坦とし、さらに前記圧延銅箔の平坦部上の前記下地銅めっき層の厚さを0.1μm以上0.4μm以下とする粗化箔の製造方法において、前記下地銅めっき層のめっき処理浴に添加剤を使用し、かつめっき時の電流密度(Dk)を4A/dm2以上20A/dm2以下とし、めっき時間5sec以上15sec以下、めっき湯温を25℃以上50℃以下とすることを特徴とする粗化箔の製造方法。
【請求項4】
前記添加剤は、ポリエチレングリコールを主とするめっき抑制剤、ビス(3−スルホプロピル)スルファイド2ナトリウムを主とする凹部めっき促進剤、レベリング剤、及び塩素イオンを含むHClもしくはNaClを含有することを特徴とする請求項3に記載の粗化箔の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−179053(P2011−179053A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43069(P2010−43069)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】