説明

粘土を主成分とするフレキシブル蛍光フィルム

【課題】本発明は、優れた透明性、熱的安定性、柔軟性を有する粘土マトリックス中において、半導体ナノ粒子が安定的に高い発効効率を保持し、かつ高濃度、高分散化できる蛍光体、当該蛍光フィルムを用いた高輝度の表示素子や照明などの光電子デバイスを提供する。
【解決手段】粘土膜を主成分とするフレキシブル蛍光フィルムであって、半導体ナノ粒子が、透明で柔軟な粘土膜中に分散してなることからなる蛍光フィルム、半導体ナノ粒子が粘土膜中に濃度10−6モル/リットル以上で高分散してなり、蛍光フィルムの厚さが、10μm以上200μm以下であり、粘土膜が、粘土のみを含む、あるいは粘土及び添加物を含む、フレキシブル蛍光フィルム、及びその発光デバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘土を主成分とするフレキシブル蛍光フィルムに関するものであり、更に詳しくは、半導体ナノ粒子が粘土膜中に分散したフレキシブル蛍光フィルム及びその製造方法に関するものである。本発明は、優れた耐熱性、ガスバリア性、透明性、フレキシブル性を具備した粘土薄膜をマトリックスとして用いた、照明、ディスプレイなどの光電子デバイス用のフレキシブル蛍光体として有用な蛍光フィルム、その製造方法及び蛍光デバイスを提供するものである。
【背景技術】
【0002】
蛍光体は、今日、照明やディスプレイなどの光電子デバイスにおいて欠かすことのできない重要な材料となっている。従来、遷移金属あるいは希土類元素イオンを添加した硫化物粉体を無機あるいは有機マトリックス中に分散させた蛍光体が用いられてきた。しかし、近年の光電子デバイスの高性能化、フレキシブル化への要求から、新しいコンセプトに基づいた蛍光体の製造が望まれている。
【0003】
近年、粒径が10nm以下の半導体ナノ粒子が、量子サイズ効果により高い発光効率を示すことが見出されている。この半導体ナノ粒子としては、セレン化カドミウム、テルル化カドミウム、硫化カドミウム、硫化亜鉛等のII−VI族の化合物の半導体が代表的なものである。これらの半導体ナノ粒子は、粒径によって電子のエネルギー状態が変化し、紫外領域から赤外領域まで自在に発光色をコントロールでき、また、発光の減衰時間が短いため、応答性が高いことから、新しいタイプの蛍光材料として注目されている。
【0004】
このような半導体ナノ粒子は、粒径が小さいために、表面積が大きい。表面には、多数の欠陥があり、発光効率低下の原因となる。そのため、半導体ナノ粒子表面をチオールなどの硫黄を含む有機界面活性剤や硫化亜鉛などのコーティングにより、不活性処理を施す必要がある。表面修飾した半導体ナノ粒子は、水溶液中で界面活性剤を用いて合成する方法と、非水溶液中で有機金属化合物を注入して合成する方法が開発されている。
【0005】
しかし、溶液中で合成された半導体ナノ粒子は、溶液のままでは不安定であり、工業的応用には不向きであった。そのため、半導体ナノ粒子を透明な有機高分子に分散固定する方法が報告されている。先行文献では、半導体ナノ粒子を有機高分子中に分散した蛍光体に関するものが提案されている(例えば、非特許文献1〜3)。
【0006】
しかしながら、有機高分子中での半導体ナノ粒子の分散性が悪く、半導体ナノ粒子の凝集による発光効率の低下により、高効率の蛍光体は得られていない。より高輝度の発光デバイスを得るためには、より高濃度で、マトリックス中に凝集することなく、均一に分散している必要がある。
【0007】
また、マトリックスとして用いる有機高分子は、耐光性、耐熱性、耐薬品性などが不十分であり、しかも水や酸素を少しずつ透過させるので、固定化されたナノ粒子が徐々に劣化するという問題もあった。そのため、ガスバリア性及びフレキシブル性に優れた無機マトリックス中に分散された蛍光体が必要となっている。
【0008】
このような高分子の欠点を克服するために、ゾルゲル法あるいはレイヤーバイレイヤー法を用いて、ガラスマトリックス中に半導体ナノ粒子を分散させる方法が報告されている。例えば、先行文献には、金属アルコキシドを用いたゾルゲル法により、ガラスマトリックス中に蛍光発光効率が25%以上の半導体ナノ粒子が10−5モル/リットル以上の濃度で分散してなる蛍光体が記載されている(特許文献1参照)。
【0009】
また、先行文献には、レイヤーバイレイヤー法により、オルガノアルコシシランと界面活性剤を含む半導体ナノ粒子の水溶液を用いて、ガラス基板上に蛍光発光効率が25%以上の半導体ナノ粒子が5×10−4モル/リットル以上の濃度で分散してなる薄膜蛍光体が記載されている(特許文献2参照)。しかし、上記の方法により製造される蛍光体は、製造工程が複雑であり、また、ガラスマトリックスであるため、フレキシビリティーが発現できないという問題がある。
【0010】
一方、粘土膜は、優れたフレキシビリティーを有し、粘土粒子が層状に緻密に積層している構造を有しているので、気体バリア性に優れた材料である(特許文献3参照)。また、粘土膜は、大部分が無機物で構成されているために、高い耐熱性を有する。粘土膜を作製する手法として、例えば、次のような方法がある。特に、透明性の高い無機層状化合物と、少量の透明性の高い水可溶性の高分子を、水あるいは水を主成分とする液に分散させ、ダマを含まない均一な分散液を得た後、この分散液を、表面が平坦で表面が撥水性の支持体に塗布し、無機層状化合物粒子を沈積させる。
【0011】
次に、分散媒である液体を種々の固液分離方法、例えば、遠心分離、ろ過、真空乾燥、凍結真空乾燥又は加熱蒸発法などで分離し、膜状に成形した後、これを必要に応じ、乾燥・加熱・冷却するなどの方法により支持体から剥離することにより、無機層状化合物粒子が配向し、透明性が高く、柔軟性に優れ、ガスバリア性に優れ、耐熱性も高い無機層状化合物膜が得られる(特許文献4参照)。
【0012】
【特許文献1】特開2006−335873号公報
【特許文献2】特開2006−282977号公報
【特許文献3】特開2005−104133号公報
【特許文献4】特開2005−313604号公報
【非特許文献1】Jinwook Leeら、Advanced Materials、Vol.12、pp.1102−1105、2000
【非特許文献2】Hao Zhangら、Advanced Materials、Vol.15、pp.777−780、2003
【非特許文献3】Caroline Woelfeら、Nanotechnology、Vol.18、pp.025402−025410、2007
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、半導体ナノ粒子が粘土膜中に高濃度で分散してなる、透明で、柔軟な蛍光フィルムを開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、上記したような、優れた耐熱性、ガスバリア性、透明性、フレキシブル性を有する粘土薄膜を用いることにより、照明、ディスプレイなどの光電子デバイス用のフレキシブル蛍光体として、半導体ナノ粒子が粘土膜中に濃度10−6モル/リットル以上で分散してなるフレキシブル蛍光フィルムを作製することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明は、粘土膜にこれらの特性を付与し、照明、ディスプレイなどの光電子デバイス用のフレキシブル蛍光体として利用が可能な、粘土膜中に半導体ナノ粒子を分散したフレキシブル蛍光フィルムを提供することを目的とするものである。また、本発明は、該フレキシブル蛍光フィルムからなる蛍光デバイスを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)粘土膜を主成分とするフレキシブル蛍光フィルムであって、半導体ナノ粒子が、透明で柔軟な粘土膜中に分散してなることを特徴とする蛍光フィルム。
(2)半導体ナノ粒子が粘土膜中に少なくとも濃度10−6モル/リットル以上の高濃度で分散してなる、前記(1)に記載の蛍光フィルム。
(3)蛍光フィルムの厚さが、10μm以上200μm以下である、前記(1)又は(2)に記載の蛍光フィルム。
(4)半導体ナノ粒子が、セレン化カドミウム、セレン化テルル、セレン化亜鉛、硫化カドミウム、テルル化カドミウム、又は硫化亜鉛である、前記(1)又は(2)に記載の蛍光フィルム。
(5)粘土膜が、粘土のみを含む、あるいは粘土及び添加物を含む、前記(1)又は(2)に記載の蛍光フィルム。
(6)粘土膜の粘土が、マイカ、サポナイト、モンモリロナイト、スティーブンサイト、バーミキュライト、バイデライト、及びヘクトライトの中から選択された1種以上である、前記(1)、(2)又は(5)に記載の蛍光フィルム。
(7)粘土膜の粘土が、水分散性あるいは有機溶剤分散性である、前記(1)、(2)、(5)又は(6)に記載の蛍光フィルム。
(8)添加物が、ポリアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリイミド、又はポリアミドである、前記(5)に記載の蛍光フィルム。
(9)粘土含有量が、少なくとも70重量パーセント以上である、前記(1)から(8)のいずれかに記載の蛍光フィルム。
(10)前記(1)から(9)のいずれかに記載の蛍光フィルムからなることを特徴とする発光デバイス。
【0016】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、粘土膜を主成分とするフレキシブル蛍光フィルムであって、半導体ナノ粒子が透明で柔軟な粘土膜中に分散してなることを特徴とするものである。本発明は、半導体ナノ粒子が粘土膜中に高濃度で分散してなる蛍光フィルムであって、高透明性及び柔軟性を有することを特徴とするものである。具体的には、発光効率の高い蛍光性半導体ナノ粒子の表面を界面活性剤により処理することで、水溶液中で安定化し、粘土粒子の表面電荷を利用して、粘土膜中に高濃度に半導体ナノ粒子を分散させるものである。
【0017】
半導体ナノ粒子としては、有機溶媒分散性を有する蛍光性半導体ナノ粒子が好適に用いられる。具体的には、直接遷移を示すII−VI族の化合物の半導体であって、可視光で発光するものが挙げられる。例えば、セレン化カドミウム、セレン化テルル、セレン化亜鉛、テルル化カドミウム、テルル化亜鉛、硫化カドミウムなどが例示されるが、好ましくは、セレン化カドミウムが例示される。本発明では、半導体ナノ粒子であれば種類に制限されることなく使用することができる。
【0018】
半導体ナノ粒子の製造は、公知の文献に従って実施することが可能である。例えば、II族を含む水溶性化合物及び界面活性剤を溶解したアルカリ性水溶液中に、不活性雰囲気下において、VI族の化合物を導入することによって、II−VI族の化合物の半導体を得ることができる。この場合、例えば、上記II族を含む水溶性化合物としては、過塩素酸カドミウムなどを、また、VI族の化合物としては、テル化水素などを用いることができる。また、上記不活性雰囲気としては、例えば、アルゴン、窒素ガス、ヘリウムガス等の不活性ガス雰囲気が用いられる。
【0019】
界面活性剤としては、疎水基であるチオール基と親水基を有するものが好ましい。親水基としては、カルボキシル基などのアニオン性基、アミノ基などのカチオン性基、水酸基などを例示できるが、特に、カルボキシル基などのアニオン性基が好ましい。この界面活性剤の具体例としては、メルカプト酢酸、チオグリコール酸、チオグリセロール等を例示できる。しかし、界面活性剤は、これらに制限されるものではなく、これらと同効のものであれば同様に使用することができる。
【0020】
本発明でいう粘土薄膜とは、粘土粒子が配向して積層した構造を有する膜厚10〜2000μmの膜状物であって、層間に陽イオンを含む主成分の粘土の割合が全体の50〜100重量%、好適には、70重量%以上であるガスバリア性に優れた、フレキシブル性を持ち合わせたものであり、公知の方法によって作製することができる。
【0021】
例えば、次のような方法によって得ることができる。(1)粘土又は粘土と添加剤を、水、有機溶剤、又は水と有機溶剤との混合溶媒よりなる分散媒に分散させ、均一な粘土分散液を調製する、(2)この分散液を静置し、粘土粒子を沈積させるとともに、分散媒である液体成分を固液分離手段で分離して粘土薄膜を形成する、(3)更に、任意に、60〜300℃の温度条件化で乾燥し、自立膜として得る。
【0022】
粘土としては、天然あるいは合成物、好適には、例えば、マイカ、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、及びノントライトのうち1種以上、更に好適には、天然スメクタイト、及び合成スメクタイトの何れか、又はそれらの混合物が例示される。また、粘土を有機化して疎水性にすることができる。粘土を有機化する方法としては、イオン交換により、粘土鉱物の層間に有機化剤を導入する方法が挙げられる。
【0023】
例えば、有機化剤として、ジメリルジステアリルアンモニウム塩やトリメチルステアリルアンモニウム塩などの第4級アンモニウム塩や、ベンジル基やポリオキシエチレン基を有するアンモニウム塩を用いたり、フォスフォニウム塩やイミダゾリウム塩を用い、粘土のイオン交換性、例えば、モンモリロナイトの陽イオン交換性を利用して有機化することができる。
【0024】
添加剤としては、特に限定されるものではないが、好適には、例えば、イプシロンカプロラクタム、デキストリン、澱粉、セルロース系樹脂、ゼラチン、寒天、小麦粉、グルテン、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニル樹脂、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアマイド、ポリエチレンオキサイド、タンパク質、デオキシリボヌクレイン酸、リボヌクレイン酸、ポリアミノ酸、多価フェノール、安息香酸類などがあげられる。
【0025】
粘土は、水分散性あるいは有機溶剤分散性である。上記粘土分散液は、水性分散液でも良いが、粘土を有機化して疎水性にし、その有機化された粘土を有機溶剤に分散した有機溶剤系粘土分散液としても好適に用いることができる。この有機化により、粘土の有機溶剤への分散が容易になる。粘土薄膜の厚さは、粘土分散液の固液比や粘土粒子を沈積させる条件などによって、任意の厚さに制御できる。本発明で用いる粘土の粘土含有量は、70重量%以上である。
【0026】
本発明の粘土薄膜基板に用いる粘土薄膜は、膜厚10〜2000μmの範囲のものである。10μmより薄いと、膜の強度が弱くなり、安定した自立膜を得ることが困難となる。また、2000μmを超えると、膜が曲がりにくくなり、十分なフレキシブル性を発揮できなくなる。特に好ましい膜厚は25〜200μmである。粘土薄膜基板をディスプレイに用いるためには、透明性も重要な特性の1つである。透明性を向上させるためには、不純物の少ない合成粘土鉱物を用いて粘土薄膜を形成することが望ましい。
【0027】
本発明の蛍光フィルムの作製方法では、まず、親油性ナノ粒子の表面を、親水性の有機分子を用いて表面処理を行う。具体的には、例えば、トルエンなどの溶媒中に分散した半導体ナノ粒子の溶液にメルカプト酢酸やメルカプトプロピオン酸のアルコール溶液をナノ粒子が沈殿するまで加え、得られた懸濁液を撹拌した後、水を加え、ナノ粒子を水中に抽出する。水中に分散したナノ粒子の水溶液に、pH調整、遠心分離処理、を施し、ナノ粒子が分散した透明な水溶液を調製する。
【0028】
一方、粘土の分散液を作製するために、例えば、天然又は合成スメクタイトに、水を加え、振とうし、均一な分散液を調製し、この分散液に、適宜、添加物を加え、振とうし、粘土及び添加物を含む均一な粘土分散液を作製する。次に、上記粘土分散液とナノ粒子分散水溶液を混合、撹拌し、この混合液の脱気処理を行った後、該混合液をトレイに塗布し、均一厚の粘土ペースト膜を成型、作製する。これを、例えば、60℃前後の温度条件下で乾燥し、均一の厚さの粘土薄膜とすることにより、透明度の高い、自立した、フレキシブルな粘土膜が得られる。
【0029】
上記により作製した蛍光フィルムは、非常に高い発光効率を示す。本発明では、例えば、2〜5nmの粒径の異なるナノ粒子を用いることにより、発光色の異なる蛍光フィルムを作製することができる。例えば、セレン化カドミウム粒子では、粒径が2.4nmで緑色、4.0nmで橙色、5.2nmで赤色の発光色が得られる。本発明の蛍光フィルムは、輝度が高く、単一波長の光源で様々な発色光を示し、適当な粒径の半導体ナノ粒子を組み合わせることで、白色照明光が得られる。本発明により、各種発光フィルムを用いて作製した発光デバイスを作製し、提供することが可能である。
【発明の効果】
【0030】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)本発明により、優れた透明性、フレキシブル性を有する蛍光フィルムを提供することができる。
(2)本発明の蛍光フィルムは、粘土膜中に半導体ナノ粒子が高濃度に分散され、該半導体ナノ粒子は、高い発光効率を保持している。
(3)本発明の蛍光フィルムは、単一波長の光照射で様々な発色光を示し、適当な粒径の半導体ナノ粒子を組み合わせることで白色照明光とすることができる。
(4)本発明により、優れた耐熱性、ガスバリア性、透明性、フレキシブル性を有する粘土薄膜を用いたフレキシブル蛍光体を提供することができる。
(5)上記フレキシブル蛍光体を用いた蛍光デバイスを作製し、提供することができる。
(6)このような蛍光フィルムは、従来の蛍光材料に替えて、高輝度の照明やディスプレイなどの光電子デバイスとして好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
次に、製造例及び実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例等によって何ら限定されるものではない。
【0032】
製造例1
(1)無機層状化合物薄膜の製造
粘土として、0.9グラムの合成サポナイトである「スメクトン」(クニミネ工業株式会社製)を、100cmの蒸留水に加え、プラスチック製密封容器に、テフロン(登録商標)回転子とともに入れ、25℃で2時間激しく振とうし、均一な分散液を得た。この分散液に、添加物として、市販のカルボキシメチルセルロースナトリウム塩を0.1グラム加え、激しく振とうし、合成サポナイト及びカルボキシメチルセルロースナトリウム塩を含む均一な分散液を調製した。
【0033】
次に、真空脱泡装置により、この粘土ペーストの脱気を行った。この粘土ペーストを、表面が平坦なポリプロピレン製トレイに塗布した。塗布には、ステンレス製地べらを用いた。スペーサーをガイドとして利用し、均一厚の粘土ペースト膜を成型した。このトレイを強制送風式オーブン中において、60℃の温度条件下で1時間乾燥することにより、厚さ約10マイクロメートルの均一な添加物複合粘土薄膜を得た。生成した粘土膜をトレイから剥離して、透明度の高い、自立した、フレキシビリティーに優れた膜(TPSACMC10−10)を得た。
【0034】
(2)無機層状化合物薄膜の特性
TPSACMC10−10を半径6ミリメートルに曲げてもクラックなどが発生せず、何らの欠陥も生じなかった。可視紫外分光光度計により測定された、この膜の波長500ナノメートルにおける透過率は81.7パーセントであった。この膜のJIS K7105:1981「プラスチックの光学的特性試験方法」に基づく全光線透過率は91.5パーセントであり、ヘーズ(曇値)は14.2パーセントであった。この膜の酸素の透過係数を、日本分光株式会社製Gasperm−100で測定した。その結果、室温における酸素ガスの透過係数が、0.148cc/m・24hr・atmであり、ガスバリア性能を示すことが確認された。
【0035】
製造例2
(無機層状化合物薄膜の製造)
粘土として、0.9グラムの合成サポナイトである「スメクトン」(クニミネ工業株式会社製)を、100cmの蒸留水に加え、プラスチック製密封容器に、テフロン(登録商標)回転子とともに入れ、25℃で2時間激しく振とうし、均一な分散液を得た。この分散液に、添加物として、市販のポリ酢酸ビニルを0.1グラム加え、激しく振とうし、合成サポナイト及びポリ酢酸ビニルを含む均一な分散液を調製した。
【0036】
次に、真空脱泡装置により、この粘土ペーストの脱気を行った。この粘土ペーストを、表面が平坦なポリプロピレン製トレイに塗布した。塗布には、ステンレス製地べらを用いた。スペーサーをガイドとして利用し、均一厚の粘土ペースト膜を成型した。このトレイを強制送風式オーブン中において、60℃の温度条件下で1時間乾燥することにより、厚さ約10マイクロメートルの均一な添加物複合粘土薄膜を得た。生成した粘土膜をトレイから剥離して、透明度の高い、自立した、フレキシビリティーに優れた膜を得た。
【0037】
製造例3
(1)無機層状化合物薄膜の製造
粘土として、0.9グラムの天然スメクタイトである「クニピアP」(クニミネ工業株式会社製)を、100cmの蒸留水に加え、プラスチック製密封容器に、テフロン(登録商標)回転子とともに入れ、25℃で2時間激しく振とうし、均一な分散液を得た。この分散液に、添加物として、市販のイプシロンカプロラクタムを0.1グラム加え、激しく振とうし、天然スメクタイト及びイプシロンカプロラクタムを含む均一な分散液を調製した。
【0038】
次に、真空脱泡装置により、この粘土ペーストの脱気を行った。この粘土ペーストを、真鍮板に塗布した。塗布には、ステンレス製地べらを用いた。スペーサーをガイドとして利用し、均一厚の粘土ペースト膜を成型した。このトレイを強制送風式オーブン中において、60℃の温度条件下で1時間乾燥することにより、厚さ約10マイクロメートルの均一な添加物複合粘土薄膜を得た。生成した粘土膜をトレイから剥離して、自立した、フレキシビリティーに優れた膜を得た。可視紫外分光光度計により測定された、この膜の波長500ナノメートルにおける光透過率は13.1パーセントであった。
【0039】
(2)無機層状化合物薄膜の特性
この膜を半径6ミリメートルに曲げてもクラックなどが発生せず、何らの欠陥も生じなかった。この膜のJIS K7105:1981「プラスチックの光学的特性試験方法」に基づく全光線透過率は86.9パーセントであり、ヘーズ(曇値)は78.2パーセントであった。
【0040】
製造例4
(1)無機層状化合物薄膜の製造
粘土として、0.9グラムの合成サポナイトである「スメクトン」(クニミネ工業株式会社製)を、100cmの蒸留水に加え、プラスチック製密封容器に、テフロン(登録商標)回転子とともに入れ、25℃で2時間激しく振とうし、均一な分散液を得た。この分散液に、添加物として、市販のポリアクリル酸ナトリウムを0.1グラム加え、激しく振とうし、合成サポナイト及びポリアクリル酸ナトリウムを含む均一な分散液を調製した。
【0041】
次に、真空脱泡装置により、この粘土ペーストの脱気を行った。この粘土ペーストを、フッ素樹脂シートを底面に敷いた容器に流し入れ、均一厚の粘土ペースト膜を成型した。このトレイを強制送風式オーブン中において、60℃の温度条件下で24時間乾燥することにより、厚さ約100マイクロメートルの均一な添加物複合粘土薄膜を得た。生成した粘土膜をフッ素樹脂シートから剥離して、自立した、フレキシビリティーに優れた膜を得た。
【0042】
(2)無機層状化合物薄膜の特性
この膜を半径2ミリメートルに曲げてもクラックなどが発生せず、何らの欠陥も生じなかった。可視紫外分光光度計により測定された、この膜の波長500ナノメートルにおける光透過率は90.3パーセントであった。また、この膜の示差熱分析(昇温速度5℃/分、空気雰囲気下)から、室温から120℃までに、吸着水の脱水による重量減少が観察され、粘土薄膜中のポリアクリル酸ナトリウムの熱分解温度は466℃であった。また、200℃から550℃の温度範囲における乾燥固体基準の重量減少は8.2パーセントであった。測定範囲を1マイクロメートル平方とした原子間力顕微鏡で測定した、乾燥時大気側に面した側の平均表面粗さは4.4ナノメートルであった。
【0043】
製造例5
(1)無機層状化合物薄膜の製造
粘土として、0.8グラムの合成サポナイトである「スメクトン」(クニミネ工業株式会社製)を、100cmの蒸留水に加え、プラスチック製密封容器に、テフロン(登録商標)回転子とともに入れ、25℃で2時間激しく振とうし、均一な分散液を得た。この分散液に、添加物として、市販のポリアクリル酸ナトリウムを0.2グラム加え、激しく振とうし、合成サポナイト及びポリアクリル酸ナトリウムを含む均一な分散液を調製した。
【0044】
次に、真空脱泡装置により、この粘土ペーストの脱気を行った。この粘土ペーストを、フッ素樹脂シートを底面に敷いた容器に流し入れ、均一厚の粘土ペースト膜を成型した。このトレイを強制送風式オーブン中において、60℃の温度条件下で24時間乾燥することにより、厚さ約10マイクロメートルの均一な添加物複合粘土薄膜を得た。生成した粘土膜をフッ素樹脂シートから剥離して、自立した、フレキシビリティーに優れた膜を得た。
【0045】
(2)無機層状化合物薄膜の特性
この膜の波長500ナノメートルにおける光透過率は90.3パーセントであった。また、この膜を300℃、1時間熱処理した後における波長500ナノメートルにおける光透過率は89.3パーセントであった。
【実施例1】
【0046】
本実施例では、透明粘土膜をマトリックスとする半導体ナノ粒子分散蛍光フィルムを作製した。
(1)半導体ナノ粒子の表面処理
図1に、本発明に係るフレキシブル蛍光フィルムの作製工程を示す。本実施例では、まず、親油性ナノ粒子の表面を、親水性の有機分子を用いて表面処理を行った。トルエン中に分散したCdSe/ZnSナノ粒子(直径約3nm、NN−Labs社製)の1ミリリットル溶液に、2モルのメルカプト酢酸メターノール溶液をナノ粒子が沈殿するまで加えた。得られた懸濁液を2時間撹拌した後に、1ミリリットルの水を加え、ナノ粒子を水中に抽出した。水中に分散したナノ粒子の約1ミリリットル水溶液に、1規定水酸化ナトリウム水溶液を加えて、pHの調整を行った。更に、10分間の遠心分離後、CdSe/ZnSナノ粒子が分散した透明な水溶液を得た。
【0047】
(2)粘土分散液の作製
次に、粘土の分散液の作製を行った。粘土として、0.9グラムの合成サポナイトである「スメクトン」(クニミネ工業株式会社製)を、100cmの蒸留水に加え、プラスチック製密封容器に、テフロン(登録商標)回転子とともに入れ、25℃で2時間激しく振とうし、均一な分散液を得た。この分散液に、添加物として、市販のポリアクリル酸ナトリウム塩を0.1グラム加え、激しく振とうし、合成サポナイト及びポリアクリル酸ナトリウム塩を含む均一な分散液を得た。
【0048】
(3)フレキシブル蛍光フィルムの作製
上記(2)で作製した20ミリリットルの粘土分散液に、上記(1)で作製した1ミリリットルのCdSe/ZnSナノ粒子分散水溶液を加えた。得られた混合液を撹拌した後、真空脱泡装置により、この混合液の脱気を行った。次に、この混合液を、表面が平坦なポリプロピレン製トレイに塗布した。塗布には、ステンレス製地べらを用いた。スペーサーをガイドとして利用し、均一厚の粘土ペースト膜を成型した。
【0049】
このトレイを、強制送風式オーブン中において、60℃の温度条件下で1時間乾燥することにより、厚さ約40マイクロメートルの均一な添加物複合粘土薄膜を得た。生成した粘土膜をトレイから剥離して、透明度の高い、自立した、フレキシビリティーに優れた膜を得た。図2に、得られた蛍光フィルムを波長365nmのUVランプで励起した写真を示す。該写真に示されているように、得られた蛍光フィルムから緑色の強い発光が観測された。
【0050】
(4)ナノ粒子分散フレキシブル蛍光フィルムの光学特性評価
蛍光分光光度計(F−4500、日立製作所製)を用いて、得られた蛍光フィルムの蛍光スペクトルを測定した。その結果を図3に示す。図3は、蛍光スペクトルの熱処理温度依存性(熱処理温度:120℃、170℃、220℃)を示しているが、蛍光フィルムは、120℃で熱処理をすることで、蛍光強度が大幅に増大していることが分かる。
【0051】
この蛍光強度の増大は、約200℃程度まで維持できることが分かった。また、粘土フィルム中のナノ粒子の蛍光スペクトルの形状は、初期の溶液状態と粘土フィルム中で、ほとんど変化がないことが確かめられた。吸収分光光度計(MPS−2500、島津製作所製)を用いて求められた蛍光フィルム中のナノ粒子の濃度は、約5×10−5モル/リットルと見積もられた。
【0052】
次に、発光効率の算出を行った。発光効率は、吸収された光子数に対する蛍光として発光される光子数の割合として定義される。蛍光フィルム中のナノ粒子の発光効率は、発光効率が既知であるローダミン6G(エタノール溶液中での発光効率が95%)色素を用いて、該色素分子溶液と蛍光フィルムにおける励起波長での吸光度と蛍光強度とを比較することで算出した。その際、溶液と粘土膜の屈折率から発光効率の補正を行った。得られた結果を表1に示す。120℃で熱処理を行うことで、作製した蛍光フィルムは、67%の非常に高い発光効率を示していることが分かった。
【実施例2】
【0053】
上記実施例1では、緑色発光のセレン化カドミウムナノ粒子を用いたが、本実施例では、粒径の異なるナノ粒子を用いることで、発光色の異なる蛍光フィルムを作製した。橙色発光の蛍光フィルムは、粒径が約4.0nmのナノ粒子を用いること以外は、上記実施例1と同様に、作製した。作製したフィルムの写真、蛍光スペクトル及び発効効率を、それぞれ、図2、図3及び表1に示す。得られた蛍光フィルムは、実施例1で作製したフィルムと同様に、熱処理を加えることで、約22%の発光効率を示した。得られた量子効率は、初期のトルエン溶液に分散した状態よりも大幅に改善した。
【実施例3】
【0054】
本実施例では、5.2nmの粒径のセレン化カドウミウムナノ粒子を用いることで、赤色発光の蛍光フィルムを作製した。赤色発光フィルムは、実施例1と同様の方法で作製した。作製したフィルムの写真、蛍光スペクトル及び発効効率を、それぞれ、図2、図3及び表1に示す。実施例1と同様の方法により作製した蛍光フィルムは、熱処理を加えることで、約3%の発光効率を示した。
【0055】
【表1】

【実施例4】
【0056】
上記各実施に記載した方法によって形成された蛍光フィルムは、輝度が高く、単一波長の光源で様々な発色光を示すものであり、紫外LEDや青色LEDによる励起にあわせて、適当な粒径の半導体ナノ粒子を組み合わせることで、白色照明光が得られる。本実施例では、青色LEDチップを励起光として用いた白色発光デバイスの作製を行った。
【0057】
図4に、本発明で作製した白色発光デバイスの概略図を示す。本発明では、波長470nmの青色LEDチップ上に単一色層あるいは2層の蛍光フィルムを積層することで、白色発光デバイスの作製を行った。白色発光デバイスの作製は、青色LEDチップ上に緑色(デバイス1)、オレンジ色(デバイス2)、及び緑色とオレンジ色(デバイス2)の蛍光を示す蛍光フィルムを直接製膜することで行った。
【0058】
図5に、作製した白色発光デバイスの発光スペクトル及びCIE(Commission Internationale de l’Eclairage)色度図を示す。測定は、マルチチャンネル分光器(S4000、オーシャンオプティックス社製)を用いた。作製したデバイスのCIE座標(x、y)は、それぞれ、デバイス1(0.31、0.26)、デバイス2(0.35、0.33)及びデバイス3(0.35、0.34)であった。すべてのデバイスにおいて、CIE座標は、白色のCIE座標(0.33、0.33)に近い値であり、白色光を発光していることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上に詳述したように、本発明は、フレキシブルな蛍光フィルムに係るものであり、本発明により、優れた蛍光特性、フレキシブル性、熱的安定性に優れた蛍光フィルムを提供できる。本発明のフレキシブル蛍光フィルムは、例えば、180℃程度の温度においても高い蛍光特性を保つ、柔軟な発光デバイス用の蛍光体などとして用いることができる。また、本発明のフレキシブル蛍光フィルムを用いて、白色発光デバイスの作製を行ったところ、作製した素子からの白色発光が観測され、照明などの光電子デバイスへの応用が実現された。本発明は、透明で柔軟な粘土膜をマトリックスとした新しい発光フィルム及びその発光デバイスを提供するものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】フレキシブル蛍光フィルムの作製工程を示す図である。
【図2】フレキシブル蛍光フィルムをUVランプ(365nm)で励起した際の発光を示す図である。
【図3】フレキシブル蛍光フィルムの蛍光スペクトルの熱処理温度依存性を示す図である。
【図4】白色発光デバイスの概略を示す図である。
【図5】蛍光フィルムを用いた白色発光デバイスの発光スペクトル及びCIE色度ダイアグラムを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘土膜を主成分とするフレキシブル蛍光フィルムであって、半導体ナノ粒子が、透明で柔軟な粘土膜中に分散してなることを特徴とする蛍光フィルム。
【請求項2】
半導体ナノ粒子が粘土膜中に少なくとも濃度10−6モル/リットル以上の高濃度で分散してなる、請求項1に記載の蛍光フィルム。
【請求項3】
蛍光フィルムの厚さが、10μm以上200μm以下である、請求項1又は2に記載の蛍光フィルム。
【請求項4】
半導体ナノ粒子が、セレン化カドミウム、セレン化テルル、セレン化亜鉛、硫化カドミウム、テルル化カドミウム、又は硫化亜鉛である、請求項1又は2に記載の蛍光フィルム。
【請求項5】
粘土膜が、粘土のみを含む、あるいは粘土及び添加物を含む、請求項1又は2に記載の蛍光フィルム。
【請求項6】
粘土膜の粘土が、マイカ、サポナイト、モンモリロナイト、スティーブンサイト、バーミキュライト、バイデライト、及びヘクトライトの中から選択された1種以上である、請求項1、2又は5に記載の蛍光フィルム。
【請求項7】
粘土膜の粘土が、水分散性あるいは有機溶剤分散性である、請求項1、2、5又は6に記載の蛍光フィルム。
【請求項8】
添加物が、ポリアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリイミド、又はポリアミドである、請求項5に記載の蛍光フィルム。
【請求項9】
粘土含有量が、少なくとも70重量パーセント以上である、請求項1から8のいずれかに記載の蛍光フィルム。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の蛍光フィルムからなることを特徴とする発光デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−161642(P2009−161642A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−341370(P2007−341370)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】