説明

粘接着剤組成物及びそれを用いた接着方法

【課題】フィルムと未加硫ゴムとを強固に接着処理し得ると共に、得られる積層体が低温においてクラックを発生することのない粘接着剤組成物、並びに該粘接着剤組成物を用いたフィルムと未加硫ゴムとの接着方法及び空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】オキシラン酸素濃度の異なる少なくとも2種類のエポキシ変性スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体20〜100質量%及び他のエラストマー80質量%以下から成るエラストマー成分を含むことを特徴とする粘接着剤組成物、及びその粘接着剤組成物を、フィルムと未加硫ゴムとの間に配設し、フィルムと未加硫ゴムとを加硫することによって接着処理することを特徴とするフィルムと未加硫ゴムとの接着方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粘接着剤組成物、接着方法及びタイヤに関し、さらに詳しくは、フィルムと未加硫ゴムとを強固に接着することが可能な粘接着剤組成物、並びに該粘接着剤組成物を用いたフィルムと未加硫ゴムとの接着方法及びこの接着方法で形成された積層体を有するタイヤ、特に、空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤの内面には、空気漏れを防止しタイヤ空気圧を一定に保つために、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴムなどの低気体透過性ブチル系ゴムを主成分とするインナーライナー層が設けられている。そして、近年の省エネルギーの社会的な要請に伴い、自動車タイヤの軽量化を目的として、このインナーライナー層を薄ゲージ化するための手法が種々提案されている。インナーライナー層を薄ゲージ化するための手法の一つとして、例えばガスバリア性に極めて優れるエチレン− ビニルアルコール共重合体系フィルムとブチル系ゴムシートを接合一体化した部材をインナーライナー層用の材料として用いることが試みられている(例えば、特許文献1参照)。この場合、前記接合には接着剤が用いられる。
【0003】
この空気入りタイヤのインナーライナー層として、熱可塑性樹脂及び熱可塑性エラストマーからなるフィルムを利用する技術が知られている。しかしながら、該フィルムは隣接ゴム層との接着性が不十分である。
これに対してフィルムに粘接着剤を塗布等して隣接ゴム層と接着する技術が知られている。該フィルムと隣接ゴムとの接着には、従来は、「メタロックR−46」(東洋化学研究所(株)社製)や「ケムロック6250」(ロード・コーポレーション社製)などの市販接着剤が用いられているが、かかる市販接着剤は鉛やハロゲンを含んでいるため環境負荷への懸念がある。また、これら市販接着剤はタックが低くタイヤを安定して生産できないという問題があった。
【0004】
一方、特許文献2には、空気透過防止層の片面に、オキシラン酸素濃度が1.0〜3.0重量%のエポキシ変性スチレン−ブタジエン系ブロック共重合体を50重量部以上含む熱可塑性エラストマー100重量部、重量平均分子量1000以下、軟化点60〜120℃のテルペン樹脂(A)及び芳香族変性テルペン樹脂(B)を合計量で30〜200重量部、内部離型剤0.1〜3重量部並びに1分半減期温度が160℃以上の有機過酸化物0.1〜2重量部を含む粘接着剤組成物層を配置した積層体及びその積層体を用いた空気入りタイヤが提案されている。
また、特許文献3には、ポリマー100重量部当りのオキシラン酸素濃度を0.5〜2.5重量%とした、粘接着剤100重量部及び1分半減期温度が170℃〜200℃である有機過酸化物0.1〜3.0重量部を含む粘接着剤組成物と、ポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物とを、それぞれ、130℃以下及び190℃以上の押出し温度で同時に供給してダイ内で両組成物を1〜20秒間接触させて少なくとも2層に押出し成形して積層体とし、次いで生成積層体の温度を、押出し後10秒以内に140℃以下の温度に冷却することを特徴とする積層体の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−176048号公報
【特許文献2】特開2005−103760号公報
【特許文献3】特開2007−98843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献2及び3に記載された技術においては、粘接着剤組成物は、特定のオキシラン酸素濃度を有するエポキシ変性スチレン−ブタジエン系ブロック共重合体を1種含有しているが、フィルムとジエン系ゴム主体の未加硫ゴムとの間にこの粘接着剤組成物を配設し、フィルムと未加硫ゴムとを加硫することによって接着処理する積層体を形成する場合、オキシラン酸素濃度が高いとフィルムとの接着性は向上するものの、未加硫ゴムとの接着性が低下することとなった。これに対して、オキシラン酸素濃度が低いと未加硫ゴムとの接着性は向上するものの、フィルムとの接着性が低下することとなり、フィルム及び未加硫ゴムの双方との接着性を高めることは困難であった。
本発明は、このような状況下になされたもので、フィルムと未加硫ゴムとを強固に接着し得る粘接着剤組成物、該粘接着剤組成物を用いたフィルムと未加硫ゴムとの接着方法及びこの接着方法で形成された積層体を有するタイヤを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、フィルムと未加硫ゴムとの接着処理に用いられ、かつエラストマー成分として、オキシラン酸素濃度が互いに異なるエポキシ変性スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体を少なくとも2種含む粘接着剤組成物により、その目的を達成し得ることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0008】
すなわち、本発明は、
[1]オキシラン酸素濃度の異なる少なくとも2種類のエポキシ変性スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体20〜100質量%及び他のエラストマー80質量%以下から成るエラストマー成分を含むことを特徴とする粘接着剤組成物、
[2]上記[1]に記載の粘接着剤組成物を、(A)フィルムと(B)未加硫ゴムとの間に配設し、(A)フィルムと(B)未加硫ゴムとを加硫することによって接着処理することを特徴とするフィルムと未加硫ゴムとの接着方法、
[3]上記[2]に記載のフィルムと未加硫ゴムとの接着方法により形成されたことを特徴とする加硫積層体、及び
[4]上記[3]に記載の加硫積層体を有することを特徴とするタイヤ
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の粘接着剤組成物、加硫積層体、接着方法及びタイヤは下記の効果を奏する。
(1)本発明の粘接着剤組成物は、エラストマー成分として、オキシラン酸素濃度の異なる少なくとも2種類のエポキシ変性スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体を含有することにより、(A)フィルムと(B)未加硫ゴムとの接着処理において、オキシラン酸素濃度の低いエポキシ変性スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体で(B)未加硫ゴムとの接着性を向上させ、、オキシラン酸素濃度の高いエポキシ変性スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体で(A)フィルムとの接着性を向上させることができる。また、エポキシ変性スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体同士であるため、SP値が互いに近くなり、粘接着剤層内でエラストマー成分同士の相溶性が向上し、粘接着剤層の耐久性が向上する。
(2)前記(1)における粘接着剤組成物に、さらに加硫剤、あるいは加硫剤と加硫促進剤を含有させることにより、該粘着剤組成物は加硫性が付与される。
【0010】
(3)前記(1)及び(2)の効果を奏する粘接着剤組成物を用いることにより、(A)フィルムと(B)未加硫ゴムとが強固に接着処理されてなる積層体が得られる。
(4)前記(3)における(A)フィルムが、特定の共重合体若しくは重合体を含むことにより、ガスバリア性に優れ、薄ゲージ化が可能な積層体を得ることができる。
(5)(A)フィルムと(B)未加硫ゴムとの間に、前記(1)及び(2)の効果を奏する粘接着剤層を介在させた状態で加硫処理することにより、(A)フィルムと(B)未加硫ゴムとを、高い接着力で接着させる方法が提供される。
(6)前記(5)において、粘接着剤層を介在させる方法としては、粘接着剤塗工液を、(A)フィルム及び(B)未加硫ゴムの少なくとも一方の相手部材と対面する側に塗布する方法、あるいは粘接着剤組成物のシートを介在させる方法が効果的である。
(7)前記(5)、(6)の効果を奏する接着方法を用いることにより、(A)フィルムと(B)未加硫ゴムが高い接着力で接着処理してなる加硫積層体を効率よく得ることができる。
(8)このようにして、前記(7)の加硫積層体を有するタイヤが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のタイヤの一例を示す部分断面図である。
【図2】本発明の積層体の構成の一例を示す断面詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、本発明の粘接着剤組成物について説明する。
[粘接着剤組成物]
本発明の粘接着剤組成物は、オキシラン酸素濃度の異なる少なくとも2種類のエポキシ変性スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体20〜100質量%及び他のエラストマー80質量%以下から成るエラストマー成分を含むことを特徴とする。
エラストマー成分中のオキシラン酸素濃度の異なる少なくとも2種類のエポキシ変性スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体の含有量が20〜100質量%の範囲にあれば、粘接着剤層における成分同士の相溶性が向上し、接着力及び粘接着剤層の耐久性が向上する。このような観点から、前記オキシラン酸素濃度の異なる少なくとも2種類のエポキシ変性スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体の含有量は、エラストマー成分中、50〜100質量%であることがより好ましく、70〜100質量%であることが更に好ましく、80〜100質量%であることが特に好ましく、100質量%であることが最も好ましい。
【0013】
(エポキシ変性スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体)
本発明の粘接着剤組成物におけるエラストマー成分に用いられるエポキシ変性スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(以下、「E−SBS」と略記することがある。)は、汎用の熱可塑性エラストマーであるスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(以下、「SBS」と略記することがある。)を不活性溶媒中でハイドロパーオキサイド類、過酸類等のエポキシ化剤と反応させることにより得ることができる。過酸類としては過ギ酸、過酢酸、過安息香酸を例示することができる。ハイドロパーオキサイド類の場合、タングステン酸と苛性ソーダの混合物を過酸化水素と、あるいは有機酸を過酸化水素と、あるいはモリブデンヘキサカルボニルをターシャリブチルハイドロパーオキサイドと併用して触媒効果を得ることができる。
エポキシ化剤の量には厳密な制限はなく、それぞれの場合における最適量は、使用する個々のエポキシ化剤、所望されるオキシラン酸素濃度、使用する個々のSBSの可変要因によって決定される。
E−SBSは、上記の反応によりSBSの分子中に存在する二重結合がエポキシ化し、この構造はプロトン核磁気共鳴スペクトル(NMR)や赤外吸収スペクトル(IR)から明らかにされる。また、IRと元素分析からエポキシ基の含有量が測定される。
得られたE−SBSの単離は適当な方法、例えば貧溶媒で沈殿させる方法、E−SBSを熱水中に攪拌の下で投入し溶媒を蒸留除去する方法、直接脱溶媒法などで行うことができる。
【0014】
本発明の粘接着剤組成物のエラストマー成分全量中のオキシラン酸素濃度は0.5〜5質量%であることが接着力を向上する観点から好ましく、0.5〜2.5質量%であることがより好ましい。
そして、上記の少なくとも2種類のE−SBSは、オキシラン酸素濃度が0.5質量%以上且つ1質量%未満であるE−SBS及び1.5〜2.5質量%であるE−SBSを含むことが特に好ましい。上述のように0.5質量%以上且つ1質量%未満であるE−SBSが(B)未加硫ゴムと強固に接着し、且つ1.5〜2.5質量%であるE−SBSが(A)フィルムと強固に接着し、得られる積層体のガスバリア性を向上させることができるからである。
本発明においては、前記の低オキシラン酸素濃度のE−SBSと、前記の高オキシラン酸素濃度のE−SBSとの含有割合は、前記したそれぞれの効果のバランスの観点から、質量比で20:80〜80:20の範囲であることが好ましい。
【0015】
<他のエラストマー>
本発明の粘接着剤組成物においては、エラストマー成分中に、前記E−SBS以外に、80質量%以下、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下、特に好ましくは10質量%以下の割合で他のエラストマーを含有することができるが、含有しないことが最も好ましい。
他のエラストマーとしては、高ジエン系エラストマーが好ましく、例えば天然ゴム、合成イソプレンゴム(IR)、シス1,4−ポリブタジエンゴム(BR)、シンジオタクチック−1,2−ポリブタジエンゴム(1,2BR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)などが挙げられる。
これらの他のエラストマーは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよいが、これらの中で天然ゴム、合成イソプレンゴム(IR)及びシス1,4−ポリブタジエンゴム(BR)が好適である。
【0016】
(加硫剤、加硫促進剤)
本発明の粘接着剤組成物においては、加硫性を付与するために、加硫剤、あるいは加硫剤と加硫促進剤を含有することができる。
上記加硫剤としては、硫黄等が挙げられ、その使用量は、エラストマー成分100質量部に対し、硫黄分として0.1〜10.0質量部が好ましく、さらに好ましくは1.0〜5.0質量部である。
本発明で使用できる加硫促進剤は、特に限定されるものではないが、例えば、M(2−メルカプトベンゾチアゾール)、DM(ジベンゾチアゾリルジスルフィド)、CZ(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)等のチアゾール系、あるいはDPG(ジフェニルグアニジン)等のグアニジン系の加硫促進剤等を挙げることができ、その使用量は、エラストマー成分100質量部に対し、0.1〜5.0質量部が好ましく、さらに好ましくは0.2〜3.0質量部である。
【0017】
(任意成分)
本発明の粘接着剤組成物においては、前記の成分以外に、必要に応じ、充填材、粘着付与樹脂、ステアリン酸、亜鉛華、老化防止剤などを含有させることができる。
<充填材>
充填材としては、無機フィラー及び/又はカーボンブラックが用いられる。無機フィラーとしては特に制限はないが、例えば湿式法によるシリカ、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、モンモリロナイト、マイカ、スメクタイト、有機化モンモリロナイト、有機化マイカ及び有機化スメクタイトなどを好ましく挙げることができる。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
一方、カーボンブラックとしては、従来ゴムの補強用充填材などとして慣用されているものの中から任意のものを適宣選択して用いることができ、例えばFEF、SRF、HAF、ISAF、SAF、GPFなどが挙げられる。
本発明の粘接着剤組成物においては、この充填材の含有量は、エラストマー成分100質量部当たり、タック性及び剥離抗力などの点から、カーボンブラックと共に、無機フィラー5質量部以上含むことが好ましい。
【0018】
<粘着付与樹脂>
本発明の粘接着剤組成物に粘着性を付与する機能をもつ粘着付与樹脂としては、例えばフェノール系樹脂、テルペン系樹脂、変性テルペン系樹脂、水添テルペン系樹脂、ロジン系樹脂、C5石油樹脂、C9 石油樹脂、キシレン樹脂、クマロン−インデン樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、スチレン系樹脂などが挙げられるが、これらの中で、フェノール系樹脂、テルペン系樹脂、変性テルペン系樹脂、水添テルペン樹脂及びロジン系樹脂が好適である。
【0019】
フェノール系樹脂としては、例えばp−t−ブチルフェノールとアセチレンを触媒の存在下で縮合させた樹脂、アルキルフェノールとホルムアルデヒドとの縮合物などを挙げることができる。また、テルペン系樹脂、変性テルペン系樹脂、水添テルペン系樹脂としては、例えばβ−ピネン樹脂やα−ピネン樹脂などのテルペン系樹脂、これらを水素添加してなる水添テルペン系樹脂、テルペンとフェノールをフリーデルクラフト型触媒で反応させたり、あるいはホルムアルデヒドと縮合させた変性テルペン系樹脂を挙げることができる。ロジン系樹脂としては、例えば天然樹脂ロジン、それを水素添加、不均化、二量化、エステル化、ライム化などで変性したロジン誘導体などを挙げることができる。
これらの樹脂は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよいが、これらの中で、特にフェノール系樹脂が好ましい。
【0020】
本発明においては、この粘着付与樹脂は前記エラストマー成分100質量部に対し、5質量部以上用いることが好ましく、より好ましくは5〜40質量部、さらに好ましくは5〜30質量部の割合で用いられる。
特に、該粘着付与樹脂としてフェノール系樹脂を用い、かつ前記無機フィラーとして酸化マグネシウムを用いる場合、得られる粘接着剤組成物は、優れたタック性を示すことから好ましい。
【0021】
本発明の粘接着剤組成物は、前記各成分を、例えばバンバリーミキサーやロールなどを用いて混合することにより調製することができる。
このようにして得られた本発明の粘接着剤組成物は、(A)フィルムと(B)未加硫ゴムとの接着処理に用いられる。
なお、前記(A)フィルム及び(B)未加硫ゴムについては、以下に示す本発明の積層体の説明において詳述する。
【0022】
次に、本発明の積層体について説明する。
[積層体]
本発明の積層体は、前述した本発明の粘接着剤組成物を、(A)フィルムと(B)未加硫ゴムとの間に配設して形成される。
【0023】
((A)フィルム)
本発明の積層体における(A)フィルムを構成する材料としては、ガスバリア性が良好で、適度の機械的強度を有するものであればよく、特に制限されずに、様々なフィルムを用いることができる。このような(A)フィルムの素材としては、ポリアミド系樹脂、エチレン−ビニルアルコール系共重合体、ウレタン系重合体、オレフィン系重合体、又はジエン系重合体が好ましく、(A)フィルムが、ポリアミド系樹脂、エチレン−ビニルアルコール系共重合体、ウレタン系重合体、オレフィン系重合体及びジエン系重合体から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。中でもエチレン−ビニルアルコール系共重合体は、空気透過量が極めて低く、ガスバリア性に優れており、好ましい素材である。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらの素材を用いて作製された(A)フィルムは単層であっても良く、二層以上の多層であっても良い。
【0024】
<エチレン−ビニルアルコール系共重合体>
エチレン−ビニルアルコール系共重合体としては、特にエチレン−ビニルアルコール共重合体にエポキシ化合物を反応させて得られた変性エチレン−ビニルアルコール共重合体が好ましい。このように変性することにより、未変性のエチレン−ビニルアルコール共重合体の弾性率を大幅に下げることができ、屈曲時の破断性、クラックの発生度合いを改良することができる。
【0025】
この変性処理に用いられる未変性のエチレン−ビニルアルコール共重合体においては、エチレン単位含有量は25〜50モル%であることが好ましい。エチレン単位含有量が25モル%以上であると十分な耐屈曲性及び耐疲労性が得られ、かつ、溶融成形性も良好である。一方50モル%以下であると十分なガスバリア性が得られる。より良好な耐屈曲性及び耐疲労性を得る観点からは、エチレン単位含有量は、30モル%以上がさらに好ましく、35モル%以上が特に好ましい。一方、ガスバリア性の観点からは、エチレン単位含有量は48モル%以下がより好ましく、45モル%以下が特に好ましい。
さらに、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体のケン化度は好ましくは90モル%以上であり、より好ましくは95モル%以上であり、さらに好ましくは98モル%以上であり、最適には99モル%以上である。ケン化度が90モル%以上であると、十分なガスバリア性及び積層体作製時の熱安定性が得られる。
【0026】
変性処理に用いられる未変性のエチレン−ビニルアルコール共重合体の好適なメルトフローレート(MFR)(190℃ 、21.18N荷重下) は0.1〜30g/10分であり、より好適には0.3〜25g/10分である。但し、エチレン−ビニルアルコール共重合体の融点が190℃ 付近あるいは190℃ を超えるものは21.18N荷重下、融点以上の複数の温度で測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、MFRの対数を縦軸にプロットし、190℃に外挿した値で表す。
変性処理は、前記の未変性エチレン−ビニルアルコール共重合体100質量部に対して、エポキシ化合物を、好ましくは1〜50質量部、より好ましくは2〜40質量部、さらに好ましくは5〜35質量部を反応させることにより行うことができる。この際、適当な溶媒を用いて、溶液中で反応させるのが有利である。
【0027】
溶液反応による変性処理法では、エチレン−ビニルアルコール共重合体の溶液に酸触媒あるいはアルカリ触媒存在下でエポキシ化合物を反応させることによって変性エチレン−ビニルアルコール共重合体が得られる。反応溶媒としては、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドおよびN−メチルピロリドン等のエチレン−ビニルアルコール共重合体の良溶媒である極性非プロトン性溶媒が好ましい。反応触媒としては、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、硫酸および三弗化ホウ素等の酸触媒や水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、ナトリウムメトキサイド等のアルカリ触媒が挙げられる。これらのうち、酸触媒を用いることが好ましい。触媒量としては、エチレン−ビニルアルコール共重合体100質量部に対し、0.0001〜10質量部程度が適当である。また、エチレン−ビニルアルコール共重合体およびエポキシ化合物を反応溶媒に溶解させ、加熱処理を行うことによっても変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を製造することができる。
【0028】
変性処理に用いられるエポキシ化合物は特に制限はされないが、一価のエポキシ化合物であることが好ましい。二価以上のエポキシ化合物である場合、エチレン−ビニルアルコール共重合体との架橋反応が生じ、ゲル、ブツ等の発生により積層体の品質が低下するおそれがある。変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の製造の容易性、ガスバリア性、耐屈曲性および耐疲労性の観点から、好ましい一価エポキシ化合物としてグリシドール及びエポキシプロパンが挙げられる。
【0029】
本発明に用いられる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体のメルトフローレート(MFR)(190℃ 、21.18N荷重下)は特に制限はされないが、良好なガスバリア性、耐屈曲性および耐疲労性を得る観点からは、0.1〜30g/10分であることが好ましく、0.3〜25g/10分であることがより好ましく、0.5〜20g/10分であることがさらに好ましい。但し、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の融点が190℃付近あるいは190℃を超えるものは21.18N荷重下、融点以上の複数の温度で測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、MFRの対数を縦軸にプロットし、190℃に外挿した値で表す。
【0030】
この変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を素材とするフィルムの20℃、65RH%における酸素透過量は、3×10-15cm3・cm/cm2・sec・Pa以下であることが好ましく、1×10-15cm3・cm/cm2 ・sec・Pa以下であることがより好ましく、5×10-16cm3・cm/cm2 ・sec・Pa以下であることがさらに好ましい。
【0031】
<ポリアミド系樹脂>
ポリアミド系樹脂としては、例えば、ナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン46(N46)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、ナイロン610(N610)、ナイロン612(N612)、ナイロン6/66共重合体(N6/66)、ナイロン6/66/610共重合体(N6/66/610)、ナイロンMXD6、ナイロン6T、ナイロン6/6T共重合体、ナイロン66/PP共重合体、ナイロン66/PPS共重合体等が挙げられる。
【0032】
<ウレタン系重合体>
ウレタン系重合体としては熱可塑性ウレタン系エラストマーが好ましい。この熱可塑性ウレタン系エラストマー( 以下、TPUと略記することがある。)は、分子中にウレタン基(−NH−COO−)をもつエラストマーであり、(1)ポリオール(長鎖ジオール) 、(2)ジイソシアネート、(3)短鎖ジオールの三成分の分子間反応によって生成する。ポリオールと短鎖ジオールは、ジイソシアネートと付加反応をして線状ポリウレタンを生成する。この中でポリオールはエラストマーの柔軟な部分(ソフトセグメント)になり、ジイソシアネートと短鎖ジオールは硬い部分(ハードセグメント)になる。TPUの性質は、原料の性状、重合条件、配合比によって左右され、この中でポリオールのタイプがTPUの性質に大きく影響する。基本的特性の多くは長鎖ジオールの種類で決定されるが、硬さはハードセグメントの割合で調整される。
種類としては、(イ)カプロラクトン型(カプロラクトンを開環して得られるポリラクトンエステルポリオール)、(ロ)アジピン酸型又はアジペート型(アジピン酸とグリコールとのアジピン酸エステルポリオール)、(ハ)PTMG(ポリテトラメチレングリコール)型又はエーテル型(テトラヒドロフランの開環重合で得られたポリテトラメチレングリコール)などがある。
【0033】
<オレフィン系重合体>
オレフィン系重合体としては、ポリプロピレン樹脂、ポリプロピレン樹脂のマトリックスにオレフィン系ゴム(EPR、EPDM)を微分散させた熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。
<ジエン系重合体>
オレフィン系重合体としては、上述の高ジエン系エラストマーなどが挙げられる。
【0034】
<好適な(A)フィルムの構成>
本発明の積層体における(A)フィルムは、上記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体などの樹脂フィルムを含むことが好ましく、上記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を含むことが特に好ましい。上記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体からなる単層フィルムであっても良いし、(A)フィルムとして変性エチレン−ビニルアルコール共重合体などのフィルムを有するとともに、他の層をも有する多層フィルムであっても良い。
他の層としては、耐水性とゴムに対する接着性の点から、熱可塑性ウレタン系エラストマーからなる層が好ましく、特に、樹脂フィルムを挟持する形で外層部分に熱可塑性ウレタン系エラストマー層を配置することが好ましい。
このような多層フィルムの具体例としては、前記の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体からなる樹脂フィルムの両面に、それぞれ熱可塑性ウレタン系エラストマーフィルムが積層された三層構造の多層フィルムを挙げることができる。
【0035】
本発明の積層体において、(A)フィルムを構成する樹脂フィルムの成形方法に特に制限はなく、単層フィルムの場合、従来公知の方法、例えば溶液流延法、溶融押出法、カレンダー法などを採用することができるが、これらの方法の中で、Tダイ法やインフレーションなどの溶融押出法が好適である。また、多層フィルムの場合は、共押出しによるラミネート法が好ましく用いられる。
【0036】
上記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体は、架橋されていることが好ましい。架橋されていない変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を(A)フィルムに用いた場合、例えばタイヤを製造する際の加硫工程において変性エチレン−ビニルアルコール共重合体からなる層が著しく変形して均一な層を維持できなくなり、(A)フィルムのガスバリア性、耐屈曲性、耐疲労性を悪化させることがある。
ここで、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の架橋方法としては、特に限定されないが、エネルギー線を照射する方法が挙げられる。そして、該エネルギー線としては、紫外線、電子線、X線、α線、γ線等の電離放射線が挙げられ、これらの中でも電子線が特に好ましい。
【0037】
電子線の照射は、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を上述の方法で単層フィルムや多層シート等の成形体に加工した後に行うことが好ましい。ここで、架橋のために照射する電子線の線量は、10〜60Mradの範囲が好ましく、20〜50Mradの範囲が更に好ましい。照射する電子線の線量が10Mrad未満では、架橋が進み難く、一方、60Mradを超えると、成形体の劣化が進み易くなる。
【0038】
本発明の積層体における(A)フィルムの厚さは、該積層体を、空気入りタイヤのインナーライナー層として用いる場合、薄ゲージ化の観点から、200μm以下が好ましい。(A)フィルムの厚さが200μm以下であれば、本発明の積層体をインナーライナーとして用いる際に、耐屈曲性及び耐疲労性が低下することがなく、タイヤ転動時の屈曲変形による破断・亀裂を好適に防止し得ることとなる。
また、薄すぎると当該(A)フィルム層を後述する(B)未加硫ゴムに接着処理した効果が十分に発揮されないおそれが生じる。したがって、当該(A)フィルム層の厚さの下限は1μm程度である。1μm以上であれば、ガスバリア性を十分に確保することができる。
以上の観点から、(A)フィルムのより好ましい厚さは10〜150μm 、さらに好ましい厚さは20〜100μmの範囲である。
【0039】
当該(A)フィルムは、後述する(B)未加硫ゴムとの間に介在させる前述の粘接着剤組成物層との密着性を向上させるために、所望により、少なくとも該粘接着剤層との接着側の面に、酸化法や凹凸化法などにより表面処理を施すことができる。
上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、プラズマ放電処理、クロム酸処理(湿式) 、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理などが挙げられ、また凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は基材フィルムの種類に応じて適宜選ばれるが、一般にはコロナ放電処理法が効果及び操作性などの面から、好ましく用いられる。
【0040】
((B)未加硫ゴム)
本発明の積層体における(B)未加硫ゴムは、エラストマー成分としてガスバリア性の良好なブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴムを含むことが好ましい。ここで、上記ハロゲン化ブチルゴムとしては、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴム及びそれらの変性ゴム等が挙げられる。また、上記ハロゲン化ブチルゴムは、市販品を利用することができ、市販品としては、例えば、「Enjay Butyl HT10−66」(登録商標)[エンジェイケミカル社製,塩素化ブチルゴム]、「Bromobutyl 2255」(登録商標)[JSR(株)製,臭素化ブチルゴム]、「Bromobutyl 2244」(登録商標)[JSR(株)製,臭素化ブチルゴム]を挙げることができる。また、塩素化又は臭素化した変性ゴムの例としては、「Expro50」(登録商標)[エクソン社製]が挙げられる。
【0041】
上記(B)未加硫ゴムにおけるエラストマー成分中のブチルゴム及び/又はハロゲン化ブチルゴムの含有率は、ガスバリア性を向上させる観点から、50質量%以上であるのが好ましく、70〜100質量%であるのが更に好ましい。ここで、上記エラストマー成分としては、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴムの他、ジエン系ゴムやエピクロロヒドリンゴム等を用いることができる。これらエラストマー成分は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
上記ジエン系ゴムとして、具体的には、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、シス−1,4−ポリブタジエンゴム(BR)、シンジオタクチック−1,2−ポリブタジエンゴム(1,2−BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)等が挙げられる。これらジエン系ゴムは、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
上記(B)未加硫ゴムには、上記エラストマー成分の他に、ゴム業界で通常使用される配合剤、例えば、補強性充填材、軟化剤、老化防止剤、加硫剤、ゴム用加硫促進剤、スコーチ防止剤、亜鉛華、ステアリン酸等を目的に応じて適宜配合することができる。これら配合剤としては、市販品を好適に使用することができる。
【0044】
当該(B)未加硫ゴムには、所望により、有機短繊維を含有させることができる。この有機短繊維を含有させることにより、本発明の積層体をインナーライナー層として用いる場合、インナーライナー層を薄ゲージ化してタイヤを製造する際に生じる内面コード露出を抑制することができる。この有機短繊維は、平均径1〜100μmで、平均長が0.1〜0.5mm程度であるものが好ましい。この有機短繊維は、FRR(短繊維と未加硫ゴム組成物との複合体)として配合してもよい。
このような有機短繊維の含有量は、エラストマー成分100質量部当たり、0.3〜15質量部が好ましい。有機短繊維の材質には特に制限はなく、例えばナイロン6、ナイロン66などのポリアミド、シンジオタクチック−1,2−ポリブタジエン、アイソタクチックポリプロピレン、ポリエチレンなどを挙げることができるが、これらの中ではポリアミドが好ましい。
また、有機短繊維配合ゴムのモデュラスを増大させるためにはヘキサメチレンテトラミンやレゾルシンなどのゴムと繊維との接着向上剤をさらに配合することができる。
【0045】
本発明の積層体においては、(B)未加硫ゴムの厚さが200μm以上であることが好ましい。(B)未加硫ゴムの厚さが200μm以上であれば、補強効果が十分に発揮され、(A)フィルムに破断・亀裂が生じた際に亀裂が伸展しにくくなるため、大きな破断及びクラック等の弊害を好適に抑制することができる。
【0046】
本発明の積層体は、(A)フィルムと(B)未加硫ゴムとの間に、前述した本発明の粘接着剤組成物の層を配設してなるものであり、該粘接着剤組成物の層の厚さは、5〜100μmの範囲であることが好ましい。この粘接着剤組成物の層の厚さが5μm以上であれば、接着不良を好適に防止することができ、100μm以下であれば、軽量化メリット及びコストメリットをより有利に享受することができる。
【0047】
このようにして得られた本発明の積層体は、(B)未加硫ゴム及び粘接着剤組成物の層が共に未加硫状態であり、例えば空気入りタイヤのインナーライナー用部材などとして用いることができる。
また、加硫積層体を製造する場合には、前記未加硫積層体を、通常120℃以上、好ましくは125〜200℃、より好ましくは130〜180℃の温度で加熱・加硫処理することにより、加硫積層体が得られる。この加熱・加硫処理は、通常タイヤの加硫時に行われる。
このように、タイヤの加硫時に当該積層体を加熱・加硫処理する場合には、当該積層体の(B)未加硫ゴム側を、カーカスプライのコーティングゴム層に当接させて、加熱・加硫処理を行い、前記コーティングゴムに接着処理したインナーライナーを形成させることができる。
【0048】
次に、本発明の(A)フィルムと(B)未加硫ゴムとの接着方法について説明する。
[(A)フィルムと(B)未加硫ゴムの接着方法]
本発明の(A)フィルムと(B)未加硫ゴムとの接着方法は、粘接着剤組成物を、(A)フィルムと(B)未加硫ゴムとの間に配設し、(A)フィルムと(B)未加硫ゴムとを加硫することによって接着処理することを特徴とする。
前記の(A)フィルム、(B)未加硫ゴム及び粘接着剤組成物の層については前述で説明したとおりである。
【0049】
当該接着方法において、(A)層と(B)層との間に粘接着剤組成物の層を配設する方法としては、例えば、粘接着剤組成物を良溶媒に溶解してなる粘接着剤塗工液を、(A)フィルム及び(B)未加硫ゴムの少なくとも一方の相手部材と対面する側に塗布する方法を採用することができる。
前記良溶媒としては、エラストマー成分の良溶媒であるヒルデブランド(Hilderand) 溶解性パラメーターδ値が14〜20MPa1/2 の範囲にある有機溶剤が好ましく用いられる。このような有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、n−へキサン、シクロヘキサン、クロロホルム、メチルエチルケトンなどを挙げることができる。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
このようにして調製された塗工液の固形分濃度は、塗工性や取り扱い性などを考慮して適宣選択されるが、通常5〜50質量%、好ましくは10〜30質量%の範囲である。
また、粘接着剤組成物をシート状にして、(A)フィルムと(B)未加硫ゴムとの間に配設する方法も採用することができる。
【0050】
本発明はまた、前記の(A)フィルムと(B)未加硫ゴムとの接着方法により形成されてなる加硫積層体、及び該加硫積層体を有するタイヤ、特に、インナーライナー層として有する空気入りタイヤをも提供する。
【0051】
[タイヤ]
図1は、本発明の加硫積層体を有するタイヤ、特に、インナーライナー層に有する空気入りタイヤの一例を示す部分断面図であって、該タイヤはビードコア1の周りに巻回されてコード方向がラジアル方向に向くカーカスプライを含むカーカス層2と、カーカス層のタイヤ半径方向内側に配設された本発明の加硫積層体からなるインナーライナー層3と、該カーカス層のクラウン部のタイヤ半径方向外側に配設された2枚のベルト層4を有するベルト部と、ベルト部の上部に配設されたトレッド部5と、トレッド部の左右に配置されたサイドウォール部6から構成されている。
【0052】
図2は、前記空気入りタイヤにおける本発明の加硫積層体をインナーライナー層として用いた一例の断面詳細図である。インナーライナー層3は、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体層11の両面に、それぞれ熱可塑性ウレタン系エラストマー層12a及び1 2bがラミネートされてなる(A)フィルム13と(B)未加硫ゴム14が本発明の粘接着剤組成物の層15を介して接着処理され、一体化してなる構造を有している。そして、(B)未加硫ゴム14は、(A)フィルム13とは反対側の面が、図1におけるカーカス層2と接着処理されている。
なお、当該加硫積層体は、前述したように、未加硫積層体を、タイヤ成形機上でのタイヤ加硫時に加熱・加硫処理が行われ、前記粘接着剤組成物の層及び(B)未加硫ゴムが共に加硫され、(A)フィルム13と(B)未加硫ゴム14とが高い接着力でもって接着処理されると共に、(B)未加硫ゴム14の(A)フィルム13との反対側が図1におけるカーカス層2と接着処理される。
【0053】
なお、本発明の粘接着剤組成物は、前述したように、未加硫積層体及び加硫積層体の作製に好適に用いられるが、その他の用途としては、例えば(B)未加硫ゴム材料の表面に塗布し、共加硫させて、加硫ゴム材料の表面を改質(例えば帯電防止など)するのに用いることができるし、また、スティフナー、ゴムチェーファ、クッションサイドなどのタイヤ用未加硫帯状ゴム部材の表面に塗布して、粘着性を付与するために用いることができる。
さらに、スチールコードにこの粘接着剤組成物からなる被覆層を形成させたのち、これをゴムマトリックス中に導入して共加硫させることにより、スチールコードとゴムマトリックスを強固に接着させるのに用いることもできる。
【実施例】
【0054】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例で作製した積層体について、JIS K 6854−3:1999の「接着剤−はく離接着強さ試験方法−第3部:T形はく離」に準拠して、23℃で、T形はく離試験を行い、接着力(N/25mm)を測定した。
また、オキシラン酸素濃度は、ASTM D1652(HBr滴定)に従って測定した。
【0055】
製造例1 変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(変性EVOH)の合成
加圧反応槽に、エチレン含量44モル%、ケン化度99.9%のエチレン−ビニルアルコール共重合体(190℃、21.18N荷重下でのMFR:5.5g/10分)2質量部及びN−メチル−2−ピロリドン8質量部を仕込み、120℃で2時間加熱撹拌して、エチレン−ビニルアルコール共重合体を完全に溶解させた。これにエポキシ化合物としてエポキシプロパン0.4質量部を添加後、160℃で4時間加熱した。加熱終了後、蒸留水100質量部に析出させ、多量の蒸留水で充分にN−メチル−2−ピロリドン及び未反応のエポキシプロパンを洗浄し、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を得た。更に、得られた変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を粉砕機で粒子径2mm程度に細かくした後、再度多量の蒸留水で十分に洗浄した。洗浄後の粒子を8時間室温で真空乾燥した後、二軸押出機を用いて200℃で溶融し、ペレット化した。
【0056】
なお、上記エチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレン含有量及びケン化度は、重水素化ジメチルスルホキシドを溶媒とした1H−NMR測定[日本電子社製「JNM−GX−500型」を使用]で得られたスペクトルから算出した値である。また、上記エチレン−ビニルアルコール共重合体のメルトフローレート(MFR)は、メルトインデクサーL244[宝工業株式会社製]の内径9.55mm、長さ162mmのシリンダにサンプルを充填し、190℃で溶融した後、重さ2160g、直径9.48mmのプランジャーを使用して均等に荷重をかけ、シリンダの中央に設けた径2.1mmのオリフィスより単位時間あたりに押出される樹脂量(g/10分)から求めた。但し、エチレン−ビニルアルコール共重合体の融点が190℃付近あるいは190℃を超える場合は、2160g荷重下、融点以上の複数の温度で測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、MFRの対数を縦軸にプロットし、190℃に外挿して算出した値をメルトフローレート(MFR)とした。
【0057】
製造例2 三層フィルムの作製
製造例1で得られた変性EVOHと、熱可塑性ポリウレタン(TPU)[(株)クラレ製「クラミロン3190」]とを使用し、2種三層共押出装置を用いて、下記共押出成形条件で三層構造のフィルム層(TPU層/変性EVOH層/TPU層)を作製した。各層の厚みは、TPU層、変性EVOH層ともに20μmである。
【0058】
各樹脂の押出温度:C1/C2/C3/ダイ=170/170/220/220℃
各樹脂の押出機仕様:
熱可塑性ポリウレタン:25mmφ押出機「P25−18AC」[大阪精機工作株式会社製]
変性EVOH:20mmφ押出機ラボ機ME型「CO−EXT」[株式会社東洋精機製]
Tダイ仕様:500mm幅2種3層用[株式会社プラスチック工学研究所製]
冷却ロールの温度:50℃
引き取り速度:4m/分
【0059】
製造例3 (B)未加硫ゴムの作製
下記の配合のゴム組成物を調製し、厚さ500μmの(B)未加硫ゴムシートを作製した。
(ゴム組成物)
天然ゴム ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30質量部
臭素化ブチルゴム[JSR株式会社製,Bromobutyl 2244] ・・・70質量部
GPFカーボンブラック[旭カーボン株式会社製,#55] ・・・60質量部
SUNPAR2280[日本サン石油株式会社製] ・・・・・・・・7質量部
ステアリン酸[旭電化工業株式会社製] ・・・・・・・・・・・・・1質量部
加硫促進剤[ノクセラーDM、大内新興化学工業株式会社製] ・・・1.3質量部
酸化亜鉛[白水化学工業株式会社製] ・・・・・・・・・・・・・・3質量部
硫黄[軽井沢精錬所製] ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・0.5質量部
【0060】
実施例1〜5及び比較例1、2
(1)粘接着剤塗工液の調製
第1表に示す種類と量の各成分を、常法に従って混練りした後、有機溶剤としてトルエン(δ値:18.2MPa1/2 )1000質量部に加え、溶解又は分散して7種の粘接着剤塗工液を調製した。
(2)加硫積層体の作製
日新ハイボルテージ株式会社製電子線照射装置「生産用キュアトロンEBC200−100」を使用して、製造例2で得た三層フィルムに、加速電圧200kV、照射エネルギー30Mradの条件にて電子線照射し架橋処理を施したのち、その片面に前記の各粘接着剤塗工液を塗布、乾燥し、次いでその上に製造例3で得た(B)未加硫ゴムシートを貼合し、7種の未加硫積層体を作製した。
次に、各未加硫積層体を160℃ にて15分間加熱・加硫処理して、実施例1〜5及び比較例1、2の加硫積層体を作製した。各加硫積層体について、前述した方法に従って接着力を測定した。その結果を第1表に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
[注]
*1:E−SBS−a: ダイセル化学工業株式会社製、商品名「エポフレンド CT310」(登録商標)(オキシラン酸素濃度0.7質量%)
*2:E−SBS−b: ダイセル化学工業株式会社製、商品名「エポフレンド AT501」(登録商標)(オキシラン酸素濃度1.5質量%)
*3:BR: JSR株式会社製、商品名「BR01」
*4:カーボンブラック: HAFカーボン、東海カーボン株式会社製、商品名「 シースト3」
*5:粘着付与樹脂: ブチルフェノールアセチレン樹脂、BASF AKTIENGESELLS社製、商品名「コレシン」(登録商標)
*6:老化防止剤: N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン、住友化学株式会社製、商品名「アンチゲン 6C」
*7:加硫促進剤: N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、大内新興化学工業株式会社製、商品名「ノクセラー CZ−G」、
【0063】
第1表から分かるように、オキシラン酸素濃度の異なるE−SBSを2種用いた実施例1〜5の加硫積層体は、1種のE−SBSを用いた比較例1及び2の加硫積層体に比べて、接着力がはるかに高かった。また、実施例1〜3と実施例4及び5の加硫積層体を比べると、エラストマー成分がE−SBSのみである実施例1〜3の加硫積層体は、エラストマー成分としてBRをそれぞれ10質量部及び20質量部配合した実施例4及び5の加硫積層体と比較して、接着力が更に向上していた。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の粘接着剤組成物は、(A)フィルムと(B)未加硫ゴムを強固に接着処理した積層体を提供することができ、該積層体は空気入りタイヤのインナーライナー層用部材として好適に用いられ、インナーライナー層とカーカスプライコーティングゴム層との接着性が向上したインナーライナー層を有する空気入りタイヤが得られる。
[符号の説明]
【0065】
1:ビートコア
2:カーカス層
3:インナーライナー層
4:ベルト部
5:トレッド部
6:サイドウォール部
11:変性エチレン−ビニルアルコール共重合体層
12a、12b:熱可塑性ウレタン系エラストマー層
13:(A)フィルム
14:(B)未加硫ゴム
15:粘接着剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキシラン酸素濃度の異なる少なくとも2種類のエポキシ変性スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体20〜100質量%及び他のエラストマー80質量%以下から成るエラストマー成分を含むことを特徴とする粘接着剤組成物。
【請求項2】
前記他のエラストマーが、ジエン系エラストマーを含むことを特徴とする請求項1に記載の粘接着剤組成物。
【請求項3】
前記エラストマー成分全量中のオキシラン酸素濃度が0.5〜2.5質量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の粘接着剤組成物。
【請求項4】
前記少なくとも2種類のエポキシ変性スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体が、オキシラン酸素濃度が0.5質量%以上且つ1質量%未満であるエポキシ変性スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体及び1.5〜2.5質量%であるエポキシ変性スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の粘接着剤組成物。
【請求項5】
更に、加硫剤、又は加硫剤と加硫促進剤を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の粘接着剤組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の粘接着剤組成物を、(A)フィルムと(B)未加硫ゴムとの間に配設し、(A)フィルムと(B)未加硫ゴムとを加硫することによって接着処理することを特徴とするフィルムと未加硫ゴムとの接着方法。
【請求項7】
前記(A)フィルムが、ポリアミド系樹脂、エチレン−ビニルアルコール系共重合体、ウレタン系重合体、オレフィン系重合体及びジエン系重合体から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項6に記載のフィルムと未加硫ゴムとの接着方法。
【請求項8】
前記粘接着剤組成物を良溶媒に溶解してなる粘接着剤塗工液を(A)フィルム及び(B)未加硫ゴムの少なくとも一方に塗布することを特徴とする請求項6又は7に記載のフィルムと未加硫ゴムとの接着方法。
【請求項9】
前記粘接着剤組成物をシート状にした後に配設することを特徴とする請求項6又は7に記載のフィルムと未加硫ゴムとの接着方法。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれかに記載のフィルムと未加硫ゴムとの接着方法により形成されたことを特徴とする加硫積層体。
【請求項11】
請求項10に記載の加硫積層体を有することを特徴とするタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−57016(P2013−57016A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196529(P2011−196529)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】