説明

粘着シート

【課題】剥離後に生じ得る被着体表面の凹状の塗膜段差を低減することができる粘着シートを提供すること。
【解決手段】本発明の粘着シートは、基材と、該基材の一方の面に形成された粘着剤層と、を備え、下記試験方法による初期応力が1.00〜9.50MPaであり、且つ、応力緩和率が55%以上である粘着シート。[試験方法]10mm×20mm角の粘着シートを、温度25℃、相対湿度50%の室内にて、引張速度0.03mm/minで1分間引張し、応力(初期応力)を測定する。その後、粘着シートの引張を停止し、停止から2分経過後の応力(残存応力)を測定する。応力の測定には、固体粘弾性アナライザーを使用する。そして、下記式により応力緩和率を算出する。
応力緩和率(%)=残存応力(MPa)/初期応力(MPa)×100

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥離後の被着体に対して外観上の変化を及ぼすことのない粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
粘着シートは、その粘着性を利用して、物品の保護や補強、屋内外における広告、表示、装飾等に幅広く使用されている。近年では、情報等が印刷された粘着シートを、車両全体に貼付したバスや電車等のラッピング車両が多く見受けられる。かかる車両が広告媒体として果たす役割は大きく、粘着シートに求められる品質も高くなっている。
【0003】
一般に、粘着シートの特性としては、適度な粘着力を有することだけでなく、目的を果たした後には、被着体を汚染、損傷等することなく、容易に剥離可能であることが求められる。しかしながら、被着体がバスや電車の場合には、貼付面積が広く、また、曲線を有するため、上記特性はもちろんのこと、施工が容易であることも必要となる。
【0004】
例えば、特許文献1には、被着対象が屋外看板や車両である再剥離性を有する印刷用再剥離型粘着シートが開示されている。これによれば、粘着剤層と支持体との間に、バリア層を設けたので、剥離の際に粘着剤由来の汚染が生じず、また、剥離も容易である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−321657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、屋内外における広告、表示等に使用されている現行の粘着シートは、剥離後の被着体表面に凹状の塗膜段差が生じ、被着体の美観を損なうという問題がある。特に、車両の場合には、屋外の看板広告等と異なり、高い意匠性が求められていることから、塗膜の外観変化は、たとえ微小なものであっても望ましくない。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、剥離後の被着体に対して外観上の変化を及ぼすことのない粘着シートを提供することにあり、特に、剥離後の車両表面に生じ得る凹状の塗膜段差を低減することができる粘着シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねたところ、被着体表面への施工前後における、粘着シートを構成する基材の収縮率を最適化することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、以下のようなものを提供する。
【0009】
(1)基材と、該基材の一方の面に形成された粘着剤層と、を備え、下記試験方法による初期応力が1.00〜9.50MPaであり、且つ、応力緩和率が55%以上である粘着シート。
[試験方法]10mm×20mm角の粘着シートを、温度25℃、相対湿度50%の室内にて、引張速度0.03mm/minで1分間引張し、応力(初期応力)を測定する。その後、粘着シートの引張を停止し、停止から2分経過後の応力(残存応力)を測定する。応力の測定には、固体粘弾性アナライザーを使用する。そして、下記式により応力緩和率を算出する。
応力緩和率(%)=残存応力(MPa)/初期応力(MPa)×100
【0010】
(2)該基材が、ポリオレフィン系樹脂を主体とする(1)に記載の粘着シート。
【0011】
(3)該基材が、ポリ塩化ビニル系樹脂とポリウレタン系樹脂との積層体を主体とする(1)に記載の粘着シート。
【0012】
(4)該基材の粘着剤層とは反対の面に、インク受理能を有するインク受理層を更に備える(1)から(3)いずれかに記載の粘着シート。
【0013】
(5)車両に貼付するサインシート用として用いる(1)〜(4)いずれかに記載の粘着シート。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、被着体表面への施工前後における基材の収縮率を最適化することで、粘着シートの剥離後に生じる被着体表面の凹状の塗膜段差を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0016】
本発明の粘着シートは、基材と、該基材の一方の面に形成された粘着剤層と、を備え、下記試験方法による初期応力が1.00〜9.50MPaであり、且つ、応力緩和率が55%以上であることを特徴とし、初期応力が2.10〜8.75MPaであり、且つ、応力緩和率が58%以上であることが好ましく、初期応力が2.16〜8.75MPaであり、且つ、応力緩和率が58%以上であることがより好ましい。
[試験方法]10mm×20mm角の粘着シートを、温度25℃、相対湿度50%の室内にて、引張速度0.03mm/minで1分間引張し、応力(初期応力)を測定する。その後、粘着シートの引張を停止し、停止から2分経過後の応力(残存応力)を測定する。応力の測定には、固体粘弾性アナライザーを使用する。そして、下記式により応力緩和率を算出する。
応力緩和率(%)=残存応力(MPa)/初期応力(MPa)×100
【0017】
粘着シートを曲面形状等に追従するように伸ばしながら施工・貼付した場合、粘着シートには、元の状態に戻ろうとする力が生じる。このように、物体に外力がかかった場合には、その物体内に抵抗力が生じる。これを応力という。本発明における応力緩和率とは、上記粘着シート内に生じた抵抗力が時間とともに減少する割合をいい、上記式により算出されるものである。初期応力とは、所定の拘束状態(引張状態)の下で、応力緩和が開始する以前に粘着シートに生じる応力をいう。また、残存応力とは、引張試験中の所定時間において、粘着シートに残存している応力をいう。一般に、粘着シートの被着体への貼付は、作業者の手によって行われる。また、被着体の表面は、平面だけでなく曲面の場合もあることから、施工性を向上させるために、粘着シートには適度な柔軟性、曲面に対する優れた追従性等が求められる。一方で、粘着シートは、様々な外的要因により収縮が生じる場合がある。屋外で使用される場合には、このような現象は顕著に生じ得る。そして、このような粘着シートの収縮が、剥離後の被着体に対して外観上の変化を及ぼすと考えられる。特に、被着体が車両の場合には、車両表面の塗装板の収縮を招き、凹状の塗膜段差の要因となると考えられる。屋外の看板広告等と異なり、車両には高い意匠性が求められるため、塗膜の外観変化は、特に、望ましくない。したがって、粘着シートは、応力緩和率が高いほど、収縮が生じ難いので好ましい。なお、応力緩和率が55%以上であれば、粘着シートの剥離後に車両表面に生じ得る凹状の塗膜段差を低減することができるので、車両の美観を損なうことなく、高い意匠性を維持することができる。また、初期応力が上記範囲であれば、十分な柔軟性を有するので、施工性に優れる。
【0018】
[基材]
本発明における基材の主体となる構成成分(樹脂成分)は、必要な強度や柔軟性を有し、粘着シートを形成した際に、上述の応力緩和率、初期応力が条件を満たすものであれば、特に限定されないが、ポリオレフィン系樹脂、又はポリ塩化ビニル系樹脂とポリウレタン系樹脂との積層体を主体とするものが好ましい。ここで、主体とは、基材の構成成分全体に占める割合が、50質量%以上、好ましくは80質量%以上をいう。ポリ塩化ビニル系樹脂とポリウレタン系樹脂との積層体とは、ポリ塩化ビニル系樹脂層とポリウレタン系樹脂層とが二層構造になったものをいい、ポリ塩化ビニル系樹脂層とポリウレタン系樹脂層との位置関係は問わない。なお、本発明の粘着シートをサインシート用として用いる場合には、インク定着率が高いポリ塩化ビニル系樹脂層が、ポリウレタン系樹脂層の上(被着体側を下とした場合)に積層されていれば、別途、後述するインク受理層を設ける必要がないので好ましい。上記樹脂を用いて形成した粘着シートによれば、柔軟性や被着体に対する追従性に優れ、剥離後の塗膜段差を大幅に軽減することができる。
【0019】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリプロピレン等の比較的高融点の樹脂や、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレンと他のα−オレフィンとの共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリレート共重合体等の比較的低融点の樹脂等が挙げられる。これらのポリオレフィン系樹脂は、単独又は2種以上を組み合わせて使用することができ、また、基材における構成成分(樹脂成分)の主体であれば、他の樹脂と併用することができる。
【0020】
ポリ塩化ビニル系樹脂とポリウレタン系樹脂との積層体を構成するポリ塩化ビニル系樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル樹脂あるいは下記のような共重合成分と塩化ビニルとの共重合体:酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル等の飽和脂肪酸ビニルエステル類;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸ジエチル、マレイン酸モノ−2−エチルヘキシル、フマル酸ジ−2−エチルヘキシル等の不飽和カルボン酸及びそのアルキルエステル類;アリルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート等のビニルモノマー、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸ベンジル、メタアクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタアクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタアクリル酸ベンジル等のアクリル酸あるいはメタアクリル酸及びそのアルキルエステル類;エチレン、プロピレン、イソブチレン、シクロペンテン等のオレフィン類、メチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類;ジクロロエチレン、トリクロロエチレン等のハロゲン化オレフィン類;ビニルカプロエート、ビニルペラゴネート、ビニルラウレート、ビニルミリステート、ビニルパルミテート、ビニルステアレート等の長鎖アルキルビニルエステル類;ビニルアルコール、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等が挙げられる。これらのポリ塩化ビニル系樹脂は、単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0021】
ポリ塩化ビニル系樹脂とポリウレタン系樹脂との積層体を構成するポリウレタン系樹脂としては、例えば、溶剤の存在下、若しくは不存在下にて、イソシアネート成分とポリオール成分とから、あらかじめプレポリマーを合成し、次いで、鎖伸長剤を用いて高分子量ポリウレタンとしたもの、又は全成分を一段で反応させてポリウレタンとしたものが挙げられる。更に、着色用顔料分を除くベースポリマー主成分として、ポリウレタンを80質量%以上含み、他に、塩化ビニルやアクリルモノマーで共重合変性したポリマーや他種ポリマー、例えば、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、可塑化塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミド等を配合したブレンドポリマーも、本発明のフィルムの材料として使用することができる。イソシアネート成分としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキシルジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート等が挙げられる。また、ポリオール成分としては、例えば、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリオール;コハク酸、アジピン酸、セバチン酸、オルソフタル酸、イソフタル酸等の二塩基酸とエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール等のエステル化反応によって得られる末端に水酸基を有するポリエステルジオール;上記グリコール類とεカプロラクトンの不可反応によるポリカプロラクトンジオール;ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)ジオール;ポリブタジエングリコール等の分子量500〜3000のポリマージオール、並びにそれらの共重合体や変性体を使用することができる。更に、エチレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサメチルレングリコール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、トリメチロールプロパン等のポリオール;イソホロンジアミン、キシリレンジアミン等のイソシアネートと反応性の官能基を有する低分子量多価化合物も使用することができる。なお、これらのポリウレタン系樹脂は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、ポリ塩化ビニル系樹脂とポリウレタン系樹脂との積層体は、基材における構成成分(樹脂成分)の主体であれば、他の樹脂と併用することができる。
【0022】
基材の厚みは、特に限定されないが、30〜250μmであることが好ましく、50〜120μmであることがより好ましく、55〜100μmであることが更により好ましい。上記範囲であれば、粘着シートの形態を維持できるので、貼付や剥離等の作業性が良好となる。また、曲面に対しても追従するので、特に、曲面を有する車両に対する施工性も良好となる。
【0023】
上記基材には、本発明の目的を損なわない範囲で必要に応じて、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、顔料、染料、充填剤等の各種添加剤を配合することができる。
【0024】
基材の形成方法は、特に限定されないが、例えば、溶液流延法、溶融押出法、カレンダー法等の従来公知の製膜方法が挙げられる。なお、上記方法により、あらかじめフィルム状に製膜された基材を使用してもよい。
【0025】
[インク受理層]
本発明の粘着シートでは、基材の粘着剤層とは反対の面に、インク受理能を有するインク受理層を更に備えていてもよい。本発明の粘着シートをサインシート用として用いる場合には、外観に広告、表示、装飾のための印刷等を施す必要があるため、インク受理能を有する基材を備えるか、あるいはインク受理層を備える必要がある。例えば、基材がポリ塩化ビニル系樹脂層とポリウレタン系樹脂層との積層体を主体とする場合には、インク定着率が高いポリ塩化ビニル系樹脂層が、ポリウレタン系樹脂層の上(被着体側を下とした場合)に積層されていれば、インク受理層を設ける必要はないが、ポリウレタン系樹脂層がポリ塩化ビニル系樹脂層の上(被着体側を下とした場合)に積層されていれば、インク受理層を設けることが好ましい。また、基材がポリオレフィン系樹脂を主体とする場合には、インク定着率が低いのでインク受理層を設けることが好ましい。
【0026】
インク受理層を構成する樹脂は、特に限定されないが、印刷した際にインクの吸い込みが良好であり、にじみやハジキのない合成樹脂が好ましい。例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、活性エネルギー線硬化性樹脂等を使用することができる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアセタール、ポリスチレン、フッ素樹脂、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリイソブチレン、ポリアミド、石油樹脂、ロジン、ニトロセルロース、ショ糖エステル、塩化ビニル/酢酸ビニル系共重合体、エチレン/酢酸ビニル系共重合体、α−オレフィン/無水マレイン酸系共重合体、スチレン/無水マレイン酸系共重合体等が挙げられる。また、熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル、アルキド樹脂、ケイ素樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。活性エネルギー線硬化性樹脂とは、紫外線、電子線等の活性エネルギー線により硬化する樹脂であり、具体的には、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエーテルアクリレート、ホスファゼン樹脂等が挙げられる。なお、これらは、本発明の目的を損なわない範囲内で、必要に応じて、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。インク受理層の厚みは、特に限定されないが、0.5〜50μmであることが好ましく、1〜30μmであることがより好ましい。
【0027】
上記インク受理層には、本発明の目的を損なわない範囲で必要に応じて、フィラー、更に、ブロッキング防止、カーリング防止、表面光沢の調整、耐候性の向上、インク滴の濡れ性の改善等を目的として、紫外線吸収剤、蛍光増白剤等の蛍光染料、着色剤、増粘剤、レベリング剤、クレーター防止剤、沈降防止剤、酸化防止剤、難燃剤、ワックス、熱安定剤等の各種添加剤を配合することができる。
【0028】
インク受理層の形成方法は、特に限定されないが、例えば、スクリーン印刷法、スプレー法、インクジェット法、押出ダイコーティング法、フレキソグラフィー印刷法、オフセット印刷法、グラビアコーティング法、ナイフコーティング法、刷毛塗り法、カーテンコーティング法、巻線ロッドコーティング法、バーコーティング法等のコーティング法を好適に使用することができる。インク受容組成物は、典型的には、基材に直接適用される。他の選択肢として、インク受理組成物を剥離ライナー上にコーティングしてから基材上に転写コーティングする方法が挙げられる。
【0029】
[保護フィルム]
本発明では、耐候性、防汚性等の向上のために、粘着シートのインク受理層の上に透明性樹脂からなる保護フィルムを設けてもよい。保護フィルムを構成する樹脂は、特に限定されないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、エチレン/塩化ビニル共重合樹脂、エチレン/酢酸ビニル共重合樹脂、クマロン樹脂、ケトン樹脂、ポリ酢酸ビニル、フェノキシ樹脂、ブタジエン樹脂、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリビニルアルコール、メタクリル樹脂、これらの誘導体等が挙げられる。これらの中でも、粘着シートの施工性を向上させるために、基材との相溶性や曲面への追従性に優れるという観点からポリ塩化ビニルが好ましい。
【0030】
上記保護フィルムの厚みは、一般的には、10〜300μmであることが好ましく、より好ましくは20〜200μm程度である。上記範囲であれば、曲面追従性が良好である。
【0031】
なお、保護フィルムの形成の際には、インク受理層に透明なラミネートフィルムを貼り合わせることが好ましい。貼り合わせの際には加熱をしてもよい。ラミネートフィルムは、透明の基材に粘着剤を塗布したものを好適に使用することができる。
【0032】
[粘着剤層]
本発明の粘着シートにおける粘着剤層は、被着体と直接接する層である。本発明の粘着シートを形成する粘着剤層に含まれる樹脂成分の主体は、特に限定されるものではないが、合成ゴム又はシリコーン系樹脂を使用することが好ましい。一般に、車両の表面は、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂を含む塗料で塗装されており、これらの中でも、安価で優れた耐候性を備えたアクリル系樹脂が車両の塗装用途に好ましく利用されている。したがって、被着体が車両の場合には、これらの樹脂系とは異なった合成ゴムやシリコーン系樹脂を用いることにより、粘着剤層と車両表面との間の物質のやり取りに起因する、粘着シートの剥離後に、車両表面に生じ得る段差も低減できると考えられる。なお、ここで主体とは、基材の構成成分全体に占める割合が、50質量%以上をいう。
【0033】
合成ゴムとしては、各種ゴム組成物を使用することができるが、合成ゴムを主成分とするゴム組成物により構成されていることが好ましい。合成ゴムは、天然ゴムとは異なり、不純物(タンパク質等)を含有せず、脂肪族系の不飽和結合を有しないか、その含有量の少ないゴム系ポリマーを適宜選択でき、性能の長期安定性という効果が得られるからである。このような合成ゴムとしては、特に限定されるものではなく、例えば、ブチルゴム、ポリイソプレンゴム、ポリイソブチレンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム(EPT)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、ポリブテンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、スチレン−ブタジエン(SB)ゴム、スチレン−イソプレン(SI)ゴム、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)ゴム、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)ゴム、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)ゴム、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)ゴム、スチレン−エチレン−プロピレンブロック共重合体(SEP)ゴム等が挙げられる。これらの中でもスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)ゴムが特に好ましい。これらの合成ゴムは、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0034】
上記合成ゴムの重量平均分子量は5万〜200万であることが好ましく、より好ましくは10万〜150万である。上記範囲であれば、インク成分の粘着剤層への浸透抑制能と十分な柔軟性とを備えた粘着剤層になるので好ましい。インクに含まれる溶剤等の成分が粘着剤層に浸透すると、粘着力が低下するからである。
【0035】
シリコーン系樹脂は溶剤等をはじく性質があり、インク成分が粘着剤層に浸透するのを防ぐことができる。シリコーン系樹脂としては、ジメチルシロキサン、あるいはそのメチル基の一部をフエニル基で置換したもの等を主体とする公知のシリコーン系樹脂を用いることができる。粘着層は架橋構造とすることが一般的であり、その場合、過酸化物等による適宜の架橋方式を採ることができるが、付加型は過酸化物硬化型と比較して、硬化後の粘着剤の凝集力が大きく、保持力が大きいため、シリコーン系樹脂中にあらかじめSi−CH=CH基やSi−H基を導入し、白金系触媒で付加反応させる架橋方式が好ましい。
【0036】
粘着剤層の厚みは、特に限定されるものではないが、10〜100μmであることが好ましく、15〜80μmであることがより好ましい。上記範囲であれば、粘着物性が安定し、また、糊残りが生じ難い。
【0037】
本発明の粘着シートは、例えば、剥離速度300mm/min、剥離距離120mm、試験体幅25mmの180°剥離試験(「JIS Z 0237」に準拠)条件で測定した、アクリル−スチレン系樹脂を含む塗料で塗装された塗膜等に貼付して30分経過後の剥離強度が、1〜30N/25mmであることが好ましく、5〜20N/25mmであることがより好ましい。上記範囲であれば、使用の際には被着体表面から剥れることなく良好に接着し、また、施工性(貼り直し性)も良好である。なお、使用中に動きを伴う車両のサインシートとして用いる場合には、静止しているビル等に貼り付けられる粘着シートと比較して、粘着剤層が車両表面から容易に剥がれないように、粘着剤層と車両表面とが十分に密着した状態で接着されている必要があり、また、一定の広告期間が経過したら張り替えられるため、車両を損傷等することなく再剥離できることが望ましいが、上記範囲であれば、車両のサインシートとしても好適に使用することができる。
【0038】
上記粘着剤層には、本発明の目的を損なわない範囲で必要に応じて、酸化防止剤、可塑剤、界面活性剤、増粘剤、軟化剤、充填剤、顔料、染料等の各種添加剤を配合することができる。
【0039】
[剥離層]
剥離層は、粘着剤層の上に積層された剥離性を有する剥離部材からなり、粘着剤層の表面を保護する機能を有する。剥離部材は、必要な強度や柔軟性を有するものであれば、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン等の樹脂からなるフィルム又はそれらの発泡フィルムや、グラシン紙、コート紙、ラミネート紙等の紙に、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル基含有カルバメート等の剥離剤で剥離処理したものを使用することができる。剥離層の厚みは、特に限定されないが、好ましくは0.5〜10μmである。なお、粘着シートを抜き加工する場合には、ポリエチレンでラミネートしたラミネート紙をシリコーン系の剥離剤で剥離処理した、厚さ130〜200μmの剥離紙を使用することが好ましい。
【0040】
<粘着シートの製造方法>
本発明の粘着シートの製造方法は、まず、剥離層に、有機溶剤に溶解させた粘着剤(以下、粘着剤溶液とする。)を塗工し、これを乾燥して所望の厚さの粘着剤層を形成する。有機溶剤は、特に限定されず、例えば、1,2,3−トリクロロプロパン、テトラクロルエチレン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化脂肪族炭化水素類;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、オクタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、プロピオン酸メチル、エナント酸メチル、リノール酸メチル、ステアリン酸メチル等のエステル類;シクロヘキサン、ヘキサン、オクタン、スクアラン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン等の芳香族炭化水素類;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N,N′,N′−テトラメチル尿素等のアミド類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;これらの混合物等が挙げられる。粘着剤は、上記合成ゴム、シリコーン系樹脂等の樹脂に、目的に応じて各種添加剤を配合したものである。粘着剤溶液の塗工方法としては、従来公知の方法、例えば、ロールコート法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、リバースコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、含浸法、カーテンコート法、ダイコート法、ドクターブレード法、コンマコート法等が挙げられる。塗工された粘着剤の乾燥条件は、特に限定されないが、通常50〜120℃の温度範囲において、1〜10分間乾燥する。なお、粘着剤の塗布量は、少なすぎると車両表面に対して十分な接着力を確保できず、多すぎると粘着剤が凝集破壊を起こしやすくなり、被着体を汚染したり、支持体の端部から粘着剤がはみ出して、端部周辺を汚染したりしやすくなる。
【0041】
次いで、塗工した粘着剤層上に基材をラミネートし、粘着シートを製造する。なお、本発明の粘着シートをサインシート用として用いる場合であって、基材がインク受理能を有さない場合には、基材の粘着剤層とは反対の面に、インク受理層を更に積層する。
【0042】
本発明の粘着シートの厚みは、特に限定されるものではないが、40〜450μmであることが好ましく、65〜125μmであることがより好ましく、80〜125μmであることが更により好ましい。上記範囲であれば、適度な柔軟性、曲面に対する優れた追従性を有するので、施工性が良い。
【0043】
本発明の粘着シートは、塗料等への貼り跡の段差が生じ難いので、意匠性が求められる物品の輸送時の保護等や、屋内外における広告、表示、装飾等に使用することができ、特に、車両に貼付するサインシート用として好適に使用することができる。ここで、本発明において、サインシートとは、あらかじめ広告等の情報を印刷したフィルムであって、自動車、原動機付自転車、自転車、軽車両、バス、電車、建設車両、農業車両、産業車両、軍用車両等の車両に貼付され、ラッピング広告として用いられるものをいう。ラッピング広告として使用される粘着シートは、一定の広告期間の経過後に張り替えられるため、施工性が良いことが求められる。本発明の粘着シートによれば、優れた追従性と適度な柔軟性を有するので、曲面を有する車両に対しても施工性が良い。また、本発明の粘着シートによれば、応力緩和率が高く、貼り跡の段差が生じ難いので、特に高い意匠性が求められる車両に対しても好適に使用することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0045】
[粘着シートの製造方法]
<実施例1>
アプリケータを用いて、剥離シート(片面にシリコーン系剥離剤による剥離処理が施されてなるポリエステルフィルム,商品名「SP−PET−01」,膜厚38μm,東セロ社製)上に乾燥後の膜厚が25μmとなるように、表1に示す組成の粘着剤溶液を塗工し、粘着剤層を形成した。次いで、粘着剤層中の希釈溶剤をオーブンにより揮発させ(100℃、2分間)、乾燥後の粘着剤層の塗工面に、基材(オレフィンフィルム,商品名「JSRフィルム」,膜厚80μm,JSRトレーディング社製)をラミネートし、粘着シート(膜厚:105μm)を製造した。なお、オレフィンフィルムは、ポリプロピレンベースである。
【0046】
【表1】

【0047】
<実施例2>
実施例1と同様の方法により形成し、乾燥させた粘着剤層の塗工面に、基材(オレフィンフィルム,商品名「PO−A」,膜厚80μm,三菱樹脂社製)をラミネートし、粘着シート(膜厚:105μm)を作製した。なお、オレフィンフィルムは、ポリプロピレン/ポリエチレンベースである。
【0048】
<実施例3>
実施例1と同様の方法により形成し、乾燥させた粘着剤層の塗工面に、基材(オレフィンフィルム,商品名「PO−B」,膜厚100μm,三菱樹脂社製)をラミネートし、粘着シート(膜厚:125μm)を作製した。なお、オレフィンフィルムは、ポリプロピレン/ポリエチレンベースである。
【0049】
<実施例4>
実施例1と同様の方法により形成し、乾燥させた粘着剤層の塗工面に、基材(塩化ビニル/ウレタンフィルム(二層構造:ウレタンフィルムが粘着剤層側),商品名「CX40610」,膜厚55μm,日本カーバイド社製)をラミネートし、粘着シート(膜厚:80μm)を作製した。
【0050】
<比較例1>
実施例1と同様の方法により形成し、乾燥させた粘着剤層の塗工面に、基材(塩化ビニルフィルム,商品名「ハイエスペイント61070」,膜厚80μm,日本カーバイド社製)をラミネートし、粘着シート(膜厚:105μm)を作製した。
【0051】
<比較例2>
実施例1と同様の方法により形成し、乾燥させた粘着剤層の塗工面に、基材(塩化ビニルフィルム,商品名「G−140」,膜厚150μm,三菱樹脂社製)をラミネートし、粘着シート(膜厚:175μm)を作製した。
【0052】
[粘着シートの評価1:応力緩和率]
粘着シート(実施例1〜4,比較例1〜2)を10mm×20mm角に裁断し、剥離シートを剥がして、温度25℃、相対湿度50%の室内にて、引張速度0.03mm/minで1分間引張し、応力(初期応力)を測定した。その後、そのままの状態で引張を停止(引張速度0mm/min)して、停止から2分後の応力(残存応力)を測定した。測定装置には、固体粘弾性アナライザーRSA−II(レオメトリックス社製)を使用した。評価結果を表2に示す。なお、応力緩和率は次式により算出した。
応力緩和率(%)=残存応力(MPa)/初期応力(MPa)×100
【0053】
[粘着シートの評価2:剥離強度]
粘着シート(実施例1〜4,比較例1〜2)を25mm幅に切断し、剥離シートを剥がして試験片を作製した。この試験片をアクリル−スチレン系樹脂を含む塗料で塗装された塗膜面に2kgのローラーを用いて貼り付け、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気下で30分間放置した。そして、引張り試験機(RTF−1150−H)を用いて、剥離強度を測定(剥離速度:300mm/min,剥離距離:120mm,剥離角度:180°)した(「JIS Z 0237」に準拠)。評価結果を表2に示す。
【0054】
[粘着シートの評価3:貼り跡]
粘着シート(実施例1〜4,比較例1〜2)を25mm×150mm角に裁断し、剥離シートを剥がして、温度23℃、相対湿度50%の室内にて、アクリル系塗装板に2kgゴムローラーを一往復させて貼り付けた。そして、60℃、相対湿度90%の雰囲気下で72時間放置した後、剥離角度180°、剥離速度300mm/minにて剥離し、剥離後の貼り跡を目視にて観察するとともに、以下の測定装置にて貼り跡の段差(深さ)を確認した。評価結果を表2に示す。なお、評価は以下の基準にて行った。
【0055】
[測定装置]
走査型白色干渉計(製品名「Zygo NewViewTM 6300」,Zygo社製)
測定原理:走査型白色干渉法(SWLI+FDA)
垂直分解能:0.1nm
光源:白色LED
垂直測定範囲:1nm〜15mm
【0056】
[評価基準]
○:目視では粘着シートに貼り跡が見られない。
×:粘着シートに貼り跡がはっきりと見られる。
【0057】
【表2】

【0058】
基材として、オレフィン(実施例1〜3)、塩化ビニル/ウレタン(実施例4)を使用した粘着シートでは、塩化ビニル(比較例1,2)を使用した粘着シートと比較して、貼り跡の段差が浅くなることが確認された。塩化ビニル(比較例1,2)を使用した粘着シートでは、応力緩和率が低い値を示したことから、基材の応力により塗装板の収縮が生じ、段差が深くなったものと推測される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の一方の面に形成された粘着剤層と、を備え、
下記試験方法による初期応力が1.00〜9.50MPaであり、且つ、応力緩和率が55%以上である粘着シート。
[試験方法]10mm×20mm角の粘着シートを、温度25℃、相対湿度50%の室内にて、引張速度0.03mm/minで1分間引張し、応力(初期応力)を測定する。その後、粘着シートの引張を停止し、停止から2分経過後の応力(残存応力)を測定する。応力の測定には、固体粘弾性アナライザーを使用する。そして、下記式により応力緩和率を算出する。
応力緩和率(%)=残存応力(MPa)/初期応力(MPa)×100
【請求項2】
前記基材が、ポリオレフィン系樹脂を主体とする請求項1に記載の粘着シート。
【請求項3】
前記基材が、ポリ塩化ビニル系樹脂とポリウレタン系樹脂との積層体を主体とする請求項1に記載の粘着シート。
【請求項4】
前記基材の粘着剤層とは反対の面に、インク受理能を有するインク受理層を更に備える請求項1〜3いずれかに記載の粘着シート。
【請求項5】
車両に貼付するサインシート用として用いる請求項1〜4いずれかに記載の粘着シート。

【公開番号】特開2010−202735(P2010−202735A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−48247(P2009−48247)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】