説明

粘着シート

【課題】高い粘着力と優れた再剥離性、粘着力の経時的な増大が抑制され、低金属腐食性、低アウトガス性を有し、特に電子部品貼付用の粘着シートとして有用な粘着シートを提供すること。
【解決手段】基材シートの少なくとも片面に粘着剤層を設けた粘着シートにおいて、粘着剤層を形成する粘着剤が下記の(A)〜(C)成分(A)アルキル基の炭素数2〜6の(メタ)アクリル酸アルキルエステル76.999〜94.999質量%、(B)エチレン性不飽和基含有モルフォリン系化合物5.0〜23.0質量%、(C)水酸基含有不飽和単量体0.001〜1.5質量%を共重合させてなるカルボキシル基未含有アクリル系共重合体に(D)イソシアネート系架橋剤を配合してなるアクリル系共重合体を主成分とする樹脂組成物であって、イソシアネート系架橋剤がキシリレンジイソシアネート系架橋剤およびトリレンジイソシアネート系架橋剤を併用してなり、前記アクリル系共重合体中の水酸基のモル数(M1)に対するイソシアネート系架橋剤中のNCO基のモル数(M2)の比M2/M1が8.0〜30になるような割合で含むことを特徴とする粘着シートである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粘着シート、特に電子部品貼付用として有用な粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
一般の粘着シートまたはラベルにおいては、粘着剤として、従来から(メタ)アクリル酸アルキルエステルをモノマー成分とするアクリル系共重合体を含む樹脂組成物がしばしば用いられてきた。近年の電子部品用の粘着シートまたはラベルにおいては、アクリル系共重合体に(メタ)アクリル酸のような不飽和カルボン酸[以下、(メタ)アクリル酸等ということがある]を使用すると、側鎖部分の分解を助長し、側鎖分解物に由来するアルコール成分がアウトガスとなり、電子部品の動作に不具合を与える恐れがあるため、他の官能基を有する単量体を使用する必要がある。
また、電子部品用の粘着シートにおいて、被着体は金属が主であり、様々な環境下で使用されることから、金属に対して腐食作用のないという性能も要求される。この性能を付与するには、モノマーとして腐食の要因となる(メタ)アクリル酸等を使用しないことが特に重要となる。
一方、金属への粘着力について、極性の高い(メタ)アクリル酸等に由来するアクリル系共重合体の側鎖のカルボキシル基は非常に重要な役割を有しているため、単純に(メタ)アクリル酸等の使用を避けると別の問題が生じる。つまり、モノマーとして(メタ)アクリル酸等を使用しないアクリル系共重合体を主成分とする樹脂組成物からなる粘着剤においては、(メタ)アクリル酸等によるポリマー全体としての高極性化が得られず、金属被着体への接着力が十分でなく、粘着シートの浮き、剥がれ等が生じる懸念がある。
また、イソシアネート系架橋剤による架橋の際には、数々の架橋促進剤を用いることが知られているが、以下の理由で電子部品貼付用としては不適当である。有機スズ系の架橋促進剤(特許文献1)は有機スズ自体がアウトガスとして電子部品を汚染するのでシリコーンと同様に本用途では使用に適さない。
アミノ基含有化合物(特許文献2)のような架橋促進剤は低分子量のため、乾燥時に揮発してしまい促進効果が薄れるほか、アウトガス成分としても検出される恐れがある。
また高分子量のアミノ基含有化合物を適用しても被着体を汚染する恐れがあることからこれも本用途には適さない。
さらに、アクリル系共重合体の単量体成分として高極性単量体であるアミド基含有単量体のような窒素原子含有共重合性単量体を用いることが提案(特許文献3)されているが、共重合体のTgを大きく上昇させてしまうため、濡れ性の低下が起こり、結果として充分な粘着力が得られないという問題がある。
さらにまた、ナフテン酸亜鉛、2−エチルヘキサン酸亜鉛等の有機亜鉛化合物やステアリン酸鉛、ナフテン酸鉛、2−エチルヘキサン酸鉛等の有機鉛化合物のような架橋促進剤を用いることが提案(特許文献4)されているが、人体に有毒な重金属を使用せねばならないという問題がある。
加えて、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、水酸基等の官能基含有不飽和単量体およびエチレン性不飽和基含有モルフォリン系化合物を含有させてなるカルボキシル基未含有アクリル系共重合体と架橋剤であるイソシアネート化合物を組み合わせた樹脂組成物からなる粘着剤を用いた粘着シートが提案されている(特許文献5)。
しかしながら、架橋剤は任意成分である上、特定の異なる2種類のイソシアネート化合物を組み合わせて使用することは全く示唆されていないし、共重合体に対してそれらを特定量用いることにより、粘着特性を制御できることも全く示唆されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−44896号公報
【特許文献2】特開2005−154531号公報
【特許文献3】特開2005−325250号公報
【特許文献4】特開2006−96956号公報
【特許文献5】特開2008−222967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、カルボキシル基を含有せず、水酸基を含有するアクリル系共重合体を用いた粘着剤を用いているにもかかわらず、特に、金属被着体への高い粘着力を有するとともに再剥離性に優れ、粘着力の経時的な増大が抑制され、カルボキシル基を含んでいないので、アウトガス発生量も少ない粘着シート、かつ、再剥離の作業性向上のため、貼付後の粘着力の経時的な増大が抑制された粘着シート、特に、電子部品貼付用粘着シートの提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するため、本発明者らはアクリル系共重合体を構成する共重合性モノマー成分のひとつとして、エチレン性不飽和基含有モルフォリン系化合物および少量の水酸基含有不飽和単量体を用い、同アクリル系共重合体の水酸基に対して異なる2種類のイソシアネート系架橋剤を所定割合で配合することにより上記目的を達成することができることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、下記
(1)基材シートの少なくとも片面に粘着剤層を設けた粘着シートにおいて、粘着剤層を形成する粘着剤が下記の(A)〜(C)成分
(A)アルキル基の炭素数2〜6の(メタ)アクリル酸アルキルエステル
76.999〜94.999質量%
(B)エチレン性不飽和基含有モルフォリン系化合物
5.0〜23.0質量%
(C)水酸基含有不飽和単量体
0.001〜1.5質量%
を共重合させてなるカルボキシル基未含有アクリル系共重合体に
(D)イソシアネート系架橋剤
を配合してなるアクリル系共重合体を主成分とする樹脂組成物であって、イソシアネート系架橋剤がキシリレンジイソシアネート系架橋剤およびトリレンジイソシアネート系架橋剤を併用してなり、前記アクリル系共重合体中の水酸基のモル数(M1)に対するイソシアネート系架橋剤中のNCO基のモル数(M2)の比M2/M1が8.0〜30.0になるような割合で含むことを特徴とする粘着シート、
(2)トリレンジイソシアネート系架橋剤中のNCO基(TDI-NCO)に対するキシリレンジイソシアネート系架橋剤中のNCO基(XDI-NCO)のモル比XDI-NCO/TDI-NCOが0.2〜4.0ある上記(1)に記載の粘着シート、
(3)M2/M1が8.0〜25.0である上記(1)または(2)に記載の粘着シート、
(4)粘着剤層のゲル分率が70.0%〜90.0%である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の粘着シート、
(5)前記(A)成分がアクリル酸n-ブチルである上記(1)〜(4)のいずれかに記載の粘着シート、
(6)前記(C)成分がアクリル酸2−ヒドロキシエチルである上記(1)〜(5)のいずれかに記載の粘着シート、
(7)粘着シートの粘着剤層面に剥離基材と非シリコーン系剥離層からなる剥離シートの剥離層面が積層された上記(1)〜(6)のいずれかに記載の粘着シート、
(8)アウトガス発生量がn−デカン換算量で0.5μg/cm2未満である上記(1)〜(7)のいずれかに記載の粘着シート、
(9)電子部品貼付用である上記(1)〜(8)のいずれかに記載の粘着シートおよび
(10)電子部品がハードディスクである上記(9)に記載の粘着シートを提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の粘着シートは、カルボキシル基を含有せず、水酸基を含有するアクリル系共重合体を含む粘着剤を用いているにもかかわらず、金属被着体に対して高い粘着力を有するとともに再剥離性に優れ、粘着力の経時的な増大が抑制され、かつ、粘着シートからのアウトガス発生量も少ない(鋼板腐食性が低い)という効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の粘着シートにおいて、粘着剤層を形成するカルボキシル基未含有アクリル系共重合体は、(A)成分としてアルキル基の炭素数2〜6の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(B)成分としてエチレン性不飽和基含有モルフォリン系化合物及び(C)成分として水酸基含有不飽和単量体をいずれも特定量含む単量体混合物を共重合させてなるものである。
(A)成分であるアルキル基の炭素数が2〜6の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシルなどが挙げられる。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でタック性や凝集力とのバランス、及び重合後の残留モノマー、側鎖分解物の沸点を低くし、粘着剤塗工時の熱乾燥による揮発除去の観点から、(メタ)アクリル酸ブチル、特にアクリル酸n-ブチルが好ましく用いられる。
上記(A)成分の使用量は(A)〜(C)成分の合計量を100質量%として、76.999〜94.999質量%であることが必須であり、好ましくは、75.0〜88.0質量%程度、特に80.0〜85.0質量%の範囲であることが、特に粘着剤の優れた粘着力と再剥離性、粘着力の経時的な増大が抑制されるなど、バランスの点で好ましい。
【0008】
本発明において、前記アクリル系共重合体には、極性の高い単量体である(メタ)アクリル酸のような不飽和カルボン酸類を使用しない替わりに(B)成分としてエチレン性不飽和基含有モルフォリン系化合物および(C)成分として水酸基含有不飽和単量体が用いられる。
エチレン性不飽和基含有モルフォリン系化合物としては、窒素原子と酸素原子をそれぞれ有する6員環の複素環を有するエチレン性不飽和単量体であるN−ビニルモルフォリン、N−アリルモルフォリン、N−(メタ)アクリロイルモルフォリンなどが挙げられる。
これらの中で(A)成分及び(C)成分との共重合性が良好であるという観点から、N−(メタ)アクリロイルモルフォリンが好ましく用いられる。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、架橋剤との反応性を高める目的で(B)成分のエチレン性不飽和基含有モルフォリン系化合物ととともにエチレン性不飽和基含有イミダゾール系化合物を添加しても良い。具体的には、N−ビニルイミダゾール、N−アリルイミダゾール、N−(メタ)アクリロイルイミダゾールなどが挙げられる。
上記(B)成分の使用量は(A)〜(C)成分の合計量を100質量%として、5.0〜23.0質量%であることが必須であり、10.0〜20.0質量%の範囲であることが粘着剤の優れた粘着力と再剥離性、粘着力の経時的な増大の抑制などのバランスの点で好ましい。
本発明の粘着シートにおいて粘着剤層を形成するアクリル系共重合体中の(B)成分は共重合体中に組み込まれ、側鎖にモルフォリン構造を含み、これが後で述べる(D)成分のイソシアネート系架橋剤と(C)成分の水酸基含有不飽和単量体に由来する水酸基との架橋反応において架橋促進剤の役割を有しており、低分子量の架橋促進剤による前記従来技術におけるような問題はない。
【0009】
次に、(C)成分の水酸基含有不飽和単量体について説明する。
本発明においては、水酸基含有不飽和単量体としては、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル類、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチルなどが挙げられる。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明においては、(C)成分として上記のような水酸基含有不飽和単量体が熱などによる変色がない点で好ましく用いられる。
本発明においては、(メタ)アクリル酸のような不飽和カルボン酸を使用しないことが必要であり、それによって側鎖としてカルボキシル基を全く含まないアクリル系共重合体が得られ、特に電子部品貼付用に有用な粘着シートを提供することができる。
(C)成分の使用量は(A)〜(C)成分の合計量を100質量%として、0.001〜1.5質量%であることが必須であり、好ましくは0.1〜1.2質量%程度、特に0.2〜0.8質量%程度であることが粘着剤の優れた粘着力と再剥離性、粘着力の経時的な増大の抑制などのバランスの点で好ましい。
【0010】
本発明において、前記アクリル系共重合体には、重合時にその他の単量体成分としてスチレン、酢酸ビニル、(メタ)アクリロニトリル等前記の(A)〜(C)成分及び不飽和カルボン酸類以外のエチレン性不飽和単量体を必要に応じて加えることができる。
【0011】
本発明において、粘着剤に用いられるアクリル系共重合体は、前記の単量体混合物を、たとえば、トルエンやキシレンのような炭化水素系や酢酸エチルのようなエステル系の有機溶剤中に溶解後、従来公知のアゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2−アミノジプロパン)二塩酸塩、4,4'−アゾビス(4−シアノ吉草酸)等のアゾ系重合開始剤またはベンゾイルパーオキシド等の過酸化物系重合開始剤を添加してラジカル重合させて製造するのが好ましい。
上記重合開始剤の量は、単量体混合物100質量部に対して0.01〜5質量部の範囲が好ましく、特に0.1〜1質量部の範囲が好ましい。
重合反応においては、重合の進行とともに重合系中の単量体混合物と重合開始剤とが次第に低減していき、重合後期には両者が出会う確率が非常に低くなるため、系内には単量体混合物が残存することとなる。残存単量体混合物は、粘着シートの異臭の原因となり、また、刺激性のある化合物であることが多いので、粘着剤中に残存していることは好ましくない。微量な(仕込みモノマーに対し数%以下)残存単量体混合物をポリマーから分別するのは、省エネルギー性の観点から好ましくない。したがって、ブースターと呼ばれる後添加重合開始剤を重合終了間際に系内に添加して、この残存単量体混合物を極力重合させて残存単量体混合物を低減させる手法がとられる。
ラジカル重合は、通常10〜100℃程度、好ましくは、50〜90℃程度で、1〜20時間程度、好ましくは3〜10時間程度加熱して行うことにより、アクリル系共重合体の有機溶剤溶液が得られる。
得られるカルボキシル基未含有アクリル系共重合体の重量平均分子量は、通常20万以上、好ましくは、40万〜200万、さらに好ましくは、50万〜100万である。この重量平均分子量はゲルパーミエイションクロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算の数値である。
高分子量化手法としては、溶剤として連鎖移動しにくいものを選択する、反応液中の単量体混合物の濃度を高くする(溶剤への連鎖移動を防止するため溶剤濃度を低くする)、重合開始剤の濃度(対モノマー)を低くする、比較的低めの反応温度で重合する等の方法があり、これらを組み合わせて重合することにより、上記のような重量平均分子量を有するカルボキシル基未含有アクリル系共重合体得ることができる。
【0012】
本発明における粘着剤は、樹脂成分として前記カルボキシル基を含有せず、水酸基を含有するアクリル系共重合体を主成分とするものであるが、このアクリル系共重合体を架橋するために、(D)成分として異なる2種類のイソシアネート系架橋剤、すなわち、キシリレンジイソシアネート(XDI)系架橋剤およびトリレンジイソシアネート(TDI)系架橋剤を併用した樹脂組成物がイソシアネート系架橋剤として用いられる。「系」という意味はXDIおよびTDIがそれぞれトリメチロールプロパンのようなポリオールで変性されたアダクト体やビュレット化合物の場合を含むことを意味する。
中でも、水酸基との架橋反応速度及び優れた再剥離性、粘着力の経時的な増大の抑制の観点からXDI系架橋剤としては、特に、トリメチロールプロパンで変性されたアダクト型キシリレンジイソシアネートが好ましい。
(D)成分であるイソシアネート系架橋剤の使用量は、カルボキシル基未含有アクリル系共重合体中の水酸基のモル数(M1)に対する(D)成分のNCO基(以下、イソシアネート基ということもある)のモル数(M2)の比M2/M1が8.0〜30となるようにコントロールすることを要する。
M2/M1を8.0以上とすることにより、高い粘着力が得られ、30以下とすることにより、粘着力が低下せず、かつ、イソシアネート基が粘着剤中に残存することを抑制することができる。
M2/M1は、好ましくは8.0〜25、より好ましくは12〜20である。
XDI系架橋剤とTDI系架橋剤の使用比率は、TDI系架橋剤中のNCO基(TDI-NCO)に対するXDI系架橋剤中のNCO基(XDI-NCO)のモル比XDI-NCO/TDI-NCOが0.2〜4.0になるようにコントロールすることが好ましい。より好ましくは0.4〜2.0である。
両者の使用比率を上記範囲内とすることにより、再剥離性の低下や貼付後の粘着力の経時的な増大を抑制することができる。
ちなみに、貼付後の粘着力の経時的な増大の範囲は、再剥離の作業性向上のため、粘着力に対する貼付後熱促進粘着力の比が2未満であることが好ましい。
【0013】
本発明の粘着シートは、上記のようにして調製された樹脂組成物を用いて形成された粘着剤層を有するものであり、その形態については特に制限はなく、例えば基材シートの片面に粘着剤層を有するもの、基材シートの両面に粘着剤層を有するもの、あるいは基材シートを用いずに、2枚の剥離シートにより粘着剤層が挟持されたものや、両面が剥離処理された剥離シートの片面に粘着剤層を設け、ロール状に巻かれたものなど、いずれも用いることができる(剥離剤および剥離シートについては後で詳しく説明する)。
前記粘着剤層の厚さとしては、特に制限はなく、粘着シートの用途などに応じて適宜選定されるが、通常5〜100μmの範囲、好ましくは10〜60μmの範囲で選定される。
この粘着剤層は、従来公知の方法、例えばスピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法などの方法により基材シートや剥離シートの剥離層面に粘着剤を塗工したのち、溶剤や低沸点成分の残留を防ぐために、80〜150℃の温度で30秒〜5分間加熱して形成させるのが望ましい。
【0014】
前記基材シートとしては特に制限はなく、様々なものを用いることができる。具体的にはポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレナフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリイミド、ポリアミド等の樹脂からなるシート、これらのシートにアルミニウムなどの金属蒸着を施したもの、上質紙、含浸紙などからなる紙類、アルミニウム箔や銅箔や鉄箔などの金属箔、さらには不織布、合成紙などが用いられる。
これらの基材シートの厚さは特に制限はなく、通常2〜200μm程度の範囲であるが、取り扱いやすさの面から、好ましくは10〜150μm程度の範囲である。
【0015】
本発明の粘着シートにおいては、粘着剤層上に、所望により剥離シートを設けることができる。この剥離シートとしては、例えばグラシン紙、コート紙、上質紙などの紙基材、これらの紙基材にポリエチレンやポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂をラミネートしたラミネート紙、又上記基材にセルロース、デンプン、ポリビニルアルコール、アクリル−スチレン樹脂などで目止め処理を行なった紙基材、あるいはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルフィルム、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンフィルムのようなプラスチックフィルム、およびこれらのプラスチックフィルムに易接着処理を施したフィルムなどに剥離剤を塗布したものなどが挙げられる。
【0016】
剥離剤層を形成させるために用いる剥離剤としては、例えばオレフィン系樹脂、イソプレン系樹脂、ブタジエン系樹脂などのゴム系エラストマー、長鎖アルキル系樹脂、アルキド系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂などが用いられる。
本発明の粘着シートをハードディスク製造時や管理時の情報ラベルとして用いる場合にシリコーン系剥離剤を使用すると、シリコーン成分が剥離剤層から粘着剤層に微量移行し、さらにハードディスク装置に付着し、それがハードディスク装置内部の記録ディスクや読み取りヘッドに酸化物などを形成し、該ハードディスク装置の機能を破損する場合がある。また、粘着剤層の揮発分の他に、剥離剤層由来のシリコーン低分子量成分の揮発が問題となる。したがって、ハードディスク用途に本発明の粘着シートを用いる場合には、非シリコーン系剥離剤の使用が好ましい。また、剥離剤としてシリコーン系剥離剤を用いる場合には、シリコーン成分の粘着剤層への移行の少ないものを選択することが望ましい。
基材上に形成される剥離剤層の厚さは、特に限定されないが、剥離剤を溶液状態で塗工する場合は0.01〜2.0μmであるのが好ましく、より好ましくは、0.03〜1.0μmである。
剥離剤層として、ポリエチレンやポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂を用いて押出し成膜させる場合は、剥離剤層の厚さは、3〜50μmであるのが好ましく、5〜40μmであるのがより好ましい。
【0017】
上記のようにして製造された本発明の粘着シートは粘着力および再剥離性にすぐれ、粘着力の経時的な増大が抑制され、かつ、アウトガス発生量が少ないという特徴を有する。本発明において、アウトガス発生量はn−デカン換算値で比較される。
本発明の粘着シートは、120℃の温度で10分間加熱した際の発生ガス量(A)が、n−デカン換算量で、好ましくは0.5μg/cm2未満、さらに好ましくは0.3μg/cm2以下であることにより、貼付した電子部品の誤動作をもたらす可能性が著しく低減するため、特に精密電子部品への貼付に適している。
なお、本発明の粘着シートが剥離シートを有する場合には、前記発生ガス量は、前記剥離シートを剥離除去して測定した値である。具体的な発生ガスの測定方法については実施例で詳しく説明する。
本発明の粘着シートにおける粘着剤層のゲル分率は、再剥離性の観点から70.0%〜90.0%であることが好ましく、より好ましくは、75.0%〜90.0%である。ゲル分率の測定方法は後で詳細に説明する。
本発明の粘着シートが、情報ラベル用、固定用、絶縁用等の目的で適用される精密電子部品としては、例えばハードディスク装置、増設メモリーやICカードなどの半導体部品、半導体製造装置、リレースイッチ、配線基板などを挙げることができる。
【実施例】
【0018】
以下、実施例及び比較例により、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらにより何ら制約されるものではない。
なお、実施例及び比較例において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した標準ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0019】
〔実施例1〕
<カルボキシル基未含有アクリル系共重合体の調製>
(A)成分としてアクリル酸n-ブチル〔表1中の表示はBA〕84.8g、(B)成分としてN−アクリロイルモルフォリン〔表1中の表示はACMO〕15.0g、(C)成分としてアクリル酸2−ヒドロキシエチル〔表1中の表示はHEA〕0.2gを反応器中で混合して単量体混合物を調製した。
この単量体混合物に重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.1g、溶剤として酢酸エチル150gを混合し、攪拌しながら75℃に昇温して重合反応を行い、さらにトルエン10gにアゾビスイソブチロニトリル0.1gを溶解させた重合触媒溶液を逐次添加しながら同温度で8時間かけて重合を完了させた。
重合完了後、希釈溶剤(トルエンと酢酸エチルの質量比1/1の混合溶液)を追加することにより重量平均分子量70万のカルボキシル基未含有アクリル系共重合体の35質量%溶液を製造した。
<アクリル系共重合体を主成分とする樹脂組成物の調製>
上記カルボキシル基未含有アクリル系共重合体溶液100g(固形分35質量%)にトリメチロールプロパン変性キシリレンジイソシアネート〔表1中の表示はXDI〕系架橋剤(商品名「BXX5640」、東洋インキ製造(株)製、固形分35質量%のトルエン/酢酸エチル混合溶液、NCO含有量約20モル%)2.0gとトリレンジイソシアネート〔表1中の表示はTDI〕系架橋剤(商品名「BHS8515」、東洋インキ製造(株)製、固形分37.5質量%のトルエン/酢酸エチル混合溶液、NCO含有量約20モル%)2.0gを配合し、樹脂組成物の溶液を調製した。
<粘着シートの作製>
基材シートとして厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム〔東洋紡績(株)製、コスモシャインA4100〕を用い、上記で得られた樹脂組成物の溶液を乾燥後の厚さが25μmになるように塗工した後、120℃で2分間乾燥させて粘着剤層を形成させた。次いで、粘着剤層面に剥離剤層を有する剥離シートの剥離剤層面を貼付して粘着シートを作製し、室温23℃、湿度50%の条件下で7日間養生した。剥離シートは以下のように作製した。
剥離シート基材として、厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム〔三菱ポリエステルフィルム社製:商品名「T100」〕を準備し、その片面にアンダーコート液を乾燥後の膜厚が0.15μmとなるように塗工し、100℃で1分間加熱・乾燥させてアンダーコート層を形成させた。アンダーコート液はポリウレタン溶液〔大日本インキ化学工業社製:商品名「クリスボン5150S」、固形分50質量%)100質量部、イソシアネート系架橋剤(大日本インキ化学工業社製:商品名「クリスボンNX」固形分30質量%のトルエン
溶液)5質量部をメチルエチルケトンにて固形分濃度が1質量%になるように希釈して調製した。
次いで、剥離剤層を形成させるために、1,4−ポリブタジエン(JSR社製:商品名「BR−01」、固形分5質量%のトルエン溶液)100質量部と酸化防止剤〔チバスペシャルティケミカルズ(株)製:商品名「IRGANOX HP2251」〕1質量部を加え、トルエンにて固形分が0.5質量%になるように希釈して剥離剤溶液を調製した。
上記下地層上にこの剥離剤溶液を乾燥後の膜厚が0.1μmとなるように塗布し、100℃で30秒間加熱して非シリコーン系の剥離剤層を形成させた。
次いで、フュージョンHバルブ240W/cmの1灯つきベルトコンベヤー式紫外線照射装置により、コンベヤー速度40m/分の条件(紫外線照射条件:100mJ/cm2)にて剥離剤層に紫外線照射を行い、硬化させて剥離シート基材の片面に下地層および剥離剤層を有する剥離シートを得た。
【0020】
〔実施例2〜16〕
XDI系架橋剤とTDI系架橋剤を表1に示すそれぞれの量に変えた以外は実施例1と同様にして粘着シートを作製し、室温23℃、湿度50%の条件下で7日間養生した。
【0021】
〔比較例1〜9〕
XDI系架橋剤とTDI系架橋剤を表1に示す割合に変えた以外は実施例1と同様にして粘着シートを作製し、室温23℃、湿度50%の条件下で7日間養生した。
【0022】
〔比較例10および11〕
市販のアクリル系粘着剤〔アクリル酸n-ブチル/2−エチルヘキシルアクリレート/アクリル酸/アクリル酸2−ヒドロキシエチル=48/48/3.6/0.4(質量比、固形分40%の酢酸エチル/トルエン混合溶液)、重量平均分子量50万〕100gに対して上記のXDI系架橋剤とTDI系架橋剤を表1に示す配合量に変更した以外は実施例1と同様にして粘着シートを作製し、室温23℃、湿度50%の条件下で7日間養生した。
このようにして得られた実施例及び比較例の粘着シートを用い、下記の方法に従って特性評価を行った。その結果を後記する表1に併せて示す。
【0023】
<粘着力>
上記各粘着シートをステンレス板に23℃、50%RH環境下にて接着させ、JIS Z 0237の粘着力の測定法に準じて貼付して24時間後、180°における引き剥がし粘着強度(N/25mm)を測定した。
<貼付後熱促進粘着力>
上記各粘着シートをステンレス板に23℃、50%RH環境下にて接着させ、60℃、ドライ条件下に1週間放置後、23℃、50%RH環境下にて180°における引き剥がし粘着強度(N/25mm)を測定した。この貼付後熱促進粘着力が粘着力の経時的な増大の指標となる。
<ゲル分率>
上記各粘着シート(基材+粘着剤層)をナイロンメッシュ(#200)で包み、酢酸エチル還流下16時間抽出を行い、メッシュに残存した不溶解分の質量を測定し、粘着シートの質量変化について質量百分率に換算してゲル分率(%)とした。なお、このゲル分率は基材のみを同条件で測定して得られるゲル分率の値を、粘着シートを測定して得られるゲル分率の値から差し引いた値である。
<ボールタック>
上記各粘着シートを、JIS Z 0237に準じて測定した。
<アウトガス発生量>
発生ガス量はパージ&トラップGC Mass〔日本電子工業(株)製、JHS−100A〕にて測定した。試料(20cm2)をアンプル瓶に封入し、アンプル瓶をパージ&トラップGC Massにて、120℃、10分間加熱してガスを採取し、その後GC Mass(PERKIN ELMER製、Turbo Mass)に導入して、n-デカンを用いて作成した検量線より発生するガス量をn-デカン換算量(μg/cm2)として求めた。
<再剥離性>
上記各粘着シートを、25mm×50mmの大きさにカットしたものをステンレス板に貼付した後、60℃、ドライ条件下7日間放置してから粘着シートを剥がした時の再剥離性を測定した。○印はステンレス板に粘着剤が残ることなくステンレス板の表面から粘着シートの粘着剤層がスムーズに剥離できたもの、Cfは粘着剤層が凝集破壊を示してステンレス板の表面に部分的に残ったものである。Atは粘着剤層が界面破壊傾向を示してステンレス板の表面に全体的に残ったものである。
<残存イソシアネート基(表中ではIRと表示)>
粘着シートの粘着剤に残存しているイソシアネート基を赤外分光法で測定した。2250cm-1付近に吸収ピークが観測されたものを「有」、されなかったものを「無」と表示する。
「−」は測定していないことを示す。
<剥離力>
各実施例および各比較例の粘着シートについて剥離シートの常態剥離力および熱促進剥離力を測定した。
剥離力の測定は、以下のように行った。
上記各粘着シートをJIS−Z0237に準拠し、巾50mm、長さ200mmに裁断し、室温下、引っ張り試験機を用いて、剥離シートを固定し、粘着シートを300mm/分の速度で180°方向に引っ張ることにより、剥離力を測定し、これを常態剥離力とした。
粘着シートを温度70℃条件下(70℃の恒温層)に168時間放置後に23℃、50%RH条件下に24時間放置後、常態剥離力と同様の方法で、剥離力を測定し、これを熱促進剥離力とした。
<保持力>
各実施例および各比較例で粘着シートを23℃、50%RH環境下で、25mm×100mmにカットした粘着シート試験片を貼付面積が25mm×25mmとなるように被着体(SUS304)に貼付して試験サンプルとした。
その後、40℃環境下、1kgの錘で荷重(9.8N)をかけて保持力を測定した。なお、試験時間は70000秒とし、表1中の70000は70000秒を超えても錘が落下しなかったことを示す(JIS Z0237に準拠)。70000以外の数値は錘が落下するまでの時間(秒)である。
【0024】
【表1】

【0025】
上記の結果から、実施例で得られた粘着シートは高い粘着力を示すとともに、粘着力の経時的な増大が抑制される(粘着力に対する貼付後熱促進粘着力の比はほとんどの実施例において2未満)ことが確認される。また、ステンレス板に対する再剥離性テストにも優れており、アウトガス発生についても十分に低い発生量であることが確認される。
一方、TDI系架橋剤とXDI系架橋剤の両方を併用しているがM2/M1が小さい比較例1、4、M2/M1が大きい比較例9および、どちらか一方のみを使用した比較例2〜3および5〜8においては、粘着力の経時的な増大が顕著となり、実施例のものより劣っていることがわかる。比較例2〜9の中には、再剥離性に劣っているものやゲル分率が小さ過ぎるもの、大き過ぎるもの、残存イソシアネート基の多いものもあり、実施例のものよりかなり劣っていることがわかる。
TDI系架橋剤とXDI系架橋剤による作用の違いについては、以下のことが示されている。
すなわち、TDI系架橋剤はXDI系架橋剤に比べてアクリル共重合体中の水酸基と反応しやすいため、ゲル分率が上昇しやすく、一方、XDI系架橋剤は、ゲル分率は上昇しにくいものの、再剥離性の向上や、粘着力の経時的な増大を抑制すると考えられる。したがって、TDI系架橋剤とXDI系架橋剤を併用し、架橋剤中のNCO基の総モル数および、各架橋剤中のNCO基のモル比を最適な範囲にすることで、高い粘着力を有するとともに再剥離性に優れ、粘着力の経時的な増大を抑制できると考えられる。
さらに、アクリル酸に由来する構造を含有するアクリル系粘着剤を用いた比較例10および11では粘着力や再剥離性に優れ、粘着力の経時的な増大が抑制されるという点で問題はないが、アウトガス発生量が多く、かつ、熱促進剥離力と常態剥離力の比が大きく、実施例のものより劣っていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シートの少なくとも片面に粘着剤層を設けた粘着シートにおいて、粘着剤層を形成する粘着剤が下記の(A)〜(C)成分
(A)アルキル基の炭素数2〜6の(メタ)アクリル酸アルキルエステル
76.999〜94.999質量%
(B)エチレン性不飽和基含有モルフォリン系化合物
5.0〜23.0質量%
(C)水酸基含有不飽和単量体
0.001〜1.5質量%
を共重合させてなるカルボキシル基未含有アクリル系共重合体に
(D)イソシアネート系架橋剤
を配合してなるアクリル系共重合体を主成分とする樹脂組成物であって、イソシアネート系架橋剤がキシリレンジイソシアネート系架橋剤およびトリレンジイソシアネート系架橋剤を併用してなり、前記アクリル系共重合体中の水酸基のモル数(M1)に対するイソシアネート系架橋剤中のNCO基のモル数(M2)の比M2/M1が8.0〜30.0になるような割合で含むことを特徴とする粘着シート。
【請求項2】
トリレンジイソシアネート系架橋剤中のNCO基(TDI-NCO)に対するキシリレンジイソシアネート系架橋剤中のNCO基(XDI-NCO)のモル比XDI-NCO/TDI-NCOが0.2〜4.0ある請求項1に記載の粘着シート。
【請求項3】
M2/M1が8.0〜25.0である請求項1または2に記載の粘着シート。
【請求項4】
粘着剤層のゲル分率が70.0%〜90.0%である請求項1〜3のいずれかに記載の粘着シート。
【請求項5】
前記(A)成分がアクリル酸n-ブチルである請求項1〜4のいずれかに記載の粘着シート。
【請求項6】
前記(C)成分がアクリル酸2−ヒドロキシエチルである請求項1〜5のいずれかに記載の粘着シート。
【請求項7】
粘着シートの粘着剤層面に剥離基材と非シリコーン系剥離層からなる剥離シートの剥離層面が積層された請求項1〜6のいずれかに記載の粘着シート。
【請求項8】
アウトガス発生量がn−デカン換算量で0.5μg/cm2未満である請求項1〜7のいずれかに記載の粘着シート。
【請求項9】
電子部品貼付用である請求項1〜8のいずれかに記載の粘着シート。
【請求項10】
電子部品がハードディスクである請求項9に記載の粘着シート。

【公開番号】特開2011−26425(P2011−26425A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−172801(P2009−172801)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】