説明

粘着剤組成物および粘着シート

【課題】帯電防止性に優れるとともに、被着体の表面状態の相違により生じる粘着力の差を小さくすることができ、さらに、剥離速度による粘着力の差も小さいものとすることができる粘着剤組成物を提供すること。
【解決手段】次の成分(A)ないし(C) (A)次の成分(a1)ないし(a4)を共重合することにより得られる(メタ)アクリル系ポリマー(但し、(a1)〜(a4)の合計が100質量%) (a1)アルキレンオキサイド構造を有する(メタ)アクリル系モノマー 10〜70質量% (a2)水酸基含有モノマー 1〜 8質量% (a3)カルボキシル基、アミド基、又はアミノ基のいずれかの官能基を含有するモノマー 0.05〜0.5質量% (a4)(メタ)アクリル酸アルキルエステル 25〜85質量% (B)有機カチオンおよび無機アニオンとからなる液体イオン塩 (C)イソシアネート架橋剤を含有することを特徴とする粘着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤組成物に関し、より詳しくは、偏光板などの光学部材の表面保護シートにおける粘着剤層に用いられ、帯電防止性に優れるとともに、被着体の表面の形状及び極性や剥離速度による粘着力の差を小さくすることが可能な粘着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電子機器等に貼付される粘着シートとして、基材、剥離紙等を帯電防止処理したり、粘着剤層の下塗り層として帯電防止層を積層した帯電防止粘着シートが使用されている。
【0003】
近年では、粘着剤層そのものに帯電防止機能を付与する要求が高まっており、粘着剤層に帯電防止剤を添加した帯電防止粘着剤が開発されている。例えば、イオン性液体及び(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイドを有する(メタ)アクリル系ポリマーを含有する粘着剤組成物が報告されている(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、上記粘着剤組成物を利用した粘着シートを、例えば、低極性で表面に凹凸のあるアンチグレア(AG)偏光板に貼付した場合と、高極性で表面が平滑なプレーン(plane)偏光板に貼付した場合とでは、その表面形状及び極性の相違により粘着力に差が生じてしまうため、偏光板の種類に合わせて設計した粘着シートをそれぞれ使用する必要があった。このことは、AG偏光板を利用した電子機器とプレーン偏光板を利用した電子機器を並行して取り扱うラインでは、両者に適した粘着シートを利用しなければならないことを意味し、コストや作業効率の面で問題があった。
【0005】
一方、表面を保護する役目を終えた粘着シートは剥離して廃棄されるが、この剥離を高速で行うと、粘着力の関係から剥離時に要する力が大きくなるため、作業効率の低下、汚染などが生じるという問題があり、これらを改善するために粘着力を低く抑えると、部材の密着性が悪くなり粘着シートに浮きやハガレが生じるという問題があった。
【0006】
この問題を解決するため、ヒドロキシル基およびカルボキシル基を含有し、特定範囲のガラス転移温度を有するアクリル系共重合体と芳香族多官能性イソシアネート化合物を用いることにより、剥離力の速度依存性を少なくした感圧接着剤組成物が報告されている(特許文献2参照)。
【0007】
しかしながら、上記接着剤組成物は帯電防止機能を有さず、さらに、被着体の表面形状及び極性の相違により生じる粘着力の差を小さくすることはできなかった。
【0008】
【特許文献1】特開2004−263084号公報
【特許文献2】特開2001−123136号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、帯電防止性に優れるとともに、被着体の表面状態の相違による粘着力の差を小さくすることができ、さらに、高速剥離と低速剥離とにおける粘着力の差も小さい粘着剤組成物の開発が求められており、本発明は、このような粘着剤組成物を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、アルキレンオキサイド構造を有する(メタ)アクリル系モノマー、特定の官能基を有する2種のモノマーおよび(メタ)アクリル酸アルキルエステルを共重合して得られる(メタ)アクリル系ポリマーに、有機カチオンと無機アニオンからなる液体イオン塩およびイソシアネート架橋剤を配合することにより得られる粘着剤組成物は、帯電防止効果に優れるとともに、剥離速度に関わらず被着体の表面形状及び極性の相違による粘着力の差を小さくすることができ、かつ、剥離速度による粘着力の差をも小さくし得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、
次の成分(A)ないし(C)
(A)次の成分(a1)ないし(a4)を共重合することにより得られる(メタ)アク
リル系ポリマー(但し、(a1)〜(a4)の合計が100質量%)
(a1)アルキレンオキサイド構造を有する(メタ)アクリル系モノマー
10〜70質量%
(a2)水酸基含有モノマー 1〜 8質量%
(a3)カルボキシル基、アミド基、又はアミノ基のいずれかの官能基を含有するモ
ノマー 0.05〜0.5質量%
(a4)(メタ)アクリル酸アルキルエステル 25〜85質量%
(B)有機カチオンおよび無機アニオンとからなる液体イオン塩
(C)イソシアネート架橋剤
を含有することを特徴とする粘着剤組成物である。
【0012】
さらに本発明は、上記の粘着剤組成物を架橋して得られる粘着シートである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の粘着剤組成物は、優れた帯電防止効果を有するとともに、被着体の表面の形状及び極性や剥離速度により生じる粘着力の差を小さくすることができるため、適用可能な被着体の範囲が広く、機械的特性に優れ作業効率を向上させることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の粘着剤組成物は、構成成分として後記成分(a1)ないし(a4)を共重合して得られる(メタ)アクリル系ポリマー(成分(A))、有機カチオンおよび無機アニオンとからなる液体イオン塩(成分(B))およびイソシアネート架橋剤(成分(C))を含有するものである。
【0015】
上記(メタ)アクリル系ポリマーを構成する成分は、アルキレンオキサイド構造を有する(メタ)アクリル系モノマー(成分(a1))、水酸基含有モノマー(成分(a2))、カルボキシル基、アミド基またはアミノ基のいずれかの官能基を含有するモノマー(成分(a3))および(メタ)アクリル酸アルキルエステル(成分(a4))である。
【0016】
成分(A)を構成する成分(a1)は、アルキレンオキサイド構造を分子中に有するものであり、アルキレンオキサイド構造としては、例えば、オキシメチレン基、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基などが挙げられ、また(メタ)アクリル酸に対するアルキレンオキサイド構造の付加モル数は特に限定されないが、1〜3が好ましい。
【0017】
上記アルキレンオキサイド構造を有する(メタ)アクリル系モノマーの具体例としては、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどのメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート;エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどのエトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート;ブトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどのブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート;フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどのフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート;メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレートなどのメトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレートなどがあげられる。なかでも、エトキシジエチレングリコールアクリレート、メトキシエチルアクリレートなどが好ましく用いられる。
【0018】
上記成分(a1)のアルキレンオキサイド構造を有する(メタ)アクリル系モノマーは、単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよいが、全体としての含有量は成分(A)の(メタ)アクリル系ポリマーのモノマー成分中10〜70質量%であり、好ましくは20〜60質量%である。この含有量が10質量%よりも少ない場合や70質量%よりも大きい場合には、被着体の表面形状及び極性による粘着力の差が大きくなったり、剥離時に被着体への汚染が生じる場合がある。
【0019】
また、成分(A)を構成する成分(a2)の水酸基含有モノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート等のようなアルキレンジオールのモノ(メタ)アクリレート類;N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド等のような(メタ)アクリルアミド類などが挙げられ、このうち4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどが好ましく用いられる。
【0020】
上記成分(a2)の水酸基含有モノマーは、単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよいが、全体としての含有量は成分(A)の(メタ)アクリル系ポリマーのモノマー成分中1〜8質量%であることが好ましく、さらに、3〜6質量%であることがより好ましい。
【0021】
更に、成分(A)を構成する成分(a3)のカルボキシル基、アミド基、又はアミノ基のいずれかの官能基を含有するモノマーは、例えば、カルボキシル基含有モノマーとして、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸βカルボキシエチル、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸などを挙げることができ、また、アミド基含有モノマーとしては、アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−(1,1−ジメチル−3−オキソブチル)アクリルアミド、tert-ブチルアクリルアミドスルホン酸などが挙げられ、さらにアミノ基含有モノマーとしては、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレートなどが例示できる。これらのうち、アクリル酸、アクリルアミド、ジメチルアミノエチルメタクリレートなどが好ましく用いられる。また、この成分(a3)には、N‐(N′,N′‐ジメチルアミノメチル)アクリルアミドなどの、カルボキシル基、アミド基又はアミノ基を2つ以上有するモノマーも含まれる。
【0022】
上記成分(a3)のカルボキシル基、アミド基、又はアミノ基のいずれかの官能基を含有するモノマーは、単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよいが、全体としての含有量は成分(A)の(メタ)アクリル系ポリマーのモノマー成分中0.05〜0.5質量%であることが好ましく、0.1〜0.3質量%がより好ましい。この範囲であると剥離速度による粘着力の差を小さくすることができ、(a3)モノマーが0.05質量%未満では剥離力の速度依存性を少なくすることが困難であり、0.5質量%より多い場合は、高速剥離時に停止と瞬間剥離が交互に繰り返される現象(ジッピング)が生じてしまう。また、(a3)モノマーは(メタ)アクリル系ポリマーの極性を微調整するという作用効果も有する。
【0023】
さらにまた、成分(A)を構成する成分(a4)の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n−ペンチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチルなどが挙げられ、このうち(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルが好ましく用いられる。
【0024】
上記成分(a4)の(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよいが、全体としての含有量は(メタ)アクリル系ポリマーのモノマー成分中25〜85質量%であることが好ましく、さらに、35〜75質量%であることがより好ましい。
【0025】
本発明に用いられる成分(A)の(メタ)アクリル系ポリマーは、上記成分(a1)ないし(a4)のモノマーを、例えば、溶液重合、乳化重合、塊状重合など(メタ)アクリル系ポリマーの合成に通常用いられる方法によって共重合させることにより得ることができるものである。この成分(A)のメタ)アクリル系ポリマーの分子量は特に制限されるものではないが、好ましくは20万〜70万である。
【0026】
また、本発明に用いられる成分(A)の(メタ)アクリル系ポリマーの製造にあたっては、上記成分のほか、必要に応じ、重合開始剤、重合調整剤を使用することができる。
【0027】
上記重合開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系重合開始剤、過酸化ベンゾイル等の過酸化物系重合開始剤などが挙げられ、上記成分(a1)〜(a4)のモノマーの混合物100重量部に対して、0.01〜1重量部の範囲で用いることができる。
【0028】
一方、本発明の成分(B)は、有機カチオンと無機アニオンの組み合わせからなる液体イオン塩である。なお、本明細書において液体イオン塩とは室温(25℃)において液体である塩を意味する。
【0029】
上記成分(B)を構成する有機カチオンとしては、たとえば、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、テトラヒドロピリミジニウムカチオン、ジヒドロピリミジニウムカチオン、テトラアルキルアンモニウムカチオン、トリアルキルスルホニウムカチオンなどが挙げられるが、このうちイミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオンが好ましく用いられ、特にピリジニウムカチオンが好ましい。
【0030】
上記イミダゾリウムカチオンの具体例としては、例えば、1,3−ジメチルイミダゾリウムカチオン、1,3−ジエチルイミダゾリウムカチオン、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1−へキシル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1−デシル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1−ドデシル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1−テトラデシル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムカチオン、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムカチオン、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムカチオン、1−へキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムカチオンなどが挙げられ、このうち、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1−へキシル−3−メチルイミダゾリウムカチオンなどが好ましく用いられる。
【0031】
また、上記ピリジニウムカチオンの具体例としては、例えば、1−エチルピリジニウムカチオン、1−ブチルピリジニウムカチオン、1−へキシルピリジニウムカチオン、1−ブチル−3−メチルピリジニウムカチオン、1−ブチル−4−メチルピリジニウムカチオン、1−へキシル−3−メチルピリジニウムカチオン、1−へキシル−4−メチルピリジニウムカチオン、1−ブチル−3,4−ジメチルピリジニウムカチオンなどが挙げられ、このうち、1−へキシル−4−メチルピリジニウムカチオンなどが好ましく用いられる。
【0032】
また、上記成分(B)を構成する無機アニオンとしては、例えば、Cl、Br、I、AlCl、AlCl、BF、PF、ClO、NO、AsF、SbF、NbF、TaF、F(HF)などが例示でき、このうち、PF、BFなどが好ましく用いられる。
【0033】
本発明の成分(B)は、上記有機カチオンおよび無機アニオンから適宜選択される組み合わせからなる塩であり、具体的には、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェ−ト、1−ブチル−3−メチルピリジニウムテトラフルオロボレート、1−ブチル−3−メチルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−へキシル−3−メチルイミダゾリウムブロミド、1−へキシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−へキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−へキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート;1−ブチルピリジニウムテトラフルオロボレート、1−ブチルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、1−へキシルピリジニウムテトラフルオロボレート、1−へキシルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、1−ブチル−3−メチルピリジニウムテトラフルオロボレート、1−ブチル−3−メチルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、1−ヘキシル−4−メチルピリジニウムテトラフルオロボレート、1−ヘキシル−4−メチルピリジニウムヘキサフルオロホスフェートなどが挙げられ、このうち、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ヘキシル−4−メチルピリジニウムヘキサフルオロホスフェートなどが好ましく用いられる。
【0034】
この成分(B)の配合量は、前記成分(A)100重量部に対して、通常0.05〜3重量部の範囲であり、好ましくは、0.3〜1.5重量部の範囲である。
【0035】
さらに、本発明の成分(C)のイソシアネート架橋剤は、分子中に水酸基と架橋し得るイソシアネート基を有する化合物であり、具体的には、トリレンジイソシアネート、クロルフェニレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水添されたジフェニルメタンジイソシアネートなどのイソシアネートモノマーや、それらをトリメチロールプロパンなどの2価以上のアルコール化合物等に付加反応させたイソシアネート化合物ないしイソシアヌレート化物等が例示される。また、公知のポリエーテルポリオールやポリエステルポリオール、アクリルポリオール、ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオールなどにイソシアネート化合物を付加反応させたウレタンプレポリマー型のイソシアネート等も挙げられる。これらのうち、ヘキサジメチレンイソシアネートなどが好ましく用いられる。
【0036】
この成分(C)の配合量は、成分(A)100重量部に対して、通常0.5〜10重量部の範囲であり、好ましくは、2〜5重量部の範囲である。
【0037】
本発明の粘着剤組成物は、上記成分(A)ないし(C)に、必要に応じその他の添加剤を添加して、常法により混合することによって得られる。またその際に、上記成分を溶解又は分散させるために有機溶媒等の溶剤を含有させても良いが、溶剤を用いずにそのまま混合することが好ましい。
【0038】
本発明の帯電防止粘着剤組成物には、前記各成分のほか、本発明の効果を損なわない範囲で必要に応じ、粘着付与剤、可塑剤、酸化防止剤、防腐剤等を配合することができる。
【0039】
以上のようにして得られた本発明の粘着剤組成物を、常法により、支持体の表面に塗布し、乾燥させることによって、本発明の粘着シートを得ることができる。
【0040】
粘着シートの製造において、上記支持体としては、例えば、ポリエステル、ポリエチレンなどの樹脂フィルムを用いることができ、また、粘着剤組成物の塗布厚さは、通常2〜30μmであり、好ましくは10〜20μmである。
【0041】
上記のようにして得られた本発明の粘着シートは、剥離速度に関わらず、AG偏光板やプレーン偏光板など表面の形状及び極性が相違する被着体に貼付した場合の粘着力の差が小さく、また低速剥離における粘着力と高速剥離における粘着力との差も小さいものである。
【実施例】
【0042】
次に製造例及び実施例によって、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例等に何ら制約されるものではない。
【0043】
製 造 例 1
成分(a1)としてエトキシジエチレングリコールアクリレート(ECA、共栄社製)60重量部、成分(a2)として4−ヒドロキシブチルアクリレート(4HBA)5重量部、成分(a3)としてアクリル酸0.15重量部、成分(a4)として2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)34.85重量部、酢酸エチル120重量部およびアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.1重量部を反応容器に入れ、この反応容器内の空気を窒素ガスで置換した。その後、窒素雰囲気中で攪拌しながら、この反応容器を70℃に昇温させ、6時間反応させた。反応終了後、酢酸エチルで希釈し、分子量50万のアクリル系ポリマー溶液A1を得た。
【0044】
製 造 例 2 〜 3
成分(a1)ないし(a4)を下記表2のように代えた以外は製造例1と同様にしてアクリル系ポリマー溶液A2およびA3を得た。その分子量も表1に併記する。
【0045】
製造比較例 1 〜 15
成分(a1)ないし(a4)を下記表2のように代えた以外は製造例1と同様にしてアクリル系ポリマー溶液B1ないしB15を得た。その分子量も表1に併記する。
【0046】
【表1】

【0047】
なお、表中の略記は次のとおりである。
MEA:メトキシエチルアクリレート
ECA:エトキシジエチレングルコールアクリレート
4HBA:4−ヒドロキシブチルアクリレート
2HEA:2−ヒドロキシエチルアクリレート
AA:アクリル酸
AM:アクリルアミド
DM:ジメチルアミノエチルメタクリレート
2EHA:2−エチルヘキシルアクリレート
【0048】
実 施 例 1
製造例1で得られたアクリル系ポリマー溶液A1の固形分100重量部に対し、液体イオン塩として1−ヘキシル−4−メチルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート1重量部と、イソシアネート架橋剤としてヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)3重量部とを加え、これを混合して、粘着剤組成物を得た。
【0049】
この粘着剤組成物を、ポリエステルフィルム上に乾燥後の厚さが20μmになるように塗工し、80℃で2分間乾燥させた後、粘着剤層側に剥離処理されたポリエステルフィルム(PET3811、リンテック社製)を貼り合わせ、23℃、湿度65%の条件下で7日間熟成させて粘着シートを得た。
【0050】
実 施 例 2 〜 3
アクリル系ポリマー溶液と液体イオン塩を下記表2のように代えた以外は実施例1と同様にして粘着剤組成物および粘着シートを得た。なお、液体イオン塩のカチオンとアニオンがそれぞれ有機又は無機のいずれであるか表2中に記載した。
【0051】
比 較 例 1 〜 15
アクリルポリマー溶液とイオン性液体を下記表2のように代えた以外は実施例1と同様にして粘着剤組成物および粘着シートを得た。なお、イオン塩のカチオンとアニオンがそれぞれ有機又は無機のいずれであるか、またイオン塩の室温における状態を併記した。
【0052】
【表2】

【0053】
実施例1ないし3及び比較例1ないし15で得られた粘着シートについて、下記評価方法及び基準によって、剥離力、帯電防止性について評価した。結果を表3に示す。
【0054】
(評価方法及び基準)
<剥離力>
粘着シートを150mm×250mmのサイズに裁断した後、剥離処理されたポリエステルフィルムを剥離し、AG偏光板、Plane偏光板の片面にそれぞれ転写した。23℃、65%条件で1日放置した後、貼付した粘着シートを引き剥がし速度300mm/min(低速)、30m/min(高速)で180°方向に剥離したときの粘着力を測定し、それぞれ低速剥離力、高速剥離力とした。
【0055】
<帯電防止性>
(評価方法)
アクリル板(70mm×150mm×1mm)と偏光板(AG偏光板、プレーン偏光板)とを、偏光板のAG面、プレーン面が外側になるように貼り合わせた積層体を作成し除電器(KEYENCE社製 SJ−F300)により除電した。
上記実施例、比較例で得られた粘着シートを40mm×150mmに裁断した後、あらかじめ除電しておいた積層体のAG面、プレーン面に2kgゴムローラーを用いて圧着した。25℃、65%条件下で1日放置した後、再度除電を行い、引き剥がし速度30m/min、剥離角度180°で剥離したときの偏光板表面電位を電位測定器(KEYENCE社製 SK)で測定した。
(評価基準)
評価 剥離帯電圧
○ : ±0.5kV未満
△ : ±0.5〜1.0kV
× : ±1.0kV以上
【0056】
【表3】

※1 剥離速度に対して粘着剤層の変形が追従できず、停止と瞬間剥離が交互に繰り返される現象がみられた。
※2 剥離時に粘着剤層で破壊が起こり、精確に測定できなかった。
【0057】
この結果から明らかなように、本発明の粘着剤組成物を使用して製造した粘着テープは、帯電防止性に優れるとともに、高速剥離および低速剥離のいずれにおいても、AG偏光板とプレーン偏光板に対し同等の粘着力を示し、さらには、高速剥離における粘着力と低速剥離における粘着力の差も小さいものであった。
【0058】
これに対し、アクリル系ポリマーのモノマー組成やイオン塩が本発明のものと相違する比較例では、AG偏光板とプレーン偏光板とで粘着力の差が大きかったり、被着体への汚染が生じたりして十分な性能のものが得られなかった。例えば、前記特許文献1(特開2006−63311号公報)の実施例1に用いられるアクリル系ポリマーと同様のモノマー組成によるアクリル系ポリマーと、同じ有機カチオンと有機アニオンとからなる液体イオン塩を用いた比較例15では、低速剥離、高速剥離のいずれにおいてもAG偏光板とプレーン偏光板とに対する粘着力の差は大きく、また、低速剥離における粘着力と高速剥離における粘着力の差も実施例1ないし3と比較して大きいものであった。
【作用】
【0059】
本発明の粘着シートが、AG偏光板でもプレーン偏光板でも同等の粘着力を示す理由は明らかではないが、次のように考えられている。すなわち、AG偏光板は低極性で表面に凹凸があるのに対し、プレーン偏光板は高極性で平滑である。アルキレンオキサイド構造を有する(メタ)アクリル系モノマーやその他水酸基含有モノマーなどの官能基含有モノマーの含有量が多いほど成分(A)の(メタ)アクリル系ポリマーは高極性となり、(メタ)アクリル系ポリマーの極性が高くなるほど、低極性のAG偏光板に対する粘着力は低下し、高極性のプレーン偏光板に対する粘着力は増大する。
【0060】
一方、AG偏光板の表面の凹凸の隙間は小さいため、通常粘着剤は全面に付着するのではなく、凹部には接触していない。したがって、(メタ)アクリル系ポリマーのAG偏光板とプレーン偏光板に対する親和性が同等の場合には、接触面積が少ない分、(メタ)アクリル系ポリマーとの粘着力はプレーン偏光板の方がAG偏光板よりも大きくなる。
【0061】
しかしながら、成分(B)の液体イオン塩のアクリル系ポリマーに対する相溶性が適度なものである(完全に相溶せず僅かに局在化が生じる)場合には、液体イオン塩がブリードすることなく粘着剤表面で僅かに局在化してAG偏光板の凹凸面へ穴埋めするため粘着力が増大する。
【0062】
この液体イオン塩と(メタ)アクリル系ポリマーの相溶性は、液体イオン塩のカチオンとアニオンの組み合わせと(メタ)アクリル系ポリマー中のアルキレンオキサイド構造を有するモノマーの含有量に関係する。まず、液体イオン塩のイオン結合力は、カチオン/アニオンの組み合わせが、無機/無機、有機/無機、有機/有機の順で大きいため、高極性である成分(A)の(メタ)アクリル系ポリマーへの相溶性は、有機/有機、有機/無機、無機/無機の順で高くなる。一方、アルキレンオキサイド構造を有するモノマーの含有量が多いほど極性が高くなり液体イオン塩に対する相溶性が高くなる。
【0063】
そこで、液体イオン塩として、有機カチオンと無機アニオンの組み合わせを選択し、(メタ)アクリル系ポリマー中のアルキレンオキサイド構造を有するモノマーの含有量を10〜70質量%とすることによって、その相溶性が高すぎることなく適度なものとなって、上記凹凸面への穴埋め効果が得られ、AG偏光板、プレーン偏光板の表面形状、極性の違いに拘わらず同様の粘着力を有する粘着剤組成物が得られるのである。これに対し、アルキレンオキサイド構造を有するモノマーを70質量%以上含有した場合や、液体イオン塩として有機カチオンと有機アニオンとの組み合わせを用いた場合には、粘着剤組成物の極性が高くなるため、表面の極性の低いAG偏光板との密着性が悪くなったり、また、アクリル系ポリマーと液体イオン塩との相溶性が高くイオン塩の局在化が起こらない為、AG偏光板に対する粘着力は低いままとなってしまうのである。
【0064】
このように、AG偏光板に対しては、(メタ)アクリル系ポリマーの極性を低下させることによって、また、穴埋め効果の高い有機カチオンと無機アニオンの組み合わせの液体イオン塩を選択することによって粘着力は増大し、一方、プレーン偏光板に対しては、(メタ)アクリル系ポリマーの極性を高くすると粘着力が増大するが、本願発明では、この(メタ)アクリル系ポリマーの極性と穴埋め効果の両方を調整することによって、表面状態の異なる偏光板に対して同等の粘着力を発揮する粘着剤組成物を得ることができるのである。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の粘着剤組成物は、帯電防止効果に優れるとともに、低速、高速剥離のいずれにおいても、被着体表面の形状及び極性の相違による粘着力の差が小さく、かつ、剥離速度による粘着力の差も小さいため、機械的特性に優れ作業効率を向上できるものである。
【0066】
したがって、本発明の粘着剤組成物を用いた粘着シートは、偏光板などの光学部材の表面保護用粘着シートとして、有利に用いられるものである。
以 上

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)ないし(C)
(A)次の成分(a1)ないし(a4)を共重合することにより得られる(メタ)アク
リル系ポリマー(但し、(a1)〜(a4)の合計が100質量%)
(a1)アルキレンオキサイド構造を有する(メタ)アクリル系モノマー
10〜70質量%
(a2)水酸基含有モノマー 1〜 8質量%
(a3)カルボキシル基、アミド基、又はアミノ基のいずれかの官能基を含有するモ
ノマー 0.05〜0.5質量%
(a4)(メタ)アクリル酸アルキルエステル 25〜85質量%
(B)有機カチオンおよび無機アニオンとからなる液体イオン塩
(C)イソシアネート架橋剤
を含有することを特徴とする粘着剤組成物。
【請求項2】
成分(A)の(メタ)アクリル系ポリマー100重量部に対する成分(B)の有機カチオンおよび無機アニオンとからなる液体イオン塩の含有量が0.05〜3重量部、成分(C)のイソシアネート架橋剤の含有量が0.5〜10重量部である請求項1記載の粘着剤組成物。
【請求項3】
成分(B)の有機カチオンが、イミダゾリウムカチオン又はピリジニウムカチオンである請求項1又は2記載の粘着剤組成物。
【請求項4】
成分(B)の無機アニオンが、PF又はBFである請求項1ないし3のいずれかの項記載の粘着剤組成物。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかの項記載の粘着剤組成物を架橋して得られる粘着シート。


【公開番号】特開2008−69261(P2008−69261A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−249061(P2006−249061)
【出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(000202350)綜研化学株式会社 (135)
【Fターム(参考)】