説明

粘着剤組成物および粘着シート

【課題】カルボキシル基含有モノマーを用いることなく粘着性能の改善された粘着シートを与える粘着剤組成物および該組成物を用いてなる金属面貼付用粘着シートを提供する。
【解決手段】アクリル系共重合体をベースポリマーとする水分散型粘着剤組成物である。前記共重合体は、炭素数1〜12のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート;N−ビニル環状アミドおよび/またはN−アルキル基を有してもよい(メタ)アクリルアミド;炭素数2〜4のN−ヒドロキシアルキル基を有するN−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド;をそれぞれ所定量含み、且つカルボキシル基含有モノマーを実質的に含まない組成のモノマー混合物の共重合反応生成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着(感圧接着ともいう。以下同じ。)剤組成物および粘着シートに関し、詳しくは、金属面に直接貼り付けられる用途その他の様々な用途に好適な粘着シートおよび該粘着シート用の粘着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、物品の固定(接合)、搬送、保護、装飾等の種々の局面において粘着シートが活用されるようになってきている。かかる粘着シートの代表例として、アクリル系共重合体をベースポリマーとする粘着剤組成物(アクリル系粘着剤組成物)から形成された粘着剤層を備えるものが挙げられる。かかるアクリル系共重合体としては、一般に、アルキル(メタ)アクリレートを主体(主成分)とし、さらに粘着性能向上等の目的からアクリル酸等のカルボキシル基含有モノマーを含む共重合組成を有するものが用いられる。また、環境衛生への配慮から、かかるアクリル系共重合体を含む粘着剤組成物は、水分散液の形態であることが望ましい。水分散型のアクリル系粘着剤組成物に関する従来技術文献として特許文献1〜3が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−131511号公報
【特許文献2】特開平5−271634号公報
【特許文献3】特開平5−105856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、酸に影響されやすい材質からなる部分を有する物品(例えば、電子部品等のように金属面を有する物品)に関連して使用される粘着シートでは、上述のようにカルボキシル基含有モノマーを含む共重合組成とすると、アクリル系共重合体中のカルボキシル基が、上記材質に好ましくない影響を与える(例えば、金属面を腐食させる)要因となり得る。したがって、かかる用途(特に、金属面に直接貼り付けられる用途)向けの粘着シートに具備される粘着剤層は、カルボキシル基含有モノマーを実質的に含まない共重合組成のアクリル系共重合体をベースポリマーとする粘着剤組成物から形成されることが望ましい。
【0005】
しかしながら、カルボキシル基含有モノマーを用いないアクリル系共重合体をベースポリマーとする粘着剤組成物を用いて形成された粘着シートでは、粘着性能が不足しがちである。したがって、カルボキシル基含有モノマーを用いることなく所望の凝集力(保持力;例えば、剪断方向への負荷に対する耐久性(耐剥がれ性))を示し、さらに耐反撥性(曲面接着性)が高められた粘着シートを形成可能な水分散型粘着剤組成物(以下、水性エマルション粘着剤、もしくは単にエマルション粘着剤ということもある。)が提供されれば有用である。
【0006】
本発明は、カルボキシル基含有モノマーを実質的に用いることなく、粘着性能(特に耐反撥性および凝集力)の良好な粘着シートを形成し得る水分散型アクリル系粘着剤組成物(アクリル系エマルション粘着剤)を提供することを一つの目的とする。また、かかる粘着剤組成物を用いてなる金属面貼付用粘着シートを提供することを他の一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によると、アクリル系共重合体をベースポリマー(ポリマー成分の中の主成分)として含む水分散型粘着剤組成物が提供される。そのアクリル系共重合体は、以下の条件(A)〜(D)のいずれをも満たすモノマー混合物(モノマー成分、もしくは出発モノマーともいう。)の共重合反応生成物である。
(A)モノマーm1として、次式(I):
CH=C(R)COOR (I)
(式(I)中、Rは水素原子またはメチル基であり、Rは炭素数1〜12のアルキル基である。);で表される一種または二種以上のアルキル(メタ)アクリレートを、全モノマー成分(上記モノマー混合物に含まれる全てのモノマーの総量)の35〜97.5質量%含む。
(B)モノマーm2として、N−ビニル環状アミドおよびN−アルキル基を有してもよい(メタ)アクリルアミドから選択される一種または二種以上を、全モノマー成分の2〜40質量%含む。
(C)モノマーm3として、次式(II):
CH=C(R)CONHR (II)
(式(II)中、Rは水素原子またはメチル基であり、Rは炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基である。);で表される一種または二種以上のN−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミドを、全モノマー成分の0.1〜25質量%含む。
(D)カルボキシル基を有するモノマーを実質的に含まない。
【0008】
かかる粘着剤組成物は、カルボキシル基を有するモノマー(カルボキシル基含有モノマー)を実質的に含まない共重合組成のアクリル系共重合体をベースポリマーとするので、該組成物を用いて形成された粘着剤層を金属面等の酸に弱い材質からなる面に直接貼り付けた場合にも、上記カルボキシル基が金属面を腐食させる事象を未然に防ぐことができる。また、ベースポリマーたるアクリル系共重合体として、モノマーm1を主成分としつつ所定量のモノマーm2,m3を含むモノマー混合物の共重合反応生成物を用いることにより、カルボキシル基含有モノマーを実質的に用いなくても、凝集力が高く且つ改善された耐反撥性を示す粘着剤層(ひいては該粘着剤層を備えた粘着シート。以下同じ)が形成され得る。この粘着剤層は、例えばABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)樹脂やアクリル樹脂等の種々の樹脂表面に対しても良好な粘着性能(粘着力等)を示すものであり得る。したがって、かかる粘着剤組成物によると、金属面に直接貼り付けられる用途や、金属部品と樹脂部品とを接合する用途その他、種々の用途に好適な粘着シートが形成され得る。
【0009】
ここに開示される粘着剤組成物の好ましい一態様では、モノマーm2が、次式(III):
【化1】

(式(III)中、Rは二価の有機基である。);で表されるN−ビニル環状アミドから選択される一種または二種以上である。かかるN−ビニル環状アミドの一好適例として、N−ビニル−2−ピロリドンが挙げられる。
また、モノマーm3の好適例としては、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミドが挙げられる。なかでもN−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミドの使用が好ましい。
【0010】
ここに開示される粘着剤組成物の好適な一態様では、上記アクリル系共重合体の出発モノマー混合物が、モノマーm1,m2,m3に加え、任意成分として、シラノール基形成性モノマーを更に含む。該シラノール基形成性モノマーの配合量は、モノマーm1,m2,m3の合計100質量部に対して、1質量部以下であり得る。かかるアクリル系共重合体をベースポリマーとする粘着剤組成物は、より高性能な粘着剤層を形成するものであり得る。上記シラノール基形成性モノマーは、シラノール基(Si−OH)を形成し得る官能基(シラノール基形成性官能基)を一分子内に少なくとも一つ(好ましくは二つ以上、例えば二つまたは三つ)有する重合性化合物であり得る。上記シラノール基形成性官能基の好適例として、加水分解によりシラノール基を形成する官能基(アルコキシシリル基等)が挙げられる。例えば、一分子内に炭素数1〜4のアルコキシシリル基を1個または2個以上有するシラノール基形成性モノマー(アルコキシシリル基含有モノマー)が好ましい。
【0011】
他の好ましい一態様では、前記モノマーm1,m2,m3の合計量が、全モノマー成分の凡そ90質量%以上である。かかる組成のモノマー混合物の共重合反応生成物たるアクリル系共重合体をベースポリマーとして含む粘着剤組成物によると、より品質安定性に優れた粘着剤層が形成され得る。
【0012】
上述のとおり、ここに開示される粘着剤組成物は、カルボキシル基含有モノマーを実質的に含まないモノマー混合物の共重合反応生成物をベースポリマーとして含むことから、金属面に直接貼り付けるための粘着シートを形成するために用いられる粘着剤組成物として好適である。
【0013】
ここに開示される粘着剤組成物から形成された粘着剤層は、良好な凝集力および耐反撥性を有するものであり得る。また、例えばABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)樹脂やアクリル樹脂等の種々の樹脂表面に対しても良好な粘着性能(粘着力等)を示すものであり得る。したがって、他の側面として、本発明によると、ここに開示される粘着剤組成物から形成された粘着剤層を備える粘着シートが提供される。
【0014】
更に他の側面として、本発明によると、ここに開示されるいずれかの粘着剤組成物を用いて形成された粘着剤層を備える金属面貼付用粘着シートが提供される。かかる粘着シートは、金属面に直接貼り付けられた場合にも該金属面を腐食させないものであり得る。また、該粘着シートは上記金属面に対して良好な接着性を示し、かつ凝集力および耐反撥性に優れたものであり得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る粘着シートの一構成例を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明に係る粘着シートの他の一構成例を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明に係る粘着シートの他の一構成例を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明に係る粘着シートの他の一構成例を模式的に示す断面図である。
【図5】本発明に係る粘着シートの他の一構成例を模式的に示す断面図である。
【図6】本発明に係る粘着シートの他の一構成例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0017】
ここに開示される粘着剤組成物は、所定のモノマー混合物(出発モノマー)を重合(少なくとも部分的に重合、典型的にはほぼ完全に重合)させてなるアクリル系共重合体をベースポリマーとする。上記モノマー混合物は、少なくともモノマーm1,m2,m3を必須成分として含む。
モノマーm1は、上記モノマー混合物の主モノマー(主成分)をなす成分であって、下記式(I)で表されるアルキル(メタ)アクリレート、すなわちアルキルアルコールの(メタ)アクリル酸エステルからなる。ここで「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸およびメタクリル酸を包含する。また、モノマーm1が主モノマーであるとは、全モノマー成分に占めるモノマーm1の量(式(I)で表されるアルキル(メタ)アクリレートを二種以上含む場合にはそれらの合計量)が50質量%以上であることをいう。
【0018】
モノマーm1は、下記式(I)で表されるアルキル(メタ)アクリレートから選択される一種または二種以上であり得る。
CH=C(R)COOR (I)
ここで、式(I)中のRは、水素原子またはメチル基である。また、式(I)中のRは、炭素数1〜12のアルキル基である。該アルキル基は直鎖状であってもよく、分岐を有してもよい。式(I)で表されるアルキル(メタ)アクリレートの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらのうちRが炭素数2〜10(以下、このような炭素数の範囲を「C2−10」と表すことがある。)のアルキル基であるアルキル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0019】
好ましい一つの態様では、モノマーm1の総量のうち凡そ70質量%以上(より好ましくは凡そ90質量%以上)が、上記式(1)におけるRがC2−10(より好ましくはC4−8)のアルキル(メタ)アクリレートである。モノマーm1の実質的に全部がC2−10アルキル(より好ましくはC4−8アルキル)(メタ)アクリレートであってもよい。上記モノマー混合物は、例えば、モノマーm1として、ブチルアクリレート(BA)を単独で含む組成、2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)を単独で含む組成、BAおよび2EHAの二種を含む組成、等であり得る。
【0020】
モノマーm1の含有量は、全モノマー成分の凡そ35〜97.5質量%(好ましくは凡そ50〜95質量%)であり得る。モノマーm1の含有量が上記範囲よりも少なすぎる粘着剤組成物では、該組成物から形成される粘着剤層の粘着性能(接着性、タック等)が不足しがちである。一方、モノマーm1の含有量が上記範囲よりも多すぎると、モノマー混合物に含ませ得る他のモノマー(モノマーm2,m3等)の量が少なくなるため、凝集力と耐反撥性との両立が困難となる傾向にある。モノマーm1の含有量が全モノマー成分の凡そ60〜95質量%(例えば凡そ80〜90質量%)であってもよい。なお、上記出発モノマーの組成は、典型的には、該出発モノマーを重合させて得られるアクリル系共重合体の共重合割合に概ね対応する。
【0021】
上記モノマー混合物は、主モノマーとしてのモノマーm1に加えて、さらにモノマーm2を含む。このモノマーm2は、N−ビニル環状アミドおよびN−アルキル基を有してもよい(メタ)アクリルアミドから選択される一種または二種以上であり得る。
【0022】
上記N−ビニル環状アミドとしては、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピペリドン、N−ビニル−3−モルホリノン、N−ビニル−2−カプロラクタム、N−ビニル−1,3−オキサジン−2−オン、N−ビニル−3,5−モルホリンジオン等が例示される。
【0023】
上記N−アルキル基を有してもよい(メタ)アクリルアミドとしては、(メタ)アクリルアミド;N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−n−ブチル(メタ)アクリルアミド等のN−アルキル(メタ)アクリルアミド;N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ(n−ブチル)(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ(t−ブチル)(メタ)アクリルアミド等のN,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド;および、N−(メタ)アクリロイルモルホリン、N−アクリロイルピロリジン等の環状(メタ)アクリルアミド;等が例示される。炭素数が1〜4(より好ましくは1または2)のN−アルキル基を一個または二個有する(メタ)アクリルアミド(例えば、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド等)の使用が好ましい。
【0024】
モノマーm2としては、下記式(III):
【化1】

(式(III)中、Rは二価の有機基である。)で表されるN−ビニル環状アミドの使用が好ましい。特に好ましいN−ビニル環状アミドとして、N−ビニル−2−ピロリドンが例示される。
【0025】
モノマーm2の含有量は、全モノマー成分の2〜40質量%程度であり得る。モノマーm2の含有量は、5〜30質量%程度(より好ましくは10〜20質量%程度)であることが好ましい。モノマーm2の含有量が少なすぎると、凝集力が不足しがちである。モノマーm2の含有量が多すぎると、バランスのよい粘着性能(粘着力、耐反撥性、凝集力等)が実現されにくくなる場合がある。
【0026】
上記モノマー混合物は、モノマーm1,m2に加えて、さらにモノマーm3を含む。このモノマーm3は、下記式(II)で表されるN−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミドから選択される一種または二種以上であり得る。
CH=C(R)CONHR (II)
ここで、式(II)中のRは、水素原子またはメチル基である。また、式(II)中のRは、炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基である。該ヒドロキシアルキル基におけるアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐を有してもよい。式(II)で表されるN−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミドの具体例としては、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)メタクリルアミド、N−(2−ヒドロキシプロピル)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド、N−(1−ヒドロキシプロピル)アクリルアミド、N−(1−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド、N−(3−ヒドロキシプロピル)アクリルアミド、N−(3−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド、N−(2−ヒドロキシブチル)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシブチル)メタクリルアミド、N−(3−ヒドロキシブチル)アクリルアミド、N−(3−ヒドロキシブチル)メタクリルアミド、N−(4−ヒドロキシブチル)アクリルアミド、N−(4−ヒドロキシブチル)メタクリルアミド等が挙げられる。親水性と疎水性とのバランスがよく粘着物性のバランスに優れた粘着剤層を形成し得ることから、本発明にとり好ましいモノマーm3として、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミドおよびN−(2−ヒドロキシエチル)メタクリルアミドが挙げられる。特にN−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド(HEAA)の使用が好ましい。例えば、モノマーm3の50質量%以上(より好ましくは70質量%以上、典型的には実質的に全部)がHEAAであることが好ましい。
【0027】
モノマーm3は、該モノマーm3の分子間の相互作用によって、粘着剤の凝集性向上に寄与する成分として機能し得る。このモノマーm3の含有量は、全モノマー成分の凡そ0.1〜25質量%であり得る。モノマーm3の含有量が上記範囲よりも少なすぎると、得られる粘着剤層の粘着性能(高温での接着性、一定応力存在下での剥がれに対する耐久性(凝集力)等)が不足しがちである。一方、モノマーm3の含有量が上記範囲よりも多すぎると、タックや低温下での接着性が低下しがちである。
【0028】
ここに開示される粘着剤組成物の好ましい一態様では、モノマーm3の含有量が全モノマー成分の凡そ0.5質量%以上(典型的には0.5〜20質量%)であり、より好ましくは凡そ1質量%以上(典型的には凡そ1〜15質量%、例えば凡そ1〜10質量%)である。
【0029】
モノマーm1,m2,m3の合計含有量は、例えば、全モノマー成分の凡そ70質量%以上であり得る。上記合計含有量が全モノマー成分の凡そ90質量%以上(より好ましくは凡そ95質量%以上)であることが好ましい。かかる粘着剤組成物によると、凝集力および耐反撥性のよい粘着シートを形成し得るという効果が得られる。
【0030】
モノマーm2,m3の合計含有量は、全モノマー成分の5.5〜60質量%(より好ましくは10.5〜45質量%)程度とすることが好ましい。これにより、上記モノマー混合物を含む水分散液の分散安定性(エマルション粒子の安定性)を高めることができる。したがって、かかる態様のモノマー混合物によると、エマルション重合により所望の特性(例えば、後述するゲル分率)を有するアクリル系共重合体を好適に調製することができる。
【0031】
ここに開示される技術では、上記モノマー混合物がカルボキシル基含有モノマーを実質的に含有しない。ここで「カルボキシル基含有モノマー」とは、一分子内に少なくとも一つのカルボキシル基(無水物の形態であり得る。)を有するビニルモノマー(エチレン性不飽和単量体)を指す。かかるカルボキシル基含有モノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等のエチレン性不飽和ジカルボン酸;無水マレイン酸、無水イタコン酸等のエチレン性不飽和ジカルボン酸の無水物;等が挙げられる。また、モノマー混合物がカルボキシル基含有モノマーを「実質的に含有しない」とは、モノマー混合物がカルボキシル基含有モノマーを全く含有しないか、あるいはその含有量が全モノマー成分の0.1質量%以下であることをいう。
【0032】
上記モノマー混合物は、カルボキシル基含有モノマーを実質的に含有しないのみならず、カルボキシル基以外の酸性基(スルホン酸基、リン酸基等)を含有するモノマーについても実質的に含有しないことが好ましい。すなわち、カルボキシル基含有モノマーその他の酸性基含有モノマー(カルボキシル基含有モノマーと他の酸性基含有モノマーとを包含する意味である。)を全く含有しないか、あるいはその合計量が全モノマー成分の0.1質量%以下であることが好ましい。かかる粘着剤組成物は、金属面に直接貼り付けられた場合に該金属面を腐食させる事象がより高度に抑制された(すなわち、金属面に対する腐食性がより高度に抑制された)粘着剤層を形成するものであり得る。
【0033】
上記モノマー混合物は、モノマーm1,m2,m3に加えて、任意成分として、これらモノマーの少なくともいずれかと共重合可能なモノマーを一種または二種以上含んでもよい。この任意成分たる共重合性モノマーは、例えば、モノマーm1としてのアルキル(メタ)アクリレートと共重合可能なモノマー(ただし、モノマーm1,m2,m3に相当するモノマーを除く)であり得る。かかる任意成分は、粘着剤の各種特性やアクリル系共重合体の構造(例えば、質量平均分子量、ゲル分率)等をより適切にコントロールする目的で使用され得る。
【0034】
上記共重合性モノマーとしては、例えば、シラノール基形成性モノマーを用いることができる。該シラノール基形成性モノマーは、上記粘着剤組成物から形成される粘着剤(粘着剤層)にシラノール基の縮合反応(シラノール縮合)による架橋構造を導入可能な官能基を少なくとも一つ有するモノマーであり得る。このシラノール基形成性モノマーは、架橋剤(カップリング剤)としても把握され得る。上記シラノール基形成性モノマーの好適例としては、一分子内に少なくとも一つ(好ましくは二つ以上、例えば二つまたは三つ)のアルコキシシリル基を有するシラノール基形成性モノマー(アルコキシシリル基含有モノマー)が挙げられる。アルキル(メタ)アクリレートとの共重合性の観点から、一分子内にアクリロイル基、メタアクリロイル基(以下、アクリロイル基およびメタクリロイル基を併せて「(メタ)アクリロイル基」と表記することがある。)、ビニル基等のエチレン性不飽和基を1個または2個以上有するシラノール基形成性モノマーが好ましく、中でも一分子内に(メタ)アクリロイル基およびアルコキシシリル基(例えば、一つの(メタ)アクリロイル基と二つまたは三つのアルコキシシリル基)を有するシラノール基形成性モノマーが好ましい。
【0035】
かかるシラノール基形成性モノマーの具体例としては、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。また、上記以外のシラノール基形成性モノマーとして、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、4−ビニルブチルトリメトキシシラン、4−ビニルブチルトリエトキシシラン、8−ビニルオクチルトリメトキシシラン、8−ビニルオクチルトリエトキシシラン、10−メタクリロキシデシルトリメトキシシラン、10−アクリロキシデシルトリメトキシシラン、10−メタクリロキシデシルトリエトキシシラン、10−アクリロキシデシルトリエトキシシラン等が挙げられる。特に好ましいシラノール基形成性モノマーとして、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが例示される。
【0036】
上記共重合性モノマーの他の例としては、窒素(N)を構成原子として含むモノマー(モノマーm2,m3に該当する化合物を除く。)が挙げられる。かかるN原子含有モノマーの例としては、アミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等の、アミノ基を有するモノマー;N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド等の、マレイミド骨格を有するモノマー;N−メチルイタコンイミド、N−エチルイタコンイミド、N−ブチルイタコンイミド、N−2−エチルヘキシルイタコンイミド、N−ラウリルイタコンイミド、N−シクロヘキシルイタコンイミド等の、イタコンイミド系モノマー;等が挙げられる。
【0037】
さらに他の例としては、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等の、エポキシ基を有するモノマー;メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸メトキシエチレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシポリプロピレングリコール等の、アルコキシ基を有するモノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の、シアノ基を有するモノマー;スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン系モノマー;エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、イソブチレン等のα−オレフィン;2−メタクリロキシエチルイソシアネート等の、イソシアネート基を有するモノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル系モノマー;ビニルエーテル等のビニルエーテル系モノマー;テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等の、複素環を有する(メタ)アクリル酸エステル;フッ素(メタ)アクリレート等の、ハロゲン原子を有するモノマー;シリコーン(メタ)アクリレート等の、シロキサン結合を有するモノマー;上記式(I)におけるRが炭素数21以上のアルキル基であるアルキル(メタ)アクリレート;シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の、脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリレート;フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸フェノキシジエチレングリコール等の、芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリレート;等が挙げられる。
【0038】
上記共重合性モノマーとしては、例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート、ジビニルベンゼン、ブチルジ(メタ)アクリレート、ヘキシルジ(メタ)アクリレート等の多官能モノマーを用いてもよい。
【0039】
上記共重合性モノマーのさらに他の例として、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8−ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、12−ヒドロキシラウリル(メタ)アクリレート、[4−(ヒドロキシメチル)シクロヘキシル]メチルアクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;上記式(II)におけるRが炭素数1または5以上のヒドロキシアルキル基であるN−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド;ビニルアルコール、アリルアルコール等のアルケニルアルコール;等の、水酸基を有するモノマーが挙げられる。
【0040】
なお、上記共重合性モノマーとして水酸基を有するモノマーを用いる場合、モノマーm3の使用による効果をより適切に発揮させ得るという観点からは、かかる水酸基含有モノマーをモノマーm3よりも少ない分量で使用することが好ましい。換言すれば、モノマー混合物に含まれる水酸基含有モノマーの総量のうち50質量%を超える分量(典型的には60質量%以上、より好ましくは75質量%以上、例えば90質量%以上の分量)がモノマーm3であることが好ましい。あるいは、モノマー混合物に含まれる水酸基含有モノマーが実質的にモノマーm3のみであってもよい。
【0041】
ここに開示される粘着剤組成物の好ましい一態様では、任意成分たる上記共重合性モノマーとして、少なくともシラノール基形成性モノマーを用いる。上記シラノール基形成性モノマーの使用量(二種以上のシラノール基形成モノマーを用いる場合、それらを合計した量)は、モノマーm1,m2,m3の合計100質量部に対して、凡そ1質量部以下であり得る。上記シラノール基形成性モノマーの添加量は、0.005〜0.5質量部(好ましくは凡そ0.01〜0.1質量部、例えば凡そ0.01〜0.05質量部)とすることが好ましい。
【0042】
上記モノマー混合物を重合する方法は特に制限されず、従来公知の一般的な重合方法(エマルション重合、溶液重合等)を採用することができる。上記モノマー混合物の共重合反応生成物たるアクリル系共重合体がエマルション状で得られ、水分散型粘着剤組成物の調製が容易であることから、エマルション重合を採用することが好ましい。上記モノマー混合物をエマルション重合以外の方法(溶液重合法等)により重合する場合は、適切な後処理工程(使用された有機溶媒を除去する工程等)の後、得られたアクリル系共重合体を、他の粘着剤成分(添加剤等)とともに適当な乳化剤を用いて水に分散させることにより水分散型粘着剤組成物を調製することができる。
【0043】
上記エマルション重合の態様は特に限定されず、従来公知の一般的な乳化重合と同様の態様により、例えば公知の各種モノマー供給方法、重合条件(重合温度、重合時間、重合圧力等)、使用材料(重合開始剤、界面活性剤等)を適宜採用して行うことができる。例えば、モノマー供給方法としては、全モノマー混合物を一度に重合容器に供給する一括仕込み方式、連続供給(滴下)方式、分割供給(滴下)方式等のいずれも採用可能である。モノマー混合物の一部または全部をあらかじめ水と混合して乳化し、その乳化液を反応容器内に供給してもよい。
【0044】
重合開始剤としては、アゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、置換エタン系開始剤、過酸化物と還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤等が例示されるが、これらに限定されない。
アゾ系開始剤としては、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]ハイドレート、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二硫酸塩、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス(N,N’−ジメチレンイソブチルアミジン)ジヒドロクロライド等が例示される。
過酸化物系開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素等が挙げられる。
置換エタン系開始剤としては、フェニル置換エタン等が例示される。
レドックス系開始剤としては、過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウムとの組み合わせ、過酸化物とアスコルビン酸ナトリウムとの組み合わせ等が例示される。
【0045】
重合開始剤の使用量は、該開始剤の種類やモノマーの種類(モノマー混合物の組成)等に応じて適宜選択できるが、通常は、全モノマー成分100質量部に対して、例えば0.005〜1質量部程度の範囲から選択することが適当である。
重合開始剤の供給方法としては、使用する重合開始剤の実質的に全量をモノマー混合物の供給開始前に反応容器に入れておく(典型的には、反応容器内に該重合開始剤の水溶液を用意する)一括仕込み方式、連続供給方式、分割供給方式等のいずれも採用可能である。重合操作の容易性、工程管理の容易性等の観点から、例えば一括仕込み方式を好ましく採用することができる。
重合温度は、例えば20〜100℃(典型的には40〜80℃)程度とすることができる。
【0046】
乳化剤(界面活性剤)としては、アニオン系乳化剤、ノニオン系乳化剤等を使用できる。アニオン系乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸ナトリウム等が例示される。ノニオン系乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー等が例示される。また、これらのアニオン系またはノニオン系乳化剤にラジカル重合性基(ビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ビニルエーテル基(ビニルオキシ基)、アリルエーテル基(アリルオキシ基)等)が導入された構造のラジカル重合性乳化剤(反応性乳化剤)を用いてもよい。このような乳化剤は、一種のみを単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。乳化剤の使用量(固形分基準)は、全モノマー成分100質量部に対して、例えば凡そ0.2〜10質量部程度(好ましくは凡そ0.5〜5質量部程度)とすることができる。
【0047】
上記重合には、必要に応じて、従来公知の各種の連鎖移動剤(分子量調節剤あるいは重合度調節剤としても把握され得る。)を使用することができる。かかる連鎖移動剤は、例えば、ドデシルメルカプタン(ドデカンチオール)、グリシジルメルカプタン、2−メルカプトエタノール、メルカプト酢酸、チオグリコール酸−2−エチルヘキシル、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール等のメルカプタン類から選択される一種または二種以上であり得る。なかでもドデカンチオールの使用が好ましい。連鎖移動剤の使用量は、全モノマー成分100質量部に対して例えば凡そ0.001〜0.5質量部程度とすることができる。この使用量が凡そ0.02〜0.05質量部程度であってもよい。例えば、連鎖移動剤の使用量を凡そ0.025〜0.035質量部程度とすることによって良好な結果(所望の質量平均分子量(例えば、1×10〜2×10程度)を有するアクリル系共重合体)が実現され得る。
【0048】
ここに開示される両面粘着シートにおいて粘着剤層の形成に用いられる水分散型粘着剤組成物には、必要に応じて、水性粘着剤組成物の分野において一般的な架橋剤(典型的には、上記アクリル系共重合体に含まれる官能基と反応し得る架橋性官能基を一分子中に二個以上有する架橋性化合物を有効成分とする。)が一種または二種以上配合されていてもよい。例えば、カルボジイミド系架橋剤、ヒドラジン系架橋剤、エポキシ系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、金属キレート系架橋剤、シランカップリング剤等を用いることができる。該架橋剤は、水溶性であっても、油溶性であってもよい。あるいは、かかる架橋剤が配合されない組成の粘着剤組成物であってもよい。例えば、任意成分たる上記共重合性モノマーとしてシラノール基形成性モノマーを使用した場合、該シラノール基形成性モノマーがシラン系架橋剤としても機能し得ることから、他の架橋剤を配合しない態様を好ましく採用し得る。
【0049】
ここに開示される粘着剤組成物の好ましい一態様では、該組成物が粘着付与剤を含む。かかる粘着付与剤としては、例えば、ロジン系樹脂、ロジン誘導体樹脂、石油系樹脂、テルペン系樹脂、フェノール系樹脂、ケトン系樹脂等の各種粘着付与剤樹脂から選択される一種または二種以上を用いることができる。
【0050】
上記ロジン系樹脂としては、例えば、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等のロジンの他、安定化ロジン(例えば、前記ロジンを不均化もしくは水素添加処理した安定化ロジン)、重合ロジン(例えば、前記ロジンの多量体、典型的には二量体)、変性ロジン(例えば、マレイン酸、フマル酸、(メタ)アクリル酸等の不飽和酸により変性された不飽和酸変性ロジン等)等が挙げられる。
上記ロジン誘導体樹脂としては、上記ロジン系樹脂のエステル化物、フェノール変性物およびそのエステル化物等が挙げられる。
上記石油系樹脂としては、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、共重合系石油樹脂、脂環族系石油樹脂、これらの水素化物等が例示される。
上記テルペン系樹脂としては、α−ピネン樹脂、β−ピネン樹脂、芳香族変性テルペン系樹脂、テルペンフェノール系樹脂等が挙げられる。
上記ケトン系樹脂としては、例えば、ケトン類(例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン等の脂肪族ケトン;シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等の脂環式ケトン等)とホルムアルデヒドとの縮合によるケトン系樹脂が例示される。
【0051】
好ましく使用し得る粘着付与剤の市販品としては、荒川化学工業株式会社製の商品名「スーパーエステルE−865」、「スーパーエステルE−865NT」、「スーパーエステルE−650」、「スーパーエステルE−786−60」、「タマノルE−100」、「タマノルE−200」、「タマノル803L」、「ペンセルD−160」、「ペンセルKK」;ヤスハラケミカル株式会社製の商品名「YSポリスターS」、「YSポリスターT」、「マイティエースG」;等が例示されるが、これらに限定されない。高温環境下における凝集性を高めるという観点等からは、例えば、軟化点が凡そ140℃以上(典型的には140〜180℃)の粘着付与剤を好ましく採用し得る。軟化点が凡そ160℃以上(典型的には160〜180℃)の粘着付与剤を採用することにより、より高性能な粘着剤層を与える粘着剤組成物が提供され得る。例えば、比較的高温(例えば、40℃)の環境下における凝集性と他の特性(粘着力、耐反撥性等)とがより高度なレベルでバランスよく実現した粘着剤組成物が提供され得る。このような粘着付与剤は、一種のみを使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
かかる粘着付与剤は、典型的には、アクリル系共重合体のエマルションに添加して用いられる。粘着付与剤の添加態様は特に限定されない。通常は、該粘着付与剤が水に分散された水分散液(粘着付与剤エマルション)の形態で添加することが適当である。
【0052】
粘着付与剤の配合量は、不揮発分(固形分)換算として、アクリル系共重合体100質量部に対して例えば凡そ50質量部以下とすることができる。通常は、上記配合量を凡そ40質量部以下とすることが適当である。粘着付与剤配合量の下限は特に限定されないが、通常はポリマー成分100質量部に対して凡そ1質量部以上とすることにより良好な結果が得られる。
ここに開示される粘着剤組成物の好ましい一態様では、該粘着付与剤の配合量を、アクリル系共重合体100質量部に対して固形分基準で凡そ5〜40質量部(典型的には凡そ5〜30質量部、例えば凡そ15〜30質量部)とする。
かかる粘着剤組成物によると、後述する好ましい粘着剤のゲル分率Gbとなるように架橋された粘着剤または該粘着剤を備える粘着シートにおいて、接着性、耐反撥性および高温凝集性という複数の特性がより高レベルでバランスよく実現され得る。
【0053】
ここに開示される粘着シートに具備される粘着剤層は、好ましくは、該粘着剤層を構成する粘着剤のゲル分率Gbが例えば凡そ15〜90%程度である。かかるゲル分率を有する粘着剤(架橋剤を含む組成では架橋後の粘着剤)が形成されるように、モノマー組成(例えばモノマーm3の使用量)、アクリル系共重合体の分子量、粘着剤層の形成条件、架橋剤の種類および使用量、等の条件を適宜設定するとよい。粘着剤のゲル分率が低すぎると、凝集力や耐反撥性が不足しがちである。一方、ゲル分率が高すぎると、粘着力やタックが低下しやすくなることがある。ゲル分率が凡そ20〜85%(例えば凡そ25〜80%)の範囲にある粘着剤によると、より良好な粘着性能が実現され得る。ここで「粘着剤のゲル分率Gb(%)」としては、次の方法により測定される値を採用するものとする。
【0054】
[粘着剤のゲル分率(Gb)測定方法]
粘着剤サンプル(質量W)を平均孔径0.2μmの多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜(質量W)で巾着状に包み、口をタコ糸(質量W)で縛る。このサンプル含有巾着を酢酸エチル50mLに浸し、室温(典型的には23℃)で7日間放置して上記粘着剤サンプル中のゾル成分のみを上記多孔質膜外へ溶出させる。次いで、上記サンプル含有巾着を取り出して外表面に付着している酢酸エチルを拭き取った後、130℃の乾燥機中で2時間乾燥させ、該サンプル含有巾着の質量(W)を測定する。粘着剤のゲル分率は、各値を以下の式に代入することにより求められる。
Gb(質量%)=[(W−W−W)/W]×100%
【0055】
なお、上記多孔質ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜としては、日東電工株式会社から入手可能な商品名「ニトフロン(登録商標)NTF1122」(平均孔径0.2μm、気孔率75%、厚さ85μm)またはその相当品を100mm×100mm程度にカットして使用することが望ましい。また、タコ糸としては、太さ1.5mm、長さ100mm程度のものが好ましく使用され得る。
【0056】
ここに開示される粘着剤組成物には、粘度調整(典型的には増粘)の目的で、上記アクリル系共重合体以外のポリマーを適宜配合することができる。かかる粘度調整用ポリマーとしては、ゴムまたはエラストマーの性質をもつポリマーが好ましく、例えばエチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリルゴム、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム(EPM,EPDM)、ポリイソブチレン、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(NBR)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、ポリビニルアルキルエーテル(例えば、ポリビニルイソブチルエーテル)等を例示することができる。これらのうち一種を単独で用いてもよく二種以上を組み合わせて用いてもよい。
このようなポリマー成分は、例えば、該ポリマー成分が水に分散したエマルションの形態で、上記アクリル系ポリマーの水性エマルションに配合して用いられ得る。該ポリマー成分の含有量(配合割合)は、不揮発分(固形分)基準で、アクリル系ポリマー100質量部に対して通常は凡そ50質量部以下(例えば凡そ5〜50質量部)とすることが適当である。かかるポリマー成分の配合割合を5質量部以下としてもよく、該ポリマー成分を実質的に含有しない組成の粘着剤組成物であってもよい。
【0057】
ここに開示される粘着剤組成物は、pH調整等の目的で使用される酸または塩基(アンモニア水等)を含有するものであり得る。該組成物に含有され得る他の任意成分としては、粘度調整剤、レベリング剤、可塑剤、充填剤、着色剤(顔料、染料等)、安定剤、防腐剤、老化防止剤等の、水性粘着剤組成物の分野において一般的な各種の添加剤が例示される。このような添加剤は、従来公知のものを常法により使用することができ、特に本発明を特徴づけるものではないので、詳細な説明は省略する。
【0058】
本発明に係る金属面貼付用粘着シートは、ここに開示されるいずれかの粘着剤組成物を用いて形成された粘着剤層を備える。かかる粘着剤層をシート状基材(支持体)の片面または両面に固定的に(当該基材から粘着剤層を分離する意図なく)設けた形態の基材付き粘着シートであってもよく、あるいは該粘着剤層を例えば剥離ライナー(剥離紙、表面に剥離処理を施した樹脂シート等)のような剥離性を有する支持体上に設けた形態の基材レス粘着シートであってもよい。ここでいう粘着シートの概念には、粘着テープ、粘着ラベル、粘着フィルム等と称されるものが包含され得る。なお、上記粘着剤層は連続的に形成されたものに限定されず、例えば点状、ストライプ状等の規則的あるいはランダムなパターンに形成された粘着剤層であってもよい。
【0059】
ここに開示される粘着シートは、実施例中に記載される耐反撥性の評価試験において、アクリル板およびABS板からの浮き距離(mm)が、いずれも両端の合計値で5mm以下(例えば、3mm以下)という優れた耐反撥性を有するものであり得る。かかる特性を有する粘着シートは、段差やカーブのある表面に対する接着性(曲面接着性)に優れるため好ましい。
【0060】
ここに開示される粘着シートは、例えば、図1〜図6に模式的に示される断面構造を有するものであり得る。このうち図1,図2は、両面粘着タイプの基材付き粘着シートの構成例である。図1に示す粘着シート11は、基材1の両面に粘着剤層2が設けられ、それらの粘着剤層2が、少なくとも該粘着剤層側が剥離面となっている剥離ライナー3によってそれぞれ保護された構成を有している。図2に示す粘着シート12は、基材1の両面に粘着剤層2が設けられ、それらの粘着剤層のうち一方が、両面が剥離面となっている剥離ライナー3により保護された構成を有している。この種の粘着シート12は、該粘着シート12を巻回することにより他方の粘着剤層を剥離ライナー3の裏面に当接させ、該他方の粘着剤層もまた剥離ライナー3によって保護された構成とすることができる。
図3,図4は、基材レス粘着シートの構成例である。図3に示す粘着シート13は、基材レスの粘着剤層2の両面が、少なくとも該粘着剤層側が剥離面となっている剥離ライナー3によってそれぞれ保護された構成を有する。図4に示す粘着シート14は、基材レスの粘着剤層2の一面が、両面が剥離面となっている剥離ライナー3により保護された構成を有し、これを巻回すると粘着剤層2の他面が剥離ライナー3に当接して該他面もまた剥離ライナー3で保護された構成とできるようになっている。
図5,図6は、片面粘着タイプの基材付き粘着シートの構成例である。図5に示す粘着シート15は、基材1の片面に粘着剤層2が設けられ、その粘着剤層2の表面(接着面)が、少なくとも該粘着剤層側が剥離面となっている剥離ライナー3によって保護された構成を有する。図6に示す粘着シート16は、基材1の一面に粘着剤層2が設けられた構成を有する。その基材1の他面は剥離面となっており、粘着シート16を巻回すると該他面に粘着剤層2が当接して該粘着剤層の表面(接着面)が基材1の他面で保護された構成とできるようになっている。
【0061】
このような粘着シートを構成する基材としては、例えば、ポリプロピレンフィルム、エチレン−プロピレン共重合体フィルム、ポリエステルフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム等のプラスチックフィルム;ポリウレタンフォーム、ポリエチレンフォーム等のフォーム基材;クラフト紙、クレープ紙、和紙等の紙;綿布、スフ布等の布;ポリエステル不織布、ビニロン不織布等の不織布;アルミニウム箔、銅箔等の金属箔;等を、粘着シートの用途に応じて適宜選択して用いることができる。上記プラスチックフィルムとしては、無延伸フィルムおよび延伸(一軸延伸または二軸延伸)フィルムのいずれも使用可能である。また、基材のうち粘着剤層が設けられる面には、下塗剤の塗布、コロナ放電処理等の表面処理が施されていてもよい。基材の厚みは目的に応じて適宜選択できるが、一般的には概ね10μm〜500μm(典型的には10μm〜200μm)程度である。
【0062】
上記粘着剤層は、例えば、ここに開示されるいずれかの粘着剤組成物を支持体(基材または剥離ライナー)に付与(典型的には塗布)し、該組成物を乾燥させることにより形成され得る。かかる粘着剤層形成方法は、あらかじめ適宜の重合法(典型的には熱重合法)にてモノマー混合物を少なくとも部分的に(好ましくはほぼ完全に)重合させてなるアクリル系共重合体と、必要に応じて使用される架橋剤や添加剤等とが、水性溶媒(水および水を主成分とする混合溶媒、典型的には水)に分散した形態の粘着剤組成物に好ましく適用され得る。架橋剤を含む粘着剤組成物の場合、上記乾燥に加えて、必要に応じて適宜の架橋処理を、同時に、または別途行ってもよい。
【0063】
粘着剤組成物の塗布は、例えば、グラビアロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーター等の慣用のコーターを用いて行うことができる。架橋反応の促進、製造効率向上等の観点から、粘着剤組成物の乾燥は加熱下で行うことが好ましい。該組成物が塗布される支持体の種類にもよるが、例えば凡そ40〜150℃程度の乾燥温度を採用することができる。なお、基材付き粘着シートの場合、基材に粘着剤組成物を直接付与して粘着剤層を形成してもよく、剥離ライナー上に予め形成した粘着剤層を基材に積層(転写)してもよい。
【0064】
粘着剤層の厚みは特に限定されないが、通常は、例えば凡そ10μm以上(好ましくは凡そ20μm以上、より好ましくは凡そ30μm以上)とすることにより良好な粘着性能(例えば接着強度)が実現され得る。また、通常は該厚みを凡そ400μm以下(典型的には凡そ200μm以下、例えば凡そ100μm以下)とすることが適当である。
【0065】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」および「%」は、特に断りがない限り質量基準である。
【0066】
<例1>
ブチルアクリレート(BA)86g、2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)201g、N−ビニル−2−ピロリドン(NVP)43g、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド(HEAA)4g、および3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製、商品名「KBM−503」;シランカップリング剤)0.1gからなる油層を、乳化剤水溶液(花王株式会社製、商品名「ラムテルE118B」;固形分濃度26%のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム水溶液)26gおよび蒸留水119gからなる水層と混合して、モノマーエマルションを調製した。
【0067】
冷却管、窒素導入管、温度計、滴下管および攪拌装置を備えた反応容器に、イオン交換水120gと2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]ハイドレート(和光製薬工業株式会社製、商品名「VA−057」)0.34gとを加え、攪拌しながら60℃で1時間窒素置換した。これを60℃に保ちつつ、上記モノマーエマルションを3時間かけて徐々に滴下した。滴下終了後、さらに60℃で4時間攪拌して、アクリル系共重合体の水分散液(エマルション粘着剤)を得た。
【0068】
このエマルション粘着剤を一枚目の剥離ライナー(塗付面がシリコーンで剥離処理された厚み38μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(三菱化学ポリエステルフィルム株式会社製、商品名「MRF38」))に塗布し、130℃で3分間乾燥して厚み60μmの粘着剤層を形成した。この粘着剤層上に、二枚目の剥離ライナー(三菱化学ポリエステル株式会社製、商品名「MRN38」)を、剥離処理された面が粘着剤層に接するように積層して、さらに50℃に2日間(48時間)保持して基材レスの両面粘着シートを得た。
【0069】
<例2>
例1のエマルション粘着剤に、該エマルションに含まれるアクリル系共重合体100部に対して、ロジン系粘着付与樹脂(荒川化学工業株式会社製、商品名「スーパーエステル E−865」)を固形分換算で20部添加した。その他は例1と同様にして、基材レスの両面粘着シートを得た。
【0070】
<例3>
2EHA275g、NVP58g、およびラウリルメルカプタン(連鎖移動剤)0.1gからなる油層を、乳化剤水溶液(例1と同じ)26g、上記商品名「KBM−503」0.1g、および蒸留水119gからなる水層と混合して、モノマーエマルションを調製した。このモノマーエマルションを用いた他は例1と同様にして、基材レスの両面粘着シートを得た。
【0071】
<例4>
例3で得られたエマルション粘着剤に、該エマルションに含まれるアクリル系共重合体100部に対して、上記商品名「スーパーエステル E−865」を固形分換算で20部添加した。その他は例3と同様にして、基材レスの両面粘着シートを得た。
【0072】
<例5>
ブチルアクリレート(BA)318gおよびラウリルメルカプタン(連鎖移動剤)0.1gからなる油層を、乳化剤水溶液(例1と同じ)26g、アクリル酸(AA)15g、上記商品名「KBM−503」0.1g、および蒸留水119gからなる水層と混合して、モノマーエマルションを調製した。このモノマーエマルションを用いた他は例1と同様にして、基材レスの両面粘着シートを得た。
【0073】
<例6>
例5で得られたエマルション粘着剤に、該エマルションに含まれるアクリル系共重合体100部に対して、上記商品名「スーパーエステル E−865」を固形分換算で20部添加した。その他は例5と同様にして、基材レスの両面粘着シートを得た。
【0074】
例1〜6のエマルション粘着剤のモノマー混合物組成および粘着付与剤の使用量を表1に示す。また、例1〜6の粘着シートについて行った以下の評価の結果を表2に示す。
【0075】
[粘着剤層のゲル分率]
各粘着シートにつき、上述の方法に準じて粘着剤層のゲル分率を測定した。ゲル分率測定のサンプルとしては、各粘着シートを面積17cm相当にカットして両剥離ライナーを除去したものを用いた。
【0076】
[金属面腐食性]
各粘着シートから一枚目の剥離ライナーを除去して露出した第1粘着面に、厚さ50μmのPETフィルム(剥離処理なし)を貼り合わせた。次いで、二枚目の剥離ライナーを除去して露出した第2粘着面を、厚さ35μmの銅箔に貼り合わせてサンプルを作製した。このサンプルを、60℃、RH(相対湿度)95%の環境下に4日間保存した後、銅箔表面の状態(上記環境下に保存する前の色味と比較しての変色の程度)を目視にて確認し、金属面腐食性を次の二段階に評価した。
低: 顕著な変色が認められなかった。
高: 顕著な変色が認められた。
【0077】
[粘着力]
[対アクリル]
各粘着シートの一枚目の剥離ライナーを除去して露出した第1粘着面に、厚さ50μmのPETフィルム(剥離処理なし)を貼り合わせた。これを幅20mmの帯状にカットし、二枚目の剥離ライナーを除去して露出した第2粘着面を、イソプロパノールで表面を洗浄したアクリル板(三菱レイヨン株式会社製、商品名「アクリライト板001」)(被着体)に貼り合わせ、2kgのローラを1往復させて圧着したものをサンプルとした。このサンプルを、23℃、RH50%の環境下に30分間保持した後、引張試験機を用い、JIS Z 0237に準拠して、23℃、RH50%の環境下、引張速度300mm/分の条件にて、アクリル板に対する180°引き剥がし粘着力を対アクリル粘着力(N/20mm)の初期値として測定した。
同様にして作製したサンプルを、40℃、RH50%の環境下に2日間、次いで23℃、RH50%の環境下に30分保持した後、上記と同様にして、アクリル板に対する180°引き剥がし粘着力を対アクリル粘着力(N/20mm)の常態値として測定した。
[対ABS]
アクリル板の代わりにABS板(新神戸電機株式会社製、商品名「コウベポリシート ABS板」)を用いた他は対アクリル粘着力測定と同様にして、対ABS粘着力(N/20mm)の初期値および常態値を測定した。
【0078】
[耐反撥性]
[対アクリル]
各粘着シートを10mm×90mmのサイズにカットし、一枚目の剥離ライナーを剥がして露出した第1粘着面に、同じサイズにカットしたアルミニウム板(厚さ0.5mm)を貼り合わせて試験片を作製した。この試験片を23℃、RH50%の環境下に1日保持した後、直径67mmの丸棒に巻きつけて(アルミニウム片側を内側とする。)約10秒間押しつけることにより直径150mmの円弧状に反らせた。この試験片から二枚目の剥離ライナーを剥がして露出した第2粘着面を、イソプロパノールで表面を洗浄したアクリル板(被着体)に、ラミネータを用いて浮きのないように圧着した。これを23℃、RH50%の環境下に24時間保持した後に、該試験片の各端部がアクリル板表面から浮きあがった距離(mm)を測定した。表2中の値は両端の合計値を示す。
[対ABS]
被着体として、上記アクリル板の代わりにイソプロパノールで表面を洗浄したABS板を用いた他はアクリル板に対する耐反撥性測定と同様にして、試験片端部がABS板表面から浮き上がった距離(mm)を測定した。
【0079】
[40℃保持力]
各粘着シートから一枚目の剥離ライナーを除去して露出した第1粘着面に、厚さ50μmのPETフィルムを貼り合わせた。これを10mm×100mmにカットして試験片を作製した。上記試験片から二枚目の剥離ライナーを剥がして露出した第2粘着面を、トルエンで表面を洗浄したベークライト板(被着体)に、10mm×20mmの接着面積にて貼り付け、2kgのローラを1往復させて圧着した。これを40℃で30分間保持した後、ベークライト板を垂下し、試験片の自由端に500gの荷重を付与した。JIS Z 0237に準じて、該荷重が付与された状態で40℃の環境下に2時間放置し、2時間経過時点での初期貼り付け位置からの試験片のズレ距離(mm)を測定した。なお、表2中に「落下」とある場合は、当該試験片が2時間経過前に落下したことを示す。
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

【0082】
表1,2に示されるように、カルボキシル基含有モノマー(アクリル酸)を用いてなる例5,6に係る粘着シートは、いずれも高い金属面腐食性を示した。一方、カルボキシル基含有モノマーを用いなかった例1〜4の粘着シートのうち、モノマーm3を含まないモノマー混合物を用いてなる例3の粘着シートは、金属面腐食性が著しく抑制されたものの、凝集力(40℃保持力)および耐反撥性のいずれもが著しく低下する結果となった。例3の粘着剤層に粘着付与樹脂が添加された態様の例4の粘着シートは、耐反撥性が顕著に改善されたものの、凝集力は不十分なままであった。これに対し、カルボキシル基含有モノマーを用いず、且つモノマーm1に加えてモノマーm2およびモノマーm3のいずれをも含むモノマー混合物を用いてなる例1,2の粘着シートは、金属面腐食性が認められず、アクリル板およびABS板のいずれに対しても、初期、常態とも十分な粘着力を示し、且つ高い凝集力(保持力)を示した。特に、例3の粘着シートと比較すると、耐反撥性が著しく改善された。このように例1,2の粘着シート(特に例1の粘着シート)によると、金属面に対する低腐食性に加えて、粘着力、凝集力、耐反撥性のいずれも例5,6の粘着シートと略同等またはそれ以上という優れた粘着性能が同時に実現された。すなわち、本発明を適用した例1,2の粘着シートによると、他の種々の粘着性能(ここでは粘着力、凝集力および耐反撥性)を高いレベルに維持しつつ、金属面に対する腐食性を顕著に低減することができた。
【0083】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0084】
1:基材
2:粘着剤層
3:剥離ライナー
11,12,13,14,15,16:粘着シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系共重合体をベースポリマーとする水分散型粘着剤組成物であって、
前記アクリル系共重合体は、
以下の条件:
モノマーm1として、次式(I):
CH=C(R)COOR (I)
(式(I)中、Rは水素原子またはメチル基であり、Rは炭素数1〜12のアルキル基である。);で表される一種または二種以上のアルキル(メタ)アクリレートを、全モノマー成分の35〜97.5質量%含む;
モノマーm2として、N−ビニル環状アミドおよびN−アルキル基を有してもよい(メタ)アクリルアミドからなる群から選択される一種または二種以上を、全モノマー成分の2〜40質量%含む;
モノマーm3として、次式(II):
CH=C(R)CONHR (II)
(式(II)中、Rは水素原子またはメチル基であり、Rは炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基である。);で表される一種または二種以上のN−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミドを、全モノマー成分の0.1〜25質量%含む;および、
カルボキシル基を有するモノマーを実質的に含まない;
のいずれをも満たすモノマー混合物の共重合反応生成物である、水分散型粘着剤組成物。
【請求項2】
前記モノマー混合物が、前記モノマーm1,m2,m3の合計100質量部に対し、シラノール基形成性モノマーを1質量部以下の割合で含む、請求項1記載の水分散型粘着剤組成物。
【請求項3】
前記モノマーm2が、次式(III):
【化1】

(式中、Rは二価の有機基である。);で表される一種または二種以上のN−ビニル環状アミドである、請求項1または2に記載の水分散型粘着剤組成物。
【請求項4】
前記モノマーm3が、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミドである、請求項1から3のいずれか一項に記載の水分散型粘着剤組成物。
【請求項5】
前記モノマーm1,m2,およびm3の合計含有量が、全モノマー成分の90質量%以上である、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
金属面に直接貼り付けるための粘着シートに用いられる、請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物を用いて形成された粘着剤層を備える、粘着シート。
【請求項8】
請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物を用いて形成された粘着剤層を備え、該粘着剤層を金属面に直接貼り付けて使用される、金属面貼付用粘着シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−94022(P2011−94022A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249025(P2009−249025)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】