説明

粘着剤組成物及び該組成物を用いた粘着シートまたは粘着テープ

【課題】低温接着性に優れた粘着剤組成物、さらにそれらを用いた粘着シートまたは粘着テープを提供することを目的とする。
【解決手段】
天然ゴム、合成ゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のエラストマーまたはアクリル系ポリマー100重量部に対して、ガラス転移点が−40℃〜0℃である環状テルペンフェノール系粘着付与剤が1〜30重量部の割合で含まれている粘着剤組成物を提供する。環状テルペンフェノール系粘着付与剤は、環状テルペン化合物/フェノール化合物=1/1付加物を含んでおり、特にカンフェン/フェノール=1/1付加物、α−ピネン/フェノール=1/1付加物、リモネン/フェノール=1/1付加物が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温接着性に優れた粘着剤組成物及び粘着テープまたはシート類に関する。
【背景技術】
【0002】
粘着剤には主成分として天然ゴム、合成ゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のエラストマー及びアクリル系ポリマー等を用いており、これら粘着剤は基材に塗布されて粘着テープや粘着ラベル等の形で幅広い用途に使用されている。
しかし、この粘着テープや粘着ラベル等の使用環境が低温時である場合に、張り合わせ不良や剥れの原因となっており、そのため粘着剤主成分であるポリマーの改質、粘着付与剤の種類や量の選択等様々な改良が行われている。例えば特許文献1では、アクリル系ポリマーに特定の粘着付与剤を含有させて得られる粘着剤が開示されている。また特許文献2では、ガラス転移点が−60〜−30℃であるアクリル系ポリマーに、液状の粘着付与剤を配合し、エポキシ系架橋剤によって架橋した粘着剤が開示されているが、これらの配合系では十分な接着性を確保することができない。
【特許文献1】特開平7−188629号公報
【特許文献2】特開2000−319618号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、本発明の目的は、低温接着性に優れた粘着剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、天然ゴム、合成ゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のエラストマーまたはアクリル系ポリマー100重量部に対して、ガラス転移点が−40℃〜0℃である環状テルペンフェノール系粘着付与剤が1〜30重量部の割合で含まれていることを特徴とする粘着剤組成物を見出した。さらに、上記の粘着剤組成物に用いる環状テルペンフェノール系粘着付与剤は環状テルペン化合物/フェノール化合物=1/1付加物を含むことが好ましい。
【0005】
また、本発明は上記粘着剤組成物及び該粘着剤組成物を支持体の片面または両面に塗布してなる粘着シートまたは粘着テープを提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の粘着剤組成物によれば、優れた低温接着性を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の粘着剤組成物は、天然ゴム、合成ゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のエラストマーまたはアクリル系ポリマーを主剤とし、これに必要に応じて可塑剤、軟化剤、顔料、充填剤、希釈剤、架橋剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、界面活性剤、剥離調整剤、静電防止剤等の添加剤を含ませてなるもので、溶液型、水分散型、UV硬化型、ホットメルト型等のいずれの形態であってもよい。
【0008】
エラストマーやアクリル系ポリマー、上記種々の添加剤は、従来公知のものをいずれも使用でき、それらの種類や配合については特に限定されず、1種類または2種以上使用可能である。本発明では、このような粘着剤組成物中に、ガラス転移点が−40℃〜0℃である環状テルペンフェノール系粘着付与剤を配合することを特徴とする。
【0009】
本発明に用いる環状テルペンフェノール系粘着付与剤は、環状テルペン化合物/フェノール化合物=1/1付加物を主成分として含んでおり、その付加物は単独でも2種以上を混合していてもよい。
【0010】
環状テルペン化合物としては、単環のテルペン化合物であってもよいし、双環のテルペン化合物であってもよい。例えば、α−ピネン、β−ピネン、ジペンテン、リモネン、α−フェランドレン、β−フェランドレン、α−テルピネン、β−テルピネン、γ−テルピネン、テルピノーレン、1,8−シネオール、1,4−シネオール、α−ターピネオール、β−ターピネオール、γ−ターピネオール、4−ターピネオール、サビネン、カンフェン、トリシクレン、パラメンテン−1、パラメンテン−2、パラメンテン−3、パラメンテン−8、パラメンタジエン類、Δ2−カレン、Δ3−カレン等が挙げられる。また、これらの環状テルペン化合物は、単独で使用することもでき、2種以上を混合して使用することもできる。
【0011】
フェノール化合物としては、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、プロピルフェノール、ノニルフェノール、ハイドロキノン、レゾルシン、メトキシフェノール、ブロモフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等が挙げられる。また、これらのフェノール化合物は、単独で使用することもでき、2種以上を混合して使用することもできる。
【0012】
環状テルペンフェノール系粘着付与剤は、環状テルペン化合物の1種以上と、フェノール化合物の1種以上とを任意の組み合わせで反応させて得ることができ、製造方法は特に限定されないが、例えば環状テルペン化合物1モルに対してフェノール化合物を0.1〜6モル、好ましくは0.5〜4モル使用し、酸性触媒の存在下で20〜150℃の温度で1〜10時間反応させることにより得られる。その酸性触媒としては、塩酸、硫酸、リン酸、ポリリン酸、三フッ化硼素もしくはその錯体、陽イオン交換樹脂、ヘテロポリ酸、活性白土等が挙げられる。その際、反応溶媒は使用しなくてもよいが、芳香族系炭化水素類、アルコール類、エーテル類等の溶媒を使用することもできる。
【0013】
環状テルペンフェノール系粘着付与剤中の環状テルペン化合物/フェノール化合物=1/1付加物の含有量は、30重量%以上が好ましい。30重量%より少ないと粘着剤組成物に添加した際、低温接着性を発揮できなかったり、取り扱い作業時のハンドリング性が悪くなったりする。環状テルペン化合物/フェノール化合物=1/1付加物の含有量は、蒸留等の精製方法によって調節可能である。
【0014】
環状テルペンフェノール系粘着付与剤の分子量は、数平均分子量200〜500で、好ましくは220〜400である。数平均分子量が200未満では、得られる粘着剤組成物の凝集力が劣り、数平均分子量が500を超えると得られる粘着剤組成物の低温接着力が劣る。
【0015】
環状テルペンフェノール系粘着付与剤は、ガラス転移点が−40℃〜0℃であることが好ましく、さらに−30℃〜−15℃が好ましい。ガラス転移点が−40℃より低いと得られる粘着剤組成物の凝集力が劣り、0℃を超えると低温接着力が著しく低下する。少なくとも本発明の粘着組成物の調製時に液状である方が、分散性が良好で、均質な組成物が得られるため好ましい。なお、液状とは当該温度で流動現象を示すような状態にあることを意味し、粘調液体の状態も含む。中でも環状テルペン化合物としてα−ピネン、β−ピネン、ジペンテン、リモネン、カンフェン、トリシクレンと、フェノール化合物としてフェノール、クレゾールとの組み合わせが好適に挙げられ、特にカンフェン/フェノール=1/1付加物、α−ピネン/フェノール=1/1付加物、リモネン/フェノール=1/1付加物が好ましい。なお、カンフェン/フェノール=1/1付加物は、イソボルニルフェノールであり、イソボルニルフェノールの具体例として、下記構造式(1)を挙げることができる。
【0016】
【化1】

【0017】
環状テルペンフェノール系粘着付与剤の使用量は、粘着剤組成物の主剤であるエラストマーまたはアクリル系ポリマー100重量部に対して、1〜30重量部であり、好ましくは1〜25重量部、さらに好ましくは3〜16重量部である。1重量部未満では、低温接着力が劣り、30重量部を超えると凝集力が低下し、本来の粘着剤としての機能が損なわれる恐れがある。
【0018】
環状テルペンフェノール系粘着付与剤は、環状テルペン化合物/フェノール化合物=1/1付加物をさらに水素添加したものでもよく、水素添加の方法は従来公知のもので特に限定されない。例えば、特開平10−330315号公報等に水素添加の方法が記載されている。水素添加したものを添加した粘着剤組成物は、耐候性が良好となる。
【0019】
また、粘着物性のバランスを取るために、上記の環状テルペンフェノール系粘着付与剤以外の粘着付与剤を使用してもよく、例えば、(重合)ロジンエステル系、ロジンフェノール系、テルペン系、テルペンフェノール系、クマロン系、クマロン・インデン系、スチレン樹脂系、キシレン樹脂系、フェノール樹脂系、石油樹脂系等が挙げられる。これらは1種または2種以上組み合わせて使用できる。
【0020】
本発明の粘着剤組成物を支持体の片面または両面に塗布して層を設けることにより、粘着シートまたは粘着テープを得ることができる。ここで使用される支持体は特に制限されず、例えば、プラスチックフィルム、紙、不織布のほか、金属箔やプラスチック製あるいはゴム製の発泡体などのシートあるいはテープ状のもの等が適用できる。
【0021】
粘着剤組成物を上記支持体へ加工する方法としては特に限定されないが、アクリル系ポリマーを主剤とする溶剤型アクリル系粘着剤の製造方法を例として次に挙げる。有機溶剤、例えばトルエンと酢酸エチル、アクリル系ポリマーや環状テルペンフェノール系粘着付与剤等の混合液を撹拌溶解させ、固形分含有量10〜70重量%の粘着液として調製する。このように調製した粘着剤組成物を、例えばロールコーターやリバースコーターなどで支持体に塗布し、加熱して溶剤を揮発させることにより本発明の粘着テープまたは粘着シートが得られる。粘着剤層の厚みは特に制限されないが、通常0.01〜1.0mm程度である。
【0022】
本発明の粘着剤組成物を支持体に塗布して得られる粘着シートまたは粘着テープは、優れた低温接着性を示す。
【実施例】
【0023】
以下、実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例および比較例中の部および%は、特に断らない限り、重量基準である。
【0024】
下記合成例、実施例及び比較例における分析は、下記の機器を使用した。
(純度)
ガスクロマトグラフィー質量分析装置(GC−MS)により純度を求めた。装置;Hewlett Packard社製、HP6890 GC System、カラム;HP−5MS(Crosslinked 5% Ph Me Siloxane)径0.25mm×30m、イオン化モード;EI
(分子量)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により分子量を求めた。装置;Waters社製、モデル510、カラム;Waters社製、Styragel (HR3+HR2)×2、溶媒;テトラヒドロフラン、標準物質;ポリスチレン
(ガラス転移点)
示差走査熱量計(DSC)により変移曲線からガラス転移点(℃)を求めた。装置;TA Instruments社製、DSC Q100、試料量;6mg、測定開始温度;−55℃、昇温速度;10℃/分
【0025】
合成例1
温度計、撹拌装置、滴下ロート及び冷却管を備えた4つ口フラスコに、フェノール188g(2モル)、強酸性陽イオン交換樹脂4g仕込んだ後、100℃の温度に保持しながら、カンフェン272g(2モル)を3時間かけて滴下し、その後3時間撹拌し反応させた。次いで、該混合液から、ろ過によって陽イオン交換樹脂を除き、得られた反応液を10mmHgの減圧条件下蒸留を行い、沸点145℃〜155℃の留分360gを得た。得られた留分をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、イソボルニルフェノールが70%含まれており、数平均分子量(Mn)は230、ガラス転移点は−20℃を示した。
【0026】
実施例1
アクリル酸n−ブチル100部、アクリル酸3部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル0.2部、トルエン/酢酸エチル400部を温度計、撹拌機、不活性ガス導入管、還流冷却器を備えた4つ口フラスコに仕込み、室温で1時間窒素置換を行った。その後、60℃まで昇温し、重合開始剤としてα,α´−アゾビスイソブチロニトリル0.2部添加して、8時間重合を行い、重量平均分子量(Mw)が40万のアクリル系ポリマー溶液Aを得た。
このアクリル系ポリマー溶液Aに、アクリル系ポリマーの固形分100部に対して、合成例1に示すイソボルニルフェノール10部、イソシアネート系架橋剤(商品名「コロネートL」、日本ポリウレタン工業社製)2部添加し、均一に混合して粘着剤組成物を得た。
この粘着剤組成物を基材であるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ社製、厚さ38μm)に乾燥後の厚みが20〜25μmとなるように塗工し、100℃で3分間乾燥させた。その後、粘着剤組成物からなる層の表面に離型紙(商品名「K−80HS」、サンエー化研社製)を貼着して保護した後、温度50℃、相対湿度65%の雰囲気下で3日間養生させて本発明の粘着シートを得た。
【0027】
実施例2
実施例1で得られたアクリル系ポリマー溶液Aに、アクリル系ポリマーの固形分100部に対して、合成例1に示すイソボルニルフェノール5部、テルペンフェノール樹脂(商品名「ポリスターT145」、ヤスハラケミカル社製、ガラス転移点90℃)5部、イソシアネート系架橋剤(商品名「コロネートL」、日本ポリウレタン工業社製)2部を添加した以外は実施例1と同様にして粘着シートを得た。
【0028】
比較例1
実施例1で得られたアクリル系ポリマー溶液Aに、アクリル系ポリマーの固形分100部に対して、イソシアネート系架橋剤(商品名「コロネートL」、日本ポリウレタン工業社製)2部を添加した以外は実施例1と同様にして粘着シートを得た。
【0029】
比較例2
実施例1で得られたアクリル系ポリマー溶液Aに、アクリル系ポリマーの固形分100部に対して、ロジンフェノール樹脂(商品名「タマノル803L」、荒川化学工業社製、ガラス転移点95℃)10部、イソシアネート系架橋剤(商品名「コロネートL」、日本ポリウレタン工業社製)2部を添加した以外は実施例1と同様にして粘着シートを得た。
【0030】
比較例3
実施例1で得られたアクリル系ポリマー溶液Aに、アクリル系ポリマーの固形分100部に対して、ロジンエステル樹脂(商品名「スーパーエステルA100」、荒川化学工業社製、ガラス転移点50℃)10部、イソシアネート系架橋剤(商品名「コロネートL」、日本ポリウレタン工業社製)2部を添加した以外は実施例1と同様にして粘着シートを得た。
【0031】
<評価方法>
実施例及び比較例で得た粘着シートに対し、ボールタック、接着力を下記の方法にて評価した。評価結果を表1に示す。
【0032】
(ボールタック)
JISZ0237に準じ、幅25mm、長さ約200mmに切断した粘着シートを温度5℃の雰囲気下で、30°の傾斜面に留め、助走距離100mmの地点からボールを転がして糊面の100mm内で止まった時の最大のボールNo.を数値とした。
【0033】
(接着力)
幅25mm、長さ約200mmに切断した粘着シートを、被着体であるSUS304ステンレス鋼板(SUS)またはポリエチレン板(PE)に温度23℃、相対湿度65%の雰囲気下で2kgのゴムローラーを2往復させて圧着した後、30分間放置した。その後、温度0℃、相対湿度65%の雰囲気下、引張試験機を用い、被着体と粘着テープのフィルム部分(粘着剤組成物が塗布されていない部分)をそれぞれ把持し、速度300mm/分で試料を180°方向に引っ張って、被着体から剥離させたときの強度を測定した。
【0034】
【表1】

【0035】
表1より、実施例1、2に係る粘着テープは、低温の雰囲気下におけるボールタックと接着力が良好であった。
【産業上の利用の可能性】
【0036】
本発明である粘着剤組成物は、クラフトテープやOPPテープなどの一般包装用テープ、両面テープ、医療用テープ、保護フィルム、ラベル、タック紙等はもとより、エレクトロニクス分野で使用される粘着シート、保護フィルム等にも使用することができる。
また、本発明に使用される環状テルペンフェノール系粘着付与剤は、エポキシ樹脂の原料、硬化剤、半導体封止材料、ダイボンディングシート、ソルダーレジスト、電子写真用トナー等に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマーまたはアクリル系ポリマー100重量部に対して、ガラス転移点が−40℃〜0℃である環状テルペンフェノール系粘着付与剤が1〜30重量部の割合で含まれていることを特徴とする粘着剤組成物。
【請求項2】
環状テルペンフェノール系粘着付与剤が、環状テルペン化合物/フェノール化合物=1/1付加物を30重量%以上含む請求項1記載の粘着剤組成物。
【請求項3】
請求項1または2いずれか記載の粘着剤組成物を、支持体の片面または両面に塗布してなる粘着シートまたは粘着テープ。

【公開番号】特開2010−144160(P2010−144160A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−336093(P2008−336093)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【出願人】(000117319)ヤスハラケミカル株式会社 (85)
【Fターム(参考)】