説明

精密機器用構造体

【課題】本発明の課題は、剛性が高く、高速あるいは高加速度で移動した時の歪みの戻りが速く、かつ軽量な精密機器用構造体を提供することである。
【解決手段】本発明に係る精密機器用構造体は、−3×10−6/℃以上3×10−6/℃以下の線膨張係数、60vol%以上75vol%以下の繊維含有率、および0%/秒以上0.02%/秒以下の歪み戻り指数を備える繊維強化複合材を主材料とする。なお、このような繊維強化複合材は、例えば、強化繊維とマトリックス樹脂とを複合成形することにより得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、人工衛星やロケット等に搭載される精密機器の部品等、産業用ロボットや露光装置等に搭載される精密機器の部品等として適する構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
航空宇宙分野や産業機械分野における精密測定器や精密製造装置には、軽量かつ高強度・高剛性の精密機器用構造体が求められている。そして、そのような精密機器用構造体として、例えば、繊維強化複合材を主材料とする構造体が注目されている(例えば、特開平11−116696号公報や特開2005−288619号公報等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−116696号公報
【特許文献2】特開2005−288619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、これまでに提案されている精密機器用構造体は、精密測定器や精密製造装置を従来の通りに動作させていれば何ら問題を生じることはないが、近年のさらなる高速化及び高スループット化の要求に対して満足できるレベルまで至っていないのが現状である。このため、航空宇宙分野や産業機械分野における精密測定器や精密製造装置では、高速あるいは高加速度で移動した時の歪みが従来よりも小さく、特に歪んだ状態から元の状態までに戻るまでの戻り速度が従来よりも速い精密機器用構造体が待ち望まれている。
【0005】
本発明の課題は、軽量で、剛性が高く、さらに高速あるいは高加速度で移動した後の歪みの戻りが速い精密機器用構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)
本発明に係る繊維強化複合材は、−3×10−6/℃以上3×10−6/℃以下の線膨張係数、60vol%以上75vol%以下の繊維含有率、および0%/秒以上0.02%/秒以下の歪み戻り指数を備える。
【0007】
なお、このような繊維強化複合材は、強化繊維とマトリックス樹脂とを複合成形することにより得ることができる。強化繊維としては、特に限定されないが、例えば、PAN系炭素繊維やピッチ系炭素繊維などの炭素繊維、ガラス繊維、クォーツ繊維、アラミド繊維等が挙げられる。また、炭素繊維としては、引張弾性率が550GPa以上650GPa以下のものが好ましい。なお、これらの強化繊維は、単独で用いられてもよいし、混合して用いられてもよい。また、強化繊維の配向方向は、繊維強化複合材の用途に応じて適切に制御する必要がある。また、マトリックス樹脂としては、特に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂、シアネートエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。なお、これらのマトリックス樹脂は、単独で用いられてもよいし、混合して用いられてもよい。
【0008】
また、繊維強化複合材では、強化繊維の配向方向を規定することにより、機械強度の方向性を制御することができる。強化繊維としては、一方向繊維束を用いてもよいし、平織りや朱子織等の織物を用いてもよい。
【0009】
本発明に係る繊維強化複合材は、「線膨張係数がゼロに近い」、「マトリックス樹脂が少な過ぎることによる弊害(例えば、靭性の低下等)を生じない程度に繊維含有率Vfが保たれている」との両方の特性を兼ね備えている。このため、本発明に係る繊維強化複合材は、高速あるいは高加速度で移動した後の歪みの戻りが速くなる。
【0010】
また、繊維強化複合材の線膨張係数が−3×10−6/℃以上3×10−6/℃以下であると、環境変化に対する繊維強化複合材の寸法安定性が良好となる。なお、繊維強化複合材の線膨張係数は−2×10−6/℃以上2×10−6/℃以下であるのがより好ましく、−1×10−6/℃以上1×10−6/℃以下であるのがさらに好ましい。
【0011】
また、繊維強化複合材の繊維含有率Vfが60vol%以上75vol%以下であると、剛性が高くなる。なお、繊維強化複合材の繊維含有率Vfは65vol%以上75vol%以下であるのがより好ましく、70vol%以上75vol%以下であるのがさらに好ましい。また、繊維強化複合材の繊維含有率Vfは、実用上、60vol%以上65vol%以下であってよく、61vol%以上63vol%以下であってもよい。
【0012】
なお、一般に繊維強化複合材の繊維含有率Vfが高いほど剛性が高くなる。しかしながら繊維含有率Vfを60vol%以上に高めるのは一般的な成形方法では難しく非常に困難であった。しかし、本願発明者らは、従来にはない10kgf/cm以上の高圧力をかけながらオートクレーブの缶内温度を段階的に昇温することにより、繊維含有率Vfが非常に高い繊維強化複合材の成形に成功した。
【0013】
また、繊維強化複合材の歪み戻り指数が0%/秒以上0.02%/秒以下であると、戻り速度が速くなる。繊維強化複合材の歪み戻り指数は0%/秒以上0.015%/秒以下であるのがより好ましく、0%/秒以上0.01%/秒以下であるのがさらに好ましい。
【0014】
なお、歪み戻り指数とは、高速あるいは高加速度で移動した時の歪んだ状態から元の状態までに戻るまでの戻り速度を示す指標値であり、数値が小さいほど戻り速度が速いことを示す。そして、この歪み戻り指数は、試験片の破断時から一定時間経過後の単位時間当たりの歪み量の割合(破断時の歪み量を100%とする)の変化率として求めることができる。ところで、繊維強化複合材に引張応力を加えた場合、破断時の歪み量が時間経過とともに0に近づいていく。このとき、破断から6秒経過後の単位時間(1秒間)当たりの歪み量の割合の変化率(傾き)が小さいほど歪み戻りが速いことになる。また、歪み戻り指数は、歪み量の割合から求めていることから、繊維強化材の破断応力に依存することなく、歪み戻りの速度をほぼ正確に評価することができる。
【0015】
(2)
また、本発明に係る繊維強化複合材は25GPa以上200GPa以下の引張弾性率をさらに備えるのが好ましい。
【0016】
繊維強化複合材の引張弾性率がこの範囲内であると、繊維強化複合材の剛性が実用上十分となり好ましい。繊維強化複合材の引張弾性率は、50GPa以上200GPa以下であるのがより好ましく、100GPa以上200GPa以下であるのがさらに好ましい。
【0017】
(3)
また、本発明に係る繊維強化複合材は、主として、強化繊維と熱硬化性樹脂とから構成されるのが好ましい。かかる場合、熱硬化性樹脂は、架橋点間分子量が300g/mol以上1000g/mol以下であるのが好ましい。なお、架橋点間分子量は、300g/mol以上900g/mol以下であるのがより好ましく、300g/mol以上600g/mol以下であるのがさらに好ましい。
【0018】
(4)
また、上記(3)に係る繊維強化複合材において、熱硬化性樹脂はエポキシ樹脂であるのが好ましい。そして、かかる場合、架橋点間分子量は800g/mol以上1000g/mol以下であるのが好ましい。なお、架橋点間分子量は、850g/mol以上1000g/mol以下であるのがより好ましく、900g/mol以上1000g/mol以下であるのがさらに好ましい。また、架橋点間分子量は、実用上、850g/mol以上950g/mol以下であってもよい。
【0019】
(5)
また、上記(3)に係る繊維強化複合材において、熱硬化性樹脂はシアネートエステル樹脂であるのが好ましい。そして、かかる場合、架橋点間分子量は300g/mol以上550g/mol以下であるのが好ましい。なお、架橋点間分子量は、330g/mol以上540g/mol以下であるのがより好ましく、350g/mol以上520g/mol以下であるのがさらに好ましい。また、架橋点間分子量は、実用上、510g/mol以上530g/mol以下であってもよい。
【0020】
(6)
また、本発明に係る繊維強化複合材は炭素繊維強化樹脂であるのが好ましい。
【0021】
(7)
また、本発明に係る繊維強化複合材は、吸水率が0.3wt%以下であるのが好ましい。繊維強化複合材の吸水率が0.3wt%以下であると、吸水や吸湿による寸法変化が生じにくい。また、繊維強化複合材の吸水率は0.2wt%以下であるのがより好ましく、0.1wt%以下であるのがさらに好ましい。繊維強化複合材の吸水率を低くするためには、マトリックス樹脂に低吸水性樹脂を用いるのが好ましい。低吸水性樹脂としては、繊維強化複合材のマトリックス樹脂としての適性も併せて考慮すると、シアネートエステル樹脂やエポキシ樹脂が好ましい。
【0022】
ところで、シアネートエステル樹脂は、加熱によってシアネート基が重合し架橋反応を起こす。また、シアネートエステル樹脂は、後硬化の際に200℃以上の高温をかけると架橋密度が増大する。このため、マトリックス樹脂としてシアネートエステル樹脂を用いると、繊維強化複合材の剛性をより高めることができ、延いては、繊維強化複合材の歪み戻り速度をより速くすることができる。
【0023】
なお、本発明に係る繊維強化複合材の表面に防湿膜を設けるのがより好ましい。このようにすれば、繊維強化複合材の吸湿による膨張や物性の低下を防ぐことができる。なお、このような防湿膜としては、特に限定されないが、例えば、アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素などの無機材料膜や、PTFEやPFAなどの有機材料膜が挙げられる。
【0024】
また、本発明に係る繊維強化複合材は、紫外線吸収剤を含有するのが好ましい。このようにすれば、紫外線を受けての強度劣化を防ぐことができるからである。紫外線吸収剤としては、特に限定されないが、例えば、ベンゾフェノン系化合物、トリアゾール系化合物、トリアジン系化合物が好適に用いられる。
【0025】
また、本発明に係る繊維強化複合材は、熱伝導性付与材を含有するのが好ましい。繊維強化複合材は繊維方向の熱伝導率は高いが、積層方向の熱伝導率は低いという特徴があり、局所的に熱がかかったときに、板材の面内で局所的な熱歪みが発生してしまうことを抑制することができるからである。このような熱伝導性付与材としては、特に限定されないが、例えば、炭素繊維チョップドファイバーやカーボンナノチューブ等が好適に用いられる。
【0026】
(8)
そして、本発明に係る精密機器用構造体は、上述の繊維強化複合材を主材料として形成される。なお、この精密機器用構造体は、上述の繊維強化複合材とセラミックスとを複合化することによりさらに高剛性化することができる。なお、セラミックスとしては、特に限定されないが、例えば、コージェライト、SiC、アルミナ等が好適に用いられる。また、これらのセラミックスは、単独で用いられてもよいし、混合して用いられてもよい。また、繊維強化複合材とセラミックスと複合化する場合、繊維強化複合材の線膨張係数に近い線膨張係数を有するセラミックスを用いることが好ましい。
【0027】
また、本発明に係る精密機器用構造体は、用途に合わせて、板状、ハニカム構造体、リブ構造体、サンドイッチ構造体等、様々な構造体に加工される。
【0028】
(9)
本発明に係る繊維強化複合材の製造方法は、上述の繊維強化複合材を製造する繊維強化複合材の製造方法であって、配置工程、加圧昇温工程および加圧加熱工程を備える。配置工程では、プリプレグが耐圧容器中に配置される。加圧昇温工程では、耐圧容器の内部が10kgf/cm以上の圧力に保たれた状態でプリプレグが所定温度まで段階的に加熱される。加圧加熱工程では、耐圧容器の内部が10kgf/cm以上の圧力に保たれた状態でプリプレグが所定温度で所定時間、加熱し続けられる。加圧加熱工程は、加圧昇温工程後に行われる。加圧加熱工程では、耐圧容器の内部が10kgf/cm以上の圧力に保たれた状態でプリプレグが前記所定温度で所定時間、加熱し続けられる。なお、加圧昇温工程時の圧力と加圧加熱工程時の圧力とは同一であってもよいし、相違していてもよい。また、加圧昇温工程および加圧加熱工程において、耐圧容器中の圧力は、12kgf/cm以上であるのが好ましく、14kgf/cm以上であるのがより好ましく、16kgf/cm以上であるのがより好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係る繊維強化複合材は、軽量で、剛性が高く、高速あるいは高加速度で移動した後の歪みの戻りが速く、航空宇宙分野や産業機械分野における精密測定器や精密製造装置において高精度で高速移動が可能な精密機器用構造体を提供することができる。特に航空宇宙分野の人工衛星やロケット等に搭載される精密機器に大気圏突入時の衝撃が加わった場合や、産業機械分野の産業用ロボットや露光装置等に搭載される精密機器に高速化や高スループット化が求められる場合に、高速あるいは高加速度の移動や衝撃による応力が加わっても歪みによる影響を抑制することができる。このため、本発明に係る繊維強化複合材は、精密機器の信頼性や生産物の生産性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明する。
【実施例1】
【0031】
1.炭素繊維強化エポキシ樹脂積層板の作製
引張弾性率230GPaのPAN系炭素繊維維平織クロス(東レ株式会社製トレカT300)にエポキシ樹脂(東レ株式会社製120℃硬化型#2500)が含浸されたプリプレグを、繊維配向方向が交互に45°傾くように4プライ積層した後(つまり、0°/90°,±45°の疑似等方材となるように積層した後)、その積層プリプレグを高圧オートクレーブ成形方法により成形して、目標とする炭素繊維強化エポキシ樹脂積層板を得た。なお、このプリプレグの樹脂含有率(Rc)は44wt%であった。また、このとき、缶内温度を室温から120℃まで段階的に(1.5℃/分で)昇温させた後に缶内温度を120℃で4時間保持するようにオートクレーブ硬化プログラムを設定した。また、このとき、缶内圧力を12kgf/cmに設定した。そして、この炭素繊維強化エポキシ樹脂積層板の繊維含有率Vfを測定したところ、その繊維含有率Vfは61vol%であった。
【0032】
2.物性測定
以下のようにして炭素繊維強化エポキシ樹脂積層板の物性値を測定した。
【0033】
(1)線膨張係数の測定
線膨張係数は、超高精度熱膨張計DIL402C(NETZSCH製)を用いて測定された。具体的には、先ず、上述のプリプレグを、繊維配向方向が交互に45°傾くように48プライ積層した後(つまり、0°/90°,±45°の疑似等方材となるように積層した後)、その積層プリプレグを上述の成形方法により成形して、25mm×6mm×4mmの試験片を作製した。次いで、両端面の平行度が0.01mmとなるようにその試験片(6mm×4mm面)を加工した後、その試験片の測定部分を高温乾燥させた。そして、溶融シリカ(線膨張係数0.55×10−6/℃)からなる標準試験片の線膨張係数を測定した後、試験片の線膨張係数を測定した。なお、線膨張係数の測定は0.1×10−6/℃の精度で行われ、測定値は、標準試験片の測定値を用いて補正された。なお、本実施例に係る炭素繊維強化エポキシ樹脂積層板の線膨張係数は2.9×10−6/℃であった。
【0034】
(2)引張弾性率および引張破断応力の測定
引張弾性率および引張破断応力の測定は、JIS K−7164に準じて行われた。具体的には、先ず、上述のプリプレグを、繊維配向方向が交互に45°傾くように24プライ積層した後(つまり、0°/90°,±45°の疑似等方材となるように積層した後)、その積層プリプレグを上述の成形方法により成形して、予備成形体を作製した。次いで、その予備成形体をJIS K−7144に準じた機械加工方法により機械加工してJIS規格のタイプ1B(B形)の試験片を作製した。引張試験機としては、万能材料試験機55R4505(INSTRON製)を用いた。なお、本実施例に係る炭素繊維強化エポキシ樹脂積層板の引張弾性率は50GPaであり、引張破断応力は365MPaであった。
【0035】
(3)歪み戻り指数の測定
上述のプリプレグを、繊維配向方向が交互に45°傾くように24プライ積層した後(つまり、0°/90°,±45°の疑似等方材となるように積層した後)、その積層プリプレグを上述の成形方法により成形して、予備成形体を作製した。次いで、その予備成形体から全長200mm×幅25mm×厚み2mm,中央部長さ10mm,中央部幅6.25mmのダンベル型試験片を作製した。続いて、その試験片の両面の同位置に歪みゲージを貼り付けた後、万能材料試験機55R4505(INSTRON製)を用いてその試験片を引張破断させた。そして、試験片が破断してから歪みが無くなり安定するまで(破断から80秒経過まで)の歪み戻り量(μm)を経時的に測定した。続いて、破断時の歪み量の割合を100%とし、歪みが無くなり安定した時の歪み量の割合を0%として、各時間における歪み量の割合(%)を算出した。そして、歪み量の割合(%)を縦軸とし、破断時からの経過時間(秒)を横軸としたグラフを作成した。また、試験片破断後6秒から8秒における歪み量の割合の変化率を下記式(1)により求め、その値を歪み戻り指数Ieとした。なお、本実施例に係る炭素繊維強化エポキシ樹脂積層板の歪み戻り指数は0.020%/秒であった。
【数1】

(なお、式中、E(8s)は8秒経過時点での歪み量の割合であり、E(6s)は6秒経過時点での歪み量の割合である。)
【0036】
(4)架橋点間分子量
上述のプリプレグを、繊維配向方向が交互に45°傾くように36プライ積層した後(つまり、0°/90°,±45°の疑似等方材となるように積層した後)、その積層プリプレグを上述の成形方法により成形して、予備成形体を作製した。次いで、その予備成形体を50mmx10mmx3mmの直方体に切り出して試験片を作製した。そして、この試験片を粘弾性測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製DMS6100(200Hz),ソフトウェア:EXSTAR6000PCステーション)にセットしてその試験片の両持ち曲げ試験を行い、その試験片の貯蔵弾性率(Pa)を測定した。そして、下記式(2)によりその炭素繊維強化エポキシ樹脂積層板中のエポキシ樹脂の架橋点間分子量Mx(g/mol)を求めた。なお、このとき、測定周波数を1Hzとし、昇温速度を2℃/分とし、サンプリング間隔を3.0秒とした。なお、この炭素繊維強化エポキシ樹脂積層板中のエポキシ樹脂の架橋点間分子量は890.3g/molであった。
【数2】

(なお、式中、ρはエポキシ樹脂の密度であり、Rは気体定数(8.31x10cm/Pa/K)であり、Tは貯蔵弾性率の変化が平坦となる領域の絶対温度(K)であり、E’は平坦領域の貯蔵弾性率(Pa)である。)
【実施例2】
【0037】
オートクレーブの缶内圧力を12kgf/cmから14kgf/cmに代えた以外は、実施例1と同様にして炭素繊維強化エポキシ樹脂積層板を作製し、実施例1と同様にして炭素繊維強化エポキシ樹脂積層板の各物性を測定した。
【0038】
この炭素繊維強化エポキシ樹脂積層板の繊維含有率Vfは63vol%であった。また、この炭素繊維強化エポキシ樹脂積層板の線膨張係数は2.6×10−6/℃であった。また、この炭素繊維強化エポキシ樹脂積層板の引張弾性率は54GPaであった。また、この炭素繊維強化エポキシ樹脂積層板の引張破断応力は400MPaであった。また、この炭素繊維強化エポキシ樹脂積層板の歪み戻り指数は0.015%/秒であった。また、この炭素繊維強化エポキシ樹脂積層板中のエポキシ樹脂の架橋点間分子量は946.2g/molであった。
【実施例3】
【0039】
マトリックス樹脂をエポキシ樹脂(東レ株式会社製120℃硬化型#2500)からシアネートエステル樹脂(日石三菱株式会社製NM31)に代え、プリプレグの樹脂含有率(Rc)を40wt%に代え、硬化温度を120℃から180℃に代え、オートクレーブの缶内圧力を12kgf/cmから14kgf/cmに代えた以外は、実施例1と同様にして炭素繊維強化シアネートエステル樹脂積層板を作製し、実施例1と同様にして炭素繊維強化シアネートエステル樹脂積層板の各物性を測定した。
【0040】
この炭素繊維強化シアネートエステル樹脂積層板の繊維含有率Vfは63vol%であった。また、この炭素繊維強化シアネートエステル樹脂積層板の線膨張係数は2.6×10−6/℃であった。また、この炭素繊維強化シアネートエステルシ樹脂の引張弾性率は53GPaであった。また、この炭素繊維強化シアネートエステル樹脂の引張破断応力は390MPaであった。また、この炭素繊維強化シアネートエステル樹脂の歪み戻り指数は0.012%/秒であった。また、この炭素繊維強化シアネートエステル樹脂積層板中のシアネートエステル樹脂の架橋点間分子量は520.0g/molであった。
【実施例4】
【0041】
強化繊維を引張弾性率230GPaのPAN系炭素繊維平織クロス(東レ株式会社製トレカT300)から引張弾性率588GPaのPAN系炭素繊維平織クロス(東レ株式会社製トレカM60J)に代えた以外は、実施例3と同様にして炭素繊維強化シアネートエステル樹脂積層板を作製し、実施例1と同様にして炭素繊維強化シアネートエステル樹脂積層板の各物性を測定した。
【0042】
この炭素繊維強化シアネートエステル樹脂積層板の繊維含有率Vfは63vol%であった。また、この炭素繊維強化シアネートエステル樹脂積層板の線膨張係数は0.1×10−6/℃であった。また、この炭素繊維強化シアネートエステル樹脂の引張弾性率は117GPaであった。また、この炭素繊維強化シアネートエステル樹脂の引張破断応力は370MPaであった。また、この炭素繊維強化シアネートエステル樹脂の歪み戻り指数は0.010%/秒であった。また、この炭素繊維強化シアネートエステル樹脂積層板中のシアネートエステル樹脂の架橋点間分子量は520.0g/molであった。
【実施例5】
【0043】
強化繊維を引張弾性率230GPaのPAN系炭素繊維平織クロス(東レ株式会社製トレカT300)から引張弾性率588GPaのPAN系炭素繊維平織クロス(東レ株式会社製トレカM60J)に代え、オートクレーブの缶内圧力を14kgf/cmから16kgf/cmに代えた以外は、実施例3と同様にして炭素繊維強化シアネートエステル樹脂積層板を作製し、実施例1と同様にして炭素繊維強化シアネートエステル樹脂積層板の各物性を測定した。
【0044】
この炭素繊維強化シアネートエステル樹脂積層板の繊維含有率Vfは71vol%であった。また、この炭素繊維強化シアネートエステル樹脂積層板の線膨張係数は−0.1×10−6/℃であった。また、この炭素繊維強化シアネートエステル樹脂の引張弾性率は120GPaであった。また、この炭素繊維強化シアネートエステル樹脂の引張破断応力は350MPaであった。また、この炭素繊維強化シアネートエステル樹脂の歪み戻り指数は0.005%/秒であった。また、この炭素繊維強化シアネートエステル樹脂積層板中のシアネートエステル樹脂の架橋点間分子量は350.0g/molであった。
(比較例1)
【0045】
オートクレーブの缶内圧力を12kgf/cmから6kgf/cmに代えた以外は、実施例1と同様にして炭素繊維強化エポキシ樹脂積層板を作製し、実施例1と同様にして炭素繊維強化エポキシ樹脂積層板の各物性を測定した。
【0046】
この炭素繊維強化エポキシ樹脂積層板の繊維含有率Vfは53vol%であった。また、この炭素繊維強化エポキシ樹脂積層板の線膨張係数は3.3×10−6/℃であった。また、この炭素繊維強化エポキシ樹脂積層板の引張弾性率は50GPaであった。また、この炭素繊維強化エポキシ樹脂積層板の引張破断応力は288MPaであった。また、この炭素繊維強化エポキシ樹脂積層板の歪み戻り指数は0.025%/秒であった。また、この炭素繊維強化エポキシ樹脂積層板中のエポキシ樹脂の架橋点間分子量は2496.7g/molであった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係る精密機器用構造体は、高速あるいは高加速度の移動による応力を受けた時に歪んだ状態から元の状態までに戻るまでの戻り速度が高いため、例えば、航空宇宙分野や産業機械分野における精密測定器や精密製造装置の部品等として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
−3×10−6/℃以上3×10−6/℃以下の線膨張係数と、
60vol%以上75vol%以下の繊維含有率と、
0%/秒以上0.02%/秒以下の歪み戻り指数と
を備える繊維強化複合材。
【請求項2】
25GPa以上200GPa以下の引張弾性率をさらに備える
請求項1に記載の繊維強化複合材。
【請求項3】
主として、強化繊維と熱硬化性樹脂とから構成され、
前記熱硬化性樹脂は、架橋点間分子量が300g/mol以上1000g/mol以下である
請求項1又は2に記載の繊維強化複合材。
【請求項4】
前記熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂であり、
前記架橋点間分子量は、800g/mol以上1000g/mol以下である
請求項3に記載の繊維強化複合材。
【請求項5】
前記熱硬化性樹脂は、シアネートエステル樹脂であり、
前記架橋点間分子量は、300g/mol以上550g/mol以下である
請求項3に記載の繊維強化複合材。
【請求項6】
炭素繊維強化樹脂である
請求項1から5のいずれかに記載の繊維強化複合材。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の繊維強化複合材を主材料とする
精密機器用構造体。
【請求項8】
請求項1から6のいずれかに記載の繊維強化複合材を製造する繊維強化複合材の製造方法であって、
プリプレグを耐圧容器中に配置する配置工程と、
前記耐圧容器の内部を10kgf/cm以上の圧力に保った状態で前記プリプレグを所定温度まで段階的に加熱する加圧昇温工程と、
前記加圧昇温工程後、前記耐圧容器の内部を10kgf/cm以上の圧力に保った状態で前記プリプレグを前記所定温度で所定時間、加熱し続ける加圧加熱工程と
を備える繊維強化複合材の製造方法。

【公開番号】特開2011−46933(P2011−46933A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−168440(P2010−168440)
【出願日】平成22年7月27日(2010.7.27)
【出願人】(391059399)株式会社アイ.エス.テイ (102)
【Fターム(参考)】